(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132626
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240920BHJP
B62D 1/19 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B62D25/08 C
B62D25/08 B
B62D1/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043471
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】久住 真己
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 保和
(72)【発明者】
【氏名】岡部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】角田 拓朗
【テーマコード(参考)】
3D030
3D203
【Fターム(参考)】
3D030DE08
3D030DE22
3D203AA03
3D203AA14
3D203AA31
3D203BB17
3D203BB44
3D203CA52
3D203CA57
3D203DA13
(57)【要約】
【課題】車両の前面衝突時にステアリングギアボックスに作用する荷重の低下を抑制できる車両前部構造を提供する。
【解決手段】ステアリングホイールとステアリングギアボックスとの間に配置されたステアリングシャフトと、前記ステアリングギアボックスの前方に配置されたフロント部材と、車両の前面衝突時に前記フロント部材にかかる荷重を前記ステアリングギアボックスに伝達するように配置された付加部材と、を備え、前記ステアリングシャフトは伸縮機構を有する、車両前部構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールとステアリングギアボックスとの間に配置されたステアリングシャフトと、
前記ステアリングギアボックスの前方に配置されたフロント部材と、
車両の前面衝突時に前記フロント部材にかかる荷重を前記ステアリングギアボックスに伝達するように配置された付加部材と、を備え、
前記ステアリングシャフトは伸縮機構を有する、
車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングホイールとステアリングギアボックスとの間に配置された中間シャフトを有するステアリング装置が開示されている。中間シャフトは、互いにセレーション結合して構成された外筒と内筒とを有する。車両の前面衝突時、後方へ移動したエンジンおよびトランスミッションはステアリングギアボックスに衝突する。このステアリングギアボックスへの衝突荷重により、中間シャフトはセレーション部分で縮退する。以下では、中間シャフトのセレーション部分を伸縮機構と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前面衝突時、ステアリングギアボックスに作用する荷重が小さいと、伸縮機構が縮退しないおそれがある。例えば電気自動車(BEV車)のように、ステアリングギアボックスよりも前方に配置される部品が少ないまたは部品が小型であると、ステアリングギアボックスに作用する荷重が小さいという現象が生じ得る。例えば小型な部品であると、部品に作用した荷重で部品が変形し、部品からステアリングギアボックスに作用する荷重が小さくなる。
【0005】
図7は、車両の前面衝突時に生じる現象を示している。
図7(A)は衝突初期を示し、
図7(B)は衝突後期を示している。
図7(A)の黒塗り矢印は荷重の方向を示しており、矢印の大きさが荷重の大きさに対応している。
図7(B)では、分かり易いように、衝突初期の状態を二点鎖線で示している。
図7(A)に示すように、衝突初期にステアリングギアボックス4に作用する荷重が小さいと、伸縮機構26が縮退しない。伸縮機構26が縮退しないため、伸縮機構26を構成する外筒251と内筒252とのオーバーラップ部分の長さLが衝突前後で変わらない。衝突後期では、
図7(B)に示すように、図示しないAピラーが上方に変位することにより、左右のAピラーに架け渡されたクロスメンバ140が上方に変位する。
図7(B)の黒塗り矢印はクロスメンバ140の変位方向を示している。このクロスメンバ140には、ステアリングシャフト2に取り付けられたステアリングコラム5が固定されている。伸縮機構26が縮退していない、つまり伸縮機構26に伸び代がないと、クロスメンバ140が上方に変位することにより、クロスメンバ140を中心としてステアリングホイール3が上方かつ前方に回転する。
図7(B)の白抜き矢印はステアリングホイール3の回転方向を示している。ステアリングホイール3が回転することにより、乗員の頭部300に対するステアリングホイール3の位置がずれる。その結果、ステアリングホイール3から展開されるエアバッグ200の位置が衝突前の適正位置からずれて、エアバッグ200で乗員の頭部300を正面から受け止めることができないおそれがある。
【0006】
本発明の目的の一つは、車両の前面衝突時にステアリングギアボックスに作用する荷重の低下を抑制できる車両前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る車両前部構造は、ステアリングホイールとステアリングギアボックスとの間に配置されたステアリングシャフトと、前記ステアリングギアボックスの前方に配置されたフロント部材と、車両の前面衝突時に前記フロント部材にかかる荷重を前記ステアリングギアボックスに伝達するように配置された付加部材と、を備える。前記ステアリングシャフトは伸縮機構を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両前部構造では、車両の前面衝突時にフロント部材にかかる荷重をステアリングギアボックスに伝達することができ、ステアリングギアボックスに作用する荷重の低下を抑制することができる。車両の前面衝突時にステアリングギアボックスに適切に荷重が作用することで、伸縮機構が縮退する。縮退した伸縮機構は伸び代を有する。そのため、衝突後期にクロスメンバの上方への変位に伴いステアリングコラムが上方に変位すると、伸縮機構が伸びるため、クロスメンバを中心としてステアリングホイールが回転することなく上方に平行移動する。その結果、ステアリングホイールから展開されるエアバッグの位置を衝突前の適正位置に維持することができ、乗員の頭部を正面から受け止めることができる。
【0009】
本発明の車両前部構造によれば、付加部材を配置するだけで、ステアリングギアボックスに作用する荷重の低下を効果的に抑制することができるので、コスト、重量、および生産性の点でも有益である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の車両前部構造を示す側面模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の車両前部構造を示す正面模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態の車両前部構造に備わる付加部材を示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態の車両前部構造の挙動を示す説明図である。
【
図7】
図7は、従来技術の車両前部構造の挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の車両前部構造を、図面を参照して説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張または簡略化して示す場合がある。図面における各部の寸法比も実際と異なる場合がある。以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」とは、車両の正面を「前」とし、これを基準とする方向を意味する。図中、「FR」は車両の前後方向の前側、「RR」は車両の前後方向の後側、「RH」は車両の左右方向の右側、「LH」は車両の左右方向の左側、「UP」は車両の上下方向の上側、「LWR」は、車両の上下方向の下側を示す。車両の前後方向が車長方向である。車両の左右方向が車幅方向である。車両の上下方向が車高方向である。
【0012】
<概要>
実施形態の車両前部構造1は、
図1に示すように、ステアリングシャフト2とフロント部材6とを備える。ステアリングシャフト2は、ステアリングホイール3とステアリングギアボックス4との間に配置されている。ステアリングシャフト2は伸縮機構26を有する。フロント部材6は、ステアリングギアボックス4の前方に配置された部材である。フロント部材6は、例えばフロントバンパ7およびラジエータサポート8である。実施形態の車両前部構造1の特徴の一つは、
図2に示すように、車両100の前面衝突時にフロント部材6にかかる荷重をステアリングギアボックス4に伝達するように配置された付加部材9を備える点にある。
【0013】
図1および
図2に示す車両100は、BEV車(Battery Electric Vehicle)である。BEV車は、バッテリーに蓄えた電気でモーターを駆動させる電気自動車である。車両100は、フロントフードが小さく、フロントノーズ110(
図1)が短い。
図1では、車両100の外観を二点鎖線で示している。
【0014】
<ステアリングシャフト>
ステアリングシャフト2は、
図1に示すように、第一シャフト21と第二シャフト22とインターミディエイトシャフト25とを備える。
【0015】
第一シャフト21の上端には、ステアリングホイール3が連結されている。第一シャフト21には、ステアリングコラム5が取り付けられている。ステアリングコラム5は、左右のAピラー130に架け渡されたクロスメンバ140に固定されている。
【0016】
第二シャフト22の下端には、
図2にも示すように、ジョイント28を介してステアリングギアボックス4が連結されている。
図2では、第一シャフト21、第二シャフト22、およびインターミディエイトシャフト25の図示を省略している。ステアリングギアボックス4には、ステアリングホイール3の回転を図示しない一対のタイロッドの左右の動きに変換するギア機構が組み込まれている。上記ギア機構は、例えばラックアンドピニオン式で構成されている。上記ギア機構は、ボールアンドナット式で構成されていてもよい。本例のギア機構は、ラックアンドピニオン式で構成されている。
【0017】
インターミディエイトシャフト25は、第一シャフト21の下端と第二シャフト22の上端との間に配置されている。インターミディエイトシャフト25は、外筒251と内筒252とを備える。外筒251の内部に内筒252の一部が挿入されている。外筒251と内筒252とは互いにセレーション結合されている。このセレーション結合された部分でステアリングシャフト2に伸縮機構26が構成されている。インターミディエイトシャフト25は、通常、第二シャフト22に対して屈曲した状態で配置されている。本例では、外筒251がジョイント29を介して第一シャフト21に連結されており、内筒252がジョイント29を介して第二シャフト22に連結されている。
【0018】
<フロント部材>
フロント部材6は、ステアリングギアボックス4の前方に配置されたいかなる部材であってもよい。本例のフロント部材6は、
図1に示すラジエータサポート8であり、このラジエータサポート8のラジエータサポートロア81(
図2から
図5)に後述する付加部材9が配置されている。
【0019】
BEV車には、モーターおよびECU(Electronic Control Unit)を冷却するラジエータ150(
図2)が配置されている。BEV車には、図示しないものの、空調用のコンデンサも配置されている。ラジエータサポート8は、
図2に示すように、ラジエータ150を支持する上下の部材であり、ラジエータサポートロア81およびラジエータサポートアッパで構成されている。ラジエータサポートロア81はラジエータ150の下部を支持している。ラジエータサポートロア81は、例えば
図3および
図5に示すように、下方に開口するハット状の断面形状を有する。
【0020】
<付加部材>
付加部材9は、車両100の前面衝突時にステアリングシャフト2の伸縮機構26を動作させられる程度の荷重をステアリングギアボックス4に伝達可能な剛性を有する。付加部材9は、車両100の前面衝突時の圧縮荷重に対してフロント部材6よりも高い剛性を有するとよい。
【0021】
本例の付加部材9は、
図3および
図4に示すように、ラジエータサポートロア81に配置された補強部材である。本例のように車両100がBEV車である場合、ICE車(internal combustion engine)に比べてラジエータサポート8が小型である。ラジエータサポート8が小型である、つまりラジエータサポートロア81が小型であると、車両100の前面衝突時にラジエータサポートロア81に作用した荷重でラジエータサポートロア81が変形し易い。ラジエータサポートロア81が変形すると、ラジエータサポートロア81からステアリングギアボックス4に作用する荷重が小さくなる。ラジエータサポートロア81に配置された付加部材9は、ラジエータサポートロア81を補強し、車両100の前面衝突時にラジエータサポートロア81に作用した荷重によるラジエータサポートロア81の変形を抑制する機能を有する。
【0022】
付加部材9は、ラジエータサポートロア81の構成面との間に空間を形成するハット状の形状を有する。付加部材9は、ハット状に折り曲げられた板状部材である。付加部材9は、底部91と側部92,93とフランジ部94,95とを備える。フランジ部94,95が上記構成面に固定されている。本例のフランジ部94,95は、ラジエータサポートロア81の下面810に固定されている。本例では、底部91と側部92,93と下面810とで上記空間が形成されている。この空間を車両100の前方から見た形状は矩形状である。側部92,93の下端同士は底部91でつらなっているが、前端同士および後端同士はつらなっておらず、上記空間は前後に開放されている。
【0023】
ハット状の形状を構成する稜線部が車両100の前後方向に沿っているとよい。上記稜線部は、底部91と側部92とで構成される稜線部96、底部91と側部93とで構成される稜線部97、側部92とフランジ部94とで構成される稜線部98、および側部93とフランジ部95とで構成される稜線部99である。稜線部96,97,98,99が車両100の前後方向に沿っていると、車両100の前面衝突時にラジエータサポートロア81に作用した荷重によるラジエータサポートロア81の断面崩れが生じ難い。ラジエータサポートロア81の断面崩れが生じ難いと、ラジエータサポートロア81からステアリングギアボックス4に作用する荷重の低下を抑制できる。
【0024】
付加部材9が車両100の左右方向に略沿って配置されているとよい。つまり、付加部材9は、側部92,93およびフランジ部94,95が車両100の左右方向に並ぶように配置されているとよい。ラジエータサポートロア81は車両100の左右方向に略沿って配置されている。よって、付加部材9は、ラジエータサポートロア81の長手方向に沿って配置されているとよい。
【0025】
ラジエータサポートロア81における付加部材9が配置された箇所は、
図2および
図5に示すように、車両100の前方から見て、ステアリングギアボックス4と重複する部分を有するとよい。
図2では、分かり易いように、ステアリングギアボックス4にクロスハッチングを付している。
【0026】
ラックアンドピニオン式のギア機構は、例えば
図5に示すように、ピニオンギア41とラック42とラックガイド44とハウジング45とキャップ部46とを備える。ピニオンギア41は第二シャフト22の先端に設けられている。ラック42はピニオンギア41に噛み合っている。ラック42はラックバー43に設けられている。ラックバー43は一対のタイロッドの間に配置されている。ラックガイド44は、ラックバー43をラックバー43の軸方向に移動自在に支持している。ハウジング45は、ピニオンギア41、ラック42、ラックバー43、およびラックガイド44を内部に収容している。ハウジング45のうち、ラックガイド44を収容している部分は車両前方に突出している。キャップ部46は、ハウジング45の上記突出した部分の先端に設けられている。ラックガイド44とキャップ部46との間には図示しない弾性部材が圧縮状態で配置されている。弾性部材の圧縮に伴う反力により、ラックガイド44がラック42を押圧し、ラック42がピニオンギア41に押し付けられている。
【0027】
上記箇所は、車両100の前方から見て、第二シャフト22に設けられたギアと重複する部分を有するとよい。ラックアンドピニオン式のステアリングギアボックス4であれば、第二シャフト22に設けられたギアはピニオンギア41である。上記箇所は、ハウジング45におけるラックガイド44を収容している車両前方に突出した部分と重複するとよい。上記箇所のうち、付加部材9のフランジ部94,95が上記重複する部分を有していてもよいし、付加部材9で構成された矩形状の空間が上記重複する部分を有していてもよい。特に、付加部材9で構成された矩形状の空間が上記重複する部分を有していることが好ましい。上記箇所が上記重複する部分を有すると、車両100の前面衝突時にラジエータサポートロア81に作用した荷重をステアリングギアボックス4に効果的に伝達することができる。特に、上記箇所がハウジング45におけるラックガイド44を収容している車両前方に突出した部分と重複すると、ステアリングギアボックス4に作用した荷重で伸縮機構26が縮退し易い。
【0028】
付加部材9は、例えば自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板(SPFH590)である。
【0029】
<作用>
図6を参照して、実施形態の車両前部構造1の挙動を説明する。
図6(A)は衝突初期を示し、
図6(B)は衝突中期を示し、
図6(C)は衝突後期を示している。
図6(B)では、分かり易いように、衝突初期の状態を二点鎖線で示している。
図6(C)では、分かり易いように、衝突中期の状態を二点鎖線で示している。
【0030】
付加部材9が配置されたラジエータサポートロア81は、車両100の前面衝突時にラジエータサポートロア81に作用した荷重でも変形し難い。上記荷重でも変形し難いのは、付加部材9によってラジエータサポートロア81が補強されているからである。そのため、
図6(A)に示すように、衝突初期において、ラジエータサポートロア81からステアリングギアボックス4に作用する荷重の低下が抑制される。つまり、衝突初期において、ラジエータサポートロア81からステアリングギアボックス4にある程度大きな荷重が作用する。
図6(A)の黒塗り矢印は荷重の方向を示しており、矢印の大きさが荷重の大きさに対応している。
【0031】
ラジエータサポートロア81からステアリングギアボックス4にある程度大きな荷重が作用することで、
図6(B)に示すように、衝突中期において、伸縮機構26が縮退する。具体的には、
図6(A)に示す衝突初期から
図6(B)の衝突中期にいたる過程で、第二シャフト22とインターミディエイトシャフト25とが屈曲状態から直線状態に近づくことで伸縮機構26が縮退する。伸縮機構26が縮退すると、伸縮機構26を構成する外筒251と内筒252とのオーバーラップ部分の長さLが衝突前よりも大きくなる。
【0032】
衝突後期では、
図6(C)に示すように、Aピラー130(
図1)が上方に変位することにより、Aピラー130に架け渡されたクロスメンバ140が上方に変位する。
図6(C)の上側の黒塗り矢印はクロスメンバ140の変位方向を示している。このクロスメンバ140には、ステアリングシャフト2に取り付けられたステアリングコラム5が固定されている。縮退した伸縮機構26は伸び代を有する。この伸び代は、外筒251と内筒252とのオーバーラップ部分の長さLに略相当する。そのため、クロスメンバ140が上方に変位することにより、ステアリングコラム5も上方に変位し、この変位に伴って伸縮機構26が伸びる。伸縮機構26が伸びると、伸縮機構26を構成する外筒251と内筒252とのオーバーラップ部分の長さLが衝突中期よりも小さくなる。伸縮機構26が伸びることで、クロスメンバ140を中心としてステアリングホイール3が回転することなく上方に平行移動する。その結果、ステアリングホイール3から展開されたエアバッグ200の位置を衝突前の適正位置に維持することができ、エアバッグ200で乗員の頭部300を正面から受け止めることができる。
【0033】
<効果>
実施形態の車両前部構造1では、車両100の前面衝突時にラジエータサポートロア81にかかる荷重をステアリングギアボックス4に伝達することができ、ステアリングギアボックス4に作用する荷重の低下を抑制することができる。特に、付加部材9がハット状の形状を有し、かつハット形状を構成する稜線部96,97,98,99が車両100の前後方向に沿っていることで、ラジエータサポートロア81に作用した荷重によるラジエータサポートロア81の断面崩れが生じ難い。そして、ラジエータサポートロア81における付加部材9が配置された箇所が車両100の前方から見てステアリングギアボックス4と重複する部分を有することで、ラジエータサポートロア81に作用した荷重をステアリングギアボックス4に効果的に伝達することができる。
【0034】
ステアリングギアボックス4にある程度大きな荷重が作用することで、伸縮機構26が縮退する。縮退した伸縮機構26は、衝突後期にクロスメンバ140と共にステアリングコラム5が上方に変位することに伴い伸びることができる。この伸縮機構26の適切な伸縮によって、ステアリングホイール3から展開されたエアバッグ200の位置を衝突前の適正位置に維持することができ、乗員の頭部300を正面から受け止めることができる。
【0035】
実施形態の車両前部構造1は、フロントノーズ110が短い車両100に備えられると、上記効果を効果的に発揮する。
【0036】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、以下の変更が可能である。
【0037】
(1)付加部材は、ラジエータサポートロアに配置された上述した補強部材に加えて、フロントバンパとラジエータサポートロアとをつなぐ橋渡し部材を備えていてもよい。補強部材に加えて橋渡し部材が配置されていると、車両の前面衝突時にフロントバンパにかかる荷重をラジエータサポートロアにダイレクトに伝達することができ、ひいては上記荷重をステアリングギアボックスに効果的に伝達することができる。
【0038】
(2)付加部材は、フロントバンパとステアリングギアボックスとをつなぐ橋渡し部材であってもよい。フロントバンパとステアリングギアボックスとをつなぐように付加部材が配置されていると、車両の前面衝突時にフロントバンパにかかる荷重をステアリングギアボックスにダイレクトに伝達することができる。上記荷重をステアリングギアボックスにダイレクトに伝達することができれば、ステアリングギアボックスに作用する荷重の低下を抑制することができる。
【0039】
(3)ステアリングホイールにエアバッグが配置されていなくてもよい。ステアリングホイールにエアバッグが配置されていなくても、ステアリングホイール自体が衝撃エネルギー吸収材で構成されていると、実施形態の車両前部構造と同様の効果は発揮される。車両の前面衝突時の荷重でステアリングコラムがクロスメンバから脱落する構造であっても、実施形態の車両前部構造と同様の効果は発揮される。
【符号の説明】
【0040】
1 車両前部構造
2 ステアリングシャフト
21 第一シャフト
22 第二シャフト
25 インターミディエイトシャフト
251 外筒
252 内筒
26 伸縮機構
28,29 ジョイント
3 ステアリングホイール
4 ステアリングギアボックス
41 ピニオンギア
42 ラック
43 ラックバー
44 ラックガイド
45 ハウジング
46 キャップ部
5 ステアリングコラム
6 フロント部材
7 フロントバンパ
8 ラジエータサポート
81 ラジエータサポートロア
810 下面
9 付加部材
91 底部
92,93 側部
94,95 フランジ部
96,97,98,99 稜線部
100 車両
110 フロントノーズ
130 Aピラー
140 クロスメンバ
150 ラジエータ
200 エアバッグ
300 乗員の頭部
L 長さ