(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132640
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】共振器及びバンドパスフィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/203 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01P1/203
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043489
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩竹 明人
(72)【発明者】
【氏名】成田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006HB03
5J006HB12
5J006JA01
5J006LA02
(57)【要約】
【課題】従来、負性抵抗を利用した共振器において高い無負荷Q値を実現することができなかった。
【解決手段】本発明の一態様の共振器50は、誘電体基板PWBと、誘電体基板PWBに共振周波数の電磁波の半波長に基づく長さの導体箔で形成された導体線路51と、導体線路51の一端に接続された、該共振周波数を含む帯域において負の抵抗成分を持つ負性抵抗Rnegativeと、導体線路51の他端に接続された抵抗器Rと、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板に共振周波数の電磁波の半波長に基づく長さの導体箔で形成された導体線路と、
前記導体線路の一端に接続された、前記共振周波数を含む帯域において負の抵抗成分を持つ負性抵抗と、
前記導体線路の他端に接続された抵抗器と、を備える
共振器。
【請求項2】
前記抵抗器は、前記導体線路に対して前記負性抵抗が接続された端部と反対側の端部に接続されている
請求項1に記載の共振器。
【請求項3】
第1の共振器と第2の共振器が連結して電磁界的に接続されたバンドパスフィルタであって、
前記第1の共振器と前記第2の共振器の各々は、
誘電体基板と、
前記誘電体基板に共振周波数の電磁波の半波長に基づく長さの導体箔で形成された導体線路と、
前記導体線路の一端に接続された、前記共振周波数を含む帯域において負の抵抗成分を持つ負性抵抗と、
前記導体線路の他端に接続された抵抗器と、を備える
バンドパスフィルタ。
【請求項4】
前記第1の共振器の前記導体線路と前記第2の共振器の前記導体線路との間は、予め設定された隙間が設けられている
請求項3に記載のバンドパスフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器及びバンドパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信分野で用いるバンドパスフィルタであって、受信機に内蔵されるバンドパスフィルタは、金属、誘電体などの材料を用いた平面回路構造又は積層回路構造により実現される。そのバンドパスフィルタの中でも、銅箔と誘電体材料により実現されるマイクロストリップ型バンドパスフィルタがある。プリント配線板は、板状の誘電体材料(誘電体基板)の上下に銅箔などの導電性材料を貼り合わせた部材であり、バンドパスフィルタは、このプリント配線板の片面をパターン加工することで構成することができる。
【0003】
プリント配線板は、銅箔と誘電体材料による損失によりバンドパスフィルタの挿入損失が高くなる傾向にある。バンドパスフィルタの改善にはバンドパスフィルタ自体を冷却し、損失の原因となる銅箔の抵抗率、誘電体基板の誘電損失を表すtanδを下げることが考えられる。しかし、バンドパスフィルタの無負荷Q値は材料によって決まるため、いったん材料が決まると、設計者でも無負荷Q値を大きく改善することは実質的に不可能であった。
【0004】
無負荷Q値は、バンドパスフィルタを構成する共振器の性能を表す指標である。無負荷Q値が高いほどバンドパスフィルタの挿入損失が低くなり(良い方向)、低いほど挿入損失が高くなる(悪い方向)。したがって、バンドパスフィルタの性能向上のためには、共振器の無負荷Q値をいかに高くできるかが重要となる。
【0005】
バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタは、直流の電気エネルギーを印加することで交流信号を増幅する増幅器や、交流信号を発振する発振器として動作させることができる。特に、バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタを発振器として動作させる際には、抵抗値がマイナスとなる負性抵抗を回路で実現し、空気中の雑音に起因する発振源の微弱な信号をある周波数のみを正帰還させることが必要になる。
【0006】
バンドパスフィルタの損失の原因となる銅箔の抵抗率、誘電体基板のtanδなどは正の値を持つ抵抗として考えることができ、この正の抵抗を、負の抵抗値を持つ負性抵抗で打ち消すことができれば、理想的にはバンドパスフィルタの無負荷Q値が無限大となる。なお、負性抵抗として動作する回路はバイポーラトランジスタ及び電界効果トランジスタを用いた能動素子と抵抗、インダクタ、キャパシタの受動素子により実現される。
【0007】
負性抵抗を利用した共振器の無負荷Q値の改善は過去にもなされている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の技術は、共振器の片端部に負性抵抗回路を接続し、共振器の形状や負性抵抗の接続方法を工夫することで無負荷Q値が最も高くなるように調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ベースとなる共振器の形状などにより共振器ごとに必要な負性抵抗は異なる。このため、負性抵抗を接続した場合でも、共振器の銅箔の抵抗率、誘電体基板のtanδなどに起因する正の抵抗成分を打ち消すことができないことがある。つまり、従来の負性抵抗を利用した共振器では、負性抵抗の効果は必ずしも有効ではなく、共振器の無負荷Q値が高くならない場合がある。
【0010】
例えば、従来の負性抵抗のみを共振器に接続する方法では、共振器の無負荷Q値は数百ほどである。このような共振器の無負荷Q値を高くする場合には、負性抵抗の抵抗値がマイナス数kΩほど必要となるため、負性抵抗回路の実現が困難である。
【0011】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、負性抵抗を利用した共振器において高い無負荷Q値を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の共振器は、誘電体基板と、該誘電体基板に共振周波数の電磁波の半波長に基づく長さの導体箔で形成された導体線路と、該導体線路の一端に接続された、該共振周波数を含む帯域において負の抵抗成分を持つ負性抵抗と、該導体線路の他端に接続された抵抗器と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明の少なくとも一態様によれば、共振器を構成する導体線路に負性抵抗と抵抗器を接続することで、負性抵抗を利用した共振器において高い無負荷Q値を実現することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る共振回路の等価回路の例を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態において負性抵抗を実現する回路の例を示す図である。
【
図3】
図2に示した負性抵抗を実現する回路の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図4】
図3に示した負性抵抗を実現する回路の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答の例を示すグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施形態におけるマイクロストリップ線路を用いて実現した共振器の原理を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る、負性抵抗と抵抗器を用いた共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図7】負性抵抗及び抵抗器のいずれも接続していない共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図8】負性抵抗のみを接続した共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図9】抵抗器のみを接続した共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図10】
図6~
図9に示した各共振器の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答の例を示すグラフである。
【
図11】
図10の各電磁界シミュレーションモデルの周波数応答より求めた無負荷Q値の例を示す図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係る、負性抵抗と抵抗器を接続した共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図13】負性抵抗及び抵抗器のいずれも接続していない共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図14】負性抵抗のみを接続した共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図15】抵抗器のみを接続した共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
【
図16】
図12~
図15に示した各2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの通過特性(S21)の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称する)の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において、同一の構成要素又は実質的に同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0016】
<第1の実施形態>
[共振回路の構成]
まず、本発明の第1の実施形態に係る共振回路について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る共振回路の等価回路の例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る共振器10は、共振回路単体1と、負性抵抗Rnegativeと、抵抗器Rとから構成される。
【0017】
共振回路単体1は、一般的な共振回路であり、一例としてインダクタL、キャパシタC、及び共振回路単体1の寄生抵抗R0が並列に接続された並列共振回路である。共振回路単体1には、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rが並列に接続されている。負性抵抗Rnegativeは、電流-電圧の関係においてある周波数(ここでは共振周波数を含む帯域)で抵抗値が負となる特性を有する抵抗である。一般的に、負性抵抗は能動素子を含む回路として構成される。
【0018】
共振器10を構成する互いに並列に接続された各素子の一端側は、入力端子に接続され、他端側はグランドに接続されている。以降、本明細書において、本発明の共振回路という場合は、共振回路単体1に負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを接続した回路を指すものとする。共振回路単体1を「共振回路単体」と呼ぶことがある。また、共振回路の電磁界シミュレーションモデル、又はプリント配線板に実装したものを「共振器」と呼ぶ。ただし、共振回路単体1は並列共振回路に限らず、直列共振回路であってもよい。
【0019】
図1に示した共振器で無負荷Q値が無限大となるのは共振回路の寄生抵抗R
0、装荷している抵抗器R、及び負性抵抗Rnegativeを並列合成した抵抗値が0となる場合である。数式で表すと、式(1)のように表すことができる。
【0020】
【0021】
[負性抵抗を実現する回路]
図2は、本実施形態において共振回路に使用する負性抵抗Rnegativeを実現する回路の例を示す図である。
図2に示すように、負性抵抗Rnegativeを実現する回路は、トランジスタTr1、インダクタL1、キャパシタC1~C7、抵抗器R1~R4、及び直流電源Eを含む。トランジスタTr1には、スイッチング素子としてバイポーラトランジスタを用いているが電界効果トランジスタであってもよい。
【0022】
トランジスタTr1のベースは、キャパシタC1を介して、信号が入出力される入出力Port1と接続されている。キャパシタC1とトランジスタTr1のベースとの接続点は、抵抗器R2を介してグランドに接続されている。トランジスタTr1のベースは、直列接続されたキャパシタC2とキャパシタC4を介して、グランドに接続されている。さらに、トランジスタTr1のベースは、直列接続されたキャパシタC3とキャパシタC5を介して、グランドに接続されている。
【0023】
トランジスタTr1のコレクタと直流電源Eの正極は、インダクタL1を介して接続されている。インダクタL1と直流電源Eの正極との接続点は、抵抗器R1を介して、キャパシタC1とトランジスタTr1のベースとの接続点と接続されている。
【0024】
直流電源Eの正極は、キャパシタC6を介してグランドに接続されているとともに、キャパシタC7を介してグランドに接続されている。キャパシタC6,C7はデカップリングコンデンサであり、直流電源電圧が変動することを避ける目的で接続されている。直流電源Eの負極はグランドに接続されている。
【0025】
トランジスタTr1のエミッタは、抵抗器R3を介して、グランドに接続されている。トランジスタTr1のエミッタと抵抗器R3との接続点は、キャパシタC2とキャパシタC4の接続点と接続されている。さらに、トランジスタTr1のエミッタは、抵抗器R4を介して、グランドに接続されている。トランジスタTr1のエミッタと抵抗器R4との接続点は、キャパシタC3とキャパシタC5の接続点と接続されている。
【0026】
[負性抵抗を実現する回路の電磁界シミュレーションモデル]
図3は、
図2に示した負性抵抗を実現する回路の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。本実施形態では、電磁界シミュレーションモデルの作成にSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)を使用しているが、他の電磁界シミュレータ(シミュレーションソフトウェア)を用いてもよい。
【0027】
プリント配線基板PWBは、裏面に導体箔(
図5Bのグランド面導体54)を形成した板状の誘電体基板である。
図3に示すように、本願の発明者らは電磁界シミュレータを用いて、プリント配線板PWB上に、トランジスタTr1、インダクタL1、キャパシタC1~C7、抵抗器R1~R4、及び直流電源Eを配置し、負性抵抗Rnegativeを実現する回路のモデルを作成した。直流電源Eは、例えば直流4.5Vの定電圧を供給する電源である。抵抗器R1~R4にはチップ型の抵抗器(チップ抵抗器)、キャパシタC1~C7にはチップ型のキャパシタ(チップコンデンサ)を用いている。
【0028】
図3では、プリント配線板PWB上において、マイクロストリップ線路31にトランジスタTr1のベース、抵抗器R1,R2の一端、及びキャパシタC1~C3の一端がそれぞれ接続されている。抵抗器R2の他端は、ビアを介してグランドに接続される。キャパシタC1の他端は、マイクロストリップ線路36を介して入出力Port1と接続されている。マイクロストリップ線路36は、SPICEで電磁界シミュレーションモデルを作成するために入力した50Ω伝送線路であるが、実際のプリント配線板PWBに実装する際には削除することができる。
【0029】
また、プリント配線板PWB上において、マイクロストリップ線路32にトランジスタTr1のコレクタ、及びインダクタL1の一端が接続されている。インダクタL1の他端はマイクロストリップ線路33と接続している。さらに、マイクロストリップ線路33には、抵抗器R1、及びキャパシタC6,C7の一端がそれぞれ接続されている。キャパシタC6,C7の他端は、ビアを介してグランドに接続される。マイクロストリップ線路33とマイクロストリップ線路31は、抵抗器R1を介して接続されている。
【0030】
また、マイクロストリップ線路34にトランジスタTr1のエミッタ、抵抗器R3の一端、及びキャパシタC2,C4の一端がそれぞれ接続されている。抵抗器R3とキャパシタC4の他端は、ビアを介してグランドに接続される。マイクロストリップ線路34とマイクロストリップ線路31は、キャパシタC2を介して接続されている。
【0031】
また、マイクロストリップ線路35にトランジスタTr1のエミッタ、抵抗器R4の一端、及びキャパシタC3,C5の一端がそれぞれ接続されている。抵抗器R4とキャパシタC5の他端は、ビアを介してグランドに接続される。マイクロストリップ線路35とマイクロストリップ線路31は、キャパシタC3を介して接続されている。
【0032】
なお、上述した負性抵抗Rnegativeを実現する回路の構成は一例であって、この例に限られない。また、トランジスタTr1にバイポーラトランジスタを用いたが、GHz帯で動作可能なトランジスタであればバイポーラトランジスタに限らず、電界効果トランジスタでもよい。
【0033】
[負性抵抗を実現する回路の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答]
図4は、
図3に示した負性抵抗Rnegativeを実現する回路の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答の例を示すグラフである。グラフの縦軸はインピーダンス(Ω)を示し、横軸は周波数(MHz)を示す。
図4には、負性抵抗Rnegativeの実部Reと虚部Imに分けてそれぞれの特性の例が示されている。実部がマイナス値をとるときの周波数の範囲が、負性抵抗Rnegativeが負性抵抗としてふるまう範囲である。
【0034】
図4では、周波数が約1000MHzから約5000MHzの間で、負性抵抗Rnegativeのインピーダンスの実部が負の値をとる。例えば、データ点m1では周波数が2400[MHz](=2.4GHz)のときインピーダンスの実部Reが-95.7[Ω]、データ点m2では周波数が2300[MHz]のときインピーダンスの実部Reが-93.53[Ω]、データ点m3では周波数が2500[MHz]のときインピーダンスの実部Reが-97.73[Ω]である。なお、データ点m4では周波数が2400[MHz]のときインピーダンスの虚部Imが-141.6[Ω]である。
【0035】
以降、
図4に示した負性抵抗の周波数応答を、共振器又は電磁界シミュレーションモデルにおける負性抵抗Rnegativeの特性として用いる。
【0036】
[マイクロストリップ線路を用いて実現した共振器]
図5は、本実施形態におけるマイクロストリップ線路を用いて実現した共振器の原理を示す図であって、
図5Aは共振器の上面図、
図5Bは共振器のA-A´線での断面図である。
【0037】
図5Aに示す共振器50は、電磁波の半波長(λ/2)で共振するマイクロストリップ線路構造の半波長共振器である。共振器50は、プリント配線板PWBにマイクロストリップ線路を形成することで実現される。プリント配線板PWBの表面にマイクロストリップ線路51~53が形成され、プリント配線板PWBの裏面にグランド面導体54が全体的に形成されている。マイクロストリップ線路51~53及びグランド面導体54には、伝送導体として銅箔を用いることができる。以下の説明においてグランドと記載した場合は、グランド面導体54のことを指している。
【0038】
プリント配線板PWB上に形成されたマイクロストリップ線路51の一方の端部は、負性抵抗Rnegativeを介してグランドに接続されている。また、マイクロストリップ線路51のもう一方の端部は、抵抗器Rを介してグランドに接続されている。負性抵抗Rnegativeとマイクロストリップ線路51の一方の端部とは、入出力Port1(
図3)を介してマイクロストリップ線路51の一方の端部と接続される。
【0039】
プリント配線板PWB上のマイクロストリップ線路51は、共振回路の構成要素となる寄生抵抗R
0と、インダクタンス成分(
図1のインダクタLに相当)を含む。また、マイクロストリップ線路51とプリント配線板PWBのグランドとの間に、キャパシタンス成分(
図1のキャパシタC)が発生する。目的の動作周波数(例えば2.4GHz)によって、共振器50を構成するマイクロストリップ線路51の長さ(≒λ/2)が決まってくる。マイクロストリップ線路51の幅は、負性抵抗Rnegativeを実現する回路の特性(例えば、周波数特性)に応じて設定される。
【0040】
マイクロストリップ線路52,53は、マイクロストリップ線路51(共振器単体)に対して交流信号(高周波信号)を伝送するための給電線である。
図5の例では、マイクロストリップ線路52は、マイクロストリップ線路51の下方に形成され、マイクロストリップ線路53は、マイクロストリップ線路51の上方に形成されている。マイクロストリップ線路52,53は、共振器の無負荷Q値だけが見えるように、入出力給電線の影響をできるだけ小さくするように配置される。
【0041】
さらに、マイクロストリップ線路52,53(給電線)は、それぞれの先端部分がマイクロストリップ線路51(共振器単体)に対して所定の距離離れていることで、電磁界的に結合(ギャップ結合)して電気エネルギーを伝搬している。ギャップ結合では、給電線と共振器単体が対面する導体面積が広いほど電磁界結合が強くなるが、その対面する面積は設計上、調整しやすい。ギャップ結合は、給電線と共振器単体間に導体がないため、給電線から高周波信号と直流電圧が入力された場合であっても、直流電圧を遮断し、高周波信号のみを共振器本体に励振させることができる。本実施形態では、マイクロストリップ線路51(共振器単体)とマイクロストリップ線路52,53(給電線)を予め求めた距離離して配置することで、共振器単体に給電線が直接接続している場合(後述するタップ結合)や所定の距離離れていない場合と比較して、共振器単体としてより良好な特性が得られた。
【0042】
例えば、入力信号をマイクロストリップ線路52からマイクロストリップ線路51(共振器単体)へ入力した場合は、出力信号はマイクロストリップ線路53に出力される。入力信号は共振器50の効果により、共振器50(特にマイクロストリップ線路51)の形状によって決まる一部の周波数の信号のみが出力される。なお、入力信号をマイクロストリップ線路53から入力し、出力信号をマイクロストリップ線路52から出力した場合も同様の特性となる。
【0043】
このようなマイクロストリップ線路構造により、入力側の給電線(マイクロストリップ線路52又は53)から励振された電磁波の中で、共振器単体(マイクロストリップ線路51)の長さ方向において電界の腹と節と腹が入る(λ/2)条件となったとき、共振現象が起こる。そして、共振周波数の信号が低損失状態で出力側の給電線(マイクロストリップ線路53又は52)に伝送される。
【0044】
例えば、入力側のマイクロストリップ線路52にアンテナ等から信号の入力があり、出力側のマイクロストリップ線路53に受信回路が接続されている場合、マイクロストリップ線路51で共振周波数(一例では2.4GHz)のみの電気信号を通すため、2.4GHzの信号のみが受信回路で受信される。
【0045】
[負性抵抗と抵抗器を用いた共振器]
図6は、本実施形態に係る、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを用いた共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
図6Aは共振器の上面図、
図6Bは共振器の要部の拡大図である。
図6に示す電磁界シミュレーションモデル(共振器60)は、
図5のマイクロストリップ線路構造の共振器50(半波長共振器)を、電磁界シミュレータを用いてモデル化したものである。この電磁界シミュレーションモデルの作成には、SPICE及びタッチストーンファイルが使用される。
【0046】
プリント配線板PWB上に配置されたマイクロストリップ線路61の一方の端部に負性抵抗Rnegativeが接続され、もう一方の端部に抵抗器Rが接続されている。マイクロストリップ線路61は、
図5のマイクロストリップ線路51に相当し、動作周波数の信号(電磁波)のほぼ半波長(λ/2)に調整された長さLを持つ。
【0047】
マイクロストリップ線路62とマイクロストリップ線路63は、マイクロストリップ線路61に対して垂直に接続されている。マイクロストリップ線路62,63は、マイクロストリップ線路61(共振器単体)に対する給電線であり、
図5Aのマイクロストリップ線路52,53に相当する。
【0048】
共振器60は、入出力ポート64に入力された信号を、マイクロストリップ線路62を介してマイクロストリップ線路61(共振器単体)に入力する。そして、共振器60は、マイクロストリップ線路61から取り出された信号を、マイクロストリップ線路63を介して入出力ポート65に出力する。そして、入出力ポート65から出力された信号は、入出力ポート65と接続した外部の処理回路に送られて所定の信号処理が行われる。
【0049】
負性抵抗Rnegativeは、1ポート回路(
図2参照)なので、SPICEでは、負性抵抗Rnegativeがマイクロストリップ線路61の上に配置されているような表現となっている。ここでは、負性抵抗Rnegativeの一端(Port1)がマイクロストリップ線路61と接続され、負性抵抗Rnegativeの他端は接地されている。
【0050】
SPICEにおいて、負性抵抗Rnegativeは、いわゆるタッチストーンファイルとして設定される。負性抵抗Rnegativeのタッチストーンファイルに、負性抵抗Rnegativeの周波数応答(例えば、
図3に示した回路の電磁界シミュレーションモデルと、
図4の周波数応答)のデータが登録されており、負性抵抗Rnegativeが接続されていることと等価になっている。
【0051】
抵抗器Rは、一方のポート端子で共振器単体としてのマイクロストリップ線路61と接続され、他方のポート端子でビアを通じてプリント配線板PWBの裏面のグランド面導体54(
図5B)に接続されている。電磁界シミュレータには、抵抗器Rの周波数特性のデータが入力されている。抵抗器Rとして用いるチップ抵抗器のサイズは、一例として“1608”である。すなわち、“1608”という数字は、チップ抵抗器の長さ(長辺の寸法)が1.6mm、幅(短辺の寸法)が0.8mmであることを意味している。
【0052】
さらに、本実施形態に係る共振器60の効果を検証するために、負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rの有無による共振器の電磁界シミュレーションモデルを作成し、それらの特性の変化も確認した。
図7に負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rを接続していない場合、
図8に負性抵抗Rnegativeのみを接続した場合、
図9に抵抗器Rのみを接続した場合の電磁界シミュレーションモデルの例を示す。ここでは、負性抵抗Rnegativeの特性として、
図3及び
図4で示した負性抵抗Rnegativeを実現する回路の電磁界シミュレーション結果(周波数応答)を用いている。
【0053】
[負性抵抗及び抵抗器のいずれも接続していない共振器]
図7は、負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rのいずれも接続していない共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。電磁界シミュレーションモデルとして示した
図7の共振器70は、
図6の共振器60と比較すると、マイクロストリップ線路61に負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rのいずれも接続されていない構成になっている。
【0054】
[負性抵抗のみを接続した共振器]
図8は、負性抵抗Rnegativeのみを接続した共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。電磁界シミュレーションモデルとして示した
図8の共振器80は、
図6の共振器60と比較すると、マイクロストリップ線路61の端部に負性抵抗Rnegativeのみが接続されている構成になっている。
【0055】
[抵抗器のみを接続した共振器]
図9は、抵抗器Rのみを接続した共振器の電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。電磁界シミュレーションモデルとして示した
図9の共振器90は、
図6の共振器60と比較すると、マイクロストリップ線路61の端部に抵抗器Rのみが接続されている構成になっている。
【0056】
[各共振器の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答]
図10は、
図6~
図9に示した各共振器の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答の例を示すグラフである。グラフの縦軸は信号ゲイン(マグニチュード:dB)を示し、横軸は周波数(GHz)を示す。信号ゲインは、共振器の入力信号に対する出力信号のゲインである。
【0057】
図10に示すように、本実施形態による負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを接続した共振器60では、2.4GHz付近(
図10では2.4GHzの僅かに下側)で、信号ゲインが急激に変化してピークを示している。他の構成の共振器70~90では、本実施形態による共振器60の場合と比較すると、信号ゲインの変化が小さい。また、共振器70~90では、本実施形態による共振器60と比較して、信号ゲインが極大となる周波数が2.4GHz付近から離れている。
【0058】
[無負荷Q値の計算結果]
図11は、
図10の各共振器の電磁界シミュレーションモデルの周波数応答より求めた無負荷Q値の例を示す図である。
図11に示す無負荷Q値は、
図6~
図9に示したマイクロストリップ線路61の幅方向の寸法をさまざまに変更したときに得られた、共振器60~90の無負荷Q値の一例である。
【0059】
本実施形態に係る負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを接続した共振器60の無負荷Q値は“10536”であった。共振器60は、プリント配線板PWB上に実現されるが、共振器単体の無負荷Q値が数100程度(
図11)ある場合であっても、-100Ω程度(
図4)の負性抵抗Rnegativeに加えて抵抗器Rを設けることによって、高い無負荷Q値を実現することができる。
【0060】
一方、負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rが接続されていない共振器70(共振器単体のみ)の無負荷Q値は“200”であった。また、負性抵抗Rnegativeのみを接続した共振器80の無負荷Q値は“57.2”であり、抵抗器Rのみを接続した共振器90の無負荷Q値は“48.5”であった。
図11に示す無負荷Q値の計算結果から、本実施形態に係る無負荷Q値は、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを接続した共振器60の無負荷Q値が最も高いことが分かった。
【0061】
以上のとおり、本実施形態に係る共振器(例えば、共振器60)は、誘電体基板と、この誘電体基板に導体箔で形成された導体線路と、この導体線路の一端に接続された負性抵抗と、導体線路の他端に接続された抵抗器と、を備える。すでに説明したように、導体線路の長さは、共振周波数の電磁波の半波長の長さであり、負性抵抗は共振周波数を含む帯域において負の抵抗成分を持つ抵抗である。
【0062】
本願の発明者らは、共振器単体(例えば、マイクロストリップ線路61)の一端に負性抵抗回路(例えば、負性抵抗Rnegative)を接続し、それに加えてあえてチップ抵抗器などの抵抗器Rを他端に接続する構成を発明した。そして、このような構成とすることで、発明者らは、共振器単体の抵抗成分(寄生抵抗R0)と、負性抵抗Rnegativeによる負の抵抗成分と、抵抗器Rの抵抗成分とをバランスさせ、共振器の無負荷Q値が大きく改善することを見出した。
【0063】
そして、発明者らは、実際にその方法を適用した共振器の設計において高い無負荷Q値が得られる共振器(例えば、共振器60)を作成した。さらに、発明者らは、その共振器を用いてバンドパスフィルタを設計すると、バンドパスフィルタの通過損失(挿入損失)が改善できることを確認した。本実施形態の共振器を用いたバンドパスフィルタについては、第2の実施形態で説明する。
【0064】
本実施形態に係る共振器について、動作周波数が2.4GHzである場合を例に説明したが、この例に限られない。バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタのトランジション周波数fT、負性抵抗回路を構成する集中定数チップ素子の抵抗器、インダクタ、キャパシタの動作周波数が設計仕様に対して十分に高いものであれば、本実施形態は、他の周波数帯へ横展開することができる。
【0065】
また、本発明による技術は、トランジスタ、及び集中定数チップ素子の動作周波数に問題がなければ、10GHzを超える場合でも十分に適用できる。また、本実施形態に用いられた集中定数チップ素子は、プリント配線板やその他の誘電体基板上に構成した集中定数素子にも代替可能であり、動作周波数が高い場合にも高い無負荷Q値を実現できる可能性がある。
【0066】
<第2の実施形態>
第2の実施形態は、第1の実施形態に係る共振器(
図6)を用いてバンドパスフィルタ(BPF)を構成した例である。バンドパスフィルタは、2つ以上の共振器を連結して構成することができる。すなわち、2つ以上の共振器を用いることで通過帯域において安定した通過特性を持つバンドパスフィルタを実現することができる。第2の実施形態では、第1の実施形態に係る共振器を2個連結させてバンドパスフィルタ(以下「2段BPF」と呼ぶ)を構成した例について説明する。なお、本実施形態では、2個の共振器を連結してバンドパスフィルタを構成したが、3個以上の共振器を連結させてもよい。
【0067】
[負性抵抗と抵抗器を接続した共振器を用いた2段BPF]
図12は、本実施形態に係る、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを接続した共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
図12Aは2段BPFの上面図、
図12Bは2段BPFの要部の拡大図である。電磁界シミュレーションモデルの作成には、第1の実施形態と同様に、SPICE及びタッチストーンファイルが使用される。
【0068】
図12に示すように、2段BPF1200は、共振器1201と共振器1202を連結して構成される。共振器1201及び共振器1202の各々は、第1の実施形態で説明した負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rが接続された共振器60と同等の共振器である。共振器1201を1段目の共振器、共振器1202を2段目の共振器とする。
【0069】
共振器1201は、プリント配線板PWB上に、マイクロストリップ線路1211と、給電線としてのマイクロストリップ線路122と、マイクロストリップ線路1211の一端に接続された負性抵抗Rnegative1と、マイクロストリップ線路1211の他端に接続された抵抗器R1とを備える。
【0070】
マイクロストリップ線路122は、マイクロストリップ線路1211の共振器1202が配置された側とは反対側に接続される。負性抵抗Rnegative1と抵抗器R1は、ビアを通じて裏面のグランド面導体54(
図5B)に接地されている。
【0071】
共振器1202は、プリント配線板PWB上に、マイクロストリップ線路1212と、給電線としてのマイクロストリップ線路123と、マイクロストリップ線路1212の一端に接続された負性抵抗Rnegative2と、マイクロストリップ線路1212の他端に接続された抵抗器R2とを備える。
【0072】
マイクロストリップ線路123は、マイクロストリップ線路1212の共振器1201が配置された側とは反対側に接続される。第1の実施形態と同様に、負性抵抗Rnegative2と抵抗器R2は、ビアを通じてプリント配線板PWBの裏面のグランド面導体54に接続されている。
【0073】
共振器1201のマイクロストリップ線路1211と共振器1202のマイクロストリップ線路1212のサイズ(形状)は、共振器60(
図6)のマイクロストリップ線路61と同等である。同様に、負性抵抗Rnegative1と負性抵抗Rnegative2は、共振器60の負性抵抗Rnegativeと同等である。さらに、抵抗器R1と抵抗器R2は、共振器60の抵抗器Rと同等である。
【0074】
以下では、負性抵抗Rnegative1と負性抵抗Rnegative2を特に区別しない場合は「負性抵抗Rnegative」と記載する。また、抵抗器R1と抵抗器R2を特に区別しない場合には「抵抗R」と記載する。
【0075】
共振器1201は、入出力ポート124に入力された信号を、マイクロストリップ線路122を介してマイクロストリップ線路1211に入力する。そして、共振器1201は、マイクロストリップ線路1211から取り出された目的の動作周波数の信号を、隙間Gを利用して共振器1202のマイクロストリップ線路1212に伝達する。さらに、共振器1202は、マイクロストリップ線路1212から取り出された目的の動作周波数の信号を、マイクロストリップ線路123を介して入出力ポート125に出力する。
【0076】
このように、2段BPF1200において、信号を左側のマイクロストリップ線路122に入力し、右側のマイクロストリップ線路123に出力することで、バンドパスフィルタの特性(例えば、2.4GHzの信号のみ通過)が得られる。なお、右側のマイクロストリップ線路123を入力にして、左側のマイクロストリップ線路122を出力としても特性は同じとなる。
【0077】
さらに、本実施形態に係る2段BPF1200の効果を検証するために、負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rの有無による2段BPFの電磁界シミュレーションモデルを作成し、それらの特性の変化も確認した。
図13に負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rを接続していない場合、
図14に負性抵抗Rnegativeのみを接続した場合、
図15に抵抗器Rのみを接続した場合の電磁界シミュレーションモデルの例を示す。ここでは、負性抵抗Rnegative1及びRnegative2の特性として、第1の実施形態(
図3及び
図4)で示した負性抵抗Rnegativeを実現する回路の電磁界シミュレーション結果(周波数応答)を用いている。
【0078】
共振器1201と共振器1202の間には、所定の隙間Gが存在する。この隙間Gによりキャパシタンス成分やインダクタンス成分が発生し、共振器1201と共振器1202が電磁界的に接続される。なお、1段目の共振器1201と2段目の共振器1202の間を何らかの回路素子や導体箔を用いて導通させる構成も考えられるが、2つの共振器1201,1202を隙間Gによって電磁界的に接続した方が、2段BPFの特性がより良好なものとなることが分かった。
【0079】
ところで、
図5~
図9に示した共振器単体(例えば、共振器50,60)では、中央のマイクロストリップ線路(例えば、マイクロストリップ線路51,61)と、給電線となるマイクロストリップ線路(マイクロストリップ線路52~53,62~63)との間は、ギャップ結合されている。これに対して、2段BPF1200を構成する共振器1201,1202では、中央のマイクロストリップ線路1211,1212と、給電線となるマイクロストリップ線路122,123との間は、導体(インダクタでも可)によって直接接続されている。このような接続形態は、タップ結合と呼ばれる。
【0080】
本発明では、マイクロストリップ線路構造の共振器及びバンドパスフィルタの設計において、共振器単体と給電線をどのような形態で結合するかは、制約条件に応じて設計者が適宜選択することができる。例えば、制約条件としては、設計仕様や回路サイズ(例えば、共振器単体となるマイクロストリップ線路の形状等)、選定できる共振器(無負荷Q値がどの程度実現可能か)などの条件が挙げられる。本実施形態の2段BPF1200では、
図12に示すように、マイクロストリップ線路1211,1212(共振器単体)にマイクロストリップ線路122,123(給電線)を直接接続(タップ結合)することで、ギャップ結合とした場合よりもバンドパスフィルタとしてより良好な特性が得られた。
【0081】
[負性抵抗と抵抗器のいずれも接続していない共振器を用いた2段BPF]
図13は、負性抵抗Rnegative及び抵抗器Rのいずれも接続していない共振器(共振器単体)を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
電磁界シミュレーションモデルとして示した2段BPF1300は、共振器1301と共振器1302を連結して構成されている。共振器1301及び共振器1302には、マイクロストリップ線路1211,1212に負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rのいずれも接続されていない。
【0082】
[負性抵抗のみを接続した共振器を用いた2段BPF]
図14は、負性抵抗Rnegativeのみを接続した共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
電磁界シミュレーションモデルとして示した2段BPF1400は、共振器1401と共振器1402が連結して構成されている。共振器1401及び共振器1402ではそれぞれ、マイクロストリップ線路1211,1212に負性抵抗Rnegativeのみが接続されている。
【0083】
[抵抗器のみを接続した共振器を用いた2段BPF]
図15は、抵抗器Rのみを接続した共振器を用いた2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの例を示す図である。
電磁界シミュレーションモデルとして示した2段BPF1500は、共振器1501と共振器1502を連結して構成されている。共振器1501及び共振器1502ではそれぞれ、マイクロストリップ線路1211,1212に抵抗器Rのみが接続されている。
【0084】
[各共振器の電磁界シミュレーションモデルの通過特性]
図16は、
図12~
図15に示した各2段BPFの電磁界シミュレーションモデルの通過特性(S21)の例を示すグラフである。グラフの縦軸は信号ゲイン(マグニチュード:dB)を示し、横軸は周波数(GHz)を示す。
【0085】
図16に示すように、2段BPFの通過特性(S21)の最大値は、本実施形態による負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rが接続された共振器を用いた2段BPF1200の場合で、0.390dBである。
【0086】
また、共振器単体を用いた2段BPF1300の場合で-1.369dB、負性抵抗Rnegativeのみを用いた2段BPF1400の場合で7.816dB、抵抗器Rのみを用いた2段BPF1500の場合で-4.995dBであった。
【0087】
負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを用いた2段BPF1200の場合では、例えば目標の動作周波数である2.4GHzで通過損失がなく、信号ゲインがゼロに近い値(例えば、0.390dB)となっている。
【0088】
一方、共振器単体を用いた2段BPF1300の場合では、2.4GHzの前後で信号ゲインが0dBを下回っており、通過損失(挿入損失)による減衰が生じている。
【0089】
また、負性抵抗Rnegativeのみを用いた2段BPF1400の場合には、2.4GHzの前後で信号ゲインが0dBを上回っているので増幅作用が生じている。また、この場合、2.3GHzから2.4GHzにかけて信号ゲインに2つのピークが存在しており、2段BPF1400の通過特性に揺らぎが生じていることが確認できる。
【0090】
また、抵抗器Rのみを用いた2段BPF1500の場合では、2.4GHzの前後で信号ゲインが0dBを大きく下回っており、通過損失が大きい。一般に、バンドパスフィルタを構成する共振器の段数が多くなるほど通過損失が増え、逆に負性抵抗のみの場合では増幅作用が生じることもある。
【0091】
本実施形態に係る2段BPF1200(
図12参照)では、通過損失をほぼ0dBに抑えられており、2段BPF1200に入力された信号のレベルを変えることなくそのまま出力することができる。
【0092】
上述したとおり、本実施形態に係るバンドパスフィルタ(例えば、2段BPF1200)は、第1の共振器(例えば、共振器1201)と第2の共振器(例えば、共振器1202)が連結して電磁界的に接続されたバンドパスフィルタである。第1の共振器と第2の共振器の各々は、誘電体基板と、この誘電体基板に導体箔で形成された導体線路と、この導体線路の一端に接続された負性抵抗と、導体線路の他端に接続された抵抗器と、を備える。すでに説明したように、導体線路の長さは、共振周波数の電磁波の半波長の長さであり、負性抵抗は共振周波数を含む帯域において負の抵抗成分を持つ抵抗である。
【0093】
このように、本願の発明者らは、第1の実施形態に係る共振器(例えば、共振器60)を2個連結してバンドパスフィルタ(例えば、2段BPF1200)を設計すると、バンドパスフィルタの通過損失(挿入損失)が改善できることを見出した。
【0094】
以上、本実施形態に係る2段BPFについて、動作周波数が2.4GHzである場合を例に説明した。既述のとおり、第1の実施形態に係る共振器は、負性抵抗回路を構成する能動素子や集中定数チップ素子の抵抗器、インダクタ、キャパシタなどを適切に選定することで、2.4GHz以外の他の周波数帯への横展開は十分に可能である。したがって、本実施形態に係る2段BPFも、他の周波数帯への横展開は十分に可能である。
【0095】
SAW(Surface Acoustic Waveguide)フィルタは、SAW共振子によりバンドパスフィルタを構成することができる。SAW共振子は無負荷Q値が数千となることから、低挿入損失のバンドパスフィルタが実現されている。SAWフィルタは圧電効果をバンドパスフィルタに利用するが、SAW共振子を実現する金属電極間の距離がバントパスフィルタの動作周波数を決めるため、現状のSAWフィルタの製造に用いている半導体装置では動作周波数に限界がある。
【0096】
その周波数はおおよそ5GHzまでと言われており、5GHz以上ではBAW(Bulk Acoustic Waveguide)フィルタ、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)が有効である。例えば、電子技術情報「https://forum.digikey.com/t/saw-baw/7119」には、SAWフィルタは2.7GHz以下の周波数範囲で使用でき、BAWフィルタは1.5GHzから6GHzまでの範囲で使用できること、及び、それぞれ高い無負荷Q値を実現されていることが記載されている。
【0097】
このように、これらの技術も、現状はおおよそ10GHz未満までの動作周波数となる。例えば、下記論文1,2においても、SAWフィルタにおいて無負荷Q値が約3500、BAW(FBAW)において約3500(at5GHz)の例が記載されている。論文2では、Fig.21に示された周波数が3.5GHz以下であるので、対象バンドは10GHz未満と推測できる。
【0098】
(論文1)
A. Hagelauer et al., IEEE Journal of Microwaves, “From Microwave Acoustic Filters to Millimeter-Wave Operation and New Applications”, JANUARY 2023, Vol. 3, No. 1, p. 484-508
(論文2)
C. C. W. Ruppel, IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, "Acoustic Wave Filter Technology-A Review," 2017, Vol. 64, No. 9, p. 1390-1400
【0099】
例えば、衛星通信に使用される12GHz帯や28GHz帯等においては、SAWフィルタやBAWフィルタを使用することができない。しかし、本実施形態に係る2段BPFによれば、動作周波数に合わせて、負性抵抗回路を構成する能動素子及び受動素子を適切に選定することで、これら12GHz帯や28GHz帯等の高い周波数帯であっても、バンドパスフィルタを構成することができる。また、本実施形態では、SAWやBAWと同等以上の無負荷Q値(例えば、
図11の例では10536)を実現することができる。
【0100】
なお、上述した2段BPF1200では、連結する2つの共振器1201,1202の共振周波数は同一であることを想定して説明したが、この例に限られない。2つの共振器1201,1202の共振周波数を所定値だけずらしてもよい。例えば、プリント配線板PWBを用いて2段BPFを構成する場合、入力側給電線(例えば、マイクロストリップ線路122)と第2の共振器(例えば、マイクロストリップ線路1212)の間、第1の共振器(例えば、マイクロストリップ線路1211)と出力側給電線(例えば、マイクロストリップ線路123)の間、入力側給電線(例えば、マイクロストリップ線路122)と出力側給電線(例えば、マイクロストリップ線路123)の間が、電磁界的に結合する場合がある。そして、2段BPFに対するそれらの電磁界的な結合の影響が無視できないような場合には、共振器1201,1202の共振周波数をわずかにずらすことで、バンドパスフィルタとしての特性の改善が期待できる。
【0101】
また、上述した第1の実施形態では、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを共振器単体(マイクロストリップ線路51,61)の両端部に離して接続する構成について説明したが、この例に限られない。例えば、共振器の無負荷Q値が向上する限りにおいて、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rをそれぞれ共振器単体となるマイクロストリップ線路51,61の任意の位置に接続する構成、又は、マイクロストリップ線路51,61の一方の端部側で両者を近くに接続する構成としてもよい。
【0102】
ただし、共振器(マイクロストリップ線路51,61)の片端に負性抵抗Rnegative、他端に抵抗器Rを接続した構成は、当該共振器を複数使用して2段BPFを実現する際に有利である。
図12に示したように、複数の共振器を横に並べてバンドパスフィルタを構成する。端部以外の場所に負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rがあると、バンドパスフィルタを構成する際に、負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rが位置的に邪魔になって、近い間隔で共振器を横に並べることができなくなる。そのために、所望するバンドパスフィルタの特性が得られない可能性がある。そこで、共振器の両端に負性抵抗Rnegativeと抵抗器Rを接続することによって、このような問題が解消されて、所望するバンドパスフィルタの特性を得ることができる。
【0103】
<変形例>
上述した各実施形態において、共振器及び2段BPFをマイクロストリップ線路構造(分布定数回路)で実現した例について説明したが、本発明の共振器及び2段BPFはマイクロストリップ線路構造に限定されない。すなわち、本発明の共振器及び2段BPFは、表裏面に導体箔が形成された誘電体基板の内部に線状の導体箔を形成した構造を持つストリップ線路構造にも適用可能である。この場合は、
図1に共振回路の等価回路を示したように、ストリップ線路構造の共振回路の寄生抵抗R0、装荷している抵抗器Rの抵抗、及び負性抵抗Rnegativeを並列合成した抵抗値が0となるように、抵抗器Rの抵抗成分と負性抵抗Rnegativeの抵抗成分を設計すればよい。
【0104】
また、本発明の共振器は、
図1に共振回路の等価回路を示したように、集中定数回路(いわゆる集中定数素子で構成される電気回路)を用いて実現することも可能である。また、共振回路は、並列共振回路のみならず直列共振回路であってもよい。直列共振回路の場合、共振器で高い無負荷Q値を実現するために、共振回路の寄生抵抗R
0、装荷している抵抗器R、及び負性抵抗Rnegativeを直列合成した抵抗値が0となるように設計すればよい。
【0105】
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの実施形態や変形例に限定されるものではない。また、上述した種々の実施形態や変形例は、本発明を分かりやすく説明するためにその構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0106】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0107】
また、本明細書においては、「直交」や「垂直」などの用語を使用したが、各々の用語は、厳密な「直交」及び「垂直」のみを意味する用語ではなく、厳格な意味での「直交」及び「垂直」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある「略直交」及び「略垂直」の意味をも含むものである。
【符号の説明】
【0108】
1…共振回路単体、10…共振器、50…共振器、51~53…マイクロストリップ線路、54…グランド面導体、60…共振器、61~63…マイクロストリップ線路、122~123…マイクロストリップ線路、1200…2段BPF、1201,1202…共振器、1211,1212…マイクロストリップ線路、C…キャパシタ、L…インダクタ、PWB…プリント配線板、Rnegative…負性抵抗、R…抵抗器、R0…寄生抵抗