IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132651
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】冷媒サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20240920BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20240920BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20240920BHJP
   F25B 43/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F25B1/00 341R
B60H1/22 651B
B60H1/32 624
F25B1/00 351U
F25B43/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043505
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大河
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 勝敏
(72)【発明者】
【氏名】相澤 英男
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA14
3L211CA17
3L211EA51
3L211EA75
3L211FA24
3L211FB06
3L211GA34
(57)【要約】
【課題】圧縮機下流における満液状態を抑制する冷媒サイクル装置を提供する。
【解決手段】冷媒サイクル装置2は、高温系統3、および/または、低温系統4へ熱的な出力を提供する。制御装置10は、熱的な目標出力を供給するように冷媒サイクル装置2を制御する。制御装置10は、熱的な目標出力を供給するように圧縮機21の回転数を制御する。冷媒サイクル装置2は、圧縮機21の下流において満液状態が発生する事態を抑制する。満液状態は、圧縮機21からの液冷媒の吐出を抑制する液吐出抑制手段により抑制される。液吐出抑制手段は、圧縮機21を準備回転数で運転する準備制御により提供される場合がある。液吐出抑制手段は、圧縮機21において液冷媒を蒸発させてガス冷媒を圧縮機21に吸入させ、圧縮させる気液分離機構により提供される場合がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機(21)と、
高温系統(3)、および/または、低温系統(4)へ熱的な出力を提供する熱交換器(7、8、26)と、
前記圧縮機からの液冷媒の吐出を抑制する液吐出抑制手段(104、871、972)とを備える冷媒サイクル装置。
【請求項2】
前記液吐出抑制手段(104)は、前記圧縮機の回転数を制御する手段であって、熱的な目標出力に応じた熱出力回転数(NT)よりも低い準備回転数(NP)で前記圧縮機を運転することにより液冷媒の吐出を抑制した後に、前記熱出力回転数(NT)で前記圧縮機を運転する制御手段(104、109)を備える請求項1に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項3】
さらに、所定の開始条件が満たされるか否かを判定し、前記開始条件が満たされる場合にのみ前記液吐出抑制手段を活性化する開始条件判定手段(103、203、303、403、503)を備える請求項2に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項4】
前記開始条件(203、403)は、前記圧縮機に溜まっている液冷媒の存在を直接的に検出することにより、前記圧縮機から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である請求項3に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項5】
前記開始条件(103、303、503)は、前記圧縮機に溜まっている液冷媒の存在を間接的に検出することにより、前記圧縮機から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である請求項3に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項6】
さらに、所定の終了条件が満たされるか否かを判定し、
前記終了条件が満たされるまで前記準備回転数で前記圧縮機を運転し、
前記終了条件が満たされた後に前記熱出力回転数で前記圧縮機を運転する終了条件判定手段(108、608)を備える請求項3に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項7】
前記終了条件(608、708)は、前記圧縮機に溜まっている液冷媒の存在を直接的に検出することにより、前記圧縮機から液冷媒が吐出される可能性が低くなったと判定される場合に満たされる条件である請求項6に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項8】
前記終了条件(108)は、前記圧縮機に溜まっている液冷媒の存在を間接的に検出することにより、前記圧縮機から液冷媒が吐出される可能性が低くなったと判定される場合に満たされる条件である請求項6に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項9】
前記終了条件は、前記冷媒サイクル装置に封入されているすべての冷媒を一巡させるまでの期間より長く設定されている請求項6または請求項8に記載の冷媒サイクル装置。
【請求項10】
前記液吐出抑制手段は、前記圧縮機における液冷媒を加熱することにより、前記圧縮機における液冷媒の蒸発を促進するヒータ(871)を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の冷媒サイクル装置。
【請求項11】
前記液吐出抑制手段は、前記圧縮機における液冷媒を捕捉し、ガス冷媒を前記圧縮機の圧縮機構(21b)に供給する気液分離器(972)を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の冷媒サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、冷媒サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、冷媒サイクル装置の一例であるヒートポンプサイクルを利用した車両用空調装置を開示する。ヒートポンプサイクルは、低温熱源としての冷媒と、高温熱源としての冷媒との両方を提供している。特許文献2も、ヒートポンプサイクルを利用した車両用空調装置を開示する。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-74832号公報
【特許文献2】特開2022-190675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷媒サイクル装置が低温熱源、および/または、高温熱源として利用される場合、圧縮機は室外など外部環境に設置される場合がある。さらに、蒸気圧縮式サイクル装置が停止状態において長期間放置されると、外気温度が低温の環境では、圧縮機がサイクルにおいて最も温度が低い部品のひとつとなる場合がある。この場合、圧縮機の内部、および/または、前後の冷媒管路内に液冷媒が溜まる場合がある。とりわけ、圧縮機が低い位置に設置される場合、この現象が生じやすい。液冷媒は、サイクルの起動後に圧縮機下流の冷媒管路を満たし、満液状態にすることがある。満液状態は、振動を伝搬しやすく、騒音も伝搬しやすい。
【0005】
上述の観点において、または言及されていない他の観点において、冷媒サイクル装置にはさらなる改良が求められている。
【0006】
開示されるひとつの目的は、圧縮機下流における満液状態を抑制する冷媒サイクル装置を提供することである。
【0007】
開示される他のひとつの目的は、圧縮機の下流への液冷媒の吐出が抑制された冷媒サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示された冷媒サイクル装置は、冷媒を圧縮する圧縮機(21)と、高温系統(3)、および/または、低温系統(4)へ熱的な出力を提供する熱交換器(7、8、26)と、圧縮機からの液冷媒の吐出を抑制する液吐出抑制手段(104、871、972)とを備える。
【0009】
開示される冷媒サイクル装置によると、圧縮機から液冷媒が吐出される事態が抑制される。圧縮機の下流における管路が液冷媒で満たされる満液状態の発生が抑制される。この結果、満液状態に起因する振動の伝達、および、騒音の伝達が抑制される。
【0010】
この明細書において開示された複数の形態は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図2】圧縮機を示す断面図である。
図3】制御を示すフローチャートである。
図4】圧縮機の回転数の推移を示すグラフである。
図5】第2実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図6】圧縮機を示す断面図である。
図7】制御を示すフローチャートである。
図8】第3実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図9】制御を示すフローチャートである。
図10】第4実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図11】制御を示すフローチャートである。
図12】第5実施形態に係る圧縮機の消費電力を示すグラフである。
図13】制御を示すフローチャートである。
図14】第6実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図15】レシーバを示す断面図である。
図16】制御を示すフローチャートである。
図17】第7実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図18】圧縮機を示す断面図である。
図19】制御を示すフローチャートである。
図20】第8実施形態に係る熱管理システムのブロック図である。
図21】圧縮機を示す断面図である。
図22】制御を示すフローチャートである。
図23】第9実施形態に係る圧縮機を示す断面図である。
図24】第10実施形態に係る制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
複数の実施形態が、図面を参照しながら説明される。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に、対応する部分および/または関連付けられる部分には、同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0013】
第1実施形態
図1において、熱管理システム1は、冷媒サイクル装置2を備える。冷媒サイクル装置2は、蒸気圧縮式サイクル装置とも呼ばれる。冷媒サイクル装置2は、低温熱源ばかりでなく、高温熱源を提供するヒートポンプ装置によって提供されている。これに代えて、冷媒サイクル装置2は、低温熱源だけを提供する冷凍サイクル装置によって提供されてもよい。冷媒サイクル装置2は、冷媒を循環させ、冷媒の相変化を利用して熱を輸送する。
【0014】
冷媒サイクル装置2は、特開2017-74832号公報(特許文献1)、または、特開2022-190675号公報(特許文献2)に開示されたサイクルにより提供されてもよく、これら特許文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【0015】
熱管理システム1は、温度調節装置を提供している。熱管理システム1は、乗り物用の温度調節装置を提供している。これに代えて、熱管理システム1は、ヒトが乗らない無人の移動体に適用されてもよい。さらに、移動体は、車両、船舶、および、航空機である場合がある。熱管理システム1は、土地に固定された建物に適用されてもよい。
【0016】
冷媒サイクル装置2は、温度調節対象物に低温熱源、および/または、高温熱源を供給することにより、温度調節対象物の温度を調節する。温度調節対象物は、空気、または、水等の液体の場合がある。この実施形態では、ひとつの温度調節対象物は、空調装置を流れる空気である。例えば、冷媒サイクル装置2を流れる冷媒と、空気との間で熱交換が提供される。温度調節対象物は、電気回路、または、バッテリ等の機器の場合がある。この実施形態では、ひとつの温度調節対象物は、機器である。機器の温度調節は、冷媒サイクル装置2を流れる冷媒と、機器との間で、直接的、または、間接的な熱交換が実行されることで、提供される。例えば、中間媒体として、水などの媒体を利用することにより、間接的な熱交換が提供される。水に代えて、不凍水、ガスなどを用いることができる。
【0017】
冷媒サイクル装置2は、冷媒が循環する循環系統を構成している。循環系統には、後述する圧縮機21、放熱器23、2つの電気式の膨張弁25、28、2つの蒸発器である冷却器26、29、および、蒸発圧力調節器27が順に配置されている。蒸発圧力調節器27は、EPRとも呼ばれている。
【0018】
圧縮機21は、低温低圧の冷媒を吸入し、加圧して、高温高圧の冷媒として吐出する。圧縮機21は、冷媒サイクル装置2における室外機に設置されている。このため、冷媒サイクル装置2が停止状態で長時間にわたって放置されると、圧縮機21の温度はほぼ外気温度と等しい温度になる。冬季、または、寒冷地においては、圧縮機21の温度が冷媒サイクル装置2を構成する機器の中で最も低くなる場合がある。
【0019】
放熱器23は、高温高圧の冷媒からの放熱を可能とする。言い換えると、放熱器23は、高温熱源でもある。膨張弁25、28は、高圧冷媒を減圧する。冷却器26、29は、減圧された冷媒を蒸発させることにより冷媒へ吸熱させる。言い換えると、冷却器26、29は、低温熱源でもある。蒸発圧力調節器27は、冷却器26における冷媒の蒸発と、冷却器29における冷媒の蒸発との相互作用を抑制する。
【0020】
圧縮機21は、電動のモータ22によって駆動される電動の圧縮機である。放熱器23は、水-冷媒熱交換器7の冷媒通路部分によって提供されている。放熱器23は、水-冷媒熱交換器7において、冷媒サイクル装置2の冷媒と、後述する高温系統3の媒体である水との熱交換を提供する。放熱器23は、凝縮部23aと、過冷却部23bとを備える。凝縮部23aは、圧縮機21から吐出された高温高圧の冷媒を凝縮させる。過冷却部23bは、凝縮した冷媒をさらに放熱させ過冷却冷媒を生成する。凝縮部23aと、過冷却部23bとの間には、気液分離器としてのレシーバ24が配置されている。レシーバ24は、凝縮部23aを通過した気液混合冷媒から液成分を分離し、過冷却部23bへ流入させる。過冷却部23bは、レシーバ24から液冷媒を受けることにより、過冷却冷媒を生成する。放熱器23とレシーバ24とは、レシーバ一体型の放熱器を構成している。
【0021】
電気式の膨張弁25、28は、モータ、または、ソレノイドなどの電気的なアクチュエータによって開度を調節可能な膨張弁である。膨張弁25、28は、減圧器とも呼ばれる。膨張弁25、28の開度は、電気式であるから、冷媒サイクル装置2の運転が開始された直後から、後述する制御装置10によって制御される。このため、冷媒サイクル装置2の運転が開始された直後は、全閉状態、または、小開度に制御される場合がある。この場合、電気式の膨張弁25、28は、冷媒サイクル装置2内における冷媒の循環量を制限することとなる。この結果、圧縮機21と放熱器23との間の配管、および、凝縮部23aの内部に液冷媒が満たされやすい。また、液冷媒が満たされた状態が長期間にわたって持続しやすい。このような傾向は、冷媒サイクル装置2の運転が開始された直後に全開状態となる機械式の膨張弁、まはた、温度感応式の膨張弁に比べて、より顕著に、高い頻度で表れる場合がある。
【0022】
膨張弁25と圧縮機21との間には冷却器26と蒸発圧力調節器27との直列回路が配置されている。冷却器26は、後述する空調装置5に流れる空気と熱交換する。結果的に、冷却器26は空気を冷却する。冷却器26は、空調用の冷却器とも呼ぶことができる。
【0023】
さらに、膨張弁28と圧縮機21との間には冷却器29が配置されている。冷却器29は、水-冷媒熱交換器8の冷媒部分によって提供されている。冷却器29は、水-冷媒熱交換器8において、冷媒サイクル装置2の冷媒と、後述する低温系統4の媒体である水との熱交換を提供する。水-冷媒熱交換器8は、チラーとも呼ばれる。
【0024】
冷媒通路は、放熱器23の下流において、膨張弁25と膨張弁28とに分岐している。これらの冷媒通路は、蒸発圧力調節器27と冷却器29との下流において合流している。よって、膨張弁25、冷却器26、および、蒸発圧力調節器27を含む第1通路と、膨張弁28、および、冷却器29を含む第2通路とは、循環経路において並列的に配置されている。
【0025】
熱管理システム1は、高温熱源として利用される高温系統3を備える。高温系統3は、暖房系統および放熱系統を提供している。高温系統3は、機器の温度を加熱する機器加熱系統を提供してもよい。高温系統3は、冷媒サイクル装置2が提供する高温熱源として機能する。高温系統3は、冷媒サイクル装置2と、温度調節対象物である空気との間において、間接的に熱交換するように構成されている。
【0026】
高温系統3は、水-冷媒熱交換器7を含む媒体循環系統によって提供されている。なお、媒体は、水、不凍液、または、ガスといった流体である。高温系統3は、水-冷媒熱交換器7の熱交換器31と、室内熱交換器32と、室外熱交換器33とを含む。室内熱交換器32は、後述する空調装置5の加熱器を提供する。室外熱交換器33は、熱管理システム1における室外機9の一部として配置されている。熱交換器31に対して室内熱交換器32と室外熱交換器33とは並列に配置されている。室内熱交換器32は、利用側熱交換器とも呼ばれる。さらに、高温系統3は、ポンプ34、および、通路を切り替える弁機構35を有する。ポンプ34は、媒体を圧送する。ポンプ34は、媒体が媒体循環系統内を循環的に流れることを可能としている。特に、ポンプ34は、熱交換器31と室内熱交換器32との間において、および、熱交換器31と室外熱交換器33との間において媒体を循環させる共通経路に配置されている。弁機構35は、図中では、三方弁として例示されている。弁機構35は、室内熱交換器32を通過する流量と、室外熱交換器33を通過する流量との比率を調節する。弁機構35は、媒体循環系統内の流路を切り替える弁によって提供することができる。弁機構35は、複数の開閉弁など多様な機構によって提供することができる。
【0027】
放熱器23は、熱交換器31に向けて放熱することにより、放熱器23内の冷媒を冷却すると同時に、熱交換器31内の水を加熱する。熱交換器31において加熱された水の全部、または、一部は、弁機構35を通して室内熱交換器32に供給される。室内熱交換器32は、内部を流れる水と、室内熱交換器32を通過する空気との間で熱交換を提供する。この結果、室内熱交換器32は、内部を流れる水を冷却し、逆に、室内熱交換器32を通過する空気を加熱する。こうして、暖房機能が提供される。室内熱交換器32を出た水は、ポンプ34を通して熱交換器31に戻る。一方、熱交換器31において加熱された水の全部、または、一部は、弁機構35を通して室外熱交換器33に供給される。室外熱交換器33は、内部を流れる水と、室外熱交換器33を通過する空気との間で熱交換を提供する。この結果、室外熱交換器33は、内部を流れる水を冷却し、逆に、室外熱交換器33を通過する空気を加熱する。こうして、放熱器23から、外気への放熱が提供される。室外熱交換器33を出た水は、ポンプ34を通して熱交換器31に戻る。
【0028】
熱管理システム1は、低温熱源として利用される低温系統4を備える。低温系統4は、冷房系統4a、および、機器冷却系統4bを提供している。低温系統4は、冷媒サイクル装置2が提供する低温熱源として機能する。機器冷却系統4bは、機器(バッテリ6)から排出される廃熱を熱源として冷媒サイクル装置2に取り込む熱源系統でもある。熱源系統は、冷媒サイクル装置2がヒートポンプとして運転される運転モードにおいて、熱源を提供する。機器冷却系統4bは、機器(バッテリ6)の廃熱、および/または、外気の熱を熱源として冷媒サイクル装置2に取り込む熱源系統でもある。
【0029】
冷房系統4aは、膨張弁25、冷却器26、および、蒸発圧力調節器27を含む冷媒経路によって提供されている。冷房系統4aは、冷媒サイクル装置2と、温度調節対象物である空気との間において、直接的に熱交換するように構成されている。冷却器26は、後述の空調装置5の冷却器を提供する。
【0030】
ここで、空調装置5は、空調ケース51を備える。空調ケース51は、下流端が空調対象である車室に向けて開口しているダクト状の部材である。空調ケース51は、例えば、上流端に設置された内外気切替装置52、シロッコファンなどによって提供された送風機53、および、エアミックスドアなどによって提供された温度調節装置54などの複数の空調機器を含む。冷却器26と、室内熱交換器32とは、空調ケース51内に配置されている。冷却器26は、空気の流れ方向に関して空調ケース51を横切るように配置されている。室内熱交換器32は、空調ケース51内を流れる一部の空気と交差するように配置されている。温度調節装置54は、室内熱交換器32の上流側、または、下流側に、室内熱交換器32を通過する空気量と、室内熱交換器32を通過しない空気量との比率を調節するように配置されている。冷却器26と、室内熱交換器32とは、室内熱交換器32が冷却器26より下流に位置するように配置されている。
【0031】
冷却器26を通過した冷却空気の全部、または、一部は、室内熱交換器32によって加熱される。このとき、温度調節装置54により、空気の温度が調節される。さらに、冷却器26によって冷却された空気が、室内熱交換器32によって加熱されることにより、空気が除湿される。
【0032】
低温系統4に戻り、機器冷却系統4bは、冷媒サイクル装置2と、温度調節対象物であるバッテリ6との間において、間接的に熱交換するように構成されている。機器冷却系統4bは、水-冷媒熱交換器8を含む媒体循環系統によって提供されている。なお、媒体は、水、不凍液、または、ガスといった流体である。機器冷却系統4bは、水-冷媒熱交換器8の熱交換器41と、機器熱交換器42と、室外熱交換器43とを含む。機器冷却系統4bは、熱交換器41と機器熱交換器42とを含む機器熱源系としての閉ループを有する。機器熱交換器42は、熱源熱交換器とも呼ばれる。機器冷却系統4bは、熱交換器41と室外熱交換器43とを含む室外熱源系としての閉ループを有する。室外熱交換器43は、熱源熱交換器とも呼ばれる。機器熱源系と、室外熱源系とは、並列的に配置されている。機器冷却系統4bは、機器熱源系と、室外熱源系とを選択的に熱源として利用できる。機器冷却系統4bは、機器熱源系と、室外熱源系との両方を並列的に熱源として利用できる。機器冷却系統4bにおいて、機器熱源系と、室外熱源系とは直列的に配置されていてもよい。
【0033】
さらに、低温系統4は、ポンプ44、および、通路を切り替える弁機構45を有する。ポンプ44は、媒体を圧送する。ポンプ44は、媒体が媒体循環系統内を循環的に流れることを可能としている。特に、ポンプ44は、熱交換器41と機器熱交換器42との間において、および、熱交換器41と室外熱交換器43との間において媒体を循環させる共通経路に配置されている。ポンプ44は、熱交換器41で冷却された水を送り出すように配置されている。ポンプ44は、機器熱交換器42で加熱された水を送り出すように配置されている。ポンプ44は、室外熱交換器43で加熱、または、放熱された水を送り出すように配置されている。弁機構45は、三方弁として例示されている。弁機構45は、機器熱交換器42を通過する流量を調節する。弁機構45は、室外熱交換器43を通過する流量を調節する。弁機構45は、媒体循環系統内の流路を切り替える、ひとつ、または、複数の弁によって提供することができる。弁機構45は、媒体循環系統内における複数の流路の流量比率を調節する、ひとつ、または、複数の弁によって提供することができる。弁機構45は、複数の開閉弁など多様な機構によって提供することができる。
【0034】
冷却器29は、熱交換器41から吸熱することにより、冷却器29内の冷媒を蒸発させると同時に、熱交換器41内の水を冷却する。熱交換器41において冷却された水の全部、または、一部は、弁機構45を通して機器熱交換器42に供給される。機器熱交換器42は、内部を流れる水と、機器熱交換器42と熱的に結合されたバッテリ6との間で熱交換を提供する。この結果、機器熱交換器42は、内部を流れる水を加熱し、逆に、バッテリ6を冷却する。こうして、機器冷却機能が提供される。言い換えると、機器であるバッテリ6からの吸熱機能が提供される。熱交換器41において冷却された水の全部、または、一部は、弁機構45を通して室外熱交換器43に供給される。室外熱交換器43は、内部を流れる水と、室外空気(外気)との間で熱交換を提供する。この結果、室外熱交換器43は、内部を流れる水を加熱し、逆に、室外空気を冷却する。こうして、室外空気からの吸熱機能が提供される。結果的に、機器冷却系統4bは、冷媒サイクル装置2に熱源を提供する熱源系統として機能する。機器冷却系統4bは、機器(バッテリ6)の廃熱、および/または、室外空気の熱を、冷媒サイクル装置2がヒートポンプとして機能する場合の熱源として提供する。
【0035】
なお、機器冷却系統4bは、機器熱交換器42を出た水の一部、または、全部が室外熱交換器43を通るように構成されてもよい。例えば、上記のような流れが提供されるように流路を切り替える運転モードを有していてもよい。この場合、機器熱交換器42において加熱された水は、室外熱交換器43において放熱する。
【0036】
熱管理システム1は、高温系統3と、低温系統4との両方を備えることにより、空調装置5を冷暖房機器として機能させている。空調装置5は、乗り物の一例としての車両用空調装置である。空調装置5は、車室内の空気に対して、冷房、および/または、暖房を提供する。空調装置5は、車室内を空調する。空調装置5は、室内の温度を設定温度に調節する。さらに、空調装置5は、室内の湿度を調節する。
【0037】
さらに、冷媒サイクル装置2は、低温系統4によって、発熱機器としてのバッテリ6の温度を調節する。バッテリ6は、車両の走行駆動用のモータに電力を供給する高電圧二次電池である。バッテリ6は、例えば、リチウムイオン電池である。これに代えて、バッテリ6は、ニッケル水素電池など多様な電池によって提供することができる。冷媒サイクル装置2は、バッテリ6の温度を、バッテリ6が所期の機能を発揮できる温度範囲に調節する。冷媒サイクル装置2は、バッテリ6の温度を充電と放電とに適した温度帯に調節する。
【0038】
熱管理システム1は、制御装置10を備える。制御装置10は、電子制御装置(ECU)である。制御装置10は、制御対象としての構成部品を制御することにより冷媒サイクル装置2を制御する。制御装置10は、予め定められた制御特性に基づいて、冷媒サイクル装置2を制御する制御方法を実行する。制御装置、または制御システムは、(a)if-then-else形式と呼ばれる複数の論理としてのアルゴリズム、または(b)機械学習によってチューニングされた学習済みモデル、例えばニューラルネットワークとしてのアルゴリズムによって提供される。
【0039】
制御装置は、少なくともひとつのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、データ通信装置によってリンクされた複数のコンピュータを含む場合がある。コンピュータは、ハードウェアである少なくともひとつのプロセッサ(ハードウェアプロセッサ)を含む。ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、または(iii)により提供することができる。
【0040】
(i)ハードウェアプロセッサは、少なくともひとつのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくともひとつのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくともひとつのメモリと、少なくともひとつのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、CPU:Central Processing Unit、GPU:Graphics Processing Unit、RISC-CPUなどと呼ばれる。メモリは、記憶媒体とも呼ばれる。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラムおよび/またはデータ」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリ、磁気ディスク、または光学ディスクなどによって提供される。プログラムは、それ単体で、またはプログラムが格納された記憶媒体として流通する場合がある。
【0041】
(ii)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、ロジック回路アレイ、例えば、ASIC:Application-Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、SoC:System on a Chip、PGA:Programmable Gate Array、CPLD:Complex Programmable Logic Deviceなどとも呼ばれる。デジタル回路は、プログラムおよび/またはデータを格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0042】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、または共通のチップの上に配置される。これらの場合、(ii)の部分は、アクセラレータとも呼ばれる。
【0043】
制御装置と信号源と制御対象物とは、多様な要素を提供する。それらの要素の少なくとも一部は、ブロック、モジュール、またはセクションと呼ぶことができる。さらに、制御システムに含まれる要素は、意図的な場合にのみ、機能的な手段と呼ばれる。
【0044】
熱管理システム1は、制御システムを提供するための複数のセンサと、複数のアクチュエータとを備える。複数のセンサと複数のアクチュエータとは、制御装置10に電気的に接続されている。制御装置10は、複数のセンサから検出信号を受信する。制御装置10は、予め定められた制御プログラムを実行することにより、検出信号に応じて、制御信号を演算する。制御装置10は、複数のアクチュエータに制御信号を出力する。こうして、制御装置10により、熱管理システム1が制御される。
【0045】
複数のセンサは、空調運転を開始する指令を入力するスイッチを含む場合がある。複数のセンサは、少なくとも室内の空気温度を検出する温度センサを含む場合がある。複数のセンサは、冷媒サイクル装置2における各部の温度、および/または、圧力を検出するセンサを含む場合がある。この実施形態では、複数のセンサは、圧力センサ61を含む。圧力センサ61は、冷媒サイクル装置2の圧縮機21の直下流における冷媒の圧力Pdを検出する。圧力センサ61は、圧力Pdを示す電気信号を制御装置10に出力する。この実施形態では、複数のセンサは、圧力センサ62を含む。圧力センサ62は、冷媒サイクル装置2の圧縮機21の直上流における冷媒の圧力Psを検出する。圧力センサ62は、圧力Psを示す電気信号を制御装置10に出力する。圧力Pdと、圧力Psとは、圧縮機21の内部に液冷媒が溜まる条件を示す指標として用いることができる。圧力センサは、半導体ひずみゲージ方式、金属薄膜方式など多様な形式によって提供することができる。
【0046】
複数のアクチュエータは、少なくともモータ22を含む。制御装置10は、少なくともモータ22を制御することにより、圧縮機21からの液吐出を抑制し、高圧経路が液冷媒で満たされる事態を抑制する。この実施形態では、複数のアクチュエータは、膨張弁25、28、ポンプ34、44、および、弁機構35、45を含む。さらに、複数のアクチュエータは、内外気切替装置52、送風機53、および、温度調節装置54を含む。
【0047】
図2において、圧縮機21は、ハウジング21aを備える。ハウジング21aは、内部に収容室を区画している。圧縮機21は、ハウジング21aの内部に圧縮機構21bと、モータ22とを内蔵している。圧縮機構21bは、例えば、スクロール型の圧縮機構である。圧縮機構21bは、ピストン型、ベーン型など多様な圧縮機構によって提供することができる。モータ22は、ロータ22aと、ステータ22bとを備える。ロータ22aは、圧縮機構21bを回転駆動するように、シャフト21cに連結されている。ステータ22bは、ハウジング21aの内面に支持されている。ハウジング21aは、吸入口21dと、吐出口21eとを有する。吸入口21dは、収容室の一端に位置する吸入室21fに連通している。吐出口21eは、収容室の他端に位置する吐出室21gに連通している。
【0048】
圧縮機構21bは、吸入室21fと吐出室21gとを仕切るように配置されている。圧縮機構21bは、吸入室21fに連通する吸入ポート21hを有する。圧縮機構21bは、吐出室21gに連通する吐出ポート21iを有する。モータ22は、吸入室21fの内部に収容されている。
【0049】
圧縮機21において、冷媒は、吸入口21dから吸入室21fに入る。冷媒は、モータ22の構成部品と熱交換しながら、吸入室21fを流れる。冷媒は、吸入ポート21hから圧縮機構21bに入り、圧縮されて、吐出ポート21iから吐出される。冷媒は、吐出室21gから吐出口21eを通して吐出される。
【0050】
以上に述べた冷媒サイクル装置2において、冷媒サイクル装置2の運転が停止されると、冷媒サイクル装置2の内部における冷媒量分布が徐々に変化する。例えば、冷媒量分布は、停止前の運転状態にやや依存する。加えて、冷媒量分布は、外気温度の変動等の環境の影響を受けて変化する。例えば、冷媒サイクル装置2を構成する複数の部品の間に温度差が発生する場合がある。この場合、冷媒量分布が変化する。例えば、冬季の深夜から早朝の期間において、外気温度が低温から徐々に上昇する場合がある。冷媒サイクル装置2が、このような環境に放置された場合、圧縮機21は、比較的熱容量が大きいため、最も低温の部品となる。この場合、圧縮機21において冷媒が凝縮し、圧縮機21へ冷媒が移動する。この場合、圧縮機21の内部、および、周辺に液冷媒が多い冷媒量分布が形成される場合がある。
【0051】
上記のような圧縮機21の内部、および、周辺に液冷媒が多い冷媒量分布の状態から、冷媒サイクル装置2が起動される場合がある。この場合、圧縮機21に溜まった液冷媒が急激に高圧側へ吐出される現象が発生する。この場合、膨張弁25、28までの高圧側の経路内が液冷媒で満たされることがある。高圧側の経路内が液冷媒で満たされた状態は、満液状態とも呼ばれる。満液状態では、圧縮機の吐出脈動が減衰せずに、配管、および、部品を強烈に振動させ、異音を生じる場合がある。
【0052】
ここで、冷媒サイクル装置2が、比較的大きい高圧容積を持つ場合、または、膨張弁が起動時に開かれる場合には、満液状態は生じにくい。例えば、冷凍サイクル装置では、高圧容積が比較的大きい。また、膨張弁が機械式膨張弁である場合には、膨張弁が起動時に開きやすく、満液状態が生じにくい。これに対して、冷媒サイクル装置2がヒートポンプを提供する場合には、高圧容積が低圧容積に比べて比較的小さい場合があり、満液状態が生じやすい。また、電気式の膨張弁が用いられる場合も、起動時から開度制御が行われる場合があり、冷媒流量が制限されて、満液状態が生じやすい。
【0053】
冷媒サイクル装置2がヒートポンプを提供する場合であっても、アキュムレータ付きヒートポンプでは、熱容量の差に起因して、圧縮機21に液冷媒が溜まるまでに長時間を要する。これに対し、高圧側に貯液部のあるレシーバ付きヒートポンプでは、作動期間中にレシーバに貯まっていた高温高圧の液冷媒が、停止期間中に低圧側に流れ込み、冷媒サイクル装置2を均圧化する。一般に、圧縮機21は重量物であるため、搭載位置が他の構成部品に比べて比較的低い。このため、圧縮機21に液冷媒が溜まりやすく、満液状態の問題が生じやすい。また、ヒートポンプは小型高性能化が求められており、配管容積、および/または、熱交換器容積が抑制されるため、問題が生じる可能性が高く、容積増加での対策は非常に困難である。そこで、この実施形態では、圧縮機からの液冷媒の吐出に起因する高圧容積の満液状態を抑制する。これにより、圧縮機の脈動に起因する振動、異音の抑制が期待される。
【0054】
図3において、制御装置10が実行する制御プログラムの一部の概要が示されてる。図3のフローチャートは、熱管理システム1が起動された直後における冷媒サイクル装置2の起動制御処理100を示している。以下の説明において、各ステップは、制御装置10によって実行される。
【0055】
ステップ101において、制御装置10は、複数のセンサから入力信号を取得する。ここでは、少なくとも冷媒サイクル装置2の運転を示す信号が取得される。運転を示す信号は、スイッチの状態として取得されてもよい。これに代えて、運転を示す信号は、熱管理システム1からの指令信号として取得されてもよい。さらに、少なくとも冷媒の圧力Pdと、冷媒の圧力Psとが取得される。
【0056】
ステップ102において、制御装置10は、冷媒サイクル装置2の運転が指示されている(ON)か、指示されていない(OFF)かを判定する。ここでは、運転を示すスイッチのON/OFFが例示されている。冷媒サイクル装置2の運転が指示されている場合、処理は、ステップ103へ分岐する。冷媒サイクル装置2の運転が指示されていない場合、処理は終了し、ステップ101、102を繰り返す。
【0057】
ステップ103において、制御装置10は、準備制御の開始条件が満たされるか否かを判定する。ステップ103において、制御装置10は、準備制御が必要であるか否かを判定しているといえる。ここで、「準備制御」は、液冷媒の大量排出を回避するように圧縮機21を運転する制御を指している。「準備制御」は、液冷媒の排出を緩やかな状態に抑制する制御である。よって、「準備制御」は、緩排出制御、または、液抑制制御と呼ばれる場合がある。
【0058】
ステップ103において、制御装置10は、圧力Pdと圧力Psとの差(Pd-Ps)が所定の閾値圧力差Pth未満であるか否か(Pd-Ps<Pth)を判定する。圧力Pdと圧力Psとの差は、高低差圧と呼ばれる。閾値圧力差Pthは、例えば、0.2MPaGとすることができる。制御装置10は、閾値圧力差Pthをメモリに記憶している。閾値圧力差Pth以上の高低差圧が観測される場合(Pd-Ps≧Pth)、冷媒サイクル装置2の状態は通常運転時に近いと判定できる。この場合、冷媒サイクル装置2は、レシーバ24に液冷媒が存在する状態であると推定される。よって、高低差圧が閾値圧力差Pth以上であれば、圧縮機21に液冷媒が溜まっていないと判定できる。逆に、高低差圧(Pd-Ps)が所定の閾値圧力差Pth未満である場合には、圧縮機21に液冷媒が溜まっている可能性があると判定できる。ステップ103の判定が肯定的(YES)であれば、処理は、ステップ104へ分岐する。ステップ103の判定が否定的(NO)であれば、処理は、ステップ109へ分岐する。
【0059】
ステップ104において、制御装置10は、準備制御を実行する。準備制御により、圧縮機21は、圧縮機21からの液排出を抑制するように運転される。言い換えると、準備制御により、圧縮機21は、圧縮機21からの液排出を緩やかに実行するように運転される。このステップ104は、ステップ109に先立って実施される準備運転を提供している。
【0060】
ステップ105において、制御装置10は、準備運転に適した回転数を設定する。準備運転に適した回転数は、準備回転数NPと呼ばれる。ここでは、圧縮機21からの液排出を抑制する準備回転数NPが設定される。準備回転数NPは、圧縮機21の回転状態を圧縮機21に不具合を来すことなく継続できる回転数が設定される。準備回転数NPのひとつの例は、圧縮機21の最低回転数である。準備回転数NPは、圧縮機21に不具合が生じない上限回転数NH以下に設定されている。さらに、準備回転数NPは、冷媒サイクル装置2を継続的に運転することができる下限回転数NL以上に設定されている。
【0061】
圧縮機21の設計上における上限回転数NHは、例えば、10000rpmである。冷媒サイクル装置2、および、圧縮機21は、この上限回転数NHにおいて、もっとも高い熱的な出力を出すことができる。圧縮機21の下限回転数NLは、モータ22に依存する場合がある。準備回転数NPは、例えば、10000rpmを最高回転数とする圧縮機21において、1000rpmに設定されている。この準備回転数NPは、冷媒サイクル装置2が運転を開始したときに期待されている熱的な目標出力を満たすための熱出力回転数より低い。例えば、冷媒サイクル装置2がヒートポンプである場合、運転を開始したときは、空調などが安定した後の通常運転よりは明らかに高い熱的な出力が求められる。この熱的な出力を満たすために、多くの冷媒サイクル装置2の圧縮機21は、最高回転数での運転を求められる。これに対して、準備制御では、明らかに低い回転数が準備回転数NPとして設定される。
【0062】
ステップ106において、制御装置10は、圧縮機21を準備回転数NPによって準備運転する。圧縮機21が準備回転数NPで運転されることにより、圧縮機21は、内部に液冷媒が溜まっていても、その液冷媒を急激、かつ、大量に吐出することなく、運転される。この結果、圧縮機21の下流における高圧経路の満液状態が抑制される。冷媒サイクル装置2が運転を開始すると、冷媒がサイクル内を流れるようになるから、高圧経路の満液状態は回避される。
【0063】
ステップ107において、制御装置10は、モータ22以外の熱管理システム1における複数のアクチュエータを通常制御する。ここで、通常制御は、複数のアクチュエータを本来の目的を達成するように制御することを指している。例えば、制御装置10は、空調装置5からの熱的な要求を満たすように膨張弁25を制御する。例えば、制御装置10は、バッテリ6からの熱的な要求を満たすように膨張弁28を制御する。
【0064】
ステップ108において、制御装置10は、準備制御の終了条件が満たされるか否かを判定する。この実施形態では、終了条件は、ステップ104において実行された準備運転の連続時間TPが、所定の閾値時間TPthを超えるか否か(TP>TPth)である。制御装置10は、連続時間TPが閾値時間TPth以下である場合(TP≦TPth)、終了条件が満たされていないと判定する。制御装置10は、連続時間TPが閾値時間TPthを超える場合、終了条件が満たされていると判定する。ステップ108の判定が肯定的(YES)である場合、ステップ109へ進む。ステップ108の判定が否定的(NO)である場合、ステップ102へ戻る。
【0065】
閾値時間TCthは、冷媒サイクル装置2における冷媒がサイクル内を一巡して、循環開始位置へ戻るまでの時間として設定されている。この実施形態では、閾値時間TCthは、冷媒サイクル装置2の構成を考慮した理論的な計算式に基づいて設定されている。閾値時間TCthは、下記の数式(1)に基づいて設定することができる。
【0066】
TCth≧C×Gr×10×60/ρ×Vc×NP×ηv・・・(1)
数式(1)の分子において、Cは実験的に設定された実験係数を示し、Grは冷媒サイクル装置2に封入されている冷媒量(kg)を示す。数式(1)の分母において、ρは吸入冷媒圧力の飽和液密度(kg/m)を示し、Vcは圧縮機21の吐出容積(cc)を示し、NPは準備制御における圧縮機21の準備回転数(rpm)を示し、ηvは圧縮機21の体積効率を示す。
【0067】
数式(1)に基づいて閾値時間TCthを設定することにより、圧縮機21の低圧側に溜まった液冷媒のすべてを、準備制御における準備回転数NPによって流すことができる。この結果、圧縮機21の高圧側の冷媒経路へ冷媒を徐々に流すことができ、この高圧側の冷媒経路の満液状態が抑制される。このように、終了条件としての閾値時間TCthは、冷媒サイクル装置2に封入されているすべての冷媒を一巡させるまでの期間より長く設定されている。
【0068】
この実施形態に代えて、閾値時間TCthは、冷媒サイクル装置2の構成を考慮して専門家の経験に基づいておおよその見込み値として設定することができる。これに代えて、閾値時間TCthは、冷媒サイクル装置2を運転することによって、実験的に設定することができる。閾値時間TPthは、例えば、5~20(sec)程度の短時間に設定される。例えば、閾値時間TPthは、15(sec)に設定することができる。閾値時間TPthを30(sec)以下の時間に設定することにより、利用者に後述の通常制御の過度の遅れを感じさせることなく、満液状態に起因する不具合を抑制することができる。
【0069】
ステップ109において、制御装置10は、通常制御を実行する。この通常制御では、熱的な目標出力を提供するように熱管理システム1が運転制御される。冷媒サイクル装置2は、熱的な目標出力を提供するように運転制御される。圧縮機21は、準備回転数NPに制限されることなく、熱的な目標出力を提供するように、準備回転数NP以上の回転数で運転制御される。
【0070】
ステップ110において、制御装置10は、熱的な目標出力に応じた回転数を設定する。熱的な目標出力に応じた回転数は、熱出力回転数NTと呼ばれる。例えば、熱出力回転数NTは、空調装置5から要求される熱的な目標出力と、バッテリ6から要求される温度制御のための熱的な目標出力とを満足するように設定される。例えば、空調装置5は、車室内の温度を設定温度に接近させ維持するための熱的な空調目標出力を設定する。また、例えば、バッテリ6は、バッテリ6の温度を適正範囲に維持するために必要な熱的な機器目標出力を設定する。ステップ110における処理は、空調目標出力と、機器目標出力との合計を満たす熱出力回転数NTを設定する。熱出力回転数NTは、上限回転数NHと下限回転数NLとの間の可変範囲において可変的に設定されている。熱的な目標出力が同じ状態では、準備回転数NPは、熱出力回転数NT以下に設定される(NP≦NT)。
【0071】
ステップ111において、制御装置10は、圧縮機21を熱出力回転数NTによって運転する。圧縮機21が熱出力回転数NTで運転されることにより、圧縮機21は冷媒サイクル装置2が熱的な目標出力を満足するように運転される。この結果、圧縮機21の回転数は、熱出力回転数NTに向けて準備回転数NPから上昇し、熱的な目標出力の変化に応じてフィードバック制御される。
【0072】
ステップ112において、制御装置10は、モータ22以外の熱管理システム1における複数のアクチュエータを通常制御する。ここで、通常制御は、複数のアクチュエータを本来の目的を達成するように制御することを指している。例えば、制御装置10は、空調装置5からの熱的な要求を満たすように膨張弁25を制御する。例えば、制御装置10は、バッテリ6からの熱的な要求を満たすように膨張弁28を制御する。
【0073】
ステップ112の後、処理はステップ101へ戻り、処理は熱管理システム1の運転が継続される期間にわたって繰り返して実行される。
【0074】
図3のフロ-チャートに説明された制御方法によると、制御装置10は、冷媒サイクル装置2の運転が開始されると、準備制御が必要である場合のみ、満液状態を抑制するための準備制御を実行する。制御装置10は、終了条件が成立するまでの期間にわたって準備制御を継続する。制御装置10は、準備制御が終了した後に、冷媒サイクル装置2に求められる熱的な目標出力に応じた通常制御に移行する。制御装置10は、通常制御において、圧縮機21を熱出力回転数NTで運転する。この結果、運転開始の初期において満液状態を抑制しながら、準備制御の期間を必要期間に抑制して、熱的な目標出力を適切に満たすことができる。
【0075】
図4において、準備制御と通常運転とにおける圧縮機21の運転状態が例示されている。横軸は時間t(sec)を示し、縦軸は圧縮機21の回転数Ncomp(rpm)を示す。時刻t0において、熱管理システム1の運転が開始されている。時刻t0の後、所定の時間遅れを経過すると、冷媒サイクル装置2の運転が開始され、回転数Ncompが徐々に上昇する。
【0076】
回転数Ncompは、時刻t1において準備回転数NCに到達する。ステップ104の準備制御により、圧縮機21の回転数Ncompは、準備回転数NCに維持され、継続的に運転される。準備制御の期間において、圧縮機21は液冷媒を徐々に緩やかに吐出する。同時に、圧縮機21は低圧容積から冷媒を吸入し、冷媒サイクル装置2の高圧容積から低圧容積への冷媒の流れを許容する。この結果、圧縮機21の下流側の高圧容積における満液状態が抑制される。
【0077】
準備制御が継続され、冷媒サイクル装置2内に充填された冷媒が一巡すると、制御は、ステップ104の準備制御から、ステップ109の通常制御へ移行する。時刻t2において、準備制御の連続時間が閾値時間TPthに到達している。運転開始の時刻t0からの遅れ時間Tdは、閾値時間TPthよりやや長い。遅れ時間Tdは、利用者に不快感を与えない程度の時間、および/または、バッテリ6などの機器に悪影響を与えない程度の時間に設定されている。通常制御では、熱出力回転数NTが設定されるから、圧縮機21の回転数Ncompは徐々に上昇する。熱出力回転数NTは目標出力に応じた可変値である。図中には、熱出力回転数NTは破線によって例示されている。
【0078】
この開示にかかる複数の実施形態において、冷媒サイクル装置2は、冷媒を圧縮する圧縮機21と、高温系統3、および/または、低温系統4へ熱的な出力を提供する熱交換器7、8、26とを備える。さらに、冷媒サイクル装置2は、圧縮機21からの液冷媒の吐出を抑制する液吐出抑制手段104を備える。冷媒サイクル装置2によると、圧縮機21から液冷媒が吐出される事態が抑制される。圧縮機21の下流における管路が液冷媒で満たされる満液状態の発生が抑制される。この結果、満液状態に起因する振動の伝達、および、騒音の伝達が抑制される。さらに、液吐出抑制手段としてのステップ104は、圧縮機21の回転数を制御する手段である。ステップ104は、熱的な目標出力に応じた熱出力回転数NTよりも低い準備回転数NPで圧縮機21を運転することにより液冷媒の吐出を抑制する。ステップ104、および、ステップ109は、準備回転数NPでの運転の後に、熱出力回転数NTで圧縮機21を運転する制御手段を提供する。さらに、ステップ103において、所定の開始条件が満たされるか否かを判定している。開始条件が満たされる場合にのみステップ104を実行することにより、液吐出抑制手段を活性化する開始条件判定手段を備える。これにより、ステップ104による遅れを抑制して、熱出力回転数NTによる運転へ移行できる。さらに、ステップ108において、所定の終了条件が満たされるか否かを判定している。終了条件が満たされるまで準備回転数NPで圧縮機21を運転し、終了条件が満たされた後に熱出力回転数NTで圧縮機21を運転する終了条件判定手段108を備える。これにより、準備回転数NPから熱出力回転数NTへの移行を送れなく遂行することができる。
【0079】
この実施形態において、さらに、ステップ103において判定される開始条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を間接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である。さらに、ステップ108において判定される終了条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を間接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が低くなったと判定される場合に満たされる条件である。さらに、終了条件は、冷媒サイクル装置2に封入されているすべての冷媒を一巡させるまでの期間より長く設定されている。
【0080】
以上に説明した実施形態によると、冷媒サイクル装置2の運転が開始された際に、圧縮機21が準備制御される。この結果、満液状態に起因する不具合が抑制される。しかも、開始条件が満たされているか否かを判定している。そして、開始条件が満たされる場合にのみ、準備制御が実行される。よって、準備制御に伴う通常制御の遅れが回避される。開始条件は、液冷媒を直接的に検出することなく、液冷媒の存在を示す指標を検出することにより間接的に判定されている。液面センサのような直接的なセンサを用いることなく、熱負荷に応じた作動制御など他の制御にも利用される圧力センサを利用して満液状態が抑制される。
【0081】
この実施形態では、冷媒サイクル装置2内の冷媒が全て低圧側に溜まっていても、冷媒サイクル装置2内の冷媒のすべてを一巡させるように準備制御の期間を設定している。このため、満液状態が確実に抑制される。しかも、準備制御における準備回転数NPを下限回転数NLに設定することで高圧側の液相冷媒の増加を緩やかにしている。このため、満液状態が確実に抑制される。準備制御の終了条件が判定される。このため、準備制御を過不足なく実行できる。
【0082】
この実施形態では、圧縮機21の制御によって満液状態に起因する不具合を抑制するため、コスト、および/または、搭載性の問題が少ない。また、準備制御の期間(閾値時間TPth)を、冷媒サイクル装置2の冷媒量Grと圧縮機21の仕様(容量Vc、効率ηv、準備回転数NC)とに基づいて設定する。このため、適合評価を抑制でき、開発工数の削減が可能である。また、準備回転数NPが下限回転数NLに設定されるため、圧縮機21から吐出された液冷媒が冷媒サイクル装置2を一巡して再び圧縮機21へ戻ってくる冷媒量も最小限とすることができ、不具合発生の可能性を抑制できる。さらに、この実施形態は、膨張弁25、28の種類、冷媒サイクル装置2の高圧容積に依存することなく万液状態を抑制する。このため、冷房のみを提供する冷凍サイクル装置や、4方弁を利用するヒートポンプなど他のサイクル形式にも適用可能であり、汎用性が高い。
【0083】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、準備制御の開始条件は、高低差圧が所定の閾値圧力差Pth未満であるか否か(Pd-Ps<Pth)である。これに代えて、この実施形態では、準備制御の開始条件は、圧縮機21の内部における液冷媒の液位が閾値液位LCth1を超えるか否かである。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態は、開始条件を例示しており、終了条件については、他の実施形態に記載された終了条件を採用することができる。
【0084】
図5は、この実施形態のブロック図である。圧縮機21は、液面センサ263を備える。液面センサ263は、圧縮機21の内部に溜まった液相冷媒の液位を検出する。液面センサ263は、フロート式、光学式、電気抵抗式など多様な形式によって提供することができる。
【0085】
図6は、この実施形態の圧縮機21の断面図である。液面センサ263は、吸入室21fの壁面に設けられている。図中には、圧縮機21の内部における液冷媒の液位Lvが例示的に図示されている。液面センサ263は、液位Lvを、圧縮機液位LC1として検出し、圧縮機液位LC1を示す電気信号を制御装置10に出力する。
【0086】
図7は、この実施形態の起動制御処理200を示す。ステップ203において、制御装置10は、準備制御の開始条件が満たされるか否かを判定する。ステップ203において、制御装置10は、圧縮機液位LC1が閾値液位LCth1を超えるか否かを判定する。圧縮機液位LC1が閾値液位LCth1を超える場合(LC1>LCth1)、ステップ203は肯定的(YES)に判定され、ステップ104が実行される。圧縮機液位LC1が閾値液位LCth1以下である場合(LC1≦LCth1)、ステップ203は否定的(NO)に判定され、ステップ109が実行される。
【0087】
この実施形態において、ステップ203において判定される開始条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を直接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である。この実施形態でも、開始条件が満たされているか否かを判定している。開始条件は、圧縮機21に溜まった液冷媒を直接的に検出することにより判定されている。このため、満液状態が確実に抑制される。しかも、満液状態が回避されると判定できる場合には、迅速に通常制御が開始される。
【0088】
第3実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。第1実施形態では、準備制御の開始条件は、高低差圧が所定の閾値圧力差Pth未満であるか否か(Pd-Ps<Pth)である。これに代えて、この実施形態では、準備制御の開始条件は、圧縮機21の温度と、冷媒サイクル装置2における圧縮機21以外の部品における冷媒温度とを比較して、それらの温度差が、圧縮機21における液冷媒の溜まり量を示すか否かである。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態は、開始条件を例示しており、終了条件については、他の実施形態に記載された終了条件を採用することができる。
【0089】
図8において、圧縮機21は、温度センサ364を備える。温度センサ364は、圧縮機21のハウジング21aの温度、または、内部に溜まった液相冷媒の温度を検出する。温度センサ364は、圧縮機温度Tcを示す電気信号を制御装置10に出力する。さらに、冷媒サイクル装置2は、低圧容積における冷媒温度を検出する温度センサを備える。この温度センサは、空調冷媒温度センサ365と、機器冷媒温度センサ366とを含む。空調冷媒温度センサ365は、冷却器26の出口における冷媒温度Ts1を検出する。空調冷媒温度センサ365は、冷媒温度Ts1を示す電気信号を制御装置10に出力する。機器冷媒温度センサ366は、冷却器29の出口における冷媒温度Ts2を検出する。機器冷媒温度センサ366は、冷媒温度Ts2を示す電気信号を制御装置10に出力する。低圧容積における冷媒温度は、空調冷媒温度センサ365の検出値と、機器冷媒温度センサ366の検出値とのうちの、温度が低い値が利用される。温度センサは、電気抵抗体、熱電対、サーミスタなど多様な形式によって提供することができる。
【0090】
図9は、この実施形態の起動制御処理300を示す。ステップ303において、制御装置10は、準備制御の開始条件が満たされるか否かを判定する。ステップ303において、制御装置10は、低圧側の冷媒温度を演算する。低圧側の冷媒温度は、冷媒温度Ts1と、冷媒温度Ts2とのうちの、温度が低い値MIN(Ts1、Ts2)である。ステップ303において、制御装置10は、圧縮機温度Tcが冷媒温度MIN(Ts1、Ts2)未満であるか否か(Ts2<MIN(Ts1、Ts2))を判定する。圧縮機温度Tcが、低圧容積における冷媒温度MIN(Ts1、Ts2)未満である場合、圧縮機21の内部に液相冷媒が溜まっていると推定される。圧縮機温度Tcが冷媒温度MIN(Ts1、Ts2)未満である場合(Ts2<MIN(Ts1、Ts2))、ステップ303は肯定的(YES)に判定され、ステップ104が実行される。圧縮機温度Tcが冷媒温度MIN(Ts1、Ts2)以上である場合(Ts2≧MIN(Ts1、Ts2))、ステップ303は否定的(NO)に判定され、ステップ109が実行される。
【0091】
この実施形態において、ステップ303で判定される開始条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を間接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である。この実施形態でも、先行する実施形態と同様の作用効果が得られる。特に、開始条件は、液冷媒を直接的に検出することなく、液冷媒の存在を示す指標を検出することにより間接的に判定されている。よって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0092】
第4実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。第1実施形態では、準備制御の開始条件は、高低差圧が所定の閾値圧力差Pth未満であるか否か(Pd-Ps<Pth)である。これに代えて、この実施形態では、準備制御の開始条件は、圧縮機21の重量が、所定量以上の液相冷媒の存在を示すか否かである。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態は、開始条件を例示しており、終了条件については、他の実施形態に記載された終了条件を採用することができる。
【0093】
図10において、圧縮機21は、重量センサ467を備える。重量センサ467は、圧縮機21の重量WGを検出する。重量センサ467は、重量WGを示す電気信号を制御装置10へ出力する。重量センサ467は、圧縮機21を支持するステーに設けられた歪ゲージなど多様な形式によって提供することができる。圧縮機21の重量WGは、所定量以上の液相冷媒の存在を示す指標として用いられる。よって、圧縮機21に溜まった液相冷媒の重力方向の圧力を検出する圧力センサを重量センサ467として用いてもよい。
【0094】
図11は、この実施形態の起動制御処理400を示す。ステップ403において、制御装置10は、準備制御の開始条件が満たされるか否かを判定する。ステップ403において、制御装置10は、圧縮機重量WGが所定の閾値重量Wthを超えるか否か(WG>Wth)を判定する。圧縮機重量WGが、閾値重量Wthを超える場合(WG>Wth)、圧縮機21の内部に液相冷媒が溜まっていると判断することができる。圧縮機重量WGが閾値重量Wthを超える場合(WG>Wth)、ステップ403は肯定的(YES)に判定され、ステップ104が実行される。圧縮機重量WGが閾値重量Wth以下である場合(WG≦Wth)、ステップ403は否定的(NO)に判定され、ステップ109が実行される。
【0095】
この実施形態において、ステップ403において判定される開始条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を直接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である。この実施形態でも、先行する実施形態と同様の作用効果が得られる。特に、開始条件は、圧縮機21に溜まった液冷媒を直接的に検出することにより判定されている。このため、第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0096】
第5実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。第1実施形態では、準備制御の開始条件は、高低差圧が所定の閾値圧力差Pth未満であるか否か(Pd-Ps<Pth)である。これに代えて、この実施形態では、準備制御の開始条件は、モータ22の消費電力が、液冷媒の吐出を示すか否かである。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態は、開始条件を例示しており、終了条件については、他の実施形態に記載された終了条件を採用することができる。
【0097】
図12において、横軸は圧縮機21の回転数Ncompを示し、縦軸はモータ22の消費電力PWc(電動の圧縮機21の消費電力とも呼ばれる場合がある)を示す。実線は、液冷媒を吐出している場合の消費電力量PWL、破線はガス冷媒を吐出している場合の消費電力量PWGである。一点鎖線は、実線と破線とを識別するための閾値消費電力量PWthを示している。消費電力量PWLは、PWL=f1(Ncomp)で表現することができ、消費電力量PWGは、PWG=f2(Ncomp)で表現することができる。閾値消費電力量PWthは、PWth=f3(Ncomp)で表現することができる。f1、f2、および、f3は、関数である。
【0098】
圧縮機21が液冷媒を吐出する場合、圧縮機21は液冷媒を吸入していると考えられる。よって、圧縮機21の内部に液冷媒が溜まっていると推定される。一方、圧縮機21がガス冷媒を吐出する場合、圧縮機21はガス冷媒を吸入していると考えられる。圧縮機21が液冷媒を吐出する場合のモータ22の消費電力PWLは、圧縮機21がガス冷媒を吐出する場合のモータ22の消費電力PWGより大きい。よって、圧縮機21の内部に液冷媒が溜まっている状態を、モータ22の消費電力量から検出することができる。
【0099】
制御装置10は、モータ22への供給電力を制御するインバータ11から消費電力を取得する。消費電力量は、インバータ11からモータ22に供給される電流値と、インバータ11からモータ22に印加される電圧値とから演算によって求めることができる。制御装置10は、インバータ11から取得した消費電力量PWと閾値消費電力量PWthとを比較することにより、準備制御の開始条件が満たされるか否かを判定する。
【0100】
図13は、この実施形態の起動制御処理500を示す。ステップ503において、制御装置10は、準備制御の開始条件が満たされるか否かを判定する。ステップ503において、制御装置10は、モータ22の消費電力量が、閾値消費電力量PWthを超えるか否かである。ステップ503において、制御装置10は、モータ22の消費電力量PWcが閾値消費電力量PWthを超えるか否か(PWc>PWth)を判定する。モータ22の消費電力量PWcが閾値消費電力量PWthを超える場合(PWc>PWth)、圧縮機21の内部に液相冷媒が溜まっていると推定される。モータ22の消費電力量PWcが閾値消費電力量PWthを超える場合(PWc>PWth)、ステップ503は肯定的(YES)に判定され、ステップ104が実行される。モータ22の消費電力量PWcが閾値消費電力量PWth以下である場合(PWc≦PWth)、ステップ503は否定的(NO)に判定され、ステップ109が実行される。
【0101】
この実施形態において、ステップ503で判定される開始条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を間接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が高いと判定される場合に満たされる条件である。この実施形態でも、先行する実施形態と同様の作用効果が得られる。特に、開始条件は、液冷媒を直接的に検出することなく、液冷媒の存在を示す指標を検出することにより間接的に判定されている。よって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0102】
第6実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。第1実施形態では、準備制御の終了条件は、準備制御の継続時間TPが所定の閾値時間TPthを超えるか否か(TP>TPth)である。これに代えて、この実施形態では、準備制御の終了条件は、レシーバ24に所定量を超える液冷媒が溜まっているか否かである。レシーバ24に液冷媒が溜まっている場合、冷媒サイクル装置2の高圧側の領域に相当量の冷媒が存在すると推定される。この状態では、圧縮機21はもはや液冷媒を吐出しないと推定することができる。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態は、終了条件を例示しており、開始条件については、他の実施形態に記載された開始条件を採用することができる。
【0103】
図14は、この実施形態のブロック図である。レシーバ24は、液面センサ668を備える。液面センサ668は、レシーバ24の内部に溜まった液相冷媒の液位を検出する。液面センサ668は、フロート式、光学式、電気抵抗式など多様な形式によって提供することができる。
【0104】
図15は、この実施形態のレシーバ24の断面図である。液面センサ668は、レシーバ24の壁面に設けられている。図中には、レシーバ24の内部における液冷媒の液位Lv2が例示的に図示されている。液面センサ668は、液位Lv2を、レシーバ液位LRとして検出し、液位Lv2を示す電気信号を制御装置10に出力する。
【0105】
図16は、この実施形態の起動制御処理600を示す。ステップ608において、制御装置10は、準備制御の終了条件が満たされるか否かを判定する。ステップ608において、制御装置10は、レシーバ液位LRが閾値液位LRthを超えるか否か(LR>LRth)を判定する。レシーバ液位LRが閾値液位LRthを超える場合(LR>LRth)、ステップ608は肯定的(YES)に判定され、ステップ104の実行が終了し、ステップ109が実行される。レシーバ液位LRが閾値液位LRth以下である場合(LR≦LRth)、ステップ608は否定的(NO)に判定され、ステップ102に戻る。
【0106】
この実施形態において、ステップ608で判定される終了条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を直接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が低くなったと判定される場合に満たされる条件である。この実施形態でも、終了条件が満たされているか否かを判定している。終了条件は、冷媒サイクル装置2の高圧側の領域に溜まった液冷媒を直接的に検出することにより判定されている。このため、準備運転が過剰に長期にわたる事態が抑制される。
【0107】
なお、この実施形態では、レシーバ24の液位LRが、冷媒サイクル装置2の貯液容器の液位として用いられている。これに代えて、アキュムレータの液位を用いてもよい。アキュムレータは、冷媒サイクル装置2における低圧側の領域における貯液容器である。アキュムレータの液位が所定の閾値液位を超えている場合、もはや圧縮機21内には液冷媒がないと推定できる。よって、圧縮機21が液冷媒を吐出する可能性は低いと推定できる。したがって、準備制御の終了条件は、冷媒サイクル装置2の貯液容器の液位が、所定の閾値液位を超えるか否かによって判定することができる。
【0108】
第7実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。第1実施形態では、準備制御の終了条件は、準備制御の継続時間TPが所定の閾値時間TPthを超えるか否か(TP>TPth)である。これに代えて、この実施形態では、準備制御の終了条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の液位が所定量未満に下がったか否かである。圧縮機21に溜まった液冷媒の液位が低い場合、圧縮機21はもはや液冷媒を吐出しないと推定することができる。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態は、終了条件を例示しており、開始条件については、他の実施形態に記載された開始条件を採用することができる。
【0109】
図17は、この実施形態のブロック図である。圧縮機21は、液面センサ769を備える。液面センサ769は、圧縮機21の内部に溜まった液相冷媒の液位を検出する。液面センサ769は、フロート式、光学式、電気抵抗式など多様な形式によって提供することができる。
【0110】
図18は、この実施形態の圧縮機21の断面図である。液面センサ769は、吸入室21fの壁面に設けられている。図中には、圧縮機21の内部における液冷媒の液位Lv3が例示的に図示されている。液面センサ769は、液位Lv3を、圧縮機液位LC2として検出し、液位Lv3を示す電気信号を制御装置10に出力する。
【0111】
図19は、この実施形態の起動制御処理700を示す。ステップ708において、制御装置10は、準備制御の終了条件が満たされるか否かを判定する。ステップ708において、制御装置10は、圧縮機液位LC2が閾値液位LCth2未満であるか否か(LC2<LCth2)を判定する。圧縮機液位LC2が閾値液位LCth2未満である場合(LC2<LCth2)、ステップ708は肯定的(YES)に判定され、ステップ104の実行が終了し、ステップ109が実行される。圧縮機液位LC2が閾値液位LCth2以上である場合(LC2≧LCth2)、ステップ708は否定的(NO)に判定され、ステップ102に戻る。
【0112】
この実施形態において、ステップ708で判定される終了条件は、圧縮機21に溜まっている液冷媒の存在を直接的に検出することにより、圧縮機21から液冷媒が吐出される可能性が低くなったと判定される場合に満たされる条件である。この実施形態でも、終了条件が満たされているか否かを判定している。終了条件は、圧縮機21に溜まった液冷媒を直接的に検出することにより判定されている。このため、準備運転が過剰に長期にわたる事態が抑制される。
【0113】
第8実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。先行する実施形態では、満液状態の抑制、または、満液状態の回避は、圧縮機21を準備運転することにより液冷媒の吐出を抑制することによって実現されている。これに代えて、この実施形態では、圧縮機21の準備運転において、圧縮機21の内部に溜まった液冷媒を加熱することにより、液冷媒の吐出が抑制されている。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態では、開始条件、および、終了条件が例示されているが、開始条件、および、終了条件については、他の実施形態に記載された開始条件、および、終了条件を選択的に採用することができる。
【0114】
図20は、この実施形態のブロック図である。圧縮機21は、電流の供給によりジュール熱を発生する電気的なヒータ871を備える。ヒータ871は、圧縮機21の内部を加熱する。言い換えると、ヒータ871は、ハウジング21aを加熱することにより、内部の液冷媒を加熱する。
【0115】
図21は、この実施形態の圧縮機21の断面図である。ヒータ871は、ハウジング21aの外面に熱的に結合するように、設置されている。これに代えて、ヒータ871は、ハウジング21aの外面に熱的に結合するように、設置されている。ヒータ871は、ハウジング21aの内部に設けられてもよい。図中には、圧縮機21の内部における液冷媒の蒸発が破線矢印によって例示的に図示されている。ヒータ871は、電流を供給されると発熱する。ヒータ871は、ハウジング21aを介して液冷媒を加熱する。ヒータ871は、吸入室21fの内部に溜まった液冷媒を蒸発させる。液冷媒が吸入室21fにおいて蒸発することで、圧縮機構21bによる液冷媒の吸入、吐出が回避される。圧縮機構21bは、蒸発したガス冷媒を吸入し、圧縮し、ガス冷媒を吐出する。
【0116】
図22は、この実施形態の起動制御処理800を示す。この実施形態では、ステップ104は、ステップ813を追加的に備える。この結果、ステップ104において、ステップ813が追加的に実行される。この結果、ステップ103において準備制御が必要であると判定された場合、ステップ813においてヒータ871が活性化される。具体的には、ヒータ871に電流が供給され、ヒータ871が発熱する。この結果、圧縮機21の内部に液冷媒が溜まっている場合、液冷媒が蒸発する。ステップ813の後、ステップ105、106、および、107が実行される。ステップ105、および、ステップ106に代えて、ステップ105で設定される準備回転数とは異なる回転数を設定し、圧縮機21を当該回転数で運転するステップを備えて、それらを実行してもよい。例えば、加熱によって蒸発した冷媒を圧縮機構21bが吸入することを前提に、満液状態を抑制できる回転数を設定してもよい。例えば、熱的な目標出力に応じた回転数より低く、それでいて準備回転数より高い回転数を設定することができる。準備回転数より高い回転数が設定されることで、熱的な出力の増加を補うことができる。
【0117】
この実施形態は、液吐出抑制手段としてのヒータ871を備える。液吐出抑制手段は、圧縮機21における液冷媒を加熱することにより、圧縮機21における液冷媒の蒸発を促進するヒータ871を備える。ヒータ871は、開始条件が満たされる場合に活性化することができる。また、ヒータ871は、終了条件が満たされる場合に非活性化することができ、その後に圧縮機21を熱出力回転数NTで運転することができる。この実施形態によると、圧縮機21に液冷媒が溜まっていても、液冷媒を蒸発させることができ、満液状態の発生が抑制される。この実施形態でも、開始条件、および、終了条件が満たされているか否かを判定している。開始条件、および、終了条件は、先行する実施形態のいずれかひとつ、または、それらの組み合わせによって提供されてもよい。また、後述の実施形態のように、開始条件を備えず、終了条件のみが満たされているか否かを判定してもよい。
【0118】
第9実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。第8実施形態では、ヒータ871による加熱によって、圧縮機21の内部に溜まった液冷媒を蒸発させている。これに代えて、この実施形態では、圧縮機21の内部に気液分離機能をもつ貯液槽を設けることにより、液冷媒の吸入、ならびに、吐出が抑制されている。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態では、開始条件、および、終了条件が例示されているが、開始条件、および、終了条件については、他の実施形態に記載された開始条件、および、終了条件を選択的に採用することができる。
【0119】
図23は、この実施形態の圧縮機21の断面図である。圧縮機21は、ハウジング21aの内部に、ハウジング21aと一体に気液分離器972を備える。気液分離器972は、ハウジング21aと連続する貯液タンク壁973を有する。貯液タンク壁973は、内部に貯液タンク974を区画形成している。貯液タンク壁973は、吸入口21dと、連通口975とを区画形成している。吸入口21d、および、連通口975は、それらの開設位置よりも重力方向の下方に貯液タンク974の容積の大部分を位置付けるように貯液タンク壁973に開設されている。吸入口21dは、冷媒サイクル装置2の低圧側機器からの冷媒流入口である。連通口975は、貯液タンク974と吸入室21fとを連通している。貯液タンク壁973は、貯液タンク974と吸入室21fとを仕切る仕切り板を提供している。なお、気液分離器972は、貯液タンク、または、圧縮機一体型アキュムレータとも呼ばれる場合がある。
【0120】
この実施形態によると、圧縮機構21bに向けて流れる冷媒は、貯液タンク974において気液分離され、液冷媒が貯液タンク974に溜まる。さらに、貯液タンク974に溜まった液冷媒は、貯液タンク974において蒸発する。この結果、液冷媒の吸入室21fへの流入が抑制され、ガス冷媒が豊富な冷媒が吸入室21fに流入する。加えて、吸入室21fも冷媒を気液分離し、圧縮機構21bへの液冷媒の流入を抑制している。このように、この実施形態では、圧縮機21の内部に気液分離機能を提供する気液分離器972が一体に設けられている。しかも、貯液タンク974は、モータ22を収容する吸入室21fとは仕切られて、別々に液冷媒が溜まるように形成され、配置されている。よって、圧縮機構21bへの液冷媒の流入、吸入が確実に抑制される。さらに、貯液タンク974と吸入室21fとが冷媒流れ方向において直列的に配置されている。このため、多段の気液分離機能が提供され、圧縮機構21bへの液冷媒の流入、吸入が確実に抑制される。図中には、貯液タンク974に溜まった液冷媒と、液冷媒から蒸発するガス冷媒が例示されている。
【0121】
この実施形態は、液吐出抑制手段としての気液分離器972を備える。液吐出抑制手段は、圧縮機21における液冷媒を捕捉し、ガス冷媒を圧縮機21の圧縮機構21bに供給する気液分離器972を備える。気液分離器972は、吸入冷媒の密度を下げることにより、冷媒の流量を抑制し、液冷媒の吐出を抑制する。この実施形態によると、圧縮機構21bへの液冷媒の流入、吸入が抑制され、満液状態の発生が抑制される。この実施形態でも、開始条件、および、終了条件は、先行する実施形態のいずれかひとつ、または、それらの組み合わせによって提供されてもよい。また、後述の実施形態のように、開始条件を備えず、終了条件のみが満たされているか否かを判定してもよい。
【0122】
第10実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。先行する実施形態では、準備制御の開始条件が満たされているか否かを判定し、準備制御の開始条件が満たされている場合にのみ、準備制御を実行している。これに代えて、この実施形態では、開始条件が満たされているか否かを判定することなく、準備制御を実行している。以下の説明では、第1実施形態からの変更点が説明されており、説明されない構成については先行する実施形態を参照することができる。また、この実施形態では、他の実施形態に記載された終了条件を選択的に採用することができる。
【0123】
図24は、この実施形態の起動制御処理A00を示す。この実施形態では、第1実施形態におけるステップ103を備えない。すなわち、この実施形態では、開始条件が満たされているか否かを判定していない。
【0124】
この実施形態は、熱管理システム1(冷媒サイクル装置2)の構成、および/または、用途に起因して、満液状態の発生頻度が高い場合に有効である。この実施形態では、熱管理システム1(冷媒サイクル装置2)の起動時には、常に準備制御が必要であると判断するようにフローチャートが構築されている。熱管理システム1(冷媒サイクル装置2)の起動時、すなわち圧縮機21の起動時に必ず準備制御が実行される。なお、この実施形態では、準備制御の終了条件が満たされているか否かは判定されている。
【0125】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形形態を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0126】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0127】
上記実施形態では、冷媒サイクル装置2は、ヒートポンプとして低温の熱出力ばかりでなく、高温の熱出力をも提供している。これに代えて、冷媒サイクル装置2は、冷凍サイクルとして低温の熱出力のみを提供する装置であってもよい。また、冷媒サイクル装置2は、ヒートポンプとして高温の熱出力のみを提供する装置であってもよい。ただし、満液状態は、圧縮機21の温度が他の機器と比較して比較的低温である場合に発生しやすい。例えば、外気温度が比較的低い温度から、徐々に上昇する場合を例示することができる。このため、満液状態の抑制は、冷媒サイクル装置2が外気温度が低い場合に利用されるヒートポンプを提供する場合に有効となる。
【0128】
上記実施形態では、電気的な抵抗体が生成するジュール熱により圧縮機21の液冷媒が加熱される。これに代えて、圧縮機21の液冷媒を加熱する熱源は、多様な熱源を利用することができる。例えば、圧縮機21の液冷媒を加熱する熱源は、冷媒サイクル装置2の高温系統3から導入することができる。例えば、高温系統3の水を導入する熱交換器を圧縮機21と熱的に結合して設置することができる。制御装置10は、ヒータ871へ通電する制御に代えて、熱交換器へ高温系統3の水を導入する制御を実行することにより、圧縮機21における液冷媒の蒸発を促進することができる。
【符号の説明】
【0129】
1 熱管理システム、 2 冷媒サイクル装置、
3 高温系統、 4 低温系統、 5 空調装置、 6 バッテリ、
7 水-冷媒熱交換器、 8 水-冷媒熱交換器、 9 室外熱交換器、
10 制御装置、 21 圧縮機、 22 モータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24