(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132655
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043509
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】篠田 啓貴
(72)【発明者】
【氏名】片岡 伯央
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AD01
5E001AD02
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE01
5E082FF05
5E082FG15
5E082FG26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】積層チップの頂部における外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制された積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサは、誘電体磁器で形成された誘電体層と金属を主成分とする内部電極とが交互に積層され、積層方向に平行な面上に、内部電極が引き出される引出部を有し、引出部以外の表面に、誘電体磁器を含む保護部を有する直方体形状の積層チップ30及び積層チップの表面に、引出部に引き出された内部電極同士を接続し、かつ積層チップが形成する直方体の少なくとも1つの頂部を覆って設けられた外部電極を備え、積層チップの外部電極に覆われた頂部が、3つの稜線の端点e1、e2、e3同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ、前記3つの稜線の各端点を通る平面P又は該平面よりも積層チップの内側に凹んだ形状を有する。
【選択図】
図3c
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体磁器で形成された誘電体層と金属を主成分とする内部電極とが交互に積層され、
積層方向に平行な面上に、前記内部電極が引き出される引出部を有し、
前記引出部以外の表面に、誘電体磁器を含む保護部を有する
直方体形状の積層チップ、及び
前記積層チップの表面に、前記引出部に引き出された前記内部電極同士を接続し、かつ前記積層チップが形成する直方体の少なくとも1つの頂部を覆って設けられた外部電極
を備え、
前記積層チップの前記外部電極に覆われた頂部が、
3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ
前記各端点を通る平面形状、又は該平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する
積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記外部電極に覆われた頂部が、前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記外部電極に覆われた頂部が曲面形状を有する、請求項2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記積層チップが、
積層方向に平行な面における積層方向の最大寸法をtmaxとし、積層方向の最小寸法をtminとしたときに、tmaxに対するtminの比tmin/tmaxが、0.95≦(tmin/tmax)≦0.99を満たし、
幅方向に平行な面における幅方向の最大寸法をwmaxとし、幅方向の最小寸法をwminとしたときに、wmaxに対するwminの比wmin/wmaxが、0.95≦(wmin/wmax)≦0.99を満たし、かつ
長さ方向に平行な面における積層方向の最大寸法をlmaxとし、長さ方向の最小寸法をlminとしたときに、lmaxに対するlminの比lmin/lmaxが、0.95≦(lmin/lmax)≦0.99を満たす
請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
誘電体磁器組成物の粉末を準備すること、
前記誘電体磁器組成物の粉末をバインダと混合し、シート状に成形して生シートを得ること、
前記生シート上に、金属を含む内部電極パターンを形成すること、
前記生シート上の前記内部電極パターンが形成されていない箇所に、後述する焼成前積層チップにおいて積層方向に延びる稜部となる点から間隔を空けて誘電体パターンを形成すること、
前記内部パターン及び前記誘電体パターンが形成された生シートを所定の枚数積層し、積層方向両端部に保護部用生シートを配置した後、可撓性を有する治具を介して圧着して生積層体を得ること、
前記生積層体を個片化し、積層方向に平行な面上に、前記内部電極パターンが引き出される引出部を有すると共に、各頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する直方体形状の焼成前積層チップを得ること、
前記焼成前積層チップからバインダを除去すること、並びに
下記(a)又は(b)のいずれか一方を行うこと
を含む、積層セラミックコンデンサの製造方法。
(a)バインダ除去後の前記焼成前積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させた後、前記外部電極が付着した焼成前積層チップを焼成して焼結体を得る。
(b)バインダ除去後の前記焼成前積層チップを焼成して積層チップを得た後、該積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させ、焼き付ける。
【請求項6】
前記圧着を、50℃以上の温度で、80MPa以上の圧力にて行う、請求項5に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、これに使用される積層セラミックコンデンサのさらなる小型化が求められている。積層セラミックコンデンサの容量を保持したまま小型化する手段としては、誘電体層及び内部電極の薄層化、並びに該薄層化と誘電体層及び内部電極の積層数増加との組合せの他に、外部電極厚みの低減が挙げられる。
【0003】
積層セラミックコンデンサとして、誘電体層と内部電極とが交互に積層され、前記内部電極が、積層方向に平行な、互いに対向する1対の引出面に、1層おきに引き出され、前記引出面以外の表面に、誘電体磁器を含む保護部を有する直方体形状の積層チップ、及び前記積層チップの表面に、前記引出面に引き出された内部電極同士を電気的に接続するとともに、前記引出面から前記保護部の表面へと、回り込むように形成された外部電極を備えるものが知られている。
【0004】
前述の構造を有する積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極厚みを低減した場合、外部電極が有する水分等の劣化因子の侵入抑制機能が低下し、信頼性が低下する問題があった。
【0005】
前述した問題には、複数の金属層で構成される外部電極を形成するために、下地層上にめっきを施す際の、めっき液の侵入が含まれる。こうした問題を解決する手段として、特許文献1には、外部電極を、セラミック本体の厚さ方向の中央部領域における厚さをTcとし、内部電極が積層されて容量形成に寄与する容量形成部の中央部領域からセラミック本体の厚さ方向の長さSの25%離れた地点の厚さをT1とするとき、0.8≦|T1/Tc|≦1.0を満足するものとすることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、上述の構造を有する積層セラミックコンデンサにおける、セラミック製の誘電体層及び保護部と、金属製の外部電極との間の熱膨張係数の相違に起因した、熱応力によるクラックの発生を抑制する手段として、積層セラミックスコンデンサを、端面(引出面)同士が凹部を有する稜部で接続され、前記凹部内に形成された外部電極の下地膜が、周面(保護部)に形成された下地膜の少なくとも1つと離間する構造とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-149939号公報
【特許文献2】特開2020-102479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した構造を有する積層セラミックコンデンサでは、外部電極厚みを低減した場合、積層チップの引出面と、これに垂直な、互いに直交する2つの保護部とが交わる頂部において、外部電極の形成不良や極端な薄層化が生じることがあり、そこから劣化因子が侵入することが問題であった。
【0009】
そこで、本発明は、積層チップの頂部における外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制された積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前述の問題を解決するために種々の検討を行ったところ、積層セラミックコンデンサを構成する積層チップにおける、外部電極で覆われる頂部の形状を、特定のものとすることで、外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の側面は、誘電体磁器で形成された誘電体層と金属を主成分とする内部電極とが交互に積層され、積層方向に平行な面上に、前記内部電極が引き出される引出部を有し、前記引出部以外の表面に、誘電体磁器を含む保護部を有する直方体形状の積層チップ、及び前記積層チップの表面に、前記引出部に引き出された前記内部電極同士を電気的に接続し、かつ前記積層チップが形成する直方体の少なくとも1つの頂部を覆って設けられた外部電極を備え、前記積層チップの前記外部電極に覆われた頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面形状、又は該平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する積層セラミックコンデンサである。
【0012】
また、前記課題を解決するための本発明の第2の側面は、誘電体磁器組成物の粉末を準備すること、前記誘電体磁器組成物の粉末をバインダと混合し、シート状に成形して生シートを得ること、前記生シート上に、金属を含む内部電極パターンを形成すること、前記生シート上の前記内部電極パターンが形成されていない箇所に、後述する焼成前積層チップにおいて積層方向に延びる稜部となる点から間隔を空けて誘電体パターンを形成すること、前記内部パターン及び前記誘電体パターンが形成された生シートを所定の枚数積層し、積層方向両端部に保護部用生シートを配置した後、可撓性を有する治具を介して圧着して生積層体を得ること、前記生積層体を個片化し、積層方向に平行な面上に、前記内部電極パターンが引き出される引出部を有すると共に、各頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する直方体形状の焼成前積層チップを得ること、前記焼成前積層チップからバインダを除去すること、並びに下記(a)又は(b)のいずれか一方を行うことを含む、積層セラミックコンデンサの製造方法である。
(a)バインダ除去後の前記焼成前積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させた後、前記外部電極が付着した焼成前積層チップを焼成して焼結体を得る。
(b)バインダ除去後の前記焼成前積層チップを焼成して積層チップを得た後、該積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させ、焼き付ける。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、積層チップの頂部における外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制された積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構造を示す模式図(全体斜視図)である。
【
図2a】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構造を示す模式図(
図1のA-A断面図)である。
【
図2b】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構造を示す模式図(
図1のB-B断面図)である。
【
図2c】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構造を示す模式図(
図1のC-C断面図)である。
【
図2d】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの構造を示す模式図(
図1のD-D断面図)である。
【
図3a】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサが備える積層チップの、外部電極に覆われた頂部の形状の一例を示す斜視図である。
【
図3b】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサが備える積層チップの、外部電極に覆われた頂部の形状の他の例を示す斜視図である。
【
図3c】本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサが備える積層チップの、外部電極に覆われた頂部の形状のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図4a】本発明の第1の側面に係る積層セラミックコンデンサが備える積層チップについて、積層方向に平行な面における積層方向の最大寸法t
max及び最小寸法t
minを示す全体斜視図である。
【
図4b】本発明の第1の側面に係る積層セラミックコンデンサが備える積層チップについて、幅方向に平行な面における幅方向の最大寸法w
max及び最小寸法w
min、並びに長さ方向に平行な面における長さ方向の最大寸法l
max及び最小寸法l
minを示す全体斜視図である。
【
図5】本発明の第1の側面に係る積層セラミックコンデンサの第1の変形例の構造を示す模式図(
図2cに対応する位置で切断した断面図)である。
【
図6】本発明の第1の側面に係る積層セラミックコンデンサの第2の変形例の構造を示す模式図(全体斜視図)である。
【
図7】本発明の第2の側面に係る積層セラミックコンデンサの製造方法における、生シート上の内部電極パターン及び誘電体パターンの配置例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。
【0016】
[積層セラミックコンデンサ]
<第1の実施形態>
本発明の第1の側面に係る積層セラミックコンデンサの実施形態を、第1の実施形態として
図1に示す。第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、直方体の形状で、互いに直行する3つの軸、すなわち、長さ方向であるL軸、幅方向であるW軸、及び高さ方向であるT軸に対してそれぞれ直交する面を1対ずつ備える。直方体は、数学的に定義される直方体に限られず、全体形状を観察した際に直方体と認識される形状であればよい。このため、稜部や角部が丸みを帯びているもの、稜部が曲線であるもの、及び構成する面が曲率の小さい曲面となっているものも、本開示における直方体に該当する。セラミックコンデンサ100の長さ(L)方向の寸法、幅(W)方向の寸法、高さ(T)方向の寸法は、それぞれ独立して任意の値を取り得るものであり、その大小関係も限定されない。例えば、(L方向の寸法)>(W方向の寸法)≧(T方向の寸法)となっていてもよく、また(W方向の寸法)>(L方向の寸法)となっていてもよく、(T方向の寸法)>(W方向の寸法)となっていてもよい。
【0017】
第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、
図2a(LT断面)及び
図2b(WT断面)にその断面図を模式的に示すように、誘電体磁器で形成された誘電体層10と、金属を主成分とする内部電極20とが、T方向に交互に積層された積層チップ30を備える。積層チップ30は、積層方向(T方向)に平行な面上に、前記内部電極が1層おきに引き出される一対の引出部40a及び40bを有する。すなわち、積層チップ30は、内部電極20aがL方向に引き出される引出面40aと、内部電極20bがL方向に引き出される引出面40bとを有する。なお、
図1に示される積層セラミックコンデンサ100では、L方向に垂直な、互いに対向する面の略全域に、一対の引出部40a及び40bがそれぞれ形成されているが、本発明の第1の側面に係る積層セラミックコンデンサにおける引出部の配置は、これに限定されない。引出部は、積層方向に平行な面内の一部にのみ形成されていてもよく、1つの面内にのみ形成されていてもよく、また複数対形成されていてもよい。積層セラミックコンデンサ100は、引出部以外の表面に、誘電体磁器を含む保護部50を有する。保護部50は、T方向に垂直な面に配置されたカバー部51と、W方向に垂直な面に配置されたサイドマージン部52とを含む。第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、積層チップ30の表面に、直方体の少なくとも1つの頂部を覆って設けられ、引出部40a及び40bに引き出された内部電極同士を電気的に接続する外部電極60a及び60bを備える。
【0018】
以下、第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100を構成する各部分について詳述する。
【0019】
(誘電体層)
誘電体層10は、誘電体磁器で形成される。誘電体磁器の組成は、特に限定されず、積層セラミックコンデンサに要求される特性に応じて適宜選択すればよい。好ましい誘電体磁器の組成としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とするものが例示される。誘電体層10は、以下に示す添加元素を含んでいてもよい。添加元素としては、Mo、Nb、Ta、W、Mg、Mn、V、Cr、及び希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)、並びにCo、Ni、Li、B、Na、K、及びSiから選択される少なくとも1種が例示される。添加元素は、元素単体で含まれていてもよく、酸化物、窒化物、炭化物をはじめとする化合物の形態で含まれていてもよい。また、添加元素は、主成分であるチタン酸バリウムに固溶した状態で存在してもよく、主成分を構成する元素又は他の添加元素と、異相を形成していてもよい。
【0020】
(内部電極)
内部電極20は、金属を主成分とする。金属の種類は特に限定されないが、誘電体層10との同時焼成が可能で、かつ安価であることから、ニッケル(Ni)を主成分元素とするものが好ましい。ここで、本明細書における「主成分元素」とは、原子百分率(原子%)で表した含有量が最も多い元素を意味する。
【0021】
内部電極20は、金属の他に、誘電体層10を構成する誘電体磁器と同様の組成を有する誘電体粉末や、ガラス成分を含有してもよい。
【0022】
(保護部)
保護部50は、積層チップ30のT方向に垂直な面に配置されたカバー部51と、W方向に垂直な面に配置されたサイドマージン部52とを含み、誘電体層10及び内部電極20を保護する機能を有する。
【0023】
保護部50は、電気的絶縁性が高く、水分等の劣化因子の透過性が低いものであれば、その材質は限定されない。積層セラミックコンデンサ100を製造する際に焼成中の収縮を均一にすることや、積層セラミックコンデンサ100内における内部応力を緩和すること等の観点からは、保護部50の主成分を、誘電体層10を形成する誘電体磁器と同じものとすることが好ましい。
【0024】
(外部電極)
外部電極60a及び60bは、積層チップ30の表面に、引出部40a及び40bに引き出された内部電極20a同士、及び20b同士を、それぞれ電気的に接続し、かつ積層チップ30が形成する直方体の少なくとも1つの頂部を覆って設けられる。すなわち、外部電極60a及び60bはそれぞれ、積層チップ30の引出部40a及び40bが形成された面から、積層チップ30が形成する直方体の少なくとも1つの頂部と、該頂部に向かう3つの稜部とを跨いで、これに直交する面に位置する保護部へと回り込むように形成される。
【0025】
外部電極60a及び60bの材質は、導電性を有するものであれば特に限定されない。材質の一例としては、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、及び金(Au)などの金属、これらのうちいずれかを主成分元素とする合金、並びに導電性樹脂等が挙げられる。ただし、外部電極60a及び60bが、積層チップ30との同時焼成により形成される場合には、導電性に加えて、焼成時に溶融や酸化を起こさない熱的安定性及び化学的安定性も要するため、Ni、Pd及びPt等が好適に使用される。
【0026】
外部電極60a及び60bは、導電性を有する複数の材質が積層されたものであってもよい。
図1に示す第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100では、外部電極60a及び60b全体が、ニッケルを主成分元素とする下地層61の表面に、Cu層62、Ni層63、及びSn層64を、この順で形成した積層構造となっている。
【0027】
(積層チップ)
誘電体層10、内部電極20及び保護部50で形成される積層チップ30は、直方体形状を有している。積層セラミックコンデンサ100を、積層チップ30のサイドマージン部52で切断した断面図(
図1におけるC-C断面図)を
図2cに示す。また、積層セラミックコンデンサ100を、積層チップ30における、同じ端面に露出する内部電極20a同士が、異なる端面に露出する内部電極20bを介さずに対向する領域であるエンドマージン部で切断した断面図(
図1におけるD-D断面図)を
図2dに、それぞれ示す。積層チップ30の外部電極60a及び60bに覆われた頂部は、
図3aに示すように、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ各端点e
1、e
2及びe
3を通る平面Pに一致する形状を有するか、又は
図3b及び
図3cにそれぞれ示すように、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記平面Pよりも積層チップ30の内側に凹んだ形状を有する。外部電極外部電極60a及び60bに覆われた頂部がこのような形状を有することで、外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制される。
【0028】
積層チップ30の外部電極60a及び60bに覆われた頂部は、
図3b及び
図3cにそれぞれ示すように、前記平面Pよりも積層チップ30の内側に凹んだ形状を有することが好ましい。このような形状の頂部は、積層チップ30の表面に外部電極用ペーストを付着させて外部電極60a及び60bを形成する際に、凹部に外部電極用ペーストが溜まることで、外部電極の形成不良や極端な薄層化を、より効果的に抑制できる。
【0029】
積層チップ30の外部電極60a及び60bに覆われた頂部は、
図3cに示すように、前記平面Pよりも積層チップ30の内側に凹んだ曲面形状を有することがより好ましい。このような形状の頂部は、角部を有するものに比べて応力集中が起こりにくいため、積層セラミックコンデンサ100の割れや欠けを抑制できる。
【0030】
ここで、積層チップ30の外部電極60a及び60bに覆われた頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面形状、又は該平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有することは、以下の手順にて判定する。まず、溶液を用いて積層セラミックコンデンサ100から外部電極60a及び60bを溶解除去し、積層チップ30を得る。使用する溶液の種類は、外部電極60a及び60bの材質に応じて適宜選択すればよい。外部電極が、上述したニッケルを主成分元素とする下地層61、Cu層62、Ni層63、及びSn層64の積層構造を有する場合、硝酸が好適に用いられる。また、外部電極外部電極60a及び60bが導電性樹脂を含む場合には、これを溶解する有機溶剤を用いることができる。次いで、得られた積層チップ30における、外部電極60a及び60bに覆われていた頂部を、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、該頂部にて交わる3つの面側からそれぞれ観察する。次いで、得られた各面の顕微鏡像において、稜部の端点同士を結ぶ線分を作図し、全ての面について、頂部の輪郭が該線分に重なるか、該線分よりも内側、すなわち該各稜線の延長線同士の交点と反対側、に位置していることをもって、観察した頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、前記各端点を通る平面形状、又は該平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有するものと判定する。
【0031】
積層チップ30の形状が、頂部にのみ凹みを有し、稜部には凹みを有さないものであることで、その形状が数学的な直方体により近くなり、平面領域を最大限確保することができる。このため、輸送時や回路基板への実装時に、積層セラミックコンデンサをキャリアテープに貼り付けて取り扱う際に、キャリアテープ上での正しい姿勢の保持が容易となる効果が得られる。また、稜部に凹みがないことにより、保護部であるサイドマージン部やカバー部の厚みが確保されるため、水分等の劣化因子の侵入を防止でき、信頼性が向上するという効果が得られる。
【0032】
積層チップ30は、その積層方向に平行な各面において、
図4aに示すように、積層方向の最大寸法をt
maxとし、積層方向の最小寸法をt
minとしたときに、t
maxに対するt
minの比t
min/t
maxが、0.95≦(t
min/t
max)≦0.99を満たすことが好ましい。前記t
min/t
maxの値が前記範囲内にあることで、外部電極の形成不良や極端な薄層化を、より効果的に抑制できる。前記t
min/t
maxの値は、0.95≦(t
min/t
max)≦0.98を満たすことがより好ましく、0.95≦(t
min/t
max)≦0.97を満たすことがさらに好ましい。
【0033】
また、積層チップ30は、その幅方向に平行な各面において、
図4bに示すように、幅方向の最大寸法をw
maxとし、幅方向の最小寸法をw
minとしたときに、w
maxに対するw
minの比w
min/w
maxが、0.95≦(w
min/w
max)≦0.99を満たすことが好ましい。前記w
min/w
maxの値が前記範囲内にあることで、外部電極の形成不良や極端な薄層化を、より効果的に抑制できる。前記w
min/w
maxの値は、0.95≦(w
min/w
max)≦0.98を満たすことがより好ましく、0.95≦(w
min/w
max)≦0.97を満たすことがさらに好ましい。
【0034】
さらに、積層チップ30は、その長さ方向に平行な各面において、
図4bに示すように、長さ方向の最大寸法をl
maxとし、長さ方向の最小寸法をl
minとしたときに、l
maxに対するl
minの比l
min/l
maxが、0.95≦(l
min/l
max)≦0.99を満たすことが好ましい。前記l
min/l
maxの値が前記範囲内にあることで、外部電極の形成不良や極端な薄層化を、より効果的に抑制できる。前記l
min/l
maxの値は、0.95≦(l
min/l
max)≦0.98を満たすことがより好ましく、0.95≦(l
min/l
max)≦0.97を満たすことがさらに好ましい。
【0035】
<変形例(1)>
第1の側面に係る積層セラミックコンデンサの第1の変形例としては、
図5に示すような、外部電極60a及び60bが、積層チップ30の表面に、断面視L字型に配置された積層セラミックコンデンサ200が挙げられる。このような構造の積層セラミックコンデンサ200は、上部の保護部(カバー部)への外部電極60a及び60bの回り込みがないことから、低背化が可能である利点を有する。なお、
図5は、積層セラミックコンデンサ200を、積層チップ30のサイドマージン部52で切断した断面図であるため、図中に誘電体層10及び内部電極20は表出していないが、積層セラミックコンデンサ200がこれらを備えるものであることは言うまでもない。
【0036】
<変形例(2)>
第1の側面に係る積層セラミックコンデンサの第2の変形例としては、
図6に示すような、外部電極60が4箇所に配置された積層セラミックコンデンサ300が挙げられる。このような構造の積層セラミックコンデンサにおいても、頂部における外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制された積層セラミックコンデンサを提供することができるという本発明の効果が得られる。
【0037】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
<第2の実施形態>
本発明の第2の側面に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の実施形態を、第2の実施形態として以下に説明する。
【0038】
第2の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、誘電体磁器組成物の粉末を準備すること、前記誘電体磁器組成物の粉末をバインダと混合し、シート状に成形して生シートを得ること、前記生シート上に、金属を含む内部電極パターンを形成すること、前記生シート上の前記内部電極パターンが形成されていない箇所に、後述する焼成前積層チップにおいて積層方向に延びる稜部となる点から間隔を空けて誘電体パターンを形成すること、前記内部パターン及び前記誘電体パターンが形成された生シートを所定の枚数積層し、積層方向両端部に保護部用生シートを配置した後、可撓性を有する治具を介して圧着して生積層体を得ること、前記生積層体を個片化し、積層方向に平行な面上に、前記内部電極パターンが引き出される引出部を有すると共に、各頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する直方体形状の焼成前積層チップを得ること、前記焼成前積層チップからバインダを除去すること、並びに下記(a)又は(b)のいずれか一方を行うことを含む。
(a)バインダ除去後の前記焼成前積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させた後、前記外部電極が付着した焼成前積層チップを焼成して焼結体を得る。
(b)バインダ除去後の前記焼成前積層チップを焼成して積層チップを得た後、該積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させ、焼き付ける。
以下、各操作について詳述する。
【0039】
(誘電体磁器組成物粉末の準備)
誘電体磁器組成物の粉末は、その構成元素を含む各種原料粉末を所定の比率で混合し、予備焼成(仮焼成)することで得られる。各種原料粉末を所定の比率で混合する際に、上述した添加元素や焼結助剤等の各種添加物をさらに添加してもよく、仮焼成後の粉末に、これらの各種添加物をさらに添加してもよい。
【0040】
原料粉末を混合する方法は、不純物の混入を抑えつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを用い、エタノール等の有機溶媒又は水を分散媒とするボールミルによって8時間から60時間程度撹拌した後、分散媒を揮発乾燥すればよい。
【0041】
原料混合粉末の仮焼成条件は、前述の各種原料粉末が反応して所定の誘電体磁器組成物が得られるものであれば特に限定されない。一例として、大気中、800℃から1100℃の温度で、1時間から10時間焼成することが挙げられる。仮焼成後の粉末は、そのままの状態で生シートに加工してもよいが、ボールミルやスタンプミル等によって解砕することが、均一なスラリーを経て平滑な生シートが得られる点や、焼結性が高まる点で好ましい。
【0042】
なお、誘電体磁器組成物粉末として市販のものが利用できる場合は、前述した原料粉末の混合及び仮焼成を行わず、この粉末に対して以後の操作を行ってもよい。
【0043】
(生シートの作製)
生シートは、前述した誘電体磁器組成物の粉末を、バインダ及び分散媒と混合してスラリーを調製し、該スラリーをシート状に成形することで得られる。
【0044】
バインダとしては、生シートの形状を保持できると共に、焼成に先立つバインダ除去処理により、炭素等を残存させることなく揮発するものを用いる。使用できるバインダの例としては、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、セルロース系、ウレタン系及び酢酸ビニル系のものが挙げられる。バインダの使用量も特に限定されないが、後工程で除去されるものであるため、所期の成形性・保形性が得られる範囲内で極力少なくすることが、原料コストを低減する点で好ましい。
【0045】
分散媒としては、仮焼粉末及びバインダの凝集を生じることがなく、後述する生シート成形後に揮発等により容易に除去できるものを用いる。使用できる分散媒の例としては、水及びアルコール系溶媒等が挙げられる。
【0046】
スラリーには、分散剤、可塑剤及び増粘剤等のスラリーの性状を調節する成分を添加してもよい。
【0047】
上記混合粉末を、バインダ及び分散媒と混合する方法は、不純物の混入を防ぎつつ各成分が均一に混合されるものであれば特に限定されない。一例として、ボールミル混合が挙げられる。
【0048】
調製されたスラリーをシート状に成形して生シートを得る方法としては、ドクターブレード法やダイコート等の慣用されている方法を採用できる。
【0049】
(内部電極パターンの形成)
前述した生シート上への金属を含む内部電極パターンの形成は、内部電極用ペーストを、所定のパターンで生シート上に印刷ないし塗布する方法や、金属膜を、蒸着ないしスパッタリングにより、所定のパターンで生シート上に形成する方法により行うことができる。
【0050】
内部電極用ペーストを用いて内部電極パターンを形成する場合、使用する内部電極用ペーストは、内部電極を形成する金属の粒子とビヒクルとを、三本ロールミルにて混合することで得られる。内部電極用ペーストは、前述した各成分の他に、ガラスフリットや誘電体磁器組成物粉末を含むものであってもよい。
【0051】
使用するビヒクルに含まれるバインダ及び溶剤の種類及び量も限定されず、内部電極用ペーストの粘度、取扱いのしやすさ及び生シートとの相性等を考慮して適宜選択すればよい。
【0052】
生シート上への内部電極用ペーストの印刷は、例えば、所定の内部電極パターンが形成されたスクリーンマスクを用いて実施できる。
【0053】
(誘電体パターンの形成)
内部電極パターンが形成された生シートに、誘電体パターンを形成する。
図7に示すように、誘電体パターン3は、生シートs1及びs2上の、内部電極パターン2が形成されていない箇所に、後述する焼成前積層チップとした際に、積層方向に延びる稜部上に位置する点rから間隔を空けて形成される。図中において、点rは、後述する焼成前積層チップの作成時の切断位置を示す点線の交点に相当する。なお、生シートs1とs2とは、後述する生積層体の作製時に交互に積層されるもので、内部電極パターン及び誘電体パターンのL方向(図中の左右方向)の位置が、互いに異なるものとなっている。
【0054】
誘電体パターンは、誘電体パターン用ペーストを、生シート上に印刷ないし塗布する方法により形成できる。誘電体パターン用ペーストは、誘電体の粒子とビヒクルとを、三本ロールミルにて混合することで得られる。使用する誘電体の粒子は、生シートに含まれる誘電体と組成が異なるものであってもよい。寸法精度及び層間の接合強度が高い積層セラミックコンデンサが得られる点で、使用する誘電体の粒子は、生シートに含まれる誘電体と同一又は類似の組成を有するものが好ましい。
【0055】
(生積層体の作製)
生積層体は、内部電極パターン及び誘電体パターンを形成した生シートを所定の枚数積層し、積層方向両端部に保護部用生シートを配置した後、可撓性を有する治具を介して圧着することで得られる。生シートの圧着は、治具及び生シートを加熱しながら行っても良い。
【0056】
上述した内部電極パターン及び誘電体パターンを有する生シートが積層されると、各生シートにおける、内部電極パターン又は誘電体パターンのいずれも形成されていない箇所が、積層方向に重なる空隙を形成する。この状態の生シートを、可撓性を有する治具を介して圧着すると、前記空隙の体積を減少させる変形が、生積層体全体の体積を減少させる変形に先んじて生じる。その結果、生積層体の表面において、空隙が重なっていた箇所に窪みが形成される。この生積層体を後述するように個片化すると、各頂部が、これに向かう3本の稜線同士が互いに交わらず、前記各稜線の端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する直方体形状の焼成前積層チップが得られる。なお、積層した生シートを、金型等の可撓性を有さない材質で加圧して圧着した場合には、生積層体全体の体積を減少させる変形が優先的に生じる結果、前述した形状の頂部を有する焼成前積層チップを、生積層体の個片化のみによって得ることは困難となる。
【0057】
積層及び圧着時に、積層方向の両端部に追加される保護部用生シートは、積層セラミックコンデンサとした際に保護部(カバー部)となるものである。保護部用生シートは、内部電極パターン及び誘電体パターンを形成した生シートと同一の組成であっても、これとは異なる組成であってもよい。焼成時の収縮率を揃える観点からは、追加する保護部用生シートの組成は、前述の内部電極パターン及び誘電体パターンを形成した生シートと同一又は類似の組成であることが好ましい。
【0058】
圧着に使用する可撓性を有する治具の材質としてはゴムが好ましく、中でもシリコンゴムがより好ましい。
【0059】
生シートの圧着は、室温で行ってもよいが、50℃以上の温度に加熱しながら行うことが、生シート間の接着強度が高まる点で好ましい。加熱温度は、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。加熱温度の上限は特に限定されないが、バインダの軟化による生積層体の変形や、内部電極パターンの酸化を抑制する点からは、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下が特に好ましい。
【0060】
生シートを圧着する際の圧力は、生シートの組成及び厚さ、可撓性を有する治具の材質、加圧装置の能力、並びに圧着温度等を考慮して、適宜決定すればよい。前記圧力は、例えば80MPa以上とすることができ、100MPa以上とすることが好ましく、120MPa以上とすることがより好ましい。前記圧力の上限は特に限定されず、例えば240MPa以下とすることができ、220MPa以下とすることが好ましく、200MPa以下とすることがより好ましい。
【0061】
(焼成前積層チップの作製)
焼成前積層チップは、生積層体を、個々の積層チップの形状に分割する個片化によって得られる。個片化により、積層方向に平行な面上に、内部電極パターンが引き出される引出部を有すると共に、各頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する直方体形状の焼成前積層チップが得られる。個片化には、ダイシングソーやレーザー切断機等の慣用されている手段を採用できる。
【0062】
(バインダの除去)
得られた焼成前積層チップは、加熱によりバインダが揮発除去される。加熱条件は、バインダの揮発温度及び含有量を考慮して適宜設定すればよい。一例として、窒素(N2)雰囲気中、200℃から500℃の温度で5時間から20時間保持することが挙げられる。
【0063】
(外部電極の形成)
外部電極は、バインダが除去された焼成前積層チップの表面に、引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させた後焼成を行うか、後述する焼成を経て得られた積層チップの表面に、引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させ、焼き付けることで形成する。
【0064】
使用する外部電極用ペーストは、外部電極を形成する金属の粒子とビヒクルとを、三本ロールミルにて混合することで得られる。内部電極用ペーストは、前述した各成分の他に、ガラスフリットや誘電体磁器組成物粉末を含むものであってもよい。
【0065】
使用するビヒクルに含まれるバインダ及び溶剤の種類及び量も限定されず、外部電極用ペーストの粘度、取扱いのしやすさ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0066】
外部電極用ペーストの付着方法としては、例えば、焼成前積層チップ又は後述する焼成を経て得られた積層チップの一部を、外部電極用ペースト浴に浸す(ディップする)ことが挙げられる。
【0067】
外部電極は、外部電極用ペーストの積層チップ表面への焼付けにより形成された金属層を下地層として、該下地層上に、めっきや蒸着等の手段により、導電性の層を積層して形成してもよい。
【0068】
(焼成前積層チップの焼成)
焼成前積層チップの焼成は、焼成前積層チップを、所定の温度に加熱することで行う。焼成条件の設定にあたっては、誘電体磁器組成物の焼結性、及び内部電極用ペーストに含まれる金属の耐熱性及び耐酸化性等を考慮することが好ましい。また、焼成に先立って焼成前積層チップの表面に外部電極用ペーストを付着させた場合には、これに含まれる金属の耐熱性及び耐酸化性も考慮することが好ましい。焼成条件の例としては、窒素(N2)と水素(H2)と水蒸気(H2O)とを混合した還元性雰囲気中で、通常の焼成温度よりも低温である900℃程度で3時間程度保持した後、昇温して1000℃から1350℃で5分から2時間保持することが挙げられる。焼成後に、窒素(N2)ガス雰囲気中又は低酸素雰囲気中で、600℃~1000℃に保持する再酸化処理を行ってもよい。焼成により、誘電体磁器組成物の粉末が焼結して誘電体層となり、内部電極パターンが焼結して内部電極となる。焼成前積層チップの表面に外部電極用ペーストを付着させた場合には、これが焼結して外部電極となる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
誘電体磁器組成物の粉末として、仮焼成済みのチタン酸バリウム(BaTiO
3)粉末を主原料として準備し、微量添加物成分として、Mn、Ho、Siの酸化物の粉末を準備した。これらの粉末に対し、ポリビニルブチラール系のバインダ及びアルコール系の溶媒を添加して、湿式ボールミル混合した。得られた混合スラリーを、キャリアフィルム上にダイコーターを用いて成形し、厚さ2.7μmの生シートを得た。この生シート上に、内部電極用ペーストとして、ニッケルペーストをスクリーン印刷し、内部電極パターンを形成した後、
図7に示すように、内部電極パターン2が印刷されていない箇所に、焼成前積層チップとした際に積層方向に延びる稜部となる点rから所定の間隔を空けて、上記誘電体磁器組成物粉末を含む誘電体ペーストを印刷し、誘電体パターン3を形成した。該生シートを500層積層し、さらにその上下面に、カバー部用生シートを各20枚重ねた後、各生シートを90℃に加熱し、加熱温度を保持した状態で、表面にゴムを備える加圧用治具を用いて積層方向の両側から80MPaの圧力で加圧することで圧着し、生積層体を得た。この生積層体を個片化して、内部電極パターンが1層おきに引き出される、積層方向に平行な、互いに対向する一対の引出面を有する、直方体形状の焼成前積層チップを得た。得られた焼成前積層チップを、窒素雰囲気中で300℃まで加熱して脱バインダ処理を行った。この焼成前積層チップの各引出面を、外部電極用ペーストとしてのニッケルペーストに浸して、焼成前積層チップの表面にニッケルペーストを付着させた。ニッケルペーストが付着した焼成前積層チップを、窒素中に水素を含む還元ガス及び水蒸気を導入した、いわゆる還元-水蒸気雰囲気中にて、1300℃まで昇温し、10分間保持して焼成し、室温付近まで降温して、表面にニッケル層を有する積層チップを得た。得られた積層チップの表面に形成されたニッケル層上に、めっきによりCu層、Ni層及びSn層を、この順で形成し、実施例1に係る積層セラミックコンデンサを得た。得られた積層セラミックコンデンサは、積層チップの積層方向に垂直な面が1.6mm×0.8mmの長方形形状を有し、積層方向の寸法が0.8mmであった。
【0071】
[実施例2から4]
生シートを圧着する際の圧力を、実施例2では100MPaとし、実施例3では135MPaとし、実施例4では170MPaとした以外は実施例1と同様の方法で、実施例2から4に係る積層セラミックコンデンサをそれぞれ作製した。
【0072】
[比較例1及び2]
生シートを圧着する際の圧力を、比較例1では25MPaとし、比較例2では60MPaとした以外は実施例1と同様の方法で、比較例1及び2に係る積層セラミックコンデンサをそれぞれ作製した。
【0073】
[積層セラミックコンデンサの評価]
(積層チップの頂部形状の確認)
得られた各積層セラミックコンデンサについて、上述した方法により、積層チップの外部電極に覆われた頂部が、これに向かう3本の稜線同士が互いに交わらず、前記各稜線の端点を通る平面形状、又は該平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有するか否かを判定した。その結果、実施例1から3に係る各積層セラミックコンデンサでは、積層チップの頂部が
図3cに示す形状を有しており、頂部に向かう3本の稜線同士が互いに交わらず、前記各稜線の端点を通る平面よりも内側に凹んだ形状を有するものと判定された。他方、比較例1及び2に係る積層セラミックコンデンサでは、積層チップの頂部がいずれも、これに向かう3本の稜線同士が互いに交わる形状を有するものと判定された。
【0074】
(積層チップの積層方向に平行な面におけるtmin/tmaxの算出)
得られた各積層セラミックコンデンサについて、積層チップの積層方向に平行な面における、積層方向の最大寸法tmax及び最小寸法tmin、積層チップの幅方向に平行な面における、幅方向の最大寸法wmax及び最小寸法wmin、並びに積層チップの長さ方向に平行な面における、長さ方向の最大寸法lmax及び最小寸法lminを、各面の光学顕微鏡像からそれぞれ測定・算出し、これらの比であるtmin/tmax、wmin/wmax及びlmin/lmaxの値をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
【0075】
(耐湿負荷試験)
得られた各積層セラミックコンデンサn=400個に対して、相対湿度85%の環境下で、35Vの電圧を200時間印加した後、室温で24時間放置し、絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗値が10MΩ未満の試料を故障したものと判定し、試験を行った試料の総数に対する故障した試料の百分率を、故障率として算出した。結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1から、積層チップの外部電極で覆われた頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する積層セラミックコンデンサは、高湿度環境下での故障率が低減されたものとなることが判る。これは、積層チップの頂部における外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制されたことで、積層チップへの水分の侵入が抑制されたためと推察される。
【0078】
本明細書では、以下の技術も開示される。
【0079】
(付記1)
誘電体磁器で形成された誘電体層と金属を主成分とする内部電極とが交互に積層され、
積層方向に平行な面上に、前記内部電極が引き出される引出部を有し、
前記引出部以外の表面に、誘電体磁器を含む保護部を有する
直方体形状の積層チップ、及び
前記積層チップの表面に、前記引出部に引き出された前記内部電極同士を接続し、かつ前記積層チップが形成する直方体の少なくとも1つの頂部を覆って設けられた外部電極
を備え、
前記積層チップの前記外部電極に覆われた頂部が、
3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ
前記各端点を通る平面形状、又は該平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する
積層セラミックコンデンサ。
【0080】
(付記2)
前記外部電極に覆われた頂部が、前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する、(付記1)に記載の積層セラミックコンデンサ。
【0081】
(付記3)
前記外部電極に覆われた頂部が曲面形状を有する、(付記2)に記載の積層セラミックコンデンサ。
【0082】
(付記4)
前記積層チップが、
積層方向に平行な面における積層方向の最大寸法をtmaxとし、積層方向の最小寸法をtminとしたときに、tmaxに対するtminの比tmin/tmaxが、0.95≦(tmin/tmax)≦0.99を満たし、
幅方向に平行な面における幅方向の最大寸法をwmaxとし、幅方向の最小寸法をwminとしたときに、wmaxに対するwminの比wmin/wmaxが、0.95≦(wmin/wmax)≦0.99を満たし、かつ
長さ方向に平行な面における積層方向の最大寸法をlmaxとし、長さ方向の最小寸法をlminとしたときに、lmaxに対するlminの比lmin/lmaxが、0.95≦(lmin/lmax)≦0.99を満たす
(付記1)から(付記3)のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。
【0083】
(付記5)
誘電体磁器組成物の粉末を準備すること、
前記誘電体磁器組成物の粉末をバインダと混合し、シート状に成形して生シートを得ること、
前記生シート上に、金属を含む内部電極パターンを形成すること、
前記生シート上の前記内部電極パターンが形成されていない箇所に、後述する焼成前積層チップにおいて積層方向に延びる稜部となる点から間隔を空けて誘電体パターンを形成すること、
前記内部パターン及び前記誘電体パターンが形成された生シートを所定の枚数積層し、積層方向両端部に保護部用生シートを配置した後、可撓性を有する治具を介して圧着して生積層体を得ること、
前記生積層体を個片化し、積層方向に平行な面上に、前記内部電極パターンが引き出される引出部を有すると共に、各頂部が、3つの稜部の端点同士が互いに異なる位置に配置されることで形成され、かつ前記各端点を通る平面よりも前記積層チップの内側に凹んだ形状を有する直方体形状の焼成前積層チップを得ること、
前記焼成前積層チップからバインダを除去すること、並びに
下記(a)又は(b)のいずれか一方を行うこと
を含む、積層セラミックコンデンサの製造方法。
(a)バインダ除去後の前記焼成前積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させた後、前記外部電極が付着した焼成前積層チップを焼成して焼結体を得る。
(b)バインダ除去後の前記焼成前積層チップを焼成して積層チップを得た後、該積層チップの表面に、前記引出部及び直方体の頂部を覆って外部電極用ペーストを付着させ、焼き付ける。
【0084】
(付記6)
前記圧着を、50℃以上の温度で、80MPa以上の圧力にて行う、(付記5)に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
本発明によれば、積層チップの頂部における外部電極の形成不良や極端な薄層化が抑制された積層セラミックコンデンサを提供することができる。このような積層セラミックコンデンサは、外部電極からの劣化因子の侵入が抑制されることで、信頼性の高いものとなる点で有用である。