(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132659
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】固体酸化物形電解セルシステム
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240920BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20240920BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20240920BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240920BHJP
C25B 9/67 20210101ALI20240920BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240920BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B15/021
C25B15/08 302
C25B15/08 304
C25B9/67
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043514
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大栗 延章
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC02
4K021BC03
4K021BC04
4K021BC05
4K021CA08
4K021CA10
4K021CA11
4K021CA12
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
4K021EA06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】変動性が高い排熱を利用するものとしても、電解用の水蒸気を安定的に供給することができると共に、エネルギ効率を向上させる。
【解決手段】固体酸化物形電解セルシステムは、固体酸化物形電解セルと、システム系外からの排熱を蓄熱する蓄熱部と、水源から固体酸化物形電解セルの燃料極に至る燃料供給ラインに設けられ蓄熱部の蓄熱を利用して水蒸気を発生させる水蒸気発生部と、燃料供給ラインにおける水蒸気発生部よりも下流側に設けられ固体酸化物形電解セルからの排熱を利用して水蒸気を加熱する熱交換部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気電解により水素を生成する固体酸化物形電解セルを備える固体酸化物形電解セルシステムであって、
システム系外からの排熱を蓄熱する蓄熱部と、
水源から前記固体酸化物形電解セルの燃料極に至る燃料供給ラインに設けられ、前記蓄熱部の蓄熱を利用して水蒸気を発生させる水蒸気発生部と、
前記燃料供給ラインにおける前記水蒸気発生部よりも下流側に設けられ、前記固体酸化物形電解セルからの排熱を利用して前記水蒸気発生部で生成された水蒸気を加熱する熱交換部と、
を備える固体酸化物形電解セルシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の固体酸化物形電解セルシステムであって、
前記固体酸化物形電解セルの燃料極からの燃料極オフガスに含まれる水蒸気を冷却媒体との熱交換により凝縮させる凝縮部と、
前記凝縮部を通過した冷却媒体を前記蓄熱部に供給する冷却媒体供給ラインと、
を備える固体酸化物形電解セルシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の固体酸化物形電解セルシステムであって、
原水から純水を生成する純水装置と、
前記燃料供給ラインに接続され、前記純水を蓄える前記水源としての水タンクと、
を備え、
前記凝縮部は、前記燃料極オフガスに含まれる水蒸気を前記冷却液体としての前記原水との熱交換により凝縮させ、
前記冷却媒体供給ラインは、前記凝縮部を通過した原水を前記蓄熱部に供給する、
固体酸化物形電解セルシステム。
【請求項4】
請求項2に記載の固体酸化物形電解セルシステムであって、
原水を純水と処理排水とに分離する純水装置と、
前記燃料供給ラインに接続され、前記純水を蓄える前記水源としての水タンクと、
を備え、
前記凝縮部は、前記燃料極オフガスに含まれる水蒸気を前記冷却媒体としての前記処理排水との熱交換により凝縮させ、
前記冷却媒体供給ラインは、前記凝縮部を通過した処理排水を前記蓄熱部に供給する、
固体酸化物形電解セルシステム。
【請求項5】
請求項2に記載の固体酸化物形電セルシステムであって、
前記凝縮部は、前記燃料極オフガスに含まれる水蒸気を前記冷却媒体との熱交換により凝縮させる第1凝縮部と、前記第1凝縮部を通過した燃料極オフガスに含まれる残余の水蒸気を前記冷却媒体との熱交換により凝縮させる第2凝縮部と、を有し、
前記冷却媒体供給ラインは、前記冷却媒体が前記第2凝縮部と前記第1凝縮部とを順に通過すると共に、前記第1凝縮部を通過した後の冷却媒体を前記蓄熱部に供給する、
固体酸化物形電解セルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、固体酸化物形電解セルシステムについて開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体酸化物形電解セルを備える固体酸化物形セルシステムが知られている。例えば、特許文献1には、水を加熱して水蒸気を生成する蒸発器と、水蒸気を電気分解する電解セルと、を備える水素製造システムにおいて、蓄熱材(水酸化マグネシウム系蓄熱材)を含む熱貯蔵タンクを有し、外部熱源から提供される熱を脱水反応により蓄熱し、蓄えた熱を水和反応により蒸発部へと放熱するものが開示されている。蒸発部には、ヒータが設けられ、外部熱源から熱が提供されない場合に、ヒータの加熱が併用される。
【0003】
特許文献2には、高温水蒸気電解および固体燃料電池の可逆運転可能な固体電解質セルを原子力発電プラントや火力発電プラント等の発電プラントに併設し、SOE(電解)運転時にセルから出た水素と水蒸気とが再生熱交換器(HX-2)および熱交換器(HX-4)により冷却された後、セパレータで水蒸気に分離され、水素は水素タンクに水は水タンクに回収されるようにしたSOE/SOFCシステムにおいて、水タンクからの水を加熱する熱交換器(HX-4)と、発電プラントからの熱により電解用水蒸気を加熱する熱交換器(HX-1)と、酸素タンクからの酸素と熱交換器(HX-1)を通過した電解用水蒸気に混合された水素とを燃焼させて電解用水蒸気を加熱する燃焼器と、を備えるものが開示されている。
【0004】
特許文献3には、100℃未満の温度を有する熱源をヒートポンプで利用して水蒸気を生成し、電解セルに供給するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-144623号公報
【特許文献2】特開2001-160404号公報
【特許文献3】特表2018-517233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の固体酸化物形セルシステムでは、外部熱源が工場排熱などの排熱であった場合、熱源の変動性が高いため、蓄熱材(水酸化マグネシウム系蓄熱材)が300℃未満の低温の排熱を利用できないことから、蒸発部に安定的に熱供給できない場合が生じる。ヒータを併用することで、熱不足を補うことができるものの、電力消費が増大し、エネルギ効率が悪化してしまう。特許文献2に記載の固体酸化物形セルシステムでは、外部熱源を用いた熱交換により水を蒸発させて水蒸気を生成し、外部熱源で不足する熱は、水素タンクに加圧貯蔵した水素を電解用水蒸気に混合させた混合ガスを燃焼器に導入して燃焼させるが、加圧した水素を用いることから、昇圧分のエネルギ損失が生じる。また、燃焼器には水素と水蒸気とを含む混合ガスが導入され、水蒸気を含むことから、燃焼器で安定した燃焼が得られなくなり、電解用水蒸気を十分に加熱できない場合が生じる。特許文献3に記載の固体酸化物形セルシステムでは、100℃未満の温度を有する熱源を利用して水蒸気を生成するものとされているが、変動性が高い熱源を利用する場合については何ら言及されていない。
【0007】
本開示の固体酸化物形電解セルシステムは、変動性が高い排熱を利用するものとしても、電解用の水蒸気を安定的に供給することができると共に、エネルギ効率を向上させた固体酸化物形電解セルシステムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の固体酸化物形電解セルシステムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本開示の固体酸化物形電解セルシステムは、
水蒸気電解により水素を生成する固体酸化物形電解セルを備える固体酸化物形電解セルシステムであって、
システム系外からの排熱を蓄熱する蓄熱部と、
水源から前記固体酸化物形電解セルの燃料極に至る燃料供給ラインに設けられ、前記蓄熱部の蓄熱を利用して水蒸気を発生させる水蒸気発生部と、
前記燃料供給ラインにおける前記水蒸気発生部よりも下流側に設けられ、前記固体酸化物形電解セルからの排熱を利用して前記水蒸気発生部で生成された水蒸気を加熱する熱交換部と、
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本開示の固体酸化物形電解セルシステムでは、システム系外からの排熱(低温排熱)を水蒸気発生部で水の潜熱(状態変化)に使用し、固体酸化物形電解セルからの高温の排熱を水蒸気発生部で生成された水蒸気の顕熱(温度上昇)に使用する。これにより、固体酸化物形電解セルからの高温の排熱を潜熱に使用するものに比して、熱エネルギを効率よく使用することができ、システムの効率をより向上させることができる。また、システム系外からの排熱を蓄熱部に蓄熱しておくから、システム系外の排熱の供給状態にバラツキがあっても、潜熱に使用する熱を安定的に供給することができる。
【0011】
こうした本開示の固体酸化物形電解セルシステムにおいて、前記固体酸化物形電解セルの燃料極からの燃料極オフガスに含まれる水蒸気を冷却媒体との熱交換により凝縮させる凝縮部と、前記凝縮部を通過した冷却媒体を前記蓄熱部に供給する冷却媒体供給ラインと、を備えてもよい。こうすれば、燃料極オフガスに含まれる水蒸気を凝縮しつつ、水蒸気との熱交換により加熱された冷却媒体を用いて蓄熱部を調温することができる。このため、システム系外の排熱の供給状態にバラツキがあっても、蓄熱部の蓄熱状態をより安定化させることができる。
【0012】
冷却媒体供給ラインを備える態様の本開示の固体酸化物形電解セルシステムにおいて、原水から純水を生成する純水装置と、前記燃料供給ラインに接続され、前記純水を蓄える前記水源としての水タンクと、を備え、前記凝縮部は、前記燃料極オフガスに含まれる水蒸気を前記冷却液体としての前記原水との熱交換により凝縮させ、前記冷却媒体供給ラインは、前記凝縮部を通過した原水を前記蓄熱部に供給してもよいし、原水を純水と処理排水とに分離する純水装置と、前記燃料供給ラインに接続され、前記純水を蓄える前記水源としての水タンクと、を備え、前記凝縮部は、前記燃料極オフガスに含まれる水蒸気を前記冷却媒体としての前記処理排水との熱交換により凝縮させ、前記冷却媒体供給ラインは、前記凝縮部を通過した処理排水を前記蓄熱部に供給してもよい。こうすれば、簡易な構成により、蓄熱部を調温することができる。
【0013】
また、冷却媒体供給ラインを備える態様の本開示の固体酸化物形電解セルシステムにおいて、前記凝縮部は、前記燃料極オフガスに含まれる水蒸気を前記冷却媒体との熱交換により凝縮させる第1凝縮部と、前記第1凝縮部を通過した燃料極オフガスに含まれる残余の水蒸気を前記冷却媒体との熱交換により凝縮させる第2凝縮部と、を有し、前記冷却媒体供給ラインは、前記冷却媒体が前記第2凝縮部と前記第1凝縮部とを順に通過すると共に、前記第1凝縮部を通過した後の冷却媒体を前記蓄熱部に供給してもよい。こうすれば、電解動作に伴って生成される水素をより高い純度で回収することができると共に、凝縮に使用した冷却媒体を用いて蓄熱部を調温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の固体酸化物形電解セルシステムの概略構成図である。
【
図2】他の実施形態に係る固体酸化物形電解セルシステムの概略構成図である。
【
図3】他の実施形態に係る固体酸化物形電解セルシステムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の固体酸化物形電解セルシステムの概略構成図である。本実施形態の固体酸化物形電解セルシステム10は、電解セルスタック21を含む電解モジュール20と、電解モジュール20に水蒸気を供給する水蒸気供給系30と、システム系外の排熱を蓄熱すると共に水蒸気供給系30(蒸気発生ヒートポンプ34)に供給する蓄熱供給系40と、電解モジュール20に空気を供給する空気供給系50と、電解動作により生成される水素を水素タンク61に回収する水素回収系60と、システム全体を制御する制御装置80と、を備える。
【0017】
電解モジュール20は、電解セルスタック21の他に、熱交換器26,27などを含み、これらは、断熱性を有するモジュールケース29に収容されている。
【0018】
電解セルスタック21は、安定化ジルコニア(例えばYSZ)等からなる固体電解質21aと、当該固体電解質21aの一方の面側に配置されるNi等の触媒金属と安定化ジルコニア等との複合体からなる燃料極21bと、当該固体電解質21aの他方の面側に配置されるLSCF等の酸化剤ガス極21cと、をそれぞれ含む複数の固体酸化物形の単セルを備える。電解セルスタック21は、電源からの電力の供給を受けて、燃料極21bに供給される水蒸気を電気分解して水素を生成する。なお、電源としては、系統電源や、再生可能エネルギ(例えば太陽光発電装置)、蓄電池などを用いることができる。
【0019】
電解セルスタック21の燃料極入口には、燃料ガス供給管22の一端が接続され、当該燃料ガス供給管22の他端には、水蒸気供給系30が接続されている。また、燃料ガス供給管22には、熱交換器26が設置されている。電解セルスタック21の酸化剤ガス極入口には、酸化剤ガス供給管23の一端が接続され、当該酸化剤ガス供給管23の他端には、空気供給系50が接続されている。また、酸化剤ガス供給管23には、熱交換器27が設置されている。
【0020】
また、電解セルスタック21の燃料極出口には、燃料極オフガス配管24の一端が接続され、当該燃料極オフガス配管24の他端には、モジュールケース29外の水素回収系60が接続されている。また、燃料極オフガス配管24は、モジュールケース29内において熱交換器26を通るように配管されている。電解セルスタック21の酸化剤ガス極出口には、酸化剤ガス極オフガス配管25の一端が接続されている。酸化剤ガス極オフガス配管25は、熱交換器27を通るように配管されている。
【0021】
水蒸気供給系30は、水(原料水)を貯留する水タンク31と、水タンク31に一端が接続されると共に燃料ガス供給管22に他端が接続された水蒸気供給管32と、水蒸気供給管32に対して上流側から順に設置された水ポンプ33、蒸気発生ヒートポンプ34およびヒータ35と、を備える。水蒸気供給系30により燃料ガス供給管22に供給された水蒸気は、熱交換器26で燃焼極オフガスとの熱交換により必要温度まで昇温させられてから電解セルスタック21の燃料極21bに供給される。
【0022】
水タンク31には、原水が供給される原水供給管36が接続され、原水供給管36には、純水装置37が設置されている。純水装置37は、本実施形態では、イオン交換樹脂を有し、樹脂表面のイオンが原水に含まれるイオン性の不純物と交換されることで不純物を除去して純水化するイオン交換樹脂式の純水装置として構成される。蒸気発生ヒートポンプ34は、蓄熱供給系40で蓄熱されている熱の供給を受けて当該熱をヒートポンプで利用することで水蒸気(飽和蒸気)を発生するものである。ヒータ35は、シースヒータ等の電気ヒータであり、蒸気発生ヒートポンプ34で熱が不足して十分な量の水蒸気を生成できない場合、熱付与をアシストするものである。
【0023】
蓄熱供給系40は、温水(蓄熱媒体)を蓄える低温蓄熱タンク41と、システム系外の排熱との熱交換により温水を加熱する熱交換器42と、低温蓄熱タンク41と熱交換器42とを接続する循環配管43と、循環配管43に設置された循環ポンプ44と、を備える。循環ポンプ44を駆動することにより、低温蓄熱タンク41に蓄えられた温水は、熱交換器42で排熱との熱交換により加温され、低温蓄熱タンク41へ返送される。システム系外の排熱としては、例えば工場排熱など多くの排熱が発生する設備において、利用できなくなった低温(例えば100℃以下)の排熱(未利用排熱)が用いられる。未利用排熱を有効活用することで、システムの効率を向上させることができる。
【0024】
蓄熱供給系40は、更に、低温蓄熱タンク41と蒸気発生ヒートポンプ34とを接続する循環配管45と、循環配管45に設置された循環ポンプ46と、循環配管45における蒸気発生ヒートポンプ34の下流側から分岐して温水の一部を排水する排水管48と、循環配管45の分岐箇所に設置されて温水の排水量を調整する調整弁47と、を備える。循環ポンプ46を駆動することにより、低温蓄熱タンク41内の加温された温水は、蒸気発生ヒートポンプ34に供給され、ヒートポンプで利用された後、低温蓄熱タンク41に返送される。また、蒸気発生ヒートポンプ34を通過した温水の一部は、調整弁47から排水管48を介して排水される。
【0025】
空気供給系50は、図示しないフィルタに一端が接続されると共に酸化剤ガス供給管23に他端が接続された空気供給管51と、空気供給管51に設置されたエアポンプ52と、を備える。エアポンプ52を駆動することにより、フィルタを介して空気供給管51に吸入された空気は、熱交換器27を通って、必要温度まで昇温させられてから電解セルスタック21の酸化剤ガス極21cに供給される。
【0026】
水素回収系60は、水素を貯蔵する水素タンク61と、水素タンク61に一端が接続された回収配管62と、燃料極オフガスに含まれる水蒸気を凝縮させる凝縮器63と、回収配管62内の水素を昇圧して水素タンク61へ送る昇圧ポンプ(図示せず)と、を備える。凝縮器63は、原水供給管36から分岐する冷却水供給管65を流れる冷却水(原水)と熱交換が可能な熱交換流路を有し、当該熱交換流路の入口には、燃料極オフガス配管24の他端が接続され、当該熱交換流路の出口には、回収配管62の他端が接続されている。凝縮器63に供給された水素と水蒸気とを含む燃料極オフガスは、冷却水(原水)との熱交換により、燃料極オフガスに含まれる水蒸気が凝縮させられた後、昇圧ポンプの駆動により回収配管62を通って水素タンク61に回収される。また、凝縮器63で燃料極オフガスが凝縮することにより得られた凝縮水は、凝縮水配管64を通って水タンク31に蓄えられる。水タンク31に蓄えられた水は、電解用の水蒸気の生成に用いられる。なお、熱交換流路の出口付近には、凝縮器63を通過した後の燃料極オフガスの温度を検出するための温度センサ81が設置されている。凝縮器63に対する冷却水の供給量は、温度センサ81からの温度が高純度の水素を回収するのに必要な温度となるように調整される。
【0027】
回収配管62には、当該回収配管62から分岐し、凝縮器63を通過した燃料極オフガスの一部を還元用水素として燃料ガス供給管22に還流させるための還元用水素供給管71が接続されている。還元用水素は、燃料極21bを還元雰囲気に保ち、燃料極21bの材料(Ni)の酸化劣化を防止するのに用いられる。
【0028】
また、冷却水供給管65の他端には、低温蓄熱タンク41が接続されている。凝縮器63で燃焼極オフガスとの熱交換により加温された冷却水は、冷却水供給管65を通って低温蓄熱タンク41に蓄えられる。
【0029】
制御装置80は、図示しないが、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成され、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポートを備える。制御装置80には、電解セルスタック21の近傍に設置される温度センサや凝縮器63の熱交換流路出口付近に設置される温度センサ81、低温蓄熱タンク41内に設置された温度センサ82等からの温度信号や、水蒸気供給管32に設置される流量センサや空気供給管51に設置される流量センサ等からの流量信号などが入力ポートを介して入力されている。一方、制御装置80からは、水ポンプ33やエアポンプ52、循環ポンプ44,46等への制御信号が出力ポートを介して出力されている。
【0030】
次に、こうして構成された本実施形態の固体酸化物形電解セルシステム10の動作(電解動作)について説明する。
【0031】
電解動作では、電解セルスタック21の燃料極21bには、水蒸気供給系30により燃料ガスとしての水蒸気が若干量の還元用水素と共に燃料ガス供給管22を介して導入され、電解セルスタック21の酸化剤ガス極21cには、空気供給系50によりスイープガスとしての空気が酸化剤ガス供給管23を介して導入される。そして、電源により電解セルスタック21の端子間に所定電圧の電力が供給されると、燃料極21bに導入された水蒸気は、燃料極21bにおいて電解作用により水素と酸素イオン(O2-)とに分解され、当該酸素イオンが固体電解質21aを透過することで酸化剤ガス極21cにおいて酸素が生成される。なお、本実施形態では、燃料極21bには、水蒸気と共に若干量の還元用水素も供給されるため、燃料極21bが還元雰囲気に保たれ、当該燃料極21bが酸化劣化するのを抑制することができる。
【0032】
燃料極21bで生成された水素は、電解未反応の水蒸気と共に燃料極オフガスとして燃料極オフガス配管24に排出され、熱交換器26を通過して、燃料ガス供給管22を流れる水蒸気と熱交換した後、水素回収系60へ供給される。そして、水素回収系60に供給された燃料極オフガスは、凝縮器63で冷却水(原水)との熱交換により冷却させられて水蒸気が除去された後、回収配管62を通り、昇圧ポンプにより昇圧させられて水素タンク61に回収される。また、凝縮器63を通過した燃料極オフガスの一部は、還元用水素として、還元用水素供給管71を介して燃料ガス供給管22に還流させられて電解セルスタック21の燃料極21bに供給される。
【0033】
本実施形態の固体酸化物形電解セルシステム10では、システム系外の未利用排熱が低温蓄熱タンク41に蓄えられ、水タンク31内の水は、蒸気発生ヒートポンプ34において、低温蓄熱タンク41に蓄えられた熱をヒートポンプで利用して水蒸気に変換される。そして、水蒸気は、電解動作に伴って電解セルスタック21の燃料極21bから排出される燃料極オフガスとの熱交換により必要温度まで昇温させられてから燃料極21bへ供給される。これにより、未利用排熱を水の潜熱(状態変化)に使用することができ、高温の燃料極オフガスを水蒸気の顕熱(温度上昇)に使用することができるため、熱を効率的に利用してシステム効率をより向上させることができる。
【0034】
ここで、本実施形態では、蒸気発生ヒートポンプ34で水蒸気を安定的に生成させるため、低温蓄熱タンク41内の温水は、一定の温度範囲(例えば60℃~80℃)に保たれるように管理されている。温水の温度管理は、温度センサ82からの低温蓄熱タンク41内の温水の温度が予め定められた目標水温(例えば80℃)となるように、調整弁47を制御して排水量を調整することにより行なわれる。排水量の調整にあたっては、凝縮器63を通過して低温蓄熱タンク41に供給される冷却水の供給量や、凝縮器63を通過した後の冷却水の温度が考慮されてもよい。
【0035】
以上説明した本実施形態の固体酸化物形電解セルシステム10では、システム系外からの排熱(低温排熱)を蒸気発生ヒートポンプ34で水の潜熱(状態変化)に使用し、電解セルスタック21からの高温の排熱(燃料極オフガス)を水蒸気の顕熱(温度上昇)に使用する。これにより、電解セルスタック21からの高温の排熱を水の潜熱に使用するものに比して、高温の排熱を有効利用して、システムの効率をより向上させることができる。また、システム系外からの排熱を低温蓄熱タンク41に蓄熱しておくから、システム系外の排熱の供給状態にバラツキがあっても、水の潜熱に使用する熱を安定的に供給することができる。
【0036】
また、本実施形態の固体酸化物形電解セルシステム10では、電解セルスタック21の燃料極21bからの燃料極オフガスに含まれる水蒸気を凝縮器63で冷却水との熱交換により凝縮させ、凝縮器63を通過した冷却水を低温蓄熱タンク41へ供給して低温蓄熱タンク41内を調温する。これにより、燃料極オフガスに含まれる水蒸気を凝縮しつつ、水蒸気との熱交換により加温された冷却水を用いて低温蓄熱タンク41を調温することができる。このため、システム系外の排熱の供給状態にバラツキがあっても、低温蓄熱タンク41の蓄熱状態をより安定化させることができる。
【0037】
上述した実施形態では、原水供給管36から分岐した冷却水供給管65を用いて、原水を凝縮器63に通過させた後、低温蓄熱タンク41に供給するものとした。しかし、
図2の他の実施形態に係る固体酸化物形電解セルシステム110に示すように、純水装置137として、原水から純水と処理排水とに分離するタイプ(例えば、逆浸透膜でろ過するRO式の純水装置)を用いる場合、処理排水を冷却水として用いて、凝縮器63を通過させた後、低温蓄熱タンク41に供給するようにしてもよい。
【0038】
上述した実施形態では、水素回収系60は、1つの凝縮器63を備えるものとしたが、
図3の他の実施形態に係る固体酸化物形電解セルシステム210に示すように、凝縮器63に加えて、第2の凝縮器263を備え、燃料極オフガスに含まれる水蒸気を当該凝縮器63および第2の凝縮器263により凝縮させるようにしてもよい。第2の凝縮器263は、凝縮器63を通過した燃料極オフガスが導入されると共に、原水供給管36から原水が冷却水として導入され、燃料極オフガスと冷却水(原水)との熱交換により燃料極オフガスに含まれる残余の水蒸気を凝縮させる。燃料極オフガスの凝縮により得られる凝縮水は、凝縮水配管264を通って水タンク31に蓄えられる。これにより、水素タンク61に回収する水素の純度をさらに高めることができると共に、2つの凝縮器を通過した冷却水を用いて低温蓄熱タンク41内の温水を調温することができる。
【0039】
上述した実施形態では、水蒸気供給系30から燃料ガス供給管22に供給される水蒸気を熱交換器26で燃料極オフガスとの熱交換により加熱するものとしたが、酸化剤ガス極オフガスとの熱交換により加熱するようにしてもよい。
【0040】
上述した実施形態では、水蒸気供給系30は、蒸気発生ヒートポンプ34により、システム系外の排熱をヒートポンプで利用して水蒸気を生成するものとした。しかし、例えば、蒸気発生ヒートポンプ34に代えて熱交換器を設置し、当該熱交換器でシステム系外の排熱との熱交換により水を加温した後、ヒータ35で水蒸気を生成するようにしてもよい。
【0041】
上述した実施形態では、凝縮器63を通過して水蒸気が除去された燃料極オフガスの一部を、還元用水素として、電解セルスタック21の燃料極21bに供給するものとした。しかし、水素タンク61内の加圧水素を燃料極21bに供給するようにしてもよい。また、燃料極オフガス配管24から分岐して燃料ガス供給管22に接続される燃料極オフガス還流管を設けて、燃料極オフガス配管24を流れる燃料極オフガスの一部を還元用水素として燃料極21bに還流させるようにしてもよい。
【0042】
上述した実施形態では、固体酸化物形電解セルシステム10は、高温水蒸気電解により水素を生成する電解動作を行なうものとした。しかし、固体酸化物形電解セルシステム10は、電解セルスタック21を可逆作動固体酸化物形セルスタックとして用いることで、上述した電解動作を行なうECモードと、燃料ガスとしての水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との反応により発電する発電動作を行なうFCモードとを、有してもよい。FCモードでは、電解セルスタック21の燃料極21bには、燃料ガスとして水素タンク61からの水素が燃料ガス供給管22を介して導入され、電解セルスタック21の空気極には、酸化剤ガスとして空気供給系50からの空気が酸化剤ガス供給管23を介して導入される。そして、酸化剤ガス極21cでは、酸化物イオン(O2-)が生成され、当該酸化物イオンが固体電解質21aを透過して燃料極21bで水素と反応することにより電気エネルギが得られる。
【0043】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、電解セルスタック21の各単セルが「固体酸化物形電解セル」に相当し、低温蓄熱タンク41が「蓄熱部」に相当し、蒸気発生ヒートポンプ34が「水蒸気発生部」に相当し、熱交換器26が「熱交換部」に相当する。また、凝縮器63が「凝縮部」に相当し、冷却水供給管65が「冷却媒体供給ライン」に相当する。また、純水装置37が「純水装置」に相当し、水タンク31が「水タンク」に相当する。また、凝縮器63が「第1凝縮部」に相当し、第2の凝縮器263が「第2凝縮部」に相当する。
【0044】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0045】
以上、本開示を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は、固体酸化物形電解セルシステムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10,110,210 固体酸化物形電解セルシステム、20 電解モジュール、21 電解セルスタック、21a 固体電解質、21b 燃料極、21c 酸化剤ガス極、22 燃料ガス供給管、23 酸化剤ガス供給管、24 燃料極オフガス配管、25 酸化剤ガス極オフガス配管、26,27 熱交換器、29 モジュールケース、30 水蒸気供給系、31 水タンク、32 水蒸気供給管、33 水ポンプ、34 蒸気発生ヒートポンプ、35 ヒータ、36 原水供給管、37 純水装置、40 蓄熱供給系、41 低温蓄熱タンク、42 熱交換器、43,45 循環配管、44,46 循環ポンプ、47 調整弁、48 排水管、50 空気供給系、51 空気供給管、52 エアポンプ、60 水素回収系、61 水素タンク、62 回収配管、63 凝縮器、64 凝縮水配管、65 冷却水供給管、71 還元用水素供給管、80 制御装置、81,82 温度センサ、137 純水装置、165 冷却水供給管、263 第2の凝縮器、264 凝縮水配管。