(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013266
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】走査アンテナ及び走査アンテナの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/38 20060101AFI20240125BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240125BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
H01Q1/38
H01Q21/06
H05K1/03 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115206
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】田村 礼
(72)【発明者】
【氏名】木村 健
【テーマコード(参考)】
5J021
5J046
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J046AA06
5J046AB03
(57)【要約】
【課題】配線を修正する作業工数が増大することを抑制しつつ、信頼性が高い走査アンテナを提供する。
【解決手段】基材と、基材上に設けられた接着層と、接着層上の一部に設けられた、金属製の第1配線と、接着層上及び第1配線上に跨って設けられた、無機酸化物製の第2配線と、第2配線の断線部を繋ぐ、金属製の接続部と、を備え、接続部は、第1配線と繋がる、走査アンテナ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた接着層と、
前記接着層上の一部に設けられた、金属製の第1配線と、
前記接着層上及び前記第1配線上に跨って設けられた、無機酸化物製の第2配線と、
前記第2配線の断線部を繋ぐ、金属製の接続部と、
を備え、
前記接続部は、前記第1配線と繋がる、走査アンテナ。
【請求項2】
前記第1配線は、銅、銀、アルミニウムのいずれかの材料によって構成され、
前記接続部を構成する材料は、前記第1配線を構成する材料と同一の材料である、請求項1に記載の走査アンテナ。
【請求項3】
前記第1配線は、前記接着層を介して前記基材に貼り合わされる、請求項1または2に記載の走査アンテナ。
【請求項4】
基材上に接着層を介して金属箔を貼り合わせる第1工程と、
前記金属箔にパターンニングを行い、前記接着層上の一部に第1配線を形成する第2工程と、
前記接着層上及び前記第1配線上に無機酸化物層を形成する第3工程と、
前記無機酸化物層にパターンニングを行い、第2配線を形成する第4工程と、
前記第2配線にスリット加工を行い、前記第2配線に断線部を形成する第5工程と、
前記接着層、前記第1配線及び前記第2配線が形成された前記基材に鍍金加工を行い、前記断線部を繋ぎ、且つ、前記第1配線と繋がる接続部を形成する第6工程と、を有する、走査アンテナの製造方法。
【請求項5】
前記第1配線は、銅、銀、アルミニウムのいずれか一つの材料によって構成され、
前記接続部を構成する材料は、前記第1配線を構成する材料と同一の材料である、請求項4に記載の走査アンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査アンテナ及び走査アンテナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビームの放射方向を変える機能を有するアンテナ(走査アンテナ)として、アンテナ単位を備えるフェイズドアレイアンテナが知られている。
フェイズドアレイアンテナには、位相器(フェイズシフター)が必要である。フェイズドアレイアンテナを低コストで製造可能とするために、液晶を用いた位相器が実用化されつつある。
【0003】
特許文献1には、低抵抗の金属製の電極(配線)及び高抵抗の無機酸化物製の電極(配線)を備える、液晶表示装置の技術を利用した走査アンテナが記載されている。
【0004】
走査アンテナの配線に断線等の欠陥が生じると、走査アンテナの動作が不安定になる虞がある。特許文献2には、配線の欠陥が発生した箇所に金属ナノ粒子を含有したインクを堆積させることで、配線を修正する配線修正方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/121876号
【特許文献2】国際公開第2019/203050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
走査アンテナに用いられる、高抵抗の無機酸化物配線は、材料である無機酸化物自体が脆弱であり曲げ耐性が小さく、また、高抵抗化のため薄い膜厚で形成されため、厚膜の金属配線と比較して断線し易い。また、金属配線及び無機酸化物配線の両方と接着される接着層の線膨張係数と、無機酸化物配線の線膨張係数との差分が大きい場合、走査アンテナの製造時に発生する熱により、接着層及び無機酸化物配線それぞれの熱膨張量及び熱収縮量が異なる。したがって、無機酸化物配線のうち、金属配線及び接着層の両方と接触する部分にかかる負荷が大きくなり易く、係る部分において断線が発生する虞があった。そのため、走査アンテナの動作が不安定になる虞があり、走査アンテナの信頼性を充分に高めることが困難であった。
また、無機酸化物配線が断線した場合、金属ナノ粒子を含有したインクを断線した箇所に堆積させることによって、無機酸化物配線を修正できる。しかしながら、無機酸化物配線の複数の箇所が断線した場合、金属ナノ粒子を含有したインクを断線した箇所毎に堆積させる必要があるため、無機酸化物配線の修正を行う工数が増大する虞があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて、配線を修正する作業工数が増大することを抑制しつつ、信頼性が高い走査アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、基材と、基材上に設けられた接着層と、接着層上の一部に設けられた、金属製の第1配線と、接着層上及び第1配線上に跨って設けられた、無機酸化物製の第2配線と、第2配線の断線部を繋ぐ、金属製の接続部と、を備え、接続部は、第1配線と繋がる、走査アンテナである。
【0009】
本発明の第二の態様は、走査アンテナの製造方法である。
この製造方法は、基材上に接着層を介して金属箔を貼り合わせる第1工程と、金属箔にパターンニングを行い、接着層上の一部に第1配線を形成する第2工程と、接着層上及び第1配線上に無機酸化物層を形成する第3工程と、無機酸化物層にパターンニングを行い、第2配線を形成する第4工程と、第2配線にスリット加工を行い、第2配線に断線部を形成する第5工程と、接着層、第1配線及び第2配線が形成された基材に鍍金加工を行い、断線部を繋ぎ、且つ、第1配線と繋がる接続部を形成する第6工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、配線を修正する作業工数が増大することを抑制しつつ、信頼性が高い走査アンテナ及び走査アンテナの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る走査アンテナを示す断面図である。
【
図2】走査アンテナの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】走査アンテナの製造における一過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、
図1から
図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る走査アンテナ1を示す断面図である。走査アンテナ1は、基材10と、基材10上に設けられた接着層20と、接着層20上の一部に設けられた第1配線30と、接着層20上及び第1配線30上に跨って設けられた第2配線40と、第2配線40の断線部41を繋ぐ接続部50と、を備える。
【0013】
なお、本明細書では、基材10に対し接着層20が設けられる方向を上側として走査アンテナ1の各部および製造方法の説明を行う。しかしながら、本明細書中の走査アンテナ1の姿勢はあくまで一例であり、走査アンテナ1の使用時の姿勢および製造時の姿勢は、本明細書で示す姿勢に限定されない。
【0014】
基材10は絶縁性の材料から成る。基材10の典型的な材質はガラスであるが、各種のプラスチックフィルムを使用することにより、基材10に可撓性を付与することもできる。本実施形態において、基材10の材質はガラスである。
接着層20は、基材10上に設けられる。接着層20は、公知の接着剤で形成された層である。
接着層20の線膨張係数は、第1配線30の線膨張係数と、第2配線40の線膨張係数との間の値であることが好ましい。このようにすると、第1配線30、第2配線40、接着層20それぞれの熱膨張量及び熱収縮量の差分を小さくできるため、第2配線40に加わる負荷を低減でき、第2配線40が断線することを抑制できる。
【0015】
第1配線30は、接着層20上の一部に設けられる。第1配線30は所定のパターン形状に形成されている。第1配線30は、接着層20を介して基材10に貼り合わされている。走査アンテナ1において、第1配線30は、低抵抗配線の役割を担う。
第1配線30は、金属製である。本実施形態において、第1配線30は、銅製である。第1配線30は、銀、アルミニウム等の比抵抗が小さい金属によって構成されても良い。
低抵抗化の観点から、第1配線30は、厚膜であることが望ましく、第1配線30の厚さは、例えば1μm~30μm程度とできる。本実施形態において、第1配線30の厚さは、2μmである。
本実施形態において、第1配線30の線膨張係数は、16.8×10-6/Kである。
第1配線30の断面形状は、接着層20から離れるにつれて徐々に縮小するテーパー状である。そのため、第1配線30の側面30aの法線は、上方に向かっている。
【0016】
第2配線40は、接着層20上及び第1配線30上に跨って設けられる。第2配線40は、所定のパターン形状に形成されている。走査アンテナ1において、第2配線40は、高抵抗配線の役割を担う。
第2配線40は、無機酸化物製である。本実施形態において、第2配線40は、酸化インジウムスズ(ITO)製である。第2配線40は、酸化インジウム亜鉛(IZO)などの比抵抗が大きい無機酸化物によって構成されても良い。
高抵抗化の観点から、第2配線40は、薄膜であることが望ましく、第2配線40の厚さは、例えば10~100nm程度とできる。本実施形態において、第2配線40の厚さは、60nmである。
本実施形態において、第2配線40の線膨張係数は、7.2×10-6/Kである。
【0017】
第2配線40には、断線部41が設けられる。断線部41は、第2配線40のうち、接着層20と第1配線30の両方と接触する部分に設けられる。断線部41によって、第2配線40は、第1部分40aと第2部分40bとに分断される。第1部分40aは、第2配線40のうち、接着層20上に設けられる部分である。第2部分40bは、第2配線40のうち、第1配線30上に設けられる部分である。第2部分40bは、第1配線30の側面30a及び上面30bに跨って設けられる。
【0018】
接続部50は、第2配線40の断線部41に設けられる。
接続部50は、金属製である。本実施形態において、接続部50は、銅製である。すなわち、接続部50を構成する材料は、第1配線30を構成する材料と同一の材料である。接続部50は、導電性を有する。
接続部50は、断線部41において、第2配線40の第1部分40a及び第2部分40bの両方と繋がる。また、接続部50は、第1配線30と繋がる。これらにより、接続部50を介して、第1配線30と、第2配線40とが電気的に接続される。
なお、本明細書において、「同一の材料」とは、主成分である金属元素が同じである場合を含む概念である。したがって、第1配線30を構成する材料と、接続部50を構成する材料とは、互いに異なる組成の銅合金であってもよいし、一方が銅合金であり他方が不可避不純物のみを含有する純銅であってもよい。
【0019】
上述の構成を有する本実施形態の走査アンテナ1の製造方法の一例について説明する。
図2に示すように、本実施形態の走査アンテナ1の製造方法は、サブ第1工程S11と、第1工程S1と、第2工程S2と、第3工程S3と、第4工程S4と、第5工程S5と、第6工程S6と、を有する。
【0020】
サブ第1工程S11は、
図3(a)に示す金属箔130の一方側を向く面130a全体に、液状の接着剤を塗布して接着層20を形成する工程である。接着層20は、金属箔130の一方側を向く面130a上にロールコート法を用いて形成される。
なお、本実施形態において、金属箔130はシート状に形成された銅箔である。金属箔130は、スパッタリング又は電解鍍金法によって形成できる。本実施形態において、金属箔130は、電解鍍金法によって形成される。
【0021】
第1工程S1は、基材10上に接着層20を介して金属箔130を貼り合わせる工程である。第1工程S1では、まず、金属箔130の一方側を向く面130a全体に形成された接着層20と基材10とを接触させる。次に、金属箔130と基材10とを所定の圧力で圧着させつつ、接着層20を乾燥させる。これにより、接着層20を介して、金属箔130と基材10とを貼り合わせることができる。
【0022】
上述のように、本実施形態では、サブ第1工程S11において、金属箔130の一方側を向く面130a全体に接着層20を形成した後に、第1工程S1において、金属箔130と基材10とを貼り合わせているが、金属箔130と基材10とを貼り合わせる手順はこれに限定されない。例えば、サブ第1工程において、基材10の他方側を向く面10b全体に接着剤を塗布して接着層20を形成し、第1工程において、金属箔130を接着層20と接触させた後に、上述の圧着及び乾燥を行って、金属箔130と基材10とを貼り合わせても良い。この場合、接着層20は、基材10の他方側を向く面10b上にダイコート法及びスリット&スピンコート法等の塗布方法によって形成される。
【0023】
第2工程S2は、金属箔130にパターンニングを行い、接着層20上の一部に第1配線30を形成する工程である。金属箔130のパターンニングは、フォトリソグラフィによって行われる。
第2工程S2では、まず、金属箔130上にフォトレジスト層を形成する。本実施形態では、フォトレジストとしてポジ型フォトレジストであるノボラック樹脂を用いた。フォトレジストは、一般的なスピンコーターによって金属箔130上に塗布され、フォトレジスト層が形成される。
次に、フォトレジスト層の乾燥を行う。本実施形態では、チャンバー内において減圧下でベークを行うことで乾燥させる。これにより、フォトレジスト層の乾燥時間を短縮できる。チャンバー内の気圧は、130Paとした。ベーク温度は、120℃とした。ベーク時間は、2分とした。
次に、第1配線30に対応したパターン形状に金属箔130をマスキングした後に、フォトレジスト層を、紫外線によって露光する。本実施形態において、露光量は、35mJとした。
次に、フォトレジスト層の現像を行い、フォトレジスト層のうち紫外線によって露光された部分を除去する。現像液は、ポジ現像液を用いた。現像方法としては、スプレー現像法を用いた。現像液圧は、0.1MPaとした。現像液の温度は、25℃とした。現像時間は、25秒とした。
次に、金属箔130のエッチングを行い、金属箔130のうちマグキングされていない部分を除去し、金属箔130を、第1配線30に対応したパターン形状にパターンニングする。エッチング液は、過酸化水素水の濃度が2~20%程度、硫酸の濃度が2~20%程度の混合水溶液とした。エッチング液の液温は、40℃とした。エッチング時間は、60~300秒とした。
【0024】
次に、第1配線30上に残存するフォトレジスト層の剥膜を行う。剥膜液は、ケイ酸塩水溶液を用いた。剥膜液の温度は、40℃とした。剥膜時間は、180秒とした。フォトレジスト層の剥膜が終了すると、第2工程S2が終了し、
図3(b)に示すように、接着層20上の一部に、所定のパターン形状の第1配線30が形成される。また、金属箔130が除去された部分には接着層20が露出する。
【0025】
第3工程S3は、接着層20上及び第1配線30上に無機酸化物層140を形成する工程である。無機酸化物層140は、スパッタリングによって、接着層20上及び第1配線30上に酸化インジウムスズ(ITO)を積層させることにより形成される。スパッタリングの電力値は、5.6kWとした。基材10の搬送速度は、495nm/秒とした。
また、上述のように、第1配線30の断面形状はテーパー状であり、第1配線30の側面30aの法線は上方に向かっている。そのため、スパッタリングによって、無機酸化物層140を、側面30a上に形成できる。したがって、第1配線30上において、無機酸化物層140の膜厚の均一化を図ることができる。
【0026】
第4工程S4は、無機酸化物層140にパターンニングを行い、第2配線40を形成する工程である。無機酸化物層140のパターンニングは、フォトリソグラフィによって、行われる。
第4工程S4では、まず、無機酸化物層140上にフォトレジスト層を形成する。本実施形態では、フォトレジストとしてポジ型フォトレジストであるノボラック樹脂を用いた。フォトレジストは、一般的なスピンコーターによって無機酸化物層140上に塗布され、フォトレジスト層が形成される。
次に、フォトレジスト層の乾燥を行う。本実施形態では、チャンバー内において減圧下でベークを行うことで乾燥させる。チャンバー内の気圧は、130Paとした。ベーク温度は、120℃とした。ベーク時間は、2分とした。
次に、第2配線40に対応したパターン形状に、無機酸化物層140をマスキングした後に、フォトレジスト層を、紫外線によって露光する。本実施形態において、露光量は、70mJとした。
次に、フォトレジスト層の現像を行い、フォトレジスト層のうち紫外線によって露光された部分を除去する。現像液は、ポジ現像液を用いた。現像方法としては、スプレー現像法を用いた。現像液圧は、0.15MPaとした。現像液の温度は、25℃とした。現像時間は、100秒とした。
次に、無機酸化物層140のエッチングを行い、無機酸化物層140のうちマグキングされていない部分を除去し、第2配線40に対応したパターン形状にパターンニングする。エッチング液は、シュウ酸水溶液とした。エッチング液の液温は、40℃とした。エッチング時間は、60秒とした。
【0027】
次に、第2配線40上に残存するフォトレジスト層の剥膜を行う。剥膜液は、ケイ酸塩水溶液を用いた。剥膜液の温度は、40℃とした。剥膜時間は、180秒とした。フォトレジスト層の剥膜が終了すると、第4工程S4が終了し、
図3(c)に示すように、所定のパターン形状の第2配線40が形成される。第2配線40は、接着層20上及び第1配線30上に跨って形成される。これにより、第1配線30と第2配線40とが電気的に接続される。無機酸化物層140が除去された部分には、接着層20又は第1配線30が露出する。
【0028】
なお、上述の第3工程S3では、スパッタリングによって無機酸化物層140を形成する際の熱によって、基材10、接着層20、及び第1配線30それぞれが加熱される。また、第4工程S4においては、フォトレジストの乾燥を行う際に、基材10、接着層20、第1配線30、及び無機酸化物層140それぞれが加熱される。さらに、上述のように、接着層20、第1配線30、及び無機酸化物層140それぞれの線膨張係数は、互いに異なる。したがって、接着層20、第1配線30、及び無機酸化物層140それぞれの熱膨張量及び熱収縮量が異なるため、無機酸化物層140のうち、接着層20および第1配線30の両方と接触する部分にかかる負荷が大きくなる。さらに、酸化インジウムスズ(ITO)によって構成される無機酸化物層140は脆弱であり、曲げ耐性が小さい。また、高抵抗化のため、無機酸化物層140の膜厚は60nmと薄い。したがって、無機酸化物層140のうち、接着層20および第1配線30の両方と接触する部分は断線し易い。そのため、無機酸化物層140がパターンニングされて形成される第2配線40においても、接着層20および第1配線30の両方と接触する部分は断線し易い。
【0029】
第5工程S5は、第2配線40にスリット加工を行い、第2配線40に断線部41を形成する工程である。
図3(d)に示すように、第5工程S5では、スリット加工により、第2配線40のうち、接着層20および第1配線30の両方と接触する部分に断線部41を形成する。これにより、第2配線40は、第1部分40aと第2部分40bとに分断される。また、第1配線30の一部が、断線部41を介して露出する。スリット加工は、第2配線40のうち、接着層20および第1配線30の両方と接触する全ての部分に行われる。本実施形態において、断線部41は、複数設けられる。
後述する第6工程S6における接続部50の生産性の観点から、断線部41の幅寸法は小さいことが望ましい。第6工程S6において、電解鍍金法によって接続部50を形成する場合、断線部41の幅寸法は、1~10μmの範囲であることが望ましい。無電解鍍金法によって接続部50を形成する場合、断線部41の幅寸法は10~1000nmの範囲であることが望ましい。
本実施形態において、スリット加工は、カッター及びグラインダー等の切削工具を用いた切削加工である。本実施形態では、切削工具として、超音波カッターを用いた。
なお、スリット加工は、フォトリソグラフィによって、第2配線40に断線部41をパターン形成する加工方法であっても良い。また、第4工程S4において、第2配線40をパターンニングする際に断線部41をパターン形成しても良い。この場合、第5工程S5が不要になるため、走査アンテナ1の製造工数を低減できる。
【0030】
第6工程S6は、接着層20、第1配線30、第2配線40及び断線部41が形成された基材10に鍍金加工を行い、接続部50を形成する工程である。なお、以下の説明では、接着層20、第1配線30、第2配線40及び断線部41が形成された基材10を鍍金加工前基材110と呼ぶ場合がある。
第6工程S6では、まず、鍍金加工前基材110を酸性溶液によって酸洗浄する。酸洗浄は、第2配線40の断線部41及び第1配線30のうち断線部41を介して露出する部分にのみ行っても良い。
酸性溶液としては、塩酸及び硫酸等を用いることができる。本実施形態では、硫酸を用いて酸洗浄を行った。
【0031】
次に、鍍金加工前基材110に鍍金加工を行い、接続部50を形成する。鍍金加工は、銅を溶かした鍍金浴に鍍金加工前基材110を浸漬して行われる。これにより、銅製の第1配線30上に銅層が鍍金成長し、
図1に示すように、第1配線30のうち断線部41を介して露出する部分には、銅製の接続部50が形成される。断線部41において、接続部50は、第1部分40a及び第2部分40bの両方と繋がる。また、接続部50は、第1配線30と繋がる。これらにより、接続部50を介して、第1配線30と、第2配線40とが電気的に接続される。
第1部分40a及び第2部分40bを安定して電気的に接続できるのであれば、接続部50の厚さは、第2配線40の厚さより薄くても良いし、厚くても良い。接続部50の厚さは、鍍金加工の作業時間等を鑑みて適宜決めることができる。
鍍金加工の方法としては、電解鍍金法及び無電解鍍金法のそれぞれを適用できる。
また、鍍金浴に溶かされる材料は、第1配線30の材料と同一の材料であることが好ましい。
なお、上述の鍍金加工において、接着層20上及び第2配線40上においては、銅粒子が鍍金成長しない。そのため、第1配線30のみを選択的に鍍金成長させることができる。
以上により、本実施形態の走査アンテナ1が完成する。
【0032】
本実施形態によれば、走査アンテナ1は、基材10と、基材10上に設けられた接着層20と、接着層20上の一部に設けられた金属製の第1配線30と、接着層20上及び第1配線30上に跨って設けられた、無機酸化物製の第2配線40と、第2配線40の断線部41を繋ぐ金属製の接続部50と、を備え、接続部50は、第1配線30と繋がる。よって、上述のように、第2配線40のうち断線し易い部分である、接着層20と第1配線30の両方と接触する部分に生じた断線部41を、導電性を有する接続部50によって繋ぐことができる。そのため、接続部50によって、第2配線40の第1部分40a及び第2部分40bを電気的に接続することができ、第2配線40を修正できる。また、接続部50は、第1配線30と繋がるため、接続部50を介して、第1配線30と、第2配線40とを電気的に接続できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0033】
また、本実施形態では、第1配線30の断面形状は、接着層20から離れるにつれて徐々に縮小するテーパー状である。よって、第1部分40aと第2部分40bとが成す角度を鈍角にできる。また、第2部分40bのうち、側面30a上に設けられる部分と、上面30b上に設けられる部分とが成す角度を鈍角にできる。そのため、第1配線30の断面形状が矩形状である場合と比較して、接着層20、第1配線30及び第2配線40それぞれの熱膨張及び熱収縮に起因する接続部50に加わる応力を低減でき、第2配線40の断線部41と接続部50との界面が剥離することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0034】
本実施形態によれば、第1配線30は、銅、銀、アルミニウムのいずれかの材料によって構成され、接続部50を構成する材料は、第1配線30を構成する材料と同一の材料である。より詳細には、第1配線30及び接続部50は、それぞれ、銅によって構成される。よって、第6工程S6の鍍金加工によって、接続部50を第1配線30上に容易に形成できるとともに、接続部50と第1配線30との接合強度を高めることができる。したがって、接続部50を介して、第1配線30と、第2配線40とを安定的に接続できるため、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0035】
本実施形態によれば、第1配線30は、接着層20を介して基材10に貼り合わされる。厚膜に形成される第1配線30の内部応力は大きく、また、金属製である第1配線30と基材10との密着力は小さい。そのため、第1配線30を基材10上に直接設ける場合では、基材10からの第1配線30の浮き及び剥がれが発生し易い。しかしながら、本実施形態では、第1配線30及び基材10の両方と密着性が高い接着剤から成る接着層20を介して、第1配線30が基材10に貼り合わされるため、基材10からの第1配線30の浮き及び剥がれが発生することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0036】
本実施形態によれば、走査アンテナ1の製造方法は、基材10上に接着層20を介して金属箔130を貼り合わせる第1工程S1と、金属箔130にパターンニングを行い、接着層20上の一部に第1配線30を形成する第2工程S2と、接着層20上及び第1配線30上に無機酸化物層140を形成する第3工程S3と、無機酸化物層140にパターンニングを行い、第2配線40を形成する第4工程S4と、第2配線40にスリット加工を行い、第2配線40に断線部41を形成する第5工程S5と、接着層20、第1配線30及び第2配線40が形成された基材10に鍍金加工を行い、断線部41を繋ぎ、且つ、第1配線30と繋がる接続部50を形成する第6工程S6と、を有する。よって、第2配線40のうち、接着層20と第1配線30の両方と接触するため断線し易い部分に、第5工程S5のスリット加工によって、断線部41を形成した後に、第6工程S6の鍍金加工によって、第1配線30を鍍金成長させて、第2配線40の断線部41を繋ぎ、且つ、第1配線30と繋がる接続部50を形成できる。そのため、接続部50を介して、第1部分40a及び第2部分40bを電気的に接続することができ、第2配線40を修正できる。また、接続部50を介して、第1配線30と第2配線40とを電気的に接続できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
また、強度が高い金属製の接続部50によって、第2配線40のうち断線し易い部分を接続できるため、走査アンテナ1の動作時において、第2配線40の係る部分が断線することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性をより高めることができる。
【0037】
本実施形態では、第6工程S6において、鍍金加工前基材110を鍍金槽内へ浸漬することにより、第1配線30を鍍金成長させて接続部50を形成する。そのため、一回の鍍金加工によって、複数の断線部41それぞれに接続部50を設けることができる。つまり、断線部41の個数に依らず、一回の鍍金加工によって、第2配線40を修正できる。よって、各断線部41を個別に修正する場合と比較して、第2配線40を修正する作業工数が増大することを抑制でき、走査アンテナ1の製造工数および製造コストが増大することを抑制できる。
【0038】
本実施形態では、第5工程S5のスリット加工によって、断線部41を介して、第1配線30の一部を露出させることができる。そのため、第6工程S6の鍍金加工によって、接続部50を第1配線30上に安定的に形成できる。したがって、接続部50によって、第2配線40を安定的に修正できるとともに、接続部50を介して、第1配線30と第2配線40とを安定的に接続できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性をより高めることができる。
なお、本実施形態では、スリット加工によって断線部41を形成する場合について説明したが、スリット加工を経ずに自然発生した断線部41を接続部50によって繋いでもよい。
【0039】
一般的に、鍍金加工によって金属箔を基材上に設ける場合は、鍍金槽内への基材の浸漬時や基材の搬送時に、基材の割れ及び欠けが発生する虞がある。しかしながら、本実施形態では、第1工程S1において、接着層20を介して金属箔130を基材10上に貼り合わせるため、基材10の割れ及び欠けが発生することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の製造工数および製造コストが増大することを抑制できる。また、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0040】
一般的に、鍍金加工によって、金属製の第1配線を形成する場合は、第1配線が複雑な形状であると、電流密度に偏りが生じやすいため、第1配線の膜厚のムラが大きくなり易く、走査アンテナ1の動作が不安定になる虞がある。しかしながら、本実施形態では、上述のように、金属箔130の形状が簡易な形状であるシート状であるため、鍍金加工によって形成される金属箔130の膜厚ムラを低減できる。また、本実施形態では、第1工程S1において、接着層20を介して、金属箔130を基材10上に貼り合わせた後に、第2工程S2において、金属箔130をパターンニングして第1配線30を形成する。したがって、第1配線30の膜厚のムラを低減でき、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0041】
一般的に、鍍金加工によって、厚膜の配線パターンを形成する場合、基材と配線パターンとの接着性を充分に得られない。基材と厚膜の配線パターンとの接着性を高める方法として、導電性ペーストによって厚膜の配線パターンを形成する方法があるが、この方法では、不活性ガス雰囲気下で導電性ペーストを焼成する必要が有るため、製造コストが増大してしまう。しかしながら、本実施形態では、上述のように、第1工程S1において、接着層20を介して、金属箔130を基材10上に貼り合わせた後に、第2工程S2において、金属箔130をパターンニングして第1配線30を形成する。したがって、厚膜の第1配線30の製造コストが増大することを抑制できる。
【0042】
一般的に、ガラス製の基材10と、銅製の第1配線30との接着性は低いため、鍍金加工によって、基材上に第1配線を設ける場合、第1配線は基材から浮き易く、剥がれ易い。しかしながら、本実施形態では、第1工程S1において、接着層20を介して第1配線30を基材10上に貼り合わせるため、基材10からの第1配線30の浮き及び剥がれが発生することを抑制できる。したがって、走査アンテナ1の信頼性を高めることができる。
【0043】
本実施形態によれば、第1配線30は、銅、銀、アルミニウムのいずれかの材料によって構成され、接続部50を構成する材料は、第1配線30を構成する材料と同一の材料である。よって、第6工程S6における鍍金加工によって、接続部50を第1配線30上に容易に鍍金成長させることができる。したがって、接続部50を形成する第6工程S6の作業工数が増大することを抑制でき、走査アンテナ1の製造工数が増大することを抑制できる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらは全てではなく、これら以外の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。
【0045】
第1配線の側面に、所定の膜厚の無機酸化膜層を形成できるならば、第1配線の断面形状は、テーパー状でなくてもよく、例えば、矩形状等の他の形状であっても良い。
【0046】
第5工程のスリット加工において、第2配線のうち断線部を形成する箇所は、接着層と第1配線の両方と接触する部分に限定されず、他の部分であっても良い。例えば、第2配線のうち、第1配線の側面と上面の境界と接触する部分に、断線部が形成されても良い。第2配線の係る部分は、第1配線の表面に沿って屈曲する部分であるため、第1配線及び第2配線の熱膨張及び熱収縮によって、負荷かがかかり易く、断線し易い部分である。そのため、第2配線の係る部分に、スリット加工によって断線部を設け、断線部に接続部を形成することによって、第1配線と第2配線を電気的に接続でき、走査アンテナの信頼性を高めることができる。
【0047】
本発明の走査アンテナ1の製造方法においては、各工程の順番が変更されてもよい。例えば、接着層が塗布された金属箔を基材に貼り合わせる前に金属層のパターニングを行ってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 走査アンテナ
10 基材
20 接着層
30 第1配線
40 第2配線
41 断線部
50 接続部
130 金属箔
140 無機酸化物層
S1 第1工程
S2 第2工程
S3 第3工程
S4 第4工程
S5 第5工程
S6 第6工程