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特開2024-132661磁気素子および磁気構造体の生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132661
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】磁気素子および磁気構造体の生成方法
(51)【国際特許分類】
   H10B 61/00 20230101AFI20240920BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H10B61/00
H01L29/82 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043519
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】本多 周太
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA01
4M119BB20
4M119CC02
4M119CC05
4M119KK10
5F092AA04
5F092AB06
5F092AC30
5F092AD22
5F092AD24
5F092BD04
5F092BD05
5F092BD13
5F092GA03
(57)【要約】
【課題】磁気構造体を密に形成する磁気素子を実現する。
【解決手段】磁気素子(1)は、線状の磁性部材(10)と、磁性部材に、スキルミオンである第1磁気構造体(2a)を書き込み、第1磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第2磁気構造体(2b)を書き込むことにより、第1磁気構造体と第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体(3a)を磁性部材に形成する書込部(11)を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の磁性部材と、
前記磁性部材に、スキルミオンである第1磁気構造体を書き込み、前記第1磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第2磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体を前記磁性部材に形成する書込部を備える、磁気素子。
【請求項2】
前記第1磁気構造体の磁化方向の回転方向は、第1回転方向であり、
前記第2磁気構造体の磁化方向の回転方向は、前記第1回転方向とは異なる第2回転方向である、請求項1に記載の磁気素子。
【請求項3】
前記書込部は、前記磁性部材に、前記第2磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第3磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体と前記第3磁気構造体とが線状に並んでいる前記連結磁気構造体を前記磁性部材に形成する、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項4】
前記書込部は、前記第1磁気構造体の中心から前記第1磁気構造体の半径以上直径以下離れた位置に、磁場を印加することにより、前記第2磁気構造体を書き込む、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項5】
前記書込部は、
前記磁性部材に隣接して配置された、所定の磁化方向に磁化方向が固定された固定部を含み、
前記第1磁気構造体の中心から前記第1磁気構造体の半径以上直径以下離れた位置に前記固定部が位置する状態で、前記固定部に電流を流すことにより、前記第2磁気構造体を書き込む、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項6】
前記書込部は、
前記磁性部材に隣接して配置された、第1磁化方向に磁化方向が固定された第1固定部と、
前記磁性部材に隣接して配置された、前記第1磁化方向とは異なる第2磁化方向に磁化方向が固定された第2固定部と、を含み、
前記磁性部材を貫通する第1電流方向の電流を第1固定部に流すことにより、前記第1磁気構造体を書き込み、
前記磁性部材を貫通する、前記第1電流方向とは異なる第2電流方向の電流を第2固定部に流すことにより、前記第2磁気構造体を書き込む、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項7】
前記書込部は、
前記磁性部材を貫通する第1電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第1磁気構造体を書き込み、
前記磁性部材を貫通する、前記第1電流方向とは異なる第2電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第2磁気構造体を書き込む、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項8】
前記書込部は、
前記磁性部材の表面に沿って第1電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第1磁気構造体を書き込み、
前記磁性部材の表面に沿って、前記第1電流方向とは異なる第2電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第2磁気構造体を書き込む、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項9】
前記書込部は、
前記磁性部材に所定方向の磁場を印加する第1巻線部と、前記第1巻線部から前記磁性部材の表面に沿って延びる第1配線とを有する第1書込装置と、
前記磁性部材に前記所定方向の磁場を印加する第2巻線部と、前記第2巻線部から前記磁性部材の表面に沿って延びる第2配線とを有する第2書込装置とを含み、
前記第1巻線部を基準にして、前記第1配線が前記磁性部材の内部に作る磁場の向きと、前記第2巻線部を基準にして、前記第2配線が前記磁性部材の内部に作る磁場の向きとは、互いに逆向きである、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項10】
前記書込部は、第1書込装置と、第2書込装置とを含み、
前記第1書込装置は、
前記磁性部材の側面に接続された磁性体である第1枝部材と、
前記第1枝部材に重なるよう配置された第1重金属層と、を含み、
前記第1枝部材に前記第1磁気構造体を書き込み、
前記第2書込装置は、
前記磁性部材の側面に接続された磁性体である第2枝部材と、
前記第2枝部材に重なるよう配置された第2重金属層と、を含み、
前記第2枝部材に前記第2磁気構造体を書き込み、
界面ジャロシンスキー守谷相互作用(界面DMI)により、前記第1枝部材における前記第1重金属層との界面近傍の磁化が傾く向きと、前記界面DMIにより、前記第2枝部材における前記第2重金属層との界面近傍の磁化が傾く向きとは、互いに異なる、請求項1または2に記載の磁気素子。
【請求項11】
線状の磁性部材と、
前記磁性部材に、磁化方向の回転方向が第1回転方向である第1磁気構造体を書き込み、前記第1磁気構造体と繋がるように、磁化方向の回転方向が前記第1回転方向とは異なる第2回転方向である第2磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体を前記磁性部材に形成する書込部を備える、磁気素子。
【請求項12】
スキルミオンである第1磁気構造体と、スキルミオンである第2磁気構造体とが、互いに繋がった連結磁気構造体が形成された、線状の磁性部材を備える、磁気素子。
【請求項13】
前記第1磁気構造体の磁化方向の回転方向は、第1回転方向であり、
前記第2磁気構造体の磁化方向の回転方向は、前記第1回転方向とは異なる第2回転方向である、請求項12に記載の磁気素子。
【請求項14】
線状の磁性部材に、スキルミオンである第1磁気構造体を書き込むステップと、
前記第1磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第2磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体を前記磁性部材に形成するステップとを含む、磁気構造体の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気素子および磁気構造体の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気スキルミオン(以下、「スキルミオン」と略称する。)と呼ばれる磁気構造体が磁性体中で観測され注目を集めている。スキルミオンとは、中心部の磁気モーメントと周辺部の磁気モーメントとが反平行であり、上記中心部から上記周辺部に向かうにつれて磁気モーメントの方向が徐々に変化するナノスケールの円形状または楕円形状の磁気構造体をいう。上記スキルミオンは、磁性体中を流れる電流由来のスピン流で駆動することができるため、上記スキルミオンを情報担体として利用した磁気メモリ装置などが、高密度かつ低消費電力の磁気デバイスとして提案されている(特許文献1・2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2015/125708
【特許文献2】国際公開WO2016/002806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来技術では、スキルミオンを十分に密に形成することができない。そのため、磁気素子をスキルミオンメモリに利用した場合、情報の書込密度に向上の余地がある。
【0005】
本発明の一態様は、磁気構造体を密に形成する磁気素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1に係る磁気素子は、線状の磁性部材と、前記磁性部材に、スキルミオンである第1磁気構造体を書き込み、前記第1磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第2磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体を前記磁性部材に形成する書込部を備える。
【0007】
上記の構成によれば、第1磁気構造体の中心と第2磁気構造体の中心との間隔を短くすることができる。それゆえ、磁気素子において、磁気構造体を高密度に形成することができる。よって、磁気素子では、情報の記録密度を高くすることができる。
【0008】
本発明の態様2に係る磁気素子では、上記態様1において、前記第1磁気構造体の磁化方向の回転方向は、第1回転方向であり、前記第2磁気構造体の磁化方向の回転方向は、前記第1回転方向とは異なる第2回転方向である構成であってもよい。
【0009】
本発明の態様3に係る磁気素子では、上記態様1または2において、前記書込部は、前記磁性部材に、前記第2磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第3磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体と前記第3磁気構造体とが線状に並んでいる前記連結磁気構造体を前記磁性部材に形成する、構成であってもよい。
【0010】
本発明の態様4に係る磁気素子では、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記書込部は、前記第1磁気構造体の中心から前記第1磁気構造体の半径以上直径以下離れた位置に、磁場を印加することにより、前記第2磁気構造体を書き込む、構成であってもよい。
【0011】
本発明の態様5に係る磁気素子では、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記書込部は、前記磁性部材に隣接して配置された、所定の磁化方向に磁化方向が固定された固定部を含み、前記第1磁気構造体の中心から前記第1磁気構造体の半径以上直径以下離れた位置に前記固定部が位置する状態で、前記固定部に電流を流すことにより、前記第2磁気構造体を書き込む、構成であってもよい。
【0012】
本発明の態様6に係る磁気素子では、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記書込部は、前記磁性部材に隣接して配置された、第1磁化方向に磁化方向が固定された第1固定部と、前記磁性部材に隣接して配置された、前記第1磁化方向とは異なる第2磁化方向に磁化方向が固定された第2固定部と、を含み、前記磁性部材を貫通する第1電流方向の電流を第1固定部に流すことにより、前記第1磁気構造体を書き込み、前記磁性部材を貫通する、前記第1電流方向とは異なる第2電流方向の電流を第2固定部に流すことにより、前記第2磁気構造体を書き込む、構成であってもよい。
【0013】
本発明の態様7に係る磁気素子では、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記書込部は、前記磁性部材を貫通する第1電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第1磁気構造体を書き込み、前記磁性部材を貫通する、前記第1電流方向とは異なる第2電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第2磁気構造体を書き込む、構成であってもよい。
【0014】
本発明の態様8に係る磁気素子では、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記書込部は、前記磁性部材の表面に沿って第1電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第1磁気構造体を書き込み、前記磁性部材の表面に沿って、前記第1電流方向とは異なる第2電流方向の電流を流すと同時に、前記磁性部材に磁場を印加することにより、前記第2磁気構造体を書き込む、構成であってもよい。
【0015】
本発明の態様9に係る磁気素子では、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記書込部は、前記磁性部材に所定方向の磁場を印加する第1巻線部と、前記第1巻線部から前記磁性部材の表面に沿って延びる第1配線とを有する第1書込装置と、前記磁性部材に前記所定方向の磁場を印加する第2巻線部と、前記第2巻線部から前記磁性部材の表面に沿って延びる第2配線とを有する第2書込装置とを含み、前記第1巻線部を基準にして、前記第1配線が前記磁性部材の内部に作る磁場の向きと、前記第2巻線部を基準にして、前記第2配線が前記磁性部材の内部に作る磁場の向きとは、互いに逆向きである、構成であってもよい。
【0016】
本発明の態様10に係る磁気素子では、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記書込部は、第1書込装置と、第2書込装置とを含み、前記第1書込装置は、前記磁性部材の側面に接続された磁性体である第1枝部材と、前記第1枝部材に重なるよう配置された第1重金属層と、を含み、前記第1枝部材に前記第1磁気構造体を書き込み、前記第2書込装置は、前記磁性部材の側面に接続された磁性体である第2枝部材と、前記第2枝部材に重なるよう配置された第2重金属層と、を含み、前記第2枝部材に前記第2磁気構造体を書き込み、界面ジャロシンスキー守谷相互作用(界面DMI)により、前記第1枝部材における前記第1重金属層との界面近傍の磁化が傾く向きと、前記界面DMIにより、前記第2枝部材における前記第2重金属層との界面近傍の磁化が傾く向きとは、互いに異なる、構成であってもよい。
【0017】
本発明の態様11に係る磁気素子は、線状の磁性部材と、前記磁性部材に、磁化方向の回転方向が第1回転方向である第1磁気構造体を書き込み、前記第1磁気構造体と繋がるように、磁化方向の回転方向が前記第1回転方向とは異なる第2回転方向である第2磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体を前記磁性部材に形成する書込部を備える。
【0018】
本発明の態様12に係る磁気素子は、スキルミオンである第1磁気構造体と、スキルミオンである第2磁気構造体とが、互いに繋がった連結磁気構造体が形成された、線状の磁性部材を備える。
【0019】
本発明の態様13に係る磁気素子では、上記態様12において、前記第1磁気構造体の磁化方向の回転方向は、第1回転方向であり、前記第2磁気構造体の磁化方向の回転方向は、前記第1回転方向とは異なる第2回転方向である構成であってもよい。
【0020】
本発明の態様14に係る磁気構造体の生成方法は、線状の磁性部材に、スキルミオンである第1磁気構造体を書き込むステップと、前記第1磁気構造体と繋がるように、スキルミオンである第2磁気構造体を書き込むことにより、前記第1磁気構造体と前記第2磁気構造体とが互いに繋がった連結磁気構造体を前記磁性部材に形成するステップとを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、磁気構造体を密に形成する磁気素子を実現することができる。そのため、レーストラックメモリなどの磁気メモリの高集積化、およびコストダウンが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す平面図である。
図2】連結磁気構造体の磁化方向を示す模式図である。
図3】連結磁気構造体の磁化方向を示す模式図である。
図4】一実施形態に係る磁気素子が連結磁気構造体を書き込む流れを示す模式図である。
図5】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す図である。
図6】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す図である。
図7】一実施形態に係る磁気素子の構成の他の一部を示す図である。
図8】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す斜視図である。
図9】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す斜視図である。
図10】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す斜視図である。
図11】一実施形態に係る磁気素子の構成の他の一部を示す斜視図である。
図12】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す平面図である。
図13】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す斜視図である。
図14】一実施形態に係る磁気素子の構成の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。また、図面に記載のx、y、およびzを用いて方向を特定する。
【0024】
図1は、一実施形態に係る磁気素子1の構成の一部を示す平面図である。本図には、参考例の磁気素子100も併せて図示する。磁気素子1は、線状の磁性部材10を備える。
【0025】
磁性部材10は、x方向に延びる線状かつz方向に薄い厚さを有する薄膜状(xy平面に平行な平板状)の磁性体である。ここで、上記磁性体とは、強磁性体、フェリ磁性体、スペリ磁性体等を含むものである。磁性部材10は、一軸異方性を有し、その磁化容易軸が板面に対して略垂直な方向である垂直磁化部材である。上記磁性体のキュリー温度は、周囲温度(例えば室温)より高いことが望ましく、磁気素子1に通電したときに発生するジュール熱により上昇する磁性部材10の温度の上限値よりも高いことがさらに望ましい。また、上記垂直磁化部材は、上記磁性体の部材の格子構造を歪ませることにより容易に作成することができる。
【0026】
上記磁性体の一例としては、TbFeCo(テルビウム鉄コバルト、スペリ磁性)、CoFeB(コバルト鉄ボロン)、CoPt(コバルト白金)、CoCrPt(コバルトクロム白金)、CoFeSi(コバルト鉄ケイ素)、GeFeCo(ゲルマニウム鉄コバルト、フェリ磁性)、MnSi(シリコマンガン)などの合金が挙げられる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、上記キュリー温度を満たす種々の磁性体(強磁性体、フェリ磁性体、スペリ磁性体等)を利用することができる。
【0027】
磁性部材10には、複数の磁気構造体2a、2bが形成されている。例えば、磁気素子1は、磁性部材10に形成された磁気構造体2a、2bの「有」または「無」によって、情報「1」または「0」を表すことができる。
【0028】
参考例の磁気素子100では、単位情報を表す磁気構造体2同士が互いに接触しないよう、「1」が連続する場合でも隣接する磁気構造体2同士の間に間隔が設けられている。
【0029】
一方、本実施形態の磁気素子1は、第1磁気構造体2aと第2磁気構造体2bとが互いに繋がった連結磁気構造体3a、3bを含む。連結磁気構造体3aは、互いに繋がった第1磁気構造体2aと第2磁気構造体2bとを含む。連結磁気構造体3bは、線状に並んで互いにこの順に繋がった第1磁気構造体2aと第2磁気構造体2bと第1磁気構造体2a(第3磁気構造体)とを含む。連結磁気構造体は、互いに線状に繋がった3つ以上の磁気構造体を含んでもよい。連結磁気構造体3a、3bは、線状の磁性部材10が延びる方向(x方向)に沿って延びている。すなわち、連結された複数の磁気構造体2a、2bは、線状の磁性部材10が延びる方向に沿って線状に(一列に)並んでいる。
【0030】
磁気素子1では、第1磁気構造体2aおよび第2磁気構造体2bが互いに繋がった連結磁気構造体3a、3bを含むため、単位情報を表す第1磁気構造体2aの中心と第2磁気構造体2bの中心との間隔が、参考例の磁気素子100の磁気構造体2の中心と隣の磁気構造体2の中心との間隔に比べて短い。それゆえ、磁気素子1では、磁気構造体を高密度に形成することができる。よって、磁気素子1では、情報の記録密度を高くすることができる。
【0031】
図2は、連結磁気構造体3aの磁化方向を模式的に示す図である。本図には磁性部材10が示されており、各位置における磁化方向が小さい矢印で示されている。大きい矢印は磁化方向の回転方向を示している。磁気構造体の小さい矢印の向きは、磁性体としてTbFeCoを想定したマイクロマグネティクスシミュレーションで計算されたものである。磁性部材10において磁気構造体が形成されていない領域では、磁化方向(磁気モーメントの方向)が-z方向である(m=-1)。mは規格化された磁気モーメントのz成分である。第1磁気構造体2aの中心と第2磁気構造体2bの中心とでは、磁化方向がz方向である(m=1)。第1磁気構造体2aの中心および第2磁気構造体2bの中心から離れると、磁化方向がz軸から傾いている。第1磁気構造体2aおよび第2磁気構造体2bの縁部では、磁化方向はxy平面に平行である(m=0)。第1磁気構造体2aおよび第2磁気構造体2bは、スキルミオンと呼ばれる磁気構造体である。第1磁気構造体2aの縁部では、磁化方向の回転方向は第1回転方向(z方向から見たとき右回り)である。z方向から見たとき、第2磁気構造体2bの縁部では、磁化方向の回転方向は第1回転方向とは異なる第2回転方向(z方向から見たとき左回り)である。連結磁気構造体3aの中央(第1磁気構造体2aと第2磁気構造体2bとの間)では、第1磁気構造体2aの磁化方向と第2磁気構造体2bの磁化方向とが揃っている(y方向とz方向の間を向いている)。それゆえ、第1磁気構造体2aと第2磁気構造体2bとが互いに繋がった状態で、連結磁気構造体3aは安定している。
【0032】
図3は、連結磁気構造体3bの磁化方向を模式的に示す図である。本図には磁性部材10が示されており、各位置における磁化方向が小さい矢印で示されている。大きい矢印は磁化方向の回転方向を示している。磁気構造体の小さい矢印の向きは、磁性体としてTbFeCoを想定したマイクロマグネティクスシミュレーションで計算されたものである。第1磁気構造体2aの中心と第2磁気構造体2bの中心とでは、磁化方向がz方向である(m=1)。連結磁気構造体3bは、磁化方向の回転方向が第1回転方向である第1磁気構造体2a、磁化方向の回転方向が第2回転方向である第2磁気構造体2b、および、磁化方向の回転方向が第1回転方向である第1磁気構造体2a(第3磁気構造体)が互いに繋がったものである。隣接する磁気構造体同士では、縁部の磁化方向の回転方向が互いに逆になっている。そのため、隣接する磁気構造体同士の間では、磁化方向が揃っている。それゆえ、第1磁気構造体2aと第2磁気構造体2bと第1磁気構造体2aとが線状に繋がった状態で、連結磁気構造体3aは安定している。隣接する磁気構造体同士の中間では、磁化方向は、磁気構造体同士が並ぶ方向(x方向)とは垂直な方向(y方向とz方向との間または-y方向とz方向との間。かつ±z方向ではない。)を向いている。
【0033】
なお、線状の磁性部材10に電流を流すことで、電流とは反対向きのスピン流の方向に、磁気構造体2a、2b、および連結磁気構造体3a、3bを移動させることができる。連結磁気構造体3a、3bは、x方向に沿って延びているが、磁性部材10の形状に沿って、x方向以外の方向に延びても良い。連結磁気構造体3bは、一直線ではなく、少し屈曲して延びてもよい。磁性部材10は、曲線と直線とを組み合わせた構造から構成されても良い。ただし、連結磁気構造体3a、3bが磁性部材10のどの場所でも同じ形状になるように、磁性部材10の幅は一様であることが好ましい。曲線と直線とを組み合わせて磁性部材10を構成することで、限られたスペースの中に長い磁性部材10を配置でき、磁気素子1を用いたレーストラックメモリの記憶密度が上がる。磁性部材10の幅(y方向の長さ)は、1つの磁気構造体のy方向の長さよりも長く、1つの磁気構造体のy方向の長さの4倍より短い方が好ましい。ただし、レーストラックメモリの記憶密度向上の点から、磁性部材10の幅は短い方が好ましい。連結磁気構造体3aではスキルミオンが2つ、連結磁気構造体3bではスキルミオンが3つ連結しているが、連結磁気構造体3a、3bを複数個連結させることで、スキルミオンが4つ以上連結した連結磁気構造体が構成される。これにより、情報「1」が4つ以上連続する場合に対応できる。
【0034】
図4は、一実施形態に係る磁気素子1が連結磁気構造体を書き込む流れを示す模式図である。本図において、第1磁気構造体2aおよび第2磁気構造体2bの縁に描かれている矢印は、磁化方向の回転方向を示す。本図において、薄い矢印は、スピン流の方向を示す。磁気素子1は、磁性部材10および書込部11を備える。
【0035】
書込部11は、磁性部材10の一部に対して、磁性部材10に隣接する位置に配置されている。書込部11は、磁性部材10に第1磁気構造体2aまたは第2磁気構造体2bを書き込む。書込部11は、例えば、z方向の磁場を磁性部材10の対象箇所に生成するときに、対象箇所にレーザ光を照射することで、第1磁気構造体2aを書き込んでもよい。この場合、書き込まれる磁気構造体の磁化方向の回転方向は、磁性部材10および書込部11の特性に応じて決まる。このように、書き込まれる磁気構造体の磁化方向の回転方向を自由に制御できなくてもよい。なお、レーザ光の照射は省略することができる。
【0036】
書込部11は、磁性部材10に単独の磁気構造体を書き込む(410)。形成される磁気構造体は、例えば、磁化方向の回転方向が第1回転方向である第1磁気構造体2aである。
【0037】
磁気素子1は、磁性部材10に-x方向の電流i1を流す(411)。電子は逆に流れるため、スピン流はx方向となる。第1磁気構造体2aは、スピン流によってx方向に移動する。
【0038】
書込部11は、磁性部材10における第1磁気構造体2aの中心から距離D離れた位置に、磁場を印加することにより、次の磁気構造体を書き込む(412)。これにより、書込部11は、先に形成された第1磁気構造体2aと繋がるように、第2磁気構造体2bを書き込むことができる。第1磁気構造体2aと接触する位置に後から形成される磁気構造体の磁化方向の回転方向は、既に形成されていた第1磁気構造体2aの影響を受けて、自ずと第1磁気構造体2aとは逆の回転方向になる。これにより、書込部11は、連結磁気構造体3aを磁性部材10に形成する。
【0039】
Dは、例えば第1磁気構造体2aの直径R以下、半径R/2以上であってよい。これにより、新しく書き込まれる第2磁気構造体2bが、既に形成されている第1磁気構造体2aと繋がる。また、繋がった各磁気構造体の中心同士が互いに分離した、安定した連結磁気構造体3aを形成することができる。ここで、孤立した第1磁気構造体2aにおけるm=0である円形の縁部の幅を、第1磁気構造体2aの直径Rとする。
【0040】
次に磁気素子1は、磁性部材10に-x方向の電流i1を流す(413)。連結磁気構造体3aは、スピン流によってx方向に移動する。
【0041】
書込部11は、磁性部材10における第2磁気構造体2bの中心から距離D離れた位置に、磁場を印加することにより、次の磁気構造体を書き込む(414)。これにより、書込部11は、先に形成された第2磁気構造体2bと繋がるように、新たな第1磁気構造体2a(第3磁気構造体)を書き込むことができる。第2磁気構造体2bと接触する位置に後から形成される磁気構造体の磁化方向の回転方向は、既に形成されていた第2磁気構造体2bの影響を受けて、自ずと第2磁気構造体2bとは逆の回転方向になる。これにより、書込部11は、連結磁気構造体3bを磁性部材10に形成する。同様にして、磁気素子1は、4つ以上の磁気構造体が線状に並んで互いに繋がった連結磁気構造体を磁性部材10に形成することができる。なお、線状の磁性部材10は、曲線状にカーブしていてもよい。線状の磁性部材10は、強磁性絶縁体を介して環状に繋がっていてもよい。連結磁気構造体3a、3bは、磁性部材10の曲線に沿って並んだまま電流によって移動していく。
【0042】
以下に書込部を具体化した種々の磁気素子の例について説明する。以下の磁気素子においても、上述の磁気素子と同様にして、連結磁気構造体3a、3bを形成することができる。
【0043】
図5は、一実施形態に係る磁気素子1aの構成の一部を示す図である。符号510a、511aは磁気素子1aの斜視図を示す。符号510b、511bは磁気素子1aの断面図を示す。本図における縁取り矢印は磁化方向を示す。符号510aにおける細い矢印は電流の向きを示す。符号510bにおける細い矢印は電流によって生じる磁場を示す。
【0044】
磁気素子1aは、磁性部材10と、書込部としての巻線部11aとを備える。巻線部11aは、環状になっており、巻き数は任意である。巻線部11aは、磁性部材10と接触していてもよいし離れていてもよい。
【0045】
磁気素子1aは、巻線部11aに電流を流す(510a)。巻線部11aは、流れる電流により、磁性部材10における巻線部11aの中心に対応する位置にz方向の磁場を印加する(510b)。これにより、磁性部材10における巻線部11aに対応する位置に磁気構造体2aが形成される(511a、511b)。
【0046】
図6、一実施形態に係る磁気素子1bの構成の一部を示す図である。図7は、一実施形態に係る磁気素子1bの構成の他の一部を示す図である。符号610a、611a、710a、711aは磁気素子1bの斜視図を示す。符号610b、611b、710b、711bは磁気素子1bの断面図を示す。本図における縁取り矢印は磁化方向を示す。本図において、第1磁気構造体2aおよび第2磁気構造体2bの縁に描かれている矢印は、磁化方向の回転方向を示す。符号611a、711aにおいては、第1書込装置11bおよび第2書込装置11cを透過して描いている。
【0047】
磁気素子1bは、磁性部材10と、書込部としての第1書込装置11bおよび第2書込装置11cとを備える。第1書込装置11bおよび第2書込装置11cは互いに異なる位置に配置されている。第1書込装置11bは、第1固定部12aおよび電極13を含む。第2書込装置11cは、第2固定部12bおよび電極13を含む。
【0048】
第1固定部12aおよび第2固定部12bは、垂直磁気異方性を有する強磁性体である。第1固定部12aおよび第2固定部12bは、は、CoFeB、CoFe、FePt合金などのFe系材料、CoPt合金、Co/Pt多層膜、TbFeCo合金、Cr、もしくはそれらを複合させたもので構成されてもよい。また、これら強磁性金属と反強磁性層とを積層した構成でもよい。第1固定部12aおよび第2固定部12bは、互いに同じ材質であってもよいし、互いに異なる材質であってもよい。
【0049】
第1固定部12aは、所定の第1磁化方向(上向き、z方向)に磁化方向が固定されている。第1固定部12aは、磁性部材10の第1面(z方向側の表面)に隣接して配置されている。第1固定部12aは、例えば円柱形であるが、これに限らず、任意の多角柱形であってよい。電極13は、磁性部材10の第2面(-z方向側の表面)における第1固定部12aに対応する位置に、配置されている。
【0050】
第1書込装置11bは、電極13、磁性部材10、および第1固定部12aを通るように、第1電流方向(z方向)の第1電流i1を流す(610a、610b)。そのため、第1固定部12aから磁性部材10にスピン流が流れる。これにより、第1固定部12aの上向きの磁化方向を有する電子が磁性部材10に注入され、第1固定部12aに対応する位置に上向きの磁化方向を有する磁気構造体が書き込まれる(611a、611b)。このとき、磁性部材10を第1電流方向(z方向)に貫通する第1電流i1によって第2回転方向(z方向からみて左回り)の磁場が形成されるため、書き込まれる磁気構造体の磁化方向の回転方向も第2回転方向となる。すなわち、第1書込装置11bによって第2磁気構造体2bが形成される。
【0051】
第2固定部12bは、所定の第2磁化方向(下向き、-z方向)に磁化方向が固定されている。第2固定部12bは、磁性部材10の第1面に隣接して配置されている。第2固定部12bは、例えば円柱形であるが、これに限らず、任意の多角柱形であってよい。電極13は、磁性部材10の第2面における第2固定部12bに対応する位置に、配置されている。
【0052】
第2書込装置11cは、第2固定部12b、磁性部材10、および電極13を通るように、第1電流方向とは異なる第2電流方向(-z方向)の第2電流i2を流す(710a、710b)。そのため、磁性部材10から第2固定部12bにスピン流が流れる。これにより、第2固定部12bの下向きの磁化方向を有する電子がz方向に移動し、空いた分、磁性部材10から下向きの磁化方向を有する電子が第2固定部12bに流れ込む。結果的に、磁性部材10に上向きの磁化方向を有する電子が残り、第2固定部12bに対応する位置に上向きの磁化方向を有する磁気構造体が書き込まれる(711a、711b)。このとき、磁性部材10を第2電流方向(-z方向)に貫通する第2電流i2によって第1回転方向(z方向からみて右回り)の磁場が形成されるため、書き込まれる磁気構造体の磁化方向の回転方向も第1回転方向となる。すなわち、第2書込装置11cによって第1磁気構造体2aが形成される。
【0053】
このように、磁気素子1bは、第1書込装置11bおよび第2書込装置11cによって、第2磁気構造体2bと第1磁気構造体2aとを選択的に書き込むことができる。磁気素子1bは、第1磁気構造体2aに繋がるように、第1書込装置11bによって第2磁気構造体2bを書き込むことにより、磁性部材10に連結磁気構造体3aを形成することができる。第1書込装置11bは、第1磁気構造体2aの中心から距離D離れた位置に第2磁気構造体2bを書き込む。例えば、R/2≦D≦Rであってよい。以下の他の書込部の例でも同様である。
【0054】
また、上記の構成では、第1書込装置11bと第2書込装置11cとの両方を用いて、第2磁気構造体2bと第1磁気構造体2aとを選択的に書き込んだが、磁気素子は、第1書込装置11bおよび第2書込装置11cの一方のみを備える構成であってもよい。磁気構造体が形成されていない領域に、孤立した磁気構造体を形成する場合、第1書込装置11bは、第2磁気構造体2bを書き込む。そして、図4に示すような位置関係で、第1書込装置11bは既に形成されている第2磁気構造体2bに繋がるように、新たな磁気構造体を書き込む。新たな磁気構造体は、既に形成されている第2磁気構造体2bの縁部の磁化方向に影響を受けて、反対の回転方向の第1磁気構造体2aとなる。具体的には、第1書込装置11bは、第2磁気構造体2bの中心から距離D離れた位置に第1固定部12aが位置する状態で、第1固定部12aに第1電流i1を流すことにより、第1磁気構造体2aを書き込む。R/2≦D≦Rであってよい。上記の例では第1書込装置11bのみを用いたが、第2書込装置11cのみを用いても同様のことが可能である。第1書込装置11bおよび第2書込装置11cのいずれか一方を用いた場合、簡単な構成で磁気構造体を形成できる。一方、第1書込装置11bと第2書込装置11cとの両方を用いた場合、希望する箇所に希望する磁気構造体を形成できる。
【0055】
図8は、一実施形態に係る磁気素子1cの構成の一部を示す斜視図である。本図において、磁性部材10に描かれている矢印は、電流により生じる磁場の方向を示す。本図においては、磁場印加装置15を透過して描いている。
【0056】
磁気素子1cは、磁性部材10、および書込部11dを備える。書込部11dは、第1電極14、第2電極13、および磁場印加装置15を備える。第1電極14は、磁性部材10の第1面に接続されている。第2電極13は、磁性部材10の第2面における第1電極14に対応する位置に接続されている。
【0057】
磁場印加装置15は、磁性部材10にz方向の磁場を印加する装置である。磁場印加装置15は、磁場を印加可能な任意の装置であってよいが、例えば、図5に示す巻線部11a等を有してもよい。
【0058】
書込部11dは、第1電流i1を流すと同時に、磁場印加装置15によって磁性部材10にz方向の磁場を印加する(810)。これにより、書込部11dは、磁性部材10に磁気構造体を書き込む。第1電流i1は、第2電極13から磁性部材10を貫通して第1電極14に流れる第1電流方向(z方向)の電流である。磁性部材10をz方向に流れる第1電流i1によって、磁性部材10には第2回転方向の磁場が形成される。この磁場に影響され、形成される磁気構造体は、第2磁気構造体2bとなる。
【0059】
また、書込部11dは、第2電流i2を流すと同時に、磁場印加装置15によって磁性部材10にz方向の磁場を印加する(811)。これにより、書込部11dは、磁性部材10に磁気構造体を書き込む。第2電流i2は、第1電極14から磁性部材10を貫通して第2電極13に流れる第2電流方向(-z方向)の電流である。磁性部材10を-z方向に流れる第2電流i2によって、磁性部材10には第1回転方向の磁場が形成される。この磁場に影響され、形成される磁気構造体は、第1磁気構造体2aとなる。
【0060】
図9は、一実施形態に係る磁気素子1dの構成の一部を示す斜視図である。本図において、第1配線14aおよび第2配線14bの周囲に描かれている矢印は、電流により生じる磁場の方向を示す。本図においては、磁場印加装置15を透過して描いている。
【0061】
磁気素子1dは、磁性部材10、および書込部11eを備える。書込部11eは、第1電極14、第1配線14a、第2配線14b、および磁場印加装置15を備える。第1電極14は、磁性部材10の第1面側における、磁場印加装置15がz方向の磁場を印加する位置に配置されている。第1電極14は、z方向に延びている。
【0062】
第1配線14aは、第1電極14に接続されており、第1電極14から磁性部材10の第1面に沿ってある方向(y方向)に延びている。
【0063】
第2配線14bは、第1電極14に接続されており、第1電極14から磁性部材10の第1面に沿って、第1配線14aとは異なる方向に延びている。ここでは、第2配線14bは、第1配線14aとは反対方向(-y方向)に延びている。
【0064】
第1電極14、第1配線14a、および第2配線14bは、磁性部材10と接触していてもよいし離れていてもよい。
【0065】
書込部11eは、第1電極14に第1電流i1を流すと同時に、磁場印加装置15によって磁性部材10にz方向の磁場を印加する(910)。これにより、書込部11eは、磁性部材10に磁気構造体を書き込む。第1電流i1は、第1電極14から第1配線14aおよび第2配線14bに分かれて流れる電流である。これにより、第1配線14aにおいて、磁性部材10の第1面に沿った第1電流方向(y方向)に第2電流i2が流れる。第2配線14bにおいて、磁性部材10の第1面に沿った第2電流方向(-y方向)に第3電流i3が流れる。i1=i2+i3である。第2電流i2および第3電流i3により、磁性部材10には第2回転方向の磁場が部分的に形成される。この磁場に影響され、形成される磁気構造体は、第2磁気構造体2bとなる。
【0066】
また、書込部11eは、第1電極14に第4電流i4を流すと同時に、磁場印加装置15によって磁性部材10にz方向の磁場を印加する(911)。これにより、書込部11eは、磁性部材10に磁気構造体を書き込む。第4電流i4は、第1配線14aおよび第2配線14bから第1電極14に合流して流れる電流である。これにより、第1配線14aにおいて、磁性部材10の第1面に沿った第3電流方向(-y方向)に第5電流i5が流れる。第3電流方向は、第1電流方向とは異なる(反対の)方向である。第2配線14bにおいて、磁性部材10の第1面に沿った第4電流方向(y方向)に第6電流i6が流れる。第4電流方向は、第2電流方向とは異なる(反対の)方向である。i4=i5+i6である。第5電流i5および第6電流i6により、磁性部材10には第1回転方向の磁場が部分的に形成される。この磁場に影響され、形成される磁気構造体は、第1磁気構造体2aとなる。
【0067】
図10は、一実施形態に係る磁気素子1eの構成の一部を示す斜視図である。図11は、一実施形態に係る磁気素子1eの構成の他の一部を示す斜視図である。本図において、薄い色の矢印は電流により生じる磁場の方向を示す。本図において、配線に沿って描かれている矢印は、電流の方向を示す。本図における縁取り矢印は磁化方向を示す。
【0068】
磁気素子1eは、磁性部材10、ならびに、書込部としての第1書込装置11fおよび第2書込装置11gを備える。第1書込装置11fは、第1巻線部16a、第1配線14a、および第2配線14bを備える。第2書込装置11gは、第2巻線部16b、第3配線14c、および第4配線14dを備える。第1書込装置11fおよび第2書込装置11gは、それぞれ磁性部材10における異なる箇所に配置されている。第1巻線部16aおよび第2巻線部16bは、環状になっており、巻き数は任意である。
【0069】
第1配線14aは、第1巻線部16aの一端に接続されている。第1配線14aは、第1巻線部16aからz方向に延びている。第2配線14bは、第1巻線部16aの他端に接続されている。第2配線14bは、第1巻線部16aから磁性部材10の第1面に沿ってある方向(y方向)に延びている。
【0070】
第3配線14cは、第2巻線部16bの一端に接続されている。第3配線14cは、第2巻線部16bからz方向に延びている。第4配線14dは、第2巻線部16bの他端に接続されている。第4配線14dは、第2巻線部16bから磁性部材10の第1面に沿ってある方向(y方向)に延びている。第4配線14dが延びる方向は、第2配線14bが延びる方向と、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0071】
第1巻線部16a、第2巻線部16b、第1配線14a、第2配線14b、第3配線14c、および第4配線14dは、磁性部材10と接触していてもよいし離れていてもよい。
【0072】
第1書込装置11fは、第2配線14bから第1巻線部16aを介して第1配線14aに流れる第1電流i1を流す(1010)。これにより、第1巻線部16aは、磁性部材10に所定方向(z方向)の磁場を印加する。これにより、第1書込装置11fは、磁性部材10に磁気構造体を書き込む。第2配線14bを流れる第1電流i1により、磁性部材10の内部には第1回転方向の磁場が部分的に形成される。この磁場に影響され、形成される磁気構造体は、第1磁気構造体2aとなる(1011)。
【0073】
第2書込装置11gは、第3配線14cから第2巻線部16bを介して第4配線14dに流れる第2電流i2を流す(1110)。これにより、第2巻線部16bは、磁性部材10に所定方向(z方向)の磁場を印加する。これにより、第2書込装置11gは、磁性部材10に磁気構造体を書き込む。第4配線14dを流れる第2電流i2により、磁性部材10の内部には第2回転方向の磁場が部分的に形成される。この磁場に影響され、形成される磁気構造体は、第2磁気構造体2bとなる(1111)。
【0074】
このように、第1巻線部16aを基準(中心)にして、第2配線14bが磁性部材10の内部に作る第1磁場の向きは、第1回転方向に沿った向きである。第2巻線部16bを基準(中心)にして、第4配線14dが磁性部材10の内部に作る第2磁場の向きは、第2回転方向に沿った向きである。第1巻線部16aを基準にした第1磁場の向きと、第2巻線部16bを基準にした第2磁場の向きとは、互いに逆向きである。これにより、第1書込装置11fおよび第2書込装置11gは、互いに磁化方向の回転方向が異なる第1磁気構造体2aおよび第2磁気構造体2bを、磁性部材10に書き込むことができる。
【0075】
図12は、一実施形態に係る磁気素子1fの構成の一部を示す平面図である。図13は、一実施形態に係る磁気素子1fの構成の一部を示す斜視図である。磁気素子1fは、磁性部材10、ならびに、書込部としての第1書込装置11hおよび第2書込装置11iを備える。第1書込装置11hは、第1枝部材17a、第3枝部材17c、第1重金属層18a、および、第1形成部19aを備える。第2書込装置11iは、第2枝部材17b、第4枝部材17d、第2重金属層18b、および、第2形成部19bを備える。
【0076】
第1枝部材17aは、磁性部材10の側面から突出するように、磁性部材10の第1側面に接続された板状の磁性体である。第3枝部材17cは、磁性部材10の側面から突出するように、磁性部材10の第2側面に接続された板状の磁性体である。第1枝部材17aと第3枝部材17cとは、磁性部材10を挟んで相対する位置に配置されている。
【0077】
第2枝部材17bは、磁性部材10の側面から突出するように、磁性部材10の第1側面に接続された板状の磁性体である。第4枝部材17dは、磁性部材10の側面から突出するように、磁性部材10の第2側面に接続された板状の磁性体である。第2枝部材17bと第4枝部材17dとは、磁性部材10を挟んで相対する位置に配置されている。
【0078】
第1重金属層18aは、第1枝部材17aに重なるよう、第1枝部材17aの第2面に配置されている。第2重金属層18bは、第2枝部材17bに重なるよう、第2枝部材17bの第2面に配置されている。第1重金属層18aおよび第2重金属層18bは、磁性部材10には重なっていない。第1重金属層18aおよび第2重金属層18bは、非磁性または常磁性の重金属の薄膜である。当該重金属の一例としては、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。第1重金属層18aは、第2重金属層18bとは異なる重金属で形成されている。
【0079】
第1重金属層18aと接する第1枝部材17aの界面近傍の磁化には、界面ジャロシンスキー守谷相互作用(以下、「界面DMI」と略称する。)が働く。同様に、第2重金属層18bと接する第2枝部材17bの界面近傍の磁化にも界面DMIが働く。界面DMIは第1枝部材17aおよび第2枝部材17bの磁化を傾ける働きをする。第1枝部材17aと第1重金属層18aとの間の界面DMIと、第2枝部材17bと第2重金属層18bとの間の界面DMIとは、界面近傍の磁化を傾ける向きが互いに異なる。ここでは、界面DMIにより第1枝部材17aにおける第1重金属層18aとの界面近傍の磁化が傾く向きは、第1回転方向である。界面DMIにより第2枝部材17bにおける第2重金属層18bとの界面近傍の磁化が傾く向きは、第2回転方向である。第1重金属層18aおよび第2重金属層18bは、第1枝部材17aおよび第1重金属層18aによる界面DMIの符号が、第2枝部材17bおよび第2重金属層18bによる界面DMIの符号とは反対となるような重金属によってそれぞれ構成されている。例えば、第1重金属層18aは、Pt、またはRhを含む。例えば、第2重金属層18bは、Ru、Ta、またはWを含む。
【0080】
第1形成部19aは、第1枝部材17aに第1磁気構造体2aを書き込む。第1形成部19aとして、上述の書込部11、巻線部11a、第1巻線部16a、第2巻線部16b、第1書込装置11b、第2書込装置11c、または磁場印加装置15を用いることができる。第1形成部19aは、磁場印加またはスピン注入により第1枝部材17aに磁気構造体を形成する。界面DMIにより、第1枝部材17aに形成される磁気構造体の磁化方向の回転方向は第1回転方向に決定される。
【0081】
第2形成部19bは、第2枝部材17bに第2磁気構造体2bを書き込む。第2形成部19bとして、上述の書込部11、巻線部11a、第1巻線部16a、第2巻線部16b、第1書込装置11b、第2書込装置11c、または磁場印加装置15を用いることができる。第2形成部19bは、磁場印加またはスピン注入により第2枝部材17bに磁気構造体を形成する。界面DMIにより、第2枝部材17bに形成される磁気構造体の磁化方向の回転方向は第2回転方向に決定される。
【0082】
第1書込装置11hは、第1形成部19aによって第1枝部材17aに第1磁気構造体2aを書き込む。その後、第1書込装置11hは、第3枝部材17cから磁性部材10を介して第1枝部材17aに第1電流i1を流す。第1電流i1により、第1枝部材17aから第3枝部材17cに向かってスピン流が生じる。それゆえ、第1磁気構造体2aは、磁性部材10に移動する。これにより、第1書込装置11hは、磁性部材10に第1磁気構造体2aを書き込む。また、磁性部材10に既に第1磁気構造体2aまたは第2磁気構造体2bが形成されていれば、当該磁気構造体は、第1電流i1によって第3枝部材17cに移動する。これにより、磁性部材10から特定の磁気構造体を消去することもできる。
【0083】
同様に、第2書込装置11iは、第2形成部19bによって第2枝部材17bに第2磁気構造体2bを書き込む。その後、第2書込装置11iは、第4枝部材17dから磁性部材10を介して第2枝部材17bに第2電流i2を流す。同様にして、第2書込装置11iは、磁性部材10に第2磁気構造体2bを書き込む。
【0084】
図14は、一実施形態に係る磁気素子1gの構成の一部を示す斜視図である。磁気素子1gは、磁性部材10、ならびに、書込部としての第1書込装置11hおよび第2書込装置11mを備える。第2書込装置11mは、第2枝部材17b、第4枝部材17d、第2重金属層18b、および、第2形成部19bを備える。
【0085】
第2書込装置11mは、第2重金属層18bが第2枝部材17bの第1面に形成されている点が、磁気素子1fの第2書込装置11iとは異なる。第1重金属層18aと第2重金属層18bとで、配置される表面が異なる。それゆえ、第1重金属層18aと第2重金属層18bとを、同種の重金属、または、同じ符号の界面DMIを生じさせる重金属で構成することができる。第1書込装置11hは、磁性部材10に第1磁気構造体2aを書き込む。第2書込装置11mは、磁性部材10に第2磁気構造体2bを書き込む。
【0086】
なお、第2形成部19bとして、上述の第1書込装置11bまたは第2書込装置11cを用いる場合、第2重金属層18bにおける第2形成部19bに対応する位置には穴があり、第2形成部19bは第2枝部材17bに接している。
【0087】
なお、上述したある磁気素子の第1磁気構造体2aを書き込む書込装置と、他の磁気素子の第2磁気構造体2bを書き込む書込装置とを、組み合わせて設けてもよい。
【0088】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g 磁気素子
2a 第1磁気構造体
2b 第2磁気構造体
3a、3b 連結磁気構造体
10 磁性部材
11a 巻線部
11、11d、11e 書込部
11b、11f、11h 第1書込装置
11c、11g、11i、11m 第2書込装置
12a 第1固定部
12b 第2固定部
14a 第1配線
14b 第2配線
14c 第3配線
14d 第4配線
15 磁場印加装置
16a 第1巻線部
16b 第2巻線部
17a 第1枝部材
17b 第2枝部材
17c 第3枝部材
17d 第4枝部材
18a 第1重金属層
18b 第2重金属層
19a 第1形成部
19b 第2形成部
図1
図2
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図14