(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132662
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】コート剤、被覆付き組紐、及び釣り糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20240920BHJP
D06M 15/267 20060101ALI20240920BHJP
D06M 15/285 20060101ALI20240920BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20240920BHJP
A01K 91/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M15/267
D06M15/285
D06M15/564
A01K91/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043520
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】523100788
【氏名又は名称】ハードバイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石元 正一
(72)【発明者】
【氏名】平井 翔
【テーマコード(参考)】
2B307
4L033
【Fターム(参考)】
2B307CA06
4L033AA05
4L033AB09
4L033AC11
4L033AC15
4L033CA18
4L033CA19
4L033CA20
4L033CA21
4L033CA23
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】釣り糸のエアノット防止性に優れるコート剤を提供すること。
【解決手段】炭素数10以上の脂肪族基を有する第1のモノマーからなる構成単位と、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有する第2のモノマーからなる構成単位と、を含む共重合体と、接着性樹脂と、を含む、コート剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10以上の脂肪族基を有する第1のモノマーからなる構成単位と、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有する第2のモノマーからなる構成単位と、を含む共重合体と、
接着性樹脂と、を含む、
コート剤。
【請求項2】
前記共重合体を構成する前記第1のモノマーが、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、及びラウリルメタクリレートからなる群より選ばれる1以上を含む、
請求項1に記載のコート剤。
【請求項3】
前記共重合体を構成する前記第2のモノマーが、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドからなる群より選ばれる1以上を含む、
請求項1に記載のコート剤。
【請求項4】
前記共重合体が、ブロック共重合体であり、
前記第1のモノマーのブロックの重量平均分子量が、2000以上である、
請求項1に記載のコート剤。
【請求項5】
前記共重合体の濃度が、前記コート剤の総量に対して、0.01~10.0質量%である、
請求項1に記載のコート剤。
【請求項6】
前記接着性樹脂が、アクリル系樹脂及び水溶性ウレタン系樹脂のうち少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載のコート剤。
【請求項7】
請求項1に記載のコート剤を、組紐に付着させた、
被覆付き組紐。
【請求項8】
前記組紐が、超高分子量ポリエチレン系繊維を含む、
請求項7に記載の被覆付き組紐。
【請求項9】
釣り糸に用いられる、
請求項7又は8に記載の被覆付き組紐。
【請求項10】
フィラメントを製紐して組紐を得る製紐工程と、
請求項1~6のいずれか一項に記載のコート剤を前記組紐に付着させて被覆付き組紐を得る付着工程を含む、
釣り糸の製造方法。
【請求項11】
フィラメントを加撚して撚糸を得る加撚工程をさらに含む、
請求項10に記載の釣り糸の製造方法。
【請求項12】
前記被覆付き組紐を40~120℃の温度で乾燥する乾燥工程をさらに含む、
請求項10に記載の釣り糸の製造方法。
【請求項13】
前記加撚が、10~500回/mである、
請求項11に記載の釣り糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コート剤、被覆付き組紐、及び釣り糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、釣り糸は、モノフィラメントからなる釣り糸と、製紐糸からなる釣り糸に大別されるが、近年の釣り方や釣り道具の高機能化等により、高強力や耐摩耗性を向上させることを目的として、合成繊維等を製紐した釣り糸の使用が増えてきている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、破断強度や結節強度等に優れた釣り糸を提供することを目的として、芯糸に合成繊維マルチフィラメント糸条を配し、その周りに鞘糸として合成繊維マルチフィラメント撚糸を所定の態様で巻き付けたカバリング糸としての釣り糸が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、そのような釣り糸は、スピニングリールを用いてキャストする際に、様々な要因により組紐が緩みを生じやすく糸が絡まり合いエアノットと呼ばれる結び目が生じやすい。エアノットが起こると高価なルアー等を失ってしまうことになる。また、組紐が緩むことで空気抵抗が増えルアーの飛距離が低下する。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、釣り糸のエアノット防止性及び飛距離の維持に優れるコート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特に、所定の共重合体を含むコート剤を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
炭素数10以上の脂肪族基を有する第1のモノマーからなる構成単位と、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有する第2のモノマーからなる構成単位と、を含む共重合体と、
接着性樹脂と、を含む、
コート剤。
[2]
前記共重合体を構成する前記第1のモノマーが、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、及びラウリルメタクリレートからなる群より選ばれる1以上を含む、
[1]に記載のコート剤。
[3]
前記共重合体を構成する前記第2のモノマーが、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドからなる群より選ばれる1以上を含む、
[1]又は[2]に記載のコート剤。
[4]
前記共重合体が、ブロック共重合体であり、
前記第1のモノマーのブロックの重量平均分子量が、2000以上である、
[1]~[3]のいずれかに記載のコート剤。
[5]
前記共重合体の濃度が、前記コート剤の総量に対して、0.01~10.0質量%である、
[1]~[4]のいずれかに記載のコート剤。
[6]
前記接着性樹脂が、アクリル系樹脂及び水溶性ウレタン系樹脂のうち少なくともいずれかを含む、
[1]~[5]のいずれかに記載のコート剤。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載のコート剤を、組紐に付着させた、
被覆付き組紐。
[8]
前記組紐が、超高分子量ポリエチレン系繊維を含む、
[7]に記載の被覆付き組紐。
[9]
釣り糸に用いられる、
[7]又は[8]に記載の被覆付き組紐。
[10]
フィラメントを製紐して組紐を得る製紐工程と、
[1]~[6]のいずれかに記載のコート剤を前記組紐に付着させて被覆付き組紐を得る付着工程を含む、
釣り糸の製造方法。
[11]
フィラメントを加撚して撚糸を得る加撚工程をさらに含む、
[10]に記載の釣り糸の製造方法。
[12]
前記被覆付き組紐を40~120℃の温度で乾燥する乾燥工程をさらに含む、
[10]又は[11]に記載の釣り糸の製造方法。
[13]
前記加撚が、10~500回/mである、
[11]又は[12]に記載の釣り糸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、釣り糸のエアノット防止性及び飛距離の維持に優れるコート剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
1.コート剤
本実施形態のコート剤は、炭素数10以上の脂肪族基を有する第1のモノマーからなる構成単位と、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有する第2のモノマーからなる構成単位と、を含む共重合体と、接着性樹脂と、を含む。また、本実施形態のコート剤は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を含んでいてもよい。
【0012】
本実施形態のコート剤がエアノット防止性に優れる技術的メカニズムについては、特に限定されないが、例えば、次のように考えられる。本実施形態のコート剤は、所定の第1のモノマーからなる構成単位と所定の第2のモノマーからなる構成単位とを含む。第1のモノマーからなる構成単位は疎水性で側鎖結晶性であり、一般的に疎水性であるフィラメントの表面と強く相互作用する。一方で、第2のモノマーからなる構成単位は親水性と疎水性のバランスに優れる構成単位であり、フィラメント用の一般的な接着性樹脂全般との相互作用に優れる。そのため、フィラメント表面が、上記共重合体によって、接着性樹脂が吸着しやすいように表面改質されることで、単に接着性樹脂を用いた場合よりもフィラメント間の密着性が強くなり、組紐が緩むことなく、エアノット防止性と飛距離の維持に優れるものと考えられる。
【0013】
1.1.共重合体
本実施形態で用いる共重合体は、炭素数10以上の脂肪族基を有する第1のモノマーからなる構成単位と、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有する第2のモノマーからなる構成単位と、を有する。共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、本実施形態の効果の発揮の観点から、ブロック共重合体であることが好ましい。
【0014】
第1のモノマーが有する脂肪族基の炭素数は、10以上であり、好ましくは14以上であり、より好ましくは16以上であり、さらに好ましくは18以上であり、特に好ましくは20以上である。脂肪族基の炭素数が上記範囲内であることにより、組紐表面に対する吸着強度がより向上する傾向にある。また、脂肪族基の炭素数の上限は、特に制限されないが、好ましくは30以下である。脂肪族基の炭素数が上記範囲内であることにより、溶剤への溶解性がより向上する傾向にある。
【0015】
なお、脂肪族基としては、直鎖状脂肪族基、分岐状脂肪族基、及び環状脂肪族基が挙げられる。このなかでも、組紐表面に対する吸着強度の観点から、直鎖状脂肪族基が好ましい。
【0016】
第1のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ビニルモノマーであることが好ましい。ビニルモノマーを用いることにより、各種リビング重合により比較的容易にブロック共重合体を生成することができる。また、それにより接着性樹脂との相互作用に優れる傾向にある。
【0017】
このような第1のモノマーの具体例としては、特に制限されないが、例えば、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、ミリスチルアクリレート、ミリスチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレートが挙げ有られる。なお、第1のモノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
このなかでも、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、及びラウリルメタクリレートからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。このような第1のモノマーを用いることにより、組紐表面に対する吸着強度がより向上する傾向にある。
【0019】
共重合体を構成する第1のモノマーの含有量(共重合割合)は、共重合体100質量%に対して、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%である。第1のモノマーの含有量が上記範囲内であることにより、組紐表面に対する吸着強度がより向上する傾向にある。
【0020】
本実施形態の共重合体がブロック共重合体である場合、共重合体を構成する第1のモノマーのブロックの重量平均分子量は、好ましくは2000以上であり、より好ましくは3000以上である。共重合体を構成する第1のモノマーの重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、100000以下である。共重合体を構成する第1のモノマーの重量平均分子量が2000以上、すなわち絡まりあいに寄与し得る長鎖アルカン鎖部位がより長くなることにより、共結晶相互作用に由来する結合の割合が増加する傾向にある。これにより、高密度ポリエチレンや超高分子量ポリエチレン等からなるフィラメントの表面に対して共重合体がより強く結合することができる。なお、第1のモノマーの重量平均分子量の測定方法は、従来公知の方法であれば特に制限されないが、例えば、第1のモノマーのブロックを重合し終えた後、第2のモノマーのブロックを重合開始する前に、GPCにより測定する方法が挙げられる。
【0021】
第2のモノマーは、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有するものであれば特に制限されないが、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかを有するビニルモノマーであることが好ましい。ビニルモノマーを用いることにより、各種リビング重合により比較的容易にブロック共重合体を生成することができ、かつ、接着性樹脂との相互作用に優れる傾向にある。また、第2のモノマーの有する官能基は、アミノ基、エポキシ基、又はエーテル基のいずれかであれば特に制限されず、これら官能基を2以上組み合わせて有していてもよい。
【0022】
このような第2のモノマーの具体例としては、特に制限されないが、例えば、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアミノ基を有するモノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を有するモノマー;ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート等のエーテル基を有し、水酸基末端を有するモノマー;ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート等のエーテル基を有し、アルコキシ基末端を有するモノマーが挙げられる。なお、第2のモノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
このなかでも、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。このような第2のモノマーを用いることにより、組紐表面の改質効果がより向上する傾向にある。
【0024】
共重合体を構成する第2のモノマーの含有量(共重合割合)は、共重合体100質量%に対して、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%である。第2のモノマーの含有量が上記範囲内であることにより、組紐表面の改質効果がより向上する傾向にある。
【0025】
共重合体の含有量は、コート剤の総量に対して、好ましくは0.01~10.0質量%であり、より好ましくは0.1~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.3~3.0質量%であり、よりさらに好ましくは0.5~2.0質量%である。共重合体の含有量が、コート剤の総量に対して、0.01質量%以上であることにより、エアノット防止性が一層向上する傾向にあり、同様に、共重合体の含有量が、コート剤の総量に対して、10.0質量%以下であることにより、エアノット防止性が一層向上する傾向にある。
【0026】
接着性樹脂の含有量に対する共重合体の含有量の比は、好ましくは0.01~0.7であり、より好ましくは0.03~0.5であり、さらに好ましくは0.05~0.3であり、よりさらに好ましくは0.07~0.1である。接着性樹脂の含有量に対する共重合体の含有量の比が0.01以上であることにより、組紐の表面に共重合体の疎水性の構成単位が吸着し、それにより接着性樹脂による接着性が向上し、エアノット防止性に一層優れる傾向にある。また、接着性樹脂の含有量に対する共重合体の含有量の比が0.7以下であることにより、接着性樹脂による組紐の接着性を十分に発揮でき、エアノット防止性に一層優れる傾向にある。
【0027】
1.2.接着性樹脂
本実施形態の接着性樹脂は、フィラメント間の密着性を向上させ、たわみやすさを低減させるものであれば特に限定されない。なお、本実施形態の接着性樹脂は、本実施形態の共重合体を含まない。
【0028】
そのような接着性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、変性ポリエチレン系樹脂、変性ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、変性ナイロン系樹脂、水溶性ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、及びエポキシ系樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。その中でも、接着性をより向上させる観点から、アクリル系樹脂、水溶性ウレタン系樹脂、変性ポリエチレン系樹脂、及び変性ポリプロピレン系樹脂からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、アクリル系樹脂及び水溶性ウレタン系樹脂のうち少なくともいずれかを含むことがより好ましい。
【0029】
接着性樹脂は、従来公知の方法により製造してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、特に限定されないが、例えば、プラスサイズJ-96(互応化学化学工業株式会社製)、ハイドランAP-40N(大日本インキ化学工業株式会社製)、ハイドランAP-40F(大日本インキ化学工業株式会社製)、ハイドランAP-X101H(大日本インキ化学工業株式会社製)、アローベースSB-1200(ユニチカ株式会社製)、アローベースSD-1200(ユニチカ株式会社製)、ポリメントNK100PM(株式会社日本触媒製)、エポクロスWS-300(株式会社日本触媒製)、ポリストロン1280(荒川化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0030】
接着性樹脂の含有量は、コート剤の総量に対して、好ましくは2.0~30質量%であり、より好ましくは5.0~25質量%であり、さらに好ましくは8.0~20質量%である。接着性樹脂の含有量が、コート剤の総量に対して、2.0質量%以上であることにより、エアノット防止性が一層向上する傾向にあり、接着性樹脂の含有量が、コート剤の総量に対して、30質量%以下であることにより、力学特性が一層向上する傾向にある。
【0031】
2.被覆付き組紐
本実施形態の被膜付き組紐は、本実施形態のコート剤を付着させた組紐である。なお、組紐とは、複数のフィラメントを製紐したものを意味する。本実施形態の被覆付き組紐は、釣り糸に好適に用いられる。
【0032】
組紐に用いられるフィラメントとしては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、及びフロロカーボン系繊維が挙げられる。ポリオレフィン系繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系繊維及びポリプロピレン系繊維が挙げられる。その中でも、エアノット防止性を一層向上させる観点からは、ポリオレフィン系繊維を含むことが好ましく、ポリエチレン系繊維を含むことがより好ましく、高分子量ポリエチレン系繊維を含むことがさらに好ましく、超高分子量ポリエチレン系繊維を含むことがよりさらに好ましい。
【0033】
ポリエチレン系繊維は、構成モノマー比として少なくとも50モルパーセントのエチレン単位を有するホモポリマーまたはコポリマーを意味する。ここで、高分子量ポリエチレンとは、重量平均分子量が40000以上のポリエチレンを意味する。また、超高分子量ポリエチレンとは、重量平均分子量が1000000以上のポリエチレンを意味する。
ポリエチレン系繊維としては、特に限定されないが、例えば、IZANAS(東洋紡社製)、Dyneema(DSM社製)、及びSpectra(Honeywell社製)が挙げられる。
【0034】
ポリプロピレン系繊維は、構成モノマー比として少なくとも50モルパーセントのプロピレン単位を有するホモポリマーまたはコポリマーを意味する。ポリプロピレン系繊維としては、特に限定されないが、例えば、Marvess(Phillips Fibers社製)が挙げられる。
【0035】
組紐に用いるフィラメントの太さは、好ましくは33~880dtexであり、より好ましくは740~330dtexであり、さらに好ましくは148~185dtexである。
イザナスのHPより
【0036】
組紐は、特に限定されないが、例えば、従来公知の組紐機(製紐機)を用いて編み上げられる。編み上げるフィラメントの本数は、特に限定されないが、例えば、2本打ち、4本打ち、8本打ち、16本打ちのいずれでもよく、組角も任意である。
【0037】
組紐に対して本実施形態のコート剤を付着させる方法については後述のとおりである。
【0038】
3.釣り糸の製造方法
本実施形態の釣り糸の製造方法は、フィラメントを製紐して組紐を得る製紐工程と、本実施形態のコート剤を前記組紐に付着させて被覆付き組紐を得る付着工程を含み、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。
【0039】
製紐工程における製紐方法としては、特に限定されないが、例えば、平打ち、丸打ち、及び角打ちが挙げられる。また、マルチフィラメントを製紐した後に熱処理を行ってもよい。
【0040】
付着工程における付着方法としては、特に限定されないが、例えば、コート剤を組紐の表面に対してスプレーする方法、コート剤を組紐の表面に塗布する方法、組紐をコート剤に浸漬させる方法が挙げられる。
【0041】
本実施形態の釣り糸の製造方法は、その他の工程として、フィラメントを加撚して撚糸を得る加撚工程をさらに含んでいてもよい。、
【0042】
加撚工程における加撚は、特に限定されないが、例えば、従来公知の撚糸機により加撚することができる。撚糸機としては、特に限定されないが、例えば、リング撚糸機、ダブルツイスター撚糸機、及びアロマ撚糸機が挙げられる。
【0043】
加撚工程において、加撚は、好ましくは10~500回/mであり、より好ましくは20~400回/mであり、さらに好ましくは40~300回/mである。加撚が10回/m以上であることで毛羽立ちや節の発生を一層防止することができる傾向にある。また、加撚が500回/m以下であることで、エアノット防止性が一層向上する傾向にある。
【0044】
本実施形態の釣り糸の製造方法は、その他の工程として、被覆付き組紐を40~120℃の温度で乾燥する乾燥工程をさらに含んでいてもよい。上記の乾燥温度が40℃以上であることで、エアノット防止性が一層向上する傾向にあり、乾燥温度が100℃以下であることがで、組紐の力学特性が一層向上する傾向にある。乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは10秒~10分であり、より好ましくは20秒~5分であり、さらに好ましくは30秒~2分である。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
1.共重合体の作製
1.1.共重合体1(STA-DEAEMA)
ステアリルアクリレート5.0gと、酢酸ブチル5.0gと、BlocBuilderR MA(ARKEMA社製)(開始剤)0.38gとを撹拌重合装置に投入し、装置内を窒素雰囲気で置換した。その後、オイルバス(110℃)で加熱しながら24時間重合した。次に、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート5.0gと、酢酸ブチル5.0gとを、撹拌重合装置にさらに投入し、オイルバス(110℃)で加熱しながら、24時間重合した。重合後、反応液をメタノール中に滴下し、ステアリルアクリレートと2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレートのブロック共重合体を沈殿させて、沈殿物をろ過することにより共重合体を得た。なお、共重合体中のステアリルアクリレートからなるブロックの重量平均分子量は5000であり、共重合体中の2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレートからなるブロックの重量平均分子量は5000であった。
【0047】
1.2.共重合体2(STA-DEEA)
ステアリルアクリレート5.0gと、酢酸ブチル5.0gと、BlocBuilder MA(ARKEMA社製)0.38g(開始剤)とを撹拌重合装置に投入し、装置内を窒素雰囲気で置換した。その後、オイルバス(110℃)で加熱しながら24時間重合した。次に、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート5.0gと、酢酸ブチル5.0gとを、撹拌重合装置にさらに投入し、オイルバス(110℃)で加熱しながら、24時間重合した。重合後、反応液をメタノール中に滴下し、ステアリルアクリレートとジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレートのブロック共重合体を沈殿させて、沈殿物をろ過することにより共重合体を得た。
なお、共重合体中のステアリルアクリレートからなるブロックの重量平均分子量は5000であり、共重合体中のジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレートからなるブロックの重量平均分子量は5000であった。
【0048】
1.3.共重合体3(BHA-TBAEMA)
ベヘニルアクリレート5.0gと、酢酸ブチル5.0gと、BlocBuilderR MA(ARKEMA社製)(開始剤)0.38gとを撹拌重合装置に投入し、装置内を窒素雰囲気で置換した。その後、オイルバス(110℃)で加熱しながら24時間重合した。次に、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート5.0gと、酢酸ブチル5.0gとを、撹拌重合装置にさらに投入し、オイルバス(110℃)で加熱しながら、24時間重合した。重合後、反応液をメタノール中に滴下し、ベヘニルアクリレートと2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレートのブロック共重合体を沈殿させて、沈殿物をろ過することにより共重合体を得た。なお、共重合体中のベヘニルアクリレートからなるブロックの重量平均分子量は5000であり、共重合体中の2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレートからなるブロックの重量平均分子量は5000であった。
【0049】
2.コート剤の作製
上記のとおり得られた共重合体1~3と接着性樹脂と、を表1及び2に記載の組成となるように混合し、各実施例及び比較例のコート剤を得た。なお、表1及び2の組成においては特に記載が無い限り質量%を意味し、「SB/WS」とは、後述するSB-1200とWS-300とを、100:2の比率で混合した混合物を意味する。
【0050】
【0051】
【0052】
表1中に示す各成分の詳細はそれぞれ以下のとおりである。
・J-96:製品名「プラスサイズJ-96」、互応化学化学工業株式会社製、アクリル系樹脂、固形分濃度22質量%
・ハイドラン:製品名「ハイドランAP-40N」、大日本インキ化学工業株式会社製、水性ウレタン樹脂、固形分濃度35質量%
・SB:製品名「アローベースSB-1200」、ユニチカ株式会社製、変性ポリエチレン樹脂、固形分濃度25質量%
・WS:製品名「エポクロスWS-300」、株式会社日本触媒製、オキサゾリン基含有水溶性アクリル系樹脂、固形分濃度10質量%
【0053】
2.釣り糸の作製
フィラメント(イザナス(登録商標)、東洋紡株式会社製、165dtex)に対して、リング撚糸機を用いて70回/mとなるようにフィラメントを加撚して撚糸を得た。その後、撚糸に対して8本角打ちで製紐を行い、組紐を得た。該組紐を、各実施例及び各比較例のコート剤に浸漬させた後、65℃雰囲気下において1分間乾燥させることにより、被覆付き組紐としての釣り糸を作製した。
【0054】
3.評価
得られた各釣り糸と、ロッド(RippleFisher社製、Ultimo82)と、リール(シマノ社製、ステラ14000xG)と、ルアー(シマノ社製、ワイルドレスポンス 137g)を用いて、熟練した当業者によるキャスティングを行い、キャストの際の飛距離及びエアノット回数を評価した。その結果を表1及び2に示す。
【0055】
4.考察
各実施例と比較例の対比によれば、コート剤が共重合体を含むことにより、接着性樹脂の種類によらずエアノット防止性に優れることがわかった。
実施例2~5の対比によれば、共重合体の含有量が、コート剤の総量に対して、0.5~2.0質量%であることにより、特にエアノット防止性に優れることがわかった。
同様に、実施例2~7の対比によれば、接着性樹脂の含有量に対する共重合体の含有量の比が、0.07~0.1であることにより、特にエアノット防止性に優れることがわかった。
実施例2、8、及び9の対比によれば、共重合体中の第2のモノマーが所定の化合物であることにより、特にエアノット性に優れることがわかった。