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特開2024-132664捨石マウンドの構築方法、情報処理装置および情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132664
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】捨石マウンドの構築方法、情報処理装置および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   E02D 15/10 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E02D15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043522
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】森 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優大
(72)【発明者】
【氏名】松本 歩
【テーマコード(参考)】
2D045
【Fターム(参考)】
2D045AA04
2D045BA02
2D045CA32
(57)【要約】
【課題】投入した捨石を除去したり、捨石を後から追加投入したり、手戻りとなる再締固めをしたりすることなく、捨石マウンドの天端を設計通りの高さに仕上げるようにする。
【解決手段】締め固める箇所の周囲において捨石群が受ける影響の大きさを示す変位影響マップを用いて、複数の施工箇所に分けたうちの一の施工箇所に対し、一の施工箇所の周囲の施工箇所における捨石群を締め固めた場合における受ける影響の大きさを示す影響評価点を、複数の施工箇所について施工順序を反映させ算出するステップと、影響評価点に基づいて、対応する施工箇所の捨石群を締め固めた場合の、当該施工箇所の締固め直後の天端の高さを、所定の設計高さに、周囲の施工箇所における捨石群を締め固めたときの影響による変位量を加減した高さに決定するステップと、を有する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に投入された捨石群を剛状物で上から打撃して当該捨石群を締め固める捨石マウンドの構築方法において、
前記剛状物で打撃して締め固める箇所の周囲において捨石群が受ける影響の大きさを示す変位影響マップを用いて、前記捨石マウンドの施工場所を複数の施工箇所に分けたうちの一の施工箇所に対し、前記一の施工箇所の周囲の施工箇所における捨石群を締め固めた場合における受ける影響の大きさを示す影響評価点を、複数の施工箇所について施工順序を反映させ算出するステップと、
算出された影響評価点に基づいて、対応する施工箇所の捨石群を締め固めた場合の、当該施工箇所の締固め直後の天端の高さを、所定の設計高さに、周囲の施工箇所における捨石群を締め固めたときの影響による変位量を加減した高さに決定するステップと、
各施工箇所の捨石群を前記剛状物で上から打撃して、当該施工箇所の天端の高さを決定された高さとなるように締め固めるステップと、
を有する捨石マウンドの構築方法。
【請求項2】
前記影響評価点を算出するステップを行う前に、前記捨石群を前記剛状物で上から打撃した場合に生じる、打撃地点の周囲に存在する捨石群の変位量を示す変位形状データに基づいて、前記変位影響マップを作成するステップを更に有する、
請求項1に記載の捨石マウンドの構築方法。
【請求項3】
前記変位影響マップを作成するステップを行う前に、数値解析または実測により前記変位形状データを取得するステップを更に有する、
請求項2に記載の捨石マウンドの構築方法。
【請求項4】
前記天端の高さを決定するステップにおいて、
捨石群を締め固める前の各施工箇所の天端の平均高さを測定するステップと、
前記平均高さ、前記設計高さ、前記設計高さから外れることが許容される高さの差である許容誤差に基づいて設定された複数の仕上げパターン、および前記変位形状データに基づいて、全ての施工箇所において捨石群の締固めを終えた後の前記捨石マウンドの天端の高さの分布を、仕上げパターン毎に予測するステップと、
予測された複数の高さの分布のうち、前記許容誤差を超えない高さとなる施工箇所の割合が最も多くなった分布の元になった仕上げパターンを選択し、前記天端の高さを決定するステップと、
を含む、
請求項2または3に記載の捨石マウンドの構築方法。
【請求項5】
前記天端の高さを決定するステップは、
少なくとも一の施工箇所における捨石群を締め固めた後、前記平均高さを実測により再測定するステップと、
再測定された平均高さに応じた仕上げパターンを再選択するステップと、
を含む、
請求項4に記載の捨石マウンドの構築方法。
【請求項6】
海底に投入された捨石群を剛状物で上から打撃して当該捨石群を締め固める捨石マウンドの構築に用いられる情報処理装置であって、
前記剛状物で打撃して締め固める箇所の周囲において捨石群が受ける影響の大きさを示す変位影響マップを用いて、前記捨石マウンドの施工場所を複数の施工箇所に分けたうちの一の施工箇所に対し、前記一の施工箇所の周囲の施工箇所における捨石群を締め固めた場合における受ける影響の大きさを示す影響評価点を、複数の施工箇所について施工順序を反映させ算出する算出部と、
算出された影響評価点に基づいて、対応する施工箇所の捨石群を締め固めた場合の、当該施工箇所の締固め直後の天端の高さを、所定の設計高さに、周囲の施工箇所における捨石群を締め固めたときの影響による変位量を加減した高さに決定する決定部と、
を備える情報処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための情報処理プログラムであって、
前記算出部、および前記決定部としてコンピュータを機能させるための情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捨石マウンドの構築方法、情報処理装置および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
防波堤や護岸の基礎マウンドの構築のため、海底に投入された捨石群の上に重錘を落下させることにより当該捨石群を締め固める捨石マウンドの構築方法において、従来、重錘落下地点の周囲に生じる捨石が隆起する課題を解決するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、基礎圧密均し工法計画天端高さより高い所要の余盛り高さにした水中捨石基礎に対して、重錘の自由落下を反復実施することによる輾圧作業を行って計画天端高さまで圧密均しするとともに、その輾圧作業によって皺寄せられて競り上がった捨石群の所要量をグラブバケット等の捨石除去手段により除去した後、その除去部分を重錘により輾圧する工法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001‐241041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構築途中の捨石マウンドには、剛状物の打撃(例えば重錘の落下等)によって既に締固めを行った周辺箇所で隆起しやすい箇所や沈下しやすい箇所が存在する。沈下の影響を考慮せずに単に隆起した捨石を除去してしまうと、締固めを進めていくうちに、それまで設計高さに保たれていた箇所が沈下し、再度捨石を足さなければならなくなる可能性もある。
【0005】
本発明の一態様は、上記問題点に鑑みてなされたもので、剛状物での打撃によって捨石を締め固める捨石マウンドの構築方法において、投入した捨石を除去したり、捨石を後から追加投入したり、手戻りとなる再締固めをしたりすることなく、捨石マウンドの天端を設計通りの高さに仕上げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る捨石マウンドの構築方法は、海底に投入された捨石群を剛状物で上から打撃して当該捨石群を締め固める捨石マウンドの構築方法において、前記剛状物で打撃して締め固める箇所の周囲において捨石群が受ける影響の大きさを示す変位影響マップを用いて、前記捨石マウンドの施工場所を複数の施工箇所に分けたうちの一の施工箇所に対し、前記一の施工箇所の周囲の施工箇所における捨石群を締め固めた場合における受ける影響の大きさを示す影響評価点を、複数の施工箇所について施工順序を反映させ算出するステップと、算出された影響評価点に基づいて、対応する施工箇所の捨石群を締め固めた場合の、当該施工箇所の締固め直後の天端の高さを、所定の設計高さに、周囲の施工箇所における捨石群を締め固めたときの影響による変位量を加減した高さに決定するステップと、各施工箇所の捨石群を前記剛状物で上から打撃して、当該施工箇所の天端の高さを決定された高さとなるように締め固めるステップと、を有する。
【0007】
また、本発明の他の態様に係る情報処理装置は、海底に投入された捨石群を剛状物で上から打撃して当該捨石群を締め固める捨石マウンドの構築に用いられる情報処理装置であって、前記剛状物で打撃して締め固める箇所の周囲において捨石群が受ける影響の大きさを示す変位影響マップを用いて、前記捨石マウンドの施工場所を複数の施工箇所に分けたうちの一の施工箇所に対し、前記一の施工箇所の周囲の施工箇所における捨石群を締め固めた場合における受ける影響の大きさを示す影響評価点を、複数の施工箇所について施工順序を反映させ算出する算出部と、算出された影響評価点に基づいて、対応する施工箇所の捨石群を締め固めた場合の、当該施工箇所の締固め直後の天端の高さを、所定の設計高さに、周囲の施工箇所における捨石群を締め固めたときの影響による変位量を加減した高さに決定する決定部と、を備える。
【0008】
本発明の各態様に係る情報処理装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記情報処理装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記情報処理装置をコンピュータにて実現させる情報処理装置の情報処理プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、投入した捨石を除去したり、捨石を後から追加投入したり、手戻りとなる再締固めをしたりすることなく、捨石マウンドの天端を設計通りの高さに仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一態様の実施形態に係る重錘による締固め・均し作業の一例を示す側面図である。
図2図1の一部を拡大した側面図である。
図3】同実施形態に係る締固め装置が備える情報処理装置の構成の一例を示すフローチャート図である。
図4】同実施形態に係る情報処理装置が情報の処理に用いる変位形状データであって、周辺部が締固めされている場合の変位形状データの一例を示すグラフである。
図5】同実施形態に係る情報処理装置が情報の処理に用いられる変位形状データであって周辺部が締固めされていない場合の変位形状データの他の例を示すグラフである。
図6】同実施形態に係る情報処理装置が情報の処理に用いる変位影響マップの一例を示す図である。
図7】施工場所の複数の施工箇所への分け方、および施工の順番の設定の仕方の一例を示す図である。
図8】同実施形態に係る情報処理装置が行う影響評価点の算出について説明する図である。
図9】同実施形態に係る情報処理装置が情報の処理に用いる仕上げパターンの一例を示す一覧である。
図10】本発明の他の態様の実施形態に係る捨石マウンドの構築方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0012】
[締固め装置]
まず、締固め装置の概要について説明する。締固め装置100は、捨石マウンドの構築に用いられる装置である。図1に示したように、本実施形態に係る締固め装置100は、クレーン1と、重錘2(剛状体)と、情報処理装置3と、を備える。クレーン1、および重錘2は、従来公知のものを用いることができる。なお、締固め装置100の形態は、図1に示したようなクレーンを用いて重錘を落下させる形態に限られない。すなわち、締固め装置100の形態は、例えばハンマー等の剛状体によって打撃を与える形態であってもよいし、重錘やハンマーを搭載した海底歩行機械を用いる形態であってもよい。情報処理装置3は、クレーン1に備えられていてもよいし、クレーン1から離れた場所に、当該クレーン1と通信可能な状態で設けられていてもよい。
【0013】
締固め装置100を用いて、海底に投入された捨石群を上から打撃すると、図2に示したように、重錘2の下方の捨石群が沈下して締め固められる。また、このとき、重錘2の端部2aに近いところでも捨石群が沈下する。一方、重錘2の端部2aから水平方向に離れたところでは、捨石群が隆起する。打撃部の周辺における捨石群の沈下および隆起の範囲や程度は、捨石群が既に締め固められているか否かによって異なる。この捨石群の沈下および隆起の範囲や程度の相違については後述する。
【0014】
[情報処理装置の詳細]
次に、情報処理装置3の詳細について説明する。情報処理装置3は、海底に投入された捨石群を剛状物で上から打撃して当該捨石群を締め固める捨石マウンドの構築に用いられるコンピュータである。図3に示したように、情報処理装置3は、入力部31と、出力部32と、記憶部33と、制御部34と、を備える。
【0015】
〔入力部〕
入力部31は、他の装置からデータや信号を受信する通信モジュール、他の装置と接続される端子、記録媒体から情報を読み込むドライブ、ユーザが操作可能な操作機器の少なくともいずれかで構成されている。操作機器には、キーボード、マウスおよびタッチパネルの少なくともいずれかが含まれる。
【0016】
〔出力部〕
出力部32は、他の装置(表示装置、クレーン1等)へデータや信号を送信する通信モジュール、他の装置と接続される端子、記録媒体へ情報を書き込むドライブ、および画像を表示するディスプレイなどの表示装置の少なくともいずれかで構成されている。
【0017】
〔記憶部〕
記憶部33は、制御部34に行わせる動作が記述された各種プログラム(情報処理プログラム331を含む)を記憶している。また、本実施形態に係る記憶部33は、変位形状データ332(詳細後述)を記憶している。また、本実施形態に係る記憶部33は、変位影響マップ333(詳細後述)を記憶している。また、本実施形態に係る記憶部33は、半導体メモリ、ハードディスクドライブ等で構成されている。
【0018】
〔制御部〕
制御部34は、データ取得部341と、算出部342と、決定部343と、出力制御部344と、を備える。本実施形態に係る制御部34は、プロセッサやメモリ等で構成されている。このプロセッサが上記記憶部33に記憶されている情報処理プログラム331を実行することにより、情報処理プログラム331は制御部34を上記各制御ブロック341~344として機能させることができる。
【0019】
(データ取得部)
データ取得部341は、記憶部33に記憶されている変位形状データ332を取得する。変位形状データ332は、捨石群を剛状物で上から打撃した場合に生じる、打撃地点の周囲に存在する捨石群の変位量を示すデータである。また、変位形状データ332は、数値解析または実測により得られるデータである。変位形状データ332の作成方法については、下記「捨石マウンドの構築方法」において説明する。なお、データ取得部341は、記憶部33からではなく、他の装置から入力部31を介して変位形状データ332を取得するよう構成されていてもよい。
【0020】
図4に示したように、本実施形態に係る変位形状データ332は、捨石群の上に落下したときの重錘2の端部2a(重錘2の下端部側面:図2参照)からの水平方向の距離を横軸とし、捨石群の変位量を縦軸とするグラフをなしている。なお、捨石群の変位量は、重錘2の落下前の天端の高さを0、重錘2の沈下量を例えば-1.0としたときの相対値(無次元の変位量)としている。捨石群の変位の傾向は、その捨石群の周囲が既に締め固められているか、未だ締め固められていないか、によって異なる。周囲が既に締め固められている場合の変位形状データ332は、例えば図4に示したように締固めを行う周辺部が締固めされている場合には、重錘2の落下箇所から3m程度までの範囲では連れ込み沈下が生じ、落下箇所から4m前後の範囲では、緩やかな隆起が生じることを示す。一方、締固めを行う周辺部が未だ締め固められていない場合の変位形状データ332は、図5に示したように、重錘2の落下箇所から0.5m程度までの範囲では連れ込み沈下が生じ、落下箇所から2m前後の範囲では大きな隆起が生じることを示す。つまり、図4図5ともに重錘2の端部2aに近いところでは,沈下があり,そこから離れると隆起傾向になるという結果を示している。
【0021】
また、データ取得部341は、記憶部33に記憶されている変位影響マップ333を取得する。変位影響マップ333は、剛状物で打撃して締め固める箇所の周囲において捨石群が受ける影響の大きさを示すマップである。また、変位影響マップ333は、変位形状データ332に基づいて作成されるマップである。変位影響マップ333の作成方法については、下記「捨石マウンドの構築方法」において説明する。なお、データ取得部341は、記憶部33からではなく、他の装置から入力部31を介して変位影響マップ333を取得するよう構成されていてもよい。
【0022】
図6に示したように、本実施形態に係る変位影響マップ333は、nマス×nマス(例えば7マス×7マス)の格子状をなしている。一つのマスは、捨石マウンドの施工場所を複数の施工箇所P1・・PN(Nは施工の順番)に分けたうちの一の施工箇所に対応している。中央のマスは、締め固め対象(重錘落下箇所)の施工箇所に対応している。中央のマスから所定範囲内にある一部のマスには、数値が記載されている。この数値は、マップの中央のマスに対応する施工箇所を締め固めた場合に、その数値が記載されたマスに対応する施工箇所の捨石群が受ける影響の大きさを示す。以下、変位影響マップ333の各マスに記載された数値を影響値と称する。正の影響値は、そのマスに対応する施工箇所が、周囲の締固めによって隆起し易いことを意味する。また、影響値が大きいほど隆起の程度が大きくいことを意味する。一方、負の影響値は、そのマスに対応する施工箇所が、周囲の締固めによって沈下し易いことを意味する。また、影響値の絶対値が大きいほど沈下の程度が大きいことを意味する。
【0023】
(算出部)
算出部342は、変位影響マップ333を用いて、影響評価点を、複数Nの施工箇所P1・・PNについて施工順序を反映させ算出する。影響評価点は、捨石マウンドの施工場所を複数の施工箇所P1・・PNに分けたうちの一の施工箇所Pnに対し、一の施工箇所Pnの周囲の施工箇所Pn+1・・PNにおける捨石群を締め固めた場合における受ける影響の大きさを示す数値である。本実施形態に係る算出部342は、変位影響マップ333を参照して、一の施工箇所Pnより後に締め固められる各施工箇所Pn+1・・PNの締固めを行う場合の一の施工箇所Pnにおける影響点をそれぞれ特定し、それらを累積する。なお、一の施工箇所Pnより前に締め固められる施工箇所P1・・Pn-1の締固めが、締固め後の一の施工箇所Pnに影響を及ぼすことは無い。このため、一の施工箇所Pnにおける影響評価点の算出に、一の施工箇所Pnより前に締め固められる施工箇所P1・・Pn-1のことは考慮しない。
【0024】
具体例として、例えば図7に示したように、施工場所が108(9マス×12マス)の施工箇所に分けられている(マスの数値は施工の順番を示す)場合であって、(施工が終わった)4番目の施工箇所P4における影響評価点を算出しようとする(1~3番目の施工箇所P1~P3における影響評価点の算出は済んでいる)場合について説明する。算出部342は、まず、5番目の施工箇所P5の締固めを行う場合の4番目の施工箇所P4における影響値を特定する。図8に示したように、変位影響マップ333の中央のマスが5番目の施工箇所P5に対応しているとき、4番目の施工箇所P4に対応するマスは中央のマスの一つ上のマスとなる。この中央のマスの一つ上のマスの影響値(-1)が、5番目の施工箇所P5の締固めが4番目の施工箇所P4に及ぼす影響の大きさとなる。以下、同様にして、算出部342は、6、7・・108番目のそれぞれの施工箇所の締固めが4番目の施工箇所P4に及ぼす影響の大きさを特定する。
【0025】
そして、特定した各影響値を累積する。この影響値の累積値が、一の施工箇所Pnにおける影響評価点となる。正の影響評価点は、対応する施工箇所が、後に行われる周囲の締固めによって隆起し易いことを示す。一方、負の影響評価点は、その施工箇所が、後に行われる周囲の締固めによって沈下し易いことを示す。ところで、重錘の落下位置から遠く離れた場所に位置する捨石群が受ける影響は、(設計上の)許容範囲の数値から判断して無視できるほど小さい。このため、図6に示したように、変位影響マップ333は、中央のマスから遠く離れたマスの影響値がゼロとなる。また、一の施工箇所Pnの位置が、周囲の締固めを行う位置から遠く離れていて変位影響マップ333の外側にあたる場合は、影響値をゼロとしても良い。例えば、図7に示した施工場所の場合であって、例えば施工箇所P4における影響評価点を算出する場合、遠く離れている16、17、18~34、35、36~73、74、75番目等の施工箇所の影響点は特定されなくても問題は生じない。よって、一の施工箇所Pnにおける影響点を特定できないことが予め分かっている施工箇所については、影響値の特定を省略する。以上説明してきた一の施工箇所Pnにおける影響評価点の算出を、当該一の施工箇所Pnより後に締め固められる各施工箇所Pn+1・・PNについても同様に算出する。
【0026】
(決定部)
決定部343は、算出された影響評価点に基づいて、対応する施工箇所Pnの仕上げ高さHを決定する。仕上げ高さHは、対応する施工箇所Pnの捨石群を締め固めた場合の、当該施工箇所Pnの締固め直後の天端の高さである。具体的には、決定部343は、仕上げ高さHを、所定の設計高さHDに、周囲の施工箇所における捨石群を締め固めたときの影響による変位量を加減した高さに決定する。決定部343は、高さ取得部343aと、予測部343bと、選択部343cと、を備える。
【0027】
高さ取得部343aは、捨石群を締め固める前の各施工箇所P1~PNの天端の平均高さHmをそれぞれ取得する。本実施形態に係る高さ取得部343aは、ユーザによって入力部31に入力された数値を平均高さHmとして取得する。本実施形態に係る高さ取得部343aは、設計高さHD、および許容誤差Eも取得する。設計高さHDは、施工後この高さにしたいという目標値である。許容誤差Eは、設計高さHDから外れることが許容される高さの差である。高さ取得部343aは、ユーザによって入力部31に入力された数値を設計高さHD、および許容誤差Eとして取得する。
【0028】
予測部343bは、平均高さHm、設計高さHD、許容誤差Eに基づいて設定された複数の仕上げパターン、および変位形状データ332に基づいて、全ての施工箇所P1~PNにおいて捨石群の締固めを終えた後の捨石マウンドの天端の高さの分布を、仕上げパターン毎に予測する。具体的には、予測部343bは、例えば図9に示したような4つの仕上げパターンを用いて、各施工箇所P1~PNの仕上げ高さHを仮決定する。
【0029】
施工箇所Pnの影響評価点が正の場合は、上記仕上げパターン1または2を用いて仕上げ高さを仮決定する。一方、施工箇所Pnの影響評価点が負の場合は、上記仕上げパターン3または4を用いて仕上げ高さHを仮決定する。例えば、影響評価点が正の施工箇所は仕上げパターン1、負の施工箇所は仕上げパターン3を用いる場合、影響評価点が正の施工箇所は仕上げパターン1、負の施工箇所は仕上げパターン4を用いる場合、影響評価点が正の施工箇所は仕上げパターン2、負の施工箇所は仕上げパターン3を用いる場合、影響評価点が正の施工箇所は仕上げパターン2、負の施工箇所は仕上げパターン4を用いる場合、といったように、いくつかの異なる仕上げパターンの組合せにより、仕上げ高さHを仮決定する。
【0030】
そして、各施工箇所P1~PNの仕上げ高さHを仮決定した後は、変位形状データ332を用い、各施工箇所Pnを締め固めた場合の、周囲の施工箇所の天端の高さを予測する。予測は、最初の施工箇所P1を締め固めた場合から、最後の施工箇所PNを締め固めた場合まで繰り返し行う。最後の施工箇所PNを締め固めた場合の予測を行うと、施工場所全体、すなわち各施工箇所P1~PNの各天端の高さの予測値が得られる。そして、各天端の高さの予測値が許容範囲(HD-E~HD+E)内に収まっている割合を、仕上げパターンの組合せ毎に算出する。そして、許容範囲内に収まっている予測値の割合が最も高い仕上げパターンの組合せを、実際に締固めを行う際に仕上げ高さHの算出に用いる組合せとして選択する。
【0031】
(制御部の変形例)
なお、制御部34の高さ取得部343aは、選択部343cが仕上げ高さHを選択した後(少なくとも一の施工箇所Pnにおける捨石群を締め固めた後)、平均高さHmを再度得する(ユーザによる平均高さHmの再入力を受け付ける)ことが可能に構成されていてもよい。再度取得する平均高さHmは、一部の施工箇所P1~Pn-1の締固めが実際に行われた後に、残りの施工箇所Pn~PNの天端の平均高さHmを再測定したものである。また、制御部34の選択部343cは、高さ取得部343aが平均高さHmを再取得した場合、再取得された平均高さHmに応じた仕上げパターンを再選択することが可能に構成されていてもよい。このようにすれば、仕上げ高さHを随時見直すことができる。その結果、各施工箇所Pn~PNを締め固める直前の実際の天端の平均高さHmが、締固め等の影響により、初めに仕上げ高さHを決定する際に測定した平均高さHmから乖離してしまい、その結果、仕上げ高さHが当初の計画と異なる高さになってしまうのを防ぐことができる。
【0032】
また、制御部34の決定部343は、上記仕上げパターンに基づいて仕上げ高さHを決定するのではなく、影響評価点の累計値の大きさに基づいて仕上げ高さHを決定するよう構成されていてもよい。
【0033】
〔出力制御部〕
出力制御部344は、決定部343が決定した各施工箇所P1~PNの仕上げ高さHを、出力部32に出力させる。出力部32が、表示装置へデータや信号を送信する通信モジュール、表示装置と接続される端子、または画像を表示する表示装置そのものである場合、表示装置に各施工箇所P1~PNの仕上げ高さHが表示される。締固め装置100のオペレータは、表示装置に表示された仕上げ高さHを参照して、重錘を落下させる高さを調節することになる。一方、出力部32が、クレーン1の制御部へデータや信号を送信する通信モジュール、またはクレーン1の制御部と接続される端子である場合、クレーン1は、入力された仕上げ高さHに基づいて、重錘2の持ち上げおよび落下を自動で行う等の動作が可能となる。
【0034】
〔情報処理装置の効果〕
天端が決定された高さとなるように締め固められた一の施工箇所Pnにおける捨石群は、周囲の施工箇所で締固めが行われる度に、その影響を受けて隆起または沈下する。以上説明してきた情報処理装置によれば、一の施工箇所Pnにおける捨石群の高さが、周囲の捨石群を締め固めたときの影響による変位量を考慮して(隆起しやすい箇所は低く、沈下しやすい箇所は高く)設定される。このため、情報処理装置3の出力に基づいて締固め装置100が締固めを行うと、一の施工箇所Pnおよび周囲の施工領域の締固めが全て済んだ後、一の施工箇所Pnの天端の高さは、設計高さHDに落ち着く。このため、情報処理装置3によれば、投入した捨石を除去したり捨石を後から追加投入したりすることなく、天端が所定高さに均された捨石マウンドを構築することができるようになる。
【0035】
[捨石マウンドの構築方法]
次に、捨石マウンドの構築方法について説明する。
【0036】
捨石マウンドの構築方法は、海底に投入された捨石群を剛状物で上から打撃して当該捨石群を締め固める方法である。図10に示したように、捨石マウンドの構築方法は、データ取得ステップS1と、マップ作成ステップS2と、算出ステップS3と、決定ステップS4と、締固めステップS5と、を有する。
【0037】
〔データ取得ステップ〕
初めのデータ取得ステップS1では、変位形状データ332を取得する。このデータ取得ステップS1では、変位形状データ332を、数値解析または実測により取得する。数値解析としては、例えば有限要素法(FEM)を用いることができる。具体的には、重錘2の中心を通って鉛直方向に延びる直線を中心軸とする軸対称モデルに解析領域を設定し、モデルの中心部(重錘を落下させる施工箇所に対応)に、重錘2の落下を模した鉛直下方の強制変位を与える。そして、強制変位の影響によるモデルの周囲部の変位量を解析する。一方、実測の場合、具体的には、重錘2の落下箇所から水平方向に間隔を空けながら直線状に並ぶ複数の測定個所を設定する。そして、重錘2を落下させる前の各測定箇所落下前の天端の高さを深浅測量により得る。その後、重錘2を落下させた後の各測定箇所の天端の高さを深浅測量により得る。各測定箇所における重錘2落下前後の天端の高さの差分を算出する。
【0038】
〔マップ作成ステップ〕
変位形状データ332を取得した後は、マップ作成ステップS2に移る。マップ作成ステップS2では、変位形状データ332に基づいて、変位影響マップ333を作成する。具体的には、重錘の落下地点からの距離を等間隔(例えば2m)で区切り、各区間の変位量を複数段階(例えば、「大」、「中」、「小」の3段階)に分類する。区切り幅は、例えば、施工箇所P1~PNの幅と等しい幅に決定してもよい。そして、各分類に点数を付与する。変位が隆起の場合は正の点数を、沈下の場合は負の点数をそれぞれ付与する。たとえば、「大」に分類にされた大きな隆起(沈下)の場合は最も大きな点数(例えば1点(-1点))を付与する。「小」に分類された比較的小さな隆起(沈下)の場合は最も小さな点数(例えば0.25点(-0.25点))を付与する。中位程度の「中」に分類された隆起(沈下)の場合は「大」分類と「小」分類に付与した点数の中間となる点数(例えば0.5点(-0.5点))を付与する。なお、変位量の段階は、捨石の種類や施工前の地盤の状況により設定が可能であり、2段階であってもよいし、4段階以上であってもよい。
【0039】
〔算出ステップ〕
変位影響マップ333を作製した後は、算出ステップS3に移る。算出ステップS3では、変位影響マップ333を用いて、影響評価点を、複数の施工箇所について施工順序を反映させ算出する。影響評価点の算出は、例えば上記情報処理装置3を用いて行うことができる。影響評価点の具体的な算出方法は、上記情報処理装置3の算出部342の説明に記載したとおりであるため、ここでの説明を省略する。なお、影響評価点の算出は、上記情報処理装置3以外の装置(例えば、変位影響マップ333を作製する専用の装置、変位影響マップ333を作製するためのアプリケーションがインストールされたPC等)を用いて行ってもよいし、人が行ってもよい。
【0040】
〔決定ステップ〕
影響評価点を算出した後は、決定ステップS4に移る。決定ステップS4では、算出された影響評価点に基づいて、対応する施工箇所の仕上げ高さHを決定する。本実施形態に係る決定ステップS4は、測定ステップS41と、予測ステップS42と、選択ステップS43と、を含む。
【0041】
(測定ステップ)
測定ステップS41では、捨石群を締め固める前の各施工箇所の天端の平均高さを測定する。平均高さの測定は、例えば図示しない所定の測定装置を用いて行うことができる。
【0042】
(予測ステップ)
予測ステップS42では、平均高さ、設計高さ、許容誤差に基づいて設定された複数の仕上げパターン、および変位形状データ332に基づいて、全ての施工箇所において捨石群の締固めを終えた後の捨石マウンドの天端の高さの分布を、仕上げパターン毎に予測する。天端の高さの分布の予測は、例えば上記情報処理装置3を用いて行うことができる。天端の高さの分布の具体的な予測方法は、上記情報処理装置3の予測部343bの説明に記載したとおりであるため、ここでの説明を省略する。なお、天端の高さの分布の予測は、上記情報処理装置3以外の装置(例えば、天端の高さの分布を予測する専用の装置、天端の高さの分布を予測するためのアプリケーションがインストールされたPC等)を用いて行ってもよいし、人が行ってもよい。
【0043】
(選択ステップ)
選択ステップS43では、予測された複数の高さの分布のうち、許容誤差を超えない高さとなる施工箇所の割合が最も多くなった分布の元になった仕上げパターンを選択し、仕上げ高さHを決定する。仕上げ高さHの選択は、例えば上記情報処理装置3を用いて行うことができる。仕上げ高さHの具体的な選択方法は、上記情報処理装置3の選択部343cの説明に記載したとおりであるため、ここでの説明を省略する。なお、影響評価点の算出は、上記情報処理装置3以外の装置を用いて行ってもよいし、人が行ってもよい。
【0044】
〔締固めステップ〕
仕上げ高さHを決定した後は、締固めステップS5に移る。締固めステップS5では、各施工箇所P1~PNの捨石群を剛状物で上から打撃して、当該施工箇所P1~PNの天端の高さを仕上げ高さHとなるように締め固める。締め固める対象の施工箇所における影響評価点が正の施工箇所は、後に行われる周囲の締固めによって隆起しやすい。このため、影響評価点が正の施工箇所は、天端の高さが設計高さHDよりも低くなるように締め固めることになる。一方、締め固める対象の施工箇所における影響評価点が負の施工箇所は、後に行われる周囲の締固めによって沈下しやすい。このため、影響評価点が負の施工箇所は、天端の高さが設計高さHDよりも高くなるように締め固めることになる。天端の高さが仕上げ高さHとなったかどうかは、深浅測量により確認する。
【0045】
こうした締固めを、各施工箇所P1~PNで順次行っていくと、締固め中の施工箇所の周囲の施工箇所が、締固めの影響を受ける。これにより、天端の高さが設計高さHDよりも低くなるように締め固めておいた影響評価点が正の施工箇所は、締固めが繰り返される度に隆起していく。一方、天端の高さが設計高さHDよりも高くなるように締め固めておいた影響評価点が負の施工箇所は、締固めが繰り返される度に沈下していく。そして、全ての施工個所の締固めが済むと、各施工箇所P1~PNの天端の高さは、概ね設計高さHDとなる。すなわち、天端が全体的に設計高さHDで均された捨石マウンドが構築される。
【0046】
〔マウンドの構築方法の変形例〕
なお、捨石マウンドの構築方法は、再測定ステップおよび再選択ステップを有していてもよい。再測定ステップでは、少なくとも一の施工箇所Pnにおける捨石群を締め固めた後、残りの施工箇所Pn+1~PNの天端の平均高さを実測により再測定する。平均高さの再測定は、上記測定ステップS41で用いた測定装置を用いて行うことができる。再選択ステップでは、再測定された平均高さに応じた仕上げパターンを再選択する。仕上げパターンの再選択は、上記選択ステップS43で用いた手段(上記情報処理装置3等)を用いて行うことができる。
【0047】
〔マウンドの構築方法の効果〕
天端が決定された高さとなるように締め固められた一の施工箇所Pnにおける捨石群は、周囲の施工箇所で締固めが行われる度に、その影響を受けて隆起または沈下する。以上説明してきた捨石マウンドの構築方法によれば、一の施工箇所Pnにおける捨石群の高さは、周囲の捨石群を締め固めたときの影響による変位量を考慮して(隆起しやすい箇所は低く、沈下しやすい箇所は高く)設定される。このため、一の施工箇所Pnおよび周囲の施工箇所の締固めが全て済んだ後、一の施工箇所Pnの天端の高さは、設計高さに落ち着く。このため、マウンドの構築方法によれば、投入した捨石を除去したり捨石を後から追加投入したりすることなく、天端を所定高さに均された捨石マウンドを構築することができる。
【0048】
[変形例]
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
例えば、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0050】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
100 締固め装置
1 クレーン
2 重錘
2a 端部
3 情報処理装置
31 入力部
32 出力部
33 記憶部
331 情報処理プログラム
332 変位形状データ
333 変位影響マップ
34 制御部
341 データ取得部
342 算出部
343 決定部
343a 高さ取得部
343b 予測部
343c 選択部
344 出力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10