(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013267
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体による電子輸送材料
(51)【国際特許分類】
C08G 83/00 20060101AFI20240125BHJP
H01L 21/365 20060101ALN20240125BHJP
C07D 271/107 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
C08G83/00
H01L21/365
C07D271/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115207
(22)【出願日】2022-07-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 国立大学法人信州大学繊維学部、2021年度卒業研究発表会予稿集、令和4年2月15日発行 〔刊行物等〕 2021年度卒業研究発表会、令和4年2月18日開催
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094570
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼野 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 睦
(72)【発明者】
【氏名】戸矢 柾
【テーマコード(参考)】
4J031
5F045
【Fターム(参考)】
4J031BA04
4J031BA11
4J031BB01
4J031BC01
4J031BC03
4J031BC04
4J031BC07
4J031BD25
4J031CE04
4J031CG39
4J031CG40
4J031CG43
4J031CG44
5F045AA00
5F045AB00
5F045AC07
5F045AD05
5F045AE17
5F045AF03
5F045AF07
5F045AF10
5F045BB16
5F045CA15
(57)【要約】
【課題】パリレンを利用した新規有用な有機半導体材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体からなる電子輸送材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体からなる電子輸送材料。
【請求項2】
パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体の一種または二種以上を構成材料として含む電子輸送材料。
【請求項3】
オキサジアゾール誘導体が次の式(X)または(Y)または(Z)で表わされる請求項1または2記載の電子輸送材料。
【化1】
(nは重合度を表す数)
【化2】
(nは重合度を表す数)
【化3】
(nは重合度を表す数)
【請求項4】
下記(1)、(2)、(3)及び(4)の工程を有する、パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体の製造方法。
工程(1):4-Methoxycarbonyl -[2,2]-paracyclophane から4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneを製造する工程。
【化4】
工程(2):4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneから4-( 2-Phenyl-1,3,4-Oxadiazole)- [2,2]-paracyclophane(モノマー1)を製造する工程。
【化5】
工程(3):4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneから4-[2-(4-trifluoromethylphenyl)-1,3,4-Oxadiazole]-[2,2]-paracyclophane(モノマー2)を製造する工程。
【化6】
工程(4):4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneから4-[2-(3,5-bistrifluoromethylphenyl)-1,3,4-Oxadiazole]-[2,2]-paracyclophane(モノマー3)を製造する工程。
【化7】
工程(5):CVD法により、モノマー1、2及び3からポリマーX、Y及びZを製造する工程。
【化8】
(nは重合度を表す数)
【化9】
(nは重合度を表す数)
【化10】
(nは重合度を表す数)
【請求項5】
請求項1、2、3のいずれかの電子輸送材料を用いた電子輸送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は高分子を利用した有機半導体材料に関する。さらに詳しくは、パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体の一種または二種以上を構成材料として含む電子輸送材料パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体の製造方法、及び電子輸送材料を用いた電子輸送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
社会的背景
有機分子の電子配置は、不対電子を1つも持たない閉殻構造をとり、HOMO-LUMOエネルギーギャップが大きくなるため、有機分子は絶縁体として考えられていた。それにより、半導体などのエレクトロニクス分野に用いられる材料はシリコンや金属など無機物を用いるのが主流であった。しかし、広い共役系を持つ分子の場合、キャリアの移動が可能であることが分かり、その電気的特性が明らかになっていった。(非特許文献1)以降現在に至るまで、有機半導体を用いた電子デバイスの開発が活発に行われており、有機半導体を用いた電子デバイスの中で実用化が最も進んでいる有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、高効率発光、平面発光性軽量・薄型、柔軟性、高応答性、耐環境保全性など多くのメリットを有する次世代フラットパネルディスプレイとして注目されている。(非特許文献2)
【0003】
有機半導体は、p型半導体とn型半導体に分けられる。[化1-3]のような、トリフェニルアミン誘導体及びビスベンゾチオフェン誘導体、トリフェニレン誘導体などは電子が豊富であるため、p型半導体としての性質を持ち(非特許文献3~5)、[化1-4]のような、オキサジアゾール誘導体及びフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体などはイミン型窒素原子のような電子不足の原子を含むため、n型半導体としての性質を持つことが知られている。(非特許文献6~8)
【化1-3】
Structure of p-type organic semiconductor
【化1-4】
Structure of n-type organic semiconductor
【0004】
先行研究例
2,5-diaryl-1,3,4-Oxadiazole (OXD)誘導体は、高い電子親和力を持っているため、電子の注入と輸送、優れた熱安定性及び化学安定性及び高いフォトルミネッセンス量子収率を備えており、ELデバイスの電子輸送材料として広く利用されている。(非特許文献9)
【0005】
安達千波矢らは、2-(4-tert-Butylphenyl)-5-(4-biphenylyl)-1,3,4-oxadiazole(PBD)が電子輸送材料としての性質を持つことを報告した。(非特許文献6)しかし、PBDは結晶化を起こしやすく、薄膜の安定性に問題があった。以降、OXD誘導体を用いた電子輸送材料の開発が広く行われるようになった。そのうちの一つとして、同じく安達らが報告した、1,3-Bis[5-(4-tert-butylphenyl)-2-[1,3,4]oxadiazolyl]benzene(OXD-7)(非特許文献10)や、城田靖彦らが報告した、2,2',2''-(1,3,5-benzenetriyl)tris[5-[4-(1,1-dimethylethyl)phenyl]-1,3,4-oxadiazole(TPOB)(非特許文献11)などがあげられる。これらの分子は電子輸送性及び正孔遮断材料性を持ち、熱安定性が高いことが分かっている。現在の有機ELの製膜方法は、このような低分子材料を真空蒸着法によって積層する方法が主流となっている。
【0006】
技術的課題
低分子有機EL素子は真空蒸着法によって作製される。真空蒸着法はナノレベルでの膜厚制御が可能で、ドライプロセスであるため積層も可能である。しかし、低分子有機EL素子は複雑な多層構造になる場合が多い。一方、高分子材料は分子内に種々の機能を組み込むことで素子の層を少なくすること可能である。高分子材料を製膜する方法として塗布法があるが、真空蒸着法に比べ膜厚制御が難しく、また積層するためには塗布溶媒の選択など溶解性のコントロールが必要である。そのため、溶媒耐性の高い高分子材料が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Antonio Facchetti, Semiconductors for organic transistors, Materials Today, 2007 3(10), 28-37,, doi:10.1016/S1369-7021(07)70017-2.
【非特許文献2】松波成行. 有機EL:ディスプレイと照明の技術動向と産業化日本画像学会誌第50巻第3号246-253 (2011).
【非特許文献3】Chihaya Adachi, Kazukiyo Nagai, and Nozomu Tamoto , "Molecular design of hole transport materials for obtaining high durability in organic electroluminescent diodes", Appl. Phys. Lett., 1995, 66, 2679-2681. doi:10.1063/1.113123
【非特許文献4】Okamoto, T., Mitsui, C., Yamagishi, M., Nakahara, K., Soeda, J., Hirose, Y., Miwa, K., Sato, H., Yamano, A., Matsushita, T., Uemura, T. and Takeya, J., V-Shaped Organic Semiconductors With Solution Processability, High Mobility, and High Thermal Durability. Adv. Mater., 2013, 25, 6392-6397. doi:10.1002/adma.201302086
【非特許文献5】Bacher, A., Bleyl, I., Erdelen, C.H., Haarer, D., Paulus, W. and Schmidt, H.-W., Low molecular weight and polymeric triphenylenes as hole transport materials in organic two-layer LEDs. Adv. Mater., 1997, 9, 1031-1035. doi:10.1002/adma.19970091307
【非特許文献6】Chihaya Adachi, Tetsuo Tsutsui, and Shogo Saito, Organic electroluminescent device having a hole conductor as an emitting layer, Appl. Phys. Lett., 1989, 55, 1489 doi:10.1063/1.101586
【非特許文献7】Tomova, R., Petrova, P. and Stoycheva-Topalova, R., Role of bathocuproine as hole-blocking and electron-transporting layer in organic light emitting devices. Phys. Status Solidi (c), 2010, 7, 992-995. doi:10.1002/pssc.200982725
【非特許文献8】Li, X.-L., Ye, H., Chen, D.-C., Liu, K.-K., Xie, G.-Z., Wang, Y.-F., Lo, C.-C., Lien, A., Peng, J., Cao, Y. and Su, S.-J., Triazole and Pyridine Hybrid Molecules as Electron-Transport Materials for Highly Efficient Green Phosphorescent Organic Light-Emitting Diodes. Isr. J. Chem., 2014, 54, 971-978. doi:10.1002/ijch.201400064
【非特許文献9】Yuan W, Yang H, Zhang M, Hu D, Sun N and Tao Y, N-Benzoimidazole/Oxadiazole Hybrid Universal Electron Acceptors for Highly Efficient Exciplex-Type Thermally Activated Delayed Fluorescence OLEDs. Front. Chem. 2019, 7-187. doi: 10.3389/fchem.2019.00187
【非特許文献10】浜田祐次・安達千波矢・筒井哲夫・斎藤省吾有機エレクトロルミネセンス材料としてのオキサジアゾール誘導体の評価日本化学会誌No.11 1540-1548 (1991) (1991年4月26日受理)
【非特許文献11】T. Noda, H. Ogawa, N. Noma and Y. Shirota, Organic light-emitting diodes using a novel family of amorphous molecular materials containing an oligothiophene moiety as colour-tunable emitting materials, J. Mater. Chem. 1999, 9, 2177 doi: 10.1039/A902800E
【非特許文献12】甲斐泰シクロファンの構造化学日本結晶学会誌18巻4号269-284(1976)
【非特許文献13】Yung-Chih Chen, Ting-Pi Sun, Chiao-Tzu Su, Jyun-Ting Wu, Chih-Yeh Lin, Jiashing Yu, Chao-Wei Huang, Chia-Jie Chen, Hsien-Yeh Chen. Sustained Immobilization of Growth Factor Proteins Based on Functionalized Parylenes. ACS Applied Materials&Interfaces 2014 6 (24)、21906-21910. doi: 10.1021 / am5071865
【非特許文献14】Grzegorz Bubak, David Gendron, Luca Ceseracciu, Alberto Ansaldo, and Davide Ricci. Parylene-Coated Ionic Liquid-Carbon Nanotube Actuators for User-Safe Haptic Devices. ACS Applied Materials & Interfaces 2015 7 (28), 15542-15550. doi: 10.1021/acsami.5b04006
【非特許文献15】Kim T. Nielsen, Klaus Bechgaard, and Frederik C. Krebs (2005), Removal of Palladium Nanoparticles from Polymer Materials, Macromolecules, 38 (3), 658-659, doi:10.1021/ma047635t
【非特許文献16】Delcourt, Marie-Leonie; Felder, Simon; Turcaud, Serge; Pollok, Corina H.; Merten, Christian; Micouin, Laurent; et al. (2019): Highly Enantioselective Asymmetric Transfer Hydrogenation: A Practical and Scalable Method To Efficiently Access Planar Chiral [2.2]Paracyclophanes. ACS Publications. Collection. doi: 10.1021/acs.joc.9b00372
【非特許文献17】Shridhar Malladi, Arun M. Isloor, S.K. Peethambar, Hoong Kun Fun, Synthesis and biological evaluation of newer analogues of 2,5-disubstituted 1,3,4-oxadiazole containing pyrazole moiety as antimicrobial agents, Arabian Journal of Chemistry, Volume 7, Issue 6, 2014, Pages 1185-1191, ISSN 1878-5352, doi: 10.1016/j.arabjc.2013.12.020
【非特許文献18】Braun, C., Nieger, M., Thiel, W.R., Brase, S. [2.2]Paracyclophanes with N-Heterocycles as Ligands for Mono-and Dinuclear Ruthenium(II) Complexes. Chemistry-A European Journal 23, 15474-15483 (2017). doi: 10.1002/chem.201703291
【非特許文献19】Liang Wang, Jing Cao, Qun Chen, and Mingyang He, One-Pot Synthesis of 2,5-Diaryl 1,3,4-Oxadiazoles via Di-tert-butyl Peroxide Promoted N-Acylation of Aryl Tetrazoles with Aldehydes, The Journal of Organic Chemistry 2015 80 (9), 4743-4748, doi: 10.1021/acs.joc.5b00207
【非特許文献20】Singh S, Sharma L K, Saraswat A, Siddiqui I R and Singh R K P Electrochemical oxidation of aldehyde-N-arylhydrazones into symmetrical-2,5-disubstituted-1,3,4-oxadiazoles Research on Chemical Intermediates 2014 40 947-60, doi: 10.1007/s11164-012-1013-z
【非特許文献21】Nghia, N.V., Kim, J.-W., Kim, Y. and Lee, M.H., Triarylboryl-Functionalized Oxadiazole as a Host Material with Electron Transporting Property for Green PhOLEDs . Bull. Korean Chem. Soc., 2016, 37, 864-870. doi:10.1002/bkcs.10790
【非特許文献22】Yixing Yang, Pamela Cohn, Aubrey L. Dyer, Sang-Hyun Eom, John R. Reynolds, Ronald K. Castellano, and Jiangeng Xue., Blue-Violet Electroluminescence from a Highly Fluorescent Purine., Chem. Mater., 2010, 22, 12, 3580-3582. doi:10.1021/cm100407n
【非特許文献23】安達千波矢・小山田崇人・中島嘉之有機電子デバイス研究者のための有機薄膜仕事関数データ集シーエムシー出版2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の目的と意義
本発明はPoly(p-xylylene)(パリレン)に関するものである。
【0009】
すなわち、半導体的性質を持つ置換基を導入したパリレンを合成することで、塗布溶媒により溶解しない有機半導体材料を合成できると期待した。パリレンは化学蒸着(CVD)法によって重合されるパラキシレン系ポリマーである。パリレンは、高い機械的強度と優れた化学安定性を持ち、その独自の重合法により、均一かつ欠陥のない膜の作製及び膜厚の制御が容易に可能となっている。また、パリレンの前駆体である[2,2]-paracycrophaneは、1899年にPellegrinによって最初に合成されて以来(非特許文献12)、置換基を導入した様々な構造を持つものが報告されている。(非特許文献13,14)しかし、パリレンを用いた有機半導体の研究は報告が少なく、未発展となっている。
【0010】
本発明はオキサジアゾール誘導体をパリレンに導入し、その特性評価を目的とする。置換基に電子輸送材料の一つである、オキサジアゾール誘導体を用いることで、パリレンに電子輸送性を持たせることができ、溶媒耐性が高い電子輸送材料の製膜が可能となると考え、学術的に鋭意研究した結果本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体からなる電子輸送材料を提供するものである。
【0012】
また本発明は、パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体の一種または二種以上を構成材料として含む電子輸送材料を提供するものである。
【0013】
さらに本発明は、オキサジアゾール誘導体が次の式(X)または(Y)または(Z)で表わされる前記の電子輸送材料を提供するものである。
【化1】
(nは重合度を表す数)
【化2】
(nは重合度を表す数)
【化3】
(nは重合度を表す数)
【0014】
また本発明は、下記(1)、(2)、(3)及び(4)の工程を有する、パリレン構造を有するオキサジアゾール誘導体の製造方法を提供するものである。
工程(1):4-Methoxycarbonyl-[2,2]-paracyclophaneから4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneを製造する工程。
【化4】
工程(2):4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneから4-(2-Phenyl-1,3,4-Oxadiazole)-[2,2]-paracyclophane(モノマー1)を製造する工程。
【化5】
工程(3):4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneから4-[2-(4-trifluoromethylphenyl)-1,3,4-Oxadiazole]-[2,2]-paracyclophane(モノマー2)を製造する工程。
【化6】
工程(4):4-Carboxylic acid-[2,2]-paracyclophaneから4-[2-(3,5-bistrifluoromethylphenyl)-1,3,4-Oxadiazole]-[2,2]-paracyclophane(モノマー3)を製造する工程。
【化7】
工程(5):CVD法により、モノマー1、2及び3からポリマーX、Y及びZを製造する工程。
【化8】
(nは重合度を表す数)
【化9】
(nは重合度を表す数)
【化10】
(nは重合度を表す数)
【0015】
さらに本発明は、前記のいずれかの電子輸送材料を用いた電子輸送システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明よれば、パリレンを利用した新規有用な有機半導体材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2-1】Mass spectra of PCP-COOH
【
図2-2】
1H-NMR spectra of PCP-OXD-Ph in CDCl
3
【
図2-3】
1314C-NMR spectra of PCP-OXD-Ph in CDCl
3
【
図2-4】Mass spectra of PCP-OXD-Ph
【
図2-5】
1H-NMR spectra of PCP-OXD-CF3 in CDCl
3
【
図2-6】
13C-NMR spectra of PCP-OXD-CF3 in CDCl
【
図2-7】Mass spectra of PCP-OXD-CF3
【
図2-8】
1H-NMR spectra of PCP-OXD-bisCF3 in CDCl
3
【
図2-9】
13C-NMR spectra of PCP-OXD-bisCF3 in CDCl
【
図3-1】AFM image of PPX-OXD-Ph and PPX-OXD-CF3
【
図3-2】FT-IR spectra of PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph
【
図3-3】FT-IR spectra of PCP-OXD-CF3 andPPX-OXD-CF3
【
図3-4】Simulated molecular geometries of PCP-OXD-Ph
【
図3-5】Molecular orbital of PCP-OXD-Ph
【
図3-6】Simulated molecular geometries of PPX-OXD-Ph
【
図3-7】Simulated molecular geometries of PCP-OXD-CF3
【
図3-8】Molecular orbital of PCP-OXD-CF3
【
図3-9】Simulated molecular geometries of PPX-OXD-CF3
【
図3-10】Caluculated UV-vis adsorption spectra of PCP-OXD-Ph
【
図3-11】Caluculated UV-vis adsorption spectra of PPX-OXD-Ph
【
図3-12】Caluculated UV-vis adsorption spectra of PCP-OXD-CF3
【
図3-13】Caluculated UV-vis adsorption spectra of PPX-OXD-CF3
【
図3-14】Caluculated energy levers of PCP-OXD-Ph(←) and PPX-OXD-Ph(→)
【
図3-15】Caluculated energy levers of PCP-OXD-CF3(←) and PPX-OXD-CF3(→)
【
図3-16】UV-visible absorption spectrum of PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph
【
図3-17】UV-visible absorption spectrum of PCP-OXD-CF3 and PPX-OXD-CF3
【
図3-18】DSC results of PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph
【
図3-19】DSC results of PCP-OXD-CF3 and PPX-OXD-CF3
【
図3-20】TGA results of PPX-OXD-Ph and PPX-OXD-CF3
【
図3-21】Contact angle image of PPX-OXD-Ph
【
図3-22】Contact angle image of PPX-OXD-CF3
【
図3-23】Cyclic voltammograms (scan rate 0.05V/s)
【
図3-24】Differential pulse voltammograms
【
図3-25】XRD patterns of PPX-OXD-Ph
【
図3-26】XRD patterns of PPX-OXD-CF3
【
図3-27】PYSA results of PPX-OXD-Ph
【
図3-28】PYSA results of PPX-OXD-CF3
【
図3-29】AFM images of PPX-OXD-Ph before and after immersion in DCM
【
図3-30】AFM images of PPX-OXD-CF3 before and after immersion in DCM
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の実施方法の概略
本発明の指針としては、OXD誘導体を導入したパリレンを合成し、その物性を調査する。今回、OXD誘導体を導入したモノマー[2,2]-paracycrophane を合成し、CVD法によって、以下の[化1-5]及び[化1-6]のパリレンを重合した。そのパリレンについて、熱的性質、電気的性質などの物性を測定し、特性評価を行う。また、異なる置換基を持つパリレンを合成することで、置換基による特性の違いを評価する。
【化1-5】
Structure of PPX-OXD-Ph
【化1-6】
Structure of PPX-OXD-CF3
【0019】
また、[化1-7]のパリレンは実施例に述べるように重合する。
【化1-7】
【0020】
発明に関する理論的背景
化学蒸着(CVD)法
CVD法は薄膜を形成する蒸着法のひとつで、気相化学反応によって基板上に膜を形成する方法。熱・光・プラズマなどを用いて原料ガスを真空条件下で反応させ、基板表面に吸着されることで製膜できる。パリレンを製膜する場合、原料(ダイマー)を真空条件下で加熱すると、気化しダイマー気体となる。この気体が熱分解してダイマーが開裂し、モノマーとなる。これが基板表面で重合することで、薄膜ポリマーが形成される。
【0021】
原子間力顕微鏡(AFM)
探針と試料表面間に働く引力または斥力をカンチレバーの変位に変換する。探針が引力を受けるとカンチレバーは試料側に変位し、斥力を受けると試料とは反対方向に変位する。このカンチレバーの背面にレーザー光を照射し、その反射光によって変位を検出する。この変位が一定になるよう探針・試料間距離を制御しながら水平移動することで、表面形状を画像化する。
【0022】
フーリエ変換赤外分光(FT-IR)法
分子に赤外線を照射すると、赤外線の振動周期と原子の振動周期が一致する場合、個々の原子および原子団はそれぞれの周期に応じてエネルギーを吸収し、振動は基底状態から励起状態に変化する。この吸収が赤外線スペクトルの吸収となって現れる。分子の構造に応じて固有の振動を持つため、スペクトルの解析を行うことで分子構造や物質の状態に監視する情報を得ることができる。
【0023】
紫外可視分光(UV-vis)法
試料の電子遷移による光の吸収を利用した分析方法である。試料に紫外及び可視光を照射し、透過光強度を測定することで、試料の吸収スペクトルを測定する。透過光強度から透過率T及び吸光度Aを以下の式で算出する。
【数1-1】
【0024】
吸光度
吸光度AはLambert-Beerの法則として知られる以下の式が成り立つ。
【数1-2】
熱重量分析(TGA)
試料を一定の速度で加熱したとき、あるいは一定の温度を保持したときの重量変化測定することで、その増減から酸化還元、熱分解、吸脱着、蒸発などに関する情報を得ることができる。
【0025】
示差走査熱量測定(DSC)
基準物質と測定試料を同時に加熱したときの温度差を測定する。ここから試料の結晶化や融解などの相転移現象による吸熱・発熱反応を測定することができる。炉の温度を一定の速度で上昇させていくと、基準物質、測定試料も同じ速度で上昇する。ここで測定試料に吸熱反応が起こったとすると、反応している間は測定試料の温度上昇が止まり、基準物質との間に温度差が発生する。試料に流入する単位時間当たりの熱量は、測定試料と基準物質の温度差に比例するため、温度差を時間について積分すると、反応の熱量を求めることができる。
【0026】
サイクリックボルタンメトリー(CV)
静止した試料溶液中に電極を浸し、電位を繰り返し掃引し応答電流の変化を測定する。得られた電流―電位曲線(サイクリックボルタグラム)を解析することで酸化還元電位、電極の反応速度、反応物の拡散定数、有機物のHOMO・LUMOなどの情報を得ることができる。
【0027】
X線回折(XRD)法
結晶にX線を照射すると、結晶中の各原子の電子によりX線が散乱される(散乱X線)。
散乱X線は干渉しあい、特定の方向で強め合う。散乱X線が強め合う方向はとなりあう面の間隔による行路差に依存する。原子の間隔(格子面間隔)d について、入射角をθとした場合、第1面と第2面の行路差は2dsinθとなり、行路差が入射X線の波長λの整数倍の時強め合い、以下の式のブラッグの法則が成り立つ。
【数1-3】
【0028】
大気中光電子収量分光(PYSA)法
物質表面に紫外線を照射すると電子が放出される。この電子は光電子と呼ばれ、紫外線のエネルギーによって放出数が異なる。PYSA装置は光電子をオープンカウンターという計数管を用いて大気中で計数する表面分析装置である。光源から放射された白色紫外線は分光器で分光され単色の紫外線が試料に照射される。分光器を操作し紫外線のエネルギーを大きくしていき、仕事関数よりも大きくなると試料物質から光電子が放出される。そのため、光電子の放出が始まる閾値エネルギーを求めることで、仕事関数またはイオン化ポテンシャル求めることができる。
【実施例0029】
実験方法
合成
4-carboxylic acid-[2,2]-paracyclophane (PCP-COOH) (非特許文献16)
【化2-1】
【0030】
100mLのナス型フラスコにジクロロメタン(超脱水)20mL、塩化アルミニウム(1.28g, 9.60mmol, 1.9eq)を加え、窒素雰囲気下で-10℃に冷却した。二塩化オキサリル(0.8mL, 9.13mmol, 1.9eq)を滴下し、5分間攪拌した後、[2,2]-paracyclophane (1.02g, 4.82mmol)加え、30分間攪拌した。氷とジクロロメタンを加え、分液し、有機層を抽出した。硫酸マグネシウムを用いて脱水させ、溶媒を除去した後、クロロベンゼン20mLを加え、3日間還流した。溶媒除去を行い、メタノールとジクロロメタンの混合溶媒(3:1)を加え、室温で一晩攪拌した後、2日間還流した。溶媒除去をした後、カラムクロマトグラフィー(シリカ、溶媒:ジクロロメタン)によって精製を行った。得られた固体を試験管に入れ、5.6M水酸化ナトリウム水溶液 (4mL, 5eq)、THF 20mLを加え、一晩還流した後、水を加え3日間還流した。濾過を行い、濾液に酢酸を加え、沈殿物を濾取し、乾燥させ、目的物を得た。収量は0.62g、収率は50.8%であった。
【0031】
HR-ESI-TOF-MS:m/z 253.1172 (calad:m/z 253.1223)
【0032】
Mass spectra of PCP-COOHを
図2-1に示す。
【0033】
4-( 2-Phenyl-1,3,4-Oxadiazole)- [2,2]-paracyclophane (PCP-OXD-Ph) (非特許文献17~19)
【化2-2】
【0034】
50mLのナス型フラスコにグローブボックス内でBenzoyl hydrazine (0.20g 1.47mmol, 1.2eq)を入れ、グローブボックスから出し、PCP-COOH (0.30g, 1.19mmo)を加え、窒素置換を行い、塩化ホスホリル10mLを加え、一晩還流を行った。その後、反応溶液に氷を加え、ジクロロメタンで分液し、有機層を抽出した。溶媒除去を行った後、カラムクロマトグラフィー(シリカ、溶媒:ジクロロメタン)を行い、溶媒除去し、昇華精製によって目的物を得た。収量は0.26g、収率は62.5%であった。
【0035】
1H NMR: (400 MHz, CDCl3) δ[ppm] =8.18 (m, 2H, HPh-OXD, J=2.44Hz), 7.58(m, 3H, HPh-OXD, J=2.23), 7.18 (d, 1H, HAr, J=1.62Hz), 6.73-6.40 (m, 6H, HAr, J=8.68Hz), 3.24-2.97(m, 8H,HPC, J=5.80)
13C NMR:(101 MHz, CDCl3) δ[ppm] =165.0(COXD), 164.2(COXD), 140.5(CAr), 139.8(CAr), 139.4(CAr), 136.4(CAr), 135.6(CAr), 133.2(CAr), 133.1(CAr), 132.2(CAr), 131.7(CAr), 130.8(CPh), 129.1(CPh), 126.9(CPh), 124.1(CPh), 35.5(CH2), 35.2(CH2), 35.0(CH2), 34.4(CH2).
HR-ESI-TOF-MS:m/z 353.1645 (calad:m/z 353.1648)
【0036】
1H-NMR spectra of PCP-OXD-Ph in CDCl
3を
図2-2に示す。
13C-NMR spectra of PCP-OXD-Ph in CDCl
3を
図2-3に示す。
Mass spectra of PCP-OXD-Phを
図2-4に示す。
【0037】
4-[2-(4-trifluoromethylphenyl)-1,3,4-Oxadiazole]-[2,2]-paracyclophane (PCP-OXD-CF3)
【化2-3】
【0038】
50mLのナス型フラスコにグローブボックス内で4-(trifluoromethyl)-Benzoylhydrazine (0.30g 1.43mmol, 1.2eq)を入れ、グローブボックスから出し、PCP-COOH (0.30g, 1.19mmo)を加え、窒素置換を行い、塩化ホスホリル10mLを加え、一晩還流を行った。その後、反応溶液に氷を加え、ジクロロメタンで分液し、有機層を抽出した。溶媒除去を行った後、カラムクロマトグラフィー(シリカ、溶媒:酢酸エチル)を行い、溶媒除去し、昇華精製によって目的物を得た。収量は0.28g、収率は56%であった。
【0039】
1H NMR: (400 MHz, CDCl3) δ[ppm] =8.31 (d, 2H, HPh-OXD, J=8.10Hz), 7.84(d, 2H, HPh-OXD, J=8.20Hz), 7.18 (d, 1H, HAr, J=1.80), 6.74-6.39 (m, 6H, HAr, J=7.59Hz), 3.25-2.99(m, 8H, HPC, J=4.31Hz)
13C NMR:(101 MHz, CDCl3) δ[ppm] =165.5(COXD), 163.1(CF3), 140.6(CAr), 139.8(CAr), 139.4(CAr), 136.5(CAr), 135.9(CAr), 133.2(CAr), 133.1(CAr), 132.2(CAr), 131.7(CAr), 130.8(CPh), 127.2(CPh), 126.2(CPh), 126.1(CPh), 35.5(CH2), 35.2(CH2), 35.0(CH2), 34.4(CH2).
HR-ESI-TOF-MS:m/z 421.1461 (calad:m/z 421.1552)
【0040】
1H-NMR spectra of PCP-OXD-CF3 in CDCl
3 を
図2-5に示す。
13C-NMR spectra of PCP-OXD-CF3 in CDCl を
図2-6に示す。
Mass spectra of PCP-OXD-CF3 を
図2-7に示す。
【0041】
4-[2-(3,5-bistrifluoromethylphenyl)-1,3,4-Oxadiazole]-[2,2]-paracyclophane (PCP-OXD-bisCF3)
【0042】
【0043】
50mLのナス型フラスコにグローブボックス内で3,5-(bistrifluoromethyl)-Benzoylhydrazine (0.40g 1.43mmol, 1.2eq)を入れ、グローブボックスから出し、PCP-COOH (0.30g, 1.19mmol)を加え、窒素置換を行い、塩化ホスホリル10mLを加え、一晩還流を行った。その後、反応溶液に氷を加え、ジクロロメタンで分液し、有機層を抽出した。溶媒除去を行った後、カラムクロマトグラフィー(シリカ、溶媒:酢酸エチル)を行い、溶媒除去し、昇華精製によって目的物を得た。収量は0.12g、収率は21%であった。
【0044】
1H NMR:(400 MHz, CDCl3) δ[ppm] =8.60 (s, 2H, HPh-OXD), 8.08(s, 1H, HPh-OXD), 7.18 (s, 1H, HAr), 6.76-6.38 (m, 6H, HAr), 3.26-3.06(m, 8H, HPC)
13C NMR:(101 MHz, CDCl3) δ[ppm] =165.8(COXD), 161.9(CF3), 140.9(CAr), 139.8(CAr), 139.5(CAr), 136.5(CAr), 136.2(CAr), 133.2(CAr), 133.2(CAr), 132.9(CAr), 132.2(CAr), 130.7(CPh), 126.8(CPh), 126.2(CPh), 126.3(CPh), 35.7(CH2), 35.3(CH2), 35.1(CH2), 34.5(CH2)
【0045】
1H-NMR spectra of PCP-OXD-bisCF3 in CDCl
3を
図2-8に示す。
13C-NMR spectra of PCP-OXD-bisCF3 in CDCl
3を
図2-9に示す。
【0046】
製膜
PCP-OXD-Ph 及びPCP-OXD-CF3を150mg用いてSiウエハー、石英ガラス、アルミ膜及びITO基板上に製膜を行った。製膜時の条件はVaporizer温度650℃、Furnace温度175℃、Chamber内圧力30mtorrで行った。
【0047】
<結果と考察>
AFM測定
Siウエハー上のPPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜の表面形状をAFMによって測定した。その結果を
図3-1に示す。
図3-1:AFM image of PPX-OXD-Ph and PPX-OXD-CF3
【0048】
PPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜の平均粗さはそれぞれ、1.43nm及び1.00nmであり、最大高低差がそれぞれ12.13nm及び25.81nmであった。PPX-OXD-Ph膜では表面に大きな凹凸は見られず均一な膜が形成されている。PPX-OXD-CF3膜は一部粒子が付着しているがそれ以外の部分では均一な膜が形成されている。
【0049】
IR測定
PCP-OXD-Ph及びPPX-OXD-Ph膜、PCP-OXD-CF3及びPPX-OXD-CF3膜のIR測定を行った。以下の
図3-2及び
図3-3にその結果を示す。
図3-2:FT-IR spectra of PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph
図3-3:FT-IR spectra of PCP-OXD-CF3 andPPX-OXD-CF3
【0050】
PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph膜では、ベンゼン環のC-H伸縮振動由来の3000cm-1付近ピーク、ベンゼン環のC=C伸縮振動由来の1500cm-1付近のピーク、オキサジアゾールのC=N伸縮振動由来の1450cm-1付近のピーク、オキサジアゾールのC-O-C伸縮振動由来の1050cm-1付近のピークが確認できた。また、PCP-OXD-CF3、及びPPX-OXD-CF3膜では、これらのピークに加えC-F伸縮振動由来の1300cm-1付近のピークが確認できた。(非特許文献20)
【0051】
3-3 TD-DFT計算
PCP-OXD-Ph及びPPX-OXD-Ph、PCP-OXD-CF3及びPPX-OXD-CF3について、DFT計算を行った。
図3-4~
図3-9にDFT計算による構造最適化の外観及び分子軌道を示す。
図3-4:Simulated molecular geometries of PCP-OXD-Ph
図3-5:Molecular orbital of PCP-OXD-Ph
図3-6:Simulated molecular geometries of PPX-OXD-Ph
図3-7:Simulated molecular geometries of PCP-OXD-CF3
図3-8:Molecular orbital of PCP-OXD-CF3
図3-9:Simulated molecular geometries of PPX-OXD-CF3
【0052】
予測された分子軌道から、シクロファン部分に比べ、オキサジアゾール部分は電子が不足していることがわかる。そのためOXD誘導体は電子輸送性を持つことが示唆される。
【0053】
次に、TD-DFT計算によるUV-vis吸収スペクトル及び分子軌道のエネルギー準位を、
図3-10~
図3-15に示す。
図3-10:Caluculated UV-vis adsorption spectra of PCP-OXD-Ph
図3-11:Caluculated UV-vis adsorption spectra of PPX-OXD-Ph
図3-12:Caluculated UV-vis adsorption spectra of PCP-OXD-CF3
図3-13:Caluculated UV-vis adsorption spectra of PPX-OXD-CF3
図3-14:Caluculated energy levers of PCP-OXD-Ph(←) and PPX-OXD-Ph(→)
図3-15:Caluculated energy levers of PCP-OXD-CF3(←) and PPX-OXD-CF3(→)
【0054】
PCP-OXD-Ph及びPCP-OXD-CF3はそれぞれ、303nm及び310nmにピークが現れ、PPX-OXD-Ph及びPPX-OXD-CF3はそれぞれ、293nm及び292nmにピークが現れ、モノマーよりポリマーの方が短波長側にピークが現れていた。よってバンドギャップはポリマーの方が高いことが推察される。また、エネルギー準位図から、HOMO・LUMOのエネルギーはモノマー及びポリマーの両方で、CF3基を持つ方がより低くなることがわかる。
【0055】
3-3 UV-Vis測定
PCP-OXD-Ph及びPCP-OXD-CF3(溶媒:ジクロロメタン)、石英ガラス上のPPX-OXD-Ph膜及びPCP-OXD-CF3のUV-vis測定を行った。
図3-16~
図3-17にその結果を示す。
図3-16:UV-visible absorption spectrum of PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph
図3-17:UV-visible absorption spectrum of PCP-OXD-CF3 and PPX-OXD-CF3
【0056】
PCP-OXD-Ph及びPCP-OXD-CF3のピークはそれぞれ、307nm及び309nmであった。これはTD-DFT計算によるUV-vis吸収スペクトルと一致する。また、PPX-OXD-Ph及びPPX-OXD-CF3は、薄膜のためピークは現れなかったが、それぞれPCP-OXD-Ph及びPCP-OXD-CF3と立ち上がりの波長が同程度であったため、ポリマーが基板上に製膜されていることが示唆された。
【0057】
3-4 DSC測定
PCP-OXD-Ph及びPPX-OXD-Ph膜、PCP-OXD-CF3及びPPX-OXD-CF3膜のDSCを測定した。
図3-18~
図3-19にその結果を示す。
図3-18:DSC results of PCP-OXD-Ph and PPX-OXD-Ph
図3-19:DSC results of PCP-OXD-CF3 and PPX-OXD-CF3
【0058】
PCP-OXD-Phは137.3℃で融解が起きたが、PPX-OXD-Ph膜ではこの温度付近で融解が見られなかった。そのため、PPX-OXD-Ph膜はPCP-OXD-Phよりも熱安定性が向上していることが分かった。また、PCP-OXD-Ph-CFでは165.1℃で融解が起き、PCP-OXD-Phよりも熱安定性が高いことが分かった。
【0059】
3-5 TGA測定
PPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-Ph膜のTGを測定した。
図3-20にその結果を示す。
図3-20:TGA results of PPX-OXD-Ph and PPX-OXD-CF3
【0060】
PPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜は、470℃付近までは大きな質量減少が少なく、TGAの結果からも熱安定性が高いことが分かった。
【0061】
3-6 接触角測定
シリコンウエハー上に製膜しPPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-Ph-CF3膜について接触角測定を行ったところ、PPX-OXD-Ph膜は81.5°、PPX-OXD-CF3膜は83.1°と、ぬれ性は同程度であることが分かった。
図3-21~
図3-22に各膜に滴下された水滴の様子を示す。
図3-21:Contact angle image of PPX-OXD-Ph
図3-22:Contact angle image of PPX-OXD-CF3
【0062】
3-7 CV測定及びDPV測定
PCP-OXD-Ph及びPCP-OXD-CF3についてCV測定及びDPV測定を行った。支持電解質にTetrabutylammonium tetrafluoroborate (TBABF4)、溶媒DMFを用いた。また、作用電極はカーボンと白金のそれぞれで測定を行った。
図3-23~
図3-24に結果を示す。
図3-23:Cyclic voltammograms (scan rate 0.05V/s)
図3-24:Differential pulse voltammograms
【0063】
また、DPVのピークから以下の式用いて、それぞれのLUMOを算出した。
【数3-1】
【0064】
LUMO by Differential pulse voltammograms
【表3-2】
【0065】
PCP-OXD-PhよりもPCP-OXD-CF3の方が低いLUMOとなった。これはTD-DFT計算の結果と一致する。また、一般的な電子輸送材料のOXD誘導体のLUMOは-2.5~-2.9eV(非特許文献21~22)であるため、電子輸送性を持つことが期待される。
【0066】
3-8 XRD測定
PPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜のXRDを行った。
図3-25~
図3-26にその結果を示す。
図3-25:XRD patterns of PPX-OXD-Ph
図3-26:XRD patterns of PPX-OXD-CF3
【0067】
PPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜のピークはブロードとなっているため、これらのピーク膜に結晶性はなくアモルファスであることが確認された。
【0068】
3-9 PYSA測定
ITO基板上のPPX-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜を用いてPYSA測定を行った。
図3-27~
図3-28にその結果を示す。横軸は照射光エネルギー、縦軸は放出される光電子の量である。
図3-27:PYSA results of PPX-OXD-Ph
図3-28:PYSA results of PPX-OXD-CF3
【0069】
またPPX-OXD-Ph及びPPX-OXD-CF3の仕事関数はそれぞれ5.24eV及び5.31eVであり、PPX-OXD-Ph-CFの方が高い値となった。一般的な電子輸送材料の仕事関数は5.2~5.9eV(非特許文献23)である。この結果からもPPX-OXD-Ph及びPPX-OXD-CF3は電子輸送性を持つことが期待される。
【0070】
3-10 溶媒試験
シリコンウエハー上のPCP-OXD-Ph膜及びPPX-OXD-CF3膜を、ジクロロメタンに浸漬し、メタノールで洗浄、乾燥させた後AFMで表面形状の観察を行うことで、溶媒耐性について検討を行った。
図3-29~
図3-30にその結果示す。
図3-29:AFM images of PPX-OXD-Ph before and after immersion in DCM
図3-30:AFM images of PPX-OXD-CF3 before and after immersion in DCM
【0071】
それぞれ浸漬前後で平均粗さに大きな変化はなかったため、化学安定性が高いことが確認された。
本発明ではOXD誘導体を導入したモノマー[2,2]-paracycrophaneを2種類合成し、CVD法によるパリレンの製膜をAFM、IR及びUV-vis測定で確認した。これらのパリレンPPX-OXD-Ph 及びPPX-OXD-CF3は熱安定性及び化学安定性が高いことが確認された。また、電子輸送性を持つことが示唆された。