(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132673
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】製造方法、制御装置、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 45/78 20060101AFI20240920BHJP
B29C 45/73 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043538
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AP05
4F202AR06
4F202CA11
4F202CK03
4F202CK04
4F202CK89
4F202CN01
4F202CN18
4F206AA24
4F206AP056
4F206AR066
4F206JA07
4F206JN14
4F206JN44
4F206JP13
4F206JP17
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】各キャビティで成形される成形品の品質を維持する。
【解決手段】成形品の製造方法は、第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT
1を決定する変更幅決定ステップ(S4)と、第1のヒータの設定温度を変更幅ΔT
1で変化させると共に、第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を変更幅ΔT
1に応じて決定された変更幅ΔT
2で変化させる温度制御ステップ(S7)と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータで加熱した溶融樹脂を各分岐の端部に設けられた各キャビティに供給して、射出成形により複数の成形品を同時に製造する成形品の製造方法であって、
複数の前記ヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する変更幅決定ステップと、
前記第1のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1で変化させると共に、複数の前記ヒータのうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる温度制御ステップと、を含む製造方法。
【請求項2】
前記第1のヒータは、前記第1のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記変更幅ΔT2は、予め定められた定数k2(0<k2<1)、α2を用いて、ΔT2=k2×ΔT1+α2との式により算出された変更幅である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2のヒータは、前記第2のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられている、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記温度制御ステップでは、前記第1のヒータおよび前記第2のヒータの設定温度を変化させると共に、複数の前記ヒータのうち第3のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第3のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT3で変化させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記変更幅ΔT3は、予め定められた定数k3(0<k3<1)、α3を用いて、ΔT3=k3×ΔT1+α3との式により算出された変更幅である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶融樹脂は、生分解性樹脂である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータで加熱した溶融樹脂を各分岐の端部に設けられた各キャビティに供給して複数の成形品を同時に成形する射出成形に関する制御を行う制御装置であって、
複数の前記ヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する変更幅決定部と、
前記第1のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1で変化させるときに、複数の前記ヒータのうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる温度制御部と、を備える制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の制御装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記変更幅決定部および前記温度制御部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形においてホットランナーと呼ばれる技術が広く用いられている。ホットランナーにより複数個の成形品を同時に製造する場合、分岐した流路の各端部にキャビティが設けられた金型を使用し、各流路に設けられたヒータで流路内の溶融樹脂を加熱しつつ、当該溶融樹脂を各キャビティに供給する。
【0003】
ホットランナーにより複数個の成形品を同時に製造する場合、各キャビティに供給する溶融樹脂の量を均等化することが、成形品の品質を維持するために重要であり、そのための技術の開発が従来から進められている。例えば、下記の特許文献1には、メイン・ランナ部に流量分配調整用ヒータを設け、これらのヒータを独立して制御することにより樹脂充填量の均一化を図ると共に、メイン・ランナ部につながるサブランナ部にゲート切れ調整用ヒータを設け、これらのヒータを独立して制御することによりゲート切れ性および成形性の向上を図る、多数個取り成形金型装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術を用いたとしても、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することは依然として難しいという問題がある。これは、一般に、射出成形を繰り返し行った場合には成形不良が発生することと、成形不良が発生した場合には次回以降の射出成形で同じ成形不良が発生することを防ぐための温度調整が行われることについて、特許文献1の技術では考慮されていないことによる。
【0006】
例えば、特許文献1の技術を用いて、各ヒータの設定温度を最適化して射出成形を開始した場合であっても、射出成形を続けていくうちに、一部のキャビティにおいて、その細部にまで溶融樹脂が到達せず、成形品の一部が欠けるショートショットと呼ばれる成形不良が発生し得る。
【0007】
そして、あるキャビティでショートショットが発生した場合には、次回以降の射出成形におけるショートショットの発生を防ぐため、そのキャビティに溶融樹脂を供給する流路に設けられたヒータの設定温度を上げる制御が行われる。このような制御を行った場合、あるキャビティに供給される樹脂の量は増えるため、そのキャビティにおけるショートショットの発生を防ぐことができるものの、あるキャビティに供給される樹脂の量が増えた分だけ他のキャビティに供給される樹脂の量が減り、今度は他のキャビティでショートショットが発生する可能性が高まってしまう。
【0008】
本発明の一態様は、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することを可能にする製造方法等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る製造方法は、分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータで加熱した溶融樹脂を各分岐の端部に設けられた各キャビティに供給して、射出成形により複数の成形品を同時に製造する成形品の製造方法であって、複数の前記ヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する変更幅決定ステップと、前記第1のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1で変化させると共に、複数の前記ヒータのうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる温度制御ステップと、を含む。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る制御装置は、分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータで加熱した溶融樹脂を各分岐の端部に設けられた各キャビティに供給して複数の成形品を同時に成形する射出成形に関する制御を行う制御装置であって、複数の前記ヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する変更幅決定部と、前記第1のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1で変化させるときに、複数の前記ヒータのうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる温度制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形システムの概要を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る制御装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る成形品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔システム概要〕
図1に基づいて本実施形態に係る射出成形システム5の概要を説明する。
図1は、射出成形システム5の概要を示す図である。射出成形システム5は、溶融樹脂をキャビティに供給して成形品を製造するシステムである。図示のように、射出成形システム5は、制御装置1を含んでいる。この制御装置1は、以下説明するとおり、一般的な射出成形システムに含まれる制御装置とは相違している。
【0014】
射出成形システム5には、射出成形に必要な各種装置(原料樹脂を溶融させて溶融樹脂とした上で射出する射出ユニット、金型、および型締めユニット等)が含まれているが、
図1にはその一部の構成を示している。具体的には、
図1には、金型内に形成されたキャビティA1~A8、金型内における溶融樹脂の流路B1~B15、および流路内の溶融樹脂を加熱するヒータC1~C15を示している。このように、射出成形システム5では、流路B1~B15内の溶融樹脂をヒータC1~C15で加熱しながら射出成形を行うから、射出成形システム5はホットランナーにより射出成形を行うシステムであるといえる。
【0015】
図1の例において、流路B15は分岐点P7で二股に分岐しており、一方の分岐は流路B14、他方の分岐は流路B13となっている。また、流路B13は分岐点P5で流路B9と流路B10に分岐し、流路B14は分岐点P6で流路B11と流路B12に分岐している。さらに、流路B9は分岐点P1で流路B1と流路B2に分岐し、流路B10は分岐点P2で流路B3と流路B4に分岐し、流路B11は分岐点P3で流路B5と流路B6に分岐し、流路B12は分岐点P4で流路B7と流路B8に分岐している。そして、流路B1~B8は、それぞれキャビティA1~A8に接続している。
【0016】
流路B15の端部から供給された溶融樹脂は、ヒータC1~C15で加熱されながら流路B1~B15内を流れ、キャビティA1~A8に流入する。これにより、8個の成形品を同時に成形することができる。
【0017】
制御装置1は、ヒータC1~C15の温度制御を行うことができる。なお、
図1にはヒータC15の温度制御を行う様子を示しているが、制御装置1は、ヒータC1~C15のそれぞれについて個別に温度制御を行うことができる。
【0018】
射出成形システム5では、分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータC1~C15で加熱した溶融樹脂を各分岐の端部に設けられたキャビティA1~A8に供給して、射出成形により複数の成形品を同時に製造する。
【0019】
このような成形品の製造を続けていると、金型の汚れや、原料樹脂の品質の変化等の要因により、キャビティの細部にまで溶融樹脂が到達せず、成形品の一部が欠けるショートショットと呼ばれる成形不良が発生することがある。また逆に、過剰な溶融樹脂がキャビティに供給されてバリと呼ばれる成形不良が発生することもある。
【0020】
このような成形不良が発生した場合や、発生の兆候がある場合には、ヒータC1~C15の設定温度を変更することにより、次回以降の射出成形において成形不良が発生することを防ぐことが可能である。制御装置1は、成形不良の発生を防ぐために、ヒータC1~C15の設定温度の調整を行う。
【0021】
具体的には、制御装置1は、ヒータC1~C15のうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する。第1のキャビティは、例えば成形不良が発生したキャビティである。
【0022】
そして、制御装置1は、第1のヒータの設定温度を変更幅ΔT1で変化させると共に、ヒータC1~C15のうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる。
【0023】
これにより、第1のヒータの設定温度を変更して第1のキャビティに流入する樹脂の量が適正になるよう調整しつつ、第2のヒータの設定温度についても変更することにより、第1のヒータの設定温度の変更が第2のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響を抑えることができる。よって、射出成形システム5によれば、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することが可能になる。
【0024】
なお、設定温度を上げるか下げるかは、成形不良の種類に応じて決定すればよい。すなわち、ショートショットが発生した場合には、設定温度をΔT1およびΔT2だけ上げればよい。これにより、次回以降の射出成形における樹脂の流動性を高めてショートショットの発生を抑えることができる。一方、バリが発生した場合には、設定温度をΔT1およびΔT2だけ下げればよい。これにより、次回以降の射出成形における樹脂の流動性を低下させてバリの発生を抑えることができる。
【0025】
射出成形システム5では、任意の樹脂を原料として射出成形を行うことが可能である。また、射出成形システム5において、射出成形機の構成、および射出成形する成形品も特に限定されない。
【0026】
射出成形システム5では上述のようなヒータの温度調整を行うから、射出成形システム5は、分解温度が低い樹脂の成形に特に好適である。例えば、射出成形システム5は、生分解性プラスチック等の成形に好適に利用できる。つまり、射出成形システム5において、各キャビティに供給される溶融樹脂は、生分解性樹脂であってもよい。本明細書における「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質をいう。本製造方法にて使用される生分解性樹脂は、生分解性を有していれば、特に限定されない。具体例を挙げれば、生分解性樹脂は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)のようなポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリカプロラクトンであってもよい。
【0027】
一般に、生分解性樹脂は、原料ペレットの粘度のばらつきが大きくなりがちであり、そのような原料ペレットを用いて成形する場合、粘度のばらつきに起因する成形不良と、それを防ぐための温度調整が行われる頻度が高くなる。このため、あるキャビティで発生した成形不良を解消するためのヒータの温度調整が他のキャビティにおける成形不良の原因となる問題も発生しやすい。また、一般に、生分解性樹脂は熱分解しやすいため、最初からショートショットが発生しにくい高温条件で成形することは望ましくない。
【0028】
この点、射出成形システム5によれば、初期段階では設定温度を抑えつつ、ショートショットが発生したキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータの設定温度のみを調整することにより、熱分解を最小限に抑えることが可能になる。そして、射出成形システム5によれば、このような調整が他のキャビティに及ぼす影響を抑えることができるから、各キャビティで成形される生分解性樹脂の成形品の品質を維持することが可能になる。なお、生分解性樹脂以外を製造する場合においても同様の効果は得られるが、生分解性樹脂を製造する場合にこの効果は特に顕著である。
【0029】
〔制御装置の構成〕
図2は、制御装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、制御装置1は、制御装置1の各部を統括して制御する制御部10と、制御装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、制御装置1は、制御装置1が他の装置と通信するための通信部12、制御装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および制御装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。また、制御部10には、データ取得部101、対象決定部102、変更幅決定部103、および温度制御部104が含まれている。
【0030】
データ取得部101は、設定温度の変更対象とするヒータの決定や、ヒータの設定温度の変更幅の決定の基準となるデータを取得する。設定温度の変更対象とするヒータや、設定温度の変更幅は、各キャビティでどのような成形品が製造されたかによって決定すればよい。このため、データ取得部101は、各キャビティにおける成形品の製造結果を示す製造結果データを取得してもよい。例えば、データ取得部101は、各キャビティで製造された成形品の重量を示す製造結果データを取得してもよい。
【0031】
対象決定部102は、分岐を有する流路の複数箇所に設けられた複数のヒータのうち、設定温度の変更対象とするヒータを決定する。具体的には、対象決定部102は、設定温度の変更対象とするヒータとして、第1のヒータと第2のヒータを決定する。また、対象決定部102は、設定温度の変更対象とするヒータとして第3のヒータについても決定してもよい。なお、対象決定部102によるヒータの決定方法については、後記「変更対象のヒータの決定について」の項目で説明する。
【0032】
変更幅決定部103は、分岐を有する流路の複数箇所に設けられた複数のヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する。また、変更幅決定部103は、第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度の変更幅ΔT2についても決定する。さらに、変更幅決定部103は、第3のヒータの設定温度の変更幅ΔT3についても決定してもよい。なお、変更幅決定部103による変更幅の決定方法については、後記「設定温度の変更幅の決定について」の項目で説明する。
【0033】
温度制御部104は、上述した第1のヒータの設定温度を変更幅ΔT1で変化させるときに、上述した第2のヒータの設定温度を変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる。なお、上述のように、変更幅ΔT1およびΔT2は変更幅決定部103により決定される。また、変更幅決定部103が第3のヒータの設定温度の変更幅ΔT3についても決定した場合、温度制御部104は、第3のヒータの設定温度も変化させる。
【0034】
以上のように、制御装置1は、分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する変更幅決定部103と、第1のヒータの設定温度を変更幅ΔT1で変化させるときに、複数のヒータのうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる温度制御部104と、を備える。よって、制御装置1によれば、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することが可能になる。
【0035】
〔変更対象のヒータの決定について〕
対象決定部102は、上述のように、第1のヒータおよび第2のヒータを決定する。第1のヒータは、第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータであるから、対象決定部102は、まず第1のキャビティを決定し、その後、第1のキャビティに応じた第1のヒータを決定してもよい。
【0036】
例えば、データ取得部101が、
図1に示すキャビティA1~A8で製造された各成形品の重量を示す製造結果データを取得したとする。この場合、対象決定部102は、キャビティA1~A8のうち、成形品の重量が所定の正常範囲外となっているキャビティを特定し、当該キャビティを第1のキャビティに決定してもよい。そして、対象決定部102は、ヒータC1~C15のうち、決定した第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータ、すなわち、溶融樹脂を第1のキャビティに導く流路の何れかに設けられたヒータを第1のヒータに決定すればよい。なお、対象決定部102は、1つの第1のキャビティにつき複数の第1のヒータを決定してもよい。
【0037】
例えば、
図1の例において、キャビティA1で製造された成形品の重量が、正常範囲の下限値未満であった(つまりキャビティA1でショートショットが発生した)とする。この場合、対象決定部102は、溶融樹脂をキャビティA1に導く一連の流路(具体的には流路B15、B13、B9、およびB1)に設けられたヒータすなわち、ヒータC15、C13、C9、およびC1の少なくとも何れかを第1のヒータに決定すればよい。
【0038】
例えば、対象決定部102は、第1のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられているヒータを第1のヒータに決定してもよい。この場合、例えば第1のキャビティがキャビティA1であれば、第1のヒータは流路B1に設けられたヒータC1となる。
【0039】
第1のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられている第1のヒータの設定温度は、第1のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響が他のヒータと比べて大きい。よって、当該構成によれば、第1のキャビティに流入する樹脂の量が適正になるようにするための、第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を最小限に抑えることができる。
【0040】
なお、対象決定部102は、第1のキャビティを複数決定してもよい。例えば、
図1の例において、キャビティA2とA5で製造された各成形品の重量が正常範囲外となっていた場合、対象決定部102は、キャビティA2とA5の両方を第1のキャビティと決定し、キャビティA2とA5のそれぞれについて第1のヒータを決定してもよい。
【0041】
一方、第2のヒータの設定温度の調整は、第1のヒータの設定温度の変更が第2のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響を抑えるために行われる。このため、対象決定部102は、第1のヒータが設けられている流路の上流側の分岐点から分岐する他の流路に設けられたヒータを第2のヒータに決定してもよい。
【0042】
例えば、対象決定部102は、
図1の例において、ヒータC1を第1のヒータに決定した場合、ヒータC1が設けられている流路B1の上流側の分岐点である分岐点P1から分岐する流路B2に設けられたヒータC2を第2のヒータに決定してもよい。また、例えば、対象決定部102は、ヒータC9を第1のヒータに決定した場合、ヒータC9が設けられている流路B9の上流側の分岐点である分岐点P5から分岐する流路B10に設けられたヒータC10を第2のヒータに決定してもよい。また、対象決定部102は、ヒータC10の代わりに、流路B10よりも下流側の流路B3に設けられたヒータC3と、同じく流路B10よりも下流側の流路B4に設けられたヒータC4とを第2のヒータに決定してもよい。
【0043】
第2のヒータは、第2のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられていることが好ましい。つまり、対象決定部102は、第2のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられているヒータを第2のヒータに決定することが好ましい。
【0044】
これは、第2のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられているヒータの設定温度は、第2のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響が大きいためである。第2のキャビティからその直近の分岐までの流路に設けられているヒータを第2のヒータとすることにより、第2のヒータの設定温度の変更幅ΔT2を最小限に抑えることができる。そして、これにより第2のヒータの設定温度の変更が第1および第2のキャビティ以外の他のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0045】
また、対象決定部102は、上述した第1および第2のヒータに加え、第3のヒータについても決定してもよい。第3のヒータは、第1および第2のキャビティとは異なる第3のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータである。
【0046】
第3のヒータの設定温度の調整は、第1および第2のヒータの設定温度の変更が第3のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響を抑えるために行われる。このため、対象決定部102は、第1のヒータが設けられている流路の上流側の分岐点であって、かつ、第2のヒータが設けられている流路の上流側の分岐点でもある分岐点から分岐する他の流路に設けられたヒータを第3のヒータに決定してもよい。
【0047】
例えば、対象決定部102は、
図1の例において、ヒータC1、C2をそれぞれ第1および第2のヒータに決定した場合、ヒータC1が設けられている流路B1の上流側の分岐点であり、また、ヒータC2が設けられている流路B2の上流側の分岐点でもある分岐点P5から分岐する流路B10に設けられたヒータC10を第3のヒータに決定してもよい。また、対象決定部102は、ヒータC10の代わりに、流路B10よりも下流側の流路B3に設けられたヒータC3と、同じく流路B10よりも下流側の流路B4に設けられたヒータC4とを第3のヒータに決定してもよい。
【0048】
〔設定温度の変更幅の決定について〕
変更幅決定部103は、まず第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定し、次に変更幅ΔT1に応じて変更幅ΔT2を決定する。変更幅ΔT1の決定方法は特に限定されない。例えば、データ取得部101が、各キャビティで製造された各成形品の重量を示す製造結果データを取得する場合、変更幅決定部103は、当該重量に基づいて変更幅ΔT1を決定してもよい。より具体的には、変更幅決定部103は、成形品の重量と重量の基準値との比または差に応じて変更幅ΔT1を決定してもよい。この場合、上記比または差と、それに対応する変更幅ΔT1との関係は予め定式化しておけばよい。無論、この方法は一例にすぎず、例えば、変更幅決定部103は、制御装置1のユーザが入力部13を介して入力する変更幅ΔT1を適用してもよい。
【0049】
変更幅ΔT2についてはΔT1に応じて決定すればよい。例えば、変更幅決定部103は、予め定められた定数k2(0<k2<1)、α2を用いて、ΔT2=k2×ΔT1+α2との式により算出してもよい。これにより、簡易な計算でΔT1に応じたΔT2を算出することが可能になる。なお、定数k2およびα2は、事前に実験を行う等して検証し、予め定めておけばよい。
【0050】
ここで、一般に、第1のヒータの設定温度の変更が第2のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響は、第1のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響よりも小さい。このため、変更幅決定部103は、ΔT1を超えない範囲でΔT2を決定することが好ましい。例えば、上記式においてα2=0としてもよく、これによりΔT1>ΔT2となることが保証される。
【0051】
なお、変更幅決定部103は、決定された第1のヒータと第2のヒータとの関係性に応じて異なる方法で変更幅ΔT
2を決定してもよい。例えば、変更幅決定部103は、
図1の例において、第1のヒータがC1であり第2のヒータがC2である場合と、第1のヒータがC1であり第2のヒータがC10である場合とで、異なる定数k
2、α
2を適用してΔT
2を算出してもよい。
【0052】
また、対象決定部102が第3のヒータを決定した場合、変更幅決定部103は、第1のヒータの変更幅ΔT1に応じて、第3のヒータの設定温度の変更幅ΔT3を決定する。例えば、変更幅決定部103は、変更幅ΔT2と同様の手法で変更幅ΔT3を算出してもよい。
【0053】
すなわち、変更幅ΔT3は、予め定められた定数k3(0<k3<1)、α3を用いて、ΔT3=k3×ΔT1+α3との式により算出されたものであってもよい。これにより、簡易な計算でΔT1に応じたΔT3を算出することができる。なお、定数k3およびα3は、事前に実験を行う等して検証し、予め定めておけばよい。
【0054】
また、α2=α3=0かつk2>k3としてもよく、これによりΔT1>ΔT2>ΔT3となることが保証される。また、決定された第1および第2のヒータと第3のヒータとの関係性に応じて異なる方法で変更幅ΔT3を決定してもよいことは、変更幅ΔT2を決定する場合と同様である。
【0055】
なお、変更幅の決定方法は上述の例に限られず、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することが可能な範囲で、様々な方法を適用することができる。例えば、変更幅決定部103は、第1のキャビティに至る一連の流路における最終分岐点のm個前(mは自然数)の分岐点から、第1のキャビティ以外の他のキャビティに至る流路に設けられたヒータの設定温度の変更幅をΔTmとしてもよい。
【0056】
例えば、
図1の例において、第1のキャビティがキャビティA1であった場合、最終分岐点はP1であるから、最終分岐点の1個前の分岐点はP5であり、最終分岐点の2個前の分岐点はP7である。よって、この場合、変更幅決定部103は、分岐点P5からキャビティA3およびA4に至る流路B10に設けられたヒータC10の設定温度の変更幅をΔT1、分岐点P7からキャビティA5~A8に至る流路B14に設けられたヒータC14の設定温度の変更幅をΔT2に決定してもよい。
【0057】
ここで、通常、第1のキャビティから離れた位置の流路ほど、第1のキャビティに流入する樹脂の量を調整するための設定温度の変更の影響は小さくなる。このため、変更幅決定部103は、mの値が大きいほどΔTmの値を小さくしてもよい。例えば、変更幅決定部103は、ΔTm=km×ΔT1+αmとの式(km>km+1)により算出してもよい。
【0058】
〔成形品の製造方法〕
制御装置1を用いた成形品の製造方法について
図3に基づいて説明する。
図3は、成形品の製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、
図3には、第1~第3のヒータの設定温度を変更する例を示しているが、本製造方法においては少なくとも第1および第2のヒータの設定温度を変更すればよく、第3のヒータの設定温度の変更は必須ではない。
【0059】
S1では、データ取得部101が製造結果データを取得する。例えば、データ取得部101は、所定回数の射出成形により製造された各成形品についての検査結果を示すデータ(例えばキャビティごとの成形品の重量等)を、製造結果データとして取得してもよい。この場合、
図3の各処理は、所定回数の射出成形を行う毎に実行される。
【0060】
S2では、データ取得部101は、S1で取得した製造結果データに基づいてヒータの設定温度の変更が必要であるか否かを判定する。S2でYESと判定された場合にはS3に進み、S2でNOと判定された場合には
図3の処理は終了する。この場合、設定温度の調整は行われずに、次回以降の射出成形が行われる。
【0061】
S2において、データ取得部101は、製造結果データが、成形不良が発生したこと、あるいは成形不良が発生する兆候があることを示している場合に変更要と判定する。具体例を挙げれば、データ取得部101は、成形品の平均重量が所定の正常範囲外となっているキャビティが存在した場合に変更要と判定してもよい。また、例えば、データ取得部101は、成形品の平均重量は正常範囲内であるが、成形品の重量が射出成形の回数が増加するにつれて増加または減少する傾向にあるキャビティが存在した場合に変更要と判定してもよい。
【0062】
S3では、対象決定部102が、設定温度の変更対象とする第1~第3のヒータを決定する。具体的には、対象決定部102は、S2で変更要と判定される原因となったキャビティ、すなわち成形不良を発生させた、あるいは成形不良を発生させる兆候があるキャビティを第1のキャビティとし、当該第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータを第1のヒータに決定する。また、対象決定部102は、第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータを第2のヒータに決定すると共に、第3のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与えるヒータを第3のヒータに決定する。
【0063】
S4(変更幅決定ステップ)では、変更幅決定部103が、第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する。また、S5では、変更幅決定部103は、S4で決定した変更幅ΔT1に応じた、第2のヒータの設定温度の変更幅ΔT2を決定する。そして、S6では、変更幅決定部103は、S4で決定した変更幅ΔT1に応じた、第3のヒータの設定温度の変更幅ΔT3を決定する。なお、S5とS6の処理の順序は逆であってもよい。
【0064】
S7(温度制御ステップ)では、温度制御部104が、第1のヒータの設定温度をS4で決定された変更幅ΔT
1で変化させると共に、第2のヒータの設定温度をS5で決定された変更幅ΔT
2で変化させる。また、温度制御部104は、第3のヒータの設定温度をS6で決定された変更幅ΔT
3で変化させる。これにより、
図3の処理は終了する。この場合、次回以降の射出成形において、上記の設定温度の変更が反映される。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る成形品の製造方法は、分岐を有する流路の複数箇所に設けられたヒータで加熱した溶融樹脂を各分岐の端部に設けられた各キャビティに供給して、射出成形により複数の成形品を同時に製造する成形品の製造方法であって、複数のヒータのうち第1のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第1のヒータの設定温度の変更幅ΔT1を決定する変更幅決定ステップ(S4)と、第1のヒータの設定温度を変更幅ΔT1で変化させると共に、複数のヒータのうち第2のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第2のヒータの設定温度を前記変更幅ΔT1に応じて決定された変更幅ΔT2で変化させる温度制御ステップ(S7)と、を含む。よって、各キャビティで成形される成形品の品質を維持することが可能になる。
【0066】
また、
図3のフローチャートにおいて、上記温度制御ステップでは、第1のヒータおよび第2のヒータの設定温度を変化させると共に、複数のヒータのうち第3のキャビティに流入する樹脂の量に影響を与える第3のヒータの設定温度を変更幅ΔT
1に応じて決定された変更幅ΔT
3で変化させている。これにより、第1のヒータおよび第2のヒータの設定温度の変更が第3のキャビティに流入する樹脂の量に与える影響を抑えることができる。
【0067】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置(コンピュータと言い換えることもできる)により、制御装置1と同様の機能を実現することができる。例えば、
図3に示す各処理を複数の情報処理装置に分担で実行させてもよい。
【0068】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置1の機能は、制御装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、制御装置1の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(制御プログラム)により実現することができる。
【0069】
この場合、制御装置1は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0070】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、制御装置1が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して制御装置1に供給されてもよい。
【0071】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0072】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 制御装置
103 変更幅決定部
104 温度制御部
S4 変更幅決定ステップ
S7 温度制御ステップ