IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

特開2024-132702把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。
<>
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図1
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図2
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図3
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図4
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図5
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図6
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図7
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図8
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図9
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図10
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図11
  • 特開-把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132702
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】把持制御方法、把持制御装置、およびプログラム。
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B25J15/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043586
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 忠明
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707ES05
3C707ES07
3C707HT04
3C707JT10
3C707KS31
3C707KS33
3C707KS36
3C707KT01
3C707KT06
3C707KW03
3C707KX08
3C707LV06
3C707LV18
(57)【要約】
【課題】物体を落とすことなく手のひら方向に外力が働き、理想的なパワー把持に遷移させることができる把持制御方法、把持制御装置、およびプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】把持制御方法は、複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体を把持する第1把持工程と、エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定し、仮想的な接触点とエンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出する工程と、算出した力に基づいて指それぞれのトルク制御を行う第2把持工程と、を含む。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体を把持する第1把持工程と、
前記エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定し、前記仮想的な接触点と前記エンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出する工程と、
算出した力に基づいて前記指それぞれのトルク制御を行う第2把持工程と、
を含む把持制御方法。
【請求項2】
前記第1把持工程に比べて前記第2把持工程における関節角度制御ゲインを小さくする、
請求項1に記載の把持制御方法。
【請求項3】
前記第1把持工程では、
初期把持位置を前記物体の中心線を越えた位置に設定し、
前記エンドエフェクタの指先を前記物体に近づけ、前記エンドエフェクタの指先の移動方向において前記物体の中心線を越えた後、把持を行う前記エンドエフェクタの指先を閉じ始める、
請求項1または請求項2に記載の把持制御方法。
【請求項4】
前記第2把持工程では、
前記物体の把持が完了した後、前記仮想的な接触点を実際の接触点に変更する、
請求項1または請求項2に記載の把持制御方法。
【請求項5】
前記第1把持工程と前記第2把持工程における制約条件は、
前記物体の表面上で摩擦力が、摩擦係数を考慮した時の限界を超えない、
請求項1または請求項2に記載の把持制御方法。
【請求項6】
複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体を把持させる制御部と、
前記エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定する設定部と、
前記仮想的な接触点と前記エンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出する算出部と、
算出した力に基づいて前記指それぞれのトルク制御を行うトルク制御部と、
を備える把持制御装置。
【請求項7】
複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体の把持を制御する把持制御装置のコンピュータに、
前記物体を把持させ、
前記エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定させ、
前記仮想的な接触点と前記エンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出させ、
算出した力に基づいて前記指それぞれのトルク制御を行わせる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持制御方法、把持制御装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンドエフェクタで物体を把持する方法には、パワー把持(power grasp)と、指先を使う精密把持(precision grasp)がある。パワー把持では指先だけでなく、手のひらや指腹など多くの接触によって成立している。
従来、パワー把持の制御では、指の根元軸から閉じていき、接触したら止める方法などが用いられてきた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
なお、人間の手のひらが柔らかいため、物体に密着することが容易である。これに対して、一般的に、ロボットのエンドエフェクタは、人間の手のひらより硬く、人間の手のひらより平らな部分が多く、関節の数も人間より少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-112654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、人間の手の構造とエンドエフェクタの構造の違い等により、エンドエフェクタでパワー把持する場合は、物体に安定して接触を保つことが困難であった。
このため、従来技術では、図12のように、立たせているものを持つ場合(符号g900)に比較的有効だが、横に置かれている場合(符号g910)に物体を拾い上げるに指が床と干渉してしまい、うまく適用できなかった。図12は、物体が立っている場合の把持と、物体が横に置かれている場合の把持の例を示す図である。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、物体を落とすことなく手のひら方向に外力が働き、理想的なパワー把持に遷移させることができる把持制御方法、把持制御装置、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る把持制御方法は、複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体を把持する第1把持工程と、前記エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定し、前記仮想的な接触点と前記エンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出する工程と、算出した力に基づいて前記指それぞれのトルク制御を行う第2把持工程と、を含む把持制御方法である。
【0008】
(2)(1)の把持制御方法において、前記第1把持工程に比べて前記第2把持工程における関節角度制御ゲインを小さくするようにしてもよい。
【0009】
(3)(1)または(2)の把持制御方法において、前記第1把持工程では、初期把持位置を前記物体の中心線を越えた位置に設定し、前記エンドエフェクタの指先を前記物体に近づけ、前記エンドエフェクタの指先の移動方向において前記物体の中心線を越えた後、把持を行う前記エンドエフェクタの指先を閉じ始めるようにしてもよい。
【0010】
(4)(1)から(3)のうちのいずれか1つの把持制御方法において、前記第2把持工程では、前記物体の把持が完了した後、前記仮想的な接触点を実際の接触点に変更するようにしてもよい。
【0011】
(5)(1)から(4)のうちのいずれか1つの把持制御方法において、前記第1把持工程と前記第2把持工程における制約条件は、前記物体の表面上で摩擦力が、摩擦係数を考慮した時の限界を超えないようにしてもよい。
【0012】
(6)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る把持制御装置は、複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体を把持させる制御部と、前記エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定する設定部と、前記仮想的な接触点と前記エンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出する算出部と、算出した力に基づいて前記指それぞれのトルク制御を行うトルク制御部と、を備える把持制御装置である。
【0013】
(7)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るプログラムは、複数の指を有するエンドエフェクタの指先で物体の把持を制御する把持制御装置のコンピュータに、前記物体を把持させ、前記エンドエフェクタの所定箇所に仮想的な接触点を設定させ、前記仮想的な接触点と前記エンドエフェクタの指の接触点の力のつり合いを算出させ、算出した力に基づいて前記指それぞれのトルク制御を行わせる、プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
(1)~(7)によれば、物体を落とすことなく手のひら方向に外力が働き、理想的なパワー把持に遷移させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る仮想接触点の例を示す図である。
図2】多指を備えるエンドエフェクタの例を示す図である。
図3】エンドエフェクタの関節の例を示す図である。
図4】実施形態に係る把持制御システムの構成例を示す図である。
図5】実施形態に係る仮想接触点の一例を示す図である。
図6】把持の初期目標位置の例を示す図である。
図7】実施形態に係る把持制御方法で物体を把持する例を示す図である。
図8】実施形態に係る把持制御方法で物体を把持する例を示す図である。
図9】実施形態に係る把持制御方法で物体を把持する例を示す図である。
図10】実施形態に係る把持制御方法で物体を把持する例を示す図である。
図11】実施形態に係る把持制御装置が行う制御手順例のフローチャートである。
図12】物体が立っている場合の把持と、物体が横に置かれている場合の把持の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
また、本願でいう「XXに基づいて」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。また、「XXに基づいて」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0017】
(概要)
従来技術を用いて、指部が物体に接触する接触点にかかる力の重心となる点で、力が釣り合うようにした場合は、把持した状態で釣り合うことができても、精密把持からパワー把持に遷移するまでが難しかった。
このため、本実施形態では、仮想的な接触点(以下、「仮想的な接触点」を「仮想接触点」ともいう)を設定することで、物体を手のひらの方向へ近づけていくような動作を生成するようにした。なお、仮想接触点は、図1のように、例えば手のひらの内側の表面上の真ん中に、物体が接触しているかのように接触点を設定する。図1は、本実施形態に係る仮想接触点の例を示す図である。図1において、点g11とg12点が、指部と物体との接触点であり、点g21が仮想接触点である。なお、図1の仮想接触点の位置は一例であり、この位置に限らない。また、仮想接触点の設定方法については、後述する。
なお、本実施形態では、例えば、大まかな作業の指示を操作者が行い、操作制御装置が仮想接触点の設定や各指の把持力の計算や分配を行って把持制御を行い、作業をサポートする。
【0018】
(エンドエフェクタ)
多指を備えるエンドエフェクタ10の例を説明する。
図2は、多指を備えるエンドエフェクタの例を示す図である。なお、図2では、指が4つの例を示しているが、指の数はこれに限らず、例えば2つや3つであってもよく、5つ以上であってもよい。
指先には、例えば、6軸センサである力覚センサ12(12a、12b、12c、12d)が取り付けられている。
また、指の腹、手のひら等には、触覚センサ13が取り付けられている。
【0019】
図3は、エンドエフェクタの関節の例を示す図である。
図3の示す例のエンドエフェクタ10は、例えばワイヤ駆動により制御され、4指11、自由度16関節の構造体である(参考文献1参照)。
なお、図2に示したセンサの取り付け位置や個数や大きさ等は一例であり、これに限らない。また、図3に示した自由度や関節の数は一例であり、これに限らない。
【0020】
参考文献1;Tadaaki Hasegawa, Hironori Waita, et al, “Powerful and dexterous multi-finger hand using dynamical pulley mechanism”, 2022 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA), p707-713, 2022
【0021】
図4は、本実施形態に係る把持制御システムの構成例を示す図である。図4のように、把持制御システム1は、例えば、エンドエフェクタ10と、把持制御装置2と、操作入力部3と、環境センサ4を備える。
エンドエフェクタ10は、例えば、指部11と、力覚センサ12と、触覚センサ13と、アクチュエータ14と、制御部15と、通信部16を備える。なお、エンドエフェクタ10は、例えば手の甲等に撮影部を備えていてもよい。
把持制御装置2は、例えば、取得部21と、設定部22と、算出部23と、トルク制御部24と、通信部25と、記憶部26と、制御部27を備える。
【0022】
操作入力部3は、例えばデータグローブであり、操作者の手に装着される。操作入力部3は、操作者が捜査した結果を検出して把持制御装置2に出力する。
【0023】
環境センサ4は、例えば、深度情報Dも測定可能なRGB(赤緑青)D撮影装置である。環境センサ4は、例えば、物体やエンドエフェクタ10を撮影可能な範囲に設置される。環境センサ4は、複数であってもよい。
【0024】
エンドエフェクタ10は、例えば図2のような4つの指部11を備える多指ハンドである。なお、エンドエフェクタ10は、不図示のアームに接続されている。
【0025】
力覚センサ12は、例えば、圧センサ、または複数の向きに作用する力やトルクの大きさをリアルタイムに計測することのできる6軸力覚センサ(6AF sensor)であってもよい。
【0026】
触覚センサ13は、例えば、人間の手などに備わっている触覚が感じとる情報を検出し、電気信号に変換する触覚センサ(Tactile sensor)である。
【0027】
アクチュエータ14は、エンドエフェクタ10の各関節を制御部15の制御に応じて駆動する。
【0028】
制御部15は、各センサが検出した検出値を、通信部16を介して把持制御装置2に送信する。制御部15は、通信部16を介して、把持制御装置2が送信した制御情報を取得する。
【0029】
通信部16は、制御部15が出力する情報を把持制御装置2に送信する。通信部16は、把持制御装置2が送信した制御情報を受信し、受信した制御情報を制御部15に出力する。
【0030】
取得部21は、力覚センサ12の検出値を装置の状態量(ハンドの関節角など)として取得する。取得部21は、環境センサ4が撮影した画像(含む深度情報)を取得し、取得した画像に含まれる情報に対して画像処理を行って、操作対象物体の状態量(対象物体の位置姿勢など)を取得する。
【0031】
設定部22は、仮想接触点を、例えば手のひらに設定する。
【0032】
算出部23は、仮想接触点と指部11の接触点の力のつり合いを算出する。
【0033】
トルク制御部24は、トルク制御を行う。
【0034】
通信部25は、エンドエフェクタ10と情報の送受信を行う。
【0035】
記憶部26は、例えば、把持制御装置2が使用するプログラム、数式、閾値等を記憶する。記憶部26は、センサ(力覚センサ12、触覚センサ13)が取り付けられている位置を記憶する。
【0036】
制御部27は、把持開始時に操作入力部3からの指示に基づいて、エンドエフェクタ10の指部11の指先を、物体に近づけていくように指令情報を生成する。制御部27は、生成した制御情報を、通信部25を介してエンドエフェクタ10へ出力する。
【0037】
(仮想接触点)
次に、仮想接触点について説明する。
図5は、本実施形態に係る仮想接触点の一例を示す図である。符号g100は物体を上から見た図であり、符号g150は物体を横から見た図である。
符号g121は、把持中心点である。
符号g131は第1の指部11(例えば人差し指)、符号g132は第2の指部11(例えば中指)、符号g133は第3の指部11(例えば親指)である。
符号g141は第1の指部11による力f1、符号g142は第2の指部11による力f2、符号g143は第3の指部11による力f3である。
【0038】
把持中心点g121は、例えば特願2021-060662号に記載のように、把持タクソノミー(例えば参考文献2参照)に応じた位置であり、把持する指部11による力g141~g143の釣り合いが取れる位置である。
【0039】
参考文献2;Thomas Feix, Javier Romero,他,“The GRASP Taxonomy of Human GraspTypes” IEEE Transactions on Human-Machine Systems ( Volume: 46, Issue: 1, Feb.2016),IEEE,p66-77
【0040】
本実施形態では、力の釣り合いを計算する点である把持中心点の代わりに仮想接触点g151を用いる。なお、本実施形態で用いる仮想接触点は、力の釣り合いに関係する複数の接触点の1つである。そして、本実施形態では、この仮想接触点を、実際に接触していないが接触していると仮定して、把持中心点周りの力の釣り合いを考えるようにした。そして、把持制御装置2は、仮想接触点と指部の接触点の力g161~g163のつり合いを算出する。換言すると、指部の接触点の力g161~g163に働く力が、仮想接触点でつりあうようにする。より具体的には、仮想接触点におこる指先にかかる力の合力が、物体の重力または外力と釣り合うように各力を、制約条件付きの二次計画法に相当する式を用いて解く。制約条件は、例えば、物体の表面上で摩擦力が、摩擦係数を考慮した時の限界を超えないこと、すなわち、把持したときに滑って物体が落ちないことである。この制約条件の下、仮想接触点(仮想的な把持中心)において、指部11の力の総和がゼロになる式をコスト関数とし、仮想接触点での誤差が最小となるように、各指部11の把持力を決める。
【0041】
準静的な条件下では、各指の接触点にかかる力と物体にかかる力の間に次式(1)の力の均衡が成立する必要がある。
【0042】
【数1】
【0043】
式(1)において、wextは物体に作用する外力(重力も含む)、Gは各接点と法線から計算した把持行列、fは各接点の力をまとめたベクトルである。
各接触点での力fについては、並進力のみが摩擦力として作用する接触モデルを用いると、次式(2)、次式(3)の摩擦限界モデルが成立することになる。なお、fix、fiy、fizは各軸のi番目の把持力を表す。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
この制約のもとで、想定される把持法線力とし、次式(4)の評価関数を最小化するfを例えばガウス・ザイデル法で求める。なお、Cはコスト関数である。fは把持力の大きさを決める設定値であり、例えば、物体の重さに応じて予め決めてもよく、または作業内容に応じて操作者が指示するようにしてもよい。
【0047】
【数4】
【0048】
なお、力の釣り合いの算出において、特願2021-060662号と同様に、把持可能領域を求め、求めた把持可能領域で把持させるようにアシストするようにしてもよい。
【0049】
なお、物体の重さや大きさは、既知であってもよく、操作者が入力してもよく、例えば一度エンドエフェクタ10で把持させて、エンドエフェクタ10が備えるセンサの検出値に基づいて求めるようにしてもよい。なお、物体の大きさは、エンドエフェクタ10で把持可能な大きさであればよい。
【0050】
なお、仮想接触点は、手のひらの中央部の例を説明したが、仮想接触点は、実際に物体が接触している点ではないため、例えば、手のひら内の箇所であるが、例えば指部の腹等であってもよい。
【0051】
把持制御装置2は、指先と物体が接触している点に、このように算出した力(把持力)を発生させる。なお、把持開始から把持完了時において、把持制御装置2は、指部11を物体に接触させに行くときの関節角度と比べて小さくする(=指部11の関節角度の制御ゲインを小さくする)。すなわち、関節角度の指令値と、実測値とがずれていてもよい。
なお、一般的には関節角の実測値がフォードバックされ、目標値との誤差を減らすように関節のトルクを増やすように制御する。これに対して、本実施形態では、ズレに対して制御するトルク値を通常より小さくする。そして、把持制御装置2は、初期把持状態から、把持力を調整して把持を完了させる。なお、パワー把持が完了した後の制御では、関節角度の指令値が変化しない。
【0052】
最終的には、物体が、例えば手のひらに接触して把持が完了する。この時点で、手のひら側の接触点が決まるので、把持完了時の各指部11の力の合力は、実際の接触点で釣り合いの取れた物となる。なお、把持完了時、手のひらの多点と接触していてもよい。また、把持制御装置2は、例えば、エンドエフェクタ10が備えるセンサの検出値によって、所望の箇所が接触した場合に把持完了であると判断する。
【0053】
また、把持の初期目標位置は、図6のように、物体が球体であり床に置かれている場合、例えば矢印g182のように直径g181より下側(床側)である。符号g183は、エンドエフェクタ10を物体に近づけていく方向を示している。図6は、把持の初期目標位置の例を示す図である。
【0054】
このように、本実施形態では、物体の把持を行う際、まず、エンドエフェクタ10を物体に近づけていく。この際、初期把持位置は、物体の中心線g181を越えた位置とする。把持制御装置2は、指先の移動方向g183において物体の中心線g181を越えた後、把持を行うエンドエフェクタ10の指先を目標値で把持するように閉じ始める。なお、把持制御装置2は、物体の中心線g181を越えたか否かを、例えば環境センサ4の検出値によって判断する。
【0055】
(把持操作の例)
次に、把持操作の例を図7図10を用いて説明する。
図7図10は、本実施形態に係る把持制御方法で物体を把持する例を示す図である。図7図10において、符号g200~g230は制御画面例であり、符号g300~g330はエンドエフェクタ10の動作状態例である。なお、ゴールは、エンドエフェクタ10が、物体をパワー把持した状態である。このため、把持開始時の仮想ゴールが仮想接触点に接触であり、実際のゴールがパワー把持を完了する時点である。
【0056】
(時刻t1)精密把持では、一般的に球面上の対向する頂点の位置を目標点にするが、物体がテーブル等に置かれていて上から把持するため、把持制御装置2は、図7のように、テーブル上の対象物を、一定距離指とテーブルが離れた状態で対象物を“深めの精密把持”をするように制御する。なお、この時点では、図7のように、まだ手のひらは、物体に接触していない。
【0057】
(時刻t2)把持制御装置2は、図8のように、指部11が物体に接触するように、指先に目標値の力(g211、g212)を指示する。
【0058】
(時刻t3)把持制御装置2は、物体の把持を開始する。図9において、符号g222、g223は実際の力(実測値)である。符号g224、g225は指令値である。符号g221は仮想接触点である。符号g226は、仮想接触点に働く仮想的な力であり、実際に接触していないので逆向きに物体に力がかかる。
【0059】
(時刻t4)把持制御装置2は、物体の把持を完了する。図10において、符号g231は、把持完了時の実際の接触点である。
【0060】
(把持操作処理手順)
次に、把持制御装置2が行う制御手順例を説明する。
図11は、本実施形態に係る把持制御装置が行う制御手順例のフローチャートである。
【0061】
(ステップS1)把持制御装置2は、操作入力部3から操作指示を取得する。把持制御装置2は、環境センサ4から例えば画像を取得する(第1把持工程)。
【0062】
(ステップS2)把持制御装置2は、取得した情報に基づいて、物体にエンドエフェクタ10に近づけていく(第1把持工程)。
【0063】
(ステップS3)把持制御装置2は、指先の位置が物体の中心線を越えたか否かを判別する(第1把持工程)。把持制御装置2は、指先の位置が物体の中心線を越えた場合(ステップS3;YES)、ステップS4の処理に進める。把持制御装置2は、指先の位置が物体の中心線を越えていない場合(ステップS3;NO)、ステップS2に処理を戻す。
【0064】
(ステップS4)把持制御装置2は、物体の中心線g181を越えた後、把持を行うエンドエフェクタ10の指先を目標値で把持するように閉じ始める(第1把持工程)。
【0065】
(ステップS5)把持制御装置2は、仮想接触点を、例えばエンドエフェクタ10の手のひらに設定する。
【0066】
(ステップS6)把持制御装置2は、仮想接触点を含む力の釣り合いを算出、すなわち各指部11の把持力を算出する。
【0067】
(ステップS7)把持制御装置2は、トルク制御を行う(第2把持工程)。なお、把持制御装置2は、把持の最終、関節角度制御ゲイン(トルク)を小さくすることで、動きに合わせて指がなじむように制御する。
【0068】
(ステップS8)把持制御装置2は、例えば触覚センサ13の検出値に基づいて、把持が完了したか否かを判別する(第2把持工程)。把持制御装置2は、把持が完了した場合(ステップS8;YES)、処理を終了する。把持制御装置2は、把持が完了していない場合(ステップS8;NO)、ステップS7に処理を戻す。
【0069】
以上のように、本実施形態では、指が床面に当たらない程度で深めの精密把持を行い、手のひらに仮想接触点を与えることで、仮想接触点を含む力の釣り合いを算出するようにした。そして、本実施形態では、実際に接触している点にのみ把持力を発生させるようにした。本実施形態では、この際に関節角度制御ゲインを小さくすることで、動きに合わせて指がなじむようにした。
【0070】
これにより、本実施形態によれば、物体を落とすことなく手のひら方向に外力が働き、理想的なパワー把持に遷移させることができる。
【0071】
なお、上述した把持は、物体を上から把持する例を説明したが、図12の符号g900のように、円柱の物体がテーブル等に置かれている場合に把持する場合にも適用可能である。
【0072】
なお、本発明における把持制御装置2の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより把持制御装置2が行う処理の全てまたは一部を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0073】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0074】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…把持制御システム、10…エンドエフェクタ、2…把持制御装置、3…操作入力部、4…環境センサ、11…指部、12…力覚センサ、13…触覚センサ、14…アクチュエータ、15…制御部、16…通信部、21…取得部、22…設定部、23…算出部、24…トルク制御部、25…通信部、26…記憶部、27…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12