(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132706
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】超伝導回転機、および、その冷却方法
(51)【国際特許分類】
H02K 55/04 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H02K55/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043592
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 一宗
(72)【発明者】
【氏名】一木 洋太
(57)【要約】
【課題】冷却構造を簡略化する。
【解決手段】超伝導回転機100は、超伝導界磁巻線22を回転子21に備え、回転子は、外層側から真空容器31、輻射シールド32、ガス容器33の三層円筒構造をもつ非回転容器(三層円筒容器30)内に納められるとともに、トルクチューブ40を介して回転軸(シャフト41)と接続され、ガス容器には熱交換ガス99が封入され、輻射シールドとトルクチューブとの間には第1熱交換器51が備え付けられ、超伝導界磁巻線とガス容器との間には第2熱交換器52が備え付けられ、第1熱交換器と第2熱交換器は、ガス容器に封入された熱交換ガスの熱伝導により熱交換される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導界磁巻線を回転子に備え、
前記回転子は、外層側から真空容器、輻射シールド、ガス容器の三層円筒構造をもつ非回転容器内に納められるとともに、トルクチューブを介して回転軸と接続され、
前記ガス容器には熱交換ガスが封入され、
前記輻射シールドと前記トルクチューブとの間には第1熱交換器が備え付けられ、
前記超伝導界磁巻線と前記ガス容器との間には第2熱交換器が備え付けられ、
前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、前記ガス容器に封入された前記熱交換ガスの熱伝導により熱交換される
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
前記真空容器には2ステージ冷凍機が挿入され、
前記2ステージ冷凍機の第1ステージにより前記第1熱交換器の前記輻射シールド側が伝導冷却され、
前記2ステージ冷凍機の第2ステージにより前記第2熱交換器の前記ガス容器側が伝導冷却される
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項3】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
二つの温度の冷媒の流路が備わっており、
より高温の冷媒は前記第1熱交換器の前記輻射シールド側を冷却し、
より低温の冷媒は前記第2熱交換器の前記ガス容器側を冷却する
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項4】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
前記熱交換ガスの圧力が輻射よりも気体分子伝導による伝熱が支配的となる範囲で大気圧よりも減圧されている
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項5】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
前記真空容器、前記輻射シールド、前記ガス容器のいずれかに対して、少なくともその一部に繊維強化複合材が適用されている
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項6】
請求項5に記載の超伝導回転機であって、
前記繊維強化複合材の表面に渦電流の流れる方向とは垂直方向に高熱伝導の金属線が貼り付けられている
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項7】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、高熱伝導の素材からなる対向する板の間に熱交換ガスが介在する
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項8】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
前記回転子から離れた場所に設けられた冷凍機を備え、
前記冷凍機は、前記第1熱交換器の前記輻射シールド側と前記第2熱交換器の前記ガス容器側に対して異なる冷媒の循環路を形成して、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器を冷却する構成になっている
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項9】
請求項1に記載の超伝導回転機であって、
前記第1熱交換器を冷却する第1冷凍機と、
前記第2熱交換器を冷却する第2冷凍機と、を備え、
前記第1冷凍機と前記第2冷凍機は、動作温度が異なる
ことを特徴とする超伝導回転機。
【請求項10】
超伝導界磁巻線を回転子に備え、前記回転子は、外層側から真空容器、輻射シールド、ガス容器の三層円筒構造をもつ非回転容器内に納められるとともに、トルクチューブを介して回転軸と接続され、前記ガス容器には熱交換ガスが封入され、前記輻射シールドと前記トルクチューブとの間には第1熱交換器が備え付けられ、前記超伝導界磁巻線と前記ガス容器との間には第2熱交換器が備え付けられ、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、前記ガス容器に封入された前記熱交換ガスの熱伝導により熱交換される超伝導回転機の冷却方法であって、
前記真空容器には2ステージ冷凍機が挿入されており、
前記2ステージ冷凍機の第1ステージにより前記第1熱交換器の前記輻射シールド側が伝導冷却され、
前記2ステージ冷凍機の第2ステージにより前記第2熱交換器の前記ガス容器側が伝導冷却される
ことを特徴とする超伝導回転機の冷却方法。
【請求項11】
超伝導界磁巻線を回転子に備え、前記回転子は、外層側から真空容器、輻射シールド、ガス容器の三層円筒構造をもつ非回転容器内に納められるとともに、トルクチューブを介して回転軸と接続され、前記ガス容器には熱交換ガスが封入され、前記輻射シールドと前記トルクチューブとの間には第1熱交換器が備え付けられ、前記超伝導界磁巻線と前記ガス容器との間には第2熱交換器が備え付けられ、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、前記ガス容器に封入された前記熱交換ガスの熱伝導により熱交換される超伝導回転機の冷却方法であって、
前記回転子から離れた場所には、冷凍機が設けられており、
前記第1熱交換器の前記輻射シールド側と前記冷凍機との間には、第1循環路が形成され、
前記第2熱交換器の前記ガス容器側と前記冷凍機との間には、第2循環路が形成され、
前記第1循環路を通る冷媒と前記第2循環路を通る冷媒が前記冷凍機はよって異なる温度に冷却されることで、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器を冷却する
ことを特徴とする超伝導回転機の冷却方法。
【請求項12】
超伝導界磁巻線を回転子に備え、前記回転子は、外層側から真空容器、輻射シールド、ガス容器の三層円筒構造をもつ非回転容器内に納められるとともに、トルクチューブを介して回転軸と接続され、前記ガス容器には熱交換ガスが封入され、前記輻射シールドと前記トルクチューブとの間には第1熱交換器が備え付けられ、前記超伝導界磁巻線と前記ガス容器との間には第2熱交換器が備え付けられ、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、前記ガス容器に封入された前記熱交換ガスの熱伝導により熱交換される超伝導回転機の冷却方法であって、
前記超伝導回転機には、前記第1熱交換器を冷却する第1冷凍機と、前記第2熱交換器を冷却する第2冷凍機と、が設けられており、
前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、異なる動作温度で前記第1冷凍機と前記第2冷凍機によって冷却される
ことを特徴とする超伝導回転機の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導回転機、および、その冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に「超伝導コイル」と称される超伝導界磁巻線を様々な分野の装置に用いることが行われている。その一例として、例えば、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)などの装置では、界磁の発生手段に超伝導界磁巻線を用いることが行われている。なお、超伝導界磁巻線は、臨界温度以下の温度に冷却することで大電流を通電することができる超伝導線材で構成された巻線である。
【0003】
また、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)などの装置以外に、例えば、発電機や電動機などの回転機でも、界磁の発生手段に超伝導界磁巻線を用いることが行われている。以下、超伝導界磁巻線を界磁の発生手段に用いた回転機を「超伝導回転機」と称する。
【0004】
超伝導回転機の中で、シャフトに固定された超伝導界磁巻線を真空断熱容器の内部に配置し、シャフトとともに超伝導界磁巻線を回転させる構成のものがある(例えば、特許文献1参照)。この構成の超伝導回転機は、外部に設けられた冷却ステーション(特許文献1ではコールドヘッド又は図示せぬ冷却手段)からシャフトの内部に極低温の冷媒を供給することで、臨界温度以下の温度に超伝導界磁巻線を冷却する。その際に、冷媒は、回転子との熱交換により温度が上昇するが、外部の冷却ステーションに戻されて、冷却される。冷媒には、ガスヘリウムやネオンなどが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)などの装置は、回転しない部材に超伝導界磁巻線を用いている。これに対して、超伝導回転機は、回転子として回転する部材に超伝導界磁巻線を用いている。このような超伝導回転機は、外部の冷却ステーションと回転子との間で極低温の冷媒を循環させて超伝導界磁巻線を冷却する。このような超伝導回転機は、冷却構造として、極低温の冷媒を回転子に導入するための回転接手をシャフトに設けたり、極低温の冷媒を移送するためのポンプを冷却ステーションに設けたりしている。このような超伝導回転機は、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)と比較して、冷却構造が複雑な構造になっているため、超伝導界磁巻線を冷却し難く、信頼性が低下し易い、という課題もある。
【0007】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、冷却構造を簡略化した超伝導回転機、および、その冷却方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、超伝導回転機であって、超伝導界磁巻線を回転子に備え、前記回転子は、外層側から真空容器、輻射シールド、ガス容器の三層円筒構造をもつ非回転容器内に納められるとともに、トルクチューブを介して回転軸と接続され、前記ガス容器には熱交換ガスが封入され、前記輻射シールドと前記トルクチューブとの間には第1熱交換器が備え付けられ、前記超伝導界磁巻線と前記ガス容器との間には第2熱交換器が備え付けられ、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器は、前記ガス容器に封入された前記熱交換ガスの熱伝導により熱交換される構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却構造を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係る超伝導回転機の模式構成図である。
【
図2A】極低温環境下における、圧力InPと熱伝導率Inλの両対数グラフ図である。
【
図2B】極低温環境下における、圧力InPと風損InWの両対数グラフ図である。
【
図3】熱交換器における熱交換部の模式構成図である。
【
図4】熱交換器の変形例における熱交換部の模式構成図である。
【
図5】高い熱伝導率と低い渦電流損を両立した構造部材の構成例を示す図である。
【
図6】実施形態2に係る超伝導回転機の模式構成図である。
【
図7】実施形態3に係る超伝導回転機の模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0012】
[実施形態1]
<超伝導回転機の構成>
以下、
図1を参照して、本実施形態1に係る超伝導回転機100の構成について説明する。
図1は、本実施形態1に係る超伝導回転機100の模式構成図である。
【0013】
本実施形態に係る超伝導回転機100は、超伝導界磁巻線22を回転子21に備えた回転機である。本実施形態に係る超伝導回転機100は、例えば、メガワットクラスの大型の装置に適している。
【0014】
図1に示すように、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、任意の場所に固定設置される外被10の内部に、三層円筒容器30を有している。三層円筒容器30は、回転しない非回転容器である。三層円筒容器30は、外側から順に真空容器31と輻射シールド32とガス容器33とを有している。真空容器31と輻射シールド32は、内部空間を高真空に維持する容器である。ガス容器33は、内部に熱交換ガス99が封入される容器である。
【0015】
真空容器31と輻射シールド32とガス容器33とは、それぞれ円筒形状を呈している。ただし、真空容器31と輻射シールド32とガス容器33は、真正な円筒形状でなくてもよく、例えば任意の部位に凹凸を設けた形状であってもよい。また、
図1に示す例では、輻射シールド32とガス容器33は、軸方向の両端部が軸方向に延びる形状になっている。また、輻射シールド32は、後記する第1熱交換器51を収納する部位を拡幅させた形状であってもよい。
【0016】
輻射シールド32は、真空容器31とガス容器33との間を、外側の空間と内側の空間とに仕切っている。真空容器31とガス容器33との間において、輻射シールド32よりも外側の空間は、例えば50K[ケルビン]程度の中温領域の温度に維持される。また、輻射シールド32よりも内側の空間は、例えば10K[ケルビン]程度の内側の極低温領域の温度に維持される。
【0017】
ガス容器33の内部には、回転子21が配置されている。回転子21は、超伝導界磁巻線22と、超伝導界磁巻線22を支持する界磁サポート23と、を有する。超伝導界磁巻線22には、超伝導線材が用いられる。超伝導線材は、臨界温度以下の温度に冷却することで大電流を通電することができる線材である。超伝導界磁巻線22は、2ステージGM冷凍機60により極低温に冷却されて超伝導状態になることで、ゼロ抵抗で大電流を通電することができる。
【0018】
回転子21は、トルクチューブ40を介して回転軸であるシャフト41に接続され、シャフト41とともに回転する。シャフト41は、軸受42によって回転自在に支持されている。シャフト41は、軸受42を介して外被10の軸方向端面板(側板)から外界へと伸び、外界に動力を伝達する。熱交換ガス99は、軸受42の近傍で磁性流体シール43により封止されている。トルクチューブ40とシャフト41は、ガス容器33に封入された熱交換ガス99と接触する構成になっている。
【0019】
輻射シールド32の円筒部において、輻射シールド32とトルクチューブ40との間には、第1熱交換器51が備え付けられている。また、ガス容器33の軸方向端部において、超伝導界磁巻線22とガス容器33との間には、第2熱交換器52が備え付けられている。
図1に示す例では、第2熱交換器52は、超伝導界磁巻線22とガス容器33との右側の軸方向端部に設けられているが、左側の軸方向端部又は両側の軸方向端部に設けるようにしてもよい。第1熱交換器51と第2熱交換器52は、ガス容器33に封入された熱交換ガス99の熱伝導により熱交換される。
【0020】
また、外被10と真空容器31との間には、電機子巻線12(固定子巻線)を支持する電機子サポート13が配置され、電機子サポート13が鉄コア11によって支持されている。
【0021】
三層円筒容器30の軸方向端部には、2ステージGM冷凍機60が備え付けられている。2ステージGM冷凍機60は、第1ステージ61と第2ステージ62の二つのステージを有し、二つのステージを冷却するGM(Gifford-McMahon)冷凍機である。以下、2ステージGM冷凍機を単に「2ステージ冷凍機」と称する場合がある。
図1に示すように、2ステージGM冷凍機60は、好ましくは、複数設けられるとよい。また、複数の2ステージGM冷凍機60は、好ましくは、三層円筒容器30の軸方向端部において、シャフト41を中心とする円上に、等間隔に設けられるとよい。
【0022】
2ステージGM冷凍機60の第1ステージ61は、輻射シールド32の軸方向端部に接続されており、第1熱交換器51を伝導冷却する。換言すると、超伝導回転機100では、2ステージGM冷凍機60の第1ステージ61により第1熱交換器51の輻射シールド32側が伝導冷却される。2ステージGM冷凍機60の第1ステージ61は、第1熱交換器51を冷却することで、間接的に超伝導界磁巻線22を冷却する。また、2ステージGM冷凍機60の第2ステージ62は、ガス容器33に接続されており、第2熱交換器52を伝導冷却する。換言すると、超伝導回転機100では、2ステージGM冷凍機60の第2ステージ62により第2熱交換器52のガス容器33側が伝導冷却される。2ステージGM冷凍機60の第2ステージ62は、第2熱交換器52を冷却することで、間接的にトルクチューブ40を冷却する。第1ステージ61は、例えば50K[ケルビン]程度の中温領域に冷却する冷却部である。第2ステージ62は、例えば10K[ケルビン]程度の極低温領域に冷却する冷却部である。
【0023】
第1熱交換器51および第2熱交換器52は、例えば無酸素銅などの熱伝導率の優れた対向する金属板から構成される。第1熱交換器51および第2熱交換器52の対向する金属板の間には、熱交換ガス99が介在しており、熱交換ガス99により対向する金属板の間で熱交換が行われる。
【0024】
輻射シールド32、第1熱交換器51、トルクチューブ40の中間点は、2ステージGM冷凍機60の第1ステージ61と近い温度、例えば50K[ケルビン]程度に冷却される。また、超伝導界磁巻線22と界磁サポート23、ガス容器33、第2熱交換器52は、2ステージGM冷凍機60の第2ステージ62と近い温度、例えば10K[ケルビン]程度に冷却される。
【0025】
ガス容器33の外側と真空容器31の内側の空間は、高真空に維持され、三層円筒容器30(真空容器31、輻射シールド32、ガス容器33)の間の断熱性を高めている。
【0026】
トルクチューブ40とシャフト41には、外部電源から超伝導界磁巻線22へ電流を導入するための磁性電流導入端子46が内蔵されている。磁性電流導入端子46としては、外界から低温部への熱侵入を抑制するために、熱伝導率が低く、かつ、ゼロ抵抗で大電流を通電可能な高温超伝導電流リードを用いるとよい。磁性電流導入端子46の端部は、スリップリングとカーボンブラシを使用しており、外部から回転子21に電流を導入可能である。電機子巻線12には、銅の導体が使用されている。電機子巻線12は、真空容器31の外側の室温環境に設置されている。
【0027】
GM冷凍機を用いて磁気共鳴イメージング装置(MRI)を冷却する技術が提案されている。しかしながら、GM冷凍機を用いて磁気共鳴イメージング装置(MRI)を冷却する技術は、ガスを介して冷却することや、熱交換器の位置が考慮されておらず、超伝導回転機100に適用し難いものであった。
【0028】
<比較例の構成>
以下、本実施形態1に係る超伝導回転機100の特徴を分かり易く説明するために、まず、
図8を参照して、比較例の超伝導回転機1000の構成について説明し、その後に、本実施形態1に係る超伝導回転機100の特徴について説明する。
図8に示す比較例の超伝導回転機1000は、従来の一般的な超伝導回転機に相当する。
【0029】
図8に示すように、比較例の超伝導回転機1000は、任意の場所に固定設置される外被1010の内部に、真空容器1031を有している。真空容器1031は、内部空間を高真空に維持する容器である。
【0030】
真空容器1031の内部には、回転子1021が配置されている。回転子1021は、超伝導界磁巻線1022と、超伝導界磁巻線1022を支持する界磁サポート1023と、を有する。超伝導界磁巻線1022には、超伝導線材が用いられる。
【0031】
回転子1021は、真空容器1031に納められ、トルクチューブ1040を介して回転軸であるシャフト1041に接続される。回転子1021(超伝導界磁巻線1022及び界磁サポート1023)と真空容器1031とトルクチューブ1040は、一体となって回転する。シャフト1041は、軸受1042によって回転自在に支持されている。シャフト1041は、軸受1042を介して外被1010の軸方向端面板(側板)から外界へと伸び、外界に動力を伝達する。トルクチューブ1040とシャフト1041の内部には、外部に設けられた冷却ステーション1080と回転子1021との間で極低温の冷媒1099を循環させるための流路が設けられている。比較例の超伝導回転機1000は、外部の冷却ステーション1080からトルクチューブ1040とシャフト1041の内部に冷媒1099を供給して超伝導界磁巻線1022を冷却する。また、シャフト1041には、冷媒1099を回転子1021に導入するための冷媒導入回転接手1083が設けられている。また、冷却ステーション1080には、冷媒を移送するためのポンプ1081が設けられている。
【0032】
外被1010と真空容器1031との間には、電機子巻線1012(固定子巻線)を支持する電機子サポート1013が配置され、電機子サポート1013が鉄コア1011によって支持されている。
【0033】
超伝導界磁巻線1022は、真空容器1031の内部空間が高真空になっており、また、冷却ステーション1080との間で循環される冷媒1099により極低温に冷却されることで、室温の真空容器1031と断熱している。
【0034】
トルクチューブ1040とシャフト1041には、外部電源から超伝導界磁巻線1022へ電流を導入するための磁性電流導入端子1046が内蔵されている。磁性電流導入端子1046には、例えば高温超伝導電流リードが用いられる。磁性電流導入端子1046の端部は、スリップリングとカーボンブラシを使用しており、外部から回転子1021に電流を導入可能である。電機子巻線1012には、高純度銅の導体が使用されている。比較例の超伝導回転機1000は、冷媒導入回転接手1083により回転子1021へ冷媒1099を供給可能としている。冷媒1099は、外部の冷却ステーション1080と回転子1021を循環し、冷却ステーション1080に設けられたGM冷凍機1082で常に極低温に維持される。
【0035】
<比較例の超伝導回転機に対する実施形態1に係る超伝導回転機の特徴>
以下、比較例の超伝導回転機1000に対する本実施形態1に係る超伝導回転機100の特徴を説明する。
【0036】
比較例の超伝導回転機1000は、外部の冷却ステーション1080と回転子1021との間で冷媒1099を循環させて、真空容器1031の内部空間における極低温部での発熱や外部環境からの侵入熱を冷却ステーション1080に設けられたGM冷凍機1082により取り除き続けることで、超伝導界磁巻線1022の超伝導状態を維持させることが可能な極低温環境に維持する(
図8参照)。
【0037】
一方、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52を冷却する。そして、ガス容器33に封入された熱交換ガス99の熱伝導により第1熱交換器51と第2熱交換器52が熱交換されることで、超伝導界磁巻線22の超伝導状態を維持させることが可能な極低温環境に維持する(
図1参照)。
【0038】
一般にGM冷凍機は、低温部から高温部へと熱を移動させる(除熱する)装置であり、その稼働には電力を消費する。GM冷凍機の成績係数(COP,Coefficient of performance)は、冷却能力を稼働のための消費電力で除したものであり、冷却温度の低下とともに減少する。市販のGM冷凍機の典型的な性能(成績係数(COP))は、例えば、4K[ケルビン]のとき0.0002、10K[ケルビン]のとき0.002、20K[ケルビン]のとき0.007、50K[ケルビン]のとき0.02程度である。このようなGM冷凍機で極低温部から除熱するためには、その冷却能力よりも大きな電力を消費とする。GM冷凍機の消費電力は、回転機としては損失にあたるため、極低温部における発熱と外部からの熱の侵入を抑制することが望ましい。
【0039】
この点について、比較例の超伝導回転機1000は、以下に説明するように、極低温領域の冷却部における外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け易い構成になっている。また、比較例の超伝導回転機1000は、以下に説明するように、輻射による侵入熱の影響を受け易い構成になっている。すなわち、比較例の超伝導回転機1000は、トルクチューブ1040で回転子1021の回転力をシャフト1041に伝達する構成になっている。このような比較例の超伝導回転機1000は、トルクチューブ1040を頑強にすることが望ましい。しかしながら、トルクチューブ1040を頑強にするために断面積を増大させると、トルクチューブ1040が外部からの主要な熱侵入経路となってしまう。また、トルクチューブ1040内の磁性電流導入端子1046に、高温超伝導電流リードを使用するものの、その臨界温度より高温となる部分に高純度銅の導体が使用されるため、外部からの侵入熱やジュール発熱が極低温領域の冷却部に侵入する可能性がある。そのため、比較例の超伝導回転機1000は、外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け易い構成になっている。ここで、「極低温領域の冷却部」とは、例えば10K[ケルビン]程度に冷却されるべき空間を意味する。「極低温領域の冷却部」には、10K[ケルビン]程度に冷却されるべき超伝導界磁巻線1022が配置されている。また、比較例の超伝導回転機1000は、トルクチューブ1040とシャフト1041を冷却する手段を有していない。そのため、この点でも、比較例の超伝導回転機1000は、外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け易い構成になっている。さらに、比較例の超伝導回転機1000は、真空容器1031の内部に回転子1021を配置することで、超伝導界磁巻線1022と電機子巻線1012との間に真空断熱層を設けているものの、輻射により超伝導界磁巻線1022が配置された空間に熱が侵入する可能性がある。そのため、比較例の超伝導回転機1000は、輻射による侵入熱の影響を受け易い構成になっている。
【0040】
一方、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、以下に説明するように、極低温領域の冷却部における外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け難い構成になっている。また、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、以下に説明するように、輻射による侵入熱の影響を受け難い構成になっている。すなわち、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、非回転容器である三層円筒容器30の内部に第1熱交換器51と第2熱交換器52とを設けている。そして、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、第1熱交換器51を50K[ケルビン]程度の温度に冷却される中温領域の冷却部とし、第2熱交換器52を10K[ケルビン]程度の温度に冷却される極低温領域の冷却部として、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却する。この点について、例えば、比較例の超伝導回転機1000(
図8参照)は、中温領域の冷却部が設けられていないため、室温からの輻射熱、トルクチューブ1040を通じた外部からの侵入熱、磁性電流導入端子1046を通じた外部からの侵入熱やジュール発熱が全て前記した「極低温領域の冷却部」に侵入する可能性がある。そのため、比較例の超伝導回転機1000は、外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け易い構成になっている。これに対して、本実施形態1に係る超伝導回転機100(
図1参照)は、第1熱交換器51を中温領域の冷却部として設けている。そのため、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、室温からの輻射熱、トルクチューブ40を通じた外部からの侵入熱、磁性電流導入端子46を通じた外部からの侵入熱やジュール発熱を中温領域の冷却部で受けて、中温領域の冷却部を除熱する。このような本実施形態1に係る超伝導回転機100は、外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け難い構成になっている。また、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却する際に冷却される熱交換ガス99にトルクチューブ40とシャフト41が接触する構成になっている。したがって、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、トルクチューブ40とシャフト41を冷却する手段を有している。そのため、この点でも、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、外部からの侵入熱とジュール発熱の影響を受け難い構成になっている。さらに、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、真空容器31の内部に、輻射シールド32とガス容器33とを設け、輻射により超伝導界磁巻線22が配置された空間に熱が侵入することを抑制している。そのため、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、輻射による侵入熱の影響を受け難い構成になっている。
【0041】
なお、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、以下に説明するように、比較例の超伝導回転機1000よりも消費電力を低減することができ、高効率な冷却を行うことができる。すなわち、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、中温領域の冷却部を設け、中温領域の冷却部から侵入熱を除去する構造になっている。このような本実施形態1に係る超伝導回転機100において、10K[ケルビン]程度の極低温領域の冷却部からの除熱に伴う2ステージGM冷凍機60の消費電力は、冷却能力の500倍の消費電力である。一方、50K[ケルビン]程度の中温領域の冷却部からの除熱に伴う2ステージGM冷凍機60の消費電力は、冷却能力の50倍程度である。このような本実施形態1に係る超伝導回転機100は、比較例の超伝導回転機1000よりも消費電力を低減することができ、高効率な冷却を行うことができる。
【0042】
また、比較例の超伝導回転機1000は、GM冷凍機1082で冷媒1099を冷却して、極低温領域の冷却部での発熱や外界からの侵入熱を単一の冷媒1099で取り除く。冷凍機は、冷却温度の低下により成績係数(COP)が低下する。そのため、比較例の超伝導回転機1000は、冷凍機の成績係数(COP)が低い傾向にある。これに対して、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却することで、中温領域の冷却部と極低温領域の冷却部とを冷却する。このような本実施形態1に係る超伝導回転機100は、比較例の超伝導回転機1000よりも冷凍機の成績係数(COP)を向上させることができる。
【0043】
また、比較例の超伝導回転機1000は、外部に冷却ステーション1080を設けるため、設置面積やコストが増大する。また、比較例の超伝導回転機1000は、ポンプ1081等の極低温の冷媒を循環させるための機構が設けられるため、この点でもコストが増大する。これに対して、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、外部に冷却ステーション1080を設けないため、設置面積やコストを低減することができる。また、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、ポンプ1081等が不要であるため、この点でもコストを低減することができる。
【0044】
なお、超伝導回転機の冷却構造として、低温の冷媒と中温の冷媒の二系統の循環機構を設ける構造が考えられる。しかしながら、このような構造は、トルクチューブ40内に二系統のガスの循環路を設けなければならない。トルクチューブ40内には磁性電流導入端子46も設置するため、トルクチューブ40内部の構造が複雑になり、製作性が悪化する。これに対して、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、低温の冷媒と中温の冷媒の二系統の循環機構を設けないため、トルクチューブ40内部の構造が簡素になり、製作性が悪化することを抑制することができる。
【0045】
以上の比較から、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、冷却効率を向上させることができることに加え、比較例の超伝導回転機1000のような複雑な冷媒の循環機構と冷却ステーション1080を排除することができる。そのため、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、設置面積の低減や高信頼化を図ることができる。また、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、冷却効率を向上させることで、超伝導界磁巻線22の運転温度を下げることができる。これにより、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、超伝導界磁巻線22の高磁場域で臨界電流密度を向上させることができるため、ギャップ磁束密度を向上させること、回転機の小型軽量化を図ること、超伝導線材の使用量を低減して低コスト化を図ることができる。
【0046】
なお、比較例の超伝導回転機1000は、超伝導界磁巻線1022と超伝導界磁巻線1022を収容する真空容器1031が一緒に回転する構成になっている。これに対して、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、超伝導界磁巻線22が回転するものの、超伝導界磁巻線22を収容するガス容器33が固定された構成になっている。この点に鑑み、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、以下の(1)と(2)の点を考慮した構成になっているとよい。
【0047】
(1)本実施形態1に係る超伝導回転機100は、風損を考慮した構成になっているとよい。具体的には、超伝導回転機100は、好ましくは、熱交換ガス99の圧力が輻射よりも気体分子伝導による伝熱が支配的となる範囲で大気圧よりも減圧されているとよい。この点について、
図2A及び
図2Bを参照して説明する。
【0048】
図2Aは、極低温環境下における、圧力InPと熱伝導率Inλの両対数グラフ図である。実線L1は、極低温環境下における、圧力InPと熱伝導率Inλの関係を示している。圧力領域P1は、輻射による熱伝導(伝熱)が支配的な範囲となっている。圧力領域P2は、気体の分子伝導による熱伝導(伝熱)が支配的な範囲となっている。輻射がある場合に、破線L1aとして示すように、実線L1よりもさらに熱伝導率(伝熱)が向上する。
【0049】
図2Bは、極低温環境下における、圧力InPと風損InWの両対数グラフ図である。実線L2は、極低温環境下における、圧力InPと風損InWの関係を示している。風損InWは、圧力InPの増加関数となっている。
【0050】
本実施形態1に係る超伝導回転機100は、超伝導界磁巻線22とガス容器33が相対運動しており、比較例の超伝導回転機1000では生じない熱交換ガス99による風損が極低温領域の冷却部で生じる。この対策としては、風損が抑制されつつ熱交換ガス99としての役割を失わない程度に熱交換ガス99の圧力を低下させること、さらに熱交換器の熱交換面積を増大させることが有効である。風損は圧力低減により抑制される。一方、熱交換器における熱交換は、熱交換ガス99の圧力が極めて低い領域(例えば1Pa以下の領域)では輻射が支配的である(
図2Aの圧力領域P1参照)。また、熱交換器における熱交換は、ある程度圧力を高めた領域(例えば10Pa以上の領域)では気体分子伝導が支配的となり、圧力依存性がなくなる(
図2Aの圧力領域P2参照)。さらに、熱交換器における熱交換は、圧力を高めた領域では輻射が支配的になり、圧力の増加関数となる。
【0051】
図2Aと
図2Bに示す圧力依存性の違いから、超伝導回転機100は、気体の分子伝導による熱伝導(伝熱)が支配的な範囲のうち、なるべく低い圧力とすることで(特に、大気圧よりも減圧することで)、熱伝導(伝熱)を維持しつつ風損を抑制することができる。
【0052】
本実施形態1に係る超伝導回転機100は、熱交換ガス99の圧力を気体分子伝導が支配的な領域とすることで、風損を抑制しつつある程度の熱交換を維持することができる。このとき、熱交換器の熱交換面積を増大させることも有効である。
図3は、第1熱交換器51及び第2熱交換器52における熱交換部70Aの模式構成図である。
図3に示す例では、熱交換部70Aは、第1構造体71aと第2構造体72aとを対向配置し、第1構造体71aと第2構造体72aとに一対の熱交換器73aを取り付けた構成になっている。一対の熱交換器73aは、高熱伝導の素材からなる対向する板である。熱交換部70Aは、第1構造体71aと第2構造体72aとの間で一対の熱交換器73aの間に充填された熱交換ガス99を介して熱交換する。
【0053】
図3に示す熱交換部70Aは、例えば、
図4に示す熱交換部70Bのように変形することができる。
図4は、第1熱交換器51及び第2熱交換器52の変形例における熱交換部70Bの模式構成図である。
図4に示す例では、熱交換部70Bは、第1構造体71bと第2構造体72bとを対向配置し、第1構造体71bと第2構造体72bとに一対の熱交換器73bを取り付けた構成になっている。一対の熱交換器73bは、高熱伝導の素材からなる対向する櫛状の部材である。熱交換部70Bは、熱交換器73bの形状を櫛状にすることで、熱交換器73bの熱交換面積を増大させ、
図3に示す熱交換部70Aよりも熱交換される熱量を大幅に増大させることができる。
【0054】
(2)本実施形態1に係る超伝導回転機100は、三層円筒容器30に生じる渦電流を考慮した構成になっているとよい。具体的には、超伝導回転機100は、好ましくは、真空容器31、輻射シールド32、ガス容器33のいずれかに対して、少なくともその一部に繊維強化複合材が適用されているとよい。この点について、以下に説明する。
【0055】
回転する超伝導界磁巻線22が発する交流磁場は、真空容器31と輻射シールド32とガス容器33との多層円筒構造体である三層円筒容器30に印加される。ここで、仮に、真空容器31とガス容器33を例えばステンレス鋼などの金属材で構成し、輻射シールド32を例えばアルミニウムなどの高熱伝導金属材で構成した場合に、これらの金属材には渦電流が生じる。特に低温領域にある輻射シールド32とガス容器33において渦電流が生じた場合に、ジュール発熱が発生し、その除熱が困難になる。そこで、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、好ましくは、真空容器31、輻射シールド32、ガス容器33のいずれかに対して、少なくともその一部に繊維強化複合材が適用されているとよい。例えば、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、好ましくは、渦電流の発生の抑制が求められるガス容器33と真空容器31にガラス繊維強化複合材(GFRP)を適用し、高い熱伝導率が求められる輻射シールド32に炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)を適用するとよい。
【0056】
また、
図5に示すように、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、好ましくは、繊維強化複合材76に対して、渦電流の流れる方向Ai(電流方向)と垂直な方向に高熱伝導細線77を貼り付けることで、渦電流を抑制しつつ熱伝導率を向上させることもできる。高熱伝導細線77は、比較的高い熱伝導率を有する細い金属線である。
【0057】
<備考>
本実施形態1に係る超伝導回転機100は、以下の事項が考慮された構成になっている。
【0058】
例えば、発電機、電動機などの回転機は、電力と回転力を変換するシステムとして、産業、運輸、電力などの分野で幅広く活用されている。一般に、回転機のトルクTと出力Pは、以下の式(1)と式(2)で与えられる。
【0059】
T = k1・L・D2・Bg・I …(1)
P = k2・L・D2・Bg・I・n …(2)
【0060】
ここで、Tは回転機のトルク、Iは回転機の出力、k1,k2は定数、Lは固定子長、Dは回転子外径、Bgはギャップ磁束密度、Iは電気装荷(電機子巻線部の単位周長当たりの総電流)、nは回転速度である。
【0061】
ところで、特に、電気自動車、電気推進船舶、電動航空機などの運輸セクターでは、「カーボンニュートラル」と称される温室効果ガスの排出量の削減に向けて、動力の電動化が進められている。その動力の電動化では、回転機のトルク密度と出力密度を向上させることが望まれる。そして回転機のトルク密度と出力密度を向上させるためには、ギャップ磁束密度Bgを向上させることが有効である。
【0062】
一般に、ギャップ磁束密度Bgの発生源である界磁には、銅巻線や永久磁石が利用される。そしてギャップ磁束密度Bgをさらに向上させる手段として、超伝導界磁巻線を界磁に用いることがある。超伝導線材は、臨界温度以下に冷却することで大電流を通電できるため、超伝導界磁巻線を界磁に用いることで、極めて強い磁場を発生させることができる。
【0063】
磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)などの装置では、ヘリウムなどの液体冷媒に超伝導界磁巻線を浸漬したり伝導冷却したりすることにより、超伝導界磁巻線を冷却する。このとき、蒸発する冷媒の再凝縮や伝導冷却による除熱には、GM(Gifford-McMahon)冷凍機などの極低温冷凍機が使用される。磁気共鳴イメージング装置(MRI)では、すでに量産技術が確立されたNbTi線材が主に使用され、核磁気共鳴分光装置(NMR)では、より高磁場を発生可能なNb3Sn線材も使用される。さらに、近年の核磁気共鳴分光装置(NMR)では、より高い磁場を発生させるためにレアアース系やビスマス系などの銅酸化物高温超伝導(HTS)線材が使用される場合もある。NbTiやNb3Snなどの低温超伝導(LTS)線材は、臨界温度が低く、さらに銅酸化物超伝導線材であっても使用温度を低下させることでより強い磁場を発生可能になるため、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)では4K[ケルビン]に冷却して使用するのが一般的である。
【0064】
一方、超伝導回転機では、通常、界磁は回転子であり、回転子として回転する超伝導界磁巻線を冷却させる。このような超伝導回転機は、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)と比較して超伝導界磁巻線を冷却し難い。
【0065】
臨界温度の低い低温超伝導(LTS)線材は、抵抗状態への遷移に要する熱量(エネルギー裕度)が小さいため、マイクロメートル程度の線材の摺動や巻線への含侵樹脂の割れなどの僅かな機械的擾乱(じょうらん)によりクエンチ(通電中の超電導導体が、熱的、電磁気的または機械的な要因により急激的かつ制御不能な常電導状態に転移する現象)が発生する可能性がある。このため、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)と比較して使用環境が過酷な超伝導回転機への適用には多大な注意を要する。また、極低温冷凍機は冷却温度の低下により成績係数(COP)が低下するため、超伝導回転機の運転温度を高めた方が好ましい。したがって、近年では、臨界温度が高く20-77K[ケルビン]で利用可能な銅酸化物高温超伝導(HTS)線材を用いた超伝導回転機の開発が進められている。また、臨界温度が低温超伝導(LTS)線材と銅酸化物高温超伝導(HTS)線材の中間に位置する二ホウ化マグネシウム(MgB2)線材も使用される。
【0066】
銅酸化物高温超伝導(HTS)線材の適用により冷却温度が高くなると成績係数(COP)が高まり冷却の難易度は下がるが、現時点で銅酸化物高温超伝導(HTS)線材はLTS線材と比較して高コストであり単長も短いため、線材のコスト低減や長尺化が課題として残されている。
【0067】
二ホウ化マグネシウム(MgB2)線材は、20K程度で使用することが可能である点で低温超伝導(LTS)線材よりも優れるが、20Kで使用する場合であっても、銅酸化物高温超伝導(HTS)線材と比較すると、上部臨界磁場が低く、少なくとも20K程度の運転温度では強磁場を発生させることが困難である。永久磁石を界磁に使用した電動機に対して高いギャップ磁束密度Bgを生成するためには、より低い温度(例えば10K)に冷却するのが好ましく、銅酸化物高温超伝導(HTS)線材と比較すると、冷却の難易度が高まる。
【0068】
このように超伝導回転機では、回転する超伝導界磁巻線を冷却する必要があり、磁気共鳴イメージング装置(MRI)や核磁気共鳴分光装置(NMR)よりも冷却の難易度が高い。また、銅酸化物高温超伝導(HTS)線材や二ホウ化マグネシウム(MgB2)線材などのより高温で使用可能な超伝導材料を適用するにしても、超伝導線材それぞれのコスト・生産性と使用温度はトレードオフの関係にある。このような中、超伝導回転機を商業レベルで実用化するためには、より低い温度に簡便に超伝導界磁巻線を冷却できるようにすることが望まれる。
【0069】
本実施形態1に係る超伝導回転機100は、これらの事項が考慮された構成になっている。本実施形態1に係る超伝導回転機100の主な特徴としては、以下の点を挙げることができる。
(1)50K[ケルビン]程度の温度に冷却される中温領域の冷却部(第1熱交換器51)と、10K[ケルビン]程度の温度に冷却される極低温領域の冷却部(第2熱交換器52)と、を設けている点。
(2)回転子21を非回転容器(三層円筒容器30)の内部に収納している点。
(3)真空容器31の内部に輻射シールド32を配置して、輻射により超伝導界磁巻線22が配置された空間に熱が侵入することを抑制している点。
(4)第1熱交換器51と第2熱交換器52の熱交換をガス容器33に封入された熱交換ガス99により行う点。
【0070】
以上の通り、本実施形態1に係る超伝導回転機100(
図1参照)は、非回転容器である三層円筒容器30の内部に、中温領域の冷却部としての第1熱交換器51と極低温領域の冷却部としての第2熱交換器52とを設け、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却する。このような本実施形態1に係る超伝導回転機100は、比較例の超伝導回転機1000(
図8参照)と比較して冷却ステーション1080から回転子1021への冷媒導入回転接手83を介したガス導入が不要になり、冷却構造を簡略化することができる。また、冷却構造が簡略化することで、信頼性を向上することができる。
【0071】
しかも、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、中温領域の冷却部としての第1熱交換器51により、冷凍機の成績係数(COP)を向上させることができる中間的な温度で外部からの侵入熱を除熱することができる。そのため、本実施形態1に係る超伝導回転機100は、比較例の超伝導回転機1000よりも効率よく回転子21を冷却することができる。その結果、より低い温度に超伝導界磁巻線22を冷却することができ、超伝導界磁巻線22の電流特性を向上させて、回転機の小型軽量化を図ることができる。
【0072】
[実施形態2]
前記した実施形態1に係る超伝導回転機100(
図1参照)は、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却することで、トルクチューブ40と超伝導界磁巻線22を間接的に冷却する構成になっている。しかしながら、超伝導回転機100は、トルクチューブ40と超伝導界磁巻線22を冷却することができれば、2ステージGM冷凍機60を用いない構成にすることができる。
【0073】
そこで、本実施形態2では、2ステージGM冷凍機60を用いない構成にした超伝導回転機100Aを提供する。
【0074】
以下、
図6を参照して、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aの構成について説明する。
図6は、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aの構成を示す図である。
【0075】
図6に示すように、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aは、実施形態1に係る超伝導回転機100(
図1参照)と比較すると、2ステージGM冷凍機60の代わりに、冷却ステーション80と第1循環路81と第2循環路82を備える点で相違する。
【0076】
冷却ステーション80は、回転子21から離れた場所(外部)に設けられた冷却機構である。冷却ステーション80には図示せぬ冷凍機が設けられている。
第1循環路81は、三層円筒容器30内の第1熱交換器51の輻射シールド32側と冷却ステーション80とを接続する流路である。第1循環路81の内部には、例えば温度が約50K[ケルビン]の中温循環ガス81aが流れる。
第2循環路82は、三層円筒容器30内の第2熱交換器52のガス容器33側と冷却ステーション80とを接続する流路である。第2循環路82の内部には、例えば温度が約10K[ケルビン]の低温循環ガス82aが流れる。
【0077】
本実施形態2に係る超伝導回転機100Aは、回転子21から離れた場所(外部)に設けられた冷却ステーション80の図示せぬ冷凍機で中温循環ガス81aと低温循環ガス82aを冷却する。そして、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aは、第1循環路81を介して第1熱交換器51の輻射シールド32側と冷却ステーション80との間で中温循環ガス81aを循環させる。これにより、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aは、約50K[ケルビン]の温度に第1熱交換器51を冷却して、間接的にトルクチューブ40を冷却する。また、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aは、第2循環路82を介して第2熱交換器52のガス容器33側と冷却ステーション80との間で低温循環ガス82aを循環させる。これにより、本実施形態2に係る超伝導回転機100Aは、約10K[ケルビン]の温度に第2熱交換器52を冷却して、間接的に超伝導界磁巻線22を冷却する。
【0078】
このような本実施形態2に係る超伝導回転機100Aによれば、実施形態1に係る超伝導回転機100と同様に、冷却構造を簡略化することができる。
【0079】
[実施形態3]
前記した実施形態1に係る超伝導回転機100(
図1参照)は、2ステージGM冷凍機60で第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却する構成になっている。
【0080】
これに対して、本実施形態3では、動作温度が異なる別々の冷凍機を用いて第1熱交換器51と第2熱交換器52とを冷却する構成の超伝導回転機100Bを提供する。
【0081】
以下、
図7を参照して、本実施形態3に係る超伝導回転機100Bの構成について説明する。
図7は、本実施形態3に係る超伝導回転機100Bの構成を示す図である。
【0082】
図7に示すように、本実施形態3に係る超伝導回転機100Bは、実施形態1に係る超伝導回転機100(
図1参照)と比較すると、2ステージGM冷凍機60の代わりに、中温側冷凍機91と低温側冷凍機92を備える点で相違する。
【0083】
中温側冷凍機91は、第1熱交換器51を冷却する第1冷凍機である。
低温側冷凍機92は、第2熱交換器52を冷却する第2冷凍機である。低温側冷凍機92は、約10K[ケルビン]の温度に第2熱交換器52を冷却する。
【0084】
このような本実施形態3に係る超伝導回転機100Bによれば、実施形態1に係る超伝導回転機100と同様に、冷却構造を簡略化することができる。
【0085】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0086】
10,1010 外被
11,1011 鉄コア
12,1012 電機子巻線
13,1013 電機子サポート
21,1021 回転子
22,1022 超伝導界磁巻線(界磁巻線)
23,1023 界磁サポート
30 三層円筒容器(非回転容器)
31,1031 真空容器
32 輻射シールド
33 ガス容器
40,1040 トルクチューブ
41,1041 シャフト(回転軸)
42,1042 軸受
43 磁性流体シール
46,1046 磁性電流導入端子
51 第1熱交換器
52 第2熱交換器
60 2ステージGM冷凍機(2ステージ冷凍機)
61 第1ステージ
62 第2ステージ
70A,70B 熱交換部
71a,71b 第1構造体
72a,72b 第2構造体
73a,73b 熱交換器
76 繊維強化複合材
77 高熱伝導細線(金属線)
80 冷却ステーション
81 第1循環路
82 第2循環路
81a 中温循環ガス
82a 低温循環ガス
91 中温側冷凍機(第1冷凍機)
92 低温側冷凍機(第2冷凍機)
99 熱交換ガス
100,100A,100B,1000 超伝導回転機
1080 冷却ステーション
1081 ポンプ
1082 GM冷凍機
1083 冷媒導入回転接手(回転接手)
1099 冷媒
Ai 渦電流の流れる方向(電流方向)