(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013271
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】イオン源
(51)【国際特許分類】
H01J 37/08 20060101AFI20240125BHJP
H01J 27/20 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115215
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇井 利昌
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB08
5C101DD03
5C101DD25
5C101DD27
5C101DD29
(57)【要約】
【課題】イオンビームの引出効率を高めるイオン源を提供する。
【解決手段】プラズマが生成される内部空間ISを有するプラズマ生成容器10Aと、内部空間ISに配置され、電子を放出する電子放出部31を有する電子放出部材30と、内部空間ISに閉じ込め磁場を形成する磁場形成手段20Aとを備え、内部空間ISからプラズマ生成容器10Aに形成された引出開口12aを通じてイオンビームIBを一方向Dに引き出すイオン源1Aであり、磁場形成手段20Aが、電子放出部31から引出開口12aにかけて、磁場の向きが一方向Dに揃うよう閉じ込め磁場を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマが生成される内部空間を有するプラズマ生成容器と、前記内部空間に配置され、電子を放出する電子放出部を有する電子放出部材と、前記内部空間に閉じ込め磁場を形成する磁場形成手段とを備え、前記内部空間から前記プラズマ生成容器に形成された引出開口を通じてイオンビームを一方向に引き出すイオン源であって、
前記磁場形成手段が、前記電子放出部から前記引出開口にかけて、磁場の向きが前記一方向に揃うよう前記閉じ込め磁場を形成するイオン源。
【請求項2】
前記プラズマ生成容器が、前記引出開口を有する前方壁と、前記前方壁に対向する後方壁と、前記前方壁と前記後方壁とを連結する一対の側壁と、前記前方壁と前記後方壁とを連結する一対の底壁とを有し、
前記磁場形成手段が、
各前記側壁の外側において、前記一方向について前記電子放出部より前記前方壁側に位置付けられた永久磁石である第一の側壁磁石と、
前記後方壁の外側に配置された一または複数の永久磁石である後方壁磁石と、
を備える請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記磁場形成手段が、各前記側壁の外側において、前記一方向について前記第一の側壁磁石より前記後方壁側に位置付けられた永久磁石である第二の側壁磁石をさらに備える、
請求項2に記載のイオン源。
【請求項4】
前記プラズマ生成容器が、前記引出開口を有する前方壁と、前記前方壁に対向する後方壁と、を有し、
前記磁場形成手段が、
前記後方壁の外側に配置された一または複数の後方壁磁石と、
前記プラズマ生成容器の外部に配置され、前記内部空間に前記一方向に向かう磁場を形成する電磁石と、
を備える請求項1に記載のイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ生成容器内に閉じ込め磁場が形成されるイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ生成容器内に荷電粒子を閉じ込めるための閉じ込め磁場が形成されるイオン源として、特許文献1に開示されたイオン源がある。このイオン源は、フラットパネルディスプレイ製造工程等で使用されるイオン注入装置に用いられ、直方体形状のプラズマ生成容器と、プラズマ生成容器の角部からプラズマ生成容器の内部に挿入されたフィラメントを備えている。また、プラズマ生成容器の外側には、プラズマ生成容器の内部空間に生成したイオンを閉じ込めるための閉じ込め磁場を形成する複数の永久磁石が配置されている。このイオン源では、プラズマ生成容器を構成する各側壁および後方壁のそれぞれに永久磁石が三個ずつ配置されている。特許文献1の
図5には、この磁石の配置によってプラズマ生成容器の内部空間における閉じ込め磁場の磁場分布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のイオン源においては、電子を放出するフィラメントがプラズマ生成容器の内部空間の中央付近に配置されていることから、当該中央付近の領域におけるプラズマ密度が他の領域と比較して高くなる。一方、この磁場分布では、プラズマ生成容器の内部空間の中央付近から側壁に向かう方向の磁場が形成されている。したがって、中央領域で生成したプラズマ中のイオンのうち一部はこの磁場に捕捉されて移動することで側壁に衝突し、消滅することになる。すなわち、特許文献1に開示された磁石の配置では、プラズマ生成容器の内部空間の中央領域で生成したプラズマに含まれるイオンの一部が側壁に衝突して消滅することによって、イオンビームの引出効率が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するものであり、従来のイオン源と比較してイオンビームの引出効率を高めることができるイオン源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイオン源は、プラズマが生成される内部空間を有するプラズマ生成容器と、前記内部空間に配置され、電子を放出する電子放出部を有する電子放出部材と、前記内部空間に閉じ込め磁場を形成する磁場形成手段とを備え、前記内部空間から前記プラズマ生成容器に形成された引出開口を通じてイオンビームを一方向に引き出すイオン源であって、 前記磁場形成手段が、前記電子放出部から前記引出開口にかけて、磁場の向きが前記一方向に揃うよう前記閉じ込め磁場を形成する。
【0007】
この構成によれば、プラズマ生成容器の内部空間に、電子放出部材の電子放出部からプラズマ生成容器の引出開口にかけて、磁場の向きが一方向に揃うよう閉じ込め磁場が形成される。
したがって、内部空間の他の領域と比較してより多くプラズマが生成される電子放出部近傍の領域から引出開口にかけて、磁場の向きが一方向に揃うことから、生成したプラズマ中のイオンがプラズマ生成容器に衝突して消滅する確率が従来と比較して低くなる。その結果、生成したイオンがイオンビームとしてプラズマ生成容器の外部に引き出される確率が高くなる。すなわち、従来と比較して、プラズマ生成容器から引き出されるイオンビームの引出効率が向上する。
【0008】
また、本発明のイオン源は、前記プラズマ生成容器が、前記引出開口を有する前方壁と、前記前方壁に対向する後方壁と、前記前方壁と前記後方壁とを連結する一対の側壁と、前記前方壁と前記後方壁とを連結する一対の底壁と、を有し、前記磁場形成手段が、各前記側壁および底壁の外側において、前記一方向について前記電子放出部より前記前方壁側に位置付けられた永久磁石である第一の側壁磁石と、前記後方壁の外側に配置された一または複数の永久磁石である後方壁磁石と、を備える構成であってもよい。
【0009】
また、本発明のイオン源は、前記磁場形成手段が、各前記側壁の外側において、前記一方向について前記第一の側壁磁石より前記後方壁側に位置付けられた永久磁石である第二の側壁磁石をさらに備える構成であってもよい。
【0010】
また、本発明のイオン源においては、 前記プラズマ生成容器が、前記引出開口を有する前方壁と、前記前方壁に対向する後方壁と、を有し、前記磁場形成手段が、前記後方壁の外側に配置された一または複数の後方壁磁石と、前記プラズマ生成容器の外部に配置され、前記内部空間に前記一方向に向かう磁場を形成する電磁石とを備える構成であってもよい。
【0011】
この構成によれば、電磁石により、電子放出領域に一方向に向きが揃った磁場を容易に形成することができる
【発明の効果】
【0012】
本発明のイオン源によれば、従来のイオン源と比較してイオンビームの引出効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第一実施形態におけるイオン源を使用するイオン注入装置示す模式図。
【
図2】第一実施形態におけるイオン源を示す斜視図。
【
図4】第一実施形態における閉じ込め磁場を示す図。
【
図5】第一実施形態の第一変形例のおける閉じ込め磁場を示す図。
【
図6】第一実施形態の第二変形例におけるイオン源の断面図。
【
図7】本発明の第二実施形態におけるイオン源を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の第一実施形態であるイオン源1Aついて説明する。なお、各図は本発明が理解されることを目的として作成されており、各図間における各構成要素の長さ寸法の比や縮尺の比率は必ずしも一致してはいない。
【0015】
図1に示すように、イオン源1Aは、フラットパネルディスプレイ製造工程で使用されるイオン注入装置100に用いられる。イオン源1Aは、外部から供給される原料からプラズマを生成するためのプラズマ生成容器10Aと、当該プラズマに含まれるイオンをイオンビームIBとして引き出すための引出電極等から成る電極群11とを備えている。また、イオン源1Aは、プラズマ生成容器10Aの内部に荷電粒子を閉じ込めるための閉じ込め磁場を形成する磁場形成手段20Aをさらに備えている。
【0016】
イオン注入装置100は、イオン源1Aに加え、質量分析器200および処理室300をさらに備えている。イオンビームIBは、イオン源1Aから一方向Dに引き出され、質量分析器200において質量分離された後、処理室300内に導かれる。処理室300では、ガラス基板SにイオンビームIBが照射されることで、ガラス基板Sに対するイオン注入処理が施される。なお、本実施形態における質量分析器200および処理室300は、イオン注入装置において一般的に採用される構成とされていることから、これらの詳細な説明は省略する。また、イオン源1Aはフラットパネルディスプレイ製造工程で使用されることに限定されず、例えば、半導体製造工程で使用されるものであってもよい。
各図に示されたX軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Z軸は鉛直方向と平行であり、Y軸は一方向Dと平行である。
【0017】
また、本実施形態におけるイオンビームIBはリボンビームであり、鉛直方向(図中のZ方向)の幅が、当該幅方向および一方向Dに直交する方向の厚さよりも十分に大きいリボン状をなしている。
【0018】
図2はイオン源1Aの斜視図である。なお、
図2では本発明の要部であるプラズマ生成容器10Aおよび磁場形成手段20Aのみが示されている。
図2に示すように、イオン源1Aのプラズマ生成容器10Aは略直方体形状を成しており、長手方向を鉛直方向(図中のZ方向)に一致させた状態でイオン注入装置100に搭載されている。また、
図3に示すように、プラズマ生成容器10Aはプラズマが生成される内部空間ISを有している。
【0019】
図3は、プラズマ生成容器10Aの長手方向における中央位置での横断面図である。
図2および
図3に示すように、プラズマ生成容器10Aは、イオンビームIBが引き出される引出開口12aを有する前方壁12を有する。引出開口12aには一方向Dに開口しており、内部空間ISにおいて生成したプラズマ中のイオンは引出開口12aを通過し、イオンビームIBとして一方向Dに引き出される。また、プラズマ生成容器10Aは、前方壁12と一方向Dについて対向する後方壁13を有する。プラズマ生成容器10Aは、さらに、前方壁12と後方壁13とを連結し互いに対向する、一対の側壁14、14、および一対の底壁15、15を有する。
【0020】
本実施形態において、一対の底壁15、15はプラズマ生成容器10Aの長手方向(図中のZ方向)について互いに対向している。また、一対の側壁14、14は当該長手方向および一方向Dに直交する方向(図中のX方向)について互いに対向している。また、本実施形態における内部空間ISは、前方壁12、後方壁13、一対の側壁14、14、および一対の底壁15、15の各内壁面によって区画された空間である。
【0021】
図3に示すように、イオン源1Aは、二つの電子放出部材30、30を備えている。各電子放出部材30は、内部空間IS内の所定の位置に位置付けられ、内部空間ISに電子を放出し得る電子放出部31を有している。本実施形態における電子放出部31は、通電されて高温となることで熱電子を放出するフィラメントにより形成されている。また、各電子放出部材30は、フィラメントである電子放出部31を保持する保持部32を有している。
【0022】
図2および
図3に示すように、プラズマ生成容器10Aの後方壁13と各側壁14が接合している角部16には、電子放出部材30が配置される貫通孔17が複数形成されている。すなわち、各電子放出部材30は、電子放出部31が内部空間IS内の所定の位置に位置付けられるよう、プラズマ生成容器10Aの角部16に形成された貫通孔17に挿入されるようにして配置される。
【0023】
イオン注入装置100は、プラズマ生成容器10Aの外部に配置され、各電子放出部材30に電気的に接続され、電子放出部31に通電させるための電源(不図示)を備えている。また、イオン注入装置100は、プラズマ生成容器10Aの内部空間ISにプラズマの原料となる原料ガスを供給するガス源(不図示)およびガス供給路(不図示)を備えている。当該電源、ガス源、およびガス供給路はイオン注入装置において一般的な構成が採用されていうことから図示および詳細な説明は省略する。
【0024】
図2に示すように、本実施形態における磁場形成手段20Aは、後方壁磁石21、側壁磁石22、および底壁磁石23を備える。後方壁磁石21、側壁磁石22、および底壁磁石23はいずれも永久磁石である。
後方壁磁石21は、後方壁13の外側に配置されており後方壁13の長手方向に沿って配置された長尺状の第一後方壁磁石21Aと、第一後方壁磁石21Aの周囲を取り囲むように配置された第二後方壁磁石21Bにより構成されている。第一後方壁磁石21Aと第二後方壁磁石21Bは互いに所定間隔離れるように位置付けられており、後方壁13側に異なる磁極を向けた状態で配置されている。
なお、本実施形態における第一後方壁磁石21Aは、単一の永久磁石により構成されているが、後方壁13側に同一の磁極を向けた複数の永久磁石によって構成されていてもよい。
【0025】
本実施形態における第二後方壁磁石21Bは、いずれも長尺状の第一側部磁石21a、第二側部磁石21b、上部磁石21c、下部磁石21dによって構成されている。
なお、第二後方壁磁石21Bは単一の永久磁石により構成されていてもよい。また、第二後方壁磁石21Bの第一側部磁石21a、第二側部磁石21b、上部磁石21c、下部磁石21dがさらに、いずれも同一の磁極を後方壁13側に向けた複数の永久磁石によって構成されているものであってもよい。
【0026】
本実施形態における第一側部磁石21aと第二側部磁石21bは、X方向について第一後方壁磁石21Aを挟むように位置付けられている。また、上部磁石21cと下部磁石21dはZ方向(鉛直方向)について第一後方壁磁石21Aを挟むように位置付けられている。
なお、第一側部磁石21aおよび第二側部磁石21bは、第二後方壁磁石21Bが単一の磁石により形成されている場合、または第二後方壁磁石21Bを単一の磁石であると見なした場合に、第二後方壁磁石21BのうちX方向について第一後方壁磁石21Aを挟むように位置する部分であると捉えてもよい。同様に、上部磁石21cおよび下部磁石21dは、第二後方壁磁石21Bが単一の磁石により形成されている場合、または第二後方壁磁石21Bを単一の磁石であると見なした場合に、第二後方壁磁石21BのうちZ方向(鉛直方向)について第一後方壁磁石21Aを挟むように位置する部分であると捉えてもよい。
【0027】
側壁磁石22は、一対の側壁14、14の外側に二個ずつ配置されている。各側壁14の外側に配置された二個の側壁磁石22は、一方向D(各図のY方向に一致)に互いに離れた状態で配置されている。これ以降、側壁14に配置された各側壁磁石22を区別するため、前方壁12に近い側の側壁磁石22を第一の側壁磁石22a、後方壁13に近い側の側壁磁石22を第二の側壁磁石22bと称する場合がある。
図3に示すように、本実施形態においては、第一の側壁磁石22aは、側壁14の外側で、一方向Dについて電子放出部31より前方壁12側に配置されている。また、第二の側壁磁石22bは、側壁14の外側で、一方向Dについて第一の側壁磁石22aより後方壁13側に配置されている。
【0028】
底壁磁石23は、一対の底壁15、15の外側に二個ずつ配置されている。各底壁15の外側に配置された二個の底壁磁石23は、一方向D(各図のY方向に一致)に離れた状態で配置されている。これ以降、底壁15に配置された各底壁磁石23を区別するため、前方壁12に近い側の底壁磁石23を第一の底壁磁石23a、後方壁13に近い側の底壁磁石23を第二の底壁磁石23bと称する場合がある。
【0029】
イオン源1Aは、第一の側壁磁石22aと第一の底壁磁石23aを配置する代わりに、
図2に破線で示されるように、一対の側壁14、14および一対の底壁15、15を取り囲むように配置された前方磁石22Aを備える構成であってもよい。同様に、イオン源1Aは、第二の側壁磁石22bと第二の底壁磁石23bを配置する代わりに、
図2に破線で示されるように、一対の側壁14、14および一対の底壁15、15を取り囲むように配置された後方磁石22Bを備える構成であってもよい。この場合、前方磁石22Aは、一方向Dについて電子放出部31より前方壁12側に位置づけられる。また、後方磁石22Bは一方向Dについて、前方磁石22Aより後方壁13側で、かつ前方磁石22Aと所定間隔離れるように位置付けられる。
【0030】
また、第一の側壁磁石22aと第一の底壁磁石23aは、前方磁石22Aの一部であると捉えてもよい。同様に、第二の側壁磁石22bと第二の底壁磁石23bは、後方磁石22Bの一部であると捉えてもよい。
本実施形態における第一の側壁磁石22aと第一の底壁磁石23aは、プラズマ生成容器10Aの設計上の都合により離れた位置に配置されているが、
図2に破線で示された仮想上の前方磁石22Aの一部として構成されており、プラズマ生成容器10A側に同一の磁極を向けて配置されている。同様に、本実施形態における第二の側壁磁石22bと第二の底壁磁石23bは、プラズマ生成容器10Aの設計上の都合により離れた位置に配置されているが、
図2に破線で示された仮想上の後方磁石22Bの一部として構成されており、プラズマ生成容器10A側に同一の磁極を向けて配置されている。
【0031】
前述の通り、第一後方壁磁石21Aと第二後方壁磁石21Bは異なる磁極を後方壁13に向けて配置されている。したがって、プラズマ生成容器10Aの横断面では、
図3に示すように、第二後方壁磁石21Bの第一側部磁石21a、第一後方壁磁石21A、第二後方壁磁石21Bの第二側部磁石21bの三つの永久磁石が、隣り合う永久磁石のプラズマ生成容器10Aに向けられた磁極が異なるように配置された状態となっている。具体的には、第一側部磁石21a、第一後方壁磁石21A、第二側部磁石21bが、それぞれ、S極、N極、S極をプラズマ生成容器10Aのプラズマ生成容器10Aの後方壁13に向けた状態で配置されている。
【0032】
また、各側壁14に配置された二個の側壁磁石22もプラズマ生成容器10A側に向けられた磁極が異なるように配置されている。さらに、後方壁13に近い側に配置される側壁磁石22、すなわち第二の側壁磁石22bは、側壁14に最も近い位置に配置される後方壁磁石21の一部である第二後方壁磁石21B(第一側部磁石21aと第二側部磁石21b)のプラズマ生成容器10A側の磁極と異なる磁極を、プラズマ生成容器10A側に向けるよう配置されている。つまり、本実施形態においては、第二後方壁磁石21B(第一側部磁石21aと第二側部磁石21b)がS極をプラズマ生成容器10A側に向けて配置されており、第一の側壁磁石22a、第二の側壁磁石22bはそれぞれ、S極、N極をプラズマ生成容器10Aの側壁14に向けた状態で配置されている。
一対の第一の側壁磁石22aを
図2に破線で示された仮想の前方磁石22Aの一部であると捉えることにより、一対の第一の側壁磁石22aは互いに対向するように位置づけられているとともに、同一の磁極をプラズマ生成容器10A側に向けて配置されていると捉えてもよい。同様に、一対の第二の側壁磁石22bを
図2に破線で示された仮想の後方磁石22Bの一部であると捉えることにより、一対の第二の側壁磁石22bは互いに対向するように位置づけられているとともに、同一の磁極をプラズマ生成容器10A側に向けて配置されていると捉えてもよい。
【0033】
図3に示すように、磁場形成手段20Aは、鉄等の強磁性体により形成された後方シールド板24および側方シールド板25をさらに備えている。後方シールド板24は後方壁13の外側に配置されている。後方壁磁石21は後方シールド板24によって押さえつけられるようにして、後方シールド板24と後方壁13の間に挟まれるように配置されている。また、側方シールド板25は各側壁14の外側に配置されている。第一の側壁磁石22aおよび第二の側壁磁石22bは側方シールド板25によって押さえつけられるようにして、側方シールド板25と側壁14に挟まれるように配置されている。
磁場形成手段20Aは、後方シールド板24および側方シールド板25の他、例えばプラズマ生成容器10Aの角部16の外側にもシールド板(不図示)を配置する等して内部空間ISに形成される閉じ込め磁場の形状を調整するようにしてもよい。また、磁場形成手段20Aは、内部空間ISに所望の閉じ込め磁場を形成するものであればよく、本実施形態およびこれ以降に説明される変形例および第二実施形態の構成に限定されるものではない。
なお、
図2におけるイオン源1Aは、後方壁磁石21、側壁磁石22、底壁磁石23を示すために後方シールド板24および側方シールド板25を省略して示されている。
【0034】
図4は、
図3に示す位置に形成される磁場を示している。本実施形態においては、
図3に示すように、後方壁磁石21および側壁磁石22が配置されることによりプラズマ生成容器10Aに向けられた各永久磁石の配置および磁極が線対称となっていることから、
図4に示すように、内部空間ISに形成される閉じ込め磁場も第一後方壁磁石21Aの中央からY方向に引いた直線を軸として、線対称な分布となる。
【0035】
図4に示すように、本実施形態の磁場形成手段20Aは、プラズマ生成容器10Aの内部空間ISに、電子放出部材30の電子放出部31から引出開口12aにかけた高密度領域Rに、磁力線Mによって表されるように、磁場の向きが一方向Dに揃うよう閉じ込め磁場を形成している。なお、高密度領域Rは、内部空間ISの他の領域と比較してプラズマ密度が高くなる領域である。また、磁場の向きが一方向Dに揃うとは、各磁力線Mが平行であることに限らず、全体として、高密度領域Rに形成される磁場の磁力線Mの向きが後方壁13側から前方壁12側、または前方壁12側から後方壁13側に向かうものであればよい。
【0036】
また、
図3に示すように、本実施形態においては、第二後方壁磁石21Bの第一側部磁石21a、第二後方壁磁石21A、第二後方壁磁石21Bの第二側部磁石21b、第一の側壁磁石22a、第二の側壁磁石22bが、それぞれS極、N極、S極、N極、S極をプラズマ生成容器10A側に向けている。これを、第一側部磁石21a、第二後方壁磁石21A、第二側部磁石21b、第一の側壁磁石22a、第二の側壁磁石22bが、それぞれN極、S極、N極、S極、N極をプラズマ生成容器10A側に向けるように変更してもよい。
つまり、イオン源1Aは、プラズマ生成容器10Aの外側に配置される各永久磁極のプラズマ生成容器10A側に向く磁極を全て反転させるように構成してもよい。
【0037】
本実施形態においては、内部空間ISの他の領域と比較してより多くプラズマが生成される電子放出部31近傍の高密度領域Rから引出開口12aにかけて、磁場の向きが一方向Dに揃っている。したがって、生成したプラズマ中のイオンがプラズマ生成容器10Aの側壁14の内壁面に衝突して消滅する確率が従来と比較して低くなる。その結果、生成したイオンがイオンビームIBとしてプラズマ生成容器10Aの外部に引き出される確率が高くなる。すなわち、従来と比較して、プラズマ生成容器10Aから引き出されるイオンビームIBの引出効率が向上する。
【0038】
なお、後方壁磁石21を構成する永久磁石の個数は限定されるものではない。例えば、
図5に第一の変形例として示すように、後方壁磁石21が、第一後方壁磁石21Aのみから成る構成としてもよい。この場合、第一後方壁磁石21Aを、後方壁13のX方向における中央で、プラズマ生成容器10A側に向けられる磁極が第二の側壁磁石22bとは同じになるように配置すればよい。
【0039】
この場合、第一後方壁磁石21Aと第一の側壁磁石22aがプラズマ生成容器10A側に異なる磁極を向けて配置されることになり、その結果、第一の側壁磁石22aと第一後方壁磁石21Aの間にかけて磁力線Mが形成されることになる。この第一の変形例においても、
図5に示すように、高密度領域Rに、一方向Dに揃うように閉じ込め磁場が形成される。
【0040】
また、プラズマ生成容器10Aの横断面で見た後方壁13に配置される後方壁磁石21の永久磁石の個数は、第一実施形態および第一変形例は3個および1個であるが、これを5以上の奇数個とするようにプラズマ生成容器10Aを構成することもできる。この場合、各後方壁磁石21を構成する永久磁極が等しい間隔で配置されるとともに、隣り合う永久磁石のプラズマ生成容器10A側の磁極が互いに異なるように配置すればよい。さらに、両端に配置される永久磁石のプラズマ生成容器10A側の磁極と、一対の第二の側壁磁石22bのプラズマ生成容器10A側の磁極とが異なるように配置すればよい。
【0041】
図6は、プラズマ生成容器10Aの横断面で見た後方壁13に配置される後方壁磁石21の永久磁石の個数が5個となる場合である第二変形例を示している。
第二変形例においては、後方壁磁石21が、第一後方壁磁石21Aと第二後方壁磁石21Bに加え、第二後方壁磁石21Bをさらに取り囲む第三後方壁磁石21Cをさらに備える構成とされている。
図6に示すように、第三後方壁磁石21Cは、第二後方壁磁石21Bの外側配置される第三側部磁石21eおよび第四側部磁石21fを有している。
【0042】
第二変形例では、さらに、各側壁14に配置される側壁磁石22を第一の側壁磁石22aのみとしている。この場合、
図6に示すように、後方壁磁石21のうち最も両側に配置された第三側部磁石21eおよび第四側部磁石21fと、第一の側壁磁石22aとが異なる磁極をプラズマ生成容器10A側に向けて配置すればよい。これにより、高密度領域Rに一方向Dに揃うように閉じ込め磁場を形成することができる。
【0043】
次に、本発明の第二実施形態であるイオン源1Bについて説明する。
図7は、イオン源1Bの斜視図であるが、第一実施形態であるイオン源1Aと共通する構成については同一の符号を付与し、その説明を省略する。
【0044】
イオン源1Bは、プラズマ生成容器10Bと磁場形成手段20Bを備えている。磁場形成手段20Bは、プラズマ生成容器10Bの後方壁13の外側に配置される後方壁磁石21と、プラズマ生成容器10Bの側壁14、14および底壁15、15を取り囲むように配置されたコイルからなる電磁石26とによる構成されている。
【0045】
電磁石26は、プラズマ生成容器10Bの内部空間ISに一方向Dに向かう磁場を形成し、これにより、第一実施形態と同様、高密度領域Rに一方向Dに揃うように閉じ込め磁場を形成することができる。
【0046】
また、本発明は上述の第一および第二実施形態に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
IB イオンビーム
IS 内部空間
1A、1B イオン源
10A、10B プラズマ生成容器
12 前方壁
12a 引出開口
13 後方壁
14 側壁
15 底壁
20A、20B 磁場形成手段
21 後方壁磁石
22 側壁磁石
23 底壁磁石
30 電子放出部材
31 電子放出部