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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132711
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】発熱構造体および発熱組付体
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/239 20060101AFI20240920BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20240920BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60R21/239
B60R21/2338
B60R21/203
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043600
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】河村 功士
(72)【発明者】
【氏名】田中 志幸
(72)【発明者】
【氏名】河村 祐亮
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA07
3D054AA13
3D054CC11
3D054CC15
(57)【要約】
【課題】発熱装置を相手部材に対して少ない部品点数で安定的に取り付け得る技術を提供すること。
【解決手段】
エアバッグ装置1の可変ベント機構11に含まれる発熱装置60と、前記発熱装置60を相手部材8に固定するキャップ61と、を含む発熱構造体6であって、
前記キャップ61は、前記発熱装置60に組付けられる組付部66と、前記相手部材8に嵌合する相手取付部62と、前記発熱装置60の発熱部60Hを取り囲む筒部65と、を有し、
前記発熱装置60が前記組付部66と前記相手部材8との間に挟み込まれている、発熱構造体6。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置と、前記発熱装置を相手部材に固定するキャップと、を含む発熱構造体であって、
前記キャップは、前記発熱装置に組付けられる組付部と、前記相手部材に嵌合する相手取付部と、前記発熱装置の発熱部を取り囲む筒部と、を一体に有し、
前記発熱装置は前記組付部と前記相手部材との間に挟み込まれている、発熱構造体。
【請求項2】
前記発熱装置と前記キャップとは一体に成形されている、請求項1に記載の発熱構造体。
【請求項3】
基体と、エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置と、前記発熱装置を前記基体に固定するキャップと、を含む発熱組付体であって、
前記キャップは、前記発熱装置に組付けられる組付部と、前記組付部の少なくとも一部と一体に成形され前記基体に嵌合する相手取付部と、前記発熱装置の発熱部を取り囲む筒部と、を有し、
前記キャップの前記筒部は前記基体と一体に成形され、
前記発熱装置は前記組付部と前記基体との間に挟み込まれている、発熱組付体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置における可変ベント機構の一部である発熱装置と、当該発熱装置を相手部材に固定するためのキャップと、を含む発熱構造体、および、当該発熱構造体と相手部材たる基体とを含む発熱組付体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時に、インフレータ等の膨張流体発生源が発したガス等の膨張流体を、当該膨張流体発生源に接続されたエアバッグに供給し、車体と乗員との間で当該エアバッグを展開および膨張させて当該乗員を保護する、各種のエアバッグ装置が知られている。
【0003】
エアバッグ装置においては、衝突による衝撃から乗員を保護する都合上、その展開・膨張時においてエアバッグに迅速に且つ充分な量の膨張流体を供給する必要がある。しかしその一方で、当該エアバッグにより乗員に大きな反力を負荷し続けると、当該乗員に著しい不快感を与える。
【0004】
エアバッグの展開・膨張時における上記の不具合を回避するために、エアバッグ装置に可変ベント機構を設けることが提案されている。当該可変ベント機構は、エアバッグに設けられた開口状のベントホールを開閉することでエアバッグの内圧を調整するものである。
【0005】
具体的には、可変ベント機構を有するエアバッグ装置において、エアバッグの展開・膨張時における初期段階では、ベントホールを閉じることでエアバッグに迅速に且つ充分な量の膨張流体を供給し、乗員を保護するのに充分な程度にまでエアバッグの内圧を高める。その後、ベントホールを開くことでエアバッグ内の膨張流体を外部に流出させ、エアバッグの内圧を低下させて、乗員に負荷する反力を軽減する。
【0006】
エアバッグのベントホールを開閉する方法として種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献1には、エアバッグ1にベントホール14を設け、突出部13をエアバッグ1の表面に密着させることで当該ベントホール14を閉じ、突出部13をエアバッグ1に対して起立させることで当該ベントホール14を開くエアバッグ装置が紹介されている。
【0008】
上記の突出部13には、略紐状をなすストラップ4が接続されている。
特許文献1のエアバッグ装置では、当該ストラップ4に張力を付与しひいては突出部13に張力を付与することで、突出部13をエアバッグ1の表面に密着させベントホール14を閉じている。そして、カッター53を含む切断装置を用いて当該ストラップ4を切断することにより、ストラップ4を自由状態とし、突出部13をエアバッグ1に対して起立させベントホール14を開いている。
【0009】
特許文献2に開示されているエアバッグ装置では、リンケージ(linkage41)によって、エアバッグ(airbag10)のベントホール(vent11)にエアクッション(inflatable cushion40)が接続されている。ベントホールを覆うリンケージはエアクッションにより引っ張られている。当該引用文献1の技術によると、エアクッションが膨張するとリンケージの継ぎ目(meltable seam42)が破断され、リンケージが開放される。これによりベントホールが開かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-35473号公報
【特許文献2】米国特許第967360号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、従来のエアバッグ装置はベントホールを開くために、ストラップやリンケージを破断させ開放している。特許文献1、特許文献2には、これらを破断するための発熱装置が紹介されている。
【0012】
具体的には、特許文献1においては、ストラップを切断するためのカッターをスライドさせるための推進力を、発熱装置(スクイブ54)によって生じさせている。
特許文献2においては、エアクッションを膨張させるガスを発生させるために、発熱装置(igniter31)を用いている。
【0013】
ところで、上記の発熱装置は各種の相手部材に取り付けられる。
特許文献1に紹介されている技術によると、発熱装置を相手部材に取り付けるための部品として、発熱装置および相手部材以外に2部材を要している。特許文献2に紹介されている技術によると、発熱装置を相手部材に取り付けるための部品として、発熱装置および相手部材以外にナットやシェアピン等を含めた5部材を要している。
従来のエアバッグ装置においては、このように多くの部品を要することで、車両の走行等に因り生じる振動や衝突等に因り生じる衝撃により、発熱装置が相手部材に対してぐらつく可能性がある。
【0014】
本発明の発明者は、エアバッグ装置における発熱装置の安定性を向上させるべく、発熱装置を相手部材に対して少ない部品点数で安定的に取り付けることを志向した。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発熱装置を相手部材に対して少ない部品点数で安定的に取り付け得る技術を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明の発熱構造体は、
エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置と、前記発熱装置を相手部材に固定するキャップと、を含む発熱構造体であって、
前記キャップは、前記発熱装置に組付けられる組付部と、前記相手部材に嵌合する相手取付部と、前記発熱装置の発熱部を取り囲む筒部と、を一体に有し、
前記発熱装置は前記組付部と前記相手部材との間に挟み込まれている、発熱構造体である。
【0017】
上記課題を解決する本発明の発熱組付体は、
基体と、エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置と、前記発熱装置を前記基体に固定するキャップと、を含む発熱組付体であって、
前記キャップは、前記発熱装置に組付けられる組付部と、前記組付部の少なくとも一部と一体に成形され前記基体に嵌合する相手取付部と、前記発熱装置の発熱部を取り囲む筒部と、を有し、
前記キャップの前記筒部は前記基体と一体に成形され、
前記発熱装置は前記組付部と前記基体との間に挟み込まれている、発熱組付体である。
【0018】
本発明の発熱構造体では、発熱装置を相手部材に対して少ない部品点数で安定的に取り付けることが可能である。また、本発明の発熱組付体では、発熱装置を相手部材たる基体に対して少ない部品点数で安定的に取り付けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】エアバッグが展開および膨張している状態での実施例1の発熱構造体を模式的に説明する説明図である。
図2】エアバッグが展開していない状態での実施例1の発熱構造体を模式的に説明する説明図である。
図3】実施例1の発熱構造体と相手部材との組付け一体品を模式的に表す説明図である。
図4】実施例1の発熱構造体における発熱装置を模式的に表す説明図である。
図5】実施例1の発熱構造体における発熱装置を模式的に表す説明図である。
図6】実施例1の発熱構造体と相手部材との組付け一体品を模式的に表す説明図である。
図7】実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置におけるエアバッグのアクティブベントホールをフラップが閉じている様子を模式的に説明する説明図である。
図8】実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置におけるエアバッグのアクティブベントホールをフラップが閉じている様子を模式的に説明する説明図である。
図9】実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置におけるエアバッグのアクティブベントホールをフラップが開いている様子を模式的に説明する説明図である。
図10】実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置におけるエアバッグのアクティブベントホールをフラップが開いている様子を模式的に説明する説明図である。
図11】評価試験の結果を表すグラフである。
図12】評価試験の結果を表すグラフである。
図13】本発明の発熱構造体におけるキャップの変形例を模式的に説明する説明図である。
図14】本発明の発熱構造体におけるキャップの変形例を模式的に説明する説明図である。
図15】本発明の発熱構造体におけるキャップの変形例を模式的に説明する説明図である。
図16】本発明の発熱構造体におけるキャップの変形例を模式的に説明する説明図である。
図17】実施例2の発熱組付体を模式的に表す説明図である。
図18】実施例2の発熱組付体を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の発熱構造体は、エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置と、前記発熱装置を相手部材に固定するキャップと、を含む発熱構造体であって、
前記キャップは、前記発熱装置に組付けられる組付部と、前記相手部材に嵌合する相手取付部と、前記発熱装置の発熱部を取り囲む筒部と、を一体に有し、
前記発熱装置は前記組付部と前記相手部材との間に挟み込まれている、発熱構造体である。
【0021】
一方、本発明の発熱組付体は、基体と、エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置と、前記発熱装置を前記基体に固定するキャップと、を含む発熱組付体であって、
前記キャップは、前記発熱装置に組付けられる組付部と、前記組付部の少なくとも一部と一体に成形され前記基体に嵌合する相手取付部と、前記発熱装置の発熱部を取り囲む筒部と、を有し、
前記キャップの前記筒部は前記基体と一体に成形され、
前記発熱装置は前記組付部と前記基体との間に挟み込まれている、発熱組付体である。
本発明の発熱組付体は、要するに、相手部材である基体を含むものであり、本発明の発熱構造体におけるキャップの組付部の少なくとも一部と相手取付部とが一体に成形され、かつ、筒部が基体と一体に成形されたものである。
【0022】
本発明の発熱構造体においては、発熱装置をキャップの組付部と相手部材との間に挟み込む。これにより発熱装置は、キャップにより相手部材に安定的に取り付けられる。また、キャップは、その一部である相手取付部が相手部材に嵌合する。本発明の発熱構造体によると、発熱装置および当該発熱装置に組付けられたキャップは、簡単な構造の相手取付部により、簡単な機構で、相手部材に固定される。これにより、本発明の発熱構造体によると、発熱装置を相手部材に対して少ない部品点数でかつ安定的に取り付けることが可能である。
【0023】
同様に、本発明の発熱組付体によると、発熱装置を相手部材たる基体に対して少ない部品点数でかつ安定的に取り付けることが可能である。
以下、特に説明のない場合、相手部材と基体とを総称して相手部材という場合がある。
【0024】
以下、本発明の発熱構造体および本発明の発熱組付体をその構成要素毎に説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何らかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0025】
本発明の発熱構造体および本発明の発熱組付体に含まれる発熱装置は、エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれるものである。先ず、可変ベント機構について以下に説明する。
【0026】
〔可変ベント機構〕
可変ベント機構は、エアバッグ装置の一部であり、既述したように、エアバッグに設けられた開口状のベントホールを開閉することでエアバッグの内圧を調整するものである。
具体的には、当該可変ベント機構は、エアバッグに設けられたベントホールと、ベントホールを開閉するための開閉部と、当該開閉部の少なくとも一部を自由状態とするための発熱構造体と、を含み得る。
【0027】
このうち開閉部は、ベントホールを開閉できるものであれば良く、その構造や開閉機構は特に限定しない。
【0028】
開閉部の一例として、例えば、フラップとストラップと固定材と有するものを挙げることができる。このうちフラップは、ベントホールを覆うものである。またストラップは、当該フラップから延び、相手材であるストラップ用取付部に固定されて、フラップを上記したベントホールを閉じる位置(閉位置)に位置固定するものである。固定材は、ストラップをストラップ用取付部に固定するためのものであれば良い。したがって、固定材は、ストラップと一体に形成されたものであっても良いし、ストラップ用取付部と一体に形成されたものであっても良いし、ストラップおよびストラップ用取付部とは別体で形成されたものであっても良い。
【0029】
開閉部の他の一例として、特許文献1に紹介されているような、突出部およびストラップを有するものを挙げることができる。また、開閉部の他の一例として、特許文献2に紹介されているような、リンケージおよびエアクッションを有するものを挙げることもできる。
【0030】
〔発熱構造体〕
本発明の発熱構造体は、発熱装置とキャップとを具備するものであり、発熱装置とキャップからなっても良いし、これに加えてその他の部材等を有しても良い。当該その他の部材等として、具体的には、特許文献1に開示されているようなストラップを切断するためのカッターや、特許文献2に開示されているようなエアクッションにガスを供給するためのガス供給機構を例示できる。
【0031】
なお、本発明の発熱構造体は発熱装置とキャップからなるのが好適であり、本発明の発熱組付体における発熱構造体もまた発熱装置とキャップからなるのが好適である。そして、本発明の発熱構造体および本発明の発熱組付体は、発熱装置が生じた熱により上記した開閉部の少なくとも一部を破断させ、これにより、開閉部の少なくとも一部を自由状態とするのが好適である。こうすることで、発熱装置が生じた熱を効率よく利用することができ、かつ、発熱構造体や、発熱組付体、可変ベント機構自体を小型化および簡略化でき、ひいては、エアバッグ装置を小型化および簡略化できる利点がある。
【0032】
〔キャップ〕
キャップは、エアバッグ装置の可変ベント機構に含まれる発熱装置を相手部材に固定するキャップであり、エアバッグ装置および可変ベント機構の一部を構成する。
【0033】
キャップは、発熱装置を相手部材に固定するためのものであるため、発熱装置を相手部材に固定するための部分、すなわち、相手取付部を有する。既述したように、相手取付部は相手部材に嵌合する。換言すると、相手取付部は、相手部材に対して脱着不能であるようにまたは容易に脱着できないように固定される。
【0034】
当該相手取付部が発熱装置を相手部材に固定することで、当該発熱装置が加熱する対象(必要に応じて加熱対象と称する場合がある)に対して、当該発熱装置を位置決めすることができる。相手取付部は、発熱装置を加熱対象の周囲に固定するのが好適である。
【0035】
本発明の発熱構造体において、相手取付部が嵌合する相手部材は、特に限定されないが、当該相手部材は発熱構造体および加熱対象の周囲にある部材であるのが好適である。
【0036】
例えばエアバッグ装置がステアリングホイールに搭載される場合であれば、相手取付部は、相手部材としてのステアリングホイールに直接嵌合しても良い。または、相手取付部は、エアバッグをステアリングホイールに取り付けるための基体(所謂バッグプレート)を相手部材として、当該基体に嵌合しても良い。相手取付部はこれに限らずその他の相手部材に嵌合しても良い。
【0037】
相手取付部は、相手部材に嵌合すれば良く、その形状は特に限定されない。
例えば、相手部材に嵌合孔が設けられている場合には、相手取付部は爪状をなせば良い。または、相手部材に嵌合爪が設けられている場合には、相手取付部は孔状をなせば良い。これに限らず、相手取付部はクリップ状や鉤状等に代表される種々の形状をとり得る。
【0038】
キャップは、発熱装置を相手部材ひいては加熱対象に固定する部分である相手取付部を有するとともに、発熱装置に組付けられる部分である組付部、および、発熱装置の発熱部を取り囲む筒部を有する。
【0039】
このうち組付部は、発熱装置に対応した形状をなせば良く、例えば、発熱装置を収容するための内部空間を有する無底筒状や有底筒状、半割筒状等の形状をなすのが好適である。
本発明の発熱構造体および本発明の発熱組付体では、キャップが筒部を有することにより、発熱装置の発熱部を外界すなわち筒部の外部から少なくとも部分的に隔離することができる。これにより、発熱装置の発熱部が生じた熱を外界すなわち筒部の外部に消散し難くなり、発熱装置が生じた熱を効率よく利用することが可能になる。
【0040】
筒部は、発熱装置の発熱部を取り囲むことができる筒状をなせば良く、例えば円筒状であっても良いし角筒状であっても良い。発熱部が生じた熱を損失少なく加熱対象に伝達するためには、発熱部から筒壁までの距離は一定であるのが好ましく、その点において筒部は円筒状をなすのが好適である。
【0041】
ここで、既述したように発熱装置をキャップの組付部と相手部材との間に挟み込む都合上、キャップのうち相手取付部は組付部の少なくとも一部と一体である必要がある。これに対して筒部は、組付部および相手取付部と必ずしも一体でなくても良い。したがって、本発明の発熱組付体において、組付部の少なくとも一部と相手取付部とは一体に成形され、筒部は相手部材としての基体と一体に成形されている。
【0042】
このような本発明の発熱組付体においても、発熱装置を組付部と基体との間に挟み込むことで発熱装置を基体に対して安定的に固定することが可能である。そして、このような本発明の発熱組付体においても、筒部が基体と一体であり、且つ、組付部の少なくとも一部および相手取付部が一体であることにより、少ない部品点数で発熱装置を相手部材に対して安定的に取り付けることが可能である。
【0043】
なお、本発明の発熱組付体では、発熱装置を組付部と基体との間に挟み込むことができれば良く、例えば、組付部の一部が相手取付部と一体に成形され、組付部の残部が筒部とともに基体と一体に成形されても良い。
【0044】
本発明の発熱構造体におけるキャップは、組付部、相手取付部および筒部を一体に有すれば良く、例えば別体で成形した組付部、相手取付部および筒部を組付一体化しても良いが、組付部、相手取付部および筒部を一体に成形するのがより好適である。
【0045】
加熱対象に対する発熱装置の位置は、発熱装置の発熱部が生じた熱を加熱対象に充分な量与え得る位置であれば良く、特に限定されない。発熱部と加熱対象との距離もまた、発熱部が生じた熱を加熱対象に充分な量与え得る距離であれば良く、発熱部が生じる熱エネルギの大きさや加熱対象の材料や形状等に応じて適宜適切に設定すれば良い。
発熱部が生じた効率よく加熱対象に与えるためには、キャップにおける各部の寸法が特定の関係を満足するのが好適である。
【0046】
具体的には、発熱部の先端部から筒部の先端部までの距離Aと、発熱部の直径Bとは、0<A≦B/2の関係を満足するのが好適である。例えば発熱部が後述するスクイブ、イニシエータ、イグナイタ等とも称される点火装置であれば、発熱部の先端部とは、点火装置における開閉機構(所謂スコア)の先端を意味する。
【0047】
ここで、筒部の長さが過大である場合には、発熱部が生じた熱の多くが筒部の先端部に到達する迄に失われる。この場合、加熱対象に充分な熱を与えるためには発熱装置を大型化する必要があり、当該発熱装置を含む発熱構造体やエアバッグ装置をコンパクトにできない問題がある。筒部を上記0<A≦B/2の関係を満足する形状にすることにより、発熱部よりも先側における筒部の筒長さを過大にすることなく、発熱部が生じた熱を筒部の先端部にひいては加熱対象に十分な量与えることができる。換言すると、筒部を上記0<A≦B/2の関係を満足する形状にすることにより、発熱装置が生じた熱を効率よく利用することが可能になる。これにより、可変ベント機構自体を小型化および簡略化でき、ひいては、エアバッグ装置を小型化および簡略化できる利点もある。
【0048】
発熱部の先端部から筒部の先端部までの距離Aは、0を超えれば良いが、ある程度大きいのが好適である。当該Aの好適な下限値として、具体的には、1mm≦A、2mm≦Aを例示できる。
【0049】
上記距離Aの好適な範囲を具体的な数値として挙げると、1mm≦A≦8mmの範囲内、2mm≦A≦6mmの範囲内、3mm≦A≦5mmの範囲内である。
【0050】
さらに、筒部の先端部から加熱対象までの距離は短い方がより好適であり、筒部の先端部から加熱対象までの距離の好適な範囲として、0mm~5mmの範囲内を例示することが可能である。
【0051】
筒部の筒高さは、当該筒部の周方向に一定であっても良いし、周方向の一部において他の部分と異なっていても良い。筒部は、膨張したエアバッグの外形に沿うように、その周方向の一部に、他の部分に比べて筒高さの低い部分を有するのが好適である。当該筒高さの低い部分を切り欠き部と称し、他の部分を一般部と称する場合がある。
【0052】
筒部が切り欠き部と一般部とを有する場合、筒部の外観が部分的に異なることから、キャップと発熱装置とを互いに組付ける際に、両者の取り付け位置を容易に位置決めできる利点がある。
【0053】
また、例えば、筒部のうちエアバッグ側の部分を切り欠き部とする場合には、エアバッグが展開および膨張した場合にも筒部がエアバッグに接触しないか、または筒部のうちエアバッグに接触する部分が小さくて済む。これにより、エアバッグの展開および膨張時における筒部とエアバッグとの干渉を抑制できる利点がある。
【0054】
エアバッグの展開および膨張時に筒部がエアバッグと接触することを考慮すると、切り欠き部と一般部とは滑らかに連続するのが好適である。例えば当該切り欠き部は、切り欠き部のうち最も筒高さの低い部分である切欠き底部から、切り欠き部のうち一般部に連続する部分である切欠き頂部に向けて徐々に筒高さが増大する傾斜壁状をなすのが特に好適である。
【0055】
〔発熱装置〕
発熱装置としては、その熱により上記した開閉部の少なくとも一部を自由状態とすることができるものを用いれば良い。具体的な発熱装置としては、発熱部を有する所謂点火装置を用いるのが好適である。当該発熱装置は、スクイブ、イニシエータ、イグナイタ等とも称されるものである。一般的なスクイブでは、フィラメントを含む発熱部が通電により発熱するが、発熱部が発熱する作用機序はこれに限定されない。
【0056】
なお、発熱部の発熱温度は、開閉部の少なくとも一部を自由状態とすることができる程度であれば良く、例えば加熱対象を熱により破断させる場合、当該加熱対象が熱可塑性樹脂製であれば、当該熱可塑性樹脂の軟化温度以上であれば良い。
【0057】
発熱装置は、加熱対象に充分な量の熱を与え得る場所に配置されれば良く、例えばエアバッグの内部に配置されても良いし、エアバッグの外部に配置されても良い。勿論、発熱装置の一部がエアバッグの内部に配置され残部がエアバッグの外部に配置されても良い。
【0058】
〔エアバッグ装置〕
エアバッグ装置は、エアバッグ、フラップ、ストラップ、固定材、発熱装置およびキャップを具備するのが好適である。このうち発熱装置およびキャップは、既述した本発明の発熱構造体に含まれるものであり、既に説明した。
【0059】
エアバッグはベントホールを有するものであり、フラップは当該エアバッグに取り付けられてベントホールを覆うものである。ストラップは当該フラップから延び、ストラップ用取付部に固定されて、ベントホールを閉じる閉位置にフラップを位置固定するものである。固定材は、ストラップをストラップ用取付部に固定するものである。これらエアバッグ、フラップ、ストラップおよび固定材は、上記したとおり、可変ベント機構の開閉部を構成する。
【0060】
上記のエアバッグ装置において、発熱装置は、ストラップをストラップ用取付部に固定するための固定材を、熱により破断させることで、当該ストラップを自由状態とする。つまり当該エアバッグ装置における発熱装置の加熱対象は、固定材である。
【0061】
上記のエアバッグ装置では、発熱装置が生じる熱によって固定材を破断させ、ストラップを自由状態とする。このため当該エアバッグ装置では、ストラップを自由状態とする機構、すなわち発熱構造体は単純な構造であり、かつ、当該発熱構造体の動作機序もまた単純である。
【0062】
加熱対象が固定材であるため、キャップは発熱装置を加熱対象である固定材の周囲に固定するのが好適である。そしてこの場合、当該キャップの筒部は固定材に向けて開口するのが好適である。
【0063】
上記のエアバッグ装置によると、キャップによって発熱装置を加熱対象である固定材の周囲に固定することで、発熱装置を当該加熱対象に対して位置決めすることができる。これにより、発熱部が生じる熱は、加熱対象から逸れず当該加熱対象である固定材に信頼性高く供給される。
【0064】
また、キャップにおける筒部が発熱部を取り囲みかつ上記の加熱対象に向けて開口することで、発熱部から当該加熱対象に至る熱の伝達経路の少なくとも一部が、外界すなわち筒部の外部から区画される。これにより、発熱部の生じた熱は外界に逃され難く、十分な量で発熱対象に供給される。
【0065】
さらに、上記したとおり、キャップにおける筒部を上記0<A≦B/2の関係を満足する形状にすることにより、発熱装置が生じた熱を効率よく利用することが可能になり、可変ベント機構自体を小型化および簡略化でき、ひいては、エアバッグ装置を小型化および簡略化できる。
【0066】
これにより、上記のエアバッグ装置によると、発熱部によって加熱対象である固定材を十分に信頼性高く破断させることが可能であり、当該ストラップを信頼性高く自由状態にすることが可能である。
【0067】
上記のエアバッグ装置におけるエアバッグは、中空の袋状をなし、車両に搭載され衝突等の衝撃発生時に乗員を保護する。当該エアバッグは車両の如何なる部分に配置されても良いが、例えば、ステアリングホイールに搭載されたり、インストルメントパネルの裏面側のうち助手席の前側に位置する部分に搭載されたりして、乗員とフロントガラスとの間に介在するものであるのが特に好適である。
【0068】
エアバッグは、膨張流体発生源に接続され、衝撃発生時に膨張流体の供給を受けて展開および膨張するが、通常時には折り畳まれ収納される。このためエアバッグの材料としては、折り畳み可能であり且つ展開可能な材料を選択するのが好適である。具体的なエアバッグの材料としては、可撓性を有しかつ高強度な材料を選択するのが好適であり、例えば、ポリエステルやポリアミド等の高強度樹脂繊維を用いた織布を特に好適に使用し得る。
【0069】
エアバッグは、開口状のベントホールを有する。エアバッグに設けられるベントホールは1つのみであっても良いし、複数であっても良い。ベントホールは、エアバッグの内外を連絡し、エアバッグ内部の膨張流体を外部に排出できれば良く、その形状については特に限定しない。エアバッグが複数のベントホールを有する場合、各ベントホールは同じ形状であっても良いし、異なる形状であっても良い。
【0070】
フラップはエアバッグに取り付けられ、上記したベントホールを覆う。エアバッグが複数のベントホールを有する場合には、全てのベントホールをフラップが覆っても良い。または、一部のベントホールのみをフラップが覆い、残りのベントホールはフラップで覆わなくても良い。
【0071】
フラップは、閉位置においてベントホールを覆うことが可能であり、且つ、開位置においてベントホールから離れて当該ベントホールを開くことが可能であればよい。したがって、フラップの形状や材料は特に限定されないが、エアバッグとともに折り畳まれエアバッグの展開および膨張を妨げ難いものであるのが好適である。このようなフラップの材料としては、可撓性を有しかつ高強度な材料を選択するのが好適であり、エアバッグ同様にポリエステルやポリアミド等の高強度樹脂繊維を用いた織布を選択するのが特に好適である。
【0072】
フラップをエアバッグに取り付ける方法としては、エアバッグの展開・膨張等を阻害しない方法であれば、如何なる方法を選択しても良い。例えばエアバッグとフラップとを一体に成形しても良いし、エアバッグと別体で成形したフラップをエアバッグに縫い付けたり、接着したり、溶着したりしても良い。
【0073】
フラップは、エアバッグの内部においてベントホールを覆っても良いし、エアバッグの外部においてベントホールを覆っても良い。
【0074】
ストラップは、フラップから延びかつ固定材によりストラップ用取付部に固定されることが可能であれば良く、紐状や帯状等の形状をとり得るが、これに限定されない。
【0075】
ストラップとフラップとは一体に形成しても良いし、フラップと別体で成形したストラップをフラップに縫い付けたり、接着したり、溶着したりしても良い。ストラップの材料としては、可撓性を有しかつ高強度な材料を選択するのが好適であり、フラップと同様に、ポリエステルやポリアミド等の高強度樹脂繊維を用いた織布を選択するのが特に好適である。固定材の材料としては、熱により破断可能なものを選択すれば良く、可撓性を有しかつ高強度な材料を選択するのが好適である。固定材の材料としては、ポリエステルやポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性を有する高強度樹脂繊維を選択するのが特に好適である。
【0076】
ストラップが固定されるストラップ用取付部は、エアバッグ装置の一部であっても良いし、エアバッグ装置の近傍に配置される車両構成部品や車両内装品等であっても良い。例えばエアバッグ装置がステアリングホイールに搭載される場合であれば、ストラップはステアリングホイールに固定されても良いし、エアバッグをステアリングホイールに取り付けるための基体(所謂バッグプレート)に固定されても良い。または、エアバッグ自体に固定されても良い。これらの各場合において、ステアリングホイール、基体、またはエアバッグがストラップ用取付部となる。
【0077】
ストラップは、固定材によりストラップ用取付部に固定される。固定材は、ストラップとストラップ用取付部との位置関係や、これらの材料、これらの形状等に応じて適宜適切な材料や形状のものを選択すれば良い。例えば、ストラップ用取付部がエアバッグである場合には、固定材はストラップをエアバッグに縫い止める縫製糸状をなすのが好適である。この場合、さらに、発熱部の熱により当該縫製糸状をなす固定材を破断させる場合には、当該固定材は熱により破断し易い材料、例えば熱可塑性樹脂製の縫製糸であるのが特に好適である。なお、本明細書における縫製糸とは縫製に用い得る糸をいい、その材料、紡績方法、繊維長等を限定するものではない。
【0078】
ストラップは、エアバッグの外部に固定されても良いし、エアバッグの内部に固定されても良い。
【0079】
エアバッグ装置は、エアバッグに膨張流体を供給するための膨張流体発生源を含み得る。
膨張流体発生源は、膨張流体としてガスを発生する所謂インフレータを用いるのが好適であるが、場合によっては、ガス以外の膨張流体、例えば液体やゲル等を発生するものであっても良い。
【0080】
膨張流体発生源は、膨張流体をエアバッグに供給するための装置であれば良く、例えば、膨張流体としてのガスを発生するガス発生剤を有する所謂パイロタイプのものであっても良いし、高圧容器の隔壁を破断させ当該高圧容器に収容されたガスを供給する所謂ハイブリッドタイプのものであっても良い。膨張流体発生源は、その全体がエアバッグの外部に配置されていても良いし、一部または全体がエアバッグの内部に配置されても良い。
【0081】
エアバッグ装置は、その他の構成部材を具備し得る。当該その他の構成部材としては、例えば、膨張流体発生源の少なくとも一部を収容するリテーナや、エアバッグの少なくとも一部を取り囲むカバー、膨張流体発生源とエアバッグ制御装置とを電気的に接続するためのワイヤハーネス等が例示されるが、エアバッグ装置はこれに限定されずその他の構成部材を具備しても良い。
【0082】
ここで、上記の膨張流体発生源は、膨張流体を発生させるための発熱装置を有しても良い。当該発熱装置は、上記した発熱構造体の発熱装置とは別途設けられる。以下、必要に応じて、膨張流体発生源の発熱装置を膨張流体発生用発熱装置、膨張流体用スクイブ等と称する場合がある。
膨張流体発生用発熱装置は、発熱構造体の発熱装置と同じ構造を有するものであっても構わない。
【0083】
発熱構造体の発熱装置は、膨張流体の発生には関与しない。また、膨張流体発生源が生じた膨張流体が、発熱構造体の発熱装置に浴びせられると、発熱構造体の発熱装置が生じる熱の損失が生じる虞がある。このため、エアバッグ装置における発熱構造体の発熱装置を、上記の膨張流体発生源から隔離するのが好適である。具体的には、エアバッグ装置は、発熱構造体の発熱装置と上記の膨張流体発生源との間に立壁を有するのが好適である。
【0084】
立壁の高さは、特に限定しないが、膨張流体発生源におけるオリフィス等のガス吹出口を覆い得る高さであるのが好適である。なお、立壁が少しでもあれば膨張流体発生源から発熱構造体の発熱装置に至るガスの流路が阻害される効果がある。
【0085】
以下、具体例を挙げて本発明の発熱構造体および発熱組付体を説明する。
【0086】
(実施例1)
実施例1の発熱構造体は車両のステアリングホイールに搭載される運転席エアバッグの一部を構成するものである。
エアバッグが展開および膨張している状態での実施例1の発熱構造体を模式的に説明する説明図を図1に示す。エアバッグが展開していない状態での実施例1の発熱構造体を模式的に説明する説明図を図2に示す。実施例1の発熱構造体と相手部材との組付け一体品を模式的に表す説明図を図3に示す。実施例1の発熱構造体における発熱装置を模式的に表す説明図を図4および図5に示す。実施例1の発熱構造体と相手部材との組付け一体品を模式的に表す説明図を図6に示す。実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置におけるエアバッグのアクティブベントホールをフラップが閉じている様子を模式的に説明する説明図を図7および図8に示す。実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置におけるエアバッグのアクティブベントホールをフラップが開いている様子を模式的に説明する説明図を図9図10に示す。なお、図8図7に示すアクティブベントホールおよびフラップを裏側から見た様子を表す。図10図9に示すアクティブベントホールおよびフラップを裏側から見た様子を表す。評価試験の結果を表すグラフを図11および図12に示す。
【0087】
以下、便宜的に、実施例1の発熱構造体を含むエアバッグ装置を実施例1のエアバッグ装置と称する場合がある。
【0088】
図1に示すように、実施例1のエアバッグ装置1は、エアバッグ2、膨張流体発生源3、フラップ4、ストラップ5、実施例1の発熱構造体6、ケース7および基体8を具備する。なお、基体8は、実施例1のエアバッグ装置1を車両のステアリングホイール90に取り付けるための部材であり、本発明の発熱構造体における相手部材に相当する。
【0089】
このうちフラップ4、ストラップ5および後述する固定材50が既述した開閉部10を構成する。また、後述するアクティブベントホール21A、開閉部10、および発熱構造体6が可変ベント機構11を構成する。
【0090】
実施例1のエアバッグ装置1における膨張流体発生源3は、膨張流体としてのガスを発生するインフレータ3であり、当該インフレータ3のガス発生を開始させるための膨張流体発生用スクイブ(図略)を有する。インフレータ3はガスを吹き出すためのガス吹出口31を有し、膨張流体発生用スクイブは、エアバッグ2を展開および膨張させるための図略の制御装置に接続され、電力の供給を受けて動作する。
【0091】
エアバッグ2は中空の袋状をなし、上記したインフレータ3のガス吹出口31はエアバッグ2の開口部20に接続されエアバッグ2の内部にガスすなわち膨張流体を供給可能である。
【0092】
図7図8に示すように、エアバッグ2には複数のベントホール21が設けられている。各ベントホール21はエアバッグ2の内外を連絡する略真円の開口状をなす。
【0093】
ベントホール21の一つをアクティブベントホール21Aと称する。その他のベントホール21を一般ベントホール21Gと称する。後述するように、アクティブベントホール21Aは、閉位置にあるフラップ4によって覆われ、閉じられる。一般ベントホール21Gは常に開放されている。
【0094】
エアバッグ2のうち当該アクティブベントホール21Aの周囲にはフラップ4が縫い付けられている。
フラップ4は、エアバッグ2と同じナイロン製の布帛からなり、略正三角形状をなす。フラップ4をエアバッグ2に縫い付けている縫製糸45もまたナイロン製である。
【0095】
図8に示すように、略三角形状をなすフラップ4の一辺がアクティブベントホール21Aの周囲においてエアバッグ2の内面側に直線的に縫い付けられ、当該辺に向かい合う角からストラップ5が延びている。
【0096】
ストラップ5はエアバッグ2およびフラップ4と同じナイロン製の布帛からなり、細い帯状をなす。ストラップ5の一端はフラップ4と一体であり、ストラップ5の他端はエアバッグ2の内部に縫い付けられ、固定されている。これにより、フラップ4はエアバッグ2の内部においてアクティブベントホール21Aを覆い、ベントホール21を閉じる閉位置(図7図8)に位置固定されている。
【0097】
実施例1のエアバッグ装置1において、エアバッグ2自体が既述したストラップ用取付部である。また、ストラップ5をエアバッグ2に縫い付けた縫製糸が固定材50である。固定材50はナイロン製の縫製糸からなる。
【0098】
発熱構造体6は、発熱装置60およびキャップ61を有し、エアバッグ2の外部に配置されている。実施例1の発熱装置60はスクイブである。
【0099】
図1図5に示すように、発熱装置60は発熱部60Hを有する。また発熱装置60は、さらに、図略の電源および上記した図略の制御装置に接続されている。なお、発熱装置60は上記した膨張流体発生用スクイブとは別のものである。
【0100】
図4および図5に示すように、発熱装置60はキャップ61に取り付けられている。キャップ61は、相手取付部62と、組付部66と、後述する筒部65とを有する。当該相手取付部62、組付部66、および筒部65は一体に成形されている。なお、実施例1の発熱構造体6におけるキャップ61は、複数の相手取付部62を有する。当該複数の相手取付部62は、互いに離れた位置に配置されている。
【0101】
組付部66は、発熱装置60における発熱部60Hとは逆側の部分を収容する内部空間を有し、当該発熱装置60に組付けられる部分である。組付部は概略円筒状をなす。
【0102】
相手取付部62は、爪状をなし、組付部66から延び、図3に示すように基体8に設けられた嵌合孔89に嵌合する。これにより発熱装置60は、組付部66と基体8との間に挟み込まれる(図3図6)。換言すると、当該発熱装置60は、キャップ61によって、発熱部60Hを固定材50に向けつつ当該固定材50の周囲に固定されている(図1)。
【0103】
キャップ61の筒部65は、断面略真円の円筒状をなす。筒部65は、発熱装置60の周囲を取り囲みつつ固定材50に向けて延び、固定材50に向けて開口する。発熱装置60の発熱部60Hもまた筒部65に取り囲まれている。図1図5に示すように、実施例1のエアバッグ装置1において、筒部65の筒高さは、筒部65の周方向に一定である。
【0104】
上記したエアバッグ2、フラップ4、ストラップ5および膨張流体発生源3は、ケース7に組付けられてユニット化されている(図2)。図示しないが、フラップ4およびストラップ5はエアバッグ2の内部に配置されている。エアバッグ2および膨張流体発生源3はケース7に収容されている。
【0105】
ケース7にはその内部に突出する立壁70が設けられている。当該立壁70は、膨張流体発生源3におけるインフレータ3のオリフィス35を覆う高さであり、図2に示すように、発熱装置60とインフレータ3との間に介在している。
【0106】
図5に示すように、実施例1の発熱構造体6において、発熱部60Hの先端部から筒部65の先端部までの距離Aと、発熱部60Hの直径Bとは、0<A≦B/2の関係を満足する。より具体的な数値を挙げると、実施例1の発熱構造体6において、距離Aは4mmであり、発熱部60Hの直径は8mmであった。
【0107】
また、筒部65の先端部から加熱対象たる固定材50までの距離は、0mmであり、筒部65の内径は14mmであった。なお、ここでいう筒部65の先端部から固定材50までの距離とは、筒部65の軸方向における距離を意味する。
【0108】
以下、実施例1のエアバッグ装置1の動作を説明する。
【0109】
実施例1のエアバッグ装置1を搭載した車両に衝突等による衝撃が作用すると、図略の制御装置によって図略の膨張流体発生用スクイブが動作し、インフレータ3が膨張流体たるガスを生じる。インフレータ3が生じたガスは、エアバッグ2の内部に供給される。これによりエアバッグ2が展開および膨張する。このとき、フラップ4は閉位置にありエアバッグ2のアクティブベントホール21Aはフラップ4により覆われた状態である(図7図8)。
【0110】
エアバッグ2が展開および膨張した直後に、制御装置は加熱構造体6の発熱装置60を動作させる。これにより当該発熱装置60の発熱部60Hが点火剤を噴出するとともに点火され、発熱する。
【0111】
当該点火剤や、発熱装置60が発した熱は筒部65の内部を通じて固定材50に供給される。これにより固定材50が熱せられる。固定材50は熱可塑性樹脂であるナイロン製であるために、加熱されて破断する。
【0112】
ここで、筒部65の先端は発熱部60Hの先端よりも先側にあるために、発熱装置60が発した熱や点火剤は、筒部65のうち発熱部60Hの先端と筒部65の先端との間の領域に滞留する。これにより、発熱部60Hに因り筒部65の内部にある熱は筒部65の外部に消散し難く、筒部65の内部には熱が保持される。これにより固定材50には充分な量の熱が与えられ、固定材50が信頼性高く破断する。
【0113】
なお実施例1のエアバッグ装置1では、乗員がエアバッグ2に衝突するタイミングで発熱装置60が熱を生じ固定材50が破断されるように設定されている。
【0114】
展開前、すなわちエアバッグ2が折り畳まれている際には、フラップ4はストラップ5により閉位置に固定されている。エアバッグ2の展開および膨張時においても引き続き、フラップ4はストラップ5により閉位置に固定されている。固定材50が破断すると、ストラップ5が自由状態となり、その結果、フラップ4が自由状態になる。
【0115】
このときインフレータ3が生じたガスはエアバッグ2の内部に供給され続けているため、エアバッグ2の内部から外部に向けたガス圧によって、フラップ4はエアバッグ2の外部に向けて押圧され、アクティブベントホール21Aを閉じる開位置からアクティブベントホール21Aを開く開位置に向けて位置変化を開始する。フラップ4およびこれに連続するストラップ5の残部がアクティブベントホール21Aを通じてエアバッグ2の外側に出ると、アクティブベントホール21Aが開かれる(図9図10)。このときフラップ4はアクティブベントホール21Aを開く開位置に配置されるといい得る。
【0116】
フラップ4がアクティブベントホール21Aを開くと、エアバッグ2内のガスが当該アクティブベントホール21Aを通じてエアバッグ2の外部に流出可能になる。これにより、エアバッグ2内部のガス圧は十分に低下し、エアバッグ2に因り乗員に負荷される反力もまた十分に低減する。
【0117】
実施例1の発熱構造体6では、図3に示すように発熱装置60をキャップ61の組付部66と基体8との間に挟み込む。これにより、発熱装置60を基体8に対して安定的に固定することが可能である。そして、実施例1の発熱装置60のうちキャップ61は組付部66、相手取付部62および筒部65が一体に成形されたものである。これにより、発熱構造体6は少ない部品点数で発熱装置60を基体8に対して安定的に固定し得る。
【0118】
実施例1のエアバッグ装置1によると、発熱装置60によって加熱対象である固定材50を加熱し破断するために、発熱構造体6の構造は単純であり、かつ、当該発熱構造体6の動作機序もまた単純である。
【0119】
そして、発熱構造体6のキャップ61が発熱装置60を加熱対象である固定材50に対して位置決めするとともに、発熱装置60の発熱部60Hが生じた熱を十分な量で固定材50に供給する。これにより、実施例1のエアバッグ装置1によると、発熱装置60の発熱部60Hによって固定材50を十分に信頼性高く破断しストラップ5を自由状態とすることが可能である。
【0120】
さらに、実施例1のエアバッグ装置1は、発熱構造体6の発熱装置60とインフレータ3のオリフィス35との間に立壁70を有する。これにより、インフレータ3から発熱装置60に至るガスの流路を阻害する。これにより、当該ガスに因る発熱装置60の発熱が阻害される不具合が回避され、発熱装置60の発熱部60Hは迅速に且つ充分な温度に昇温する。これにより、実施例1のエアバッグ装置1によると、望み通りのタイミングで発熱装置60によって固定材50を加熱して破断しストラップ5を自由状態とすることが可能であり、ひいては、望み通りのタイミングでアクティブベントホール21Aを開くことが可能である。
【0121】
実施例1のエアバッグ装置1において、発熱部60Hの先端部から筒部65の先端部までの距離Aと、発熱部60Hの直径Bとは、0<A≦B/2の関係を満足する。距離Aと直径Bとが当該関係を満足することにより、発熱部60Hよりも先側における筒部65の筒長さを過大にすることなく、発熱部60Hが生じた熱を筒部65の先端部に、ひいては固定材50に、十分な量与えることができる。これにより、発熱装置60が生じた熱を効率よく利用することが可能になり、発熱構造体6を含む可変ベント機構11自体を小型化および簡略化でき、ひいては、エアバッグ装置1を小型化および簡略化できる。
【0122】
〔評価試験〕
実施例1の発熱構造体6と、当該発熱構造体6に含まれる発熱装置60単体と、につき、固定材50に相当する位置において、発熱装置60に点火した時点からの温度の推移をシミュレーションにより演算した。その結果を図11に示す。なお、図11中の縦軸は温度(℃)を、横軸は点火時点(0ミリ秒)からの経過時間(ミリ秒)を表す。また、図11に示されるグラフにおける点火時点から3ミリ秒までの熱力積を図12に示す。
【0123】
発熱装置60単体によると、図11に示すように点火直後の温度は高くなるものの、その後急激に温度低下し、図12に示すように3ミリ秒までの熱力積は低い値を示す。上記した急激な温度低下は、発熱装置60の点火により発熱部60Hで生じた熱が発熱装置60の筐体に吸熱されたことに因るものと推測される。
【0124】
一方、実施例1の発熱構造体6によると、図11に示すように点火直後の温度は比較的低いものの、その後の温度低下は僅かであり、図12に示すように3ミリ秒までの熱力積は高い値を示す。実施例1の発熱構造体6において点火後の温度低下が僅かであった理由は定かではないが、発熱装置60の発熱部60Hがキャップ61の筒部65で取り囲まれていることに因ると推測される。つまり、実施例1の発熱構造体6においては、発熱装置60の点火により発熱部60Hで生じた熱は、筒部65の内部にとどめられ、当該筒部65の外部に拡散され難いと推測される。
この結果から、実施例1の発熱構造体6によると固定材50に充分な量の熱を与えることができ、固定材50を効率よく加熱し破断することが可能であることがわかる。
【0125】
キャップ61を含まない発熱装置60単体は、点火後0.68ミリ秒で点火剤を噴出し終わった。発熱装置60は剥き出しになっているために、当該発熱装置60が生じた熱は生じた直後に外界に拡散したと考えられる。
【0126】
これに対して、キャップ61と発熱装置60とを含む実施例1の発熱構造体6においては、発熱装置60が生じた熱は、点火後3.0ミリ秒以上に亘って筒部65に滞留したと考えられる。換言すると、発熱装置60が生じた熱は筒部65に保持されたと考えられる。これにより、実施例1の発熱構造体6によると、発熱装置60が生じた熱を効率よく利用でき、加熱対象たる固定材50に充分な量の熱を与えることができることが裏付けられる。
(変形例)
変形例のキャップ61を模式的に表す説明を図13図16に示す。
図13図16に示すように、本発明のキャップ61は種々の形状をとり得る。これらのキャップ61は何れも筒部65、相手取付部62および組付部66を有する。図13図16に示すように、本発明のキャップ61における筒部65は円筒状をなすのが好適である。組付部66は筒部65に連絡し発熱装置60を組付けるための内部空間を有すれば良く、様々な形状をとり得る。爪状をなす相手取付部62もまた、図13図16に示すように様々な形状をとり得る。
【0127】
(実施例2)
実施例2の発熱組付体80は基体8としてのバッグプレートを含むものであり、実施例2の発熱組付体80を含むエアバッグ装置1は、キャップ61および基体8の構造以外は実施例1のエアバッグ装置1と概略同じものである。したがって、以下、実施例1との相違点を中心として実施例2の発熱組付体80を説明する。
実施例2の発熱組付体80を模式的に表す説明図を図17および図18に示す。
【0128】
実施例2の発熱組付体80は、基体8、発熱装置60、およびキャップ61を含む。キャップ61は筒部65、組付部66および相手取付部62を有する。筒部65、組付部66および相手取付部62は実施例1のエアバッグ装置1における筒部65、組付部66および相手取付部62と概略同形状をなすが、これらは一体成形されていない点において実施例1のエアバッグ装置1における筒部65、組付部66および相手取付部62と大きく相違する。
【0129】
具体的には、筒部65は基体8に一体に成形されている。組付部66における軸方向の一部である第1組付部66Fもまた、筒部65とともに基体8に一体に成形されている。そして、組付部66の残部、換言すると、組付部66における軸方向の他の一部である第2組付部66Sは、複数の相手取付部62と一体に成形されている。第2組付部66Sおよび相手取付部62は、筒部65、基体8および第1組付部66Fとは別体である。
各々の相手取付部62は、基体8に設けられた嵌合孔に嵌合する爪状をなす。
【0130】
実施例2の発熱組付体80においても、発熱装置60を基体8と組付部66との間に、より詳しくは第1組付部66Fおよび基体8と第2組付部66Sとの間に挟み込むことで、発熱装置60を基体8に対して安定的に固定することが可能である。そして、このような実施例2の発熱組付体80は、筒部65および第1組付部66Fが基体8と一体成形されたものであり、且つ、第2組付部66Sおよび相手取付部62が一体成形されたものであることにより、少ない部品点数で発熱装置60を相手部材8に対して安定的に取り付けることが可能である。
【0131】
以上本発明を説明してきたが、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、当該実施形態等に記載した要素を適宜抽出し組み合わせて実施することや、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
また、本発明の明細書は、出願当初における各請求項の引用関係に止まらず各請求項に記載された事項を適宜組み合わせた技術思想を開示するものである。
【符号の説明】
【0132】
1:エアバッグ装置 11:可変ベント機構
2:エアバッグ 21:ベントホール
3:膨張流体発生源(インフレータ) 4:フラップ
5:ストラップ 50:固定材
2:ストラップ用取付部(エアバッグ) 60:発熱装置
60H:発熱部 61:キャップ
65:筒部 66:組付部
62:相手取付部 70:立壁
8:基体(相手部材) 80:発熱組付体
A:発熱部の先端部から筒部の先端部までの距離
B:発熱部の直径B
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