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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132712
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】二重パラペット護岸
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
E02B3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043601
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】千綿 蒔
(72)【発明者】
【氏名】本田 隆英
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA12
2D118AA20
2D118AA28
2D118FA06
(57)【要約】
【課題】パラペットの高さを最低限に抑えつつ越波低減効果を得ることができ、かつ、比較的簡易に構築することが可能な二重パラペット護岸であって、ひいては、低コストかつ短工期で構築することが可能な二重パラペット護岸を提案する
【解決手段】既存の堤体2と、堤体2の上面に立設された既存パラペット3と、既存パラペット3の後方に間隔をあけて設けられた新設パラペット4とを備える二重パラペット護岸1である。既存パラペット3には、既存パラペット3と新設パラペット4との間の空間に流入した水を排水するための排水口31が形成されており、排水口31には空間への水の流入を抑制する流入抑制手段6が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の堤体と、前記堤体の上面に立設された既存パラペットと、前記既存パラペットの後方に間隔をあけて設けられた新設パラペットとを備える二重パラペット護岸であって、
前記既存パラペットには、前記既存パラペットと前記新設パラペットとの間の空間に流入した水を排水するための排水口が形成されており、
前記排水口には、前記空間への水の流入を抑制する流入抑制手段が設けられていることを特徴とする、二重パラペット護岸。
【請求項2】
前記流入抑制手段は、前記排水口を遮蔽可能な止水板と、前記止水板の基端部と前記堤体とを連結するヒンジと、前記止水板の先端に固定された浮体と、を備えており、
前記ヒンジは、前記止水板を回転可能に支持しており、
前記止水板は、水位変動による前記浮体の上下動に伴って開閉することを特徴とする、請求項1に記載の二重パラペット護岸。
【請求項3】
前記止水板および前記浮体は、式1を満たす形状であることを特徴とする、請求項2に記載の二重パラペット護岸。
【数1】
【請求項4】
前記排水口の高さが50cm以下であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の二重パラペット護岸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重パラペット護岸に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸や河岸では、水流や波浪による浸食被害の抑制を目的として、護岸が設けられている。このような護岸として、高潮発生時等における越波や越流による浸水被害を抑制するために、天端部にパラペットが形成されたパラペット護岸が採用される場合がある。
近年では、地球温暖化に起因する海面水位の上昇や熱帯低気圧の増強などによる高潮が懸念されている。既存の護岸を越流する高潮が発生すれば、浸水により多大な被害が生じるおそれがある。
【0003】
そのため、高潮等に起因する護岸の越波流量を低減できる護岸として、堤体上面の港外側(海側)と港内側(陸側)にそれぞれパラペットを設けた二重パラペット護岸が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
ところが、二重パラペット護岸では、高潮発生時等における越波や越流が生じた際に、前後のパラペットの間に流入した水が溜まるため、排水作業に手間がかかる。また、前後のパラペットの間に水が溜まっていると、越波低減効果が低下してしまう。そのため、水が溜まった状態でも所定の越波低減効果を得るためには、後側(陸側)のパラペットを高くする必要がある。一方、天端高が高いパラペットを設置するためにはコストがかかる。
特許文献2には、パラペット同士の間の遊水部の底部を透水性として、パラペット同士の間に溜まる水を排水する機能を有した護岸が開示されている。
ところが、既存の護岸に対して、遊水部の底部を透水性にするためには、大規模な改良工事を行う必要があり、コストと手間が大幅に増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-073338号公報
【特許文献2】特開2000-204529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、パラペットの高さを最低限に抑えつつ越波低減効果を得ることができ、かつ、比較的簡易に構築することが可能な二重パラペット護岸であって、ひいては、低コストかつ短工期で構築することが可能な二重パラペット護岸を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明の二重パラペット護岸は、既存の堤体と、前記堤体の上面に立設された既存パラペットと、前記既存パラペットの後方に間隔をあけて設けられた新設パラペットとを備えるものである。前記既存パラペットには、前記既存パラペットと前記新設パラペットとの間の空間に流入した水を排水するための排水口が形成されており、前記排水口には、前記空間への水の流入を抑制する流入抑制手段が設けられている。なお、前記排水口の高さは50cm以下にするのが望ましい。
【0007】
かかる二重パラペット護岸によれば、既存の護岸を二重パラペット護岸に改修する際に、気候変動による高潮リスクの増大に適応した構造を構築できる。また、既存護岸を利用しつつ、越波流量の低減効果を獲得できる。また、陸上部分の工事のみで、適応できるため、水上工事を伴う改修工事に比べて、施工費用が安価である。さらに、既存パラペットと新設パラペットとの間の空間に流入した水は、排水口から排水される。既存パラペットと新設パラペットとの間に水を滞留させないようにすると、越波流量を減少できるため、新設パラペットの高さを低くできる。そのため、護岸の改良工事(パラペットの新設工事)に要する手間および費用を低減できる。
【0008】
なお、前記流入抑制手段には、前記排水口を遮蔽可能な止水板と、前記止水板の基端部と前記堤体とを連結するとともに止水板を回転可能に支持しているヒンジと、前記止水板の先端に固定された浮体と、を備え、前記止水板は、水位変動による前記浮体の上下動に伴って開閉するものを使用すればよい。このとき、前記止水板および前記浮体は、式1を満たす形状にするのが望ましい。
【0009】
【数1】
【発明の効果】
【0010】
本発明の二重パラペット護岸によれば、パラペットの高さを最低限に抑えつつ越波低減効果を得ることができ、かつ、比較的簡易に構築することが可能となり、ひいては、低コストかつ短工期で構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る二重パラペット護岸の概要を示す断面図である。
図2】既存のパラペット護岸の例を示す断面図である。
図3】二重パラペット護岸の概要を示す拡大断面図である。
図4】流入抑制手段の概要を示す断面図である。
図5】流入抑制手段の動きを示す断面図であって、(a)は通常時、(b)は高潮押し波時、(c)は高潮引き波時である。
図6】解析モデルを示す断面図である。
図7】遊水部の水位が越波流量に与える影響を検証するための解析結果を示す図であって、(a)~(d)は波到達前の遊水部の水位が低い場合、(e)~(h)は波到達前の遊水部が満水の場合である。
図8】排水口の有無の影響の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態では、高潮等に起因する護岸の越波流量を低減するための二重パラペット護岸1について説明する。図1に二重パラペット護岸1の概要を示す。二重パラペット護岸1は、図1に示すように、既存の堤体2と、堤体2の上面に立設された既存パラペット(前側パラペット)3と、既存パラペット3の後方(陸側)に間隔をあけて設けられた新設パラペット(後側パラペット)4とを備えている。ここで、図2に既存のパラペット護岸10の一例を示す。図2に示すように、既存のパラペット護岸10は、現状の設計潮位TLに対して、越波・越流を抑制できるパラペット(既存パラペット3)が形成されている。一方、地球温暖化等の影響により将来の高潮潮位TLが上昇することが予想される場合には、越波・越流により陸地に浸水するおそれがある。そのため、本実施形態では、図1に示すように、既存パラペット(前側パラペット)3の陸側に新設パラペット(後側パラペット)4を設けることで、越波・越流のリスクを低減させて、浸水被害の抑制を図る。
【0013】
図3に二重パラペット護岸1の拡大断面図を示す。図3に示すように、既存パラペット3には、既存パラペット3と新設パラペット4との間の空間(遊水部5)に流入した水を排水するための排水口31が形成されている。本実施形態では、排水口31の高さを50cm以下にする。排水口31には、遊水部5への水の流入を抑制する流入抑制手段6が設けられている。
【0014】
流入抑制手段6は、排水口31を遮蔽可能な止水板61と、止水板61の基端部と堤体2とを連結するヒンジ62と、止水板61の先端に固定された円柱状の浮体63とを備えている。図4に流入抑制手段6を示す。図4に示すように、ヒンジ62は、止水板61を回転可能に支持している。止水板61は、水位変動による浮体63の上下動に伴って開閉する。なお、止水板61および浮体63は、式1を満たす形状である。式1は、ヒンジ62を中心としたモーメントの釣り合いを考慮した式であり、左辺は、止水板61の重量W(=ρbtdg)にヒンジ62から止水板61の中心までの距離(=d/2cosθ)を乗じて得たモーメント、右辺は、浮体63に働く浮力Fから浮体の重量Wfを減じた力にヒンジ62から浮体63までの距離(=dcosθ)を乗じて得たモーメントである。
【0015】
【数2】
【0016】
図5に流入抑制手段6の動きを示す。図5(a)に示すように、通常時(水位WLが排水口31の下端以下のとき)の流入抑制手段6は、排水口31を開口している。一方、水位WLが上昇した場合には、図5(b)に示すように、浮体63の浮力によって止水板61が立ち上がり、排水口31を遮蔽する。一方、引き波により、水位が低下すると、図5(c)に示すように、止水板61が水位の下降に伴って倒れるため、排水口31が開口し、遊水部5内の水が排水口31から排水される。
【0017】
以上、本実施形態の二重パラペット護岸1によれば、既存の護岸を二重パラペット護岸1に改修する際に、気候変動による高潮リスクの増大に適応した構造を構築できる。また、既存護岸を利用しつつ、越波流量の低減効果を獲得できる。また、陸上部分の工事のみで、適応できるため、水上工事を伴う改修工事に比べて、施工費用が安価である。さらに、既存パラペット3と新設パラペット4との間の空間(遊水部5)に流入した水は、排水口31から排水されるため、越波流量を減少でき、ひいては、新設パラペット4の高さを低くできる。そのため、護岸の改良工事(パラペットの新設工事)に要する手間および費用を低減できる。
【0018】
また、流入抑制手段6は、止水板61が水位変動による浮体63の上下動に伴って開閉するため、高潮時に排水口31から遊水部5に水が流入することを抑制し、かつ、引き波時には遊水部5から水を排水できる。そのため、遊水部5に水が滞留することを抑制し、越波流量を減少できる。
【0019】
次に、本実施形態の二重パラペット護岸1について実施した解析結果を示す。本解析では、排水口31から排水して、遊水部5の水位を低下させることで越波流量が低減することを確認した。解析は、数値流体解析プログラムOpenFOAMを用いた鉛直2次元の数値実験により行った。図6に解析モデルを示す。表1に解析の条件を示す。表1に示すように、排水口31の大きさ(高さ)Dを0,0.1,0.3,0.5mにした場合についてそれぞれ解析を行った。護岸の水底からの高さhを3.0m、前側パラペット3の平均水面から天端までの高さhfを1.4m、後側パラペット4の平均水面から天端までの高さhbを2.0とした。また、遊水部5の幅(前側パラペット3と後側パラペット4の間隔l)を4.0mとした。解析時間は200秒とし、このうち前半100秒は助走時間、後半100秒を越波流量の評価対象とした。入射波は、波高H=2m、周期T=8秒の規則波とした。越波流量は、後側パラペット4を含む鉛直断面におけるVoF(各格子における水の体積比)と流速の積を鉛直方向に積分することによって算定した。
【0020】
【表1】
【0021】
<遊水部の水位の影響>
まず、遊水部5の水位を変えて越波量の違いを解析した。図7に解析結果を示す。図7(a)に示すように波到達前に遊水部5の水位が低い場合(ケース1)と、図7(e)に示すように波到達前に遊水部5が満水の場合(ケース2)についてそれぞれ数値解析を行った。いずれの場合においても、同等の波が入射するものとした。図7(b)および(f)に示すように、前側パラペットを越波する水量は、ケース1で1.55m/m、ケース2では1.56m/mとなり、同等であった。前側パラペットを越波した水は、図7(c)および(g)に示すように、遊水部に流入した後、図7(d)および(h)に示すように、後側パラペットを越波する。遊水部の水位が低いケース1における後側パラペットを越波する量はQ=0.2m/mであったのに対し、遊水部の水位が満水のケース2における後側パラペットを越波した量はQ=0.51m/mとなった。そのため、遊水部5内の水が排水されていれば、新設パラペット4の越波流量を小さくすることができることが確認できた。したがって、既存パラペット3に排水口31を設けて、遊水部5の水を排水すれば、新設パラペット4の越波流量を小さくすることができる。
【0022】
<排水口の有無の影響>
次に、既存パラペット3に形成する排水口の有無が越波流量に与える影響を検証した。本解析では、排水口31の大きさ(高さ)Dを0(排水口なし),0.1,0.3,0.5mにした場合と、既存パラペット3がない場合(後退型:排水口31の大きさDを既存パラペット3の高さにした場合)である後退型パラペットについても解析を行った。図8に検証結果を示す。
図8に示すように、排水口なしに比べ、排水口ありのケース(排水口10cm、30cm、50cm)では、いずれも越波流量が低減し、排水口31の高さD=50cmで、最も越波流量が小さくなった。一方、後退型パラペットの場合は、越波流量は最も大きくなった。したがって、二重パラペットに排水口31を設けることにより越波流量が低減することが確認できた。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
流入抑制手段6の構成は、前記実施形態で示したものに限定されるものではない。例えば、浮体63は円柱状に限定されない。また、ヒンジ62は、既存パラペットに取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 二重パラペット護岸
2 堤体
3 既存パラペット(前側パラペット)
31 排水口
4 新設パラペット(後側パラペット)
5 遊水部
6 流入抑制手段
61 止水板
62 ヒンジ
63 浮体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8