(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132713
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】抗体模倣分子
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240920BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240920BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20240920BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240920BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240920BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240920BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240920BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07K16/18
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C40B40/08
C12P21/02 C
A61K38/16
A61P35/00
A61P25/00
C12N15/09 Z
C07K14/00
C07K14/78
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043603
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊一
(72)【発明者】
【氏名】栂 蓮弥
(72)【発明者】
【氏名】雨坂 心人
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】外山 喬士
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 ひかり
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA06
4B064CA12
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC15
4B064CC24
4B064CE07
4B064DA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA23
4C084DA40
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
(57)【要約】
【課題】新規な抗体模倣分子を提供する。
【解決手段】ヒト由来フィブロネクチンIII型ドメイン(fibronectin type III domain;FN3)をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、セレノプロテインP(SeP)に対する、抗体模倣分子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来フィブロネクチンIII型ドメイン(fibronectin type III domain;FN3)をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、セレノプロテインP(SeP)に対する、抗体模倣分子。
【請求項2】
SeP細胞内取込み阻害活性を有する、請求項1に記載の抗体模倣分子。
【請求項3】
FN3をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、FN3が少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合する、抗体模倣分子。
【請求項4】
配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列、若しくは配列番号5で表されるアミノ酸配列;又は
これらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含み、SeP結合能を有する、抗体模倣分子。
【請求項5】
(a)配列番号6で表されるアミノ酸配列
(17番目のアミノ酸は、S又はCであり;
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
36番目のアミノ酸は、Y又はCであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F、S又はLであり;
54番目のアミノ酸は、S又はPであり;
68番目のアミノ酸は、D又はGである。)、
(b)配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(但し、
17番目のアミノ酸は、S又はCであり;
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
36番目のアミノ酸は、Y又はCであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F、S又はLであり;
54番目のアミノ酸は、S又はPであり;
68番目のアミノ酸は、D又はGである。)、
(c)配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含み、SeP結合能を有する、抗体模倣分子。
【請求項6】
配列番号5及び配列番号8~12のいずれかで表されるアミノ酸配列、又は
これらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含み、SeP結合能を有する、抗体模倣分子。
【請求項7】
配列番号5、8、10又は11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、抗体模倣分子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体模倣分子を含む、神経膠芽腫治療用の、及び/又は神経膠芽腫予防用の、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体模倣分子をコードする、核酸分子。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項9に記載の核酸分子を含む、核酸ライブラリー。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸ライブラリーに由来する、ペプチドディスプレイライブラリー。
【請求項13】
FN3をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、
FN3が少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合する、抗体模倣分子の製造方法であって、
(A1)FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも40000nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを選別する工程、及び
(A2)前記工程(A1)で選別された少なくとも1種のポリペプチドをコードするアミノ酸配列においてさらに少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも2500nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを、前記抗体模倣分子として選別する工程
を含む、又は
(B1)FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーを構成するポリペプチドをコードする核酸上でDNAシャッフリングを実行することによりポリペプチドのディスプレイライブラリーを得る工程、及び
(B2)前記工程(B1)で得られたポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも2500nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを、前記抗体模倣分子として選別する工程
を含む、製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法により、得られうる抗体模倣分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体模倣分子に関する。
【背景技術】
【0002】
神経膠芽腫(グリオブラストーマ;GBM)は、脳に存在するグリア細胞から発生して迅速に周囲の脳組織へ広がり、致死性が非常に高く、極めて予後の悪い悪性脳腫瘍である。GBM細胞は、手術によって完全に摘出することが困難であり、術後も放射線と抗がん剤による治療が継続されるが、治療成績は改善されない現状にある。近年、GBM患者の予後と遺伝子発現の関連について、分泌タンパク質であるセレノプロテインP(SeP)のmRNA高発現が悪性化と相関することが見出され、一部のGBM患者でSePの高発現が確認された。ヒトGBM細胞株のうち、T98G細胞ではSePとSeP受容体であるApoER2の発現が比較的高く、細胞増殖速度が速いことが分かっている。また、T98G細胞へSePsiRNAやApoER2siRNA、抗SeP中和抗体を添加することで、細胞増殖が有意に抑制されることが見出されている。このように、GBMにおいて高発現したSePが、オートクライン・パラクラインによりSeP受容体を介して細胞増殖速度を促進させるといったシグナル軸は、GBM治療標的となり得ると期待されており、アンメット・メディカル・ニーズを満たす効果的な新規GBM治療法の開発が求められている。
【0003】
抗体は標的抗原に対して高い特異性及び親和性を示すため、病原分子に対する高い分子認識能及び標的能を有する医薬品として利用価値が高い。しかし、天然の抗体は分子量が大きいこと等の様々な制約があり、十分や特異性及び親和性を示さない場合もある。このような問題を解決するものとして、天然型抗体の構造や機能を改変した低分子抗体や低分子抗体模倣分子が開発されてきた(特許文献1及び特許文献2)。低分子抗体や低分子抗体模倣分子は、組織への透過性、製造の容易性等の観点から医薬品応用への期待が高まっている。
【0004】
しかし、これまでにGBMの治療及び予防を目的とした低分子抗体及び低分子抗体模倣分子の開発報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2002/033073号
【特許文献2】特開2013-162789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗体模倣分子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、SeP結合能を有する新規な低分子抗体模倣分子(Monobody)の開発に成功した。本発明はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0008】
項1.
ヒト由来フィブロネクチンIII型ドメイン(fibronectin type III domain;FN3)をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、セレノプロテインP(SeP)に対する、抗体模倣分子。
項2.
SeP細胞内取込み阻害活性を有する、項1に記載の抗体模倣分子。
項3.
FN3をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、FN3が少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合する、抗体模倣分子。
項4.
配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列、若しくは配列番号5で表されるアミノ酸配列;又は
これらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含み、SeP結合能を有する、抗体模倣分子。
項5.
(a)配列番号6で表されるアミノ酸配列
(17番目のアミノ酸は、S又はCであり;
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
36番目のアミノ酸は、Y又はCであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F、S又はLであり;
54番目のアミノ酸は、S又はPであり;
68番目のアミノ酸は、D又はGである。)、
(b)配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(但し、
17番目のアミノ酸は、S又はCであり;
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
36番目のアミノ酸は、Y又はCであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F、S又はLであり;
54番目のアミノ酸は、S又はPであり;
68番目のアミノ酸は、D又はGである。)、
(c)配列番号5で表されるアミノ酸配列、又は
(d)配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含み、SeP結合能を有する、抗体模倣分子。
項6.
配列番号5及び配列番号8~12のいずれかで表されるアミノ酸配列、又は
これらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
からなるポリペプチドを含み、SeP結合能を有する、抗体模倣分子。
項7.
配列番号5、8、10又は11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、抗体模倣分子。
項8.
項1~7のいずれか一項に記載の抗体模倣分子を含む、神経膠芽腫治療用の、及び/又は神経膠芽腫予防用の、医薬組成物。
項9.
項1~7のいずれか一項に記載の抗体模倣分子をコードする、核酸分子。
項10.
項9に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
項11.
項9に記載の核酸分子を含む、核酸ライブラリー。
項12.
項11に記載の核酸ライブラリーに由来する、ペプチドディスプレイライブラリー。
項13.
FN3をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、
FN3が少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合する、抗体模倣分子の製造方法であって、
(A1)FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも40000nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを選別する工程、及び
(A2)前記工程(A1)で選別された少なくとも1種のポリペプチドをコードするアミノ酸配列においてさらに少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも2500nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを、前記抗体模倣分子として選別する工程
を含む、又は
(B1)FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーを構成するポリペプチドをコードする核酸上でDNAシャッフリングを実行することによりポリペプチドのディスプレイライブラリーを得る工程、及び
(B2)前記工程(B1)で得られたポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも2500nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを、前記抗体模倣分子として選別する工程
を含む、製造方法。
項14.
項13に記載の製造方法により、得られうる抗体模倣分子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な抗体模倣分子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SePのSec残基を全てCysで置換した変異体SeP
(Cys)の配列を示す図である。
【
図2】ビオチン化SeP
(Cys)ドメイン変異体(Ndom-His
(Cys) 、Cdom
(Cys))のビオチン化を示す図である。
【
図3】Monobody sideライブラリー及びMonobody loopライブラリーのアミノ酸配列及び構造を示す図である。
【
図5-1】ターゲットをNdom-His
(Cys)、Ndom-His
(Cys)C62Sとするバイオパニングの各roundにおける結合ファージの回収率を示す図である。
【
図5-2】ターゲットをCdom
(Cys)とするバイオパニングの各roundにおける結合ファージの回収率を示す図である。
【
図5-3】各結合ファージにおけるターゲット特異的結合割合を示す図である。
【
図6】Monobodyの特異的結合能確認におけるELISAの系の概略図である。
【
図7】ELISAによるmonobodyの特異的結合能確認結果を示す図である。
【
図9】FACS解析による各MonobodyのKd値測定結果を示す図である。
【
図10】酵母表層ディスプレイによるスクリーニングの概略図である。
【
図11】Ndom-His
(Cys)をターゲットとしたスクリーニング結果を示す図である。
【
図12】Cdom
(Cys)をターゲットとしたスクリーニング結果を示す図である。
【
図13】モノクローン化した酵母におけるビオチン化ターゲットタンパク質濃度50 nMでのFACS解析結果を示す図である。
【
図14】FACS解析による各新規MonobodyのKd値測定結果を示す図である。
【
図15】各ドメイン認識Monobodyの結合は、各ドメインに対して特異的であることを示す図である。
【
図16】グリオブラストーマT98GにおけるSePの取込みに対するMonobodyの効果を示す図である。
【
図17】グリオブラストーマT98Gの増殖に対するMonobodyの効果を示す図である。表記は、コントロール細胞の数を1とした相対値でMean±S.D.を示す (n=3) 。
*P<0.05 vs T98G, Dunnett’s test.
【発明を実施するための形態】
【0011】
1. 本発明の抗体模倣分子
本発明の抗体模倣分子は、ヒト由来フィブロネクチンIII型ドメイン(fibronectin type III domain;FN3)をコードするアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
【0012】
本発明において、「変異」とは、例えば、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入等をいう。
【0013】
本発明の抗体模倣分子において、FN3を構成するアミノ酸配列(配列番号1)に対し変異したアミノ酸の数は、後述するSeP結合能を有する限り特に制限されないが、少なくとも1個である。変異したアミノ酸の数の下限値としては、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個等が挙げられる。中でも、変異したアミノ酸の数の下限値としては、19個であることが好ましく、23個であることがより好ましい。
【0014】
本発明の抗体模倣分子において、変異したアミノ酸は、構造表面アミノ酸及び/又は構造内面アミノ酸であり得る。構造表面アミノ酸とは、FN3の立体構造の表面に露出しているアミノ酸をいう。構造内面アミノ酸とは、FN3の立体構造の内側に向いたアミノ酸をいう。
【0015】
本発明の抗体模倣分子は、セレノプロテインP(Selenoprotein P;SeP)を抗原とする。本発明の抗体模倣分子は、FN3が結合しない又はそれほど強く結合しないSePに対して結合する。すなわち、本発明の抗体模倣分子は、SeP結合能を有する。
【0016】
FN3はループ構造及びβシート構造を含む。本発明の抗体模倣分子において、変異したアミノ酸は、FN3のループ領域に含まれていてもよいし、βシート領域に含まれていてもよいし、これら以外の領域に含まれていてもよい。また、変異したアミノ酸が2個以上の場合、これら複数の領域のいずれかのみに含まれていてもよく、2種類以上の領域に含まれていてもよく、また、すべての領域に含まれていてもよい。
【0017】
より詳細には、FN3はβストランドA、B及びE、又はβストランドC、D、F及びGからなる2つのβシート構造、並びにABループ、BCループ、CDループ、DEループ、EFループ、FGループ及びGAループの7つのループ構造を含む。本発明の抗体模倣分子において、変異したアミノ酸は、上述の通り、FN3のループ領域に含まれていてもよいし、βシート領域に含まれていてもよいし、これら以外の領域に含まれていてもよいが、中でもβストランドC、βストランドD、CDループ、及びFGループの少なくとも1つ以上の領域に変異が含まれていることが好ましく、βストランドC、βストランドD、CDループ、及びFGループの全ての領域に変異が含まれていることがより好ましい。
【0018】
かかる変異は、前述のSePへの結合に寄与する部分的な立体構造変化を除き、FN3の高次構造には影響を与えない。
【0019】
かかる変異が導入されることに伴う部分的な立体構造変化により、本発明の抗体模倣分子は、変異が導入される前のFN3が結合しない又はそれほど強く結合しないSePに対して、結合するようになる。
【0020】
本発明の抗体模倣分子のSePに対する結合親和性は、解離定数Kdにより表すことができる。
【0021】
本発明の抗体模倣分子のSePに対する結合親和性の解析方法は、特に制限されず、例えば、蛍光活性化セルソーティング(Fluorescence-Activated Cell Sorting;FACS)解析等によりKd値を算出することができる。
【0022】
本発明の抗体模倣分子は、好ましくは、FN3が少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合し、より好ましくは、FN3が少なくとも2300nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2300nM以下の強さのKdで結合し、さらに好ましくは、FN3が少なくとも2100nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2100nM以下の強さのKdで結合する。
【0023】
本発明の抗体模倣分子は、SePに対し特異的に結合することができる。すなわち、本発明の抗体模倣分子は、SeP特異的結合能を有する。
【0024】
本発明の抗体模倣分子の特異的結合能は、酵素結合免疫吸着測定法(Enzyme-linked immuno-sorbent assay;ELISA)を用いて確認することができる。
【0025】
本発明の抗体模倣分子の抗原であるSePは、例えば、ヒト;サル、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ等の非ヒト動物;細菌;古細菌等に由来する。本発明の抗体模倣分子の抗原であるSePは、ヒト由来のSeP(ヒトSeP)であることが好ましい。
【0026】
SePは機能の違いによりN末端側とC末端側の2つのドメインに分けることができる。本発明の抗体模倣分子は、SePのN末端側ドメイン及び/又はC末端側ドメインに特異的に結合し得る。
【0027】
本発明の抗体模倣分子は、アミノ酸残基数が120以下であることが好ましく、110以下であることがより好ましく、100以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の抗体模倣分子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列、若しくは配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
【0029】
また、本発明の抗体模倣分子は、配列番号3、配列番号4若しくは配列番号5で表されるアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
【0030】
また、本発明の抗体模倣分子は、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
(a)配列番号6で表されるアミノ酸配列
(17番目のアミノ酸は、S又はCであり;
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
36番目のアミノ酸は、Y又はCであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F、S又はLであり;
54番目のアミノ酸は、S又はPであり;
68番目のアミノ酸は、D又はGである。)
(b)配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(但し、
17番目のアミノ酸は、S又はCであり;
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
36番目のアミノ酸は、Y又はCであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F、S又はLであり;
54番目のアミノ酸は、S又はPであり;
68番目のアミノ酸は、D又はGである。)
(c)配列番号5で表されるアミノ酸配列
(d)配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0031】
また、本発明の抗体模倣分子は、以下の(a)’~(d)’のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
(a)’配列番号7で表されるアミノ酸配列
(31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F又はSである。)
(b)’配列番号7で表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(但し、
31番目のアミノ酸は、H又はYであり;
37番目のアミノ酸は、G又はSであり;
46番目のアミノ酸は、C又はYであり;
47番目のアミノ酸は、Q又はRであり;
49番目のアミノ酸は、F又はSである。)
(c)’配列番号5で表されるアミノ酸配列
(d)’配列番号5で表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0032】
また、本発明の抗体模倣分子は、配列番号5及び配列番号8~12のいずれかで表されるアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
【0033】
また、本発明の抗体模倣分子は、配列番号5、8、10、若しくは11で表されるアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列のいずれかと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
【0034】
さらに、本発明の抗体模倣分子は、配列番号5、8、10又は11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む。
【0035】
本願明細書において、「同一性」とは、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一性の程度を意味し、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、デフォルトのパラメーターにより算出できる。
【0036】
本発明の抗体模倣分子は、SePに結合することにより、SePの神経膠芽腫細胞内への取込みを阻害し得る。すなわち、本発明は、SeP細胞内取込み阻害活性を有する抗体模倣分子を包含する。
【0037】
また、本発明の抗体模倣分子は、SePに結合することにより、神経膠芽腫細胞の増殖を抑制し得る。すなわち、本発明は、神経膠芽腫細胞の増殖抑制作用を有する抗体模倣分子を包含する。
【0038】
上記の特徴を有する本発明の抗体模倣分子は、神経膠芽腫(glioblastoma multiforme;GBM)治療用、及び/又は神経膠芽腫予防用に、好ましく用い得る。
【0039】
2. 本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物は、上記の抗体模倣分子を含む、神経膠芽腫治療用の、及び/又は神経膠芽腫予防用の、医薬組成物である。
【0040】
本発明の医薬組成物は、上記抗体模倣分子の他に、任意の薬学的に許容される担体を含むことができる。
【0041】
薬学的に許容される担体は、例えば、充填剤、希釈剤、凝固剤、結合剤、安定剤、着色剤、湿潤材、崩壊剤等の、医薬組成物の調製に用いられる製薬業界における任意の公知のものが挙げられる。
【0042】
本発明の医薬組成物の剤型は、特に制限されず、例えば、注射剤、点滴剤、カプセル剤等の医薬製剤に調製されたものでもよい。当該調製は、常法に従って行うことができる。
【0043】
本発明の医薬組成物を投与する又は摂取させる対象としては、特に制限されず、健常人及び神経膠芽腫患者が例示される。健常人に対しては神経膠芽腫の発生予防のため、神経膠芽腫患者に対しては神経膠芽腫の治療のため、本発明の医薬組成物を投与する又は摂取させることができる。
【0044】
また、本発明の医薬組成物は、ヒトのみならず、健常な非ヒト動物又は神経膠芽腫の症状を呈する非ヒト動物も投与/摂取対象に含まれる。非ヒト動物としては、例えば、サル、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ等が挙げられる。
【0045】
本発明の医薬組成物の投与又は摂取量は、対象、対象の状態等に応じて適宜設定することができる。
【0046】
3. 本発明の核酸分子
本発明の核酸分子は、上述する本発明の抗体模倣分子をコードする核酸分子である。
【0047】
4. 本発明の発現ベクター
本発明の発現ベクターは、上述する本発明の抗体模倣分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターである。より具体的には、本発明の発現ベクターは、上述する本発明の核酸分子を適切なプロモーターの支配下に連結した発現ベクターである。
【0048】
本発明の発現ベクターとしては、特に制限されないが、例えば、大腸菌発現系であれば
、pBlueScript系ベクター(Agilent Technologies製)、pUC系ベクター(TaKaRa製)、pET系ベクター(Novagen製)、pCold系ベクター(TaKaRa製)等を用いることができる。酵母発現系であれば、pYD1系ベクター(Invitrogen製)、pPICZ系ベクター(Invitrogen製)等を用いることができる。
【0049】
5. 本発明の核酸ライブラリー
本発明の核酸ライブラリーは、上述する本発明の抗体模倣分子をコードする核酸分子を含む核酸ライブラリーである。
【0050】
本発明の核酸ライブラリーは、後述する本発明のペプチドディスプレイライブラリーを提供する。
【0051】
6. 本発明のペプチドディスプレイライブラリー
本発明のペプチドディスプレイライブラリーは、上述する本発明の抗体模倣分子をコードする核酸分子を含む核酸ライブラリーに由来するペプチドディスプレイライブラリーである。具体的には、本発明のペプチドディスプレイライブラリーは、FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーである。本発明のディスプレイライブラリーを作成するための変異導入方法としては、例えばKunkel法、QuikChange法、Inverse PCR法、Overlap-extension法、及び人工遺伝子合成等を用いることができる。
【0052】
本発明のペプチドディスプレイライブラリーは、本発明の抗体模倣分子の選別に用いることができる。
【0053】
本発明のペプチドディスプレイライブラリーの用途は、特に制限されず、例えば、特定の標的分子に特異的に結合するポリペプチドのアミノ酸配列を特定することを目的とするキット等に用いることができる。
【0054】
7. 本発明の抗体模倣分子の製造方法
本発明の抗体模倣分子は、ファージライブラリーを用いたバイオパニングによって製造できる。
【0055】
本発明の抗体模倣分子の製造方法は、FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、FN3が少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合しないSePに対して少なくとも2500nM以下の強さのKdで結合する、抗体模倣分子の製造方法であって、
(A1)FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも40000nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを選別する工程、及び
(A2)前記工程(A1)で選別された少なくとも1種のポリペプチドをコードするアミノ酸配列においてさらに少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも2500nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを、前記抗体模倣分子として選別する工程、又は
(B1)FN3をコードするアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が変異したアミノ酸配列からなるポリペプチドのディスプレイライブラリーを構成するポリペプチドをコードする核酸上でDNAシャッフリングを実行することによりポリペプチドのディスプレイライブラリーを得る工程、及び
(B2)前記工程(B1)で得られたディスプレイライブラリーにSePを接触させ、少なくとも2500nMのKdの強さでSePに結合する少なくとも1種のポリペプチドを、前記抗体模倣分子として選別する工程
を含む、製造方法。
【0056】
本発明の製造方法により得られる抗体模倣分子は、「1. 本発明の抗体模倣分子」の項目で説明した特徴を有する。
【0057】
工程(A1)及び(B1)において、FN3をコードするアミノ酸配列において変異したアミノ酸の数は、特に制限されないが、少なくとも1個である。変異したアミノ酸の数の下限値としては、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個等が挙げられる。中でも、変異したアミノ酸の数の下限値としては、5個であることが好ましい。
【0058】
工程(A2)において、前記工程(A1)で選別された少なくとも1種のポリペプチドをコードするアミノ酸配列においてさらに少なくとも1個の変異を導入する方法は、特に制限されないが、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法等が挙げられる。ランダム変異導入法としては、例えば、error-prone PCR法、DNAシャッフリング法等が挙げられる。中でもerror-prone PCR法が好ましい。
【0059】
工程(A2)において、前記工程(A1)で選別された少なくとも1種のポリペプチドをコードするアミノ酸配列において導入される変異の数は、特に制限されないが、1~3個であることが好ましい。
【0060】
工程(A2)において、選別される抗体模倣分子は、SePのN末端側ドメイン及び/又はC末端側ドメイン、好ましくはSePのN末端側ドメインに特異的に結合し得る。
【0061】
本願明細書において、核酸は、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid;DNA)又はリボ核酸(ribonucleic acid;RNA)を意味する。DNAとしては、特に制限されず、例えば、2本鎖DNA、1本鎖DNA、プラスミドDNA、ゲノムDNA、cDNA等が挙げられる。また、RNAとしては、特に制限されず、mRNA、rRNA、tRNA、miRNA、siRNA等が挙げられる。工程(B1)の核酸は、好ましくはプラスミドである。
【0062】
工程(B2)において、選別される抗体模倣分子は、SePのN末端側ドメイン及び/又はC末端側ドメイン、好ましくはSePのC末端側ドメインに特異的に結合し得る。
【0063】
工程(A1)及び(A2)、並びに(B1)及び(B2)により、結合親和性がより向上したMonobodyを得ることができる。
【0064】
本明細書において、本開示についての各態様を説明するにあたり、例えば「1つの実施形態において」等の説明を行う場合があるが、かかる説明は、各態様の特徴を2以上併せ持つことを妨げるものではなく、本開示は、これらの説明に係る各態様の特徴を1又は2以上併せ持つものを全て包含する。
【0065】
本明細書において、「含む」とは、「のみから実質的になる」と、「のみからなる」をも包含する(The term “comprising”includes “consisting substantially of”and “consisting of.”)。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0066】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0067】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
実施例1:SeP
(Cys)
及びSeP
(Cys)
のドメイン変異体の調製、並びにビオチン化結合標的タンパク質の調製
(1-1)SeP
(Cys)
及びSeP
(Cys)
のドメイン変異体の調製
ヒト血漿からのセレノプロテインP(SeP)の調製は高コストなので、大腸菌での異種発現系により、SePを組換えタンパク質として発現させることを試みた。大腸菌でのセレノシステイン(Sec)導入は技術的には可能であるが、収量が僅かであるため、構造物性解析に用いるには適していない。そこで、SePの全てのSecをシステイン(Cys)に置換した変異体SeP
(Cys)を構築し、本研究に使用した(
図1)。SeP
(Cys)の可溶性発現量の少なさを克服するため、可溶化タグNusA を用いることで可溶性発現を促進させた。また、SeP
(Cys)が正しくフォールディングされるように、細胞質がより酸化的な状態となっているE. coli Origami 2(DE3)を最適な発現宿主として選択した。精製方法の確立にも至り、単分散な単量体タンパク質であることが確認できた。
更に、SePはドメインごとに機能が異なるため、SeP
(Cys)のドメイン変異体(Ndom
(Cys):D23-T200, Ndom-His
(Cys):D23-P258, Cdom-His
(Cys):E199-N381, Cdom
(Cys):G256-N381, SeP Full
(Cys):D23-N381)も調製した。SeP
(Cys)の各フラグメントについても精製方法の確立にも至り、単分散な単量体タンパク質であることが確認できた。
このようにして調製したSeP
(Cys)及びSeP
(Cys)のドメイン変異体については、構造物性的にSePとしてみなせることが示唆されている。
【0069】
(1-2)ビオチン化結合標的タンパク質の調製
(1-2-1)菌体培養、ビオチン化SeP
(Cys)
ドメイン変異体(Ndom-His
(Cys)
、Cdom
(Cys)
)発現
作製したSeP(Cys)のドメイン変異体のプラスミドとpACYC184(birA)を用いて、E. coli Origami 2(DE3)を形質転換し、LBプレート(100 μg/mLアンピシリン、10 μg/mLクロラムフェニコール)にまいた。LBプレートよりシングルコロニーを拾い、100 μg/mLアンピシリン、10 μg/mLクロラムフェニコールを含む2×YT培地100 mLに植菌し、37℃、120 rpmで16時間前培養を行った。100 μg/mLアンピシリン、10 μg/mLクロラムフェニコールを含む2×YT培地4 Lに前培養で増殖した菌体を80 mL(本培養培地の2%分)入れて培養し、OD600=0.6の際に終濃度が0.2 mMになるようにIPTGとビオチンを添加し18℃、125 rpmで20時間培養してビオチン化SeP(Cys)ドメイン変異体の発現を行った。
【0070】
(1-2-2)集菌
高速冷却遠心機(TOMY製)を用いて4℃、8000 Gで培養液の遠心分離を行い、菌体画分を回収した。回収した沈殿画分を結合バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.5、500 mM NaCl、20 mMイミダゾール)を加え懸濁し、50 mLファルコンチューブに移し4℃、7000 Gで10分間遠心分離後、菌体画分を回収した。この菌体画分は-80℃で保管した。
【0071】
(1-2-3)菌体破砕
集菌した菌体2 L分に対して全量が40 mLになるように結合バッファーを加え懸濁し、終濃度が1 mMになるようにセリンプロテアーゼ阻害剤であるフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を添加した。Duty Cycle:50%、Output:5に設定し、超音波ホモジナイザーであるSONIFIER(登録商標)250(BRANSON製)を用いて1分間超音波処理を行い、1分間氷冷する工程を8セット繰り返した。高速冷却遠心機を用いて4℃、18000 Gで35分間遠心分離を行い、可溶性画分と不溶性画分に分離した。
【0072】
<ビオチン化Ndom-His(Cys)>
ビオチン化SeP(Cys)のドメイン変異体であるNdom-His(Cys)の精製は、以下(1-2-4)~(1-2-7)に記載の手順で行った。
【0073】
(1-2-4)His Trap HP His-tagタンパク質精製用カラムによる精製
(1-2-3)で得られた可溶性画分を0.45 μmのフィルター孔にかけた。一体型低圧クロマトグラフィーシステムであるAKTA(登録商標)start(Cytiva製)を用いて結合バッファーで平衡化した5 mL His-trap HP カラム(Cytiva製)に流速5.0 mL/minで可溶性画分をアプライした。流速5.0 mL/minで結合バッファーによってカラムを洗浄後、流速5.0 mL/minで溶出バッファーを用いてグラジエント溶離を行い、溶出したフラクションを8 mLずつ回収した。UVピークが観測された溶出フラクションに終濃度が0.1 mM DTT、1 mM PMSF、1 mM EDTAになるようにそれぞれを添加した。UVピークが観測された溶出フラクションをSDS-PAGEにかけ、目的タンパク質が回収できているか確認を行った。
【0074】
(1-2-5)TEVプロテアーゼ処理、透析
目的タンパク質を回収したフラクションにおけるタンパク質濃度を測定した。タンパク質濃度の測定は、微量分光光度計であるNanoDrop(登録商標)ND-1000(Thermo Scientific製)を用いて280 nmにおける吸光度を測定し、Expasy ProtParam tool(https://web.expasy.org/protparam/)より算出されたモル吸光係数を用いて求めた。用いたTEVプロテアーゼは、His-tagを持たず、Nus-tagと目的タンパク質の間にあるTEV認識配列(ENLYFQG)を認識しQとGの間を特異的に切断する。このTEVプロテアーゼを目的タンパク質:TEVプロテアーゼ=10:1(mg比)になるように溶出フラクションに加え、Nus-tagを目的タンパク質から除去した。この切断反応は透析の際に行った。目的タンパク質とTEVプロテアーゼを含む溶液を8K MWCOの透析チューブへ移し、DTT有り透析バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.5、500 mM NaCl、0.1 mM DTT、1 mM PMSF、1 mM EDTA)を用いてバッファー交換を2日間行った。次に、DTT無し透析バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.5、500 mM NaCl)を用いてバッファー交換を4時間行った。
【0075】
(1-2-6)TEV認識配列切断後のHis Trap HP His-tagタンパク質精製用カラムによる精製
バッファー交換した目的タンパク質溶液に終濃度が20 mMになるようにイミダゾールを添加し、0.45 μmのフィルター孔にかけた。AKTA(登録商標)start(Cytiva製)を用いて結合バッファーで平衡化した5 mL His-trap HP カラム(Cytiva製)に流速5.0 mL/minで目的タンパク質溶液をアプライした。流速5.0 mL/minで結合バッファーによってカラムを洗浄後、流速5.0 mL/minで溶出バッファーを用いてグラジエント溶離を行い、溶出したフラクションを8 mLずつ回収した。UVピークが観測された溶出フラクションに終濃度が0.1 mMになるようにDTTを添加した。UVピークが観測された溶出フラクションをSDS-PAGEにかけ、目的タンパク質が回収できているか確認を行った。
【0076】
(1-2-7)ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製
得られた目的タンパク質溶液を全量 5 mLになるまで遠心濃縮器であるVivaspin(登録商標)Turbo 15 10K MWCO(ザルトリウス・ジャパン製)を用いて濃縮した。タンパク質精製用低圧クロマトグラフィーシステムであるAKTA(登録商標)prime plus(Cytiva製)を用いてN-ゲルろ過バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.5、500 mM NaCl、0.1 mM DTT、1 mM EDTA、10% グリセリン)で平衡化したゲルろ過カラム HiLoad 16/60 Superdex(登録商標)200 prep grade(Cytiva製)に濃縮したタンパク質溶液をロードした。同様のバッファーを用いて流速1.0 mL/minで溶出し、溶出したフラクションを2 mLずつ回収した。UVピークが観測された溶出フラクションをSDS-PAGEにかけ、目的タンパク質が回収できているか確認を行った。
【0077】
<ビオチン化Cdom(Cys)>
ビオチン化SeP(Cys)のドメイン変異体であるCdom(Cys)の精製は、以下(1-2-8)~(1-2-12)に記載の手順で行った。
【0078】
(1-2-8)His Trap HP His-tagタンパク質精製用カラムによる精製
(1-2-3)で得られた可溶性画分を0.45 μmのフィルター孔にかけた。AKTA(登録商標)start(Cytiva製)を用いて結合バッファーで平衡化した5 mL His-trap HP カラム(Cytiva製)に流速5.0 mL/minで可溶性画分をアプライした。流速5.0 mL/minで結合バッファーによってカラムを洗浄後、流速5.0 mL/minで溶出バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.5、500 mM NaCl、500 mMイミダゾール)を用いてグラジエント溶離を行い、溶出したフラクションを8 mLずつ回収した。UVピークが観測された溶出フラクションに終濃度が 1 mM PMSF、1 mM EDTAになるようにそれぞれを添加した。UVピークが観測された溶出フラクションをSDS-PAGEにかけ、目的タンパク質が回収できているか確認を行った。
【0079】
(1-2-9)TEVプロテアーゼ処理、透析
目的タンパク質を回収したフラクションにおけるタンパク質濃度を測定した。タンパク質濃度の測定は上記1-2-5と同様の方法により行った。用いたTEVプロテアーゼは、His-tagを持ち、Nus-tagと目的タンパク質の間にあるTEV認識配列(ENLYFQG)を認識しQとGの間を特異的に切断する。このTEVプロテアーゼを目的タンパク質:TEVプロテアーゼ=10:1になるように溶出フラクションに加え、His-tagとNus-tagを目的タンパク質から除去した。この切断反応は透析の際に行った。透析は上記1-2-5と同様の方法により行った。
【0080】
(1-2-10)TEV認識配列切断後のHis Trap HP His-tagタンパク質精製用カラムによる精製
バッファー交換した目的タンパク質溶液に終濃度が20 mMになるようにイミダゾールを添加し、0.45 μmのフィルター孔にかけた。AKTA(登録商標)start(Cytiva製)を用いて結合バッファーで平衡化した5 mL His-trap HP カラム(Cytiva製)に流速5.0 mL/minで目的タンパク質溶液をアプライした。流速5.0 mL/minで結合バッファーによってカラムを洗浄後、流速5.0 mL/minで溶出バッファーを用いてグラジエント溶離を行った。UVピークが観測されたフロースルーフラクションを回収した。UVピークが観測されたフロースルーフラクションをSDS-PAGEにかけ、目的タンパク質が回収できているか確認を行った。
【0081】
(1-2-11)ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製
得られた目的タンパク質溶液を全量 5 mLになるまでVivaspin(登録商標)Turbo 15 10K MWCO(ザルトリウス・ジャパン製)を用いて濃縮した。AKTA(登録商標)prime plus(Cytiva製)を用いてC-ゲルろ過バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.5、500 mM NaCl、1 mM EDTA、10% グリセリン)で平衡化したゲルろ過カラム HiLoad 16/60 Superdex(登録商標)200 prep grade(Cytiva製)に濃縮した目的タンパク質溶液をロードした。同様のバッファーを用いて流速1.0 mL/minで溶出し、溶出したフラクションを2 mLずつ回収した。UVピークが観測された溶出フラクションをSDS-PAGEにかけ、目的タンパク質が回収できているか確認を行った。
【0082】
(1-2-12)ビオチン化SeP
(Cys)
ドメイン変異体(Ndom-His
(Cys)
、Cdom
(Cys)
)のビオチン化チェック
非共有結合でありながら非常に強い結合力を有するビオチンとアビジンの結合を利用し、精製ビオチン化SeP
(Cys)が適切にビオチン化しているのかをストレプトアビジン(SAV)ビーズ(Promega製)を用いて確認した。SAVビーズをゲルろ過バッファーで洗浄し、0.25 mg/mLのビオチン化SeP
(Cys)ドメイン変異体(Ndom-His
(Cys)、Cdom
(Cys))20 μLと混合した。この混合液を4℃で30分間転倒撹拌した。転倒撹拌後、磁気スタンドを用いてSAVビーズと上清を分離させ、上清を回収した。SAVビーズをゲルろ過バッファーで4回洗浄し、その際の上清も回収した。回収した上清と洗浄したSAVビーズに、8 M 尿素10 μL、5×SDS Sample Buffer 6 μL、1 M DTT 4 μLを加え、100℃で5分間熱処理した。このSDS-PAGEサンプルをSDS-PAGEにかけ、バンドの位置からビオチン化されているかの確認を行った(
図2)。
【0083】
実施例2:ファージディスプレイ法によるバイオパニング(Monobodyスクリーニング)
ファージディスプレイ法は、ファージの外殻タンパク質と外来のタンパク分子を融合した形でファージ粒子表面に提示させる技術である。この技術を用いて、ファージ表面に抗体模倣分子であるMonobodyを発現させ、様々なMonobodyを提示したファージライブラリー(2.2×10
10個/mL)から、ビオチン化SeP
(Cys)(Ndom-His
(Cys)及びCdom
(Cys))に対して構造エピトープを特異的に認識するMonobodyを提示したファージをスクリーニングしてきた(バイオパニング)。各roundにおけるビオチン化SeP
(Cys)ドメイン変異体の濃度は、1st, 2nd round:100 nM、3rd, 4th round:50 nMとした。また、増幅に用いたファージは、1st, 2nd round:ハイパーファージ、3rd, 4th round:M13KO7とした。Cdom
(Cys)をターゲットとしたスクリーニングの際に用いるバッファーにはDTTを加えなかった。今回用いたMonobody sideライブラリーのアミノ酸配列及び構造を
図3に示した。また、バイオパニングの概略図を
図4に示した。
【0084】
(2-1)ファージディスプレイ法によるバイオパニング方法
(2-1-1)バイオパニング 1st round
1st roundは1 mLのファージライブラリー溶液を用いるので手動でスクリーニングを行った。50 mLファルコンチューブに、ゲルろ過バッファー18 mL、PEG/NaCl溶液4 mL、Monobody sideライブラリー(2.2×1010個/mL)2 mLを混合し、4℃で30分間インキュベートした。高速冷却遠心機を用いて4℃、8000 Gで20分間遠心分離後、上清を捨てた。ファージペレットをゲルろ過バッファー900 μLで再懸濁し、1.5 mLエッペンチューブに移した。微量高速冷却遠心機(TOMY製)を用いて懸濁液を4℃、13,000 rpmで5分間遠心分離後、上清を捨て、5% BSAを100 μL加えてBSAをファージライブラリー溶液に結合させた。
10 μMのビオチン化SeP(Cys)10 μLと洗浄したSAVビーズ250 μLを混合し、4℃で30分間転倒撹拌した。転倒撹拌後、磁気スタンドを用いてSAVビーズと上清を分離させ、上清を捨てた。SAVビーズに5 μMビオチン溶液を100 μL加え、4℃で5分間転倒撹拌した。SAVビーズをTBST(ゲルろ過バッファー+0.05% Tween(登録商標)20)で洗浄後、ゲルろ過バッファー 100 μLで再懸濁し、磁気スタンドを用いてSAVビーズと上清を分離させ、上清を捨てた。SAVビーズとファージライブラリー溶液1 mLを混合し、4℃で1時間転倒撹拌してビオチン化SeP(Cys)とMonobodyを提示したファージを結合させた。
転倒撹拌後、磁気スタンドを用いてSAVビーズと上清を分離させ、上清を捨てた。BSSTを用いてSAVビーズを4回洗浄後、ゲルろ過バッファー500 μLで懸濁した。培養していたE. coli XL1-Blue/pMCSG21培養液3 mLにSAVビーズ懸濁液300 μLを加え、25℃で30分間インキュベートし、E. coli XL1-Blueをファージで感染させた。
感染液にハイパーファージを10 μL加え、25℃で15分間インキュベートし、ファージを増幅させた。ここに100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン、終濃度0.2 mM ITPGを含む2×YT培地3 mLを加え、37℃で一晩培養させた。
【0085】
(2-1-2)バイオパニング 2nd round
高速冷却遠心機を用いて1st roundで培養したファージライブラリー用の培養液を4℃、8000 Gで10分間遠心分離後、上清をPEG/NaCl溶液6 mLと混合し、4℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、高速冷却遠心機を用いて4℃、8000 Gで20分間遠心分離後、上清を捨てた。ファージペレットをゲルろ過バッファー500 μLで再懸濁し、1.5 mLエッペンチューブに移した。微量高速冷却遠心機を用いて懸濁液を4℃、13,000 rpmで2分間遠心分離後、上清(ファージライブラリー溶液)を回収した。洗浄したSAVビーズ1 mL分にファージライブラリー溶液を24 μL加え、4℃で30分間転倒撹拌した。磁気スタンドを用いてファージライブラリー溶液を回収し、SAVビーズに結合しているファージを排除した。
2nd round以降は、KingFisher機器(Thermo Fischer Scientific製)を用いて溶液キャプチャー方式によって、スクリーニングを行った。KingFisherプレートのレーンA~Hには、表1に示したものを入れた。レーンAをセットし、25℃でKingFisherプレートを30分間インキュベートした。KingFisher機器によるスクリーニング終了後、レーンHの溶出液に1 M Tris-HCl pH 8.0を35 μL加えて溶出液を中和させた。培養していたE. coli XL1-Blue/pMCSG21培養液600 μLにレーンHの溶出液60 μLを加え、25℃で30分間インキュベートし、E. coli XL1-Blueをファージで感染させた。
【表1】
感染液にハイパーファージを1.5 μL加え、25℃で20分間インキュベートし、ファージを増幅させた。100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン、終濃度0.2 mM ITPGを含む2×YT培地3 mLにこの感染液を加え、37℃で一晩培養させた。
【0086】
(2-1-3)バイオパニング 3rd round
微量高速冷却遠心機を用いて2nd roundで培養したファージライブラリー用の培養液1.2 mLを4℃、13,000 rpmで10分間遠心分離後、上清1 mLをPEG/NaCl溶液240 μLと混合し、4℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、微量高速冷却遠心機を用いて4℃、13,000 rpmで15分間遠心分離後、上清を捨てた。ファージペレットをゲルろ過バッファー50 μLで再懸濁し、1.5 mLエッペンチューブに移した。微量高速冷却遠心機を用いて懸濁液を4℃、13,000 rpmで2分間遠心分離後、上清(ファージライブラリー溶液)を回収した。洗浄したSAVビーズ100 μL分にファージライブラリー溶液を12 μL加え、4℃で30分間転倒撹拌した。磁気スタンドを用いてファージライブラリー溶液を回収し、SAVビーズに結合しているファージを排除した。
3rd roundのKingFisherプレートのレーンA~Hには、表2に示したものを入れた。レーンAをセットし、25℃でKingFisherプレートを30分間インキュベートした。KingFisher機器によるスクリーニング終了後、レーンHの溶出液に1 M Tris-HCl pH 8.0を35 μL加えて溶出液を中和させた。培養していたE. coli XL1-Blue/pMCSG21培養液300 μLにレーンHの溶出液30 μLを加え、25℃で20分間インキュベートし、E. coli XL1-Blueをファージで感染させた。
【表2】
感染液にM13KO7を3 μL加え、25℃で20分間インキュベートし、ファージを増幅させた。100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン、終濃度0.2 mM ITPGを含む2×YT培地3 mLにこの感染液を加え、37℃で一晩培養させた。
【0087】
(2-1-4)バイオパニング 4th round
微量高速冷却遠心機を用いて3rd roundで培養したファージライブラリー用の培養液1 mLを4℃、13,000 rpmで10分間遠心分離後、上清(ファージライブラリー溶液)800 μLを回収した。洗浄したSAVビーズ100 μL分にファージライブラリー溶液を70 μL加え、4℃で30分間転倒撹拌した。磁気スタンドを用いてファージライブラリー溶液を回収し、SAVビーズに結合しているファージを排除した。
4th roundのKingFisherプレートのレーンA~Hには、表3に示したものを入れた。4th roundのレーンAでは、ビオチン化SeP
(Cys)有り(+)と無し(-)とでファージ数を比較し、ターゲット特異的結合割合を求めた。レーンAをセットし、25℃でKingFisherプレートを15分間インキュベートした。KingFisher機器によるスクリーニング終了後、レーンHの溶出液に1 M Tris-HCl pH 8.0を35 μL加えて溶出液を中和させた。培養していたE. coli XL1-Blue/pMCSG21培養液100 μLにレーンHの溶出液10 μLを加え、25℃で30分間インキュベートし、E. coli XL1-Blueをファージで感染させた。
100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシンを含む2×YT培地3 mLにこの感染液を加え、37℃で一晩培養させた。この培養液からプラスミド抽出を行い、4th round後Monobodyライブラリーのプラスミドを獲得した。4th round後Monobodyライブラリーのプラスミドを用いてE. coli XL1-Blue/pMCSG21を形質転換し、LBプレート(100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン、10 μg/mLテトラサイクリン)にまいてモノクローン化させた。LBプレートよりシングルコロニーをそれぞれ拾い、100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン、10 μg/mLテトラサイクリンを含む2×YT培地3 mLに植菌し、37℃、120 rpmで16時間培養した。各培養液からプラスミド抽出を行い、各Monobodyのアミノ酸配列確認をeurofins genomics株式会社のシークエンス解析で行った。
【表3】
【0088】
(2-1-5)タイター測定
pMCSG21を用いてE. coli XL1-Blueを形質転換し、LBプレート(50 μg/mLスペクチノマイシン、10 μg/mLテトラサイクリン)にまいた。シングルコロニーを拾い、50 μg/mLスペクチノマイシン、10 μg/mLテトラサイクリンを含むLB培地3 mLにそれぞれ植菌し、37℃、120 rpmで16時間前培養した。50 μg/mLスペクチノマイシンを含む2×YT培地3 mLに前培養液3 μLを入れ、OD600=0.5になるまで37℃、160 rpmで培養した。2nd round~4th roundにおいて、ゲルろ過バッファーで102倍と104倍に希釈したファージライブラリー溶液10 μLをこの培養液100 μLに加え、25℃で30分間インキュベートし、E. coli XL1-Blueをファージで感染させた。感染終了後、感染液を10-1倍から10-5倍までゲルろ過バッファーで希釈した。希釈の際はボルテックスで撹拌しながら行った。希釈液を5 μLずつLBプレート(100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン)にまき、37℃で一晩インキュベートした。翌日、コロニーの数からファージライブラリー溶液のファージ数を算出した。
【0089】
(2-2)ファージディスプレイ法によるバイオパニング結果
Ndom-His
(Cys)、Ndom-His
(Cys)C62S (Ndom-His
(Cys)に対して点変異を行ったサンプル) 及びCdom
(Cys)をターゲットとし、バイオパニングによって得たターゲット特異的に結合するMonobodyを提示したファージ数をタイター測定から算出した結果を表3-1及び表3-2に示した。また、各roundにおける結合ファージの回収率(結合ファージ数/全ファージ数)を
図5-1及び
図5-2に示した。
【表3-1】
【表3-2】
図5-1及び
図5-2より、ターゲットに結合するMonobodyを提示したファージがroundを重ねるごとに濃縮されていることが確認できた。
図5-1において、2nd roundから3rd roundへバイオパニングした際に回収率が一時的に低下してしまったのは、ターゲット濃度をより厳しい条件にしたことやファージを増幅させる際に用いたM13KO7のMonobody提示効率が悪いことなどが考えられる。しかし、3rd roundから4th roundへバイオパニングした際に回収率が増加しているので、ターゲットに結合するMonobodyを提示したファージをより濃縮することができたと考えられる。ファージディスプレイ法によるバイオパニングを4th roundまで行って回収してきた結合ファージについて、ターゲットタンパク質有り(+)と無し(-)とで結合ファージ数を比較し、ターゲット特異的結合割合を確認した結果を表3-3と
図5-3に示した。
【表3-3】
図5-3より、大部分がターゲットに対して特異的に結合するMonobodyを提示している結合ファージであることが確認でき、中でもNdom-His
(Cys)C62Sに対する特異的結合割合は非常に高かった。
【0090】
(2-3)ELISAによるMonobodyの特異的結合能確認方法
図6に示すELISAの系を用いて、Monobodyの特異的結合能確認を行った。E. coli XL1-Blueを、pMCSG21とバイオパニングを経てモノクローン化したMonobodyのファージミドを用いて形質転換し、LBプレート培地(100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシン、10 μg/mLテトラサイクリン)にまいた。プレートからシングルコロニーを拾い、100 μg/mLアンピシリン、50 μg/mLスペクチノマイシンを含む2×YT培地3 mLに植菌し、37℃、140 rpmで2時間培養し、菌体の増殖を目視で確認した。M13KO7(7.5×10
11個)を1.5 μL加え、25℃で30 min静置した。終濃度が0.2 mMとなるようにIPTGを加え、37℃、140 rpmで一晩培養を行った。Nunc(登録商標)MaxiSorp(登録商標)Plate(Thermo Fischer Scientific製)を用いて、1ウェルあたり4 μg/mLのNeutrAvidin(NAV)溶液50 μLを各ウェルに入れ、4℃で一晩、静置で固定した。
微量高速冷却遠心機を用いて培養液1 mLを、4℃、13,000 rpmで30分間×2回遠心し、上清(ファージ溶液)を回収した。NAV溶液を捨て、ゲルろ過バッファー200 μLで各ウェルを1回洗浄した。0.5% BSA溶液を各ウェルに150 μL入れ、25℃、115 rpmで1時間撹拌しながらブロッキングを行った。0.5% BSA溶液を捨て、ゲルろ過バッファー200 μLで各ウェルを1回洗浄した。各ウェルに200 nM ビオチン化SeP
(Cys)溶液を50 μL入れ、25℃、115 rpmで30分間撹拌して固定化した。ビオチン化SeP
(Cys)溶液を捨て、ゲルろ過バッファー200 μLで各ウェルを2回洗浄した。0.5% BSA溶液を用いてファージ溶液を5
-1倍に希釈し、各ウェルに希釈したファージ溶液を50 μLずつ入れ、25℃、115 rpmで40分間撹拌して、固定化したビオチン化SeP
(Cys)にファージが提示しているMonobodyを結合させた。ファージ溶液を捨て、TBST 200 μLで各ウェルを5回洗浄した。TBST/BSA(0.1% BSA、0.1% Tween(登録商標)20)で10000倍希釈したHRP Anti-M13抗体溶液(0.1 μg/mL)を各ウェルに50 μLずつ入れ、25℃、115 rpmで30分間撹拌して、Monobodyを提示しているファージに結合させた。HRP Anti-M13抗体溶液を捨て、TBST 200 μLで各ウェルを4回洗浄した後、ゲルろ過バッファー200 μLで各ウェルを1回洗浄した。1-Step Ultra TMB ELISA Substrate Solution(Thermo Fischer Scientific製)を各ウェルに50 μLずつ加え、2~10 minで溶液が青く発光することを確認した後、2.0 M 硫酸を各ウェルに50 μLずつ加え、溶液が黄色く発光することで反応の停止を確認した。
iMarkマイクロプレートリーダー(BIO-RAD製)を用いて、波長450 nmにおける吸光度を測定した。
【0091】
(2-4)ELISAによるMonobodyの特異的結合能確認結果
ビオチン化ターゲットタンパク質(Ndom-His
(Cys)、Ndom-His
(Cys)C62S、Cdom
(Cys)、MBP)に対して、バイオパニング後のファージが提示しているMonobodyが特異的に結合するのかを確認した結果を
図7に示した。
図7より、各Monobodyがそれぞれのターゲットタンパク質に対して特異的に結合していることが確認できた。Ndom-His
(Cys)とNdom-His
(Cys)C62Sはアミノ酸1残基のみの違いであるので、各Monobodyはどちらのターゲットタンパク質にも結合することができたと考えられる。
【0092】
(2-5)sticky-end PCR法によるベクターの移し替え
ビオチン化SeP
(Cys)に対する結合能をELISAによって確認したMonobodyについて、2種類のオリゴDNAペアを用い、表4-1及び表4-2に示したPCR条件で遺伝子を増幅した。2種類のオリゴDNAペアを表5に示した。
【表4-1】
【表4-2】
【表5】
増幅したDNA断片を混合し、ゲル抽出を行った。表6に示した条件でPCR産物をアニーリングし、4種類のアニーリング生成物を作製した。表7に示した組成を用いて、pHFT2ベクターの制限酵素処理を37℃で3時間行った。表8に示した組成を用いて、作製した4種類のアニーリング生成物と制限酵素処理したpHFT2ベクターを25℃で2時間ライゲーションを行った。
【表6】
【表7】
【表8】
このように、増幅したDNA断片をsticky-end PCR法によってpHFT2ベクターのBamHI/XhoIサイトに挿入した。ライゲーション液5 μLを用いて50 μLのE. coli DH5αを形質転換し、LBプレート(50 μg/mlカナマイシン)にまいた。LBプレートよりシングルコロニーを拾い、50 μg/mLカナマイシンを含む2×YT培地3 mLに植菌し、37℃、120 rpmで16時間培養した。培養液からプラスミド抽出を行い、Monobodyのベクター移し替えの確認をeurofins genomics株式会社のシークエンス解析で行った。
【0093】
(2-6)ファージディスプレイ法によるバイオパニングから得られたMonobodyのアミノ酸配列結果
各Monobodyがターゲット特異的に結合できていたので、sticky-end PCR法によってpHFT2系ベクターに移し替えることのできたMonobodyのアミノ酸配列を確認した結果を表9に示した。
【表9】
【0094】
実施例3:Ndom-His
(Cys)
認識Monobodyスクリーニング
(3-1)酵母の形質転換及び培養
ビオチン化SeP
(Cys)に対して構造特異的に結合するMonobodyのDNAを酵母に移し替えることによって、酵母表層にMonobodyを提示させた(酵母表層ディスプレイ)。Monobodyのプラスミドと表10に示したオリゴDNAを用いて、表4-1及び表4-2に示したPCR条件で酵母用のMonobodyインサートを増幅した。
【表10】
表11に示した組成を用いて、酵母用ベクターの制限酵素処理を37℃で3時間行った。
【表11】
作製した酵母用のMonobodyインサートとベクターは、SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega製)を用いてDNAの精製を行った後、NanoDrop(登録商標)を用いて各濃度を測定した。酵母の培養に用いる培地を表12に示した。
【表12】
酵母株EBY100(ATCC)をYC Glc ura-media 20 mLに植菌し、30℃で一晩培養させた。高速冷却遠心機を用いて4℃、3000 Gで培養液を3分間遠心分離後、上清を捨て、YPD 2 mLで懸濁した。OD600=0.25になるように懸濁液をYPD 120 mLに加え、30℃、150 rpmでOD600=0.8~1.0になるまで酵母を培養した。培養液を3本の50 mLファルコンチューブに移した。高速冷却遠心機を用いて4℃、3000 Gで培養液を5分間遠心分離後、上清を捨て、滅菌MilliQ水 25 mLで洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄した酵母を滅菌MilliQ水500 μLで懸濁し、1.5 mLエッペンチューブに移した。微量高速冷却遠心機を用いて懸濁液を4℃、5,000 rpmで10秒間遠心分離後、上清を捨て、滅菌MilliQ水80 μLで懸濁した。酢酸リチウム法を用いて、作製した酵母用のMonobodyインサートとベクターを酵母に取り込ませ、酵母を形質転換し、42℃で35分間インキュベートした。酢酸リチウム法の組成は表13に示した。
【表13】
インキュベート後、微量高速冷却遠心機を用いて懸濁液を4℃、10,000 rpmで10秒間遠心分離後、上清を捨て、滅菌MilliQ水200 μLで懸濁した。懸濁液をSD+CAA培地に加え、30℃、170 rpmで2日間培養した。高速冷却遠心機を用いて培養液を4℃、3000 Gで3分間遠心分離後、上清を捨てた。滅菌MilliQ水40 mLで懸濁し、高速冷却遠心機を用いて懸濁液を4℃、3000 Gで3分間遠心分離後、上清を捨てた。洗浄した酵母を滅菌MilliQ水3 mLで懸濁し、OD600=0.5になるように懸濁液をSG+CAA培地1 mLに加え、30℃、150 rpmで一晩培養して酵母表層にMonobodyを提示させた。
【0095】
(3-2)FACS(Fluorescence-Activated Cell Sorting)解析によるMonobodyの親和性評価
酵母表層にMonobodyを提示させた酵母の培養液1 mLをエッペンチューブに移し、微量高速冷却遠心機を用いて4℃、3,000 Gで5分間遠心分離後、上清を捨て、BSS(20 mM Tris-HCl pH 8.0、150 mM NaCl、0.1% BSA)1 mLで洗浄する操作を2回繰り返した。洗浄後、酵母を200 μLのBSSに懸濁し、OD600=2になるようにBSSで希釈した。96-Well Test Plate U-Bottom(VOLAMO)の各ウェルにOD600=2の酵母を5 μL、ビオチン化SeP
(Cys)を5 μL、2 ng/μLのAnti-V5-tag mAb(IgG/Mouse、MBL)を10 μL加え、4℃で30分間撹拌した。撹拌後、各ウェル内の溶液20 μLを96-Well 0.45 μm Filter Plate(MultiScreen)へ移し、プレートの吸引ろ過を行った。各ウェルをBSST(20 mM Tris-HCl pH 8.0、150 mM NaCl、0.1% Tween(登録商標)20)で2回洗浄した後、蛍光ラベル化試薬である1 mg/mL Native Streptavidin protein(Abcam)と0.2 mg/mL PerCP Goat anti-mouse IgG(BioLegend)をBSSで100倍希釈した蛍光ラベル化溶液を20 μL加え、4℃で30分間撹拌した。撹拌後、プレートの吸引ろ過を行い、各ウェルをBSSTで2回洗浄した。BSS 200 μLで各ウェルを懸濁し、FACS解析を行った。FACS解析結果の横軸(Red Log)は酵母表層のMonobody提示量を示し、縦軸(Yellow Log)はビオチン化SeP
(Cys)に結合するMonobodyの結合力を示している。FACS解析の概略図を
図8に示した。
【0096】
(3-3)FACS解析によるMonobodyの結合解離定数(KD値)測定方法
ビオチン化SeP(Cys)の濃度を振ってFACS解析を行った。ビオチン化ターゲットタンパク質の濃度に対して、Monobodyの結合力増加に伴って上昇する蛍光強度(Yellow Log)のMedian値をプロットした。SigmaPlotを用いてプロットから結合曲線を描き、結合解離定数(KD値)を算出した。
【0097】
(3-4)FACS解析によるMonobodyの結合解離定数(KD値)測定結果
mb Ndom-His WT1-1、mb Ndom-His C62S 1-1、mb Ndom-His C62S 4-1、mb Ndom-His C62S 4-2について、FACS解析による蛍光強度(Yellow Log)のMedian値から結合曲線を描いてKD値を算出した結果を
図9に示した。
Monobodyの結合親和性が低かったので、結合親和性をより高めたMonobodyをスクリーニングすることにした。そこで、Monobodyの遺伝子にerror-prone PCRによって1~3個のランダムな変異を導入したMonobodyライブラリーを用いて、多様なMonobodyを提示している酵母ライブラリーを作製することにした。
【0098】
(3-5)error-prone PCRによって変異を加えたMonobodyライブラリー
Monobodyのプラスミド(mb Ndom-His C62S 1-1、mb Ndom-His C62S 4-2)を鋳型とし、rTaq polymerase(BioLabs社製)を用いて表14に示したPCR組成でerror-prone PCRを行い、酵母用のMonobodyインサートを増幅した。1st roundではMnCl2を用いて変異を導入し、2nd roundではDNA量を増幅した。
【表14】
作製した酵母用のMonobodyインサートを用いて、3-1と同様の方法で酵母を形質転換し、培養を行って多様なMonobodyを提示している酵母ライブラリーを作製した。
【0099】
(3-6)酵母表層ディスプレイによるスクリーニング
作製した酵母ライブラリーを用いてFACS解析を行い、蛍光強度(Yellow Fluorescence)の立ち上がりから、酵母ライブラリーの中に結合力の強いMonobodyを提示している酵母が存在するかを確認した。結合力の強いMonobodyを提示している酵母が確認できたので、BD FACSAriaTM IIIセルソーター(iCeMS)を用いて、結合力の強いMonobodyを提示している酵母のうち上位約~0.5%及び上位約0.5%~2%を回収した。回収した酵母をSD+CAA培地3 mLに加え、30℃、170 rpmで一晩培養して菌体数を増やした。OD600=0.5になるように酵母ライブラリーをSG+CAA培地1 mLに加え、30℃、150 rpmで一晩培養して酵母表層にMonobodyを提示させた。上位約~0.5%及び上位約0.5%~2%の結合力の強いMonobodyを提示している酵母ライブラリーについて、ビオチン化SeP
(Cys)の濃度を振って(250 nM、25 nM)FACS解析を行い、蛍光強度の立ち上がりから次のroundにまわす酵母ライブラリーの選別を行った。この過程を酵母表層ディスプレイスクリーニング1st roundとし、同様の方法で酵母表層ディスプレイスクリーニング2nd roundを行った。酵母表層ディスプレイによるスクリーニングの概略図を
図10に示した。
【0100】
(3-7)酵母表層ディスプレイによるスクリーニング結果(Ndom-His
(Cys)
認識Mb スクリーニング)
mb Ndom-His C62S 1-1とmb Ndom-His C62S 4-2のプラスミドを鋳型としerror-prone PCRによって変異を加えたMonobodyライブラリーを用いて作製した各酵母ライブラリーから、結合力の強いMonobodyを提示している酵母をスクリーニングした結果を
図11に示した。
【0101】
実施例4:Cdom
(Cys)
認識Monobodyスクリーニング
(4-1)バイオパニング4th round後のMonobodyライブラリー
Cdom
(Cys)を結合ターゲットとしてバイオパニングを行って獲得したMonobodyライブラリーのプラスミドを鋳型に用いて、表4-1及び方4-2に示したPCR条件で酵母用のMonobodyインサートを増幅した。酵母用のMonobodyインサートを増幅する際に、表15に示したオリゴDNAを用いてMonobodyのCDループとFGループを増幅した。酵母細胞内での相同組み換えの原理を利用することで、CDループとFGループの遺伝子をシャッフリングし、Monobodyライブラリーとしての母体数を増やした。
【表15】
作製した酵母用のMonobodyインサートを用いて、3-1と同様の方法で酵母を形質転換し、培養を行って多様なMonobodyを提示している酵母ライブラリーを作製した。
【0102】
(4-2)酵母表層ディスプレイによるスクリーニング
Cdom(Cys)に結合するMonobodyを提示している酵母のスクリーニングはDTTを用いずに行った。3-6と同様の操作を行った。
【0103】
(4-3)酵母表層ディスプレイによるスクリーニング結果(Cdom
(Cys)
認識Mb スクリーニング)
Cdom
(Cys)をターゲットとしたバイオパニング4th round後のMonobodyライブラリーを用いて作製した各酵母ライブラリーから、結合力の強いMonobodyを提示している酵母をスクリーニングした結果を
図12に示した。
【0104】
実施例5:Monobodyスクリーニング結果
(5-1)酵母表層ディスプレイによるスクリーニングから得られたMonobodyのアミノ酸配列結果
スクリーニングを行った酵母ライブラリーからモノクローン化した酵母について、ビオチン化ターゲットタンパク質濃度50 nMにおけるFACS解析結果を
図13に示し、蛍光強度の立ち上がりを確認できた酵母が提示しているMonobodyのアミノ酸配列を確認した結果を表16に示した。
【表16】
【0105】
(5-2)FACS解析による新規Monobodyの結合能評価
Mb_G01, G02, G03, G04, G05, S01について、FACS解析による蛍光強度(Yellow Log)のMedian値から結合曲線を描いてKD値を算出した結果を
図14に示した。
図14より、酵母表層ディスプレイによるスクリーニングを行うことで結合親和性が向上したMonobodyを得ることができた。表16より、error-prone PCR + 酵母表層ディスプレイによってスクリーニングしてきたMonobodyのアミノ酸配列は全てmb Ndom-His C62S 1-1由来のものであった。mb Ndom-His C62S 1-1のKD値は345±196 nMであり、初めの結合親和性が弱かった分変異導入による進化のポテンシャルを有していたことが考えられる。mb Ndom-His C62S 4-2由来のMonobodyが得られなかった要因としては、既にMonobodyの結合親和性の限界に達しており、変異を導入したとしても親和性が向上しなかったことが考えられる。
なお、各ドメイン認識Monobodyの結合は、各ドメインに対して特異的である(
図15)。
【0106】
sticky-end PCR法によってpHFT2系ベクターに移し替えることのできた新規Monobodyのアミノ酸配列を確認した結果を表17に示した。
【表17】
表17より、変異箇所が1、2個であり、KD値が低く結合親和性の高いMb_G01, G03, G04及びMb_S01について精製を行った。
【0107】
実施例6:Monobodyの効果検証
(6-1)菌体培養、Monobodyの発現及び精製
(6-1-1)菌体培養、Monobodyの発現
pHFT2系ベクターに移し替えることのできた新規Monobodyのプラスミドを用いて、E. coli BL21(DE3)を形質転換し、LBプレート(50 μg/mlカナマイシン)にまいた。LBプレートよりシングルコロニーを拾い、50 μg/mlカナマイシンを含む2×YT培地50 mLに植菌し、37℃、120 rpmで16時間前培養を行った。50 μg/mlカナマイシンを含む2×YT培地2 Lに前培養で増殖した菌体を40 mL(本培養培地の2%分)入れて培養し、OD600=0.6の際に終濃度が0.2 mMになるようにIPTGを添加し18℃、125 rpmで20時間培養してMonobodyの発現を行った。
【0108】
(6-1-2)集菌
高速冷却遠心機を用いて4℃、8000 Gで培養液の遠心分離を行い、菌体画分を回収した。回収した沈殿画分を結合バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.0、500 mM NaCl、20 mMイミダゾール)を加え懸濁し、50 mLファルコンチューブに移し4℃、7000 Gで10分間遠心分離後、菌体画分を回収した。この菌体画分は-80℃で保管した。
【0109】
(6-1-3)菌体破砕
集菌した菌体2 L分に対して全量が40 mLになるように結合バッファーを加え懸濁した。Duty Cycle:50%、Output:5に設定し、1分間超音波処理を行い、1分間氷冷する工程を8セット繰り返した。高速冷却遠心機を用いて4℃、18000 Gで35分間遠心分離を行い、可溶性画分と不溶性画分に分離した。
【0110】
(6-1-4)Ni-NTAオープンカラムによる精製
20-3で得られた可溶性画分を0.45 μmのフィルター孔にかけた。結合バッファーで平衡化した2 mL Ni-NTAオープンカラムに可溶性画分をアプライした。結合バッファーによってカラムを洗浄後、溶出バッファーα(20 mM Tris-HCl pH 8.0、500 mM NaCl、300 mMイミダゾール)5 mLをアプライし、溶出したフラクション5 mLを回収した。
【0111】
(6-1-5)TEVプロテアーゼ処理、透析
溶出フラクションにおけるMonobodyの濃度を測定した。タンパク質濃度の測定は、NanoDropを用いて280 nmにおける吸光度を測定し、Expasy ProtParam toolより算出されたモル吸光係数を用いて求めた。用いたTEVプロテアーゼはHis-tagを持ち、His-tagとMonobodyの間にあるTEV認識配列(ENLYFQG)を認識しQとGの間を特異的に切断する。このTEVプロテアーゼをMonobody:TEVプロテアーゼ=10:1になるように溶出フラクションに加え、His-tagをMonobodyから除去した。この切断反応は透析の際に行った。MonobodyとTEVプロテアーゼを含む溶液を8K MWCOの透析チューブへ移し、DTT有り透析バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.0、500 mM NaCl、0.1 mM DTT)を用いてバッファー交換を2日間行った。次に、DTT無し透析バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.0、500 mM NaCl)を用いてバッファー交換を4時間行った。
【0112】
(6-1-6)TEV認識配列切断後のNi-NTAオープンカラムによる精製
バッファー交換したタンパク質溶液に終濃度が20 mMになるようにイミダゾールを添加し、0.45 μmのフィルター孔にかけた。結合バッファーで平衡化した2 mL Ni-NTAオープンカラムにタンパク質溶液をアプライし、フロースルーフラクションを回収した。
【0113】
(6-1-7)ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製
AKTAprime plusを用いて、Monobody-ゲルろ過バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.0、150 mM NaCl)で平衡化したゲルろ過カラム HiLoad 16/60 Superdex 200 prep gradeにタンパク質溶液をロードした。同様のバッファーを用いて流速1.0 mL/minで溶出し、溶出したフラクションを2 mLずつ回収した。UVピークが観測された溶出フラクションをSDS-PAGEにかけ、Monobodyが回収できているか確認を行った。
【0114】
(6-2)グリオブラストーマのSeP取込みと増殖におけるMonobodyの効果
(6-2-1)グリオブラストーマのSePの取込みにMonobodyが与える影響の検討
グリオブラストーマ細胞株であるT98Gを12well plateに1.0×10
5cells/wellに播種し、亜セレン酸濃度100 nMで培養した。48時間後に精製SeP (0.01 μM)と表記のMonobody (Mb_G01, G03, G04及びMb_S01、各濃度:0.01、0.1、1 μM) を混和させ培養培地に添加し、3時間後に細胞をSDSバッファーで溶解し回収した。そのサンプルをSeP抗体を用いたウエスタンブロットで検出することで、SePタンパク質の細胞内への取込みを評価した。SePの細胞内取込み阻害はMb_G03が最も低濃度で効果を示し、Mb_G04はMb_G03の10倍程度の濃度で取込み阻害活性を示した (
図16)。
【0115】
(6-2-2)細胞増殖にMonobodyが与える影響の検討
T98Gは内在的にSePを産生し、それが自身の増殖に寄与する。そこでT98Gを7.0×10
4cells/2mL/wellに調製し6wellプレートに播種すると同時に、終濃度が0.4 μMになるようにMonobodyを添加し、72時間後に細胞を計数した。その結果、Mb_G03において、有意な増殖抑制作用が認められた (
図17)。