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特開2024-132738三次元造形装置、造形方法及び造形プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132738
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】三次元造形装置、造形方法及び造形プログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/393 20170101AFI20240920BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240920BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240920BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240920BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240920BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20240920BHJP
   B29C 64/379 20170101ALI20240920BHJP
   B22F 10/31 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
B29C64/393
B33Y50/02
B33Y30/00
B33Y10/00
B29C64/118
B33Y40/20
B29C64/379
B22F10/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043641
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】307015301
【氏名又は名称】武藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】當間 隆司
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AP11
4F213AQ01
4F213AQ02
4F213AQ04
4F213AR12
4F213WA25
4F213WA54
4F213WA55
4F213WA63
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL85
4F213WL92
4F213WW21
4K018CA44
4K018EA51
(57)【要約】
【課題】造形物の完成品を計測した計測データと造形データとの正確な差分データを取得して、造形データに対する完成品のズレを的確に把握する。
【解決手段】三次元造形装置は、造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段と、造形ステージ上の造形物の外形形状を計測する計測手段と、造形手段及び計測手段を制御する制御手段と、を備える。造形手段の造形座標系及び造形原点と、計測手段の計測座標系及び計測原点と、は同一となるように構成されている。制御手段は、造形手段によって造形物を造形ステージ上に造形した後、得られた造形物の完成品を造形ステージ上から移動させることなく、計測手段によって造形ステージ上の造形物の完成品の外形形状を計測し、得られた計測データと造形データとの差分データを取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段と、
前記造形ステージ上の前記造形物の外形形状を計測する計測手段と、
前記造形手段及び前記計測手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記造形手段の造形座標系及び造形原点と、前記計測手段の計測座標系及び計測原点と、は同一となるように構成されており、
前記制御手段は、
前記造形手段によって前記造形物を前記造形ステージ上に造形した後、得られた造形物の完成品を前記造形ステージ上から移動させることなく、前記計測手段によって前記造形ステージ上の前記造形物の完成品の外形形状を計測し、得られた計測データと前記造形データとの差分データを取得する
三次元造形装置。
【請求項2】
前記造形手段は、樹脂造形又は金属造形により前記造形物を造形し、
前記造形手段及び前記計測手段は、同一の座標系及び原点を有する駆動手段に搭載されている
請求項1記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記差分データに関する情報を表示画面上に表示する表示手段を更に備える
請求項1又は2記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記造形物の前記完成品に対して追加工を施す加工手段を更に備え、
前記制御手段は、前記差分データに基づいて、前記加工手段を制御して前記完成品に対する追加工を行う
請求項3記載の三次元造形装置。
【請求項5】
造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段によって、前記造形データに基づき前記造形ステージ上に前記造形物を造形する工程と、
前記造形ステージ上の前記造形物の外形形状を計測する計測手段によって、前記造形ステージ上の前記造形物の完成品の外形形状を計測する工程と、
前記造形手段及び前記計測手段を制御する制御手段によって、前記計測する工程で得られた計測データと、前記造形する工程で用いられた前記造形データと、の差分データを取得する工程と、
を含む
造形方法。
【請求項6】
前記取得する工程で取得された前記差分データに基づいて、前記造形物の前記完成品に対して追加工を施す加工手段によって、前記完成品を追加工する工程を更に含む
請求項5記載の造形方法。
【請求項7】
造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段によって、前記造形データに基づき前記造形ステージ上に前記造形物を造形させる工程と、
前記造形ステージ上の前記造形物の外形形状を計測する計測手段によって、前記造形ステージ上の前記造形物の完成品の外形形状を計測させる工程と、
前記造形手段及び前記計測手段を制御する制御手段によって、前記計測させる工程で得られた計測データと、前記造形させる工程で用いられた前記造形データと、の差分データを取得させる工程と、
をコンピュータに実行させる
造形プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形装置、造形方法及び造形プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、三次元設計データ(造形データ)に基づいて造形物を造形する三次元造形装置が知られている。このような三次元造形装置の方式としては、例えば、光造形法、粉末焼結法、インクジェット法、溶融樹脂押出造形法等の様々な方式が提案され、製品化されている。
【0003】
一例として、溶融樹脂押出造形法では、溶融したフィラメント樹脂を造形ヘッドから造形ステージ(テーブル)上に吐出し、これを冷却固化して硬化層を形成し、これを積み重ねて三次元の造形物を作製することが行われる。ただし、溶融樹脂押出造形法では、溶融した樹脂を冷却固化して硬化層を形成するプロセスが、造形の過程において必須である。このため、造形物が変形して所望通りの硬化層とならない場合には、補正処理を行う必要があった。
【0004】
特許文献1に記載の三次元造形装置では、造形処理に先立って試験的に造形したライン状の造形物の幅と、この幅の予測値とを比較して、比較結果が所定の範囲内にある場合に、試験条件の吐出パラメータを造形時の吐出パラメータとして設定し、事前に補正処理を行っている。また、特許文献2に記載の三次元造形装置では、造形層の高さを測定し、これに基づき造形層の上部の造形層の造形動作を補正する補正処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-107462号公報
【特許文献2】特開2020-114630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示された従来技術の三次元造形装置では、事前に造形の補正を行って造形するか、造形時に補正を行いながら造形するか、を想定したものである。このため、造形物が完成したときの完成品全体における歪み及び変形等に対応した補正を行うことは想定されておらず、実際の完成品が造形データからどの程度ズレて造形されているのかも把握することはできないため、改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、造形物の完成品を計測した計測データと造形データとの正確な差分データを取得して、造形データに対する完成品のズレを的確に把握することができる三次元造形装置、造形方法及び造形プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る三次元造形装置は、造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段と、前記造形ステージ上の前記造形物の外形形状を計測する計測手段と、前記造形手段及び前記計測手段を制御する制御手段と、を備え、前記造形手段の造形座標系及び造形原点と、前記計測手段の計測座標系及び計測原点と、は同一となるように構成されており、前記制御手段は、前記造形手段によって前記造形物を前記造形ステージ上に造形した後、得られた造形物の完成品を前記造形ステージ上から移動させることなく、前記計測手段によって前記造形ステージ上の前記造形物の完成品の外形形状を計測し、得られた計測データと前記造形データとの差分データを取得する。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記造形手段は、樹脂造形又は金属造形により前記造形物を造形し、前記造形手段及び前記計測手段は、同一の座標系及び原点を有する駆動手段に搭載されている。
【0010】
本発明の他の実施形態において、前記差分データに関する情報を表示画面上に表示する表示手段を更に備える。
【0011】
本発明の更に他の実施形態において、前記造形物の前記完成品に対して追加工を施す加工手段を更に備え、前記制御手段は、前記差分データに基づいて、前記加工手段を制御して前記完成品に対する追加工を行う。
【0012】
本発明に係る造形方法は、造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段によって、前記造形データに基づき前記造形ステージ上に前記造形物を造形する工程と、前記造形ステージ上の前記造形物の外形形状を計測する計測手段によって、前記造形ステージ上の前記造形物の完成品の外形形状を計測する工程と、前記造形手段及び前記計測手段を制御する制御手段によって、前記計測する工程で得られた計測データと、前記造形する工程で用いられた前記造形データと、の差分データを取得する工程と、を含む。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記取得する工程で取得された前記差分データに基づいて、前記造形物の前記完成品に対して追加工を施す加工手段によって、前記完成品を追加工する工程を更に含む。
【0014】
本発明に係る造形プログラムは、造形データに基づいて造形ステージ上に造形物を造形する造形手段によって、前記造形データに基づき前記造形ステージ上に前記造形物を造形させる工程と、前記造形ステージ上の前記造形物の外形形状を計測する計測手段によって、前記造形ステージ上の前記造形物の完成品の外形形状を計測させる工程と、前記造形手段及び前記計測手段を制御する制御手段によって、前記計測させる工程で得られた計測データと、前記造形させる工程で用いられた前記造形データと、の差分データを取得させる工程と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、造形物の完成品を計測した計測データと造形データとの正確な差分データを取得して、造形データに対する完成品のズレを的確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る三次元造形装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】同三次元造形装置の概略構成を示す側面図である。
図3】同三次元造形装置のXYステージの構成を示す斜視図である。
図4】同三次元造形装置のXYステージの駆動系を説明するための図である。
図5】同三次元造形装置のドライバの構造の詳細を説明するためのブロック図である。
図6】同三次元造形装置とコンピュータ(制御装置)の機能的構成を説明するための機能ブロック図である。
図7】同三次元造形装置の用途例1を説明するための造形方法を説明するためのフローチャートである。
図8】造形物の三次元測定における問題を説明するための図である。
図9】同三次元造形装置の用途例2における、三次元造形装置を用いた第1の教材の座標系及び原点と比較例の座標系及び原点を説明するための図である。
図10】同三次元造形装置で造形する第2の教材に係る造形物を示す斜視図である。
図11】同三次元造形装置の用途例3を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態に係る三次元造形装置、造形方法及び造形プログラムを詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、以下の実施形態において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、実施形態においては、各構成要素の配置、縮尺及び寸法等が誇張或いは矮小化されて、実際のものとは一致しない状態で示されている場合、並びに一部の構成要素につき記載が省略されて示されている場合がある。
【0018】
[三次元造形装置について]
(全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る三次元造形装置の概略構成を示す斜視図である。図2は、三次元造形装置の概略構成を示す側面図である。なお、以下の三次元造形装置は、いわゆる熱溶解フィラメント製造法(FFF)及び熱溶解積層法(FDM)等の樹脂造形方式を用いる3Dプリンタ100を例に挙げて説明するが、金属造形等にも利用可能であり、これに限定されるものではない。
【0019】
図1及び図2に示すように、3Dプリンタ100は、例えば金属製のフレーム11と、XYステージ12と、造形ステージ13と、昇降テーブル14と、ガイドシャフト15と、を備えている。また、3Dプリンタ100には、この3Dプリンタ100を制御する制御装置としてのコンピュータ(制御手段)200が、3Dプリンタ100内の各種機構を駆動するためのドライバ300を介して接続されている。
【0020】
なお、以下の説明及び図面においては、「X方向」とは、3Dプリンタ100の左右方向を意味し、「Y方向」とは、3Dプリンタ100の前後方向を意味するものとする。また、「Z方向」とは、3Dプリンタ100の上下方向を意味し、「XY」とは、X方向及びY方向で構成される平面の意味を含むものとする。また、「X軸」、「Y軸」、「Z軸」は、それぞれX方向、Y方向、Z方向の軸を意味するものとする。
【0021】
(フレーム)
フレーム11は、例えば、直方体の外形を有している。フレーム11は、アルミニウム等の金属材料からなる枠組を備えている。このフレーム11は、4つの角部にそれぞれ形成されたガイドシャフト15を備えている。ガイドシャフト15は、例えば図中矢印Zで示す上下方向(Z方向、以下同じ。)、すなわち造形ステージ13の平面に対して垂直な方向に延びるように4本設けられている。
【0022】
ガイドシャフト15は、後述するように昇降テーブル14を上下方向に移動させるための方向を規定する直線状の棒状部材である。なお、ガイドシャフト15の本数は図示のように4本に限定されず、昇降テーブル14を安定的に維持し移動させることができる本数であれば、様々な数に設定され得る。
【0023】
(造形ステージ)
造形ステージ13は、例えば立体構造の造形物(三次元造形物)Sが載置される台座である。造形ステージ13は、後述する造形ヘッド25A,25Bから吐出される材料としての熱可塑性樹脂が堆積される台(テーブル)として機能するものである。従って、造形物Sは、造形ステージ13上に造形されて、完成品となる。なお、ここでいう「完成品」とは、造形処理が終了したときの造形の完成体のことをいい、追加工等の最終処理が終了した製品としての完成品とはその意味が異なっているものとする。
【0024】
(昇降テーブル)
昇降テーブル14は、矩形板状のテーブル自身の4つの角部においてガイドシャフト15を貫通させる構造を備えている。これにより、昇降テーブル14は、ガイドシャフト15の長手方向(Z方向)に沿って上下に移動(昇降)可能に構成されている。昇降テーブル14は、所定のガイドシャフト15と接触するローラ34,35を備えている。
【0025】
ローラ34,35は、例えば昇降テーブル14の対角線上の2つの角部にそれぞれ形成されたアーム部33において回動可能に設置されている。ローラ34は、昇降テーブル14のXYの中心部を基準として、この中心部から離れたガイドシャフト15の外周面(外側外周面)に接触する。また、ローラ35は、この中心部に近いガイドシャフト15の外周面(内側外周面)に接触する。
【0026】
昇降テーブル14は、各ローラ35,35がガイドシャフト15の外周面上を接触しつつ回動することで、Z方向にスムーズに移動可能となっている。また、昇降テーブル14は、モータMzの駆動力をタイミングベルト、ワイヤ、プーリ等からなる動力伝達機構(図示せず)によって伝達することにより、Z方向に所定間隔(例えば、0.1mmピッチ)で移動する。
【0027】
ここで、モータMzとしては、例えばサーボモータ、ステッピングモータ等の各種モータを採用することができる。なお、3Dプリンタ100は、実際の昇降テーブル14の高さ方向(Z方向)の位置を連続的又は間欠的にリアルタイムで、図示しない位置センサを用いて計測し、適宜補正をかけることによって、昇降テーブル14の位置精度を高めるように構成しても良い。このことは、後述する造形ヘッド25A,25B及びセンサ28についても同様である。
【0028】
(XYステージ)
図3は、3Dプリンタ100のXYステージの構成を示す斜視図である。図4は、3Dプリンタ100のXYステージの駆動系を説明するための図である。
【0029】
図3に示すように、XYステージ12は、例えば昇降テーブル14の上面に載置されている。XYステージ12は、枠体21と、Xガイドレール22と、Yガイドレール23と、を備えている。また、XYステージ12は、リール24A,24Bと、造形ヘッド25A,25Bと、センサ28と、造形ヘッドホルダH1と、センサホルダH2と、を備えている。
【0030】
図4に示すように、Xガイドレール22は、1本又は複数本の棒状部材からなり、そのX方向の両端がYガイドレール23にそれぞれ嵌め込まれて、Y方向に摺動自在に保持されている。Yガイドレール23は、Xガイドレール22に対してそれぞれ直交する一対の平行な棒状部材からなる。
【0031】
造形ヘッド25A,25Bは、造形ヘッドホルダH1を介してXガイドレール22にX方向に摺動自在に配置されている。また、センサ28は、センサホルダH2を介してXガイドレール22にX方向に摺動自在に配置されている。これにより、造形ヘッド25A,25B及びセンサ28は、XYステージ12においてX方向及びY方向に移動(XY移動)自在となっている。なお、枠体21、各ガイドレール22,23、各ホルダH1,H2及び図示しない駆動モータは、造形ヘッド25A,25B及びセンサ28を、X軸及びY軸において同一の座標系で駆動する駆動手段を構成する。
【0032】
また、造形ヘッド25A,25Bの造形原点と、センサ28の計測原点と、は、予め同一の原点となるように調節されている。従って、XYステージ12においては、造形ヘッド25A,25BのXY座標系及び造形原点と、センサ28のXY座標系及び計測原点と、が同一となるように構成されている。
【0033】
そして、XYステージ12が載置された昇降テーブル14は、造形物Sが造形される造形ステージ13に対して、Z方向に移動可能に構成されている。従って、3Dプリンタ100においては、X方向のX軸及びY方向のY軸のみならず、Z方向のZ軸をも含めた三次元空間において、造形ヘッド25A,25Bによる造形空間の造形座標系及び造形原点と、センサ28による計測空間の計測座標系及び計測原点と、が同一となり得るように構成されている。
【0034】
すなわち、3Dプリンタ100は、XYステージ12、昇降テーブル14及び造形ステージ13を介して機械的な駆動系を共通とした上で、キャリブレーション等の調節を経ることで、ソフトウェア的な制御も含めて、造形空間の造形座標系及び造形原点と、計測空間の計測座標系及び計測原点と、が同一となり得るように構成されている。従って、例えば造形原点と計測原点とが機械的要因によりその位置が一致しないようなケースであっても、その後の補正処理等により原点を一致させる場合も、上記の「造形座標系及び造形原点と、計測座標系及び計測原点と、が同一となるように構成される」という概念に含まれるものとする。なお、XYステージ12が昇降テーブル14によってZ方向に移動する構成ではなく、造形ステージ13がZ方向に移動する構成としても良い。XYステージ12と造形ステージ13は、相対移動可能な構造を備えていれば良い。また、センサ28は、造形ヘッド25A,25Bと同一の原点を有するように、これらと一体となるように設けられていても良い。この場合、センサホルダH2が不要となるため、これに関連する駆動系等も含めた部品点数を削減することができる。
【0035】
リール24A,24Bは、例えば造形ヘッドホルダH1に固定されている。従って、リール24A,24Bは、造形ヘッドホルダH1によって保持された造形ヘッド25A,25Bの動きに追従してXY移動する。リール24A,24Bには、造形物Sの材料となる熱可塑性樹脂が、通常は巻かれた状態で保持されている。熱可塑性樹脂は、例えば径が1.75mm~3.0mm程度の紐状の樹脂(フィラメント38A,38B)である。
【0036】
フィラメント38A,38Bは、造形時には後述する造形ヘッド25A,25Bに設けられたモータ(エクストルーダ)によって造形ヘッド25A,25B内に送り込まれる。なお、リール24A,24Bは、造形ヘッドホルダH1に固定せずに、例えば枠体21に固定して、造形ヘッド25A,25Bの動きに追従させない構成とすることもできる。
【0037】
また、フィラメント38A,38Bは、露出された状態で造形ヘッド25A,25B内に送り込まれる構成としたが、図示しないガイド(例えば、チューブ、リングガイド等)を介在させて、露出しない状態で造形ヘッド25A,25B内に送り込むように構成しても良い。
【0038】
なお、例えば単一材料のみで造形物Sを造形する場合には、フィラメント38A,38Bのいずれか一方のみを使用して造形を行ったり、両フィラメント38A,38Bを同一の材料で構成して造形速度を速めつつ、造形効率を上げたりすることも可能である。また、一方で、後述するように、異なる材料のフィラメント38A,38Bの両方を、一つの造形物Sにおいて組み合わせて使用するように造形を行うことも可能である。
【0039】
すなわち、異なる材料を使用する場合、フィラメント38A,38Bは、例えば、一方がABS樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、及びポリカーボネイト(PC)樹脂のうちのいずれか一つである場合、他方はその一方の樹脂以外の樹脂で構成することができる。
【0040】
また、例えば同じ材料の樹脂であっても、その内部に含まれるフィラーの材料の種類及び割合が異なるようにして、フィラメント38A,38Bを異なる材料とすることもできる。このように、フィラメント38A,38Bは、それぞれ異なる性状を有し、その組み合わせにより造形される造形物Sの特性(強度等)を向上させることができるように、異なる材料で構成され得る。
【0041】
なお、図1図3に示すものでは、造形ヘッド25Aは、フィラメント38Aを溶融して押し出しつつ吐出するように構成されている。また、造形ヘッド25Bは、フィラメント38Bを溶融して押し出しつつ吐出するように構成されている。このように、異なるフィラメントのためにそれぞれ独立した造形ヘッド25A,25Bが用意されている。
【0042】
しかし、本実施形態に係る3Dプリンタ100はこれに限定されるものではなく、例えば単一の造形ヘッドのみを用意して、この単一の造形ヘッドにより複数種類のフィラメント(樹脂材料)を選択的に溶融して押し出しつつ吐出させるような構成も採用することができる。
【0043】
このように構成されたフィラメント38A,38Bは、例えばリール24A,24BからチューブTbを介して造形ヘッド25A,25B内に送り込まれる。造形ヘッド25A,25Bは、上述したように造形ヘッドホルダH1により保持されているので、リール24A,24Bと共にXYの各ガイドレール22,23に沿って移動可能に構成されている。
【0044】
また、図示は省略するが、造形ヘッド25A,25B内には、フィラメント38A,38BをZ方向の下方へ送り込むためのエクストルーダモータがそれぞれ配置される。なお、造形ヘッド25A,25Bは、XYの平面内においては、互いに一定の位置関係を保つ状態で造形ヘッドホルダH1と共に移動可能とされていれば良いが、これに限定されるものではない。造形ヘッド25A,25Bは、XYの平面内において、互いの位置関係が変更可能なように構成されていても良い。
【0045】
また、造形ヘッド25A,25Bを、XYステージ12に対しX方向及びY方向に移動させるためのモータMx,My(図5参照、以下同じ。)も、このXYステージ12上に設けられている。なお、モータMx,Myは、上述したモータMzと同様に、サーボモータ及びステッピングモータ等の各種モータで構成することができる。
【0046】
一方、三次元計測器としてのセンサ28は、上記のようにセンサホルダH2に固定されており、造形ヘッドホルダH1によって保持された造形ヘッド25A,25Bの造形座標系及び造形原点に基づく動きとは別に、造形座標系及び造形原点と同じ計測座標系及び計測原点に基づいて、XYステージ12上において単独でXY移動可能に構成されている。
【0047】
センサ28は、造形ステージ13上に造形された造形物Sの完成品の外形までの距離を高さ情報として計測し、得られた高さ情報をコンピュータ200に出力する。コンピュータ200は、この高さ情報とセンサ28のXY座標に基づいて、各測定点の計測データを得る。コンピュータ200は、このようにして造形物Sの完成品の外形形状を三次元測定して認識し得る。センサ28は、造形物Sの完成品の外形までの距離を高さ情報として計測可能なものであれば、レーザセンサ、超音波センサ、タッチプローブセンサ等、種々のセンサ方式のものを採用可能である。以下、造形物Sの完成品の外形における複数の測定点の三次元位置が分かるデータを「計測データ」と呼び、この「計測データ」を取得することを、「造形物Sの外形形状を計測する」と表現する。「計測データ」には、造形物Sの完成品の外形形状を推定し得るデータも含まれる。
【0048】
(ドライバ)
次に、ドライバ300の詳細について説明する。
図5は、3Dプリンタ100のドライバ300の構成の詳細を説明するためのブロック図である。
【0049】
図5に示すように、ドライバ300は、例えば、CPU301と、フィラメント送り装置302と、電流スイッチ(SW)304と、を含んでいる。また、ドライバ300は、例えば、モータドライバ306と、計測制御装置308と、を含んでいる。コンピュータ200と、ドライバ300と、は、入出力インタフェース(I/O)307を介して電気的に通信可能に接続されている。
【0050】
CPU301は、コンピュータ200からの各種信号を、入出力インタフェース307を介して受信して、ドライバ300の全体の制御を行う。フィラメント送り装置302は、CPU301からの制御信号に従って、造形ヘッド25A,25B内のエクストルーダモータに対して、フィラメント38A,38Bの造形ヘッド25A,25Bに対する送り量(押込量又は退避量)を指令して制御する。
【0051】
電流スイッチ304は、造形ヘッド25A,25B内のヒータ26に流れる電流量を切り換えるためのスイッチ回路を構成する。造形ヘッド25A,25Bの温度は、電流スイッチ304のスイッチング状態が切り替わることによって、ヒータ26に流れる電流が増加又は減少することにより制御される。
【0052】
モータドライバ306は、CPU301からの制御信号に従って、各モータMx,My,Mzを制御するための駆動信号を発生させる。計測制御装置308は、CPU301からの制御信号に従って、センサ28に対して、造形物Sの完成品の外形形状の三次元測定に関する各種情報(多点測定の測定メッシュのピッチ、繰り返し回数、計測動作範囲等の情報)を指令してセンサ28の動作を制御し、計測された計測データをコンピュータ200に出力させる。なお、例えば、CPU301の高負荷演算に対する演算処理能力が高い場合は、計測制御装置308を省略してCPU301がセンサ28を直接制御するように構成しても良い。
【0053】
[三次元造形装置の機能的構成]
図6は、3Dプリンタ100とコンピュータ(制御装置)200の機能的構成を説明するための機能ブロック図である。なお、図6においては、3Dプリンタ100とコンピュータ200との間に設けられるドライバ300の図示及び主要な説明は省略する。
【0054】
図6に示すように、コンピュータ200は、インタフェース部201と、造形処理部202と、計測設定部203と、計測制御部204と、表示部(表示手段)205と、を有する。造形処理部202、計測設定部203,及び計測制御部204は、例えばコンピュータ200の内部において実行されるコンピュータプログラム(造形プログラム)により実現することができる。
【0055】
インタフェース部201は、各種データの入出力が可能な各種の通信モジュールにより構成され得る。インタフェース部201には、3Dプリンタ100で造形しようとする造形物Sの三次元形状を示すマスタ3Dデータ(3DCADデータ等の造形データ)が外部のCADシステム等から入力される。なお、造形の内容に関する指示データは、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力デバイスからインタフェース部201を介して受け付けられる。この指示データは、造形内容を記憶した外部の記憶装置等からインタフェース部201を介して受け付けられても良い。また、インタフェース部201には、センサ28で計測された計測データも入力される。
【0056】
造形処理部202は、3Dデータの処理及び造形制御を実行可能に構成され、空間フィルタ処理、スライス処理、造形スケジュール処理、造形ベクトル生成処理等を行い得る。造形処理部202は、空間フィルタ処理によって、インタフェース部201に入力されたマスタ3Dデータに基づいて、造形物Sが造形される仮想空間上の造形空間に対し各種データ処理を施す。また、造形処理部202は、後述するように、例えば造形空間を必要に応じて複数の造形ユニット(x,y,z)に分割すると共に、マスタ3Dデータに基づいて、これら複数の造形ユニットの各々に、各造形ユニットに与えるべき特性を示すプロパティデータを付与する機能を有する。なお、造形ユニットへの分割の要否、及び個々の造形ユニットのサイズは、形成される造形物Sのサイズ、形状によって決定され得る。
【0057】
また、造形処理部202は、スライス処理によって、造形ユニットの各々を、複数のスライスデータに変換し、これらスライスデータを、ドライバ300の制御データに変換する機能を有する。造形処理部202は、造形スケジュール処理によって、上述したプロパティデータに従って、スライスデータにおける造形手順及び造形方向等を決定する。そして、造形処理部202は、造形ベクトル生成処理によって、決定された造形手順及び造形方向等に応じて造形ベクトルを生成し、生成した造形ベクトルと共に制御データをドライバ300に送信する。ドライバ300は、受信された造形ベクトルのデータ及び制御データに応じて3Dプリンタ100の造形部(造形手段)101を制御する。造形部101は、造形ヘッド25A,25B及びモータMx,My,Mzを含んで構成され得る。
【0058】
計測設定部203は、造形ステージ13上に形成された造形物Sの完成品の三次元測定に関する各種の設定処理を行い得る。計測設定部203は、造形ステージ13上において、例えばインタフェース部201に入力されたマスタ3Dデータに基づいて、造形空間の造形座標系及び造形原点に合致する計測空間の計測座標系及び計測原点における、多点測定の測定範囲、測定メッシュのピッチ、Z方向の測定ピッチ、測定分解能等を設定する。そして、計測設定部203は、設定した各種情報を計測制御部204に出力する。
【0059】
計測制御部204は、計測設定部203からの設定された各種情報に基づいて、三次元測定におけるセンサ28の制御データを生成し、生成した制御データをドライバ300に送信する。ドライバ300は、受信された制御データに基づいて、3Dプリンタ100の計測部(計測手段)102を制御する。計測部102は、センサ28及びモータMx,My,Mzを含んで構成され得る。
【0060】
なお、計測制御部204には、例えば、計測部102で計測された造形物Sの完成品の外形形状の計測データが入力され得る。従って、計測制御部204では、計測設定部203に入力された造形データと、得られた計測データと、に基づいて、これらの差分データ(造形データに対する計測データのズレ量)が算出され取得される。
【0061】
この差分データは、造形座標系及び造形原点と同一の計測座標系及び計測原点において取得されたデータである。従って、この差分データによれば、造形データの真値に対する計測データの正確なズレ量(造形物Sの完成品の造形データに対する外形形状の歪み等)を表すことができる。計測制御部204は、差分データに基づき、例えば造形物Sの完成品の各測定点における外形の造形データに対するズレ量等を詳細に表示し得る各種情報を表示部205に出力する。
【0062】
表示部205は、各種情報を視認可能に表示する表示画面を有するディスプレイ装置等により構成され得る。表示部205は、表示画面上に計測制御部204から出力された各種情報を表示し、例えばユーザによる上記ズレ量等の把握を容易にするための、差分データ等の情報提示等を行う。
【0063】
[3Dプリンタの用途例1]
次に、本実施形態に係る3Dプリンタ100の用途例1について説明する。図7は、用途例1を説明するための造形方法を説明するためのフローチャートである。
【0064】
用途例1では、本実施形態の3Dプリンタ100を用いて造形物Sを作成する(S1)。次に、得られた造形物Sの完成品を造形ステージ13から移動させることなく、造形物Sの完成品の外形形状を、計測部102を用いて三次元測定する(S2)。そして、得られた造形物Sの完成品の計測データが、造形データに対してどの程度ズレているかを正確に表し得る差分データを得る(S3)。この差分データを用いて造形物Sの完成品に追加工を行う(S4)。
【0065】
すなわち、3Dプリンタ100のコンピュータ200で取得された差分データに基づいて、例えば造形ステージ13から取り外されて送られてきた造形物Sの完成品に対する追加工を行う。ここで、追加工とは、既に加工が完成している造形物Sに対して追加で加工を行うことを指す。追加工には、例えば、肉盛り、磨き、穴加工、切削加工、ねじ加工等、種々の加工が含まれる。
【0066】
造形物Sは、3Dプリンタ100により造形されるので、吐出されたフィラメント38A,38Bの冷却による収縮等によって、必ずしも完成品は造形データ通りとはならない事情がある。このため、追加工によって完成品を限りなく造形データに近づけた造形物Sを得る必要がある。しかし、造形後の完成品を、一旦、造形ステージ13上から取り外して三次元測定した場合には、以下に述べるような問題がある。
【0067】
図8は、造形物Sの三次元測定における問題を説明するための図である。
例えば、図8に示すような造形物Sを造形する場合について検討する。この造形物Sは、図8(a)に示すように、一つの角部が上方に位置する状態で水平方向に延びる両端開口の三角筒体からなり、底部の上面側の中央に開口両端に延びる穴部hを有する半円筒体が内部構造物S´として造形されている。造形物Sの造形データFDは、図中破線で示す。この造形データFDを実際に造形した結果の造形物Sの外形は、図中実線で示す。この外形形状を三次元測定すると、図中実線の外形に沿った計測データMDを得ることができる。
【0068】
そして、図8(b)に示すように、実際に造形された造形物Sを、三次元測定で多点測定(XYを所定ピッチの測定メッシュMmで分解した各測定点Mpの測定)した結果に基づいて、実際の構造体(造形物Sを構成する構造体)の推定を、いわゆる公知のベストフィット処理に基づき行う。ベストフィット処理による推定は、例えば計測データMDから得られる三次元の構造体に対し、造形データFDによる構造体を重ね合わせ、その偏差量の二乗和が最小になる最適解が得られるように、計測データMDの重ね合わせを行って行くもので、計測データMDと造形データFDの差分が最小となるようにしたものに基づき行われる。
【0069】
図8(b)に示すように、図中二点鎖線で示す推定データEDは、ベストフィット処理により次のようにして得られるデータである。すなわち、例えば計測データMDの構造体と造形データFDの構造体のそれぞれの重心位置を重ね合わせた上で、ここを原点としてそれぞれのデータMD,FDに対し、所定のZ位置におけるXY平面での測定メッシュMmを設定する。そして、この測定メッシュMmの各測定点Mpにおける計測データMDと造形データFDの差分が最小となるように計算(最も近い点の距離の最小二乗等の計算)を行い、これを繰り返して造形データFDに最も近い配置となるようにして得たものが推定データEDで表される。
【0070】
しかし、この推定データEDで表されるものは、造形空間の造形座標系及び造形原点と、計測空間の計測座標系及び計測原点と、が同一ではないため、例えば内部構造物S´に着目すると、造形データFDからは大きくズレてしまうことが把握され得る。従って、造形データFDに対する造形物Sの計測データMDの実際のズレ量を、例えば差分データとして得ることはできないという問題が生じてしまう。そして、この推定データEDに基づいて、例えば外形形状を整える等の追加工を行うと、特に内部構造物S´の穴部hは、所望のものとはズレてかけ離れた位置に形成されしまうこととなる。
【0071】
一方、本実施形態の3Dプリンタ100では、造形物Sを造形する造形ヘッド25A,25Bの造形座標系及び造形原点と、造形ステージ13上の造形物Sの外形形状を三次元測定するセンサ28の計測座標系及び計測原点と、が同一であるため、上記のような問題は生じ得ないこととなる。
【0072】
すなわち、3Dプリンタ100のセンサ28により得られた計測データMDと造形データFDとの差分データは、測定メッシュMmの各測定点Mpにおける正確な差分を表すデータである。このため、この差分データに基づいて、上記のような追加工を行った場合、図8(b)に示すような内部構造物S´の穴部hもズレることなく、所望の造形物Sを造形することが可能となる。従って、本実施形態の3Dプリンタ100によれば、造形物Sの完成品を計測した計測データMDと造形データFDとの正確な差分データを取得して、造形データFDに対する造形物Sの完成品のズレを的確に把握することが可能となる。
【0073】
[3Dプリンタの用途例2]
本実施形態に係る3Dプリンタ100は、上記のように造形座標系及び造形原点と、計測座標系及び計測原点と、が同一となるように構成されているため、例えば三次元造形及び三次元測定を一台で学べる教材用装置として使用することができる。ここでは、文部科学省による学習指導要領に則った、三次元測定のサンプリング定理を理解し、計測対象をどの程度分解するかを検討する必要性の学習用途について説明する。
【0074】
なお、3Dプリンタ100は、センサ28がダイヤルゲージにより構成されているものとし、XYステージ12に対して造形ステージ13が昇降するタイプのものとする。また、図6に示す造形部101は、XY可動領域が300mm×300mmで、Z可動領域が300mmに設定されている。また、造形ヘッド25A,25Bは、Φ0.4mmの熱溶融ヘッド(最大加熱温度240℃)により構成されている。
【0075】
一方、図6に示す計測部102は、XY可動領域が300mm×300mmで繰り返し精度が0.1±0.05mmに設定され、Z可動領域が300mmで繰り返し精度が0.1±0.05mmに設定されている。また、ダイヤルゲージの測定ヘッドは、分解能±0.01mmのピックゲージにより構成されている。
【0076】
(第1の教材)
図9は、用途例2における、3Dプリンタ100を用いた第1の教材の座標系及び原点と比較例の座標系及び原点を説明するための図である。図9(a)に示すように、本実施形態の3Dプリンタ100を用いて、蒲鉾状の造形物Sを造形する。
【0077】
本実施形態の3Dプリンタ100では、上述したXYステージ12及び造形ステージ13によって、造形ヘッド25A,25Bによる造形空間の造形座標系(図示せず)及び造形原点Foと、センサ28による計測空間の計測座標系(図示せず)及び計測原点Moと、が同一となるように構成されている。
【0078】
このため、造形ヘッド25A,25Bによって、造形データに基づいて、例えば三次元曲面を有する造形物Sを造形ステージ13上に造形した後、造形物Sを取り外さずに造形ステージ13上において造形物Sの外形形状を、例えば図中矢印実線で示す測定メッシュMmで多点測定により計測(トレース)する。このとき、造形物Sの三次元曲面の外形を、造形データに基づく座標位置を参照した測定メッシュMmによりトレースする。
【0079】
これにより、例えば造形物Sの外形における測定点Mpの高さはいくつであるか等の正確な計測データを測定メッシュMmの測定点Mp毎に点群データとして得ることができる。このように、座標系及び原点が造形と計測において同一であれば、得られた計測データと大元の造形データとの差分が、造形データに対して造形物Sの外形がどの程度変形しているかを表すデータそのものとして利用することができる。
【0080】
次に、図9(b)に示すように、造形物Sを造形ステージ13上から取り外し、適当な位置に置き直して、計測部102にて三次元測定する。
この場合、図示は省略するが、造形ヘッド25A,25Bによる造形空間の造形座標系及び造形原点Foと、センサ28による計測空間の計測座標系及び計測原点Moと、がそもそも同一となっていない。このため、造形物Sを造形した後にその外形形状を測定メッシュMmで計測しても、計測そのものは可能であるが、造形物Sの外形における測定点Mpとは、造形データにおけるどの位置を指しているのかが分からなくなる。
【0081】
このため、造形物Sの三次元曲面の外形を、造形座標系とは異なる計測座標系における座標位置を参照した、図中矢印実線で示す造形物Sの外形からズレた測定メッシュMmによりトレースしてしまう。このように、座標系及び原点が異なれば、造形物Sの外形における測定点Mpの座標位置がそもそも分からなくなるので、その高さ等の正確な計測データを測定メッシュMmの測定点Mp毎に点群データとして得ることができなくなる。
よって、このような2つの測定実験を通じて、造形データを正確に計測するために何か重要かを学生に習得させることができる。
【0082】
(第2の教材)
図10は、3Dプリンタ100で造形する第2の教材に係る造形物Sを示す斜視図である。図11は、3Dプリンタ100の用途例3を説明するための図である。
まず、3Dプリンタ100のZ軸の原点(造形原点及び計測原点)確認を、造形ステージ13の高さを基準値とするために繰り返し測定することにより行う。次に、図10に示すように、図示しない造形ステージ13上に、例えばY方向に延びる山部41及び谷部42が、10mmのピッチp1の周期性をもってX方向に交互に形成されたZ方向に凹凸を有する板状部材からなる造形物Sを造形する。すなわち、この造形物Sは、周期的な構造体であるといえる。
【0083】
造形物Sを造形ステージ13上に造形したら、例えば所定の冷却期間を経た後に、図11(a)に示すように、造形物Sを造形ステージ13上から取り外さずに、山部41及び谷部42のX方向の中点を測定の起点として、例えば5mmピッチの測定メッシュMmで多点測定を行う。このとき、造形データFDの造形座標系C1は、計測座標系と同一であるため、各測定点Mpは、造形座標系C1の座標位置から特定可能であるが、XY平面をトレースした状態となる。
【0084】
また、上記の中点を起点とした測定の後、図11(b)に示すように、造形物Sを造形ステージ13上から取り外さずに、谷部42の谷底点を測定の起点として、同じく5mmピッチの測定メッシュMmで多点測定を行う。このときも、造形座標系C1は計測座標系と同一であるので、各測定点Mpを造形座標系C1の座標位置から特定することができ、造形物Sの外形の凹凸をトレースした状態となる。
【0085】
次に、図11(c)に示すように、造形物Sを造形ステージ13上から取り外し、XY方向に対して斜めになるように配置して、5mmピッチの測定メッシュMmで多点測定を行う。この場合、造形座標系C1と計測座標系が同一ではなくなってしまうため、各測定点Mpは造形座標系C1の座標位置からは特定できない状態となってしまうが、造形物Sの外形の凹凸はトレースすることができる。
【0086】
以上の造形及び計測を3Dプリンタ100で行うことで、(a)Z軸の原点確認において繰り返し測定を行うことで、測定のバラつきが何の要素に起因するのかを考察(造形ステージ13とダイヤルゲージの接触プローブの分解能差による測定のバラつきを考察)することができる。
【0087】
また、(b)3Dプリンタ100がどのように造形物Sを造形するのかを把握(3Dプリンタ100は厚みのある(二次元の)スライスシートを積層して造形することを理解)することができる。また、(c)造形物Sが周期的な構造体(山部41及び谷部42が周期的に造形された構造体)である場合、図11(a)及び図11(b)に示すように、構造体の周期の半分の周期で測定を行うと、起点の取り方の違いにより大元の構造体である造形物Sの外形が正しくトレースできたりできなかったりすることを理解することができる。
【0088】
更に、図11(a)及び図11(c)に示すように、(d)同じピッチの測定メッシュMmであっても、造形物Sに対してXY平面で角度が付くと、造形物Sの外形の凹凸をトレース可能であることを理解することができる。このような事象により、サンプリング定理の基礎概念を体感により学習することが可能となる。なお、例えば測定メッシュMmのメッシュサイズを5mmピッチから10mmピッチ及び2.5mmピッチ等にサイズ変更すれば、(e)造形物Sにおいてトレースできる外形形状が変化することを把握することも可能となる。このように、3Dプリンタ100を用いれば、上記(a)~(e)の学習理解を一台で賄うことが可能となる。
【0089】
なお、学習用途における他の使用例としては、図示は省略するが、次のようなものも想定され得る。まず、3Dプリンタ100のZ軸の原点(造形原点及び計測原点)の確認を、上記のように繰り返し測定することにより行う。そして、例えばΦ50mmの平凸型シリンドリカルレンズ形状(蒲鉾状)のマスタ3Dデータを造形データFDとして用い、造形ステージ13上に図9に示すような造形物Sを造形する。
【0090】
次に、造形物Sを造形ステージ13上から取り外さずに、例えば5mmピッチの測定メッシュMmで造形物Sの高さを多点測定し、造形原点に規定された計測原点でのデジタイズを行う。また、造形物Sを造形ステージ13上から取り外し、任意の位置に置き直して、同じく5mmピッチの測定メッシュMmで造形物Sの高さを多点測定し、任意に設定された計測原点でのデジタイズを行う。こうしてそれぞれ得られたデジタイズの結果データを、任意のソフトウェアを用いて三次元グラフ上で測定面を描画再現し、大元のマスタ3Dデータとの比較を行う。
【0091】
以上の造形及び計測を3Dプリンタ100で行うことで、同様に上記(a)及び(b)の学習理解を行うことができると共に、(f)造形原点を基準にメッシュ化した測定点Mpを測定し、元の造形データFDと測定結果を表す計測データMDとの比較を行うことで、マスタ3Dデータ(CADデータ)と測定結果の差が何に起因するのかを考察することができる。
【0092】
また、造形原点と計測原点とが異なる場合の計測データMDから、大元のマスタ3Dデータ(CADデータ)を再現することができるかを考察(造形物Sと測定対象の原点を併せることの重要性を把握)することができる。また、この場合においても、例えば測定メッシュMmのメッシュサイズを5mmピッチから10mmピッチ及び2.5mmピッチ等にサイズ変更すれば、(g)造形物Sにおいてトレースできる曲面の粗さが変化することを把握することも可能となる。
【0093】
また、学習用途における更に他の使用例としては、図示は省略するが、次のようなものも想定され得る。まず、(A)3Dプリンタ100のZ軸の原点(造形原点及び計測原点)の確認を、センサ28により任意のポイントA(例えば、造形ステージ13の中央点)で行い、造形ステージ13の高さを測定する。
【0094】
次に、(B)Z軸を例えば10mm動かして、任意のポイントB(例えば、造形ステージ13の角点)にセンサ28を移動させ、造形ステージ13の高さを測定する。そして、(C)Z軸を例えば20mm動かして、センサ28をポイントAに戻し、造形ステージ13の高さを測定する。更に、(D)Z軸を再度10mm動かして、センサ28をポイントBに移動させ、造形ステージ13の高さを測定する。
【0095】
その後、上記(C)及び(D)の測定を任意の回数(例えば、100回程度)繰り返して行い、ポイントA及びポイントBにおける高さのそれぞれの度数分布表を作成する。以上の計測を3Dプリンタ100で行うことで、繰り返し測定によるポイントA,Bの高さのバラつきを把握し、正規分布になることを確認しつつ、誤差要因はどこにあるのかを考察することができる。このように、本実施形態に係る3Dプリンタ100は、三次元造形及び三次元測定の学習教材用に利用すれば、三次元造形の様々な機能と三次元測定の基礎的内容を一台で十分学習することが可能となる。
【0096】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
11 フレーム
12 XYステージ
13 造形ステージ
14 昇降テーブル
15 ガイドシャフト
21 枠体
22 Xガイドレール
23 Yガイドレール
24A,24B リール
25A,25B 造形ヘッド
26 ヒータ
27 温度センサ
28 センサ
33 アーム部
34,35 ローラ
38A,38B フィラメント
41 山部
42 谷部
100 3Dプリンタ
101 造形部
102 計測部
200 コンピュータ(制御装置)
201 インタフェース部
202 造形処理部
203 計測設定部
204 計測制御部
205 表示部
300 ドライバ
400 加工機
S 造形物
S´ 内部構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11