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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132739
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】画像投影装置および画像投影方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20240920BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G02B27/01
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043642
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 隆延
【テーマコード(参考)】
2H088
2H199
【Fターム(参考)】
2H088EA47
2H088JA05
2H088MA20
2H199DA03
2H199DA14
2H199DA15
2H199DA17
2H199DA19
2H199DA24
2H199DA34
2H199DA43
(57)【要約】
【課題】偏光サングラス等を使用した場合にも視認性を確保することが可能な画像投影装置および画像投影方法を提供する。
【解決手段】虚像(P)を表示するための表示部(WS)に対して投影画像を投影する画像投影装置(100)であって、画像光を照射する画像照射部(10)と、表示部(WS)に対して画像光を投影画像として投影する投影光学部(20,30)と、を備え、投影光学部(20,30)から照射される画像光は、表示部(WS)に対するP偏光を含んでおり、面内における画像光の偏光方向の分布を調整する偏光調整部(40)を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚像を表示するための表示部に対して投影画像を投影する画像投影装置であって、
画像光を照射する画像照射部と、
前記表示部に対して前記画像光を前記投影画像として投影する投影光学部と、を備え、
前記投影光学部から照射される前記画像光は、前記表示部に対するP偏光を含んでおり、
面内における前記画像光の偏光方向の分布を調整する偏光調整部を備えることを特徴とする画像投影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像投影装置であって、
前記画像照射部から照射される前記画像光は、偏光方向が所定方向に揃っており、
前記偏光調整部は、前記面内において複数の分割領域を有し、
前記分割領域毎に、前記画像光の偏光方向を前記所定方向と交差する方向に変換することを特徴とする画像投影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像投影装置であって、
前記偏光調整部は、前記画像照射部の光出射面側に設けられた液晶セルであることを特徴とする画像投影装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像投影装置であって、
前記液晶セルはTN液晶であり、前記分割領域に電圧を印加しない状態では、前記分割領域から前記表示部に対するP偏光が透過することを特徴とする画像投影装置。
【請求項5】
請求項3に記載の画像投影装置であって、
前記偏光調整部は、前記画像照射部の光出射面側と接触して設けられていることを特徴とする画像投影装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載の画像投影装置であって、
前記偏光調整部は、前記表示部に対するP偏光から15度以内の範囲で偏光方向を調整することを特徴とする画像投影装置。
【請求項7】
虚像を表示するための表示部に対して投影画像を投影する画像投影方法であって、
画像光を照射する画像照射工程と、
前記表示部で反射された前記画像光の輝度を測定する輝度測定工程と、
前記輝度測定工程の結果に基づいて、前記画像光の面内における偏光方向の分布を調整する偏光調整工程を備えることを特徴とする画像投影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像投影装置および画像投影方法に関し、特に画像照射部からの照射光を反射して視点に到達させる画像投影装置および画像投影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両内に各種情報を表示する装置として、アイコンを点灯表示する計器盤が用いられている。また、表示する情報量の増加とともに、計器盤に画像表示装置を埋め込むことや、計器盤全体を画像表示装置で構成することも提案されている。
【0003】
しかし、計器盤は車両のフロントガラス(ウィンドシールド)より下方に位置しているため、計器盤に表示された情報を運転者が視認するには、運転中に視線を下方に移動させる必要があるため好ましくない。そこで、フロントガラスに画像を投影して、運転者が車両の前方を視認したときに情報を読み取れるようにするヘッドアップディスプレイ(以下HUD:Head Up Display)も提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-119248号公報
【特許文献2】特開2019-119262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来の画像投影装置においては、ウィンドシールドでの光の反射はP偏光の成分の反射率が低く、S偏光の成分の反射率が高いという傾向がある。このため、画像照射部から照射される照射光の偏光方向は、ウィンドシールドに対するS偏光となるように設定される。これにより、視点の位置に到達する照射光は、P偏光を含まないS偏光のみの光となる。
【0006】
しかし、外光が強い環境や雪道での走行時には、搭乗者が偏光サングラスを装着してウィンドシールドから外部を視認する場合がある。このとき、車外の物体によって反射された光もS偏光であるため、偏光サングラスはS偏光をカットしてP偏光を透過するように設定されている。したがって、偏光サングラスを装着した搭乗者には、ウィンドシールドで反射された照射光のS偏光が偏光サングラスでカットされてしまい、照射光によって結像された画像の視認が困難になるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、偏光サングラス等を使用した場合にも視認性を確保することが可能な画像投影装置および画像投影方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の画像投影装置は、虚像を表示するための表示部に対して投影画像を投影する画像投影装置であって、画像光を照射する画像照射部と、前記表示部に対して前記画像光を前記投影画像として投影する投影光学部と、を備え、前記投影光学部から照射される前記画像光は、前記表示部に対するP偏光を含んでおり、面内における前記画像光の偏光方向の分布を調整する偏光調整部を備えることを特徴とする。
【0009】
このような本発明の画像投影装置では、P偏光を含んだ画像光を表示部に照射し、偏光調整部で画像光の偏光方向の分布を調整するため、偏光方向の分布を表示部の形状に合わせて偏光サングラス等を使用した場合にも視認性を確保することが可能となる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記画像照射部から照射される前記画像光は、偏光方向が所定方向に揃っており、前記偏光調整部は、前記面内において複数の分割領域を有し、前記分割領域毎に、前記画像光の偏光方向を前記所定方向と交差する方向に変換する。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記偏光調整部は、前記画像照射部の光出射面側に設けられた液晶セルである。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記液晶セルはTN液晶であり、前記分割領域に電圧を印加しない状態では、前記分割領域から前記表示部に対するP偏光が透過する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記偏光調整部は、前記画像照射部の光出射面側と接触して設けられている。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記偏光調整部は、前記表示部に対するP偏光から15度以内の範囲で偏光方向を調整する。
【0015】
また上記課題を解決するために、本発明の画像投影方法は、虚像を表示するための表示部に対して投影画像を投影する画像投影方法であって、画像光を照射する画像照射工程と、前記表示部で反射された前記画像光の輝度を測定する輝度測定工程と、前記輝度測定工程の結果に基づいて、前記画像光の面内における偏光方向の分布を調整する偏光調整工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、偏光サングラス等を使用した場合にも視認性を確保することが可能な画像投影装置および画像投影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る画像投影装置100の構成を示す模式図である。
図2】偏光調整部40を透過する画像光の偏光分布例を模式的に示した図であり、図2(a)は偏光調整部40に入射する前の偏光分布例を示し、図2(b)は偏光調整部40を透過した後の偏光分布例を示している。
図3】第2実施形態に係る画像投影装置100において、偏光調整部40での偏光分布の調整をする工程を示す模式図である。
図4】偏光調整部40での偏光分布の調整手順を示すフローチャートである。
図5】虚像Pの面内各領域での偏光方向と輝度の関係例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係る画像投影装置100の構成を示す模式図である。
【0019】
図1に示すように画像投影装置100は、画像照射部10と、自由曲面ミラー20,30と、偏光調整部40を備えている。自由曲面ミラー20,30は、本発明における投影光学部を構成している。図1中では、画像照射部10から照射された画像光の代表的な光路を模式的に実線矢印で示している。また、画像投影装置100の外部には車両のウィンドシールドWSおよび偏光反射部50が設けられており、運転者等は視点の位置から偏光反射部50を介して画像光による虚像Pを視認する。
【0020】
画像照射部10は、情報処理部(図示省略)から画像情報を含んだ信号が供給されることで画像情報を含んだ照射光(画像光)を投影画像として照射する装置である。画像照射部10から照射された画像光は自由曲面ミラー20に入射する。画像照射部10としては、液晶表示装置、有機EL表示装置、マイクロLED表示装置、DMD(Degital Micro-mirror Device)、レーザ光源を用いたプロジェクター装置等が挙げられる。画像照射部10から照射される画像光は、図中に両矢印で示したように、ウィンドシールドWSに対してP偏光となる光を含むように構成されている。画像照射部10からの画像光が特定方向の偏光である場合には、その偏光面がウィンドシールドWSに対してP偏光となるように画像照射部10の表示面の向きを設定する。特定の偏光の画像光を照射する画像照射部10としては、液晶表示装置、レーザ光源を用いたプロジェクター装置、反射型液晶プロジェクター装置等が挙げられる。
【0021】
自由曲面ミラー20は、画像照射部10から照射された画像光が入射し、自由曲面ミラー30方向に反射する鏡である。自由曲面ミラー20の反射面形状は、曲率が一定ではなく二次元的に変化する自由曲面で構成されている。図1では自由曲面ミラー20の形状として凹面鏡を示しているが、凸面鏡を用いるとしてもよく、平面鏡を用いるとしてもよい。
【0022】
自由曲面ミラー30は、画像照射部10から照射された画像光が入射し、ウィンドシールドWS方向に反射する鏡である。自由曲面ミラー30の反射面形状は、曲率が一定ではなく二次元的に変化する自由曲面で構成されている。図1では自由曲面ミラー30の形状として凹面鏡を示しているが、凸面鏡を用いるとしてもよく、平面鏡を用いるとしてもよい。また、図1では自由曲面ミラー20,30の2枚の鏡で投影光学部を構成した例を示したが、3枚以上の反射鏡を用いて画像光を繰り返し反射させてウィンドシールドWSに照射するとしてもよい。
【0023】
偏光調整部40は、画像光の面内における偏光方向の分布を調整する光学部材である。偏光調整部40の具体的な構成は限定されないが、公知の液晶セルを用いることができ、特にTN(Twisted Nematic)液晶を用いることが好ましい。TN液晶では、画素を構成する分割領域毎に電圧を印加することで、液晶分子の配向の捻じれ度合いが変化し、入射側と出射側での偏光方向を調整することができる。これにより、画像光の面内を複数の分割領域に分割して、分割領域毎に基準となるP偏光の方向と交差する方向に偏光方向を変換することができる。ここで、偏光調整部40として液晶セルを用いる場合には、液晶セルの光出射側には偏光板を設けず、液晶セルの各画素における偏光方向でそのまま光が出射される。ここでは液晶セルとしてTN液晶を用いる例を示したが、偏光分布を調整できるものであればTN液晶に限定されない。
【0024】
偏光調整部40として液晶セルを用いる場合には、画像照射部10の光出射面側に偏光調整部40を配置し、偏光調整部40の光入射側の偏光方向と画像照射部10から照射される画像光の偏光方向を一致させる。偏光調整部40は、画像照射部10と別体で構成して分離して配置するとしてもよいが、画像照射部10の光出射面側に接触して一体に構成する場合には、画像照射部10の表示領域と偏光調整部40の分割領域の位置合わせを省略できる。画像照射部10から照射された画像光は、偏光方向が特定方向に揃っているが、偏光調整部40に入射した画像光は各分割領域での液晶分子の配向の捻じれ度合いに応じて偏光方向が変化する。これにより、偏光調整部40を透過した画像光では、面内において偏光方向が一様ではなく、分割領域毎に偏光方向が異なるものとなる。
【0025】
偏光調整部40として液晶セルを用いる場合の液晶分子の配向は限定されないが、分割領域に電圧を印加しない状態で、ウィンドシールドWSに対するP偏光が透過することが好ましい。電圧を印加しない状態でP偏光を出射することで、偏光方向を調整して基準となるP偏光から偏光方向を変化させる際に必要となる電圧値を小さくすることができ、偏光調整部40での消費電力を抑制することができる。
【0026】
ウィンドシールドWSは、車両の運転席前方に設けられており、車両の外部からの光を視点の方向に対して透過する。また、ウィンドシールドWSは車両の外部からの光のうち少なくとも可視光を透過するため、太陽光などの外光が上方から車内に入射した場合にも、外光の一部は自由曲面ミラー30にまで到達する。また、ウィンドシールドWSの内部には偏光反射部50が設けられている。図1では、簡便化のためにウィンドシールドWSの断面形状を曲率が一定の曲面として描いているが、実際の車両においてはウィンドシールドWS内の各位置において上下方向および左右方向に異なる曲率を有する曲面で構成されている。さらに画像光が投影されるウィンドシールドWSの領域は、運転席側とされてウィンドシールドWSの左右方向の中央から偏った位置であり、左右非対称な曲面で構成されている。
【0027】
また、ウィンドシールドWSに対する画像光の入射角度は、ブリュースター角となるように設定されていることが好ましい。ブリュースター角では、画像光のP偏光はウィンドシールドWSの表面でほとんど反射されず、ウィンドシールドWSを構成するガラス内部に取り込むことができる。これにより、ウィンドシールドWSの表面と偏光反射部50の両者で画像光のP偏光が反射されて、虚像Pが2重に視認されることを抑制することができる。
【0028】
偏光反射部50は、ウィンドシールドWSの内部に設けられた光学部材であり、入射した光のS偏光成分の反射率が低く、P偏光成分の反射率が高い光学特性を有している。このような光学特性を有する偏光反射部50としては、一例としては3M社製の偏光反射フィルム(WCF-PVB)や、特表2006-512622号公報に記載されたものを用いることができる。図1に示した例では、偏光反射部50は略平板状のフィルム形状として構成されており、ウィンドシールドWSの内部に埋め込まれている。図1では偏光反射部50をウィンドシールドWSの一部に設けた例を示したが、ウィンドシールドWSの全面に設けるとしてもよい。
【0029】
図1では表示部としてウィンドシールドWSの内部に偏光反射部50を設けた例を示したが、ウィンドシールドWSとは別に表示部としてコンバイナーを用意し、コンバイナーの内部に偏光反射部50を設け、自由曲面ミラー30からの光を視点方向に反射するとしてもよい。また、表示部は車両の前方に位置するものに限定されず、搭乗者の視点に対して画像を投影するものであれば側方や後方に配置するとしてもよい。視点は、車両の運転者または搭乗者の目(アイボックス)であり、画像光がアイボックスに入射して網膜に光が到達することで、運転者または搭乗者は結像された虚像Pを視認する。
【0030】
虚像Pは、偏光反射部50で反射された画像光が運転者等の視点(アイボックス)に到達した際に、空間中に結像されたように表示される。虚像Pが結像される位置は、画像照射部10から照射された光が、自由曲面ミラー20,30および偏光反射部50で反射された後に視点方向に進行する際の拡がり角度によって決まる。このとき運転者または搭乗者は、ウィンドシールドWSよりも遠方の結像位置に虚像Pが存在するように認識する。ここで、虚像Pの結像位置は、主として投影光学部の合成焦点距離に依存する。ウィンドシールドWSが平坦面ではなく曲面形状であったとしても、曲率半径が自由曲面ミラー20,30と比較して大きいため、ウィンドシールドWSによる光学的パワーの影響は無視できる程度である。
【0031】
後述するように、画像照射部10から照射された画像光は、偏光調整部40を透過することで面内における偏光方向の分布が調整される。したがって、偏光調整部40を透過し自由曲面ミラー20,30で反射された画像光はウィンドシールドWSに対するP偏光を含んでいる。偏光反射部50はP偏光の反射率が高いため、画像光のP偏光成分は良好に反射されて視点に到達する。したがって、虚像PはP偏光によって投影されるものとなり、搭乗者が偏光サングラスを装着している場合であっても良好に視認することが可能となる。
【0032】
また、太陽光などの外光はウィンドシールドWSの上方から入射する。ここで、車両の外部から入射する外光はあらゆる偏光方向の成分が含まれた無偏光であるが、P偏光の成分は偏光反射部50で車両の外部に向けて反射され、S偏光の成分のみがウィンドシールドWSを透過して自由曲面ミラー30まで到達する。したがって、外光のうちP偏光成分は偏光反射部50でカットされ、画像照射部10に到達する光量を抑制することができる。これにより、外光が画像照射部10に到達することによる温度上昇を抑制して、画像照射部10の劣化を防止することができる。
【0033】
図2は、偏光調整部40を透過する画像光の偏光分布例を模式的に示した図であり、図2(a)は偏光調整部40に入射する前の偏光分布例を示し、図2(b)は偏光調整部40を透過した後の偏光分布例を示している。図2中における矩形が虚像Pを投影するための画像光の全領域を示し、両矢印は面内の各領域における偏光方向を示している。
【0034】
図2(a)に示したように、画像照射部10から照射されて偏光調整部40に入射する前の画像光は、面内における偏光方向が特定方向に揃っている。この偏光方向は限定されず、ウィンドシールドWSに対してP偏光であっても、S偏光であっても、その他の方向であってもよい。上述するように偏光調整部40では、分割領域毎に偏光方向の変更が行われる。ここで、偏光調整部40の分割領域とは、偏光調整部40の面内を複数に分割した場合の各領域を意味している。偏光調整部40として液晶セルを用いる場合には、液晶セルを構成する一つの画素を分割領域とすることができる。ここで、偏光調整部40の各画素を分割領域とする場合であっても、画像照射部10に含まれる画像表示装置の画素と分割領域とを1対1に対応させる必要は無く、画像表示装置の複数の画素をまとめた面積の分割領域としてもよい。
【0035】
図2(b)に示したように、偏光調整部40を透過した画像光においては、ウィンドシールドWSに対するP偏光を基準として15度以内の範囲で、面内の各分割領域において偏光方向が変更(調整)される。図2(a)(b)では、画像光が偏光調整部40を透過する前後においてともにウィンドシールドWSに対してP偏光が主方向となる例を示したが、偏光調整部40を透過する前後において所定の角度(例えば90度)で偏光方向を回転させるとしてもよい。
【0036】
上述したように、ウィンドシールドWSは上下方向および左右方向に曲率を有しており、画像光が照射される領域はウィンドシールドWSの中央から偏った位置となっている。つまり、ウィンドシールドWSの表面および偏光反射部50への画像光の照射領域内では、面内において傾斜方向が僅かに異なっている。このような傾斜方向が異なる面に対して、偏光方向が全て同じ方向である画像光を投影した場合には、入射位置の傾斜方向に対応して偏光成分が分離され、P偏光成分とS偏光成分が生じてしまう。このように画像光の入射位置による偏光成分の分離が生じると、S偏光成分がウィンドシールドWSの表面で反射されるとともに、偏光反射部50で反射されるP偏光成分が減少し、虚像Pが2重に結像されて視認性が悪化してしまう。
【0037】
本実施形態の画像投影装置100では、図2に示したように、偏光調整部40が画像光の面内において分割領域毎に偏光方向を調整することができる。ある分割領域において偏光調整部40で偏光方向が調整された画像光は、基準となるP偏光とは異なるP+Sという偏光方向としてウィンドシールドWSに到達する。この位置ではウィンドシールドWSの法線方向は、基準となるP偏光が入射した位置よりも水平方向への傾斜成分を有しており、P+Sという偏光方向のうちSの成分を打ち消す方向となっている。したがって、この位置ではウィンドシールドWSの法線方向と画像光の偏光方向の関係は、PというP偏光成分のみとなる。これにより、ウィンドシールドWSの表面でのS偏光成分の反射は抑制され、P偏光成分はブリュースター角でウィンドシールドWS内に取り込まれて、偏光反射部50によって良好に反射される。
【0038】
したがって、本実施形態の画像投影装置100では、ウィンドシールドWSの画像光が照射される各領域における傾斜方向と、画像光の面内における偏光方向を適合させて、S偏光成分を最小化してP偏光成分を最大化することができる。これにより、ウィンドシールドWSの表面でのS偏光成分の反射による虚像Pの多重結像を抑制し、視認性を向上させることができる。
【0039】
上述したように、本実施形態の画像投影装置100では、P偏光を含んだ画像光をウィンドシールドWSに照射し、偏光調整部40で画像光の偏光方向の分布を調整するため、偏光方向の分布をウィンドシールドWSの形状に合わせて、偏光サングラス等を使用した場合にも視認性を確保することが可能となる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図3から図5を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。図3は、本実施形態に係る画像投影装置100において、偏光調整部40での偏光分布の調整をする工程を示す模式図である。本実施形態では、画像投影装置100は、画像照射部10と、自由曲面ミラー20,30と、偏光調整部40を備えており、撮像部60と偏光方向決定部70を用いて偏光調整部40の各分割領域における偏光方向を決定する。
【0041】
撮像部60は、ウィンドシールドWSで反射された画像光の輝度を測定する装置である。撮像部60は、運転者の視点位置に配置されて、ウィンドシールドWSに投影される虚像P方向を撮像する。ここで、撮像部60の具体的な構成は限定されず、二次元輝度計、CCD(Charge Coupled Device)カメラやCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)カメラ等の公知の撮像装置を用いることができる。また撮像部60は、偏光方向決定部70と情報交換可能に接続されており、撮像した画像データを偏光方向決定部70に送出するとともに、偏光方向決定部70によって撮像方向と撮像タイミングが決定され、偏光方向決定部70からの制御信号によって撮像動作を実行する。
【0042】
偏光方向決定部70は、撮像部60が取得した画像データに基づいて、偏光調整部40の各分割領域における偏光方向を決定する部分である。偏光方向決定部70は、情報処理部(図示省略)で後述する偏光方向決定方法が実行されることで実現される。
【0043】
図4は、偏光調整部40での偏光分布の調整手順を示すフローチャートである。本手順は、撮像部60を基準位置である運転者の視点位置(アイボックス)に配置し、ウィンドシールドWSで反射された画像光の入射方向に向けてスタートする。
【0044】
ステップS1のテストパターン表示工程では、画像照射部10からテストパターンを画像光として照射し、ウィンドシールドWSで正しいテストパターンが反射されて虚像Pが投影されているかを確認する。テストパターンを確認できたらステップS2に移行し、確認できない場合には画像投影装置100に不具合が発生しているため手順を終了する。
【0045】
ステップS2の初期設定工程では、偏光調整部40の全領域において偏光方向の変更を行わないゼロ調整状態とする。偏光調整部40をゼロ設定状態にした後にステップS3に移行する。ここでは、テストパターン表示工程の後に初期設定工程を実行する例を示したが、初期設定工程の後にテストパターン表示工程を実行するとしてもよい。
【0046】
ステップS3のホワイトパターン表示工程では、画像照射部10の全表示領域または調整対象とする分割領域で全表示を行う。ここで全表示とは、画像照射部10の各画素における全色で最大光量となるように画像光を照射することである。画像照射部10が単色光を照射する場合には、当該色の最大光量を発光させ、赤色光、緑色光、青色光等の複数色を混色する場合には、全色による白色光を最大光量で発光させる。全表示でのホワイトパターンを表示した後にステップS4に移行する。
【0047】
ステップS4の偏光方向調整工程では、偏光方向決定部70が偏光調整部40の該当する分割領域に対して、偏光方向の調整量を決定して制御信号を送出する。ステップS5の輝度測定・記録工程では、偏光方向の調整量毎に撮像部60が対象となる分割領域の輝度を測定して、偏光方向決定部70の記憶領域に記録する。ここで、ステップS4およびステップS5は、偏光方向をゼロ調整状態から所定角度だけ変化させて、複数の角度における輝度測定と記録を繰り返し行う。より具体的な一例としては、基準となるP偏光であるゼロ調整状態で輝度測定と記録を行う。次に、調整量0度からプラス15度まで複数の角度で輝度測定と記録を行う。さらに、調整量0度からマイナス15度まで複数の角度で輝度測定と記録を行う。全角度領域において輝度測定と記録を行った後にステップS6に移行する。ステップS4およびS5が、本発明における輝度測定工程に相当している。
【0048】
ステップS6のピーク方向算出工程では、ステップS4およびS5で測定した調整量の角度範囲における輝度が極大となるピーク角度を算出する。ここで、ピーク角度が二つ以上存在する場合には、0度に最も近い調整量を選定する。対象となる分割領域でのピーク角度を算出し、記録した後にステップS7に移行する。また、ピーク角度における輝度が設定された輝度範囲を超えて大きい場合には、画像照射部10から照射される光量を低減して補正するとしてもよい。
【0049】
ステップS7では、画像光の面内における分割領域の全てでピーク角度を算出したかを判定する。未算出の分割領域が存在する場合にはステップS8に移行し、全ての分割領域でピーク角度を算出し終えた場合にはステップS9に移行する。
【0050】
ステップS8では、ピーク角度を未算出な分割領域を対象に変更し、ステップS3に移行する。ステップS9では、全ての分割領域におけるピーク角度を記録し、手順を終了する。以後、画像投影装置100では、ステップS9で記録された各分割領域のピーク角度を用いて、偏光調整部40での各分割領域での偏光方向を調整して虚像Pの投影を行う。これは、輝度測定工程の結果に基づいて、画像光の面内における偏光方向の分布を調整しているため、本発明における偏光調整工程に相当している。
【0051】
図5は、虚像Pの面内各領域での偏光方向と輝度の関係例を示すグラフである。図中横軸はゼロ調整状態である基準となるP偏光を0とした場合の、偏光調整部40での偏光方向の調整角度を示している。図中縦軸は各分割領域における最大輝度を1とした相対輝度を示している。図5では、簡便のために虚像Pを4分割して4つの分割領域で輝度のピーク角度を算出する例を示しているが、分割領域の数はさらに多数であってもよい。
【0052】
上述したステップS6のピーク方向算出工程では、図5に示したように分割領域1~4において、複数の調整角度で輝度を測定してプロットすることで、輝度の角度分布を得ることができる。また、プロットした測定結果から、輝度が極大となる角度をピーク角度として算出することができる。図5に示した例では、実線で示した分割領域1のピーク角度は2.5度であり、破線で示した分割領域2のピーク角度は0度であり、一点鎖線で示した分割領域3のピーク角度は3.0度であり、二点鎖線で示した分割領域4のピーク角度は5.0度である。
【0053】
本実施形態の画像投影装置100では、撮像部60でウィンドシールドWSで反射された画像光を撮像し、分割領域毎に輝度が最大となるように偏光方向決定部70が偏光調整部40の偏光方向の調整を行う。これにより、ウィンドシールドWSの傾斜角度分布や、画像投影装置100から照射される画像光の反射位置が車両によって異なっていても、最適な偏光方向の分布を実現して、各分割領域においてウィンドシールドWSに対するP偏光成分を最大化し、S偏光成分を最小化することができる。また、画像投影装置100を車両に搭載して位置決めした後にキャリブレーションをすることが可能となる。
【0054】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
100…画像投影装置
10…画像照射部
20,30…自由曲面ミラー
40…偏光調整部
50…偏光反射部
60…撮像部
70…偏光方向決定部
図1
図2
図3
図4
図5