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  • 特開-意欲低下の予防改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132757
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】意欲低下の予防改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20240920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P43/00
A61P25/00
A61P25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023060470
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 淳
(72)【発明者】
【氏名】西 純可
(72)【発明者】
【氏名】竹中 涼
(72)【発明者】
【氏名】滝 さやか
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩士
(72)【発明者】
【氏名】本田 通済
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZC52
(57)【要約】
【課題】 本発明は、意欲の低下や認知機能の低下に対し、その予防若しくは改善効果を有する予防剤若しくは改善剤、又は老化抑制剤を提供する。
【解決手段】 D-アラニンが、意欲低下若しくは認知機能低下を、予防若しくは改善する効果、又は老化を抑制する効果を見出し、本発明を完成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アラニンを有効成分とする、意欲低下又は認知機能低下(ただし、統合失調症に伴う意欲低下若しくは認知機能低下を除く)の、予防又は改善剤。
【請求項2】
D-アラニンの1日あたりの摂取量又は投与量が80mg/kg体重以下である、請求項1記載の予防又は改善剤。
【請求項3】
D-アラニンを有効成分とする、老化抑制剤。
【請求項4】
意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用である、請求項3記載の老化抑制剤。
【請求項5】
D-アラニンの1日あたりの摂取量又は投与量が80mg/kg体重以下である、請求項3又は4記載の老化抑制剤。
【請求項6】
請求項1又は2記載の予防又は改善剤を含む、意欲低下予防又は改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用(ただし、統合失調症に伴う意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用を除く)飲食品、医薬品又は飼料。
【請求項7】
請求項3又は4記載の老化抑制剤を含む、意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用飲食品、医薬品又は飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意欲低下若しくは認知機能低下の、予防若しくは改善剤、又は老化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢現象として、明確な病態はなくても、脳の老化により、意欲の低下や認知機能の低下を引き起こすことが知られている。加齢による意欲低下(アパシー)は、高齢者のQOLを低下させるとともに、社会生活に大きな障害となるとされており(非特許文献1及び2)、意欲低下に伴う活動量低下が認知機能低下を引き起こす要因になる場合もある。加齢による認知機能の低下に対しては、医薬品のみならず、様々な食品素材などでそれを防止する旨の報告がなされている(特許文献1~3)。但し、加齢に伴うこれら老化現象に対し、包括的に抑制が期待できる有効な食品素材はほとんど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6739602号公報
【特許文献2】特許第6853821号公報
【特許文献3】国際公開2019/172287号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】薬理と治療、46,2,207-216,2018
【非特許文献2】理学療法科学、35,2,223-227,2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、意欲の低下や認知機能の低下に対し、その予防若しくは改善効果を有する予防若しくは改善剤、又は老化抑制剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、D-アラニンが、意欲低下若しくは認知機能低下を、予防若しくは改善する効果、又は老化を抑制する効果を見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]の態様に関する。
[1]D-アラニンを有効成分とする、意欲低下又は認知機能低下(ただし、統合失調症に伴う意欲低下若しくは認知機能低下を除く)の、予防又は改善剤。
[2]D-アラニンの1日あたりの摂取量又は投与量が80mg/kg体重以下である、[1]記載の予防又は改善剤。
[3]D-アラニンを有効成分とする、老化抑制剤。
[4]意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用である、[3]記載の老化抑制剤。
[5]D-アラニンの1日あたりの摂取量又は投与量が80mg/kg体重以下である、[3]又は[4]に記載の老化抑制剤。
[6][1]又は[2]記載の予防又は改善剤を含む、意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用(ただし、統合失調症に伴う意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用を除く)飲食品、医薬品又は飼料。
[7][3]~[5]の何れかに記載の老化抑制剤を含む、意欲低下予防若しくは改善用、又は認知機能低下予防若しくは改善用飲食品、医薬品又は飼料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、D-アラニンを有効成分とする、意欲低下若しくは認知機能低下の予防若しくは改善剤、又は老化抑制剤を提供できる。特にDL-アラニンが食品添加物として認可されていることなどから、各種食品への添加や製剤化が容易で、明確な症状が出る前から予防的に継続摂取し易い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】巣作り行動試験の結果を示しており、“Cont”がD-アラニン非投与群、“D-Ala”がD-アラニン投与群の結果を示す。
図2】メス尿臭い嗅ぎ試験の結果を示しており、“Cont”がD-アラニン非投与群、“D-Ala”がD-アラニン投与群で、それぞれの試験区において、“water”(水)と“urine”(メス尿)をそれぞれ嗅いだ時間を評価した場合の結果を示す。
図3】Y字迷路試験の結果を示しており、“Cont”がD-アラニン非投与群、“D-Ala”がD-アラニン投与群の結果を示す。
図4】Y字迷路内での新規物体認識試験の結果を示しており、“Cont”がD-アラニン非投与群、“D-Ala”がD-アラニン投与群で、それぞれの試験区において、“NO”(新規物体)と“FO”(既知物体)をそれぞれ探索した時間の割合で評価した場合の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の意欲低下若しくは認知機能低下の予防若しくは改善剤、又は老化抑制剤(以後、まとめて本発明の製剤と呼ぶことがある)は、D-アラニンを有効成分とするものであり、意欲低下若しくは認知機能低下(ただし、統合失調症に伴う意欲低下又は認知機能低下を除く)の予防若しくは改善、又は老化抑制効果を発揮でき、特に加齢に伴う意欲低下若しくは認知機能低下に効果的である。
【0011】
本発明では、有効成分となるD-アラニンは、前記効果を発揮できれば特に限定されず、D-アラニン含有物、D-アラニン製剤等を使用でき、食品添加物であるDL-アラニン、D-アラニンを含む乳酸菌等の微生物発酵物、タンパク質加水分解物の高温ラセミ化物等を使用してもよい。
【0012】
本発明の製剤の摂取方法として、D-アラニンを含む製剤等を経口投与又は非経口投与のいずれでもよいが、継続的に摂取しやすいという観点から、経口投与することが好ましく、意欲低下若しくは認知機能低下の予防若しくは改善、又は老化抑制効果が認められる摂取量又は投与量であれば特に限定されないが、D-アラニンをヒトに対して1日あたり80mg/kg体重以下投与するのが好ましく、0.5~70mg/kg体重がより好ましく、0.8~60mg/kg体重がさらに好ましく、1.0~50mg/kg体重が特に好ましく、該投与量を摂取できるようにD-アラニンを含む製剤等を1日1回又は数回に分けて摂取すればよい。
【0013】
本発明において、有効成分であるD-アラニンに関し、DL-アラニンは食品添加物として認可されており、またD-アラニンはタコ、イカなどの魚介類や乳酸菌発酵物など様々な食品に含まれる成分であり、安全性が高いため、広く利用でき、各種製品に添加が可能であり、意欲低下若しくは認知機能低下の予防若しくは改善、又は老化抑制効果を有する飲食品、医薬品、飼料等を調製することができる。添加する製品は特に限定されないが、飲料、調味料、機能性食品、サプリメント、ドリンク剤等の各種飲食品の他、食品添加物、医薬品、医薬部外品、飼料等にも利用できる。また、D-アラニン自体の甘味を利用して、砂糖、ブドウ糖等の糖類、アスパルテーム、エリスリトール、ステビア抽出物、ラカンカ抽出物、甘草抽出物等の高甘味度甘味料等へ配合してもよい。各種製品中のD-アラニンの含有量は、摂取により本発明の効果が認められる量であれば特に限定されないが、製品あたり0.01~10gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1~2gがさらに好ましい。
【実施例0014】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例0015】
(正常な高齢マウスにおけるD-アラニン投与効果の確認)
正常な46週齢の高齢マウス(C57BL/6JJclマウス、オス、日本クレア株式会社より購入)を、自由飲水(RO水)、自由摂食、12時間明暗環境(明期:7:00~19:00)で飼育し、馴致1週間後に、D-アラニン非投与群と投与群の2群に(n=12)分け、5週間経過後に、行動試験として、巣作り行動試験、メス尿臭い嗅ぎ試験、Y字迷路試験及びY字迷路内での新規物体認識試験を実施することで、各群の認知機能低下及び意欲低下について評価した。給与期間は行動試験期間を含めて7週間とし、飲水量、摂食量、実体重及び臓器重量の確認も行った。飼料としてAIN-93G(固形)を基本とし、D-アラニン投与群においてD-アラニンを0.1%配合したものを、Research Diet社にて調製の上で使用した。
【0016】
D-アラニン非投与群及び投与群の飲水量、摂食量、実体重及び臓器重量の結果を解析したところ、トータルの飲水量は何れも150g程度、摂食量は何れも140g程度となり、D-アラニン投与の有無による差は認められなかった。また、行動試験時の体重は各群とも32g程度であり、動物試験終了後の各群の脾臓、盲腸、腎臓、骨格筋、肝臓及び精巣上体脂肪の重量も同程度で、D-アラニン投与の有無による差は認められなかったことから、D-アラニン投与による成長等への影響はないことが確認できた。また、1日あたりのD-アラニン投与量は、約104mg/kg体重だった。なお、ヒト等価容量で換算すると約10mg/kg体重相当になった。
【0017】
尚、巣作り行動試験及びY字迷路内での新規物体認識試験については、日本分子生物学会講演要旨集(2021年)の「加齢がC57BL/6Jオスマウスの各種行動におよぼす影響」に記載の方法に従って実施し、結果を図1及び図4に示した。また、メス尿臭い嗅ぎ試験は、Biol.Psychiatry.,67,864-871,2010に記載の方法に従って実施し、結果を図2に示し、Y字迷路試験は、Brain Res.,1704,68-77,2019に記載の方法に従って実施し、結果を図3に示した。Y字迷路試験の装置は、小原医科産業株式会社のものを使用し、その使用手順に従った。
【0018】
(1.巣作り行動試験)
図1に示したように、試験開始後、Contで示したD-アラニン非投与群と比較して、D-Alaで示したD-アラニン投与群のNest Scoreの平均値が高くなっており、特に2時間後から7時間後の間で、統計的有意差(P<0.05)が認められた。Nest Scoreが高いほど、巣作り行動を行っていることを示すため、本結果より、D-アラニン投与によって巣作り行動が促進される効果が確認できた。
【0019】
巣作り行動は本能行動であり、前記非特許文献1で示すように意欲低下の評価方法として利用されており、また前記日本分子生物学会講演要旨集(2021年)「加齢がC57BL/6Jオスマウスの各種行動におよぼす影響」では、正常マウスにおいて、若齢マウスは加齢マウスと比較して、明らかに早く巣作りをすることが示されている。よって、上記結果から、D-アラニンを投与することで、加齢に伴う意欲低下が改善されたと考えられる。
【0020】
今回、D-アラニンを投与した高齢マウスでNest Scoreの平均値が高くなっていたことを踏まえると、D-アラニン投与によって、高齢マウスが、若齢マウスの巣作り行動に近づいたともいえるので、D-アラニンが抗老化作用を有すると考えられる。
【0021】
(2.メス尿臭い嗅ぎ試験)
図2に示したように、Contで示したD-アラニン非投与群の場合、水(water)とメス尿(urine)をかがせた場合のそれぞれ臭い嗅ぎ時間(Duration)に有意差が認められなかったが、D-Alaで示したD-アラニン投与群の場合、水(water)と比較して、メス尿(urine)の方が、明らかに臭い嗅ぎ時間が長くなっており、P=0.038で有意差が認められた。
【0022】
メス尿臭い嗅ぎ試験は、性的意欲低下の評価試験として利用されていることから、D-アラニン投与により、加齢に伴う性的意欲低下が改善されたと考えられる。
【0023】
(3.Y字迷路試験)
図3に示したように、Contで示したD-アラニン非投与群と比較して、D-Alaで示したD-アラニン投与群のAlteranation Rate(交替行動率)が高くなっており、P=0.0258で有意差が認められた。
【0024】
交替行動率は、交替行動数(Y字迷路内を探索する際、連続して異なる3本のアームを選択した組み合わせ数)をアームの侵入回数で割った値を示しているが、短期記憶に支障があると、交替行動率が低下するとされている。よって、上記結果から、D-アラニンを投与することで、加齢に伴う短期記憶低下の改善ができていることが確認でき、加齢に伴う認知機能低下が抑制され、認知機能が改善されたと考えられる。
【0025】
(4.Y字迷路内での新規物体認識試験)
Stay-Time ratio(探索時間の割合)は、Y字迷路内での両物体探索時間中における、新規物体(NO)又は既知物体(FO)に対するそれぞれ探索時間の割合を示している。図4に示したように、Contで示したD-アラニン非投与群では、新規物体(NO)と既知物体(FO)の探索時間の割合に有意差は認められなかったが、D-Alaで示したD-アラニン投与群では、新規物体(NO)と既知物体(FO)の探索時間の割合において、P=0.000424で有意差が認められた。
【0026】
基本的に、マウスは新規物体に対して長く探索行動を示す習性があるため、新規物体を正しく認識できていれば、探索時間は長くなり、既知物体の探索時間との間に有意差が生じる。よって、上記結果からD-アラニン投与群で、新規物体又は既知物体の探索時間との間に有意差が認められたことから、D-アラニンを投与することで、マウスが新規物体を正しく認識できるようになったと推察され、加齢に伴う認知機能低下が抑制され、認知機能が改善されたと考えられる。
【0027】
以上の結果をまとめると、D-アラニンを投与することで、加齢に伴う意欲低下を抑制又は改善でき、また、加齢に伴う認知機能低下を抑制又は改善できることが明らかになった。即ち、D-アラニンを有効成分とする、加齢に伴う意欲低下予防剤若しくは改善剤、又は加齢に伴う認知機能低下予防剤若しくは改善剤として有用であり、老化抑制剤としても利用可能であることが分かった。
図1
図2
図3
図4