(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132760
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】細菌の検出用ファージ、検出用試薬及びそれを用いた検出方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240920BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20240920BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/34 20060101ALI20240920BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240920BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12Q1/70
C12Q1/66
C12N15/34
C12Q1/04
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023061020
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(72)【発明者】
【氏名】氣駕 恒太朗
(72)【発明者】
【氏名】田村 あずみ
(72)【発明者】
【氏名】アア ハエルマン アザム
(72)【発明者】
【氏名】渡士 幸一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宜聖
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ10
4B063QQ13
4B063QR79
4B063QR80
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX01
4B065AA98X
4B065AA98Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】宿主特異性が高く、感度が良好で、簡便で迅速に検出でき、また安全で安価な、細菌検出用試薬、該試薬に用いる細菌検出用の組換えファージを提供すること。
【解決手段】ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流にDNAからなるタグ配列を付加したファージゲノムを含む組換えファージによる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流にDNAからなるタグ配列を付加したファージゲノムを含む組換えファージ。
【請求項2】
前記目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列が、ビリオン構成タンパク質、核酸複製遺伝子、溶菌遺伝子、パッケージング遺伝子、および代謝調節遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、DNAからなるタグ配列が、HiBiT VSGWRLFKKIS(Genbank:LC437023)、またはレポーター遺伝子である請求項1に記載のファージ。
【請求項3】
前記請求項1に記載のファージと、DNAからなるタグ配列から発現するペプチドと結合できるルシフェラーゼの断片と、ルシフェリンとを混合し、発光法により目的タンパク質の存在の有無を観察する病原細菌の検出方法。
【請求項4】
前記病原細菌が、カンピロバクター・ジェジュニ、コレラ菌、大腸菌、レジオネラ・ニューモフィラ、ペスト菌、サルモネラ菌、または赤痢菌である請求項1~3のいずれか1項に記載の病原細菌の検出方法。
【請求項5】
大腸菌が、大腸菌O157である請求項4に記載の病原細菌の検出方法。
【請求項6】
以下の工程(1)~(4)を含む、組換えファージの調製方法。
(1)下記a)及びb)を用意する工程
a)ファージゲノム
b)DNAからなるタグ配列
(2)前記ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流に、前記DNAからなるタグ配列を付加して、組換えファージゲノムを得る工程(3)前記組換えファージゲノムを導入した組換えファージを得る工程
(4)前記組換えファージを回収する工程
【請求項7】
前記目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列が、ビリオン構成タンパク質、核酸複製遺伝子、溶菌遺伝子、パッケージング遺伝子、および代謝調節遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、DNAからなるタグ配列が、VSGWRLFKKIS(Genbank:LC437023)、またはレポーター遺伝子である請求項6に記載の組換えファージの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファージを用いた細菌の迅速な検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原細菌は、ヒトまたは動物の体内に侵入し、増殖することによって様々な感染症を引き起こす。感染症治療において、早期診断、簡便なモニタリングシステムの開発は必要不可欠である。このようなシステムの開発は、直接的な医療費や入院患者制限による病院機能の低下、法的訴訟費用まで含めた膨大な医療施設における経済的、社会的損失を防ぐことができる。しかし、パルスフィールド電気泳動(PFGE)法や、超並列DNAシークエンス解析(次世代シークエンス解析)、PCR-based ORF Typing(POT)法に代表される高精度の細菌検査法は、高度な知識と熟練した手技の習得が必要になることに加え、これらを導入するには高額な機器が必要であり、金銭的にも人的にも余裕のある大学病院や大規模病院に限って行われている。そのため、安価で簡便な細菌検査法の開発が求められている。
【0003】
また、病原細菌の検出は、食品、水、乳製品、家畜領域においても重要である。飲食店や食料品を扱う業者は衛生管理を義務付けられているが、微生物による食中毒事故は毎年多数発生している。病原細菌の迅速な検出、簡便なモニタリングシステムを開発することで、食中毒の発生を未然に防ぐことができる。
【0004】
例えば、腸管出血性の病原細菌である大腸菌O157は集団的食中毒の原因となり、溶血性尿毒症症候群(HUS)といった重篤な続発症を引き起こすことが知られている。大腸菌O157の汚染を迅速に検出できる手法があれば、社会問題までに発展する食中毒の発生の予防につながり、発生してしまった場合にも迅速な対応が可能となる。
【0005】
そのため、細菌に寄生するウイルスであり、極めて高い宿主特異性があるファージを利用することが検討されている。ファージは、カプシド(殻)に核酸(DNAまたはRNA)を封入しており、感染時には核酸を細菌内に注入し増殖する。ファージは、殺菌を主に行う溶菌性ファージ(virulent phage)と、ファージの遺伝子が細菌の遺伝子の中に組み込まれる溶原性ファージ(temperate phage)とに分類できる。検出方法としては、具体的には、レポーター遺伝子を搭載したファージによる細菌の検出方法が挙げられる。大腸菌O157に特異的に感染する溶菌性ファージによる検出例もあるが(非特許文献1)、実験室株での定性的な検討しか行われていない。大腸菌O157ファージの検出系が十分に検討されてこなかった理由として、in vitroでの遺伝子合成が困難であったことが挙げられる。通常、in vitroで合成できるファージのDNA長は40~50kb程度であり、60kbを超える大腸菌O157に特異的に感染する組換え溶菌性ファージ(O157 coliphage vB_Eco4M-7、Genbank:MN176217)等の合成は困難であった。
【0006】
大腸菌O157に特異的に感染する溶原性ファージは、40kbほどのものも知られている。溶原性ファージはゲノムに入り込んでいるファージであるため、通常の細菌の遺伝子組み換え法が適用できる(非特許文献2)。また、従来のin vitro合成法も使用できる。しかしながら、この方法で得られた溶原性ファージは、ファージの遺伝子が細菌の遺伝子の中に組み込まれ、そしてファージ由来の遺伝子が細菌の子孫にも受け継がれるため、予期せぬ細菌の進化を引き起こす可能性が高く安全性に問題がある。また、同系統の溶原性ファージが溶原化した細菌には感染できない重感染阻害の問題がある。このように組換え溶原性ファージは、大腸菌O157の特異的検出に使用できない可能性が高い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hoang HA, Dien le T.Rapid and simple colorimetric detection of Escherichia coli O157:H7 in apple juice using a novel recombinant bacteriophage-based Method. Biocontrol Sci. 2015;20(2):99-103.doi: 10.4265/bio.20.99.
【非特許文献2】Perry LL, SanMiguel P, Minocha U, Terekhov AI, Shroyer ML, Farris LA, Bright N, Reuhs BL, Applegate BM. Sequence analysis of Escherichia coli O157:H7 bacteriophage PhiV10 and identification of a phage-encoded immunity protein that modifies the O157 antigen. FEMS Microbiol Lett. 2009 Mar;292(2):182-6. doi: 10.1111/j.1574-6968.2009.01511.x.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の通り、現在までファージを用いた大腸菌O157等の病原細菌の高感度検出法は確立されていなかった。そこで、本発明の課題は、宿主特異性が高く、感度が良好で、簡便で迅速に検出でき、また安全で安価な、細菌検出用試薬、該試薬に用いる細菌検出用の組換え溶菌性ファージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、従来のin vitroファージ合成法において、検出タグ位置を最適化することで、60kbを超えるDNA長のファージであっても目的とする細菌を検出するためのDNAからなるタグ配列を遺伝子組換えで導入したファージを合成できることを見出し、本発明を完成させた。ファージに遺伝子を搭載するとファージの感染力が変化することも多いが、利用したタグは非常に小さいため、ファージの表現型は変化しなかった。さらに、タグ配列の挿入位置が検出感度に大きく影響することを見出した。
【0011】
本発明は以下の構成を有する。
[1]ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流にDNAからなるタグ配列を付加したファージゲノムを含む組換えファージ。
[2]前記目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列が、ビリオン構成タンパク質、核酸複製遺伝子、溶菌遺伝子、パッケージング遺伝子、および代謝調節遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、DNAからなるタグ配列が、HiBiT VSGWRLFKKIS(Genbank:LC437023)、またはレポーター遺伝子である前記[1]項に記載のファージ。
[3]前記[1]項に記載のファージと、DNAからなるタグ配列から発現するペプチドと結合できるルシフェラーゼの断片と、ルシフェリンとを混合し、発光法により目的タンパク質の存在の有無を観察する病原細菌の検出方法。
[4]前記病原細菌が、カンピロバクター・ジェジュニ、コレラ菌、大腸菌、レジオネラ・ニューモフィラ、ペスト菌、サルモネラ菌、または赤痢菌である前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の病原細菌の検出方法。
[5]大腸菌が、大腸菌O157である前記[4]項に記載の病原細菌の検出方法。
[6]以下の工程(1)~(4)を含む、組換えファージの調製方法。
(1)下記a)及びb)を用意する工程
a)ファージゲノム
b)DNAからなるタグ配列
(2)前記ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流に、前記DNAからなるタグ配列を付加して、組換えファージゲノムを得る工程(3)前記組換えファージゲノムを導入した組換えファージを得る工程
(4)前記組換えファージを回収する工程
[7]前記目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列が、ビリオン構成タンパク質、核酸複製遺伝子、溶菌遺伝子、パッケージング遺伝子、および代謝調節遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、DNAからなるタグ配列が、HiBiT VSGWRLFKKIS(Genbank:LC437023)、またはレポーター遺伝子である前記[6]項に記載の組換えファージの調製方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、合成した13種類のファージを用いてO157:H7の検出感度を比較した結果を示す図である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組換えファージは、特定の細菌を特異的に検出できるファージをベースに作製されているため宿主特異性が高い。そのため、本発明の組換えファージを用いた本発明の検出方法は、特定の細菌を特異的に検出できる。さらに、本発明の検出方法は、汎用な装置で測定できることから、安価で簡便に、さらには迅速に細菌が検出できる。また、本発明の検出方法において、溶菌性ファージに利用した場合、溶原性ファージとは異なり、重感染阻害を受けず、また、予期せぬ進化を細菌に引き起こさず、安全に利用できる。ファージの尾部にタグ配列を挿入したファージが高感度にO157を検出することができる。本発明の検出方法は、実施例で示したO157以外の他の細菌にも応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、以下の通り表記を略記することがある。
大腸菌O157を単にO157と表記する。バクテリオファージを単にファージと表記する。O157に特異的に感染するファージをO157ファージと表記する。また、他の細菌についても、同様に表記することができる。
【0015】
<組換えファージ>
本発明の組換えファージは、ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流にDNAからなるタグ配列を付加したファージゲノムを含む。具体的には、O157の場合、オープンリーディングフレーム(ORF)37、gp37の直下にタグを付加することができる。また、オープンリーディングフレーム(ORF)64、gp64の直下にタグを付加することができる。
【0016】
<溶菌性ファージ>
本発明では溶菌性ファージを用いることが望ましい。溶菌性ファージは、溶原性ファージと異なり、溶原サイクルを介さずに自己を増殖させるため、宿主細菌のゲノムDNAを組み込み、宿主細胞に予期せぬ進化を引き起こさないことから、安全性の観点から好ましい。溶菌性ファージとしては、例えば、マイオウイルス科(Myoviridae)ファージ(T4様ウイルス属、SPO1様ウイルス属)、サイフォウイルス科(Siphoviridae)ファージ(T1様ウイルス属、T5様ウイルス属、PsiM1様ウイルス属)、ポドウイルス科(Podoviridae)ファージ(T7様ウイルス属、phi29様ウイルス属、N4様ウイルス属)、テクティウイルス科(Tectiviridae)ファージ(Tectivirus属)、コルチコウイルス科(Corticoviridae)ファージ(Corticovirus属)、リポスリクスウイルス科(Lipothrixviridae)ファージ(Betalipothrixvirus属、Deltalipothrixvirus属)、ルディウイルス科(Rudiviridae)ファージ(Rudivirus属)、ミクロウイルス科(Microviridae)ファージ(Microvirus属、Spiromicrovirus属、Bdellomicrovirus属、Chlamydiamicrovirus属)、シストウイルス科(Cystoviridae)ファージ(Cystovirus属)、レビウイルス科(Leviviridae)ファージ(Levivirus属、Allolevivirus属)が挙げられる。
【0017】
<溶原性ファージ>
溶原性ファージとしては、マイオウイルス科(Myoviridae)ファージ(P1様ウイルス属、P2様ウイルス属、Mu様ウイルス属、phiH様ウイルス属)、サイフォウイルス科(Siphoviridae)ファージ(λ様ウイルス属、c2様ウイルス属、L5様ウイルス属、phiC31様ウイルス属、N15様ウイルス属)、ポドウイルス科(Podoviridae)ファージ(P22様ウイルス属)、リポスリクスウイルス科(Lipothrixviridae)ファージ(Alphalipothrixvirus属)、プラズマウイルス科(Plasmaviridae)ファージ(Plasmavirus属)、フセロウイルス科(Fuselloviridae)ファージ(Fusellovirus属)、イノウイルス科(Inoviridae)ファージ(Inovirus属、Plectrovirus属、M13様ウイルス属、fd様ウイルス属)が挙げられる。
【0018】
<バクテリオファージゲノム>
バクテリオファージゲノムの由来としては特に限定されないが、安全性の観点から溶菌性ファージが好ましい。溶菌性ファージは感染後に宿主細菌内で増殖し、最終的に溶菌させて宿主細菌を死滅させる(溶菌サイクル)。溶原性ファージは溶菌サイクル又は溶原サイクルによって増殖する。
【0019】
<目的ファージタンパク質及びこれらをコードする遺伝子配列>
本発明に用いる目的ファージタンパク質としては、gp27(テールファイバータンパク質)、gp19(hypothetical protein)、gp64(溶菌酵素)、gp75(DNAポリメラーゼIII αサブユニット)、gp91(DNAプライマーゼ)等が例示できる。これら以外では、gp20、gp32、gp35、gp36、gp37、gp55、gp85、gp86が利用できる。なかでも、検出感度が最も高くなる点から、gp27(テールファイバータンパク質)がより好ましい。
また、本発明において、前記目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列を用いればよい。
【0020】
<DNAからなるタグ配列>
本発明に用いるDNAからなるタグ配列としては、市販のHiBiTが利用できる。該塩基配列から11アミノ酸のペプチドが発現する。
【0021】
<病原細菌の検出方法>
本発明の病原細菌の検出方法は、ファージと、DNAからなるタグ配列から発現するペプチドと結合できる発光タンパク質(酵素)であるルシフェラーゼの断片と、その基質であるルシフェリンとを混合し、発光法により目的タンパク質の存在の有無を評価する。具体的には、GloMax(登録商標)Explorer System(Promega)を使用し、前記発光法による発光量を測定し、サンプルの発光量からバックグラウンドの液体培地の発光量(3点の平均値)を引いた値から評価する。ここで、検出用タグとして、HiBiTタグ(Promega社製)を用いた場合には、該タグの検出には、検出用キットのLgBiT(Promega社製)を用いる。その他に、タンパク質検出用のタグとしては、アフィニティータグ(His、c-Myc、FLAG)やGFP等の蛍光タンパク質、LacZやCAT等のレポーター遺伝子も利用することができる。
【0022】
<病原細菌>
本発明に組換えファージが標的とする病原細菌は、病原性の恐れがあれば特に限定されず、形状(一般に球形、棒状、らせん状に大別される)、グラム染色性(グラム陽性又はグラム陰性)、酸素要求性(好気性、嫌気性、通性嫌気性)、存在様式等は問わない。病原細菌としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、シゲラ属細菌(Shigella)(S.dysenteriae、S.frexneri、S.sonnei等)、サルモネラ属細菌(Salmonella)(例えば、S.typh、S.paratyphi-A、S.schottmuelleri、S.typhimurium、S.enteritidis等)、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌(例えば、E.aerogenes、E.cloacae等)、クレブシエラ属細菌(Klebsiella)(例えば、K.pneumoniae、K.oxytoca等)、プロテウス属細菌(Proteus)(例えば、P.mirabilis、P.vulgaris等)、エルシニア属細菌(Yersinia)(例えば、Y.pestis、Y.enterocolitica等)、ビブリオ属細菌(Vibrio)(例えば、V.cholerae、V.parahaemolyticus等)、ヘモフィルス属細菌(Haemophilus)(例えば、H.influenzae、H.parainfluenzae、H.ducreyi等)、シュードモナス属細菌(Pseudomonas)(例えば、P.aeruginosa、P.cepacia、P.putida等)、アシネトバクター属(Acinetobacter)細菌(例えば、A.calcoaceticus、A.baumannii、A.lwoffii等)、レジオネラ属細菌(Legionella)(例えば、L.pneumophila等)、ボルデテラ属細菌(Bordetella)(例えば、B.pertussis、B.parapertussis、B.bronchiseptica等)、ブルセラ属細菌(Brucella)(例えば、B.melitensis、B.abortus、B.suis等)、野兎病菌(Francisella tularensis)、バクテロイデス属細菌(Bacteroides)(例えば、B.fragilis、B.melaninogenicus等)、ナイセリア属細菌(Neisseria)(例えば、N.gonorrhoeae、N.meningitidis等)、ブドウ球菌属細菌(Staphylococcus)(例えば、S.aureus、S.epidermidis、S.saprophyticus等)、レンサ球菌属細菌(Streptococcus)(例えば、S.pyogenes、S.agalactiae、S.viridans、S.pneumoniae等)、腸球菌属細菌(Enterococcus)(例えば、E.faecalis、E.faecium、E.avium等)、バシラス属細菌(Bacillus)(例えば、B.subtilis、B.anthracis、B.cereus等)、クロストリジウム属細菌(Clostridium)(例えば、C.difficile、C.botulinum、C.perfringens、C.tetani等)、コリネバクテリウム属細菌(Corynebacterium)(例えば、C.diphtheriae等)、マイコバクテリウム属細菌(Mycobacterium)(例えば、M.tuberculosis、M.bovis、M.leprae、M.avium、M.intracellulare、M.kansasii、M.ulcerans等)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、ボレリア属細菌(Borrelia)(例えば、B.recurrentis、B.burgdoferi等)、梅毒トレポネーマ(Treponemapalidum)、カンピロバクター属細菌(Campylobacter)(例えば、C.coli、C.jejuni、C.fetus等)、ヘリコバクター属細菌(Helicobacter)(例えば、H.pylori、H.heilmannii等)、リケッチア属細菌(Rickettsia)(例えば、R.prowazekil、R.mooseri、R.tsutsugamushi等)、クラミジア属細菌(Chlamydia)(例えば、C.trachomatis、C.psittaci等)、リステリア属細菌(Listeria)(例えば、L.monocytogenes等)が挙げられる。
【0023】
本発明おいて検出対象とする病原細菌としては、カンピロバクター・ジェジュニ、コレラ菌、大腸菌(O157等)、レジオネラ・ニューモフィラ、ペスト菌、サルモネラ菌、または赤痢菌が特に好ましい。
【0024】
<組換えファージの調整方法>
本発明の組換えファージは、以下の工程(1)~(4)を含む、調製方法で得ることができる。
(1)下記a)及びb)を用意する工程
a)ファージゲノム
b)DNAからなるタグ配列
(2)前記ファージゲノム上の目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列の上流または下流に、前記DNAからなるタグ配列を付加して、組換えファージゲノムを得る工程(3)前記組換えファージゲノムを導入した組換えファージを得る工程
(4)前記組換えファージを回収する工程
【0025】
前記目的ファージタンパク質をコードする遺伝子配列が、ビリオン構成タンパク質、核酸複製遺伝子、溶菌遺伝子、パッケージング遺伝子、および代謝調節遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
また、DNAからなるタグ配列が、HiBiT VSGWRLFKKIS(Genbank:LC437023)、またはレポーター遺伝子である。
【0026】
<エレクトロポレーション法>
エレクトロポレーション法は、DNA、RNA、mRNA、RNP、タンパク質、およびその他の分子を多種多様な細胞、特に初代細胞や幹細胞などのトランスフェクションが困難な細胞にこれらを導入するために用いられている最も効率のよい非ウイルスベクター系による遺伝子導入法である。
この方法では、細胞膜のリン脂質二重層に正確にパルス化された電流で、一時的に細孔を作り出すことにより、細胞外の遺伝物質を標的とする細胞内に導入させ、細胞のDNAに取り込ませることができる。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明を行うが、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
実施例1
1.溶菌活性の確認(スポットアッセイ)
LB寒天培地30mLにLTA(LB Top Agar、0.5%アガロース・1mMCaCl2含有)10mLと細菌の一晩培養液300μLを加え、一定濃度に揃えたO157ファージの10倍希釈系列を2μLずつスポットした。37℃で一晩培養した後にプラーク数をそれぞれ数え、自然宿主菌(大腸菌O157:H7株 ATCC 43888)に対するプラーク数と比較してEOP(Efficiency of Plating、プラーク形成効率)を計算した。
【0029】
2.ゲノム抽出
2.1.ファージのゲノム抽出
LB液体培地20mLに宿主菌の一晩培養液を100μL加え、OD値(Optical Density、光学濃度)が0.1に上がるまで振盪培養(37℃、200rpm)した。その後、106~107PFU/mLファージ液と1mM CaCl2を加え、再び振盪培養(37℃、200rpm)した。ファージが溶菌して培養液が透明になったところで培養液を遠心分離(20℃、8,000×g、15分)し、上清を回収した。上清を0.45μm濾過膜で濾過し、濾過液に核酸分解酵素(1U/mL DNaseI[ニッポンジーン、日本]、10μg/mL RNaseA[ニッポンジーン])を加えて37℃で1時間静置した。続いて、サンプルに同量のポリエチレングリコール液(10%[w/v]PEG8000、1M NaCl、5mM Tris-HCl[pH7.5]、5mM MgSO4)を加え、4℃で一晩反応させた。サンプルを遠心分離(4℃、10,000×g、20分)し、上清を除去した。残った溶液で沈殿を懸濁し、再び遠心分離(4℃、10,000×g、15分)をした。沈澱を500μLのSMバッファー(100mM NaCl、50mM Tris-HCl[pH7.5]、7mM MgSO4、0.01%[w/v]ゼラチン)で溶かした。続いて、以下の手順でフェノール・クロロホルム法によるDNA抽出を行った。サンプルに500μLのTE飽和フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)を加えて十分に混合し、遠心分離(20℃、10,000×g、3分)をして上清を新しいチューブに移した。中間のタンパク質層が見えなくなるまでこのステップを2~3回繰り返した。次に、同量のクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)を加えて十分に混合した後、遠心分離(20℃、12,000×g、10分)をして上清を新しいチューブに移した。回収した上清を同量のイソプロパノールと混合し、遠心分離(4℃、10,000×g、10分)で上清を除去した。沈殿を70%エタノールで洗浄し、遠心分離(4℃、10,000rpm、10分)の後、上清を完全に取り除いた。最後に沈殿を風乾し、DNAを50μLのTEバッファーで溶出した。
【0030】
2.2.細菌のゲノム抽出
大腸菌O157:H7臨床分離株は、MonoFas(登録商標)バクテリアゲノム DNA抽出キット VII(アニモス、日本)を用いてゲノム抽出した。O157:H7(ATCC 43888)のゲノム抽出にはNucleoSpin(登録商標) DNA Stool(タカラバイオ、日本)を使用した。
【0031】
<3.組換えファージ合成>
3.1.PCRによるDNA断片の作製
T7(40kb)及びO157 coliphage vB_Eco4M-7(Genbank:MN176217)(68kb)(以下、O157vBと記載する)のゲノムをテンプレートとしてPCRを行い、各々5~8本のDNA断片を作製した。隣り合うDNA断片が末端に相同配列(T7:40bp、O157ファージ:30bp~)を持つようにプライマーを設計した。HiBiTタグ(Promega、アメリカ)付きのO157vB合成では、HiBiT配列を組み込んだプライマーでPCRを行い、標的タンパク質のC末端にタグを付加させた。PCRの後、FastGene Gel/PCR ExtractionKit(日本ジェネティクス、日本)を用いてDNA断片のゲル切り出し精製を行った。
【0032】
3.2.アセンブリ
DNA断片間の相同配列を使ってアセンブリを行った。各DNA断片50fmolとNEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly(New England Biolabs、アメリカ)を30μLの反応系で混ぜ、50℃で3時間反応させた。アセンブリ反応を評価するため、酵素の代わりに超純水を加えたサンプルも用意した。アセンブリ後、反応液の一部を電気泳動に利用した。
【0033】
3.3.エレクトロポレーション
アセンブリ酵素あり(+)のサンプルは原液~100倍希釈液、酵素なし(-)のサンプルは原液を使い、E.coli HST08 Premium Electro-Cells(タカラバイオ)にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションにはELEPO21(ネッパジーン、日本)を使用し、電気条件はPoring Pulse(電圧:1,500V、パルス幅:2.5msec、パルス間隔:50ms、回数:1回、極性:+)、Transfer Pulse(電圧:150V、パルス幅:50msec、パルス間隔:50ms、回数:5回、極性:+/-)にした。サンプルを1mLのSOC培地に加え、振盪培養(37℃、200rpm、T7:20分、O157vB:20分~1時間)した。T7は、3mLのLTAに培養液を全量加え、LB寒天培地15mLへ重層した後、37℃で5時間静置培養した。O157vBは、3mLのLTAに培養液500μL~1mLとO157:H7株(ATCC 43888)の一晩培養液200~300μLを加え、LB寒天培地15mLに重層した後、37℃で一晩培養した。培養後、プラークの数を数え、希釈液を使ってエレクトロポレーションをした場合は原液のプラーク数に換算した。O157vB合成ファージはプラークをSMバッファー100μLに回収した。
【0034】
3.4.T7を用いた合成方法の条件検討
ファージ合成方法を最適化するため、DNA断片の精製方法、DNA断片間の相同配列の長さ、アセンブリ時のDNAインプット量について条件検討を行った。DNA断片の精製方法については、PCRで断片5本を3組作製し、未精製・カラム精製(FastGene Gel/PCR Extraction Kit)・ゲル切り出し精製の3つに分けた。アセンブリ以降は全て同様の方法で合成を行った。断片間の相同配列の長さ検討では、相同配列が20,40,60,80,100bpになるようにそれぞれプライマーを設計し、PCRで5組の5断片を作成した。精製以降は全て同様に合成した。DNAインプット量の比較では、ゲル切り出し精製済みのDNA断片5本を5,25,50,75,100fmolずつ等モルで混合し、30μLのNEBuilder(登録商標)HiFi DNA Assembly反応系で50℃、3時間反応させた。アセンブリ後は同様の方法で合成した。それぞれの合成条件で得られたプラーク数を数え、合成効率を比較した。
【0035】
<4.ファージのシーケンシング>
4.1.全ゲノムシーケンシング
O157vB(天然ファージ及び合成ファージ)と大腸菌O157:H7(ATCC 43888及び臨床分離株)について、ケミカル同仁(日本)によりNovaSeq6000System(150bp×2ペアエンドリード)(Illumina、アメリカ)で微生物全ゲノムシーケンシングが行われた。シーケンスデータは以下の通りに解析した。シーケンスの生データをShovill(https://github.com/tseemann/shovill)(v1.0.9及びv1.1.0)のデフォルト設定でアセンブリした。続いて、アセンブリされたコンディグファイルを用いてProkka(https://doi.org/10.1093/bioinformatics/btu153)(v1.14.6)でアノテーションを行った。
【0036】
4.2.HiBiTタグ挿入箇所の確認
HiBiTタグを付加したO157vB合成ファージについて、タグが標的タンパク質に付加されているかを確認した。HiBiTタグの上流と下流それぞれ200bpを含めて増幅させるようなプライマーを設計し、合成で得られたプラークをテンプレートとしてPCRを行った。約500bpのPCR産物をカラム精製(FastGene Gel/PCR Extraction Kit)し、サンガー法シーケンシング(ユーロフィンジェノミクス、日本)をした。
【0037】
実施例2
<5.O157:H7の検出>
96穴プレートで細菌(107CFU/mL)にHiBiTタグ付きのO157vBファージ(107PFU/mL)を加え、200μLの培養系で振盪培養(37℃、600rpm)をした。このとき、1プレートにつきLB液体培地だけのウェルを3つ以上用意した。2時間培養後、Nano-Glo(登録商標)HiBiT Lytic Detection System(Promega)を用いてファージに付加したHiBiTタグを検出した。白色の96穴プレートに培養液50μLと2×Nano-Glo(登録商標)HiBiT Lytic Reagent 50μLを加え、遮光しながら振盪(500rpm、10分)した後、GloMax(登録商標)Explorer System(Promega)で発光を測定した(測定時間:2秒)。LB液体培地の発光量(3点の平均値)を測定のバックグラウンドとし、サンプルの発光量から引いた。O157:H7検出限界の測定では、細菌の一晩培養液を10倍ずつ段階希釈し、それぞれにO157vBファージ(gp27にHiBiTタグを付加した合成O157vB、107PFU/mL)を加えて2時間培養した。
また、1CFU/mL O157:H7の検出では、前培養の時間を0(前培養なし),1,2,3,4,5,6,7,8時間の9点に分け、何時間でO157:H7を検出できるか確かめた。O157:H7(ATCC 43888、1 CFU/mL)を10mLの培養系で前培養し(37℃、200rpm)、培養開始から8時間後にそれぞれのサンプルにO157vBファージ(gp27にHiBiTタグを付加したO157vB、107PFU/mL)を加えた。細菌とファージを2時間培養した後、上述の方法でファージに付加したHiBiTタグの検出を行った。
【0038】
タグ配列をO157ファージの遺伝子の様々な遺伝子領域に付加させることができた。
また、本発明ではさらに開発したO157ファージ合成法を利用し、様々なファージ由来遺伝子に検出用タグを付けたファージを合成することができた。これまでタグを付ける遺伝子はカプシドが主流であったが、テールや溶菌酵素にタグを付けたファージの方が、検出感度が高くなることがわかった。スクリーニング実験により、O157の検出効率が、タグを付加するファージの遺伝子の領域に大きく依存することがわかった。例えば、溶菌酵素やファージテールに付加したファージによる検出感度は、ファージカプシド遺伝子に検出タグを付加したファージによる検出感度の10倍以上であった。合成を行ったファージを表1に示した。また、O157:H7実験株に対する検出感度の比較結果を
図1に示した。臨床分離株3株に対して行った比較検討も同様の結果となりました。O157ファージにおいて、最も効率的にO157を検出したファージは、テール遺伝子に検出タグを付加したものであった。ただし、検出タグ付加に最適な遺伝子は、ファージの種類によって異なる可能性がある。
【0039】
本発明の検出方法は、O157等による感染症の迅速診断に利用可能である。安価で簡便なため、さまざまな医療機関で利用できる。O157による汚染の検出は、食品、水、乳製品、家畜等の領域でも重要である。本検出法は非常に高感度であるため、In vivo診断も可能である。これまでのファージセラピーの実績から、ファージはヒトに投与しても安全であることが知られている。投与経路も血中投与、経口投与、塗布等、限定されない。本発明の組換えファージをヒトに投与することで、患者が病原細菌に感染しているか否か、また感染している場合、どの臓器に細菌が集積しているかといった情報が得られる。