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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132809
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】印刷方法及び印刷システム
(51)【国際特許分類】
   B41F 11/00 20060101AFI20240920BHJP
   B41F 9/00 20060101ALI20240920BHJP
   B41F 5/24 20060101ALI20240920BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20240920BHJP
   B41M 1/04 20060101ALI20240920BHJP
   B41M 1/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B41F11/00 Z
B41F9/00 B
B41F5/24
B41M1/10
B41M1/04
B41M1/18
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023163049
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2023039700
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598043939
【氏名又は名称】三洋グラビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】原 敬明
【テーマコード(参考)】
2C034
2H113
【Fターム(参考)】
2C034AA02
2C034AA22
2C034AB04
2H113AA01
2H113AA05
2H113BA01
2H113BA03
2H113BB02
2H113BB06
2H113BB07
2H113BB08
2H113BB22
2H113BC01
2H113BC02
2H113CA25
2H113EA10
2H113FA04
(57)【要約】
【課題】グラビア印刷とフレキソ印刷を組み合わせた印刷方法及び印刷システムにおいて、印刷の高品位化、低コスト化、多品種小ロットへの対応容易化を共に図る。
【解決手段】本発明に係る印刷方法は、共通の印刷資材に対し、前記グラビア印刷により高隠蔽層を印刷し、前記フレキソ印刷により、前記高隠蔽層よりも被覆範囲が限定されているか、或いは、前記高隠蔽層よりも低い隠蔽力を有する低隠蔽層を印刷することを特徴とする。また、本発明に係る印刷システムは、グラビア印刷ユニットとフレキソ印刷ユニットとを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の印刷資材に対し、グラビア印刷により高隠蔽層を印刷し、フレキソ印刷により、前記高隠蔽層よりも被覆範囲が限定されているか、或いは、前記高隠蔽層よりも低い隠蔽力を有する低隠蔽層を印刷することを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記共通の印刷資材には、色彩、階調、パターンの少なくともいずれか一つが異なる複数の前記低隠蔽層が形成される、
請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記共通の印刷資材には、単一の前記高隠蔽層が設けられる、
請求項2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記高隠蔽層と前記低隠蔽層の少なくとも一方の印刷には、水性インキが用いられる、
請求項1-3のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項5】
前記水性インキにおける着色剤の濃度は、15質量%以上25質量%以下である、
請求項4に記載の印刷方法。
【請求項6】
前記共通の印刷資材である基材フィルムに対し、前記フレキソ印刷により1又は複数の前記低隠蔽層を印刷した後、前記グラビア印刷により前記高隠蔽層を形成することにより前記高隠蔽層で前記1又は複数の低隠蔽層を被覆し、その後、前記高隠蔽層上にシーラント層を形成する、
請求項1又は2に記載の印刷方法を用いた包装フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記高隠蔽層は、塩素化ポリオレフィン系インキによって形成され、
前記シーラント層は、押出ラミネートにより形成される、
請求項6に記載の包装フィルムの製造方法。
【請求項8】
共通の印刷資材に対し、グラビア印刷により高隠蔽層を印刷するグラビア印刷ユニットと、
前記共通の印刷資材に対し、フレキソ印刷により、前記高隠蔽層よりも被覆範囲が限定されているか、或いは、前記高隠蔽層よりも低い隠蔽力を有する低隠蔽層を印刷するフレキソ印刷ユニットと、を具備する印刷システム。
【請求項9】
共通の印刷資材に対して印刷を施すグラビア印刷ユニット及びフレキソ印刷ユニットを具備し、
前記グラビア印刷ユニットとして、少なくとも第1の前記グラビア印刷ユニットと第2の前記グラビア印刷ユニットとを有し、
前記第1のグラビア印刷ユニットと前記第2のグラビア印刷ユニットの間に前記印刷資材に対して順次に印刷を施す複数の前記フレキシ印刷ユニットを有することを特徴とする印刷システム。
【請求項10】
前記グラビア印刷ユニットと前記複数のフレキソ印刷ユニットとの間に、前記共通の印刷資材の表裏を反転させる反転ユニットをさらに有する、
請求項9に記載の印刷システム。
【請求項11】
前記グラビア印刷ユニットは、前記共通の印刷資材に対し、前記グラビア印刷により前記印刷資材の流れ方向に等ピッチで形成された位置合わせ用マークを印刷する、
請求項8に記載の印刷システム。
【請求項12】
前記グラビア印刷ユニットは、前記位置合わせ用マークとともに見当調整用の基準見当マークを印刷するように構成され、前記基準見当マークに基づいて、前記フレキソ印刷ユニットを前記流れ方向に見当調整する見当調整制御装置をさらに具備する、
請求項11に記載の印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷方法及び印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、グラビア印刷により包装用樹脂フィルムに印刷表示を形成する場合には、複数の色ごとの版胴を形成し、各版胴を用いて各色のパターン印刷を順次に行うことによって上記印刷表示を形成するようにしている。特に、上記樹脂フィルムの裏面に複数の印刷層を積層する裏刷りという印刷手法があり、この場合には、複数の印刷層の上に他の樹脂フィルムをラミネートすることにより、食品包装にも用いられることがある。
【0003】
上記の樹脂フィルムに対するグラビア印刷では、顔料成分をすばやく付着させるために温風をあてて溶剤を乾燥させることから、多量のVOC、すなわち、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)が排出される。そして、或る程度の規模の印刷設備では、排ガス濃度に法規制があるため、VOC処理装置が必須とされる。このような法規制に対処する一つの方法として、以下の特許文献1に記載されるように、複数の版胴を用いた印刷段階のうちの一部で油性インキ(トルエン系インキ)の代わりに、溶剤に水やアルコール等を用いた水性インキを用いることにより排ガス濃度を低下させるといった方法が知られている。
【0004】
一方、欧米では、包装用樹脂フィルムに施される印刷は、階調性や色の再現性に対する要求レベルが低いため、コスト面からフレキソ印刷により行われることが多い。フレキソ印刷は、印刷速度の向上や版替えの迅速性などによりコスト面で優れている。このため、上述のグラビア印刷などの凹版印刷方法と、フレキソ印刷などの凸版印刷方法とを組み合わせることによって両方法の有利な点を活かすように工夫されたものが知られている(以下の特許文献1及び2を参照)。
【0005】
特許文献1では、凹版印刷によってインキパターンを形成した後に、このインキパターンによって規制された領域に凸版印刷によってさらにインキパターンを形成することにより、印刷品位を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2では、水性インキを用いて、階調絵柄をグラビア印刷で行い、ベタ柄をフレキソ印刷で行うことにより、連続印刷においてかぶりが少なく、塗布量変化が少ない印刷を可能とし、生産性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-238402号公報
【特許文献2】特開2004-017472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、グラビア印刷では、包装用フィルム印刷などのように、写真などの階調性を要する印刷態様に適しているものの、製版コストや版替えに時間がかかることにより、コストの観点から或る程度の印刷数量が必要であり、多品種小ロットへの対応が難しいという問題がある。一方、フレキソ印刷では、印刷の高速性や版替時間の短さなどに起因する低コストや小ロットへの対応といった利点に加えて、近年、技術の向上によって高精細性などの印刷品位が向上してきているため、従来よりも広い範囲での利用が考えられる。
【0008】
そこで、グラビア印刷とフレキソ印刷を組み合わせることが考えられ、上記特許文献1及び2のような方法が提案されている。しかし、従来の組み合せによる複合印刷の方法のうち、特許文献1による印刷方法では、凸版印刷によるインクパターンが凹版印刷によるインクパターン規制された領域に形成されるため、印刷パターンに制約があり、種々の印刷態様に応じた状況で利用することが困難であるという問題がある。また、特許文献2による印刷方法では、階調絵柄をグラビア印刷で行い、ベタ柄をフレキソ印刷で行うことにより、それぞれの印刷形式で有利な部分を担うこととなるため、従来手法をそのまま適用して印刷できるという利点があるものの、階調絵柄を形成するグラビア印刷部分では、製版のコストや版替時間の増大に起因して、印刷の低コスト化や多品種小ロットへの対応が困難であるという問題があり、一方、ベタ柄を形成するフレキソ印刷部分では、凸版印刷であるために供給できるインク量が少ないことから、隠蔽性が不十分で、ピンホールやムラが生じやすいという問題がある。また、いずれの印刷部分でも、水性インキを用いることから、グラビア印刷では印刷品位の低下を招き、フレキソ印刷ではインク量増加の困難性を招くなど、それぞれの印刷形式に起因する障害が増幅されやすいという問題もある。
【0009】
そこで、本発明は上記各問題を解決するものであり、その課題は、グラビア印刷とフレキソ印刷を組み合わせた印刷方法及び印刷システムにおいて、印刷の高品位化、低コスト化、多品種小ロットへの対応容易化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る印刷方法は、共通の印刷資材に対し、グラビア印刷により高隠蔽層を印刷し、フレキソ印刷により、前記高隠蔽層よりも被覆範囲が限定されているか、或いは、前記高隠蔽層よりも低い隠蔽力を有する低隠蔽層を印刷することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、グラビア印刷で高隠蔽層を印刷することで、インキ量の供給を十分に行うことができるため、高隠蔽層の隠蔽性を確保でき、ピンホールやムラの発生を防止することができるなど、印刷品位を向上させることができる。また、フレキソ印刷で上記低隠蔽層を印刷することで、全体として印刷速度を高めることができ、低隠蔽層の色彩、階調、パターンの少なくとも一つの変更などに対応する版替えも容易化されるため、印刷の低コスト化及び多品種小ロットへの対応容易化を図ることが可能になる。前述のように、一般には、グラビア印刷は階調絵柄に適し、フレキソ印刷はベタ柄に適していると言われるが、実際には、以下のように、本発明の新規な構成によって全体的には大きな利点が得られる。すなわち、グラビア印刷ユニットで高隠蔽層を印刷することにより、グラビア印刷の高濃度で美しいカラーを再現できる特性を利用して高い隠蔽性を有する高品位の印刷層(高隠蔽層)、例えば、ベタ刷りによる印刷パターン、を形成できる。ここで、グラビア印刷は製版コストは高いものの、高隠蔽層であるために版の変更を要することが少なく、また、グラビア版胴は耐久性に優れ長く使えるため、結果的に全体の印刷コストに対する影響を低く抑えることができる。一方、フレキソ印刷で低隠蔽層である色柄、階調柄、パターン柄などを印刷することにより、フレキソ印刷の低コスト性や版替えの容易性を利用して、種々の要求に対応可能な印刷態様の自由度を確保し、印刷態様の変更を容易化することができるので、全体として印刷コストを低減しつつ、多品種小ロットへの対応性をも維持することが可能になる。
【0012】
本発明において、前記共通の印刷資材には、色彩、階調、パターンの少なくともいずれか一つが異なる複数の前記低隠蔽層が形成されることが好ましい。これによれば、種々の要求に対応可能な多くの印刷態様を実現できる。このとき、各印刷層には、文字や記号、絵柄、模様の少なくとも一つが含まれることが望ましい。これにより、種々の印刷態様を構成する自由度を確保できる。また、前記共通の印刷資材には、単一の前記高隠蔽層が設けられることが望ましい。これによれば、グラビア印刷を1回のみとすることで、印刷品位を確保しつつ、全体として、印刷コストのさらなる低減や多品種小ロットへの対応性のさらなる向上を図ることができる。
【0013】
本発明において、前記高隠蔽層と前記低隠蔽層の少なくとも一方の印刷には、水性インキが用いられることが好ましい。これによれば、水性インキを用いることによって揮発性有機化合物(VOC)の排出を抑制することができる。このとき、グラビア印刷ユニットでは、セルの深さによって印刷資材に供給されるインキ量を確保できるため、水性インキによる滲みや濃度の低下の問題が生じにくく、乾燥処理も均一化しやすくなるので、水性インキを用いても、高品位の高隠蔽層を容易に印刷することができる。また、フレキソ印刷ユニットが低隠蔽層を担当するため、インキ供給量を低減できることから、印刷速度も高く設定することが可能になるなど、水性インキを用いても、高精細性などの印刷品位を確保しつつ、低コストに印刷できる。特に、高隠蔽層と低隠蔽層の双方の印刷に水性インキが用いられることが望ましい。
【0014】
本発明において、前記水性インキにおける着色剤の濃度は、1質量%以上60質量%以下の範囲で調製することが可能ではあるが、特に、15質量%以上25質量%以下であることが望ましい。これによれば、印刷品位を確保しつつ、水性インキの乾燥性の低下を抑制し、補うことができる。その上、20質量%以上25質量%以下とすることにより、さらなる効果を得ることができる。
【0015】
本発明において、上記共通の印刷資材として、透光性を備えた樹脂フィルムや樹脂シートを用いる場合に上記グラビア印刷による前記高隠蔽層を設ける上で有効である。また、種々の印刷態様において美麗な品刷品位を得るためには、前記高隠蔽層は白色であることが好ましい。また、前記高隠蔽層は、高い隠蔽力によって印刷品位を高めるためにはベタ刷り(例えば、網点濃度95-100%)であることが好ましい。なお、以上の各印刷方法は、樹脂フィルム印刷体の製造方法としても把握することができ、また、包装用印刷体の製造方法としても把握することができる。
【0016】
本発明の包装フィルムの製造方法において、前記共通の印刷資材である基材フィルムに対し、前記フレキソ印刷により1又は複数の前記低隠蔽層を印刷した後、前記グラビア印刷により前記高隠蔽層を形成することにより前記高隠蔽層で前記1又は複数の低隠蔽層を被覆し、その後、前記高隠蔽層上にシーラント層を形成することが好ましい。これによれば、包装フィルムの印刷の高品位化、低コスト化、多品種小ロットへの対応容易化を図ることができる。また、表面が高隠蔽層で被覆されることで、被覆性が向上し、表面が均一化されることで、シーラント層の積層状態が安定する。この場合において、前記高隠蔽層は、塩素化ポリオレフィン系インキによって形成され、前記シーラント層は、押出ラミネートにより形成されることが望ましい。これによれば、塩素化ポリオレフィン系インキを用いた高隠蔽層上に押出ラミネートによりシーラント層が形成されることで、ラミネートを良好に実施でき、密着性をさらに向上させることができる。特に、塩素化ポリオレフィン系インキとして塩素化PP(ポリプロピレン)系インキを用いた上で、前記基材フィルムやシーラント層もPP(ポリプロピレン)で構成すれば、モノマテリアル化が可能となるため、リサイクル適性を向上させることができる。
【0017】
次に、本発明に係る印刷システムは、共通の印刷資材に対し、グラビア印刷により高隠蔽層を印刷するグラビア印刷ユニットと、前記共通の印刷資材に対し、フレキソ印刷により、前記高隠蔽層よりも被覆範囲が限定されているか、或いは、前記高隠蔽層よりも低い隠蔽力を有する低隠蔽層を印刷するフレキソ印刷ユニットと、を具備する。
【0018】
本発明において、前記グラビア印刷ユニットは、前記共通の印刷資材に対し、前記グラビア印刷により前記印刷資材の流れ方向に等ピッチで形成された位置合わせ用マークを印刷することが好ましい。これによれば、彫刻やエッチングなどによって高精度で製版されるグラビア版で位置合わせ用マークが形成されるので、当該位置合わせ用マークにより、前記印刷資材を使用する際における印刷資材の流れ方向の位置合せを高精度に実行できる。この場合において、前記グラビア印刷ユニットは前記位置合わせ用マークとともに見当調整用の基準見当マークを印刷するように構成され、前記基準見当マークに基づいて、前記フレキソ印刷ユニットを前記流れ方向に見当調整する見当調整制御装置をさらに具備することが望ましい。これによれば、位置合せ用マークと同じグラビア版で形成した基準見当マークに基づいて見当調整が行われるため、低隠蔽層及び高隠蔽層からなる複数の印刷パターンで構成される印刷領域を位置合わせ用マークに同期するように精度よく形成することができる。
【0019】
また、別の本発明に係る印刷システムは、共通の印刷資材に対して印刷を施すグラビア印刷ユニット及びフレキソ印刷ユニットを具備し、前記グラビア印刷ユニットとして、少なくとも第1の前記グラビア印刷ユニットと第2の前記グラビア印刷ユニットとを有し、前記第1のグラビア印刷ユニットと前記第2のグラビア印刷ユニットの間に前記印刷資材に対して順次に印刷を施す複数の前記フレキシ印刷ユニットを有することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、共通の印刷資材に対して前記第1のグラビア印刷ユニットにより高隠蔽層を印刷し、その後、複数のフレキシ印刷ユニットを用いて上記高隠蔽層上に複数の低隠蔽層を順次に印刷していくことで、表刷りを実施することができるとともに、共通の印刷資材に対して複数のフレキシ印刷ユニットを用いて複数の低隠蔽層を順次に印刷した後に、それらの上に前記第2のグラビア印刷ユニットにより高隠蔽層を印刷することで、裏刷りを実施することができる。このため、要求や状況に応じて前者の表刷りと後者の裏刷りを任意に選択して上記の印刷方法を好適に実施することが可能になるとともに、グラビア印刷ユニットとフレキソ印刷ユニットとを組み合わせて用いることにより、高隠蔽層の隠蔽力の確保による印刷品位の向上、印刷コストの低減、多品種小ロットへの対応容易化を図ることができる。
【0021】
本発明において、前記グラビア印刷ユニットと前記複数のフレキソ印刷ユニットとの間に、前記共通の印刷資材の表裏を反転させる反転ユニットをさらに有することが好ましい。これによれば、第1のグラビア印刷ユニット又は第2のグラビア印刷ユニットとフレキソ印刷ユニットとの間に反転ユニットを有することにより、前記第1のグラビア印刷ユニット又は前記第2のグラビア印刷ユニットにより、印刷面とは反対側の面上にヒートシール等の接着用のパートコートを印刷したり、裏刷り印刷時において表面にオーバーコート層を印刷したりすることが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、グラビア印刷とフレキソ印刷を組み合わせた印刷方法及び印刷システムにおいて、印刷の高品位化、低コスト化、多品種小ロットへの対応容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る印刷方法を実施するための印刷ステップ若しくは印刷システムの実施形態の概略構成を模式的に示す概略構成図である。
図2】同実施形態の印刷ステップ若しくは印刷システムを用いて樹脂フィルムに対して裏刷り印刷を施す例を模式的に示す概略構成図である。
図3】同実施形態の印刷ステップ若しくは印刷システムを用いて樹脂フィルムに対して表刷り印刷を施す例を模式的に示す概略構成図である。
図4】同実施形態の印刷ステップ若しくは印刷システムを用いて樹脂フィルムに対して表刷り印刷を施すとともに反転ユニットを用いて裏面にパートコート剤を塗布する例を模式的に示す概略構成図である。
図5】本発明に係る印刷システムにおけるグラビア印刷ユニット及びフレキソ印刷ユニットの内部構造を模式的に示す概略構成図である。
図6】同実施形態の裏刷り印刷の実施例によって構成される積層印刷体を模式的に示す印刷概略構成図(a)と、表刷り印刷の実施例によって構成される積層印刷体を模式的に示す印刷概略構成図(b)である。
図7】同実施形態のグラビア印刷ユニットにおいて用いられるグラビア版の版胴に設けられた好ましいセルの配列態様の平面形状を示す平面図(a)及び平坦な深さ形状を示すB-B端面図(b)、従来及び他の印刷層の印刷に用いられる異なる版胴のセルの平面図及び端面図(c)、並びに、従来及び他の印刷層の印刷に用いられる別の版胴のセルの平面図及び端面図(d)である。
図8】同実施形態の別の実施例によって構成される印刷積層体の構成要素を模式的に示す印刷概略構成図(a)と、当該印刷積層体の断面構造を模式的に示す概略断面図(b)である。
図9】本発明に係る別の実施形態の印刷システムにおける各印刷ユニットの間にそれぞれ設けられる見当調整制御装置の構成例を示す概略構成図である。
図10】さらに別の実施形態の一つの実施例において、グラビア印刷ユニットによってフィルム資材に印刷される位置合せ用マークと、各印刷ユニットによって印刷される見当合わせ用のレジスタマークと、印刷パターンが積層されてなる印刷領域との関係を模式的に示すフィルム資材の拡大部分説明図(a)、及び、異なる他の実施例において、同様の関係を模式的に示すフィルム資材の拡大部分説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1を参照して、本発明に係る印刷方法の実施形態、並びに、印刷システムの実施形態の全体構成について説明する。
【0025】
図1は、印刷方法及び印刷システムの実施形態の構成を模式的に示す概略構成図である。この実施形態では、共通の印刷資材PMを供給する繰出ロールなどを備える印刷資材供給ユニットU1を有する。この印刷資材供給ユニットU1では、帯状の印刷資材PMを複数の印刷ステップ若しくは印刷ユニットU2-U8へ供給する。印刷資材PMとしては、樹脂材料、紙材料、布材料などからなる種々の材料を用いることができるが、軟包装材として用いる場合には、樹脂フィルムが好ましく、特に、透光性を有する樹脂フィルムが望ましい。典型的には、食品用包装材等として、透明な樹脂フィルムが用いられることが望ましい。
【0026】
複数の印刷ユニットU2-U8は、共通の上記印刷資材PMが順次に通過できるような印刷経路を構成し、各印刷ユニットU2-U8の少なくとも一部において印刷された印刷資材PMは巻取ロー?などを備える印刷資材回収ユニットU9に回収される。図示例では、複数の印刷ユニットU2-U8が床面と平行な印刷経路に沿って配列されたインライン型の印刷システムを表示しているが、複数の印刷ユニットが印刷経路に沿って配置されてなる他の形式のもの、例えば、センターインプレッション型やスタック型などで構成してもよい。一方、複数の印刷ステップは、上記のように印刷経路に沿って配列された複数の印刷ユニットによって行われる必要はなく、単に、共通の印刷資材PMに対して、或る印刷ステップの次に、別の印刷ステップが順次に実施されるようになっていればよい。しかしながら、説明の都合上、以下では、印刷経路に沿って配置された複数の印刷ユニットU2-U8が順次に各印刷ステップを実施していく場合について説明する。ただし、当該説明は、印刷経路に対する印刷ユニットの配列態様に拘わらず、共通の印刷資材PMに対して複数の印刷ステップU2-U8が順次に実施される印刷方法の記述としても理解されるべきである。
【0027】
上記複数の印刷ユニットU2-U8の中には、二つのグラビア印刷ユニットU2及びU8と、その他の複数のフレキソ印刷ユニットU3-U7とが含まれる。グラビア印刷ユニットU2,U8には、図5に示すグラビア印刷ユニット10A、10Bに描かれているように、インキパン11、版胴12、ドクター(ブレード)13,圧胴14、温風などによって印刷された印刷資材PMを乾燥させる乾燥部15が設けられる。版胴12の表面(外周面)には、印刷パターンに対応するように、多数の凹状のセルが形成される。インキパン11内のインキその他の液体(コート剤など)は、版胴12の上記セル内に充填され、ドクターブレード13によってセル外の余分なインキその他の液体が除去された後に、圧胴14との間に供給される印刷資材PMにインキその他の液体が転写される。グラビア印刷ユニット10A,10Bは、通常、共通の印刷資材PMの印刷経路に沿った複数の印刷ユニットのうち、複数の印刷ユニット20A-20Eを挟んで上流側と下流側に少なくとも一つずつ配置される。特に、図示のように、上記印刷経路の最初と最後にそれぞれ一つずつ配置されることが好ましい。
【0028】
グラビア印刷ユニットU2,U8における版胴12は、新たなシリンダを用意するか、若しくは、使用済みのシリンダを加工修正して(好ましくは金属製の)ベースシリンダを調製する。次に、このベースシリンダの表面にセル形成層(銅めっき層)を形成した後に、製版工程に入る。製版工程では、一般的にはレーザー製版や彫刻製版などが用いられる。例えば、レーザー製版を用いる場合には、シリンダの表面に感光材を塗布し、その後、レーザー光で露光し、現像により印刷すべき模様(図柄や文字列)に対応するマスクパターンを形成する。このマスクパターンを残した状態でエッチングを行うことにより、所定のセルを備えた印刷パターンを上記セル形成層に形成する。このようなグラビア版胴では、凹版であるために印刷資材PMに供給可能なインキ量を十分に確保できるとともに、耐久性の高い版を形成できるので、印刷回数を多く確保できれば、或る程度のコストで、高濃度の印刷パターンを形成できる。従来のフレキソ印刷による高隠蔽層の形成では、同じ高隠蔽層(ベタ刷り層)について二度刷りなどの複数の印刷工程を行う必要があったが、本実施形態では、グラビア印刷を用いることで、単一の印刷工程であっても、十分な印刷品位を確保できる。
【0029】
フレキソ印刷ユニットU3-U7には、図5に示すフレキソ印刷ユニット20A-20Eに描かれているように、インキ供給部21からインキが供給されるアニックスロール22,版胴23、圧胴24、乾燥部25が設けられる。版胴23には、プラスチックやゴムなどの樹脂材料からなる刷版が感光処理などによって凸版として形成され、この刷版を、筒状のベースロール上に貼り付け固定することにより版胴23が形成される。なお、インキ供給部21はインキを供給するためのポンプなどに接続され、ドクターブレードを備えたものが望ましいが、グラビア印刷と同様のインキパンで構成するようにしてもよい。フレキソ印刷ユニットU3-U7では、刷版の製造が容易であるため、製版コストが低廉であるとともに製版時間も短いことから、版替えを低コストかつ短時間に行うことができ、従って、多品種小ロットの印刷ニーズにもよく適合する。図5に示すフレキソ印刷ユニット20A-20Eに示すように、通常、本発明では特に限定されないが、本実施形態では、種々の印刷態様に対応可能とするために、フレキソ印刷ユニットの数を、複数設けるようにし、さらに好ましくはグラビア印刷ユニット10A,10Bの数よりも多く設ける。また、これらの複数のフレキソ印刷ユニット20A-20Eは、印刷資材PMが案内される印刷経路に沿って互いに連続して配置される。これにより、複数のフレキソ印刷ステップを用いることによる種々の印刷態様において、低コスト化や多品種小ロットへの対応容易化の効果をさらに効果的、効率的に実現することができる。
【0030】
凹版を用いるグラビア印刷ユニットU2,U8で用いられる水性インキとしては、着色剤(顔料)、バインダー樹脂、及び、水やアルコール類などの水溶性溶媒を含む。ここで、着色剤の濃度は、1質量%以上60質量%以下の範囲で調製することが可能ではあるが、特に、グラビア印刷において乾燥性を向上させるために、上記着色剤の含有量を、通常の油性インキ(一般的には10-13質量%程度)よりも高く、15質量%以上25質量%以下にすることが好ましい。この中でも、特に、20質量%以上25質量%以下にすることが望ましい。これにより、インキとしての性能(流動性、定着性等)や印刷層の品位を確保しつつ、水性インキであることによる乾燥性の低下を抑制したり、補ったりすることができる。また、水溶性溶媒としては、速乾性を確保するために、アルコールを多く用いることが望ましい。
【0031】
グラビア印刷によって形成される印刷層としては、一般的には、階調性を有する高精細の写真などが好適とされている。しかし、このような印刷層にグラビア印刷を用いることにより、製版コストが高く、版替えに時間がかかるため、全体として印刷コストが増大し、また、多品種小ロットの印刷に対応することが難しくなる。そこで、本実施形態では、グラビア印刷ユニットU2,U8では、ベタ刷りなどの高濃度で隠蔽性の高い高隠蔽層の印刷を行うようにしている。高隠蔽層としては、フレキソ印刷ユニットU3-U7によって印刷される低隠蔽層よりも被覆範囲が広い層であるか、或いは、前記低隠蔽層よりも高い隠蔽力を有する層であるかであることが望ましい。隠蔽力の大小は、通常、網点の密度によって表現される。本実施形態の高隠蔽層の網点密度は85%以上であることが好ましく、特に、95%-100%の範囲内であることが望ましい。なお、グラビア印刷の線数は特に限定されないが、130線以上であることが好ましく、150線以上であることが望ましく、175線以上であることがさらに望ましい。
【0032】
また、凸版を用いるフレキソ印刷ユニットU3-U7では、水性インキに対する適合性が高く、乾燥時間も短くて足りるため、多くの印刷層を重ねるような印刷物であっても、高速に印刷することが可能となるため、文字や記号、絵柄、模様などのいずれの印刷についても印刷コストを抑制することができる。フレキソ印刷ユニットU3-U7において用いられる水性インキとしては、着色剤(顔料)、バインダー樹脂、及び、水やアルコール類などの水溶性溶媒を含む。ここで、着色剤の濃度は、1質量%以上60質量%以下の範囲で調製することが可能ではあるが、特に、フレキソ印刷においてインキ量が制限されるために濃色化が難しいことから、上記着色剤の含有量は、上記グラビア印刷ユニット2,8で用いられる水性インキと同様に、15質量%以上25質量%以下であることが望ましい。この中でも、特に、20質量%以上25質量%以下にすることがさらに望ましい。
【0033】
フレキソ印刷によって形成される印刷層としては、色彩、階調、パターンの少なくとも一つが異なる複数の印刷層が挙げられる。各印刷層は、文字や記号、絵柄、模様の少なくとも一つが含まれることが望ましい。本実施形態では、フレキソ印刷ユニットU3-U7では、低隠蔽層の印刷を行うようにしている。この低隠蔽層は、グラビア印刷ユニットU2,U8によって印刷される高隠蔽層よりも被覆範囲が狭い層であるか、或いは、前記高隠蔽層よりも低い隠蔽力を有する層である。隠蔽力の大小は、通常、網点の密度によって表現される。本実施形態の低隠蔽層の網点密度は85%以下であることが好ましく、80%-0%の範囲内であることが望ましい。なお、フレキソ印刷の線数は特に限定されないが、130線以上であることが好ましく、150線以上であることが望ましく、175線以上であることがさらに望ましい。
【0034】
(第1実施例)
次に、図2を参照して、透光性フィルム、好ましくは透明フィルムを印刷資材PMとし、この印刷資材PMの裏面上に印刷層を積層する、裏刷り印刷を施す場合の印刷方法及び印刷システムの第1実施例の構成について説明する。この裏刷り印刷においては、図6(a)に示すように、印刷資材PMである基材2の裏面(包装資材であれば包装の内面に相当する面)上に、第1印刷層3aから、第2印刷層3b、第3印刷層3c、第4印刷層3dを、いずれもフレキソ印刷ユニットU3-U6によって順次に印刷し、最後に、第5印刷層3eを、グラビア印刷ユニットU8によって印刷する。この例では、第1印刷層3aが黒(BK)、第2印刷層3bがシアン(C)、第3印刷層3cがマゼンタ(M)、第4印刷層3dがイエロー(Y)である。第5印刷層3eは白であり、他の印刷層よりも被覆範囲が広いか、或いは、他の印刷層よりも高い隠蔽力を備えた(網点濃度が高い)印刷層、すなわち、高隠蔽層となっている。特に、被覆範囲は他の印刷層の全てを包含する全面的な被覆範囲であり、かつ、隠蔽力はベタ刷り(網点濃度95-100%)であることが望ましい。ここで、複数の印刷層3a‐3eによって印刷積層構造3が構成される。なお、上記の印刷過程で使用しないフレキソ印刷ユニットU7では、印刷を実施せず、印刷資材PMは当該印刷ユニットU7を単に通過することになる。
【0035】
本実施形態では、透光性を有する基材2の裏面上に、複数の印刷層3a-3eが印刷されてなる印刷積層構造3を含む積層印刷体1が形成されている。この場合、裏面(内面)上に食品などの印刷層と直接接触しないことが好ましい物質が存在するような用途(例えば、食品包装など)では、上記印刷層3a-3eの上にラミネート層4を形成して積層印刷体1を構成することもある。ただし、ラミネート層4は必須ではなく、包装用印刷体の用途によっては不要とすることもできる。
【0036】
この実施形態では、フレキソ印刷ユニットU3-U6で低隠蔽層である第1印刷層3a-第4印刷層3dを印刷し、最後のグラビア印刷ユニットU8で高隠蔽層である第5印刷層3eを印刷することによって、共通の印刷資材PMに対して、高濃度で高品位の高隠蔽層を形成できるとともに、低コストで高速に複数の低隠蔽層を形成することができる。このとき、グラビア印刷では、水性インキを用いてもなお、供給されるインキ量を確保することによって高隠蔽層を高濃度化でき、一方、フレキソ印刷では、水性インキの適合性を利用して複数の低隠蔽層の品位を確保することができる。また、グラビア印刷では、油性インキよりも高濃度の着色剤を用いることによって、水性インキであっても、高隠蔽層の高濃度を確保しつつ、高隠蔽層にピンホールやムラが生ずる可能性を低減させている。また、フレキソ印刷で用いる水性インキにおける着色剤の濃度も、上記と同様に高濃度化することにより、高濃度化が難しいフレキソ印刷でも十分な品位の色彩、階調、パターン形状を得ることが可能になる。特に、フレキソ印刷において用いられる水性インキの着色剤の濃度を、グラビア印刷ユニットU8に用いられる水性インキの着色剤の濃度よりもさらに高くすることによって、高濃度化が難しいフレキソ印刷の特性を補うことができる。
【0037】
なお、本実施例では、高隠蔽層3eを単一とし、他の複数の印刷層3a-3dを全て低隠蔽層としたことによって、印刷品位を維持しつつ、フレキソ印刷による印刷コストの低減や多品種小ロットへの対応性の向上をさらに高めることが可能となっている。この点は、以下の他の実施例でも同様である。ただし、いずれの実施例でも、高隠蔽層と低隠蔽層が認識できる状況であれば足り、上記構成に限定されるものではない。
【0038】
(第2実施例)
次に、図3を参照して、印刷資材PMの表面上に印刷層を積層する、表刷り印刷を施す場合の印刷方法及び印刷システムの第2実施例の構成について説明する。この表刷り印刷においては、図6(b)に示すように、印刷資材PMである基材2′の表面上に、第1印刷層3a′をグラビア印刷ユニットU2により印刷し、その後に、第2印刷層3b′、第3印刷層3c′、第4印刷層3d′、第5印刷層3e′を、いずれもフレキソ印刷ユニットU3-U6によって順次に印刷する。この例では、第1印刷層3a′が白であり、他の印刷層3b′-3e′よりも被覆範囲が広いか、或いは、他の印刷層3b′-3e′よりも高い隠蔽力を備えた(例えば、網点濃度が高い)印刷層となっている。特に、被覆範囲は他の印刷層3b′-3e′の全てを包含する全面的な被覆範囲であり、かつ、隠蔽力はベタ刷り(網点濃度95-100%)であることが望ましい。また、他の印刷層3b′-3e′では、第2印刷層3b′がイエロー(Y)、第3印刷層3c′がマゼンタ(M)、第4印刷層3d′がシアン(C)、第5印刷層3e′は黒(BK)である。ここで、複数の印刷層3a′-3e′によって印刷積層構造3′が構成される。
【0039】
上記の他の印刷層3b′-3e′の表面上には、必要に応じて、透光性を有する(透明な)オーバーコート層4′を形成してもよい。このオーバーコート層4′は、上記グラビア印刷ユニットU7を用いてオーバーコート剤を上記印刷積層部3′の上に印刷することによって形成することができる。本実施例では、基材2′の裏面上に、複数の印刷層3a′-3e′が印刷されてなる印刷積層構造3′を含む積層印刷体1′が形成され、これらの全体をオーバーコート層4′が被覆している。なお、本実施例では、表刷り印刷を行っているため、印刷資材PMである基材2′は透光性(透明性)を有しないものであっても構わない。ただし、オーバーコート層4′は必須ではなく、包装用印刷体の用途によっては不要とすることもできる。なお、オーバーコート層4′を形成するためのオーバーコート剤としては、水性であることが望ましいものの、有機溶剤を用いた油性のオーバーコート剤を用いることもできる。
【0040】
(第3実施例)
次に、図4を参照して、印刷資材PMの表面上に印刷層を積層する、表刷り印刷を施す場合の印刷方法及び印刷システムの第2実施例の構成について説明する。この表刷り印刷においては、図6(b)に示すように、印刷資材PMである基材2′の表面上に、第1印刷層3a′をグラビア印刷ユニットU2により印刷し、その後に、第2印刷層3b′、第3印刷層3c′、第4印刷層3d′、第5印刷層3e′を、いずれもフレキソ印刷ユニットU3-U6によって順次に印刷する。この例では、第1印刷層3a′が白であり、他の印刷層3b′-3e′よりも被覆範囲が広いか、或いは、他の印刷層3b′-3e′よりも高い隠蔽力を備えた(例えば、網点濃度が高い)印刷層となっている。特に、被覆範囲は他の印刷層3b′-3e′の全てを包含する全面的な被覆範囲であり、かつ、隠蔽力はベタ刷り(網点濃度95-100%)であることが望ましい。また、他の印刷層3b′-3e′では、第2印刷層3b′がイエロー(Y)、第3印刷層3c′がマゼンタ(M)、第4印刷層3d′がシアン(C)、第5印刷層3e′は黒(BK)である。ここで、複数の印刷層3a′-3e′によって印刷積層構造3′が構成される。
【0041】
本実施例では、フレキソ印刷ユニットU7とグラビア印刷ユニットU8の間に、印刷資材PMの表裏を反転させる反転ユニットUIVが設けられる。この反転ユニットUIVは、印刷資材PMの表裏を逆転させて、反転ユニットUIVより前の印刷ユニットU2-U7の印刷面と、反転ユニットUIVより後の印刷ユニットU8の印刷面とを反対にする。
【0042】
本実施例では、グラビア印刷ユニットU2で第1印刷層3a′を印刷し、フレキソ印刷ユニットU3-U6で他の印刷層3b′-3e′を印刷する点では、先の第2実施例と同様である。ただし、本実施例では、上記反転ユニットUIVで印刷面を反対にした後、グラビア印刷ユニットU8によりパートコート層4″(図示せず)を印刷(塗布)する。このパートコート層4″は、印刷積層構造3′が形成された積層印刷体1′の裏面上に形成されることにより、ヒートシールなどによって接着可能なシール面を構成する。これにより、例えば、表面に印刷積層構造3′を備えた裏面同士をヒートシールすることで、包装袋を形成することが可能になる。なお、本実施例でも、表刷り印刷を行っているため、基材2′は透光性(透明性)を有しないものであっても構わない。ただし、パートコート層4″は必須ではなく、シーラント層を形成したり、シーラントフィルムをラミネートする場合など、包装用印刷体の構造や用途によっては不要とすることもできる。
【0043】
なお、本実施例では、フレキソ印刷ユニットU7とグラビア印刷ユニットU8の間に反転ユニットUIVを配置しているが、反転の前後で印刷資材PMの面を反転させて処理するステップが実施されるのであれば、グラビア印刷ユニットU2とフレキソ印刷ユニットU3の間に反転ユニットUIVを配置しても構わない。
【0044】
(その他の実施例)
上記各実施例では、全ての印刷層を水性インキを用いて形成しているが、いずれか少なくとも一つの印刷層を油性インキを用いて形成しても構わない。例えば、金色や銀色については、水性インキが入手しにくい場合や要求される印刷品位に適しない場合があるので、油性インキを用いることが好ましい。また、印刷品位の観点から見て、金色や銀色の印刷層は、グラビア印刷(ユニット)により形成することが望ましい。この場合において、上記実施例に用いられる印刷システムを用いるときには、二つのグラビア印刷ユニットU2とU8のうちの一方を高隠蔽層(ベタ刷り層、例えば、白)の形成に用い、他方を低隠蔽層である金色や銀色の印刷層或いは油性インキを用いた印刷層の形成に用いることができる。また、金色や銀色の印刷層或いは油性インキを用いた印刷層を高隠蔽層(ベタ刷り層)とすることも可能である。さらに、水性インキを用いにくい色彩、階調、パターンを有する印刷層を油性インキを用いて形成し、それ以外の色彩、階調、パターンを有する印刷層を水性インキを用いて形成するようにしてもよい。
【0045】
ここで、高隠蔽層と低隠蔽層の印刷の少なくとも一方に水性インキを用いることが好ましい。これは、高隠蔽層と低隠蔽層は互いに要求される印刷品位が異なるため、いずれか一方にのみ水性インキを用いても品刷品位として大きな問題は生じないためである。特に、複数の低隠蔽層に水性インキを用いることによってVOCの低減効果を十分に確保することができる。
【0046】
図7(a)及び(b)には、本実施形態に係るグラビア印刷ユニットU2,U8に用いられる版胴12の表面に形成された印刷パターン12Pを構成するセル122の形状及びその断面構造を示す。この版胴12では、ハニカム状の平面形状を備えたセル122をセル形成層121に形成する。各セル122の間にはセルが形成されていないセル間領域(土手)123が設けられている。ここで、セル122の平面形状及びセル122を取り巻くセル間領域123の平面形状は共に正六角形となっている。また、複数のセル122及びセル間領域123は最密充填態様で配列されている。一般的には、図7(a)及び(b)に示すセル122、図7(c)に示す版胴12′に設けられたセル122′、図7(d)に示す版胴12″に設けられたセル122″のいずれのセル形状を用いることもできるが、本実施形態では、高隠蔽層を形成する場合、特に、水性インキを用いる場合には、ハニカム形状のセル122を用いることが好ましい。もっとも、グラビア印刷においては、一般的には、ハニカム形状とは異なる形状、例えば、スクエア(ひし形)形状や電子彫刻によるコンブレストセル、ノーマルセル、エロンゲートセルなどを用いてもよい。
【0047】
水性インキを使用する場合において、セル122の平面形状をハニカム形状とすることにより、図7(c)に示すスクエア(ひし形)形状のセル122′の場合に比べてセル間領域123の交点における濃度変化が小さくなり、均一な印刷濃度が得られる。また、セル122は平坦な底面122aを有する。これにより平坦な深さ分布を備えるため、図7(d)に示す電子彫刻方式による深さが大きく変化するセル122″の構造と比べて、転移する水性インキの厚みが平坦化されやすい。このため、水性インキの乾燥速度が向上することから、ブロッキングが生じにくくなるので、印刷速度を上げることができる。なお、図7(a)に示すハニカム形状のセル122の印刷パターン12Pは、図示上下方向をシリンダの円周方向にほぼ合わせた態様として用いた。図示のセル122の上下方向の側辺と円周方向との角度差は通常数度以内である。
【0048】
ここで、セル122のセル深度SDは13μmを基準とし、SD=11~16μmの範囲で調整する。特に、12~15μmの範囲内であることが好ましく、12.5~14.0μmの範囲内であることが望ましい。セル深度SDについて、これらの範囲を下回ると、印刷層において十分な色濃度を得ることが難しくなる。逆に、これらの範囲を上回ると、色濃度の増加率が低下するとともに、水性インキが乾燥しにくくなることから、印刷速度を上げることが難しくなり、印刷速度を上げるとブロッキングが発生しやすくなる。
【0049】
また、縦横のセルピッチLDは、それぞれ線数250LPIにほぼ対応する100μmを基準とし、線数200~350LPIにほぼ相当するLD=73~127μmの範囲で調整する。特に、線数200~300LPIに相当する85~127μmの範囲内であることが好ましい。セルピッチLDについて、これらの範囲を下回ると、必要な転移量を得るためのセル容量比を確保することが難しくなる。このとき、セル容量比を確保するために、セル間領域123の幅WRを小さくすると、ドクターブレードによる欠けが発生しやすくなる。ただし、本実施形態の水性インキを用いた印刷方法では、セル122のセル深度SDが小さいため、セル間領域123の幅WRが比較的小さくても、セル122とセル間領域123の境界部分の側面の傾斜角がなだらかになるため、版胴12の損傷の危険性が比較的小さいと考えられる。このため、後述するように、セル深度SDと幅WRを共に小さくして、印刷速度の向上と転移量の確保を両立させることが可能である。逆に、上記セルピッチLDについて、上述の範囲を上回ると、各セル122に溜まるインキ量が増大するので、基材に転移したインキが渇きにくくなり、印刷速度を上げることが難しくなる。
【0050】
セル間領域123の幅WRは12~16μmの範囲内であることが好ましく、13~15μmの範囲内であることが望ましい。特に、WR=13~14μmの範囲内であることがさらに望ましい。セル間領域123の幅WRについて、これらの範囲を下回ると、ドクターブレードによる欠けが発生しやすくなる。逆に、これらの範囲を上回ると、必要な転移量を得るためのセル容量比を確保することが難しくなる。特に、本実施形態では、セル深度SDを前述のように小さい範囲に制限し、浅版化しているため、必要な転移量を得ることは一般的な油性インキを用いる場合よりも困難になっている。したがって、幅WRを大きくすることの印刷品位への影響は大きい。特に、後述するようにベタ印刷を行う場合には、転移量を或る程度大きく確保するために、WR=12~14μmの範囲内であることが望ましい。
【0051】
なお、油性インキを用いる工程では、乾燥性のよい油性インキを用いるためにセル深度を大きく設定することもできるので、印刷濃度はセル深度により制御される。このため、上記セル間領域123の幅WRを小さく設定する意義は薄い。しかし、水性インキを用いる場合には、乾燥性を考慮し、上記幅WRの範囲を小さくすることが考えられる。ただし、この工程では、上記幅WRを上述のように小さく設定するかどうかは、必要な印刷濃度に依存する。また、この工程では、また、印刷濃度をセル面積により制御する場合(網点グラビア、すなわち、ハードドット法やソフトドット法)には、上記幅WRは実質的に大きく変化することとなる。本実施形態では、グラビア印刷によって高隠蔽層を形成するため、上記幅WRを小さくすることによって、高濃度化が容易になり、印刷品位の向上と印刷コストの低減を両立しやすくなる。
【0052】
上述のようにしてセル122を配列させた印刷パターン12Pが形成されると、表面をクロムめっきなどにより硬質化する。その後、欠点や深度の検査を必要に応じて実施する。最後に、クロムめっき等によるバリを除去するとともに、セル間領域123の表面に微細な傷痕を付けることにより、ドクターブレードの潤滑性を高めるための表面研削を実施する。この表面研削は、上記セルピッチLD内に、1~100本程度、好ましくは5~50本程度の傷痕を備え、上記セル間領域123の延在方向に対して傾斜する方向に形成されることが好ましい。例えば、傷痕の傾斜角度はシリンダの円周方向に対して10~40度の角度範囲と、これと逆の-10~-40度の角度範囲で相互に交差するように形成されることが望ましい。
【0053】
上記傷痕の深さは、0.05~0.5μmの範囲内であることが好ましく、特に、0.10~0.20μmの範囲内であることが望ましい。これらの範囲を下回ると、潤滑性に劣る水性インキを使用する場合にはドクターブレードと版胴の摩耗が大きくなり、逆に、これらの範囲を上回ると、版かぶりなどにより印刷品位が劣化する。潤滑性の低い水性インキを使用する場合には、上記傷痕による潤滑性の向上が特に有効である。また、上記傷痕の幅は、0.5~5.0μmの範囲内であることが好ましく、特に、1.0~2.0μmの範囲内であることが望ましい。
【0054】
本実施形態では、上記のようにして製造した版胴12を用いて、図2に示す第1実施例では、グラビア印刷ユニットU8により第5印刷層3eの印刷を実施し、また、図3及び図4に示す第2及び第3実施例では、グラビア印刷ユニットU2により第1印刷層3a′の印刷を実施する。各実施例では、いずれも5層を印刷しているが、層数や色相はこれに限定されるものではなく、種々の構成を用いることができる。例えば、各図に示すフレキソ印刷ユニットU7により特色を用いて印刷を行ってもよい。いずれの場合でも、それによって印刷積層構造3、3′が形成される。
【0055】
本実施形態では、グラビア印刷ユニットU2,U8において、上述の凹版である版胴12を高隠蔽層である第5印刷層(白)3e又は第1印刷層3a′(白)を印刷するために用いる。これらの印刷層は、印刷積層構造3、3′の背景部分を構成するベタ版であり、最シャドウ部を構成するための印刷パターン12Pにより水性インキを用いて形成される。凹版を用いたグラビア印刷により高隠蔽層を形成することにより、セル深度SD等によって濃度を高めやすくなるため、高隠蔽層の隠蔽力を増大させることが容易化されるとともに、ピンホールやムラを低減することができる。特に、水性インキを用いる場合でも、高濃度の印刷が可能であるため、全体として、印刷物の印刷品位を確保しつつ、水性インキを用いることによるVOC対策を図ることが容易になる。このとき、水性インキとして、着色剤の濃度を15質量%以上、特に、20質量%以上に高くしたものを用いることによって、水性インキの乾燥性の低下を補うことができるとともに印刷層の隠蔽力を確保することができる。好適な着色剤の濃度としては、15質量%以上25質量%以下を挙げることができる。
【0056】
本実施形態では、版胴12において、ハニカム形状の平坦な深さ11~16μmを備えるセル122を配列させてなる印刷パターン12Pを用いることにより、水性インキを用いて印刷する場合でも、140~170m/分の高い印刷速度で印刷することができる。特に、線数を200~350LPI(line per inch)とすることによって、ブロッキングの発生確率をさらに低下させ、印刷速度をさらに高めることができる。
【0057】
また、印刷積層構造3,3′における低隠蔽層である他の印刷層は、フレキソ印刷ユニットU3-U7において、上述の凸版である刷版を備えた版胴23を用いて水性インキを用いて形成される。凸版を用いたフレキソ印刷により色彩、階調、パターンの少なくとも一つが異なる複数の低隠蔽層を形成することにより、印刷コストを全体として低減することができるとともに、版替えの容易化によって多品種小ロットに対応しやすくなるという利点が得られる。特に、水性インキを用いる場合でも、インキの塗布量が少ないために乾燥させやすいことから、複数の低隠蔽層を低コストで形成できるので、印刷コストを抑制しつつ、水性インキを用いることによるVOC対策を図ることが容易になる。このとき、水性インキとして、着色剤の濃度を15質量%以上、特に、20質量%以上に高くしたものを用いることによって、水性インキの乾燥性の低下を補うことができるとともに、色彩、階調、パターン等に関し、印刷品位の低下を抑制できる。好適な着色剤の濃度としては、15質量%以上25質量%以下を挙げることができる。なお、フレキソ印刷に用いる水性インキの着色剤の濃度は、文字や記号、絵柄、模様などの印刷態様によっては、グラビア印刷に用いる上記水性インキよりもさらに高くしてもよい。
【0058】
本実施形態では、グラビア印刷ユニットU2,U8によって高隠蔽層を形成し、フレキソ印刷ユニットU3-U7によって複数の低隠蔽層を形成することにより、高隠蔽層の隠蔽力を確保し、ピンホールやムラを低減することができるとともに、全体としての印刷コストの低減を図ることができ、さらに、多品種小ロットの印刷に対応することが容易化されるという、顕著な効果を奏する。特に、高隠蔽層を単一で構成しても印刷品位をそれほど低下させずに済むので、グラビア印刷を1回だけ実施すればよくなるため、全体としては、フレキソ印刷による効果を高めることが可能になり、コストの低減効果や多品種小ロットに対する適合性を向上させることができる。
【0059】
また、上記グラビア印刷とフレキソ印刷の双方に水性インキを用いることにより、VOC対策を図りつつ、水性インキの乾燥性の悪化による影響を最小限に抑制することができる。特に、グラビア印刷によって高隠蔽層を高品位(高濃度)で形成することができるとともに、グラビア版のセルをハニカム形状の平坦な底面を備える構造とすることで、隠蔽力を確保しつつ、印刷速度を向上させることができる。具体的には、本実施形態では、図7(a)及び(b)に示す平坦な深さ11~16μmを備えるハニカム状のセル122を用いることにより、ブロッキングを生じさせずに、印刷速度を140~170m/分まで高めることができた。特に、線数を200~350LPIの範囲内にすることによって印刷速度を安定して高めることが可能になった。また、このように高速で印刷しても、ムラの発生がなく、濃度のばらつきや低濃度化を避けることができるので、印刷品位を犠牲にする必要がない。また、フレキソ印刷による低隠蔽層の形成と整合させ、全体として高速で印刷を実施することが可能になる。
【0060】
本実施形態において、ハニカム形状のセル122のセル深度SDが10μm以下になると、印刷層の必要な濃度が得られにくくなり、濃度ムラが生ずることもあった。また、セル深度SDが17μm以上になると、印刷濃度の向上はほとんどなくなる一方で、乾燥性が悪化し、ブロッキングの発生により印刷速度を低下させる必要がある場合も生じた。
【0061】
本実施形態において、縦横(円周方向及び軸線方向)の線数が200LPIより小さくなると、ブロッキングが生じやすくなり、印刷速度を低下させる必要が生じた。また、当該線数が350LPIを越えても、印刷速度の向上はほとんどなく、却って印刷層の濃度の低下が生じやすくなった。
【0062】
各実施例では、セル間領域123の幅WRを12~16μmとすることにより、水性インキの濃度ムラを生じさせずに、高い濃度を確保することができた。特に、WRを12~14μmとすれば、高い濃度と濃度の均一性が得られやすくなった。また、セル間領域123の幅WRを12~14μmの比較的小さな値とした場合でも、版胴10の損傷が抑制され、十分な耐久性を得ることができた。これには、セル122が浅いことによる影響もあると考えられる。特に、幅WRを13~15μmの範囲内に設定することにより、版胴12の耐久性と、印刷層の高濃度化や濃度ムラ低減とを両立することができる。一方、WRを11μm以下とした場合には、版胴12の耐久性が低下した。逆に、WRを17μm以上にする場合には、必要な濃度が得にくくなり、濃度ムラも生じやすくなった。
【0063】
本実施形態において、版胴12の表面(セル間領域123)に深さ0.05~0.5μmの傷痕を形成することにより、水性インキによる潤滑性が向上し、版胴やブレードの摩耗が抑制され、耐久性が向上した。また、版かぶりが発生しにくくなったので、品刷品位の向上に著しい効果が得られた。特に、水性インキは、必要な印刷濃度を得やすくするために顔料を高濃度に含有する場合が多いので、微細な傷痕を設けることによる潤滑性の向上作用が高いものと考えられる。
【0064】
(別の実施例)
この別の実施例は、印刷資材として基材フィルムを用いて上記実施形態と基本的に共通の方法で印刷することにより包装フィルムを製造する方法及び当該方法により製造された包装フィルムに関する。この実施例では、図6(a)に示す裏刷りの印刷方法の変形例として、樹脂フィルムからなる基材2上に裏刷りにより複数の印刷層(第1印刷層3a-第5印刷層3e)を形成し、最後の高隠蔽層である第5印刷層(白)3eをグラビア印刷ユニットU8で印刷し、その後、押出ラミネートによってシーラント層4を上記第5印刷層の上に形成した場合を示す。この実施例では、基材はポリオレフィン樹脂等からなる樹脂フィルムで構成し、第5印刷層3eを塩素化ポリオレフィン系インキで構成し、シーラント層4をポリオレフィン樹脂で構成する。ここで、塩素化ポリオレフィン系インキとは、ポリオレフィンを塩素化してなる塩素化ポリオレフィン樹脂を(ビヒクルの主成分として)含有するインキである。塩素化ポリオレフィン系インキは、ポリオレフィン、例えば、ポリプロピレンに対する密着性、接着性が良好なインキである。塩素化率は20-70%の範囲内が好ましい。特に、塩素化率は20-40%程度が望ましい。塩素化ポリオレフィン系インキの具体例としては、例えば、塩素化PP(ポリプロピレン)系インキが挙げられる。この場合、グラビアインキとしては分子量が数千-数万程度で、塩素化度が25-65重量%のものが好ましい。この塩素化PP系インキを用いることにより、アンカー剤なしで、PP樹脂の押出ラミネートが可能になる。
【0065】
この塩素化PP系インキを用いて第5印刷層を形成することにより、PP樹脂の押出ラミネートによりシーラント層4を形成することができ、印刷層3とシーラント層4との接着性も良好とすることができ、シーラント層4の剥離も防止できる。特に、第5印刷層3eは高隠蔽層として形成されるため、それ以前の第1印刷層3a-第4印刷層3dに対する被覆性が高い。このため、シーラント層4に対する接着性の向上やシーラント層4の剥離の防止の効果を高めることが可能になる。なお、第5印刷層3eは高隠蔽層であることによって被覆性が向上し、表面が均一化されることで、シーラント層4の積層状態が安定化する。特に、第5印刷層3eに塩素化PP系インキ等の塩素化ポリオレフィン系インキを用いることにより、シーラント層4との密着性をさらに向上できる。なお、第1印刷層3a-第4印刷層3dは、塩素化PP系インキに限らず、種々のインキ、例えば、水性インキを用いることができるなど、先の各実施例と同様に構成できる。また、この実施例では、PP樹脂によって基材2もシーラント層4も構成でき、接着剤も不要であるため、モノマテリアル化が可能となり、リサイクル適性を向上させることができる。例えば、基材2をOPP((二軸)延伸ポリプロピレン)、シーラント層4をPP(ポリプロピレン)で構成することができる。
【0066】
(別の実施形態)
次に、図9及び図10を参照して、別の実施形態について説明する。本実施形態では、図9に示すように、上記の先の実施形態と同様のグラビア印刷ユニットGUと複数のフレキソ印刷ユニットFUとを有する印刷システムが構成される。この実施形態では、先の実施形態でも備えてあるが、説明を省略した自当調整制御装置(若しくはカラーコントロール装置)110Sを具備する。この見当調整制御装置110Sは、印刷システム全体を制御する制御部100Sによって制御される。見当調整制御装置110Sは、印刷システムの各印刷ユニットU2-U8の出口に設けられたマーク検出部111-117からの検出信号を受け取り、同印刷ユニットU2-U8内に設けられた見当調整部121-127に制御信号を送出する。マーク検出部111-117は、一般的には、印刷資材である基材2上に印刷層が積層されてなる印刷積層体1に設けられたレジスタマークM2―M8(図10参照)のうち、既定のマークの位置、或いは、既定の二つのマークの間の距離などのマーク位置情報を光電センサやカメラ画像に対する画像処理などによって検出し、当該マーク位置情報を見当調整制御装置110Sに送出する。見当調整制御装置110Sは、上記マーク位置情報に基づいて、各印刷ユニットU2-U8に設けられた見当合わせ用の見当調整部121-127に制御信号を送出し、各見当調整部121-127では、印刷資材の流れ方向(縦方向、搬送方向、印刷方向)及び幅方向(左右方向、横方向)の見当合わせが実行される。見当調整部121,127は、流れ方向の見当調整構造として、当該流れ方向の位相を修正するための各種機構を備える。例えば、コンペンセータロールを用いるコンペンセータロール方式や、セクショナルドライブ構造を用いた版胴位相制御方式などの各種の流れ方向の位相を調整する見当合わせ機構を用いることができる。
【0067】
レジスタマークM2-M8の流れ方向Fの間隔C(N-1番目の印刷ユニットによるレジスタマークMN-1と、N番目の印刷ユニットによるレジスタマークMとの流れ方向Fの間隔)は、基本的に、C=CN-1+ΔC(N=3以上の自然数)となっており、CN-1は、各マークの位置を意図的にずらすための印刷シフト量である。具体的には、C,C=C+ΔC,・・・,C=C+ΔCとなっている。ここで、ΔCは、複数の印刷ユニットのうちのN―1番目の印刷ユニットと、N番目の印刷ユニットの間の印刷位相のずれである(ΔC=C-CN-1)。本実施形態の場合、グラビア印刷ユニットGUである印刷ユニットU2とU8では、版胴が彫刻やエッチング等によって形成されるため、版胴における版自体のズレは基本的に問題となりにくいことから、版胴の位相ズレのみが問題とされる。一方、フレキソ印刷ユニットFUである印刷ユニットU3-U7では、版胴にフレキソ版を物理的に装着する構造となっている場合、版胴の位相ズレに加えて、版胴に対して装着されるフレキソ版の装着時の位置ずれに起因する版ズレやフレキソ版の装着時の伸びの度合にも影響される。フレキソ印刷ユニットFUでも、版胴に対する位置ズレを回避することのできる製版方法は存在するが、このような製版方法の採用は印刷コストを増大させる。印刷コストを抑制する場合、フレキソ版の装着時の位置ずれや伸長を吸収可能とするためには、レジスタマークM3-M7の位置情報(隣接するレジスタマークとの距離を含む)を読み取り、レジスタマークM2を基準(基準見当マーク)としたレジスタマークM3-M7の位置情報に基づいて、版ズレを解消するように、流れ方向の見当合わせ動作を見当調整制御装置110Sの制御下で各見当調整部121-127において実行すればよい。
【0068】
本実施形態では、レジスタマークM2-M8とは区別可能な態様、例えば、平面パターンの形状などが異なる態様に設定された位置合わせ用マークP2を、最初のグラビア印刷ユニットU2で印刷する。前述のように、グラビア版は、版胴において印刷パターンを等ピッチLで正確に割り付けることができるため、位置合わせ用マークP2もまた、上記のレジスタマークM2と同様に、等ピッチLで正確に印刷することができる。位置合わせ用マークP2は、印刷積層体1の使用時において位置決めを行うときの基準位置を示すマークである。例えば、印刷積層体1を包装フィルムとして印刷した場合、当該包装フィルムによって商品を包装する際の充填包装や、袋を製造する製袋加工などのような、印刷積層体1の使用時における包装体や袋体を製造するための位置決めマーク(例えば、光電管マーク)として用いることを可能とする。このとき、グラビア印刷ユニットの版胴(円筒状シリンダー)においては、彫刻やケミカルエッチングなどで微細な穴を設けて印刷版を高精度で形成できるため、このグラビア版で形成される位置合わせ用マークP2やレジスタマークM2の印刷位置は版ごとのばらつきが少ない。すなわち、グラビア版で印刷される位置合わせ用マークP2及びレジスタマークM2も等ピッチで高い位置精度により形成されることとなる。このことは、複数の印刷パターンを流れ方向に複数割り付ける場合にも、複数のマークを等ピッチで印刷できる点で有利である。
【0069】
一方、フレキソ版では、版胴にシート状の樹脂版を巻き付ける方法を採用した場合、取付時の樹脂版の合わせ目(つなぎ目)に隙間ができたり、樹脂版が伸長したりすることがあるなどの理由から、流れ方向に版ズレが生ずる可能性がある。この版ズレは、通常の見当調整制御装置110Sによる印刷ユニット間の見当合わせ(カラーコントロール)によって解消することができるが、複数の印刷パターンを流れ方向に複数割り付ける場合には、上記隙間の存在により、つなぎ目に相当する部分では印刷パターンに同期した等ピッチのレジスタマークとならないため、包装フィルムなどの使用時の位置合わせ用マークを印刷する版としては問題がある。例えば、つなぎ目に相当する部分の印刷パターンが他の部分の印刷パターンよりも流れ方向に広いピッチを有することとなる場合がある。この場合には、印刷パターンごとにレジスタマークM2-M8を印刷し、ピッチの異なる部分の印刷パターンでも、ピッチの等しい部分の印刷パターンと同様に見当合わせを行うことができるようにし、また、レジスタマークM2を基準(基準見当マーク)とすることにより、位置合わせ用マークP2と同期した位置に印刷領域(絵柄)PAが形成されるように構成することができる。
【0070】
本実施形態では、グラビア印刷ユニットU2のグラビア版でレジスタマークM2とともに位置合わせ用マークP2を印刷することにより、レジスタマークM2を印刷積層体1の印刷時の見当合わせのための正確な基準位置を示すマークとして用いることができる。また、位置合わせ用マークP2も、等ピッチで正確なグラビア版によって印刷されることで、印刷積層体1の使用時において、正確な位置決めを可能としている。この場合、レジスタマークM2-M8により、上記見当調整制御装置110Sは、各印刷ユニットで印刷される版のずれを調整し、見当ズレが生じないように設定する。このとき、見当ズレが解消されれば、印刷ユニットU3-U8による印刷パターンは、グラビア版によるレジスタマークM2の位置の位相を基準に(基準見当マークとして)見当合わせが行われることで、完成された印刷領域PAは、位置合わせ用マークP2と同期した位相位置に形成されることとなる。ただし、最初のグラビア印刷ユニットU2において、位置合わせ用マークP2が印刷されるものの、印刷パターン自体が印刷されない場合であって、レジスタマークM2も印刷されないときには、印刷ユニットU3-U8の各印刷パターンがレジスタマークM3-M8に応じて適宜に見当合わせされればよいが、このとき、見当合わせされた各印刷パターンからなる印刷領域PAは、位置合せ用マークP2と正確に同期している必要はなく、位置合わせ用マークP2のピッチL内において使用時(充填機や製袋機などの使用機械)に支障がない範囲内(使用時における許容範囲内)で印刷されていればよい。しかし、この場合でも、最初のグラビア印刷ユニットU2においてレジスタマークM2を印刷しておき、各ユニットU3-U8における印刷パターンの見当合わせが上記レジスタマークM2を基準(基準見当マーク)として実行されるようにすれば、印刷領域PAは位置合せ用マークP2と完全に同期した位置に形成されるため、より好ましい。
【0071】
一方、図10(b)に示すように、位置合わせ用マークP2の代わりに、最後のグラビア印刷ユニットU8において、位置合わせ用マークP8を印刷するようにしてもよい。このときの位置合わせ用マークP8の等ピッチ化や高い位置精度の確保は、上述と全く同様に得られる。この場合、位置合わせ用マークP8は、最初のグラビア印刷ユニットU2において印刷されるレジスタマークM2を基準に(基準見当マークとして)見当合わせされた状態で最後のグラビア印刷ユニットU8において印刷されることで、完成された印刷領域PAと同期した位置に形成することができる。なお、裏刷りの場合などのように、最初のグラビア印刷ユニットU2を全く使うことなく印刷を行うときには、見当調整制御装置110Sにより、既に印刷されたレジスタマークM3-M7に合わせて、最後のグラビア印刷ユニットU8において(必要であればレジスタマークM8とともに)位置合わせ用マークP8を印刷するようにしてもよい。この場合でも、グラビア版を用いることで、高精度の等ピッチ化されたマーキングが保証される。また、表刷りと裏刷りのいずれであっても、最初のグラビア印刷ユニットU2と、最後のグラビア印刷ユニットU8のいずれかで位置合わせ用マークが印刷され、当該位置合わせ用マークと印刷パターンからなる印刷領域PAとが使用時における許容範囲内の位置関係となっていれば、上記作用効果は得られる。このとき、位置合わせ用マークが印刷される印刷ユニット、すなわち、最初のグラビア印刷ユニットU2と最後のグラビア印刷ユニットU8のいずれかでは、印刷パターン自体が印刷されていても、印刷されていなくても、構わない。
【0072】
上記位置合わせ用マークP2,P8やレジスタマークM2-M8は、それぞれの位置検出や位置決めの目的を達成するものであれば、いかなるものであってもよい。ただし、位置合わせ用マークとしては、図示のような棒状や十字(トンボ)状の平面形状を備えたものであることが好ましく、レジスタマークとしては、十字(トンボ)状や三角状の平面形状を備えたものであることが好ましい。
【0073】
なお、本発明の印刷方法、並びに、包装用樹脂フィルム印刷体の製造方法は、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本実施形態の版胴12は、レーザーにより感光させたマスクを用いたエッチング方式により製版したものであるが、本発明においては、グラビア印刷として、ハニカム形状の平坦な深さを備えたセル構造を備えたものを用いることが好ましいものの、上記製造手法に限定されるものではない。また、グラビア印刷により形成される高隠蔽層と、フレキソ印刷により形成される低隠蔽層は、相互に被覆範囲の大小又は隠蔽力の強弱が相対的に設定されたものであればよい。
【符号の説明】
【0074】
1…積層印刷体、2…基材(樹脂フィルム)、3…印刷積層構造、3a~3e…印刷層、4…ラミネート層、U2,U8,10A,10B…グラビア印刷ステップ若しくはグラビア印刷ユニット、11…インキパン、12…版胴(シリンダ)、12P…印刷パターン、122…セル、123…セル間領域、SD…セル深度、ID…セルピッチ、WR…セル間領域の幅13…ドクター、14…圧胴、15…乾燥部、U3-U7,20A~20E…フレキソ印刷ステップ若しくはフレキソ印刷ユニット、21…インキ供給部、22…アニックスロール、23…版胴、24…圧胴、25…乾燥部、UIV…反転ユニット、100S…制御部、110S…見当調整制御装置、M2-M8…レジスタマーク、P2,P8…位置合わせ用マーク、PA…印刷領域
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