(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132810
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】半導体モジュールの製造方法、回路基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/14 20060101AFI20240920BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L23/14 M
H01L23/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023163160
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2023042925
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】出野 尭
(57)【要約】
【課題】Niめっき層のはんだ濡れ性を向上させる。
【解決手段】絶縁層の一方の主面に回路パターン金属板が設けられた接合基板を準備する準備工程と、回路パターン金属板の表面にNiめっき層を形成するめっき層形成工程と、Niめっき層の表面にシュウ酸イオン含有水溶液を接触させる表面処理工程と、面処理後のNiめっき層の表面に電子部品をはんだ付けするはんだ付け工程と、を有する、半導体モジュールの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層の一方の主面に回路パターン金属板が設けられた接合基板を準備する準備工程と、
前記回路パターン金属板の表面にNiめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記Niめっき層の表面にシュウ酸イオン含有水溶液を接触させる表面処理工程と、
前記表面処理後の前記Niめっき層の表面に電子部品をはんだ付けするはんだ付け工程と、を有する、
半導体モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるように表面処理を行う、
請求項1に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記めっき層形成工程では、前記Niめっき層を無電解Ni-Pめっきにより形成し、
前記Niめっき層は、少なくともNiおよびPを含む、
請求項1又は請求項2に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下となるように表面処理を行う、
請求項3に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下となるように表面処理を行う、
請求項1又は請求項2に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記表面処理工程において、前記シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度を、シュウ酸イオンをシュウ酸に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度で0.01mass%~8mass%とし、シュウ酸水溶液の温度を1℃~40℃とし、処理時間を1秒~1000秒とする、
請求項1または請求項2に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層がセラミックス基板である、
請求項1または請求項2に記載の半導体モジュールの製造方法。
【請求項8】
絶縁層と、
前記絶縁層の少なくとも一方の主面に設けられる回路パターン金属板と、
前記回路パターン金属板の表面に設けられるNiめっき層と、を備え、
前記Niめっき層は、X線光電子分光法によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるように構成される、
回路基板。
【請求項9】
前記Niめっき層がNi-P合金めっき層であり、前記Niめっき層は、少なくともNiおよびPを含む、
請求項8に記載の回路基板。
【請求項10】
前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下である、
請求項9に記載の回路基板。
【請求項11】
前記Niめっき層についてX線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下である、
請求項8または請求項9に記載の回路基板。
【請求項12】
前記絶縁層がセラミックス基板である、
請求項8または請求項9に記載の回路基板。
【請求項13】
絶縁層の一方の主面に回路パターン金属板が設けられた接合基板を準備する準備工程と、
前記回路パターン金属板の表面にNiめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記Niめっき層の表面にシュウ酸イオン含有水溶液を接触させる表面処理工程と、を有する、
回路基板の製造方法。
【請求項14】
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるように表面処理を行う、
請求項13に記載の回路基板の製造方法。
【請求項15】
前記めっき層形成工程では、前記Niめっき層を無電解Ni-Pめっきにより形成し、
前記Niめっき層は、少なくともNiおよびPを含む、
請求項13又は請求項14に記載の回路基板の製造方法。
【請求項16】
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下となるように表面処理を行う、
請求項15に記載の回路基板の製造方法。
【請求項17】
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下となるように表面処理を行う、
請求項13又は請求項14に記載の回路基板の製造方法。
【請求項18】
前記表面処理工程において、前記シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度を、シュウ酸イオンをシュウ酸に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度で0.01mass%~8mass%とし、シュウ酸水溶液の温度を1℃~40℃とし、処理時間を1秒~1000秒とする、
請求項13又は請求項14に記載の回路基板の製造方法。
【請求項19】
前記絶縁層がセラミックス基板である、
請求項13又は請求項14に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールの製造方法、回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、電車、工作機械などの大電力を制御するためにパワーモジュール等の半導体モジュールが使用されており、このパワーモジュール用の回路基板として、絶縁層としてセラミックスを用いた金属-セラミックス接合基板(例えば特許文献1)や、絶縁層として樹脂を用いた樹脂絶縁基板(例えば特許文献2)が用いられている。これらパワーモジュール用の回路基板の絶縁層の一方の面には回路パターン金属板が形成され、他方の面には放熱パターン金属板が形成される。
【0003】
一般的にパワーモジュールの実装において、前記回路パターン金属板にはパワー半導体素子がはんだ付けされ、また前記放熱金属板にはベース板(ヒートシンク)等がはんだ付け等により取り付けられる。そのため、回路パターン金属板や放熱金属板の表面には、はんだ付けを良好にさせるとともに、耐食性を向上させるために、Niめっき層を施すことが行われている。
【0004】
また、Niめっき層のはんだ濡れ性を改善する方法として、特許文献3には水素を10ppm以上含むNiめっき層が提案され、特許文献4にはNiめっき層を有する部材をはんだ付け工程の前にあらかじめ不活性ガス雰囲気中で300℃~400℃で加熱する製法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-51778号公報
【特許文献2】特開2007-288054号公報
【特許文献3】特開平9-36299号公報
【特許文献4】特開2015-8209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3のNiめっき層に水素を含有させる方法では、水素脆化によってNiめっき層の特性が劣化するという課題がある。
【0007】
また、パワーモジュール用の回路基板は前述のように金属とセラミックスあるいは絶縁樹脂との複合体であるため、金属とセラミックスあるいは絶縁樹脂との熱膨張率の差に起因して、加熱時に熱応力や反りが発生する。そのため、熱応力による絶縁層の劣化や回路基板の反りの発生を防ぐために、パワーモジュールの実装工程においては特許文献4のような不必要な加熱工程を省くことが望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、半導体モジュールの製造において、Niめっき層に水素を含有させたり、はんだ付け工程前に予備加熱工程を付加したりせずに、Niめっき層のはんだ濡れ性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、Niめっき層表層にNiの水酸化物やPの複合酸化物などが生成し、はんだ濡れ性を阻害していることを見いだした。そして、Niめっき層の表層のNiの全化学結合状態に占めるNi(OH)2のピーク面積比を10%以上60%以下とすれば、良好なはんだ濡れ性を得られることを特定した。さらに、本発明者はNiめっき層をシュウ酸イオン含有水溶液で処理することで上記の化学結合状態が得られることを特定した。
【0010】
本発明の第1の態様は、
絶縁層の一方の主面に回路パターン金属板が設けられた接合基板を準備する準備工程と、
前記回路パターン金属板の表面にNiめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記Niめっき層の表面にシュウ酸イオン含有水溶液を接触させる表面処理工程と、
前記表面処理後の前記Niめっき層の表面に電子部品をはんだ付けするはんだ付け工程と、を有する、
半導体モジュールの製造方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるように表面処理を行う。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、
前記めっき層形成工程では、前記Niめっき層を無電解Ni-Pめっきにより形成し、
前記Niめっき層は、少なくともNiおよびPを含む。
【0013】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下となるように表面処理を行う。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれか1つの態様において、
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下となるように表面処理を行う。
【0015】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれか1つの態様において、
前記表面処理工程において、前記シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度を、シュウ酸イオンをシュウ酸に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度で0.01mass%~8mass%とし、シュウ酸水溶液の温度を1℃~40℃とし、処理時間を1秒~1000秒とする。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれか1つの態様において、
前記絶縁層がセラミックス基板である。
【0017】
本発明の第8の態様は、
絶縁層と、
前記絶縁層の少なくとも一方の主面に設けられる回路パターン金属板と、
前記回路パターン金属板の表面に設けられるNiめっき層と、を備え、
前記Niめっき層は、X線光電子分光法によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるように構成される、
回路基板。
【0018】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、
前記Niめっき層がNi-P合金めっき層であり、前記Niめっき層は、少なくともNiおよびPを含む。
【0019】
本発明の第10の態様は、第9の態様において、
前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下である。
【0020】
本発明の第11の態様は、第8~第10のいずれか1つの態様において、
前記Niめっき層についてX線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下である。
【0021】
本発明の第12の態様は、第8~第11のいずれか1つの態様において、
前記絶縁層がセラミックス基板である。
【0022】
本発明の第13の態様は、
絶縁層の一方の主面に回路パターン金属板が設けられた接合基板を準備する準備工程と、
前記回路パターン金属板の表面にNiめっき層を形成するめっき層形成工程と、
前記Niめっき層の表面にシュウ酸イオン含有水溶液を接触させる表面処理工程と、を有する、
回路基板の製造方法である。
【0023】
本発明の第14の態様は、第13の態様において、
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるように表面処理を行う。
【0024】
本発明の第15の態様は、第13又は第14の態様において、
前記めっき層形成工程では、前記Niめっき層を無電解Ni-Pめっきにより形成し、
前記Niめっき層は、少なくともNiおよびPを含む。
【0025】
本発明の第16の態様は、第15の態様において、
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下となるように表面処理を行う。
【0026】
本発明の第17の態様は、第13~第16のいずれか1つの態様において、
前記表面処理工程では、表面処理後の前記Niめっき層についてX線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下となるように表面処理を行う。
【0027】
本発明の第18の態様は、第13~第17のいずれか1つの態様において、
前記表面処理工程において、前記シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度を、シュウ酸イオンをシュウ酸に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度で0.01mass%~8mass%とし、シュウ酸水溶液の温度を1℃~40℃とし、処理時間を1秒~1000秒とする。
【0028】
本発明の第19の態様は、第13~第18のいずれか1つの態様において、
前記絶縁層がセラミックス基板である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、Niめっき層に水素を含有させたり、はんだ付け工程前に予備加熱工程を付加したりせずに、回路パターン金属板に形成されたNiめっき層のはんだ濡れ性を向上させる半導体モジュールの製造方法および回路基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明の一実施形態に係る半導体モジュールの製造方法について説明する。半導体モジュールの製造方法は、回路基板の製造方法を含む。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0031】
(準備工程)
まず、絶縁層の一方の主面に回路パターン金属板が、もう一方の主面に放熱パターン金属板が配置された接合基板を準備する。接合基板は、例えば以下のように作製することができる。
【0032】
具体的には、まず、絶縁層と、所定の回路パターン金属板を形成するための回路パターン形成用金属板と、所定の放熱パターン金属板を形成するための放熱パターン形成用金属板と、を準備する。
【0033】
絶縁層は、金属板を支持固定するとともに、回路基板において回路間や表裏間の絶縁性を具備させるためのものである。絶縁層としては、例えば、アルミナ等を主成分とする酸化物系絶縁層(絶縁性のセラミックス基板)、または、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素等を主成分とする非酸化物系絶縁層(絶縁性のセラミックス基板)を用いることができる。また例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化ケイ素、窒化ホウ素などの絶縁セラミックスフィラー粒子を高分子樹脂材料に分散させた絶縁樹脂材料を絶縁層として用いることができる。絶縁層のサイズとしては、好ましくは、長さ5mm~200mm、幅5mm~200mm、厚さ0.05mm~3.0mmのものを、より好ましくは、長さ10mm~100mm、幅10mm~100mm、厚さ0.1mm~2.0mmの略矩形のものを用いることができる。
【0034】
回路パターン形成用金属板および放熱パターン形成用金属板は、純金属または合金からなる板状部材である。金属板としては、絶縁層の一方の面に接合され、所定の回路パターンが形成される回路パターン形成用金属板と、絶縁層の他方の面に接合され、所定の放熱パターンが形成される放熱パターン形成用金属板とがある。金属板は、熱伝導率の向上や放熱性の観点から、銅または銅合金或いはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0035】
次に、絶縁層の一方の面(板面、主面)に回路パターン形成用金属板および他方の面(板面、主面)に放熱パターン形成用金属板をそれぞれ配置した後に接合し、接合体を得る。接合方法としては、ろう接や直接接合、接着接合など公知の方法を採用するとよい。例えば、ろう接を採用する場合であれば、ペースト状のろう材を絶縁層(セラミックス基板)の両主面に塗布し、金属板を載置した後、その積層体をろう材が溶融する(液相が発生する)まで加熱したのち冷却する。
【0036】
なお、絶縁層の両主面に接合する2枚の金属板は、同一の組成であってもよく、異なっていてもよいが、製造効率の観点から同一の組成であることが好ましい。
【0037】
次に、接合体の金属板のそれぞれの表面に所定のパターンを形成する。具体的には、エッチング法によるパターン形成であれば、接合体の絶縁層の一方の面に接合された回路パターン形成用金属板の表面に、例えば所定の回路パターンを有するエッチング用のレジスト膜を形成する。また、接合体の絶縁層のもう一方の面(他方の面)に接合された放熱パターン形成用金属板の表面に、所定の放熱パターンを有するエッチング用のレジスト膜を形成する。これらのレジスト膜は、例えばスクリーン印刷法、ラミネート法、フォトマスク法など公知の方法によりレジストを形成し、硬化させることでそれぞれの金属板の表面に形成するとよい。
【0038】
続いて、公知のエッチング液、例えば塩化第二銅、塩化鉄、フッ化水素酸、キレート剤などを用いて、金属板のレジスト膜で覆われていない領域を除去し、その後、レジスト膜を除去する。さらにはろう接法で接合体を作製した場合は不要なろう材を除去することにより、回路パターン金属板と、放熱パターン金属板とを形成する。
【0039】
これにより、絶縁層の両主面に回路パターン金属板および放熱パターン金属板が設けられた接合基板を得る。
【0040】
(めっき層形成工程)
続いて、接合基板に対してNiめっき処理を行い、少なくとも回路パターン金属板または放熱パターン金属板の表面上にNiめっき層を形成し、めっき付き接合基板を得る。なお、回路パターン金属板と放熱パターン金属板の両方の表面上にNiめっき層を形成してもよい。Niめっき処理としては、無電解Ni-Pめっきや無電解Ni-Bめっき、電気Niめっきなど公知の方法を採用するとよい。
【0041】
Niめっき層の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm以上20μm以下とするとよい。Niめっき層は、無電解Ni-Pめっきにより形成されることが好ましく、少なくともNiおよびPを含むNi-P合金めっき層であることが好ましい。なお、電気めっきは電極が必要であり、電極を配置するハンドリングが増えるため、無電解Ni-Pめっきと比べて製造コストが高く、また、無電解Ni-Bめっきに比べて無電解Ni-Pは成膜速度が速く安価に製造できるので、Niめっき層を無電解Ni-Pめっきにより作製するのが好ましい。
【0042】
(表面処理工程)
続いて、めっき付き接合基板に対してシュウ酸水溶液(シュウ酸イオン含有水溶液)を用いた表面処理(以下、シュウ酸処理ともいう)を行う。具体的には、めっき付き接合基板のNiめっき層にシュウ酸イオン含有水溶液を接触させる。接触を所定時間行った後、水洗を行うことで、回路基板を得る。なお、シュウ酸処理は回路基板の酸洗も兼ねることができるので、水洗後の希硫酸を用いた酸洗を省略することができる。
【0043】
上述したように、Niめっき層は、その形成過程で、表面にNiの水酸化物やPの複合酸化物などが生じやすい。特に、Niめっき層がNi-Pめっきにより形成される場合、Niの水酸化物(例えばNi(OH)2など)やPの複合酸化物がより生じやすい。このNiの水酸化物やPの酸化物などの割合が多くなると、Niめっき層のはんだ濡れ性が低下する傾向がある。この点、シュウ酸処理を行うことで、Niめっき層に含まれる主にNiめっき層の表層におけるNiの水酸化物やPの酸化物を除去して、その割合を低減することができる。
【0044】
シュウ酸イオン含有水溶液の接触方法としては、めっき付き接合基板をシュウ酸イオン含有水溶液に浸漬する方法(浸漬法)でもよいし、めっき付き接合基板に対してシュウ酸イオン含有水溶液を噴霧する方法(シャワー法やスプレー法、ミスト噴霧法など)でもよい。めっき層形成工程にて、めっきを浸漬法で実施した場合であれば、ハンドリングの観点から、表面処理工程でも浸漬法を採用することが好ましい。
【0045】
シュウ酸処理の処理時間(シュウ酸イオン含有水溶液をNiめっき層に接触させている時間)を、1秒~1000秒とすることが好ましい。処理時間を1秒以上とすることで、優れたはんだ付け性を確保することができる。一方、処理時間の上限は特に限定されないが、コスト面から処理時間を短縮しながらも、Niめっき層の表層における水酸化物や複合酸化物を十分に低減する観点からは、1000秒以下とすることが好ましい。
【0046】
シュウ酸イオン含有水溶液の表面処理時の溶液温度は、特に限定されないが、例えば1℃~40℃の範囲であり、さらには常温5~35℃であることが好ましい。シュウ酸イオンによる還元反応を促進させる観点からは、溶液温度を1℃以上とすることが好ましい。一方、溶液温度が高いと、シュウ酸処理によりNiめっき層の表層において水酸化物や酸化物が生じやすくなるため、水酸化物や酸化物を効率よく低減する観点からは溶液温度を40℃以下とすることが好ましい。
【0047】
シュウ酸イオン含有水溶液は、シュウ酸を水に溶解する方法のみならず、電離によりシュウ酸イオンを生じるシュウ酸塩(例えば、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウムなど)を水に溶解する方法でも得ることができる。
【0048】
シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度は、シュウ酸イオンをシュウ酸に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度で0.01mass%~8mass%の範囲であることが好ましい。0.01mass%よりも小さい場合、処理時間が長くなるため経済的でない。また、めっき層形成工程から連続的にシュウ酸処理工程を実施する場合、前工程での水洗液が持ち込まれてシュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度が低下しやすいため、この観点からも0.01mass%よりも小さい濃度は量産性に劣る。一方、シュウ酸濃度の上限は特に限定されないが、経済的な観点からは、8mass%以下であることが好ましい。
【0049】
なお、「シュウ酸イオンをシュウ酸に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度」とは、シュウ酸塩に含まれるシュウ酸イオンを同物質量(mol)のシュウ酸に換算して計算した質量パーセント濃度である。例えば、シュウ酸アンモニウムはシュウ酸アンモニウム(NH4)2C2O4一分子あたりシュウ酸イオンC2O4
2-を一つ含むため、シュウ酸アンモニウム水溶液の「シュウ酸イオンをシュウ酸C2H2O4に換算したシュウ酸分の質量パーセント濃度」は次式(1)で表される。
【0050】
【数1】
ここで、m
Aはシュウ酸アンモニウムの質量(g)、M
Aはシュウ酸アンモニウムのモル質量(g/mol)、M
0xはシュウ酸のモル質量(90.03g/mol)、m
H2Oは水の質量(g)を表す。
【0051】
シュウ酸処理により得られる回路基板は、絶縁層と、絶縁層の一方の主面(一方の面)に設けられる回路パターン金属板と、絶縁層のもう一方の主面(他方の面)に設けられる放熱パターン金属板と、回路パターン金属板および放熱パターン金属板のそれぞれの表面に設けられるNiめっき層と、を備えて構成される。Niめっき層は、シュウ酸処理により、その表面が以下に示すような化学結合状態となるように構成されることが好ましい。
【0052】
具体的には、Niめっき層は、X線光電子分光法(以下、単にXPSともいう)によりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となることが好ましい。ここで、Niの全化学結合状態とは、Niめっき層においてNiが取り得る化学結合状態のすべてを示し、例えばNi-Ni結合、Ni-P結合、Ni(OH)2結合等が挙げられる。これらの化学結合状態は、XPSスペクトルにおいて例えばNi-P合金由来のピーク(Ni-Ni結合やNi-P結合)とNi(OH)2由来のピークとして、それぞれ検出される。Niの水酸化物のピーク面積比とは、Niの全化学結合状態のピーク面積の総和、つまり、Niが取り得る化学結合状態に由来するピーク面積の総和に対する、Niの水酸化物に由来するピーク面積の比率を示す。このピーク面積比は、Niの水酸化物の量の指標となる。水酸化物のピーク面積比が60%以下となることで、Niめっき層のはんだ濡れ性を高く維持することができる。一方、Niの水酸化物を低減したとしても、所定量の水酸化物が存在するため、そのピーク面積比は少なくとも10%以上となる。ピーク面積比は、15%以上50%以下であることが好ましい。Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比は例えば20%以上、25%以上であってもよい。なお、Niの水酸化物としては、例えばNi(OH)2が挙げられる。また、ピーク面積比は、XPSスペクトルを例えばGauss関数でフィッティングして得られる合成関数に基づき各ピーク面積を求めて算出するとよい。詳細は以下の実施例にて説明する。
【0053】
Niの化学結合状態は、実施例で後述するように、XPSで得られるNi2p軌道の化学結合状態のXPSのスペクトルを解析することで取得することができる。例えばNiめっき層がNi-Pめっきで形成され、少なくともNiおよびPを含む場合、そのピーク面積比は、Ni-P合金由来のピーク(Ni-Ni結合やNi-P結合)とNiの水酸化物としてNi(OH)2に由来するピークの面積の総和に対する、Ni(OH)2に由来するピーク面積の比率となる。
【0054】
また、Niめっき層は、無電解Ni-Pめっきにより形成され、少なくともNiおよびPを含む場合、Niめっき層についてX線光電子分光法によりPの化学結合状態を測定したときに、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下となることが好ましい。無電解Ni-Pめっきでは、めっき浴の温度が50℃~95℃であり、Niめっき層がPを含む場合、その表層において、Pの酸化物が生じやすくなる。この点、シュウ酸処理により、Niの水酸化物とともにPの酸化物を低減し、P-O結合の割合を小さくすることができる。P-O結合のピーク面積比は例えば15%以上、20%以上であってもよい。
【0055】
Pの全化学結合状態とは、Niめっき層においてPが取り得る化学結合状態のすべてを示す。P-O結合のピーク面積比とは、Niめっき層においてPが取り得る化学結合状態に由来するピーク面積の総和に対する、Pの酸化物に由来するピーク面積の比率を示し、Pの酸化物の量の指標となる。Pの化学結合状態は、実施例で後述するように、XPSで得られるP2p軌道の化学結合状態を示し、XPSのスペクトルを解析することで取得することができる。例えばNiめっき層がNi-Pめっきで形成され、少なくともNiおよびPを含む場合、P-O結合のピーク面積比は、P-Ni結合に由来するピークとP-O結合に由来するピークの面積の総和に対する、P-O結合に由来するピーク面積の比率となる。
【0056】
また、Niめっき層は、X線光電子分光法により深さ方向へ測定したときに、酸素濃度が10at%以下となる深さが0.2nm以上1.6nm以下となることが好ましい。つまり、Niめっき層において、シュウ酸処理により酸素濃度が10at%以下となる領域の厚さが0.2nm以上1.6nm以下となることが好ましい。シュウ酸処理によりNiめっき層の表層における水酸化物や酸化物を除去することで、表層における酸素濃度を低減することができる。酸素濃度が10at%以下となる領域が少なくとも0.2nm以上の深さとなることで、Niめっき層の高いはんだ濡れ性をより確実に実現することができる。なお、表面処理された表層の厚さは、実施例で後述するように、SiO2換算によるスパッタリングレートから算出される。酸素濃度が10at%以下となる深さは、1.4nm以下であることが好ましい。
【0057】
シュウ酸処理の処理条件は、Niめっき層の表面が上述した化学結合状態となるように、シュウ酸イオン含有水溶液に接触させる時間や温度、シュウ酸濃度を適宜調整するとよい。
【0058】
(モジュール形成工程)
次に、回路基板の回路パターン金属板に、はんだ付けにより、例えば半導体素子などの電子部品を搭載する。
【0059】
本実施形態では、回路用の金属板上に形成されるNiめっき層の表面が、Niの水酸化物や酸化物が少なくなるように構成されているので、はんだを塗布したときに、はんだを濡れ広げやすい。そのため、回路用の金属板に電子部品をより安定して固定させることができる。
【0060】
以上により、本発明の実施形態に係る半導体モジュールの製造方法が示され、また本発明の回路基板を得ることができる。
【0061】
(4)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0062】
(a)本実施形態では、接合基板における回路パターン金属板の表面にNiめっき層を形成した後、Niめっき層にシュウ酸イオン含有溶液を接触させてシュウ酸処理を行っている。シュウ酸処理によれば、Niめっき層の形成過程でNiめっき層に生じる例えばNiの水酸化物を除去することができる。これにより、回路パターン金属板の表面のはんだ濡れ性を阻害する水酸化物を低減し、高いはんだ濡れ性を実現することができる。
【0063】
(b)表面処理工程では、表面処理後のNiめっき層の表面において、XPSによりNiの化学結合状態を測定したときに、Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比が10%以上60%以下となるようにシュウ酸処理を行うことが好ましい。このようにシュウ酸処理を行うことにより、Niめっき層における水酸化物の量をより低減し、上述の(a)の効果をより確実に得ることができる。Niの全化学結合状態に占めるNiの水酸化物のピーク面積比は、15%以上50%以下となるようにシュウ酸処理することが好ましい。Niの水酸化物のピーク面積比は、ピーク面積比は例えば20%以上、25%以上となるようにシュウ酸処理してもよい。
【0064】
(c)めっき層形成工程では、無電解Ni-PめっきによりNiめっき層を形成し、表面処理工程では、少なくともNiおよびPを含むNiめっき層に対し、Niめっき層における、Pの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が10%以上40%以下となるようにシュウ酸処理を行うことが好ましい。これにより、上述の(a)の効果をより確実に得ることができる。P-O結合のピーク面積比は例えば15%以上、20%以上となるようにシュウ酸処理してもよい。
【0065】
(d)表面処理工程では、Niめっき層の深さ方向において酸素濃度が10at%以下となる深さを0.2nm以上1.6nm以下となるように表面処理を行うことが好ましい。つまり、Niめっき層において表面から深さ0.2nm以上1.6nm以下の領域の酸素濃度を10at%以下となるように表面処理を行うことが好ましい。これにより、Niめっき層において、はんだが接触する表層部分に含まれる水酸化物や酸化物を低減することができ、上述の(a)の効果をより確実に得ることができる。酸素濃度が10at%以下となる深さは、1.4nm以下となるように表面処理を行うことが好ましい。
【0066】
(e)また、表面処理工程によれば、硫酸洗を省略することができる。一般的に、めっき層形成工程で得られためっき付き接合基板には水洗や希硫酸を用いた硫酸洗が必要となる。ただし、水洗が不十分である場合、希硫酸がめっき付き接合基板に残存することがある。希硫酸に由来する硫黄成分が硫黄残渣として存在すると、Niめっき層の腐食やマイグレーションを引き起こすことがある。この点、シュウ酸処理によれば、硫酸洗を省略することができ、Niめっき層の腐食やマイグレーションを抑制することができる。また、シュウ酸は、還元反応により二酸化炭素を生じるだけで、シュウ酸に由来する成分の残存を抑制することができる。仮に、シュウ酸がNiめっき層に残存したとしても、シュウ酸は熱分解性に優れるので、はんだ付けの際の加熱で容易に分解させることができる。
【0067】
(f)また、はんだ濡れ性を改善する方法として、Niめっき層において所定の水素含有量とする方法があるが、この場合、Niめっき層が水素脆化して特性が劣化することがある。この点、本実施形態のシュウ酸処理によれば、水素脆化を引き起こすことなく、Niめっき層が本来有する特性を維持することができる。
【0068】
(g)また、はんだ濡れ性を改善する方法として、Niめっき層を形成した後、はんだ付けの前に予め不活性ガス雰囲気中で300℃~400℃で加熱する方法があるが、この場合、高温でのさらなる加熱により絶縁層と回路用の金属板との熱膨張率の差に起因して回路基板に熱応力が残留したり反りが生じたりすることがある。この点、本実施形態のシュウ酸処理によれば、さらなる加熱を施すことなく、はんだ濡れ性を向上させることができる。
【0069】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0070】
例えば、上述の実施形態では、絶縁層の両主面上に金属板を接合する場合について説明したが、回路基板においては絶縁層の少なくとも一方の主面上に、金属板が接合されていればよい。
【0071】
上述の実施形態では、めっき形成工程の後、連続して表面処理(シュウ酸処理)工程を行う場合について説明したが、表面処理(シュウ酸処理)工程はめっき形成工程後の任意のタイミングで行うことができる。例えば、めっき形成工程を行い、表面処理(シュウ酸処理)工程を行う前に、例えばレーザーマーキングによる個体識別番号の印字工程などのその他の工程を設けてもよい。またあるいは、回路基板の原料金属板にあらかじめNiめっきを施しておき、原料金属板にシュウ酸処理を行い、打ち抜き加工により回路パターン金属板や放熱パターン金属板を形成した後、絶縁層に接着接合させてもよい。さらに、めっき層形成工程で得られためっき付き接合基板は、例えば半年以上の長期保存した後、はんだ濡れ性を確保するために、シュウ酸処理工程を行ってもよい。
【0072】
上述の実施形態では、回路パターンや放熱パターンをエッチング法により形成する場合を例として説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、金属板を打ち抜き加工により回路パターン金属板や放熱パターン金属板を予め形成した後、これらを絶縁層(セラミックス基板や絶縁樹脂材料)に公知の方法(ろう接や直接接合など)により接合してもよい。
【実施例0073】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0074】
(1)回路基板の作製
(実施例1)
まず、絶縁層として、54mm×42mm×0.64mmの大きさの窒化アルミニウム(AlN)基板を、金属板として、54mm×42mm×0.3mmの大きさの回路パターン形成用銅板および放熱パターン形成用銅板を、活性金属含有ろう材として、Ag-Cu-Tiろう材ペースト(ろう材中の金属粉の質量比がAg:Cu:Ti=88:10:2)をそれぞれ準備した。
【0075】
続いて、活性金属ろう付け法により、AlN基板の両面に銅板を接合した。具体的には、AlN基板の両面にペースト状のろう材をスクリーン印刷した。その後、AlN基板の両面にろう材を介してそれぞれの面に回路パターン形成用銅板および放熱パターン形成用銅板を配置して積層させ、この積層体を真空炉中で加熱した。これにより、AlN基板と銅板とを接合し、接合体を作製した。
【0076】
続いて、接合体の両面にある回路パターン形成用銅板および放熱パターン形成用銅板上にそれぞれ回路パターン形状および放熱パターン形状のエッチングレジストをスクリーン印刷により形成した。続いて、塩化銅を含む公知のエッチング液により不要な銅板をエッチング除去して回路パターン金属板および放熱パターン金属板を形成し、その後、レジスト膜を除去した。次に、キレート剤を含む公知の薬液により回路パターン金属板および放熱パターン金属板の周囲のセラミックス基板上に残っている不要なろう材を除去し、接合基板を得た。続いて、無電解Ni-Pめっき法により厚さ4μmのNi-P(合金)めっき層を銅回路パターン金属板および放熱パターン金属板の表面に形成し、めっき付き接合基板を得た。本実施例では、無電解Ni-Pめっきの処理バッチが同一であるめっき付き接合基板(バッチA)を6枚準備した。これらを無作為に二等分した。
【0077】
続いて、二等分して得られためっき付き接合基板に対し、以下の条件でシュウ酸処理を行った。具体的には、まず、シュウ酸(無水)を純水に溶解し、シュウ酸濃度が1mass%であるシュウ酸イオン含有水溶液を準備した。次に、二等分して得られためっき付き接合基板3枚をシュウ酸イオン含有水溶液(1mass%)に液温25℃において640秒間、浸漬して取り出し、次いで純水にて水洗したのち、さらにエアブロー乾燥することで、実施例1の評価サンプルとしての回路基板を得た。シュウ酸処理の条件を下記表1にまとめる。
【0078】
【0079】
(比較例1)
比較例1では、表1に示すように、実施例1における無電解Ni-Pめっきの処理バッチが同一であるバッチAのめっき付き接合基板に対し、希硫酸により酸洗を行い、シュウ酸処理を行わずに、比較例1の評価サンプルとしての回路基板を得た。
【0080】
(実施例2、3)
実施例2、3では、実施例1とは異なる無電解Ni-Pめっきの処理バッチ(バッチB)でNiめっきを形成し、めっき付き接合基板を9枚準備した。これらを無作為に三等分し、3枚のめっき付き接合基板のそれぞれに対して表1に示す条件でシュウ酸処理を行った。実施例2、3では、表1に示すように、シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度や処理時間を変更した以外は実施例1と同様にシュウ酸処理を行った。具体的には、実施例2では、シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度を0.5mass%、処理時間(浸漬時間)を5秒間とした。実施例3では、シュウ酸イオン含有水溶液のシュウ酸濃度を5mass%、処理時間(浸漬時間)を150秒間とした。これにより、実施例2および3の評価サンプルとしての回路基板を得た。
【0081】
(比較例2)
比較例2では、表1に示すように、実施例2や実施例3で得られたバッチBのめっき付き接合基板の3枚に対して、希硫酸による酸洗を行い、シュウ酸処理を行わずに、比較例2の評価サンプルとしての回路基板を得た。
【0082】
(2)評価方法
上記で得られた各評価サンプルについてXPSによる評価とはんだ濡れ性の評価を行った。以下、各評価方法について説明する。
【0083】
(XPSによる評価)
XPSによる評価では、各評価サンプルについてXPS測定を行い、Niめっき層におけるNiの化学結合状態と、Pの化学結合状態と、深さ方向のO原子濃度と、をそれぞれ測定した。
【0084】
具体的には、まず、各評価サンプルを、走査型X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製の「PHI 5000 VersaProbe III」)に導入し、XPS測定を行い、スペクトルデータを取得した。測定条件としては、X線源は単色化AlKαを用い、出力25W、加速電圧15kVの条件とした。X線入射角は90度、光電子取り出し角は45度とした。光電子の測定条件は、化学結合状態分析ではパスエネルギー69eV、積分時間80ms、測定エネルギー間隔0.125eV/step、積算回数25回とし、深さ方向分析ではパスエネルギー140eV、積分時間40ms、測定エネルギー間隔0.25eV/step、積算回数5回とした。
【0085】
続いて、取得したスペクトルデータから、Niの化学結合状態を解析した。Niの化学結合状態は、Ni2p軌道(測定位置844.0eV~894.0eV)を解析した。ここでは、バックグラウンドをinterated Shirley法で除去したのち、Ni-P合金由来(Ni-Ni結合およびNi-P結合)のピークを10本のバンド(Band1~Band10)、Ni(OH)2由来のピークを8本(Band11~Band18)のバンドでフィッティングした。フィッティングの波形関数はGauss関数を選択した。フィッティングのパラメータとして、基準バンドに対する面積比、エネルギー差、半値幅差を表2、表3のように固定してフィッティングを行った。
【0086】
【0087】
【0088】
上記フィッティングにより得られたNi2p軌道全体の合成関数のピーク面積に対する、Ni(OH)2ピークの合成関数のピーク面積の比を求め、Niめっき層の表層におけるNiの水酸化物の量の指標とした。なお本実施例においては、Ni2p軌道全体の合成スペクトルのピークとしては、Ni-Ni結合、Ni-P結合、Ni(OH)2に由来するピークが検出され、これらのスペクトルピークを上記の方法でフィッティングすることでNi2p軌道全体の合成関数を求めた。すなわち、本実施例におけるNiの全化学結合状態のピーク面積とは、Ni-P合金由来のピーク(Ni-Ni結合やNi-P結合)をフィッティングした合成関数の面積とNi(OH)2に由来するピークをフィッティングした合成関数の面積との総和である。
【0089】
また、取得したスペクトルデータから、Pの化学結合状態を解析した。Pの化学結合状態は、P2p軌道(測定位置123.0eV~143.0eV)を解析した。ここでは、バックグラウンドをShirley法で除去したのち、P-Ni結合ピーク(フィッティングのBand1~Band2)とP-O結合ピーク(フィッティングのBand3~Band4)の2成分としてフィッティングした。フィッティングの波形関数はGauss-Lorentz関数を選択した。フィッティングのパラメータとして、基準バンドに対する面積比、エネルギー差、半値幅差を表4、5のように固定してフィッティングを行った。
【0090】
【0091】
【0092】
上記フィッティングにより得られたP2p軌道全体の合成関数のピーク面積に対する、P-O結合ピークのピーク面積の比を求め、Ni-Pめっき層におけるP酸化物量の指標とした。なお本実施例においては、P2p軌道全体の合成スペクトルのピークとしては、P-Ni結合、P-O結合に由来するピークが検出され、これらのスペクトルピークを上記の方法でフィッティングすることでP2p軌道全体の合成関数を求めた。すなわち、本実施例におけるPの全化学結合状態のピーク面積とは、P-Ni結合由来のピークをフィッティングした合成関数の面積とP-O結合に由来のピークをフィッティングした合成関数の面積との総和である。
【0093】
さらに、深さ方向のO原子濃度について深さ方向分析(デプスプロファイリング測定)を行った。本実施例では、酸素濃度が10at%以下となる深さを求めた。Arイオンスパッタリング条件は、加速電圧2kV、エミッション電流7mAであり、SiO2換算のスパッタレートを2nm/minとした。
【0094】
(はんだ濡れ性)
各評価サンプルのはんだ濡れ性は、以下のように評価した。具体的には、まずSn-Pb共晶クリームはんだを、メタルマスクを用いて20mm四方×厚さ0.6mmの条件で回路基板のNiめっき層上に塗布した。次に、クリームはんだが塗布された基板をホットプレートの上に載置し、大気雰囲気下において210℃で2分間保持してはんだを溶融させたのち、冷却プレートに接触させてはんだを冷却・凝固させた。そして、はんだが濡れ広がった面積を画像解析により求めて、塗布面積に対するはんだの濡れ面積(%)を算出した。この評価を基板2枚に対して実施し、その平均値を評価結果とした。
【0095】
(3)評価結果
上述した評価方法による結果を上記表1にまとめる。
【0096】
表1に示すように、シュウ酸処理を行った実施例1~3では、Niめっき層についてNiの全化学結合状態に占めるNi(OH)2のピーク面積比が、各々36.9%(実施例1)、45.4%(実施例2)、27.6%(実施例3)であり、10%以上60%以下であることが確認された。また、いずれの実施例も、Niめっき層についてPの全化学結合状態に占めるP-O結合のピーク面積比が、各々34.7%(実施例1)、32.8%(実施例2)、24.7%(実施例3)であり、10%以上40%以下であることが確認された。また、Niめっき層において、酸素濃度が10at%以下となる深さを求めたところ、各々0.8nm(実施例1)、1.2nm(実施例2)、0.6nm(実施例3)であり、いずれの実施例でも0.2nm以上1.6nm以下であることが確認された。これらの結果から、実施例1~3では、Niめっき層の表層においてNiの水酸化物やPの酸化物が少ないことが分かった。そして、これらの実施例では、Niめっき層にはんだ付けを行ったときに、はんだの塗布面積に対する、はんだの濡れ広がった面積の比率が100%であり、はんだ濡れ性が高いことが分かった。
【0097】
これに対して、比較例1、2では、Ni(OH)2のピーク面積比が、各々66.0%(比較例1)、74.6%(比較例2)であり、60%を超え、またP-O結合のピーク面積比が、各々42.1%(比較例1)、44.3%(比較例2)であり、40%を超えていることが確認された。しかも、酸素濃度が10at%以下となる深さが、各々1.8nm(比較例1)、1.8nm(比較例2)であり、1.6nmを超えることが確認された。つまり、比較例1や比較例2では、Niめっき層の形成過程で生じたNiやPの水酸化物や酸化物が表面から深い領域まで存在し、水酸化物や酸化物の割合が高いことが分かった。そのため、Niめっき層上にはんだを塗布したときに、はんだが濡れ広がりにくく、はんだ濡れ性が100%よりも低くなることが分かった。
【0098】
以上のように、回路基板におけるNiめっき層をシュウ酸含有水溶液に接触させて表面処理することにより、Niめっき層の表層に含まれるNiの水酸化物や酸化物などを低減し、はんだ濡れ性を向上させることができる。