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  • 特開-顔料を含む酸化物セラミック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132844
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】顔料を含む酸化物セラミック
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 6/802 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/811 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/822 20200101ALI20240920BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61C 13/10 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C04B35/488
A61K6/802
A61K6/818
A61K6/15
A61K6/811
A61K6/822
C01G25/00
A61C13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023201510
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】23162381
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コリーナ セルバン
(72)【発明者】
【氏名】ウルス ボレ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン ヴィルトナー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ロスブラスト
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン クロリコフスキ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リッツベルガー
【テーマコード(参考)】
4C089
4G048
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA01
4C089BA04
4C089BA05
4C089CA05
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD08
4G048AE05
4G048AE06
(57)【要約】
【課題】顔料を含む酸化物セラミックを提供すること。
【解決手段】本発明は、顔料を含有する酸化物セラミックに関し、ここでこの顔料は、Al、Cr、ならびにY、La、およびランタニドのうちの1つまたはそれより多くを含有する。本発明はまた、顔料を含む酸化物セラミックを含有する歯科用成形体、この酸化物セラミックの歯科材料としての使用、および歯科用修復物を調製するためのこの歯科用成形体の使用に関する。本発明はさらに、歯科用修復物を調製するためのプロセス、および顔料を調製するためのプロセスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有する酸化物セラミックであって、該顔料は、Al、CrおよびZを含有し、そしてZは、Y、La、ランタニド、およびこれらの混合物から選択される、酸化物セラミック。
【請求項2】
前記顔料が、AlおよびZを、0.7:1~1:0.7、好ましくは0.8:1~1:0.8、そして特に好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で含有する、請求項1に記載の酸化物セラミック。
【請求項3】
前記顔料が、Z、AlおよびCrを、式ZAl2-x-yCrに対応するモル比で含有し、ここで
xは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そして
yは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である、
請求項1または2に記載の酸化物セラミック。
【請求項4】
前記顔料の主要な結晶相がペロブスカイト結晶構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
【請求項5】
Zが、Y、Er、Pr、Gd、Dy、Eu、Nd、Yb、HoおよびTmからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
【請求項6】
0~25、好ましくは1~20、特に好ましくは2~15の範囲、または5~25、好ましくは5~20、そして特に好ましくは5~15の範囲のa値を有する色を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
【請求項7】
前記顔料を、0.005~10重量%、特に0.01~5重量%、そして特に好ましくは0.05~3重量%の量で含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
【請求項8】
ジルコニアセラミック、好ましくは安定化正方晶系ジルコニア多結晶である、請求項1~7のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
【請求項9】
少なくとも部分的に焼結されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に規定される顔料を調製するための成分の出発組成物を含有する、酸化物セラミック。
【請求項11】
前記出発組成物が、成分Al(OH)、CrおよびZのうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される、請求項10に記載の酸化物セラミック。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の酸化物セラミックを含有する歯科用成形体。
【請求項13】
前記成形体が、ブランクまたは歯科用修復物であり、ここで該歯科用修復物が特に、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、アバットメント、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物から選択される、請求項12に記載の歯科用成形体。
【請求項14】
第一の酸化物セラミック層および第二の酸化物セラミック層を有する多層ブランクであり、ここで該第一の層と該第二の層とが、色および界面の形状が異なり、特に、歯列弓の経路での該界面が、交互になった波の谷および波の山を有する波形を有し、そして特に、該波の山の稜線が、該界面を上から見た場合に、近心-遠心の方向に半径方向に延びている、請求項13に記載の歯科用成形体。
【請求項15】
前記第一の層の前記ジルコニアセラミックが、色を有し、特に、5~25、好ましくは5~20、そして特に5~15のa値を有する色を専ら有する、請求項14に記載の歯科用成形体。
【請求項16】
前記第二の層の前記ジルコニアセラミックが、色を有し、特に、0~13、好ましくは1~11、そして特に2~8のa値を有する色を専ら有する、請求項14または16に記載の歯科用成形体。
【請求項17】
歯科材料としての、特に、歯科用修復物を調製するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の酸化物セラミックの使用。
【請求項18】
歯科用修復物を調製するための、請求項12~16のいずれか1項に記載の歯科用成形体の使用であって、該歯科用修復物が特に、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、アバットメント、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、咬合小面、上顎総補綴物、下顎総補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される、使用。
【請求項19】
歯科用修復物を調製するためのプロセスであって、請求項1~11のいずれか1項に記載の酸化物セラミック、または請求項12~16のいずれか1項に記載の歯科用成形体が、歯科用修復物に加工され、特に歯科用修復物に成形される、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含有する酸化物セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミックは、酸化物化合物をベースとし、そして非常に少量のガラス相を含有する、高度に結晶性のセラミック材料である。代表的な酸化物セラミックは、ZrO、Al、TiO、MgO、ならびにこれらの組み合わせ、固溶体および複合体をベースとする。これらの有利な機械特性に起因して、酸化物セラミック、および特にジルコニアセラミックは、歯科用修復物を製造するために広く使用されている。
【0003】
歯科用修復物は、有利な機械特性を有するのみでなく、可能な限り自然な外観によっても特徴付けられるべきである。その目的は、自然な歯の材料の半透明な特性を模倣すること、さらに、歯科用修復物と、残っている自然な歯、ならびに必要であれば、口腔粘膜および特に歯肉の色との、最良な可能な色の整合を達成することである。自然な歯および自然な歯肉の色を模倣する場合、材料における黄および赤の彩色を達成することが、特に必要である。
【0004】
酸化物セラミックを赤に着色するための、様々なアプローチが存在する。
【0005】
酸化物セラミックの赤色への彩色は、着色用金属イオン、およびこのような金属イオンから形成される金属塩または金属酸化物を用いて、達成され得る。異なる金属イオンは異なる着色特性を有するので、異なる色および濃淡が、異なる金属イオンを混合することにより調製され得る。しかし、カドミウムおよびセレンなどのいくつかの金属の毒性により、歯科用修復物の製造における使用が妨げられる。
【0006】
ジルコニアなどの酸化物セラミックを、エルビウムおよびその化合物、特にErを用いて、赤に着色することもまた可能である。しかし、はっきり見える色を達成するためには、非常に高濃度のこれらの化合物が必要とされる。これらの化合物の濃淡は、桃色またはバラ色に見える傾向があり、従って、歯肉の赤い領域とは明らかに異なる。さらに、エルビウム化合物は非常に高価であるので、高濃度でのこれらの使用は通常、回避される。
【0007】
多孔質酸化物セラミックは、水溶性Er3+塩をベースとする、例えばErCl・6HOまたはEr(NO・5HOの非常に高濃度の溶液を表面に塗布し、そしてこれを細孔に浸透させることによって、赤に着色され得る。しかし、このEr3+ベースの浸透溶液は、強酸性のpHを有し、これはしばしば、1~3の範囲である。従って、不適切に使用される場合、安全性の理由から、適切な換気フードまたは十分な室内換気装置を使用しなければ、容器を開けるときに、使用者が火傷し得るか、またはHClもしくはHNOの蒸気などの有害な気体/蒸気を吸い込み得る危険が非常に高い。さらに、このような溶液は通常、長期間安定であるわけではないので、それらの特性が経時的に変化する。また、溶媒の制御されない蒸発により、経時的な濃度変化が起こり得る。制御されない錯体の形成もまた起こり得る。なぜなら、これらの溶液は通常、ある種の有機化合物も含有するからである。最悪の場合、これにより、ある種の化合物の沈殿がもたらされる。
【0008】
染色用溶液の浸透はまた、多孔質ジルコニア内に均質に分布していない染色用溶液をもたらし得る。これは、使用者、ならびに修復物の表面の質、例えば、表面にいかに埃および水分がないかに依存し得る。不均質性は、最終結果に対する重大な影響を有し得る。
【0009】
歯肉領域への浸透はまた、緻密焼結後のジルコニアの安定化の程度および相の組成の変化を引き起こす。緻密焼結中に、Er3+イオンが、ジルコニアにすでに組み込まれているY3+イオンに加えて、結晶組織に組み込まれ得る。これは次に、この浸透した領域に、過剰な安定化、およびそれに付随して、相の組成の変化をもたらし、これは、機械特性、特に破壊靭性および二軸強度の低下を引き起こす。インプラントにより支持される修復物では、非常に大きい咀嚼負荷が、特に歯肉領域において加えられ、このことは、この領域が弱くなることを回避しなければならないことを意味する。
【0010】
さらに、より高濃度のErをドーピングすることにより、ジルコニアの焼結挙動が変更される。Erは、焼結抑制剤として働き、そして安定化ジルコニアの理論密度を変化させる。浸透した領域の全体的な収縮が変化し、その結果、ブランクをミリングするときに考慮される拡大係数は、もはや正確ではなく、そして緻密焼結された修復物がはまる精度は、悪い影響を受ける。Erが歯肉領域を着色するために局所的にのみ使用される場合、焼結中に、遅延収縮が局所的に起こる。すなわち、歯の領域がすでに収縮している一方で、歯肉領域の修復物は、この収縮に遅れる。これにより、焼結プロセス中に応力が生じ、この応力は、構造体全体に残り、そしてこの構造体を永続的に弱くする。突然の破壊が、作業現場で、または修復物の挿入中に、頻繁に起こる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の課題は、様々な赤色を有する酸化物セラミックを提供することである。これらの赤色は、例えば、歯肉または自然な歯の赤色を模倣することが可能であるべきである。さらに、これらの赤色は、例えば、歯科用修復物を酸化物セラミックから調製する際に代表的に使用される高い温度に酸化物セラミックが曝露され得るように、高温安定性を示すべきである。これらの酸化物セラミックはまた、非常に良好な機械特性を有する歯科用修復物に容易かつ迅速に加工することを可能にするべきであり、さらに、安価であるべきである。調製を委ねられる人員および患者への健康上の危険もまた、回避されるべきである。
【0012】
この課題は、請求項1~11による酸化物セラミック、および請求項12~16による歯科用成形体によって、解決される。本発明はまた、請求項17による酸化物セラミックの使用、請求項18による歯科用成形体の使用、および請求項19による歯科用修復物を調製するためのプロセスに関する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
顔料を含有する酸化物セラミックであって、該顔料は、Al、CrおよびZを含有し、そしてZは、Y、La、ランタニド、およびこれらの混合物から選択される、酸化物セラミック。
(項目2)
前記顔料が、AlおよびZを、0.7:1~1:0.7、好ましくは0.8:1~1:0.8、そして特に好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で含有する、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目3)
前記顔料が、Z、AlおよびCrを、式ZAl2-x-yCrに対応するモル比で含有し、ここで
xは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そして
yは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である、
先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目4)
前記顔料の主要な結晶相がペロブスカイト結晶構造である、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目5)
Zが、Y、Er、Pr、Gd、Dy、Eu、Nd、Yb、HoおよびTmからなる群より選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目6)
0~25、好ましくは1~20、特に好ましくは2~15の範囲、または5~25、好ましくは5~20、そして特に好ましくは5~15の範囲のa値を有する色を有する、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目7)
前記顔料を、0.005~10重量%、特に0.01~5重量%、そして特に好ましくは0.05~3重量%の量で含有する、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目8)
ジルコニアセラミック、好ましくは安定化正方晶系ジルコニア多結晶である、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目9)
少なくとも部分的に焼結されている、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目10)
先行する項目のいずれか1項に規定される顔料を調製するための成分の出発組成物を含有する、酸化物セラミック。
(項目11)
前記出発組成物が、成分Al(OH)、CrおよびZのうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック。
(項目12)
先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミックを含有する歯科用成形体。
(項目13)
前記成形体が、ブランクまたは歯科用修復物であり、ここで該歯科用修復物が特に、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、アバットメント、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物から選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科用成形体。
(項目14)
第一の酸化物セラミック層および第二の酸化物セラミック層を有する多層ブランクであり、ここで該第一の層と該第二の層とが、色および界面の形状が異なり、特に、歯列弓の経路での該界面が、交互になった波の谷および波の山を有する波形を有し、そして特に、該波の山の稜線が、該界面を上から見た場合に、近心-遠心の方向に半径方向に延びている、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科用成形体。
(項目15)
前記第一の層の前記ジルコニアセラミックが、色を有し、特に、5~25、好ましくは5~20、そして特に5~15のa値を有する色を専ら有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科用成形体。
(項目16)
前記第二の層の前記ジルコニアセラミックが、色を有し、特に、0~13、好ましくは1~11、そして特に2~8のa値を有する色を専ら有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科用成形体。
(項目17)
歯科材料としての、特に、歯科用修復物を調製するための、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミックの使用。
(項目18)
歯科用修復物を調製するための、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科用成形体の使用であって、該歯科用修復物が特に、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、アバットメント、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、咬合小面、上顎総補綴物、下顎総補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される、使用。
(項目19)
歯科用修復物を調製するためのプロセスであって、先行する項目のいずれか1項に記載の酸化物セラミック、または項目12~16のいずれか1項に記載の歯科用成形体が、歯科用修復物に加工され、特に歯科用修復物に成形される、プロセス。
【0013】
概要
本発明は、顔料を含有する酸化物セラミックに関し、ここでこの顔料は、Al、Cr、ならびにY、La、およびランタニドのうちの1つまたはそれより多くを含有する。本発明はまた、顔料を含む酸化物セラミックを含有する歯科用成形体、この酸化物セラミックの歯科材料としての使用、および歯科用修復物を調製するためのこの歯科用成形体の使用に関する。本発明はさらに、歯科用修復物を調製するためのプロセス、および顔料を調製するためのプロセスに関する。
本発明による酸化物セラミックは、顔料を含有することを特徴とし、この顔料は、Al、Cr、およびZを含有し、そしてZは、Y、La、ランタニド、およびこれらの混合物から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】記載なし
図2】記載なし
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の酸化物セラミックは、様々な濃淡の赤色を与えられ得る。例えば、酸化物セラミックは、自然な歯の色または歯肉の色として知覚される色を与えられ得る。具体的には、本発明による酸化物セラミックは、歯科用修復物を調製するときに、自然な歯、および自然な歯肉でさえ、その赤色を模倣することを可能にする。
驚くべきことに、酸化物セラミック中の顔料は、焼結などの酸化物セラミック加工において代表的に使用される高い温度においても、安定であることが見出された。従って、本発明の酸化物セラミックを歯科用成形体の調製において使用することは、特に有利である。
【0016】
この高温安定性はまた、酸化物セラミックの微細構造においても存在することが見出された。さらに、本発明による酸化物セラミックは、顔料を含有しない対応する従来の酸化物セラミックと同様の機械特性を有することが見出された。酸化物セラミック内での顔料の微細な分布はしばしば、この微細構造に望ましくない影響をもたらすので、このことは驚くべきことである。特に、酸化物セラミックの機械特性の低下、または焼結中の望ましくない影響が存在し得る。
【0017】
強い赤色は、本発明による酸化物セラミックにおいて、安価な方法で達成され得ることもまた見出された。
【0018】
本発明による酸化物セラミックはまた、毒性の危険性および生体適合性の観点において、特に有利である。なぜなら、酸化物セラミックの加工を委ねられる人員および患者に、健康上の危険を与えないからである。
【0019】
本発明によれば、用語「色」および「色の」は、材料の明度(color value)に関するものである。明度は、L値により分光光度計(例えば、Konica-Minolta製のCM 3700-D)を使用してDIN 6174標準に従って、または歯科産業において一般的に使用されているシェードガイドによって、特徴付けられ得る。用語「赤色」および「赤の濃淡」とは、L色空間において正のa値を有する色をいう。
【0020】
顔料は、AlおよびZを、0.7:1~1:0.7、好ましくは0.8:1~1:0.8、そして特に好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で含有することが好ましい。
【0021】
好ましい実施形態において、顔料は、Z、AlおよびCrを、式ZAl2-x-yCrに対応するモル比で含有し、ここでxは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そしてyは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である。
【0022】
さらに好ましい実施形態において、顔料は、Caをさらに含有する。
【0023】
特に好ましい実施形態において、顔料は、式ZAl2-x-yCrに対応する組成を有し、ここでxは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そしてyは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である。
【0024】
別の好ましい実施形態において、顔料は、式ZAl2-x-yCrに対応する組成を有し、ここでZは、イットリウム、Laおよびランタニドからなる群より選択され、xは、値1を有し、そしてyは、0.001~0.5である。この場合、この顔料は、式ZAl1-yCrを有し、ここでZは、イットリウム、Laおよびランタニドからなる群より選択され、そしてyは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に好ましくは0.01~0.1である。
【0025】
顔料中のZ、AlおよびCrのモル比、ならびに顔料の組成は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)または原子吸光分析(AAS)によって決定され得る。
【0026】
酸化物セラミックの好ましい実施形態において、顔料の主要な結晶相は、ペロブスカイト結晶構造を有する。この文脈で、用語「主要な結晶相」とは、顔料中に存在する全ての結晶相の最も高い質量分率を有する結晶相をいう。
【0027】
ペロブスカイト結晶構造はまた、ゆがんでいてもよい。過酸化物結晶構造との用語はまた、ドープされたペロブスカイト結晶も含む。顔料はさらに、他の結晶相、例えば、ガーネット型構造または単斜晶系の結晶構造を有し得る。例えば、Zがイットリウムである場合、その顔料は、ペロブスカイト結晶構造(イットリウム-アルミニウムペロブスカイト(YAP)を主要な結晶相として、ならびにイットリウム-アルミニウムガーネット(YAG)および/または単斜晶系のイットリウム-アルミニウム結晶相(YAM)をさらなる結晶相として、有し得る。
【0028】
顔料中に存在する結晶相は、X線回折(XRD)分析により決定され得る。結晶相の定量は、特に、リートベルト法により行われ得る。
【0029】
Zが、Y、Er、Pr、Gd、Dy、Eu、Nd、Yb、HoおよびTmからなる群より選択されることが、さらに好ましい。高いa値を有する特に強い赤色が、酸化物セラミック中でこれらの顔料を用いて達成され得ることが、見出された。
【0030】
酸化物セラミックの好ましい実施形態において、顔料は、ISO 13320に従って決定される、0.05~50μm、特に0.1~25μm、そして特に好ましくは0.5~15μmの、平均粒子サイズd50を有する。これらの範囲の粒子サイズは、酸化物セラミックの機械特性のために特に有利であることが見出された。具体的には、小さい粒子の使用が、酸化物セラミックの特に高い強度をもたらし得ることが見出された。
【0031】
好ましい実施形態において、顔料は、少なくとも7、特に、少なくとも10のa値を有する色を有する。さらに、b値が5~30、特に10~30であり、そしてL値が40~65、特に45~60であることが、特に好ましい。
【0032】
さらに好ましい実施形態において、顔料は、7~50のa値、10~30のb値、および40~60のL値を有する色を有する。顔料が、25~32のa値、15~22のb値、および40~60のL値を有する色を有することが、特に好ましい。
【0033】
酸化物セラミックが、0~25、好ましくは1~20、特に好ましくは2~15の範囲のa値を有する色を有することもまた、好ましい。
【0034】
酸化物セラミックが、0~13、好ましくは1~11、特に好ましくは2~8の範囲のa値を有する色を有することが、さらに好ましい。これらのa値は、歯の色を模倣するために特に有利であることが見出された。酸化物セラミックが、5~25、好ましくは5~20、そして特に好ましくは5~15の範囲のa値を有する色を有することもまた、好ましい。これらのa値は、歯肉の色を模倣するために特に適切であることが見出された。a値の好ましい範囲に加えて、b値が、5~35、特に5~25であり、そしてL値が、65~90、特に70~90であることが、特に好ましい。
【0035】
さらに好ましい実施形態において、酸化物セラミックは、顔料を、0.005~10重量%、特に0.01~5重量%、そして特に好ましくは0.05~3重量%の量で含有する。
【0036】
酸化物セラミックが、顔料を、0.005~5重量%、特に0.01~2.5重量%、そして特に好ましくは0.05~2重量%の量で含有することが、さらに好ましい。これらの量は、歯の色を模倣するために特に適切であることが見出された。酸化物セラミックが、顔料を、0.01~10重量%、特に0.05~5重量%、そして特に好ましくは0.1~3重量%の量で含有することもまた好ましい。これらの量は、歯肉の色を模倣するために特に適切であることが示された。
【0037】
酸化物セラミック中の顔料の量は、電子顕微鏡法などの微細構造の光学分析を、エネルギー分散X線分光法などの化学分析技術と組み合わせることによって、決定され得る。酸化物セラミック中の顔料の割合は、最初に体積測定により決定され、次いで酸化物セラミックおよび顔料の密度を考慮して、重量割合に変換される。顔料に含まれる結晶相は、X線回折(XRD)分析により決定され得る。
【0038】
酸化物セラミックが、ジルコニアセラミック、特に安定化ジルコニア多結晶であることが、さらに好ましい。特に好ましくは、ジルコニアセラミックは、Y、La、CeO、MgOおよび/またはCaO、好ましくはYおよび/またはLaを含有する。3~5mol%のYを含有するジルコニアセラミックが特に好ましい。
【0039】
酸化物セラミックが少なくとも部分的に焼結されていることもまた好ましい。従って、酸化物セラミックは、好ましくは、予備焼結されているか完全に焼結されているかのいずれかである。予備焼結された酸化物セラミックは、代表的に、連続気泡状態で存在する。予備焼結された酸化物セラミックは、特に単純で正確な機械加工を可能にする。具体的には、予備焼結された状態の酸化物セラミックの、より低い強度は、ブランクの単純な、時間を節約する成形を、ミリング工具の摩耗を少なくして可能にする。
【0040】
予備焼結された酸化物セラミックは、さらなる焼結工程に供されて、所望の機械特性、特に、高い強度および硬度を達成する。このさらなる焼結工程に供された酸化物セラミックは、「完全に焼結された」、または「緻密焼結された」とも称される。通常、緻密焼結された酸化物セラミックの密度は、DIN EN 623-2に従って決定すると、その酸化物セラミックの理論密度の少なくとも99.2%である。
【0041】
緻密焼結は、酸化物セラミックの焼結収縮を引き起こす。従って、予備焼結された酸化物セラミックを使用する場合、必然的に、本発明による酸化物セラミックの幾何学的形状は、焼結収縮なしの材料、例えばプラスチック材料をベースとする酸化物セラミックと比較して、拡大している。好ましくは、予備焼結された状態で、この幾何学的形状の寸法は、1.200~1.250倍、特に1.220~1.250倍、拡大される。本発明による酸化物セラミックの未焼結状態において、この幾何学的形状の寸法は、好ましくは、1.250~1.350倍、特に約1.275倍、増大する。
【0042】
別の好ましい実施形態において、酸化物セラミックは、上記顔料の調製のための成分の出発組成物を含有する。この実施形態において、酸化物セラミックは、好ましくは、未焼結状態であるか、または部分的に焼結されている。
【0043】
未焼結状態または部分的に焼結された状態にあり、顔料の調製のための成分の出発組成物を含有する酸化物セラミックは、通例は緑色を示すことが見出された。このような酸化物セラミックが緻密焼結されると、これは赤い色を得る。
【0044】
好ましい実施形態において、酸化物セラミックは、この酸化物セラミックの総重量に基づいて、0.005~10重量%、好ましくは0.01~5重量%、そして特に好ましくは0.05~3重量%の出発組成物を含有する。
【0045】
出発組成物が、Al(OH)、CrおよびZのうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを含有することが好ましく、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される。出発組成物がさらに、1種またはそれより多くの融剤を含有することがさらに好ましい。適切な融剤は、鉱化剤とも称され、そしてこれらとしては、カルシウム、ナトリウムおよびバリウムの、フッ化物および炭酸塩が挙げられる。好ましい実施形態において、出発組成物は、CaF、またはNaCOとNaFとの組み合わせ、またはBaCOとNaFとの組み合わせの、特に5:1のモル比のものを含有する。特に好ましくは、出発組成物はCaFを含有する。
出発組成物が、以下の成分のうちの1つ、好ましくは全てを、示される量:
成分 重量%
45~65、特に50~60、
Al(OH) 30~45、特に35~40、
Cr 0.7~1.5、特に0.9~1.3、
CaF 3.0~6.0、特に4.5~5.5
で含有することが特に好ましく、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される。
【0046】
本発明はさらに、上記酸化物セラミックを含有する歯科用成形体に関する。
【0047】
好ましくは、歯科用成形体は、ブランクまたは歯科用修復物であり、ここでこの歯科用修復物は特に、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、アバットメント、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、咬合小面、上顎総補綴物、下顎総補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物から選択される。
【0048】
本発明によるブランクは、好ましくは10~150MPa、特に20~120MPa、そして特に好ましくは25~80MPaの二軸破壊強度を有する。二軸破壊強度は、ISO 6872(2008)(ピストン・オン・スリーボール法)に従って決定される。
【0049】
ブランクが、2~10、特に2~8、そして特に好ましくは3~6の破壊靭性を有することもまた好ましい。破壊靭性(KIc)は、ISO標準14627の第5章~第7章に記載される方法、およびそこに記載される試験条件により、Palmquist亀裂についてのNiiharaの等式を使用することによって、決定され得る。この場合のビッカース圧子の押込み力は、10kgである。Palmquist亀裂についてのNiiharaの等式は、
【数1】
【0050】
であり、ここでKIcは破壊靭性であり、φは拘束係数であり、Hは硬度であり、Eは弾性率であり、aはビッカース圧子の対角線の半分であり、さらに、Lは、等式
【数2】
【0051】
により記載され、ここでaはビッカース圧子の対角線の半分であり、そしてcは表面の亀裂の半径である。Palmquist亀裂についてのNiiharaの等式は、K.Niihara et al.,Journal of Materials Science Letters,1(1982)13-16にも記載されている。
【0052】
さらに、ブランクは、好ましくは、50~1000MPa、特に300~850MPa、そして特に好ましくは300~700MPaのビッカース硬度Hv2.5を有する。ビッカース硬度は、ISO 14705:2016に従って、2.5kgの負荷で測定される。
【0053】
好ましい実施形態において、歯科用成形体は、第一の酸化物セラミック層および第二の酸化物セラミック層を有する多層ブランクであり、ここでこの第一の層とこの第二の層とは、色および界面の形状が異なる。
【0054】
本発明によるこの多層ブランクは、2つまたはそれより多くの酸化物セラミック層を含み得、これらの層のうちの少なくとも1つの層は、上記本発明による酸化物セラミックを含有する。
【0055】
多層ブランクは、歯科用補綴物の調製のために特に適切である。
【0056】
多層ブランクの少なくとも1つの層、特に全ての層において、酸化物セラミックがジルコニアセラミックであることが好ましい。
【0057】
好ましくは、製造されるべき歯科用補綴物の歯列弓における第一の層と第二の層との間の界面は、交互になった波の谷および波の山を有する、波形に形成される。すなわち、このブランクを通る、弓なりの、具体的には放物線または半円の断面表面の側面図において、第一の層と第二の層との間の界面は、波形である。この文脈で、用語「波形」は、純粋に正弦曲線の起伏のみを記載するために限定的に使用されるものではなく、交互になった凸領域と凹領域との任意の起伏を一般的に含む。
【0058】
さらに、多層ブランクの第一の層と第二の層との間の界面の、波の山の尾根線は、好ましくは、この界面の上面図で見た場合に、近心-遠心の方向に半径方向に延びる。すなわち、ブランクの界面の上面図において、波の山の尾根線は、このブランクの中心領域から半径方向に、すなわち外向きに、放射する形状に、好ましくは直線の形状で延びる。この三次元の波および放射線の幾何学的形状は、好ましくは、複数の実際の患者の例からのデータに基づく。
【0059】
従って、本発明による多層ブランクは、特に、歯および歯肉の色、ならびに歯の材料から歯肉へと移行する経路が、最終的な歯科用補綴物において特に良好に模倣され得ることを特徴とする。第一の層の波の形は、歯肉縁を特に良好に再現し得る。放射状に延びる波の構造に起因して、必要とされる歯列弓のサイズとは無関係に、歯肉縁は常に生成され得る。
【0060】
多層ブランクの場合、このブランクの第一の層と第二の層との間の界面の幾何学形状は、好ましくは、この界面の上面図で見た場合に、この界面が、製造されるべき補綴物の前歯の領域で、近心-遠心の方向に扇形になるように、構成される。すなわち、この界面の上面図において、波の山の尾根線は、作製されるべき歯列弓の小部分の中心点から半径方向に、すなわち外向きに、扇形に延びる。
【0061】
さらに、第一の層と第二の層との間の界面は、調製されるべき大臼歯の領域において、この界面の上面図で見た場合に、口腔から頬への方向に波の谷の放射状の谷線、特に、互いに本質的に平行である波の谷の谷線、および好ましくは波の山も、有することが好ましい。
【0062】
一般に、前部領域の波の山の尾根線の扇形の構成、および後部領域の波の谷の谷線の平行な設計の、2つの上記実施形態は、最終的な歯科用補綴物の機能と美的効果との両方が改善されることを可能にする。具体的には、小さい歯列弓と大きい歯列弓との両方に適した歯のセットを提供することが可能である。大きい歯列弓については、この歯列弓は、わずかにさらに半径方向外向きに、すなわち前庭の方向にずれるようにミリングされ、そして小さい歯列弓については、この歯列弓は、さらに内向きに、すなわち口腔のほうにずれるようにミリングされる。本発明による大臼歯の領域について、界面の波の山と波の谷とが平行であることに起因して、比較的大きい咬合面が、本発明による小さい歯列弓についてもまた利用可能である。
【0063】
幾何学的形状はまた、例えば、欧州特許出願公開第3 597 144号から公知であるが、そこに記載されるブランクは、プラスチック製である。これらのブランクと比較して、本発明による多層ブランクは、酸化物セラミック層、特にジルコニア層の使用が、例えば補綴物などの長期間使用される歯科用修復物機械特性に関する要件に完全に合致する、高強度の歯科用修復物を調製することを可能にすることを特徴とする。さらに、酸化物セラミックの使用は、プラスチックと比較して、より薄いブランクの形成を可能にし、その結果、ブランクの全体的な高さが減少し得、そして通常のCAMミリングユニットでのブランクの機械加工が、例えばその設計におけるより少ないアンダーカットに起因して単純化され得る。
【0064】
従って、自然な歯の材料および自然な口腔粘膜の光学的外観は、本発明による多層ブランクを用いて非常に良好に模倣され得、これは上記顔料の使用のみに起因するものではない。多層ブランクはまた、所望の歯科用補綴物の形状を、特に簡単な方法で与えられ得る。この多層ブランクは、指で固定されて条件により取り外し可能な補綴の領域で、効率的な一体での作製を可能にし、その結果、部分義歯または総義歯が、1回のミリングプロセスで、手での工程がほんの数回で、作製され得る。また、本発明によるブランクを用いると、例えばCAMミリングによる成形後に、歯肉領域に染色用溶液を引き続き浸透させることが必要でなくなる。この浸透により、以前は、口内での修復物の故障の例が頻繁にもたらされた。これにより、ストレスのない一体での作製、および従って、長期間安定な修復物が保証される。
【0065】
本発明によるブランクの第二の層は、好ましくは歯の色をしており、そしてこのブランクの熱処理後でさえも歯の色を保持する一方で、第一の層は、歯肉の色を有し、そして熱処理後でさえもこのような色を保持する。
【0066】
多層ブランクの好ましい実施形態において、第一の層の酸化物セラミックは、顔料を、0.01~10重量%、特に0.05~5重量%、そして特に好ましくは0.1~3重量%の量で含有する。第二の層の酸化物セラミックが、顔料を、0.005~5重量%、特に0.01~2.5重量%、そして特に好ましくは0.05~2重量%の量で含有することがさらに好ましい。
【0067】
好ましくは、第一の層の酸化物セラミックは、色を有し、特に、5~25、特に5~20、そして特に好ましくは5~15のa値を有する色を専ら有する。さらに、第二の層の酸化物セラミックが色を有し、特に、0~13、好ましくは1~11、そして特に2~8のa値を有する色を専ら有することがさらに好ましい。
【0068】
多層ブランクのさらに好ましい実施形態において、第二の層は、連続的すなわち直線的な、または不連続すなわち非直線的な、色勾配および/または半透明性勾配を有する。このことはまた、自然な歯、特に前歯の色勾配および半透明性勾配が特に良好に模倣されることを可能にする。
【0069】
特に好ましくは、第二の層の酸化物セラミックは、イットリウムを含有するジルコニアセラミックであり、そして色勾配および/または半透明性勾配、特に半透明性勾配は、好ましくは、イットリウムの量の勾配によって、すなわち、イットリウムの量を次第に変化させることによって、形成される。従って、ブランクは、好ましくは、連続的すなわち直線的な、または不連続すなわち非直線的な、イットリウムの量の勾配を示す。具体的には、イットリウムの含有量は、第一の層と第二の層との間の界面から、第二の層の、この界面の反対側の外側表面に向かって、増大する。このイットリウム含有量の増大は、段階なしであっても段階ありであってもよい。
好ましくは、第二の層は、以下の成分のうちの少なくとも1つ、より好ましくは全てを、示される量:
成分 重量%
ZrO+HfO 82.5~96.5、特に84.5~95.0
3.5~11.0、特に5.0~9.0
顔料 0.005~5、特に0.05~2
Fe 0~0.15、特に0.005~0.12
Cr 0~0.025、特に0.0002~0.01
Mn 0~0.002、特に0.00005~0.0012
Pr 0~0.02、特に0.0001~0.015
Tb 0~0.02、特に0.00005~0.015
Er 0~1.0、特に0.01~0.65
MgO 0~0.05、特に0~0.025
Al 0~0.25、特に0~0.15
La 0~1.0、特に0~0.55
で含有し得る。
【0070】
第一の層の酸化物セラミックは、好ましくは、イットリウムで安定化されたジルコニアを含有する。好ましくは、第一の層のこのジルコニアセラミックは、0.0~4.5mol%、特に0.5~4.25mol%、特に好ましくは0.75~2.0mol%のイットリウム含有量を有し、ここでこのイットリウム含有量は、Y、ZrOおよびHfOの量の合計に対するYの量の割合として定義される。ブランクの第一の層は、作製されるべき歯科用修復物の歯肉領域を形成するために使用されるので、第一の層中のイットリウムの色勾配または材料勾配の形成は、多くの場合、有利ではない。従って、第一の層内のイットリウム含有量は、好ましくは実質的に一定である。あるいは、第一の層は、固定されて移動可能な歯肉を表すことを意図される勾配を有し得る。
好ましくは、第一の層の酸化物セラミックは、以下の成分のうちの少なくとも1つ、特に全てを、示される量:
成分 重量%
ZrO+HfO 86.0~97.0、
好ましくは90.0~94.0
顔料 0.01~10、
好ましくは0.1~3
0.5~8.0、
好ましくは1.0~4.0
第一の着色用酸化物 0.0~0.5、
好ましくは0.0~0.25、
特に好ましくは0.0~0.1
第二の着色用酸化物 0.0~0.1、
好ましくは0.0~0.05、
特に好ましくは0.0~0.025
で含有し、ここで第一の着色用酸化物は、Fe、Tb、PrおよびVからなる群より選択され、そして特に、酸化物セラミックのさらなる黄色をもたらし得、そして第二の着色用酸化物は、Mn、CrおよびCoOからなる群より選択され、そして特に、酸化物セラミックのさらなる灰色をもたらし得る。
【0071】
さらなる実施形態において、多層ブランクの第一の層は、ジルコニアセラミック、あるいはジルコニアセラミックと、アルミナ強化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナ、スピネルからなる群より選択される1個もしくはそれより多くの材料、またはこれらの混合物との混合物を含有することが、好ましい。
【0072】
さらに、本発明による多層ブランクにおいて、第一の層および第二の層は、一片での作製により一緒に接合されることが好ましい。これにより、効率的な一体での作製が可能になる。すなわち、患者に合わせた完全補綴物が、1個のブランクから、1回のミリングプロセスで調製され得る。
【0073】
本発明による多層ブランクの形状は、好ましくは、少なくとも部分的に円形である。具体的には、ブランクは、ディスクの形状、特に好ましくは円形のディスクの形状を有する。
【0074】
第一の層の高さ対第二の層の高さの比は、好ましくは1:1~1:5、特に1:2.5~1:3.5である。
【0075】
さらなる特徴および利点は、図面を参照しながら、以下の例示的な実施形態の説明から明らかになる。図1は、本発明による多層ブランクの概略斜視図を示す。
【0076】
図1は、上顎補綴物のための、本発明によるブランク1を示す。ブランク1は、その基本的な構造の観点で、ディスク形状である。これは、特にジルコニアセラミックをベースとする第一の層3、および特にジルコニアセラミックをベースとする第二の層5を有する。第一の層3と第二の層5とは、色および界面7の形状が異なる。図1による表現において、第一の層3の上面と第二の層5の下面とが、ブランクの界面7を表す。歯列弓の例示的な概略経路、すなわち、作製されるべき補綴物の歯の経路が、図1に線9として示されている。歯列弓9の経路において、界面7は波形であり、波の谷11が波の山13と交互になっている。作製されるべき前歯の領域15において、波の山13は、口腔から前庭への方向に扇形の様式で延びる。すなわち、波の山13の尾根線は、歯列弓9の中心点17から半径方向に、すなわち外向きに、前庭側に向かって、放射状の形状に延びる。
【0077】
さらに、本発明は、歯科材料としての、特に歯科用修復物を調製するための、上記酸化物セラミックの使用に関する。
【0078】
好ましい実施形態において、顔料を調製するための成分の出発組成物を含有する酸化物セラミックは、少なくとも1200℃、特に少なくとも1300℃、そして特に好ましくは少なくとも1400℃の熱処理に供される。
【0079】
驚くべきことに、顔料を調製するための成分の出発組成物を含有する酸化物セラミックにおいて、赤色が、少なくとも1200℃、例えば1450℃の温度での熱処理によってもたらされ得ることが示された。従って、顔料を調製するための成分の出発組成物を含有する酸化物セラミックの、歯科用修復物の調製における使用は、顔料を調製するためのか焼工程が省略され得、従って、時間およびエネルギーを節約し得るという利点を有する。
【0080】
上記歯科用成形体を、歯科用修復物を調製するために使用することもまた、本発明の目的であり、この歯科用修復物は、具体的には、クラウン、部分クラウン、ブリッジ、アバットメント、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される。特に好ましいものは、上顎部分補綴物、下顎部分補綴物、上顎総補綴物または下顎総補綴物を調製するための、歯科用成形体の使用である。
【0081】
本発明による使用は、歯科用修復物を調製するために使用される任意のプロセス工程を包含し得る。例えば、この使用は、歯科用成形体に、歯科用修復物の形状を与えることを包含し得る。
【0082】
本発明はさらに、歯科用修復物を調製するためのプロセスに関し、ここで上記酸化物セラミックまたは上記歯科用成形体が、歯科用修復物に加工され、具体的には成形される。
【0083】
上記酸化物セラミック、歯科用成形体および使用の実施形態の全てはまた、これに対応して、本発明による、歯科用修復物を調製するためのプロセスのために適切であるか、または好ましい。
【0084】
本発明は、実施例を参照して、以下により詳細に説明される。
【実施例0085】
実施例1および2:イットリウム顔料を含む酸化物セラミック
本発明による赤色の酸化物セラミックを調製した。
【0086】
顔料を調製するために、37.7重量%のAl(OH)、1.1重量%のCr、56.2重量%のYおよび5.0重量%、CaFの出発組成物を調製し、混合し、そしてめのう乳鉢で微粉砕した。次いで、この出発組成物をか焼した。この目的で、出発組成物を室温から600℃まで1時間以内で加熱し、次いで600℃から1300℃まで2時間以内で加熱し、1300℃で1時間維持し、次いで室温まで放冷した。
【0087】
次いで、得られた顔料を、5mol%のYで安定化させたジルコニア粉末(DKK HSY-0308 5YSZホワイト)に添加した。このジルコニア粉末は、3重量%のバインダーおよび0.10重量%のAlも含有した。
【0088】
実施例1の酸化物セラミックを調製するために、0.25重量%の顔料を、99.75重量%のジルコニア粉末に添加した。実施例2の酸化物セラミックを調製するために、0.50重量%の顔料を、99.50重量%のジルコニア粉末に添加した。
【0089】
ジルコニア粉末を顔料と混合し、次いで300MPaの圧力でプレスして、小板(直径:16mm、高さ:1.75mm)を形成した。これらの小板を1450℃で5分間焼結した。
【0090】
その後、これらの小板の両面を、1000グリットのSiC紙で処理した。
【0091】
得られたジルコニアセラミックのL明度を、DIN 6174に従って、分光光度計(CM 3700-D,Konica-Minolta)を使用して決定した。測定値を表1に与える。
【表1】
【0092】
図2は、実施例1(左)および2(右の)ジルコニアセラミック小板を示す。これらの小板は、異なる濃淡の赤を示し、実施例2の小板が、より強い色の印象を与える。
【0093】
実施例2の小板は、歯肉の自然な色に特に近い色を示すことが見出された。
実施例3~12:Laおよびランタニド顔料を含む酸化物セラミック
【0094】
実施例3~12のために、ランタンまたはランタニドを含有する顔料を、最初に調製した。この目的で、各場合に出発組成物が、イットリアの代わりに、表2に示されるランタンおよびランタニドの酸化物を56.2重量%含有したこと以外は、実施例1および2のプロセスに従って、様々な出発組成物を調製し、粉砕し、そしてか焼した。
【0095】
次いでジルコニア小板を、実施例2について記載されたプロセスにより調製した。ここで表2に示される顔料0.50重量%を、99.50重量%の酸化物セラミックに添加した。L明度の決定もまた、実施例2について記載された手順に従って行った。その測定の結果を表2に与える。
【表2】
【0096】
実施例13および14:出発組成物を含む酸化物セラミック
【0097】
実施例13および14のジルコニア小板を、実施例1のプロセスに従って調製し、そして試験した。しかし、顔料を使用せず、実施例1において使用した、顔料を調製するための成分の出発組成物を使用した。すなわち、混合してめのう乳鉢で砕いた出発組成物を、か焼せずに直接、ジルコニア粉末に添加した。
【0098】
実施例14を調製するためのプロセスはさらに、小板を1500℃の温度で焼結したことが異なった。
【0099】
出発組成物は、ジルコニア粉末に添加するときに、緑色を有した。焼結後、ジルコニアセラミック小板は赤色を有した。この赤色は、表3に与えられるa値からもわかるとおり、実施例1および2よりもわずかに低い強度であった。
【表3】
【0100】
実施例15:イットリウム顔料を含む酸化物セラミックの破壊靭性
【0101】
本発明による別の赤色の酸化物セラミックを、実施例1で調製した顔料を使用して調製した。
【0102】
3mol%のYで安定化されたジルコニア粉末(PU Tosoh Zirconia Zpex)に3.8重量%のバインダーを加えたものを、酸化物セラミックを調製するために使用した。
【0103】
0.50重量%の顔料を99.50重量%のジルコニア粉末に添加し、そしてこの混合物を、3Dシェーカーミキサー(Turbula(登録商標)タイプ、Willy A.Bachofen AG,Switzerland)で30分間均質化し、次いで200μmの篩で篩い分けた。この均質化した粉末を、99.6mmの直径のダイスで720kNでディスクに圧縮し、次いで3500barでの冷間等方加工プレスに供した。このディスクを995℃で予備焼結し、次いで小板をこのディスクからミリングした。これらの小板を、Programat S1 1600(Ivoclar Vivadent AG,Liechtenstein)のタイプの焼結炉で、1500℃で120分間焼結した。
【0104】
その後、これらの小板の両面を、1000グリットのSiC紙で処理し、そしてこれらの小板の破壊靭性KIcを、ISO 14627の第5章~第7章に記載される方法に従って、そこに特定される試験条件下で、10kgの押込み力を用いて、そしてPalmquist亀裂についてのNiiharaの等式を使用して、決定した。これらの測定は、5.7MPa・m1/2の最大破壊靭性および5.27MPa・m1/2の平均破壊靭性を示した。従って、顔料で着色した酸化物セラミックの破壊靭性は、顔料なしの対応する酸化物セラミックと比較して、損なわれなかった。
図1
図2
【外国語明細書】