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▶ イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132845
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】顔料を含む歯科材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/78 20200101AFI20240920BHJP
   A61K 6/842 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/84 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/88 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/77 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/802 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/838 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/833 20200101ALI20240920BHJP
   A61K 6/871 20200101ALI20240920BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20240920BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K6/78
A61K6/842
A61K6/84
A61K6/88
A61K6/17
A61K6/77
A61K6/802
A61K6/836
A61K6/838
A61K6/833
A61K6/871
A61C5/77
A61C13/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023201512
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】23162377
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コリーナ セルバン
(72)【発明者】
【氏名】ウルス ボレ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン ヴィルトナー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ロスブラスト
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン クロリコフスキ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リッツベルガー
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089AA06
4C089AA09
4C089AA14
4C089BA01
4C089BA04
4C089BA20
4C089BB01
4C089BB02
4C089CA02
4C089CA05
4C089CA06
4C159GG04
4C159GG08
4C159GG12
4C159GG15
4C159RR11
4C159RR15
4C159SS01
4C159SS02
4C159TT02
(57)【要約】
【課題】顔料を含む歯科材料を提供すること。
【解決手段】本発明は、顔料を含有する歯科材料に関し、ここでこの顔料は、Al、Cr、ならびにY、Laおよびランタニドのうちの1つまたはそれより多くを含有する。この歯科材料は、自然な歯および自然な口腔粘膜の赤の彩色を模倣することを可能にする。本発明はまた、歯科用修復物の調製における、歯科材料、顔料、および顔料を作製するための出発組成物の使用に関する。本発明はさらに、歯科用修復物を調製するためのプロセス、および顔料を調製するためのプロセスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有する歯科材料であって、該顔料は、Al、CrおよびZを含有し、そしてZは、Y、La、ランタニド、およびこれらの混合物から選択される、歯科材料。
【請求項2】
前記顔料が、AlおよびZを、0.7:1~1:0.7、好ましくは0.8:1~1:0.8、そして特に好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で含有する、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
前記顔料が、Z、AlおよびCrを、式ZAl2-x-yCrに対応するモル比で含有し、ここで
xは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そして
yは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である、
請求項1または2に記載の歯科材料。
【請求項4】
前記顔料の主要な結晶相がペロブスカイト結晶構造である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項5】
Zが、Y、Er、Pr、Gd、Dy、Eu、Nd、Yb、HoおよびTmからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項6】
前記顔料が、0.05~50μm、特に0.1~25μm、そして特に好ましくは0.5~15μmの平均粒子サイズd50を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項7】
粉末、ブランクまたは歯科用修復物の形態で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項8】
ガラス、ガラスセラミック、長石セラミック、またはガラス、ガラスセラミックもしくは長石セラミックを調製するための組成物を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項9】
前記ガラス、前記ガラスセラミック、または前記ガラスもしくはガラスセラミックを調製するための組成物が、ケイ酸リチウム、白榴石、フルオロアパタイト、オキシアパタイト、石英、低温型石英固溶体、高温型石英固溶体、アルミノケイ酸リチウム、およびこれらの混合物をベースとする、ガラスおよびガラスセラミック、ならびにこれらを調製するための組成物からなる群より選択される、請求項8に記載の歯科材料。
【請求項10】
0~25、好ましくは1~20、特に好ましくは2~15の範囲、または5~25、好ましくは5~20、そして特に好ましくは5~15の範囲のa値を有する色を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項11】
前記顔料を、0.005~20重量%、好ましくは0.01~16重量%、そして特に好ましくは0.05~10重量%の量で含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項12】
歯科用修復物の調製のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科材料の使用、または歯科材料として、特に歯科用着色剤として、もしくは歯科材料の成分として、特に該歯科材料を着色するための、請求項1~6のいずれか1項で規定される顔料の使用。
【請求項13】
前記歯科用修復物が、クラウン、ブリッジ、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、アバットメント、部分クラウン、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される、請求項12に記載の歯科材料の使用。
【請求項14】
歯科用修復物を調製するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科材料が、該歯科用修復物に加工され、特に成形されるか、または請求項1~6のいずれか1項で規定される顔料が、修復用材料に添加され、そして該修復用材料が、該歯科用修復物に加工され、特に成形される、プロセス。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項で規定される顔料を調製するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、出発組成物がか焼され、該出発組成物が、Al(OH)、Cr、Z、および必要に応じて融剤を含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択され、そして
か焼中に、該出発組成物は、室温から最高温度まで、少なくとも5℃/分の平均加熱速度を使用して加熱される、プロセス。
【請求項16】
前記出発組成物が、以下の成分のうちの1つ、好ましくは全て:
成分 重量%
45~65、好ましくは50~60、
Al(OH) 30~45、好ましくは35~40、
Cr 0.7~1.5、好ましくは0.9~1.3、
CaF 3.0~6.0、好ましくは4.5~5.5
を、示される量で含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記か焼が、第一の温度Tまで加熱速度Rを使用して加熱すること、次いで前記最高温度まで第二の加熱速度Rを使用して加熱することを包含し、ここでRはRより大きく、Tは、400~800℃、そして好ましくは500~700℃であり、Rは、1~100℃/分、好ましくは2~75℃/分、そして特に5~50℃/分であり、そしてRは、1~100℃/分、好ましくは2~75℃/分、そして特に5~50℃/分である、請求項15または16に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含有する歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガラス、ガラスセラミックまたは酸化物セラミックから作製され得る、歯科用修復物は、これらの機械特性に関して、高い要求にさらされる。歯科用修復物に、可能な限り自然に近い外観を与えることもまた望ましい。その目的は、自然な歯の材料の半透明な特性を模倣すること、また、歯科用修復物と、残っている自然な歯、ならびに必要であれば、口腔粘膜および特に歯肉の色との、最良な可能な色の整合を達成することである。自然な歯および自然な歯肉の色を模倣する場合、材料における黄および赤の彩色を達成することが、特に必要である。
【0003】
歯科材料を赤に着色するための、様々なアプローチが存在する。
【0004】
ガラスおよびガラスセラミックにおいて、赤の彩色は、特にコロイド金の粒子により達成され、ここでスズもまたしばしば、このガラスに還元剤として添加される。この方法で赤く着色されているガラスは、ゴールドルビーガラスとしても公知である。コロイド金の粒子は、例えば、歯科用修復物の調製において使用されるガラスまたは層状材料の赤色を達成するために、釉薬または層状材料に添加され得る。しかし、限られた数のみの異なる赤の濃淡が、コロイド金の粒子を用いて実現され得る。別の欠点は、コロイド金の粒子が、歯科用修復物の調製のために使用される温度で、非常に限られた熱安定性を有することである。従って、1000℃またはより高い温度などの高温では、赤く着色する効果が弱まるか、または完全に失われさえする。この理由により、例えば、1000℃を超える温度での加工を意図された、高温で融解するガラスは、コロイド金の粒子で赤く着色することができない。
【0005】
ガラスおよびガラスセラミックはまた、特に硫セレン化カドミウムCd(S,Se)などのカドミウム顔料を使用して、赤く着色され得る。しかし、これらの高い毒性の可能性に起因して、カドミウム顔料を、歯科用修復物の製造において使用してはならない。
【0006】
従って、本発明の課題は、様々な赤の彩色を有する歯科材料を提供することである。これらの赤色は、例えば、歯肉または自然な歯の赤色を模倣することが可能であるべきである。さらに、これらの赤色は、例えば、歯科用修復物を製造する際に代表的に使用される高い温度に歯科材料が曝露され得るように、高温安定性を有するべきである。これらの歯科材料はまた、容易かつ迅速に加工することを可能にするべきであり、さらに、安価であるべきである。調製を委ねられる人員および患者への健康上の危険もまた、回避されるべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1~11に記載の歯科材料、ならびに請求項12および13に記載の使用により解決される。本発明はまた、請求項14に記載の歯科用修復物を調製するためのプロセス、および請求項15~17に記載の顔料を調製するためのプロセスに関する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
顔料を含有する歯科材料であって、該顔料は、Al、CrおよびZを含有し、そしてZは、Y、La、ランタニド、およびこれらの混合物から選択される、歯科材料。
(項目2)
前記顔料が、AlおよびZを、0.7:1~1:0.7、好ましくは0.8:1~1:0.8、そして特に好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で含有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目3)
前記顔料が、Z、AlおよびCrを、式ZAl2-x-yCrに対応するモル比で含有し、ここで
xは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そして
yは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である、
先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目4)
前記顔料の主要な結晶相がペロブスカイト結晶構造である、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目5)
Zが、Y、Er、Pr、Gd、Dy、Eu、Nd、Yb、HoおよびTmからなる群より選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目6)
前記顔料が、0.05~50μm、特に0.1~25μm、そして特に好ましくは0.5~15μmの平均粒子サイズd50を有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目7)
粉末、ブランクまたは歯科用修復物の形態で存在する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目8)
ガラス、ガラスセラミック、長石セラミック、またはガラス、ガラスセラミックもしくは長石セラミックを調製するための組成物を含有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目9)
前記ガラス、前記ガラスセラミック、または前記ガラスもしくはガラスセラミックを調製するための組成物が、ケイ酸リチウム、白榴石、フルオロアパタイト、オキシアパタイト、石英、低温型石英固溶体、高温型石英固溶体、アルミノケイ酸リチウム、およびこれらの混合物をベースとする、ガラスおよびガラスセラミック、ならびにこれらを調製するための組成物からなる群より選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目10)
0~25、好ましくは1~20、特に好ましくは2~15の範囲、または5~25、好ましくは5~20、そして特に好ましくは5~15の範囲のa値を有する色を有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目11)
前記顔料を、0.005~20重量%、好ましくは0.01~16重量%、そして特に好ましくは0.05~10重量%の量で含有する、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目12)
歯科用修復物の調製のための、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料の使用、または歯科材料として、特に歯科用着色剤として、もしくは歯科材料の成分として、特に該歯科材料を着色するための、先行する項目のいずれか1項で規定される顔料の使用。
(項目13)
前記歯科用修復物が、クラウン、ブリッジ、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、アバットメント、部分クラウン、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料の使用。
(項目14)
歯科用修復物を調製するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、先行する項目のいずれか1項に記載の歯科材料が、該歯科用修復物に加工され、特に成形されるか、または先行する項目のいずれか1項で規定される顔料が、修復用材料に添加され、そして該修復用材料が、該歯科用修復物に加工され、特に成形される、プロセス。
(項目15)
項目1~6のいずれか1項で規定される顔料を調製するためのプロセスであって、該プロセスにおいて、出発組成物がか焼され、該出発組成物が、Al(OH)、Cr、Z、および必要に応じて融剤を含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択され、そして
か焼中に、該出発組成物は、室温から最高温度まで、少なくとも5℃/分の平均加熱速度を使用して加熱される、プロセス。
(項目16)
前記出発組成物が、以下の成分のうちの1つ、好ましくは全て:
成分 重量%
45~65、好ましくは50~60、
Al(OH) 30~45、好ましくは35~40、
Cr 0.7~1.5、好ましくは0.9~1.3、
CaF 3.0~6.0、好ましくは4.5~5.5
を、示される量で含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される、先行する項目のいずれか1項に記載のプロセス。
(項目17)
前記か焼が、第一の温度Tまで加熱速度Rを使用して加熱すること、次いで前記最高温度まで第二の加熱速度Rを使用して加熱することを包含し、ここでRはRより大きく、Tは、400~800℃、そして好ましくは500~700℃であり、Rは、1~100℃/分、好ましくは2~75℃/分、そして特に5~50℃/分であり、そしてRは、1~100℃/分、好ましくは2~75℃/分、そして特に5~50℃/分である、先行する項目のいずれか1項に記載のプロセス。
【0008】
概要
本発明は、顔料を含有する歯科材料に関し、ここでこの顔料は、Al、Cr、ならびにY、Laおよびランタニドのうちの1つまたはそれより多くを含有する。この歯科材料は、自然な歯および自然な口腔粘膜の赤の彩色を模倣することを可能にする。本発明はまた、歯科用修復物の調製における、歯科材料、顔料、および顔料を作製するための出発組成物の使用に関する。本発明はさらに、歯科用修復物を調製するためのプロセス、および顔料を調製するためのプロセスに関する。 本発明による歯科材料は、顔料を含有することを特徴とし、この顔料は、Al、Cr、およびZを含有し、そしてZは、Y、La、ランタニド、およびこれらの混合物から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による歯科材料を用いて、自然な歯の色または口腔粘膜の色に見える色を有する歯科用修復物が提供され得る。特に、本発明による歯科材料は、歯科用修復物を調製するときに、自然な歯の赤の彩色、および自然な口腔粘膜の赤の彩色でさえ、模倣することを可能にする。
【0010】
驚くべきことに、歯科材料中の顔料が、歯科用修復物をガラス、ガラスセラミックまたは長石セラミックから調製するために代表的に使用される高温でさえも、安定であることが見出された。従って、本発明による歯科材料を、歯科用修復物の調製のために使用することは、特に有利である。
【0011】
この高温安定性はまた、ガラスセラミックまたは長石セラミックの微細構造などの、歯科材料それぞれの微細構造においても存在することが見出された。本発明による歯科材料が、顔料を含有しない対応する従来の歯科材料と等価な機械特性を有することもまた見出された。このことは驚くべきことである。なぜなら、歯科材料内での顔料の細かい分布はしばしば、微細構造に対して望ましくない影響をもたらすからである。具体的には、顔料の細かい分布は、歯科用修復物の局所的な共晶の形成および機械特性の低下、または熱処理中の望ましくない影響をもたらし得る。
【0012】
本発明による歯科材料は、強い赤色が、費用効果的なプロセスで達成されることを可能にすることもまた示された。歯科材料が、顔料を使用することにより単一の赤色に着色される場合、自然な多色の彩色を生じるための、任意の可能なその後の工程が容易になる。
【0013】
本発明による歯科材料はまた、毒性の危険性および生体適合性の観点において、特に有利である。なぜなら、歯科材料の加工を委ねられる人員および患者に、健康上の危険を与えないからである。
【0014】
本発明によれば、用語「色」および「色の」は、材料の明度(color value)に関するものである。明度は、L値により分光光度計を使用してDIN 6174に従って、または歯科産業において一般的に使用されているシェードガイドによって、特徴付けられ得る。用語「赤色」および「赤の濃淡」とは、L色空間において正のa値を有する色をいう。
【0015】
顔料は、AlおよびZを、0.7:1~1:0.7、好ましくは0.8:1~1:0.8、そして特に好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で含有することが好ましい。
【0016】
好ましい実施形態において、顔料は、Z、AlおよびCrを、式ZAl2-x-yCrに対応するモル比で含有し、ここでxは、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.1、特に0.95~1.05、そして特に好ましくは1.00であり、そしてyは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に0.01~0.1である。
【0017】
さらに好ましい実施形態において、顔料は、Caをさらに含有する。
【0018】
特に好ましい実施形態において、顔料は、式ZAl2-x-yCrに対応する組成を有し、ここでxは、0.8から1.2まで、好ましくは0.9から1.1まで、特に0.95から1.05まで、そして特に好ましくは1.00であり、そしてyは、0.001から0.5まで、好ましくは0.005から0.25まで、そして特に0.01から0.1までである。
【0019】
別の好ましい実施形態において、顔料は、式ZAl2-x-yCrに対応する組成を有し、ここでZは、イットリウム、Laおよびランタニドからなる群より選択され、xは、1であり、そしてyは、0.001~0.5である。この場合、この顔料は、式ZAl1-yCrを有し、ここでZは、イットリウム、Laおよびランタニドからなる群より選択され、そしてyは、0.001~0.5、好ましくは0.005~0.25、そして特に好ましくは0.01~0.1である。顔料が、式YAl0.97Cr0.03に実質的に対応する組成を有することが、さらに好ましい。
【0020】
顔料中のZ、AlおよびCrのモル比、ならびに顔料の組成は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)または原子吸光分析(AAS)によって決定され得る。
【0021】
好ましい実施形態において、顔料の主要な結晶相は、ペロブスカイト結晶構造を有する。この文脈で、用語「主要な結晶相」とは、顔料中に存在する全ての結晶相の最も高い質量分率を有する結晶相をいう。
【0022】
ペロブスカイト結晶構造はまた、ゆがんでいてもよい。ペロブスカイト結晶構造との用語はまた、ドープされたペロブスカイト結晶も網羅する。顔料はさらに、他の結晶相、例えば、ガーネット型構造または単斜晶系の結晶構造を有し得る。例えば、Zがイットリウムである場合、その顔料は、イットリウム-アルミニウムペロブスカイト(YAP)を主要な結晶相として、ならびにイットリウム-アルミニウムガーネット(YAG)および/または単斜晶系のイットリウム-アルミニウム結晶相(YAM)をさらなる結晶相として、有し得る。
【0023】
顔料中に存在する結晶相は、X線回折(XRD)分析により決定され得る。結晶相の定量は、特に、リートベルト法により行われ得る。
【0024】
Zが、Y、Er、Pr、Gd、Dy、Eu、Nd、Yb、HoおよびTmからなる群より選択されることが、さらに好ましい。高いa値を有する特に強い赤色が、これらの顔料を用いて達成され得ることが、示された。
【0025】
歯科材料の好ましい実施形態において、顔料は、ISO 13320に従って決定される、0.05~50μm、特に0.1~25μm、そして特に好ましくは0.5~15μmの、平均粒子サイズd50を有する。これらの範囲の粒子サイズは、歯科材料の機械特性のために特に有利であることが見出された。具体的には、小さい粒子の使用が、特に高い強度を有する歯科材料を調製するために有利であり得ることが見出された。
【0026】
好ましい実施形態において、顔料は、少なくとも7、特に、少なくとも10のa値を有する色を有する。さらに、b値が5~30、特に10~30であり、そしてL値が40~65、特に45~60であることが、特に好ましい。
【0027】
さらに好ましい実施形態において、顔料は、7~40、好ましくは10~32のa値、5~30のb値、および40~85のL値を有する色を有する。顔料が、25~32のa値、15~22のb値、および40~60のL値を有する色を有することが、特に好ましい。
【0028】
驚くべきことに、粉末として、または濃厚溶液中で使用される場合に褐色を有するように見える顔料もまた、歯科材料において、自然な歯または口腔粘膜の赤色に似せるために使用され得る色を生成し得ることが見出された。
【0029】
好ましくは、歯科材料は、粉末、ブランク、または歯科用修復物の形態で存在する。
【0030】
従って、用語「歯科材料」とは、加工工程が何であれ、患者にはめることができる歯科用修復物の少なくとも一部分として最終的に働く、任意の材料をいう。好ましい実施形態において、歯科材料は、一体型修復物を調製するための歯科材料、前装材料、他の材料上にプレスするための材料、つや出し材料、フレーム枠材料、結合剤および染色剤からなる群より選択される。
【0031】
歯科用修復物は、好ましくは、クラウン、ブリッジ、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、アバットメント、部分クラウン、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される。
【0032】
好ましい実施形態において、歯科材料は、ガラス、ガラスセラミック、長石セラミック、またはガラス、ガラスセラミックもしくは長石セラミックを調製するための組成物を含有する。ガラス、ガラスセラミック、またはガラスもしくはガラスセラミックを調製するための組成物は、ケイ酸リチウム、白榴石、フルオロアパタイト、オキシアパタイト、石英、低温型石英固溶体、高温型石英固溶体、アルミノケイ酸リチウムおよびこれらの混合物、ならびにこれらを調製するための組成物をベースとする、ガラスおよびガラスセラミックからなる群より選択されることが、特に好ましい。
【0033】
別の好ましい実施形態において、歯科材料はガラスセラミックであり、好ましくは、ケイ酸リチウムガラスセラミック、白榴石ガラスセラミック、フルオロアパタイトガラスセラミック、オキシアパタイトガラスセラミック、石英ガラスセラミック、高温型石英固溶体ガラスセラミック、低温型石英固溶体ガラスセラミック、およびアルミノケイ酸リチウムガラスセラミックからなる群より選択される。ガラスセラミック中の全ての結晶相の総割合は、少なくとも5重量%であることが好ましい。
【0034】
驚くべきことに、顔料は、ガラスセラミックである歯科材料を着色するためにも使用され得ることが見出された。ガラスセラミック中に高い割合の結晶相が存在する場合でさえも、歯科用修復物は、顔料を使用して、所望の色調に着色され得る。
【0035】
歯科材料が、ガラス、またはガラスを調製するための組成物であり、このガラスが400~1200℃、特に420~1150℃、そして特に好ましくは450~1100℃の範囲の膨張軟化点(dilatometric softening point)を有することもまた好ましい。歯科材料が、ガラス、またはガラスを調製するための組成物であり、このガラスが400~600℃、特に420~580℃、そして特に好ましくは450~550℃の範囲、または500~1200℃、特に600~1150℃、そして特に好ましくは650~1100℃の範囲の膨張軟化点を有することが、さらに好ましい。本発明の目的で、ガラスの膨張軟化点は、DIN ISO 6872に従って決定され得る。
【0036】
好ましい実施形態において、歯科材料は、700℃の温度で102.5Pa・sより高い粘度、900℃の温度で102.5Pa・sより高い粘度、および/または1100℃の温度で10Pa・s未満の粘度を有する、つや出し材料である。
【0037】
別の好ましい実施形態において、歯科材料は、0~25、特に1~20、そして特に好ましくは2~15の範囲のa値を有する色を有する。
【0038】
歯科材料が、0~13、好ましくは1~11、特に好ましくは2~8の範囲のa値を有する色を有することもまた、好ましい。これらのa値は、歯の色を模倣するために特に有利であることが見出された。歯科材料が、5~25、好ましくは5~20、特に好ましくは5~15の範囲のa値を有する色を有することもまた、好ましい。これらのa値は、歯肉の色を模倣するために特に適切であることが見出された。a値の好ましい範囲に加えて、b値が、5~35、特に5~25であり、そしてL値が、65~90、特に70~90であることが、特に好ましい。
【0039】
好ましい実施形態において、歯科材料は、顔料を、0.005~20重量%、特に0.01~16重量%、そして特に好ましくは0.05~10重量%の量で含有する。
【0040】
歯科材料が、顔料を、0.005~5重量%、特に0.01~2.5重量%、そして特に好ましくは0.05~2重量%の量で含有することが、さらに好ましい。これらの量は、歯の色を模倣するために特に適切であることが見出された。歯科材料が、顔料を、0.01~20重量%、特に0.05~16重量%、そして特に好ましくは0.1~10重量%の量で含有することもまた好ましい。これらの量は、歯肉の色を模倣するために特に適切であることが示された。
【0041】
歯科材料中の顔料の量は、電子顕微鏡法などの微細構造の光学分析を、エネルギー分散X線分光法などの化学分析法と組み合わせることによって、決定され得る。歯科材料中の顔料の割合は、最初に体積測定により決定され、次いで歯科材料および顔料の密度を考慮して、重量割合に変換される。顔料に含まれる結晶相は、X線回折(XRD)分析により決定され得る。
【0042】
さらに、本発明は、歯科用修復物の調製のための上記歯科材料の使用、および歯科材料として、特に歯科用着色剤として、または歯科材料の成分として、特に歯科材料を着色するための、上記顔料の使用に関する。
【0043】
好ましい実施形態において、歯科用修復物は、クラウン、ブリッジ、フレーム枠、インレー、アンレー、前装、アバットメント、部分クラウン、咬合小面、上顎完全補綴物、下顎完全補綴物、上顎部分補綴物および下顎部分補綴物からなる群より選択される。
【0044】
本発明による使用は、歯科用修復物の調製のために使用される任意のプロセス工程を包含し得る。例えば、この使用は、歯科材料に、歯科用修復物の形状を与えることを包含し得る。
【0045】
好ましい実施形態において、ガラスセラミックである歯科材料は、フレーム枠にプレスされる。このフレーム枠は、好ましくは、金属、ガラスセラミックまたは酸化物セラミックからなり、特にZrOまたはAlをベースとする酸化物セラミックからなる。特に、このプレスはロストワックス法を包含し、そして好ましくは、フレーム枠に、歯肉を模倣するために赤色に染色された層を施すために使用される。
【0046】
別の好ましい実施形態において、歯科材料は基材に塗布され、ここでこの歯科材料は、400~1200℃、好ましくは420~1150℃、そして特に好ましくは450~1100℃の範囲の膨張軟化点を有するガラスである。この基材は、好ましくは、金属、ガラスセラミックまたは酸化物セラミックからなり、特にZrOまたはAlをベースとする酸化物セラミックからなる。顔料は、これらの高融点のガラスにおいてもまた、加工のために必要とされる温度で、安定であることが見出された。従って、これらのガラスは、所望の色効果を有する状態で、基材に塗布され得る。
【0047】
別の好ましい実施形態において、歯科材料は染色剤として使用される。染色剤は、ブラシを用いて基材に塗布される。好ましくは、染色剤は、400~600℃、特に420~580℃、そして特に好ましくは450~550℃の範囲の膨張軟化点を有するガラスであり、これが基材に塗布され、この基材は特に、酸化物セラミックおよび/またはガラスセラミックをベースとする。
【0048】
別の好ましい実施形態において、歯科材料はつや出し材料として使用される。
【0049】
好ましくは、つや出し材料は、500~1200℃、好ましくは600~1150℃、そして特に好ましくは650~1100℃の範囲の膨張軟化点を有するガラスである。つや出し材料は、好ましくは基材に塗布され、ここでこの基材は特に、酸化物セラミックまたは金属からなる。基材に、特に金属基材に、最初に不透明な材料を塗布し、必要に応じてぞうげ質および切端の材料を塗布し、その後、つや出し材料を塗布することが、有利であり得る。好ましくは、基材は緻密焼結されておらず、具体的には、焼結されていないか、または予備焼結されている。つや出し材料は、基材に実質的に浸透しないことが好ましい。本発明の歯科材料は、コーティングおよび赤色を、緻密焼結されていない基材に、単一の工程で施すために使用され得ることが見出された。先行技術において公知である歯科材料を用いると、コーティングおよび赤の着色は、別々の工程で行われなければならない。
【0050】
本発明による使用の好ましい実施形態において、歯科材料は、緻密焼結されていない基材をつや出しするためのつや出し材料であり、ここでこのつや出し材料は、緻密焼結されていない基材に塗布され、そしてこの基材およびこのつや出し材料は、第一の温度Tから、第一の温度Tより高い第二の温度Tに及ぶ温度範囲での熱処理に供され、ここでつや出し材料は、温度Tにおいて、102.5Pa・sより高い、好ましくは104.0Pa・sより高い、特に105.6Pa・sより高い、そして特に好ましくは107.0Pa・sより高い粘度を有し、そして温度Tにおいて、10Pa・s未満、好ましくは10Pa・s未満、そして特に105.6Pa・s未満の粘度を有する。
【0051】
特に好ましくは、つや出し材料は、950℃の温度で、102.5Pa・sより高い、特に104.0Pa・sより高い、好ましくは105.6Pa・sより高い、そして特に好ましくは107.0Pa・sより高い粘度、1300℃の温度で、102.5Pa・sより高い、そして好ましくは10Pa・sより高い粘度、そして1450℃の温度で、10Pa・s未満、好ましくは10Pa・s未満、そして特に105.6Pa・s未満の粘度を有する。
【0052】
別の好ましい実施形態において、つや出し材料は、700℃の温度で、102.5Pa・sより高い、好ましくは104.0Pa・sより高い、特に105.6Pa・sより高い、そして特に好ましくは107.0Pa・sより高い粘度、900℃の温度で、102.5Pa・sより高い、そして好ましくは10Pa・sより高い粘度、そして1100℃の温度で、10Pa・s未満、好ましくは10Pa・s未満、そして特に105.6Pa・s未満の粘度を有する。
つや出し材料の粘度は、特に、粘度-温度曲線を使用して、Vogel-Fulcher-Tammann(VFT)の等式
【数1】
に基づいて決定され得、
ηは、温度Tでの動的粘度であり、
【0053】
A、B、Tは、物質に固有の定数である。
【0054】
この等式は、膨張計または加熱顕微鏡によりそれぞれ実験的に決定された特性温度からの少なくとも3対、好ましくは5対の値、および関連する粘度値:
【表9】
から出発して、解かれる。
【0055】
この等式は、最小二乗法に従って、近似法により解かれる。
【0056】
別の好ましい実施形態において、顔料は、WO 2018/172544 A1に記載されるつや出し材料の組成を有するつや出し材料に含有される。
【0057】
本発明はまた、歯科用修復物を調製するためのプロセスに関し、ここで上記歯科材料が、歯科用修復物に加工され、特に成形されるか、または上記顔料が修復用材料に添加され、そしてこの修復用材料が、歯科用修復物に加工され、特に成形される。
【0058】
歯科材料および顔料、ならびにプロセス工程の、上記実施形態の全てがまた、対応して、歯科用修復物を調製するための本発明によるプロセスのために、適切であるか、または好ましい。
【0059】
本発明はまた、上記顔料を調製するためのプロセスに関し、ここで出発組成物がか焼され、この出発組成物は、Al(OH)、Cr、Z、および必要に応じて融剤を含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドからなる群より選択され、そしてか焼中に、出発組成物は、室温から最高温度まで、少なくとも5℃/分の平均加熱速度で加熱される。
【0060】
好ましい実施形態において、出発組成物は、1種またはそれより多くの融剤を含有する。適切な融剤は、鉱化剤とも称され、そしてこれらとしては、カルシウム、ナトリウムおよびバリウムの、フッ化物および炭酸塩が挙げられる。好ましい実施形態において、この組成物は、CaF、またはBaCOとNaFとの組み合わせを融剤として含有し、特に、CaF、または5:1のモル比のBaCOとNaFとの組み合わせ、そして特に好ましくはCaFを含有する。特に強い赤色が、CaFを、特に少なくとも3重量%の量で使用することによって、得られることが見出された。
【0061】
組成物が、融剤、特にCaFを、3.0~7.0重量%、特に4.0~6.0重量%、そして特に好ましくは4.5~5.5重量%の量で含有することもまた好ましい。
【0062】
出発組成物が、Alの量に基づいて、0.1~6mol%のCr、特に1~4mol%のCrを含有することもまた好ましい。
このプロセスの別の好ましい実施形態において、出発組成物は、以下の成分のうちの1つ、好ましくは全てを、与えられる量
成分 重量%
45~65、特に50~60、
Al(OH) 30~45、特に35~40、
Cr 0.7~1.5、特に0.9~1.3、
CaF 3.0~6.0、特に4.5~5.5
で含有し、ここでZは、Y、Laおよびランタニドから選択される。
【0063】
好ましい実施形態において、出発組成物の成分は、微粉砕され、そして/または混合され、その後か焼される。ここでこの微粉砕は、手動で行われても機械で行われてもよく、そして好ましくは、粉砕により行われる。出発組成物の成分もまた、同時にかまたは逐次的に、微粉砕および混合され得る。微粉砕および混合が、出発組成物の成分の実質的に均一な混合物をもたらすこともまた好ましい。
【0064】
微粉砕および混合は、乾式で行われても、液体を添加して行われてもよい。例えば、出発組成物の成分は、乾式で混合され得、そして乳鉢(例えば、めのう乳鉢)および/またはモルタルグラインダー(例えば、Retsch製のモデルRM200)で一緒に粉砕され得る。
【0065】
出発組成物の成分はまた、ZrO粉砕ビーズを使用して、液体、好ましくは水および/またはエタノールを添加して、二重非対称遠心分離(DAC)技術を使用する混合デバイス(例えば、Hauschild製のSpeedMixer)内で、混合と同時に粉砕され得る。次いで、ZrO粉砕ビーズが、得られた均質な懸濁物から、篩を使用して除去され得、その後、この懸濁物が乾燥工程に供され得る。
【0066】
本発明によるプロセスは、出発材料をか焼することを包含し、これにより、赤色を有する顔料が得られる。好ましい実施形態において、このか焼は、1200~1600℃、特に1250~1550℃、そして特に好ましくは1300~1500℃の最高温度で行われる。
【0067】
好ましくは、か焼中の平均加熱速度は、室温から最高温度までの観点で、0.1~150℃/分、特に0.5~100℃/分、そして特に好ましくは1~75℃/分である。
【0068】
好ましい実施形態において、か焼は、最初に第一の温度Tまで加熱速度Rを使用して加熱すること、次いで最高温度まで第二の加熱速度Rを使用して加熱することを包含し、ここでRはRより大きく、Tは、400~800℃、そして好ましくは500~700℃であり、Rは、1~100℃/分、好ましくは2~75℃/分、そして特に好ましくは5~50℃/分であり、そしてRは、1~100℃/分、好ましくは2~75℃/分、そして特に好ましくは5~50℃/分である。
【0069】
か焼の最高温度での保持時間が、0.2~8時間、特に0.5~6時間であることがさらに好ましい。
【0070】
特に好ましくは、か焼は、1000~1700℃、特に1000~1600℃の温度で、0.2~8時間、特に0.5~6時間の保持時間で行われる。
【0071】
驚くべきことに、加熱速度および保持時間が、か焼により得られる色の濃淡に影響を与えることが見出された。具体的には、低い加熱速度、例えば5℃未満/分の平均加熱速度は、褐色に見える色調をもたらす。
【0072】
好ましい実施形態において、か焼後に、顔料は、再度粉砕および混合される。
【0073】
本発明は、実施例を参照して、以下により詳細に説明される。
【実施例0074】
実施例1~11:顔料を調製するためのプロセス
顔料を、表1に与えられる出発組成物から、本発明によるプロセスにより調製した。
【表1】
【0075】
このプロセスにおいて、成分ZにおけるZを、実施例1~11について、表2に与えられるように選択した。
【表2】
【0076】
これらの出発組成物を混合し、そしてめのう乳鉢を使用して微粉砕した。次いで、これらを、室温から600℃まで1時間以内で(加熱速度約9.6℃/分)、次いで1300℃まで2時間以内で(加熱速度約5.8℃/分)加熱することにより、か焼した。1300℃で1時間の保持時間の後に、これらの組成物を自由に、すなわち温度を制御せずに、室温まで放冷した。先には緑色を有していた組成物が、か焼中に赤色になったことが観察された。
【0077】
か焼後の顔料のL値を、DIN 6174に従って、分光光度計(CM 3700-D,Konica-Minolta)を使用して決定した。決定された値を表3に与える。
【表3】
【0078】
実施例12:顔料の色に対するか焼の加熱速度の影響
【0079】
か焼のために使用した加熱速度の、か焼後の顔料の色に対する影響を調査した。この目的で、実施例1による出発組成物を調製し、そして室温から1300℃まで6時間以内で(加熱速度約3.6℃/分)加熱することにより、か焼した。1300℃で6時間の保持時間の後に、この組成物を900℃まで2時間以内で放冷し、次いで室温まで自由に放冷した。従って、この実施例のために使用した温度プロフィールは、顔料をか焼するために一般的に使用されるプロセスに従うものであった。か焼中に、この組成物は褐色になった。DIN 6174に従う、分光光度計(CM 3700-D,Konica-Minolta)を使用する、この顔料の色の決定は、L値が40.98、a値が15.65、そしてb値が9.79という結果であった。
実施例13~23:低温で焼結する釉薬における顔料の使用
【0080】
顔料を使用して、491℃の膨張軟化点を有し、つや出し材料として意図されるガラスを着色した。このガラスの組成を表4に与える。
【表4】
【0081】
実施例13~23を調製するために、粉末化したガラスを、各場合に1重量%の顔料で着色した。実施例1~6および8~11の、ランタンまたはランタニドを含有する顔料を、実施例13~22の調製のために使用した。実施例23の粉末化したガラスを、1重量%の実施例12の褐色顔料で着色した。対応する実施例を調製するために使用した顔料を表5に与える。
【0082】
実施例13~23の着色ガラス粉末を、歯科での使用に従って、710℃の温度で焼成した。次いで、着色したガラスのL値を、分光光度計(CM 3700-D,Konica Minolta)を使用して、DIN 6174に従って決定した。測定したL値を表5に与える。
【表5】
【0083】
強い赤色が、これらの顔料を使用することによって、ガラスにおいて得られた。ガラス13の色とガラス23の色との間に、肉眼では明らかな差異が知覚されなかった。これは驚くべきことである。なぜなら、粉末形態のこれらのY含有顔料の色は、明らかに異なったからである。
実施例24~32:フルオロアパタイトガラスセラミックにおける顔料の使用
【0084】
顔料を使用して、表6に与えられる組成を有するフルオロアパタイトガラスセラミックも着色した。この目的で、酸化物、カーボネート、ホスフェートおよびハロゲン化物などの原材料の、適切な混合物を、1500℃の温度で1~3時間融解させ、次いで水に注いで、フリットを生成した。このフリットを乾燥させ、粉砕し、そして焼戻ししたケーキに形成した。この焼戻ししたケーキを1020℃の温度で1時間保持し、次いで水中で急冷し、乾燥させ、そして粉砕して、粉末化したガラスセラミックにした。
【表6】
【0085】
実施例24~33の各々について、粉末化したガラスセラミックを、実施例2~6および8~11のランタンまたはランタニドを含有する顔料を1重量%使用して、着色した。各実施例の調製のために使用した顔料を表7に与える。
【表7】
【0086】
これらの顔料を使用することにより、強い赤色が、ガラスセラミックにおいて得られた。
実施例33~36:フルオロアパタイトガラスセラミックの熱安定性
【0087】
実施例24~33において使用した粉末化したフルオロアパタイトガラスセラミックを、実施例33~36を調製するために用いた。実施例33および34を調製するために、粉末化したガラスセラミックを各場合に、1重量%の実施例1の顔料で着色した。実施例35および36を調製するために、各場合に、1重量%の、実施例17を調製するために使用した顔料(その色は褐色に見える)を、粉末化したガラスセラミックに添加した。
【0088】
歯科での使用に従って、着色したガラスセラミック粉末を、歯科用ファーネス内で1分間焼成し、ここで実施例33および35の各々については1080℃の温度、そして実施例34および36については1170℃の温度を使用した。
【0089】
ガラスセラミックのL値を、分光光度計(CM 3700-D,Konica Minolta)を使用して、DIN 6174に従って決定した。使用した焼成温度、および測定した明度を、表8に与える。
【表8】
【0090】
実施例33と34、または実施例35と36とのa値をそれぞれ比較すると、より高い焼成温度が、a値の減少をもたらさないことが明らかである。このことは、これらの顔料が高温で焼成するガラスセラミックにおいて、1170℃という焼成温度においてさえも、非常に良好な安定性を示すことを実証する。
【0091】
実施例13および23のガラスにおける使用に関して既に記載したように、粉末形態で赤色を示す顔料を用いて、および粉末形態で褐色を示す顔料を用いて、強い赤色をガラスセラミックにもたらすことが可能である。ガラスセラミック33と35、またはガラスセラミック34と36とをそれぞれ比較すると、明らかな色の違いは、肉眼で知覚されなかった。
【外国語明細書】