(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132853
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】モーションシステムにおいて技術的欠陥を特定する診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01M7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023209276
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】23162394
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】502149218
【氏名又は名称】エテル・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】バジル・ルノー・グラフ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・コールマン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】モーションシステムにおける技術的欠陥を特定する診断方法。
【解決手段】この方法は、i)前記台座(12)に運動を伝えるために、アクティブ免震システム(14)の前記アクチュエータを駆動するか、又は駆動に寄与する制御シグナルを適用するステップと、ii)基準点に対する台座の運動の6DOFの測定値値を前記慣性センサで取得するステップと、iii)前記6DOFの測定値を使用して、機械システム(11)の測定されたプロセス感度行列を作成するステップと、iv)前記測定されたプロセス感度行列に基づいて、アクティブ免震システム(14)の全てのアクチュエータ及びセンサが予測したとおりに動作している、かつ/又は前記台座(12)の移動を妨げる旋回軸がある、かどうかを決定するステップと、をさらに含む、診断方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーションシステム(10)における技術的欠陥を特定する診断方法であって、
前記モーションシステム(10)は、
設備のための運動ステージ(20)を収容するように設計された台座(12)と、
床に載置した機械フレーム(16)と、
前記台座(12)を支持するダンパ(18)と、
前記台座(12)と前記機械フレーム(16)との間のアクティブ免震システム(14)と
を備え、
前記アクティブ免震システム(14)が前記台座(12)と共に機械システム(11)を形成する、
当該診断方法において、
前記アクティブ免震システム(14)は、基準フレーム(X、Y、Z、RX、RY、RZ)内の前記台座(12)に6自由度(DOF)の運動を伝えるために配置されるアクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)と、前記台座の運動の6DOFの測定値を提供するために配置される慣性センサ(SX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3)とを備え、
当該方法は、以下のステップ、
ー前記台座(12)に運動を伝えるために、アクティブ免震システム(14)の前記アクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)を駆動するか、又は駆動に寄与する、制御シグナル(Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrz)を適用するステップと、
ー基準点に対する台座の運動の6DOFの測定値を前記慣性センサ(SX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3)で取得するステップと、
ー前記6DOFの測定値を使用して、機械システム(11)の測定されたプロセス感度行列(PS)を作成するステップと、
ー前記測定されたプロセス感度行列(PS)に基づいて、前記アクティブ免震システム(14)の全てのアクチュエータ及びセンサが予測したとおりに動作している、かつ/又は、前記台座(12)の移動を妨げる旋回点がある、かどうかを決定するステップと、
を含む、
診断方法。
【請求項2】
1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)及び/又は1つ以上の欠陥のある慣性センサ(SX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3)が、トラブルシューティングのための前記プロセス感度行列に基づいて特定される、
請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
制御信号(Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrz)は、台座(12)を移動するために対応するアクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)を駆動するように6DOFの各々において外乱として適用され、対応するセンサ(SX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3)は、測定されたプロセス感度行列を生成するために前記6DOFのすべてにおいて台座(12)の運動を測定する、
請求項1又は2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記制御信号(Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrz)は、台座(12)を移動するために対応するアクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)を連続的に駆動するために、6DOFの各々において外乱として適用され、前記対応するセンサ(SX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3)は、前記連続的な制御信号の各々について、測定されたプロセス感度行列(PS)を生成するために前記6DOFの全てにおいて台座(12)の運動を測定する、
請求項3に記載の診断方法。
【請求項5】
前記制御信号(Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrz)は、測定されたプロセス感度行列を生成するために、6DOFの各々において外乱として同時に適用され、前記制御信号を互いに区別するための異なる周波数を有する、
請求項3に記載の診断方法。
【請求項6】
モーションシステム(10)は閉ループ制御システムをさらに備え、
前記閉ループ制御システムが、
前記6DOFの各々に対するPIDコントローラ(22a、22b、22c、22d、22e、22f)と、
対応するPIDコントローラの出力に基づいて各アクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)の力基準を演算するアクチュエータ力計算器(24)と、
各慣性センサの出力に基づいて前記6DOFの各々における変位値を演算するセンサ変位計算器(26)と、
を備え、
前記変位値は、前記基準点に対する所望の運動値から減算され、そして減衰作用を生成するために対応するPIDコントローラに供給される、
請求項1~5のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項7】
欠陥のあるアクチュエータ又はセンサの場合には、アクティブ免震システムのPIDコントローラのゲインが、アクティブ免震システム(14)を安定化させるために低減される、
請求項6に記載の診断方法。
【請求項8】
前記台座の運動を妨害又は停止するアクティブ免震システム(14)内の望ましくない旋回点の位置を決定するために前記測定されたプロセス感度行列の少なくとも1つの列から取り出された複合正弦波運動に基づいて、最小二乗アルゴリズムを実行するステップをさらに含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項9】
当該診断方法は、以下のステップ、
-特に、台座(12)及びダンパ(18)の寸法と、アクティブ免震システム(14)のPID制御のゲインとに基づいて、モーションシステム(10)の動的モデルを生成するステップと、
-制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzのうちの1つ以上が6DOFの各々において外乱として仮想的に適用される際に、各アクチュエータ及びセンサの全ての起こり得る欠陥について、かつ2つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及びセンサのすべての起こり得る組合せについて、台座(12)の運動をシミュレーションするステップと、
-各々の起こり得る欠陥に対して、アクティブ免震システム(14)の仮想プロセス感度行列のライブラリを作成し、かつ記憶するステップと、
-前記仮想プロセス感度行列を前記測定されたプロセス感度行列と比較するステップと、そして
-前記比較に基づいて、1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ(MX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4)及び/又は1つ以上の欠陥のあるセンサ(SX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3)を決定するステップと、
をさらに含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項10】
ニューラルネットワークが、前記比較に基づいて1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及びセンサを特定するために使用され、前記ニューラルネットワークが仮想プロセス感度行列の前記ライブラリを使用して訓練される、
請求項9に記載の診断方法。
【請求項11】
モーションシステム(10)を制御するプロセッサで実行した場合に、前記モーションシステムで請求項1~10のいずれか一項に記載の方法のステップが実行されるように構成された命令のセットを含む、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置、特に半導体処理装置に動作を与えるための運動ステージを備えるモーションシステムのアクティブ免震システムにおいて技術的欠陥を特定する診断方法に関する。診断方法は、効果的なトラブルシューティングを可能にする。
【背景技術】
【0002】
精密モーションシステム、特に、位置決め装置、座標測定機又はロボットなどの半導体処理装置は特許文献1に開示されているように、精密モーションシステムを地上振動から隔離するためのいわゆるアクティブ免震システムを備える。アクティブ免震システムは、典型的には運動ステージを取り付けることができるバネが取り付けられたグラナイト台座と、床上に載置される機械フレームとの間に組み立てられるアクチュエータ及び慣性センサを備える。
【0003】
アクティブ免震システムは一般に、装置、特に半導体処理装置に移動を伝えるために操作するときに、運動ステージによって生成される反力を補償するためにフィードフォワード制御を使用する。この補償スキームは、処理装置の既知のステージ運動を使用して、アクチュエータによって台座に適用される力及びトルクを演算して、運動ステージによって引き起こされる反力を補償し、したがって、望ましくない台座運動を回避する。したがって、アクティブ免震システムはできるだけ少ない寄生運動で装置の操作を保証し、その結果、高い位置決め又は測定精度が得られる。
【0004】
取ることができるすべての予防措置にもかかわらず、アクティブ免震システムの1つ以上のアクチュエータ及び1つ以上の慣性センサは、予想通りに機能しない可能性がある。1つ以上のアクチュエータの接続は、アクチュエータの組み立て中に破損するか、又は誤って反転する可能性がある。この場合、欠陥のあるアクチュエータは、期待される方向とは反対の方向に力を提供するか、又は力を提供しない。同様に、1つ以上の慣性センサの接続が破断し、グラナイト台座の1つ以上の自由度の測定が行われなくなる可能性がある。
【0005】
加えて、接触点又は旋回点が台座の動作を妨げることが起こる可能性がある。旋回点は、モーションシステムのアクティブ免震システム内に不注意に落下した不要な物体、例えばねじによって引き起こされる可能性がある。この物体は、通常、アクチュエータの磁石によって引き付けられ、それによってその移動を阻止する。接触点はバネダンパの不適切な調整によっても作り出すことができ、バネダンパは、グラナイト台座をその機械式エンドストップの1つに接触させる。
【0006】
いずれの場合においても、モーションシステムのアクティブ免震システムはそのようには振る舞わないことが明らかになるかもしれないが、問題の起源を特定し、欠陥のあるアクチュエータ及びセンサ又はアクチュエータの移動を妨げる物体を特定することは非常に困難である。したがって、モーションシステムのトラブルシューティングは故障の可能性について、隔離システムの各アクチュエータ及び慣性センサの検証を必要とするので、時間がかかり、面倒である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、台座を駆動するためのアクティブ免震システムを備えるモーションシステムにおいて技術的欠陥を特定する診断方法を提供することである。
【0009】
より詳細には、本発明の目的は、予測どおりに機能しないアクティブ免震システムの1つ以上のアクチュエータ及び/又は1つ以上の慣性センサを特定する診断方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、台座の移動を妨げるアクティブ免震システムの範囲内の1つ以上の接触点を特定する診断方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、診断方法を実行するコンピュータ可読媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的は特に、機器のための運動ステージを収容するように設計された台座と、床上に載置された機械フレームと、台座を支持するダンパと、台座と機械フレームとの間のアクティブ免震システムとを備える、モーションシステムにおける技術的欠陥を特定する診断方法によって達成される。アクティブ免震システムは、台座と共に機械的システムを形成する。アクティブ免震システムは、基準フレーム内で前記台座に6自由度(DOF)運動を伝えるように配置されたアクチュエータと、台座の運動の6自由度測定値を提供するように配置された慣性センサとを備える。本方法は、以下のステップ、
i)前記台座に運動を伝えるために、アクティブ免震システムの前記アクチュエータを駆動するか、又は駆動に寄与する、制御シグナルを適用するステップと、
ii)基準点に対する台座の運動の6自由度の計測値を前記慣性センサで取得するステップと、
iii)前記6DOFの測定値を使用して、機械システムの測定されたプロセス感度行列を作成するステップと、
iv)前記測定されたプロセス感度行列に基づいて、アクティブ免震システムの全てのアクチュエータ及びセンサが予測したとおりに動作している、かつ/又は前記台座の移動を妨げる旋回点がある、かどうかを決定するステップと、
を含む。
【0013】
一実施形態では、欠陥のあるアクチュエータのうちの一つ以上、及び/又は一つ以上の欠陥のあるセンサが、トラブルシューティングのために前記測定されたプロセス感度行列に基づいて特定される。
【0014】
一実施形態では、制御信号が、台座を移動するために対応するアクチュエータを駆動するように6DOFの各々において外乱として適用される。対応するセンサは、測定されたプロセス感度行列を作成するために、前記6DOFの全てにおいて台座の動きを測定する。
【0015】
一実施形態では、制御信号は、台座を移動するために対応するアクチュエータを連続的に駆動するために、6DOFの各々において外乱として適用される。対応するセンサは、連続的な制御信号の各々について、測定されたプロセス感度行列を生成するために前記6DOFの全てにおいて台座の運動を測定する。
【0016】
一実施形態では、測定されたプロセス感度行列を生成するために、制御信号が、6DOFの各々において外乱として同時に適用される。記制御信号が互いに区別するための異なる周波数を有するものである。
【0017】
一実施形態では、モーションシステムは閉ループ制御システムをさらに備え、前記閉ループ制御システムが前記6DOFの各々のためのPIDコントローラと、対応するPIDコントローラの出力に基づいて各アクチュエータの力基準を演算するアクチュエータ力計算器と、各慣性センサの出力に基づいて前記6DOFの各々における変位値を演算するセンサ変位計算器とを有する。変位値は、前記基準点に対する所望の運動値から減算され、そして減衰作用を生成するために対応するPIDコントローラに供給される。
【0018】
一実施形態では、欠陥のあるアクチュエータ又はセンサの場合、アクティブ免震システムのPIDコントローラのゲインが、アクティブ免震システムを安定化させるために低減される。
【0019】
一実施形態では、診断方法が、アクティブ免震システム内の望ましくない旋回点の位置を決定するために前記測定されたプロセス感度行列の少なくとも1つの列から取り出された複合正弦波運動に基づいて、最小二乗アルゴリズムを実行し、前記台座の運動を妨害又は停止するステップをさらに含む。
【0020】
一実施形態では、診断方法が、以下のステップ、
i)特に、台座及びダンパの寸法と、アクティブ免震システムのPID制御のゲインとに基づいて、モーションシステムの動的モデルを生成するステップ、
ii)制御信号のうちの1つ以上が6DOFの各々に外乱として仮想的に適用される際に、各アクチュエータ及びセンサの任意の生じ得る欠陥について、かつ2つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及びセンサの任意の可能な組合せについて、台座の運動をシミュレーションするステップ、
iii)各々の起こり得る欠陥に対して、アクティブ免震システムの仮想プロセス感度行列のライブラリを作成し、かつ記憶するステップ、
iv)前記仮想プロセス感度行列を前記測定されたプロセス感度行列と比較するステップ、そして
v)前記比較に基づいて、1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及び/又は1つ以上の欠陥のあるセンサを決定するステップ、
をさらに含む。
【0021】
一実施形態では、ニューラルネットワークが前記比較に基づいて1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及びセンサを特定するために使用される。ニューラルネットワークは、仮想プロセス感度行列の前記ライブラリを使用して訓練されている。
【0022】
本発明の別の態様は、モーションシステムを制御するプロセッサで実行した場合、モーションシステムで上記実施形態のいずれかによる方法のステップが実行されるように構成された命令のセットを含む、コンピュータ可読媒体に関する。
【0023】
本発明は、実施例として与えられ、図によって示されるいくつかの実施形態の説明によってよりよく理解されるのであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】運動ステージが取り付けられたグラナイト台座と、床上に載置された機械フレームと、アクティブ免震システムとを備えるモーションシステムの斜視図を示す。
【
図2】モーションシステムのグラナイト台座に6自由度(DOF)作動を提供するように構成されている、
図1のアクティブ免震システムのアクチュエータ及び慣性センサの概略図である。
【
図3】
図1のアクティブ免震システムの制御システムのブロック図を示す。
【
図4】面内のDOFのX、Y、Rz及び面外のDOFのZ、Rx、Ryのための6×6複素行列であって、各列と行は、それぞれ、
図3の制御システムのセンサ変換のコントローラ及び出力に対応する、6×6複素行列を示す。
【
図5】制御信号Fsxが行列の第1列を追加するために、XのDOFに外乱として適用されている
図4の行列を示す。
【
図6】すべての慣性センサ及びアクチュエータが設計どおりに動作しているアクティブ免震システムのための
図5の行列の各要素の振幅を示す。
【
図7】
図2のアクチュエータMX1の接続が反転したアクティブ免震システムのための
図5の行列の各要素の振幅を示す。
【
図8】接点がアクチュエータをブロックしているアクティブ免震システムの領域のチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1を参照すると、モーションシステム10は、典型的にはグラナイトの中にある取り付け台座12を備え、その上に機器のための運動ステージ20と、床上に載置された機械フレーム16と、台座12と機械フレーム16との間に取り付けられたアクティブ免震システム14とが固定されている。台座12及びアクティブ免震システム14は、共に機械システム11を形成する。運動ステージ20は、好ましくは、半導体処理装置に移動を伝えるために使用される。
【0026】
アクティブ免震システム14は、アクチュエータMX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4、慣性センサSX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3、及び反力を補償するために発生しようとする運動ステージ20の既知の運動の関数としてアクチュエータによって台座12に適用される力及びトルクを演算するフィードフォワード項を備え、その結果、台座12の望ましくない運動を回避する。
【0027】
図2を参照すると、アクティブ免震システム14は、例えば、X軸線に沿って2つの反対方向に台座12を駆動するように配置した2つのアクチュエータM
X1、M
X2と、Y軸線に沿って2つの反対方向に台座12を駆動するように配置した2つのアクチュエータM
Y1、M
Y2と、Z軸線に台座を駆動させるように配置された4つのアクチュエータM
Z1、M
Z2、M
Z3、M
Z4とを備えてもよい。これらのアクチュエータは6自由度(DOF)、すなわち、3つの並進DOFのX、Y、Z及びX、Y、Z座標の軸線を中心とした回転に対応する3つの回転DOFのR
X、R
Y、R
Zで台座12に移動を伝えるように選択的に駆動される。
【0028】
アクティブ免震システム14は、例えば、6つのDOFの各々における台座12の移動を測定するように配置した6つの異なった慣性センサSX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3を備えてもよい。第1のセンサSX1は台座のX方向の並進運動を測定するために配置され、第2及び第3のセンサSY1、SY2は台座のY方向の並進運動を測定するために配置され、残りの3つのセンサSZ1、SZ2、SZ3は上下方向Z方向の運動を測定するために配置される。最初の3つのセンサSX1、SY1、SY2は通常、面内のDOFのX、Y、Rzを測定するために使用され、さらに、残りの3つのセンサSZ1、SZ2、SZ3は通常、面外のDOFのZ、RX、RYを測定するために使用される。
【0029】
6DOFにおける台座12の位置を測定し、駆動するためのアクチュエータ及び慣性センサの数及び位置の他の構成は、特に台座12のサイズに応じて実施してもよい。
【0030】
一実施形態では、モーションシステム10が台座12の移動を減衰させる閉ループシステムを備える。アクティブ免震システム14は、典型的には台座12の4つの角部に取り付けられるダンパ18を備える。これらのダンパは非常に低い相対減衰係数を有し、台座の動きを減衰させるために閉ループシステムを必要とする鋼ばねブレード及び/又は鋼コイルばねを備える。別の実施形態では、モーションシステム10が、移動する台座の位置フィードバックを伴わない開ループ制御システムを備える。開ループモーションシステムは、台座の移動を減衰するために、鋼ばねの代わりに高い相対減衰係数を有するエラストマー材料を含むダンパを備える。
【0031】
モーションシステム10のアクティブ免震システム14は、1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及びセンサを備えてもよい。欠陥のあるアクチュエータは、不十分な電気的接続のために力を提供しないか、又は反転した電気的接続によって意図した方向とは反対の力を提供する可能性がある。通常、欠陥のあるセンサは、アクチュエータ力計算器24にアクチュエータに対する不正確な力基準を計算させ、それによって、台座12を予想されるものとは異なるように移動させる、いかなる測定も提供しない。
【0032】
アクティブ免震システム14の任意の欠陥のあるアクチュエータ及び任意の欠陥のある慣性センサを特定するように適用された診断方法が、本明細書で開示される。方法は6つ全てのDOFにおいて台座12に運動を伝えるために、アクティブ免震システム14の対応するアクチュエータMX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4を駆動するか、又は駆動に寄与する、制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzを適用するステップを含む。開ループモーションシステムでは、制御信号が、対応するアクチュエータを直接制御するために使用される。閉ループモーションシステムでは、制御信号が、6DOFの各々に外乱として適用され、かつ台座12に運動を伝えるためのアクティブ免震システム14の各アクチュエータMX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4の作動に寄与する。
【0033】
より具体的には、
図3を参照すると、アクティブ免震システム14は、各DOFに対するPID制御器22a、22b、22c、22d、22e、22fと、各アクチュエータM
X1、M
X2、M
Y1、M
Y2、M
Z1、M
Z2、M
Z3によって適用される力の振幅を演算するアクチュエータ力計算器24と、センサS
X1、S
Y1、S
Y2、S
Z1、S
Z2、S
Z3のアウトプットに基づいて前記6DOFの各々における台座12の変位を表す変位値を演算するセンサ変位計算器26とを備える。前記6DOFの各々において取得された変位は、アクティブ免震システム14が台座12の寄生的な移動を可能な限り制限するアクチュエータを制御しようとするとき、ゼロである基準から減算される。次いで、差は対応するPIDコントローラを通過し、このPIDコントローラでは、典型的には微分Dはゼロではなく、減衰効果を生成する。制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzは制御ループ上に外乱を生成するために、各PIDコントローラ22a、22b、22c、22d、22e、22fの出力に適用される。
【0034】
制御信号は、例えば所与の周波数の正弦曲線であってもよく、これは好ましくは6つの制御信号の各々について同じであり、好ましくは台座12の移動を生成するのにあまり力を必要とせず、かつ慣性センサによって正確で、位相シフトなしに測定される周波数範囲内で選択される。典型的には、周波数が0.5Hz~10Hzの範囲、例えば2Hzで選択される。これらの制御信号の振幅は、例えば、台座の質量に応じて1~100Nの範囲の力で100μmの変位のような、その機械的エンドストップ内での台座12の変位を十分に生成するように選択される。
【0035】
台座の全ての一時的な移動を除去するための安定化期間の後、6DOFの全てにおける変位が、一定の時間の間、測定される。実際、制御信号が新しいDOFに適用されると、制御信号が正弦波であっても、多くの周波数を含む台座の移動を引き起こす。しかし、これらの寄生的な移動は急速に減衰し、安定化期間の終わりには、制御信号に含まれる1つ以上の周波数のみが台座の移動に残る。
【0036】
慣性センサSX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3は、6DOFの全てにおける台座12の動きを制御信号毎に測定する。信号処理は、変位測定の基本周波数の振幅及び位相を取り出すために、各測定に対して実行される。これは、6DOFの各々における測定された動きのフーリエ解析によって実行することができる。振幅及び位相は、単一の複素数値として表すことができる。この値は、適用された制御信号の振幅で除算される。
【0037】
診断方法の第2のステップでは、台座12及びアクティブ免震システム14を備える機械システム11のプロセス感度マトリックスPSが使用される。多入力多出力(MIMO)機械システムのプロセス感度行列は、当技術分野で公知である。本発明の文脈では、機械システム11のプロセス感度行列PSは、制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzが台座12に変位を伝えるために、対応するアクチュエータMX1、MX2、MY1、MY2、MZ1、MZ2、MZ3、MZ4の作動に寄与する6DOFの各々に外乱として適用されるときに、DOFの全てにおいて機械フレーム16に対する台座12の移動の振幅を提供する行列である。
【0038】
図4及び
図5に示されるような測定されたプロセス感度行列PSは、行列の各列に、6つの制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzのそれぞれについて、6DOFの各々における台座12の変位値を記憶することによって作成される。したがって、6x6複素行列は、6つの制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzの各々について、6DOFにおける台座の変位の値が得られる。
【0039】
測定されたプロセス感度行列PSの各列は、所与の制御信号に対する各DOFにおける台座の動きに対応する。例えば、プロセス感度行列の第1の列は、X方向に沿って台座12に並進移動を与えるための2つのアクチュエータMX1、MX2の作動に寄与する制御信号Fsxによって部分的に引き起こされる台座12のX、Y、Z、RX、RY及びRZのDOFの変位に対応する。第2の列は、X方向に沿って台座12に並進運動の移動を与えるための2つのアクチュエータMY1、MY2の作動に寄与する制御信号Fsy などによって部分的に引き起こされる台座12の変位に対応する。
【0040】
制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzは、各々の制御信号に関して、上述のように慣性センサSX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3による6DOFの全てにおける台座12の変位を測定するために、好ましくは連続的に適用される。
【0041】
代替的な実施形態では、異なる周波数の制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzを同時に適用してもよい。次いで、慣性センサSX1、SY1、SY2、SZ1、SZ2、SZ3は、プロセス感度行列PSを生成するように台座の動きを測定できる。この場合、制御信号は、各DOFに対して異なる周波数を有する1つ以上の正弦曲線の和である。これは、全ての制御信号が同時に適用されるので、各DOFにおける台座の変位を特定することを可能にする。
【0042】
診断方法は、
図6及び7に示すように、アクティブ免振システムの全てのアクチュエータ及びセンサが測定されたプロセス感度行列PSに基づいて、予想通りに動作しているかどうかを決定し、これは、コンピュータプログラムによって画面上に表示され、オペレータが欠陥のあるアクチュエータ及び欠陥のある慣性センサを迅速に特定して、効果的なトラブルシューティングを行うことを可能にする。
【0043】
例えば、
図6は、すべての慣性センサ及びアクチュエータが設計通りに動作するアクティブ免振システムのための、
図5の行列の各座標の振幅を示す。この場合、振幅のみが表されているが、行列は故障診断及び仮想プロセス感度行列との比較に必要な位相情報も含む。台座12の移動の振幅は、外乱が適用される方向において最大の移動が得られるので、主に対角線上に示される。しかしながら、非対角項も存在する。実際、例えば、アクチュエータM
X1が期待したよりも逆方向に力を提供している場合、X軸線に整列した2つのアクチュエータは無視できるトルクでX軸に沿って結合された力を生成する代わりに、垂直Z軸線の周りに強いトルクを生成する。これにより、プロセス感度行列は、Fsxに対応する第1の列のR
Z行において非対角項を有することになる。
【0044】
図7は、故障したアクチュエータを含むアクティブ免震システムのための
図5の行列の各座標の振幅を示す。制御信号Fsxが2つのアクチュエータM
X1、M
X2に適用されるとき、Xにおける変位が非常に小さくなることは容易に明らかである。また、Z軸線を中心とする台座の回転移動R
Zが、そうべきであるよりもずっと高いことも容易に明らかである。この測定されたプロセス感度行列PSは、アクチュエータM
X1の接続が効果的なトラブルシューティングに対して誤って反転されたことについてオペレータが迅速に特定することを可能にする。
【0045】
線形代数学から取られた方法は、すべてのセンサ及びアクチュエータが正しく動作しているかどうかを行列から照明するために使用することができる。例えば、行列の大きな2ノルム条件数、すなわち、行列の最大特異値と最小値との比は、行列がほぼ特異であり、少なくとも1つのセンサ又はアクチュエータが正しく動作していないこと、又は物体が台座の動きを制限していることを示す。例えば、行列条件数が100を超える場合、それは、欠陥のあるセンサ又はアクチュエータによって行列が悪い状態になっていること、又は物体が台座の動きを制限しているという表示であり得る。
【0046】
有利な実施形態では、診断方法が、特に台座12の寸法、機械的剛性及び相対減衰係数などのダンパ18の物理的特性、ならびにアクティブ免震システム14のPIDコントローラのゲインに基づいて、機械システム11のシミュレーション及び/又は数学的モデリングを生成するステップをさらに含む。
【0047】
結果として得られるプロセス感度行列は、シミュレーション及び/又は数学的モデリングによって計算された各DOFにおける変位の振幅及び位相を表す複素エントリを有する6x6行列であってもよい。より詳細には、台座12の運動は、制御信号Fsx、Fsy、Fsz、Fsrx、Fsry、Fsrzのうちの1つ以上が6DOFの各々に外乱として仮想的に適用され、起こり得る欠陥が各アクチュエータ及びセンサに対して、ならびに2つ以上のアクチュエータ及びセンサの起こり得る組合せに対してシミュレーションされる際に、台座の運動の反応がシミュレーションされる。
【0048】
次いで、各々の起こり得る欠陥ごとのアクティブ免震システムの仮想プロセス感度行列のライブラリが作成され、そしてメモリに記憶される。これにより、測定されたプロセス感度行列PSと、1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及び/又は1つ以上の欠陥のあるセンサを特定するためのライブラリのすべての仮想プロセス感度行列との比較が可能になる。ニューラルネットワークは、測定されたプロセス感度行列PSと仮想プロセス感度行列のライブラリとの比較に基づいて、1つ以上の欠陥のあるアクチュエータ及びセンサを特定するために使用してもよく、それによって、ニューラルネットワークがそのようなライブラリを使用して訓練されている。この比較は、各仮想プロセス感度行列に対して得られた比較スコアに基づいて、最も可能性の高い欠陥のリストをもたらすこともできる。
【0049】
診断方法はまた、典型的にはアクチュエータ磁石によって引き付けられた後に、物体がアクティブ免震システム14内に固着した結果であり得る望ましくない旋回点の領域内、又はグラナイト台座をその機械的エンドストップの1つと接触させるバネダンパの不適切な調整の領域内で特定するために適用される。
【0050】
旋回点を検出するために、まず、測定されたプロセス感度行列PSの1つ以上の列が検討される。これらの列の各々は、機械システム11の複合正弦波運動を表す。最小二乗問題は、行列の各列について得られた測定値に基づいて、アクティブ免震システムの容積内に位置する点が静止しているか、又は最小変位振幅を有するかどうかを決定することを可能にするように設定される。
【0051】
次いで、最小二乗問題の特異値ベースの分析が実行されて、検出された静止点の位置についての信頼度の数値が生成される。2つの接触点の場合、システムは、軸線を中心として回転するように制約される。このような状況では、軸線のみを決定することができるが、この線に沿った遮断点の位置は決定できない。
【0052】
図8は、単純な平行六面体として表される台座と、楕円体として表されるその不確実性境界を有する旋回軸の位置とを示す。この図は、オペレータがこの領域でコンタクトポイントを検索でき、問題を解決できるように、コンピュータプログラムによって画面上に表示することができる。2つの旋回軸の場合、両方の接触点を含む線が表示される。ユーザが第1の旋回軸を決定した場合、この場所で問題を解決することができ、コンピュータプログラムが第2の旋回軸のより正確な位置を表示できるように手順を繰り返すことができる。
【外国語明細書】