(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132865
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ポリマー増粘剤を含む水性インクジェット組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240920BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240920BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023217797
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】18/088,095
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519372065
【氏名又は名称】デュポン エレクトロニクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオチン リー
(72)【発明者】
【氏名】ジー イオン ホ
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC02
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD14
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE23
4J039CA05
4J039EA41
4J039EA45
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 ポリマー増粘剤を含む水性インクジェット組成物を提供する。
【解決手段】 顔料と、水と、水溶性有機溶媒と、少なくとも150mgKOH/g固形分の酸価を含むポリマー増粘剤とを含む水性インクジェット組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、
水と、
水溶性有機溶媒と、
少なくとも150mgKOH/g固形分の酸価を含むポリマー増粘剤と
を含む水性インクジェット組成物。
【請求項2】
ポリマー分散剤を更に含む、請求項1に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項3】
前記ポリマー分散剤が(メタ)アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、又はスチレン-無水マレイン酸コポリマーを含む、請求項1又は2に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項4】
ポリマーバインダーを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項5】
前記ポリマーバインダーがポリウレタン、(メタ)アクリルポリマー、又はポリウレタン-アクリルコポリマーを含み、且つ前記ポリマーバインダーが前記ポリマー分散剤と異なっている、請求項4に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項6】
前記ポリマー増粘剤が150mgKOH/g固形分~650mgKOH/g固形分の酸価を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項7】
前記ポリマー増粘剤が、組成物の全重量を基準として0.01重量%~0.5重量%の量で存在している、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項8】
前記顔料が、組成物の全重量を基準として0.1重量%~15重量%の量で存在している、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項9】
前記水溶性有機溶媒が、組成物の全重量を基準として1重量%~35重量%の量で存在している、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項10】
前記水溶性有機溶媒が150℃~230℃の沸点を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項11】
pHが8~9.5である、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項12】
前記顔料と、前記水と、前記水溶性有機溶媒とを含むが前記ポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の25℃における粘度よりも大きい25℃における粘度を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項13】
前記顔料と、前記水と、前記水溶性有機溶媒とを含むが前記ポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の25℃における粘度よりも少なくとも20%大きい25℃における粘度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項14】
前記ポリマー増粘剤が、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される場合少なくとも50,000グラム/モルの重量平均分子量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項15】
前記ポリマー増粘剤が、アルカリ膨潤性アクリルエマルジョンポリマー、疎水性変性アルカリ膨潤性エマルジョンポリマー、又はそれらの組合せを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項16】
前記アルカリ膨潤性アクリルエマルジョンポリマーが(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はコポリマーを含み、並びに
前記疎水性変性アルカリ膨潤性ポリマーが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートエステル、及びマレイン酸のうちの2つ以上に由来するコポリマーである、
請求項15に記載の水性インクジェット組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物を基材の少なくとも1つの表面に適用することを含む、基材をコートする方法。
【請求項18】
基材と、
前記基材の少なくとも1つの表面上に配置される請求項1~17のいずれか一項に記載の水性インクジェット組成物に由来する層と
を含む、コートされた基材。
【請求項19】
前記層が、
前記顔料と、
前記ポリマー増粘剤と、
を含む、請求項18に記載のコートされた基材。
【請求項20】
前記層が、
前記組成物を前記基材の少なくとも1つの表面上に配置することと、
乾燥させることと、
を含む方法によって調製される、請求項18又は19に記載のコートされた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インクジェット印刷のようなデジタル印刷法は、小規模オフィス/ホームオフィス用の従来のデスクトップ印刷以外の市場で益々重要になってきている。デジタル印刷法は、繊維製品の印刷において支持を得ており、スクリーン印刷などの従来の印刷法よりも多くの潜在的な利点を有している。デジタル印刷は、スクリーンの作製に関連する製版費用をなくし、コスト効率のよい短時間での製造を潜在的に可能にし得る。デジタル印刷は、スクリーン印刷法で実際に達成できない色調勾配及び無限パターン繰り返しサイズなどの視覚効果を更に可能にする。
【背景技術】
【0002】
インクジェットの商用及びパッケージ用印刷用途の拡大は、コーテッド紙、コーテッド段ボール、及び折畳箱などの低吸収性基材、ビニル、ポリスチレン、及びポリプロピレンボードなどの非吸収性プラスチック基材、並びにポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、及びポリエチレンフィルムなどの可撓性基材に直接印刷する必要をもたらした。これらの基材の低めの吸収率は、より緩慢な乾燥、不十分な画像品質、及び使用前に互いに付着する印刷物をもたらす場合がある。これらの欠点は、高速で印刷するときにもっとひどくなる場合がある。
【0003】
これらの問題に対処するために、より速乾性のインクにより低沸点の水溶性有機溶媒(保湿剤)が配合されており、溶媒配合量はより少ない。しかしながら、これらの種類の従来のインク配合物について、溶媒配合量の低減は、より多量の顔料及び/又はポリマーバインダーを使用することによって補償されなければならない。これはしばしば、不十分な噴射性に関する問題をもたらし、これは、200℃未満の沸点を有する溶媒については増大する。
【0004】
したがって、十分な乾燥及び噴射特性を達成しながら溶媒配合量を低減した水性インクジェットインクが継続的に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,085,698号明細書
【特許文献2】米国特許第5,554,739号明細書
【特許文献3】米国特許第6,852,156号明細書
【特許文献4】米国特許第5,022,592号明細書
【特許文献5】米国特許第5,026,427号明細書
【特許文献6】米国特許第5,310,778号明細書
【特許文献7】米国特許第5,891,231号明細書
【特許文献8】米国特許第5,679,138号明細書
【特許文献9】米国特許第5,976,232号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第20030089277号明細書
【特許文献11】欧州特許出願公開第A-0556649号明細書
【特許文献12】米国特許第5,231,131号明細書
【特許文献13】米国特許第6,117,921号明細書
【特許文献14】米国特許第6,262,152号明細書
【特許文献15】米国特許第6,306,994号明細書
【特許文献16】米国特許第6,433,117号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第0,089,213A1号明細書
【特許文献18】欧州特許出願公開第0646,606A1号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0,979,833A1号明細書
【特許文献20】欧州特許出願公開第0,013,836A1号明細書
【特許文献21】国際公開第93/2454A1号パンフレット
【特許文献22】米国特許第4,268,641A1号明細書
【特許文献23】米国特許第4,421,902A1号明細書
【特許文献24】米国特許第3,915,921A1号明細書
【特許文献25】米国特許第5,272,201号明細書
【特許文献26】米国特許第6,161,918号明細書
【特許文献27】米国特許第4,490,728号明細書
【特許文献28】米国特許第6,648,463号明細書
【特許文献29】米国特許出願公開第2012/0214939号明細書
【特許文献30】米国特許出願公開第20030128246号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Color Index,Third Edition,1971
【非特許文献2】H.Spinelli Adv.Mater,1998,10,no.15,1215~1218ページ
【非特許文献3】“Synthesis of an alkali-swellable emulsion and its effect on the rate of polymer diffusion in poly(vinyl acetate-butyl acrylate) latex films” Journal of Polymer Science,Part A: Polymer Chemistry,2005,43(22),pp.5632-5642
【非特許文献4】“Structural and rheological properties of hydrophobically modified alkali-soluble emulsion solutions” Journal of Polymer Science,Part B: Polymer Physics,2002,40(18),pp.1985-1994
【非特許文献5】“Viscoelastic properties of hydrophobically modified alkali-soluble emulsion in salt solutions” Polymer,1999,40(23),pp.6369-6379
【非特許文献6】“Dissolution behavior in water of a model hydrophobic alkali-swellable emulsion polymer with C20H41 groups” Canadian Journal of Chemistry,1998,76(11),pp.1779-1787
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
顔料と、水と、水溶性有機溶媒と、少なくとも150mgKOH/g固形分の酸価を有するポリマー増粘剤とを含む水性インクジェット組成物が提供される。
【0008】
別の態様は、水性インクジェット組成物を基材の少なくとも1つの表面に適用することを含む、基材をコートする方法を提供する。
【0009】
更に別の態様は、基材と、基材の少なくとも1つの表面上に配置される水性インクジェット組成物に由来する層とを含む、コートされた基材を提供する。
【0010】
上記の及びその他の特徴は、以下の図面及び詳細な説明によって例示される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで、例示的な実施形態が詳細に言及され、それらの例が本説明で例示される。これに関連して、本例示的な実施形態は、異なる形態を有し得、本明細書に明記される記載に限定されると解釈されるべきではない。したがって、例示的な実施形態は、本記載の態様を説明するために以下で記載されるにすぎない。本明細書で用いる場合、用語「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ以上の任意の及び全ての組合せを包含する。「少なくとも1つの」などの表現は、要素のリストに先行する場合、要素の全リストを修飾し、リストの個々の要素を修飾しない。
【0012】
要素が別の要素「上」にあると言われる場合、それが他の要素と直接に接触することができるか又は介在要素がそれらの間に存在し得ることが理解されるであろう。対照的に、要素が別の要素の「上に直接」にあると称される場合、介在要素は、存在しない。
【0013】
第1、第2、第3などの用語は、様々な要素、成分、領域、層及び/又は区域を記載するために本明細書で用いられ得るが、これらの要素、成分、領域、層及び/又は区域は、これらの用語によって限定されるべきではないことが理解されるであろう。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層又は区域を別の要素、成分、領域、層又は区域から区別するために用いられるにすぎない。従って、以下で論じられる第1の要素、成分、領域、層又は区域は、本実施形態の教示から逸脱することなく第2の要素、成分、領域、層又は区域と称され得る。
【0014】
本明細書で用いられる専門用語は、特定の実施形態を記載するという目的のためのものであるにすぎず、限定的であることを意図しない。本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈が特に明らかに示さない限り、複数形を同様に含むことを意図する。
【0015】
用語「含む」及び/又は「含んでいる」又は「包含する」及び/又は「包含している」は、本明細書で用いられる場合、述べられた特徴、領域、整数、工程、操作、要素及び/又は成分の存在を明記するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの群の存在又は追加を排除しないことが更に理解されるであろう。
【0016】
別に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。一般に使用される辞書において定義されるものなどの用語は、関連技術分野及び本開示との関連でそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明確にそのように定義しない限り、理想的な意味又は過度に形式的な意味で解釈されないことが更に理解されるであろう。
【0017】
本明細書において使用される場合、「分散物」という用語は、1つの相がバルク物質全体に分布している微細粒子(多くの場合にコロイドの大きさの範囲において)を含む2相系を意味し、粒子は、分散された相又は内相であり、バルク物質は、連続相又は外相である。
【0018】
本明細書において使用される場合、「分散剤」という用語は、コロイドの大きさの極めて微細な固体粒子の均一且つ最大の分離を促進するために懸濁媒体に加えられる界面活性剤を意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合用語「(メタ)アクリレート」は一括して及び別の選択肢としてアクリレート及びメタクリレートを意味し、用語「(メタ)アクリル酸」は、一括して及び別の選択肢としてアクリル酸及びメタクリル酸を意味し、例えば、「ブチル(メタ)アクリレート」は、ブチルアクリレート及び/又はブチルメタクリレートを意味する。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「ポリマー」は、具体的に別記しない限り、ホモポリマーとコポリマーの両方を含む。本明細書で使用される場合、用語「コポリマー」は、2つ以上の異なったモノマーの単位を含有するポリマー組成物を意味し、用語「ターポリマー」は、3つ以上の異なったモノマーの単位を含有するポリマー組成物を意味し、用語「テトラポリマー」は、4つ以上の異なったモノマーの単位を含有するポリマー組成物を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「バインダー」は、水性インクジェット組成物に添加することができる高分子化合物又は高分子化合物の混合物を意味する。バインダーは例えば印刷された材料により大きな耐久性を与えるなど、最終的に印刷された材料に特性を付与することができる。バインダーは本明細書において更に説明される。
【0022】
本発明者は、水性インクジェット組成物の2つの対立する特質、すなわち短い乾燥時間と良い噴射性のバランスをとって最適にする方法を開発した。これらの2つのパラメーターの最適化は、可撓性プラスチックフィルム、箔、硬質プラスチック、及びコートされた媒体などの非孔質基材及びそれほど多孔質ではない基材上に印刷するために重要である。この方法において、単にインクと称することができる、水性インクジェット組成物に少量の特定の種類のポリマー増粘剤を配合して、バインダー及び/又は顔料の配合量を増加させずに有機溶媒レベル全体を低減する。水性インクジェット組成物は、インクの噴射性を維持しながらより速い乾燥時間を可能にする。
【0023】
一態様によると、顔料と、水と、水溶性有機溶媒と、少なくとも150mgKOH/g固形分の酸価を含むポリマー増粘剤とを含む水性インクジェット組成物が本明細書において提供される。酸価は、ポリマー増粘剤の1グラム試料中の酸性基を完全に中和するために必要とされるミリグラム(mg)単位でのKOHの量を表わす。
【0024】
水性インクジェット組成物は顔料を含む。使用するのに適した顔料は、水性インクジェットインクにおいて当技術分野で一般によく知られているものである。従来、顔料は、ポリマー分散剤又は界面活性剤などの分散剤によって安定化されて、ビヒクル中での顔料の安定な分散を生成する。近年、いわゆる「自己分散可能」又は「自己分散性」顔料(以下、「SDP」)が開発された。名前が意味するように、SDPは、分散剤なしで水中に分散可能であり、その表面が、別の分散剤なしで顔料が水性ビヒクルにおいて安定して分散されることを可能にする親水性分散性を付与する基で化学的に改質されている顔料粒子を含有する。「安定して分散された」とは、顔料が微細に分けられ均一に分布され、粒子成長及び凝集に耐性であることを意味する。1つ以上の実施形態において、顔料は自己分散顔料又はポリマー分散顔料である。
【0025】
顔料粒子は、インクジェット印刷装置を通して、特に、10マイクロメートル(μm)~50μmの範囲の直径を通常有する放出ノズルにおいてインクの自由流動を可能にするために十分に小さい。また、粒度は、インクの寿命全体にわたって重要である、顔料の分散安定性に影響を与える。微小粒子のブラウン運動は、粒子の凝集の防止に役立つ。最大の色強度及び光沢のために小さい粒子を使用することも望ましい。有用な粒度の範囲は0.005μm~15μmであり得る。顔料の粒度は0.005μm~5μm、又は0.005μm~1μmであり得る。動的光散乱によって測定される平均粒度は500ナノメートル(nm)未満、又は300nm未満である。
【0026】
選択された顔料は、乾燥形態又は湿潤形態で使用され得る。例えば、顔料は、通常、水性媒体中で製造され、得られた顔料は、水で湿潤されたプレスケーキとして得られる。プレスケーキの形態では、顔料は、乾燥形態で凝集する程度には凝集しない。そのため、水で湿った状態のプレスケーキ形態の顔料は、予備混合プロセスにおいて解凝集するために、乾燥形態の顔料ほどには多くの混合エネルギーを必要としない。代表的な市販の乾燥顔料は、(特許文献1)に記載されている。
【0027】
インクジェット組成物において有用な色彩特性を有する顔料の例としては、ピグメントブルー15:3及びピグメントブルー15:4(シアン用);ピグメントレッド122及びピグメントレッド202(マゼンタ用);ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー95、ピグメントイエロー110、ピグメントイエロー114、ピグメントイエロー128及びピグメントイエロー155(イエロー用);ピグメントオレンジ5、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ62、ピグメントレッド17、ピグメントレッド49:2、ピグメントレッド112、ピグメントレッド149、ピグメントレッド177、ピグメントレッド178、ピグメントレッド188、ピグメントレッド255及びピグメントレッド264(レッド用);ピグメントグリーン1、ピグメントグリーン2、ピグメントグリーン7及びピグメントグリーン36264(グリーン用);ピグメントブルー60、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23、ピグメントバイオレット32、ピグメントバイオレット36及びピグメントバイオレット38(ブルー用);及びカーボンブラックを挙げることができる。しかしながら、これらの顔料のいくつかは、SDPとしての調製に好適ではない場合がある。本明細書では、着色剤は、Society Dyers and Colourists,Bradford,Yorkshire,UKによって確立され、(非特許文献1)で公開された、それらの「CI」表示によって言及される。
【0028】
SDPは、官能基又は官能基を含有する分子を顔料の表面上にグラフトすることにより、物理的処理(真空プラズマなど)により、又は化学処理(例えば、オゾン、次亜塩素酸などでの酸化)により調製することができる。単一の種類又は複数の種類の親水性官能基が1つの顔料粒子に結合され得る。親水性基は、水性ビヒクル中に分散される場合、SDPに負電荷をもたらすカルボキシレート又はスルホネート基である。カルボキシレート又はスルホネート基は、通常、一価及び/又は二価のカチオン性対イオンを伴う。SDPの製造方法は周知であり、例えば、(特許文献2)及び(特許文献3)に見出すことができる。SDPは、カーボンブラックに基づくものなどの黒色であり得るか、又は着色顔料であり得る。
【0029】
SDPは、ある度合いの官能基化を有することができ、この場合、アニオン性基の密度は、顔料表面1平方メートル当たり3.5マイクロモル(3.5μmol/m2)未満、より具体的には約3.0μmol/m2未満である。また、約1.8μmol/m2未満、より具体的には約1.5μmol/m2未満の官能基化の度合いも適切であり、SDPの所定の特定の種類に好ましい場合がある。
【0030】
顔料は水性インクジェット組成物中に水性インクジェット組成物の全重量を基準として0.1重量パーセント(wt%)~15重量%、又は0.1重量%~10重量%、又は0.1重量%~8重量%の量で存在していることができる。
【0031】
添加されたポリマー分散剤によって安定化される顔料は、当技術分野で知られている方法によって調製することができる。一般に、安定化された顔料を濃縮された形態にすることが望ましい。安定化された顔料は、最初に、選択された顔料とポリマー分散剤とを水性分散媒(水及び任意選択で水混和性溶媒など)中で予備混合し、次いで顔料を分散又は解膠することによって調製することができる。分散工程は、2ロールミル、媒体ミル、水平ミニミル、ボールミル、磨砕機において又は混合物を液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに少なくとも34,473.8キロパスカル(kPa)の液体圧力で通過させ、水性分散媒(マイクロフルイダイザー)において顔料粒子の均一な分散物を生成することによって達成することができる。代わりに、濃縮物は、ポリマー分散剤及び顔料を加圧下で乾式粉砕することによって調製することができる。媒体ミルの媒体は、ジルコニア、YTZ及び/又はナイロンなどの一般的に入手可能な媒体から選択することができる。これらの様々な分散プロセスは、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、(特許文献7)、(特許文献8)、(特許文献9)及び(特許文献10)に例示されるように、当技術分野に一般的な意味で公知である。これらの刊行物のそれぞれの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。2ロールミル、媒体ミルの他、混合物を少なくとも34,473.8kPaの液圧で液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに通すことによることが好ましい。
【0032】
粉砕プロセスの後、顔料濃縮物を水系に「レットダウンする」ことができる。本明細書で使用される場合、「レットダウンする」という用語は、混合又は分散による濃縮物の希釈を意味し、ここで混合/分散の強度は、通常、従来の方法論を使用した試行錯誤によって決定され、多くの場合、ポリマー分散剤、溶媒及び顔料の組み合わせに依存する。
【0033】
顔料を安定化するために用いられる分散剤は好ましくはポリマー分散剤である。構造化ポリマー又はランダムポリマーのどちらも使用できるが、分散剤として用いるために構造化ポリマーが好ましい。用語「構造化ポリマー」は、ブロック、分岐、又はグラフト構造を有するポリマーを意味する。構造化ポリマーの例としては、(特許文献1)に開示されているようなAB又はBABブロックコポリマー、(特許文献11)に開示されているようなABCブロックコポリマー、及び(特許文献12)に開示されているようなグラフトポリマーが挙げられる。使用できる他のポリマー分散剤は、例えば、(特許文献13)、(特許文献14)、(特許文献15)、並びに(特許文献16)に記載されている。1つ以上の実施形態において、ポリマー分散剤には、(メタ)アクリルポリマー、ポリウレタンポリマー、又はスチレン-無水マレイン酸コポリマーが含まれ得る。
【0034】
典型的な(メタ)アクリルポリマー分散剤には一般的に、疎水性モノマー及び親水性モノマーの両方が含まれる。疎水性モノマーのいくつかの例としては、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルメタクリル酸ヘキシル、ヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-フェニルエチルメタクリレート及び相当するアクリレートが挙げられる。親水性モノマーの例としては、メタクリル酸、アクリル酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びそれらの塩が挙げられる。また、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの四級塩も使用することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、疎水性領域は吸収性セグメントを含む部分であり、これは分散を生じさせるために顔料表面と相互作用する分散剤のセグメント又は機能である。親水性セグメントは、安定化させるために溶質混合物中での相互作用によって分散液を安定させるセグメントである。この安定化は立体的安定化又はイオン的安定化として特徴付けられる。これらの現象は、(非特許文献2)の中に記述されている。上述したイオンにより安定化されたポリマー分散剤は、立体的安定化があったとしてもわずかである。
【0036】
ポリマー分散剤は分散プロセスの開始前に中和されてもよい。すなわち、溶媒混合物とポリマー分散剤との最初の混合物は適切な量の中和剤を有する。或いは、中和剤は、分散プロセス中に極性溶媒と共に添加されてもよい。追加的な選択肢は、最初の混合物中でポリマー分散剤を部分的に中和し、極性溶媒中に追加の中和剤を添加することである。最終混合物中でのポリマー分散剤の中和量は、最大約100%の中和、又は最大約90%の中和である。
【0037】
中和剤は、アルカリ金属の水酸化物、アミン等であり得る。中和剤の例としては、モノ-、ジ、トリ-メチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリンなどの有機塩基;ジメチルエタノールアミン(DMEA)、メチルジエタノールアミン、モノ-、ジ、及びトリ-エタノールアミンなどのアルコールアミン;ピリジン;水酸化アンモニウム;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなどのテトラ-アルキルアンモニウム塩;リチウム、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属が挙げられる。好ましい中和剤としては、ジメチルエタノールアミン、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられ、サーマルインクジェットプリンタにおいて使用されるインクのためには水酸化カリウムが特に好ましい。
【0038】
ポリウレタンポリマー分散剤は、イソシアネート化合物、イソシアネート反応性化合物、及びイオン性置換基を有するイソシアネート又はイソシアネート反応性化合物から調製することができる。このイオン性置換基は、ポリウレタン分散剤中に存在することで水溶液中でこれを安定化させる。多くの場合、これらのポリウレタン分散剤は、過剰のイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーとして調製することができる。その場合、鎖を終結させるイソシアネート反応性基が付加されることでポリウレタン分散剤が得られる。ポリウレタンのイオン性含有量は、イオン性置換基の供給源に応じて、酸基又はアミン基として測定した場合、ポリマー1g当たり10~90mgKOHであり得る。酸価は、ポリマーの1グラム試料中の酸性基を完全に中和するために必要とされるミリグラム(mg)単位でのKOHの量を表わす。イオン性成分は、分散剤としてのその使用の前に少なくとも部分的に中和され得る。これらのポリウレタンの数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される場合2000グラム/モル(g/モル)~9500g/モルであり得る。
【0039】
使用される場合、ポリマー分散剤は水性インクジェット組成物の全重量を基準として0.1重量%~5重量%、又は0.1重量%~3重量%の量で水性インクジェット組成物中に含まれ得る。
【0040】
1つ以上の実施形態において、水性インクジェット組成物はポリマーバインダーを更に含み得る。バインダーは例えば印刷された材料により大きな耐久性を与えるなど、最終的に印刷された材料に特性を付与することができる。インクジェット組成物におけるバインダーとして使用される典型的なポリマーとしては、ポリウレタン分散物及びポリウレタン溶液、アクリル、スチレンアクリル、スチレンブタジエン、スチレンブタジエンアクリロニトリルエチレンアクリル酸、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ラテックスなどが挙げられる。バインダーは、溶液であり得るか、又はカルボン酸、硫黄含有酸、アミン基及び他の類似のイオン性基などのイオン性置換基を有することによってエマルジョンとして安定化され得る。
【0041】
バインダーは、単独で又は他のバインダーと組み合わせて使用することができる。1つ以上の実施形態において、ポリマーバインダーはポリウレタン、(メタ)アクリルポリマー、又はポリウレタン-アクリルコポリマーを含み、且つポリマーバインダーはポリマー分散剤と異なっている。例えば、ポリマーバインダーはポリウレタンであり得る。任意選択のポリウレタンバインダーは、印刷された画像の耐久性を高めるために水性インクジェット組成物中で使用される場合望ましい架橋をもたらすことができる。
【0042】
ポリマーバインダーは、水性インクジェット組成物の全重量を基準として少なくとも0.6重量%、又は例えば、水性インクジェット組成物の全重量を基準として0.6重量%~15重量%、又は1重量%~15重量%の量で水性インクジェット組成物中に存在し得る。
【0043】
ポリマーバインダーを他の成分と一緒に顔料分散物に添加して、水性インクジェット組成物を調製することができる。いくつかのポリマーはバインダーと分散剤の両方として機能できるものの、多くのバインダーは顔料分散液を形成するために顔料を分散させる分散剤とは異なる。本開示のポリマーバインダーとポリマー分散剤は異なるポリマーである。
【0044】
また、水性インクジェット組成物は、水と1つ以上の水溶性有機溶媒とを含む、水性ビヒクルを含む。水溶性有機溶媒の例としては、アルコール、ケトン、ケト-アルコール、エーテル及びその他、例えばチオジグリコール、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、カプロラクタム等;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレンの付加ポリマー;グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル;及びジエチレングリコールジメチル、ジエチルエーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテルが挙げられる。
【0045】
1つ以上の実施形態において、有機溶媒は、150℃~230℃、又は150℃~200℃、又は150℃~180℃の沸点を有することができる。
【0046】
水性インクジェット組成物は、水性インクジェット組成物の全重量を基準として50重量%~99重量%、又は50重量%~95重量%の量の水を含むことができる。
【0047】
水性インクジェット組成物は、水性インクジェット組成物の全重量を基準として35重量%以下、又は30重量%以下の量の水溶性有機溶媒を含むことができる。例えば、水性インクジェット組成物は、水性インクジェット組成物の全重量を基準として1重量%~35重量%、又は1重量%~30重量%の量の水溶性有機溶媒を含むことができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、水性インクジェット組成物は、8~9.5、又は8~9のpHを有することができる。pHを維持するために緩衝液が使用されてもよい。緩衝液としては、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン(「Trizma」又は「Tris」)が挙げられる。
【0049】
水性インクジェット組成物は、少なくとも150mgKOH/g固形分の酸価を有するポリマー増粘剤を含む。言い換えると、ポリマー増粘剤は少なくとも1つの酸性官能基を含み、少なくとも150mgKOH/g固形分の酸価を有する。酸価は、ポリマー増粘剤の1グラム試料中の酸性基を完全に中和するために必要とされるミリグラム(mg)単位でのKOHの量を表わす。1つ以上の実施形態において、水性インクジェット組成物は、150mgKOH/g固形分~650mgKOH/g固形分、又は175mgKOH/g固形分~550mgKOH/g固形分、又は200mgKOH/g固形分~450mgKOH/g固形分の酸価を有するポリマー増粘剤を含むことができる。
【0050】
1つ以上の実施形態において、ポリマー増粘剤は、アルカリ膨潤性アクリルエマルジョン(ASE)ポリマー、疎水性変性アルカリ膨潤性エマルジョン(HASE)ポリマー、又はそれらの組合せを含む。
【0051】
ASEポリマーは中性状態でだけ濃くなり、したがって「アルカリ膨潤性」という表現がなされる:結果は、ポリマー鎖によって担持される様々なカルボキシレート基の間のイオン反発メカニズムである。これらのイオン化基は、水分子を偏光させ、それは、媒体の粘度を上昇させる。前述のイオン現象に加えて、HASEポリマーは、同様に媒体の増粘に寄与する、会合疎水基間の相互作用を伴なう。これらのメカニズム、並びに特にこれらのエマルジョンのアルカリ膨潤性の特性及び中性付近のpHの水性環境を濃縮するそれらの能力は、文献国際公開第2007/144721号パンフレット及び“Practical guide to associative thickeners”(Proceedings of the Annual Meeting Technical Program of the FSCT,2000,78th,644-702)に記載されている。
【0052】
ASE及びHASEポリマーは、アニオン性モノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等)、親油性モノマー(例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート等)、及び会合モノマー(例えば、長鎖C5~C22アクリレート又はスチレン誘導体モノマー)の様々な混合物のフリーラジカル乳化重合によって合成することができる。ASE及びHASEポリマーは、ビニルアセタール、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルハロゲン化物、ビニルエーテル、架橋剤、及び連鎖移動剤からなる群から選択される他のビニルモノマーに由来する重合単位を任意選択的に含有することができる。
【0053】
ASEポリマーは、塩基性水溶液中にある時に負電荷を含有するエチレン性不飽和モノマーに由来するホモポリマー、又はそれらのコポリマーを含むことができる。本明細書で使用される場合、塩基性水溶液中に負電荷を有するこのようなモノマー又は繰り返し単位は、「アニオン性モノマー」と称される。また、ASEポリマーは、上記のとおり、コポリマーであることができ、親油性モノマーなど、他のモノマーに由来する付加的な繰り返し単位を更に含むことができる。
【0054】
典型的なアニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ホスホエチル(メタ)アクリレート、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ナトリウムビニルスルホネート、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノブチルフマレート、無水マレイン酸等が挙げられる。好ましいモノマーは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、無水マレイン酸、又はフマル酸である。1つ以上の実施形態において、ASEポリマーは(メタ)アクリル酸ホモポリマーを含む。他の実施形態において、ASEポリマーは、(メタ)アクリル酸に由来する少なくとも1つの繰り返し単位を含むコポリマーであり得る。
【0055】
典型的な親油性モノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸のC1~C7アルキル及びC2~C7ヒドロキシアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、イソプロピルスチレン、p-クロロスチレン等のビニル芳香族化合物及び置換ビニル芳香族化合物;酢酸ビニル、ビニルバーサテート(versatate)等のビニルエステル;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;ブタジエン、イソプレン等のジエン;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の置換ポリ(エチレン);又はそれらの組合せが挙げられる。好ましい親油性モノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0056】
HASEポリマーは、上記のように、ASEポリマーに似ており、会合モノマーに由来する1つ以上の繰り返し単位を更に含む。HASEポリマーの会合モノマーは、長鎖C5-C50アクリレート基が結合したエチレン性不飽和モノマーであり得る。会合モノマーの例としては、C8~C30アルキルフェノキシ(エチレンエポキシ)6-100エチル(メタ)アクリレート及びC8~C30アルコキシ(エチレンエポキシ)6-50エチル(メタ)アクリレート、C8~C30アルキルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、並びにC8~C30アルコキシエチル(メタ)アクリレートなどのエステルが挙げられる。限定されないがエーテル、アミド、及びウレタンなどの他の結合を用いてもよい。会合モノマーの例としては、C5~C30カルボン酸のビニルエステル及び(メタ)アクリレートのC5~C30アルキルエステルが挙げられる。
【0057】
特定の実施形態において、ASE又はHASEポリマーをクロスカップリング剤によって架橋して、網状構造を有するポリマーをもたらすことができる。このような実施形態において、ポリマーは、少量(0.01~5重量%)の少なくとも1つのポリエチレン性不飽和モノマーを含むことができる。適した例には、アリルメタクリレート(ALMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)、ジアリルフタレート(DAP)、メチレンビスアクリルアミド、ペンタエリトリトールジ-、トリ-、及びテトラ-アクリレート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート等、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0058】
ASE及びHASEポリマーは、水中のアルカリ膨潤性ポリマーの直接エマルジョンの形態で製造することができ、その有効成分含有量は、それらの全重量の10%~45%の間であり得る。相当する合成プロセスは、以下の刊行物に詳細に説明されている:(非特許文献3)、(非特許文献4)、(非特許文献5)、(非特許文献6)。多くの特許出願もまた、それらの製造を網羅している(ASEについては(特許文献17)、(特許文献18)、(特許文献19)、及びHASEについては(特許文献20)、(特許文献21)、(特許文献22)、(特許文献23)、(特許文献24))。
【0059】
1つ以上の実施形態において、疎水性変性アルカリ膨潤性ポリマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートエステル、及びマレイン酸のうちの2つ以上に由来するコポリマーであり得る。
【0060】
ASE及びHASEポリマーの分子量は、例えば、粒径排除クロマトグラフィー(SEC)又は固有粘度などの標準法によって測定することができる。1つ以上の実施形態において、ASE及びHASEポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される場合、50,000g/モル超である重量平均分子量(Mw)を有することができる。ASE及びHASEポリマーは、GPCによって測定される場合、50,000g/モル~1,000,000g/モル、又は50,000g/モル~500,000g/モル、又は50,000g/モル~400,000g/モルのMwを有することができる。
【0061】
典型的なASE及びHASEポリマーとしては、BASF(ドイツ)から入手可能なRHEOVIS(登録商標)HS1162、RHEOVIS(登録商標)HS1152、RHEOVIS(登録商標)HS1169、RHEOVIS(登録商標)HS1212、RHEOVIS(登録商標)HS1332、RHEOVIS(登録商標)AS1130、RHEOVIS(登録商標)AS1337、及びRHEOVIS(登録商標)AS1125を挙げることができるが、実施形態はそれらに限定されない。他の典型的なASE及びHASEポリマーとしては、Dow Chemicalから入手可能なACRYSOL(登録商標)ASE-60、ACRYSOL(登録商標)ASE-75、及びACRYSOL(登録商標)ASE-95NP;Nouryon(オランダ)から入手可能なALCOGUM(登録商標)L15、ALCOGUM(登録商標)L29、ALCOGUM(登録商標)L31、ALCOGUM(登録商標)L350、ALCOGUM(登録商標)L344、及びALCOGUM(登録商標)SL920;及びArkema(King of Prussia,PA)から入手可能なRHEOTECH(登録商標)146、RHEOTECH(登録商標)330、RHEOTECH(登録商標)53L、RHEOTECH(登録商標)1800、RHEOTECH(登録商標)2000、及びRHEOTECH(登録商標)2800が挙げられる。
【0062】
ポリマー増粘剤は、水性インクジェット組成物の全重量を基準として0.01重量%~0.5重量%、又は0.05重量%~0.4重量%、又は0.05重量%~0.3重量%の量で水性インクジェット組成物中に存在し得る。
【0063】
他の添加剤は、こうした添加剤が水性インクジェット組成物の安定性及び噴射性を妨げない程度で水性インクジェット組成物に配合され得る。これは、当業者により、日常の実験によって容易に決定され得る。
【0064】
界面活性剤を水性インクジェット組成物に添加して表面張力及び湿潤性を調節することができる。典型的な界面活性剤としては、エトキシル化アセチレンジオール(例えば、Evonikから入手可能なSURFYNOL(登録商標)シリーズ)、エトキシル化アルキル第一級アルコール(例えば、Shellから入手可能なNEODOL(登録商標)シリーズ)、第二級アルコール(例えば、DowChemicalから入手可能なTERGITOL(登録商標)シリーズ)、スルホスクシネート(例えば、Cytecから入手可能なAEROSOL(登録商標)シリーズ)、有機シリコン(例えば、Evonikから入手可能なDYNOL(登録商標)又はTEGO(登録商標)Wetシリーズ)、フルオロ界面活性剤(例えばChemoursから入手可能なCAPSTONE(登録商標)シリーズ)等、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0065】
存在している場合、界面活性剤は水性インクジェット組成物の全重量を基準として0.01重量%~5重量%、又は0.2重量%~2重量%の量で使用することができる。
【0066】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン-ジ(o-ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-五酢酸(DTPA)、及びグリコレテルジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸(GEDTA)、並びにこれらの塩などの金属イオン封鎖(又はキレート化)剤を含むことは、例えば、重金属不純物の有害作用を除去することに有益であり得る。
【0067】
(特許文献25)に例示されているものなどの補助溶媒が水性インクジェット組成物の閉塞抑制特性(pluggage inhibition properties)を改良するために含有されてもよい。
【0068】
印刷後の硬化を実現するために、特定の試薬を添加剤として使用することができる。印刷後の硬化は、多くの場合、印刷後にサンプルを加熱することで促進される。適切な印刷後硬化剤の例としては、アミド及びアミン-ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、及びブロックトポリイソシアネートが挙げられる。選択された印刷後硬化剤は、水性インクジェット組成物に可溶性であるか分散性であるのがよい。選択された印刷後硬化剤を含有する水性インクジェット組成物は、保管中に安定しているのがよく、これは、印刷前に硬化反応が起こらないことを意味する。インクが印刷された後、且つ印刷された画像が熱及び任意選択的に圧力で溶融される場合にのみ、印刷後硬化剤は、バインダー、分散剤、インクビヒクル、基材などの1つ以上と化学反応する。印刷後硬化剤の具体的な例は、CYMEL(登録商標)303ULF(Cytec,West Patterson,N.Jから入手可能)である。
【0069】
殺生剤を水性インクジェット組成物において使用して微生物の成長を抑えることができる。
【0070】
液滴の落下速度、液滴の分離長さ、液滴サイズ、及び流れの安定性は、インク組成物の表面張力及び粘度に大きく影響を受ける。水性インクジェット組成物は、25℃で20ダイン/cm~70ダイン/cmの表面張力を有することができる。インクは、放出条件及びプリントヘッド設計に合わせて調節される物理的特性を有する。インクは、インクジェット装置内でかなりの程度詰まらないように長期間にわたり優れた貯蔵安定性を有する必要がある。更に、インクは、それが接触するインクジェット印刷装置のパーツを腐食してはならず、またこれは本質的に無臭且つ無毒である必要がある。
【0071】
上記のように、ポリマー増粘剤を水性インクジェット組成物に所定の低量で配合し、これは、迅速な乾燥時間及び良い噴射性を達成しながら、バインダー配合量又は顔料の配合量を増加させずに、より少ない有機溶媒の使用を可能にする。更に、より少ない水溶性有機溶媒の使用を可能にするために、ポリマー増粘剤はまた、水性インクジェット組成物の粘度を上昇させる。
【0072】
1つ以上の実施形態において、水性インクジェット組成物は、顔料と、水と、水溶性有機溶媒とを含むがポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の25℃における粘度よりも大きい25℃における粘度を有することができる。言い換えると、同等の組成物は、ポリマー増粘剤を含まないことを除いて、水性インクジェット組成物と同じ成分を含む。例えば、同等の組成物において、ポリマー増粘剤の量は、水又は水溶性有機溶媒の等量で置き換えることができる。代わりに、同等の組成物において、ポリマー増粘剤は、本明細書において定義されるポリマー増粘剤と異なっている別の増粘剤で置き換えることができる。
【0073】
1つ以上の実施形態において、水性インクジェット組成物は、顔料と、水と、水溶性有機溶媒とを含むがポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の30℃における粘度よりも大きい30℃における粘度を有することができる。
【0074】
いくつかの実施形態において、水性インクジェット組成物(例えば、ポリマー増粘剤を少なくとも0.1重量%有する)は、顔料と、水と、水溶性有機溶媒とを含むがポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の25℃における粘度よりも少なくとも20%超の25℃における粘度を有することができる。例えば、水性インクジェット組成物(例えば、ポリマー増粘剤を少なくとも0.1重量%有する)は、顔料と、水と、水溶性有機溶媒とを含むがポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の25℃における粘度よりも少なくとも30%超、少なくとも40%超、少なくとも50%超、少なくとも75%超、又は少なくとも100%超である25℃における粘度を有することができる。
【0075】
いくつかの実施形態において、水性インクジェット組成物(例えば、ポリマー増粘剤を少なくとも0.1重量%有する)は、顔料と、水と、水溶性有機溶媒とを含むがポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の30℃における粘度よりも少なくとも20%大きい30℃における粘度を有することができる。例えば、水性インクジェット組成物(例えば、ポリマー増粘剤を少なくとも0.1重量%有する)は、顔料と、水と、水溶性有機溶媒とを含むがポリマー増粘剤を含まない同等の組成物の30℃における粘度よりも少なくとも30%超、少なくとも40%超、少なくとも50%超、少なくとも75%超、又は少なくとも100%超である30℃における粘度を有することができる。
【0076】
水性インクジェット組成物は、25℃で3センチポアズ(cP)~100cP、又は5cP~80cP、又は7cP~75cPの粘度を有することができる。
【0077】
粘度は、ブルックフィールド粘度計モデルLVTで適切なスピンドルを使用して25℃で測定され、フルスケール読み取り値の20%~80%の間の読み取り値を与える。
【0078】
本明細書で使用される場合「インクセット」という用語は、インクジェットプリンターが噴射するように備えている全ての個々のインク又は他の流体を意味する。インクセットは、少なくとも3つの異なって着色されたインクを含むことができる。例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)インクは、CMYインクセットを形成する。いくつかの実施形態において、インクセットは、例えば、CMYKインクセットを形成するためにCMYインクセットにブラック(K)インクを加えることにより、少なくとも4つの異なって着色されたインクを含む。インクセットのマゼンタ、イエロー及びシアンインクは、水性インクであることができ、着色剤として染料、顔料又はこれらの組合せを含有することができる。こうした他のインクは、一般的な意味において当業者に周知である。
【0079】
典型的なCMYKインクに加えて、インクセットは、オレンジインク、グリーンインク、レッドインク及び/又はブルーインク並びに高強度の色のインクと薄いシアン及び薄いマゼンタなどの軽強度の色のインクとの組合せなどの異なって着色されたインクを含む1つ以上の「色域拡大」インクを更に含むことができる。これらの「色域拡大」インクは、(特許文献30)に開示されているようなアナログスクリーン印刷の色域をシミュレートするためのテキスタイル印刷において特に有用であり得る。
【0080】
また、水性インクジェット組成物を基材の少なくとも1つの表面に適用することを含む、基材をコートする方法も提供される。得られたコートされた基材は、基材と、基材の少なくとも1つの表面上の水性インクジェット組成物に由来する層とを含む。コートされた基材において、水及び水溶性有機溶媒を除去することができ、水性インクジェット組成物に由来する層は、顔料及びポリマー増粘剤、並びにその他の任意選択の固体成分を含むが水も水溶性有機溶媒も含まないようにできる。例えば、水性インクジェット組成物に由来する層は、水性インクジェット組成物を基材の表面上に配置することと、その後適用された層を乾燥させることとによって調製することができる。
【0081】
本開示の水性インクジェット組成物は、ピエゾ又はサーマルプリントヘッドを備えるプリンターなど、任意の適したインクジェットプリンターで印刷することができる。サーマルインクジェットプリントヘッドのいくつかの例は、Hewlett Packard Deskjet、及びCanon iPIXMA iP4200であり、ピエゾプリントヘッドのいくつかの例は、BROTHER(登録商標)MFC3360C、及びEpson STYLUS(登録商標)C120である。いくつかの適したプリントヘッドは、(特許文献26)、(特許文献27)、及び(特許文献28)(その開示内容は参照により本願明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0082】
更に、本開示の水性インクジェット組成物は、制限なしに任意の基材上に印刷することができる。水性インクジェット組成物は、低吸収及び非吸収媒体上のインクジェット印刷のために特に有利である。低吸収媒体としては、疎水性コーティング層の1つ以上の層のかレンダリング及び/又は適用のために低い表面多孔度を有するコーテッド紙、コーテッド段ボールボード、コーテッドカートン、及び折畳箱が挙げられる。非吸収基材は、様々な厚さ及び可撓性を有するアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリオレフィンパネル又はフィルムなどのプラスチック基材を意味する。基材は、インクの定着及び付着性能を改良するために印刷前にプライマー処理又はコロナ処理などの一般的な表面処理にかけることができる。
【0083】
本開示の水性インクジェット組成物及びインクセットの特に有利な用途は、繊維製品のインクジェット印刷である。繊維製品としては、これらに限定されないが、綿、羊毛、絹、ナイロン、ポリエステル等、及びこれらの混合物が挙げられる。繊維製品の完成形態としては、これらに限定されないが、布地、衣類、Tシャツ、カーペット及び室内装飾用布地などの調度品等が挙げられる。更に、考慮される繊維質繊維材料は、特に、綿、麻、及び大麻などの天然繊維質材料、並びにビスコース及びリヨセルなどの再生繊維質材料などのヒドロキシル基含有繊維質材料である。更なる繊維質材料としては、羊毛、絹、ポリビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリプロピレン及びポリウレタンが挙げられる。これらの繊維材料は、好ましくは、シート状の繊維織物布地、編布地又はウェブの形態であり得る。
【0084】
本開示の水性インクジェット組成物及びインクセットの別の特に有利な使用は、商用のコートされたオフセット媒体のインクジェット印刷における使用である。商用オフセット紙は、非孔質平滑表面を保有することができる。平滑非孔質表面は、流体が透過するためにより長い時間を必要とするコーティングによって形成される。多く場合、オフセットコーティングは、特にインクジェットインク用に設計された紙用コーティング、例えば、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーよりも疎水性である、例えば、スチレン-ブタジエン系であるポリマーを含有する。このように、オフセットコーティングは典型的に疎水性であり、不十分な透過特性を有し、平滑/非孔質であるので、オフセットコーティングは、水性インクと不十分に相互作用する傾向がある。オフセット媒体をコートするために使用されるポリマーの例としては、ラテックスバインダー、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン)、ポリエステル(PET)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、及び/又はポリ(無水マレイン酸)が挙げられる。
【0085】
本開示は、非限定的な、以下の実施例によって更に説明される。
【実施例0086】
試薬は商業供給元からのものであり、別記しない限り、更に精製せずに使用される。表1は、実施例のための試薬を列挙する。
【0087】
【0088】
シアン顔料分散物の調製
シアン分散物は、(特許文献29)に記載された手順に従って調製された。シアンTRB2顔料を用い、顔料を分散させた後に分散剤を架橋した。
【0089】
イエロー顔料分散物の調製
イエロー分散物は、イエロー顔料PY74を使用することを除いてシアン顔料分散物と同様に調製した。
【0090】
黒色顔料分散物の調製
黒色分散物は、カーボンブラック顔料を使用することを除いてシアン顔料分散物と同様に調製した。
【0091】
マゼンタ顔料分散物の調製
マゼンタ分散物は、イエロー顔料PR122を使用することを除いてシアン顔料分散物と同様に調製した。
【0092】
ポリマーバインダーの調製
ポリマーバインダー1
添加漏斗と、冷却器と、攪拌機と、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリ及び酸を含まないフラスコに、15.8グラム(g)のCHDM、104.7gのTERATHANE(登録商標)T650、4.0gのTMP、及び118gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、120gのIPDIを、40℃で5分間にわたり添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から2gのアセトンでフラスコにすすいだ。
【0093】
フラスコ温度を50℃に加熱し、この温度で240分間保った。次いで、15.8gのDMPA及び11gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、次いでそれを2gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコを50℃に加熱し、NCO%が2.0%以下になるまでこの温度で保持した。
【0094】
温度を50℃に保持して、570gの脱イオン(DI)水を10分かけて加え、続いて38gのEDA水溶液(水中の10%溶液として)を、添加漏斗を介して5分かけて加えた。得られた混合物を1時間50℃で保持し、次に室温に冷却した。
【0095】
アセトンを真空下で除去し、約30.0重量%の固形分を有するポリウレタンの最終分散物を残した。
【0096】
ポリマーバインダー2
添加漏斗と、冷却器と、攪拌機と、窒素ガスラインとを備えた乾燥したアルカリ及び酸を含まないフラスコに、280gのETERNACOLL(登録商標)UC-100、4gのTMP、10gのTEA、及び287gのアセトンを加えた。内容物を40℃に加熱し、よく混合した。次いで、162gのIPDIを、40℃で5分間にわたり添加漏斗を介してフラスコに加え、残りのIPDIを、添加漏斗から10gのアセトンでフラスコにすすいだ。
【0097】
フラスコ温度を50℃に上げ、この温度で120分間保った。次いで、35gのDMPA及び13.5gのTEAを添加漏斗を介してフラスコに加え、次いでそれを10gのアセトンですすいだ。次いで、フラスコ温度を再び50℃に上げ、NCO%が1.4%以下になるまでこの温度で保持した。
【0098】
50℃の温度で、28gのVESTAMIN(登録商標)A95溶液を5分間にわたり付加的な漏斗を介して加え、その後に、それぞれ添加漏斗を介して、950gのDI水を10分間にわたり加え、次いでその後に、28gのジエチレントリアミン水溶液(10%水溶液として)を5分間にわたり加えた。得られた混合物を1時間50℃で保持し、次に室温に冷却した。
【0099】
アセトンを真空下で除去し、約35.0重量%の固形分を有するポリウレタンの最終分散物を残した。
【0100】
インク配合物
実施例で使用したインクは、インクジェット技術分野における標準的な手順に従って作製した。成分量は、最終的なインクの重量%である。ポリマーバインダーと添加剤は固形分基準で示される。顔料分散物は顔料基準で示される。
【0101】
インク調製の例として、インクビヒクルを調製し、撹拌しながら水性インクバインダーに添加した。均質混合物が得られるまで撹拌した後、溶液を顔料分散物に加え、溶液が再び均質になるまで混合した。最終工程は、レオロジー改質剤(又はポリマー増粘剤)を上記の混合物に添加することであり、次いでそれを均質になるまで混合し、KOH水溶液(水中に3重量%KOH)を用いてpHを8.3~8.7に調節した。レオロジー改質剤を添加する前のインクの組成は、表2に示す通りに一定に保持した。レオロジー改質剤が添加されたとき、バランスをとられる水の%を調節して成分の総量が総計100重量%に等しくなるようにした。
【0102】
表2は、インク配合物を調製するために使用された水溶性有機溶媒及びそれらの相当する沸点を列挙する。
【0103】
【0104】
表3は、インク配合物を調製するために使用されたポリマー増粘剤/レオロジー改質剤の酸価(AN)及びMw(g/モル)を列挙する。
【0105】
【0106】
酸価(AN)はKOHによる滴定によって測定され、ポリマー1グラム当たりのKOHのmgとして計算された。
【0107】
ポリマーのMwは、ポリスチレン標準を用いてGPCによって測定された。GPCは、Waters Corporation(Milford,MA)によって製造された2414屈折率検出器を有するAlliance e2695分離モジュールであった。測定は、溶離剤としてテトラヒドロフラン中の酢酸の2重量%溶液を使用して、以下に詳述したように、0~600Kの測定のために適した4つの異なったSTYRAGEL(登録商標)GPCカラムを使用して行われた。4つのカラムは:1.STYRAGEL(登録商標)WAT044225、10000Å細孔を有する5μmポリスチレン粒子が充填された7.8x300mmカラム。2.STYRAGEL(登録商標)WAT044237、500Åの細孔を有する5μmポリスチレン粒子が充填された7.8x300mmカラム。3.STYRAGEL(登録商標)WAT044234、1000Åの細孔を有する5μmポリスチレン粒子が充填された7.8x300mmカラム。4.STYRAGEL(登録商標)WAT044231、50Åの細孔を有する5μmポリスチレン粒子が充填された7.8x300mmカラム。
【0108】
インクの粘度評価
水性インクジェット組成物の粘度は、正確な温度制御のための水ジャケットを備え、温度制御槽と接続されたブルックフィールドDVII粘度計によって、以下に指示する通り、25℃又は30℃で測定された。
【0109】
黒色インクの粘度
表4に列挙する成分を使用して黒色インクを調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。粘度もまた、表4に報告される。
【0110】
【0111】
表4に示されるように、レオロジー改質剤を含まないCE1の粘度に対してそれぞれ、E1は32.5%の粘度の上昇を達成し、E2は94.3%の粘度の上昇を達成した。CE2及びCE3によって示されるように、JONCRYL(登録商標)67の使用は粘度を上昇させなかったが、CE4及びCE5は、余分のポリマーバインダーの使用が粘度の著しい上昇をもたらさなかったことを示す。
【0112】
イエローインクの粘度
表5に列挙する成分を使用してイエローインクを調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。粘度もまた、表5に報告される。
【0113】
【0114】
表5に示されるように、レオロジー改質剤を含まないCE6の粘度に対してそれぞれ、E3は20.8%の粘度の上昇を達成し、E4は43%の粘度の上昇を達成し、E5は136%の粘度の上昇を達成し、E6は490%の粘度の上昇を達成した。結果は、含まれるポリマー増粘剤の量に基づいて粘度が上昇したことを更に示す。
【0115】
シアンインクの粘度
表6に列挙する成分を使用してシアンインクを調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。粘度もまた、表6に報告される。
【0116】
【0117】
表6に示されるように、レオロジー改質剤を含まないCE7の粘度に対してそれぞれ、E7は48%の粘度の上昇を達成し、E8は98%の粘度の上昇を達成し、E9は160%の粘度の上昇を達成し、E10は73.6%%の粘度の上昇を達成し、E11は179%の粘度の上昇を達成し、E12は418%の粘度の上昇を達成し、E13は1249%の粘度の上昇を達成した。結果は、使用されたASE又はHASEポリマー増粘剤のどちらかに関わらず、含まれるポリマー増粘剤の量に基づいて粘度が上昇したことを更に示す。
【0118】
開放時間の検査
インクの開放時間挙動はしばしば、良い印刷に不可欠に必須である。商業印刷の場面において、プリントヘッドは、キャッピングなしに数分から数時間もアイドル状態のままであり得る。この時間の間に、インクは開放ノズルで乾燥しつつある。この現象は、インクを除去せずに印刷が再開する時に印刷の欠陥をもたらし得る。開放時間の測定を利用して、異なった時間の間プリントノズルの近くで乾燥した後のインクの噴射挙動の特性を決定した。休止後のインクの除去及びプリントヘッドの清浄化に伴なう遅延なしに印刷欠陥を最小に抑えて印刷が再開できるので、より長い開放時間が好ましい。
【0119】
表7に列挙される水性インクジェット組成物は、実験室用印刷システムを使用してそれらの開放時間について検査した。この印刷システムにおいて、インクは、Fujifilm Dimatix(Santa Clara,CA)製の搭載固定SAMBA(登録商標)G3Lプリントヘッドから下の回転シリンダに保持された基材上に噴射された。開放時間の性能は以下の試験によって判断された:インクを除去してノズルプレートをきれいに拭った後、33本のライン及び2.2x7cmのカラーブロックをただちに印刷した。次に、プリンターは、パルスを加えたりヘッドを通してインクを除去することなく900秒間アイドル状態のままにした。アイドル時間の後、同じパターンの線及びインクブロックを印刷した。典型的に、印刷された最初の数本のラインは、アイドリング時間の間のインク蒸発の結果として欠陥を有した。開放時間は、最初の完全なラインが印刷される前の欠陥ラインの数によって特性決定された。900秒間のアイドリング後に欠陥ラインの数が15本未満である場合、開放時間の性能は許容範囲であると考えられた。900秒間のアイドリング後に欠陥ラインの数が20本より多い場合、それは不十分な開放時間を有すると考えられた。
【0120】
表7に列挙する成分を使用して水性インクジェット組成物を調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。開放時間の性能もまた、表7に報告される。
【0121】
【0122】
表7の噴射実験からの結果は、本発明の疎水性変性アルカリ膨潤性エマルジョンポリマー増粘剤を有するインクは全て許容範囲の開放時間を有する(E14~E16)のに対して、CE7におけるHEUR型増粘剤、TEGO(登録商標)Viscoplus3000の使用は、劣った噴射開放時間性能をもたらし得ることを実証する。
【0123】
乾燥速度の検査
2.5のワイヤーサイズを有するGardcoフィルムアプリケーターロッド(Paul N.Gardner Inc.,Florida,USA)を使用してDuPont Teijin Film製の透明PETフィルムであるMylar MLBTを水性インクジェット組成物でコートして、3μm~5μmの様々な湿潤厚さを有するコーティングを形成した。コーティングを65℃の熱対流炉内で1分又は45秒間乾燥させた。乾燥度は、インクフィルムを人差し指で適度な圧力で1秒間押すことによって評価された。乾燥の等級は、以下の基準を用いて決定された:1の等級:インクは全く損なわれていなかった;2の等級:インクはわずかな色移りがあるが損なわれていなかった;3の等級:インクは指の接触による若干の斑があり損なわれた;又は4の等級:インクは、指を押し付ける領域のサイズと同様なそのサイズを有する著しい斑があり、損なわれた。
【0124】
表8に列挙する成分を使用してシアン水性インクジェット組成物を調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。1分後及び45秒後の乾燥等級もまた表8に報告される。
【0125】
【0126】
表9に列挙する成分を使用してマゼンタ水性インクジェット組成物を調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。1分後及び45秒後の乾燥等級もまた表9に報告される。
【0127】
【0128】
表10に列挙する成分を使用してイエロー水性インクジェット組成物を調製し、ここで量は重量パーセントで列挙される。1分後及び45秒後の乾燥等級もまた表10に報告される。
【0129】
【0130】
表8~10に示される乾燥速度試験の結果は、水溶性有機溶媒の一部を置き換えて少量の本発明のポリマー増粘剤を使用することにより、乾燥速度を著しく改良できることを実証した。更に、本発明のポリマー増粘剤は、同様なインク粘度を同様に維持しながら乾燥時間を改良した。
【0131】
特定の実施形態が記載されたが、予測しないか又は今のところ予測できない代替物、修正、変型、改良形態、及び実質的な同等物は出願人又は他の当業者に生じるであろう。したがって、出願され、補正され得る添付したクレームは、全てのこのような代替物、修正、変型、改良形態、及び実質的な同等物を包含することを意図している。