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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132868
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20240920BHJP
   F16D 43/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16D41/12 C
F16D43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220125
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2023043550
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大樹
(72)【発明者】
【氏名】吉野 弘紹
(72)【発明者】
【氏名】栗田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】片山 修
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸治
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】小澤 聖丘
【テーマコード(参考)】
3J068
【Fターム(参考)】
3J068AA10
3J068BB02
3J068CB03
3J068CC01
3J068CC02
3J068GA19
(57)【要約】
【課題】一方向クラッチの機能と、一方向および逆方向の両方向の相対回転を阻止する機能と、が得られるクラッチ装置の軸方向寸法を小型化する。
【解決手段】内輪24が本体部材26およびシャッタープレート28に分割されており、それ等が位相ずれ状態に保持されると一方向クラッチとして機能するOWC状態となり、外輪22および内輪24の一方向Aの相対回転が許容される。外輪22および内輪24が逆方向Bへ相対回転させられると、OWCポール40が噛合い歯34に噛み合わされ、シャッタープレート28が位相合致状態まで相対回転させられると、ロックポール42が噛合い歯32、34と噛合い可能になり、一方向Aおよび逆方向Bの両方向において外輪22および内輪24の相対回転が阻止される両噛合状態になる。すなわち、OWC状態から両噛合状態へ自動的に切り替えられるのであり、クラッチ装置20の軸方向寸法を小型化できる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の軸線まわりに相対回転可能に配置された外輪および内輪と、
前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の何れか一方に設けられた噛合い歯と、
前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の他方に設けられ、前記外輪および前記内輪の前記軸線まわりにおける一方向の相対回転を許容しつつ逆方向の相対回転を阻止するように前記噛合い歯と噛み合わされる第1爪部材と、
前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の他方に設けられ、前記外輪および前記内輪の前記軸線まわりにおける前記逆方向の相対回転を許容しつつ前記一方向の相対回転を阻止するように前記噛合い歯と噛み合わされる第2爪部材と、
前記軸線と平行な方向である軸線方向に移動可能に配設され、前記第1爪部材および前記第2爪部材と係合させられることにより該第1爪部材および該第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛み合うことを阻止する開放位置と、前記第1爪部材および前記第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛み合うことを許容する噛合許容位置と、へ移動させられる噛合切替部材と、
を有するクラッチ装置において、
前記外輪および前記内輪のうち前記噛合い歯が設けられた側の部材である歯部材は、前記軸線方向において第1歯部材および第2歯部材に分割されているとともに、
前記第1歯部材および前記第2歯部材の前記軸線まわりにおける前記噛合い歯の位相がずれて該噛合い歯の共通の溝部分の幅寸法が狭くなり、前記第1爪部材は該噛合い歯との噛合いが可能であるが前記第2爪部材は該噛合い歯との噛合いが不能になる位相ずれ状態と、前記第1歯部材および前記第2歯部材の前記軸線まわりにおける前記噛合い歯の位相が合致して該噛合い歯の共通の溝部分の幅寸法が大きくなり、前記第1爪部材および前記第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛合い可能である位相合致状態と、になり得るように前記第1歯部材および前記第2歯部材は相対回転可能に配設されており、
前記第1歯部材および前記第2歯部材が、前記位相合致状態になるまで相対回転することを許容しつつ、前記位相ずれ状態に保持されるように、前記第1歯部材および前記第2歯部材を相対的に付勢する弾性部材を有する
ことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
前記噛合切替部材が前記噛合許容位置へ移動させられた状態で、前記外輪および前記内輪は前記一方向の相対回転が許容される一方、前記外輪および前記内輪が前記逆方向へ相対回転させられると、前記第1爪部材が前記噛合い歯に噛み合わされ、該第1爪部材を介して前記第1歯部材および前記第2歯部材が前記位相合致状態まで相対回転させられると、前記第2爪部材が前記噛合い歯に噛み合わされ、前記一方向および前記逆方向の両方向において前記外輪および前記内輪の相対回転が阻止される両噛合状態になる
ことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記第1歯部材は、前記クラッチ装置を介して連結される一対の被連結部材の一方に連結される厚板状の本体部材で、該本体部材には前記軸線方向に突き出すように小径部が一体に設けられており、
前記第2歯部材は、前記本体部材の端面に接するように前記小径部の外周側に相対回転可能に配設された薄板円環形状のシャッタープレートであり、
前記位相ずれ状態では、前記シャッタープレートの噛合い歯が前記逆方向の相対回転時に前記第1爪部材と噛み合わされるように、該噛合い歯が前記軸線まわりにおいて前記本体部材の噛合い歯よりも突き出して共通の溝部分の幅寸法が狭くされる一方、
前記弾性部材は、一端部が前記本体部材に係止されるとともに他端部が前記シャッタープレートに係止されたシャッター付勢ばねである
ことを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
前記シャッタープレートには、前記軸線を中心とする円弧に沿って長穴が設けられており、
前記シャッター付勢ばねは、円環形状を成していて前記シャッタープレートの前記本体部材と反対側に隣接して配設されるとともに、前記一端部および前記他端部を互いに離間する方向へ付勢するもので、前記一端部が前記長穴を挿通させられて前記本体部材に係止されるとともに、前記他端部が前記長穴の端部に係止され、該一端部および該他端部がそれぞれ前記長穴の両端部に係止されることにより、前記シャッタープレートを前記本体部材に対して前記位相ずれ状態に保持している
ことを特徴とする請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記シャッタープレートの噛合い歯の一対の周方向端面のうち前記第1爪部材に対向する一方の端面には、外周側ほど他方の端面に向かう傾斜部が形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記第1爪部材の先端面の両端は、それぞれR面加工されており、前記第1爪部材の先端面が前記シャッタープレートの噛合い歯に当接しているとき、前記傾斜部の傾斜開始点の径方向位置は、前記第1爪部材の先端面の前記シャッタープレート側に形成されたR面と、前記シャッタープレートの噛み合い歯に形成された傾斜部の外周側に形成されたR面との間に位置する
ことを特徴とする請求項5に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記第1爪部材の先端面が前記シャッタープレートの噛合い歯に形成された傾斜部に当接しているとき、前記第1爪部材の回動軸線と前記第1爪部材の先端の当接点とを結ぶ線分と前記傾斜部の傾斜面を示す線とが成す角度は、90°よりも大きい
ことを特徴とする請求項5に記載のクラッチ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラッチ装置に係り、特に、逆方向の相対回転を阻止する一方向クラッチの機能と、一方向および逆方向の両方向の相対回転を阻止する機能と、を有するクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 同一の軸線まわりに相対回転可能に配置された外輪および内輪と、(b) 前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の何れか一方に設けられた噛合い歯と、(c) 前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の他方に設けられ、前記外輪および前記内輪の前記軸線まわりにおける一方向の相対回転を許容しつつ逆方向の相対回転を阻止するように前記噛合い歯と噛み合わされる第1爪部材と、(d) 前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の他方に設けられ、前記外輪および前記内輪の前記軸線まわりにおける前記逆方向の相対回転を許容しつつ前記一方向の相対回転を阻止するように前記噛合い歯と噛み合わされる第2爪
部材と、(e) 前記軸線と平行な方向である軸線方向に移動可能に配設され、前記第1爪部材および前記第2爪部材と係合させられることにより、その第1爪部材およびその第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛み合うことを阻止する開放位置と、前記第1爪部材および前記第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛み合うことを許容する噛合許容位置と、へ移動させられる噛合切替部材と、を有するクラッチ装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-118250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の従来技術においては、第1爪部材および第2爪部材の何れか一方(第2の爪部材17)が噛合い歯と噛み合う一方向クラッチ状態とするために、噛合切替部材(カム部材41)が前記開放位置(図4図5参照)と前記噛合許容位置(図6図7参照)との間の中間位置(図1図2参照)に停止させられるようになっている。このため、噛合切替部材の移動ストロークが長くなり、クラッチ装置の軸方向寸法が大きくなるという問題があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、一方向クラッチの機能と、一方向および逆方向の両方向の相対回転を阻止する機能と、が得られるクラッチ装置の軸方向寸法を小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 同一の軸線まわりに相対回転可能に配置された外輪および内輪と、(b) 前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の何れか一方に設けられた噛合い歯と、(c) 前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の他方に設けられ、前記外輪および前記内輪の前記軸線まわりにおける一方向の相対回転を許容しつつ逆方向の相対回転を阻止するように前記噛合い歯と噛み合わされる第1爪部材と、(d) 前記外輪の内周部および前記内輪の外周部の他方に設けられ、前記外輪および前記内輪の前記軸線まわりにおける前記逆方向の相対回転を許容しつつ前記一方向の相対回転を阻止するように前記噛合い歯と噛み合わされる第2爪部材と、(e) 前記軸線と平行な方向である軸線方向に移動可能に配設され、前記第1爪部材および前記第2爪部材と係合させられることにより、その第1爪部材およびその第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛み合うことを阻止する開放位置と、前記第1爪部材および前記第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛み合うことを許容する噛合許容位置と、へ移動させられる噛合切替部材と、を有するクラッチ装置において、(f) 前記外輪および前記内輪のうち前記噛合い歯が設けられた側の部材である歯部材は、前記軸線方向において第1歯部材および第2歯部材に分割されていると
ともに、(g) 前記第1歯部材および前記第2歯部材の前記軸線まわりにおける前記噛合い歯の位相がずれてその噛合い歯の共通の溝部分の幅寸法が狭くなり、前記第1爪部材はその噛合い歯との噛合いが可能であるが前記第2爪部材はその噛合い歯との噛合いが不能になる位相ずれ状態と、前記第1歯部材および前記第2歯部材の前記軸線まわりにおける前記噛合い歯の位相が合致してその噛合い歯の共通の溝部分の幅寸法が大きくなり、前記第1爪部材および前記第2爪部材が何れも前記噛合い歯と噛合い可能である位相合致状態と、になり得るように前記第1歯部材および前記第2歯部材は相対回転可能に配設されており、(h) 前記第1歯部材および前記第2歯部材が、前記位相合致状態になるまで相対回転することを許容しつつ、前記位相ずれ状態に保持されるように、前記第1歯部材および前記第2歯部材を相対的に付勢する弾性部材を有する、ことを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のクラッチ装置において、前記噛合切替部材が前記噛合許容位置へ移動させられた状態で、前記外輪および前記内輪は前記一方向の相対回転が許容される一方、前記外輪および前記内輪が前記逆方向へ相対回転させられると、前記第1爪部材が前記噛合い歯に噛み合わされ、その第1爪部材を介して前記第1歯部材および前記第2歯部材が前記位相合致状態まで相対回転させられると、前記第2爪部材が前記噛合い歯に噛み合わされ、前記一方向および前記逆方向の両方向において前記外輪および前記内輪の相対回転が阻止される両噛合状態になる、ことを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明のクラッチ装置において、(a) 前記第1歯部材は、前記クラッチ装置を介して連結される一対の被連結部材の一方に連結される厚板状の本体部材で、その本体部材には前記軸線方向に突き出すように小径部が一体に設けられており、(b) 前記第2歯部材は、前記本体部材の端面に接するように前記小径部の外周側に相対回転可能に配設された薄板円環形状のシャッタープレートであり、(c) 前記位相ずれ状態では、前記シャッタープレートの噛合い歯が前記逆方向の相対回転時に前記第1爪部材と噛み合わされるように、その噛合い歯が前記軸線まわりにおいて前記本体部材の噛合い歯よりも突き出して共通の溝部分の幅寸法が狭くされる一方、(d) 前記弾性部材は、一端部が前記本体部材に係止されるとともに他端部が前記シャッタープレートに係止されたシャッター付勢ばねである、ことを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第3発明のクラッチ装置において、(a) 前記シャッタープレートには、前記軸線を中心とする円弧に沿って長穴が設けられており、(b) 前記シャッター付勢ばねは、円環形状を成していて前記シャッタープレートの前記本体部材と反対側に隣接して配設されるとともに、前記一端部および前記他端部を互いに離間する方向へ付勢するもので、前記一端部が前記長穴を挿通させられて前記本体部材に係止されるとともに、前記他端部が前記長穴の端部に係止され、その一端部およびその他端部がそれぞれ前記長穴の両端部に係止されることにより、前記シャッタープレートを前記本体部材に対して前記位相ずれ
状態に保持している、ことを特徴とする。
【0010】
第5発明は、前記シャッタープレートの噛合い歯の一対の周方向端面のうち前記第1爪部材に対向する一方の端面には、外周側ほど他方の端面に向かう傾斜部が形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
第6発明は、前記第1爪部材の先端面の両端は、それぞれR面加工されており、前記第1爪部材の先端面が前記シャッタープレートの噛合い歯に当接しているとき、前記傾斜部の傾斜開始点の径方向位置は、前記第1爪部材の先端面の前記シャッタープレート側に形成されたR面と、前記シャッタープレートの噛み合い歯に形成された傾斜部の外周側に形成されたR面との間に位置する、ことを特徴とする。
【0012】
第7発明は、前記第1爪部材の先端面が前記シャッタープレートの噛合い歯に形成された傾斜部に当接しているとき、前記第1爪部材の回動軸線と前記第1爪部材の先端の当接点とを結ぶ線分と前記傾斜部の傾斜面を示す線とが成す角度は、90°よりも大きい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このようなクラッチ装置においては、噛合い歯が設けられた歯部材が第1歯部材および第2歯部材に分割されており、それ等の第1歯部材および第2歯部材が位相ずれ状態に保持されると一方向クラッチとして機能し、外輪および内輪の一方向の相対回転が許容される。一方、外輪および内輪が逆方向へ相対回転させられると、第1爪部材が噛合い歯に噛み合わされ、第1歯部材および第2歯部材が位相合致状態まで相対回転させられると、第2爪部材が噛合い歯と噛合い可能になり、一方向および逆方向の両方向において外輪および内輪の相対回転が阻止される両噛合状態になる。すなわち、噛合切替部材を噛合許容位置に保持したままで、一方向クラッチ状態から両噛合状態へ切り替えられるのであり、クラッチ装置の軸方向寸法を小型化できる。
【0014】
また、一方向クラッチ状態で外輪および内輪が逆方向へ相対回転させられると、第1爪部材が噛合い歯に噛み合わされて第1歯部材および第2歯部材が位相合致状態まで相対回転させられ、自動的に両噛合状態になるため、一方向クラッチ状態から両噛合状態へ切り替えるための制御が不要である。
【0015】
第3発明では、第1歯部材が一対の被連結部材の一方に連結される本体部材で、その本体部材に一体に設けられた小径部に第2歯部材としてシャッタープレートが配設されているため、本体部材を介して適切に動力伝達が行われるとともに、シャッタープレートを本体部材に対して円滑に相対回転させることが可能で、クラッチ装置の作動状態を適切に切り替えることができる。すなわち、シャッター付勢ばねによりシャッタープレートが本体部材に対して位相ずれ状態にされると、そのシャッタープレートにより第2爪部材の噛合いが不能な一方向クラッチ状態になる一方、逆方向の相対回転時に第1爪部材がシャッタープレートの噛合い歯と噛み合わされ、シャッタープレートが位相合致状態まで相対回転させられると、両噛合状態に適切に切り替えられる。
【0016】
第4発明では、シャッタープレートに長穴が設けられるとともに、シャッタープレートに隣接して円環形状のシャッター付勢ばねが配設され、シャッター付勢ばねの一端部および他端部が長穴の両端部に係止されることによりシャッタープレートが位相ずれ状態に保持されるため、シャッター付勢ばねを含めてクラッチ装置をコンパクトに構成することができる。
【0017】
第5発明では、前記シャッタープレートの噛合い歯の一対の周方向端面のうち前記第1爪部材に対向する一方の端面には、外周側ほど他方の端面に向かう傾斜部が形成されている。このため、第1爪部材の長手寸法のばらつきに拘わらず第1爪部材の先端が噛合い歯に係合するので、より安定した係合状態を維持することができる。
【0018】
第6発明では、前記第1爪部材の先端面の両端は、それぞれR面加工されており、前記第1爪部材の先端面が前記シャッタープレートの噛合い歯に当接しているとき、前記傾斜部の傾斜開始点の径方向位置は、前記第1爪部材の先端面の前記シャッタープレート側に形成されたR面と、前記シャッタープレートの噛み合い歯に形成された傾斜部の外周側に形成されたR面との間に位置する。これにより、前記第1爪部材が前記シャッタープレートの噛合い歯に当接したとき、前記第1爪部材が前記シャッタープレートの噛合い歯と噛み合い、前記シャッタープレートを作動させる。
【0019】
第7発明では、前記第1爪部材の先端面が前記シャッタープレートの噛合い歯に形成された傾斜部に当接しているとき、前記第1爪部材の回動軸線と前記第1爪部材の先端の当接点とを結ぶ線分と前記傾斜部の傾斜面を示す線とが成す角度は、90°よりも大きい。これにより、前記第1爪部材が前記シャッタープレートの噛合い歯に形成された傾斜部に当接したとき、前記シャッタープレートを作動させず、前記第1爪部材が前記シャッタープレートの噛合い歯と噛み合わない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例であるクラッチ装置を備えている動力伝達装置の一例を説明する図で、図2におけるI-I矢視部分に相当する断面図である。
図2図1のクラッチ装置を左側から見て一部を省略した側面図である。
図3図2における上部に配設された一対のポール付近を拡大して示した側面図である。
図4図3の一対のポールが退避位置へ回動させられた状態の側面図である。
図5図3において、シャッタープレートが位相ずれ状態で外輪および内輪が一方向Aへ相対回転させられる際の一対のポールと噛合い歯との係合状態を説明する側面図である。
図6図3において、シャッタープレートが位相ずれ状態で外輪および内輪が逆方向Bへ相対回転させられる際にOWCポールが噛合い歯に噛み合わされた状態の側面図である。
図7図6において、外輪および内輪の逆方向Bへの相対回転に伴うシャッタープレートの位相ずれ状態の変化を説明する側面図である。
図8図7において、外輪および内輪の更なる逆方向Bへの相対回転に伴ってシャッタープレートが位相合致状態とされた側面図である。
図9図1のクラッチ装置の外輪を一方向Aへ回転させつつ内輪の回転速度を上昇させた場合における、クラッチ装置の作動状態の変化を説明するタイムチャートの一例である。
図10】本発明の他の実施例2の要部であるシャッタープレートの噛合い歯に形成された傾斜部を拡大して説明する示す図であって、図2図8に対して左右反転して示した図である。
図11図10の傾斜部の傾斜開始点の範囲DAを説明する図である。
図12図10の実施例2のOWCポールとシャッタープレートの噛合い歯との噛み合い作動を説明する図であって、噛み合い開始状態を示す図である。
図13図12のシャッタープレートの作動が進行して、外輪および内輪の逆方向Bへの相対回転に伴うシャッタープレートの位相ずれが減少した状態を示す図である。
図14図12のシャッタープレートの作動がさらに進行して、シャッタープレートの位相合致状態になり、噛み合いが完了した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のクラッチ装置は、ラチェット式クラッチ装置或いはセレクタブルOWC(One Way Clutch)とも表現されるもので、噛合い歯は外輪の内周部に設けられても良いし、内輪の外周部に設けられても良い。一対の第1爪部材および第2爪部材は、噛合い歯が外輪に設けられる場合は内輪に配設され、噛合い歯が内輪に設けられる場合は外輪に配設される。第1爪部材および第2爪部材は、例えば別体の付勢装置によって噛合い歯と噛み合う方向へ回動するように付勢されるが、第1爪部材、第2爪部材そのものを板ばね等の弾性部材を用いて構成することもできる。外輪および内輪のうち噛合い歯が設けられた側が歯部材であり、その歯部材は、例えば被連結部材に連結されて動力伝達に関与する厚肉の本体部材と、第2爪部材の噛合いを規制する薄肉のシャッタープレートとに分割されるが、軸線方向において略半分ずつに分割しても良いなど、適宜定められる。本体部材およびシャッタープレートの双方に噛合い歯が設けられ、それ等の噛合い歯の周方向の寸法である歯幅は互いに同じでも良いが、異なっていても良く、例えばシャッタープレートの噛合い歯の歯幅を、本体部材の噛合い歯の歯幅より小さくしても良い。シャッタープレートの噛合い歯の歯幅が、本体部材の噛合い歯の歯幅と同じか小さい場合、位相合致状態では、第1爪部材および第2爪部材が何れも本体部材の噛合い歯と噛み合わされる両噛合状態になり、例えば遊びを有することなく内輪および外輪を連結して一体的に回転させることができるが、第1爪部材および第2爪部材と本体部材の噛合い歯との噛合いタイミングにずれがあり、内輪および外輪が周方向に所定の遊びを有する状態で連結されても良い。
【実施例0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や形状、角度等は必ずしも正確に描かれていない。
【0023】
図1は、本発明の一実施例であるクラッチ装置20を備えている動力伝達装置10の一例を説明する図で、図2におけるI-I矢視部分に相当する断面図である。図2は、図1のクラッチ装置20を左側から見て一部を省略した側面図で、図3は、図2における上部に配設された一対のポール40、42付近を拡大して示した側面図である。図1において、動力伝達装置10は、回転軸線Oまわりに相対回転可能に配設された円筒形状の外歯リングギヤ12および内歯リングギヤ14を有し、それ等の外歯リングギヤ12と内歯リングギヤ14との間にクラッチ装置20が介在させられている。これ等の外歯リングギヤ12、内歯リングギヤ14、およびクラッチ装置20はケース16内に収容されている。クラッチ装置20は、回転軸線Oまわりに相対回転可能に配置された外輪22および内輪24を備えており、外輪22は外歯リングギヤ12に相対回転不能に連結されている一方、内輪24は内歯リングギヤ14に一体的に固設されている。外歯リングギヤ12および内歯リングギヤ14は、クラッチ装置20を介して連結される一対の被連結部材に相当する。なお、動力伝達装置10およびクラッチ装置20は、何れも回転軸線Oを中心として略対称的に構成されているため、図1および図2は、回転軸線Oよりも下半分が省略されている。
【0024】
内輪24は、内歯リングギヤ14に固設されて動力伝達に関与する厚板円環形状の本体部材26と、その本体部材26に隣接して回転軸線Oまわりに相対回転可能に配設された薄板円環形状のシャッタープレート28とを備えている。本体部材26には軸線方向に突き出すように小径部27が一体に設けられており、シャッタープレート28は、本体部材26の端面に接するように小径部27の外周側に相対回転可能に嵌合されているとともに、その小径部27に配置された保持部材30により本体部材26の端面に略接する状態で位置決めされている。本体部材26およびシャッタープレート28の外径寸法は略等しいとともに、それ等の外周部には、それぞれ回転軸線Oまわりの全周に噛合い歯32、34が等角度間隔で多数(実施例では22個ずつ)設けられている。すなわち、内輪24は歯部材で、軸線方向において本体部材26およびシャッタープレート28の2部材に分割されており、本体部材26は第1歯部材に相当し、シャッタープレート28は第2歯部材に相当する。
【0025】
外輪22の内周部には、一対のOWCポール40およびロックポール42が周方向において互いに反対向き、実施例では互いに内向きの姿勢で、回転軸線Oまわりの全周に等角度間隔で複数組(実施例では6組)設けられている。これ等のOWCポール40およびロックポール42は、何れも回転軸線Oと平行な回動軸まわりに揺動可能に外輪22によって保持されているとともに、それぞれ付勢装置であるポール押付ばね44、46により先端が内周側へ向かって回動するように付勢されており、前記噛合い歯32、34と噛み合わされることにより外輪22と内輪24との相対回転を規制する。OWCポール40およびロックポール42は、それぞれ先端が外輪22の内周面よりも内周側へ突き出すことが許容される状態で、ポール押付ばね44、46と共に、外輪22の内周部に設けられた凹所内に収容されている。
【0026】
OWCポール40は第1爪部材に相当し、外輪22および内輪24の回転軸線Oまわりにおける一方向Aの相対回転時には、ポール押付ばね44の付勢力に抗してOWCポール40が揺動しながら噛合い歯32、34を乗り越えることにより、その一方向Aの相対回転が許容される。また、逆方向Bの相対回転時には、OWCポール40が噛合い歯32、34と噛み合わされることにより、その逆方向Bの相対回転が阻止される。一方向Aおよび逆方向Bは任意に定めることができるが、この実施例では、一方向Aの相対回転は、時計まわり方向の回転速度が内輪24よりも外輪22の方が速い場合や、逆方向Bである反時計まわり方向の回転速度が外輪22よりも内輪24の方が速い場合である。また、逆方向Bの相対回転は、反時計まわり方向の回転速度が内輪24よりも外輪22の方が速い場合や、一方向Aである時計まわり方向の回転速度が外輪22よりも内輪24の方が速い場合である。
【0027】
ロックポール42は第2爪部材に相当し、回転軸線Oを中心としてOWCポール40と共通の円周上に設けられている。そして、外輪22および内輪24の回転軸線Oまわりにおける逆方向Bの相対回転時には、ポール押付ばね46の付勢力に抗してロックポール42が揺動しながら噛合い歯32、34を乗り越えることにより、その逆方向Bの相対回転が許容される。また、一方向Aの相対回転時には、ロックポール42が噛合い歯32、34と噛み合わされることにより、その一方向Aの相対回転が阻止される。
【0028】
一方、クラッチ装置20は、上記OWCポール40およびロックポール42が何れも噛合い歯32、34と噛み合うことを阻止し、外輪22および内輪24がそれぞれ自在に回転できる回転自在状態とするセレクター50を備えている(図1参照)。セレクター50は、円環形状の板材で、回転軸線Oと平行に延び出す円筒部を備えている。また、セレクター50は、その一部において、前記外歯リングギヤ12に相対回転不能で且つ軸線方向の相対移動可能とされている。セレクター50の円筒部は切替突部52として機能し、先端外周部に設けられた傾斜面が前記ポール40、42と係合させられることにより、前記ポール押付ばね44、46の付勢力に抗してポール40、42の先端部を外周側へ回動させ、前記噛合い歯32、34と噛み合うことを阻止する。セレクター50は、図示しない油圧シリンダ或いは電動モータおよび送りねじ等の駆動装置により、軸線方向へ直線往復移動させられることにより、切替突部52がポール40、42と係合させられて噛合い歯32、34との噛合いを阻止する開放位置(前進位置)と、切替突部52とポール40、42との係合が解除されてポール40、42と噛合い歯32、34との噛合いを許容する噛合許容位置(図1に示す後退位置)と、の2位置へ移動させられる。図4はセレクター50が開放位置へ移動させられ、ポール40、42が、それぞれ噛合い歯32、34との噛合いが不能な退避位置に保持されている状態であり、クラッチ装置20は、外輪22および内輪24がそれぞれ自在に回転できる回転自在状態になる。セレクター50は噛合切替部材に相当する。
【0029】
セレクター50が噛合許容位置に保持されると、OWCポール40およびロックポール42がそれぞれポール押付ばね44、46の付勢力に従って噛合い歯32、34と噛み合うことが許容されるが、前記シャッタープレート28によりロックポール42と噛合い歯32、34との噛合いが規制される。本体部材26およびシャッタープレート28の噛合い歯32、34の周方向の寸法である歯幅Wtm、Wtsは略同じであり、回転軸線Oまわりにおける噛合い歯32、34の位相が合致して共通の溝部分の幅寸法である溝幅Wd が最大になる位相合致状態、言い換えれば軸線方向において噛合い歯32、34の位置が重なる状態では、図8に示されるように、OWCポール40およびロックポール42がそれぞれポール押付ばね44、46の付勢力に従って噛合い歯32、34と噛み合わされる。これにより、クラッチ装置20は、外輪22および内輪24の一方向Aおよび逆方向Bの相対回転が何れも阻止される両噛合状態になる。本実施例では、OWCポール40およびロックポール42の先端部の離間距離が歯幅Wtm、Wtsと略同じか僅かに大きく、OWCポール40およびロックポール42が同時に噛合い歯32、34と噛み合わされることにより、遊びを有することなく外輪22および内輪24が連結されて一体的に回転させられる。
【0030】
一方、シャッタープレート28は本体部材26に対して回転軸線Oまわりに相対回転可能であり、シャッタープレート28の噛合い歯34が逆方向Bの相対回転時にOWCポール40と噛み合わされるように、本体部材26の噛合い歯32よりも一方向A側へ突き出す所定の位相ずれ状態(図3図6参照)では、共通の溝部分の幅寸法である溝幅Wd が狭くなる。この位相ずれ状態では、OWCポール40は噛合い歯34との噛合いが可能であるが、ロックポール42は、図5に示されるように、噛合い歯34との係合で噛合い歯32との噛合いが不能となり、クラッチ装置20は、外輪22および内輪24の一方向Aの相対回転が許容されるとともに逆方向Bの相対回転が阻止される一方向クラッチ状態(以下、OWC状態とも言う。)になる。このように、狭い溝幅Wd に拘らずOWCポール40は噛合い歯34と噛合い可能である一方、ロックポール42は噛合い歯34との係合で噛合い歯32との噛合いが不能になるように、それ等のOWCポール40およびロックポール42は非対称の形状とされている。
【0031】
クラッチ装置20は、シャッタープレート28が位相合致状態になるまで本体部材26に対して相対回転することを許容しつつ、シャッタープレート28が上記位相ずれ状態に保持されるように、本体部材26に対してシャッタープレート28を相対的に付勢するシャッター付勢ばね60を備えている。シャッター付勢ばね60は、シャッタープレート28を挟んで本体部材26と反対側に、シャッタープレート28に隣接して配設されている。具体的には、シャッター付勢ばね60は円環形状を成しており、前記保持部材30の外周面に設けられた環状溝内に収容されているとともに、円環形状部のばね力で互いに離間する方向へ付勢される一端部60aおよび他端部60bは環状溝から外周側へ突き出し、逆方向B側の一端部60aは本体部材26に係止されるとともに、一方向A側の他端部60bはシャッタープレート28に係止されている。シャッタープレート28には、回転軸線Oを中心とする円弧に沿って長穴62が設けられており、シャッター付勢ばね60の一端部60aは長穴62を挿通させられて本体部材26に固設される一方、他端部60bは長穴62の端部に係止されている。これにより、シャッタープレート28は、図3図6に示されるように、シャッター付勢ばね60の一端部60aおよび他端部60bがそれぞれ長穴62の両端部に係止される位置まで本体部材26に対して一方向A側へ相対回動させられた位相ずれ状態に保持される。長穴62は、図3図6の位相ずれ状態から、図8に示す位相合致状態まで、シャッター付勢ばね60の付勢力に抗してシャッタープレート28を本体部材26に対して逆方向B側へ相対回転させることができる長さ寸法を備えている。シャッター付勢ばね60は弾性部材に相当する。
【0032】
シャッタープレート28が位相ずれ状態に保持されたOWC状態において、外輪22および内輪24が逆方向Bへ相対回転させられると、図6に示されるように、OWCポール40がシャッタープレート28の噛合い歯34と噛み合わされる。そして、その逆方向Bの相対回転が継続すると、図7に示されるように、シャッター付勢ばね60の付勢力に抗してシャッタープレート28が本体部材26に対して逆方向B側へ相対回転させられ、共通の溝部分の幅寸法である溝幅Wd が次第に大きくなる。逆方向Bの相対回転が更に継続すると、シャッター付勢ばね60の付勢力に抗してシャッタープレート28が本体部材26に対して更に逆方向B側へ相対回転させられ、図8に示されるように前記位相合致状態になる。これにより、OWCポール40だけでなくロックポール42も噛合い歯32と噛み合わされ、外輪22および内輪24の一方向Aおよび逆方向Bの相対回転が何れも阻止される両噛合状態になり、外輪22および内輪24が連結されて一体的に回転させられるようになる。
【0033】
このようなクラッチ装置20は、例えば図9のタイムチャートに示されるように用いられる。図9の上段の回転速度Nout は一方向Aの外輪22の回転速度(外輪回転速度)で、回転速度Ninは一方向Aの内輪24の回転速度(内輪回転速度)である。図9の下段はクラッチ装置20の作動状態で、回転自在状態かOWC状態か両噛合状態かを表している。この図9において、時間t1よりも前は、クラッチ装置20は、セレクター50が開放位置へ移動させられた回転自在状態であり、外輪22のみが所定の回転速度Nout で回転させられ、内輪24はNin=0の停止状態である。時間t1で、セレクター50が噛合許容位置へ移動させられ、クラッチ装置20はOWC状態とされるが、内輪24はNin=0の停止状態のままである。時間t1と同時か或いはその後の所定のタイミングで内輪24の回転を開始し、時間t2で内輪回転速度Ninが外輪回転速度Nout を超えると、図6に示すように逆方向Bの相対回転になり、OWCポール40がシャッタープレート28の噛合い歯34に噛み合わされる。Nin>Nout の状態が継続すると、図7に示すように、シャッター付勢ばね60の付勢力に抗してシャッタープレート28が本体部材26に対して逆方向B側へ相対回転させられ、自動的に図8に示す位相合致状態になり、クラッチ装置20が両噛合状態になる。時間t3は、シャッタープレート28が位相合致状態になってクラッチ装置20が両噛合状態になった時間であり、以後は外輪22および内輪24が同じ回転速度で一体的に回転させられる。なお、セレクター50を噛合許容位置へ移動させてクラッチ装置20をOWC状態とするタイミングは、破線で示すように、内輪回転速度Ninが外輪回転速度Nout を超える時間t2よりも前であれば、何時でも良い。
【0034】
このように本実施例のクラッチ装置20においては、内輪24が本体部材26およびシャッタープレート28に分割されており、それ等の本体部材26およびシャッタープレート28が位相ずれ状態に保持されると、一方向クラッチとして機能するOWC状態となり、外輪22および内輪24の一方向Aの相対回転が許容される。一方、外輪22および内輪24が逆方向Bへ相対回転させられると、OWCポール40が噛合い歯34に噛み合わされ、シャッタープレート28が位相合致状態まで相対回転させられると、ロックポール42が噛合い歯32、34と噛合い可能になり、一方向Aおよび逆方向Bの両方向において外輪22および内輪24の相対回転が阻止される両噛合状態になる。すなわち、セレクター50を噛合許容位置に保持したままで、OWC状態から両噛合状態へ切り替えられるのであり、クラッチ装置20の軸方向寸法を小型化できる。
【0035】
また、OWC状態で外輪22および内輪24が逆方向Bへ相対回転させられると、OWCポール40が噛合い歯34に噛み合わされてシャッタープレート28が位相合致状態まで相対回転させられ、自動的に両噛合状態になるため、OWC状態から両噛合状態へ切り替えるための制御が不要である。
【0036】
また、内歯リングギヤ14に連結された本体部材26およびシャッタープレート28を備えて内輪24が構成されており、シャッタープレート28は本体部材26に一体に設けられた小径部27に相対回転可能に配設されているため、本体部材26を介して適切に動力伝達が行われるとともに、シャッタープレート28を本体部材26に対して円滑に相対回転させることが可能で、クラッチ装置20の作動状態を適切に切り替えることができる。すなわち、シャッター付勢ばね60によりシャッタープレート28が本体部材26に対して位相ずれ状態にされると、そのシャッタープレート28によりロックポール42の噛
合いが不能なOWC状態になる一方、逆方向Bの相対回転時にOWCポール40がシャッタープレート28の噛合い歯34と噛み合わされ、シャッタープレート28が位相合致状態まで相対回転させられると、両噛合状態に適切に切り替えられる。
【0037】
また、シャッタープレート28に長穴62が設けられるとともに、シャッタープレート28に隣接して円環形状のシャッター付勢ばね60が配設され、シャッター付勢ばね60の一端部60aおよび他端部60bが長穴62の両端部に係止されることによりシャッタープレート28が位相ずれ状態に保持されるため、シャッター付勢ばね60を含めてクラッチ装置20をコンパクトに構成することができる。
【実施例0038】
本発明の他の実施例を以下に説明するが、前述の実施例と共通する部分に同一の符号を付して説明を省略する。本実施例は、前述の実施例に対して、シャッタープレート28の噛合い歯34に傾斜部70が設けられている点で相違する。
【0039】
図10において、OWCポール40は、前述の実施例と同様に、回転軸線Oと平行な回動軸線O1まわりに揺動可能に外輪22によって保持されているとともに、それぞれ付勢装置であるポール押付ばね44により先端が内周側へ向かって回動するように付勢されている。シャッタープレート28の噛合い歯34の一対の周方向端面のうちOWCポール40の先端に対向する一方の端面すなわち逆方向Bに対向する端面には、外周側ほど他方の端面に向かう傾斜部70が形成されている。
【0040】
図11に拡大して示すように、OWCポール40の平坦な先端面40aの径方向の両端部には、それぞれR面加工されている。OWCポール40の先端面40aがシャッタープレート28の噛合い歯34に形成された傾斜部70に当接しているとき、傾斜部70の傾斜開始点(傾斜部70の内周側の端)CPの回動軸線O1に対する径方向位置は、OWCポール40の先端面40aのシャッタープレート28側(内周側)のR面Rpと、シャッタープレート28の噛合い歯34に形成された傾斜部70の外周側の端に形成されたR面Rnとの間の範囲DA内に位置する。すなわち、範囲DAは、R面Rpの外周側の端を通る円弧CR1とR面Rnの内周側の端を通る円弧CR2との間の範囲である。
【0041】
好適には、OWCポール40の先端面40aがシャッタープレート28の噛合い歯34に形成された傾斜部70に当接しているとき、図10に示すように、OWCポール40の回動中心点O1とOWCポール40の先端面40aの噛合い歯34に対する当接点CPとを結ぶ線分L1と、傾斜部70の傾斜面を示す線分L2とが成す角度ABは、90°よりも大きく設定されている。これにより、OWCポール40がシャッタープレート28の噛合い歯34に形成された傾斜部70上に当接したとき、OWCポール40がシャッタープレート28の噛合い歯34と噛み合わず、シャッタープレート28を作動させない。なお、図10のCR3は傾斜部70の傾斜開始点CPを通る円弧である。
【0042】
以上のように構成された実施例2の、噛合い歯34に傾斜部70が形成されたシャッタープレート28による作用を図12図14を用いて以下に説明する。図12は、OWCポール40の長さのばらつきのうちの相対的に最も長いもの40が実線で、最も短いもの40が破線で示されている。
【0043】
図12は、噛合い初期を示している。この状態では、短いOWCポール40の先端が、噛合い34の突出面(基面)35を通る円弧(ノッチ小径)CR4上に位置する状態シャッタープレート28の噛合い歯34と噛み合うことでシャッタープレート28を作動させるとき、長いOWCポール40の先端は、噛合い34の先端を通る円弧(ノッチ大径)CR5の内側に位置する傾斜部70と接触し、支持されている状態となる。また、図13は、そのシャッタープレート28の作動により外輪22および内輪24の逆方向Bへの相対回転に伴うシャッタープレート28の本体部材26に対する位相ずれが減少した状態を示している。図14は、シャッタープレート28の位相合致状態になり、噛み合いが完了した状態を示す。この噛み合い環状状態では、長いOWCポール40と噛合い歯34とは噛合い勝手となっているため、長いOWCポール40の先端は内側へ引き込まれ、短いOWCポール40と長いOWCポール40とが重なった状態となる。
【0044】
上述のように、本実施例2によれば、シャッタープレート28の噛合い歯34の一対の周方向端面のうちOWCポール40の先端に対向する一方の端面すなわち逆方向Bに対向する端面には、外周側ほど他方の端面に向かう傾斜部70が形成されていて、OWCポール40の先端面40aの噛合い歯34に対する当接点は、傾斜部70の傾斜開始点CPとなるので、OWCポール40の長手方向の寸法のばらつき(公差)に拘わらず、OWCポール40の先端が噛合い歯34に、安定した係合状態を維持することができる。
【0045】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0046】
12:外歯リングギヤ(被連結部材)、14:内歯リングギヤ(被連結部材)、20:クラッチ装置、22:外輪、24:内輪(歯部材)、26:本体部材(第1歯部材)、27:小径部、28:シャッタープレート(第2歯部材)、32、34:噛合い歯、 40:OWCポール(第1爪部材)、40a:先端面、42:ロックポール(第2爪部材)、50:セレクター(噛合切替部材)、60:シャッター付勢ばね(弾性部材)、60a:一端部、60b:他端部、62:長穴、70:傾斜部、O:回転軸線、O1:回動軸線、A:一方向、B:逆方向、Wd :溝幅(共通の溝部分の幅寸法)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14