(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132873
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】船舶用推進装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20240920BHJP
B63H 20/28 20060101ALI20240920BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20240920BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F01P7/16 502B
B63H20/28 100
B63H21/14
F01P7/16 502L
F16K31/68 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001676
(22)【出願日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】18/184,426
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】田村 安正
(72)【発明者】
【氏名】堤 憲亮
(72)【発明者】
【氏名】太田黒 晃一
【テーマコード(参考)】
3H057
【Fターム(参考)】
3H057AA05
3H057BB33
3H057CC06
3H057DD03
3H057FC05
3H057HH03
3H057HH17
(57)【要約】
【課題】サーモスタット弁の周りを流れる冷却水の温度の差異に起因して発生するハンチングが生じ難く、安定した温度制御が行われるようにすること。
【解決手段】船舶推進装置10は内燃機関12を有し、内燃機関12はそのエンジン本体14に設けられた冷却水通路(20、22、32、40)と、冷却水通路内に設けられ、冷却水通路内の冷却水の温度に応じてヘッド側冷却水排出通路32を開閉するサーモスタット弁34と、サーモスタット弁34を取り囲む円筒状の冷却水導入部材96とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を有する船舶用推進装置において、前記内燃機関は、
該内燃機関のエンジン本体の内部に設けられた冷却水通路と、
前記冷却水通路内に設けられ、前記冷却水通路内の冷却水の温度に応じて前記冷却水通路を開閉するサーモスタット弁と、
前記サーモスタット弁を取り囲む円筒状の冷却水導入部材とを備える船舶用推進装置。
【請求項2】
前記冷却水導入部材は前記サーモスタット弁及び前記エンジン本体の材料よりもイオン化傾向の大きい又は電気絶縁性の材料からなる請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項3】
前記冷却水導入部材と前記サーモスタット弁との間に画定される流路の断面積が前記サーモスタット弁の開弁時の開口面積よりも大きい請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項4】
前記冷却水導入部材は、前記サーモスタット弁の上流側から下流側に向かって内径が漸増するテーパ形状をしている請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項5】
前記冷却水導入部材は前記サーモスタット弁の上流端よりも更に上流側に達するように延出している請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項6】
前記サーモスタット弁の下流の前記冷却水通路の部分が、
前記サーモスタット弁を受け入れる前記冷却水通路の一部と直接連通する第1開口及び前記サーモスタット弁の更に下流側の前記冷却水通路の部分に連通する第2開口を備えた前記エンジン本体の外面と、
前記エンジン本体の外面に取り付けられ、前記第1開口及び前記第2開口にそれぞれ整合する第1孔及び第2孔を備えた蓋板と、
前記蓋板に取り付けられ、前記第1孔及び前記第2孔を介して、前記第1開口を前記第2開口に連通する連通路を形成するように、前記蓋板に取り付けられたカバー部材との協働により画定される請求項1に記載の船舶用推進装置。
【請求項7】
前記サーモスタット弁が、その下流端側に、弁座を画定しかつ半径方向フランジを備えた本体部分を有し、前記半径方向フランジが、前記蓋板の肩面と前記カバー部材との間に挟持される請求項6に記載の船舶用推進装置。
【請求項8】
前記冷却水導入部材が前記蓋板と一体に形成される請求項7に記載の船舶用推進装置。
【請求項9】
前記冷却水導入部材が、その下流端側に半径方向フランジを有し、前記半径方向フランジが、前記蓋板の肩面と前記サーモスタット弁の前記半径方向フランジとの間に挟持される請求項7に記載の船舶用推進装置。
【請求項10】
前記サーモスタット弁の前記本体部分が樹脂製であって、前記冷却水導入部材が前記本体部分と一体的に成形されている請求項7に記載の船舶用推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用推進装置に関し、特に改良された冷却系を備えた内燃機関を有する船舶用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷式内燃機関には、通常、冷却水の温度に応じて冷却水通路を開閉し、エンジンの温度をエンジンの最適な動作に必要な範囲内に維持するサーモスタット弁が設けられている。通常、サーモスタット弁は銅合金製のハウジングを含み、エンジン本体はアルミニウム合金製である。銅及びアルミニウムはイオン化傾向の差が大きく、アルミニウムのイオン化傾向の方が大きいことから、サーモスタット弁周辺のエンジン本体の材質の腐食が加速する可能性がある。この問題は、冷却媒体として海水を含む周囲の水域の水を使用する船舶用推進装置用の内燃エンジンにおいて特に深刻である。海水は高電解溶液である。
【0003】
この問題を解決するために、特許文献1では、サーモスタット弁が配置される部分の冷却水通路の断面積を大きくして、サーモスタット弁を冷却水の内壁から遠くに離すことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サーモスタット弁付近の冷却水通路の断面積を大きくすると、サーモスタット弁の直上流域で冷却水の流れに大きな温度勾配が生じる可能性がある。このため、サーモスタット弁に不規則な温度変化が生じ、ハンチング等のサーモスタット弁の動作不安定を引き起こす場合がある。
【0006】
これは、サーモスタット弁の耐久性に悪影響を及ぼし、エンジンの性能を損なう可能性さえある。
【0007】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、サーモスタット弁周辺のガルバニック腐食を抑制するように改良された冷却システムを含む内燃機関を備えた船舶用推進装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような問題を解決するために、本発明のある態様は、内燃機関(12)を有する船舶用推進装置(10)において、前記内燃機関は、該内燃機関のエンジン本体(14)の内部に設けられた冷却水通路(20、22、32、40)と、前記冷却水通路内に設けられ、前記冷却水通路内の冷却水の温度に応じて前記冷却水通路を開閉するサーモスタット弁(34、42)と、前記サーモスタット弁を取り囲む円筒状の冷却水導入部材(96)とを備える。
【0009】
円筒状の冷却水導入部材は、サーモスタット弁を冷却水通路の周囲の壁面から分離することにより、サーモスタット弁と冷却水通路の周囲の壁面との間のガルバニック反応を最小限に抑えることができる。また、サーモスタット弁直上流の冷却水通路の大径化を回避し、サーモスタット弁のハンチング等の不安定動作を防止することができる。
【0010】
この内燃機関において、好ましくは、前記冷却水導入部材は、前記サーモスタット弁及び前記エンジン本体の材料よりもイオン化傾向の大きい(ガルバニック反応を起こし易い)材料又は電気絶縁性を有する材料からなる。
【0011】
これにより、エンジン本体の電食の進行が遅くなり、エンジンの耐久性が向上する。
【0012】
好ましくは、この内燃機関において、前記冷却水導入部材と前記サーモスタット弁との間に形成される流路の断面積は、前記サーモスタット弁の開弁時の開口面積よりも大きい。
【0013】
これにより、サーモスタット弁に冷却水を十分な流量で流すことができ、冷却水導入部材による圧力損失の増大を回避することができる。
【0014】
好ましくは、この内燃機関において、前記冷却水導入部材は、前記サーモスタット弁の上流側から下流側に向かって内径が漸増するテーパ形状を備える。
【0015】
これにより、サーモスタット弁を通過する安定した円滑な流れを実現することができる。また、冷却水導入部材の取付工程を容易にすることができる。
【0016】
好ましくは、この内燃機関において、前記冷却水導入部材は、前記サーモスタット弁の上流端よりも更に上流側に達するように延出している。
【0017】
これにより、サーモスタット弁を囲む冷却水通路の内壁を電食から特に良好に保護することができる。
【0018】
好ましくは、この内燃機関において、前記サーモスタット弁の下流の前記冷却水通路の部分が、前記サーモスタット弁を受け入れる前記冷却水通路の一部と直接連通する第1開口(32A)及び前記サーモスタット弁の更に下流側の前記冷却水通路の部分に連通する第2開口(38A)を備えた前記エンジン本体の外面(16A)と、前記エンジン本体の外面に取り付けられ、前記第1開口及び前記第2開口にそれぞれ整合する第1孔(54)及び第2孔(56)を備えた蓋板(51)と、前記蓋板に取り付けられ、前記第1孔及び前記第2孔を介して、前記第1開口を前記第2開口に連通する連通路(64)を形成するように、前記蓋板に取り付けられたカバー部材(62)との協働により画定される。
【0019】
これにより、サーモスタット弁周りの冷却水通路を好適に形成することができる。
【0020】
好ましくは、この内燃機関において、前記サーモスタット弁が、その下流端側に、弁座(74)を画定しかつ半径方向フランジ(76A)を備えた本体部分(76)を有し、前記半径方向フランジが、前記蓋板の肩面(51A)と前記カバー部材との間に挟持される。
【0021】
これにより、サーモスタット弁と冷却水導入部材との組み付けを容易に行うことができるように冷却水通路を形成することができる。
【0022】
好ましくは、この内燃機関において、前記冷却水導入部材が前記蓋板と一体に形成される。
【0023】
これにより簡単に冷却水導入部材を取り付けることができる。
【0024】
好ましくは、この内燃機関において、前記冷却水導入部材が、その下流端側に半径方向フランジ(96A)を有し、前記半径方向フランジが、前記蓋板の肩面(51A)と前記サーモスタット弁の前記半径方向フランジとの間に挟持される。
【0025】
これにより簡単に冷却水導入部材を取り付けることができる。
【0026】
好ましくは、この内燃機関において、前記サーモスタット弁の前記本体部分が樹脂製であって、前記冷却水導入部材が前記本体部分と一体的に成形されている。
【0027】
これにより簡単に冷却水導入部材を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明によれば、サーモスタット弁の周りを流れる冷却水の温度の差異に起因して発生するハンチングが生じ難くなり、安定した温度制御が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明による船舶用推進装置の実施形態の概要を示す側面図
【
図2】本発明による船舶用推進装置の実施形態の概要を示す正面図
【
図3】本実施形態による船舶用推進装置に用いられる内燃機関の冷却系を示す説明図
【
図4】本実施形態による船舶用推進装置に用いられる内燃機関の要部を示す分解斜視図
【
図5】本実施形態による船舶用推進装置に用いられる内燃機関のヘッド側サーモスタット弁閉弁状態を示す断面図
【
図6】開弁状態のサーモスタット弁を示す
図4と同様の図
【
図7】変形実施形態に基づく冷却水導入部材の構成を示す
図4と同様の図
【
図8】更なる変形実施形態に基づく冷却水導入部材の構成を示す
図4と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る船舶用推進装置10(船外機)について説明する。
【0031】
図1は、ボート1からなる船舶に取り付けられた本発明の実施形態に基づく船舶用推進装置10を示す。船舶用推進装置10はハウジング2に収容され、それ自体公知のクランプ機構4を介して.ボート1のトランサムTに取り付けられている。このクランプ機構4により、それ自体公知の要領をもって、船舶用推進装置10を横方向に傾動させかつ、上下に傾動させることができる。
【0032】
垂直クランク軸を備えた内燃機関12は、ハウジング2内に収容されている。クランク軸の出力端は、下向きに延びる駆動軸5に接続され、駆動軸5の下端はギア機構6に接続されている。ギア機構6は内燃機関12の出力を、後方に延出するプロペラ軸7に伝達する。プロペラ軸7の後端には、プロペラ8が取り付けられている。ギア機構6は、内燃機関12の出力を駆動軸5からプロペラ軸7に伝達するばかりでなく、図示されていないシフト機構を介してプロペラ軸7の回転方向を反転することができる。
【0033】
図2に示すように、内燃機関12は、一対のシリンダ列及び通常の使用では垂直に延在するクランク軸を有する水冷V型の8気筒エンジンからなる。
【0034】
内燃機関12は、アルミニウム合金等の金属製のエンジン本体14を備えている。エンジン本体14は、内部にシリンダボアが形成されたシリンダブロック18と、シリンダバンクごとに設けられた一対のシリンダヘッド16(
図3参照)とを備えている。
【0035】
図3から
図6に示すように、各シリンダバンクのシリンダヘッド16には、対応するシリンダ列の両側に沿って延びるヘッド側冷却水通路20が設けられている。シリンダブロック18には、各バンクのシリンダ列の両側に沿って延びるボア側冷却水通路22が設けられている。ヘッド側冷却水通路20及びボア側冷却水通路22は、いずれも内燃機関12の下端部に設けられた冷却水供給通路24に連通している。
【0036】
この内燃機関12の冷却水は、周囲の水域から得られる。そのため、一端が冷却水供給通路24の下端に接続され、他端に冷却水入口28を有する冷却水入口通路30に冷却水ポンプ26が設けられている。冷却水入口28は、フィルタ29を備えており、通常の状態では水中に沈んでいる。
【0037】
冷却水供給通路24は、ヘッド側冷却水通路20及びボア側冷却水通路22に加えて、内燃機関12の冷却が必要な様々な部分に連通している。
【0038】
各シリンダバンクのシリンダヘッド16には、対応するヘッド側冷却水通路20の上端に連通するヘッド側冷却水排出通路32が設けられている。ヘッド側冷却水排出通路32の下流端は、シリンダヘッド16の平坦面16A(外面の一例)に開口し、上部開口32A(第1開口の一例)を画定する。このシリンダヘッド16の平坦面16Aの、上部開口32Aの直下には別の開口すなわち下部開口38A(第2開口の一例)が形成されている。下部開口38Aは、概ねシリンダヘッド16に形成された出口通路38に連通する。出口通路38の下流端は、下端が周囲の水中に沈むように位置する放水通路36に連通している。
【0039】
シリンダヘッド16の平坦面16A上には、樹脂製である蓋板51が重ねられる。蓋板51には、上部開口32A及び下部開口38Aと一致しかつ整合する一対の上孔54(第1孔の一例)及び下孔56(第2孔の一例)が形成され、ボルト52を用いて平坦面16Aに取り付けられている。カバー部材62が、ボルト60を用いて蓋板51の外面に取り付けられている。カバー部材62の内面には空洞64が設けられている。空洞64は蓋板51の上孔54及び下孔56(上部開口32A及び下部開口38A)の両方を包含するように設けられており、上孔54及び下孔56を連通させる連通路を構成する。
【0040】
カバー部材62の下端部には、下方に延びるホースニップル66が設けられ、その内部にドレン通路44が形成されている。ドレン通路44はホース48を介して放水通路36の下流部に接続されている。蓋板51及びカバー部材62を、水密性を確保するように取り付けるために、蓋板51には第1のシール部材58が上部開口32A及び下部開口38Aを囲むように設けられ、カバー部材62には蓋板51の上孔54及び下孔56を囲むように第2シール部材68が設けられている。
【0041】
これにより、ヘッド側冷却水排出通路32から、上部開口32A、下部開口38A、蓋板51の上孔54及び下孔56、及びカバー部材62の空洞64を介して、出口通路38に至る連続通路が形成される。
【0042】
蓋板51には、上孔54の周縁から上部開口32Aを介してヘッド側冷却水排出通路32内に延びる円筒状の冷却水導入部材96が一体的に形成されている。冷却水導入部材96は、肉厚がほぼ一定であり、上流端が下流端よりも僅かに小径、すなわち、サーモスタット弁34の上流側から下流側にかけて、次第に内径が大きくなるように、若干のテーパ形状を有している。
【0043】
上孔54を取り囲む蓋板51の外面の部分は、蓋板51の外面に対して窪んだ環状肩面51Aを形成するように凹んでいる。サーモスタット弁34が冷却水導入部材96の内部に配置されている。サーモスタット弁34は、弁ハウジング70を備える。弁ハウジング70は、弁座74(
図5参照)を画定する開口部が中央に設けられたディスク形状の本体部分76を含む。ディスク形状の本体部分76は、蓋板51の環状肩面51A上に載置されるように半径方向フランジ76Aが設けられている。カバー部材62には、周縁フランジ及びカバー部材62の内面から蓋板51に向けて突出する突起62Aが設けられている。蓋板51及びカバー部材62がエンジン本体14に組み付けられると、カバー部材62の周縁フランジ及び突起62Aがサーモスタット弁34の半径方向フランジ76Aを、蓋板51の環状肩面51Aに対して強く押し付けることになる。
【0044】
ヘッド側冷却水排出通路32のその直上流の部分には、3本の脚(図示せず)によってヘッド側冷却水排出通路32の壁に取り付けられた弾丸形の流れガイド98が設けられている。流れガイド98は、サーモスタット弁34に沿った水の流れを円滑にする。カバー部材62には、空洞64の底壁から突出するストッパ62Bが設けられる。流れガイド98はヒートマス(熱溜め)の役割も担っており、冷却水通路の流路抵抗が増大することを回避した上で、このヒートマスに蓄えた熱により、新規に流入した低温冷却水がサーモスタット弁34に接触する以前に昇温することにより、サーモスタット弁34のハンチングが抑制される。
【0045】
弁ハウジング70は、更に冷却水導入部材96内にてヘッド側冷却水排出通路32内を上流側に向けて延出する籠状をなすフレーム部分78を含む。弁ハウジング70は、アルミニウムよりもガルバニック反応を起こし難い銅合金で形成されている。
【0046】
フレーム部分78の一端は本体部分76に結合され、その他端(上流端)は閉じられており、その中に、エラストマー製のダイアフラム84と、フレーム部分78の下端とダイアフラム84との間に封入されたサーモワックス86とを含む温度感知素子80が保持されている。
【0047】
サーモスタット弁34は、弁座74と協働するように構成された弁部材90と、弁部材90からフレーム部分78内に延在する弁ステム88と、弁ステム88を取り囲むように取り付けられ、弁部材90から離反する側の端部に設けられた半径方向フランジ92Aを備えた筒状ばねリテーナ92と、弁ステム88及び筒状ばねリテーナ92を取り囲み、フレーム部分78の、本体部分76側の端部及び筒状ばねリテーナ92間に設けられた半径方向フランジ92Aの間に介在する圧縮コイルばね94とを更に含む。
【0048】
サーモワックス86は、その温度に応じて可逆的に伸縮する。周囲の冷却水の温度が低い場合、サーモワックス86は収縮状態にあり、弁部材90は圧縮コイルばね94のばね力により弁座74を閉じ、サーモスタット弁34は実質的に冷却水の流れを止める。
図5に示すように、弁部材90には4つの凹部90Aが設けられており、弁部材90が閉状態であっても少量の冷却水が流れるようになっている。周囲の冷却水の温度が高い場合、サーモワックス86は膨張状態にあり、弁ステム88の自由端を、圧縮コイルばね94のばね力に抗して、弁座74から弁部材90を持ち上げる方向に押す。弁部材90の全開位置は、弁部材90がカバー部材62の内面から突出するストッパ62Bに当接することにより規定される。その結果、冷却水がサーモスタット弁34を自由に通過するように流れる。
【0049】
冷却水導入部材96とサーモスタット弁34との間の流路断面積は、サーモスタット弁34の開弁時の開口面積よりも大きいことが好ましい。これにより、サーモスタット弁34を通過する冷却水の流量を十分に確保することができ、冷却水導入部材96による圧力損失の増大を回避することができる。
【0050】
シリンダブロック18には、対応するボア側冷却水通路22の上端に連通するボア側冷却水排出通路40がシリンダバンクごとに設けられている。ボア側冷却水排出通路40は、シリンダブロック18の平坦面に開口し、上部開口100を画定する。このシリンダブロック18の平坦面には、上部開口100の直下に別の開口又は下部開口101が形成される。下部開口101は、概ねシリンダブロック18内に画定される出口通路39に連通している。この出口通路39の下流端は、放水通路36に接続されている。
【0051】
シリンダブロック18の平坦面には、プラスチック材料からなる蓋板102が重ねられる。蓋板102には、上部開口100及び下部開口101にそれぞれ整合する一対の孔が形成されている。蓋板102の外面には、カバー部材106が重ね合わされている。蓋板102及びカバー部材106は、ボルト104を用いてシリンダブロック18に共締めされるように取り付けられている。カバー部材106の内面には、上部開口100及び下部開口101を包含する空洞が設けられている。このようにして、蓋板102及びカバー部材106によって、ボア側冷却水通路22から、上部開口100及び下部開口101を経て、出口通路39に至る連続通路が画定される。
【0052】
蓋板102には、蓋板51と同様の冷却水導入部材(図示せず)が一体的に形成されている。ボア側冷却水排出口のボア側冷却水排出通路40の下流端部には、冷却水導入部材に囲まれた別のサーモスタット弁42が配置されている。サーモスタット弁42の取付構造は、ヘッド側冷却水排出通路32のサーモスタット弁34と同様である。
【0053】
カバー部材106の下端部には、下方に延びるホースニップル108が設けられ、その内部にドレン通路46が形成されている。ドレン通路46はホース48を介して放水通路36の下流部に接続されている。蓋板102及びカバー部材106を、水密性を確保するように取り付けるために、蓋板102には第1のシール部材が上部開口100及び下部開口101を囲むように設けられ、カバー部材62には蓋板102の上孔及び下孔を囲むように第2シール部材が設けられている。
【0054】
サーモスタット弁42の構造、配置、動作要領は、ヘッド側冷却水排出通路32の下流端に設けられたサーモスタット弁34と同様であるので、以下の開示においては、このサーモスタット弁42に関する説明は省略する。
【0055】
上述の冷却システムの動作要領は、
図3を参照して以下に説明する。
【0056】
冷却水入口28を介して冷却水ポンプ26によって吸い込まれた淡水又は海水は、フィルタ29によって濾過され、冷却水入口通路30を介して冷却水供給通路24に送られる。冷却水供給通路24は、左右のヘッド側冷却水通路20と、左右のボア側冷却水通路22とに分配される。
【0057】
ヘッド側冷却水通路20を流れる冷却水は、対応するシリンダバンクのヘッド部を冷却し、ヘッド側冷却水排出通路32を通って対応するヘッド側のサーモスタット弁34に至る。ヘッド側のサーモスタット弁34が開いている場合、冷却水はヘッド側のサーモスタット弁34を通過し、出口通路38を通って放水通路36に流れる。
【0058】
ボア側冷却水通路22を流れる冷却水は、対応するシリンダバンクのボア部分を冷却し、ボア側冷却水排出通路40を通って対応するボア側のサーモスタット弁42に至る。ボア側のサーモスタット弁42が開いている場合、冷却水はボア側のサーモスタット弁42を通過し、出口通路39を通って放水通路36に流れる。
【0059】
放水通路36に流入した冷却水は、放水通路36の下端から周囲の水域に排出される。船舶用推進装置10が船体(図示せず)に対してチルトアップすると、ヘッド側冷却水通路20及びボア側冷却水通路22に残留する冷却水は、サーモスタット弁34及び42、ドレン通路44及び46、及びホース48を介して放水通路36に排出される。
【0060】
図示の実施形態では、冷却水導入部材96は、サーモスタット弁34の外周を取り囲み、サーモスタット弁34を、ヘッド側冷却水排出通路32を画定する周囲壁から分離する。そのため、壁(シリンダヘッド16)及びサーモスタット弁34、特にそのフレーム部分78間のイオンの移動が効果的に阻止される。その結果、サーモスタット弁34のフレーム部分78よりもガルバニック反応を起こす傾向が大きい周囲壁の材料は、ガルバニック腐食から効果的に保護される。この点に関して、冷却水導入部材96の上流端は、サーモスタット弁34の上流端を越えて延在することが望ましい。そうすることで、サーモスタット弁34の側から溶け出す水酸化イオンを高濃度で含む冷却水がシリンダヘッド16の方に流れこむのをより効果的に防ぐことができ、一層高い腐食防止効果を得ることができる。
【0061】
また、冷却水導入部材96は、冷却水が滞留する空間の発生を防止し、サーモスタット弁34付近の冷却水を、サーモスタット弁34及びその周囲に集中させる。その結果、サーモスタット弁34周辺に過度の温度勾配が形成されるのを防止し、これが、ハンチングのない安定したサーモスタット弁34の作動の実現に寄与する。
【0062】
本実施形態によれば、冷却水導入部材96が蓋板51と一体に形成されているので、組立工程が簡略化され、部品点数を削減することができる。特に、冷却水導入部材96の取り付け精度を向上させることができる。
【0063】
冷却水導入部材96は、ヘッド側のサーモスタット弁34の下流側から上流側に向かって縮径するテーパ形状を有し、圧力損失の増大を抑制し、サーモスタット弁34による流量を安定な制御を可能にする。また、ヘッド側冷却水排出通路32に冷却水導入部材96を取り付ける工程及び冷却水導入部材96にサーモスタット弁34を取り付ける工程が共に簡素化される。
【0064】
上述の利点は、ボア側冷却水排出通路40の下流端に設けられたサーモスタット弁42に関連する構成にも同様に当てはまる。
【0065】
図7は、本発明の変形実施形態を示す。この場合、冷却水導入部材96は、蓋板51と一体とすることなく、別部材として形成される。冷却水導入部材96の下流端には半径方向フランジ96Aが設けられ、この半径方向フランジ96Aがサーモスタット弁34の半径方向フランジ76A及び環状肩面51A間に挟持されている。この場合も、主に筒状部材からなる冷却水導入部材96は、その径が上流側に向かって次第に小さくなるようなテーパを有し、かつサーモスタット弁34の上流端を越えて延在する。
【0066】
このようにして蓋板51が簡素化され、冷却水導入部材96を小型で簡単な構成にできるため、製造コストを抑えることができる。半径方向フランジ96Aを、蓋板51と環状肩面51Aとの間に挟持させることで冷却水導入部材96を固定できるため、組立工程を簡略化することができる。
【0067】
図8は、本発明の別の変形実施形態を示す。この場合、サーモスタット弁34の円板形状をなす本体部分76は、その半径方向フランジ76Aと共に、プラスチック材料で作られ、サーモスタット弁34の残りの部分は概ね銅ベースの合金で作られる。サーモスタット弁34の金属部分は、円板形状の本体部分76にインサート成形される一方、冷却水導入部材96は、円板形状の本体部分76と一体成形されている。すなわち、冷却水導入部材96はサーモスタット弁34と一体成形されている。
【0068】
半径方向フランジ76Aは、冷却水導入部材96の外周を越えて半径方向に延びているため、蓋板51と環状肩面51Aとの間に半径方向フランジ76Aを介在させることにより、サーモスタット弁34を固定することができる。この場合も、組立工程が簡略化される。
【0069】
本発明は、その特定の実施形態に関して説明されたが、そのような実施形態によって限定されるものではなく、当業者によって容易に理解されるように、本発明の範囲から逸脱することなく様々な方法で変更することができる。例えば、冷却水導入部材96は必ずしも蓋板51と一体に形成されている必要はなく、蓋板51とは別部材であってもよい。冷却水導入部材96は、他の電気絶縁性の材料からなるものであってもよい。また、冷却水導入部材96は、サーモスタット弁34、42やエンジン本体14の材質よりもイオン化傾向の高い(ガルバニック反応し易い)材質で形成されていてもよい。また、上述の実施形態に示されている構成要素の全てが必須ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜置換又は省略可能である。本開示における引用文献の内容は、参照により本出願に組み込まれる。
【符号の説明】
【0070】
10 :船舶用推進装置
12 :内燃機関
14 :エンジン本体
16 :シリンダヘッド
16A :平坦面
18 :シリンダブロック
20 :ヘッド側冷却水通路
22 :ボア側冷却水通路
32 :ヘッド側冷却水排出通路
32A :上部開口(第1開口)
34 :サーモスタット弁
38A :下部開口(第2開口)
40 :ボア側冷却水排出通路
42 :サーモスタット弁
51 :蓋板
51A :環状肩面
54 :上孔(第1孔)
56 :下孔(第2孔)
62 :カバー部材
64 :空洞(連通路)
74 :弁座
76 :本体部分
76A :半径方向フランジ
96 :冷却水導入部材
96A :半径方向フランジ