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特開2024-132874電極、膜電極接合体、電気化学セル、スタック、電解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132874
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】電極、膜電極接合体、電気化学セル、スタック、電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/067 20210101AFI20240920BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240920BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240920BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C25B11/067
C25B11/052
C25B11/063
C25B11/032
C25B9/23
C25B9/00 A
C25B1/04
H01M4/86 M
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003033
(22)【出願日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2023043637
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
(72)【発明者】
【氏名】山崎 六月
(72)【発明者】
【氏名】椎野 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】中野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】吉木 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亜里
(72)【発明者】
【氏名】沖 充浩
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011AA26
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA01
5H018AS03
5H018DD08
5H018EE02
5H018HH03
(57)【要約】
【課題】実施形態は、耐久性に優れた電極を提供する。
【解決手段】 実施形態の電極は、多孔質であるチタン基材と、チタン基材上に設けられ、シート層とギャップ層が交互に積層した電解用触媒層と、を有する。チタン基材の電解用触媒層側に酸化チタンを含む第1被膜を有する。チタン基材の電解用触媒層側とは反対側に酸化チタンを含む第2被膜を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質であるチタン基材と、
前記チタン基材上に設けられ、シート層とギャップ層が交互に積層した電解用触媒層と、
を有し、
前記チタン基材の電解用触媒層側に酸化チタンを含む第1被膜を有し、
前記チタン基材の電解用触媒層側とは反対側に酸化チタンを含む第2被膜を有し、
前記第1被膜の平均厚さをD1とし、
前記第2被膜の平均厚さをD2とし、
前記D1と前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たす電極。
電極。
【請求項2】
前記D1は、10[nm]以上50[nm]以下である請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記D2は、10[nm]以上50[nm]以下であり、
前記チタン基材の前記電解用触媒層側とは反対側は、黄色又は黄色みがかった光沢表面を有する請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記D1と前記D2は、3[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たす請求項1又は2に記載の電極。
【請求項5】
前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内である請求項1又は2に記載の電極。
【請求項6】
前記D1と前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たす請求項1又は2に記載の電極。
【請求項7】
前記第1被膜の90[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであり、
前記第2被膜の90[wt%]以上100[wt%]以下はTiOである請求項1又は2に記載の電極。
【請求項8】
前記第1被膜の95[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであり、
前記第2被膜の95[wt%]以上100[wt%]以下はTiOである請求項1又は2に記載の電極。
【請求項9】
前記第1被膜に含まれる金属元素のうち95[atom%]以上100[atom%]以下はTiであり、
前記第2被膜に含まれる金属元素のうち95[atom%]以上100[atom%]以下はTiである請求項1又は2に記載の電極。
【請求項10】
前記第1被膜に含まれる金属元素のうち99[atom%]以上100[atom%]以下はTiであり、
前記第2被膜に含まれる金属元素のうち99[atom%]以上100[atom%]以下はTiである請求項1又は2に記載の電極。
【請求項11】
前記第1被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第1被膜の内側の領域の厚さは、980[nm]以上50[μm]以下であり、
前記第2被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第2被膜の内側の領域の厚さは、980[nm]以上50[μm]以下である請求項1又は2に記載の電極。
【請求項12】
前記第1被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第1被膜の内側の領域の厚さは、前記第1被膜の厚さの19.8倍以上5000倍以下であり、
前記第2被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第2被膜の内側の領域の厚さは、前記第1被膜の厚さの19.8倍以上5000倍以下である請求項1又は2に記載の電極。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の電極。に記載の電極を用いた膜電極接合体。
【請求項14】
請求項13に記載の膜電極接合体を用いた電気化学セル。
【請求項15】
請求項13に記載の膜電極接合体を用いたスタック。
【請求項16】
請求項15に記載のスタックを用いた電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極、膜電極接合体、電気化学セル、スタック、電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学セルは盛んに研究されている。電気化学セルのうち、例えば、固体高分子型水電解セル(PEMEC:Polymer Electrolyte MembraneElectrolysis Cell)は、大規模エネルギー貯蔵システムの水素生成としての利用が期待されている。十分な耐久性と電解特性を確保するため、PEMECの陰極には白金(Pt)ナノ粒子触媒が、陽極にはイリジウム(Ir)ナノ粒子触媒のような貴金属触媒が、一般に使用されている。また、アンモニアからも水素を得る方法が検討されている。他にも、二酸化炭素を電気分解してメタノールやエチレンなどの有機物や一酸化炭素を生成する電解装置のアノードにも利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3743472号
【特許文献2】特開2017-50542号公報
【特許文献3】特開2009-256751号公報
【特許文献4】特開昭62-207855号公報
【特許文献5】特開2018-156798号公報
【特許文献6】国際公開第2022/210655号
【特許文献7】特開2012-204221号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】陽極酸化でカラフルなチタンプレートをつくろう 秋田大学理工学部技術部 2023年2月10日
【非特許文献2】多孔質チタンの酸化膜と腐食の関係について 大分工業高等専門学校紀要第47号(平成22年11月)
【非特許文献3】チタンの加熱酸化と陽極酸化 近畿アルミニウム表面処理研究会会誌No.167 1994年
【非特許文献4】フラッシュランプアニール (Wikipedia URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%AB)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、耐久性の高い電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電極は、実施形態の電極は、多孔質であるチタン基材と、チタン基材上に設けられ、シート層とギャップ層が交互に積層した電解用触媒層と、を有する。チタン基材の電解用触媒層側に酸化チタンを含む第1被膜を有する。チタン基材の電解用触媒層側とは反対側に酸化チタンを含む第2被膜を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の電極の模式図。
図2】実施形態の触媒層の模式断面図。
図3】実施形態の分析スポット。
図4】実施形態のグラフ。
図5】電極100の断面画像。
図6】電極100の断面画像。
図7】電極100の断面画像。
図8】電極100の断面画像。
図9】実施形態の膜電極接合体の模式図。
図10】実施形態の電気化学セルの模式図。
図11】実施形態のスタックの模式図。
図12】実施形態の電解装置の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、同一部材等には同一の符号を付し、一度説明した部材等については適宜その説明を省略する。
【0009】
明細書中の物性値は、温度が25[℃]で、圧力が1[atom]における値である。各部材の厚さは、積層方向の距離の平均値である。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態は、電極に関する。図1に実施形態の電極100の模式断面図を示す。電極100は、基材1と、触媒層2を有する。
【0011】
触媒層2は、実施形態において、電解用触媒として用いられている。電解反応は、例えば、水又はアンモニアから水素を生成する。電解反応は、例えば、二酸化炭素から一酸化炭素を生成する。触媒層2は、アンモニアの電解生成におけるアノード触媒としても用いられる。
【0012】
第1実施形態の電極100は、例えば、水電解のアノードとして用いられる。触媒層2に燃料電池用の触媒がさらに含まれると実施形態の電極100は、燃料電池の酸素極としても用いられる。実施形態の電極100は、アンモニアを電解生成するアノードとしても利用可能である。実施形態の電極は、アンモニア合成用の電解装置のアノードとして利用可能である。以下、第1実施形態及び他の実施形態において、水電解を例に説明するが、水電解以外に例えば、超純水をアノードに供給し、アノードで水を分解してプロトンおよび酸素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、カソードに供給した窒素とプロトン、電子が結びつきアンモニアが生成するアンモニア合成用の電気分解に用いられる膜電極接合体のアノードに実施形態の電極100は利用可能である。実施形態の電極100は、アンモニアを電解して水素を生成するカソードとしても利用可能である。実施形態の電極は、水素発生装置のカソードとして利用可能である。以下、第1実施形態及び他の実施形態において、水電解を例に説明するが、水電解以外に例えば、アンモニアをカソードに供給し、カソードでアンモニアを分解してプロトンおよび窒素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、アノードでプロトンと電子が結びつき水素が生成するアンモニア分解用の電気分解に用いられる膜電極接合体のカソードに実施形態の電極100は利用可能である。
【0013】
基材1としては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。基材1は、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。電極100は、例えば、水電解セルの陽極としても使用されるため、チタン基材が好ましい。
【0014】
基材1のバルブメタルとして耐久性の高いTiが好ましい。基材1は、多孔質のチタン基材であれば特に限定されない。基材1は、例えば、Tiメッシュ又はTi繊維からなるクロース(不織布)が用いられる。
【0015】
基材1の空隙率は、物質の移動を考慮すると、20[%]以上95[%]以下であれば良く、40[%]以上90[%]以下がより好ましい。
【0016】
例えば、基材1がTi繊維を絡み合わせた金属不織布の場合、繊維径は1[μm]以上500[μm]以下が好ましく、反応性および給電性を考慮すると1[μm]以上100[μm]以下がより好ましい。基材1が粒子焼結体の場合、粒子径は1[μm]以上500[μm]以下が好ましく、反応性および給電性を考慮すると1[μm]以上100[μm]以下がより好ましい。
【0017】
基材1の触媒層2側に酸化チタンを含む第1被膜1Aを有する。また、基材1の触媒層2側とは反対側に酸化チタンを含む第2被膜1Bを有する。
【0018】
基材1がTiメッシュである場合について説明する。基材1の触媒層2が設けられている側の表面に酸化被膜である第1被膜1Aが設けられている。基材1の触媒層2が設けられている側とは反対側の表面に酸化被膜である第2被膜1Bが設けられている。例えば、Tiメッシュ又はTi繊維からなるクロースの触媒層2が設けられている側の表面に設けられている酸化被膜が第1被膜1Aである。例えば、Tiメッシュ又はTi繊維からなるクロースの触媒層2が設けられている側とは反対側の表面に設けられている酸化被膜が第2被膜1Bである。
【0019】
基材1がTi繊維からなるTiクロースである場合について説明する。基材1の触媒層2が設けられている側のTi繊維の表面に酸化被膜である第1被膜1Aが設けられている。基材1の触媒層2が設けられている側とは反対側のTi繊維の表面に酸化被膜である第2被膜1Bが設けられている。この場合、第1被膜1Aは、触媒層2側のTi繊維の表面に筒状に設けられている。触媒層2側のTi繊維の表面の全体的に第1被膜1Aが設けられていることが好ましい。この場合、第2被膜1Bは、触媒層2側とは反対側のTi繊維の表面に筒状に設けられている。触媒層2側とは反対側のTi繊維の表面の全体的に第2被膜1Bが設けられていることが好ましい。Ti繊維の表面に酸化被膜が設けられている場合、Ti繊維の中心部分(第1領域1Aの内側の領域及び第2領域1Bの内側の領域)はTiである。
【0020】
第1被膜1Aの少なくとも一部は、触媒層2と直接的に接していることが好ましい。第1被膜1Aは、第1被膜1Aの内側のTiと直接的に接し、かつ、触媒層2と直接的に接していることが好ましい。
【0021】
第2被膜1Bは、触媒層2と直接的に接していない。
【0022】
第1被膜1Aの平均厚さは、10[nm]以上50[nm]以下である。Tiは自然酸化によって、Tiの表面に薄い酸化被膜が形成される場合がある。意図的ではない酸化被膜の平均厚さは、10nm未満である。第1被膜1Aの平均厚さは、好ましくは、10[nm]以上45[nm]以下であり、20[nm]以上40[nm]以下がより好ましい。
【0023】
第2被膜1Bの平均厚さは、10[nm]以上50[nm]以下である。Tiは自然酸化によって、Tiの表面に薄い酸化被膜が形成される場合がある。意図的ではない酸化被膜の平均厚さは、10nm以下である。第2被膜1Bの平均厚さは、好ましくは、10[nm]以上45[nm]以下であり、20[nm]以上40[nm]以下がより好ましい。
第2被膜1Bの平均厚さは、第1被膜1Aの平均厚さよりも薄い。言い換えると、第1被膜1Aの平均厚さは、第2被膜1Bの平均厚さよりも厚い。
【0024】
基材1の触媒層2が設けられている側の表面は、触媒層2によって目視が困難である。基材1の触媒層2が設けられている側のとは反対側の表面は、電極100単体で目視可能である。上記の第2被膜1Bが設けられている側の基材1は、黄色(黄色味がかった色)の光沢表面を有することが好ましい。触媒層2側とは反対側の裏面側の表面は、金属光沢を有する黄色であることが好ましい。チタンは、酸化被膜の厚さで、その表面の色が変化する。平均厚さが10[nm]以上50[nm]以下の第2被膜1Bが設けられている表面は、黄色である。
【0025】
第1被膜1Aの及び第2被膜1Bが基材1に設けられていると、電極100の耐久性が向上することが好ましい。
【0026】
第1被膜1Aの平均厚さをD1とする。第2被膜1Bの平均厚さをD2とする。D1とD2は、D2≧D1を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、電極100の初期特性が高く、耐久性が高いことが好ましい。
【0027】
D1とD2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たすことがより好ましい。D1とD2は、1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たすことがより好ましい。第1被膜1Aの平均厚さと第2被膜1Bの平均厚さの差が大きいと局所的に酸化被膜が厚くなるおそれがある。酸化被膜の厚さが厚いと、基材1の電気抵抗が高くなり易い。そこで、これらの関係を満たす電極100が好ましい。
【0028】
電極100の運転中の劣化を抑制する観点から、D1とD2が1[nm]≦D2-D1≦20[nm]又は1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たし、第1被膜1Aの平均厚さD1は1[nm]以上50[nm]以下を満たすことが好ましい。第2被膜1Bの平均厚さD2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm](又は1[nm]≦D2-D1≦10[nm])及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内であることが好ましい。
【0029】
電極100の運転中の劣化を抑制する観点から、D1とD2が1[nm]≦D2-D1≦20[nm]又は1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たす場合、第1被膜1Aの平均厚さD1は、5[nm]以上100[nm]未満が好ましく、5[nm]以上50[nm]以下がより好ましく、10[nm]以上45[nm]以下がさらにより好ましい。第2被膜1Bの平均厚さD2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm](又は1[nm]≦D2-D1≦10[nm])及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内であることが好ましい。
【0030】
電極100の運転中の劣化を抑制する観点から、D1とD2が1[nm]≦D2-D1≦20[nm]又は1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たす場合、第2被膜1Bの平均厚さD2は、6[nm]以上100[nm]未満が好ましく、6[nm]以上50[nm]以下がより好ましく、6[nm]以上45[nm]以下がさらにより好ましい。
【0031】
電極100の運転中の劣化を抑制する観点から、D1とD2が3[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たすことがより好ましい。D1とD2は、3[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たすことがより好ましい。第2被膜1Bの平均厚さD2は、3[nm]≦D2-D1≦20[nm](又は3[nm]≦D2-D1≦10[nm])及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内であることが好ましい。
【0032】
電極100の運転中の劣化を抑制する観点から、D1とD2が3[nm]≦D2-D1≦20[nm]又は3[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たす場合、第1被膜1Aの平均厚さD1は、5[nm]以上100[nm]未満が好ましく、5[nm]以上50[nm]以下がより好ましく、5[nm]以上45[nm]以下がさらにより好ましい。
【0033】
電極100の運転中の劣化を抑制する観点から、D1とD2が3[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たす場合、第2被膜1Bの平均厚さは、8[nm]以上100[nm]未満が好ましく、8[nm]以上50[nm]以下がより好ましく、8[nm]以上45[nm]以下がさらにより好ましい。
【0034】
第1被膜1Aの90[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであることが好ましい。第2被膜1Bの90[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであることが好ましい。基材1の表面の酸化被膜は、他の金属元素が明らかに含まれた酸化物層ではなく、Tiが酸化して形成された酸化物が好ましい。そこで、第1被膜1Aの95[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであることがより好ましい。第2被膜1Bの95%[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであることがより好ましい。第1被膜1Aの98[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであることがより好ましい。第2被膜1Bの98[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであることがより好ましい。
【0035】
上記と同観点から、第1被膜1Aに含まれる金属元素のうち95[atom%]以上100[atom%]以下はTiであることが好ましい。上記と同観点から第2被膜1Bに含まれる金属元素のうち95[atom%]以上100[atom%]以下はTiであることが好ましい。
【0036】
上記と同観点から、第1被膜1Aに含まれる金属元素のうち99[atom%]以上100[atom%]以下はTiであることが好ましい。上記と同観点から第2被膜1Bに含まれる金属元素のうち99[atom%]以上100[atom%]以下はTiであことが好ましい。
【0037】
基材1の表面の第1領域(第1被膜)1A及び第2領域(第2被膜)1Bを含む酸化被膜を除く領域(第1領域(第1被膜)1Aの内側の領域及び第2領域(第2被膜)1Bの内側の領域を含む)には、Tiが含まれていることが好ましい。基材1の表面の酸化被膜を除く領域において、95[wt%]以上100[wt%]以下はTiであることが好ましい。基材1の表面の酸化被膜を除く領域において、98[wt%]以上100[wt%]以下はTiであることが好ましい。基材1の表面の酸化被膜を除く領域において、99[wt%]以上100[wt%]以下はTiであることが好ましい。
【0038】
第1被膜1Aの内側の領域の厚さは、980[nm]以上50[μm](50000nm)以下であることが好ましい。第1被膜1Aの内側の領域の厚さは、第1被膜1Aの厚さの19.6倍以上5000倍以下であることが好ましい。酸化被膜が設けられていないTiの領域が相対的に厚いことが好ましい。
【0039】
第2被膜1Bの内側の領域の厚さは、980[nm]以上50[μm](50000nm)以下であることが好ましい。第2被膜1Bの内側の領域の厚さは、第2被膜1Bの厚さの19.6倍以上5000倍以下であることが好ましい。酸化被膜が設けられていないTiの領域が厚いことが好ましい。
【0040】
触媒層2は、Ir及びRuを主成分とする貴金属酸化物と非貴金属酸化物を含む。触媒層2と基材1の間には、図示しない中間層が設けられていてもよい。触媒層2と基材1が直接的に接している形態が好適である。
【0041】
触媒層2の貴金属量は、0.02[mg/cm]以上1.0[mg/cm]以下であることが好ましく、より好ましくは0.05[mg/cm]以上0.5[mg/cm]以下である。この質量の和は、ICP-MSで測定することができる。
【0042】
触媒層2の気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0043】
触媒層2は、シート層2Aとギャップ層2Bが交互に積層した構造を有する。触媒層2の積層構造を図2の触媒層2の模式断面図に示す。シート層2Aとギャップ層2Bは、略平行に並んで積層している。ギャップ層2Bは、大部分が空洞であるが、一部、シート層2Aがはみ出してシート層2Aが連結している。シート層2Aは、ギャップ層2B中に存在する柱状体2Cによって連結し、積層構造が維持される。
【0044】
シート層2Aは、シート状に凝集した担持されていない貴金属酸化物の粒子である触媒粒子が並んだ層である。シート層2A中にも一部空隙がある。シート層2Aは、触媒粒子を多く含む緻密な層である。
【0045】
ギャップ層2Bは、シート層2Aの間に挟まれた領域であり、担持されていない貴金属酸化物の粒子である触媒粒子を含む。ギャップ層2Bは、シート層2Aとは異なり、触媒粒子の規則的な構造を有しない。ギャップ層2Bは、触媒粒子の密度が低い領域である。
【0046】
シート層2Aの1層の平均厚さは、6[nm]以上50[nm]以下であることが好ましい。ギャップ層2Bの1層の平均厚さは、6[nm]以上50[nm]以下であることが好ましい。シート層2Aの1層の平均厚さは、ギャップ層2Bの1層の平均厚さよりも厚いことが好ましい。一部のギャップ層2Bは、一部のシート層2Aの厚さより厚い場合が有る。
【0047】
触媒層2は、貴金属酸化物として、Ir酸化物又は/及びIrとRuの複合酸化物を含み、任意にRu酸化物を含むことが好ましい。触媒層2に含まれる貴金属のうちIrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下であることが好ましい。触媒層2の貴金属酸化物に含まれる貴金属は、Ir及びRuに限定されない。なお、Ruを他の金属または合金に代えることができる場合がある。
【0048】
触媒層2は、非貴金属酸化物として、Ni、Co及びMnからなる群より選ばれる1種以上の非貴金属の酸化物を含むことが好ましい。触媒層2に含まれる非貴金属は、Niが含まれ、任意に、Co又は/及びMnが含まれることが好ましい。触媒層2に含まれる非貴金属の量を100[wt%]とする場合、触媒層2に含まれる非貴金属のうちNi、Co及びMnの合計比率が80[wt%]以上100[wt%]以下であることが好ましい。
【0049】
触媒層2には、Ni、Co及びMnからなる群より選ばれる1種以上の非貴金属が含まれていてもよい。
【0050】
各スポットは、正方形状で少なくとも1mmの領域を有する。そして、図3に示すように、電極100の長さD1と電極100の幅D2(D1≧D2)とした場合、電極100の幅方向に対向する2辺からそれぞれ内側にD3(=D1/10)の距離のところに仮想線を引き、電極100の長さ方向に対向する2辺からそれぞれ内側にD4(=D2/10)の距離のところに仮想線を引き、さらに、電極100の中心を通る幅方向に平行な仮想線を引き、電極100の中心を通る長さ方向に平行な仮想線を引き、仮想線の交点9点を中心とする領域を分析スポットA1~A9とする。SEMによる観察断面は、図3の面に対して垂直方向であり、幅方向に平行である。分析スポットA1~A9の各ギャップ層2Bの厚さをSEM画像の幅方向に50[nm]間隔で求める。そして、ギャップ層2B厚さが2[nm]未満の部分である比率を求める。ギャップ層2B及びシート層2Aの平均厚さも同様に求まる。同様のSEM-EDXを用いた同様の分析で、基材1の断面の観察をすることができる。基材1の断面観察で、基材1の酸化被膜の厚さ、基材1の組成を求めることができる。
【0051】
触媒層2は、基材1上にスパッタで実質的にシート層2Aの前駆体であって貴金属酸化物を含むシート層前駆体と実質的にギャップ層2Bの前駆体であって非貴金属酸化物を主体とするギャップ層前駆体を交互に形成する。この時、酸化性の雰囲気でシート層前駆体及びギャップ層前駆体を形成する。硫酸などの酸処理で非貴金属酸化物を溶出させる。非貴金属を溶出させた後に、酸化性の雰囲気で加熱処理を行う。酸化性雰囲気での加熱処理によって、触媒層2と基材1の密着性が向上する。
【0052】
例えば、加熱、陽極酸化などを行って、基材1の任意の面側に所望の厚さ酸化チタンの被膜を形成することができる。
【0053】
基材1の酸化被膜(第1被膜1A及び第2被膜1B)の平均厚さ、初期特性と運転後の特性について説明する。ここでは、水電解を例に電極100の初期特性と耐久性について説明する。電極100をアノード及びカソードに用いた電気化学セルを作製して電極100の評価を行う。電源を用いてアノード・カソード間に2[A/cm]の電流密度で電流を印加して水電解を行い、運転開始時と運転開始から75時間後のセル電圧を比較する。図4の縦軸は、セル電圧である。図4の横軸に示す数値は、基材1の酸化被膜(第1被膜1A及び第2被膜1B)の平均厚さを表している。酸化被膜の厚さは、電極100作製時の酸化条件で調整される。実際の酸化被膜の厚さは、横軸に示した各数値範囲内である。
【0054】
第1酸化被膜1Aの厚さを示した電極100の断面画像を図5から図8に示す。図5から図8は、積層構造を有する積層触媒層がチタン(基材1)の表面に形成されている部分の断面を示している。図5図6は、比較例相当の電極100の断面画像である。図5図6の第1被膜1Aは不明瞭である。図5図6の第1被膜1Aの厚さは、10[nm]未満である。図7図8は、実施例相当の電極100の断面画像である。図7図8の第1被膜1Aは、図5図6の第1被膜1Aよりも少し明瞭である。図7の第1被膜1Aの厚さは11[nm]以上13[nm]以下である。図8の第1酸化被膜1Aの厚さは、22[nm]以上36[nm]以下である。
【0055】
図4に基材1の酸化被膜(第1被膜1A及び第2被膜1B)の厚さ、初期特性と運転後の特性の関係を示したグラフを示す。酸化被膜の平均厚さが0[nm]以上10[nm]未満の場合、初期のセル電圧は低いが、運転後はセル電圧が高くなっており、耐久性が高くない。水電解運転によって、触媒層2が劣化したと考えられる。
【0056】
酸化被膜(第1被膜1A)の平均厚さが1[nm]未満の場合と比べて、D2≧D1を満たし酸化被膜(第1被膜1A)の平均厚さが1[nm]以上50[nm]以下の場合の運転後のセル電圧の上昇は、酸化被膜(第1被膜1A)の平均厚さが0[nm]の場合と比べて抑えられている。従って、酸化被膜(第1被膜1A)の平均厚さが1[nm]以上50[nm]以下であり、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たすことが好ましい。第2被膜1Bの平均厚さD2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内が好ましい。
【0057】
酸化被膜の厚さが10[nm]以上50[nm]以下の場合、初期のセル電圧は低く、運転後のセル電圧はわずかに上昇している。水電解運転によって、セル電圧がほとんど上昇しておらず、実施形態の電極100は耐久性が高いことがわかる。実施形態の電極100を用いて水電解を行うと、高い水電解特性を長時間維持することができる。
【0058】
第1被膜D1の平均厚さが1[nm]未満の場合と比べて、酸化被膜の平均厚さが50[nm]より大きく100[nm]未満の場合の運転後のセル電圧の上昇は、酸化被膜の平均厚さが0[nm]の場合と比べて抑えられている。しかし、酸化被膜の平均厚さが50[nm]より大きく100[nm]未満の場合は、初期電圧が少し高い。
【0059】
運転開始から75時間より長い時間(例えば、750時間)の運転後においても電極100の劣化は好適に抑制される。1[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たす電極100を用いると運転時間が長い場合にも、セル電圧の上昇を抑制することができる。
【0060】
運転開始から75時間より長い時間(例えば、750時間)の運転後においても電極100の劣化は好適に抑制される。1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たす電極100を用いると運転時間が長い場合にも、セル電圧の上昇を抑制することができる。
【0061】
運転開始から75時間より長い時間(例えば、750時間)の運転後において、第1被膜1Aの平均厚さD1が1[nm]以上50[nm]以下であり、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たし、第2被膜1Bの平均厚さD2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm](好ましくは、10[nm]≦D1≦45[nm])を満たす範囲内の電極100を用いることで、セル電圧の上昇を抑制することができる。
【0062】
運転開始から75時間より長い時間(例えば、750時間)の運転後において、第1被膜1Aの平均厚さD1が3[nm]以上50[nm]以下であり、3[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たし、第2被膜1Bの平均厚さD2は、3[nm]≦D2-D1≦20[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm](好ましくは、10[nm]≦D1≦45[nm])を満たす範囲内の電極100を用いることで、セル電圧の上昇を抑制することができる。
【0063】
酸化被膜の厚さが100[nm]以上の場合、初期のセル電圧から高く、運転後のセル電圧はわずかに上昇している。水電解運転による電圧の上昇は小さいが、初期からセル電圧が高く、水電解特性が低い。
【0064】
(第2実施形態)
第2実施形態は、膜電極接合体(MEA)に関する。図9に実施形態の膜電極接合体200の模式図を示す。膜電極接合体200は、第1電極11、第2電極12及び電解質膜13を有する。第1電極11は、アノード電極であり、第2電極12は、カソード電極であることが好ましい。第1電極11に第1実施形態の電極100を用いることが好ましい。実施形態の膜電極接合体200は、水素発生又は酸素発生を行う電気化学セル又はスタックに用いられることが好ましい。
【0065】
第1電極11に第1実施形態の電極100を用いることが好ましい。第1電極11として用いる電極100の触媒層2は、電解質膜13側に設けられている。触媒層2は、電解質膜13と直接的に接していることが好ましい。
【0066】
第2電極12は、第2基材12Bと第2触媒層12Aを有する。第2基材12B上に第2触媒層12Aが設けられている。第2触媒層12Aは、電解質膜13側に設けられている。第2触媒層12Aは、電解質膜13と直接的に接していることが好ましい。
【0067】
第2基材12Bとしては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。第2基材12Bは、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。第2基材12Bは、例えば、カーボンペーパー又は金属メッシュである。金属メッシュとしては、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。第2基材12Bは、炭素微粒子と撥水性樹脂(PTFEやナフィオンなどのフッ素樹脂)を含むカーボン層(MPL層)を有する。カーボン層は、例えば、カーボンペーパーと第2触媒層12Aとの間に設けられている。
【0068】
第2触媒層12Aは、触媒金属を有する。第2触媒層12Aは、触媒金属の粒子で、触媒金属が担体に担持されていないことが好ましい。第2触媒層12Aは、多孔質な触媒層であることが好ましい。触媒金属としては、特に限定されないが、例えば、Pt、Rh、Os、Ir、Pd及びAuからなる群から選択される1種以上を含む。このような触媒材料からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。触媒金属は、金属、合金又は金属酸化物であることが好ましい。第2触媒層12Aは、例えば、シート状の触媒層とギャップ層が交互に積層した触媒ユニットを複数有することが好ましい。
【0069】
第2触媒層12Aの面積当たりの金属量は、0.02[mg/cm]以上1.0[mg/cm]以下であることが好ましく、より好ましくは0.05[mg/cm]以上0.5[mg/cm]以下である。この質量の和は、ICP-MSで測定することができる。
【0070】
第2触媒層12Aの気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0071】
電解質膜13は、プロトン伝導性膜であることが好ましい。電解質膜13としては、スルホン酸基、スルホンイミド基及び硫酸基からなる群より選ばれる1種以上を有するフッ素系ポリマー又は芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。電解質膜13としては、スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーが好ましい。スルホン酸基を有するフッ素系ポリマーとしては、例えば、ナフィオン(商標 デュポン社製)、フレミオン(商標 旭化成社製)、セレミオン(商標 旭化成社製)、アクイビオン(aquivion)(商標;Solvay Specialty Polymers社)又は、アシプレックス(商標 旭硝子社製)などを使用することができる。なお、プロトン伝導性膜に代え、アニオン交換膜、多孔質膜などを各種導電性の膜を用いることができる場合がある。
【0072】
電解質膜13の厚さは、膜の透過特性や耐久性などの特性を考慮して適宜決定することができる。強度、耐溶解性及びMEAの出力特性の観点から、電解質膜13の厚さは、20[μm]以上500[μm]以下が好ましく、50[μm]以上300[μm]以下がより好ましく、80[μm]以上200[μm]以下がさらにより好ましい。
【0073】
電解質膜13は、第1電極11側に貴金属領域を含むことが好ましい。貴金属領域は貴金属粒子を含む。貴金属領域は、電解質膜13の表面に存在することが好ましい。貴金属領域は1つの領域で構成されていることが好ましいが、複数の分離した領域で構成されていてもよい。
【0074】
貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種以上の貴金属の粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種以上を含む合金の粒子を含んでもよい。貴金属粒子は、Pt、Re、Rh、Ir、Pd及びRuからなる群より選ばれる1種の貴金属の粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pt粒子が好ましい。貴金属粒子は、Re粒子が好ましい。貴金属粒子は、Rh粒子が好ましい。貴金属粒子は、Ir粒子が好ましい。貴金属粒子は、Pd粒子が好ましい。貴金属粒子は、Ru粒子が好ましい。
【0075】
貴金属粒子は、カソード側で発生して電解質膜13を通る水素を酸化させる。貴金属粒子によって水素リークを抑えることができる。貴金属粒子がアノード側に存在するため、カソード側から排出される水素を酸化させにくい。貴金属粒子が存在する領域は、第2電極12(カソード)側の電解質膜13にも存在していてもよい。
【0076】
貴金属粒子の平均外接円直径は、0.5[nm]以上50[nm]以下が好ましく、1[nm]以上10[nm]以下がより好ましく、1[nm]以上5[nm]以下がさらにより好ましい。
【0077】
耐久性の高い電極100を膜電極接合体200のアノードに用いることで、高い活性で長時間運転が可能となる。
【0078】
(第3実施形態)
第3実施形態は、電気化学セルに関する。図10に第3実施形態の電気化学セル300の断面図を示す。水電解を例に電気化学セル300を以下説明するが、水以外にアンモニアなどを分解しても水素を発生させることができる。
【0079】
図10に示すように第3実施形態の電気化学セル300は、第1電極(アノード)11と、第2電極(カソード)12と、電解質膜13と、ガスケット21、ガスケット22、セパレータ23と、セパレータ24と、を有する。ガスケット21として、第1電極11のシール材を用いてもよい。ガスケット22として、第2電極12のシール材を用いてもよい。
【0080】
第1電極(アノード)11と、第2電極(カソード)12と、電解質膜13が接合した膜電極接合体200を用いることが好ましい。アノード給電体をセパレータ23と別に設けてもよい。カソード給電体をセパレータ24と別に設けてもよい。
【0081】
図10の電気化学セル300は、図示しない電源がセパレータ23とセパレータ24と接続し、アノード11とカソード12で反応が生じる。アノード11には、例えば、水が供給され、アノード11で、水が、プロトン、酸素と電子に分解される。電極の支持体と給電体が多孔質体であり、この多孔質体が流路板として機能する。生成した水と未反応の水は、排出され、プロトンと電子はカソード反応に利用される。カソード反応は、プロトンと電子が反応し、水素を生成する。生成した、水素及び酸素のいずれか一方又は両方は、例えば、燃料電池用燃料として利用される。
【0082】
(第4実施形態)
第4実施形態は、スタックに関する。図11は、第4実施形態のスタック400を示す模式断面図である。図11に示す第4実施形態のスタック400は、MEA200又は電気化学セル300を複数個、直列に接続したものである。MEAや電気化学セルの両端に締め付け板31、32が取り付けられている。
【0083】
一枚のMEA200からなる電気化学セル300での水素生成量は少ないため、複数のMEA200又は複数の電気化学セル300を直列に接続したスタック400を構成すると、大量の水素を得ることができる。
【0084】
(第5実施形態)
第5実施形態は、電解装置に関する。図12に、第5実施形態の電解装置の概念図を示す。電解装置500には、電気化学セル300又はスタック400が用いられる。図12の電解装置500は水電解用である。水電解用の電解装置について説明する。例えば、アンモニアから水素を発生させる場合は、電極100を用いた別構成の装置を採用することが好ましい。また、二酸化炭素を電気分解してメタノールやエチレンなどの有機物や一酸化炭素を生成する電解装置にも実施形態の電極は利用可能である。
【0085】
図12に示すように水電解用単セルを直列に積層したものをスタック400として用いる。スタック400には、電源41取り付けられ、アノード・カソード間に電圧が印加される。スタック400のアノード側には、発生したガスと未反応の水を分離する気液分離装置42、混合タンク43がつながっており、混合タンク43には、水を供給するイオン交換水製造装置44からポンプ46で送液し、気液分離装置42から逆止弁47を通して、混合タンク43で混合してアノードへ循環させる。アノードで生成した酸素は、気液分離装置42を経て、酸素ガスが得られる。一方、カソード側には、気液分離装置48に連続して水素精製装置49を接続して、高純度水素を得る。水素精製装置49と接続した弁50を有する経路を経て不純物が排出される。運転温度を安定に制御するためスタック及び混合タンクの加熱や、熱分解時の電流密度等の制御することができる。
【0086】
明細書中、元素の一部は元素記号のみで表している。
【0087】
以下、実施形態の技術案を付記する。技術案に付記した構成は、好適な電極100を用いた構成である。技術案に付記した要件を複数の組み合わせた構成は、好適な電極100を用いた構成である。
技術案1
多孔質であるチタン基材と、
前記チタン基材上に設けられ、シート層とギャップ層が交互に積層した電解用触媒層と、
を有し、
前記チタン基材の電解用触媒層側に酸化チタンを含む第1被膜を有し、
前記チタン基材の電解用触媒層側とは反対側に酸化チタンを含む第2被膜を有し、
前記第1被膜の平均厚さをD1とし、
前記第2被膜の平均厚さをD2とし、
前記D1と前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たす電極。
技術案2
前記D1は、10[nm]以上50[nm]以下である技術案1に記載の電極。
技術案3
前記D2は、10[nm]以上50[nm]以下であり、
前記チタン基材の前記電解用触媒層側とは反対側は、黄色(又は黄色みがかった)の光沢表面を有する技術案1又は2に記載の電極。
技術案4
前記D1と前記D2は、3[nm]≦D2-D1≦20[nm]を満たす技術案1ないし3のいずれか1案に記載の電極。
技術案5
前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦20[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内である技術案1ないし4に記載のいずれか電極。
技術案6
前記D1と前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たす技術案1ないし5のいずれか1案に記載の電極。
技術案7
前記D1と前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たし、
D1は、10[nm]以上50[nm]以下であり、
前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦10[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内である技術案1ないし6に記載のいずれか電極。
技術案8
前記D1と前記D2は、3[nm]≦D2-D1≦10[nm]を満たし、
D1は、10[nm]以上50[nm]以下であり、
前記D2は、3[nm]≦D2-D1≦10[nm]及び10[nm]≦D1≦50[nm]を満たす範囲内である技術案1ないし7に記載のいずれか電極。
技術案9
D1は、10[nm]以上45[nm]以下であり、
前記D2は、1[nm]≦D2-D1≦10[nm]及び10[nm]≦D1≦45[nm]を満たす範囲内である技術案1ないし8に記載のいずれか電極。
技術案10
D1は、10[nm]以上45[nm]以下であり、
前記D2は、3[nm]≦D2-D1≦10[nm]及び10[nm]≦D1≦45[nm]を満たす範囲内である技術案1ないし9に記載のいずれか電極。
技術案11
前記第1被膜の90[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであり、
前記第2被膜の90[wt%]以上100[wt%]以下はTiOである技術案1ないし10のいずれか1案に記載の電極。
技術案12
前記第1被膜の95[wt%]以上100[wt%]以下はTiOであり、
前記第2被膜の95[wt%]以上100[wt%]以下はTiOである技術案1ないし11のいずれか1案に記載の電極。
技術案13
前記第1被膜に含まれる金属元素のうち95[atom%]以上100[atom%]以下はTiであり、
前記第2被膜に含まれる金属元素のうち95[atom%]以上100[atom%]以下はTiである技術案1ないし12のいずれか1案に記載の電極。
技術案14
前記第1被膜に含まれる金属元素のうち99[atom%]以上100[atom%]以下はTiであり、
前記第2被膜に含まれる金属元素のうち99[atom%]以上100[atom%]以下はTiである技術案1ないし13のいずれか1案に記載の電極。
技術案15
前記第1被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第1被膜の内側の領域の厚さは、980[nm]以上50[μm]以下であり、
前記第2被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第2被膜の内側の領域の厚さは、980[nm]以上50[μm]以下である技術案1ないし14のいずれか1案に記載の電極。
技術案16
前記第1被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第1被膜の内側の領域の厚さは、前記第1被膜の厚さの19.6倍以上5000倍以下であり、
前記第2被膜の内側の領域は、Tiを含み、
前記第2被膜の内側の領域の厚さは、前記第1被膜の厚さの19.6倍以上5000倍以下である技術案1ないし15のいずれか1案に記載の電極。
技術案17
技術案1ないし16のいずれか1項に記載の電極を用いた膜電極接合体。
技術案18
技術案17に記載の膜電極接合体を用いた電気化学セル。
技術案19
技術案18に記載の膜電極接合体を用いたスタック。
技術案20
技術案19に記載のスタックを用いた電解装置。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。水電解セルとして、PEMECを挙げたが、これ以外の電解セルでも、同様に本発明を適用できる。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、「黄色」は、「黄色味がかった色(Yellowish color)」との表現に代えることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 基材
1A 第1被膜
1B 第2被膜
2 触媒層
11 第1電極
12 第2電極
13 電解質膜
21 ガスケット
22 ガスケット
23 セパレーター
24 セパレーター
31 締め付け板
32 締め付け板
41 電源
42 気液分離装置
43 混合タンク
44 イオン交換水製造装置
46 ポンプ
47 逆止弁
48 気液分離装置
49 水素精製装置
50 弁
100 電極
200 膜電極接合体
300 電気化学セル
400 スタック
500 電解装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12