(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013288
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】スラストころ軸受用保持器およびスラストころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/54 20060101AFI20240125BHJP
F16C 19/30 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16C33/54 Z
F16C19/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115248
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】本山 真生
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 健一郎
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA35
3J701BA44
3J701BA47
3J701BA49
3J701FA15
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB19
3J701XB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低い断面高さを実現しながら、強度の低下を防ぎつつ、ころの保持力を高めたスラストころ軸受用保持器を提供する。
【解決手段】スラストころ軸受用保持器11aは、一枚の板状部材から構成され、径方向に間隔をあけて配置される一対の環状部と、周方向に間隔をあけて複数配置されるポケット18aを形成するように、複数の柱部17aと、を備える。柱部17aには、ポケット18aに収容されるころの転動軸心方向の中央領域において、第1の面側に凹む凹みが設けられ、凹みが設けられた柱部17aの第1側壁面31aの第1の面側には、ポケット18a側に突出し、第1の面側からのころの脱落を防止する第1ころ止め部32aが設けられている。凹みを避けた位置であって転動軸心方向における端部領域に、柱部17aの第2側壁面33aの第2の面側には、ポケット側に突出し、第2の面側からのころの脱落を防止する第2ころ止め部35aが設けられている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ厚さ方向に位置する第1の面および第2の面を含み、一枚の板状の部材から構成され、ポケットにころを収容して前記ころを保持するスラストころ軸受用保持器であって、
径方向に間隔をあけて配置される一対の環状部と、
周方向に間隔をあけて複数配置される前記ポケットを形成するように、前記一対の環状部を連結する複数の柱部と、を備え、
前記柱部には、前記ポケットに収容される前記ころの転動軸心方向の中央領域において、前記第1の面側に凹む凹みが設けられており、
前記凹みが設けられた前記柱部の第1側壁面の前記第1の面側には、前記ポケット側に突出し、前記第1の面側からの前記ころの脱落を防止する第1ころ止め部が設けられており、
前記凹みを避けた位置であって前記転動軸心方向における端部領域において、前記柱部の第2側壁面の前記第2の面側には、前記ポケット側に突出し、前記第2の面側からの前記ころの脱落を防止する第2ころ止め部が設けられている、スラストころ軸受用保持器。
【請求項2】
前記転動軸心方向における前記凹みの隣には、厚さ方向に貫通するスリットが設けられている、請求項1に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記第2ころ止め部は、前記転動軸心方向における両方の端部領域において、一対設けられている、請求項1または請求項2に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記第1側壁面および前記第2側壁面のうちの少なくともいずれか一方は、前記ころの転動面に沿った円弧状の部分を含む、請求項1または請求項2に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記ころの径に対する前記保持器の厚さは、40%以上である、請求項1または請求項2に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項6】
前記ころの径に対する前記保持器の厚さは、60%以下である、請求項1または請求項2に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項7】
前記ポケットに収容する前記ころの径は、0.4mm以上3.0mm以下である、請求項1または請求項2に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のスラストころ軸受用保持器と、
前記複数のポケットにそれぞれ収容される複数のころと、
前記ころが転動する軌道面を有する軌道輪と、を含む、スラストころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラストころ軸受用保持器およびスラストころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
針状ころを保持する保持器を含むスラスト針状ころ軸受が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示のスラスト針状ころ軸受に含まれる保持器には、複数のポケットが設けられている。そして、特許文献1の保持器は、ポケットの側面に沿う方向で3つの領域に分けられ、隣り合う領域のもの同士では保持器本体の厚さ方向において互いに反対側に向かうように折り曲げられた状態で一体的に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、スラストころ軸受においては、低い断面高さを実現するために、ころ径が極めて小さい状態で使用される場合がある。このような状況においても、保持器の強度の低下を防ぐと共に、ころが容易に保持器から脱落しないこと、すなわち、高いころの保持力が求められる。
【0005】
そこで、低い断面高さを実現しながら、強度の低下を防ぎつつ、ころの保持力を高めたスラストころ軸受用保持器を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従ったスラストころ軸受用保持器は、それぞれ厚さ方向に位置する第1の面および第2の面を含み、一枚の板状の部材から構成され、ポケットにころを収容してころを保持する。スラストころ軸受用保持器は、径方向に間隔をあけて配置される一対の環状部と、周方向に間隔をあけて複数配置されるポケットを形成するように、一対の環状部を連結する複数の柱部と、を備える。柱部には、ポケットに収容されるころの転動軸心方向の中央領域において、第1の面側に凹む凹みが設けられている。凹みが設けられた柱部の第1側壁面の第1の面側には、ポケット側に突出し、第1の面側からのころの脱落を防止する第1ころ止め部が設けられている。凹みを避けた位置であって転動軸心方向における端部領域において、柱部の第2側壁面の第2の面側には、ポケット側に突出し、第2の面側からのころの脱落を防止する第2ころ止め部が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
上記スラストころ軸受用保持器によれば、低い断面高さを実現しながら、強度の低下を防ぎつつ、ころの保持力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態1におけるスラストころ軸受用保持器を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すスラストころ軸受用保持器において、ポケットにころを収容した場合を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すスラストころ軸受用保持器を厚さ方向から見た概略平面図である。
【
図5】
図5は、
図4中の矢印V-Vで示す断面で切断した場合の概略断面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す保持器を含むスラストころ軸受の概略斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すスラストころ軸受の一部を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係るスラストころ軸受用保持器を厚さ方向から見た概略平面図である。
【
図10】
図10は、
図9中の矢印X-Xで示す断面で切断した場合の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本開示のスラストころ軸受用保持器は、それぞれ厚さ方向に位置する第1の面および第2の面を含み、一枚の板状の部材から構成され、ポケットにころを収容してころを保持する。スラストころ軸受用保持器は、径方向に間隔をあけて配置される一対の環状部と、周方向に間隔をあけて複数配置されるポケットを形成するように、一対の環状部を連結する複数の柱部と、を備える。柱部には、ポケットに収容されるころの転動軸心方向の中央領域において、第1の面側に凹む凹みが設けられている。凹みが設けられた柱部の第1側壁面の第1の面側には、ポケット側に突出し、第1の面側からのころの脱落を防止する第1ころ止め部が設けられている。凹みを避けた位置であって転動軸心方向における端部領域において、柱部の第2側壁面の第2の面側には、ポケット側に突出し、第2の面側からのころの脱落を防止する第2ころ止め部が設けられている。
【0010】
本発明者らは昨今、スラスト方向の荷重を受ける際に利用されるスラスト軸受について、以下のように考えた。低い断面高さ、すなわち、スラスト方向の厚さ寸法を小さくする必要がある場面においては、現在まで転動体を含まないすべり軸受が使用されることが多かった。しかし、低い断面高さを維持しつつ、ころによって適切に荷重を受ける必要がある場面には対応できないことに着目した。そして、低い断面高さを実現するために、極めてころの径の小さいスラストころ軸受およびこれに用いられるスラストころ軸受用保持器を開発しようと鋭意検討した。ここで、例えば、ころの径を小さくしつつ、適切にころを保持する場合には、一枚の板状の保持器を準備し、特許文献1に示すようにポケットの側面を折り曲げて、この部分をころのポケットからの脱落を防止するころ止めとして機能させることが考えられる。すなわち、保持器の厚さ方向に位置する面をころの転動面側に向けてころ止めとして機能させる手法である。しかし、ころの径が極めて小さい場合、このような方法では、保持器の厚さよりも小さい寸法でポケットの側面を折り曲げてころ止めを形成しなければならず、高い精度が求められることも相まって、加工上極めて困難である。また、折り曲げによりころ止めを形成しやすくするためには、保持器の厚さを薄くしなければならず、結果的に保持器の強度低下を招くことになってしまう。
【0011】
本開示に係るスラストころ軸受用保持器において、柱部には、ポケットに収容されるころの転動軸心方向の中央領域において、第1の面側に凹む凹みが設けられている。凹みが設けられた柱部の第1側壁面の第1の面側には、ポケット側に突出し、第1の面側からのころの脱落を防止する第1ころ止め部が設けられている。凹みを避けた位置であって転動軸心方向における端部領域において、柱部の第2側壁面の第2の面側には、ポケット側に突出し、第2の面側からのころの脱落を防止する第2ころ止め部が設けられている。
【0012】
このように設けられる第1ころ止め部および第2ころ止め部は、ポケットの側壁面の一部を押圧等による加工により形成することができるため、折り曲げによるころ止め部の形成と比較して加工が容易である。また、精度の観点からも確実にポケット側に突出させて、ころ止めとして機能させることができる。すなわち、本開示に係るスラストころ軸受用保持器においては、保持器の厚さ方向に位置する面をころの転動面に向けてころ止めとして機能させるのではなく、保持器の厚さ方向に位置する面に交差する面であるポケットの側壁面の一部をころの転動面側に向けて、ころ止めとして機能させるものである。また、このような構成によれば、保持器の厚さ方向に凹みを形成する際の凹み量をころの径や保持器の厚さに応じて調整することができる。そうすると、保持器の厚さを厚くしながら、ポケットの側壁面において、保持器の厚さ方向におけるころの脱落を防止することができる。したがって、ころの保持力を高めることができる。以上より、このようなスラストころ軸受用保持器によれば、低い断面高さを実現しながら、強度の低下を防ぎつつ、ころの保持力を高めることができる。
【0013】
上記スラストころ軸受用保持器において、転動軸心方向における凹みの隣には、厚さ方向に貫通するスリットが設けられていてもよい。このようなスリットが形成されていると、転動軸心方向の中央領域と端部領域とを切り離すことができるため、転動軸心方向の中央領域を変形しやすくして、上記凹みを容易に形成することができる。したがって、生産性の向上を図ることができる。
【0014】
上記スラストころ軸受用保持器において、第2ころ止め部は、転動軸心方向における両方の端部領域において、一対設けられていてもよい。このようにすることにより、転動軸心方向の中央領域に設けられた第1ころ止め部と、転動軸心方向の両方の端部領域に設けられた一対の第2ころ止め部とにより、ポケットに収容されたころの姿勢を安定させることができる。したがって、よりころを円滑に転動させることができる。
【0015】
上記スラストころ軸受用保持器において、第1側壁面および第2側壁面のうちの少なくともいずれか一方は、ころの転動面に沿った円弧状の部分を含んでもよい。このようにすることにより、ころの転動時においてころの転動面とポケットの側壁面とが引っ掛かるおそれが低減され、よりころを円滑に転動させることができる。
【0016】
上記スラストころ軸受用保持器において、ころの径に対する保持器の厚さは、40%以上であってもよい。このようにすることにより、いわゆる断面高さを低くしながら、保持器の厚さを十分に厚くすることができ、保持器の高い強度を維持することができる。
【0017】
上記スラストころ軸受用保持器において、ころの径に対する保持器の厚さは、60%以下であってもよい。このようにすることにより、凹みが設けられた保持器が、スラスト方向に位置する軌道輪と干渉することを抑制することができる。
【0018】
上記スラストころ軸受用保持器において、ポケットに収容するころの径は、0.4mm以上3.0mm以下であってもよい。このようにすることにより、極めて小さい径のころの保持力を十分に高いものとしながら、保持器の強度が低下するおそれを低減することができる。
【0019】
本開示に係るスラストころ軸受は、上記スラストころ軸受用保持器と、複数のポケットにそれぞれ収容される複数のころと、ころが転動する軌道面を有する軌道輪と、を含む。このようなスラストころ軸受は、ころの保持力を高めながら保持器の強度が維持されているため、特に低い断面高さが求められながら、ころによりスラスト荷重を受けることが求められる場合に有効に利用される。
【0020】
[実施形態の具体例]
次に、本開示のスラストころ軸受用保持器の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0021】
(実施の形態1)
まず、本開示の実施の形態である実施の形態1について説明する。
図1は、本開示の実施の形態1におけるスラストころ軸受用保持器(以下、単に「保持器」という場合がある。)を示す概略斜視図である。
図2は、
図1に示すスラストころ軸受用保持器において、ポケットにころを収容した場合を示す概略斜視図である。
図3は、
図1に示すスラストころ軸受用保持器を厚さ方向から見た概略平面図である。
図4は、
図3中の領域IVで示す部分の拡大図である。
図5は、
図4中の矢印V-Vで示す断面で切断した場合の概略断面図である。なお、理解を容易にする観点から、
図5においてポケットに収容されるころを図示している。
図1および以下に示す図において、Z方向は、保持器の厚さ方向を示す。X方向およびY方向は、厚さ方向から見た場合の保持器の中心からの径方向を示す。X方向は、厚さ方向に垂直な平面において、Y方向と直交する方向である。
【0022】
図1~
図5を参照して、本開示の実施の形態1に係るスラストころ軸受用保持器11aは、一枚の板状の部材から構成されている。保持器11aの材質としては、例えば、SPCCやSUS301、SUS304が挙げられる。保持器11aは、ポケット18aにころ41aを収容してころ41aを保持する。
【0023】
保持器11aは、円板状であり、中央に丸穴状の貫通穴12aが設けられている。この貫通穴12a内に保持器11aを含むスラストころ軸受によって支持される軸(不図示)が配置される。
【0024】
保持器11aは、それぞれ厚さ方向に位置する第1の面13aおよび第2の面14aを含む。すなわち、保持器11aは、厚さ方向に間隔をあけて配置される第1の面13aと、第2の面14aと、を含む。保持器11aは、一対の環状部15a,16aと、一対の環状部15a,16aを連結する複数の柱部17aと、を含む。環状部15aが内径側に配置され、環状部16aが外径側に配置される。一対の環状部15a,16aと柱部17aとの境界を、
図3における二点鎖線で示している。複数の柱部17aは、周方向に間隔をあけて複数配置されるポケット18aを形成するように、一対の環状部15a,16aを連結する。すなわち、保持器11aには、周方向に間隔をあけて複数のポケット18aが形成されている。各ポケット18aには、ころ41aが一つずつ収容されている。本実施形態においては、複数のポケット18aは、保持器11aの厚さ方向に見て、貫通穴12aの中心19aから放射状に設けられている。すなわち、ころ41aの転動軸心方向は、放射状に延びている。また、各柱部17aは、外径側に向かって周方向の幅が大きくなるように構成されている。
【0025】
ポケット18aに収容されるころ41aは、例えば、針状ころである。ころ41aの径D1、すなわち、ころ41aの直径は、0.4mm以上3.0mm以下である。具体的には、例えば、ころ41aの径D1として、1mmが選択される。このようなころ41aを用いると、保持器11aの厚さ方向(Z方向)の厚さを小さくして、低い断面高さを実現することができる。なお、ころ41aの転動軸心方向の長さとしては、例えば、5.0mmが選択される。
【0026】
保持器11aの厚さT1、すなわち、保持器11aの厚さ方向において、第1の面13aと第2の面14aとの距離は、ころ41aの径D1の40%以上である。また、保持器11aの厚さT1は、ころ41aの径D1の60%以下である。本実施形態においては、保持器11aの厚さT1としては、例えば0.4mmが選択される。
【0027】
保持器11aのうち、柱部17aには、厚さ方向に凹む凹み21aが設けられている。凹み21aは、第1の面13a側に凹むように形成されている。この場合、例えば、凹み21aを設けたい位置において、第2の面14aを治具等により矢印Zと逆の向きに保持器11aを押すことにより凹み21aが形成される。凹み21aは、ころ41aの転動軸心方向において、柱部17aの中央領域に設けられている。
図4において、ころ41aの転動軸心方向は、矢印Yで示す方向である。凹み21aの凹み量については、
図5中の長さT
2で表されており、本実施形態においては、長さT
2として、0.3mmが選択される。すなわち、保持器11aの厚さT
1+凹み量の長さT
2を足し合わせた保持器11aの断面高さT
3は、本実施形態においては、0.7mmとなっている。なお、この凹み21aは、上記したように治具等を用いて単に第2の面14a側から押すことによって形成することができるため、容易に形成できると共に、その凹み量を容易に調整することができる。なお、凹み21aを構成する第2の面14a上の空間22aには、グリスを溜めることができる。したがって、長期にわたって連続的にグリスをころ41aの転動面42a等に供給することができ、ころ41aの滑らかな転動を長期にわたって実現することができる。
【0028】
保持器11aのうち、ころ41aの転動軸心方向における凹み21aの隣には、厚さ方向に貫通するスリット23a,24aが設けられている。本実施形態においては、スリット23a,24aは、凹み21aのY方向における両隣に設けられている。各スリット23a,24aは、ころ41aの転動軸心方向に対して垂直な方向に長く形成されている。本実施形態においては、凹み21aを形成する前にスリット23a,24aに相当する領域を厚さ方向に打ち抜くことによりスリット23a,24aが形成されている。
【0029】
ここで、凹み21aが設けられた柱部17aの第1側壁面31aの第1の面13a側には、ポケット18a側に突出し、第1の面13a側からのころ41aの脱落を防止する第1ころ止め部32aが設けられている。第1ころ止め部32aは、ポケット18aの周方向の両側に位置する両第1側壁面31aに設けられている。第1側壁面31aは、ころ41aの転動面42aに沿った円弧状の部分を含む。円弧状の部分において、第1の面13a側に位置する突出部が、第1ころ止め部32aとなる。このような円弧状の部分を有することにより、ころ41aの転動時においてころ41aの転動面42aとポケット18aの第1側壁面31aとが引っ掛かるおそれが低減され、よりころ41aを円滑に転動させることができる。なお、両第1側壁面31aはそれぞれ、厚さ方向(Z方向)に見て、ころ41aの転動軸心方向に沿ったストレート形状である。
【0030】
また、凹み21aを避けた位置であって転動軸心方向における両端部領域において、柱部17aの第2側壁面33a,34aの第2の面14a側には、ポケット18a側に突出し、第2の面14a側からのころ41aの脱落を防止する第2ころ止め部35a,36aが設けられている。すなわち、第2ころ止め部35a,36aは、転動軸心方向における両方の端部領域において、一対設けられている。第2ころ止め部35a,36aは、ポケット18aの周方向の両側に位置する両第2側壁面33a,34aにそれぞれ設けられている。第2側壁面33a,34aは、ころ41aの転動面42aに沿った円弧状の部分を含む。円弧状の部分において、第2の面14a側に位置する突出部が、第2ころ止め部35a,36aとなる。このような円弧状の部分を有することにより、ころ41aの転動時においてころ41aの転動面42aとポケット18aの第2側壁面33a,34aとが引っ掛かるおそれが低減され、よりころ41aを円滑に転動させることができる。なお、両第2側壁面33a,34aはそれぞれ、厚さ方向(Z方向)に見て、ころ41aの転動軸心方向に沿ったストレート形状である。
【0031】
このような保持器11aの製造方法の一例について簡単に説明すると、以下の通りとなる。まず、中央に貫通穴12aが設けられた一枚の円板状の部材を準備する。そして、ポケット18aおよびスリット23a,24aを形成するように、厚さ方向に円板状の部材を打ち抜く。そして、各ポケット18aの転動軸心方向の中央領域を、第2の面14a側から第1の面13a側に向かって押して、凹み21aを形成する。その後、第1側壁面31aに第1ころ止め部32aを形成する。この場合、第2の面14a側から第1側壁面31aに対して、ころ41aの転動面42aに沿う形状を有する部材を押し当てて第1側壁面31aを塑性変形させ、第1側壁面31aに円弧状の部分および第1ころ止め部32aを形成する。また、第2側壁面33a,34aに第2ころ止め部35a,36aを形成する。この場合、第1の面13a側から第2側壁面33a,34aに対して、それぞれころ41aの転動面42aに沿う形状を有する部材を押し当てて第2側壁面33a,34aを塑性変形させ、第2側壁面33a,34aに円弧状の部分および第2ころ止め部35a,36aを形成する。このようにして上記構成の保持器11aを製造する。なお、その後、各ポケット18aに一つずつころ41aを収容し、厚さ方向に配置された軌道輪間に取り付けることにより、スラストころ軸受が組み立てられる。
【0032】
このような構成の保持器11aによると、設けられる第1ころ止め部32aおよび第2ころ止め部35a,36aは、ポケット18aの第1側壁面31aおよび第2側壁面33a,34aの一部を押圧等による加工により形成することができるため、折り曲げによるころ止め部の形成と比較して加工が容易である。また、精度の観点からも確実にポケット18a側に突出させて、ころ止めとして機能させることができる。また、このような構成によれば、保持器11aの厚さ方向に凹み21aを形成する際の凹み量をころ41aの径や保持器11aの厚さに応じて調整することができる。そうすると、保持器11aの厚さを厚くしながら、ポケット18aの第1側壁面31aおよび第2側壁面33a,34aにおいて、保持器11aの厚さ方向におけるころ41aの脱落を防止することができる。したがって、ころ41aの保持力を高めることができる。以上より、このようなスラストころ軸受用保持器11aによれば、低い断面高さを実現しながら、強度の低下を防ぎつつ、ころ41aの保持力を高めることができる。
【0033】
本実施形態においては、転動軸心方向における凹み21aの隣には、厚さ方向に貫通するスリット23a,24aが設けられている。このようなスリット23a,24aが形成されていると、転動軸心方向の中央領域と端部領域とを切り離すことができるため、転動軸心方向の中央領域を変形しやすくして、凹み21aを容易に形成することができる。したがって、生産性の向上を図ることができる。
【0034】
本実施形態においては、第2ころ止め部35a,36aは、転動軸心方向における両方の端部領域において、一対設けられている。よって、転動軸心方向の中央領域に設けられた第1ころ止め部32aと、転動軸心方向の両方の端部領域に設けられた一対の第2ころ止め部35a,36aとにより、ポケット18aに収容されたころ41aの姿勢を安定させることができる。したがって、よりころ41aを円滑に転動させることができる。
【0035】
本実施形態においては、ころ41aの径に対する保持器11aの厚さは、40%以上である。よって、いわゆる断面高さを低くしながら、保持器11aの厚さを十分に厚くすることができ、保持器11aの高い強度を維持することができる。また、ころ41aの径に対する保持器11aの厚さは、60%以下である。よって、凹み21aが設けられた保持器11aが、スラスト方向に位置する軌道輪と干渉することを抑制することができる。
【0036】
本実施形態においては、ポケット18aに収容するころ41aの径は、0.4mm以上3.0mm以下である。このような保持器11aは、極めて小さい径のころ41aの保持力を十分に高いものとしながら、保持器11aの強度が低下するおそれを低減することができる。
【0037】
次に、上記した保持器11aを含むスラストころ軸受の構成について説明する。
図6は、
図1に示す保持器11aを含むスラストころ軸受の概略斜視図である。
図7は、
図6に示すスラストころ軸受の一部を示す概略断面図である。
【0038】
図6および
図7を併せて参照して、スラストころ軸受50aは、上記した
図1等に示す保持器11aと、複数のポケット18aにそれぞれ収容される複数のころ41aと、ころ41aが転動する第1軌道面51aを有する第1軌道輪53aと、ころ41aが転動する第2軌道面52aを有する第2軌道輪54aと、を含む。第1軌道面51aおよび第2軌道面52aは共に、平面である。第1軌道輪53aおよび第2軌道輪54aは共に円板状であって、径方向の中央に厚さ方向に貫通する貫通穴55a,56aがそれぞれ形成されている。貫通穴12a,55a,56a内にスラストころ軸受によって支持される軸(不図示)が配置される。第1軌道輪53a、第2軌道輪54aおよび保持器11aは、同心となるように配置される。第1軌道輪53aおよび第2軌道輪54aは、保持器11aの厚さ方向の両側に配置されている。保持器11aの中心と、第1軌道輪53aの中心および第2軌道輪54aの中心とは、一致している。ころ41aは、第1軌道面51aおよび第2軌道面52aを転動(自転運動)しながら、中心19aを回転中心として公転運動を行う。保持器11aは、中心19aを回転中心として、自転運動を行う。
【0039】
このようなスラストころ軸受50aは、低い断面高さを実現すると共に、ころ41aの保持力を高めながら保持器11aの強度が維持されているため、特に低い断面高さが求められながら、ころ41aによりスラスト荷重を受けることが求められる場合に有効に利用される。
【0040】
(実施の形態2)
次に、他の実施の形態である実施の形態2について説明する。
図8は、実施の形態2に係るスラストころ軸受用保持器を厚さ方向から見た概略平面図である。
図9は、
図8中の領域IXで示す部分の拡大図である。
図10は、
図9中の矢印X-Xで示す断面で切断した場合の概略断面図である。なお、理解を容易にする観点から、
図10においてポケットに収容されるころを図示している。実施の形態2におけるスラストころ軸受用保持器は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2のスラストころ軸受用保持器に設けられる柱部の構成が、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0041】
図8、
図9および
図10を併せて参照して、実施の形態2における保持器11bは、それぞれ厚さ方向に位置する第1の面13aおよび第2の面14aを含む。保持器11bは、一対の環状部15a,16aと、一対の環状部15a,16aを連結する複数の柱部17bと、を含む。一対の環状部15a,16aと柱部17bとの境界を、
図8における二点鎖線で示している。複数の柱部17bは、周方向に間隔をあけて複数配置されるポケット18bを形成するように、一対の環状部15a,16aを連結する。
【0042】
保持器11bのうち、柱部17bには、厚さ方向に凹む凹み21bが設けられている。凹み21bは、第1の面13a側に凹むように形成されている。凹み21bが設けられた柱部17bの第1側壁面31aの第1の面13a側には、ポケット18b側に突出し、第1の面13a側からのころ41aの脱落を防止する第1ころ止め部32aが設けられている。また、凹み21aを避けた位置であって転動軸心方向における両端部領域において、柱部17aの第2側壁面33a,34aの第2の面14a側には、ポケット18b側に突出し、第2の面14a側からのころ41aの脱落を防止する第2ころ止め部35a,36aが設けられている。
【0043】
ここで、保持器11bに含まれる柱部17bにおいて、ころ41aの転動軸心方向における凹み21bの隣には、実施の形態1の場合と異なり、厚さ方向に貫通するスリットは、設けられていない。すなわち、ころ41aの転動軸心方向において、中央領域と端部領域との間にスリットは設けられておらず、第1側壁面31aと第2側壁面33a,34aとが連なって形成されている。
【0044】
このようなスラストころ軸受用保持器11bにおいても、低い断面高さを実現しながら、強度の低下を防ぎつつ、ころ41aの保持力を高めることができる。この場合、スリットが設けられいないので、凹み21bの上の空間22bにおけるグリスの保持力を高めることができる。
【0045】
(他の実施の形態)
なお、上記実施の形態においては、第1側壁面および第2側壁面は、円弧状の部分を含むこととしたが、これに限らず、例えば、第1ころ止め部および第2ころ止め部が設けられている部分以外は、厚さ方向に真っ直ぐな平面であってもよい。第1ころ止め部および第2ころ止め部は、この真っ直ぐな平面から周方向に突出する突起形状を有する構成としてもよい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
11a,11b スラストころ軸受用保持器、12a,55a,56a 貫通穴、13a 第1の面、14a 第2の面、15a,16a 環状部、17a,17b 柱部、18a ポケット、19a 中心、21a,21b 凹み、22a,22b 空間、23a,24a スリット、31a 第1側壁面、32a 第1ころ止め部、33a,34a 第2側壁面、35a,36a 第2ころ止め部、41a ころ、42a 転動面、50a スラストころ軸受、51a 第1軌道面、52a 第2軌道面、53a 第1軌道輪、54a 第2軌道輪。