(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132893
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】多層薄膜、及び積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240920BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20240920BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240920BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20240920BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240920BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B15/04 Z
B32B15/20
C23C14/06 N
C23C14/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019872
(22)【出願日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2023042695
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】春野颯
(72)【発明者】
【氏名】中島耕平
【テーマコード(参考)】
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA17C
4F100AB10A
4F100AB17A
4F100AB24A
4F100AG00D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100EH66
4F100GB07
4F100GB32
4F100JD10
4F100JJ03
4F100JM02A
4F100JM02B
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4F100JN01
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA03
4K029BA04
4K029BA08
4K029BA43
4K029BB02
4K029BC08
4K029CA06
4K029DC05
4K029DC16
4K029DC34
4K029DC35
4K029FA09
4K029JA02
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐湿熱性の良好な赤外線遮蔽機能を有する多層薄膜、及び該多層薄膜を有する積層体を提供すること。
【解決手段】金属薄膜の両面の上に、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜が直接積層されている、多層薄膜。好ましくは、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の弗素原子の割合は、原子比で、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の原子の総和を100at%として、1~60at%である。上記金属薄膜は銅である。上記多層薄膜は、断熱性を有する建築物の窓ガラスや自動車のウィンドウなどに好適に用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜の両面の上に、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜が直接積層されている、多層薄膜。
【請求項2】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の弗素原子の割合が、原子比で、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の原子の総和を100at%として、1~60at%である、請求項1に記載の多層薄膜。
【請求項3】
上記金属薄膜が、銅薄膜である請求項1に記載の多層薄膜。
【請求項4】
上記金属薄膜が、アルミニウム薄膜である請求項1に記載の多層薄膜。
【請求項5】
上記金属薄膜が、銀薄膜である請求項1に記載の多層薄膜。
【請求項6】
基材の一部又は全部の面の上に請求項1~5の何れか1項に記載の多層薄膜を有する積層体。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の多層薄膜を有する物品。
【請求項8】
金属薄膜の両面の上に、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜が直接積層されている、多層薄膜の製造方法であって、
該弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する工程が、
スパッタリング装置を使用し、二酸化セリウムのターゲットと有機弗素化合物の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記二酸化セリウムのターゲットを装着するサブ工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力aに減圧するサブ工程;
(3)スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力bとなるように導入するサブ工程;及び、
(4)上記二酸化セリウムのターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成するサブ工程;
を含み、ここで、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)が、95/5~99.99/0.01である、
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する工程である、
上記多層薄膜の製造方法。
【請求項9】
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層薄膜、及び該多層薄膜を有する積層体に関する。更に詳しくは、本発明は、赤外線遮蔽機能を有する多層薄膜、及び該多層薄膜を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空間をより少ないエネルギーで快適にする観点から、建築物の窓ガラスや自動車のルーフウィンドウなどには、赤外線遮蔽機能を有し、かつ透明なフィルムがしばしば貼合されている。このような赤外線遮蔽機能を有し、かつ透明なフィルムとしては、フィルムの何れかの層に、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、及びセシウムドープ酸化タングステンなどの微粒子を含有させ、赤外線を主として吸収することにより、赤外線遮蔽機能を発現させるもの;並びに、フィルムの構成層として、金、銀、銅、及びパラジウムなどの金属薄膜を形成し、赤外線を主として反射することにより、赤外線遮蔽機能を発現させるものなどがあげられる。そして、後者のフィルムでは、金属薄膜の保護などを目的として、珪素、酸化珪素、及び酸化チタンなどの透明薄膜を、金属薄膜の両面に設けることがしばしば行われる。しかし、金、銀、銅、及びパラジウムなどの金属薄膜、特に銀薄膜は、その両面に透明薄膜を設けて保護したとしても、環境安定性、特に耐湿熱性が不十分という不都合があった。そこで、金属薄膜の両面に設ける透明薄膜として、酸化セリウム(IV)薄膜を用いることが提案されている(特許文献1)。しかし、本発明者が追試したところ、酸化セリウム(IV)薄膜、銀薄膜、及び酸化セリウム(IV)薄膜をこの順に積層してなる多層薄膜は、高温高湿の環境下において、酸化セリウム(IV)薄膜に割れが生じ易いという不都合のあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-085047号公報
【特許文献2】特開2022-186664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐湿熱性の良好な赤外線遮蔽機能を有する多層薄膜、及び該多層薄膜を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の多層薄膜により、上記課題を達成できることを見出した。
【0006】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1].
金属薄膜の両面の上に、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜が直接積層されている、多層薄膜。
[2].
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の弗素原子の割合が、原子比で、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の原子の総和を100at%として、1~60at%である、[1]項に記載の多層薄膜。
[3].
上記金属薄膜が、銅薄膜である[1]項に記載の多層薄膜。
[4].
上記金属薄膜が、アルミニウム薄膜である[1]項に記載の多層薄膜。
[5].
上記金属薄膜が、銀薄膜である[1]項に記載の多層薄膜。
[6].
基材の一部又は全部の面の上に[1]~[5]項の何れか1項に記載の多層薄膜を有する積層体。
[7].
[1]~[5]項の何れか1項に記載の多層薄膜を有する物品。
[8].
金属薄膜の両面の上に、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜が直接積層されている、多層薄膜の製造方法であって、該弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する工程が、
スパッタリング装置を使用し、二酸化セリウムのターゲットと有機弗素化合物の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記二酸化セリウムのターゲットを装着するサブ工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力aに減圧するサブ工程;
(3)スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力bとなるように導入するサブ工程;及び、
(4)上記二酸化セリウムのターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成するサブ工程;
を含み、ここで、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)が、95/5~99.99/0.01である、
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する工程である、
上記多層薄膜の製造方法。
[9].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である[8]項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多層薄膜は赤外線遮蔽機能を有し、耐湿熱性が良好である。本発明の好ましい多層薄膜は良好な赤外線遮蔽機能及び透明性を有し、耐湿熱性が良好である。そのため、本発明の多層薄膜、及び該多層薄膜を有する積層体は、赤外線遮蔽機能が求められる物品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「無機物質」の用語は、2種以上の無機物質を含む混合物をも含む用語として使用する。「有機化合物」の用語は、2種以上の有機化合物を含む混合物をも含む用語として使用する。
【0009】
本明細書において「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。
【0010】
本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0011】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。また数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、そのある特性の数値範囲は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0012】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0013】
本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、平行、直交、及び垂直などの用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
【0014】
本明細書において、「ある物質を含む」と説明する場合、一実施形態において、ある物質を含む、ある物質からなる、又はある物質のみからなることが読み取れるものとする。例えば、「組成物Aは物質a1と物質a2を含む」との説明から、一実施形態において、組成物Aは物質a1と物質a2を含む、組成物Aは物質a1と物質a2からなる、又は組成物Aは物質a1と物質a2のみからなることが読み取れるものとする。
【0015】
1.多層薄膜:
本発明の多層薄膜は、金属薄膜の両面の上に、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜が直接積層されている、多層薄膜である。
【0016】
1-1.弗素ドープ二酸化セリウム薄膜:
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜は、高温高湿などの環境負荷から上記金属薄膜を保護する働きをする。上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜は、二酸化セリウム(酸化セリウム(IV)、CeO2)に由来する原子、及び有機弗素化合物に由来する原子を含む薄膜である。上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜は、典型的な一実施形態において、上記二酸化セリウムに由来する原子、及び上記有機弗素化合物に由来する原子を含み、かつ上記二酸化セリウムが上記有機弗素化合物に由来する原子により変性された化合物を含むものであってよい。
【0017】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の弗素原子の割合は、上記多層薄膜の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の弗素原子の割合は、原子比で、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の原子の総和を100at%として、耐湿熱性の観点から、通常1at%以上、好ましくは4at%以上、より好ましくは7at%以上、更に好ましくは10at%以上、より更に好ましくは12at%以上、最も好ましくは16at%以上であってよい。一方、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の上記弗素原子の割合は、透明性の観点から、通常60at%以下、好ましくは55at%以下、より好ましくは50at%以下、更に好ましくは45at%以下であってよい。
【0018】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜中の上記弗素原子の割合は、エックス線光電子分光法による分析(以下、「XPS分析」ということがある)により求めることができる。XPS分析は、例えば、XPS分析装置を使用し、エックス線としてアルミニウムのKα線、又はマグネシウムのKα線を用いて行うことができる。XPS分析については、下記の参考文献などを参照することができる。
参考文献:M.P.Seah and W.A.Derch,Surface and Interface Analysis 1,2(1979)
【0019】
図1は、後述する実施例の例1の弗素ドープ二酸化セリウム薄膜について、-10~1350eVのエネルギー領域のXPS分析をしたスペクトルである。該スペクトルには、290eV付近に炭素原子の1s軌道(C1s)に帰属するピーク、530eV付近に酸素原子の1s軌道(O1s)に帰属するピーク、680eV付近に弗素原子の1s軌道(F1s)に帰属するピーク、及び880eV付近にセリウム原子の3d軌道(Ce3d)に帰属するピークが現れており、これらの面積比から各元素の原子比を算出することができる。そして、例1の弗素ドープ二酸化セリウム薄膜の場合は、炭素30at%、酸素19at%、弗素39at%、及びセリウム12at%であった。
【0020】
上記金属薄膜の両面の上に、直接積層されている上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜のうち、一方の上記弗素原子の割合と、他方の上記弗素原子の割合とは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜は、上記二酸化セリウムと上記有機弗素化合物を用いて形成される。上記二酸化セリウムと上記有機弗素化合物を用いて、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する方法は、特に制限されない。上記二酸化セリウムと上記有機弗素化合物を用いて、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する好ましい方法としては、スパッタリング法をあげることができる。
【0022】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜をスパッタリング法により形成する場合、上記二酸化セリウムは、高純度のものであってよい。ここで高純度とは、純度が3N(99.9%)以上、好ましくは4N(99.99%)以上であることを意味する。
【0023】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜をスパッタリング法により形成する好ましい方法としては、例えば、特開2022-186664号公報に開示されている方法、及び、特開2019-123872号公報の段落0058~0076に、スパッタリング法により有機無機ハイブリッド膜を生産する場合として開示されている方法をあげることができる。特開2022-186664号公報と特開2019-123872号公報の全ての記載事項は、引用により本明細書の内容として取り込まれるものとする。
【0024】
特開2022-186664号公報に開示されている方法を使用して上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する場合、上記有機弗素化合物としては、有機弗素化合物の気体を用いる。このような上記有機弗素化合物としては、例えば、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロメタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンなどの飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、弗化ビニリデン、弗化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、トリフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレン等のα-オレフィンの1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物などの不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;並びにこれらの混合物などをあげることができる。これらの中で、上記有機弗素化合物としては、テトラフルオロメタンが好ましい。
【0025】
特開2019-123872号公報の段落0058~0076に、スパッタリング法により有機無機ハイブリッド膜を生産する場合として開示されている方法を使用して上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜を形成する場合、用いる上記有機弗素化合物としては、ターゲットとしての成形体の製造性の観点から、弗素系樹脂が好ましい。該弗素系樹脂は、弗素原子を含有するモノマー(1つ又は2つ以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、重合性を有するもの)に由来する構成単位を含む樹脂である。上記弗素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリ弗化ビニリデン、ポリ弗化ビニル、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンなどをあげることができる。これらの中で、上記弗素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリ弗化ビニリデンが好ましい。
【0026】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜の厚みは、上記多層薄膜の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜の厚みは、高温高湿などの環境負荷から上記金属薄膜を保護する働きを確実に得る観点から、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは15nm以上、最も好ましくは20nm以上であってよい。一方、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜の厚みは、耐クラック性の観点から、通常500nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、最も好ましくは150nm以下であってよい。
【0027】
上記金属薄膜の両面の上に、直接積層されている上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜のうち、一方の厚みと、他方の厚みとは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
1-2.金属薄膜の層
上記金属薄膜は、赤外線遮蔽機能を発現させる働きをする。上記金属薄膜は、赤外線遮蔽機能を発現させることができるものであればよく、赤外線を主として反射することにより赤外線遮蔽機能を発現させるものであってもよく、赤外線を主として吸収することにより赤外線遮蔽機能を発現させるものであってもよい。
【0029】
上記金属薄膜としては、例えば、銀、銅、アルミニウム、インジウム、錫、クロム、ニッケル、金、及びパラジウムなどの金属の薄膜をあげることができる。これらの中で、上記金属薄膜としては、赤外線領域の反射性(赤外線遮蔽機能の高さ)、及び可視光線領域の透過性(透明性)の観点からは、銀が好ましい。これらの中で、上記金属薄膜としては、環境安定性、特に耐湿熱性の観点からは、銅、及びアルミニウムが好ましい。
【0030】
上記金属薄膜を形成する方法は、特に制限されない。上記金属薄膜を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、及び電子ビーム蒸着法などをあげることができる。
【0031】
上記金属薄膜の厚みは、上記多層薄膜の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記金属薄膜の厚みは、赤外線遮蔽機能の観点から、通常1nm以上、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは7nm以上、最も好ましくは10nm以上であってよい。一方、上記金属薄膜の厚みは、透明性の観点から、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは30nm以下、最も好ましくは20nm以下であってよい。
【0032】
2.積層体:
本発明の積層体は、基材の一部又は全部の面の上に本発明の多層薄膜を有する積層体である。以下、上記金属薄膜の両面の上に、直接積層されている上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜のうち、上記基材に近い側に存在する層となる方を弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a、他方を弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bとして本発明を説明する。
【0033】
上記基材は、上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記基材の上記多層薄膜が積層される面は、平滑であってもよく、三次元形状を有するものであってもよい。ここで、三次元形状とは、凹凸などの非平面形状を少なくともその一部に含む形状を意味する。上記基材は、典型的な実施形態の1つにおいて、フィルム、シート、又は板である。
【0034】
上記基材としては、例えば、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、及び石英ガラスなどの無機ガラスフィルム、無機ガラスシート又は無機ガラス板をあげることができる。
【0035】
上記基材としては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリプロピレン、及び4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;及びポリイミド系樹脂;などの樹脂フィルム、樹脂シート、又は樹脂板をあげることができる。これらの樹脂フィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらの樹脂フィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂フィルムを包含する。これらの樹脂シートは無延伸シート、一軸延伸シート、及び二軸延伸シートを包含する。またこれらの樹脂シートは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂シートを包含する。これらの樹脂板は、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂板を包含する。
【0036】
上記基材としては、機能層を有するものを用いてもよい。上記基材として機能層を有するものを用いる実施態様としては、例えば、上記無機ガラスフィルム、上記無機ガラスシート、上記無機ガラス板、上記樹脂フィルム、上記樹脂シート、又は上記樹脂板の少なくとも一方の面の上に、機能層を有するものを用い、該機能層側の面、又は上記機能層とは反対側の面を上記多層薄膜との積層面とするものをあげることができる。
【0037】
上記機能層としては、例えば、硬度向上機能、アンカー機能、低屈折率、高屈折率、紫外線遮蔽、電磁波遮蔽、電磁波反射、視界制御(目隠し)、及び視野角制御などの機能を有するものをあげることができる。上記機能層は、塗料を用いて形成される塗膜(ハードコートを含む)であってもよく、スパッタリング法、真空蒸着法、及び化学気相成長法などのドライコーティング法で形成される膜であってもよい。
【0038】
上記基材として上記無機ガラスフィルム、上記無機ガラスシート、又は上記無機ガラス板を用いる場合、これらの厚みは上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記無機ガラスフィルム、上記無機ガラスシート、又は上記無機ガラス板の厚みは、上記積層体の取扱性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。また無機ガラスの耐衝撃性の観点から、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.5mm以上であってよい。一方、上記積層体を使用された物品の軽量化の観点から、通常6mm以下、好ましくは4.5mm以下、より好ましくは3mm以下であってよい。
【0039】
上記基材として上記樹脂フィルム、上記樹脂シート、又は上記樹脂板を用いる場合、これらの厚みは上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記樹脂フィルム、上記樹脂シート、又は上記樹脂板の厚みは、上記積層体の取扱性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。上記積層体を高い剛性を必要としない用途に用いる場合は、経済性の観点から、通常250μm以下、好ましくは150μm以下であってよい。上記積層体を高い剛性を必要とする用途に用いる場合は、剛性を保持する観点から、通常300μm以上、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上であってよい。また上記積層体を使用された物品の薄型化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは1200μm以下、より好ましくは1000μm以下であってよい。
【0040】
上記基材は透明であってもよく、不透明であってもよく、着色透明であってもよく、着色不透明(隠蔽性を有するもの)であってもよい。上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。
【0041】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aは、上記金属薄膜の両面の上に直接積層されている上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜のうち、上記基材に近い側に存在する。つまり、本発明の積層体は、上記基材の一部又は全部の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aが積層されている。
【0042】
本発明の積層体が有する上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a、即ち、本発明の多層薄膜が有する上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜については、「1.多層薄膜」において説明した。
【0043】
上記基材と上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aとは、直接積層してもよく、アンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層してもよい。
【0044】
本発明の積層体は、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの面の上に、上記金属薄膜が直接積層されている。
【0045】
本発明の積層体が有する上記金属薄膜、即ち、本発明の多層薄膜が有する上記金属薄膜については、「1.多層薄膜」において説明した。
【0046】
本発明の積層体は、上記金属薄膜の面の上に、更に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bが直接積層されている。
【0047】
本発明の積層体が有する上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜b、即ち、本発明の多層薄膜が有する上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜については、「1.多層薄膜」において説明した。
【0048】
本発明の積層体は、所望により、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの面の上に、更に、トップコート層を有するものであってよい。上記トップコート層は、塗料を用いて形成される塗膜(ハードコートを含む)であってもよく、スパッタリング法、真空蒸着法、及び化学気相成長法などのドライコーティング法で形成される膜であってもよい。上記トップコート層の厚みは、好ましくは0.01~5μm程度であってよく、より好ましくは0.05~1μm程度であってよい。
【0049】
3.積層体の製造方法(その1):
本発明の積層体の製造方法であって、
図2に概念図を示すバッチ方式のスパッタリング装置を使用する実施形態の一例を説明する。
【0050】
3-1.弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜:
先ず、二酸化セリウムのターゲット1をターゲット設置冶具2に装着する。ターゲット設置冶具2に装着することにより、二酸化セリウムのターゲット1は、電源(図示せず)に接続される。また、ターゲット設置冶具2の内部には、水などの媒体の流路が設けられており、二酸化セリウムのターゲット1の温度を所定の温度に制御できるようになっている。
【0051】
次に、スパッタテーブル3に基材4を取り付け、所定の回転速度で回転させる。スパッタテーブル3の上記所定の回転速度は、通常1~1000回転/分、好ましくは2~50回転/分であってよい。また上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜中、一定の回転速度であってもよく、所望により、回転速度を変化させてもよい。
【0052】
次に、スパッタ室5内を、排気装置(図示せず)により排気口6から排気して、成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力a以下にする。上記所定の圧力aは、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~5×10-3Pa程度であってよい。
【0053】
次に、スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体を、スパッタガス導入口7からスパッタ室5内に、成膜時にスパッタ室5内が所定の圧力bとなるように導入する。このとき、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体をそれぞれ準備し、両者の気体流を合流、混合させながら導入してもよく、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との上記混合気体を予め準備し、これを導入してもよい。また上記混合気体の導入量は固定したまま、排気口6の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力を一定にしてもよい。
【0054】
上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比は、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの組成(上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a中の弗素原子の割合)が所望の組成となるようにする観点から適宜決定することができる。上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)は、上記有機弗素化合物の気体の種類にもよるが、通常95/5~99.99/0.01、好ましくは97/3~99.9/0.1、より好ましくは98/2~99.7/0.3、更に好ましくは98.3/1.7~99.5/0.5、最も好ましくは98.6/1.4~99.3/0.7であってよい。
【0055】
上記スパッタガスは、スパッタリングに用い得るガスである限り特に限定されず、公知の何れのスパッタガスであってもよい。上記スパッタガスとしては、例えば、アルゴン、及びクリプトンなどの貴ガス;並びに、これらと酸素、及び窒素などとの混合ガスなどをあげることができる。上記スパッタガスは、好ましくはアルゴン、及びクリプトンなどの貴ガスであってよい。
【0056】
上記有機弗素化合物の気体は、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機弗素化合物の気体に限定されない。上記有機弗素化合物の気体は、加温又は/及び減圧により気体となる有機弗素化合物の気体であってもよい。この場合、予め所定の温度、圧力にし、気体の状態にして用いることは言うまでもない。また、この場合、スパッタ室5内の温度も所定の温度にすることが好ましい。
【0057】
このような上記有機弗素化合物としては、例えば、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロメタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンなどの飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、弗化ビニリデン、弗化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、トリフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレン等のα-オレフィンの1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物などの不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;並びにこれらの混合物などをあげることができる。これらの中で、上記有機弗素化合物としては、テトラフルオロメタンが好ましい。
【0058】
上記有機弗素化合物の気体としては、これらの1種又は2種以上の混合物の気体を用いることができる。
【0059】
上記成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力b(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0060】
次に、二酸化セリウムのターゲット1に所定の電力を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところでシャッター8を開き、二酸化セリウムのターゲット1をスパッタリングし、基材4の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを成膜する。このとき、ターゲット設置冶具2には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、二酸化セリウムのターゲット1の温度を所定の温度に制御する。また放電状態が安定するまでシャッター8を閉じておくことにより、プリスパッタ(二酸化セリウムのターゲット1表面の汚れや水などの汚染物を除去する(電力を投入することにより飛ばす)操作)の際に、基材4の面の上に上記汚染物が付着しないようにすることができる。ここで、投入する電力は、直流電流を使用するにはターゲットが十分に高い導電性を有するものである必要のあることから、通常は交流電力、好ましくは高周波数の交流電力であってよい。
【0061】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの組成(上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a中の弗素原子の割合)は、二酸化セリウムのターゲット1に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比、及び上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力b(スパッタ圧力))を調整することにより、所望の組成となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、及び混合気体の流量と組成との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0062】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの厚みは、二酸化セリウムのターゲット1に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力b(スパッタ圧力))、及び成膜を行う時間を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、混合気体の流量、及び成膜を行う時間と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0063】
3-2.金属薄膜の成膜:
続いて、基材4の一方の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを有する中間積層体aの該弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a面の上に、直接上記金属薄膜を製膜する。
【0064】
先ず、金属のターゲットをターゲット設置冶具2に装着する。
【0065】
次に、スパッタテーブル3に上記中間積層体aを、その上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a側の面が成膜面となるように取り付け、所定の回転速度で回転させる。スパッタテーブル3の上記所定の回転速度は、通常1~1000回転/分、好ましくは2~50回転/分であってよい。また上記金属薄膜の成膜中、一定の回転速度であってもよく、所望により、回転速度を変化させてもよい。
【0066】
次に、スパッタ室5内を、排気装置(図示せず)により排気口6から排気して、成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力a’以下にする。上記所定の圧力a’は、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~5×10-3Pa程度であってよい。
【0067】
次に、スパッタガスを、スパッタガス導入口7からスパッタ室5内に、成膜時にスパッタ室5内が所定の圧力b’となるように導入する。上記スパッタガスの導入量は固定したまま、排気口6の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力を一定にしてもよい。上記スパッタガスは、スパッタリングに用い得るガスである限り特に限定されず、公知の何れのスパッタガスであってもよい。上記スパッタガスは、好ましくはアルゴン、及びクリプトンなどの貴ガスであってよい。
【0068】
上記成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力b’(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0069】
次に、上記金属のターゲットに所定の電力を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところでシャッター8を開き、上記金属のターゲットをスパッタリングし、上記中間積層体aの上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a側の面の上に、直接上記金属薄膜を成膜する。このとき、ターゲット設置冶具2には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、上記金属のターゲットの温度を所定の温度に制御する。また放電状態が安定するまでシャッター8を閉じておくことにより、プリスパッタ(上記中間積層体a表面の汚れや水などの汚染物を除去する(電力を投入することにより飛ばす)操作)の際に、上記中間積層体aの面の上に上記汚染物が付着しないようにすることができる。ここで、投入する電力は、直流電力であってもよく、交流電力であってもよい。銀、銅、及びアルミニウムなどの金属は十分に高い導電性を有するものであることから、投入する電力は、好ましくは直流電力であってよい。
【0070】
上記金属薄膜の厚みは、上記金属のターゲットに投入する電力、上記スパッタガスの流量(成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力b’(スパッタ圧力))、及び成膜を行う時間を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、スパッタガスの流量、及び成膜を行う時間と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0071】
3-3.弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜:
更に、基材4の一方の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを有し、該弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a面の上に、直接上記金属薄膜を有する中間積層体bの該金属薄膜面の上に、直接上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bを成膜する。
【0072】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜は、「3-1.弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜」で説明した方法と同様の方法で行うことができる。
【0073】
上記中間積層体bの上記金属薄膜面の上に、直接上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bを成膜することにより、本発明の積層体を得ることができる。
【0074】
4.積層体の製造方法(その2):
本発明の積層体の製造方法であって、
図2-2に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する実施形態の一例を説明する。
【0075】
先ず、二酸化セリウムのターゲット9、9’をターゲット設置冶具10、10’に装着する。ターゲット設置冶具10、10’に装着することにより、二酸化セリウムのターゲット9、9’は、電源(図示せず)に接続される。また、ターゲット設置冶具10、10’の内部には、水などの媒体の流路が設けられており、二酸化セリウムのターゲット9、9’の温度を所定の温度に制御できるようになっている。
【0076】
次に、フィルム基材11を通紙する。即ち、繰り出しロール12にフィルム基材11のフィルムロール13を、巻き取りロール14に巻き取り管(図示せず)をセットし、フィルム基材11をフィルムロール13から繰り出し、移送ロール15を介してスパッタロール16に抱かせ、移送ロール15’を介して、巻き取りロール14にセットした上記巻き取り管で巻き取ることができるようにする。なお、フィルム基材11の通紙は、無機物質のターゲット9、9’をターゲット設置冶具10、10’にそれぞれ装着する前に行ってもよい。
【0077】
次に、スパッタ室17内を、排気装置(図示せず)により排気口18から排気して、成膜時のスパッタ室17内の所定の圧力a以下に減圧する。上記所定の圧力aは、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~6×10-3Pa程度であってよい。
【0078】
次に、スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体を、スパッタガス導入口19からスパッタ室17内に、成膜時にスパッタ室17内が所定の圧力bとなるように導入する。このとき、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体をそれぞれ準備し、両者の気体流を合流、混合させながら導入してもよく、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との上記混合気体を予め準備し、これを導入してもよい。また上記混合気体の導入量は固定したまま、排気口18の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力を一定にしてもよい。
【0079】
上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比は、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの組成(上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a中の弗素原子の割合)が所望の組成となるようにする観点から適宜決定することができる。上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)は、上記有機弗素化合物の気体の種類にもよるが、通常95/5~99.99/0.01、好ましくは97/3~99.9/0.1、より好ましくは98/2~99.7/0.3、更に好ましくは98.3/1.7~99.5/0.5、最も好ましくは98.6/1.4~99.3/0.7であってよい。
【0080】
上記スパッタガスは、スパッタリングに用い得るガスである限り特に限定されず、公知の何れのスパッタガスであってもよい。上記スパッタガスとしては、例えば、アルゴン、及びクリプトンなどの貴ガス;並びに、これらと酸素、及び窒素などとの混合ガスなどをあげることができる。上記スパッタガスは、好ましくはアルゴン、及びクリプトンなどの貴ガスであってよい。
【0081】
上記有機弗素化合物の気体は、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機弗素化合物の気体に限定されない。上記有機弗素化合物の気体は、加温又は/及び減圧により気体となる有機弗素化合物の気体であってもよい。この場合、予め所定の温度、圧力にし、気体の状態にして用いることは言うまでもない。また、この場合、スパッタ室17内の温度も所定の温度にすることが好ましい。
【0082】
このような上記有機弗素化合物としては、例えば、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロメタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンなどの飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、弗化ビニリデン、弗化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、トリフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレン等のα-オレフィンの1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物などの不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;並びにこれらの混合物などをあげることができる。これらの中で、上記有機弗素化合物としては、テトラフルオロメタンが好ましい。
【0083】
上記有機弗素化合物の気体としては、これらの1種又は2種以上の混合物の気体を用いることができる。
【0084】
上記成膜時のスパッタ室17内の所定の圧力b(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0085】
次に、二酸化セリウムのターゲット9、9’に所定の電力を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところでフィルム基材11を所定のライン速度で走行させながら、二酸化セリウムのターゲット9、9’をスパッタリングし、フィルム基材11の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを成膜する。このとき、ターゲット設置冶具10、10’には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、二酸化セリウムのターゲット9、9’の温度を所定の温度に制御する。ここで、投入する電力は、直流電流を使用するにはターゲットが十分に高い導電性を有するものである必要のあることから、通常は交流電力、好ましくは高周波数の交流電力であってよい。
【0086】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの組成(上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a中の弗素原子の割合)は、二酸化セリウムのターゲット9、9’に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比、及び上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室17内の所定の圧力b(スパッタ圧力))を調整することにより、所望の組成となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、及び混合気体の流量と組成との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0087】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの厚みは、二酸化セリウムのターゲット9、9’に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合比、上記スパッタガスと上記有機弗素化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室17内の所定の圧力b(スパッタ圧力))、及び成膜を行う時間を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、混合気体の流量、及び成膜を行う時間と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0088】
またフィルム基材11を所定距離で往復させて、スパッタロール16の二酸化セリウムのターゲット9、9’ に対向する位置(即ち、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aが形成される位置)を2回以上通過させてもよい。ライン速度(フィルム基材11の走行速度)を速めて、フィルム基材11が熱により撓む、フィルム基材11が撓むことにより上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aが割れるなどのトラブルを抑制することができる。また上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの膜厚を厚くしようとする場合においても、安定したライン速度を確保することが容易になる。
【0089】
本発明の多層薄膜をフィルムロールとして生産する場合において、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの厚みは、耐クラック性の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下、更に好ましくは50nm以下、より更に好ましくは40nm以下、最も好ましくは30nm以下であってよい。一方、高温高湿などの環境負荷から上記金属薄膜を保護する働きを確実に得る観点から、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは15nm以上、最も好ましくは20nm以上であってよい。
【0090】
4-2.金属薄膜の成膜:
続いて、フィルム基材11の一方の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを有する中間積層体aの該弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a面の上に、直接上記金属薄膜を製膜する。
【0091】
先ず、金属のターゲットをターゲット設置冶具10、10’に装着する。
【0092】
次に、上記中間積層体aを、その上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a側の面が成膜面となるように通紙する。
【0093】
次に、スパッタ室17内を、排気装置(図示せず)により排気口18から排気して、成膜時のスパッタ室17内の所定の圧力a’以下にする。上記所定の圧力a’は、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~6×10-3Pa程度であってよい。
【0094】
次に、スパッタガスを、スパッタガス導入口7からスパッタ室17内に、成膜時にスパッタ室17内が所定の圧力b’となるように導入する。上記スパッタガスの導入量は固定したまま、排気口18の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力を一定にしてもよい。上記スパッタガスは、スパッタリングに用い得るガスである限り特に限定されず、公知の何れのスパッタガスであってもよい。上記スパッタガスは、好ましくはアルゴン、及びクリプトンなどの貴ガスであってよい。
【0095】
上記成膜時のスパッタ室17内の所定の圧力b’(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0096】
次に、上記金属のターゲットに所定の電力を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところで上記中間積層体aを所定のライン速度で走行させながら、上記金属のターゲットをスパッタリングし、上記中間積層体aの上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a側の面の上に、直接上記金属薄膜を成膜する。このとき、ターゲット設置冶具10、10’には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、上記金属のターゲットの温度を所定の温度に制御する。ここで、投入する電力は、直流電力であってもよく、交流電力であってもよい。銀、銅、及びアルミニウムなどの金属は十分に高い導電性を有するものであることから、投入する電力は、好ましくは直流電力であってよい。
【0097】
上記金属薄膜の厚みは、上記金属のターゲットに投入する電力、上記スパッタガスの流量(成膜時のスパッタ室5内の所定の圧力b’(スパッタ圧力))、及び成膜を行う時間を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、スパッタガスの流量、及び成膜を行う時間と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0098】
4-3.弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜:
更に、フィルム基材11の一方の面の上に上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを有し、該弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a面の上に、直接上記金属薄膜を有する中間積層体bの該金属薄膜面の上に、直接上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bを成膜する。
【0099】
上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜は、「4-1.弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜」で説明した方法と同様の方法で行うことができる。
【0100】
上記中間積層体bの上記金属薄膜面の上に、直接上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bを成膜することにより、本発明の積層体を得ることができる。
【0101】
本発明の多層薄膜をフィルムロールとして生産する場合において、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの厚みは、高温高湿などの環境負荷から上記金属薄膜を保護する働きを確実に得る観点から、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは35nm以上、最も好ましくは40nm以上であってよい。一方、耐クラック性の観点から、好ましくは120nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは80nm以下、最も好ましくは60nm以下であってよい。
【0102】
本発明の多層薄膜をフィルムロールとして生産する場合において、上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの厚みと上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの厚みとの比(薄膜b/薄膜a)は、耐クラック性の観点から、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.0以下、最も好ましくは2.5以下であってよい。一方、高温高湿などの環境負荷から上記金属薄膜を保護する働きを確実に得る観点から、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上であってよい。
【0103】
5.物品:
本発明の物品は、本発明の多層薄膜、又は本発明の積層体を含む。本発明の物品は、本発明の多層薄膜、又は本発明の積層体を含むことにより、赤外線遮蔽機能を有する。本発明の物品としては、例えば、建築物の窓ガラス、及び自動車のウィンドウなどに断熱性を付与するために貼合して用いられる部材(ガラス用フィルム)、断熱性を有する建築物の窓ガラスや自動車のウィンドウなどをあげることができる。
【実施例0104】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
測定方法
(イ)日射除去率:
JIS A5759:2016の6.5遮蔽係数及び日射熱取得率の算出に従い、株式会社島津製作所の分光光度計「Solid Spec‐3700(商品名)」を使用し、積層体の多層薄膜面を光源に向ける条件で日射透過率、及び日射反射率を測定した。次に、JIS R3106:2019の附属書JB常温熱放射の波長域における分光反射率及び分光透過率の測定方法並びに垂直放射率の算定方法に従い、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社の赤外線分光光度計「Nicolet 380(商品名)」を使用し、積層体のガラス面を室外側表面、多層薄膜面を室内側表面として、各々の垂直放射率を測定した後、JIS R3107:2019の附属書A放射率の決定方法及び気体の物性値のA.2修正放射率の決定方法に従い、各々の修正放射率を算出した。得られた室内側表面の修正放射率、及び室外側表面の修正放射率を上記JIS規格の式(5)に代入することにより、試験片に吸収される日射熱が室内に伝達される割合を算出した。続いて、得られた日射透過率、日射反射率、及び試験片に吸収される日射熱が室内に伝達される割合を上記JIS規格の式(4)に代入することにより、遮蔽係数を算出した。算出された遮蔽係数を上記JIS規格の式(6)に代入することにより日射熱取得率を算出した。続いて、次式(1)により日射除去率(単位:%)を算出した。
日射除去率=100-日射熱取得率×100 ・・・(1)
【0106】
(ロ)熱貫流率U:
JIS R3106:2019の附属書JB常温熱放射の波長域における分光反射率及び分光透過率の測定方法並びに垂直放射率の算定方法に従い、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社の赤外線分光光度計「Nicolet 380(商品名)」を使用し、積層体のガラス面を室外側表面、多層薄膜面を室内側表面として、各々の垂直放射率を測定した後、JIS R3107:2019の附属書A放射率の決定方法及び気体の物性値のA.2修正放射率の決定方法に従い、各々の修正放射率を算出した。得られた室外側表面の修正放射率と室内側表面の修正放射率を、JIS A5759:2016の6.6熱貫流率の算出の式(7)に代入することにより、熱貫流率U(単位:W/m2・K)を算出した。
【0107】
(ハ)可視光線透過率:
JIS A5759:2016の6.4可視光線透過率試験に従い、株式会社島津製作所の分光光度計「Solid Spec‐3700(商品名)」を使用し、積層体の多層薄膜面を光源に向ける条件で可視光線透過率(単位:%)を測定した。
【0108】
(ニ)ヘーズ:
JIS K 7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000(商品名)」を使用し、積層体の多層薄膜面を光源に向ける条件で積層体のヘーズ(単位:%)を測定した。
【0109】
(ホ)耐湿熱性1:
積層体を温度60℃、相対湿度90%の環境下で168時間処理した後、下記(ト)外観、及びΔヘーズ(湿熱処理後のヘーズと湿熱処理前のヘーズとの差の絶対値。各々の測定は上記(ニ)ヘーズによる)を評価した。
【0110】
(へ)耐湿熱性2:
処理時間を480時間に変更したこと以外は、上記(ホ)耐湿熱性1と同様に評価した。
【0111】
(ト)外観:
湿熱処理後の積層体の多層薄膜面の写真を、Open CVを利用して、欠陥部分が白色、正常部分が黒色となるように2値化した後、白色の面積の割合を外観不良面積として算出した。
【0112】
また、湿熱処理後の積層体の多層薄膜面に生じていた欠陥部分、及びその周辺について、レーザー顕微鏡観察、及びSEM-EDS分析(走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法を組み合わせた分析)を行った。その結果、欠陥は二酸化セリウム薄膜、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜のクラックであることが分かった。
【0113】
理論に拘束される意図はないが、弗素をドープすることにより、上記クラックを顕著に抑制できる理由は、僅かでも金属がマイグレーションし、凝集体が生じて体積変化すると、二酸化セリウム薄膜は耐えることができずクラックしてしまうのに対し、弗素ドープ二酸化セリウム薄膜は、弗素ドープによりフレキシブル性が付与されており、耐えることができるためであると考察している。
【0114】
使用した原材料
(A)ターゲット:
(A-1)USTRON株式会社の二酸化セリウムを焼結して得た直径76.2mm、厚み3mmの円盤形状のターゲット。純度4N。
(A-2)USTRON株式会社の銀を溶解・圧延して得た直径76.2mm、厚み3mmの円盤形状のターゲット。純度4N。
(A-3)USTRON株式会社の銅を溶解・圧延して得た直径76.2mm、厚み3mmの円盤形状のターゲット。純度4N。
(A-4)USTRON株式会社の二酸化セリウムを焼結して得た縦127mm、横380mm、厚み3mmの直方体形状のターゲット。純度4N。
(A-5)USTRON株式会社の銅を溶解・圧延して得た縦127mm、横380mm、厚み3mmの直方体形状のターゲット。純度4N。
【0115】
(B)気体:
(B-1)アルゴンガス(純度99.999%以上のグレード)。
(B-2)テトラフルオロメタン(純度99.999%以上のグレード)。
(B-3)酸素(純度99.999%以上のグレード)。
【0116】
(C)基材:
(C-1)松浪硝子工業株式会社の平滑なソーダ石灰ガラス板(品名:マイクロスライドガラス、水縁磨品、厚み:1.0mm、寸法:40×40mm)。
(C-2)東レ株式会社の厚み125μmの両面易接着二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「ルミラー(商品名)」。
【0117】
例1
(1)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜:
最初に、
図2に概念図を示すバッチ方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-1)、上記(B-1)、及び上記(B-2)を用いて、上記(C-1)の一方の面の上に、直接弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを成膜した。先ず、上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具2に上記(A-1)を装着した。次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室5内を、圧力3.0×10
-3Paに減圧した。次に、上記(B-1)の気体流(体積流量19.80sccm)と上記(B-2)の気体流(体積流量0.20sccm)とを合流、混合させながらスパッタガスとしてスパッタガス導入口7から上記スパッタ室5内に導入し、該スパッタ室5内の圧力が0.4Paとなるように排気口6の開度をフィードバック制御した。次に、上記(A-1)に投入電力200W(単位面積当たりの投入電力量4.4W/cm
2)の条件で高周波数の交流電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(C-1)の一方の面の上にスパッタ膜を形成した。このとき成膜時間は13分間であり、該スパッタ膜の厚みは70nmとなる成膜条件であった。上記スパッタ膜について、-10~1350eVのエネルギー領域のXPS分析をしたスペクトルを
図1に示す。該スペクトルから、上記スパッタ膜の組成は炭素30at%、酸素19at%、弗素39at%、及びセリウム12at%と算出された。つまり、上記スパッタ膜(上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a)中の弗素原子の割合は39at%であった。
【0118】
(2)金属薄膜の成膜:
続いて、
図2に概念図を示すバッチ方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-2)、及び上記(B-1)を用いて、上記(1)で成膜した弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの面の上に、直接金属薄膜(銀薄膜)を成膜した。先ず、上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具2に上記(A-2)を装着した。次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室5内を、圧力3.0×10
-3Paに減圧した。次に、上記(B-1)の気体流(体積流量20sccm)をスパッタガスとしてスパッタガス導入口7から上記スパッタ室5内に導入し、該スパッタ室5内の圧力が0.4Paとなるように排気口6の開度をフィードバック制御した。次に、上記(A-2)に投入電力100W(単位面積当たりの投入電力量2.2W/cm
2)の条件で直流電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(1)で成膜した弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの面の上にスパッタ膜(銀薄膜)を形成した。このとき成膜時間は15秒間であり、該スパッタ膜の厚みは10nmとなる成膜条件であった。
【0119】
(3)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜:
続いて、
図2に概念図を示すバッチ方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-1)、上記(B-1)、及び上記(B-2)を用いて、上記(2)で成膜した金属薄膜(銀薄膜)の面の上に、直接弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bを成膜した。先ず、上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具2に上記(A-1)を装着した。次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室5内を、圧力3.0×10
-3Paに減圧した。次に、上記(B-1)の気体流(体積流量19.80sccm)と上記(B-2)の気体流(体積流量0.20sccm)とを合流、混合させながらスパッタガスとしてスパッタガス導入口7から上記スパッタ室5内に導入し、該スパッタ室5内の圧力が0.4Paとなるように排気口6の開度をフィードバック制御した。次に、上記(A-1)に投入電力200W(単位面積当たりの投入電力量4.4W/cm
2)の条件で高周波数の交流電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(C-1)の一方の面の上にスパッタ膜を形成した。このとき成膜時間は5分間であり、該スパッタ膜の厚みは30nmとなる成膜条件であった。
【0120】
こうして得た積層体について、上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1に示す。
【0121】
本明細書において、体積流量の単位「sccm」は、標準状態(温度0℃、1気圧)で規格化した1分間に流れる気体の体積(単位:cc)である。
【0122】
例2
上記(1)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜において、スパッタガスの各々の体積流量を表1に示すように変更したこと、即ち、弗素をドープしなかったこと、及び上記(3)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜において、スパッタガスの各々の体積流量を表1に示すように変更したこと、即ち、弗素をドープしなかったこと以外は例1と同様にして積層体を得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1に示す。
【0123】
例3、4
上記(1)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜において、スパッタガスの各々の体積流量を表1に示すように変更したこと、及び上記(3)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜において、スパッタガスの各々の体積流量を表1に示すように変更したこと以外は例1と同様にして積層体を得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1に示す。また例3の弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a中の弗素原子の割合は15at%であった。例4の弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a中の弗素原子の割合は56at%であった。
【0124】
例5
上記(2)金属薄膜の成膜において、上記(A-2)の替わりに上記(A-3)を用い、成膜時間を40秒間(得られた金属膜の厚みは15nm)としたこと以外は例1と同様にして積層体を得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1に示す。
【0125】
例6
上記(1)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜において、スパッタガスの各々の体積流量を表1に示すように変更したこと、即ち、弗素をドープしなかったこと、上記(2)金属薄膜の成膜において、上記(A-2)の替わりに上記(A-3)を用い、成膜時間を40秒間(得られた金属膜の厚みは15nm)としたこと、及び上記(3)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜において、スパッタガスの各々の体積流量を表1に示すように変更したこと、即ち、弗素をドープしなかったこと以外は例1と同様にして積層体を得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1に示す。
【0126】
【0127】
本発明の多層薄膜は赤外線遮蔽機能を有し、耐湿熱性が良好であることが確認された。
【0128】
例7
(1’)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜:
図2-2に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-4)、上記(B-1)、及び上記(B-2)を用いて、上記(C-2)の一方の面の上に弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを成膜した。
(1’-1)先ず、上記(C-2)を該スパッタリング装置に通紙した後、上記(A-4)(ターゲット9)をターゲット設置冶具10に装着した。なお、ターゲット設置冶具10’は使用しなかった。即ち、使用した上記(A-4)は1個である。
(1’-2)次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室内17を、圧力5.0×10
-3Paに減圧した。
(1’-3)次に、上記(B-1)の気体流(体積流量199.0sccm)と上記(B-2)の気体流(体積流量1.0sccm)とを合流、混合させながらスパッタガスとしてスパッタガス導入口19から上記スパッタ室17内に導入し、該スパッタ室17内の圧力が0.4Paとなるように排気口18の開度をフィードバック制御した。
(1’-4)続いて、上記(C-2)をライン速度1.0m/分の速度で引巻取りしながら、上記(A-4)(ターゲット9)に投入電力量1500W(単位面積当たりの投入電力量3.1W/cm
2)の条件で高周波数の交流電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(C-2)の一方の面の上にスパッタ膜を形成した。またこのとき上記(C-2)を所定距離で往復させて、スパッタロール4の上記(A-2)(ターゲット9)に対向する位置を9回通過するようにした。上記スパッタ膜の厚みが35nmとなる成膜条件であった。
【0129】
(2’)金属薄膜の成膜:
続いて、
図2-2に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-5)、及び上記(B-1)を用いて、上記(1)で成膜した弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの面の上に、直接金属薄膜(銀薄膜)を成膜した。
(2’-1)先ず、上記(C-2)の面の上に上記(1)で成膜した弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aを有する中間積層体aを、その上記弗素ドープ二酸化セリウム薄膜a側の面が成膜面となるように通紙した後、上記(A-5)をターゲット設置冶具10に装着した。なお、ターゲット設置冶具10’は使用しなかった。即ち、使用した上記(A-5)は1個である。
(2’-2)次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室内17を、圧力5.0×10
-3Paに減圧した。
(2’-3)次に、上記(B-1)の気体流(体積流量200.0sccm)をスパッタガスとしてスパッタガス導入口19から上記スパッタ室17内に導入し、該スパッタ室17内の圧力が0.4Paとなるように排気口18の開度をフィードバック制御した。
(2’-4)続いて、上記中間積層体aをライン速度2.0m/分の速度で引巻取りしながら、上記(A-5)に投入電力量1500W(単位面積当たりの投入電力量3.1W/cm
2)の条件で直流電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(1)で成膜した弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの面の上にスパッタ膜(銅薄膜)を成膜した。該スパッタ膜の厚みが15nmとなる成膜条件であった。
【0130】
(3)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bの成膜:
続いて、上記工程(1’-4)における往復回数を18回に変更したこと以外は、上記(1’)弗素ドープ二酸化セリウム薄膜aの成膜と同様にして、上記(2’)で成膜した金属薄膜(銅薄膜)の面の上に、直接弗素ドープ二酸化セリウム薄膜bを成膜した。該スパッタ膜の厚みは70nmとなる成膜条件であった。
【0131】
こうして得た積層体について、上記試験(イ)~(ニ)を行った。結果は、日射除去率 48%、熱貫流率U 3.6W/m2・K、可視光線透過率 56%、ヘーズ 3.4%であった。
【0132】
また、積層体を温度60℃、相対湿度90%の環境下で480時間処理した後、上記(ト)外観、及び上記(ロ)熱貫流率Uの方法により湿熱処理後の熱貫流率Uを測定した。結果は、外観 0.4%、湿熱処理後の熱貫流率U 3.8W/m2・Kであった。
【0133】
更に、湿熱処理後の熱貫流率Uについては、積層体を温度60℃、相対湿度90%の環境下で960時間処理した後の値も測定した。結果は、3.8W/m2・Kであった。
【0134】
例8
上記工程(1’-3)において、上記(B-1)の気体流(体積流量197.0sccm)、上記(B-2)の気体流(体積流量1.0sccm)、及び上記(B-3)の気体流(体積流量2.0sccm)を合流、混合させながらスパッタガスとしてスパッタガス導入口19から上記スパッタ室17内に導入したこと;上記工程(1’-4)において、スパッタロール4の上記(A-2)(ターゲット9)に対向する位置を11回通過するようにしたこと;上記工程(3)の上記工程(1’-3)に対応する工程において、上記(B-1)の気体流(体積流量197.0sccm)、上記(B-2)の気体流(体積流量1.0sccm)、及び上記(B-3)の気体流(体積流量2.0sccm)を合流、混合させながらスパッタガスとしてスパッタガス導入口19から上記スパッタ室17内に導入したこと;並びに、上記工程(3)の上記工程(1’-4)に対応する工程において、スパッタロール4の上記(A-2)(ターゲット9)に対向する位置を20回通過するようにしたこと以外は、例7と同様にして積層体を得た。
【0135】
こうして得た積層体について、上記試験(イ)~(ニ)を行った。結果は、日射除去率 48%、熱貫流率U 3.8W/m2・K、可視光線透過率 58%、ヘーズ 3.0%であった。
【0136】
また、積層体を温度60℃、相対湿度90%の環境下で480時間処理した後、上記(ト)外観、及び上記(ロ)熱貫流率Uの方法により湿熱処理後の熱貫流率Uを測定した。結果は、外観 1.3%、湿熱処理後の熱貫流率U 4.1W/m2・Kであった。
【0137】
本発明の多層薄膜は耐湿熱処理後も良好な赤外線遮蔽機能を維持することが確認された。