(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132905
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】QSOX1遺伝子発現亢進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9794 20170101AFI20240920BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240920BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240920BHJP
A61K 36/8968 20060101ALI20240920BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240920BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
A61K 36/56 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K36/8968
A61P17/00
A61P43/00 121
A61K36/56
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023421
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023041336
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏
(72)【発明者】
【氏名】原田 靖子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC302
4C083AC432
4C083AD042
4C083AD352
4C083AD632
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD23
4C083EE12
4C083EE13
4C088AB12
4C088AB85
4C088BA08
4C088CA04
4C088CA11
4C088MA07
4C088MA16
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC02
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】表皮形状の変形により生じるシワを解消するための技術を提供することを課題とする。
【解決手段】角層細胞におけるSS結合量を増加させることにより、シワを予防及び/又は改善する。麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスを、角層細胞におけるQSOX1遺伝子の発現を亢進させる有効成分とする。前記エキスは、角層細胞におけるSS結合量を増加させることができるため、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物に好適に配合しうる。また、別の態様として、角層細胞におけるSS結合量又はQSOX1遺伝子発現量を指標とすることにより、シワリスクを鑑別する方法が提供される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスを含有する、QSOX1遺伝子発現亢進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のQSOX1遺伝子発現亢進剤を含有する、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物。
【請求項3】
角層細胞におけるSS結合を増加させる成分を含む、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物。
【請求項4】
前記成分が麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスである、請求項3に記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
角層細胞におけるSS結合量を指標とする、シワリスクの鑑別法。
【請求項6】
角層細胞におけるQSOX1遺伝子発現量を指標とする、シワリスクの鑑別法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はQuiescin Sulfhydryl Oxidase 1(以降、QSOX1と記す)遺伝子発現亢進剤に関し、さらにこれを含有するシワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物に関する。また、シワリスクの鑑別法にも関する。
【背景技術】
【0002】
シワは、皮膚の老化症状のひとつであり、見た目に分かりやすいことから顔の印象に大きく影響する。そのため、シワとその予防や改善方法に対する関心は非常に高い。
従来、ムコ多糖類やコラーゲン等の保水力を有する高分子を含有する皮膚外用剤による保湿という手段が、シワを改善するために採られてきた。しかしながら、それだけではシワを十分に改善することはできなかった。
また、近年の研究においては、皮膚の老化症状は、加齢が重要な因子であることに加えて、乾燥、酸化、糖化、紫外線なども大きく関与する因子であることが分かってきており、これらの因子が真皮における主要な細胞である線維芽細胞を劣化させ、皮膚の弾力を失わせるためにシワを発生させると考えられている。そのため、線維芽細胞における皮膚の弾力を取り戻すことを企図して、ヒアルロン酸合成促進、エラスターゼ活性抑制、コラーゲンの合成促進・分解抑制といったメカニズムをもって真皮に刻まれた深いシワの改善に挑むことがなされている。
一方、いわゆるちりめんジワなどの浅いシワは、表皮角層に折れ曲がり刺激が加わることで、表皮の変形が生じて生じる。従来、真皮に刻まれた深いシワと異なり、そのような表皮の折れ曲がりシワの予防や改善についてはあまり着目されてこず、せいぜい保湿で対処する手段しかなかった。
【0003】
ところで、角層細胞の細胞膜はSS結合により架橋されており、その結合は角層の分化と相関していることが知られている。すなわち、角層においてSH/SS比が大きいほど角層の分化が未熟であり、バリア機能が低いとされており、SS結合量から皮膚バリア機能を評価する方法が一般に知られている(非特許文献1)。しかしながら、角層細胞におけるSS結合の機能については、皮膚バリア機能との関係以外は知られていない。
なお、角層細胞におけるSS結合は、SS結合架橋酵素であるQSOX1によって生成されると考えられている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Masaki et al., YAKUGAKU ZASSHI 139, 371-379 (2019)
【非特許文献2】C. Thorpe et al., J. Biol. Chem., 282 (19), 13929-33 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シワ、特に表皮形状の変形により生じる浅いシワ(表皮折れ曲がりシワ)を解消するための技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、角層細胞のSS結合は角層の構造形成を担っており、角層細胞のSS結合量と表皮形状の変形により生じるシワとの間に相関関係が存することを見出した。これによりシワの生じやすさやシワの回復しにくさ(以降「シワリスク」という)を鑑別する手段に想到した。また、シワを予防及び/又は改善するためには、角層におけるSS結合が重要なことがわかったため、これを増加
させることによりシワを予防及び/又は改善することができることに想到し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスを含有する、QSOX1遺伝子発現亢進剤。
[2][1]に記載のQSOX1遺伝子発現亢進剤を含有する、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物。
[3]角層細胞におけるSS結合を増加させる成分を含む、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物。
[4]前記成分が麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスである、[3]に記載の皮膚外用組成物。
[5]角層細胞におけるSS結合量を指標とする、シワリスクの鑑別法。
[6]角層細胞におけるQSOX1遺伝子発現量を指標とする、シワリスクの鑑別法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、角層細胞においてQSOX1遺伝子の発現を亢進させる成分が提供される。また、かかる成分を組成物に含有させることにより抗シワ用組成物とすることができる。
本発明により、角層細胞におけるQSOX1遺伝子の発現を亢進させる成分が提供される。該遺伝子により加齢により減少する角層におけるSS結合が増加するため、表皮形状の変形(折れ曲がり)を回復しやすくし、またシワになりにくい肌へ導くことができる。また、SS結合の増加により肌のバリア機能を高めることができる。かかる成分は、従来の真皮におけるシワをターゲットとする抗シワ成分とは異なり、表皮形状の変形により生じる浅いシワ(表皮折れ曲がりシワ)を角層への働きかけにより予防及び/又は改善するものであり、消費者に新たな美容手段の選択肢を提供するものである。
さらに本発明により、シワリスクを鑑別する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】被検者の目じりと口角の交点の角層におけるSS結合部位を蛍光染色にて検出し蛍光顕微鏡で観察したときの撮像単位面積当たりの平均輝度値と、被験者の年齢との相関を示すグラフ。
【
図2】被検者のほうれい線の角層におけるSS結合部位を蛍光染色にて検出し蛍光顕微鏡で観察したときの撮像単位面積当たりの平均輝度値と、被験者の年齢との相関を示すグラフ。
【
図3】被検者の目じりと鼻下点の交点の角層におけるSS結合部位を蛍光染色にて検出し蛍光顕微鏡で観察したときの撮像単位面積当たりの平均輝度値と、被験者の年齢との相関を示すグラフ。
【
図4】皮膚試料のシワ形成部位の撮像におけるシワ部位と非シワ部位との平均輝度値の差を示すグラフ。
【
図5】麦門冬エキスを添加又は非添加してインキュベートしたときの表皮角化細胞におけるQSOX1遺伝子の発現量を表すグラフ。発現量は溶媒コントロールを1としたときの相対量である。
【
図6】パウダルコ樹皮エキスを添加又は非添加してインキュベートしたときの表皮角化細胞におけるQSOX1遺伝子の発現量を表すグラフ。発現量は溶媒コントロールを1としたときの相対量である。
【
図7】麦門冬エキスを含有製剤を連用した皮膚における、連用前後のシワ本数を示すグラフ(n=34、平均値±標準偏差、対応のあるt検定、**:p<0.01)。
【
図8】麦門冬エキスを含有製剤を連用した皮膚における、連用前後の皮膚の浅い部分の力学特性(戻り率)を示すグラフ(n=34、平均値±標準偏差、対応のあるt検定をBonferroni法により補正、***:p<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1>QSOX1遺伝子発現亢進剤
本発明の剤は、麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスを有効成分として含有する。
麦門冬エキスは、キジカクシ科ジャノヒゲ属ジャノヒゲ(Ophiopogon japonicus)の根である麦門冬の抽出物である。
パウダルコ樹皮エキスは、ノウゼンカズラ科ハンドロアンサス属パウダルコ(androanthus impetiginosus)の樹皮の抽出物である。
【0011】
上記抽出物は、抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物又は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味するものとする。
また、抽出物としては、通常化粧料や医薬品等の皮膚外用剤や経口摂取組成物に用いられるものであればよく、植物体から常法により抽出されたものを用いることができる。
【0012】
抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3-ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される一種又は二種以上が好適に用いられる。
【0013】
具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位又はその乾燥物1質量部に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却した後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0014】
本発明の剤における麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスの含有量は、組成物全体に対して、固形物換算で0.00001~0.09質量%が好ましく、0.00005~0.03質量%がより好ましく、0.0001~0.003質量%がさらに好ましい。
含有量を上記範囲とすることで所望の効果を得やすく、また処方設計の自由度を確保できる。
なお、上記含有量は、後述する投与経路や含有させる組成物の態様に合わせて適宜調整することができる。
【0015】
麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスは、いずれもQSOX1遺伝子の発現を亢進する作用を有する。すなわち、これらの抽出物はそれぞれ、QSOX1遺伝子発現亢進剤の有効成分である。
【0016】
なお、任意の物質のQSOX1遺伝子発現亢進作用は、対象物質を添加した細胞におけるQSOX1遺伝子発現量が、添加しなかった細胞における発現量よりも大きいこと、通常110%以上、好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上となることにより確認することができる。QSOX1遺伝子の発現量は、例えば、QSOX1遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用いてPCRを行い、mRNA量を測定することにより行うことができる。また、例えば、QSOX1遺伝子によりコードされるタンパク質の細胞内存在量を、常法により定量的に測定して、QSOX1遺伝子の発現量としてもよい。
【0017】
後述の実施例に示されるように、SS結合量が小さい角層の皮膚においては折れ曲がりシワが残りやすく、復元しにくい。このことから、角層においてSS結合量を増加させる
成分は、皮膚における、特に皮膚の浅い部分にある角層における、折れ曲がりシワ(表皮の変形)からの復元を促すことができ、シワを改善しやすくしたり予防したりする効果を奏することが期待される。そのため、本明細書は別の態様として、角層細胞におけるSS結合を増加させる成分を含む、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物をも提供する。そして、角層細胞におけるSS結合は、SS結合架橋を生成させる酵素であるQSOX1により生成されると考えられているため、QSOX1遺伝子の発現を亢進させる成分は、角層におけるSS結合量が増加させることにより、シワの予防及び/又は改善用の皮膚外用組成物の有効成分となり得る。
ここで、シワの改善とは、皮膚の、特に皮膚の浅い部分にある角層における、変形に起因する表皮の折れ曲がりの程度が軽減することをいい、シワの本数、シワの深さ、又は皮膚の変形の程度の大きさが減少することを含んでよい。またシワの予防とは、シワの形成が進行することを低減させたり、遅らせたりすることを含んでよい。
【0018】
本発明の剤の投与経路は、経皮、経口、経鼻、静脈注射等、特に限定されないが、経皮投与されることが好ましい。なお、ここで「投与」は「摂取」と置換されてもよい。
本発明の剤及び組成物の投与量としては、特に限定されないが、所望の効果と安全性とを考慮して、麦門冬エキス及び/又はパウダルコ樹皮エキスの総量として、固形物換算で0.3~300μg/日を1回又は数回に分けて摂取されることが好ましい。また、単回摂取する他に、連続的に又は断続的に数週間~数か月の間摂取することが好ましい。
【0019】
本発明の皮膚外用組成物の態様としては、皮膚に外用で適用されるものであれば特に限定されないが、化粧料(医薬部外品を含む)、医薬品等が好ましく挙げられ、化粧料がより好ましい。
本発明の皮膚外用組成物を塗布する部位は特に限定されないが、通常は顔面、四肢、首、デコルテである。
【0020】
皮膚外用組成物の剤型としては、例えば、ローション剤型、乳液やクリーム等の乳化剤型、オイル剤型、ジェル剤型、パック、洗浄料等が挙げられ、特に限定されない。
また、皮膚外用組成物の態様としては、リーブオンタイプ、リーブオフタイプのいずれでも構わない。
【0021】
本発明の皮膚外用組成物の製造に際しては、化粧料、医薬部外品、医薬品などの製剤化で通常使用される成分を任意に配合することができる。
かかる任意成分としては例えば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリーブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
【0022】
<2>鑑別法
本発明の鑑別法は、角層細胞におけるSS結合量又は角層細胞におけるQSOX1遺伝子の発現量を指標として、シワリスクを鑑別するものである。
【0023】
後述の実施例に示される通り、加齢に伴い角層のSS結合量は減少する傾向が認められる。また、SS結合量が小さい角層の皮膚においては折れ曲がりシワが残りやすく、復元しにくいことが分かった。そして、角層細胞におけるSS結合は、SS結合架橋を生成させる酵素であるQSOX1により生成されると考えられている。したがって、角層細胞におけるSS結合量及びそれに寄与するQSOX1遺伝子の発現量は、シワのなりやすさや、表皮の変形の戻りやすさを反映するため、シワリスクを鑑別する指標となり得る。
本発明の鑑別法は、これらの相関関係に基づいて、角層細胞におけるSS結合量又はQSOX1遺伝子発現量が大きい又は小さいかによって、シワリスクを推定するものである。
【0024】
本発明の鑑別法において、QSOX1遺伝子の発現量は、QSOX1遺伝子のmRNA発現量や、前記遺伝子によりコードされるタンパク質の翻訳量又は存在量であってよい。
角層細胞におけるSS結合量又はQSOX1遺伝子発現量は、常法により測定することができる。
【0025】
本発明の鑑別法において、角層細胞におけるSS結合量又はQSOX1遺伝子発現量が、大きい場合はシワリスクが低いと推定され、小さい場合はシワリスクが高いと推定される。かかる推定は、予め用意した基準に当てはめて行うことができる。
例えば、パネラーにおいて測定された、角層細胞におけるSS結合量又はQSOX1遺伝子発現量と、シワの個数や所定の基準で採点したシワスコア等とを、多変量解析のソフトウェアを利用するなどして相関分析及び回帰分析を行って推定式を作成して、基準を作成することができる。
推定式を作成するに際して測定標準となるパネラーは、特に限定されないが、好ましくは30名以上、より好ましくは50名以上、さらに好ましくは100名以上であることが、解析の正確性を確保するため好ましい。また、年齢は20~60代というように広範囲に偏りなく分布させることが好ましく、必要によっては年齢の要素を加味した推定式を作成してもよい。また、性別もそろえることが好ましい。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<試験例1>年齢と角層のSS結合量との関係の検討
20~60代の日本人の健常女性(平均45.1±11.5歳)21名を被験者とした。被験者の全顔をクレンジングと洗顔料とを用いてダブル洗顔した。室温20±5℃、湿度50%の環境で10分間馴化した。被験者の全顔をVISIA-CR(Canfield Scientific社)で撮影した。被験者の右顔の4か所(目じりと口角の交点、、ほうれい線、及び目じりと鼻下点の交点)から最外層の角層をテープストリッピングにより採取した。採取した角層のSS結合部位を後述の手順で転写し、染色した。染色した角層を蛍光顕微鏡KEYENCE BZ-X800(Keyence社)で観察し、撮影した。Photoshop(Adobe社)を用いて撮影した1画像より2か所100μm×100μmずつ切り出した。ImageJ(http://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、Image >Type >8bitで白黒画像に変換し、Image > Adjust > Threshold(閾値:12~255)で二値化し、Analyze > Measureで切り出した画像の平均輝度値を算出した。
【0028】
SS結合部位の転写及び染色手順(Y. Kobayashi, 順天堂医学, 36(2), 198-206 (1990)を参照):
角層をガラスに貼り付けて、キシレンに室温で一晩浸漬した。別の容器に用意したキシレンに室温でさらに10分間浸漬した。さらに別の容器に用意したキシレンに室温で10分浸漬したのち、風乾した。風乾後の角層を、TASバッファー(0.85%NaCl、
0.01mol/L、Tris-actateバッファー)に室温で5分間浸漬した。遮光して2μg/mL Dylight633マレイミド(Thermo Scientific社)のTASバッファー溶液に2時間浸漬した後、MilliQ水で洗浄した。再度TASバッファーに室温で5分間浸漬した後、40mmol/L DTT及び0.5mmol/L EDTA(同人化学研究所)のTASバッファー溶液に37℃で10分間浸漬し、その後にMilliQ水で洗浄した。再度TASバッファーに室温で5分間浸漬した後、遮光して0.01mmol/L DACM(AdipoGen社)のTASバッファー溶液に室温で5分間浸漬した。その後にMilliQ水で洗浄し、Fluoromount-G(コスモバイオ社)を用いて、封入した。
【0029】
結果を
図1~3に示す。目じりと口角の交点において、有意に加齢に伴いSS結合の量が減っていることが確認された(
図1)。また、ほうれい線と目じりと鼻下点の交点においては、有意差な相関はないものの、加齢に伴いSS結合の量が減少傾向にあることが確認された(
図2、3)。これらの結果から、加齢に伴い角層のSS結合量は減少する可能性が示唆され、角層のSS結合量が肌の老化トラブルに関係する可能性が推測された。
【0030】
<試験例2>角層のSS結合量と皮膚の変形からの復元性との関係の検討
凍結皮膚試料1~3(それぞれ49歳、44歳、及び33歳のコーカソイド女性の腹部から採取したもの)から、2cm×2cmの皮膚切片を2枚ずつ作成した。6ウェルプレートに0.5mmol/L EDTAのTASバッファー溶液(還元剤なし試薬)、又は40mmol/L DTT及び0.5mmol/L EDTAのTASバッファー溶液(還元剤あり試薬)を3mLずつ添加した。角層の面が下になるように前記6ウェルプレートに皮膚切片を置き、37℃で60分間浸漬した。取り出した皮膚切片を、同一皮膚試料どうしで横に並べ、定規を上に乗せて200gの重りを乗せて30秒間静置することにより、皮膚試料に対して折れ曲がりシワを形成させた。重りと定規を取り除き、同一皮膚試料どうしで横に並べ、シワ形成部位に影が落ちるように照明を当てて、シワ形成後1分間ごとに90分後まで皮膚試料表面を撮影した。なお、シワが深いほど影が深く入る為輝度地が低くなり、非シワ部位との輝度値の差が大きくなる。シワ形成後30分後に得られた画像に対して、試験例1と同様にImageJを用いて二値化を行い、形成されたシワ部位及びその近傍の非シワ部位の平均輝度値の差を算出した。なお、シワ形成直後ではなく、シワ形成30分後の画像を判定に用いることにより、折れ曲がりシワ(皮膚の変形)からの復元能力を判定することとした。
【0031】
図4に、前記皮膚試料のシワ形成部位の撮像におけるシワ部位と非シワ部位との平均輝度値の差を示す。還元剤によりSS結合の切断を行った皮膚試料では、SS結合の切断を行わなかった皮膚試料よりも、シワ部位と非シワ部位との平均輝度値の差が大きかった。この結果から、SS結合量が小さい角層の皮膚においては折れ曲がりシワが残りやすく、復元しにくいことが分かった。このことから、角層においてSS結合量を増加させることにより、折れ曲がりシワ(表皮の変形)からの復元を促すことができ、シワを改善しやすくしたり予防できることが示唆された。
【0032】
<参考例1>
以下の手順で、各種エキスを調製した。
麦門冬エキス:乾燥した麦門冬(キジカクシ科ジャノヒゲ属ジャノヒゲの根)を粉砕し、10倍量の30%1,3-ブチレングリコール水溶液を加えて、還流して抽出した液を、凍結乾燥により粉末化した。
パウダルコ樹皮エキス:乾燥したノウゼンカズラ科ハンドロアンサス属パウダルコの樹皮を粉砕し、10倍量の30%1,3-ブチレングリコール水溶液を加えて、還流して抽出した液を、凍結乾燥により粉末化した。
【0033】
<試験例3>表皮角化細胞における被験エキスのQSOX1遺伝子発現量への影響の検討
-150℃で保管していた正常ヒト表皮角化細胞((NHEK:Normal Human Epidermal Keratinocytes、新生児、男性、Caucasian、)を起眠し、37℃・5%CO2環境下で5日間培養した。NHEKを回収し、8.0×104cells/mLとなるようにNHEK用培地HUMedia-KG2(クラボウ社)を用いてで希釈した。24ウェルプレートに各培地を500μL/ウェルずつ播種し(4.0×104cells/ウェル)、37℃・5%CO2環境下で一晩培養した。培養後、培地を除去し、固形分濃度が麦門冬エキスは0.03質量%に、パウダルコ樹皮エキスは1.0質量%になるようにそれぞれ調整した被験エキスを含有するNHEK用培地、又は被験エキスに代えて1,3-BGを含有するNHEK用培地に交換して、さらに48時間培養した。培養後に細胞をPBS(-)で洗浄して回収し、QIAshredder、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてQIAcube(QIAGEN社製)にてRNAを抽出した。抽出したRNAをSuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrigen社製)を用いてcDNA化し、SYBR(QIAGEN社製)を用い、QuantStudio 7(Applied Biosystems社製)にてRT-qPCRを行い、QSOX1遺伝子の各発現量を解析した。内在性コントロールとしては、β-Actin遺伝子を用いた。
被験エキスとしては、いずれも参考例1の方法で調製したものを用いた。
【0034】
図5、6に、各エキスを添加した表皮角化細胞におけるQSOX1遺伝子の各mRNA発現量を、溶媒対照(コントロール)の表皮角化細胞における各遺伝子のmRNA発現量を1とした場合の相対値で示した。
いずれのエキスを添加した表皮角化細胞においても、QSOX1遺伝子の各mRNA発現量がコントロールに対して有意に増加することが認められた。この結果から、麦門冬エキス及びパウダルコ樹皮エキスはそれぞれ、QSOX1遺伝子発現亢進作用を有することが示された。QSOX1は表皮角層においてSS結合架橋を生成させる酵素であると考えられていることから、QSOX1遺伝子の発現を亢進することにより角層におけるSS結合量が増加し、シワを予防又は改善することができることが推測される。
【0035】
<試験例3>
表1に示す処方で、QSOX1遺伝子発現亢進剤として麦門冬エキスを含有する製剤(皮膚外用組成物)を調製した。
30~50代の日本人女性を34名を被験者とし、前記皮膚外用組成物を適量ずつ、1日2回、12週間連続して全顔に塗布してもらった。
試験開始前、連用開始6週間後、及び連用開始12週間後に、VISIA(登録商標)-Evolutionを用いて全顔を撮影し、シワ本数を算出した。また、試験開始前、連用開始6週間後、及び連用開始12週間後に、Cutometer(Courage+Khazaka社製)を用いて、吸引圧150mbarで頬部の戻り率(Ur/Uf)を測定した。かかる測定パラメータは、角層を含む皮膚の浅い部分の力学特性を反映するとされている。
【0036】
図7に、連用試験前後のシワ本数を示す。QSOX1遺伝子発現亢進剤を含有する組成物の塗布により、シワの本数が有意に減少したことが認められた。そのため、本発明のQSOX1遺伝子発現亢進剤及びこれを含有する皮膚外用組成物は、シワの予防及び/又は改善効果を奏することがわかる。
図8に、連用試験前後の皮膚の浅い部分の力学特性(戻り率)を示す。QSOX1遺伝子発現亢進剤を含有する組成物の塗布により、QSOX1の作用点である角層において戻り率が優位に増加したことが認められた。そのため、本発明のQSOX1遺伝子発現亢進剤及びこれを含有する皮膚外用組成物は、角層においてQSOX1遺伝子の発現を亢進させ、それにより角層におけるSS結合が増加して、皮膚の浅い部分における変形を抑制、すなわち変形しにくくする効果を奏することがわかる。
【0037】
本発明により、表皮角化細胞においてQSOX1遺伝子の発現を亢進させる成分が提供される。また、かかる成分を組成物に含有させることにより皮膚の変形シワを改善又は予防することができる皮膚外用組成物とすることができる。さらに本発明により、シワリスクを鑑別する方法が提供される。これらの発明は、美容業界における開発に貢献し、また消費者の需要に応えるものであり、産業上非常に有用である。