(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132913
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】繊維樹脂複合体シート、装身具および自動車用内装材
(51)【国際特許分類】
D06N 7/06 20060101AFI20240920BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D06N7/06
C08J5/04 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026897
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023040788
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 昭秀
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 啓
(72)【発明者】
【氏名】名倉 玲生
(72)【発明者】
【氏名】奈木 沙織
(72)【発明者】
【氏名】植草 貴行
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 純治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和俊
【テーマコード(参考)】
4F055
4F072
【Fターム(参考)】
4F055AA21
4F055AA27
4F055BA02
4F055EA08
4F055EA22
4F055FA05
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4F055GA22
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB03
4F072AB10
4F072AB28
4F072AB31
4F072AD02
4F072AD04
4F072AD52
4F072AG07
4F072AG20
4F072AH06
4F072AH49
4F072AL01
4F072AL02
(57)【要約】
【課題】シートの裁断面に毛羽が発生しにくい繊維樹脂複合体シートを提供すること。
【解決手段】繊維集合体と、前記繊維集合体に含浸された樹脂組成物とを含む繊維樹脂複合体シート。前記樹脂組成物は下記要件(A-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む。前記繊維樹脂複合体シートは、前記繊維樹脂複合体シートを厚み方向に裁断した断面における、前記繊維樹脂複合体シートの面積に対する前記樹脂組成物が前記繊維集合体に含浸していない未含浸部の面積の比率である空隙率が36%以下である。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有率が65モル%以上90モル%未満であり、エチレン、および炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)からなる群から選択されるモノマーから導かれる構成単位の含有率が10モル%を超え35モル%以下である
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体と、前記繊維集合体に含浸された樹脂組成物とを含む繊維樹脂複合体シートであって、
前記樹脂組成物は下記要件(A-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含み、
前記繊維樹脂複合体シートを厚み方向に裁断した断面における、前記繊維樹脂複合体シートの面積に対する前記樹脂組成物が前記繊維集合体に含浸していない未含浸部の面積の比率を前記繊維樹脂複合体シートの空隙率としたとき、前記空隙率が36%以下である、
繊維樹脂複合体シート。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が65モル%以上90モル%未満であり、エチレン、および炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)からなる群から選択されるモノマーから導かれる構成単位(AQ)の含有率が10モル%を超え35モル%以下である
【請求項2】
前記構成単位(AQ)が、エチレン、および炭素原子数3~4のα-オレフィンからなる群から選択されるモノマーから導かれる構成単位を含む、
請求項1に記載の繊維樹脂複合体シート。
【請求項3】
前記空隙率が20%以下である、
請求項1又は請求項2に記載の繊維樹脂複合体シート。
【請求項4】
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、更に下記要件(A-b)を満たす、
請求項1又は請求項2に記載の繊維樹脂複合体シート。
(A-b)示差走査型熱量計(DSC)による測定で融点(Tm)が観測されない
【請求項5】
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、更に下記要件(A-c)及び(A-d)を満たす、
請求項4に記載の繊維樹脂複合体シート。
(A-c)-40~150℃の温度範囲、周波数10rad/s(1.6Hz)での動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδのピーク温度が、15℃~45℃である
(A-d)-40~150℃の温度範囲、周波数10rad/s(1.6Hz)での動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδのピーク値が、1.0~5.0の範囲にある
【請求項6】
前記繊維集合体が、炭素繊維を含む、
請求項1又は請求項2に記載の繊維樹脂複合体シート。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の繊維樹脂複合体シートを含む、装身具。
【請求項8】
請求項1又は請求項2項に記載の繊維樹脂複合体シートを含む、自動車用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維樹脂複合体シート、装身具および自動車用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックが知られている。繊維強化プラスチックは、繊維と、繊維に含浸された樹脂組成物とを含む。繊維強化プラスチックの成形物は、優れた強度を有する。また、繊維強化プラスチックの成形物は、屈曲し難い性質を有する。
【0003】
一方、日用品や自動車用内装材料などの用途によっては、繊維強化プラスチックには、屈曲し易い性質(易屈曲性)が要求される場合がある。また、これらの用途には、屈曲後に復元し易い性質(屈曲復元性)が要求される場合がある。そこで、屈曲し易く屈曲後に復元し易い繊維強化プラスチックとして、織物に熱可塑性樹脂をラミネートさせた繊維樹脂複合体シートが研究されている。
【0004】
屈曲可能な繊維樹脂複合体シートとして、特許文献1には、炭素繊維布帛の両面に、熱可塑性のエラストマーフィルムもしくはゴムフィルムがラミネートしてなる炭素繊維強化樹脂加工シートが記載されている。また、特許文献2には、ポリエステル繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの織物に熱可塑性エラストマーとして、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーや軟質ポリ塩化ビニル(軟質PVC)を熱ラミネートさせた複合膜材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-179667号公報
【特許文献2】特開2022-242085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の熱可塑性エラストマーを中心に用いた上記の繊維樹脂複合体シートでは、熱可塑性エラストマーが極性を有するため炭素繊維表面の収束剤などとの密着性が良く、高い機械強度を発現することが可能である。しかし、特にポリウレタン系熱可塑性エラストマーと積層された炭素繊維樹脂加工シートは、内部まで完全に含浸させると材料が硬くなりすぎて折り曲げ性や触感に劣るため、表面のみに樹脂が含浸されていることが多い。これによりシート裁断時に裁断面から繊維の端部が樹脂から出てしまい(毛羽が発生し)、かゆみなどを誘発する場合があった。
【0007】
上記課題をもとに、本発明は、シートの裁断面に毛羽が発生しにくい繊維樹脂複合体シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[1]~[6]の繊維樹脂複合体シートに関する。
[1]繊維集合体と、前記繊維集合体に含浸された樹脂組成物とを含む繊維樹脂複合体シートであって、
前記樹脂組成物は下記要件(A-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含み、
前記繊維樹脂複合体シートを厚み方向に裁断した断面における、前記繊維樹脂複合体シートの面積に対する前記樹脂組成物が前記繊維集合体に含浸していない未含浸部の面積の比率を前記繊維樹脂複合体シートの空隙率としたとき、前記空隙率が36%以下である、
繊維樹脂複合体シート。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が65モル%以上90モル%未満であり、エチレン、および炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)からなる群から選択されるモノマーから導かれる構成単位(AQ)の含有率が10モル%を超え35モル%以下である
[2]前記構成単位(AQ)が、エチレン、および炭素原子数3~4のα-オレフィンからなる群から選択されるモノマーから導かれる構成単位を含む、
[1]に記載の繊維樹脂複合体シート。
[3]前記空隙率が20%以下である、
[1]又は[2]に記載の繊維樹脂複合体シート。
[4]前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、更に下記要件(A-b)を満たす、
[1]~[3]のいずれかに記載の繊維樹脂複合体シート。
(A-b)示差走査型熱量計(DSC)による測定で融点(Tm)が観測されない
[5]前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、更に下記要件(A-c)及び(A-d)を満たす、
[4]に記載の繊維樹脂複合体シート。
(A-c)-40~150℃の温度範囲、周波数10rad/s(1.6Hz)での動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδのピーク温度が、15℃~45℃である
(A-d)-40~150℃の温度範囲、周波数10rad/s(1.6Hz)での動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδのピーク値が、1.0~5.0の範囲にある
[6]前記繊維集合体が、炭素繊維を含む、
[1]~[5]のいずれかに記載の繊維樹脂複合体シート。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、下記[7]の装身具に関する。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の繊維樹脂複合体シートを含む、装身具。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、下記[8]の自動車用内装材に関する。
[8][1]~[6]のいずれかに記載の繊維樹脂複合体シートを含む、自動車用内装材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維樹脂複合体シートは、シートの裁断面に毛羽が発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1A、
図1Bおよび
図1Cはそれぞれ、実施例1、実施例2および比較例1のシートの、厚み方向中央近辺の断面をSEMで撮像し、シート表面から内部にかけて空隙の部分を中心に画像をトリミングして得られた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の好ましい実施形態の一例を開示し、詳細に説明する。
【0014】
以下の説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
【0015】
<繊維樹脂複合体シート>
以下、本発明の繊維樹脂複合体シートについて説明する。
【0016】
本発明の繊維樹脂複合体シートは、繊維集合体に含浸された4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含む。前記繊維樹脂複合体シートを厚み方向に裁断した断面における、前記繊維樹脂複合体シートの面積に対する、前記樹脂組成物が前記繊維集合体に含浸していない未含浸部の面積の比率(空隙率)が36%以下である。ここで、前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が65モル%以上90モル%未満であり、エチレン、および炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(AQ)の含有率が10モル%を超え35モル%以下である。
【0017】
繊維樹脂複合体シートが上述した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含み、なおかつ空隙率が36%以下であることで、繊維樹脂複合体シートの裁断面に毛羽が発生しにくくなる。また、これにより、繊維樹脂複合体シートに荷重をかけて折り曲げたりしても、外観に亀裂やシワ、折り曲げ跡および凹みが時間経過とともに消失しやすくなる。
【0018】
空隙率は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。上記比率の下限は特に限定されないが、0%以上とすることができる。空隙率が低いことは、樹脂組成物が繊維集合体の中部まで十分含浸されているか、繊維の周囲に樹脂が十分に含浸されていることを意味する。繊維の周囲に樹脂が十分に含浸されていると、裁断した際に短くカットされた繊維の端部が樹脂からはみ出しにくい(毛羽立ちが生じにくい)。
【0019】
また、折り曲げや荷重から解放した直後にも、繊維樹脂複合体シートにシワ、折り曲げ跡および凹みを生じにくくする観点から、空隙率は20%~24%であってもよい。
【0020】
空隙率は、以下の測定、解析方法により算出したものである。
【0021】
繊維樹脂複合体シートの任意の断面を高分解能走査型顕微鏡(SEM)で観察する。倍率500倍の観察により得られた拡大画像を用い、繊維集合体/樹脂組成物の表面から裏面の部分の繊維樹脂複合体シートのみが画像中に残るようにトリミングした二次画像を作成する。得られた二次画像を、画像解析ソフト(ImageJ)に読み込み、コマンド:Process、Binary、Make Binaryを行って二値化画像処理した。この時、繊維集合体及び樹脂組成物が充填されているエリアを白塗りし、空隙の領域を黒塗りする。この際に、樹脂組成物の部分を白塗りするために、コマンド:Image、Adjust、Threholdで閾値を統制する。続いて観察視野の面積における繊維集合体、及び樹脂組成物の部分を除いた、空隙部分の面積%(白色領域のArea Fraction)を、コマンド:Analyse、Analyzeにより算出する。
【0022】
なお、空隙率を観察する際の倍率は、繊維樹脂複合体シートの種類に応じて変更してもよい。このとき、シートの厚み方向の全体が観察視野縦方向に収まるように倍率を決定する。
【0023】
本発明の繊維樹脂複合体シートは、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含む。以下、樹脂組成物に含まれ得る、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)、その他の重合体(B)およびその他の成分について説明する。
【0024】
<4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、以下の要件(A-a)を満たす。また、以下の要件(A-b)~(A-d)の1つまたはいずれかを更に満たすことが好ましい。
【0025】
下記要件を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、樹脂組成物の応力緩和性を高める。そのため、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、繊維樹脂複合体シートを折り曲げたりさらに荷重をかけたりした後に、樹脂組成物をゆっくりと流動させて元の形状に戻していく。これにより、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、上記折り曲げや荷重により発生したシワ、折り曲げ跡および凹みを時間経過とともに消失させる。
【0026】
また、下記要件を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の表面に存在する微小な凹凸に入り込みやすいため、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)に極性部位がなくても繊維集合体に密着しやすい。そのため、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)空隙率が0%(繊維集合体に完全に樹脂組成物が含浸された状態)ではなくても、裁断時の毛羽立ちを抑えることができる。
【0027】
要件(A-a):
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の含有率が65モル%以上90モル%未満の割合であり、エチレン、または4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数3以上20以下の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)の含有率が10モル%を超え35モル%以下である
【0028】
構成単位(P)の含有率は65モル%以上90モル%未満であり、折り曲げや荷重により発生したシワ、折り曲げ跡および凹みを時間経過とともに消失させやすくする観点から、好ましくは68モル%以上90モル%未満であり、より好ましくは68モル%以上88モル%未満であり、特に好ましくは68モル%以上80モル%未満である。
【0029】
構成単位(AQ)の含有率(構成単位(AQ)が2種以上である場合は当該2種以上の合計の含有率)は、10モル%を超え35モル%以下であり、折り曲げや荷重により発生したシワ、折り曲げ跡および凹みを時間経過とともに消失させやすくする観点から、好ましくは10モル%を超え32モル%以下であり、より好ましくは12モル%を超え32モル%以下であり、特に好ましくは20モル%を超え32モル%以下である。
【0030】
構成単位(AQ)を形成する、エチレン、および4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数3以上20以下の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィンとしては、引張破断伸びの異方性及び引裂強さの異方性を低減する観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが好ましく、エチレン、炭素原子数3~4のα-オレフィン、すなわちエチレン、プロピレン、1-ブテンが更に好ましく、プロピレンが特に好ましい。言い換えると、構成単位(AQ)は、好ましくはエチレン、炭素原子数3~4のα-オレフィンから導かれる構成単位、特に好ましくはプロピレンから導かれる構成単位である。
【0031】
また、上記構成単位(AQ)を導くモノマーとしてエチレン、または炭素数3以上20以下の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィンを用いると、得られる繊維樹脂複合体シートの柔軟性と緩和性も向上する。
【0032】
構成単位(AQ)を導くエチレンおよび直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)、及びエチレン、または4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数3以上20以下の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィンから導かれる構成単位(AQ)以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成単位の含有率は、たとえば0~10モル%である。
【0034】
上記その他の構成単位を導くモノマーとしては、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィン等が含まれる。
【0035】
環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、及びハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落0035~0041に記載の化合物を用いることができる。
【0036】
上記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、ビニルシクロヘキサン、スチレンが特に好ましい。
【0037】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)に、上記その他の構成単位が含まれる場合、上記その他の構成単位は、1種のみ含まれていてもよく、また、2種以上含まれていてもよい。
【0038】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)における各構成単位の含有率(モル%)の値は、後述する実施例に条件を記載した13C-NMRによる測定法により測定した場合のものである。
【0039】
要件(A-b):
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の示差走査型熱量計(DSC)による測定において、融点(Tm)は、観察されないか、又は100℃~199℃の範囲にある
【0040】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記融点(Tm)は、観察されないことが好ましい。
【0041】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記融点(Tm)が上記範囲にある場合、繊維樹脂複合体シートがより柔軟になり、折り曲げ時に亀裂や割れが発生しにくくなる。4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記融点(Tm)が観察されない場合、折り曲げ時に亀裂や割れがさらに発生しにくくなる。
【0042】
要件(A-c):
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、-40~150℃の温度範囲で、周波数10rad/s(1.6Hz)での動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδのピーク温度(以下「tanδピーク温度」ともいう。)が、15℃~45℃である
【0043】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)のtanδピーク温度は、20℃~45℃であることがより好ましく、25℃~45℃であることがさらに好ましい。
【0044】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)のtanδピーク温度が上記の範囲内にある場合、繊維樹脂複合体シートは、室温の緩和性が高くなるため、室温での使用時に折り曲げたりさらに荷重をかけたりした後にゆっくり元の形状に戻りやすく、かつ室温での使用時にシワ、折り曲げ跡および凹みが時間経過とともに消失しやすい。
【0045】
要件(A-d):
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)は、-40~150℃の温度範囲で、周波数10rad/s(1.6Hz)での動的粘弾性測定を行って得られる損失正接tanδの最大値(以下「tanδピーク値」ともいう。)が、1.0~5.0である
【0046】
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)のtanδピーク温度は、1.5~5.0であることが好ましく、2.0~4.0であることがさらに好ましい。4-メチル-1-ペンテン重合体(A)のtanδピーク温度が上記の範囲内にある場合、繊維樹脂複合体シートは使用時にシワ、折り曲げ跡および凹みが時間経過とともに消失しやすく、特に長時間経過後に消失しやすい。
【0047】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)は、更に下記の要件(A-e)~(A-h)の1つ以上を満たすことが好ましく、要件(A-e)~(A-h)の2つ以上を満たすことがさらに好ましく、要件(A-e)~(A-h)の全てを満たすことが特に好ましい。
【0048】
要件(A-e):
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の、デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]は、0.5~4.0dl/gである
【0049】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記極限粘度[η]は、0.5dl/g~3.5dl/gであることがより好ましく、1.0dl/g~3.5dl/gであることがさらに好ましい。
【0050】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の極限粘度[η]が上記範囲内であると、繊維樹脂複合体シートの成形性が良好となる。
【0051】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の極限粘度[η]は、後述する実施例に記載の方法で測定される値である。
【0052】
要件(A-f):
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~3.5である
【0053】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)のMw/Mnは、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)のMw/Mnは、1.1~3.0であることがより好ましい。
【0054】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)のMw/Mnが上記範囲であると、繊維樹脂複合体シートにべたつきが生じにくく、かつ繊維樹脂複合体シートの外観が良好になりやすい。
【0055】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、組成物(X)の成形性を高める観点から、1×104~2×106であることが好ましく、1×104~1×106であることがより好ましい。
【0056】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、後述する実施例に記載の方法により算出される値である。
【0057】
要件(A-g):
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)のJIS K7112―2:2023年(密度勾配管法)に準拠して測定される密度は、ハンドリング性の観点から、830kg/m3~860kg/m3である
【0058】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記密度は、830kg/m3~850kg/m3であることがより好ましい。
【0059】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記密度が上記範囲であると、繊維樹脂複合体シートのハンドリング性が良好となる。
【0060】
要件(A-h):
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の、ASTM D1238に準拠して230℃で2.16kgまたは260℃で5.0kgの荷重にて測定されるメルトフローレート(MFR)は、繊維樹脂複合体シートの耐毛羽性に優れ、かつ、耐折れジワ・シワ戻り性に優れる観点から、好ましくは0.1g/10min~100g/10minであり、より好ましくは、0.5g/10min~50g/10minであることがより好ましく、0.5g/10min~30g/10minであることがさらに好ましい。
【0061】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の上記MFRが上記範囲であると、繊維樹脂複合体シートの裁断面に毛羽が発生しにくくなり、また、繊維樹脂複合体シートを折り曲げたり、さらに荷重をかけたりしても、外観にシワ、折り曲げ跡および凹みが生じにくく、生じたとしても時間経過とともに消失しやすくなる。
【0062】
(4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の製造方法)
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、4-メチル-1-ペンテンと前述のエチレンまたは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)とを、マグネシウム担持型チタン触媒またはメタロセン触媒などの適切な重合触媒存在下で重合することにより製造できる。
【0063】
ここで、使用することができる重合触媒としては、従来公知の触媒、例えば、マグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/53369号、国際公開01/27124号、特開平3-193796号公報、特開平2-41303号公報、国際公開第2011/055803号、国際公開第2014/050817号等に記載のメタロセン触媒などが好適に用いられる。重合は、溶解重合および懸濁重合などを含む液相重合法、ならびに気相重合法などから適宜選択して行うことができる。
【0064】
液相重合法では、液相を構成する溶媒として不活性炭化水素溶媒を用いることができる。上記不活性炭化水素の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、および灯油などを含む脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチル-シクロペンタン、およびメチル-シクロヘキサンなどを含む脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどを含む芳香族炭化水素、ならびにエチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、およびテトラクロロメタンなどを含むハロゲン化炭化水素、ならびにこれらの混合物などが含まれる。
【0065】
また、液相重合法では、前述の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)に対応するモノマー(すなわち、4-メチル-1-ペンテン)、前述のエチレンまたは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(AQ)に対応するモノマー(すなわち、前述のエチレンまたは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテン)自体を溶媒とした塊状重合とすることもできる。
【0066】
なお、上記の4-メチル-1-ペンテンと上記のエチレンまたは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)との共重合を段階的に行うことにより、前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を構成する4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)、および、エチレンまたは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(AQ)の組成分布を適度に制御することもできる。
【0067】
重合温度は、-50~200℃が好ましく、0~100℃がより好ましく、20~100℃がさらに好ましい。重合圧力は、常圧~10MPaゲージ圧であることが好ましく、常圧~5MPaゲージ圧であることがより好ましい。
【0068】
重合の時に、生成するポリマーの分子量や重合活性を制御する目的として、水素を添加してもよい。添加する水素の量は、前述の4-メチル-1-ペンテンの量と前述のエチレンまたは炭素原子数3~20の直鎖状または分岐鎖状のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)の量との合計1kgに対して、0.001~100NL程度が適切である。
【0069】
(4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の含有量)
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0070】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の含有量が上記範囲内であると、繊維樹脂複合体シートの裁断面から毛羽がより発生しにくくなり、かつ繊維樹脂複合体シートを折り曲げたり、さらに荷重をかけたりしたときのシワ、折り曲げ跡および凹みが時間経過とともにより消失しやすくなる。
【0071】
<その他の重合体(B)>
本発明の繊維樹脂複合体シートは、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)以外に、本発明の効果を損なわない範囲でその他の重合体(以下「その他の重合体(B)」とする。)を含んでいてもよい。その他の重合体(B)の例には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン(要件(A-a)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体を除く)、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリオレフィン等の熱可塑性ポリオレフィン樹脂、脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612)、ポリエーテルブロックアミド共重合体等の熱可塑性ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等の熱可塑性ビニル芳香族系樹脂;塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリレート共重合体、アイオノマー、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ETFE等のフッ素系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、ならびに石油樹脂オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、酸変性スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが含まれる。これらの樹脂は1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
その他の重合体(B)は、熱可塑性エラストマーであることが好ましく、オレフィン系エラストマー(B-1)またはスチレン系エラストマー(B-2)であることがより好ましく、スチレン系エラストマー(B-2)であることがさらに好ましい。
【0073】
(オレフィン系エラストマー(B-1))
オレフィン系エラストマー(B-1)の第1の態様としては、エチレンまたはプロピレンと、ブタジエン、水素添加ブタジエン、イソプレン、水素添加イソプレンイソブチレン、またはα-オレフィンと、の共重合体が挙げられる。
【0074】
共重合の形態は、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでもよいが、エチレンまたはプロピレンと、α-オレフィンと、からなる共重合体は、ランダム共重合であってもよい。
【0075】
α-オレフィンとしては、1-ブテンや1-オクテンなどが好ましく用いられる。
【0076】
オレフィン系エラストマー(B-1)としては、例えば硬質部となるポリプロピレン等の結晶性の高いポリマーを形成するポリオレフィンブロックと、軟質部となる非晶性を示すモノマー共重合体とのブロック共重合体が挙げられ、具体的には、オレフィン(結晶性)・エチレン・ブチレン・オレフィンブロック共重合体、プロピレン・オレフィン(非晶性)・プロピレンブロック共重合体等を例示することができる。
【0077】
オレフィン系エラストマー(B-1)の第1の態様の具体例としては、JSR株式会社から商品名:DYNARON(ダイナロン)(登録商標)、三井化学株式会社から商品名:タフマー(登録商標)、ノティオ(登録商標)、ダウケミカル株式会社から商品名:ENGAGE(登録商標)、VERSIFY(登録商標)、エクソンモービルケミカル株式会社から商品名:Vistamaxx(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0078】
オレフィン系エラストマー(B-1)の第2の態様としては、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より選ばれる1つと、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、水素添加スチレンブタジエンからなる群より選ばれる1つと、のブレンド物が挙げられる。このようなブレンド物は、架橋剤の存在下でブレンドすることでポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選ばれる相に、部分的もしくは完全に架橋されたエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、および、エチレン・ブテン共重合体が島相として存在するようなブレンド物が好ましい。
【0079】
オレフィン系エラストマー(B-1)の第2の態様の具体例としては、三井化学株式会社から商品名:ミラストマー(登録商標)、住友化学株式会社から商品名:エスポレックス(登録商標)、三菱ケミカル株式会社から商品名:サーモラン(登録商標)、ゼラス(登録商標)、エクソンモービルケミカル社から商品名:Santoplene(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0080】
また、オレフィン系エラストマー(B-1)は、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、アルコキシシリル基、シラノール基、シリルエーテル基、ヒドロキシル基またはエポキシ基を有するように変性されていてもよい。
【0081】
(スチレン系エラストマー(B-2))
スチレン系エラストマー(B-2)としては、硬質部(結晶部)となるポリスチレンブロックと、軟質部となるジエン系モノマーブロックとのブロック共重合体(SBS)、水添スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(HSBR)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体(SIBS)、スチレン・イソブチレン共重合体(SIB)などを例示することができる。
【0082】
スチレン系エラストマー(B-2)は、1種単独であってもよいし、または、2種以上を併用してもよい。
【0083】
水添スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(HSBR)の具体例としては、JSR株式会社から商品名:ダイナロン(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0084】
スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)は、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)を水素添加してなるものである。SISの具体例としては、JSR株式会社から商品名:JSR SIS(登録商標)として、株式会社クラレから商品名:ハイブラー(登録商標)、またはシェル株式会社から商品名:クレイトンD(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0085】
また、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)の具体例としては、株式会社クラレから商品名:セプトン(登録商標)、またはシェル株式会社から商品名:クレイトン(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0086】
また、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)の具体例としては、旭化成株式会社から商品名:タフテック(登録商標)、またはシェル株式会社から商品名:クレイトン(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0087】
また、スチレン・イソブチレン共重合体(SIB)、スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体(SIBS)の具体例としては、株式会社カネカから商品名:シブスター(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0088】
さらに、スチレン系エラストマー(B-2)の中で、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)と適度な相溶性を有する、クラレ社製のビニルSIS(製品名:ハイブラー、銘柄5127)、ビニルSEPS(製品名:ハイブラー、銘柄7125)、および旭化成社製SEBS(製品名:S.O.E、銘柄:S1605、S1611、およびL609)についても、相溶性、損失正接の極大値を示す温度範囲、損失正接の極大値の大きさの観点から、好ましく用いることができる。
【0089】
(その他の重合体(B)の含有量)
その他の重合体(B)の含有量は、特に制限されないが、上記(A)とその他の重合体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは3質量%以上であり、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、さらにより好ましくは50質量%以下、特に好ましくは45質量%以下である。好ましくは0.5質量%~65質量%、より好ましくは0.5質量%~60質量%、さらに好ましくは1質量%~55質量%、さらにより好ましくは2質量%~50質量%、特に好ましくは3質量%~45質量%である。
【0090】
熱可塑性エラストマーの含有量が上記範囲内にあると、室温での柔軟性及び低温での靭性が向上するため、本発明の繊維樹脂複合体シートにおける触った直後の肌触り等をより良好にすることができる。
【0091】
<その他の成分>
本発明における繊維樹脂複合体シートは、上記4-メチル-1-ペンテン系重合(A)、その他の重合体(B)に加え、その用途に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)、その他の重合体(B)以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0092】
かかる樹脂用添加剤としては、例えば、顔料、染料、充填剤、滑剤、可塑剤、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、界面活性剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、発泡剤、結晶化助剤、防曇剤、(透明)核剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、衝撃改良剤、架橋剤、共架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、加工助剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種単独でも、適宜2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0093】
顔料としては、無機顔料(酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、硫化カドミウム等)、有機顔料(アゾレーキ系、チオインジゴ系、フタロシアニン系、アントラキノン系)が挙げられる。染料としてはアゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系等が挙げられる。これら顔料および染料の含有量は、特に限定されないが、4-メチル-1-ペンテン系重合(A)の総質量に対して、合計で、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0.1~3重量%である。
【0094】
充填剤としてはガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、金属(ステンレス、アルミニウム、チタン、銅等)繊維、カーボンブラック、シリカ、ガラスビーズ、珪酸塩(珪酸カルシウム、タルク、クレー等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、アルミナ等)、金属の炭酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム)および各種金属(マグネシウム、珪素、アルミニウム、チタン、銅等)粉末、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。これらの充填剤は1種単独または2種以上を併用してもよい。
【0095】
滑剤としては、ワックス(カルナバロウワックス等)、高級脂肪酸(ステアリン酸等)、高級アルコール(ステアリルアルコール等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド等)等が挙げられる。
【0096】
可塑剤としては、芳香族カルボン酸エステル(フタル酸ジブチル等)、脂肪族カルボン酸エステル(アセチルリシノレート等)、脂肪族ジアルボン酸エステル(アジピン酸-プロピレングリコール系ポリエステル等)、脂肪族トリカルボン酸エステル(クエン酸トリエチル等)、リン酸トリエステル(リン酸トリフェニル等)、エポキシ脂肪酸エステル(ステアリン酸エポキシブチル等)、石油樹脂等が挙げられる。
【0097】
離型剤としては、高級脂肪酸の低級(C1~4)アルコールエステル(ステアリン酸ブチル等)、脂肪酸(C4~30)の多価アルコールエステル(硬化ヒマシ油等)、脂肪酸のグリコールエステル、流動パラフィン等が挙げられる。
【0098】
酸化防止剤としては、フェノール系(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール等)、多環フェノール系(2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール等)、リン系(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4-ビフェニレンジホスフォネート等)、アミン系(N,N-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン等)の酸化防止剤が挙げられる。
【0099】
難燃剤としては、有機系難燃剤(含窒素系、含硫黄系、含珪素系、含リン系等)、無機系難燃剤(三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、赤リン等)が挙げられる。
【0100】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、アクリレート系等が挙げられる。
【0101】
抗菌剤としては、4級アンモニウム塩、ピリジン系化合物、有機酸、有機酸エステル、ハロゲン化フェノール、有機ヨウ素等が挙げられる。
【0102】
界面活性剤としては非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤を挙げられる。
【0103】
非イオン性界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキシド付加物、脂肪酸エチレンオキシド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物等のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、ポリエチレンオキシド、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビットもしくはソルビタンの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミンの脂肪族アミド等の多価アルコール型非イオン性界面活性剤などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩などが挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチル-アンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、高級アルキルアミノプロピオン酸塩等のアミノ酸型両面界面活性剤、高級アルキルジメチル-ベタイン、高級アルキルジヒドロキシエチルベタイン等のベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0104】
帯電防止剤としては、上記の界面活性剤、脂肪酸エステル、高分子型帯電防止剤が挙げられる。脂肪酸エステルとしてはステアリン酸やオレイン酸のエステルなどが挙げられ、高分子型帯電防止剤としてはポリエーテルエステルアミドが挙げられる。
【0105】
上記充填剤、滑剤、可塑剤、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、界面活性剤、帯電防止剤などの各種添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で用途に応じて、特に限定されないが、4-メチル-1-ペンテン重合体(A)の総質量に対して、合計で、0.1~30質量%であることが好ましい。
【0106】
<繊維集合体>
繊維集合体は、複数の繊維が規則的または不規則に集合してなるシート状の集合体である。繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、金属繊維、および、セルロース繊維が挙げられる。繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0107】
繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、および、セルロース繊維であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。炭素繊維は、繊維樹脂複合体シートの裁断面から毛羽を発生しにくくし、繊維樹脂複合体シートを折り曲げたり、また荷重をかけたりしたときにシワ、折り曲げ跡および凹みを発生しにくくし、かつ発生したシワ、折り曲げ跡および凹みが時間経過とともにより消失しやすくし、さらには、繊維樹脂複合体シートの意匠性を高めることができる。
【0108】
炭素繊維(カーボンファイバー、CF)としては、例えば、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、および、レーヨン系炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。炭素繊維として、好ましくは、PAN系炭素繊維が挙げられる。
【0109】
アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、および、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維が挙げられる。アラミド繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0110】
ポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、および、ポリエチレンナフタレート繊維が挙げられる。ポリエステル繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。ポリウレタン繊維としては、ポリエステル系ポリウレタン繊維およびポリエーテル系ポリウレタン繊維が挙げられる。ポリウレタン繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0111】
セルロース繊維としては、例えば、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、および、ココナツ繊維が挙げられる。木材繊維としては、例えば、木材のパルプから得られる繊維が挙げられる。木材としては、例えば、針葉樹および広葉樹が挙げられる。また、セルロース繊維は、天然繊維であってもよく、工業繊維であってもよい。また、セルロース繊維は、セルロースナノファイバーであってもよい。セルロース繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0112】
特に合成高分子を元に得られる炭素繊維やポリエステル繊維は連続紡糸されるため、特に繊維の長さの上限は制限されないが、25mm以上5000mm以下であることが好ましく、30mm以上2000mm以下であることがより好ましく、50mm以上1000mm以下であることがさらに好ましい。
【0113】
繊維集合体は、繊維を含む繊維材料をシート状に成形することによって得られる。繊維材料をシート状に成形する方法としては、例えば、後述の各種織り方や、和紙などの紙を漉く方法が挙げられる。和紙は、楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、および雁皮(ガンピ)などから得られる繊維から作製したものを用いることができる。
【0114】
繊維集合体としては、例えば、織物、編み物、フェルト、不織布および一方向材が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。繊維集合体は、触感を高める観点から、織物が好ましい。
【0115】
織物は、繊維を織ることによって、形成される。織り方としては、例えば、平織り、綾織り、トリコット織り、朱子織り、畦織り、斜子織り、破れ斜紋織り、ヘリンボン織り、変則朱子織り、重ね朱子織り、蜂巣織り、梨地織り、りんず織り、綴錦織り、ベッドフォード織り、ピケ織り、締結二重織り、袋織り、三重織り、および、四重織りが挙げられる。また、織り方としては、織物に特殊な模様を描く織り方が挙げられ、そのような織り方として、例えば、ジャガード織りが挙げられる。炭素繊維は、繊維樹脂複合体シートの裁断面から毛羽を発生しにくくし、繊維樹脂複合体シートを折り曲げたり、また荷重をかけたりしたときにシワ、折り曲げ跡および凹みを発生しにくくし、かつ発生したシワ、折り曲げ跡および凹みが時間経過とともにより消失しやすくする観点から、平織り又は綾織りが好ましい。
【0116】
平織りは、例えば、経糸および緯糸を交互に浮き沈みさせて織る方法である。
【0117】
綾織りは、例えば、2~3本の緯糸の上、および、1本の緯糸の下に、経糸を順次通過させて織る方法である。
【0118】
朱子織りは、例えば、経糸および緯糸のいずれか一方が4本以上の他方をとばすように、経糸および緯糸を交差させて織る方法である。
【0119】
畦織りは、例えば、経糸および緯糸のいずれか一方が数本の他方を跨ぐように経糸および緯糸を平織りにする方法、または、経糸および緯糸として、太糸と細糸とを混ぜて使用する方法である。
【0120】
斜子織りは、例えば、経糸および緯糸を、それぞれ2本以上揃えて平織りにする方法である。破れ斜紋織りは、例えば、経糸1本に対して緯糸を3本使用し、朱子組織が変則的に配置されるように、経糸および緯糸を織る方法である。
【0121】
ヘリンボン織りは、例えば、縦横に連続して組み合わされたV字形または長方形が魚骨模様となるように、経糸および緯糸を織る方法である。変則朱子織りは、例えば、組織点が変則的に配置されるように、経糸および緯糸を朱子織りにする方法である。
【0122】
重ね朱子織りは、例えば、組織点がずれるように2つの朱子織りを重ねる方法、および、組織点が接する点にさらに組織点を追加する方法である。蜂巣織りは、例えば、経糸および緯糸の浮き部分を伸ばして枡目をつくることにより、織面の凹凸からなる蜂の巣状の外観を得る方法である。
【0123】
梨地織りは、例えば、経糸および緯糸の浮き部分の長さおよび位置を不規則に設定することにより、細かいシボを生じさせる方法である。
【0124】
りんず織りは、例えば、表朱子および裏朱子からなる昼夜組織によって柄模様を形成する方法である。綴錦織りは、例えば、緯糸として2色以上の色糸を使用して、織り綴るように模様を形成する方法である。
【0125】
ベッドフォード織りは、例えば、2重の組織により縦方向の畝模様を形成する方法である。
【0126】
ピケ織りは、例えば、2重の組織により横方向の畝模様または菱形模様を形成する方法である。締結二重織りは、例えば、2枚の織物を重ねて、経糸または緯糸の特定部分において、上限の織物にまたがる組織を形成し、1枚の織物を得る方法である。
【0127】
袋織りは、端部(みみ部分)以外において、表裏の組織を搦ませずに離し、経糸および緯糸を袋状に織る方法である。三重織りは、上記の締結二重織りにおける2枚の織物を3枚の織物に変更する方法である。
【0128】
四重織りは、上記の締結二重織りにおける2枚の織物を4枚の織物に変更する方法である。
【0129】
ジャガード織りは、所望の模様(図柄)が描かれるように、経糸および緯糸を不規則に織る方法である。
【0130】
これらは単独使用または2種類以上併用できる。また、織物は、さらに、所望の模様(図柄)を刺繍されていてもよい。刺繍方法としては、特に制限されず、公知の方法が採用される。
【0131】
繊維集合体には本発明の効果を損なわない範囲で繊維同士のホツレを抑制する粘着剤(結着剤、目止め剤ともいう)が塗布されていても良い。
【0132】
繊維集合体の厚み(平均厚み)は、例えば、10μm以上、好ましくは、50μm以上、更に好ましくは100μm以上である。繊維集合体の厚み(平均厚み)は、例えば、3000μm以下、好ましくは、1000μm以下、更に好ましくは、500μm以下、特に好ましくは350μm以下である。
【0133】
繊維集合体の目付は、5g/m2以上700g/m2以下であることが好ましく、8g/m2以上600g/m2以下であることがより好ましい。更に繊維集合体が和紙である場合には目付は8g/m2以上100g/m2以下であることが好ましい。和紙の場合には目付がこの範囲であれば樹脂組成物を含浸させやすくなり、空隙率が小さくなる傾向にある。
【0134】
<繊維樹脂複合体シートの製造方法>
本発明に記載の繊維樹脂複合体シートは、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムと、繊維集合体とを、公知の加熱圧着装置により、圧着および加熱される。
【0135】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムは、特に限定なく公知の方法で作製できる。例えば、一般的なTダイ押出成形機およびモールド印刷成形機で成形することにより得られる。例えば一軸押出機にてシリンダー温度170~250℃およびキャストロール温度0~70℃で成形を行ってシートを形成する。シートの厚さは、通常5~1000μm、好ましくは10~500μm、より好ましくは40~500μm、さらに好ましくは80~500μm、特に好ましくは120~300μmであると、シートの生産性に優れ、シートの成形時にピンホールが生じることがなく、十分な強度も得られることから好ましい。また、シート表面にはエンボス加工を施してもよく、シート成形時または成形後に延伸してもよい。さらに、成形して得られたシートは樹脂の融点未満の温度でのアニーリング処理を行ってもよい。
【0136】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムと繊維集合体とを圧着および加熱する加熱圧着装置としては、例えば、オートクレーブ装置および熱プレス装置が挙げられる。
【0137】
圧着条件および加熱条件は、目的および用途に応じて、適宜設定される。圧着圧力が、例えば、0.1MPa以上、好ましくは、0.5MPa以上である。また、圧着圧力が、例えば、5.0MPa以下、好ましくは、2.5MPa以下である。また、加熱温度が、例えば、100℃以上、好ましくは、140℃以上であり、例えば、300℃以下、好ましくは、240℃以下である。また、圧着時間および加熱時間が、例えば、0.5分以上、好ましくは、1分以上である。また、圧着時間および加熱時間が、例えば、30分以下、好ましくは、10分以下である。
【0138】
また、圧着および加熱における環境条件は、常圧環境であってもよく、減圧環境であってもよい。なお、減圧環境は、真空環境を含む。環境条件として、好ましくは、減圧環境が挙げられる。減圧環境下であれば、繊維樹脂複合体シート内における気泡の発生を抑制できる。
【0139】
これにより、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物が溶融され、繊維集合体に、熱可塑性4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物が含浸される。その後、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物が室温まで冷却される。これにより、繊維樹脂複合体シートが得られる。
【0140】
なお、上記の方法では、繊維集合体の一方面の表面のみに、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムを配置して、圧着および加熱することができる。このような場合、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における一方側の表面から他方側の表面に向かって、所定の深さまで浸入する。
【0141】
このとき、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における一方側の表面から他方側の表面まで到達していてもよいし、一方側の表面から他方側の表面まで到達していなくともよい。なお、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物による浸入深さは、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムの厚み、および、圧着時の加熱条件により、適宜設定される。
【0142】
換言すれば、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における一方側の表面から所定の深さまで含浸されていればよい。すなわち、繊維集合体の厚み方向における他方側の表面は、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物が完全に含浸されていなくともよい。
【0143】
また、上記の方法では、繊維集合体の両面に、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムを配置して、圧着および加熱することができる。このような場合、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における一方側の表面から他方側の表面に向かって、所定の深さまで浸入する。また、これとともに、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における他方側の表面から一方側の表面に向かって、所定の深さまで浸入する。
【0144】
このとき、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における全体に含浸されていてもよく、また、全体に含浸されていなくともよい。
【0145】
換言すれば、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物は、繊維集合体の厚み方向における一方側の表面および他方側の表面のそれぞれから所定の深さまで含浸されていればよい。すなわち、繊維集合体の厚み方向における内部には、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物が完全に含浸されていない領域が形成されていてもよい。
【0146】
好ましくは、繊維集合体の両面に、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムを、圧着および加熱する。
【0147】
繊維樹脂複合体シートを折り曲げたときの復元性を高め、かつ、繊維樹脂複合体シートを折り曲げたり、また荷重をかけたりしたときにシワ、折り曲げ跡および凹みを発生しにくくする観点から、繊維集合体の厚み方向における内部、または他方側の表面側には、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物が含浸されていない領域が形成されていることが好ましい。なお、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物の含浸状態は、例えば、繊維樹脂複合体シートの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって、確認および判断される。
【0148】
また、加圧時には、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物のシートまたはフィルムの外側に、離型フィルムを配置するができる。これにより、作業性の向上を図ることができ、また、外観に優れる繊維樹脂複合体シートが得られる。さらに、離型フィルムの表面形状を、任意に加工することができる。例えば、離型フィルムの表面をシボ加工することができる。これにより、繊維樹脂複合体シートの外観を向上させることができる。
【0149】
本発明で記載した繊維樹脂複合体シートは、必要により、養生される。養生温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、養生温度は、例えば、140℃以下、好ましくは、120℃以下である。また、養生時間は、例えば、30分以上、好ましくは、1時間以上である。また、養生時間は、例えば、7日間以下、好ましくは、3日以下である。
【0150】
また、本発明に記載の繊維樹脂複合体シートは、耐毛羽性、屈曲復元性、耐折れジワ性、シワ戻り性の機能を損なわない範囲で表面にコート層を設置することができる。コート層により、使用される際の人の皮脂による4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物の膨潤や、こすれによる摩耗劣化を防止することができる。
【0151】
<繊維樹脂複合体シートの形状および用途>
繊維樹脂複合体シートの厚みは、その使用用途にもよるが、例えば、厚みの下限は15μm以上、好ましくは、30μm以上、より好ましくは、40μm以上、さらに好ましくは、80μm以上、とりわけ好ましくは、120μm以上である。厚みの上限は例えば、5000μm以下、好ましくは、1000μm以下、より好ましくは、500μm以下、さらに好ましくは、300μm以下、とりわけ好ましくは、250μm以下である。
【0152】
また、繊維樹脂複合体シートの表面は、コート層により被覆されていてもよい。繊維樹脂複合体シートの表面、あるいはコート層の表面は、エンボス加工やシボ加工されて意匠性を付与されていてもよい。
【0153】
繊維樹脂複合体シートは、繊維樹脂複合体シート自体を各種形状に成形してもよいし、他の成形体の表面に貼り付けたり、シート同士を重ねて縫製したり、熱、超音波等で融着させて筒状、袋状にして使用してもよい。各種産業分野において、好適に使用される。産業分野としては、例えば、日用雑貨などの装身具分野、自動車用内装材などの乗物分野、家具分野、スポーツ分野、ロボット分野、事務用品分野、建築分野、ヘルスケア分野、および、電気分野が挙げられる。好ましくは、上記の繊維樹脂複合体シートは、装身具分野において使用される。装身具としては、例えば、鞄、靴、財布および名刺入れが挙げられる。
【実施例0154】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0155】
[各種物性の測定方法]
本実施例で得られた各重合体についての各種物性を測定するのに用いた方法を以下に示す。
【0156】
(1)組成
13C-NMRによる測定法により、重合体の組成を求めた。13C-NMRの測定条件は、以下の通りである。
~条件~
測定装置:核磁気共鳴装置(ECP500型、日本電子(株)製)
観測核:13C(125MHz)
シーケンス:シングルパルスプロトンデカップリング
パルス幅:4.7μ秒(45°パルス)
繰り返し時間:5.5秒
積算回数:1万回以上
溶媒:オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(容量比:80/20)混合溶媒
試料濃度:55mg/0.6mL
測定温度:120℃
ケミカルシフトの基準値:27.50ppm
【0157】
(2)極限粘度[η]
約20mgの4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)をデカリン25mlに溶解させた後、ウベローデ粘度計を用い、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリンを5ml加えて希釈した後、上記と同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作を更に2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度[η](単位:dl/g)として求めた(下記の式1参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)・・・式1
【0158】
(3)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
液体クロマトグラフ:Waters製ALC/GPC 150-C plus型(示唆屈折計検出器一体型)を用い、カラムとして東ソー株式会社製GMH6-HT×2本およびGMH6-HTL×2本を直列接続し、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼンを用い、流速1.0ml/分、140℃でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行った。得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを使用した検量線を用いて解析することで、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0159】
(4)密度
JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して密度を求めた。
【0160】
(5)融点(Tm)
示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を用い、JIS K7121に準拠して下記の方法により測定した。約5mgの4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量計(DSC220C型)の測定用アルミニウムパン中に室温で密封し、室温から10℃/分の速度で260℃まで加熱した。4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を完全融解させるために、260℃で5分間保持し、次いで、10℃/分の速度で-50℃まで冷却した。-50℃で5分間保持した後、10℃/分の速度で260℃まで2度目の加熱を行ない、この2度目の加熱でピークが観測される温度を重合体の融点(Tm)とした。なお、明確なピークが検出されない場合は、融点なしとし、複数のピークが検出される場合には、最も高温側で検出されるピークを採用した。
【0161】
(6)メルトフローレート(MFR)
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠して230℃、2.16kg荷重および、260℃、5.0kg荷重にて測定した。その他の重合体(B)(すなわち、下記重合体B-1およびB-2)についてのMFRの測定は、測定条件を、230℃、2.16kg荷重に変更して行った。
【0162】
(7)tanδピーク温度、tanδピーク値
動的粘弾性の測定では、厚さ3mmのプレスシートを測定試料として用い、さらに動的粘弾性測定に必要な45mm×10mm×3mmの短冊片を切り出した。ANTONPaar社製MCR301を用いて、10rad/sの周波数で-40~150℃までの動的粘弾性の温度依存性を測定し、0~40℃の範囲でガラス転移温度に起因する損失正接(tanδ)がピーク値(最大値)となる際の温度(tanδピーク温度)、およびその際の損失正接(tanδ)の値(tanδピーク値)を測定した。
【0163】
[材料の用意]
<4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)の合成>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)の合成
充分窒素置換した容量1.5リットルの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃でノルマルヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテンを450ml装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入し攪拌機を回した。
【0164】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧が0.40MPa(ゲージ圧)となるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいた、メチル-アルミノキサンをAl換算で1mmol、ジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを0.01mmolを含むトルエン溶液0.34mlを窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。反応溶液にアセトンを攪拌しながら注いだ。
【0165】
得られた溶媒を含むパウダー状の重合体を100℃、減圧下で12時間乾燥し、36.9gの4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を得た。各種物性の測定結果を表1に示す。
【0166】
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-2)の合成
国際公開2006/054613号の比較例9に記載の重合方法に準じて、4-メチル-1-ペンテン、その他のα-オレフィン(1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等質量混合物)、水素の割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン系重合体を得た。種物性の測定結果を表1に示す。
【0167】
【0168】
<その他の重合体(B)>
(B-1):スチレンービニルイソプレンースチレン共重合体「ハイブラー7311F」(株式会社クラレ製)
(B-2):エステル系ポリウレタンシート「ハイグレス DUS601」(株式会社シーダム製)
(B-3):ポリプロピレン「J13B」(株式会社プライムポリマー製)
【0169】
<繊維集合体>
(C-1):炭素繊維織物(綾織)、フォルモサプラスチック社製、カーボンファブリックEC3CX、
平均厚み250μm
(C-2):炭素繊維の織物、帝人株式会社製、テナックス(登録商標)Dry Reinforcement織物
平均厚み250μm
(C-3):セルロース繊維織物(綾織、フラックス(真麻)製)、Bcomp社製、ampliTex(登録商標)、No.5040
目付300g/m2、平均厚み900μm
(C-4):セルロース繊維織物(平織、ヘンプ(麻)製)、HEMP SHOW
目付520g/m2、平均厚み850μm
(C-5):セルロース繊維集合体(和紙)、五箇山和紙の里製
目付65g/m2、平均厚み200μm
(C-6):ポリエステル繊維/ポリウレタン繊維織物、川田ニット社製、TRINOCOOL CF TC-8686
目付240g/m2、平均厚み500μm
【0170】
[繊維樹脂複合体シートの作製]
<実施例1>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を用い、単軸押出成形機(シリンダー内径D:50mm、フルフライトスクリュー、スクリュー有効長をLとしたときL/D:32mm、二酸化炭素供給位置:スクリュー供給部側から17.5D)、Tダイ(ダイ幅:320mm、リップ開度:0.5~1.8mm)、冷却ロール(外径50mm、鏡面仕上げ硬質クロムメッキ表面処理付のスチール製、水冷式)、Tダイ、冷却ロール、および引取機、とからなる装置を用い、ホッパーに投入した。シリンダー各部の温度220℃、スクリュー回転数26rpmの条件で(各成分原料を)溶融・混練し、シリンダーヘッド部の樹脂温度195℃で、押出量4.5kg/時間となるようにTダイからシート状に押出した。
【0171】
押し出されたシートは、冷却ロール(ロール内部通水温度15℃)で冷却して、引取機を用いて引き取り(引取速度2.3m/分)、シート幅約310mmの4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)を含む膜厚180μmのシートを得た。
【0172】
得られた(A-1)のシートを、C-1の両面に挟みこみ、離型シートとして厚み500μmのテフロン(登録商標)シートを敷き、SUS板に挟み込んだ。そのサンプルを、230℃に設定した熱プレス機(東洋精機社製 加熱冷却2段プレス)を用いて、5分間予熱した後、10MPaで3分間加圧して、樹脂組成物(シート)を繊維集合体(C-1)に含浸させた。その後、23℃に設定したプレス機(東洋精機社製)を用いて5MPaで3分間冷却して、実施例1の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0173】
<実施例2>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-1)の両面に配置し、実施例1と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を加熱温度190~230℃、加圧条件5~10MPaの間で各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-1)に含浸させて、実施例2の繊維樹脂複合体シートを得た。この時、空隙率の高いシートを作製する場合はプレス温度を下限値付近に設定し、加圧条件を低くすることで作製した。
【0174】
<実施例3>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-2)の片面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-1)に含浸させて、実施例3の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0175】
<実施例4~6>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-2)の両面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-2)に含浸させて、実施例4~6の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0176】
<実施例7>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-1)の両面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-1)に含浸させて、実施例7の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0177】
<実施例8>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-2)の片面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-2)に含浸させて、実施例8の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0178】
<実施例9>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-1)の片面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-1)に含浸させて、実施例9の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0179】
<実施例10、比較例5>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-2)の両面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-2)に含浸させて、実施例10、比較例5の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0180】
<実施例11>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を60質量部、その他の共重合体(B-1)を40質量部用い、実施例1と同様の単軸押出機を有するTダイ成形機を用いて4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含む樹脂シートを得た。シートの膜厚は200μmであった。
【0181】
得られたシートを繊維集合体(C-1)の片面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-1)に含浸させて、実施例11の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0182】
<実施例12>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を60質量部、その他の共重合体(B-1)を40質量部用い、実施例11と同様の単軸押出機を有するTダイ成形機を用いて4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含む樹脂シートを得た。シートの膜厚は200μmであった。
【0183】
得られたシートを繊維集合体(C-1)の両面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-1)に含浸させて、実施例12の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0184】
<比較例1>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-2)を用い、実施例1と同様の単軸押出成形機を用い、ホッパーに投入した。シリンダー各部の温度280℃、スクリュー回転数20rpmの条件で(各成分原料を)溶融・混練し、シリンダーヘッド部の樹脂温度255℃で、押出量5kg/時間となるようにTダイからシート状に押出した。押し出されたシートは、冷却ロール(ロール内部通水温度40℃)で冷却して、引取機を用いて引き取り(引取速度2.3m/分)、シート幅約300mmの4-メチル-1-ペンテン重合体(A-2)のシートを得た。シートの膜厚は170μmであった。
【0185】
得られたシートを繊維集合体(C-1)の片面に配置し、離型シートとして厚み500μmのテフロン(登録商標)シートを敷き、SUS板に挟み込んだ。そのサンプルを、260℃に設定した熱プレス機(東洋精機社製 加熱冷却2段プレス)を用いて、5分間予熱した後、5MPaで3分間加圧して、樹脂組成物(シート)を繊維集合体(C-1)に含浸させた。その後、23℃に設定したプレス機(東洋精機社製)を用いて5MPaで2分間冷却して、比較例1の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0186】
<比較例2>
株式会社The MOT Company社保有のオートクレーブ加熱装置にて、炭素繊維集合体(C-1)の片面に熱硬化性ウレタン原料(エステル、イソシアネート)を含浸させてオートクレーブ加圧処理により熱硬化性ウレタン原料を繊維集合体(C-1)に含浸させて、比較例2のシートを得た。
【0187】
<比較例3>
市販されている株式会社Hide kasuga 1896社製トートバック(商品名:Large tote bag)を解体して平板状の炭素繊維樹脂シート部分を取り出した(樹脂はIRスペクトル測定によりエステル系ポリウレタン(B-2)、炭素繊維は綾織と判明)。得られたシートを用いて比較例3のシートとした。
【0188】
<比較例4>
市販されているRONIX Japan社のスキーブーツ(商品名ONE BOOTS)から表皮を解体して炭素繊維樹脂加工シートを取り出した(樹脂はIRスペクトル測定によりエーテル系ポリウレタン、炭素繊維は製品情報よりCarbitex社 CX6 綾織と判明)。得られたシートを用いて比較例4のシートとした。
【0189】
<比較例6>
その他の共重合体(B-3)を用い、実施例1と同様の単軸押出成形機を用い、ホッパーに投入した。シリンダー各部の温度220℃、スクリュー回転数20rpmの条件で(各成分原料を)溶融・混練し、シリンダーヘッド部の樹脂温度215℃で、押出量4kg/時間となるようにTダイからシート状に押出した。押し出されたシートは、冷却ロール(ロール内部通水温度20℃)で冷却して、引取機を用いて引き取り(引取速度2.3m/分)、シート幅約200mmのその他の共重合体(B-3)のシートを得た。シートの膜厚は160μmであった。
【0190】
得られたシートを繊維集合体(C-1)の片面に配置し、離型シートとして厚み500μmのテフロン(登録商標)シートを敷き、SUS板に挟み込んだ。そのサンプルを、220℃に設定した熱プレス機(東洋精機社製 加熱冷却2段プレス)を用いて、3分間予熱した後、5MPaで2分間加圧して、樹脂組成物(シート)を繊維集合体(C-1)に含浸させた。その後、23℃に設定したプレス機(東洋精機社製)を用いて5MPaで2分間冷却して、比較例6の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0191】
<実施例13>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を60質量部、その他の共重合体(B-1)を40質量部用い、実施例11と同様の単軸押出機を有するTダイ成形機を用いて4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含む樹脂シートを得た。シートの膜厚は300μmであった。
【0192】
得られたシートを繊維集合体(C-3)の両面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-3)に含浸させて、実施例12の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0193】
<実施例14~16>
4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を60質量部、その他の共重合体(B-1)を40質量部用い、実施例11と同様の単軸押出機を有するTダイ成形機を用いて4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含む樹脂シートを得た。シートの膜厚は300μmであった。
【0194】
得られたシートを繊維集合体(C-4)~(C-6)のそれぞれの片面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体に含浸させて、実施例14~16の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0195】
<比較例7>
実施例1で作製した4-メチル-1-ペンテン共重合体(A-1)を含むシートを用い、繊維集合体(C-3)の片面に配置し、実施例2と同様の手法を用いて熱プレス時の条件を各種変更して樹脂組成物を繊維集合体(C-3)に含浸させて、比較例7の繊維樹脂複合体シートを得た。
【0196】
[繊維樹脂複合体シートの評価]
作製した繊維樹脂複合体シートを、以下の基準で評価した。
【0197】
<空隙率(%)>
測定用試験片の表面近傍から内部構造までを含むような形で任意の断面を高分解能走査型顕微鏡(SEM)で観察した。倍率500倍の観察により得られた拡大画像を用い、繊維集合体/樹脂組成物における表面から裏面の部分の繊維樹脂複合体シートのみが画像中に残るようにトリミングした二次画像を作成した。得られた二次画像を、画像解析ソフト(ImageJ)に読み込み、コマンド:Process、Binary、Make Binaryを行って二値化画像処理した。この時、繊維集合体及び樹脂組成物が充填されているエリアを白塗りし、空隙の領域を黒塗りした。この際に、樹脂組成物の部分を白塗りするために、コマンド:Image、Adjust、Threholdで閾値を統制した。続いて観察視野の面積における繊維集合体、及び樹脂組成物の部分を除いた、空隙部分の面積%(白色領域のArea Fraction)を、コマンド:Analyse、Analyzeにより算出した。任意の3点の空隙部分の面積%の平均値を、当該測定用試験片の空隙率とした。
【0198】
なお、実施例13~16および比較例7については、SEMによる観察の倍率を樹脂シートごとに最適化した以外は同様にして、空隙率を測定した。
【0199】
<毛羽>
152mm×100mmのシートサンプルを用いて、15mm幅にカッターでカットした。このサンプルを6本作製し、端面から出たドライファイバーの有無を目視にて確認した。
×:ドライファイバーが飛び出していた。
△:ドライファイバーがわずかに飛び出していた。
〇:ドライアイバーは飛び出していなかった。
【0200】
<シワ・折り曲げ跡、凹み>
152mm×100mmのシートサンプルを用いて、15mm幅にカッターでカットした。このシートを180°に折り曲げ、シートの上に2kgの重りを乗せた10分放置した後に重りを除去した。重りを除去した直後、及び60分後のシートの外観を観察し、シワ、折り曲げ跡および凹みを目視で確認した。
(i)重りを除去してから60分後
×:シートの表面の折り曲げ部分に亀裂が発生しており、また折り曲げ跡も認められた
△:シートの表面にシワ、折り曲げ跡および凹みが認められた
〇:シートの表面にシワはなかったが、折り曲げ跡および凹みが認められた
◎:シートの表面にシワ、折り曲げ跡および凹みは認められなかった
(ii)重りを除去した直後
×:シートの表面の折り曲げ部分に亀裂が発生しており、また折り曲げ跡も認められた
△:シートの表面にシワ、折り曲げ跡および凹みが認められた
○:シートの表面にシワおよび折り曲げ跡はなかったが、凹みが認められた
◎:除去直後にシートが元の形へ速やかに戻り、シートの表面にシワ、折り曲げ跡および凹みは認められなかった
【0201】
実施例および比較例の繊維樹脂複合体シートの作製に用いた4-メチル-1-ペンテン共重合体の種類、その他の重合体の種類およびこれらの比率、繊維集合体の種類および形態、ならびに各評価結果を、表2~表4に示す。
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
図1A、
図1Bおよび
図1Cはそれぞれ、実施例1、実施例2および比較例1のシートの、厚み方向中央近辺の断面をSEM観察して撮像された画像である。白い丸が繊維を示し、灰色部が含浸された樹脂組成物を示し、黒色部は空隙を示す。
図1A~
図1Cから、実施例1では樹脂組成物が繊維集合体に完全に含浸して空隙部がないが、実施例2では空隙部が生じており、比較例1では空隙部がより大きくなっていることがわかる。
【0206】
表2~表4から、条件(A-1)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を繊維集合体に含浸させてなる繊維樹脂複合体シートは、シートの裁断面に毛羽が発生しにくいことがわかる。
本発明の繊維樹脂複合体シートは、繊維に樹脂が含浸されているにもかかわらず柔軟であり、なおかつ折り曲げから復元しやすく、さらには裁断面に毛羽が生じにくい。本発明の繊維樹脂複合体シートは、上述した多種多様な分野に使用可能な、新規な材料を提供することができる。