(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132938
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】固定用装具および固定用部材
(51)【国際特許分類】
A61F 5/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
A61F5/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034529
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023039459
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228866
【氏名又は名称】日本シグマックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】馬場 周
(72)【発明者】
【氏名】村瀬(小嶋) 美生
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA10
4C098BB16
4C098BC02
4C098BC09
4C098BC13
4C098BC16
4C098BC18
4C098BC44
(57)【要約】
【課題】使用時の強度を十分に確保可能な固定用部材ひいては固定用装具を提供する。
【解決手段】固定用装具1は、装具本体10、固定用部材12およびパッド64を備える。装具本体10は、ポケット部24を有する。固定用部材12は、装具本体10を対象者Mに装着した状態でその体表に沿って押し付けられることでその体表に沿って変形し、その変形状態を保ったまま硬化する。パッド64は、ポケット部24に挿入される固定用部材12の片面と対向し、かつ固定用部材12に沿って延びるように装具本体10に設けられる。パッド64は、固定用部材12がポケット部24に挿入された状態で対象者Mの体表に向けて押し付けられることで、固定用部材12の横断面を対象者Mの特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の特定部位を固定保持するための固定用装具であって、
対象者に装着される装具本体と、
前記特定部位を固定するための硬化性材料からなる固定用部材と、
前記固定用部材を所定形状に変形させるためのパッドと、
を備え、
前記装具本体は、前記特定部位に対応する位置に前記固定用部材を収容するためのポケット部を有し、
前記固定用部材は、前記装具本体を対象者に装着した状態でその対象者の体表に沿って押し付けられることでその体表に沿って変形し、その変形状態を保ったまま硬化するものであり、
前記パッドは、
前記ポケット部に挿入される前記固定用部材の片面と対向し、かつ前記固定用部材に沿って延びるように前記装具本体に設けられ、
前記固定用部材が前記ポケット部に挿入された状態で対象者の体表に向けて押し付けられることで、前記固定用部材の横断面を前記特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有することを特徴とする固定用装具。
【請求項2】
前記パッドは、前記ポケット部の内側において前記装具本体と一体に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の固定用装具。
【請求項3】
前記パッドは、前記装具本体とは別体であり、前記固定用部材とともに前記ポケット部に挿入可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の固定用装具。
【請求項4】
前記パッドは、前記固定用部材よりも対象者の体表側に配置されることを特徴とする請求項2又は3に記載の固定用装具。
【請求項5】
前記パッドは、長手方向端部の幅が拡大された大幅部を有し、
前記大幅部が前記固定用部材の長手方向端部を支持することを特徴とする請求項4に記載の固定用装具。
【請求項6】
体幹を保持する装具として構成され、
前記装具本体は、
対象者の胸部から腹部にわたる前面側に装着される第1本体部と、
対象者の背面に装着される第2本体部と、
を含み、
前記ポケット部が前記第1本体部に設けられ、
前記固定用部材は、対象者の胸部から腹部にわたって上下方向に延び、前面側から体幹を固定することを特徴とする請求項1に記載の固定用装具。
【請求項7】
前記第1本体部の左右に一対の前記ポケット部が設けられ、
前記一対のポケット部のそれぞれに前記固定用部材が挿入されることを特徴とする請求項6に記載の固定用装具。
【請求項8】
前記特定部位を圧迫するよう前記装具本体を対象者に固定するための胴ベルトを備え、
前記一対のポケット部が、対象者の胴部の周方向にそれぞれ開口し、
前記胴ベルトは、各ポケット部の開口部上を横断するように引き回されることを特徴とする請求項7に記載の固定用装具。
【請求項9】
対象者の特定部位を固定保持するための固定用装具であって、
対象者に装着される装具本体と、
前記装具本体における前記特定部位に対応する位置に収容され、前記特定部位を固定するための固定用部材と、
を備え、
前記固定用部材は、
硬化性材料からなる芯材と、
前記芯材に沿って設けられるパッドと、
前記芯材および前記パッドを内包するカバーと、
を含み、
前記パッドは、前記芯材の片面に対向し、当該固定用部材が対象者の体表に向けて押し付けられることで、前記芯材の横断面を前記特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有する固定用装具。
【請求項10】
対象者の特定部位を固定保持するために装着される固定用部材であって、
硬化性材料からなる芯材と、
前記芯材に沿って設けられるパッドと、
前記芯材および前記パッドを内包するカバーと、
を備え、
前記パッドは、前記芯材の片面に当接し、当該固定用部材が対象者の体表に向けて押し付けられることで、前記芯材の横断面を前記特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有することを特徴とする固定用部材。
【請求項11】
前記カバーが第1基布および第2基布を含み、
前記芯材と前記パッドとが重なった状態で前記第1基布と前記第2基布との間に挟まれ、覆われていることを特徴とする請求項10に記載の固定用部材。
【請求項12】
前記パッドが前記カバーの内面に一体に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の固定用部材。
【請求項13】
対象者の特定部位を固定保持するために装着される固定用部材であって、
硬化性材料からなる芯材と、
前記芯材に沿って一体に設けられるパッドと、
を備え、
前記パッドは、前記芯材の片面に当接し、当該固定用部材が対象者の体表に向けて押し付けられることで、前記芯材の横断面を前記特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有することを特徴とする固定用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の特定部位を固定保持するための固定用装具に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は高齢者に多くみられる疾患の一つであるが、骨密度の低下が進行すると、軽い転倒でも脊椎がその衝撃に耐えられずにつぶれてしまうことがある。このような脊椎椎体骨折が生じると患者の前屈みが助長され、症状をより悪化させるおそれがある。脊椎椎体骨折の治療には手術療法のほか、コルセットのような固定用装具の着用により骨折が治癒するのを待つ保存療法などが採用される。
【0003】
保存療法による場合、患者が上半身に装着可能な固定用装具が用いられる(特許文献1参照)。装具本体の前面側又は背面側に収容部が設けられ、平板状の固定用部材が収容される。固定用部材には、例えば水分と反応することで硬化する硬化性材料からなるものが用いられる。医療現場では、装具本体とは別に固定用部材を湿らせ、患者の体表に直接押し当てることで体表に沿った形状に変形させることもある。固定用部材は水で湿らせることで硬化が促進され、変形状態を保ったまま成形される。このようにして成形された固定用部材を装具本体に組み込み、患者に装着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような固定用装具による治療を適切に継続するためには、治療期間にわたって固定用部材の形状が保持される必要がある。特に体幹のように患者の大きな部位を固定する場合、固定用部材の折損などを防止できるよう十分な強度が要求される。また、医療現場での取り扱いが容易であることも望まれる。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、取り扱いが容易であり、使用時の強度を十分に確保可能な固定用部材ひいては固定用装具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、対象者の特定部位を固定保持するための固定用装具である。この固定用装具は、対象者に装着される装具本体と、特定部位を固定するための硬化性材料からなる固定用部材と、固定用部材を所定形状に変形させるためのパッドと、を備える。装具本体は、特定部位に対応する位置に固定用部材を収容するためのポケット部を有する。固定用部材は、装具本体を対象者に装着した状態でその対象者の体表に沿って押し付けられることでその体表に沿って変形し、その変形状態を保ったまま硬化するものである。パッドは、ポケット部に挿入される固定用部材の片面と対向し、かつ固定用部材に沿って延びるように装具本体に設けられる。パッドは、固定用部材がポケット部に挿入された状態で対象者の体表に向けて押し付けられることで、固定用部材の横断面を特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有する。
【0008】
本発明の別の態様も、対象者の特定部位を固定保持するための固定用装具である。この固定用装具は、対象者に装着される装具本体と、装具本体における特定部位に対応する位置に収容され、特定部位を固定するための固定用部材と、を備える。固定用部材は、硬化性材料からなる芯材と、芯材に沿って設けられるパッドと、芯材およびパッドを内包するカバーと、を含む。パッドは、芯材の片面に対向し、固定用部材が対象者の体表に向けて押し付けられることで、芯材の横断面を特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有する。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、対象者の特定部位を固定保持するために装着される固定用部材である。この固定用部材は、硬化性材料からなる芯材と、芯材に沿って設けられるパッドと、芯材およびパッドを内包するカバーと、を備える。パッドは、芯材の片面に当接し、固定用部材が対象者の体表に向けて押し付けられることで、芯材の横断面を特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有する。
【0010】
本発明のさらに別の態様も、対象者の特定部位を固定保持するために装着される固定用部材である。この固定用部材は、硬化性材料からなる芯材と、芯材に沿って一体に設けられるパッドと、を備える。パッドは、芯材の片面に当接し、固定用部材が対象者の体表に向けて押し付けられることで、芯材の横断面を特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取り扱いが容易であり、使用時の強度を十分に確保可能な固定用部材ひいては固定用装具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る固定用装具の装着態様を表す図である。
【
図5】装具本体への固定用部材の組付方法を表す図である。
【
図6】背当部および各ベルトの構成を表す図である。
【
図7】背当部および各ベルトの構成を表す図である。
【
図10】実施形態の作用効果を模式的に示す図である。
【
図11】モールディング後の固定用部材の構造を表す図である。
【
図12】変形例に係るパッドの構成を表す図である。
【
図13】パッドの配置構成のバリエーションを模式的に表す図である。
【
図14】パッドの配置構成のバリエーションを模式的に表す図である。
【
図15】固定用部材の具体的構造を模式的に表す分解斜視図である。
【
図16】固定用部材の取り扱い例を模式的に表す斜視図である。
【
図17】固定用部材の構造のバリエーションを模式的に表す断面図である。
【
図18】他の変形例に係るパッドの構造を表す図である。
【
図19】特定部位として体幹以外の他の例への適用を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0014】
本実施形態の固定用装具は、対象者の上半身に装着され、その体幹を支持し固定する。この固定用装具は整形外科の医療現場で用いられ、対象者としては例えば脊椎椎体骨折の治療を受ける患者などが想定される。固定用装具は、装具本体のポケット部に未硬化の固定用部材を挿入した状態で対象者に装着される。その状態で装具本体の外側から固定用部材を体表に沿って押し付けることで、固定用部材が体幹の固定に適切な形状に変形し、後に硬化する。以下、このように対象者の体表に沿って未硬化状態の固定用部材を変形させることを「モールディング」ともいう。固定用部材がポケット部に収容された状態でモールディングが行われるため、そのモールディングの過程で施術者自身が固定用部材を支える必要もなく、取り扱いが容易である。
【0015】
このモールディングの際、装具本体に設けたパッドの反力により固定用部材の横断面を所定形状に変形させる。すなわち、モールディングの過程で固定用部材の断面係数(断面二次モーメント)を大きくしつつ、固定用部材を長手方向に沿って変形させる。このため、固定用部材の形状を対象者の体表に馴染ませつつ、撓みに対する剛性を高めることができる。その結果、固定用部材の強度を十分に確保でき、固定用装具の使用継続による折損等を効果的に防止できる。以下、その詳細について説明する。
【0016】
図1は、実施形態に係る固定用装具の装着態様を表す図である。
図1(A)は正面図であり、
図1(B)は背面図である。なお、以下の説明では、固定用装具を装着する対象者からみた方向を基準に上下、左右、前後の位置関係を表現する。
【0017】
固定用装具1は、概ね左右対称な構造を有し、対象者Mの上半身に装着される装具本体10と、装具本体10に収容される一対の固定用部材12を備える。装具本体10は、対象者Mの前面(胸部および腹部)に当接する前当部14、背中(背部)に当接する背当部16、左右の肩部に掛けられる一対の肩ベルト18、胸部に巻き付けられる胸ベルト20、および腹部に巻き付けられる腹ベルト22を含む。
【0018】
前当部14が「第1本体部」として機能し、背当部16が「第2本体部」として機能する。胸ベルト20および腹ベルト22は、体幹を圧迫するよう装具本体10を対象者Mに固定するための「胴ベルト」として機能する。
【0019】
前当部14は、対象者Mの前面を胸部から腹部にわたって広がり、前身頃を形成する。背当部16は、肩甲骨の間に位置して後ろ身頃を形成し、腰部の近傍まで延在する。前当部14と背当部16とは互いに独立して設けられ、ベルト18~22により接続されることで装具本体10が形成される。前当部14および背当部16は、胴部への装着時に体にフィットするようそれぞれ柔軟な素材(生地)からなる。
【0020】
肩ベルト18は長尺状のストラップであり、前当部14の上端部と背当部16の上端部とを接続する。対象者Mは、左右の肩ベルト18の間に頭部を通しつつ装具本体10を被るように装着する。胸ベルト20は、背当部16の上半部に一体に設けられ、胸部の前方で前当部14の上半部を覆うようにして締められる。腹ベルト22は、背当部16の下半部に一体に設けられ、腹部の前方で前当部14の下半部を覆うようにして締められる。
【0021】
一対の固定用部材12は、前当部14の左右に設けられた一対のポケット部24にそれぞれ収容される。固定用部材12は本実施形態では水硬化性材料からなり、含水させると硬化が促進され、その状態でモールディングすることで対象者Mの前面側から体幹を固定する(詳細後述)。
【0022】
図2は、装具本体10の構成を表す図である。
図2(A)は正面図であり、
図2(B)は背面図である。
装具本体10は、前当部14と背当部16とを前後に配置して構成される。
【0023】
前当部14の左上端部と右上端部には、肩ベルト18を引っ掛けるためのカン26L,26Rが設けられている。肩ベルト18は、左肩ベルト18Lおよび右肩ベルト18Rを含む。左肩ベルト18Lの一端は、背当部16の上端部中央のやや左寄りに縫い付けられ固定されている。左肩ベルト18Lは前方に引き回され、カン26Lに挿通されて後方に折り返され、その先端部が背面側にて左肩ベルト18Lそのものに面ファスナー17を介して固定される。
【0024】
同様に、右肩ベルト18Rの一端は、背当部16の上端部中央のやや右寄りに縫い付けられ固定されている。右肩ベルト18Rは前方に引き回され、カン26Rに挿通されて後方に折り返され、その先端部が背面側にて右肩ベルト18Rそのものに面ファスナー19を介して固定される。各肩ベルト18の先端部の固定位置を調整することにより、各肩ベルト18の長さを調整できる(詳細後述)。
【0025】
胸ベルト20は、背当部16から左右に延出するベルト本体30,32と、各ベルト本体から延出するストラップ34,36を有する。ベルト本体30,32は、胸部への装着時に体にフィットするよう柔軟な素材(生地)からなり、やや下方に向けて延出する。ストラップ34は、ベルト本体30よりも十分に長く、基端部がベルト本体30の基端部に縫い付けられて固定され、ベルト本体30の長手方向に延出する。ストラップ34は、その中間部で折り返され、その先端部が背面側にてストラップ34そのものに面ファスナー35を介して固定される。ストラップ34にはカン38が挿通されている。カン38は、ストラップ34の折り返し部に引っ掛けられる。
【0026】
一方、ストラップ36は、ベルト本体32よりもやや長く、基端部がベルト本体32の基端部に縫い付けられて固定され、ベルト本体32の長手方向に延出する。ストラップ36の先端部には、ベルトとしての締結機能を発揮するための面ファスナー37が設けられている(詳細後述)。
【0027】
腹ベルト22は、背当部16から左右に延出するベルト本体40,42と、各ベルト本体から延出するストラップ44,46を有する。ベルト本体40,42は、腹部への装着時に体にフィットするよう柔軟な素材(生地)からなり、やや上方に向けて延出する。ストラップ44は、ベルト本体40よりも十分に長く、基端部がベルト本体40の基端部に縫い付けられて固定され、ベルト本体40の長手方向に延出する。ストラップ44は、その中間部で折り返され、その先端部が背面側にてストラップ44そのものに面ファスナー45を介して固定される。ストラップ44にはカン48が挿通されている。カン48は、ストラップ44の折り返し部に引っ掛けられる。
【0028】
一方、ストラップ46は、ベルト本体42よりもやや長く、基端部がベルト本体42の基端部に縫い付けられて固定され、ベルト本体42の長手方向に延出する。ストラップ46の先端部には、ベルトとしての締結機能を発揮するための面ファスナー47が設けられている(詳細後述)。
【0029】
図3および
図4は、前当部14の構成を表す図である。
図3(A)は正面図であり、
図3(B)は背面図である。
図4(A)は、前当部14の内面側の構造を示す展開図である。
図4(B)はパッドの正面図であり、
図4(B)はパッドの側面図である。
【0030】
図3(A)に示すように、前当部14は、概略正方形状の本体部50の前面側に左右一対のポケット部24を有する。ポケット部24は、本体部50の中心線Lに向けて胴部の周方向に開口するように設けられる。
【0031】
ポケット部24の前面の上半部には、面ファスナー56のループ面56bが設けられ、下半部には、面ファスナー58のループ面58bが設けられている。
【0032】
さらに、ポケット部24の開口部におけるポケット形成部52の裏面には、面ファスナー60のフック面60aが設けられている。一方、本体部50の中央部には面ファスナー60のループ面60bが設けられている。このため、ポケット部24に固定用部材12を収容した後、面ファスナー60によりその開口部を閉じ、固定用部材12の脱落を防止できる。
【0033】
図4(A)に示すように、前当部14の作製に際しては、本体部50の左右にポケット形成部52を設けて長方形状の布地とし、その周縁に沿ってバイアス布による縁取りを行う。本体部50の上部には、カン26が対象者Mの体表に直接当たらないように受け止める受け部62が設けられている。
【0034】
本体部50の内側面の中央には、上述したループ面60bを構成する生地が縫い付けられている。一方、本体部50の内側面の左右にはI字状のパッド64が設けられ、そのパッド64を覆うようにカバー66が設けられている。カバー66は、本体部50の他の部分よりも伸張性の高い布地からなり、その周縁部が本体部50に縫い付けられている。さらに、パッド64の外形に沿うカバー66の複数箇所が本体部50に縫い付けられることで、パッド64が本体部50の適正位置に固定されている(
図4(A)および
図3(B)における点線参照)。
【0035】
図4(B)および(C)に示すように、パッド64は、帯状の成形部68の両端に緩衝部69を有する。緩衝部69は成形部68よりも大きな幅を有する「大幅部」である。パッド64は、例えば高反発性の不織布(ポリエステル等)からなり、モールディング時に固定用部材12の変形に追従できる程度の適度な柔軟性および弾力性を有する。なお、図示の例では、パッド64を繊維材料からなる単層構造としているが、複数層に積層してもよい。
【0036】
図4(A)に戻り、ポケット形成部52の端部には、上述したフック面60aを構成する生地が縫い付けられている。ポケット形成部52を本体部50との境界線(一点鎖線参照)で内側に折り返し、その上縁と下縁を本体部50に縫い付けることでポケット部24が形成される(二点鎖線参照)。
【0037】
図5は、装具本体10への固定用部材12の組付方法を表す図である。
図5(A)は固定用部材12の組み込み前の状態を示し、
図5(B)は組み込み後の状態を示す。
固定用部材12を装具本体10に組み付ける際には、
図5(A)に示すように、ポケット部24の開口部から板状(長方形状)の固定用部材12を挿入し、面ファスナー60によりその開口部を閉じる。このとき、固定用部材12は未硬化状態とされる。
【0038】
固定用部材12は、平板状の芯材を2種類の基布により覆うようにして構成される。ポリエステル製の第1基布と、ポリプロピレン製の第2基布との間に芯材が挟まれる。芯材は、複数層の繊維材料(グラスファイバ)にポリウレタン等の水硬化性樹脂を含侵させて構成される。繊維材料は編布、織布、不織布等でよい。なお、基布や水硬化性樹脂の種類や材質等についてはこれらに限られないことは言うまでもない。
【0039】
図5(B)に示すように、固定用部材12は、装具本体10の前面側に収容され、パッド64に重なるように配置される。パッド64は、ポケット部24に挿入される固定用部材12の片面と対向し、かつ固定用部材12の長手方向に延びるように設けられる。このとき図示のように、成形部68の幅は固定用部材12の幅よりも十分に小さい。一方、固定用部材12の上端縁と下端縁がそれぞれパッド64における上下の緩衝部69上に位置する。すなわち、パッド64は、固定用部材12の全長と同等以上の長さを有し、長手方向両端の幅が拡大されているが、全体的に固定用部材12よりも小幅とされている。パッド64の大幅部(緩衝部69)が、固定用部材12の端部を支持する。
【0040】
このような構成により、モールディングの際に成形部68が固定用部材12の横断面をアーチ状に湾曲させる型として機能する。固定用装具1の装着時には、緩衝部69が固定用部材12の端部を受け止めて肌当たりを緩和する。
【0041】
図6および
図7は、背当部16および各ベルトの構成を表す図である。
図6は正面図であり、
図7は背面図である。
図6に示すように、ベルト本体30とベルト本体32は、背当部16の中心線L2に対して対称な構造を有し、それぞれ延在方向に沿って伸縮性が異なる部位を含む。ベルト本体30,32は、基端側に伸縮部72を有し、先端側に非伸縮部74を有する。伸縮部72は非伸縮部74よりも伸縮性が高い生地からなる。伸縮部72が背当部16の上半部に固定されている。非伸縮部74の先端部内側面には面ファスナー56のフック面56aが設けられている。フック面56aは、前当部14のループ面56bに着脱可能である。
【0042】
同様に、ベルト本体40とベルト本体42も背当部16の中心線L2に対して対称な構造を有する。ベルト本体40,42は、基端側に伸縮部76を有し、先端側に非伸縮部78を有する。伸縮部76は非伸縮部78よりも伸縮性が高い生地からなる。伸縮部76が背当部16の下半部に固定されている。非伸縮部78の先端部内側面には面ファスナー58のフック面58aが設けられている。フック面58aは、前当部14のループ面58bに着脱可能である。
【0043】
図7に示すように、左肩ベルト18Lの外側面のほぼ全長にわたって面ファスナー17のループ面17bが設けられ、左肩ベルト18Lの先端部の外側面に面ファスナー17のフック面17aが設けられている。左肩ベルト18Lを背面側に折り返すことにより、フック面17aをループ面17bの任意の位置に装着できる。同様に、右肩ベルト18Rの外側面のほぼ全長にわたって面ファスナー19のループ面19bが設けられ、右肩ベルト18Rの先端部の外側面に面ファスナー19のフック面19aが設けられている。右肩ベルト18Rを背面側に折り返すことにより、フック面19aをループ面19bの任意の位置に装着できる。
【0044】
また、ストラップ34の外側面のほぼ全長にわたって面ファスナー35のループ面35bが設けられ、ストラップ34の先端部の外側面に面ファスナー35のフック面35aが設けられている。ストラップ34を背面側に折り返すことにより、フック面35aをループ面35bの任意の位置に装着できる。同様に、ストラップ36の外側面のほぼ全長にわたって面ファスナー37のループ面37bが設けられ、ストラップ36先端部の外側面に面ファスナー37のフック面37aが設けられている。ストラップ36を背面側に折り返すことにより、フック面37aをループ面37bの任意の位置に装着できる。
【0045】
同様に、ストラップ44の外側面のほぼ全長にわたって面ファスナー45のループ面45bが設けられ、ストラップ44の先端部の外側面に面ファスナー45のフック面45aが設けられている。ストラップ44を背面側に折り返すことにより、フック面45aをループ面45bの任意の位置に装着できる。ストラップ46の外側面にもそのほぼ全長にわたって面ファスナー47のループ面47bが設けられ、ストラップ46先端部の外側面に面ファスナー47のフック面47aが設けられている。ストラップ46を背面側に折り返すことにより、フック面47aをループ面47bの任意の位置に装着できる。
【0046】
ベルト本体30の背面には、伸縮部72と非伸縮部74との境界部に挿通部73が設けられている。挿通部73は帯状の生地の両端をベルト本体30に縫い付けて構成され、ストラップ34の基端部を挿通する。それにより、ストラップ34が後方へ垂れ下がることを抑制している。同様に、ベルト本体40の背面にも、伸縮部76と非伸縮部78との境界部に挿通部77が設けられている。挿通部77は帯状の生地の両端をベルト本体40に縫い付けて構成され、ストラップ44の基端部を挿通する。それにより、ストラップ44が後方へ垂れ下がることを抑制している。固定用装具1は挿入された固定用部材12が硬化した後、対象者M自身によって装着および取り外しが行われることがある。対象者Mは脊椎椎体骨折などの患者が想定され、治療上体幹を捻る動作を行うことは望ましくない。それに対しストラップ34,44の後方への垂れ下がりを抑制することで、対象者M自身がストラップ34,44を持って操作する際にも、体幹を捻り後方まで手を伸ばさなくても手に取ることが可能となる。
【0047】
次に、固定用装具1の対象者Mへの装着方法について説明する。
図8および
図9は、固定用装具1の装着方法を表す図である。
図8(A)~
図9(B)は、その装着過程を示す。
固定用装具1を装着する際には、胸ベルト20および腹ベルト22を外した状態で(
図2参照)、水に濡らした未硬化状態の固定用部材12を装具本体10のポケット部24に挿入する(
図8(A))。
【0048】
続いて、固定用装具1を対象者Mに被せるように装着する(
図8(B))。このとき、胸ベルト20のベルト本体30,32を、面ファスナー56を介して前当部14に接続する。また、腹ベルト22のベルト本体40、42を、面ファスナー58を介して前当部14に接続する。それにより、固定用装具1の対象者Mへの装着を安定化させる。
【0049】
続いて、固定用部材12のモールディングを行う(
図9(A))。すなわち、前当部14の外側から固定用部材12を対象者Mの体表に向けて押し付けることで、固定用部材12を体幹の固定に適切な形状に変形させる。このとき、固定用部材12がパッド64を挟んで対象者の体表に向けて押し付けられるが、パッド64がその柔軟性により圧縮されるため、固定用部材12は体表に概ね沿った形状に変形する。一方、このときパッド64の反力により固定用部材12の横断面がやや湾曲するように変形するため、その剛性が高められる。すなわち、固定用部材12がその強度を高められつつ体表に沿って変形することとなる。
【0050】
対象者Mはこのモールディング後、しばらく(20分程度)その姿勢を保つ。その間に固定用部材12は変形状態を保ったまま硬化する。固定用部材12の硬化後、胸ベルト20および腹ベルト22を締める(
図9(B))。すなわち、ストラップ36をカン38に通して折り返し、面ファスナー37をとめる。ストラップ46をカン48に通して折り返し、面ファスナー47をとめる。このようにして、対象者Mの体幹を適正に固定できる。胸ベルト20および腹ベルト22が、各ポケット部24の開口部上を横断するように引き回されるため、固定用部材12の脱落を確実に防止できる。
【0051】
図10は、実施形態の作用効果を模式的に示す図である。
図10(A)はモールディングによる固定用部材12の成形過程を示し、
図5(B)のA-A断面に対応する。
図10(B)および(C)はモールディング後の固定用部材12の断面形状を示す。
図10(B)は横断面を示し、
図10(C)は縦断面を示す。図中の二点鎖線は対象者を示す。
【0052】
固定用部材12は、モールディングを施す前は平板状(断面長方形状)をなしている(
図10(A)左段)。固定用部材12は、対象者Mの前面側にて長手方向を上下にしてポケット部24に収容される。モールディング中はポケット部24の外側から前当部14を対象者Mに向けて押圧する(
図10(A)中段)。このとき、固定用部材12は未硬化状態であり、押圧力Pが負荷されることにより体表に沿って塑性変形する。パッド64は、厚み方向に弾性変形しつつも成形部68の形状を残すことで、固定用部材12の断面形状を凸状に変形させる。
【0053】
本実施形態では、固定用部材12の横断面が湾曲し、対象者Mの前方に向けて凸となる。このように断面形状が長方形状から湾曲形状に変形すると、固定用部材12の断面二次モーメントが大きくなり、その曲げ剛性(固定用部材12の撓み難さ)が大きくなる。固定用部材12は、モールディング終了後に硬化すると、その断面形状を保つ(
図10(A)右段)。固定用部材12は、その横断面の中央部が滑らかな凸状になるものの(
図10(B))、対象者Mの体幹に沿った形状となり(
図10(C))、硬化後はその形状を保持する。
【0054】
図11は、モールディング後の固定用部材の構造を表す図である。
図11(A)は実施形態の構造を示し、
図11(B)は比較例の構造を示す。各図の左段は斜視図であり、右段はB-B断面に沿う縦断面図である。比較例では、モールディング中に固定用部材の横断面を凸状とするためのパッドを設けていない。
【0055】
本実施形態によれば、固定用部材12の剛性を高めつつモールディングがなされるため、固定用部材12が長手方向に湾曲した凹凸を有していても、その曲線は比較的滑らかなものとなる(
図11(A))。パッド64が固定用部材12の一端から他端にわたって連続的に延びるため(
図5(B)参照)、モールディング時にはパッド64が厚み方向に圧縮されながらも固定用部材12を支える。このため、モールディング時に固定用部材12が屈曲することを防止又は抑制できる。固定用部材12の断面が凸状とされたことでその強度が高められるため、固定用装具1の使用により固定用部材12に前額軸まわりの曲げモーメントが作用しても、十分に耐えることができる。
【0056】
これに対し、比較例では、モールディング中に固定用部材112の剛性が強化されないため、体表の凹部に差し掛かったときに屈曲部Xが生じやすい。屈曲部Xは前額軸まわりの曲げモーメントが作用したときに応力集中が生じやすい。固定用部材112の強度が本実施形態のように高められないため、固定用装具1の使用により固定用部材12に前額軸まわりの曲げモーメントが作用すると、それに耐えられない可能性がある。言い換えれば、本実施形態によれば、このような屈曲部を要因とした折損を生じさせ難い。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態の固定用装具1によれば、固定用部材12がポケット部24に収容された状態でモールディングが行われるため、そのモールディングの過程で施術者が固定用部材12を支える必要もなく、取り扱いが容易である。また、モールディングの際、パッド64の反力により固定用部材12の横断面を変形させて剛性を高めつつ、固定用部材12を長手方向に沿って変形させる。このため、固定用部材12の硬化後の強度を高くでき、固定用装具1の使用継続による折損等を効果的に防止できる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0059】
[変形例]
図12は、変形例に係るパッドの構成を表す図である。
図12(A)~(D)は、変形例のバリエーションを示す。各図の下方が体表側に対応する。
上記実施形態では、パッド64として平面視I字状、断面長方形状の部材を例示した。変形例においては、固定用部材の横断面を対象者の特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させることが可能な形状であればその他の形状を採用してもよい。例えば、階段状のパッドを採用してもよい(
図12(A))。あるいは、断面半円形状のパッドを採用してもよい(
図12(B))。このような構造を採用しても、固定用部材の横断面を体表から離れる方向に凸となるよう湾曲させることができ、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
あるいは、断面が滑らかな凹形状(半円凹形状)のパッドを採用してもよい(
図12(C))。または、断面波形状のパッドを採用してもよい(
図12(D))。このような構造のパッドを用いた場合、固定用部材の横断面が体表に近づく方向に凸となる部分を有するように成形されるが、全体的には体表に沿ったものとなり、曲げ剛性が高まる点では上記実施形態と同様である。固定用装具の使用時にも固定用部材と体表との間にパッドが介在するため、肌当たりによる違和感は抑制される。
【0061】
図13および
図14は、パッドの配置構成のバリエーションを模式的に表す図である。
図13(A)は上記実施形態の配置構成を示す。
図13(B)~
図14(D)は変形例の配置構成を示す。
図13(A)~(C)において、図中上段には固定用装具の正面視が示され、図中下段にはそのC-C断面が示されている。
図14(A)~(D)には、
図13(A)下段に対応する断面が示されている。図中の二点鎖線は対象者の位置を示す。
【0062】
上記実施形態では、
図13(A)に示すように、ポケット部24内の固定用部材12よりも体表に近い側にパッド64を配置して固定する構成を例示した。変形例においては、これと異なる配置構成を採用してもよい。例えば、
図13(B)に示すように、ポケット部24内の固定用部材12よりも体表から遠い側にパッド164を配置し、ポケット部24に固定してもよい。ただし、モールディング時にはポケット部24の外側(前面側)から押圧力を与えるため、上記実施形態のようにパッドが固定用部材12の裏側、つまり体表に近い側にあったほうが固定用部材12を成形しやすい。
【0063】
なお、
図13(B)に示す例では帯状のパッド164を複数設けているが、このように一つの固定用部材に対して複数のパッドが設けられてもよい。
【0064】
あるいは、
図13(C)に示すように、ポケット部24内で固定用部材12側に突出するように、パッド264をポケット部24と一体に形成してもよい。つまり、凸形状を有する生地にてポケット部24を作製し、その凸部をパッド264としてもよい。パッド264は、ポケット部24の内面において固定用部材12の裏側(体表に近い側)にあってもよいし、表側(体表から遠い側)にあってもよい。ただし、パッド264が固定用部材12の裏側にあったほうが固定用部材12を成形しやすい。
【0065】
あるいは、ポケット部24の外側にパッド364を設けてもよい。
図14(A)に示すように、ポケット部24よりも体表に近い側にパッド364を固定してもよい。または、
図14(B)に示すように、ポケット部24よりも体表から遠い側にパッド364を固定してもよい。
【0066】
図14(C)に示すように、パッド464をポケット部24とは別体に作製し、モールディングを行う際に、固定用部材12とともにポケット部24に挿入してもよい。パッド464の形状および配置については、上記実施形態あるいはいずれかの変形例と同様としてもよい。
【0067】
図14(D)に示すように、パッド564を固定用部材512に組み付けてもよい。固定用部材512は、硬化性材料からなる芯材522と、パッド564をカバー520の内部に収容するものでもよい。カバー520は、フェルト生地(基布)からなるものでもよい。
【0068】
図15は、固定用部材の具体的構造を模式的に表す分解斜視図である。
図15(A)は
図14(D)の変形例に対応し、
図15(B)は他の変形例を示す。
図15(A)に示すように、固定用部材512は、カバー520を構成する第1基布524aおよび第2基布524bを有する。固定用部材512の裏側(体表に近い側)に第1基布524aが配置され、表側(体表から遠い側)に第2基布524bが配置される。なお、本変形例では、第1基布524aと第2基布524bとが同一形状(長方形状)をなすため、これらを特に区別しない場合には単に「基布524」と称す。
【0069】
第1基布524aの表面にパッド564が貼り付けられる。パッド564の貼り付けは、接着剤や両面テープなどを用いて行える。パッド564は繊維材料からなり、第1基布524aよりも小さな幅を有し、第1基布524aの中心線に沿って長手方向に延びるように設けられる。芯材522は、平板状(長方形状)をなし、パッド564よりも十分に大きく、基布524よりもやや小さな幅を有する。パッド564が芯材522の片面に当接するように重ねられた状態で第1基布524aと第2基布524bの外縁部が接着又は溶着される。すなわち、芯材522とパッド564とが重なった状態で第1基布524aと第2基布524bとの間に挟まれ、覆われている。本変形例では、基布524内でパッド564が芯材522の片面に対向し、当接するように配置される。つまり、芯材522とパッド564との間に介在物がないため、パッド564によって芯材522に意図した形状(凹凸形状)をつけやすい。なお、ここでいう「当接」に関し、芯材522とパッド564とを固定するための接着剤や両面テープ等の固定手段は「介在物」の概念に含まれない。つまり、芯材522とパッド564とを接着剤や両面テープ等により接合しても両者が当接状態にあることは言うまでもない。
【0070】
図15(B)に示すように、固定用部材514は、固定用部材512のパッド564に代えてパッド570を有する。パッド570は、長尺状のビニール等に所定の媒体、例えば水などの液体又は空気などの気体を封入して構成される。パッド570は、柔軟性と適度な反発力を有する。このような構成を採用しても、固定用部材514が対象者の体表に向けて押し付けられることで、芯材522の横断面を対象者の特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させることができる。パッド570に封入する媒体として、シリコーンなどのゲル状の材料を採用してもよい。
【0071】
図16は、固定用部材の取り扱い例を模式的に表す斜視図である。
本変形例では、固定用部材512をロール状に形成することで(
図16(A))、特定部位の位置や大きさに応じて任意の長さにカットして使用できるようにする(
図16(B))。カットされた固定用部材512を簡易構造の固定用装具580に収容して使用することもできる(
図16(C))。
【0072】
固定用装具580は、不織布などの所定の布地で形成されてもよく、固定用部材512を収容可能なホルダ582と、ホルダ582から幅方向外向きに延出する複数のストラップ584を有する。ストラップ584の先端には面ファスナーが設けられる。ストラップ584は、ホルダ582を特定部位に当てた状態で固定するための「固定部」として機能する。なお、このような簡易構造の固定用装具を用いることなく、固定用部材512を包帯などにより特定部位に固定してもよい。
【0073】
図17は、固定用部材の構造のバリエーションを模式的に表す断面図である。
パッドを固定用部材の一部として組み込む構造としては、上述した固定用部材512(
図17(A))に限らず、以下に示す様々なバリエーションが考えられる。なお、各図に示す固定用部材の下方が裏側(体表に近い側)に対応する。例えば、パッド564を第1基布524aに一体成形してもよい(
図17(B))。
【0074】
カバー520の内方において、芯材522をパッド610よりも体表側に配置してもよい(
図17(C))。パッド610における芯材522との対向面には凹部612が設けられる。凹部612は、パッド610の幅方向中央部に形成され、パッド610の長手方向に延びる。あるいは、パッド610を第2基布524bに一体成形してもよい(
図17(D))。
【0075】
あるいは、基布524を省略してもよい。固定用部材620は、芯材522にパッド564を貼着したシンプルな構造を有する(
図17(E))。固定用部材622は、芯材522にパッド610を貼着したシンプルな構造を有する(
図17(F))。このようなシンプルな構造を有する固定用部材を、固定用装具580(
図16(C))などに収容して使用してもよい。あるいは、対象者の特定部位にクッション性のある布地などを巻き、その上に包帯などを用いて固定用部材620,622を固定してもよい。
【0076】
[他の変形例]
図15(B)に示した変形例では、パッド570として、長尺状の可撓性容器に所定の媒体(液体、気体、ゲル状材料などの流体)を封入する構造を示した。他の変形例では、可撓性容器として、複数のセルに分かれた封入領域を有する構造を採用してもよい。
【0077】
図18は、他の変形例に係るパッドの構造を表す図である。
図18(A)はパッドの外観を示し、
図18(B)は
図18(A)のD部拡大図である。
図18(A)に示すように、パッド670は、長手方向に延びる流体封入部680を幅方向に複数列(本変形例では3列)有する。流体封入部680は、複数の球状のセル672が長手方向に直列に連結されて構成される。
【0078】
図18(B)にも示すように、各セル672は、細径部674を介して連通している。全てのセル672に流体が満たされる。流体封入部680の両端部は、溶着などにより閉じられている。このような構造を採用しても、流体封入部680が柔軟性と適度な反発力を有するため、固定用部材として構成することで、パッド570と同様の機能を発揮できる。また、流体封入部680の端部を切断することにより、内部の流体を排出することもできる。芯材522を硬化させた後に流体を排出することで、固定用部材ひいては固定用装具を軽くでき、対象者の負担を軽減することもできる。
【0079】
上記実施形態では、対象者の特定部位を体幹として、胴体の前面側に固定用部材12を配置する構成を例示した。変形例においては、胴体の背面側に固定用部材を配置してもよい。ただし、モールディングにより固定用部材の屈曲が生じやすいのは、体表において起伏が大きい前面側であると考えられるため、上記実施形態の配置構成のほうがより効果が得られやすいと言える。上記実施形態のように固定用部材を前面側に配置するタイプの固定用装具は、対象者が仰向けに寝た状態でも肌当たりに違和感を生じさせ難いため、装着し続けることができる。このため、治療を継続するうえで扱い易いメリットもある。
【0080】
また、特定部位としては体幹に限らず、首、膝、足首、肘、手首、背部、腰部など、治療に固定が必要な箇所を対象とすることができる。関節を含む部位を特定部位としてもよい。固定用装具は、対象者の患部が適切な肢位になるよう特定部位を固定する。上記固定用装具は、体幹等の質量の大きい部位を特定部位とする場合に顕著な効果を発揮する。治療中の患者のほか、疾患予防の対象者についても上記実施形態又は変形例の固定用装具を適用できる。
【0081】
図19は、特定部位として体幹以外への適用例を表す図である。
例えば、
図16(B)に示した固定用部材512の適用について想定する。上述のとおり、固定用部材512は任意の長さにカットして使用できるため、特定部位として脚部にあてがうようにして使用することもできる(
図19(A))。あるいは、特定部位として腕部にあてがうようにして使用することもできる(
図19(B))。これらの特定部位への固定用部材512の固定には、簡易構造の固定用装具を用いてもよいし(
図16(C))、包帯などを用いてもよい。
【0082】
上記実施形態では、固定用部材12として水硬化性樹脂からなるものを例示したが、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等からなるものを採用してもよい。モールディングに際して所定の前処理を行うことにより硬化する硬化性材料であれば採用できる。
【0083】
熱可塑性樹脂からなる固定用部材を採用する場合、固定用部材を温めて柔らかくした状態でポケット部に挿入し、モールディングを行う。モールディング後に冷却されることで、固定用部材を硬化させることができる。あるいは、固定用部材を塑性変形可能な金属からなるものとしてもよい。モールディングによる塑性変形により加工硬化が生じ、強度(剛性)が高められる金属であればよい。
【0084】
上記実施形態では、固定用部材12として正面視で長方形状の板状部材を例示した。変形例においては、正方形状、台形状、多角形状、円形状、楕円形状その他の板状部材としてもよい。あるいは、棒状その他の形状の部材としてもよい。その場合もパッドを配置することにより、モールディング時に断面二次モーメントが大きくなるようにする。固定用部材がポケット部に挿入された状態で対象者の体表に向けて押し付けられることで、横断面を特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる形状を有するものでよい。
【0085】
上記実施形態では、パッド64として繊維材料からなるものを例示したが、柔らかい樹脂材からなるものを採用してもよい。また、上記実施形態では、パッド64として固定用部材12よりも小幅で柔軟な素材からなるものとした。変形例においては、パッドとして未硬化状態の固定用部材よりも剛性が高く、硬化状態の固定部材よりも剛性が低い素材を採用してもよい。ただし、パッドはモールディング時に体表に沿って変形可能なものとする。また、パッドとして固定用部材と同等以上の幅を有するものを採用してもよい。その場合、パッドの厚みは、幅方向の外側に向かうほど小さくなるものとしてもよい。このようにしても、固定用部材を体表に沿わせることができ、硬化後に剛性の高い固定用部材を得ることができる。
【0086】
上記実施形態では、前当部14と背当部16とを分離し、胸ベルト20および腹ベルト22により接続する構成を例示した。変形例においては、前当部と背当部とが一体化した構成としてもよい。前当部と背当部とを柔軟な生地により接続してもよい。そして、ベルトにより体幹への締め付け力を調整してもよい。また、胸ベルトと腹ベルトに分けることなく、単一の胴ベルトとしてもよい。
【0087】
上記実施形態では、胴ベルトとして胸ベルト20および腹ベルト22を設ける例を示した。変形例においては、胸ベルト20および腹ベルト22の一方としてもよい。あるいは、胸部と腹部を跨ぐ単一の胴ベルトとしてもよい。
【0088】
上記実施形態および変形例では述べなかったが、固定用部材の芯材の硬化後に、パッドを取り除いてもよい。芯材の横断面を特定部位に向けて凹状、凸状又は凹凸状に変形させる役割を終えたものとして除去するものである。それにより、固定用部材ひいては固定用装具の軽量化や通気性の向上を図ることもできる。
【0089】
上記実施形態では、
図4(A)に示したように、本体部50におけるパッド64の位置を安定化させるために、パッド64を覆うようにカバー66を設け、カバー66におけるパッド64の周辺を本体部50に縫い付けることとした。変形例においては、例えばパッド64そのものを本体部50に縫い付けるなどしてカバー66を省略してもよい。それにより、パッド64を固定用部材12の片面に当接させてもよい。このように構成すれば、固定用部材12とパッド64との間に介在物がないため、パッド64によって固定用部材12に意図した形状(凹凸形状)をつけやすい。
【0090】
なお、本発明は上記実施例や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施例や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施例や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 固定用装具、10 装具本体、12 固定用部材、14 前当部、16 背当部、17 面ファスナー、18 肩ベルト、19 面ファスナー、20 胸ベルト、22 腹ベルト、24 ポケット部、30 ベルト本体、32 ベルト本体、34 ストラップ、35 面ファスナー、36 ストラップ、37 面ファスナー、40 ベルト本体、42 ベルト本体、44 ストラップ、45 面ファスナー、46 ストラップ、47 面ファスナー、50 本体部、52 ポケット形成部、56 面ファスナー、58 面ファスナー、60 面ファスナー、64 パッド、66 カバー、68 成形部、69 緩衝部、72 伸縮部、74 非伸縮部、76 伸縮部、78 非伸縮部、112 固定用部材、164 パッド、264 パッド、364 パッド、464 パッド、512 固定用部材、520 カバー、522 芯材、524 基布、564 パッド、570 パッド、580 固定用装具、582 ホルダ、584 ストラップ、610 パッド、612 凹部、620 固定用部材、622 固定用部材、670 パッド、672 セル、674 細径部、680 流体封入部。