(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013294
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】コヒーレント合成光電気変換装置
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240125BHJP
H01Q 3/42 20060101ALI20240125BHJP
G02F 1/35 20060101ALN20240125BHJP
H04B 1/04 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
H04B7/06 150
H01Q3/42
G02F1/35
H04B1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115259
(22)【出願日】2022-07-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、『無線・光相互変換による超高周波数帯大容量通信技術に関する研究開発:光電気相互変換技術』委託研究(令和3年度から新たに実施する電波資源拡大のための研究開発)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(72)【発明者】
【氏名】安井 武史
(72)【発明者】
【氏名】久世 直也
(72)【発明者】
【氏名】時実 悠
(72)【発明者】
【氏名】長谷 栄治
(72)【発明者】
【氏名】岸川 博紀
(72)【発明者】
【氏名】岡村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】藤方 潤一
【テーマコード(参考)】
2K102
5J021
5K060
【Fターム(参考)】
2K102AA05
2K102BA01
2K102BA19
2K102BB03
2K102BC01
2K102DA01
2K102DB02
2K102DC08
2K102DD03
2K102DD05
2K102EB06
2K102EB20
2K102EB22
5J021AA06
5J021AB01
5J021DB03
5J021GA02
5J021HA05
5K060BB07
5K060CC04
5K060EE05
5K060HH01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低位相ノイズで高出力なコヒーレント合成無線伝送装置及びこれを用いたフェーズドアレイアンテナ装置を提供する。
【解決手段】情報信号を含むベースバンド信号でキャリア信号が変調された無線信号をS4送信アンテナ5から送信するコヒーレント合成光電気変換装置であって、レーザー光で励起され、100GHz以上3THz以下の周波数間隔f
repの光周波数コムを生成する微小光共振器2と、光周波数コムから互いに隣接する光周波数モード対を複数対分離し、各対の一方に対して同じベースバンド信号を用いて光変調を行う変調部3と、送信アンテナに設けられ、光周波数モード対の光周波数モードを混合して周波数間隔f
repに等しい高周波電波信号S41、S42を生成する1又は複数の光電気変換素子41、42から成る光電気変換部4と、高周波電波信号群の相互間の位相オフセットを調整する位相オフセット調整部301、302と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報信号を含むベースバンド信号でキャリア信号が変調された無線信号を送信アンテナから送信する無線伝送装置であって、
レーザー光で励起され、100GHz以上3THz以下の周波数間隔frepの光周波数コムを生成する微小光共振器と、
前記光周波数コムから隣接する光周波数モードからなる第1の光周波数モード対と第2の周波数モード対を複数対分離し、
前記第1光周波数モード対に含まれている一方の光周波数モードを前記ベースバンド信号を用いて光変調する第1変調部と前記第2光周波数モード対に含まれている一方の光周波数モードを前記ベースバンド信号を用いて光変調する第2変調部から成る変調信号生成部と、
前記各対の光周波数モードを混合して前記周波数間隔frepに等しい高周波電波信号群を生成する1または複数の光電気変換素子より成る光電気変換素子部と、
前記高周波電波信号群の相互間の位相差を調整する位相オフセット調整部を有した、コヒーレント合成光電気変換装置。
【請求項2】
前記繰り返し周波数は300GHz以上1THz以下である請求項1に記載のコヒーレント合成光電気変換装置。
【請求項3】
前記位相オフセット調整部は、第1光周波数モード対の位相差と、第2光周波数モード対の位相差との少なくとも一方を調整し、高周波電波信号群の相互間の位相差が無くなるように調整する請求項1に記載のコヒーレント合成光電気変換装置。
【請求項4】
前記光電気変換素子は単一走行キャリアフォトダイオードを含む請求項1に記載のコヒーレント合成光電気変換装置。
【請求項5】
前記微小光共振器は非線形光学効果を有する媒質であって、窒化ケイ素(Si3N4)、ガリウム砒素アルミニウム(AlGaAs)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、および窒化ガリウム(GaN)からなる群より選択される1種以上の媒質を含む請求項1に記載のコヒーレント合成光電気変換装置。
【請求項6】
前記送信アンテナは複数のアンテナエレメントで構成され、前記光電気変換素子は前記複数アンテナエレメントにそれぞれ設けられ、前記高周波電波信号群は前記送信アンテナにおいて波面合成され、前記無線信号となる請求項1に記載のコヒーレント合成光電気変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント合成無線伝送装置およびこれを用いたフェーズドアレイアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動(無線)通信(2G/3G/4G/5G等)では、半導体技術の進歩に伴う技術革新(電子回路の高速化、高周波化)が、世代進化を牽引してきた。しかし、次世代移動通信(Beyond 5G/6G)で扱う周波数はキャリア周波数300GHz以上のいわゆるテラヘルツ帯(以降、THz帯)に及ぶとされ、電気的手法の技術的限界(周波数上限)に達する可能性がある。つまり、無線キャリア波の低出力化と位相ノイズ増大、信号伝送損失の増大、光通信と移動通信の信号変換に伴う時間遅延といった本質的問題が顕在化すると言われている。
【0003】
一方、光ファイバー網を用いた光通信は最速の情報伝送速度を有し、最近ではデバイス内部の電子配線を光配線に置き換えて超高速・大容量・低遅延・低消費電力を実現するシリコン・フォトニクスの技術開発が進んでいる。このような背景から、無線通信においてもキャリアの発生源に光学デバイスを用いたり、システムの一部に光通信の技術を取り入れたりする例が最近見受けられる。例えば、波長が異なる光をそれぞれ変調した後混合してテラヘルツ波を発生させ、無線通信に用いた例が開示されている(非特許文献1)。
【0004】
さらに、シリコン・フォトニクスの技術を用いて、マルチレーザーの出力光を干渉させて得たテラヘルツ帯の電波を送信するフェーズドアレイアンテナを試作した例が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
また、周波数が異なる2波長の光を生成する他の方法としては、光周波数コムから、所望の周波数間隔となる任意の光周波数モードをフィルターで抽出する方法が開示されている。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】永妻忠夫、“テラヘルツ波が拓く超高速無線通信”、精密工学会誌、Vol.82、No.3、2016
【非特許文献2】加藤、“テラヘルツ波を活用した高セキュリティ無線通信技術の研究開発の概要”、電波利活用ウェビナー2021、2021年10月28日http://www.kiai.gr.jp/jigyou/R3/PDF/1028p4.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、光源としてマルチレーザーを用いる場合、レーザー相互間の位相ノイズや特に低域位相ノイズである位相揺らぎを厳密に制御することが困難であった。光周波数コムから任意の光周波数モードを抜き取りこれらのビートからテラヘルツ波を得る方法では、位相ノイズを低く抑えることができたとしても、単一の光電気変換素子から発生可能なテラヘルツ波の強度が弱いため、受信信号のSN比が悪くなり通信エラーに繋がりやすいといった課題があった。また、発生テラヘルツ波は高周波のためビーム指向性が強くなり、特定方向の受信器に向かってテラヘルツ波を伝搬させるためには、テラヘルツ波の放射方向を機械的に走査する機構が必要となり、高速走査が困難であるといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るコヒーレント合成光電気変換装置は、情報信号を含むベースバンド信号でキャリア信号が変調された無線信号を送信アンテナから送信する無線伝送装置であって、レーザー光で励起され、100GHz以上3THz以下の周波数間隔frepの光周波数コムを生成する微小光共振器と、前記光周波数コムから互いに隣接する光周波数モード対を複数対分離し、各対の一方に対して同じベースバンド信号を用いて光変調を行う変調信号生成部と、前記送信アンテナに設けられ、前記各対の光周波数モードを混合して前記周波数間隔frepに等しい高周波電波信号群を生成する1または複数の光電気変換素子より成る光電気変換素子部と、 前記高周波電波信号群の相互間の位相差を調整する位相オフセット調整部を有した。
【0010】
前記繰り返し周波数は300GHz以上1THz以下であってもよい。
【0011】
前記位相オフセット調整部は、前記光周波数コムから分離された互いに隣接する光周波数モードの相互間の位相を調整するものであってもよい。
【0012】
前記光電気変換素子は単一走行キャリアフォトダイオードで構成されていてもよい。
【0013】
前記微小光共振器は非線形光学効果を有する媒質であって、窒化ケイ素(Si3N4)、ガリウム砒素アルミニウム(AlGaAs)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、五酸化タンタル(Ta2O5)、および窒化ガリウム(GaN)からなる群より選択される1種以上の媒質から構成されていてもよい。
【0014】
前記送信アンテナは複数のアンテナエレメントで構成され、前記光電気変換素子は前記アンテナエレメントにそれぞれ設けられ、前記高周波電波信号群は前記送信アンテナにおいて波面合成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、1つの光周波数コムから等しい周波数間隔で隣接する光周波数モード対を複数抽出し、送信アンテナを構成するアンテナエレメント毎に光電気変換素子を設け、それぞれのアンテナエレメントから放射されるテラヘルツ波を位相ノイズが少ない状態で同位相に重ね合わせることができ、その結果テラヘルツ波のパワーを効率的に高めることができる。また、各アンテナエレメントから放射されるテラヘルツ波面の位相を適度に調整することにより、送信アンテナのゲインを高めたり、送信アンテナの放射パターンを変えたり、あるいはビーム放射方向を走査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】光周波数コムを用いた無線伝送装置のブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態のコヒーレント合成光電気変換装置のブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態における動作説明図である。光電気
【
図4】本発明の第2の実施の形態のコヒーレント合成光電気変換装置のブロック図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態のコヒーレント合成光電気変換装置を有したフェーズドアレイアンテナ装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態における無線伝送装置は、セルまたはスモールセル内の無線端末からの電波を受信し、ネットワークに接続された交換局または中継局との間、いわゆるフロントホールを無線で伝送することを目的としている。本実施の形態の説明の前に、参考例として、コヒーレント合成やフェーズドアレイアンテナ制御を行わない場合の光周波数コムを用いた無線伝送装置の基本構成および動作について説明する。
【0018】
(参考例の説明)
図1に本実施の形態における無線伝送装置のブロック図を示す。
図1において、10は無線端末である。無線端末10は1つであっても複数であってもよい。また移動端末であっても固定端末であってもよい。11は受信アンテナであり、無線端末10からの無線信号S1を受信する。受信アンテナ11は複数の無線端末10に対応すべく、複数のアンテナ素子よりなるアンテナアレイであってもよい。また、周波数等の複数の無線通信規格に対応する複数のアンテナ群より成るものであってもよい。情報信号復調部12は無線信号S1に含まれる情報信号を復調する。情報信号は、画像、音声やデータなどの情報であり、無線端末10から本無線伝送装置へ送信される各種情報であり、無線伝装に適した信号状態で伝送される。情報信号復調部12はLTE、5G等、複数の無線通信規格に対応したものであってもよい。
【0019】
さらに
図1において、1は単一周波数のレーザー光を発するレーザー素子である。発光波長が1550nmまたはその周辺の波長に合わせこまれたレーザー光を発するDFBレーザーが好ましい。2は微小光共振器であり、前記レーザー光で励起され、光周波数コムを生成する。光周波数コムとは、多数の光周波数モード列が等周波数f
rep間隔かつ光位相が揃った状態で櫛の歯状に立ち並んだ超離散マルチスペクトル構造を有する光を意味する。微小光共振器2は半導体基板上に環状に形成されたものであってもよい。直径は40μm~400μmであってもよい。また、非線形光学効果を有する媒質であって、窒化ケイ素(Si
3N
4)、ガリウム砒素アルミニウム(AlGaAs)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、および窒化ガリウム(GaN)からなる群より選択される1種以上の媒質から構成されるものであってもよい。
【0020】
微小光共振器2により生成された光周波数コム(マイクロ光周波数コム)は光学的共振器長が短いため、隣接する光周波数モード間の周波数間隔frepを高くすることができる。周波数間隔frepは、例えば、100GHz以上3THz以下であってもよい。より好ましくは300GHz以上1THz以下であってもよい。さらに好ましくは350GHz以上600GHz以下であってもよい。
【0021】
30はカップラー、31、32はバンドパスフィルター、33は光変調素子、34は光増幅素子であり、これらの要素は光変調部3を構成する。光変調部3は光周波数コムから互いに隣接する光周波数モードを分離し、一方に対して情報信号を含むベースバンド信号S2に応じて光変調を行う。なお、バンドパスフィルター31、32の代わりにAWG(アレイ導波路回折子)を用いてもよい。光変調を受けた光周波数モードm1(周波数ν1)は光増幅素子34を経て光電気変換部4に供給される。光電気変換部4は単一走行キャリアフォトダイオード(UTC-PD)から成るものであってもよい。
【0022】
一方で周波数ν0の光周波数モードm0はそのまま光増幅素子34を通って光電気変換部4に供給される。光電気変換素子4において、光周波数モードm1(ν1)と光周波数モードm0(ν0)とは混合され(S3)、これらの差周波数(frep)が電磁波(テラヘルツ波)として光電気変換部4から出力される。光電気変換部4はアンテナ5に直結しており、テラヘラツ波(S4)はアンテナ5から空中に放射される。
【0023】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図2は本実施の形態のブロック図である。
図2において、レーザー素子1、微小光共振器2、送信アンテナ5は
図1で示されたものと同等に機能するものである。微小光共振器2はレーザー光によって励起され、100GHz以上3THz以下の周波数間隔f
repの光周波数コムを生成する。より好ましくは光周波数コムの周波数間隔300GHz以上1THz以下であってもよい。さらに好ましくは350GH以上600GHz以下であってもよい。無線端末、受信アンテナ、情報信号復調部については
図2に示されてはいないが、
図1の無線端末10、受信アンテナ11、情報信号復調部12と同等の機能を有するものがあるとする。また、光変調部3には情報信号を含むベースバンド信号S2が供給される。
【0024】
本実施の形態において、光変調部3はWDAカプラー300と2系統の変調信号生成部により構成される。WDAカプラー300は光周波数コムから互いに隣接する光周波数モードm10およびm11と、光周波数モードm20およびm21を分離し、それぞれの系統の変調信号生成部に供給する。この様子を
図3に示す。
【0025】
光周波数モードm10およびm11は光バンドパスフィルター311、312、光変調素子331、光増幅素子341より構成される変調信号生成部の系統に供給される。これらは
図1におけるバンドパスフィルター31、32、光変調素子33、光増幅素子34と同等に機能する。また、光周波数モードm20およびm21は光バンドパスフィルター321、322、光変調素子332、光増幅素子342も
図1で示されたものと同等に機能する。
【0026】
それぞれの系統を経由した光周波数モードは光ファイバーまたは光導波路等を通して光電気変換部4に供給される。本実施の形態においては、光電気変換部4は光電気変換素子41、42より成り、いずれも送信アンテナ5に直に設けられている。光電気変換素子41、42はそれぞれ単一走行キャリアフォトダイオードであってもよい。また、同一基板上に半導体プロセスによって形成されたものであってもよい。
【0027】
ここで本実施の形態においては、光変調素子331、332には同じ情報信号(ベースバンド信号S2)が供給される。さらに、両系統を完全に位相同期させた上で、光周波数モードm11と光周波数モード21はベースバンド信号S2を同じ方式で変調する。変調方式はQPSK、QAM、等の振幅変調、位相変調、またはこれらの双方を含む方式であってもよい。
【0028】
光電気変換素子41、42から発せられた高周波電波信号S41、S42はアンテナ5において合波し、無線信号S4として大気中に放射される。ここで高周波電波信号S41、S42の位相が揃っていなければ、無線信号S4の送信パワーは高周波電波信号S41、S42の単純加算にはならない。極端に言えば、両者の位相が180°異なっている場合、互いに打ち消し合って無線信号S4は放射されない。そこで、高周波電波信号S41、S42の相互間の位相オフセットを調整するため、位相オフセット調整部301、302が設けられている。
【0029】
位相オフセット調整部301、302は、光周波数コムから分離された互いに隣接する光周波数モードの相互間の位相を調整する。位相オフセット調整部301、302は電気光学効果を用いたものであってもよく、光導波路またはファイバーを局所的に加熱する微小サイズのヒーターで構成されたものであってもよい。ヒーターを用いる場合、位相オフセット調整部301、302に予めオフセット電流POを流しておき、このオフセット電流を基準にそれぞれ相補的に電流をPO+ΔP、PO-ΔPのように変化させればよい。その結果それぞれのヒーターに温度差が生じ、光導波路の屈折率(光路長)が相対的に変わり、双方の位相差を高感度にしかも任意に変えることができる。2モード光(光周波数間隔frep)の光電気変換を用いた電波発生では、2モード光の光位相差の変移が、電波(周波数frep)の位相変移にそのまま反映されるという特徴がある。
【0030】
しかし逆の見方をすれば、
図2におけるm10(m20)の経路とm11(m21)の経路、すなわちマッハツェンダー型の経路の間に微小な位相揺らぎまたは位相ノイズが発生した場合、そのまま高周波電波信号の位相揺らぎまたは位相ノイズとして転写される。そこで、これらの経路間の位相誤差は最小限に留めておく必要がある。そのため、光バンドパスフィルター311(321)、312(322)、位相オフセット調整部301(302)、光変調素子331(332)は集積化してシリコンウェハ上に互いに近接して配置し、マッハツェンダー型の経路を可能な限り縮めておくことが好ましい。
【0031】
なお、位相オフセット調整部302に流れる電流はマイクロプロセッサ―等によって制御されてもよい。また本実施の形態では、光位相調整素子を設けたが、光変調素子としてLN変調素子を用いて位相変調を行う場合、そのバイアス電圧を調整するようにしてもよい。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、光周波数コムから複数の光周波数モード対を抽出し、位相オフセット調整の後加算合成することにより、コヒーレント合成された高周波電波信号を得ることができる。コヒーレント合成は電力加算ではなく、電圧加算となるため、2波をコヒーレント合成した場合22=4倍の電力を得ることができる。
【0033】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図4に本実施の形態のブロック図を示す。
図4において、レーザー素子1、微小光共振器2は
図1または
図2で示されたものと同等に機能する。また、光バンドパスフィルター311、312、光変調素子331、光増幅素子341、および光バンドパスフィルター321、322、光変調素子332、光増幅素子342、および位相オフセット調整部301、302も
図2と同等に機能するものとする。
【0034】
図2の構成と異なるのは、
図4においては、光電気変換部4が光電気変換素子41と42で構成され、送信アンテナ5はアンテナエレメント51と52よりなるアレイ構成となっている点である。さらに、光電気変換素子41と42がそれぞれ独立したアンテナエレメント51と52に直付けされている。アンテナエレメント51、52はボウタイアンテナを用いることが好ましい。また、ホーンアンテナや小型のパラボラアンテナを用いることも可能である。光電気変換素子41、42はそれぞれのアンテナエレメントの反射面またはレンズの焦点近傍に固定される。光電気変換素子41、42と無線伝送装置の本体とは光ファイバーで接続されてもよい。光電気変換素子41と42に対してそれぞれ独立にアンテナエレメント51、52を割り当てたことにより、アンテナをアレイ化することができ、設計の自由度を増やすことができる。これについては以下の実施の形態で改めて説明する。
【0035】
(第3の実施の形態)
本実施の形態では、送信アンテナ5は4個のアンテナエレメント501~504で構成される。各アンテナエレメントはボウタイアンテナであってもよい。またホーンアンテナであってもよい。一例として概念図を
図5に示す。各アンテナエレメントの導波路には光電気変換素子401~404が設けられている。また、各アンテナエレメントの開口部にはポリテトラフルオロエチレン等で形成された凸状のレンズが設けられ、各アンテナエレメントからは球面波が放射される。
【0036】
先述のように、変調信号生成部の各系統に設けられた位相オフセット調整部を制御することにより、アンテナ開口部における電波の位相が揃うように調整することができる。このときアンテナエレメント501~504から送信される電波は1枚の平面波に合成される。すなわち、アンテナエレメント501~504は一体として1つの大きなアンテナと等価にふるまう。一般的にアンテナのゲインは、波長に対する開口のサイズに関係するので、本実施の形態により、送信パワーのみならずアンテナゲインを稼ぐ効果も得られる。
【0037】
さらに、本実施の形態を応用することにより、フェーズドアレイアンテナを簡易に実現することができる。すなわち、アンテナ開口部における電波の位相を
図5中点線で示すようにアンテナエレメントごとに所定量ずらすことにより、合成波面の放射角度を変えることができる。なお、本実施の形態ではアンテナエレメントは一列に並べたが、二次元的に配列したものであってもよい。
【0038】
フェーズドアレイアンテナの特性はアンテナ全体のサイズとアンテナエレメントの数によって決められる。まずアンテナ全体のサイズが大きいほど、メインビーム(メインローブ)の幅が絞られ、ゲインが高くなる。また、アンテナを構成するアンテナエレメントの数が多いほど合成波面をより平面波に近づけることができさらにビームの触れ角を大きくすることができる。ただし、ビームを大きく振った場合、各アンテナエレメント間の位相段差も増え、合成波面は階段状となるため、放射パターンにサイドローブが発生する。
【実施例0039】
(第1の実施例)
以下本発明の第1の実施例について以下、
図6を用いて説明する。本実施例においては、2系統よりなるコヒーレント合成無線伝送の各プロセスにおける損失を考慮した上、伝送システム全体のゲインを見積もった。
【0040】
まず、光周波数コムから任意の隣接する光周波数モード対を2組分離する。各光周波数モードのパワーは15mW(11.76dBm)であるとする。一方、アレイ導波路回折子(AWG)で6dB、光変調器で10dB、合波の過程で6dB、光バンドパスフィルターで3dBの損失が発生すると仮定し、光増幅器で30dBのゲインアップを図るとすると、ここまでで単モードあたり11.76-6-10-6+30-3=16.76dBmの利得が得られる。
【0041】
さらに、光THz変換素子(光電気変換部)での損失は300GHzで30dBに達すると見積もられるため、最終的には単モードあたり47.4μW(16.76-30=-13.24dBm)となる。2モードをコヒーレント合成すると6dBが加算され、189.6μW(-7.24dBm)の出力が得られる。