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特開2024-132954流体吐出ヘッドから所定量の流体を送達するまたは吐出するための方法
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  • 特開-流体吐出ヘッドから所定量の流体を送達するまたは吐出するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132954
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】流体吐出ヘッドから所定量の流体を送達するまたは吐出するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/08 20060101AFI20240920BHJP
   A61M 11/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61M15/08
A61M11/00 D
A61M11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035685
(22)【出願日】2024-03-08
(31)【優先権主張番号】18/183,472
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】723005698
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148460
【弁理士】
【氏名又は名称】小俣 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168125
【弁理士】
【氏名又は名称】三藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】ギブソン・ブルース ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ・ブライアン ティー.
(72)【発明者】
【氏名】マーラ サード・マイケル エー.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】流体吐出ヘッドから所定量の流体を送達するための方法を提供する。
【解決手段】方法は、1つ以上の測定パラメータを提供するため、流体吐出ヘッド10のための流体フローパラメータと電気的パラメータから選択された1つ以上のパラメータを測定することと、1つ以上の測定パラメータから流体吐出オフセット値を算出することと、流体吐出ヘッドのメモリ位置に流体吐出オフセット値を格納することと、吐出ヘッドコントローラによって流体吐出オフセット値にアクセスすることと、流体吐出ヘッドから所定量の流体を提供するため、流体吐出ステップの間に流体吐出ヘッドから吐出される流体の量を流体吐出オフセット値を用いて調整することとを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体吐出ヘッドから所定量の流体を送達するための方法であって、
1つ以上の測定パラメータを提供するため、前記流体吐出ヘッドのための流体フローパラメータと電気的パラメータからなる群から選択された1つ以上のパラメータを測定することと、
前記1つ以上の測定パラメータから流体吐出オフセット値を算出することと、
前記流体吐出ヘッドのメモリ位置に前記流体吐出オフセット値を格納することと、
吐出ヘッドコントローラによって前記流体吐出オフセット値にアクセスすることと、
前記流体吐出ヘッドから前記所定量の流体を提供するため、流体吐出ステップの間に前記流体吐出ヘッドから吐出される流体の量を前記流体吐出オフセット値を用いて調整することと
を含む、
方法。
【請求項2】
前記流体フローパラメータは、ノズル径、フローチャネル幅、吐出チャンバ面積、ノズルプレート層厚、フロー特徴層厚、フローチャネル長、及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各前記流体吐出ヘッドのための流体フローパラメータオフセット値を提供するため、各前記流体吐出ヘッドの長さに沿った1つ以上の前記流体フローパラメータを平均化すること
を更に含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記流体フローパラメータオフセット値を前記流体吐出ヘッドの前記メモリ位置に格納すること
を更に含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記電気的パラメータは、ヒータシート抵抗率、ヒータシート厚、窒化ケイ素層厚、キャビテーション層抵抗率、キャビテーション層厚、及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記流体吐出ヘッドのための電気的パラメータオフセット値を提供するため、1つ以上の前記電気的パラメータを平均化すること
を更に含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電気的パラメータオフセット値を前記流体吐出ヘッドの前記メモリ位置に格納すること
を更に含む、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記電気的パラメータは、ヒータシート抵抗率、ヒータシート厚、窒化ケイ素層厚、キャビテーション層抵抗率、キャビテーション層厚、及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、
請求項4に記載の方法。
【請求項9】
電気的パラメータオフセット値を提供するため、前記流体吐出ヘッドの長さに沿った1つ以上の前記電気的パラメータを平均化すること
を更に含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記流体吐出オフセット値を提供するため、前記流体フローパラメータオフセット値と前記電気的パラメータオフセット値とを組み合わせること
を更に含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記流体吐出ヘッドから吐出される前記流体の量を調整するステップは、前記流体吐出ステップの間に吐出される流体液滴の液滴数を変化させること、及び前記流体吐出ステップの間に吐出される流体液滴のサイズを変化させることからなる群から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記流体吐出ステップの間に吐出される前記流体液滴のサイズを、前記流体吐出ステップの間に流体吐出温度を変化させること、前記流体吐出ステップの間に1つ以上の流体吐出器の射出パルス幅を変化させること、前記流体吐出ヘッドの電圧を変化させること、前記流体吐出ステップの間に前記1つ以上の流体吐出器の射出周波数を変化させること、及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択された方法によって変化させる、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
流体吐出ヘッドから所定量の流体を吐出するための方法であって、
1つ以上の測定パラメータを提供するため、前記流体吐出ヘッドのための流体フローパラメータと電気的パラメータからなる群から選択された1つ以上のパラメータを測定することと、
前記1つ以上の測定パラメータから流体吐出オフセット値を算出することと、
前記流体吐出オフセット値を前記流体吐出ヘッドのメモリ位置に格納することと、
吐出ヘッドコントローラによって前記流体吐出オフセット値にアクセスすることと、
吐出される前記所定量の流体を提供するため、流体吐出ステップの間に前記流体吐出ヘッドから吐出される流体液滴の液滴数を前記流体吐出オフセット値を用いて調整することと
を含む、
方法。
【請求項14】
前記流体フローパラメータは、ノズル径、フローチャネル幅、吐出チャンバ面積、ノズルプレート層厚、フロー特徴層厚、フローチャネル長、及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
流体フローパラメータオフセット値を提供するため、前記流体吐出ヘッドの長さに沿った1つ以上の前記流体フローパラメータを平均化すること
を更に含む、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記流体フローパラメータオフセット値を前記流体吐出ヘッドの前記メモリ位置に格納すること
を更に含む、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電気的パラメータは、ヒータシート抵抗率、ヒータシート厚、窒化ケイ素層厚、キャビテーション層抵抗率、キャビテーション層厚、及びこれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
電気的パラメータオフセット値を提供するため、前記流体吐出ヘッドのための1つ以上の前記電気的パラメータを平均化すること
を更に含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記流体吐出オフセット値を提供するため、前記流体フローパラメータオフセット値と前記電気的パラメータオフセット値とを組み合わせること
を更に含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記流体吐出ヘッドはサーマル型流体吐出ヘッドである、
請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体吐出デバイスに関するものであり、特に、流体吐出デバイスを用いて流体の正確且つ予測可能な送達を提供するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鼻腔スプレーデバイスは患者に薬剤を送達するための重要な方法となっている。鼻腔スプレーデバイスはIV又は注射による薬剤の投与よりも使用に便利である。また、鼻腔スプレーデバイスは薬剤の経口投与よりも高い薬剤の生物学的利用能を提供する。鼻腔スプレーデバイスによる薬剤送達は直接血流に進入して薬剤の効果を即効性とすることから、鼻腔スプレーデバイスを介した薬剤の吸収は経口による薬剤投与よりも迅速である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鼻腔を介して薬剤を送達するための従来の方法には、薬用スポイト、スプレーチップ付きのマルチスプレーボトル、スプレーチップ付きの単回投与用シリンジ、及び乾燥粉末システムが含まれる。従来の鼻腔薬剤送達のための方法のうちのいくつかは、流体のミストを鼻腔内に吐出するために加圧容器に依存している。従って、薬剤送達デバイスは典型的に特定薬剤のために設計されており、異なる薬剤の投与には適応することができない。また、従来のスプレータイプの薬剤送達デバイスは、操作者のミスやデバイスの違いによって薬液の設定用量の投与に大きな誤差が生じやすい。
【0004】
流体の正確な投与が求められる医療分野のもう1つの領域は、血液及び試料分析の分野である。試料の分析を行うためには、ガラススライド上又はマイクロウェルプレートのウェル内に分析流体の正確な量を堆積させる必要がある。従来のアッセイ分析の方法は、一度に複数の試料を準備可能なピペット又は精巧な電気機械装置を用いる。このような分析装置のコストを低減させ、より汎用性の高い薬剤送達デバイスを提供する試みとして、インクジェット技術がそのような応用に用いられるよう適合されてきた。
【0005】
印刷用途に用いられるインクジェット技術では、液滴サイズは+/-18%変化してよい。液滴サイズの変化は印刷画像の色域に主に影響する。しかし、薬剤送達や試料アッセイ分析といった医療用途では、送達される流体のボリュームは重要であり、分析又は患者に提供される投与量に影響する可能性がある。送達される流体のボリュームは、所与の時間に吐出される液滴数、又は各液滴のサイズに依存する。従って、所与の流体液滴数において、従来のインクジェット吐出ヘッドにより提供される液滴のボリューム又はサイズの変化は上記医療用途にとって大きすぎる。従って、そのような流体吐出デバイスにより送達される流体の量の精度を改善する必要が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記を鑑み、本発明の1つの実施形態は流体吐出ヘッドから流体の所定量を送達するための方法を提供する。該方法は、1つ以上の測定パラメータを提供するため、流体吐出ヘッドのための流体フローパラメータと電気的パラメータから選択された1つ以上のパラメータを測定することと、1つ以上の測定パラメータから流体吐出オフセット値を算出することと、流体吐出ヘッドのメモリ位置に流体吐出オフセット値を格納することと、吐出ヘッドコントローラによって流体吐出オフセット値にアクセスすることと、流体吐出ヘッドから所定量の流体を提供するため、流体吐出ステップの間に流体吐出ヘッドから吐出される流体の量を流体吐出オフセット値を用いて調整することとを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、流体フローパラメータは、ノズル径、フローチャネル幅、吐出チャンバ面積、ノズルプレート層厚、フロー特徴層厚、フローチャネル長、及び前記の2つ以上の組合せから選択される。
【0008】
いくつかの実施形態において、該方法は、流体フローパラメータオフセット値を提供するため、流体吐出ヘッドの長さに沿った1つ以上の流体フローパラメータを平均化することを更に含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、該方法は、流体フローパラメータオフセット値を流体吐出ヘッドのメモリ位置に格納することを更に含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、電気的パラメータは、ヒータシート抵抗率、ヒータシート厚、窒化ケイ素層厚、キャビテーション層厚、及び前記の2つ以上の組合せから選択される。
【0011】
いくつかの実施形態において、該方法は、電気的パラメータオフセット値を提供するため、流体吐出ヘッドのための1つ以上の電気的パラメータを平均化することを更に含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、該方法は、電気的パラメータオフセット値を流体吐出ヘッドのメモリ位置に格納することを更に含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、該方法は、流体吐出オフセット値を提供するため、流体フローパラメータオフセット値と電気的パラメータオフセット値とを組み合わせることを更に含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、流体吐出ヘッドから吐出される流体の量を調整するステップは、流体吐出ステップの間に吐出される流体液滴の液滴数を変化させること、及び、流体吐出ステップの間に吐出される流体液滴のサイズを変化させることから選択される。
【0015】
いくつかの実施形態において、流体吐出ステップの間に流体吐出温度を変化させること、流体吐出ステップの間に1つ以上の流体吐出器の射出パルス幅を変化させること、流体吐出ヘッドの電圧を変化させること、流体吐出ステップの間に1つ以上の流体吐出器の射出周波数を変化させること、及び前記の2つ以上の組合せから選択された方法によって、流体吐出ステップの間に吐出される流体液滴のサイズを変化させる。
【0016】
もう1つの実施形態において、本発明は流体吐出ヘッドから所定量の流体を吐出するための方法を提供する。該方法は、1つ以上の測定パラメータを提供するため、流体吐出ヘッドのための流体フローパラメータと電気的パラメータからなる群から選択された1つ以上のパラメータを測定することと、1つ以上の測定パラメータから流体吐出オフセット値を算出することと、流体吐出オフセット値を流体吐出ヘッドのメモリ位置に格納することと、吐出ヘッドコントローラによって流体吐出オフセット値にアクセスすることと、吐出される所定量の流体を提供するため、流体吐出ステップの間に流体吐出ヘッドから吐出される流体液滴の液滴数を流体吐出オフセット値を用いて調整することとを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態の利点は、従来の流体吐出ヘッドによって正確な流体の量を提供することができ、これにより医療分析及び製薬目的のため流体の正確な用量を投与するよう設計されたデバイスの複雑さとコストを大幅に減少させることができる点にある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】複数の流体吐出ヘッドを含むシリコンウェハの、縮尺通りでない平面図である。
図2図1のウェハから切り出された単一の吐出ヘッドの、縮尺通りでない平面図である。
図3図2の吐出ヘッドの、縮尺通りでない部分断面図である。
図4図2の吐出ヘッドの一部の、縮尺通りでない拡大図である。
図5】本発明の方法に用いられる鼻腔スプレーデバイスの、縮尺通りでない断面図である。
図6】流体ボリュームの変化率と公称値からの流体流路幅偏差の平均変化率との間の相関グラフである。
図7】流体ボリュームの変化率と公称値からの流体フロー特徴層厚の平均変化率との間の相関グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
流体吐出デバイス用の吐出ヘッドは、典型的に異なる製造場所での製造段階を通じて製造される。吐出ヘッドの部品の製造公差は厳重に監視されるが、シリコンウェハ基板、及び同一のシリコンウェハ基板上に作製された吐出ヘッド間に若干のばらつきがあり、また各吐出ヘッドの長さに沿ったばらつきが存在し、これは特定の応用により求められる所定ボリュームに対する吐出流体のボリュームの変動につながる可能性がある。ここで説明する方法は、吐出ヘッドから吐出される流体の量の精度を改善するため、流体吐出の変動を補正するために用いることができる。
【0020】
シリコンウェハ基板12(図1)上には、流体吐出器とそれに関連付く回路を提供するために、以下でより詳細に説明する絶縁性、導電性、抵抗性の材料の複数の層を堆積することによって、典型的に複数の流体吐出ヘッド10が形成される。個別の吐出ヘッド10を形成するために上記の層がシリコンウェハ基板12上に堆積されると、各吐出ヘッドのためのフロー特徴を提供する層の堆積及び作製のため、ウェハ12は他の場所へ送られる。図2に示すような典型的な吐出ヘッド10は、流体供給ビア16がエッチングされたシリコン基板14と、吐出ヘッド10の長さLに沿った複数のノズル孔20を提供するためシリコン基板14に取り付けられたノズルプレート及びフロー特徴層とを含む。
【0021】
吐出ヘッド10の一部の拡大図を図3図4に示す。各吐出ヘッド10は、堆積された複数の流体吐出器22と、それらに関連付けられた電気回路と、エッチングされた流体供給ビア16とを含むシリコン基板14を含む。フロー特徴層24にはフロー特徴が形成され、流体供給ビア16から流体吐出チャンバ28へ流体を提供するための複数の流体フローチャネル26を含む。いくつかの実施形態において、フロー特徴層24にはノズル孔20も形成される。他の実施形態において、流体を吐出するためのノズル孔20は、フロー特徴層24に取り付けられた別のノズルプレート層18に形成される。
【0022】
図3を参照し、吐出ヘッド10の一部の拡大断面図を表している。複数の抵抗層及び絶縁層がシリコンウェハ12により提供されるシリコン基板14上に堆積され、シリコン基板14に隣接して形成された第1フィールド酸化層32を含むが、これに限定されない。燐がドープされたガラス層といったドープされたガラス層であってよい絶縁層34が、フィールド酸化層32上に堆積又は成長される。フィールド酸化層32と絶縁層34は、合わせて約8,000~約30,000オングストロームの範囲の厚さを有する。絶縁層34上にはパッシベーション層として窒化ケイ素層36が堆積されて抵抗層38の一部の下に存在し、該下部はシリコン基板14と抵抗層38との間に存在する。パッシベーション層36は、約1,000~約15,000オングストロームの範囲の厚さを有する。抵抗層38は、約1,500~約10,000オングストロームの範囲の厚さ(以降、「ヒータシート厚」)を有する。次に、タンタル又はアルミニウムといった金属導電層40が抵抗層38上に堆積され、抵抗層38は窒化ケイ素層36と導電層40との間に完全に封入される。導電層40は、約2,000~約10,000オングストロームの範囲の厚さを有する。最後に、酸化ケイ素又は二酸化ケイ素から選択される封入層42が、有機ケイ素化合物から化学蒸着プロセスにより導電層40上に堆積される。封入層42は、約2,000~約10,000オングストロームの範囲の厚さを有する。封入層42はまた耐エッチング性を有し、流体供給ビア16を形成するためのDRIEプロセスの間にエッチングマスクとしての役割を果たす。封入層42は、流体フローチャネル26と流体吐出チャンバ28を含むフロー特徴層24を取り付けるための平坦面も提供する。いくつかの実施形態において、流体吐出器22は、約2,000~約6,000オングストロームの範囲の厚さを有する窒化ケイ素層44、及び/又は、約2,000~約6,000オングストロームの範囲の厚さを有するタンタルキャビテーション層46によって更に保護される。
【0023】
シリコンウェハ12を加工する間に、抵抗層38の抵抗率(以降、「ヒータシート抵抗率」)とキャビテーション層46の抵抗率がウェハ12上の複数位置で測定され、これら層の抵抗率測定から、複数位置における抵抗層38とキャビテーション層46の厚さが決定される。窒化ケイ素層44の厚さは、ウェハ12上の複数位置における金属導電層40とキャビテーション層46との間の静電容量を測定して、静電容量測定から複数位置における窒化ケイ素層44の厚さを算出することによって決定される。抵抗層38、窒化ケイ素層44、及びキャビテーション層46の厚さは、吐出ヘッド10の一端48から他端50(図2)までの長さLに沿って抵抗率測定と静電容量測定を行うことによって決定されてもよい。層の抵抗率の値と厚さの値(以降、「電気的パラメータ」)は吐出ヘッド10でメモリ位置に個別に格納されてよい、又は、2つ以上の電気的パラメータの組合せが、吐出ヘッド上のメモリ、又は流体吐出カートリッジのメモリ又は該カートリッジ上のバーコード、又は流体吐出デバイス上のメモリに格納されてよい。上記の1つ以上の層32~46の抵抗率及び/又は厚さの組合せは、各吐出ヘッド10のための電気的パラメータオフセット値を提供するために用いられる。吐出ヘッドへの入力エネルギーは上記の電気的パラメータに影響される。
【0024】
吐出ヘッド作製の次のステップにおいて、複数の吐出ヘッド10を含むウェハ12は、フロー特徴層24を堆積するための場所へと送られる。フロー特徴層24は典型的に、ポジ型又はネガ型フォトレジスト材料といったフォトイメージャブル材料製であり、約12~約30μmの範囲の全体的厚さT1を有する。流体フロー特徴層24には、光画像形成及び現像技術を用いて流体吐出チャンバ28と流体フローチャネル26とが形成される。次に、フロー特徴層24にノズルプレート層18が施される。フロー特徴層のように、ノズルプレート層はフォトレジスト材料製であってよく、光画像形成及び現像技術を用いてノズルプレート層にノズル孔が画像形成されて現像される。ノズルプレート層18は、約12~約30μmの範囲の全体的厚さT2を有する。上記で説明した抵抗層、絶縁層、パッシベーション層のように、フロー特徴層厚T1とノズルプレート層厚T2は、上記で説明したように吐出ヘッド10の一端48から他端50までの長さLに沿って変化してよい。
【0025】
図4に示すように、流体フローチャネルは、吐出ヘッド10の長さLに沿って変化してよい幅W1と長さL1とを有する。流体フローチャネル幅W1は約12~約40μmの範囲であってよい。同様に、各流体吐出チャンバは、流体フロー層24において吐出ヘッド10の長さLに沿って変化してよい長さL2と幅W2とを有する。流体吐出チャンバの長さL2と幅W2のそれぞれは約20~約50μmの範囲であってよい。更に、ノズルプレート層18に形成された各ノズル孔20は、吐出ヘッド10の長さLに沿って変化する直径を有してよい。ノズル孔径は約15~約40μmの範囲であってよい。従って、幅W1とW2、長さL1とL2、厚さT1とT2、又はノズル径のうちの1つ以上が、複数の流体フローパラメータオフセット値を提供するため吐出ヘッド10の長さにわたって平均化されてよい、又は、複数の流体フローオフセット値は単一の流体フローパラメータオフセットとして組み合わされてよい。流体フローパラメータオフセット値は、吐出ヘッド10からの流体の吐出を制御するため、単独で用いられるか、電気的パラメータオフセット値と組み合わせて用いられてよい。
【0026】
電気的パラメータ平均値又はオフセット値と流体フローパラメータ平均値又はオフセット値の全ては、各吐出ヘッド10のメモリ位置に格納されてよい、又は、別々の値又は組み合わされた単一の値として、吐出ヘッドのメモリ、又は流体吐出カートリッジのメモリ又は該カートリッジ上のバーコード、又は流体吐出デバイスのメモリに提供されてよい。
【0027】
各吐出ヘッド10のためウェハ12上でフロー特徴層24とノズルプレート層18が完成されると、個別の吐出ヘッド10はウェハから切り出されて流体吐出カートリッジに取り付けられてよい。
【0028】
ここで説明する方法を更に例示するため、以下に非限定的な例を提供する。
【0029】
電気的パラメータ
CMOS及び流体吐出器の作製の間に、下記の電気的パラメータが測定される:
1.ウェハ12作製時の抵抗層38シート抵抗率
2.ウェハ12作製時の窒化ケイ素層44厚
3.ウェハ12作製時のキャビテーション層46抵抗率
【0030】
方法A.液滴サイズに対する前記測定値1、2、3それぞれの効果を履歴データから準備したデータから算出し、吐出ヘッドのメモリ又は吐出ヘッドを含む流体吐出カートリッジのメモリにオフセット値として別々に格納する。
【0031】
方法B.液滴サイズに対する測定値1、2、3からの複合効果を算出し、組み合わされた液滴サイズ変化を反映した単一の電気的パラメータオフセット値として記録する。単一の電気的パラメータオフセット値は、吐出ヘッドのメモリ又は流体吐出カートリッジのメモリに格納される。
【0032】
方法C.前記の1、2、3からの個別のオフセット値又は複合オフセット値は、以下に述べる流体フローパラメータから決定された1つ以上のオフセット値との後の組合せのため、スプレッドシートに保存されてよい。
【0033】
流体フローパラメータ
フロー特徴層とノズルプレート層の作製の間に、下記の流体フローパラメータが吐出ヘッドの長さLに沿った各吐出ヘッドのために光学的に測定される:
4.流体フロー層厚
5.各流体フローチャネルの長さと幅の寸法
6.各流体吐出チャンバの長さと幅の寸法
7.ノズルプレート層厚
8.各ノズルのノズル径
【0034】
方法D.液滴サイズに対する前記測定値4、5、6、7、8のそれぞれの効果を履歴データから準備したデータから算出し、吐出ヘッドのメモリ又は吐出ヘッドを含む流体吐出カートリッジのメモリにオフセット値として別々に格納する。
【0035】
方向E.液滴サイズに対する測定値4、5、6、7、8からの複合効果を算出し、組み合わされた液滴サイズ変化を反映した単一の流体フローパラメータオフセット値として記録する。単一の流体フローパラメータオフセット値は、吐出ヘッドのメモリ又は流体吐出カートリッジのメモリに格納される。
【0036】
方法F.上記1、2、3からの個別の電気的パラメータオフセット値のうちの1つ以上又は複合電気的パラメータオフセット値と、上記4、5、6、7、8からの流体フローパラメータオフセット値のうちの1つ以上又は複合流体フローパラメータオフセット値とを組み合わせて、流体吐出ステップの間に液滴数又は液滴サイズを変化させるために流体吐出デバイスのコントローラによって用いられる単一の流体吐出オフセット値としてよい。
【0037】
1つの実施形態において、流体吐出デバイスの使用時に、コントローラは上述した方法Aと方法Dからの1~8の個別の値の全てを吐出ヘッド又は流体カートリッジのメモリから読み出し、液滴数又は液滴サイズに対する各別個の値の複合効果を算出し、吐出ヘッドから所定量の流体を提供するため液滴数又は液滴サイズを調整する。
【0038】
もう1つの実施形態において、流体吐出デバイスの使用時に、コントローラは方法Bからの前記1、2、3の値の液滴サイズに対する複合効果をメモリから読み出し、方法Eからの前記4、5、6、7、8の値の液滴サイズに対する複合効果をメモリから読み出し、2つの別々の複合効果から液滴数又は液滴サイズに対する組合せ効果を算出する。
【0039】
更にもう1つの実施形態において、流体吐出デバイスの使用時に、コントローラは、所定量の流体を送達するための液滴数又は液滴サイズを選択することに用いるため、方法Fからの液滴数又は液滴サイズに対する単一の流体オフセット値を読み出す。
【0040】
コントローラは、上述した算出された又は読み出されたオフセット値から、吐出ヘッドヒータを用いて吐出ヘッドから吐出される流体の温度を変化させることにより、流体吐出器の射出パルスを変化させることにより、吐出ヘッドの電圧を変化させることにより、又は吐出ヘッドの射出周波数を変化させることにより、液滴サイズを調整してよい。コントローラは所定量の流体を吐出するため、射出パルスの総数を増加又は減少させることによって液滴数を変化させてよい。
【0041】
平均流体フローパラメータ測定に基づいて所定量の流体を吐出するため射出パルスの総数を如何にして増加又は減少させるかを例示するため、以下に非限定的な例を提供する。
【0042】
実施例
上述したように、1つ以上の流体フローパラメータは加工技術のため変動する可能性がある。変動は、吐出ヘッドの長さにわたって独立して測定された流体フローパラメータ及び流体フロー特徴層の厚さの伸張であり得る。流体フローチャネル幅測定値は、フロー特徴層の加工の間に起こる伸張を表す。流体フローチャネル幅測定値は、吐出ヘッドの長さに沿った流体フローチャネルの全ての平均又はいくつかのサンプリングである。伸張と液滴サイズとの間の関係は、吐出ヘッドのための液滴サイズオフセット値のうちの1つとして用いられる。例えば、吐出ヘッドの長さに沿った平均流体フローチャネル幅は図6の0.00により表された所定流体フローチャネル幅よりも0.7μm広いと測定され、次いで図6の線130から流体ボリュームのためのオフセット値は-0.95%となる。図7の関係から、流体フロー特徴層の平均厚さが所定厚さ(0.00により表される)を7.1%超える場合、線132から流体ボリュームのための対応するオフセット値は0.11%となる。
【0043】
上記で決定されたフロー特徴値によるボリューム率変化を補償するため、オフセット値が流体液滴数の調整を提供するため組み合わされる。本実施例において、オフセット値は組み合わされて(100-0.95)×(100+0.11)/100=98.9%の複合調整を提供する。複合調整とは、吐出ヘッドが所定の公称値よりも低い総流体ボリュームを分注することを予期されることを意味する。分注ボリュームを所定のボリュームまで増加させるため、射出パルスの数が射出パルスの公称数の100×100/98.9=101.1%に増加される。
【0044】
上述した方法は主に個別の吐出ヘッド10のための流体フローパラメータを用いて説明しているが、ウェハレベル加工から得られる流体フローパラメータが用いられてもよい。ただし、ウェハレベルパラメータから得られる流体送達の調整は、ウェハ上の個別の吐出ヘッドから得られる流体フローパラメータから成される調整よりも精度が劣る。
【0045】
ここで説明する方法に用いることのできる鼻腔スプレーデバイスといった代表的な流体吐出デバイスを、図5において縮尺通りでない断面図で表す。デバイス100はカートリッジ本体102を含み、カートリッジ本体102に取り付けられた流体出口ノズル104を備える。カートリッジ本体102には流体噴射吐出カートリッジ106が設けられる。流体噴射吐出カートリッジ106は、デバイス100によって分注すべき流体を含む。ロジックボード108がカートリッジ本体102に設けられ、ロジックボードコネクタ110を介して流体噴射吐出カートリッジ106上の吐出ヘッド10に電気接続される。吐出ヘッド10は複数のノズル孔20を含んでおり、流体吐出器22に関連付く。上記で説明した1つ以上の方法を用いて吐出ヘッドから吐出される流体の量を変化させるよう吐出ヘッド10を制御するための制御アルゴリズムを実行するため、コントローラ114がロジックボード108又は吐出ヘッド10に設けられる。デバイス100は、吐出ヘッド10に電力を提供するためロジックボード108に電気接続された充電式電池116を含んでよい。デバイス100を起動するために電源スイッチ118が用いられる。異なる薬液を用いるためにコントローラを再プログラムするため、USB入力120が含まれてもよい。ユーザによるオンデマンドでの液滴の送達を開始するため、作動ボタン122が含まれてよい。
【0046】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のため、特記しない限り、本明細書及び特許請求の範囲で用いられる量、百分率、又は割合を表す全ての数値及び他の数値は、全ての場合において用語「約」によって修飾されると理解されたい。従って、特記しない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記述される数値パラメータは、本発明により得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲への均等論の適用を制限する試みではなく、各数値パラメータは少なくとも、記載された有効桁数を考慮して、そして通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0047】
特定の実施形態について説明したが、現在予見していない又は予見できない代替、改変、変形、改善、及び実質的な均等物を出願人又は当業者が想到する可能性がある。従って、出願時の及び補正時の添付の特許請求の範囲は、そのような及び代替、改変、変形、改善、及び実質的な均等物の全てを包含することを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7