(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132975
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】微多孔質膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/36 20060101AFI20240920BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240920BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B01D71/36
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/04
B01D69/12
B01D69/10
C08J9/00 CEW
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037704
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023041214
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 欽司
(72)【発明者】
【氏名】綛谷 裕
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA32
4D006GA35
4D006GA41
4D006MA02
4D006MA06
4D006MA22
4D006MA24
4D006MA31
4D006MB06
4D006MB20
4D006MC30
4D006PA10
4D006PB02
4D006PB20
4D006PB62
4D006PB64
4D006PC80
4F074AA39
4F074DA02
4F074DA10
4F074DA19
4F074DA23
4F074DA43
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、気体の透過性能に優れ、かつ、アルコールや油等の表面張力の低い液体においても透過する懸念が無い、微多孔質膜を提供することにある。
【解決手段】本発明の微多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするふっ素樹脂からなる微多孔質膜であって、微多孔質膜の孔幅は1μm以下であることを特徴とする。また、表面層に厚さ100nm以下からなるスキン層を有することが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするふっ素樹脂からなる微多孔質膜であって、
該微多孔質膜の孔幅は1μm以下であることを特徴とする微多孔質膜。
【請求項2】
該微多孔質膜の表面層に厚さ200nm以下からなるスキン層を有することを特徴とする、
請求項1に記載の微多孔質膜。
【請求項3】
該微多孔質膜の気孔率が20%以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の微多孔質膜。
【請求項4】
該微多孔質膜のJIS Z 8807に準拠する比重が1.96以上であることを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の微多孔質膜。
【請求項5】
25℃における窒素ガスの気体透過係数が800×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHg以上1800×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の微多孔質膜。
【請求項6】
1MPaの内圧を10分間加えた時、メタノールの透過がないことを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の微多孔質膜。
【請求項7】
チューブ形状から成ることを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の微多孔質膜。
【請求項8】
脱気または給気に用いられることを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の微多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液やインク等の液体に含有される酸素等の溶存気体を取り除く脱気用途や、洗浄用機能水の製造時、水に二酸化炭素ガスを給気する等の給気用途、あるいは、混合気体から特定の気体を分離する気体分離用途などにおいて、好適に使用される微多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
脱気や給気に用いられる分離膜としては、従前より様々なふっ素樹脂製多孔質膜が使用されている(特許文献1~3)。
【0003】
近年では、濾過層の外周面の平均孔径に対する、内周面の平均孔径との比率を定め、透水性と選択性に優れる中空糸膜が知られている(特許文献4)。
【0004】
特許文献1の多孔質チューブは、発泡ふっ素樹脂に発泡成形による独泡タイプの気泡であるため、気体透過性が劣る。
【0005】
特許文献2の多孔質ふっ素樹脂薄膜の孔径は非常に小さいが、ディスパージョン塗布により成形される薄膜のため、機械強度が弱く、耐水圧性が劣る。
【0006】
特許文献3、4は、スキン層を有するが気体透過性と液体透過性の両立に課題が残る。
【0007】
また、上述の特許文献の他に、非晶性ふっ素樹脂からなる分離膜も知られるが、脱気性能に優れる一方、柔軟性に乏しい点が課題となっている。
【0008】
以上のように、脱気・給気用途の分離用部材は気体透過性に優れ、かつ、液体が透過しないことが求められるが、気体透過性を改善すると液体の透過し易くなるなど両特性はトレードオフの関係にあり、気体の透過性能と液体の透過防止性能の両立は非常に困難であった。特にアルコール、油等の表面張力の低い液体に関しては、毛細管現象により浸透し易い傾向があり、更なる改善が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-160291号公報
【特許文献2】特開2010-94579号公報
【特許文献3】特開平10-202074号公報
【特許文献4】WO2020/059344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、気体の透過性能と液体透過防止性能の両方に優れ、かつ柔軟性についても優れる微多孔質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における微多孔質膜の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするふっ素樹脂からなる微多孔質膜であって、微多孔質膜の孔幅は1μm以下であることを特徴とする。
(2)微多孔質膜の表面層に厚さ200nm以下からなるスキン層を有することが好ましい。
(3)微多孔質膜の気孔率が20%以下であることが好ましい。
(4)微多孔質膜のJIS Z 8807に準拠する比重が1.96以上であることが好ましい。
(5)25℃における窒素ガスの気体透過係数が800×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHg以上1800×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましい。
(6)1MPaの内圧を10分間加えた時、メタノールの透過がないことが好ましい。
(7)チューブ形状から成ることが好ましい。
(8)脱気または給気に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気体の透過性能と液体の透過防止性能の両方に優れ、かつ柔軟性についても優れる微多孔質膜が得られる。また、表面層に厚さ200nm以下からなるスキン層を有する場合、座屈防止性においても優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】チューブ形状からなる微多孔質膜の線方向断面図(観察箇所X)を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る微多孔質膜のFE-SEM測定画像である。
【
図3】汎用PTFE多孔質チューブの観察箇所X(チューブ肉厚中心付近)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の微多孔質膜の例として、基本構成について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
本発明の微多孔質膜1は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を主成分とするふっ素樹脂からなることを特徴とする。好ましくは、PTFEのみからなり、着色のための顔料や帯電防止のための帯電防止材料等の添加剤については、目的に応じて適量加えても良い。
【0016】
さらに微多孔質膜1の孔幅は1.0μm以下であることを特徴とする。好ましくは0.05μm~1.0μm、さらに好ましくは0.10μm~0.50μmである。孔幅は、
図1の観察箇所Xのチューブ肉厚中心付近におけるFE-SEM測定画像(
図2(a))により測定される。
【0017】
孔幅のFE-SEM測定条件について、試料は白金蒸着、試料の周囲を包埋樹脂で固め、加速電圧は1.0kV、観察倍率は2万倍である。
図2(a)に示すように、本願発明の微多孔質膜1の孔は、円筒形状あるいは俵型形状に類似の長細い形状をしているため、孔幅の最も長い部分を孔幅の値とする。
【0018】
本発明の微多孔質膜1は、非常に微細な孔が膜全体に渡って存在していることが特徴である。隣接する孔同士は互いに一部で連結しているため、気体が孔を介して移動可能となる。
【0019】
また、
図1の観察箇所Xのチューブ外側(表面層)に位置するスキン層の画像(
図2(b))や観察箇所Xのチューブ内側(表面層)に位置するスキン層の画像(
図2(c))に示すように微多孔質膜1は表面層に厚さ200nm以下からなるスキン層を有することが好ましい。さらに好ましくは100nm以下、最も好ましくは50nm以下である。測定方法は、孔幅と同じくFE-SEM測定を用い、測定条件の加速電圧を0.8kV、観察倍率を10万倍に変更している。
【0020】
ここで表面層に存在するスキン層とは、内側の層と比べて気孔率が小さい層を示す。液体透過防止の観点で、気孔率は0%が好ましいが、座屈防止の観点で極わずかに孔が存在しても良い。
【0021】
微多孔質膜1の気孔率は20%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下、最も好ましくは7%以下である。気孔率の測定方法は、JIS K 7112に記載の水中置換法に準拠する。
【0022】
微多孔質膜1の比重は1.96以上であることが好ましい。さらに好ましくは2.0以上である。比重の試験方法はJIS Z 8807に記載の液中秤量法に準拠する。
【0023】
一般的な工業用PTFE膜(充実構造品)の比重は、2.0~2.2が多く用いられる。本発明の微多孔質膜1の場合、比重は充実構造品と同等であるが、気体透過性に優れていることが特徴である。比重は小さくせず同等のまま、気体透過性に優れるため、気体の透過性能と液体透過防止性能の両立が可能となる。
【0024】
微多孔質膜1の25℃における窒素ガスの気体透過係数が800×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHg以上1800×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましい。
【0025】
気体透過係数は、JIS K 7126-2に記載のガスクロマトグラフ法による試験方法に準拠し、気温25℃、大気圧雰囲気下における、窒素ガスの気体透過係数を測定する。キャリアガスの流量は10ml/minである。
【0026】
また、本発明の微多孔質膜1の最大の特徴として、気体透過性に優れることに加え、液体の透過が無いことが挙げられる。特に、アルコールや油等の表面張力が低い液体においても、液体透過の防止効果が発揮される。
【0027】
液体の透過が無いとは、微多孔質膜1に1MPaの内圧を10分間加えた時、微多孔質膜1より液体の透過が無いことを示す。液体の種類は、例えば水、エタノール等のアルコール類、油類であるが、本発明ではメタノールを用いて評価を行う。
【0028】
液体のうち、アルコールや油の表面張力は水と比較して低く、20℃における表面張力は、水が約73mN/m、エタノール及びメタノールが約23mN/mである。また、25℃におけるパラフィン油の表面張力は約26mN/mである。
【0029】
表面張力が低い液体は、毛細管現象によって、多孔質体の細孔内に浸透しやすい。そのため、従来の多孔質構造の膜(チューブ)の場合、チューブ内に表面張力が低い液体を流すと、チューブ壁中の細孔中に液体が浸透し、長期使用においては、チューブの外周へ漏れ出す恐れがある。
【0030】
本発明の微多孔質膜1は、非常に小さい微孔と非常に薄いスキン層を有するため、高い気体透過性を維持したまま、表面張力が低い液体においても、液体透過の防止が可能となる。
【0031】
微多孔質膜1の形状は、シート状の他、チューブ形状、ロッド(棒)形状等が含まれ、特に限定されない。液体搬送の目的においては、チューブ形状が好ましい。
【0032】
スキン層はシート状の微多孔質膜の場合では上面層と底面層の少なくともいずれか一方に存在していれば良く、チューブ状の微多孔質膜の場合では内側表面層(チューブの内周面)と外側表面層(チューブの外周面)の少なくともいずれか一方に存在していれば良い。ロッド形状の微多孔質膜である場合は表面層に存在していれば良い。その他の形状においても同様である。
【0033】
微多孔質膜1の内径及び肉厚は特に限定されないが、成形性や脱気・給気用途の観点において、内径は0.20~2.0mmが好ましく、肉厚は0.01~0.50mmが好ましい。
【0034】
微多孔質膜1の伸び率は、特に限定されないが、200%以上であることが好ましい。抗張力は、特に限定されないが、80MPa以上であることが好ましい。
【0035】
微多孔質膜1の製法は特に限定されないが、一般的なペースト押出工程及び延伸工程による成形が好ましい。PTFEのファインパウダーを用いたペースト押出成形の場合、ディスパージョン塗布による成形と異なり、肉厚で機械強度や耐水圧性に優れる微多孔質膜1が得られる。
【0036】
微多孔質膜1は単層のみで形成されても良いが、適宜、他層と組み合わせて多層構造しても良く、特に限定されない。
【0037】
用途について、特に限定されないが、脱気・給気用途にて用いられることが好ましい。
【実施例0038】
以下、本発明の微多孔質膜1について、実施例及び比較例を挙げ、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0039】
実施例1は、本発明の100%PTFEからなるチューブ形状の微多孔質膜1である。チューブの内径は0.82mm、肉厚は0.30mm、孔幅は0.6μmである。チューブ表面層に存在するスキン層の厚さは10nmである。
【0040】
比較例1は、
図3に示す汎用のPTFE多孔質チューブであって、チューブの内径は3.0mm、肉厚は0.5mm、孔幅は17μmである。チューブ表面層はスキン層を有さない。
【0041】
比較例2は、汎用のPTFEチューブ(充実構造品)であって、チューブの内径は0.90mm、肉厚は0.50mm、無孔である。チューブ表面層はスキン層を有さない。
【0042】
比較例3は、非晶性ふっ素樹脂チューブであって、チューブの内径は0.68mm、肉厚は0.08mm、無孔である。チューブ表面層はスキン層を有さない。
【0043】
比較例4は、市販の脱気用シリコーンゴムチューブであって、チューブの内径は0.80mm、肉厚は0.20mm、無孔である。チューブ表面層はスキン層を有さない。
【0044】
上記、実施例及び比較例について、比重、気孔率、気体透過係数及び液体の透過有無等の評価を行う。
【0045】
以下、各評価の測定方法を示す。
【0046】
(比重の測定方法)
JIS Z 8807に記載の液中秤量法に準拠する。また、標準物質は水、測定温度は25℃、サンプル長は150mmとする。
【0047】
(気孔率の測定方法)
JIS K 7112に記載の水中置換法に準拠する。測定温度は25℃である。
【0048】
(気体透過係数の測定方法)
JIS K 7126-2に記載のガスクロマトグラフ法に準拠し、25℃における、窒素ガスの気体透過係数を測定する。測定器は、ジーエルサイエンス株式会社製ガス透過試験機を用い、キャリアガスの流量は10ml/min、試験時の大気圧は101.3kPaであり、ガスを流してから平衡状態に達するまでの時間は10分である。
【0049】
(液体透過の有無の評価方法)
チューブ内にメタノールを入れ、1.0MPaの内圧を10分間加え、チューブの内側から外側へのメタノールのしみ出し有無を確認する。
【0050】
以下、実施例、比較例の評価結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1より、本発明の微多孔質膜1(実施例1)は、高い気体透過性能と液体透過防止性能の両方に優れている。汎用PTFE多孔質チューブ(比較例1)は、気孔率が高いため、気体透過性能に優れる一方、液体漏れが発生する。汎用PTFEチューブ(比較例2)は、無孔のため液体漏れは発生しないが、気体透過性能も低い。非晶性ふっ素樹脂チューブ(比較例3)は、気体透過性能と液体透過防止性能の両方に優れるものの、気体透過係数は実施例1と比較して低く、本発明の微多孔質膜1には及ばない。また非晶性ふっ素樹脂チューブは非常に高価な材料であり、コスト面でも実施例には劣る。脱気用シリコーンゴム(比較例4)は一般的に安価ではあるが、気体透過性能、液体防止性能、耐薬品性のいずれも他に比べて劣る。
【0053】
本発明の微多孔質膜1(実施例1)が気体透過性能と液体透過防止性能の両特性に非常に優れる理由として、孔幅が非常に小さいことが挙げられる。微細な孔が無数に空いていることから、高い気体透過性能を維持したまま、液体透過を防止できる。さらに、微多孔質膜1の表面層に、極薄のスキン層が存在する場合、気体透過性能を維持しつつ、さらに液体透過防止性能を向上する。液体透過防止性能が向上するため耐水圧性の向上が著しい。