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  • 特開-織編物及び衣服 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132976
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】織編物及び衣服
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/16 20060101AFI20240920BHJP
   D01F 8/12 20060101ALI20240920BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240920BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
D04B1/16
D01F8/12 Z
D03D15/283
D03D15/292
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037768
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023039386
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永田 睦也
(72)【発明者】
【氏名】吉村 敏満
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雄大
(72)【発明者】
【氏名】岸田 泰輔
【テーマコード(参考)】
4L002
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA06
4L002AB02
4L002AB05
4L002AC01
4L002BA01
4L002BA05
4L002BB01
4L002EA02
4L002EA03
4L002EA06
4L002FA01
4L041AA07
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA22
4L041BB08
4L041CA21
4L041CA31
4L041DD14
4L048AA24
4L048AA28
4L048AB07
4L048AC12
4L048AC15
4L048CA07
4L048CA11
4L048CA15
4L048DA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】速乾性に優れ、湿潤時に生地の形態が変化することで乾燥時よりも湿潤時の方が通気性を向上できるとともに、湿潤状態から乾燥状態へ戻った際の寸法変化率が小さい生地を提供すること。
【解決手段】2種類以上の糸を使用した織編物であって、前記糸のうち少なくとも1種類の糸は偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維であり、前記織編物における前記ポリアミド複合繊維の質量割合が10%~60%であり、前記ポリアミド複合繊維の伸縮伸長率が3.0%以上であり、前記ポリアミド複合繊維において、芯成分を構成するポリアミドAがポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で20質量%以上含み、鞘成分を構成するポリアミドBがナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン410等からなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で50質量%以上含む織編物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の糸を使用した織編物であって、前記糸のうち少なくとも1種類の糸は偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維であり、前記織編物における前記ポリアミド複合繊維の質量割合が10%~60%であり、前記ポリアミド複合繊維のJIS L 1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」8.11項に記載のC法で測定したときの伸縮伸長率が3.0%以上であり、前記ポリアミド複合繊維において、芯成分を構成するポリアミドAがポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で20質量%以上含み、鞘成分を構成するポリアミドBがナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン56、ナイロン510及びナイロン1010からなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で50質量%以上含む織編物。
【請求項2】
前記ポリアミド複合繊維の断面において、鞘成分の最小厚み(S)と繊維直径(D)との比(S/D)が0.01~0.10である請求項1に記載の織編物。
【請求項3】
前記ポリアミド複合繊維において、芯成分を構成するポリアミドAがポリエーテルアミドを20質量%以上含み、鞘成分を構成するポリアミドBがナイロン6を50質量%以上含む請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項4】
JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.26項に記載のA法(フラジール形法:差圧125Pa)に準じて測定した際の湿潤時の通気性が、乾燥時の通気性よりも高い請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項5】
目付が70~300g/mであり、乾燥時の厚みが0.3~1.0mmである請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項6】
一層構造の編物であり、前記編物の編組織において、
前記ポリアミド複合繊維を連続して3コース以上、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸を連続して2~5コース有し、それらが経方向に交互に繰り返され、かつ、
前記ポリアミド複合繊維の全ウェールが天竺組織であり、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸の2~10ウェールがウェルト組織、4~10ウェールが天竺組織である請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項7】
表面と裏面からなる二層構造であり、前記表面または前記裏面のいずれか一方にのみ前記ポリアミド複合繊維を含む請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の織編物を、上衣若しくは下衣の全て、または一部に含む衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形態が変化することで高機能性を有することができる織編物及び衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
綿などの天然繊維やウールなどに代表される獣毛などは、温度や湿度の変化にてその繊維の形態、例えば捲縮率が変化することが従来からよく知られており、これらの特徴を模倣し、さらに快適性を追求しようとした合成繊維または生地の検討が行われている。
【0003】
例えば高膨潤性成分と低膨潤性成分とが平行配列構造に接合された複合繊維であって、吸水することでクリンプが消失し織目または編目の空間部が開くことにより通気性を向上させることが検討されており(例えば特許文献1)、ポリエステル成分とポリアミド成分がサイドバイサイド型または偏心芯鞘構造に複合された繊維に仮撚加工を施して、乾湿の捲縮率の差で編目を膨らませてムレ感を抑制する検討がなされている(例えば特許文献2)。また、乾湿によってトルク指数が異なるセルロース系紡績糸と長繊維を交互に編成した編地であって、湿潤時に残留トルクが発現しやすくなり、編目の角度が変化、つまりは広くなることで通気性を向上させる試みがなされている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-23431号公報
【特許文献2】国際公開第2006/025610号
【特許文献3】特開2013-96031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように、編目や編目の空壁を拡大させる生地では極端な変化はなく、編目を任意的に大きく拡大した一般的なメッシュ素材と同等またはそれ以下であり、快適性を向上させる効果としては不十分である。特許文献3も編目角度の変化では一般的なメッシュ素材よりも編目開口部が小さく、改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献1から3においてはいずれもムレ感を抑制する効果に言及しているが、繊維に吸収された水分の速乾性に関する記載はなく、衣料用途においてはベタツキによる不快感を抑制するには不十分であると言える。
【0007】
さらに、特許文献1から3においては吸水することで編目の空間部が開く、編目を膨らませると記載されていることから、生地の寸法が変化すると考えられるが、特許文献1、特許文献3においては、湿潤状態から乾燥状態へ戻った際に、元の寸法にもどるかどうかに関する記載はなく、寸法の安定性において課題がある可能性がある。
【0008】
本発明は、速乾性に優れ、湿潤時に生地の形態が変化することで乾燥時よりも湿潤時の方が通気性を向上できるとともに、湿潤状態から乾燥状態へ戻った際の寸法変化率が小さい生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、以下の構成よりなる。
【0010】
(1)2種類以上の糸を使用した織編物であって、前記糸のうち少なくとも1種類の糸は偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維であり、前記織編物における前記ポリアミド複合繊維の質量割合が10%~60%であり、前記ポリアミド複合繊維のJIS L 1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」8.11項に記載のC法で測定したときの伸縮伸長率が3.0%以上であり、前記ポリアミド複合繊維において、芯成分を構成するポリアミドAがポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で20質量%以上含み、鞘成分を構成するポリアミドBがナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン56、ナイロン510及びナイロン1010からなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で50質量%以上含む織編物。
【0011】
(2)前記ポリアミド複合繊維の断面において、鞘成分の最小厚み(S)と繊維直径(D)との比(S/D)が0.01~0.10である請求項(1)に記載の織編物。
【0012】
(3)前記ポリアミド複合繊維において、芯成分を構成するポリアミドAがポリエーテルアミドを20質量%以上含み、鞘成分を構成するポリアミドBがナイロン6を50質量%以上含む(1)又は(2)に記載の織編物。
【0013】
(4)JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.26項に記載のA法(フラジール形法:差圧125Pa)に準じて測定した際の湿潤時の通気性が、乾燥時の通気性よりも高い(1)~(3)のいずれかに記載の織編物。
【0014】
(5)目付が70~300g/mであり、乾燥時の厚みが0.3~1.0mmである(1)~(4)のいずれかに記載の織編物。
【0015】
(6)一層構造の編物であり、前記編物の編組織において、
前記ポリアミド複合繊維を連続して3コース以上、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸を連続して2~5コース有し、それらが経方向に交互に繰り返され、かつ、
前記ポリアミド複合繊維の全ウェールが天竺組織であり、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸の2~10ウェールがウェルト組織、4~10ウェールが天竺組織である(1)~(5)のいずれかに記載の織編物。
【0016】
(7)表面と裏面からなる二層構造であり、前記表面または前記裏面のいずれか一方にのみ前記ポリアミド複合繊維を含む(1)~(5)のいずれかに記載の織編物。
【0017】
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の織編物を、上衣若しくは下衣の全て、または一部に含む衣服。
【発明の効果】
【0018】
本発明の織編物は、速乾性に優れるだけでなく、受水することにより生地の形態を変化させることができ、乾燥時よりも湿潤時の方が、通気性が向上することで、汗をかいた際にも快適性を損なうことがない。また、湿潤状態から乾燥状態から戻った際の寸法変化率も小さい。さらには織編物の組織によって様々な機能性を付与することができることから、特に衣料用途において好適に用いられ、それを用いた衣服を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の織編物に用いられるポリアミド複合繊維の断面図である。
図2】実施例に用いられたシングルメッシュ編地の編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の織編物は、湿潤状態としたときにその生地の形態を変化することを特徴とする。ここでいう湿潤状態とは生地に水や汗を含む水分が生地に付着した状態をいう。具体的にいうと、10cm四方の生地あたりに0.5ml以上の水分を含むことをいう。効果発現の確認のために水分を付与する場合、0.5mlの水を水滴として1点に滴下してもよいし、0.5mlの水を霧状にして10cm四方に噴霧してもよい。
【0021】
ここでいう生地の形態変化とは、前述の水分量を付与した箇所が、生地の表方向または裏方向に隆起することをいう。隆起する大きさに制限はないが、前述したとおり10cm四方の生地に0.5mlの水を付与した場合、水分を付与した箇所が0.50mm以上表方向または裏方向に隆起することが好ましく、1.00mm以上隆起することがより好ましい。
【0022】
生地が湿潤時に隆起するメカニズムは後述するとおり、生地に使用した偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維の捲縮が無捲縮化に近づくためである。すなわち、芯部分に配したポリエーテル系に代表される高吸湿ポリアミドが膨潤することで、熱処理により生じたポリアミド複合繊維の捲縮が無捲縮に近づき、織編物の形態に変化が起こる。生地が隆起すると、湿潤時の通気性が向上するだけでなく、生地の面積が一時的に広くなることから、乾燥速度が速くなる。乾燥速度は、実施例F項に記載の拡散性残留水分率を用いて測定することができ、生地に含まれる水分率を5分刻みで測定した際、水分率が10質量%以下となる時間が50分以下になることが好ましく、45分以下となることがより好ましい
本発明の織編物は、2種類以上の糸を使用した織編物であって、前記糸のうち少なくとも1種類の糸は偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維である。
【0023】
偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維とは、少なくとも2種類以上のポリアミドが偏芯した芯鞘構造を形成している複合繊維である。ここで偏芯とは、ポリアミド複合繊維の断面において、新成分を構成するポリアミドの重心点位置が複合繊維断面の中心と異なっていることを意味する。図1を用いて具体的に説明すると、鞘部分11の中心と、芯部分12の中心は異なる位置となる。芯鞘とは、芯成分であるポリアミドが、鞘部分であるポリアミドに覆われている状態を意味する。サイドバイサイド型では糸、生地の加工や、繊維製品を使用することによる経年劣化などの影響で剥離する懸念があるが、偏芯芯鞘型にすることでそれらの懸念は少なくなり、優れた品位を得ることができる。また、芯成分と鞘成分が剥離すると、熱処理による捲縮の発現を阻害されることになり、後述する湿潤時における生地の形態変化が阻害されることになり、速乾性や湿潤時の通気性が低下するが、偏心芯鞘構造にすることで剥離の懸念を払拭することができる。
【0024】
前記ポリアミド複合繊維の断面において、鞘成分の最小厚み(S)と繊維直径(D)との比(S/D)が0.01~0.10であることが好ましい。S/Dが0.10以下であると、100℃前後の熱処理後に収縮することでより顕著に捲縮を発現させることができる。そのため、ストレッチ性に優れるとともに、後述する湿潤時の形態変化がより効果的に発現し、湿潤時の通気性がより向上する。S/Dは、0.03以下がより好ましい。また、S/Dが0.01以上であることで、耐摩耗性に優れる。S/Dは0.02以上がより好ましい。また、鞘成分の耐久性が足りず芯成分が外部へ露出するといったことを防止することができる。S/Dは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
前記ポリアミド複合繊維のJIS L 1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」8.11項に記載のC法で測定したときの伸縮伸長率は3.0%以上であり、6.0%以上が好ましい。伸縮伸長率は、織編物から採取した糸の長さ(L0)と、上記糸に一定の荷重を掛けて伸長させた糸の長さ(L1)から次の計算式1を使って算出することから、伸縮伸長率が高いほど収縮率が高く、より強い捲縮が発現していると言える。また、伸縮伸長率が高いということは、糸が捲縮に阻害されることなく伸長するということであり、後述する湿潤時の形態変化にとって好適である。
伸縮伸長率=((L1-L0)/L0)×100 (式1)。
【0026】
ポリアミド複合繊維において、芯部分は鞘部分よりも吸湿性に優れる。吸湿性を有する繊維は物理的な吸着、または繊維を構成する成分の分子構造中の官能基と水分子との間での相互作用の形成によって、水分子を取り込んでいる。特に、高い吸湿性を有する場合、多くの水分子が繊維中へ取り込まれるため、大きな体積膨潤が生じる。すなわち、芯部分の吸湿性が高いことで鞘部分より体積膨潤が大きくなり、熱処理で発現した捲縮が伸びやすくなる。繊維が伸長することにより、編物では編目が部分的に大きくなり、織物では経糸と緯糸の間に空壁ができ、結果として湿潤時に織編物の形態変化が生じ、通気性が向上することとなる。
【0027】
上述したとおり、芯部分のポリアミドAは、高湿潤性の観点から、ポリアミドAがポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で20質量%以上含む。これらの成分うち、二種以上を含む場合は共重合体である。ポリアミドAが共重合体である場合、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド又はポリビニルピロリドン以外のその他の成分を含有していてもよい。ポリアミドAに関し、その他の成分は限定されるものではないが、好ましい一例として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン56、ナイロン510、ナイロン1010等が挙げられる。ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種は、合計で50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。
【0028】
また、ポリエーテルアミドとは、ポリマー構造中にアミド結合とエーテル結合を有するブロック共重合体である。具体的にはラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンとジカルボン酸の塩から選ばれた1種もしくは2種以上のポリアミド形成成分およびポリアルキレングリコール成分を重縮合反応させて得られるブロック共重合体ポリマーである。ポリアミド形成成分およびポリアルキレングリコール成分の組み合わせは限定されるものではないが、好ましい一例として、ポリアミド形成成分としては、ε-カプロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸等のω-アミノカルボン酸、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド等の前駆体であるジアミン-ジカルボン酸のナイロン塩類が挙げられ、ポリアルキレングリコール成分としては、ポリエチレングリコールが挙げられる。より好ましくは、吸湿性ポリマーの耐熱性、繊維形成性、吸湿性の観点から、ポリアミド形成成分としてε-カプロラクタムを用い、ポリエチレングリコールを共重合したポリエーテルアミドである。
【0029】
さらに、ポリエーテルエステルアミドとは、ポリマー構造中にエーテル結合、エステル結合およびアミド結合を持つブロック共重合体である。具体的にはラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンとジカルボン酸の塩から選ばれた1種もしくは2種以上のポリアミド形成成分およびジカルボン酸とポリアルキレンオキシドグリコールからなるポリエーテルエステル成分を重縮合反応させて得られるブロック共重合体ポリマーである。ポリアミド形成成分およびポリエーテルエステル成分の組み合わせは限定されるものではないが、好ましい一例として、ポリアミド形成成分としては、上記のポリエーテルアミドにて例示したものが挙げられ、ポリエーテルエステル成分を構成するポリアルキレングリコール成分としては、吸湿性の観点からポリエチレングリコールが挙げられ、ジカルボン酸としてはアジピン酸、セバシン酸、ドデカジ酸、テレフタル酸、イソフタル酸が挙げられる。
【0030】
一方、鞘部分のポリアミドBとしては、芯部分のポリアミドAより湿潤性が低くする観点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン56、ナイロン510及びナイロン1010からなる群より選ばれる少なくとも一種を合計で50質量%以上含む。中でも、より低吸湿性の観点からナイロンの種類としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン510及びナイロン1010からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。また、上述したナイロンの含有量は、合計で80質量%以上含むことが好ましい。これらの成分うち、二種以上を含む場合は共重合体である。ポリアミドBが共重合体である場合、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン4、ナイロン610、ナイロン410、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン56、ナイロン510又はナイロン1010以外のその他の成分を含有していてもよい。ポリアミドBに関し、その他の成分は限定されないが、湿潤性を低くする観点から、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリビニルピロリドンの合計は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0031】
中でも、芯成分を構成するポリアミドAがポリエーテルアミドを20質量%以上含み、鞘成分を構成する前記ポリアミドBがナイロン6を50質量%以上含むことが好ましい。この組み合わせであれば、それぞれの融点が近く、より安定して溶融紡糸をすることができる。
【0032】
ポリアミドAおよびポリアミドBは、それぞれ必要に応じて、種々の添加剤を含有していてもよい。
【0033】
上記のように、熱処理による捲縮を十分に発現し、後述する機構により湿潤時に生地の形態が変化して通気性を向上させる観点から、前記ポリアミド複合繊維の芯成分を構成するポリアミドAの吸放湿パラメーターΔMRは2.0%以上であることが好ましく、より好ましくは4.0%以上であり、さらに好ましくは6.0%以上である。ΔMRが2.0%以上であると、湿潤時に十分に生地の形態が変化し、湿潤時の通気性がより向上する。ここで、生地の形態が変化する理由は、前述の偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維に発現した捲縮が湿潤時に無捲縮化に近づくためである。芯部分に配したポリエーテル系に代表される高吸湿ポリアミドが膨潤することで、捲縮が無捲縮に近づくことで織編物の形態に変化が起こる。ポリアミドAの吸放湿パラメーターΔMRは高ければ高いほどよいが、実質的な上限としては17.0%であり、10.0%以下が好ましい。ΔMRは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
本発明の織編物に使用される糸は、前記偏心芯鞘複合繊維のほかに、他の糸を使用し、前記織編物における前記ポリアミド複合繊維の質量割合が10%~60%であることが必要である。織編物が上述した偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維のみで形成されていると、湿潤状態となった際にはすべての糸が無捲縮化することによって大きな形態変化を生じるが、全体的に大きく形態変化してしまうと乾燥時には元の寸法に戻らなくなり、生地の寸法安定性の観点から好ましくないことを発明者らは見出した。よって、本発明の織編物を形成する場合、偏心芯鞘型のポリアミドとは異なる糸を1種類以上使用しなければならない。例えば前記ポリアミド複合繊維の質量割合が100%であった場合、吸水することで生地の形態が大きく変化するが、糸が交錯する編目部分での抵抗などの影響が大きくなり、乾燥時に元の状態に戻りにくくなり、いわゆる「伸びた」状態になりやすい。これに対し、湿潤時に偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維が無捲縮化に近づくことで形態変化する際に、他の糸が生地の形態変化を適度に抑制することによって生地全体の形態変化量を抑え、乾燥時には元の寸法に戻ることができる。
【0035】
乾燥時に元の寸法に復元することを考慮すると前記織編物における前記ポリアミド複合繊維の質量割合は60%以下とすることが必要であり、40%以下が好ましい。一方で、前記ポリアミド複合繊維の質量比率が低すぎると湿潤時の生地の形態変化が十分ではなく、湿潤時の通気性が低下することから、生地に含まれるポリアミド複合繊維の質量割合は10%以上とすることが必要であり、形態変化することで空気と接触する面積が増え、乾燥速度をより高める観点から20%であることがより好ましい。乾燥時に元の状態に復元する指標としては、JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」8.39項に記載のG法(パルセーター形家庭用電気洗濯機法)を用いることができ、元の大きさに対して-5.0%から+3.0%であることが好ましい。
【0036】
偏心芯鞘型のポリアミドとは異なる糸としては、木綿や絹等の天然繊維、レーヨンやトリアセテート等の化学繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリイミド繊維等の合成繊維等、特に限定されるものではない。なかでも前記偏心芯鞘複合繊維と同じ成分としたナイロン6やナイロン66などのポリアミド繊維は、前記偏心芯鞘複合繊維と同条件で染色などの生地加工を進められる観点から好ましい。汎用性のあるポリエチレンテレフタレートなどでも構わないが、染色する際の温度などにより芯部分である吸湿性ポリマーが繊維外へ溶出される点に注意する必要がある。
【0037】
本発明の織編物に用いられる繊維において、衣服用途などに使用する場合は、生地の強度などの観点から50デシテックス(dtex)以上が好ましく、70detex以上がより好ましい。風合いなどの観点から300dtex以下が好ましく、200dtex以下がより好ましい。
【0038】
本発明の織編物は、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.26項に記載のA法(フラジール形法:差圧125Pa)に準じて測定した際の湿潤時の通気性が、乾燥時の通気性よりも高いことが好ましい。一般的に、乾燥状態の生地では、編物では編目から、織物では糸間の空壁から空気が通過していくが、湿潤状態では付着した水分が膜となり、空気の通り道を阻害することから通気性は下がる。一方、本発明の織編物では、捲縮が発現した偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維が無捲縮に近づくことで繊維が伸長することにより、編物では編目が部分的に大きくなり、織物では経糸と緯糸の間に空壁を作ることができることから、湿潤時の通気性をより向上させることができる。ここで乾燥時の通気性は、20℃65%RH環境下で、24時間以上調湿した際の通気性を測定することで求めることができる。
【0039】
乾燥時より湿潤時の通気性をより向上させる観点から、本発明の織編物の厚みは0.3mmから1.0mmであることが好ましい。厚みが1.0mmより小さいことで、生地の厚みの影響によって通気性が阻害されるのを抑制することができ、湿潤時の通気性がより向上する。偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維を使用することで編物では編目の拡大により、織物では経糸と緯糸の間に空壁により湿潤時の通気性は向上するが、厚みが1.0mmより大きいと、その通気性の絶対値は小さく、湿潤時の通気性向上の効果を体感として感じにくい場合がある。よって、厚みは1.0mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがより好ましい。一方、生地の厚みが0.3mmより薄いと、乾湿の状態問わず高い通気性になることから、偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維を使用し湿潤時の通気性を向上させたとしても、もともと高い通気性を有していたことから体感として通気性向上の効果を感じにくい場合があるが、0.3mm以上であると、通気性向上の効果をより感じやすくなる。よって、厚みは0.3mm以上であることが好ましく、透け感などの観点から0.5mm以上であることがより好ましい。
【0040】
また、体感として得ることのできる通気性や、衣料素材として着用するときの快適性、軽量性の観点から、目付は300g/m以下であることが好ましく、衣料素材としての強度や耐久性の観点から70g/m以上であることが好ましい。軽量性と強度、耐久性を両立させる観点から100g/mから200g/mの範囲であればより好ましい。
【0041】
以上の観点から、本発明の織編物は、目付が70~300g/mであり、乾燥時の厚みが0.3~1.0mmであることが好ましい。
【0042】
本発明において編物である場合、経編や丸編などいずれを用いても構わない。編地の組織としては特に限定されるものではないが、ダブル編機から編成できる表層と裏層からなる二層構造組織であってもよいし、シングル編機から編成できる一層構造組織であってもよい。
【0043】
一層構造である場合、編組織は、前記ポリアミド複合繊維を連続して3コース以上、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸を連続して2~5コース有し、それらが経方向に交互に繰り返され、かつ、前記ポリアミド複合繊維の全ウェールが天竺組織であり、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸の2~10ウェールがウェルト組織、4~10ウェールが天竺組織であることが好ましい。上記編組織とすることにより、湿潤時に前記ポリアミド繊維を配した編目が大きくなり通気性がより向上する。加えて、編目が大きくなることで水分の膜ができ難くなり、過剰に湿潤させた際においても通気性が保たれる。なお、前記ポリアミド複合繊維の全ウェールが天竺組織である部分は4コース以上でもよいが、寸法安定性を保つため前記ポリアミド複合繊維の質量割合を60%以下としなければならず、6コース以下が好ましい。また、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸についてはウェルト組織、天竺組織ともに11ウェール以上連続で形成すると生地自体が透けやすくなることから10ウェール以下で編成することが好ましい。
【0044】
上記編組織の一例を図2に示す。図2においては、前記ポリアミド複合繊維である第1の糸15が連続して3コース(第1~3コース)であり、前記ポリアミド複合繊維とは異なる糸である第2の糸16が連続して5コース(第4~8コース)である。また、第1の糸15はいずれも全ウェールが天竺組織であり、第2の糸16は2ウェール(第1、2ウェール)がウェルト組織、4ウェール(第3~6ウェール)が天竺組織である。
【0045】
表面と裏面からなる二層構造である場合、前記表面または前記裏面のいずれか一方のみ前記ポリアミド複合繊維を含むことが好ましい。前記ポリアミド複合繊維を表面または裏面の一方に配することで後述する湿潤時の形態変化が大きくなり、湿潤時の通気性や速乾性をより向上させることができる。一方、反対面には前記ポリアミド複合繊維を含まないため、湿潤時の形態変化は発生せず、織編物全体として、湿潤時の過剰な寸法変化を抑制することができ、寸法安定性をより向上させることができる。組織としてはインレイ組織、ダンボール組織、スムース組織や、それらに基準に一部をメッシュ編みにしたような組織であることが好ましい。本発明の織編物を用いて衣服とする場合、吸汗させて上述した形態変化を生じさせる観点から、肌面に前記偏心芯鞘型のポリアミド複合繊維を含む面がくるようにすることが好ましい。なお、スムース編みのように表裏いずれの方向からみても同じ組織になるような場合においてはどちらを表面にしてもよい。
【0046】
織物においても特に限定されるものではないが、表層と裏層からなる二層構造組織または三層構造組織であることが好ましい例えば、平織物、綾織物、朱子織物等が例示できる。
【0047】
本発明において、後述する湿潤時の形態変化をより顕著にするため、織編物の密度を制御することも好ましい。
【0048】
編物では、編物の代表的な組織である天竺編みの場合、経密度を示すウェール数(以下Wと略する場合がある)は20~60/インチであることが好ましい。ウェール数が20/インチより大きいことで編物の形態を保持しやすく、60/インチ、好ましくは50/インチより小さいことで後述する湿潤時の形態変化が顕著になることから好ましい態様である。また、緯密度を示すコース(以下Cと略する場合がある)は30~150/インチ、さらには30~60/インチであることが好ましい。
【0049】
織物の場合、同様の理由から以下の式2で求められる経糸と緯糸のカバーファクターCFの比(経糸CF/緯糸CF)が0.8~2.0であり、1.0~1.7であることが好ましい。
CF=密度(本/2.54cm)×(繊度(dtex)×0.9)^(1/2) (式2)。
【0050】
本発明の織編物は上記の理由から衣服として好適に使用することができ、従来の上衣若しくは下衣よりも快適性に優れた繊維製品として提供することができる。
【0051】
次に、本発明の偏心芯鞘構造複合繊維の製造方法の一例について説明する。
【0052】
まず、ポリアミド複合繊維の溶融紡糸について、初めに高速直接紡糸による製造方法を例示説明する。選択したポリアミドを別々に溶融し、ギヤポンプを用いて計量して輸送し、そのまま通常の方法で芯鞘構造をとるように複合流を形成して偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金から吐出する。その際、所望の複合繊維断面を得るため、紡糸口金によって各々のポリマー流路、吐出断面を制御する。吐出されたポリアミド複合繊維糸条を、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより30℃まで冷却し、給油装置で給油するとともに収束する。ついで、引き取りローラーによって1500~4000m/分で引き取り、引き取りローラーと延伸ローラーを通過させる。その際、引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って1.0~3.0倍で延伸する。さらに、糸条を延伸ローラーにより熱セットし、3000m/分以上の巻き取り速度でパッケージに巻き取る。
【0053】
また別に、ポリアミド複合繊維の溶融紡糸の高速直接紡糸による製造方法について、次に例示説明する。第一のポリアミドと第二のポリアミドを別々に溶融し、ギヤポンプを用いて計量して輸送し、そのまま通常の方法で芯鞘構造をとるように複合流を形成して、偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金を用いて、紡糸口金から吐出する。吐出されたポリアミド複合繊維糸条は、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより糸条を30℃まで冷却し、給油装置で給油するとともに収束し、引き取りローラーによって3000~4500m/分で引き取り、引き取りローラーと延伸ローラーを通過し、その際引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って1.0~1.2倍で微延伸する。さらに、3000m/分以上の巻き取り速度でパッケージに巻き取られる。
【0054】
一般にサイドバイサイド型複合断面の場合、流動速度差により糸曲がりが発生しやすく操業性は悪化するが、偏心芯鞘型複合断面とすることで製糸性が良好になり、単糸細繊度品も容易に得ることができる。
【0055】
また、巻き取りまでの工程で公知の交絡装置を用い、交絡を施すことも可能である。必要であれば、複数回交絡を付与することで交絡数を上げることも可能である。さらには、巻き取り直前に、追加で油剤を付与することも可能である。仮撚加工糸の製造方法は限定されるものではないが、例示すると、繊度や撚り数に応じてピンタイプ、フリクションタイプおよびベルトタイプ等を用いて、仮撚を施すことが好ましい。
【0056】
得られた糸で織物を作製するにあたり、その製造方法は特に限定されるものではない。織物は経糸が整経され、織機に設置される。同様に緯糸が織機に設置されるが、質量割合が前述した範囲であればポリアミド複合繊維を経糸、緯糸の両方に使用してもよいし、いずれか一方に使用してもよい。織機は特に限定されず、エアジェットルーム、レピアルーム等が例示される。これらの中でも、高速製織が比較的容易であり、生産性を高めやすい点からエアジェットルームが特に好ましい。また、編物を作製するにあたり、その製造方法は特に限定されるものではない。編機は経編機、緯編機のいずれを用いてもよい。経編機であればトリコット機、ラッシェル機が挙げられ、緯編機では横編機、丸編機が挙げられるが、高速編成が比較的容易であり、生産性を高めやすい点から丸編機が特に好ましい。
【0057】
得られた織物または編物の加工は一般的なナイロン製品の加工と同様で構わないが、本発明の織編物は、精練や染色など、熱水による熱処理をする際に捲縮を発現させる観点から、温度に注意する必要がある。加工の一例として、精練は80℃以上の温度で行うことで余分な汚れや油分を落とし、酸性染料を使用した100℃前後の酸性染色で着色することができる。染色後、任意の密度に設定して熱風乾燥により仕上げることができる。
【実施例0058】
以下、実施例により具体的に説明する。
【0059】
[各種試験・評価方法]
A.ΔMR(熱水処理前のΔMR)
繊維試料もしくは布帛試料を秤量瓶に1~2g程度量り取り、110℃で2時間乾燥させた後に質量を測定し、この質量をw0とした。次に乾燥後の繊維試料を温度20℃、相対湿度65%にて24時間保持させた後に質量を測定し、この質量をw65%とした。続いて、温度30℃、相対湿度90%に調整し、繊維試料を24時間保持させた後に質量を測定し、この質量をw90%とした。
MR1=[(w65%-w0)/w0]×100・・・(3)
MR2=[(w90%-w0)/w0]×100・・・(4)
ΔMR=MR2-MR1・・・(5)
このとき、式(3)~(5)にて算出したものをΔMRとした。
【0060】
B.鞘成分の最小厚み(S)と繊維直径(D)およびその比(S/D)
複合繊維からなるマルチフィラメントを繊維軸方向に1cm間隔で10か所連続してエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋したものを試料とし、透過型電子顕微鏡(TEM)で10本以上の繊維が観察できる倍率として各試料の画像を撮影した。この際、金属染色を施して、芯成分と鞘成分の接合部のコントラストを明確にした。画像解析ソフトとして、三谷商事株式会社製“WinROOF2015”を用い、観察画像中すべての単糸から繊維直径Dと、鞘成分の最小厚みSを測定した。なお、繊維断面が真円でない場合は鞘成分の最小厚みSと同方向の繊維直径をDとした。10か所の試料において、各画像で観察できるすべての繊維における鞘成分の最小厚みSと繊維直径Dの平均値を求めて、各試料の平均繊維直径Dおよび平均鞘成分の最小厚みSのセットを10点揃え、それをさらに平均して本発明の繊維直径D、鞘成分の最小厚みSとした。なお、繊維直径Dおよび鞘成分の最小厚みSはμm単位で少数第4位まで測定し、平均化の際に第4位を四捨五入して第3位まで求めた。また、このようにして得た鞘成分の最小厚みSと繊維直径Dとの比(S/D)は、小数点以下第3位を四捨五入して第2位に丸めた。
【0061】
C.伸縮伸長率
繊維試料を、JIS L 1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」8.11項に記載のC法(簡便法)に従って伸縮伸長率の測定を行い、N数を5としてその平均値を算出し、少数第2位を四捨五入して第1位に丸めた。
【0062】
D.生地の形態変化
10cm四方からなる生地片を準備し、20℃65%RH環境下に24時間放置した後、3D形状測定機(キーエンス社製)を用い、高さの測定レンジを1.5mmとして高さ測定を行った。次いで、同じ生地片を用い、1.0mlの蒸留水を注射器で滴下して30秒放置後、同様の測定器を用いて高さを測定した。乾燥時の高さをA、湿潤時の高さをBとして、B-Aの高さを求めた。N数を5としてその平均値を算出し、小数点第3位まで測定し、少数第3位を四捨五入して第2位に丸めた。
【0063】
E.通気度
15cm四方からなる生地片を準備し、20℃65%RH環境下に24時間放置した後、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.26項に記載のA法(フラジール形法:差圧125Pa)に準じて乾燥時の通気度を測定した。次いで、後記記載の実施例1~3、比較例1~5については1.5mlの蒸留水を注射器で滴下して30秒放置後、同様にして湿潤時の通気度を測定した。また、実施例4~6、比較例6、7については0.5mlの蒸留水を霧状にして10cm四方に噴霧し、同様にして湿潤時の通気度を測定した。その後、(湿潤時の通気度)-(乾燥時の通気度)として差を求めた。また、実施例4~6、比較例6、7については汗を多量にかいている状態を想定し、2.0mlの蒸留水を霧状にして10cm四方に噴霧し、同様にして過剰に湿潤した時の通気度を測定した。
【0064】
F.速乾性
10cm×10cmの生地中央に0.3mlの水を滴下し、水分の拡散乾燥にともなう、試験片質量を5分間隔で測定し、以下式6で算出する拡散性残留水分率が10質量%以下となる時間を求めた。
拡散性残留水分率(質量%)=任意の時間の水分質量(g)/測定開始時の水分質量(g)×100 (式6)。
【0065】
G.寸法変化率
JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.39項に記載のG法(パルセーター形家庭用電気洗濯機法)に準じて測定しし、試験前の大きさから-5.0%~+3.0%の範囲を合格値として判定した。変化率の値が大きいほど、試験前に比べて試験後の寸法が大きいことを示す。
た。
【0066】
H.厚み
15cm四方からなる生地片を準備し、20℃65%RH環境下に24時間放置した後、JIS L 1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」8.4項に記載のA法(JIS法)に準じて測定し、試料の異なる5か所を測り、その平均値を算出し小数第3位まで求め、小数第3位を四捨五入して第2位に丸めた。
【0067】
[実施例1]
ΔMRの把握を目的として、ナイロン6(溶融粘度160Pa・s、融点220℃)と、ポリエーテル系ナイロン(溶融粘度55Pa・s、融点200℃)とをそれぞれ単体で溶融し、口金を用いて溶融吐出した(紡糸温度270℃)。口金から吐出された糸条は、糸条冷却装置で糸条を冷却固化し、引き取りローラー(室温25℃)にて3700m/分で引き取り、延伸ローラー(室温25℃)間で1.1倍に延伸を行った後で、巻取速度4000m/分でパッケージに巻き取って繊度56dtex、フィラメントカウント数24のナイロン6のフィラメント糸と、ポリエーテル系アミドのフィラメント糸を得た。得られたそれぞれの糸を28Gの筒編機(英光産業社製)で筒編地を作製し、ΔMRを測定したところ、ナイロン6は2.2%、ポリエーテル系ナイロンは8.6%であった。
【0068】
次いで、鞘部分のポリアミドとしてナイロン6と、芯部分のポリアミドとしてポリエーテルアミドとをそれぞれ偏心芯鞘型複合繊維用紡糸口金を用いて配置し、複合比率(質量比)を5:5で溶融吐出した(紡糸温度270℃)。口金から吐出された糸条は、糸条冷却装置で糸条を冷却固化し、給油装置により含水油剤を給油後、流体交絡ノズル装置で交絡を付与した後、引き取りローラー(室温25℃)にて3700m/分で引き取り、延伸ローラー(室温25℃)間で1.1倍に延伸を行った後で、巻取速度4000m/分でパッケージに巻き取って繊度56dtex、フィラメントカウント数24の芯鞘型複合ナイロン糸を得た(第1の糸)。得られた糸を28Gの筒編機(英光産業社製)で筒編地を作製し、ΔMRを測定したところ6.8%であった。次いで28ゲージのシングル丸編機(株式会社福原精機製作所製)を用いて、表側にナイロン6を主成分とする78dtex-24フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)により天竺組織を形成し、裏面に芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)を裏面に配したインレイ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、ウェール(W)/コース(C)が48/56、目付112g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0069】
[実施例2]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)と、芯鞘型ではない84dtex-36フィラメントのポリエステル糸(第2の糸)を用い、28ゲージのシングル丸編機(株式会社福原精機製作所製)を用い双方の糸がウェール方向に並列に並ぶようにストライプ状組織である編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが50/52、目付100g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)とナイロン6を主成分とする56dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)を用い、28ゲージのダブル丸編機(株式会社福原精機製作所製)を用い表側に56dtex-40フィラメントのナイロン糸が天竺組織になるように編成し、裏面に芯鞘型複合ナイロン糸が開口部を持つようなメッシュ組織に編成したダブル丸編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが48/58、目付130gmに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0071】
[実施例4]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)と78dtex-24フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)を用い、36ゲージのシングル丸編機(株式会社福原精機製作所製)により、図2に示した編組織のワッフル状シングルメッシュ組織の編地を得た。得られた編地は、第1の糸を連続して3コース、第2の糸を連続して5コース有し、第1の糸の全ウェールが天竺組織であり、第2の糸の2ウェールがウェルト組織、4ウェールが天竺組織であった。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが58/122、目付152g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表2に示す。
【0072】
[実施例5]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)と84dtex-36フィラメントの芯鞘型ではないポリエステル糸(第2の糸)を用い、実施例4と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが56/122、目付151g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表2に示す。
【0073】
[実施例6]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)と84dtex-36フィラメントの芯鞘型ではないポリエステル糸(第2の糸)を用い、36ゲージのシングル丸編機(株式会社福原精機製作所製)により、ワッフル状のシングルメッシュ組織である編地を得た。得られた編地は、第1の糸を連続して2コース、第2の糸を連続して5コース有し、第1の糸の全ウェールが天竺組織であり、第2の糸の1ウェールがウェルト組織、3ウェールが天竺組織であった。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが56/112、目付145g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表2に示す。
【0074】
[比較例1]
ナイロン6を主成分とする56dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第1の糸)と、78dtex-24フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)とを用い、第2の糸が表、第1の糸が裏になる実施例1と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが42/66、目付119g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
ナイロン6を主成分とする56dtex-48フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第1の糸)と、84dtex-36フィラメント(第2の糸)のポリエステル糸を用い実施例2と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが46/60、目付110g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
56dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第1の糸)を用い、実施例3と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが44/64、目付119g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0077】
[比較例4]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)とナイロン6を主成分とする56dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)を用い、28ゲージのダブル丸編機(株式会社福原精機製作所製)を用い表側及び裏面に芯鞘型複合ナイロン糸を使用し、裏面の一部に56dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸を使用した実施例3と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが48/60、目付126g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0078】
[比較例5]
実施例1で得た芯鞘型複合ナイロン糸(第1の糸)とナイロン6を主成分とする56dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)を用い、28ゲージのダブル丸編機(株式会社福原精機製作所製)を用い、生地の一部に開口部を持つメッシュ組織に編成したシングル丸編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが44/52、目付109g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表1に示す。
【0079】
[比較例6]
50dtex-40フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第1の糸)と78dtex-24フィラメントの芯鞘型ではないナイロン糸(第2の糸)を用い、実施例4と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが53/92、目付105g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表2に示す。
【0080】
[比較例7]
56dtex-36フィラメントの芯鞘型ではないポリエステル糸(第1の糸)を用い、84dtex-36フィラメントの芯鞘型ではないポリエステル糸(第2の糸)を用い、実施例4と同じ組織の編地を得た。得られた生地に80℃×20分条件で精練、100℃×30分条件で染色を施したのち、W/Cが51/90、目付91g/mに仕上げた編地を得た。得られた結果を表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の織編物は、吸水することで形態変化することにより、通気性の向上により快適性に優れた衣服とすることができ、さらには速乾性に優れることから洗濯後の乾燥速度を速めるなど、様々の機能を有することができる。特に快適性を訴求する衣料用途において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
11・・・ポリアミド複合繊維の鞘
12・・・ポリアミド複合繊維の芯
13・・・鞘成分の最小厚みS
14・・・繊維直径D
15・・・第1の糸
16・・・第2の糸
図1
図2