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  • 特開-柿を用いた酒類の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132981
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】柿を用いた酒類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/024 20190101AFI20240920BHJP
   C12G 3/02 20190101ALI20240920BHJP
【FI】
C12G3/024
C12G3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037980
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023041382
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000225142
【氏名又は名称】奈良県
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】上垣 浩一
(72)【発明者】
【氏名】倉田 淳志
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115AG09
4B115BA09
(57)【要約】
【課題】生柿を果実酒にするには野生酵母と渋の克服という課題があり、野生酵母を加熱処理しようとすると渋戻が生じ、渋戻を抑制しようとすると、野生酵母を殺菌できず、刺激的な酸味異臭をともなった果実酒となる。
【解決手段】甘柿または渋抜きをした生柿から柿ピューレを得る工程と、
前記柿ピューレにペクチナーゼを投入し、60℃~70℃で30分間熱処理する工程と、
酵母を添加し、9℃~21℃で発酵させ柿醪を得る工程を含むことを特徴とする柿を用いた酒類の製造方法は、野生酵母の繁殖を抑え、なおかつ渋戻も起こさない柿醪を得ることができ、この柿醪を利用して様々な種類の酒類を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘柿または渋抜きをした生柿から柿ピューレを得る工程と、
前記柿ピューレにペクチナーゼを投入し、60℃~70℃で30分間熱処理する工程と、
酵母を添加し、9℃~21℃で発酵させ柿醪を得る工程を含む柿を用いた酒類の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理は、65℃で行い、
前記発酵させ柿醪を得る工程は15℃で行うことを特徴とする請求項1に記載された柿を用いた酒類の製造方法。
【請求項3】
前記酒類が果実酒であって、
前記柿醪を搾汁する工程をさらに有する請求項1又は2に記載された柿を用いた酒類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柿を用いた酒類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柿は季節性の果物で、収穫と消費期間が限られており、余剰な生柿や出荷できない生柿の有効利用が模索されている。
【0003】
柿は桃やリンゴのような特徴的な香りが少なく、加工品にした際に柿と認識されにくい。また、柿には一部の甘柿以外は一般に渋があり、糖度があるものの、渋抜きをしなければ食することができない。また、この渋は渋抜きをしても、加熱により渋戻があるので、加熱工程を有する加工品にできないという特徴がある。したがって、柿は干し柿若しくは柿酢といった加工品への応用がほとんどであった。そこで、柿を用いた酒類にすることで、生柿の有効利用を図るという提案があった。
【0004】
特許文献1には、渋柿を木になったままの状態で熟柿とし、かつ、木になったままの状態で自然凍結させる。または、渋柿を熟柿となる前に木から取って収穫し、-5℃以下-15℃以上の温度で冷凍する。次いで、渋柿のへたを取り、樽等の発酵容器に入れて発酵させたのち、布袋等のろ過材により、発酵容器内の発酵後物質を果肉と柿ワイン又は柿酢とに固液分離する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、柿を用いて柿ワインを製造する方法において、ゼラチンまたはアルブミンとコロイド状シリカゾルとを併用して柿果汁または柿ワインを処理することを特徴とする柿ワインの製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-002017号公報:特許第5652685号公報
【特許文献2】特開平6-90730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生柿の皮の表面には野生酵母が付着している。しかし、この野生酵母は、生柿の破砕液を加熱せずに醸造すると刺激的な酸味臭を発生させるという課題があった。一方、この野生酵母を殺菌するために生柿の破砕液を加熱すると、渋戻が生じるという課題があった。つまり、これらの課題はトレードオフの関係になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するために想到されたものであり、生柿の表皮にある野生酵母を、甘柿はもちろん渋柿でも渋戻が生じないように加熱殺菌する工程を含む柿を用いた酒類の製造方法を提供するものである。
【0009】
より具体的には、本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法は、
甘柿または渋抜きをした生柿から柿ピューレを得る工程と、
前記柿ピューレにペクチナーゼを投入し、60℃~70℃で30分間熱処理する工程と、
酵母を添加し、9℃~21℃で発酵させ柿醪を得る工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法では、甘柿または渋抜きをした生柿のピューレを60℃~70℃で30分間熱処理することで、渋戻を押さえつつ、付着し生息している微生物(酵母を含む)を除去することができる。また、この熱処理には、ピューレにペクチナーゼを投入しておくことで、搾汁の清澄性も確保することができるという効果を得ることができる。
【0011】
また、熱処理をしたピューレに酵母を添加して発酵させることで、柿の風味を残した状態でフルーティーな柿を用いた酒類を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】発酵温度を変化させた場合の柿果実酒における有機酸の含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法について実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。また、本明細書において「A~B」とは、「A以上、B以下」を意味するものである。
【0014】
本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法では、洗浄し、甘柿または渋抜きをした生柿を用いる。渋抜きはアルコール法、湯抜き法、米ぬか法や二酸化炭素法等が好適に用いられる。
【0015】
生柿の表皮は剥く必要はない。表皮に付着している微生物は熱処理で殺菌するからである。また、種は取り除くのが好ましい。なお、刀根早生などの種がない品種を用いれば、種を取り除く手間がなく、より好ましい。
【0016】
生柿は柿ピューレにされる。柿ピューレとは、生柿をブレンダーで破砕したものをいう。
【0017】
柿ピューレには、ペクチナーゼが所定量投入され、60℃~70℃で30分間の熱処理が施される。この熱処理で、渋戻はない状態で、柿ピューレ中の野生酵母の殺菌と、ペクチンの分解を同時に行う。ペクチンを分解することで、最終品の搾汁率が高まり、清澄な搾汁を得ることができる。温度が低すぎると、野生酵母は殺菌されず、刺激臭が生じる。温度が高すぎると渋戻が生じる。なお、ここで熱処理の30分とは、風味を害することなく殺菌できる時間であり、条件によって前後してもよい。
【0018】
熱処理を終えた柿ピューレに種酵母を加え仕込み原液を得る。この仕込み原液を9℃~21℃の温度で発酵させる。この発酵で仕込み原液中にアルコールが生成され、仕込み原液中のタンパク質が分解されアミノ酸を得ることができる。発酵した仕込み原液を柿醪(かきもろみ)と呼ぶ。なお、本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法では、発酵の工程でメタカリ(ピロ亜硝酸カリウム)を加えることなく発酵させる。
【0019】
発酵温度は、低すぎると柿の風味に乏しく、種酵母の味が強くなる。また発酵温度が高すぎると、「えぐみ」が生じる。なお、種酵母は、販売されている種酵母であれば、特に限定されるものではない。
【0020】
本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法では、上記の様にして得た柿醪を種々の酒類の原料若しくは副原料として用いることができる。なお、ここで、酒類とは、製造工程で醪を経るアルコール飲料を指すが、原料がその定義中に定められている酒類は除かれる。具体的には、清酒、みりん、ウイスキー、ワイン(原料をブドウに限る物)、ウォッカは、柿醪若しくは柿を用いた酒類を加えた時点で、雑酒となるからである。
【0021】
本明細書では、柿醪を主材料(50%以上含む)ものを、柿果実酒等と呼び、他の材料による醪に柿醪を副材料(50%未満)追添したものを柿風味の果実酒等と呼ぶ。
【0022】
また、上記の柿醪を他の醪を合わせる場合は、醪同士を合わせた後、1時間以上の追発酵を行ってもよい。追発酵する際には9℃~21℃の温度で行うのが望ましい。風味を残し、「えぐみ」の発生を抑制するためである。具体的な酒類を例示すると以下のようになる。
【0023】
<果実酒:醸造酒>
上記の柿醪は搾汁する工程を加えることで、柿果実酒すなわち醸造酒を得ることができる。なお、搾汁した柿果実酒は、さらに「防腐処理」や「寝かし」を行ってもよい。防腐処理は、亜硫酸塩が好適に利用でき、「寝かし」は瓶詰にして横置きし、5℃~10℃程度の温度で放置されるのが好ましい。
【0024】
また、他の果実酒の製造工程において醪を作る際若しくは作った後に上記の柿醪を10%以上50%未満加える工程を加えて、その後搾汁する工程を行うことで、柿風味の果実酒とすることもできる。なお、醪を作った後に柿醪を追添する場合は、追発酵を行ってもよい。
【0025】
<柿ブランデー:蒸留酒>
上記の発酵した柿醪を搾汁し搾汁液を得る工程を行い上記の柿果実酒を得る。次に柿果実酒を蒸留する工程を加え、蒸留液を樽で熟成させることで柿ブランデーを得ることができる。柿の風味を残すには単式蒸留を行いアルコール度が20~30度ほどに調製する。次に蒸留液をさらに樽若しくはビンで寝かせる工程を行う。これらの工程によって、柿の風味の残る蒸留酒が得られる。なお、樽で寝かせれば柿ブランデー、ビンで寝かせれば柿焼酎と呼ぶ。
【0026】
また、柿以外の材料で製造される蒸留酒を製造する製造段階において、原料を酵母で発酵させ醪を作る工程で、柿醪を10%以上50%未満含めることで、柿風味の蒸留酒を得ることもできる。例えば、柿風味のイモ焼酎や泡盛を得ることができる。
【0027】
<柿ビール:発泡酒>
ビールは、以下の様に製造される。まず、大麦から麦芽を作り、麦、米、でんぷん、トウモロコシ、糖類等と温水を入れ糖化した後、ホップを入れて煮沸し麦汁を作る。この麦汁に酵母を加えて主発酵を行い醪を作る。これは若ビールなどと呼ばれる。この醪を後発酵させ濾過することで生ビールができる。
【0028】
柿風味のビールは、主発酵で醪を作った段階で、別途製造しておいた柿醪を10%以上50%未満加えて後発酵し、濾過することで柿風味のビールを得ることができる。
【0029】
<混成酒>
混成酒は蒸留酒に果実やハーブなどで風味や香り付けをしたものに、甘味料や着色料の少なくともいずれか一方を加えたものである。本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法では、柿ブランデーは柿の風味を持っているので、柿ブランデーに甘味料や着色料を加えることで柿リキュール、すなわち混成酒を得ることができる。
【0030】
また、柿果実酒に他の蒸留酒(例えばウォッカ)を加えても混成酒とすることができる。これは、甘味果実酒と呼ばれる。つまり柿甘味果実酒若しくは柿風味の甘味果実酒である。なお、この場合の柿甘味果実酒は、他の蒸留酒が2~98度加えられる範囲のものをいう。
【実施例0031】
以下、本発明に係る柿を用いた酒類の製造方法について、柿果実酒の実施例および評価を示す。
【0032】
<生柿に付着している微生物について>
生柿(富有柿)をブレンダーでピューレ状に破砕し、一部をYM寒天培地(組成は表1参照)に塗抹し、22℃で2日間培養してコロニーを形成させた。
【0033】
YM寒天培地に出現したコロニーを形成した微生物の遺伝子を解析したところ乳酸菌と野生酵母がいることが判り、これらの微生物が異臭・酸味の原因であることが示唆された。
【0034】
【表1】
【0035】
<生柿付着の微生物殺菌のための処理検討>
柿ピューレ300gに20%(w/v)スクロース溶液100mlを添加してブレンダ
ーで均一に攪拌した後、滅菌メジュームビンに50mlずつ無菌的に分注した。60、65、70、100℃で30分保って加熱処理し、室温まで冷却後、柿ピューレにどのような影響があるかを検討した。
【0036】
その結果、60℃で30分加熱処理しても柿風味の香が失われず、発酵もしなかった。しかし高温にすればするほど柿本来の色が失われた。
【0037】
そこで、加熱温度(60℃~70℃)による微生物の生存率を調べた。その結果、これら微生物は完全に死滅することはなかったが温度が高くなるほど生育コロニーの数が減った。60℃で柿風味および柿色を損なわず、70℃に近い温度にあげるほど急激にコロニーが減った。
【0038】
したがって、62℃~68℃で30分の加熱処理が好適であり、最も好ましくは65℃で30分の加熱処理であると判断した。65℃で30分の加熱処理で渋柿の柿ピューレ(刀根早生や平核無)でもテストを行ったが渋戻もなく、渋抜きした渋柿でも利用できる加熱処理方法であることが判った。
【0039】
以上のことから、柿に付着している微生物が刺激的な酸味異臭の原因になっていることが判った。殺菌処理時間を検討したところ、柿風味、柿色を損なわず、殺菌処理できる62℃~68℃で30分の加熱処理(最も好ましくは65℃で30分加熱処理)が最適であることが判った。
【0040】
<ペクチナーゼ処理>
ペクチナーゼ(Pectinase)はペクチンを分解する酵素の総称である。ペクチンは果汁の濁りの原因物質であるため、ペクチナーゼは食品工業的には果汁を清澄化するために用いられている。柿果実酒においても果汁混濁の主な原因、ろ過性の低下による搾汁率の低下を引き起こすので、ペクチナーゼにより果汁の清澄や搾汁率の向上を行う必要がある。
【0041】
柿果実酒ではペクチナーゼは50℃で作用させることが知られているが、微生物の殺菌処理は65℃、30分で行った。そこで、同一温度で同時処理ができる検討を行った。殺菌処理とペクチナーゼ処理を同時に行うことができれば、製造工程を1工程短縮することができる。
【0042】
実験方法:柿ピューレ0.6kgにペクチナーゼSSを0.12g(0.2%)添加して攪拌した後、マヨネーズ瓶2本に分注(各200ml)した。
(1)ペクチナーゼ添加後、40℃、6hインキュベートし、65℃、30分で加熱殺菌した。
(2)ペクチナーゼ添加後、65℃、30分で加熱殺菌した。
【0043】
これらの2条件で加熱処理後、酵母を添加し、発酵させ、柿果実酒醸造を行い、搾汁率と官能評価を行った。官能試験は試験者10人に(1)および(2)の条件の柿果実酒を試飲させ、コメントを得た。
【0044】
その結果、2条件とも搾汁率65%と搾汁率に関しては大きな差はなかったが、官能評価による(2)の処理方法がフルーティー、ワインらしい、さわやかで飲みやすいとの高い評価であった。(1)では、ペクチナーゼ処理は40℃で6時間行ったため、この間に微生物の混入が起こっている可能性があり、風味を損ねているのではないかと考えられる。
【0045】
以上の官能試験の結果より、ペクチナーゼ添加後、引き続き65℃、30分で加熱処理しても、搾汁率は担保することができ、なおかつ風味のある柿果実酒を醸造することができた。なお、ここで「引き続き」とは、ペクチナーゼ添加後、時間を置かずに熱処理を行うという意味である。
【0046】
<発酵温度の検討>
清酒の醸造では発酵温度が低い場合はエステル量が増加する一方で有機酸量が減少し、発酵温度が高い場合は有機酸量が増加する一方でエステル量が減少することが分かっている。一方、葡萄酒では白ワインは10℃~15℃で発酵させるのが一般的であり、13℃以下でよりフルーティーさフレッシュさが保持されるとされている。赤ワインは20℃~30℃で発酵させることが多く、高級アルコールの増加を誘引するとされている。つまり、原料の種類によって、発酵温度は風味に大きな影響を及ぼす。そこで、発酵温度の変化が柿果実酒にどのように影響があるか、官能評価を利用して最適な発酵温度の検討を行った。
【0047】
実験方法:富有柿をブレンダーでピューレ状にし、200ml容量のマヨネーズ瓶3本に200mlずつ分注し、それぞれにペクチナーゼSS0.2%(w/v)・スクロース10gを(終濃度5%w/v)添加した。酵素添加後、65℃で30分加熱処理を行った。その後、発酵に必要な菌数5.0×10cfu/mlになるよう酵母(きょうかい9号)を添加した。
【0048】
発酵は20℃、15℃、10℃の3条件で延べ8~15日間発酵させ、柿醪を得た。柿醪は遠心分離して、上清を柿果実酒とした。
【0049】
各発酵温度条件の柿果実酒のpH、糖度、グルコース濃度を測定した。サンプリングした醪の糖度は糖度計(株式会社アタゴ,東京)、グルコース濃度はグルコースCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社,大阪)、アルコール濃度、日本酒度、比重は振動密度計(アントンパール社製 DMA4100M)を使用して分析した。各温度による柿果実酒の測定結果を表2に示す。
【0050】
なお、日本酒度とは日本酒における甘口、辛口を示す一応の目安であり、日本酒度がマイナスであれば甘口、プラスであれば辛口を示す。甘口とされるのは日本酒度が-3.5から-5.9であり、辛口とされるのは、+3.5から+5.9とされる。日本酒度が-6.0以下若しくは+6.0以上であれば、それぞれ大甘口、大辛口と呼ばれる。
【0051】
【表2】
【0052】
アルコール濃度は3条件とも8パーセント台であり大きな差はみられなかった。また日本酒度は20℃で-33.2、15℃で-35.2、10℃で-41.1であり、日本酒度的には大甘口の柿果実酒となった。
【0053】
次に有機酸分析を行った。結果を図1に示す。図1を参照して、横軸は有機酸の種類を表し、縦軸は濃度(mg/L)を表す。なお、各有機酸は左から発酵温度が20℃、15℃、10℃の順である。発酵温度ではコハク酸の差が一番顕著であり、発酵の温度が高いほど含有量が多い傾向が見られた。一方でリンゴ酸の含有量は、発酵温度が低いほどやや多くなる傾向がみられた。また乳酸・リン酸は温度による大きな差はみられなかった。
【0054】
<官能評価>
次に官能評価を行った。試験者8人に対して、香りと味について10点満点で点数をつけてもらい(良い香りが高い、味が良い方が高い点数とした)、さらにコメントの記載も求めた。結果を表3に示す。表3を参照して、味・総合点において15℃のものが一番高評価であり、香りにおいては10℃のものが一番高評価であった。また15℃のものは柿らしいというコメントが複数見られた。20℃のものではえぐみがあるというコメントが見られた。
【0055】
コハク酸は含量によっては苦みやえぐみを呈す場合があり、20℃のものではコハク酸の量が過剰であった可能性が考えられる。10℃のものは日本酒様の香りが強く、柿らしさを感じにくいという意見が多くみられた。これは、今回使ったきょうかい9号は吟醸香を強く出す酵母であることから、酢酸イソアミルあるいはカプロン酸エチルが多く含まれたのではないかと考えられる。
【0056】
【表3】
【0057】
以上のように、発酵時の温度は10℃以上20℃以下であれば、風味のバリエーション内の柿果実酒を得ることができた。10℃より低くなると、柿によるものと判断できなくなり、20℃より高いと「えぐみ」が多くなり、飲みやすいものではなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、えぐみのない柿果実酒を得ることができるが、このような柿果実酒の品質は柿醪を製造した時点でほぼ決まると言える。したがって、この柿醪を利用することで他の種類の酒類を好適に得ることができる。
図1