(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133021
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】少なくとも1つの単結晶を成長させる昇華システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240920BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20240920BHJP
F27B 14/10 20060101ALI20240920BHJP
F27B 14/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
F27B14/10
F27B14/14
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024040513
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】23161963
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519167232
【氏名又は名称】サイクリスタル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136744
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 佳正
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シュー
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルド エッカー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ストックマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル フォーゲル
【テーマコード(参考)】
4G077
4K046
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA18
4G077EA02
4G077EG01
4G077HA12
4K046AA02
4K046BA05
4K046CA01
4K046CB15
4K046CD03
(57)【要約】
【課題】バルク半導体単結晶を成長させるための、より具体的には、炭化ケイ素などのバルク半導体単結晶を物理的気相輸送に基づいて成長させるシステムおよび方法を提供すること。
【解決手段】昇華システムは、長手軸(120)と、長手軸(120)に沿って延びる側壁(116)とを有する坩堝(102)であって、坩堝が、少なくとも1つのシード結晶(110)のための固定手段と、原材料(108)を収容するための少なくとも1つの原材料区画(104)とを備える、坩堝(102)と、坩堝の円周の周りに、坩堝の長手軸に沿って温度場を生成するように形成された加熱システムと、を備え、坩堝(102)は、固定手段の反対側に、原材料区画(104)に隣接して配置されている少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)を備え、第1の熱放射空洞(118)は、そのすべての側で閉じられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための昇華システムであって、前記昇華システム(100)が、
長手軸(120)と、前記長手軸(120)に沿って延びる側壁(116)とを有する坩堝(102)であって、前記坩堝が、少なくとも1つのシード結晶(110)のための固定手段と、原材料(108)を収容するための少なくとも1つの原材料区画(104)とを備える、坩堝(102)と、
前記坩堝の円周の周りに、前記坩堝の前記長手軸に沿って温度場を生成するように形成された加熱システムと、を備え、
前記坩堝(102)が、前記固定手段の反対側に、前記原材料区画(104)に隣接して配置されている少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)を備え、前記第1の熱放射空洞(118)が、そのすべての側で閉じられている、昇華システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)が、前記坩堝(102)の前記側壁(116)と同じ材料から形成されている第1の分離壁(122)により、前記原材料区画(104)に対して境界付けされている、請求項1に記載の昇華システム。
【請求項3】
前記第1の熱放射空洞(118)が、前記原材料区画の内側直径よりも大きい、前記長手軸(120)を横切る内側直径を有する、請求項1または2に記載の昇華システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)が、前記坩堝(102)の前記側壁(116)よりも薄く、かつ前記第1の熱放射空洞(118)の残りの側を境界付けする各壁(124、114)よりも薄い第1の分離壁(122)により、前記原材料区画(104)に対して境界付けされている、請求項1から3のいずれか一項に記載の昇華システム。
【請求項5】
前記第1の熱放射空洞(118)が、前記長手軸(120)に沿って前記原材料区画(104)内に延びる少なくとも1つの突出区画(126)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の昇華システム。
【請求項6】
少なくとも1つの第2の熱放射空洞(128)が前記原材料区画(104)の内部に配置され、前記少なくとも1つの第2の熱放射空洞(128)が、前記第1の熱放射空洞(118)とは別個である、請求項1から5のいずれか一項に記載の昇華システム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第2の熱放射空洞(128)が円環形状であり、前記円環の中心軸が前記坩堝の前記長手軸と一致している、請求項6に記載の昇華システム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第2の熱放射空洞(128)が、前記長手軸(120)に対してある角度を含む傾斜した分離壁(130)により前記原材料区画(104)に対して境界付けされている、請求項6または7に記載の昇華システム。
【請求項9】
前記少なくとも1つの第2の熱放射空洞(128)が、円錐形状の分離壁(130)により前記原材料区画(104)に対して境界付けされている、請求項8に記載の昇華システム。
【請求項10】
前記第1の熱放射空洞(118)に、前記長手軸(120)に沿う方向に前記第1の熱放射空洞(118)を貫通する中実の柱(132)が設けられている、請求項1から9のいずれか一項に記載の昇華システム。
【請求項11】
前記加熱システムが、前記坩堝(102)を少なくとも部分的に取り囲んでいる、電磁場を生成するように動作可能な誘導コイルおよび/または抵抗ヒータを備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の昇華システム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)が、前記原材料区画の容積の少なくとも1%から最大で20%に等しい内側容積を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の昇華システム。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)が、前記原材料区画の前記容積の少なくとも1%から最大で18%、好ましくは最大で16%、に等しい内側容積を有する、請求項12に記載の昇華システム。
【請求項14】
昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させる方法であって、
長手軸(120)と、前記長手軸(120)に沿って延びる側壁(116)とを有する坩堝(102)を用意し、少なくとも1つのシード結晶(110)を前記坩堝(102)の固定手段に固定し、少なくとも1つの原材料区画(104)に原材料(108)を充填することと、
加熱システムを用いて、前記坩堝(102)の円周の周りに前記坩堝(102)の前記長手軸(120)に沿って温度場を生成することと、を含み、
前記温度場の熱が、少なくとも1つの第1の熱放射空洞(118)を通じて熱放射を介して前記原材料区画内に結合され、前記第1の熱放射空洞(118)は、前記固定手段の反対側に、前記原材料区画(104)に隣接して配置されており、前記熱放射空洞(118)はそのすべての側で閉じられている、方法。
【請求項15】
前記原材料区画内で最大の温度を有する、前記長手軸(120)を横切って延びる、前記シード結晶(110)の反対側の面において、20Kを超える温度差、好ましくは15Kを超える温度差、より好ましくは10Kを超える温度差が発生しない、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク半導体単結晶を成長させるための、より具体的には、炭化ケイ素などのバルク半導体単結晶を物理的気相輸送に基づいて成長させるシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、パワーエレクトロニクス、無線周波、および発光半導体部品などの幅広い用途の電子部品のための半導体基板材料として広く使用される。
【0003】
物理的気相輸送(PVT:physical vapor transport)は、一般に、バルクSiC単結晶を成長させるために、特に商業目的に使用される。SiC基板は、バルクSiC結晶から(例えば、ワイヤソーを使用して)スライスを切り出し、そのスライス表面を一連の研磨工程で仕上げ加工することによって製造される。完成したSiC基板は、エピタキシャル工程などで半導体部品の製造に用いられ、そこで、適切な半導体材料(例えば、SiC、GaN)の薄い単結晶層がSiC基板上に堆積される。堆積される単分子層およびそれから製造される部品の特性は、基礎となる基板の品質および均質性に決定的に左右される。この理由から、SiCの優れた物理的、化学的、電気的および光学的性質は、それを、パワーデバイス用途に好ましい半導体基板材料にしている。
【0004】
PVTは、基本的に、好適な原材料の昇華とそれに続くシード結晶への再凝固を伴う結晶成長方法であり、シード結晶で単結晶の形成が起こる。原材料とシード結晶が成長構造の内部に入れられ、原材料を加熱によって昇華させる。昇華した蒸気は次いで、原材料とシード結晶との間に設定された勾配を有する温度場に起因して制御された形で拡散し、シード上に堆積して単結晶として成長する。
【0005】
従来のPVTに基づく成長システムは、一般に、原材料を昇華させるために誘導加熱システムまたは抵抗加熱システムのいずれかを利用している。両方の場合とも、PVTに基づく成長システムの核となるのはいわゆる反応器である。基本的に、坩堝と、シード結晶のための固定手段とを備え、従来はグラファイト材料および炭素材料から作られる成長構造は、反応器の内部に置かれ、反応器の外側に配置された誘導コイル、または反応器の外側もしくは内側に配置された抵抗ヒータのいずれかによって加熱される。成長構造内の温度は、成長構造のオーバーチャ(overture)の近くに設置された、1つまたは複数の高温計あるいは1つまたは複数の熱電対によって測定される。真空シールされた反応器は、1つまたは複数の真空ポンプによって真空引きされ、1つまたは複数のガス供給を介して不活性ガスまたはドープガスの供給を受けて、制御されたガス(ガス混合物大気)を作り出す。すべてのプロセスパラメータ(圧力、温度、ガス流量等)は、コンピュータによって操作されるシステムコントローラによって調節、制御、および記憶することができ、コントローラは、すべての関連する構成要素(例えば、インバータ、高温計、真空制御弁、マスフロー制御(MFC)、および圧力計)と通信する。
【0006】
誘導加熱されるPVTシステムの場合、反応器は、通常、1つまたは複数のガラス管を含み、このガラス管は、場合により水で冷却され、両端に反応器の内部を大気に対して封止するためのフランジが設けられている。そのような誘導加熱されるPVTシステムの例が、特許、米国特許第8,865,324(B2)号明細書に記載されている。
図9は、そのような従来の誘導加熱されるPVTシステム800を示す。
【0007】
成長機構800は成長坩堝802を備え、これはSiC供給領域804および結晶成長領域806を含んでいる。粉末状のSiC原材料808は、成長工程の開始前に、前加工された出発材料として成長坩堝802のSiC供給領域804に注入され、例えばSiC供給領域804に配置される。原材料808は、原材料808の密度を高めるために、高密度化されるか、または少なくとも部分的に固体材料から構成されてもよい。
【0008】
シード結晶810が、結晶成長領域806内の、成長坩堝802のSiC供給領域804に対向する内壁、例えば坩堝の蓋812に、提供される。成長させるバルクSiC単結晶は、結晶成長領域806内に形成されるSiC成長気相からの堆積によってシード結晶810の上に成長する。成長するバルクSiC単結晶とシード結晶810とは、およそ同じ直径を有してよい。
【0009】
坩堝の蓋812を含む成長坩堝802は、導電性・伝熱性のグラファイト坩堝材料から製造されてよい。その周囲に熱絶縁(図には図示せず)が配置され、これは、例えば気泡状のグラファイト絶縁材料を含んでよく、その空孔率は特に、グラファイト坩堝材料の空孔率よりも高い。
【0010】
熱絶縁された成長坩堝802は、管状の容器814の内側に置かれ、容器は、石英ガラス管として構成されてよく、オートクレーブまたは反応器を形成する。加熱コイル816の形態の誘導加熱装置が、容器814の周囲に配置されて、成長坩堝802を加熱する。成長坩堝802は、加熱コイル816により、2000℃超の成長温度まで、特に約2200℃まで、加熱される。加熱コイル816は、成長坩堝802の導電性の坩堝壁(いわゆるサセプタ)に、電流を誘導結合する。この電流は実質的に、円形・中空で円筒形の坩堝壁の中を周方向に循環電流として流れ、その過程で成長坩堝802を加熱する。サセプタは、グラファイト、TaC、WC、Ta、W、または他の耐熱金属から作られ得る。サセプタの主要な目的は、坩堝802の内側の熱源を提供することである。サセプタが誘導によって加熱されると、サセプタの表面は高い温度に達し、その温度が次いで、伝導および/または放射を通じて坩堝802の内側に移される。
【0011】
上述したように、誘導コイル816は、ガラス管814の外側に取り付けられ、通常は、電磁放射を遮断するための電磁遮蔽を形成するファラデーケージ(図面では見えていない)によって包囲される。
図9の例に示すように、誘導コイル816には等距離の巻き線が巻かれてもよい。
【0012】
さらに、従来の抵抗加熱されるPVTシステムでは、加熱抵抗素子は反応器の内側に取り付けられる。反応器が金属、耐熱金属、および/またはグラファイト製である場合、それは水または空気で冷却することができる。加熱抵抗PVTシステムの例が、公開特許出願である米国特許出願公開第2016/0138185(A1)号明細書および米国特許出願公開第2017/0321345(A1)号明細書に記載されている。
【0013】
高品質の結晶の成長のためには、径方向における成長坩堝への均質な熱の結合が極めて重要であると考えられる。可能な限り均質に熱を結合することにより、結晶も可能な限り均質かつ対称的に成長するはずである。中でも、これは、貫通螺旋転位(TSD:threading screw dislocation)、およびステップ転位とも呼ばれる貫通刃状転位(TED:threading edge dislocation)の形成を防止すべきであり、それらの形成には、不均質で非対称的な熱分布と、それに伴う不均質で非対称的な成長が好都合に働く。
【0014】
したがって、PVT成長システムは、昇華したガス種がシードおよび成長する単結晶の方へ移動するための駆動力を設定するために、径方向に可能な限り均質な温度場で坩堝の内部を加熱し、定められた温度勾配を軸方向に提供しなければならない。知られているPVTシステムでは、通常はグラファイトまたは同等の材料から作られる反応器構造が、壁領域から加熱されて、坩堝の外部から内部への温度勾配を作り出す。その結果、SiC原料の変換が、外側から内側へと減少する。
【0015】
それにより、完全な変換のためには温度がもはや十分でなく、原材料の再結晶化だけが発生し、したがって結晶成長にはもはや何ら寄与しない領域が、原料区域内に作り出される。この作用は、ケイ素の豊富なガス種と炭素が豊富なガス種の分圧が異なることによって発生する、焼結したSiC粉末の炭素スポンジへの変容によって増大される。炭素スポンジは、増大していく成長時間と共にその熱伝導性を低下させ、次第にヒータと原材料との間の絶縁体として作用するようになる。この作用に対抗するために、原材料は、さらなる成長のためにはより強く加熱されなければならない。それでも、未反応の材料の残りがしばしば残る。よって、未反応のまたは熱的に絶縁された原材料は、大幅に低下した歩留まりにつながり、したがって増大したコストにつながる。
【0016】
増大していく結晶直径に伴い、反応器サイズおよび導入される坩堝の連続的な増加も必要となる。上記で説明した作用のため、導入される原材料の有効使用率は、反応器の直径が増大していくことによりさらに低下する。
【0017】
Siを含有するガス種とCを含有するガス種の分圧が異なるために、結晶成長に寄与する原材料の化学的組成が変化する。上記で説明された工程が、結晶成長のために新しい材料がもはや利用可能でないことを意味する場合は、気相の化学的組成も変化し、これは結晶成長に影響を与え、ひいては結晶品質の低下につながる。
【0018】
原材料の熱伝導性の低下または黒鉛化はPVT法では不可避であり、この理由は、それが、大きい直径または対応する長さをもつ結晶を生産するためにSiC単結晶の経済的な生産に使用されるからである。SiCを含有する原料の非変換の負の影響の低減は、例えば、局所的加熱要素の導入によって実現され得る。
【0019】
例えば、中国実用新案第210974929(U)号明細書から、この目的のために原料貯蔵部の内部に中実の棒体を挿入することが知られている。
【0020】
この局所的加熱要素の挿入は、坩堝底部の下端における原材料の再結晶化を防止すると共に、原料貯蔵部の中央に向けて熱伝導を増大させるためのものである。その結果、より大きい体積が均質的に加熱され、原料の黒鉛化が局所的に低減される。本文書では、坩堝の加熱は誘導コイルによって可能にされる。よって、最も高温の地点は坩堝の外側縁部にあり、貯蔵部内部の棒体は、坩堝の壁から粉末貯蔵部の中央へ軸方向および径方向に熱を輸送することにより、熱伝導によって加熱要素の延長として働く。
【0021】
そのような追加的な伝導ヒータの形状は、日本国特許第6859800(B2)号明細書に示されるように様々に異なり得る。本文書に示される幾何学形状の種類は、中国実用新案第210974929(U)号明細書と同じ原理に対応する。日本国特許第6859800(B2)号明細書によれば、一方の側で開口しており、下端にある凹部が少なくとも底部の中央部に位置するシリンダが提案される。加えて、相補的な円錐形部品が、この凹部に導入される。
【0022】
日本国特許第6859800(B2)号明細書によると、外側の円筒体壁のみが誘導加熱または抵抗加熱を介して加熱され、熱は、追加的な円錐形部品を介して粉末体積の中に伝えられる。
【0023】
そのような仕組みの別の利点は、坩堝底部の再結晶化した原材料を除去することができ、それにより坩堝材料の寿命を向上できることである。
【0024】
原材料の反応を最適化する別の知られている手法が、日本国特許第6501494(B2)号明細書に記載されている。ここでは、2つの追加的な円盤型の部品(発熱部材および加熱補助部分)の組合せが、原材料で満たされた構造の下方に置かれる。発熱部材の直径は加熱補助部分の直径よりも大幅に小さいため、結果として生じる直径差は、熱絶縁材料を設置することによって補償される。
【0025】
発熱部材の拡大した直径により、誘導コイルは、より効率的に結合し、よって補助加熱部材および坩堝よりも多く加熱する。熱伝導に起因して、発熱部材は抵抗ヒータとして働き、温度を局所的に中央に輸送し、それにより原材料の再結晶化を低減させるかさらには防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第8,865,324(B2)号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/0138185(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/0321345(A1)号明細書
【特許文献4】中国実用新案第210974929(U)号明細書
【特許文献5】日本国特許第6859800(B2)号明細書
【特許文献6】日本国特許第6501494(B2)号明細書
【発明の概要】
【0027】
本発明は、従来技術の欠点および不都合点を鑑みてなされたものであり、その目的は、物理的気相輸送(PVT)により半導体材料の単結晶を成長させるためのシステム、および、用いられる原材料をより効率的に利用して、改良された単結晶品質で、費用効果高く半導体材料の単結晶を製造する方法を提供することである。
【0028】
この目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0029】
本発明は、原材料区画を加熱するために、熱伝導を使用するだけでなく、追加的にかつ空間的に制御された形で、熱放射も使用することにより、改善された加熱効率を実現できるという発想に基づく。
【0030】
詳細には、原材料の黒鉛化という基本的な問題は、熱伝導の原理に基づく局所ヒータの導入により、上述の知られている解決法に従って軽減される。熱電等というこの物理的原理はフーリエの法則(式1)によって説明され、ここで、dQ/dtは熱パワー(熱流束とも呼ばれる)であり、λは熱伝導率であり、Aは熱が通って流れる面積であり、dは温度差の距離であり、ΔTは、高温の表面と低温の表面との間の温度差である。
【0031】
【0032】
既存の解決法に関する上記で説明した最適化の狙いは、通常はグラファイトで作られる構造の壁と中心との間の温度差を大幅に低減することである。
【0033】
それに対して、本開示は、熱放射を使用することによって熱伝導の制約を回避するという発想に基づく。放射熱パワーは、ステファン・ボルツマンの法則(式2)によって説明される。ここで、εは放射表面の放射率であり、σはステファン・ボルツマン定数であり、Aは表面積であり、Tは放射体の(絶対)温度である:
【0034】
【0035】
ステファン・ボルツマンの法則は、熱均衡している物体の放射パワーはその絶対温度の4乗に比例し、その表面積に正比例することを表している。
【0036】
いずれも温度の関数である、熱伝導によって生じる熱流束(曲線1001)と熱放射によって生じる熱流束(曲線1002)との比較が
図11に示される。マーク1003で、PVT工程で一般に結晶成長が実施される温度範囲が強調されている。説明された温度状況では、放射を介した熱輸送が伝導よりも優位を占めることが明らかである。これは、式1および式2に表される熱パワーの関係によっても実証される。述べたように、放射による熱パワーはT
4で増大するのに対し、熱伝導を介した熱パワーは線形にしか増大しない。よって、特に単結晶のSiCブールを成長させる場合には、ここまで考察された従来技術のシステムのような伝導を介した熱の輸送ではなく、放射を介した熱輸送の方が、PVTの成長に関連する温度範囲においてはるかに有効であることが分かる。
【0037】
原材料区画をより効率的に、径方向により均一に加熱するために熱放射から利益を得るために、本開示はしたがって、少なくとも1つの放射空洞を使用して、坩堝の外側から原材料区画の中央に熱を輸送することを提案する。
【0038】
詳細には、本開示は、昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための昇華システムを提供し、この昇華システムは、長手軸と、長手軸に沿って延びる側壁とを有する坩堝を備え、坩堝は、少なくとも1つのシード結晶のための固定手段と、原材料を収容するための少なくとも1つの原材料区画とを備えている。加熱システムが、坩堝の円周の周りに、坩堝の長手軸に沿って温度場を生成するように形成され、坩堝は、固定手段の反対側に、原材料区画に隣接して配置されている少なくとも1つの第1の熱放射空洞を備え、この第1の熱放射空洞は、そのすべての側で閉じられている。
【0039】
本開示の発明者らは、規定された設計の空洞を使用することにより、成長工程の過程で、径方向に見たときに原材料(通常は粉末)をより均質に加熱することができ、よってより効率的な変換が起こることを発見した。この追加的に導入される空洞のために、放射による、より効率的な熱輸送が起こり、それが、熱が構造の中央(対称軸または長手軸)により効率的に伝導され得ることにつながる。これは、原材料を加熱する表面積を増し、それにより、成長中に低下する、原材料内への熱輸送の効率が向上する。
【0040】
放射を介した熱輸送を可能にする少なくとも1つの空洞を選択的に導入することにより、システム内の大幅に低い温度差を実現することができる。これは、通常は導入される坩堝構造の壁エリアにおいて最も高い温度を、坩堝の中心に輸送することを可能にする。このことの大きな利点は、成長工程中に利用可能な原材料がはるかに効率的に使用されることである。これはまた、原材料がより大きい面積にわたってより均質的に加熱できるため、育成工程中に気相の組成をより長い時間にわたり一定に保つことを可能にし、それにより、変化する気相に起因する品質低下を回避する。
【0041】
その結果得られる利点は、結晶の成長のために有効使用可能な原材料の質量が大幅に増し、したがって、成長した単結晶の長さおよび品質の増大が可能になることである。
【0042】
これらの利点は、SiC単結晶を成長させる場合に特によく達成され得る。しかし、他の半導体結晶の昇華成長も本開示による原理から利益を得られることが明らかである。
【0043】
有利な例によると、少なくとも1つの第1の熱放射空洞は、坩堝の側壁と同じ材料から形成されている分離壁により、原材料区画に対して境界付けされる。これは、放射と伝導による最適な混合熱伝達を可能にする。有利には、この分離壁は、側壁よりも大幅に薄く、それにより、熱放射空洞を通って放射する熱がより容易に原材料区画に入ることができる。詳細には、少なくとも1つの第1の熱放射空洞は、坩堝の側壁よりも薄く、かつ第1の熱放射空洞の残りの側を境界付けする各壁よりも薄い分離壁により、原材料区画に対して境界付けされてよい。
【0044】
原材料区画内への径方向に均一な熱輸送を実現するために、昇華システムの幾何学形状は、第1の熱放射空洞が、原材料区画の内側直径よりも大きい、長手軸を横切る内側直径を有するように選択されてよい。
【0045】
さらなる有利な例によれば、第1の熱放射空洞は、長手軸に沿って原材料区画内に延びる、少なくとも1つの突出区画を有する。そのような突出部は、熱を原材料区画の中心のより近くまで導くことを可能にする。さらに、加熱エリアの表面が拡大され、それが加熱効率を高める。
【0046】
さらなる有利な例によると、少なくとも1つの第2の熱放射空洞が原材料区画の内部に配置され、少なくとも1つの第2の熱放射空洞は、第1の熱放射空洞とは別個である。さらなる熱放射空洞を追加することにより、原材料に作用する温度場をさらに精密に調整するための追加的手段を設けることができる。
【0047】
例えば、少なくとも1つの第2の熱放射空洞は、円環形状であり、円環の中心軸が坩堝の長手軸と一致していてよい。さらに、そのような円環形状の第2の熱放射空洞は、第1の熱放射空洞にある1つまたは複数の突出区画と組み合わせられてもよい。また、複数の円環形状の第2の熱放射空洞が、昇華システムの長手軸に沿ったいくつかの軸方向位置に設けられてもよい。
【0048】
本開示のさらなる有利な例によると、少なくとも1つの第2の熱放射空洞は、長手軸に対してある角度を含む傾斜した分離壁により原材料区画に対して境界付けされる。傾斜した分離壁は、じょうごの形状に、原材料区画の中央の方に向けて形成されてよい。この場合、より多くの熱が、熱放射によって周囲領域に伝達される。
【0049】
空洞ヒータの異なる幾何学形状は、粉末チャンバ内の熱分布の微調整および/またはより高精度の制御の役に立つ。主として、坩堝および絶縁構造の幾何学形状(全体構造)は、結晶成長空間内の温度分布を最適化し、よって結晶成長を最適化する働きをする。そして、空洞ヒータの異なる形状は、これから切り離された粉末の変換を最適化することができる。言い換えると、新たな追加的パラメータが作成され、これは、結晶成長エリア内の温度分布に影響することなく、粉末変換に対する独立した影響を可能にする。
【0050】
代替として、少なくとも1つの第2の熱放射空洞は、円錐形状の分離壁により原材料区画に対して境界付けされてもよい。よって、原材料区画の中央領域が、より効率的に加熱される。
【0051】
本開示のさらなる有利な例によると、第1の熱放射空洞に、長手軸に沿う方向に第1の熱放射空洞を貫通する中実の柱が設けられる。この例示的解決法により、原材料区画の中央領域は、熱放射ではより少なく加熱され、熱伝導を介してより多く加熱される。
【0052】
本開示のさらなる有利な例によると、加熱システムは、坩堝を少なくとも部分的に取り囲んでいる、電磁場を生成するように動作可能な誘導コイルおよび/または抵抗加熱コイルを備える。両加熱システムとも、坩堝の内側に温度場を作り出す。径方向の温度場と軸方向の温度場が区別されなければならないことに留意されたい。径方向の場は、特に成長する結晶の領域内では、可能な限り均質でなければならない。長手軸に沿って、温度勾配が必要とされる。軸方向の温度勾配は、主として成長のための駆動力であり、つまり、シードが(粉末状の)原料よりも冷たいので、昇華したSiおよびC種の輸送が発生することができる。
【0053】
少なくとも1つの熱放射空洞が原材料区画の容積の少なくとも1%から最大で20%に等しい容積を有する昇華システムで、最良の結果が達成されたことが示され得、より具体的には、少なくとも1つの熱放射空洞は、原材料区画の容積の少なくとも1%から最大で18%、好ましくは最大で16%、に等しい容積を有する。
【0054】
本開示はさらに、昇華成長法により半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させる方法に関し、この方法は、
長手軸と、長手軸に沿って延びる側壁とを有する坩堝を用意し、少なくとも1つのシード結晶を坩堝の固定手段に固定し、少なくとも1つの原材料区画に原材料を充填することと、
加熱システムを用いて、坩堝の円周の周りに坩堝の長手軸に沿って温度場を生成することと、を含み、
温度場の熱の少なくとも一部が、少なくとも1つの第1の熱放射空洞を通じて熱放射を介して原材料区画内に結合され、第1の熱放射空洞は、固定手段の反対側に、原材料区画に隣接して配置されており、熱放射空洞はそのすべての側で閉じられている。
【0055】
本開示の有利な例によると、原材料区画内で最大の温度を有する、長手軸を横切って延びる、シード結晶の反対側の面において、20Kを超える温度差、好ましくは15Kを超える温度差、より好ましくは10Kを超える温度差が発生しない。
【0056】
添付図面は、本発明のいくつかの実施形態を図示するために本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなす。これらの図面は、説明と併せて、本発明の原理を説明する役割を果たす。図面は、本発明がどのように作製され、使用され得るかの好ましい例および代替例を図示する目的に過ぎず、本発明を図示・説明される実施形態だけに制限するものとは解釈すべきではない。さらに、実施形態のいくつかの態様は、個別にまたは異なる組合せで、本発明による解決法を形成し得る。よって、以下の詳細な実施形態は、単独で、またはそれらの任意の組合せで考察され得る。添付図面に図示される、以下の本発明の様々な実施形態のより詳細な説明から、さらなる特徴および利点が明らかになるであろう。添付図面では、同様の参照符号は同様の要素を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】第1の例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図2】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図3】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図4】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図5】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図6】
図5による昇華システムの模式的上面図である。
【
図7】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図8】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図9】さらなる例による昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図10】知られている昇華システムの模式的断面側面図である。
【
図11】熱伝導を介した熱流束と熱放射を介した熱流束の比較の図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明について、次いで図を参照しながら、最初に
図1を参照して詳細に説明する。
【0059】
図1は、本開示の第1の例による昇華システム100を示す。昇華システムという語は、昇華成長法を用いて半導体材料の少なくとも1つの単結晶を成長させるための任意のシステムを包含するように意図されることに留意されたい。好ましくは、この語は、
図10を参照して説明されたような、炭化ケイ素(SiC)ボリューム単結晶を成長させるための物理的気相輸送(PVT)システムを指す。さらに、加熱システムは、その具体的構造が本開示の主旨にとって重要でないため、
図1~
図9には示していない。
【0060】
昇華システム100は、成長坩堝102を備え、これは、原材料区画、特にSiC供給領域104および結晶成長領域106を含んでいる。粉末状のSiC原材料108が、成長工程の開始前に、前加工された出発材料として成長坩堝102のSiC供給領域104内に注入され、例えばSiC供給領域104に配置される。原材料108は、原材料108の密度を高めるために、高密度化されるか、または少なくとも部分的に固体材料から構成されてもよい。
【0061】
シード結晶110が、結晶成長領域106内の、成長坩堝102のSiC供給領域104に対向する内壁、例えば坩堝の蓋112に、提供される。成長させるバルクSiC単結晶は、結晶成長領域106内に形成されるSiC成長気相からの堆積によってシード結晶110の上に成長する。成長するバルクSiC単結晶とシード結晶110とは、およそ同じ直径を有してよい。結晶チャネルの直径がシード結晶110の直径よりも大きい場合、バルクSiC単結晶は、シード結晶110よりも大きい直径を有してもよい。しかし、成長したバルクSiC単結晶の使用可能な低欠陥直径は、通常、シード結晶の直径と同じ大きさである。
【0062】
坩堝の蓋112を含む成長坩堝102は、導電性・伝熱性のグラファイト坩堝材料から製造されてよい。その周囲に熱絶縁(図には図示せず)が配置され、これは、例えば気泡状のグラファイト絶縁材料を含んでよく、その空孔率は特に、グラファイト坩堝材料の空孔率よりも高い。
【0063】
誘導加熱の場合、熱絶縁された成長坩堝102は、管状の容器(
図1には図示せず)の内部に置かれ、容器は、石英ガラス管として構成されてよく、オートクレーブまたは反応器を形成する。加熱コイルの形態の誘導加熱装置(図には図示せず)が、容器の周囲に配置されて、成長坩堝102を加熱する。加熱コイルは、成長坩堝102の導電性の坩堝壁(サセプタ)内に電流を誘導結合することにより、所要の温度場を生成する。この電流は、実質的に、円形・中空で円筒形の坩堝壁の中を周方向に循環電流として流れ、その過程で成長坩堝102を加熱する。サセプタは、グラファイト、TaC、WC、Ta、W、またはその他の耐熱金属から作ることができ、また、坩堝102の一体部分であっても、または坩堝壁に近い別個の部分であってもよい。サセプタの主要な目的は、坩堝102の内側の熱源を提供することである。サセプタが誘導によって加熱されると、サセプタの表面は高い温度に達し、その温度が次いで、伝導および/または放射を通じて坩堝102の内側に移される。
【0064】
上述したように、コイルは、誘導加熱の場合はガラス管の外側に取り付けられ、通常は、電磁放射を遮断するためのファラデーケージ(
図1では見えていない)によって包囲される。抵抗加熱の場合は、コイル、または加熱板などの別の好適な加熱手段が、反応器の中と、また熱絶縁の中にも取り付けられ、よって坩堝102と密接する。本開示の原理は、両方の加熱技術に適用可能である。よって、コイルは、以下ではより広く加熱手段と呼ばれ、誘導加熱と抵抗加熱の両方(またはそれらの組合せ)を包含する。
【0065】
坩堝102の内部に作り出される温度場は、中心軸120を中心として径方向に対称形であり、中心軸120に沿った方向への単結晶の成長を促進する勾配を有する。
【0066】
図1に示すように、シード結晶110の反対側の原材料区画104に隣接する領域に、坩堝102は加熱基部114を備えている。加熱基部と側壁116とは、単結晶の成長中に加熱手段によって加熱される。本開示によると、第1の熱放射空洞118が、シード結晶110の反対側に、原材料区画104に隣接して配置され、第1の熱放射空洞118は、そのすべての側で閉じられている。動作中、第1の熱放射空洞118は、坩堝102を取り巻き、坩堝102を満たす作動ガスで満たされる。通常、これは、不活性ガスとドーパントの混合物であり、これは、システム圧力に従って、第1の熱放射空洞118の壁を通って第1の熱放射空洞118の内側容積内に拡散する。
【0067】
原材料区画104から、第1の熱放射空洞118は分離壁122で分離されている。この分離壁122は、坩堝102の残りの部分と同じ材料から製造される。
【0068】
本開示によると、第1の熱放射空洞118は、加熱基部114から熱放射を介して分離壁122に向けて熱を輸送する。分離壁122は比較的薄いので、熱は容易に原材料区画104内へ通り、径方向に均質に原材料108を加熱する。
【0069】
第1の熱放射空洞118を境界付けする坩堝102の側壁116の一部は、円環形状の境界付け構造124によって形成される。よって、第1の熱放射空洞118が、原材料区画104とは異なる、長手軸120を横切る直径を有し得ることを実現することができる。図示の例では、第1の熱放射空洞118は、長手軸を横切る方向に原材料区画104よりも遠くまで延びている。これにより、原材料108が原材料区画104の全直径にわたってより効率的に加熱されることが可能となる。
【0070】
原材料108の特に有効な加熱は、原材料区画104の内側容積の少なくとも1%に対応する内側容積をもつ第1の熱放射空洞118を設ける場合に実現できることが示され得る。少なくとも1つの熱放射空洞118は、具体的には、原材料区画104の容積の少なくとも1%から最大で20%に等しい容積を有するべきであり、より具体的には、少なくとも1つの第1の熱放射空洞118は、原材料区画104の容積の少なくとも1%から最大で18%、好ましくは最大で16%、に等しい容積を有してよい。
【0071】
原材料区画104は、通常、多孔膜によって結晶成長チャンバから分離される。よって、原材料区画104の容積は、減少していく原材料によってさえ、幾何学的に画定される。また、固化させた粉末または固体原材料(例えば、多結晶またはセラミックSiC)を使用する場合は、膜がなくとも、必要であればはっきりした境界線が与えられる。SiC粉末がグラファイトスポンジに変換されるときには、元の体積が残る。
【0072】
図2は、異なる形状の第1の熱放射空洞118を有する、本開示による昇華システム100の別の例を示す。昇華システム100の残りの特徴は、
図1に示す昇華システム100の特徴に対応することに留意されたい。
【0073】
図2によると、第1の熱放射空洞118は、中央突出区画126を有し、これは長手軸120に沿って原材料区画104内に延びている。そのような突出部は、熱を原材料区画の中心のより近くまで導くことを可能にする。さらに、加熱エリアの表面が拡大され、それが加熱効率を高める。分離壁122は、原材料108内への熱輸送を促進するために、突出区画126のエリアにおいても比較的薄い。
【0074】
図3は、本開示による昇華システム100の別の例を示し、ここでは、第1の熱放射空洞118に加えて、第2の熱放射空洞128が設けられる。昇華システム100の残りの特徴は、
図1に示す昇華システム100の特徴に対応することに留意されたい。
【0075】
図3に示す例によれば、第2の熱放射空洞128は、坩堝102の側壁116から原材料区画104の内側容積内に延びている。長手軸120に沿って、第2の熱放射空洞128は、例えば、原材料区画104の概ね真ん中に対応する軸方向位置に配置されてよい。
図3に例示的に示される第2の熱放射空洞128は、例えば、円環形状であり、第1の分離壁122と概ね同じ厚みの第2の分離壁130を有する。第2の熱放射空洞128は、側壁116からの熱を、熱放射を介して原材料108の中に導く。よって、第2の熱放射空洞128は、原材料108に作用する温度に局所的に影響を与えることを可能にする。
【0076】
本開示のさらなる有利な例によると、第1の熱放射空洞118は、加熱基部を分離壁122に接続する1つまたは複数の柱132を備えてよい。この例が
図4に示される。
【0077】
図4に示されるように、1つの中央柱132が、第1の熱放射空洞118の内部に設けられる。柱132の位置では、熱は熱放射を介して輸送されるのではなく、柱132を通る熱伝導を介して輸送される。したがって、原材料区画104に入る熱流束の局所的な低下が実現される。
【0078】
上記で説明したように、異なる幾何学形状は、最良の結晶成長を可能にするために、大域的な坩堝の幾何学形状によって決定される温度分布から可能な限り切り離して、粉末内の温度を微調整する役割を果たす。成長空間内の異なる幾何学形状で、最適化された粉末変換を実現することができる。
【0079】
図5および
図6は、
図2の突出区画126のさらなる変形例を、側面図およびそれに対応する模式的上面図として示す。
図5および
図6の昇華システム100は、1つの中央突出区画126Aだけが原材料区画104内に延びているのではなく、第2の、例示的に円環形状の突出区画126Bも、中央突出区画126Aの周りに配置されているという点で、
図2に示されるものと異なる。
図2の幾何学形状と同様に、この解決法の利点は、原材料区画の中央のより近くに熱を導くことが可能になることに見ることができる。さらに、加熱エリアの表面が拡大され、それが加熱効率を高める。分離壁122は、原材料108内への熱輸送を促進するために、突出区画126A、126Bのエリアにおいても比較的薄い。
【0080】
望まれる加熱パターンがそれを必要とする場合には、無論、1つまたは複数の突出区画126の他の形状および数が使用されてもよいことが明らかである。
【0081】
いずれの場合も、1つまたは複数の突出区画126は、第1の熱放射空洞118の残りと直接連通している。言い換えると、1つまたは複数の突出区画126の内側容積を第1の熱放射空洞118の残りの内側容積から分離する距離や境界付け壁はない。
【0082】
それに対して、
図3に示す第2の熱放射空洞128は、第1の熱放射空洞118の内側容積から分離された内側容積を有する。
図7は、第2の熱放射空洞128の変形例を示す。この例によると、第2の熱放射空洞128は円環形状であり、原材料区画に向かって傾斜した分離壁を有する。第2の熱放射空洞128は、じょうご形状の第2の分離壁130(基本的に円錐台を形成する)を原材料区画104の底部領域に導入することによって形成される。第2の熱放射空洞128は、第1の熱放射空洞118に隣接して配置され、両空洞は、第1の分離壁122の一部によって互いから分離されている。
【0083】
この配置には、熱をさらに効率的に原材料108内に導くことができるという利点がある。詳細には、原材料区画104の周囲底部領域が、熱放射から恩恵を受けることによって加熱され得る。
【0084】
上記で説明したように、異なる幾何学形状は、最良の結晶成長を可能にするために、大域的な坩堝の幾何学形状によって決定される温度分布から可能な限り切り離して、粉末内の温度を微調整する役割を果たす。成長空間内の異なる幾何学形状で、最適化された粉末変換を実現することができる。
【0085】
原材料区画104の真ん中における放射機構を向上させ、加えて、原材料区画の中央領域に配設される原材料の量を減らすために、第2の熱放射空洞128は、円錐形状の第2の分離壁130によって境界付けされてもよい。この例が
図8に示される。
【0086】
上記で説明したように、異なる幾何学形状は、最良の結晶成長を可能にするために、大域的な坩堝の幾何学形状によって決定される温度分布から可能な限り切り離して、粉末内の温度を微調整する役割を果たす。成長空間内の異なる幾何学形状で、最適化された粉末変換を実現することができる。
【0087】
図1~
図8に示されるすべての例において、第1の熱放射空洞118は常に、原材料区画104の内側直径よりも大きい内側直径を有するものと示された。それに対して、
図9は昇華システム100の例を示し、ここでは、第1の熱放射空洞118の内側直径は、原材料区画104の内側直径よりも小さい。
【0088】
よって、原材料区画104の中央領域に入る熱流束は、原材料区画104の周囲領域に入るものよりも高くなり、熱流束は、熱伝導を介して円環形状の境界付け構造124を通じて提供される。
【0089】
要約すると、本開示は、熱流束を、より規定された、効率的な形で原材料区画104内に導くために、シード結晶110と反対側の領域の様々な位置で中空の空洞を使用するという発想に基づいている。
【0090】
放射を介した熱輸送を可能にする空洞を選択的に導入することにより、システム内の大幅に低い温度差を実現することができる。詳細には、原材料中の温度分布に局所的に影響を与えるために、結晶とは反対側を向いて、原材料の各拡散決定表面の少なくとも1つの側に少なくとも1つの空洞が存在する。
【0091】
これは、通常は導入される坩堝の壁エリア内で最も高くなる温度を、構造の中心へ輸送することを可能にする。このことの大きな利点は、成長工程中に利用可能な原材料がはるかに効率的に使用されることである。これはまた、原材料がより大きい面積にわたってより均質的に加熱できるため、育成中に気相組成をより長く一定に保つことを可能にし、それにより、変化する気相に起因する品質低下を回避する。
【0092】
その結果得られる利点は、結晶の成長のために有効使用可能な原材料の質量が大幅に増し、したがって、長さおよび品質の増大が可能になることである。
【0093】
また、
図1~
図9に従って上記で説明された例示的構造のいくつかまたはその一部分のみを任意に互いと組み合わせてよいことに留意されたい。
【符号の説明】
【0094】
100 昇華システム、PVTシステム
102 坩堝
104 SiC供給領域、原材料区画
106 結晶成長領域
108 原材料
110 シード結晶
112 坩堝の蓋
114 加熱基部
116 坩堝の側壁
118 第1の熱放射空洞
120 中心軸
122 (第1の)分離壁
124 円環形状の境界付け構造
126、126A、126B 突出区画
128 第2の熱放射空洞
130 第2の分離壁
132 柱
800 PVTシステム
802 坩堝
804 SiC供給領域
806 結晶成長領域
808 原材料
810 シード結晶
812 坩堝の蓋
814 容器、反応器
816 誘導加熱コイル
1001 伝導を介した熱流束
1002 放射を介した熱流束
1003 SiCの成長に関連する温度範囲
【外国語明細書】