(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133027
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】押圧装置、構造部材の製造方法および構造部材の疲労強度改善方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B23K31/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041013
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023042378
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
(72)【発明者】
【氏名】川上 健
(72)【発明者】
【氏名】八木 一樹
(72)【発明者】
【氏名】前澤 将男
(57)【要約】
【課題】種々の構造物において、当該構造物を構成する金属部材に圧縮応力を容易に付与することができる技術を提供する。
【解決手段】金属部材を押圧して圧痕を形成する押圧装置であって、第1支持部と、前記第1支持部との間に隙間が形成されるように第1方向において前記第1支持部に対向する第2支持部と、前記第1支持部と前記第2支持部とを連結する連結部と、前記第1支持部に設けられ、一方の先端が前記第2支持部側に突出する第1押圧部と、前記第1押圧部に対向するように前記第2支持部に設けられ、一方の先端が前記第1支持部側に突出する第2押圧部と、備え、前記第1方向における前記第1押圧部と前記第2押圧部との距離が調整可能である、押圧装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材を押圧して圧痕を形成する押圧装置であって、
第1支持部と、
前記第1支持部との間に隙間が形成されるように第1方向において前記第1支持部に対向する第2支持部と、
前記第1支持部と前記第2支持部とを連結する連結部と、
前記第1支持部に設けられ、一方の先端が前記第2支持部側に突出する第1押圧部と、
前記第1押圧部に対向するように前記第2支持部に設けられ、一方の先端が前記第1支持部側に突出する第2押圧部と、
を備え、
前記第1方向における前記第1押圧部と前記第2押圧部との距離が調整可能である、押圧装置。
【請求項2】
前記第1支持部、前記第2支持部および前記連結部は、一体形成されている、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項3】
前記第1支持部には、前記第1方向に貫通する第1ねじ穴が形成されており、
前記第1押圧部は、前記第1ねじ穴にねじ込まれた第1ねじ部と、前記第1ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第1支持部から前記第2支持部側に突出する第1突出部とを備える、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項4】
前記第1突出部の先端面は、前記第1方向に垂直な平坦形状でかつ前記第1方向から見て前記第1ねじ部の直径よりも小さい直径を有する円形状を有している、請求項3に記載の押圧装置。
【請求項5】
前記第1突出部の先端は、前記第1ねじ部の軸心を中心として回転対称であり、かつ前記第2支持部側に向かって凸となるように湾曲した面を有している、請求項3に記載の押圧装置。
【請求項6】
前記第1支持部および前記第2支持部は、前記連結部よりも前記第1方向に直交する第2方向における一方側に延びるように設けられ、
前記第2方向から見て、前記隙間は、前記第1方向に直交する第3方向に延びるように、かつ前記第3方向における一方側において前記第1方向における距離が漸次大きくなるように設けられている、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項7】
所定方向に貫通する切欠き部が形成された前記金属部材を押圧するために用いられ、
前記第1方向を前記所定方向に一致させた状態で前記切欠き部内に挿入できる、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項8】
前記第1方向から見て、前記連結部と前記第1押圧部とが並ぶ方向をX方向とし、前記X方向に直交する方向をY方向とするとき、
前記第1方向から見て、前記第1支持部および前記第2支持部はそれぞれ、前記X方向に平行な1組の長辺と前記Y方向に平行な1組の短辺とからなる仮想長方形の各角を切り欠いた形状を有する、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項9】
前記第1方向から見て、前記第1支持部および前記第2支持部はそれぞれ、半径が35mmの四分円の内側に収まる、請求項8に記載の押圧装置。
【請求項10】
前記第2支持部には、前記第1方向に貫通する第2ねじ穴が形成されており、
前記第2押圧部は、前記第2ねじ穴にねじ込まれた第2ねじ部と、前記第2ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第2支持部から前記第1支持部側に突出する第2突出部とを備える、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項11】
前記連結部のうち前記隙間に面する部分は、前記第1方向に直交する第2方向に延びる第1面と、前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向に延びる第2面と、前記第1面および前記第2面を接続する第3面とを有し、
前記第1面は、前記第2面よりも前記第3方向における一方側に設けられ、前記第2面は、前記第1面よりも前記第2方向における一方側に設けられ、前記第3面は、前記第1面の前記第2方向における前記一方側の縁から前記第2面の前記第3方向における前記一方側の縁に向かって、前記第2方向および前記第3方向に対して傾斜して延び、
前記第1押圧部および前記第2押圧部は、前記第1面の前記第3方向における前記一方側において前記隙間に突出する、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項12】
前記第1支持部、前記第2支持部および前記連結部は、別個の部材によって構成されている、請求項1に記載の押圧装置。
【請求項13】
前記連結部は、第1ボルト、ナットおよび曲面状の先端部を有する第2ボルトを含み、
前記第1支持部は、前記第1方向に貫通する第1貫通孔と、前記第1方向に貫通するねじ穴とを有し、
前記第2支持部は、前記第1方向において前記第1貫通孔に対向しかつ前記第1方向に貫通する第2貫通孔と、前記第1方向において前記ねじ穴に対向しかつ前記第1方向において前記第1支持部とは反対側に凹む曲面状の凹部とを有し、
前記第1ボルトは、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に挿入され、
前記第1ボルトの頭部と前記ナットとによって前記第1支持部および前記第2支持部が挟まれるように前記第1ボルトの先端部に前記ナットが取り付けられ、
前記第2ボルトは、前記先端部が前記凹部に嵌るように前記第1支持部の外側から前記ねじ穴にねじ込まれている、請求項12に記載の押圧装置。
【請求項14】
前記第1支持部は、第1薄板部と、前記第1方向において前記第1薄板部よりも前記第2支持部側に突出する第1厚板部とを有し、
前記第2支持部は、第2薄板部と、前記第1方向において前記第2薄板部よりも前記第1支持部側に突出する第2厚板部とを有し、
前記隙間は、前記第1薄板部と前記第2薄板部との間の挿入用隙間と、前記第1厚板部と前記第2厚板部との間の調整用隙間とを含み、
前記第1厚板部は、前記挿入用隙間に面する第1支持面を有し、
前記第2厚板部は、前記挿入用隙間に面するように前記第1方向から見て前記第1支持面と同じ位置に設けられる第2支持面を有し、
前記第1支持面および前記第2支持面はそれぞれ、前記第1方向に直交する第2方向に延びる第1面と、前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向に延びる第2面と、前記第1面および前記第2面を接続する第3面とを有し、
前記第1面は、前記第2面よりも前記第3方向における一方側に設けられ、前記第2面は、前記第1面よりも前記第2方向における一方側に設けられ、前記第3面は、前記第1面の前記第2方向における前記一方側の縁から前記第2面の前記第3方向における前記一方側の縁に向かって、前記第2方向および前記第3方向に対して傾斜して延び、
前記第1押圧部および前記第2押圧部は、前記第1面の前記第3方向における前記一方側において前記挿入用隙間に突出し、
前記第1ボルトおよび前記第2ボルトは、前記調整用隙間を前記第1方向に通るように設けられ、
前記第1押圧部、前記第1ボルトおよび前記第2ボルトは、この順で前記第3方向に並ぶように設けられている、請求項13に記載の押圧装置。
【請求項15】
前記第1支持部、前記連結部および前記第2支持部は、弧状に一体形成されている、請求項2に記載の押圧装置。
【請求項16】
前記第1支持部には、前記第1方向に貫通する第1ねじ穴が形成されており、
前記第2支持部には、前記第1方向に貫通する第2ねじ穴が形成されており、
前記第1押圧部は、前記第1ねじ穴にねじ込まれた第1ねじ部と、前記第1ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第1支持部から前記第2支持部側に突出する第1突出部とを備え、
前記第2押圧部は、前記第2ねじ穴にねじ込まれた第2ねじ部と、前記第2ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第2支持部から前記第1支持部側に突出する第2突出部とを備える、請求項15に記載の押圧装置。
【請求項17】
前記第1支持部および前記第2支持部は、前記第1方向に直交する第2方向において前記連結部よりも一方側に設けられ、
前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向から見て、前記第1支持部の内縁は、前記第2方向における一方側ほど前記第1方向において前記第2支持部から離れるように前記第2方向における前記一方側の先端に向かって直線状に延びる直線部を含む、請求項16に記載の押圧装置。
【請求項18】
板状の金属部材を有する構造部材の製造方法であって、
請求項1に記載された押圧装置によって前記金属部材を押圧する工程を有する、構造部材の製造方法。
【請求項19】
板状の金属部材を有する構造部材の前記金属部材を請求項1に記載された押圧装置によって押圧する、構造部材の疲労強度改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材を押圧する押圧装置、構造部材の製造方法および構造部材の疲労強度改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、橋梁、船舶、およびクレーン等の構造物においては、種々の溶接継手が用いられている。溶接継手の溶接部には、溶接時の溶接金属の収縮によって引張の溶接残留応力が生じやすい。また、上記のような構造物において、溶接継手に繰り返し荷重がかかると、溶接止端部等の応力集中によって疲労き裂が生じる場合がある。このため、上記のような構造物において溶接継手を利用する場合には、溶接部の疲労強度を向上させることが求められる。
【0003】
そこで、従来、溶接継手の疲労強度を向上させるための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ポンチによって圧痕を付けることによって、溶接継手の応力集中部に予め圧縮の残留応力を発生させる方法が開示されている。特許文献1には、応力集中部に圧縮の残留応力を発生させることによって、応力集中部および該応力集中部の軽微な欠陥からの疲労き裂の発生と進展を抑制することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法を利用することによって、構造物を構成する溶接継手の疲労強度を向上させることができる。一方で、溶接継手が利用されている構造物によっては、特許文献1に開示された方法を適用することが難しい場合がある。例えば、天井クレーンを走行させるために工場に敷設されたクレーンランウェイガーター(CRG)において用いられている溶接継手の応力集中部に、圧縮の残留応力を適切に発生させることは容易ではない。すなわち、CRGは高所に配置されており且つ作業スペースが制限されていることから、重量やサイズの大きな機器を設置することや電源などのユーティリティーの準備が難しく、圧縮の残留応力を適切に発生させる上記施工が容易ではない。
【0006】
そこで、本発明は、種々の構造物において、当該構造物を構成する金属部材に圧縮応力を容易に付与することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の押圧装置、構造部材の製造方法および構造部材の疲労強度改善方法を要旨とする。
【0008】
(1)金属部材を押圧して圧痕を形成する押圧装置であって、
第1支持部と、
前記第1支持部との間に隙間が形成されるように第1方向において前記第1支持部に対向する第2支持部と、
前記第1支持部と前記第2支持部とを連結する連結部と、
前記第1支持部に設けられ、一方の先端が前記第2支持部側に突出する第1押圧部と、
前記第1押圧部に対向するように前記第2支持部に設けられ、一方の先端が前記第1支持部側に突出する第2押圧部と、
を備え、
前記第1方向における前記第1押圧部と前記第2押圧部との距離が調整可能である、押圧装置。
【0009】
(2)前記第1支持部、前記第2支持部および前記連結部は、一体形成されている、上記(1)に記載の押圧装置。
【0010】
(3)前記第1支持部には、前記第1方向に貫通する第1ねじ穴が形成されており、
前記第1押圧部は、前記第1ねじ穴にねじ込まれた第1ねじ部と、前記第1ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第1支持部から前記第2支持部側に突出する第1突出部とを備える、上記(1)または(2)に記載の押圧装置。
【0011】
(4)前記第1突出部の先端面は、前記第1方向に垂直な平坦形状でかつ前記第1方向から見て前記第1ねじ部の直径よりも小さい直径を有する円形状を有している、上記(3)に記載の押圧装置。
【0012】
(5)前記第1突出部の先端は、前記第1ねじ部の軸心を中心として回転対称であり、かつ前記第2支持部側に向かって凸となるように湾曲した面を有している、上記(3)に記載の押圧装置。
【0013】
(6)前記第1支持部および前記第2支持部は、前記連結部よりも前記第1方向に直交する第2方向における一方側に延びるように設けられ、
前記第2方向から見て、前記隙間は、前記第1方向に直交する方向に延びるように、かつ前記第3方向における一方側において前記第1方向における距離が漸次大きくなるように設けられている、上記(1)から(5)のいずれかに記載の押圧装置。
【0014】
(7)所定方向に貫通する切欠き部が形成された前記金属部材を押圧するために用いられ、
前記第1方向を前記所定方向に一致させた状態で前記切欠き部内に挿入できる、上記(1)から(6)のいずれかに記載の押圧装置。
【0015】
(8)前記第1方向から見て、前記連結部と前記第1押圧部とが並ぶ方向をX方向とし、前記X方向に直交する方向をY方向とするとき、
前記第1方向から見て、前記第1支持部および前記第2支持部はそれぞれ、前記X方向に平行な1組の長辺と前記Y方向に平行な1組の短辺とからなる仮想長方形の各角を切り欠いた形状を有する、上記(1)から(7)のいずれかに記載の押圧装置。
【0016】
(9)前記第1方向から見て、前記第1支持部および前記第2支持部はそれぞれ、半径が35mmの四分円の内側に収まる、上記(8)に記載の押圧装置。
【0017】
(10)前記第2支持部には、前記第1方向に貫通する第2ねじ穴が形成されており、
前記第2押圧部は、前記第2ねじ穴にねじ込まれた第2ねじ部と、前記第2ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第2支持部から前記第1支持部側に突出する第2突出部とを備える、上記(1)から(9)のいずれかに記載の押圧装置。
【0018】
(11)前記連結部のうち前記隙間に面する部分は、前記第1方向に直交する第2方向に延びる第1面と、前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向に延びる第2面と、前記第1面および前記第2面を接続する第3面とを有し、
前記第1面は、前記第2面よりも前記第3方向における一方側に設けられ、前記第2面は、前記第1面よりも前記第2方向における一方側に設けられ、前記第3面は、前記第1面の前記第2方向における前記一方側の縁から前記第2面の前記第3方向における前記一方側の縁に向かって、前記第2方向および前記第3方向に対して傾斜して延び、
前記第1押圧部および前記第2押圧部は、前記第1面の前記第3方向における前記一方側において前記隙間に突出する、上記(1)から(10)のいずれかに記載の押圧装置。
【0019】
(12)前記第1支持部、前記第2支持部および前記連結部は、別個の部材によって構成されている、上記(1)に記載の押圧装置。
【0020】
(13)前記連結部は、第1ボルト、ナットおよび曲面状の先端部を有する第2ボルトを含み、
前記第1支持部は、前記第1方向に貫通する第1貫通孔と、前記第1方向に貫通するねじ穴とを有し、
前記第2支持部は、前記第1方向において前記第1貫通孔に対向しかつ前記第1方向に貫通する第2貫通孔と、前記第1方向において前記ねじ穴に対向しかつ前記第1方向において前記第1支持部とは反対側に凹む曲面状の凹部とを有し、
前記第1ボルトは、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に挿入され、
前記第1ボルトの頭部と前記ナットとによって前記第1支持部および前記第2支持部が挟まれるように前記第1ボルトの先端部に前記ナットが取り付けられ、
前記第2ボルトは、前記先端部が前記凹部に嵌るように前記第1支持部の外側から前記ねじ穴にねじ込まれている、上記(12)に記載の押圧装置。
【0021】
(14)前記第1支持部は、第1薄板部と、前記第1方向において前記第1薄板部よりも前記第2支持部側に突出する第1厚板部とを有し、
前記第2支持部は、第2薄板部と、前記第1方向において前記第2薄板部よりも前記第1支持部側に突出する第2厚板部とを有し、
前記隙間は、前記第1薄板部と前記第2薄板部との間の挿入用隙間と、前記第1厚板部と前記第2厚板部との間の調整用隙間とを含み、
前記第1厚板部は、前記挿入用隙間に面する第1支持面を有し、
前記第2厚板部は、前記挿入用隙間に面するように前記第1方向から見て前記第1支持面と同じ位置に設けられる第2支持面を有し、
前記第1支持面および前記第2支持面はそれぞれ、前記第1方向に直交する第2方向に延びる第1面と、前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向に延びる第2面と、前記第1面および前記第2面を接続する第3面とを有し、
前記第1面は、前記第2面よりも前記第3方向における一方側に設けられ、前記第2面は、前記第1面よりも前記第2方向における一方側に設けられ、前記第3面は、前記第1面の前記第2方向における前記一方側の縁から前記第2面の前記第3方向における前記一方側の縁に向かって、前記第2方向および前記第3方向に対して傾斜して延び、
前記第1押圧部および前記第2押圧部は、前記第1面の前記第3方向における前記一方側において前記挿入用隙間に突出し、
前記第1ボルトおよび前記第2ボルトは、前記調整用隙間を前記第1方向に通るように設けられ、
前記第1押圧部、前記第1ボルトおよび前記第2ボルトは、この順で前記第3方向に並ぶように設けられている、上記(13)に記載の押圧装置。
【0022】
(15)
前記第1支持部、前記連結部および前記第2支持部は、弧状に一体形成されている、上記(2)に記載の押圧装置。
【0023】
(16)
前記第1支持部には、前記第1方向に貫通する第1ねじ穴が形成されており、
前記第2支持部には、前記第1方向に貫通する第2ねじ穴が形成されており、
前記第1押圧部は、前記第1ねじ穴にねじ込まれた第1ねじ部と、前記第1ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第1支持部から前記第2支持部側に突出する第1突出部とを備え、
前記第2押圧部は、前記第2ねじ穴にねじ込まれた第2ねじ部と、前記第2ねじ部の先端に設けられかつ前記隙間において前記第2支持部から前記第1支持部側に突出する第2突出部とを備える、上記(15)に記載の押圧装置。
【0024】
(17)
前記第1支持部および前記第2支持部は、前記第1方向に直交する第2方向において前記連結部よりも一方側に設けられ、
前記第1方向と前記第2方向とに直交する第3方向から見て、前記第1支持部の内縁は、前記第2方向における一方側ほど前記第1方向において前記第2支持部から離れるように前記第2方向における前記一方側の先端に向かって直線状に延びる直線部を含む、上記(16)に記載の押圧装置。
【0025】
(18)板状の金属部材を有する構造部材の製造方法であって、上記(1)から(17)のいずれかに記載された押圧装置によって前記金属部材を押圧する工程を有する、構造部材の製造方法。
【0026】
(19)板状の金属部材を有する構造部材の前記金属部材を上記(1)から(17)のいずれかに記載された押圧装置によって押圧する、構造部材の疲労強度改善方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、種々の構造物において、金属部材に圧縮応力を容易に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る押圧装置を示す図である。
【
図2】
図2は、押圧装置によって疲労強度が改善される溶接継手の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、押圧装置による疲労強度改善方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、押圧装置による疲労強度改善方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、押圧装置によって疲労強度が改善される構造物の例である。
【
図6】
図6は、押圧装置によって疲労強度が改善される構造物の例である。
【
図7】
図7は、押圧装置によって疲労強度が改善される構造物の例である。
【
図8】
図8は、押圧装置によって疲労強度が改善される構造物の例である。
【
図9】
図9は、押圧装置によって疲労強度が改善される構造物の例である。
【
図10】
図10は、第1押圧部の突出部の先端形状の他の例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の第2実施形態に係る押圧装置を示す図である。
【
図12】
図12は、押圧装置による疲労強度改善方法を説明するための図である。
【
図13】
図13は、本発明の第3実施形態に係る押圧装置を示す図である。
【
図14】
図14は、押圧装置による疲労強度改善方法を説明するための図である。
【
図15】
図15は、本発明の第4実施形態に係る押圧装置を説明するための概略図である。
【
図16】
図16は、本実施形態に係る押圧装置を用いた疲労強度改善方法の一例を説明するための図である。
【
図17】
図17は、本実施形態に係る押圧装置を用いた疲労強度改善方法の一例を説明するための図である。
【
図18】
図18は、本実施形態に係る押圧装置を用いた疲労強度改善方法の一例を説明するための図である。
【
図20】
図20は、押圧装置を用いた疲労強度改善方法を説明するための図である。
【
図23】
図23は、押圧装置の面外ガセット継手への具体的な適用例を示す図である。
【
図24】
図24は、試験1で用いた溶接構造試験体を示す図である。
【
図26】
図26は、試験2で用いた面内ガセット溶接継手を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る押圧装置、構造部材の製造方法および構造部材の疲労強度改善方法について図面を用いて説明する。
【0030】
(第1実施形態)
(押圧装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る押圧装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は左側面図、(e)は背面図である。なお、
図1の各図には、互いに直交するA方向、B方向およびC方向を示す矢印を付している。本実施形態では、A方向が第1方向に対応し、B方向が第2方向に対応し、C方向が第3方向に対応する。以下、A方向を第1方向Aと記載し、B方向を第2方向Bと記載し、C方向を第3方向Cと記載する。
【0031】
詳細は後述するが、本実施形態に係る押圧装置10は、互いに溶接された複数の板状の金属部材を有する溶接継手において、応力集中部に圧縮応力を付与するために金属部材を押圧する装置である。本実施形態では、溶接継手が、構造部材に相当する。
【0032】
図1に示すように、押圧装置10は、第1支持部12と、第2支持部14と、連結部16と、第1押圧部18と、第2押圧部20とを備えている。本実施形態では、第1支持部12、第2支持部14および連結部16は一体形成されている。第1支持部12、第2支持部14および連結部16は、例えば、引張強さが950MPa以上の鋼材からなる。
【0033】
第1支持部12と第2支持部14とは、互いの間に隙間22が形成されるように、第1方向Aにおいて対向している。連結部16は、第1支持部12と第2支持部14との間において、第1方向Aに延びるように設けられている。本実施形態では、第1支持部12および第2支持部14は、連結部16よりも第2方向Bにおける一方側に延びるように設けられている。第2方向Bから見て、隙間22は、第3方向Cに延びるように、かつ第3方向Cにおける一方側において第1方向Aにおける距離が漸次大きくなるように設けられている。
【0034】
第1支持部12には、第1方向Aに貫通するねじ穴12aが形成されている。同様に、第2支持部14には、第1方向Aに貫通するねじ穴14aが形成されている。ねじ穴14aは、第1方向Aにおいてねじ穴12aに対向するように設けられている。
【0035】
第1押圧部18は、隙間22において第1支持部12から第2支持部14側に突出するように、第1支持部12に設けられている。第2押圧部20は、第1方向Aにおいて第1押圧部18に対向するようにかつ隙間22において第2支持部14から第1支持部12側に突出するように、第2支持部14に設けられている。第1押圧部18および第2押圧部20は、第1押圧部18と第2押圧部20との第1方向Aの距離を調整できるように、第1支持部12および第2支持部14に支持されている。
【0036】
本実施形態では、第1押圧部18は、ねじ穴12aに挿入されている。具体的には、第1押圧部18は、第1方向Aに移動可能にねじ穴12aにねじ込まれたねじ部18aと、ねじ部18aの先端に設けられかつ隙間22において第1支持部12から第2支持部14側に突出する突出部18bとを有している。本実施形態では、第1押圧部18として頭部18cを有するボルトが用いられている。本実施形態では、頭部18cを回転させることによって、第1押圧部18を第1方向Aに移動させることができる。
【0037】
第2押圧部20は、ねじ穴14aに挿入されている。具体的には、第2押圧部20は、第1方向Aに移動可能にねじ穴14aにねじ込まれたねじ部20aと、ねじ部20aの先端に設けられかつ隙間22において第2支持部14から第1支持部12側に突出する突出部20bとを有している。ねじ部20aにおいて、突出部20bとは反対側の端面には、溝20cが形成されている。本実施形態では、溝20cにマイナスドライバーを差し込んでねじ部20aを回転させることによって、第2押圧部20を第1方向Aに移動させることができる。
【0038】
本実施形態では、ねじ穴12aが第1ねじ穴に対応し、ねじ穴14aが第2ねじ穴に対応し、ねじ部18aが第1ねじ部に対応し、ねじ部20aが第2ねじ部に対応し、突出部18bが第1突出部に対応し、突出部20bが第2突出部に対応する。
【0039】
本実施形態では、突出部18bの先端には、第1方向A(ねじ部18aの軸方向)に直交しかつ円形状を有する平坦面18dが形成されている。平坦面18dの直径は、ねじ部18aの直径(呼び径)よりも小さい。平坦面18dの面積は、例えば、ねじ部18aの断面積(第1方向Aに直交する断面の面積)の2/5以下に設定されることが好ましく、1/3以下に設定されることがより好ましい。このように平坦面18dの面積を設定することによって、平坦面18dによって溶接継手の金属部材を押圧する際に、小さい締め付け荷重で金属部材を押圧することができる。押圧装置10による金属部材の押圧位置については後述する。
【0040】
また、本実施形態では、突出部20bの先端には、第1方向A(ねじ部20aの軸方向)に直交しかつ円形状を有する平坦面20dが形成されている。平坦面18dと同様に、平坦面20dの面積は、例えば、ねじ部20aの断面積(第1方向Aに直交する断面の面積)の2/5以下に設定されることが好ましく、1/3以下に設定されることがより好ましい。
【0041】
図1(c),(d)に示すように、本実施形態では、連結部16と第1押圧部18とは、第2方向Bに並ぶように設けられている。また、第1方向Aから見て、第1支持部12および第2支持部14はそれぞれ、第2方向Bに平行な1組の長辺と第3方向Cに平行な1組の短辺とからなる仮想長方形の各角を切り欠いた形状を有している。本実施形態では、第2方向BがX方向に対応し、第3方向CがY方向に対応する。なお、本実施形態では、第1方向Aから見て、連結部16は、第1支持部12および第2支持部14から突出しないように形成されている。なお、
図1に示す例では、第1方向Aから見て、第1支持部12および第2支持部14はそれぞれ、上記仮想長方形の各角を直線状に切り欠いた形状を有しているが、第1支持部12および第2支持部14がそれぞれ、上記仮想長方形の各角を弧状に切り欠いた形状を有していてもよい。すなわち、第1支持部12および第2支持部14の第2方向Bにおける両端部がU字状に面取りされていてもよい。
【0042】
(疲労強度改善方法)
本実施形態に係る押圧装置10は、互いに溶接された複数の板状の金属部材を有する溶接継手において、応力集中部の近傍に圧縮応力を付与するために金属部材を押圧する際に利用される。例えば、スカラップ等の切欠き部が形成された溶接継手において、上記切欠き部内に押圧装置10を配置して、応力集中部である溶接部(溶接金属)の溶接止端部近傍(より具体的には、ガセット端部における溶接部(回し溶接部を含む)の止端部の近傍)を押圧装置10によって押圧する。これにより、溶接継手の応力集中部(溶接止端部)の近傍に圧縮応力が付与され、溶接継手の疲労強度が改善される。なお、本明細書において疲労強度改善とは、疲労き裂が発生することを抑制するだけではなく、既に存在している疲労き裂がさらに進展して拡大することを抑制することも意味する。
【0043】
以下、押圧装置10の使用方法の一例について説明する。
図2は、押圧装置10によって疲労強度が改善される溶接継手の一例を示す図である。なお、
図2には、溶接継手の一例として、鋼床版が示されている。また、
図2は、鋼床版を斜め下方から見た図である。
【0044】
図2を参照して、鋼床版30は、デッキプレート32と、主桁34と、横リブ36と、縦リブ38とを有している。鋼床版30には、複数の切欠き部36a,36b,36cが形成されている。なお、
図2の鋼床版30においては、デッキプレート32、主桁34、横リブ36、および縦リブ38がそれぞれ、板状の金属部材の例である。
【0045】
切欠き部36aを通るように、溶接部42a,42b,42cが形成されている。溶接部42aは、デッキプレート32と主桁34とを接合し、溶接部42bは、デッキプレート32と横リブ36とを接合し、溶接部42cは、主桁34と横リブ36とを接合している。また、横リブ36と縦リブ38とを接合する溶接部42dは、切欠き部36b,36cを通るように形成されている。デッキプレート32と縦リブ38とを接合する溶接部42e、およびデッキプレート32と横リブ36とを接合する溶接部42fは、切欠き部36cを通るように形成されている。
【0046】
本実施形態では、押圧装置10を各切欠き部36a,36b,36c内に配置して、各溶接部42b~42d,42fの溶接止端部(ガセット端部における溶接止端部)の近傍を第1押圧部18および第2押圧部20で押すことによって、溶接止端部に圧縮残留応力を付与することができる。これにより、各溶接部42b~42d,42fの上記溶接止端部(応力集中部)の疲労強度を改善することができる。その結果、鋼床版30の疲労強度を改善することができる。
【0047】
以下、切欠き部36a内に押圧装置10を配置する場合の一例を挙げて、疲労強度改善方法についてより具体的に説明する。
【0048】
図3および
図4は、貫通孔40a内に配置した押圧装置10によって鋼床版30の疲労強度を改善する方法を説明するための図である。なお、
図3に示すように、溶接部42bは、回し溶接部44を含む。回し溶接部44は、溶接部42bのうち、横リブ36の切欠き部36a側の端部を回るように形成された部分である。
【0049】
本実施形態では、
図3(a)に示すように、まず、切欠き部36a内に押圧装置10を配置する。なお、
図3(a)には、切欠き部36aに内接する楕円が示されている。本実施形態では、押圧装置10は、例えば、第1方向Aを切欠き部36aの貫通方向(横リブ36の厚み方向)に一致させた際に上記楕円内に収まる大きさに形成される。なお、建築構造物などで利用される溶接継手においては、半径が35mm程度の四分円に相当する大きさのスカラップが形成される場合が多い。本実施形態に係る押圧装置10は、例えば、このようなスカラップ内に挿入できる大きさに形成される。具体的には、第1支持部12および第2支持部14は、例えば、第1方向Aから見て、半径が35mmの四分円の内側に収まるように形成される。なお、第1支持部12および第2支持部14の寸法は、疲労強度改善の対象となる構造部材(溶接継手)の構造(スカラップの寸法等)に応じて適宜変更することができる。したがって、第1支持部12および第2支持部14が、第1方向Aから見て、半径が25mmの四分円の内側に収まるように形成されてもよく、半径が20mmの四分円の内側に収まるように形成されてもよい。
【0050】
次に、
図3(b)に示すように、押圧装置10を回転させて、第1支持部12(
図1参照)と第2支持部14との間に、横リブ36および溶接部42bを位置付ける。具体的には、回し溶接部44の横リブ36側の溶接止端部44aの近傍が、第1押圧部18の突出部18bと第2押圧部20の突出部20b(
図1(d)参照)との間に位置するように、押圧装置10を配置する。なお、連結部16の寸法が大きすぎると、スカラップ内において押圧装置10を円滑に回転させることができない。このため、本実施形態では、連結部16は、スカラップ内において押圧装置10を円滑に回転させることができるような寸法に設計される。
【0051】
その状態で、第1押圧部18を第2押圧部20側へ移動させて、突出部18b(平坦面18d)と突出部20b(平坦面20d(
図1参照))とで横リブ36を押圧する。これにより、溶接止端部44aの近傍の部分に圧縮の負荷が作用し、
図4に示すように、横リブ36の両面に塑性変形による圧痕46を形成することができる。その結果、溶接時に溶接止端部44aの近傍に生じた引張残留応力を低減、または溶接止端部44aの近傍に圧縮残留応力を生じさせることができる。これにより、鋼床版30の疲労強度を改善することができる。本実施形態では、第1押圧部18の押し込み深さは、例えば、押圧対象となる金属部材の厚みの5%程度に設定される。このため、例えば、横リブ36の厚みが9mmの場合、第1押圧部18の押し込み深さは、0.5mm程度である。なお、本実施形態では、第1押圧部18を約0.5mm押し込むことによって、突出部18bおよび突出部20bによって、横リブ36の両面にそれぞれ、約0.25mmの深さの圧痕46が形成される。なお、上記のように圧痕を形成することによって溶接継手の疲労強度が改善される原理は、上述の特許文献1に開示された原理と同様である。
【0052】
なお、金属部材に圧痕を形成する際には、第1押圧部18の突出部18b(平坦面18d)に潤滑剤を塗布することが好ましい。これにより、第1押圧部18と金属部材との間の摩擦を低減でき、第1押圧部18を円滑に回転させることができる。その結果、金属部材に圧痕を容易に形成することができる。なお、金属部材に圧痕を適切に形成するためには、第2押圧部20の突出部20bの先端は、金属部材に対して滑りにくい表面状態であることが好ましい。したがって、第2押圧部20の突出部20b(平坦面20d)に潤滑剤を塗布する必要はない。また、本実施形態では、突出部20bの先端に平坦面20dを形成し、突出部20bと金属部材との接触面積を大きくしている。これにより、突出部20bが金属部材に対して滑ることを抑制することができる。なお、平坦面20dに、金属部材との間に生じる摩擦力を増大させるための突起または凹部を形成してもよい。
【0053】
押圧装置10の各部の寸法は特に限定されず、疲労強度の改善対象となる溶接継手の各部の寸法に応じて適宜設定すればよい。なお、溶接継手の疲労強度を十分に改善するためには、金属部材のほぼ全厚にわたって塑性流動を起こさせることが好ましい。この点について、平坦面18d,20dの直径が小さ過ぎると、金属部材の表面部しか塑性流動が起こらない。このため、平坦面18d,20dの直径は、圧痕が形成される金属部材の厚みの1/3以上とすることが好ましく、1/2以上とすることがより好ましい。
【0054】
なお、本実施形態に係る疲労強度改善方法は、溶接継手の疲労強度を改善する方法であるが、既存の溶接継手を基材として用いて、疲労強度が改善された新たな溶接継手を製造する方法ということもできる。後述の実施形態においても同様である。
【0055】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態に係る押圧装置10によれば、第1支持部12および第2支持部14によって金属部材を挟んだ状態で、第1押圧部18および第2押圧部20によって金属部材に容易に圧痕を形成することができる。したがって、本実施形態に係る押圧装置10を用いることによって、種々の構造物において、溶接継手の応力集中部の近傍に圧縮応力を容易に付与することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る押圧装置10では、
図1(b)に示したように、第2方向Bから見て、隙間22は、第3方向Cにおける一方側において第1方向Aにおける距離が漸次大きくなるように設けられている。この場合、隙間22において、第1方向Aにおける距離が大きくなった部分に溶接部を位置付けることによって、金属部材に圧痕を形成する際に、溶接部と押圧装置10とが接触することを防止できる。これにより、金属部材に圧痕をより円滑に形成することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る押圧装置10では、平坦面18dの直径は、ねじ部18aの直径(呼び径)よりも小さい。この場合、平坦面18dによって金属部材を押圧する際に、ねじ部18aに過大な応力が発生することを防止することができるので、ねじ部18aの破損を防止できる。特に、上述したように、平坦面18dの面積をねじ部18aの断面積の2/5以下(より好ましくは、1/3以下)に設定することによって、小さい締め付け荷重で、突出部18bによって金属部材を適切に押圧することができる。
【0058】
なお、上述の実施形態では、
図2の鋼床版30の切欠き部36aに押圧装置10を配置して溶接止端部の疲労強度を改善する場合について説明したが、切欠き部36bまたは切欠き部36cに押圧装置10を配置して溶接止端部の疲労強度を改善してもよい。
【0059】
また、例えば、
図5~
図8に示すような構造物において、押圧装置10を用いて溶接止端部の疲労強度を改善してもよい。
図5に示す構造物50は、主桁ウェブ51、下横構ガセット52、主桁下フランジ53および垂直補剛材54を備えている。下横構ガセット52、主桁下フランジ53および垂直補剛材54は、溶接部55a,55b,55cによって主桁ウェブ51に接合されている。下横構ガセット52には、垂直補剛材54および溶接部55cを通すための切欠き部(スカラップ)56が形成されている。構造物50において押圧装置10を利用する場合には、例えば、切欠き部56内に押圧装置10を配置して、溶接部55aの下横構ガセット52側の溶接止端部の近傍において下横構ガセット52の両面に圧痕46aを形成することができる。これにより、下横構ガセット52において溶接部55aの切欠き部56側の回し溶接部の溶接止端部の疲労強度を改善することができる。なお、下横構ガセット52の外側から押圧装置10を配置して、溶接部55aの切欠き部56とは反対側の回し溶接部の溶接止端部の近傍に圧痕46bを形成してもよい。
【0060】
図6に示す構造物60は、デッキプレート61、横リブ62およびバルブリブ63を備えている。デッキプレート61および横リブ62は、複数の溶接部64によってデッキプレート61に接合されている。横リブ62には、バルブリブ63の下端部を通すための切欠き部(スカラップ)62aが形成されている。横リブ62とバルブリブ63とを接合する溶接部64の一部(回し溶接部)は、切欠き部62a内を通るように設けられている。構造物60において押圧装置10を利用する場合には、例えば、切欠き部62a内に押圧装置10を配置して、溶接部64の回し溶接部の横リブ62側の溶接止端部の近傍において横リブ62の両面に圧痕46を形成することができる。これにより、溶接部64の回し溶接部の横リブ62側の溶接止端部の疲労強度を改善することができる。
【0061】
図7に示す構造物65は、デッキプレート66、横リブ67およびバルブリブ68を備えている。デッキプレート66および横リブ67は、溶接部69a,69bによってデッキプレート66に接合されている。横リブ67には、バルブリブ68および一対の溶接部69aを通すための切欠き部(スカラップ)67aが形成されている。デッキプレート66と横リブ67とを接合する溶接部69bの一部(回し溶接部)は、切欠き部67a内を通るように設けられている。構造物65において押圧装置10を利用する場合には、例えば、切欠き部67a内に押圧装置10を配置して、溶接部69bの回し溶接部の横リブ67側の溶接止端部の近傍において横リブ67の両面に圧痕46を形成することができる。これにより、溶接部69bの回し溶接部の横リブ67側の溶接止端部の疲労強度を改善することができる。
【0062】
図8に示す構造物70は、第1型材71および第2型材72を有する。なお、
図8において(a)は、構造物70の正面図であり、(b)は、構造物70の側面図(第2型材72側から見た図)である。第1型材71および第2型材72はそれぞれ、例えば、I型またはH型の部材である。本実施形態では、第1型材71は、フランジ部71aと、ウェブ部71bとを備えている。同様に、第2型材72は、フランジ部72aと、ウェブ部72bとを備えている。フランジ部72aの厚みは、フランジ部71aよりも大きい。
【0063】
ウェブ部71bは、溶接部71cによってフランジ部71aに接合されている。ウェブ部72bは、溶接部72cによってフランジ部72aに接合されている。フランジ部71aとフランジ部72aとは、溶接部74aによって接合されている。ウェブ部71bとウェブ部72bとは、溶接部74bによって接合されている。ウェブ部71bおよびウェブ部72bを厚み方向に貫通するように、切欠き部(ラットホール)75が形成されている。
【0064】
構造物70において、第1型材71と第2型材72とを互いに離隔させる方向に力が作用すると、溶接部74bのウェブ部71b側の溶接止端部76aおよび溶接部74bのウェブ部72b側の溶接止端部76bにき裂が発生する場合がある。そこで、
図9に示すように、切欠き部75内に押圧装置10を配置して、溶接止端部76aの近傍においてウェブ部71bの両面に圧痕46を形成することが考えられる。同様に、溶接止端部76bの近傍においてウェブ部72bの両面に圧痕46を形成することが考えられる。これにより、溶接止端部76aの近傍および溶接止端部76bの近傍の疲労強度を改善することができる。
【0065】
上述の実施形態では、
図1に示したように、第1押圧部18の突出部18bの先端に平坦面18dが形成されている場合について説明したが、第1押圧部18の突出部18bの先端に、ねじ部18aの軸心を中心として回転対称であり、かつ第2支持部14側に向かって凸となるように湾曲する形状の曲面が形成されていてもよい。例えば、
図10(a)に示すように、突出部18bの先端面18eが、ねじ部18aの軸心上に頂点が位置するように形成された球冠形状を有していてもよい。また、例えば、
図10(b)に示すように、突出部18bの平坦面18dの中央部に、球冠状の突起18fが設けられていてもよい。なお、第1方向Aから見た先端面18eの面積は、例えば、ねじ部18aの断面積(第1方向Aに直交する断面の面積)の2/5以下に設定されることが好ましく、1/3以下に設定されることがより好ましい。先端面18eの第1方向Aにおける高さは、例えば、第1方向Aから見た先端面18eの直径の1/100以下に設定される。突起18fの第1方向Aにおける高さは、例えば、平坦面18dの直径の1/50~1/10程度に設定される。第1押圧部18の先端が上記のような形状を有していることによって、第1押圧部18(ねじ部18a)をねじ込んで突出部18bを金属部材に押し込む際に、片当たりが生じることを防止することができる。すなわち、第1押圧部18(ねじ部18a)をねじ込む際に支点がずれて、第1押圧部18が、先端面18eの外縁または平坦面18dの外縁を回転中心として回転することを防止することができる。これにより、金属部材に円滑に圧痕を形成することができる。なお、
図10に示した突出部18bによって形成された圧痕は、中央部が凹んだ形状となる。図示は省略するが、
図10(b)に示した先端面18eの代わりに、円錐状の先端面を設けてもよい。この場合も、先端面の第1方向Aにおける高さは、例えば、第1方向Aから見た先端面の直径の1/100以下に設定される。
【0066】
上述の実施形態では、第2押圧部20は、第1方向Aに移動可能に第2支持部14に設けられているが、第2押圧部が第2支持部14に固定されていてもよい。例えば、第2押圧部として、第1押圧部18の突出部18bに対向するように第2支持部14から第1支持部12側に突出する突出部を、第2支持部14に一体形成してもよい。
【0067】
(第2実施形態)
(押圧装置の構成)
図11は、本発明の第2実施形態に係る押圧装置を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は底面図である。なお、
図11の各図には、互いに直交するA方向、B方向およびC方向を示す矢印を付している。本実施形態では、A方向が第1方向に対応し、B方向が第2方向に対応し、C方向が第3方向に対応する。以下、A方向を第1方向Aと記載し、B方向を第2方向Bと記載し、C方向を第3方向Cと記載する。
【0068】
上述の押圧装置10と同様に、本実施形態に係る押圧装置は、互いに溶接された複数の板状の金属部材を有する溶接継手において、金属部材を押圧するための装置である。
【0069】
図11に示すように、押圧装置80は、第1支持部82と、第2支持部84と、連結部86と、第1押圧部18と、第2押圧部20とを備えている。なお、第1押圧部18および第2押圧部20は、上述の第1実施形態における第1押圧部18および第2押圧部20と同様に構成することができるので、詳細な説明は省略する。本実施形態では、第1支持部82、第2支持部84および連結部86は一体形成されている。第1支持部82、第2支持部84および連結部86は、例えば、引張強さが950MPa以上の鋼材からなる。
【0070】
第1支持部82と第2支持部84とは、互いの間に隙間88が形成されるように、第1方向Aにおいて対向している。連結部86は、第1支持部82と第2支持部84との間において第1方向Aに延びるように設けられている。本実施形態では、第1支持部82および第2支持部84は、連結部86よりも第2方向Bにおける一方側および第3方向Cにおける一方側に延びるように設けられている。
【0071】
第1支持部82には、第1方向Aに貫通するねじ穴82aが形成されている。同様に、第2支持部84には、第1方向Aに貫通するねじ穴84aが形成されている。ねじ穴84aは、第1方向Aにおいてねじ穴82aに対向するように設けられている。
【0072】
第1押圧部18は、隙間88において第1支持部82から第2支持部84側に突出するように、第1支持部82に設けられている。第2押圧部20は、第1方向Aにおいて第1押圧部18に対向するようにかつ隙間88において第2支持部84から第1支持部82側に突出するように、第2支持部84に設けられている。
【0073】
本実施形態では、第1押圧部18は、ねじ穴82aに挿入されている。また、第2押圧部20は、ねじ穴84aに挿入されている。本実施形態では、ねじ穴82aが第1ねじ穴に対応し、ねじ穴84aが第2ねじ穴に対応する。
【0074】
連結部86のうち隙間88に面する部分は、第2方向Bに延びる第1面86aと、第3方向Cに延びる第2面86bと、第1面86aおよび第2面86bを接続する第3面86cとを有する。本実施形態では、第1方向Aから見て、隙間88は、第3方向Cにおける第1面86aの一方側および第2方向Bにおける第2面86bの一方側を通るようにL字状に形成されている。第2面86bは、第1面86aよりも第2方向Bにおける一方側でかつ第3方向Cにおける他方側に設けられている。第3面86cは、第1面86aの第2方向Bにおける一方側の縁から第2面86bの第3方向Cにおける一方側の縁に向かって、第2方向Bおよび第3方向Cに対して傾斜して延びている。第1押圧部18(突出部18b)および第2押圧部20(突出部20b)は、第3方向Cにおける第1面86aの一方側において隙間88に突出する。
【0075】
(疲労強度改善方法)
本実施形態に係る押圧装置80は、面内ガセット溶接継手の疲労強度を改善する際に好適に利用できる。
図12は、本実施形態に係る押圧装置80を用いて疲労強度改善方法を説明するための図である。なお、
図12には、面内ガセット溶接継手90が示されている。面内ガセット溶接継手90は、主板部91およびガセット部92を有している。本実施形態では、主板部91およびガセット部92が板状の金属部材の例である。ガセット部92は、主板部91の縁に沿って延びる溶接部93によって主板部91に接合されている。
【0076】
上述したように、本実施形態に係る押圧装置80においては、第1支持部82と第2支持部84との間には、L字状の隙間88が形成されている。これにより、
図12(a)に示すように、主板部91とガセット部92との接合部に、押圧装置80を容易に嵌め込むことができる。この状態で、第1押圧部18(突出部18b)および第2押圧部20(突出部20b)によって主板部91を押圧することによって、
図12(b)に示すように、主板部91の両面に容易に圧痕46を形成することができる。
【0077】
なお、
図11に示したように、本実施形態では、第1押圧部18(突出部18b)および第2押圧部20(突出部20b)は、第3方向Cにおける第1面86aの一方側において隙間88に突出するように設けられている。したがって、第1面86aが主板部91に対向し、第2面86bがガセット部92に対向するように、押圧装置80を面内ガセット溶接継手90に取り付けることによって、溶接部93の主板部91側の溶接止端部93aの近傍に圧痕46を形成することができる。これにより、主板部91において溶接止端部93aの疲労強度を改善することができる。一方、図示は省略するが、第1面86aがガセット部92に対向し、第2面86bが主板部91に対向するように、押圧装置80を面内ガセット溶接継手90に取り付けることによって、溶接部93のガセット部92側の溶接止端部93bの近傍に圧痕を形成することができる。これにより、ガセット部92において溶接止端部93bの疲労強度を改善することもできる。
【0078】
なお、本実施形態に係る押圧装置80では、第1面86aと第2面86bとの間に、第1面86aおよび第2面86bに対して傾斜する第3面86cが設けられている。これにより、面内ガセット溶接継手90に押圧装置80を取り付けた際に、押圧装置80と溶接部93とが接触することを防止することができる。ただし、本発明は当該実施形態に限定されない。第1方向Aから見て、第1面86aは第2方向Bに対して傾斜していても良く、曲線でもよい。また、第1方向Aから見て、第2面86bは第3方向Cに対して傾斜していても良く、曲線でもよい。さらに、第3面86cが設けられず、第1面86aと第2面86bとが直接繋がっていてもよい。
【0079】
なお、詳細な説明は省略するが、第1実施形態に係る押圧装置10を用いて、面内ガセット溶接継手90に圧痕46を形成してもよい。
【0080】
(第3実施形態)
(押圧装置の構成)
図13は、本発明の第3実施形態に係る押圧装置を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は底面図である。なお、
図13の各図には、互いに直交するA方向、B方向およびC方向を示す矢印を付している。本実施形態では、A方向が第1方向に対応し、B方向が第2方向に対応し、C方向が第3方向に対応する。以下、A方向を第1方向Aと記載し、B方向を第2方向Bと記載し、C方向を第3方向Cと記載する。
【0081】
上述の押圧装置10,80と同様に、本実施形態に係る押圧装置は、互いに溶接された複数の板状の金属部材を有する溶接継手において、金属部材を押圧するための装置である。
【0082】
図13に示すように、押圧装置100は、第1支持部102と、第2支持部104と、連結部106と、第1押圧部108と、第2押圧部110とを備えている。第1支持部102と第2支持部104とは、互いの間に隙間112が形成されるように、第1方向Aにおいて対向している。本実施形態では、第1支持部102、第2支持部104および連結部106は別個の部材である。
【0083】
連結部106は、第1方向Aに延びるように設けられている。本実施形態では、連結部106は、第1ボルト114、ナット116および曲面状の先端部118aを有する第2ボルト118を含む。先端部118aは、第2ボルト118の軸心を中心として回転対称であり、かつ第2支持部104側に向かって凸となるように湾曲する形状(本実施形態では、球冠形状)を有している。
【0084】
第1支持部102には、第1方向Aに貫通する第1貫通孔102aと、第1方向Aに貫通するねじ穴102b,102cとが形成されている。第2支持部104には、第1方向Aにおいて第1貫通孔102aに対向しかつ第1方向Aに貫通する第2貫通孔104aと、第1方向Aにおいてねじ穴102bに対向しかつ第1方向Aにおいて第1支持部102とは反対側に凹む曲面状(本実施形態では、球冠状)の凹部104bと、第1方向Aにおいてねじ穴102cに対向しかつ第1方向Aに貫通するねじ穴104cとが形成されている。
図13(b)に示すように、第1貫通孔102aの第3方向Cの長さは、第2方向Bの長さよりも大きい。同様に、第2貫通孔104a(
図13(a)参照)の第3方向Cの長さは、第2方向Bの長さよりも大きい。
【0085】
本実施形態では、
図13(a)に示すように、第2方向Bから見て、第1方向Aにおける第1支持部102の外側の表面は、第1方向Aにおいて外側に向かって弧状に湾曲する湾曲面103a,103bを含む。第2方向Bから見て、第1方向Aにおける第2支持部104の外側の表面は、第1方向Aにおいて外側に向かって弧状に湾曲する湾曲面103cを含む。第1貫通孔102aは、湾曲面103aにおいて開口し、ねじ穴102bは、湾曲面103bにおいて開口し、第2貫通孔104aは湾曲面103cにおいて開口している。
【0086】
第1ボルト114は、第1方向Aにおいて第1貫通孔102aおよび第2貫通孔104aに挿入されている。第1ボルト114の頭部114aとナット116とによって第1支持部102および第2支持部104が挟まれるように第1ボルト114の先端部にナット116が取り付けられている。第2ボルト118は、先端部118aが凹部104bに嵌るように第1方向Aにおいて第1支持部102の外側からねじ穴102bにねじ込まれている。
【0087】
第1押圧部108は、外周面にねじ溝を有し、第1方向Aに移動可能にねじ穴102cにねじ込まれている。同様に、第2押圧部110は、外周面にねじ溝を有し、第1方向Aに移動可能に第2貫通孔104aにねじ込まれている。
【0088】
本実施形態では、第1支持部102は、第1薄板部200と、第1方向Aにおいて第1薄板部200よりも第2支持部104側に突出する第1厚板部202とを有している。同様に、第2支持部104は、第2薄板部400と、第1方向Aにおいて第2薄板部400よりも第1支持部102側に突出する第2厚板部402とを有している。
【0089】
隙間112は、第1薄板部200と第2薄板部400との間の挿入用隙間112aと、第1厚板部202と第2厚板部402との間の調整用隙間112bとを含む。第1厚板部202は、挿入用隙間112aに面する第1支持面202aを有している。同様に、第2厚板部402は、挿入用隙間112aに面するように第1方向Aから見て第1支持面202aと同じ位置に設けられる第2支持面402aを有している。
【0090】
図13(a)に示すように、第1支持面202aは、
図11(a)に示した第1面86a、第2面86bおよび第3面86cと同様の第1面206a、第2面206bおよび第3面206cを有している。詳細な説明は省略するが、第2支持面402aも同様に、
図11(a)に示した第1面、第2面および第3面と同様の第1面、第2面および第3面を有している。したがって、挿入用隙間112aは、
図11に示した隙間88と同様に、第1方向Aから見てL字状に形成されている。
【0091】
第1押圧部108および第2押圧部110は、第3方向Cにおける第1面206aの一方側において挿入用隙間112aに突出し、第1ボルト114および第2ボルト118は、調整用隙間112bを第1方向Aに通るように設けられている。第1押圧部108(第2押圧部110)、第1ボルト114および第2ボルト118は、この順で第3方向Cに並ぶように設けられている。
【0092】
(疲労強度改善方法)
本実施形態に係る押圧装置100は、上述の押圧装置80と同様に、面内ガセット溶接継手の疲労強度を改善する際に好適に利用できる。具体的には、
図14に示すように、主板部91とガセット部92との接合部を、押圧装置100の挿入用隙間112aに嵌め込んだ状態で、第1ボルト114を締めこむ。これにより、第1ボルト114は引張の反力を受け、第2ボルト118は圧縮の力を受ける。その結果、第1押圧部108および第2押圧部110(
図13参照)の主板部91への押し込み量を調整できる。これにより、
図12(b)に示したように、主板部91に圧痕46を形成することができる。また、押圧装置80と同様に、面内ガセット溶接継手90に対する押圧装置100の向きを変えることによって、ガセット部92に圧痕46を形成することもできる。
【0093】
なお、本実施形態に係る押圧装置100では、第1ボルト114の頭部114aは、座金を介して湾曲面103a上に設けられ、ナット116は、座金を介して湾曲面103c上に設けられている。これにより、金属部材に圧痕を形成する際に、第1支持部102に対して第2支持部104が傾いたとしても、第1ボルト114に曲げ負荷がかかることを抑制することができる。第2ボルト118についても同様である。
【0094】
また、本実施形態に係る押圧装置100では、第1ボルト114が挿入される第1貫通孔102aおよび第2貫通孔104aは、第2方向Bの長さよりも第3方向Cの長さが大きくなるように形成されている。これにより、金属部材に圧痕を形成する際に、第1支持部102に対して第2支持部104が傾いたとしても、第1ボルト114が第3方向Cに傾くことができるので、第1ボルト114に曲げ負荷がかかることを抑制することができる。
【0095】
また、本実施形態に係る押圧装置100では、第2ボルト118の曲面状の先端部118aは、曲面状の凹部104bに支持されている。これにより、金属部材に圧痕を形成する際に、第1支持部102に対して第2支持部104が傾いたとしても、第2ボルト118に曲げ負荷がかかることを抑制することができる。
【0096】
(第4実施形態)
(押圧装置の構成)
図15は、本発明の第4実施形態に係る押圧装置を説明するための概略図であり、(a)は押圧装置の平面図であり、(b)は押圧装置の支持部材の正面図、(c)は支持部材の左側面図であり、(d)は支持部材の右側面図である。なお、
図15の各図には、互いに直交するA方向、B方向およびC方向を示す矢印を付している。本実施形態では、A方向が第1方向に対応し、B方向が第2方向に対応し、C方向が第3方向に対応する。以下、A方向を第1方向Aと記載し、B方向を第2方向Bと記載し、C方向を第3方向Cと記載する。
【0097】
図15(a)に示すように、押圧装置150は、支持部材160と、第1押圧部18と、第2押圧部20とを備えている。なお、第1押圧部18および第2押圧部20は、上述の第1実施形態における第1押圧部18および第2押圧部20と同様に構成することができるので、詳細な説明は省略する。
【0098】
支持部材160は、第1支持部162、第2支持部164、および第1支持部162と第2支持部164とを連結する連結部166を含む。第1支持部162と第2支持部164とは、互いの間に隙間168が形成されるように、第1方向Aにおいて対向している。なお、本明細書において、第1支持部と第2支持部とが第1方向において対向しているとは、第1支持部と第2支持部とが完全に平行に設けられる場合に限定されず、第1支持部を通って第1方向Aに延びる仮想直線上に第2支持部が存在していることを意味する。
【0099】
本実施形態では、第1支持部162、連結部166および第2支持部164は、弧状に一体形成されている。なお、本実施形態では、支持部材160は、半トーラス形状の部材の両端部の外側部分を切除した形状を有しており、連結部166は、断面円形状を有している。ただし、連結部166の断面形状は円形状に限定されず、多角形状であってもよい。第1支持部162および第2支持部164の断面形状も特に限定されない。支持部材160は、例えば、引張強さが950MPa以上の鋼材からなる。
【0100】
本実施形態では、第1支持部162および第2支持部164は、連結部166よりも第2方向Bにおける一方側に設けられている。また、連結部166は、第3方向Cから見て、第2方向Bにおける他方側に向かって凸となるように弧状に湾曲している。
【0101】
第1支持部162には、第1方向Aに貫通するねじ穴162aが形成されている。同様に、第2支持部164には、第1方向Aに貫通するねじ穴164aが形成されている。ねじ穴164aは、第1方向Aにおいてねじ穴162aに対向するように設けられている。
【0102】
第1押圧部18は、隙間168において第1支持部162から第2支持部164側に突出するように、第1支持部162に設けられている。第2押圧部20は、第1方向Aにおいて第1押圧部18に対向するようにかつ隙間168において第2支持部164から第1支持部162側に突出するように、第2支持部164に設けられている。
【0103】
本実施形態では、第1押圧部18は、ねじ穴162aに挿入されている。また、第2押圧部20は、ねじ穴164aに挿入されている。本実施形態では、ねじ穴162aが第1ねじ穴に対応し、ねじ穴164aが第2ねじ穴に対応する。
【0104】
(疲労強度改善方法)
本実施形態に係る押圧装置150は、上述の第1実施形態に係る押圧装置10と同様に、互いに溶接された複数の板状の金属部材を有する溶接継手において、応力集中部の近傍に圧縮応力を付与して疲労強度を改善するために利用できる。
図16~
図18は、本実施形態に係る押圧装置150を用いた疲労強度改善方法の一例を説明するための図である。
【0105】
図16は、疲労強度の改善対象となる溶接継手を示す概略斜視図である。
図16に示す溶接継手170は、互いに溶接された複数の板状の金属部材171,172,173を有している。金属部材171,172,173の交差部に、スカラップ174が形成されている。金属部材171,172,173は、複数の溶接部175~178によって互いに接合されている。金属部材171と金属部材172とを接合する溶接部175の回し溶接部175aおよび金属部材172と金属部材173とを接合する溶接部176の回し溶接部176aは、スカラップ174を通るように形成されている。また、金属部材171と金属部材173を接合する溶接部177もスカラップ174を通るように形成されている。以下においては、押圧装置150を用いて、回し溶接部175aの金属部材172側の溶接止端部175bの近傍の部分(一点鎖線の円179a,179bで示す部分:以下、押圧対象部179a,179bと記載する。)を押圧する場合について説明する。
【0106】
本実施形態では、
図17に示すように、まず、第1押圧部18および第2押圧部20を取り外した状態の支持部材160を、スカラップ174に差し込む。上述したように、本実施形態では、支持部材160は、弧状に湾曲した形状を有している。このため、支持部材160を、溶接止端部175b周りに回転させながらスカラップ174に差し込むことによって、押圧対象部179a,179bを第1支持部162と第2支持部164との間に容易に位置付けることができる。また、上記のように支持部材160を回転させながらスカラップ174に挿入することができるので、スカラップ174の寸法が小さい場合でも、支持部材160を円滑に挿入することができる。
【0107】
なお、本実施形態では、支持部材160は、例えば、半径が20mmの四分円に相当する大きさのスカラップ内に挿入できる大きさに形成される。本実施形態では、支持部材160の断面形状は、例えば、直径が15mmの円と同等の大きさに設定される。
【0108】
次に、
図18に示すように、第1支持部162に第1押圧部18を取り付け、第2支持部164に第2押圧部20を取り付ける。そして、第1押圧部18を第2押圧部20側へ移動させて、突出部18bと突出部20bとで金属部材172(より具体的には、押圧対象部179a,179b:
図17参照)を押圧する。これにより、溶接止端部175bの近傍の部分に圧縮の負荷が作用し、金属部材172の両面に塑性変形による圧痕(図示せず)を形成することができる。その結果、溶接時に溶接止端部175bの近傍に生じた引張残留応力を低減、または溶接止端部175bの近傍に圧縮残留応力を生じさせることができる。これにより、溶接継手170の疲労強度を改善することができる。なお、詳細な説明は省略するが、本実施形態に係る押圧装置150は、上述の第1~第3実施形態に係る押圧装置と同様に、種々の溶接継手の疲労強度を改善するために利用することができる。
【0109】
(変形例)
図19は、変形例に係る押圧装置を示す図である。なお、
図19には、互いに直交するA方向およびB方向を示す矢印を付している。本実施形態では、A方向が第1方向に対応し、B方向が第2方向に対応する。また、A方向とB方向とに直交する方向が第3方向に対応する。以下、A方向を第1方向Aと記載し、B方向を第2方向Bと記載する。また、以下において、平面視においてと記載した場合、第1方向Aと第2方向Bとに直交する方向(第3方向)から見ていることを意味する。
【0110】
図19に示すように、本実施形態に係る押圧装置180は、支持部材190と、第1押圧部18と、第2押圧部20とを備えている。なお、第1押圧部18および第2押圧部20は、上述の第1実施形態における第1押圧部18および第2押圧部20と同様に構成することができるので、詳細な説明は省略する。
【0111】
支持部材190は、第1支持部192、第2支持部194、および第1支持部192と第2支持部194とを連結する連結部196を含む。第1支持部192と第2支持部194とは、互いの間に隙間198が形成されるように、第1方向Aにおいて対向している。第1支持部192、連結部196および第2支持部194は、弧状に一体形成されている。本実施形態においても、上述の支持部材160の連結部166と同様に、連結部196は、断面円形状を有している。ただし、連結部196の断面形状は円形状に限定されず、多角形状であってもよい。第1支持部192および第2支持部194の断面形状も特に限定されない。支持部材190は、例えば、引張強さが950MPa以上の鋼材からなる。
【0112】
第1支持部192および第2支持部194は、連結部196よりも第2方向Bにおける一方側に設けられている。また、連結部196は、平面視において、第2方向Bにおける他方側に向かって凸となるように弧状に湾曲している。
【0113】
本実施形態に係る押圧装置180は、トーラスの一部を成す連結部196の一端に円柱の一部が切り欠かれた形状の第1支持部192が繋げられた形状を有する。本実施形態では、第1支持部192によって直線部192cが形成される。すなわち、平面視において、第1支持部192の内縁192aは、第2方向Bにおける一方側ほど第1方向Aにおいて第2支持部194から離れるように、第2方向Bにおける一方側の先端192bに向かって直線状に延びる直線部192cを含む。なお、本明細書において、平面視における第1支持部の内縁とは、隙間198側の縁を意味する。平面視における第2支持部194の内縁および連結部196の内縁についても同様である。本実施形態では、第2支持部194の内縁194aは、第1方向Aにおいて、第1支持部192とは反対側に向かって凸となるように弧状に湾曲している。また、連結部196の内縁196aは、第2方向Bにおいて他方側に向かって凸となるように弧状に湾曲している。
【0114】
詳細な説明は省略するが、上述の第1支持部162と同様に、第1支持部192には、第1押圧部18を取り付けるために、第1方向Aに貫通するねじ穴が形成されている。また、上述の第2支持部164と同様に、第2支持部194には、第2押圧部20を取り付けるために、第1方向Aに貫通するねじ穴が形成されている。第1押圧部18は、隙間198において第1支持部192から第2支持部194側に突出するように、第1支持部192に設けられている。第2押圧部20は、第1方向Aにおいて第1押圧部18に対向するようにかつ隙間198において第2支持部194から第1支持部192側に突出するように、第2支持部194に設けられている。
【0115】
本実施形態では、直線状に形成された直線部192cが第1支持部192の端部に設けられることによって、押圧装置180をスカラップ174(
図17参照)内に容易に配置することができる。具体的には、直線部192c(第1支持部192)をスカラップ174に挿入した後、押圧装置180を回転させることによって、連結部196をスカラップ174の内側に位置付けることができる。これにより、押圧装置180を所定の位置に付けることができる。
【0116】
図20は、本実施形態に係る押圧装置を用いた疲労強度改善方法を説明するための図であり、(a)は、上述の押圧装置150を用いて溶接継手170の疲労強度を改善する場合の押圧装置150と溶接継手170との関係を示し、(b)は、押圧装置180を用いて溶接継手170の疲労強度を改善する場合の押圧装置180と溶接継手170との関係を示している。
【0117】
詳細な説明は省略するが、
図20に示すように、本実施形態に係る押圧装置180を用いる場合も、上述の押圧装置150と同様の方法により、溶接継手の疲労強度を改善することができる。さらに、本実施形態では、第1支持部192の内縁192aには、第2方向Bにおける一方側ほど第1方向Aにおいて第2支持部194から離れるように、内縁192aの先端192bに向かって直線状に延びる直線部192cが設けられている。このような形状により、支持部材190の第2方向Bにおける長さを長くしても、支持部材190を第1支持部192側からスカラップ174(
図17参照)に差し込むことによって、支持部材190をスカラップ174内に適切に配置することが可能になる。これにより、
図20に示すように、押圧装置180を用いる場合には、押圧装置150を用いる場合に比べて、溶接止端部175bからさらに離れた位置を、突出部18b(
図19参照)および突出部20bによって押圧することが可能になる。例えば、溶接止端部175bに既に疲労き裂が発生している場合などに、押圧装置180によって、溶接止端部175bから離れた位置を押圧することによって、き裂を閉口させることができる。また、隅肉溶接で回し溶接されている場合の溶接ルート部の残留応力の緩和および作用応力の低減が可能になる。
【0118】
(構造部材の他の例)
上述の実施形態では、押圧装置によって、溶接継手の金属部材を押圧して圧痕を形成する場合について説明したが、押圧装置によって押圧される構造部材は溶接継手に限定されない。
図21は、構造部材の他の例を示す図である。
【0119】
図21に示す構造部材300は、一枚の板状の金属部材からなる。構造部材300は、長方形状の本体部302と、本体部302の長さ方向における中央部において幅方向に突出する一対の突出部304とを備えている。このような形状の構造部材300において、本体部302に対して長さ方向に引張荷重が付与されると、本体部302と突出部304との間の隅部306a~306dに応力集中が発生する。そこで、例えば、
図21に示すように、上述の押圧装置を用いて、隅部306a~306dの近傍において本体部302の両面に圧痕46を形成する。これにより、隅部306a~306dの近傍に圧縮応力を付与することができ、構造部材300の疲労強度を改善することができる、または疲労強度が改善された構造部材300を製造することができる。なお、
図21に破線で示すように、隅部306a~306dの近傍において突出部304の両面に圧痕を形成してもよい。なお、
図21に示す構造部材300の形状は単なる一例であり、本発明は、応力集中部を有する種々の形状の構造部材の疲労強度を改善するために利用することができる。
【0120】
また、上述の各実施形態に係る押圧装置によって、
図22(a)に示すT字継手および
図22(b)に示す面外ガセット継手の溶接止端部近傍の疲労強度を改善することもできる。なお、
図22(a),(b)には、疲労き裂の発生箇所となり得る場所が破線の円で示されるとともに、疲労き裂の発生を抑制するために押圧装置によって形成された圧痕46が示されている。また、
図22(a),(b)には、継手に作用する力の方向が矢印で示されている。
【0121】
また、上述の各実施形態に係る押圧装置の面外ガセット継手への具体的な適用例として、
図23に示すように、照明ポールの補強材への適用が考えられる。
図23の例では、補強材と土台とを接合する溶接部の補強材側の溶接止端部の近傍に、押圧装置によって圧痕46が形成されている。従来、照明ポールと補強材とを接合する溶接部の上端側の溶接止端部の近傍に対して、疲労強度改善のための対策が施されていたが、本発明に係る押圧装置によって、補強材と土台とを接合する溶接部の補強材側の溶接止端部の近傍についても対策を施すことによって、照明ポールの土台部の疲労寿命をさらに改善することができる。
【実施例0122】
以下に説明する試験1、試験2および試験3を行い、本発明の効果を確認した。
【0123】
(試験1)
実施例1および比較例1のスカラップを有する溶接構造試験体を作製し、疲労試験を行った。
図24は、実施例1の溶接構造試験体を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)は側面図であり、(c)は(a)において一点鎖線で囲んだ部分を示す拡大図である。なお、
図24には溶接構造試験体500の各部の寸法を示す数値が記載されているが、その単位は「mm」である。
【0124】
図24に示すように、溶接構造試験体500は、板状の4つの金属部材502,504,506,508を備えている。金属部材502,504,506,508としては、490MPa級の溶接構造用圧延鋼材(SM490B JIS G3106:2020)を用いた。溶接構造試験体500を上方から見た場合に、金属部材504の厚み方向と金属部材506,508の厚み方向とは直交している。
【0125】
金属部材504は、溶接部510,512によって金属部材502の上面に接合されている。金属部材504の下部の中央部には、スカラップ504aが形成されている。金属部材506は、スカラップ504aを通るように設けられている。金属部材506は、溶接部514,516によって金属部材502の上面に接合されている。金属部材508は、溶接部518,520によって金属部材502の下面に接合されている。
【0126】
図24(c)に示すように、溶接部510の金属部材504側の溶接止端部510aの近傍において、金属部材504の両面に、
図1に示した押圧装置10を用いて、深さ0.25mm程度の圧痕46を形成した。溶接部512の金属部材504側の溶接止端部512aの近傍にも同様に圧痕46を形成した。
【0127】
なお、溶接部510,512は、溶接ルート部からの破壊を避けるために完全溶け込み溶接とした。また、疲労試験において、溶接部510の金属部材504側の溶接止端部510aおよび溶接部512の金属部材504側の溶接止端部512a以外の部分からき裂が発生することを避けるために、溶接止端部510a,512a以外の溶接止端部には、超音波衝撃処理(UIT)を施した。比較例1の溶接構造試験体は、圧痕46を形成しなかった点を除いて、実施例1の溶接構造試験体500と同様の構成とした。
【0128】
上記の構成を有する実施例1の溶接構造試験体500を3体作製し、上下方向の繰り返し引張荷重を付加する疲労試験(試験No.1~3)を行った。また、比較例1の溶接構造試験体を4体作製し、同様の疲労試験(試験No.4~7)を行った。この疲労試験では、橋梁等の死荷重が一定の構造体を想定して、最低荷重を3.5kNに固定した。最大荷重は、試験No.1,2および試験No.4,5については50kN、試験No.3および試験No.6,7については35kNとした。下記の表1に試験条件を示し、
図25に試験結果を示す。
【0129】
【0130】
なお、
図25に示す繰り返し数は、溶接止端部510aまたは溶接止端部512aからき裂が発生し、そのき裂長さが金属部材504の表面または溶接部510,512において10mmに達したときの荷重の繰り返し数である。
【0131】
最大荷重を50kNに設定した試験No.1,2の溶接構造試験体の疲労試験では、評価部(溶接止端部510a,512a)ではない溶接ルート部からき裂が発生したため、当該き裂が発生した時点で試験を停止した。その時点で評価しても、同じ荷重条件の試験No.4,5の溶接構造試験体に比べると、疲労寿命が15倍以上改善していた。また、最大荷重を35kNに設定した試験No.3の溶接構造試験体の疲労試験では、き裂発生の兆候が見られなかったために試験を途中で打ち切った。
【0132】
以上の試験結果から、本発明に係る押圧装置によって応力集中部となる溶接部の溶接止端部近傍を押圧することによって、溶接ままの溶接構造試験体に比べて疲労強度を大幅に改善できることが分かった。
【0133】
(試験2)
試験2では、実施例2、比較例2および参考例の面内ガセット溶接継手を作製し、疲労試験を行った。
図26は、実施例2の面内ガセット溶接継手を示す図である。
図26に示すように、実施例2の面内ガセット溶接継手600は、板状の金属部材(主板)602、および金属部材602の両側面に接合された板状の金属部材(ガセット)604,606を備えている。なお、
図26には、金属部材602の一部が示されている。金属部材602,604,606としては、一般構造用圧延鋼材(SS400 JIS G3101:2020)を用いた。
図26には、面内ガセット溶接継手600の各部の寸法を示す数値が記載されているが、その単位は「mm」である。金属部材602の全長は、約1000mmである。後述する疲労試験の際には、金属部材602の両端の約150mmの部分を、油圧チャックによって掴んだ。金属部材604,606の寸法は互いに等しい。
【0134】
金属部材604は、溶接部608によって金属部材602の一の側面に接合され、金属部材606は、溶接部610によって金属部材602の他の側面に接合されている。溶接部608,610は、溶接ルート部からの破壊を避けるために、両面から完全溶け込み溶接とした。金属部材602の厚みは19mmであり、金属部材604,606の厚みは9mmである。
【0135】
溶接部608の金属部材602側の溶接止端部608a,608bの近傍においてそれぞれ、金属部材602の両面に、
図11に示した押圧装置80を用いて、直径10mm程度で深さ0.45mm程度の圧痕46を形成した。溶接部610の金属部材602側の溶接止端部610a,610bの近傍にも同様に圧痕46を形成した。
【0136】
比較例2の面内ガセット溶接継手は、圧痕46を形成しなかった点を除いて、実施例2の面内ガセット溶接継手600と同様の構成とした。参考例の面内ガセット溶接継手は、圧痕46を形成する代わりに、溶接止端部608a,608b,610a,610bに超音波衝撃処理(UIT)を施した点を除いて、実施例2の面内ガセット溶接継手600と同様の構成とした。
【0137】
実施例2、比較例2および参考例の面内ガセット溶接継手をそれぞれ複数本作製し、上下方向の引張応力を付与する疲労試験を行った。
図27に試験結果を示す。なお、
図27に示す繰り返し数は、溶接止端部608a,608b,610a,610bのいずれかからき裂が発生し、そのき裂長さが金属部材602の表面において10mmに達したときの応力の繰り返し数である。
【0138】
図27に示した結果から、本発明に係る押圧装置によって応力集中部となる溶接部の溶接止端部近傍(ガセット端部における溶接止端部の近傍)を押圧することによって、溶接ままの面内ガセット溶接継手に比べて疲労強度を大幅に改善できることが分かった。また、本発明に係る押圧装置によれば、超音波衝撃処理(UIT)と同等以上の疲労強度改善効果が得られることが分かった。
【0139】
(試験3)
試験3では、上述の比較例2と同様の構成の面内ガセット溶接継手に対して、疲労試験を行った。具体的には、応力範囲を155MPaとし、応力比を0.05として疲労試験を行い、溶接止端部608a,608b,610a,610b(
図26参照)に疲労き裂を発生させた。各溶接止端部608a,608b,610a,610bについて、発生した疲労き裂が所定の条件を満たしたとき(疲労き裂が金属部材602の厚み方向に貫通しかつ金属部材602の表面において2~3mm程度進展したとき)に、疲労試験を一旦停止し、
図11に示した押圧装置80を用いて、両面に直径10mmで深さ0.45mm程度の圧痕46を形成した。圧痕46を形成した後、疲労試験を再開した。なお、各溶接止端部608a,608b,610a,610bに発生した疲労き裂が上記の条件を満たすタイミングは同時ではなかったので、疲労試験の停止、圧痕46の形成(疲労強度改善処理)および疲労試験の再開を4回行った。4回目の疲労試験の再開後、繰り返し数が260万回に達するまで疲労試験を継続した。なお、圧痕46は、疲労き裂の一部が閉口するように形成した。圧痕46の形成位置は、
図26に示した位置と同様の位置である。
図28に試験結果を示す。なお、
図28において「□」は、各溶接止端部608a,608b,610a,610bに発生した疲労き裂が上記の条件を満たしたとき(疲労強度改善のための圧痕を形成したとき)の繰り返し数を示している。また、
図28において「〇」は、疲労強度改善処理後の各溶接止端部608a,608b,610a,610bに対する繰り返し数を示している。なお、
図28において、疲労強度改善処理後の4つの溶接止端部608a,608b,610a,610bに対する繰り返し数(260万回)は1か所にプロットされるため、1つの「〇」として示されている。言い換えると、
図28では、疲労強度改善処理後の4つの溶接止端部608a,608b,610a,610bに対する繰り返し数を示す4つの「〇」が重なって示されている。
【0140】
溶接止端部608a,608b,610a,610bのいずれに発生した疲労き裂も、今回の試験では疲労破壊しなかった。すなわち、各溶接止端部608a,608b,610a,610bに疲労き裂が発生しても、本発明に係る疲労強度改善方法を実施することによって、き裂発生時の繰り返し数の一桁以上多い繰り返し数でも、き裂が表面においてほとんど進展しないため、10mmまで到達せず、面内ガセット溶接継手の疲労破壊を防止することができた。この結果から、本発明に係る疲労強度改善方法によれば、溶接継手において応力集中部となる溶接止端部に疲労き裂が発生している場合でも、その疲労き裂がさらに進展して拡大することを十分に抑制できることが分かった。
本発明によれば、種々の構造物において、溶接継手の止端部に圧縮応力を容易に付与することができ、これにより溶接止端からの疲労き裂の発生を抑制できる。また、既に溶接止端にき裂が発生した後でもき裂の進展を抑制できる。