(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133044
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】医用画像品質評価装置、医用画像品質評価方法および医用画像品質評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240920BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B6/03 560Z
A61B6/50 511E
A61B6/03 560J
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041858
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023042858
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】増田 和正
(72)【発明者】
【氏名】高木 広幸
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA24
4C093CA35
4C093DA02
4C093DA10
4C093FF16
4C093FF17
4C093FF21
4C093FF35
4C093FF42
(57)【要約】
【課題】医用画像が解析に適した品質を有しているかどうかを客観的に評価するための技術を提供する。
【解決手段】医用画像品質評価装置700は、制御ユニット710を有する。制御ユニット710には、それぞれ注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物が予め設定されている。制御ユニット710は、評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから特定した複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤が注入された被検者から撮像された解剖学的構造物の画像を評価する制御ユニットを有する装置であって、
前記制御ユニットには、それぞれ注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物が設定されており、
前記制御ユニットは、
評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから特定した前記複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価するように構成されている装置。
【請求項2】
出力デバイスをさらに有し、
前記制御ユニットは、さらに前記画像品質の評価結果を前記出力デバイスに出力してユーザに提示するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御ユニットが行なう前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価することは、
前記一式の画像データから前記複数の特定解剖学的構造物を特定し、それらのCT値を測定することと、
測定したCT値を用い、予め定められた評価基準に従って画像品質を評価することと、
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記評価対象の解剖学的構造物は冠動脈であり、
前記特定解剖学的構造物は、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈である、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御ユニットは、
-前記上行大動脈のCT値が所定の値以上であること、および、
-前記左心室、前記上行大動脈および前記下行大動脈の各CT値が所定の範囲内であること、
の両方を満たしている場合に、前記冠動脈の画像は適切な造影品質であると評価することを含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記制御ユニットは、
-前記左心室または前記下行大動脈のCT値が、前記上行大動脈のCT値に対して所定の範囲内であること、および
-前記右心室のCT値が、前記上行大動脈のCT値に対する所定の値未満であること、
の両方を満たしている場合に、前記冠動脈の画像は適切な撮像タイミングで撮像されたと評価することを含む、請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
前記評価対象の解剖学的構造物は肝臓であり、
前記特定解剖学的構造物は、腹部大動脈、ならびに、門脈および肝静脈の少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記制御ユニットは、
-前記腹部大動脈のCT値が所定の値未満であること、および
-前記門脈のCT値が所定の範囲内にあること、
の両方を満たしている場合に、前記肝臓の画像は動脈相の画像として適切であると評価することを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記制御ユニットは、
-前記門脈のCT値が所定の値未満であること、および
-前記腹部大動脈のCT値、前記門脈のCT値に対して所定の範囲内にあること、
の両方を満たしている場合に、前記肝臓の画像は門脈相の画像として適切であると評価することを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記制御ユニットは、
-前記肝静脈のCT値が所定の値未満であること、および
-前記腹部大動脈のCT値が所定の値未満であること、
の両方を満たしている場合に、前記肝臓の画像は静脈相の画像として適切であると評価することを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記特定解剖学的構造物は肝実質をさらに含み、
前記制御ユニットは、
-前記腹部大動脈、門脈および肝実質のCT値が所定の値以下であること、
-前記門脈のCT値が、前記腹部大動脈のCT値に対する所定の範囲内にあること、および
-前記肝実質のCT値が、前記腹部大動脈のCT値に対する所定の範囲内にあること、
のすべてを満たしている場合に、前記肝臓の画像は平衡相の画像として適切であると評価することを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項12】
造影剤が注入された被検者から撮像された解剖学的構造物の画像を評価する制御ユニットを用いた画像評価方法であって、
前記制御ユニットには、注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物が設定されており、
前記制御ユニットが、評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから前記複数の特定解剖学的構造物を特定することと、
前記制御ユニットが、特定した前記複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価することと、
を含む、画像評価方法。
【請求項13】
造影剤が注入された被検者から撮像された解剖学的構造物の画像を評価するコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物を設定することと、
評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから前記複数の特定解剖学的構造物を特定することと、
特定した前記複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価することと、
を含む処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像品質評価装置、医用画像品質評価方法および医用画像品質評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、造影剤が注入された患者をCT装置等の撮像装置で撮像することによって得られた断層画像データに基づき医用画像を生成し、その医用画像を利用して診断および治療が行われている。医用画像は、例えば、病変等の異常有無の確認、手術前のシミュレーション、および手術中のナビゲーション等に利用される。医用画像としては、二次元画像だけではなく、解剖学的構造物を立体的に表した三次元画像(三次元モデル)も利用されるようになってきている。撮像装置によって取得される断層画像データは、複数のスライス画像データすなわち二次元画像のデータであり、一方、三次元画像は、二次元画像のデータからボリュームデータを作成することによって得られる。
【0003】
医用画像を利用した病変等の異常有無を確認する技術の一例として、冠動脈造影検査の透視画像のデータに基づいて冠動脈の血管状態解析を行うシステムが提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術によれば、カテーテル手術を必要とせず画像解析を利用して低侵襲で冠動脈等の血管状態を解析できるため、患者の負担低減および医療コストを節約することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術において、血管状態を正しく解析するためには、解剖学的構造物が正しく造影されていること、言い換えれば、解析の元となる医用画像の品質が高いことが重要である。元の画像品質が悪ければ、血管状態を正しく解析することができない可能性がある。このことは、血管状態の解析に限らず他の解剖学的構造物の状態を解析する場合においても同様である。したがって、解剖学的構造物の状態を解析する際には、得られた医用画像が解析に適した品質を有しているか否かを客観的に判断することが重要である。また、十分な品質の医用画像が得られなかった場合は、その原因が特定できれば、次回以降の撮像の際に役立てることができ好ましい。
【0006】
本発明は、医用画像が解析に適した品質を有しているかどうかを客観的に評価するための技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、造影剤が注入された被検者から撮像された解剖学的構造物の画像を評価する制御ユニットを有する装置であって、
前記制御ユニットには、それぞれ注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物が設定されており、
前記制御ユニットは、
評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから特定した前記複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価するように構成されている装置が提供される。
【0008】
また、本発明の他の態様によれば、造影剤が注入された被検者から撮像された解剖学的構造物の画像を評価する制御ユニットを用いた画像評価方法であって、
前記制御ユニットには、注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物が設定されており、
前記制御ユニットが、評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから前記複数の特定解剖学的構造物を特定することと、
前記制御ユニットが、特定した前記複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価することと、
を含む、画像評価方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、造影剤が注入された被検者から撮像された解剖学的構造物の画像を評価するコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物を設定することと、
評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから前記複数の特定解剖学的構造物を特定することと、
特定した前記複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて前記評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価することと、
を含む処理を実行させる、コンピュータプログラムが提供される。
【0010】
(本明細書で用いる用語の定義)
-「解剖学的構造物」とは、被写体内で認識可能な対象物(例えば、循環器、臓器、骨等)のことをいい、脂肪や、腫瘍等の病変等も含む。また、全体としてみれば1つの解剖学的構造であっても、複数の単位に分けられたり別個の役割等を有していたりする解剖学的構造については、複数の解剖学的構造として扱われることもある。例えば、肺は、上葉、中葉および下葉をそれぞれ別個の解剖学的構造として扱うことができ、また、血管は、動脈系血管と静脈系血管をそれぞれ別個の解剖学的構造として扱うことができる。
-「循環器」とは、解剖学的構造物のうち特に、血液やリンパ液などの体液を身体に循環させるための器官の総称である。心臓は、右心房、右心室、左心房および左心室を有する中空臓器であるが、これら左右の心房および心室は、血液循環の観点から本明細書では循環器として取り扱う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、医用画像が解析に適した品質を有しているかどうかの客観的な評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】医用画像品質評価装置を含む、本発明の一形態による医用システムのブロック図である。
【
図3】
図2に示す薬液注入装置を、それに着脱自在に装着されるシリンジとともに示す斜視図である。
【
図4】本発明の一形態による画像品質評価手順の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図7】冠動脈画像の画像品質評価における、複数の解剖学的構造の特定およびそれらのCT値の測定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】大動脈弁が映っている画像の特定手順の一例を説明する図である。
【
図9】下行大動脈および上行大動脈が映っている画像の特定手順の一例を説明する図である。
【
図10】左心室および右心室が映っている画像の特定手順の一例を説明する図である。
【
図11】冠動脈画像を撮像する際の、上肢の静脈から注入された造影剤の流れを表す図である。
【
図12】例1~例3において、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈のCT値をプロットしたグラフである。
【
図13】シミュレーションによって得られた、冠動脈のCT検査における右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈のTDCの一例である。
【
図14】肝臓画像を撮像する際の、上肢の静脈から注入された造影剤の流れを表す図である。
【
図15】肝臓画像において、撮像条件によって各種腫瘍がどのように撮像されるかを模式的に示す図である。
【
図16】シミュレーションによって得られた、肝臓のCT検査における腹部大動脈、多血性細胞癌、門脈、肝実質および肝静脈のTDCの一例である。
【
図17A】肝腫瘍のCT検査での画像品質評価において、動脈相で撮像され、腹部大動脈、門脈および肝実質が特定された画像の一例である。
【
図17B】各特定解剖学的構造物のCT値で表した、動脈相の評価結果の一例である。
【
図18A】肝腫瘍のCT検査での画像品質評価において、門脈相で撮像され、腹部大動脈および門脈が特定された画像の一例である。
【
図18B】各特定解剖学的構造物のCT値で表した、門脈相の評価結果の一例である。
【
図19A】肝腫瘍のCT検査での画像品質評価において、静脈相で撮像され、腹部大動脈および肝静脈が特定された画像の一例である。
【
図19B】各特定解剖学的構造物のCT値で表した、静脈相の評価結果の一例である。
【
図20A】肝腫瘍のCT検査での画像品質評価において、平衡相で撮像され、腹部大動脈、門脈および肝実質が特定された画像の一例である。
【
図20B】各特定解剖学的構造物のCT値で表した、平衡相の評価結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照すると、本発明の一形態による医用システムが示されている。医用システムは、患者の断層画像データを取得する撮像装置300、カルテ管理装置であるHIS360、撮像管理装置であるRIS370、データ保存装置であるPACS380、患者に造影剤等を注入する薬液注入装置100、および医用画像の品質評価を行う医用画像品質評価装置700を含む。医用画像品質評価装置700は、薬液注入装置100、撮像装置300、HIS360、RIS370、およびPACS380と、ネットワーク350を介して接続される。本形態の医用システムは、少なくとも医用画像品質評価装置700を有していればよく、その他の構成、および医用画像品質評価装置700と他の装置との接続の有無は任意であってよい。
【0014】
以下、薬液注入装置100、撮像装置300、HIS360、RIS370、PACS380および医用画像品質評価装置700についてより詳しく説明する。
【0015】
[A]薬液注入装置
薬液注入装置100について
図2~
図3を参照して説明する。
【0016】
本発明の一形態に係る薬液注入装置100は、一例で可動式スタンド111の上部に保持された注入ヘッド110と、ケーブル102で注入ヘッド110に接続されたコンソール150とを備えている。この例では、注入ヘッド110には、2つのシリンジ200C、200Pが並列に取外し自在に装着される。なお、注入ヘッド110とコンソール150とは無線方式で接続されていてもよい。
【0017】
なお、以下の説明では、シリンジ200C、200Pを区別せずに単に「シリンジ200」ということもある。「注入ヘッド」は、インジェクタまたはインジェクションヘッドなどとも呼ばれる。薬液注入装置100のコンソール150を、撮像装置のコンソールと区別するために「注入器コンソール」ということもある。また、以下の説明では、図面に表された1つの具体的な形態に基づいて説明を行うが、薬液注入装置やシリンジ等については下記に説明するもの以外にも種々変更可能である。
【0018】
(A1)シリンジ
シリンジ200C、200P(
図3参照)に充填される薬液としては、造影剤および生理食塩水などが挙げられる。例えば、一方のシリンジ200Cに造影剤が充填され、もう一方のシリンジ200Pに生理食塩水が充填されていてもよい。
【0019】
シリンジ200は、中空筒状のシリンダ部材221と、そのシリンダ部材221にスライド自在に挿入されたピストン部材222とを有している。シリンダ部材221は、その基端部にシリンダフランジ221aが形成されるとともに先端部に導管部221bが形成されたものであってもよい。ピストン部材222をシリンダ部材221内に押し込むことにより、シリンジ内の薬液が導管部221bを介して外部に押し出される。なお、シリンジは予め薬液が充填されたプレフィルドタイプであってもよいし、空のシリンジに薬液を吸引して使用する吸引式のものであってもよい。
【0020】
各シリンジ200の導管部221bには、延長チューブ230が連結される。延長チューブ230は、いわゆるT字管またはY字管であってもよく、一方のシリンジ200Cの導管部221bから分岐部まで延びるチューブ231aと、他方のシリンジ200Pの導管部221bから分岐部まで延びるチューブ231bと、分岐部から患者に向けて延びるチューブ231cとを有するものであってもよい。チューブ231cの先端側(不図示)には例えば注入針が接続される。この注入針を患者の血管に穿刺して、シリンジ200Cおよび/またはシリンジ200P内の薬液を押し出すことで血管内に薬液が注入される。なお、延長チューブとしては第1の薬液と第2の薬液との合流箇所にミキシングデバイス(一例で内部に旋回流を生じさせて薬液どうしを混和するもの)が配置されたものを使用してもよい。
【0021】
(A2)注入ヘッド
注入ヘッド110は、
図3に示すように、一例として前後方向に長く延びるような筐体を有しており、この筐体の上面先端側には、それぞれシリンジ200C、200Pが載せられる2つの凹部120aが形成されている。凹部120aはシリンジ保持部として機能する部分である。
【0022】
凹部120aに対しては、シリンジ200が直接装着されてもよいし、または、所定のシリンジアダプタを介して装着されてもよい。
図3では、各シリンジ200のシリンダフランジ221aおよびその近傍を保持するシリンジアダプタ121、122が一例として図示されている。シリンジアダプタの形状や機能は特定のものに限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。
【0023】
注入ヘッド110は、また、シリンジ200のピストン部材222を押し込む機能を少なくとも有するピストン駆動機構130を有している。ピストン駆動機構130は二系統設けられており、各機構130は独立して動作する。ピストン駆動機構130は、例えばシリンジ内への薬液吸引のために、ピストン部材222を後退させる機能を有するものであってもよい。2つのピストン駆動機構130は同時に駆動されてもよいし、別々のタイミングで駆動されてもよい。
【0024】
ピストン駆動機構130は、詳細な図示は省略するが、駆動モータ(不図示)と、その駆動モータの回転出力を直線運動に変換する運動変換機構(不図示)と、その運動変換機構に連結され、ピストン部材222を前進および/または後退させるシリンジプレッサー(ラム部材)とを有するものであってもよい。このようなピストン駆動機構としては、薬液注入装置で一般に用いられる公知の機構を用いることができる。なお、モータ以外のアクチュエータを駆動源としてもよい。
【0025】
典型的なピストン駆動機構の動作としては、次のようなものが挙げられる:薬液注入(ラム部材の前進)および薬液吸引(ラム部材の後退)。「薬液注入」では、所定のモータ制御信号にしたがってモータを動作させラム部材を前進させることにより、設定された注入プロトコル(注入条件)に従った薬液注入を行う。「薬液吸引」では、所定の制御信号にしたがってモータを動作させピストン部材を後退させることにより、シリンジ内に薬液を吸引する。なお、プレフィルドシリンジの場合には、薬液吸引は実施しなくてよい。
【0026】
なお、ピストン駆動機構130は、ラム部材がピストン部材220を押圧する力を検出するためのロードセル(不図示)を有していてもよい。ロードセルの検出結果を利用して、例えば、薬液を注入しているときの薬液の圧力の推定値を求めることができる。この推定値の算出は、針のサイズ、薬液の濃度、注入条件なども考慮して行われる。他にも、ロードセル(不図示)を用いるのではなく、駆動モータ(不図示)のモータ電流に基づいて圧力の算出を行うものであってもよい。
【0027】
注入ヘッド110の筐体の上面および側面には、注入ヘッド110に各種動作を行わせるための複数の物理ボタンも設けられている。これらの物理ボタンの一部は、例えば、所定の情報を術者に知らせるために発光するように構成されていてもよい。
【0028】
(A3)コンソール
コンソール150は、一例で検査室に隣接した操作室内に置かれて使用されるものであってもよい。コンソール150は、所定の画像を表示する表示デバイス151と、その筐体前面に設けられた操作パネル159と、筐体内に配置された制御回路(詳細下記)などを有している。操作パネル159は、1つまたは複数の物理ボタンが配置された部分であり、操作者によって操作される。表示デバイス151は、タッチパネル式表示デバイスであってもよいし、単なる表示デバイスであってもよい。コンソール150は、音および/または音声を出力するためのスピーカ等(不図示)を有していてもよい。
【0029】
コンソール150は、接続されている各部の動作を制御する制御部と、注入プロトコルの作成や注入の実行などを制御する注入処理部と、種々のデータが記憶される記憶部と、所定の外部機器と接続するためのインターフェースとを有することができる。コンソール150は、操作者の手元で操作されるハンドユニットなどの入力装置を有していてもよい。コンソール150の各機能は、実装されたプログラムによってコンピュータが実行するものであってもよい。プログラムは、コンソール150内の所定の記憶手段(例えば上記の記憶部でもよい)に予め記憶されたものであってもよい。
【0030】
記憶部には、例えば、表示デバイス151に表示される画像やGUIのデータなどが記憶されていてもよい。また、注入条件を設定するための計算式などを含むアルゴリズムや、注入プロトコルのデータが記憶されていてもよい。注入速度は、一定であってもよいし、時間とともに変化するものであってもよい。造影剤と生理食塩水とを注入する場合、それらの薬液をどのような順序で注入するかといった情報も、注入プロトコルに含まれる。なお、このような注入プロトコルに関する情報は、インターフェースを介して接続された外部機器から入力されてもよい。また、コンソール150がスロット(不図示)を有し、そこに差し込まれる外部記憶媒体を通じて入力されてもよい。
【0031】
(A4)一般的な動作の一例
本実施形態の薬液注入装置は、一例として次のように動作するものであってもよい。なお、下記の手順の順番は適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0032】
まず、薬液注入装置100の電源が入れられた状態で、操作者は、注入ヘッド110にシリンジ200P、200Cを装着する。シリンジ200P、200Cの装着後、操作者は、一例で、延長チューブ230を介してシリンジ200P、200Cに延長チューブを接続し、延長チューブの先端に設けられている注入針(不図示)を患者に穿刺する。
【0033】
その後、一例として、操作者がコンソール150の所定のボタンを操作すると、表示デバイス151に注入プロトコル設定用の1つまたは複数の画面が表示される。本実施形態では、後述するような冠動脈の血管状態解析用の注入プロトコルを設定するためのGUIが表示されるようになっていることも好ましい。
【0034】
この画面では、次のようなパラメータの少なくとも1つが入力、選択、または変更されるようになっていてもよい;
-撮像の対象である身体区分
-撮像の対象である部位(撮像部位という)
-患者の体重などの情報
-注入する薬液の種類、等
これらのパラメータを選択するための画像は順次あるいは一括して表示されてもよい。上記のようなパラメータの入力、選択、または変更は、装置の機能によって自動的になされるものであってもよいし、操作者の操作によりなされるものであってもよい。
【0035】
パラメータの入力等が完了したら、操作者は画面上の所定のボタン(例えば確認ボタン)を押す。注入プロトコルを作成する場合には、画面に表示された注入プロトコル作成用の画像に従い、例えば、(i)予め用意された幾つかの基本パターンのうち1つを選択し、その内容を確認もしくは必要に応じて変更する、(ii)画面上に表示された注入グラフ内に幾つかの基準点をプロットしていくことにより任意の注入プロトコルを作成する、等の方式によって行うことができる。
【0036】
(ii)の方式に関し、注入グラフ上に基準点をプロットしていくための操作としては、グラフ内の任意の位置(または、グラフ内の任意の格子点)に直接タッチして基準点を作成していく方式や、あるいは、所定のポップアップ画面の操作を経て基準点を作成していく方式等を採用しうる。「基準点」とは、例えば、注入速度を表わす、グラフ状の線分の端部の位置のこのという。
【0037】
注入プロトコルが作成されたら、操作者により所定の注入開始ボタンが操作された後、その注入プロトコルに基づいてピストン駆動機構130が動作制御され、患者への薬液注入が行われる。
【0038】
[B]撮像装置
撮像装置300は、例えばX線CTスキャナであり、患者の断層画像を撮像する撮像部、患者を載せるベッド、およびそれらの動作を制御する制御部を有することができる。撮像部は、ガントリ内に配置された、X線管やコリメータ等を有しX線を患者に向けて照射するX線照射部と、患者を透過したX線の検出するX線検出器を有する検出部とを有することができる。X線照射部および検出部が、それらの位置関係を保ったまま患者の体軸の周りを回転しながらスキャンを行うように構成されている。
【0039】
[C]HIS
HIS(Hospital Information System)360は、専用のコンピュータプログラムが実装されたコンピュータであり、カルテ管理システムを有する。カルテ管理システムで管理される電子カルテは、例えば、固有の識別情報であるカルテID、患者ごとの患者ID、患者の氏名などの個人データ、患者の疾病に関するカルテデータ、等のデータを含むものであってもよい。また、カルテデータには、治療全般に関連した個人条件データとして、患者の体重、性別、年齢等が登録されていてもよい。
【0040】
[D]RIS
RIS(Radiology Information System)370は、患者の透視画像データを撮像するための撮像オーダデータを固有の識別情報で管理する。この撮像オーダデータは、HISから取得する電子カルテに基づいて作成されるものであってもよい。撮像オーダデータは、例えば、固有の識別情報である撮像作業ID、CT撮像やMR撮像などの作業種別、前述の電子カルテの患者IDとカルテデータ、CTスキャナの識別情報、撮像開始および終了の日時、身体区分または撮像部位、撮像作業に対応した造影剤などの薬液種別からなる適正種別、撮像作業に適合した薬液IDからなる適正ID、造影剤の注入条件、造影剤の注入結果等のデータを含むものであってもよい。造影剤の注入条件および注入結果はそれぞれ、造影剤の注入速度、注入時間および注入時間の少なくとも1つを含む。
【0041】
[E]PACS
PACS(Picture Archiving and Communication Systems)380は、撮像装置から上述した各種データを含む撮像オーダデータが付与された透視画像データを受信してそれを記憶装置内に保存する。
【0042】
[F]医用画像品質評価装置
[F-1]装置構成
医用画像品質評価装置700は、ワークステーション等の端末として構成することができるし、あるいは、薬液注入装置100のコンソール150(
図2参照)など他の装置に医用画像品質評価装置700の機能を持たせることもできる。以下の説明では、医用画像品質評価装置700を端末として構成した場合について説明する。
【0043】
医用画像品質評価装置700は、具体的には以下の構成の一部または全部を備えるものであってもよい:装置の全体的な制御を行う装置制御部705、画像品質評価部701、表示制御部702、情報を表示する表示デバイス711、操作者からの種々の入力を可能とする入力デバイス712、記憶装置である記憶部715、外部機器との通信行うための1つまたは複数のインターフェース(I/F)720、等。限定されるものではないが、装置制御部705、画像品質評価部701、および表示制御部702は1つの制御ユニット710として構成されていてもよい。
【0044】
装置制御部710は、一例で、CPUやメモリ、コンピュータプログラム等を有するプロセッサを含むものであってもよい。装置制御部705は、インターフェース720や入力デバイス712を介して入ってきた所定の入力を受け付け、それに応じて、例えば、画像品質評価部701、表示制御部702、表示デバイス711および記憶部715等に所定の動作を行わせる。
【0045】
画像品質評価部701および表示制御部702は、一例で、コンピュータプログラムに従ってCPUが行う各種の機能に相当し、例えばソフトウェアの機能として提供されるものであってもよい。
【0046】
表示デバイス711としては、情報を表示できるものであればどのようなものであっても構わないが、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等であってもよい。表示デバイス711の数は特に限定されるものではなく、1つまたは複数であってもよい。
【0047】
入力デバイス712は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、トラックボールおよびタッチパッドなど)、および音声入力装置等から選ばれる1つまたは2つ以上であってもよい。入力装置712を通じて医師等からの指令が入力される。表示デバイス711タッチパネル式表示デバイスの場合、そのタッチパネルが入力装置712としての役割を果たす。
【0048】
なお、図示は省略するが、医用画像品質評価装置700は、コンピュータ可読媒体から接触式または非接触式でデータを読み取ることができるユニット(例えばカードリーダー等)を有するものであってもよい。この場合、コンピュータ可読媒体からこのユニットを介して必要なデータ等を取得できるように医用画像品質評価装置700を構成すれば、医用画像品質評価装置700を、ネットワーク350を介して他の機器と接続せずにスタンドアローンで作動させることができる。また、非一過性のコンピュータ可読媒体に、汎用のコンピュータを本発明の一形態に係る医用画像品質評価装置700として機能させるための所定のコンピュータプログラムが格納されていてもよい。
【0049】
[F-2]画像品質評価手順の概要
【0050】
画像品質評価の基本的な手順は次のとおりである。
-制御ユニット710が、評価対象の解剖学的構造物の画像を含む一式の画像データから特定した複数の特定解剖学的構造物の画像のCT値に基づいて評価対象の解剖学的構造物の画像品質を評価する。
-評価結果を、表示デバイス711を含む出力デバイスに出力する。
ここで、制御ユニット710には、それぞれ注入された造影剤の到達時間が異なる複数の特定解剖学的構造物が予め設定されている。特定解剖学的構造物は、評価対象の解剖学的構造物と異なる解剖学的構造物であってもよいし、評価対象の解剖学的構造物に含まれる解剖学的構造物であってもよい。特定解剖学的構造物が評価対象の解剖学的構造物と異なる解剖学的構造物である場合、特定解剖学的構造物は、評価対象の解剖学的構造物より先に造影剤が到達する解剖学的構造部とすることができる。
【0051】
以下、この手順について
図4を参照しつつより詳しく説明する。
【0052】
まず、画像品質評価部701は、評価の対象となる領域を含む一式の画像データを読み込む(ステップS10)。一式の画像データとは、撮像装置300によって患者に対して特定の方向(例えば、体軸方向、左右方向、前後方向、これらの少なくとも1つに対して傾斜した方向など)に一定の間隔(例えば1mm間隔)で撮影された複数(例えば300)のスライス画像データである。一式の画像データは、インターフェース720を通じ、ネットワーク350を介して外部機器(撮像装置300、HIS360、RIS370およびPACS380)のいずれかから読み込むことができる。また、医用画像品質評価装置700が、コンピュータ可読媒体から接触式または非接触式でデータを読み取ることができるユニットを有する場合は、コンピュータ可読媒体から一式の画像データを読み込むことができる。
【0053】
一式の画像データの読み込み後、画像品質評価部701は、読み込んだ一式の画像データから予め決められた複数の解剖学的構造物を特定し、それらのCT値を測定する(ステップS20)。解剖学的構造物の特定は、CT値および適宜の画像認識技術を用いて行うことができる。
【0054】
次いで、画像品質評価部701は、測定したCT値を用い、予め決められた評価基準に従って画像品質を評価する(ステップS30)。医用画像の品質が悪くなる要因としては、主に以下の要因が挙げられ、評価基準は、以下の考え方に基づいて解剖学的構造物ごとに定められる。
【0055】
(1)造影効果
所望の領域において、血管や臓器といった複数の解剖学的構造物(病変も含む)が適切なCT値で造影されているかどうかといった造影品質は、医用画像の品質に大きく影響を与える。これらが適切なCT値で造影されていない場合は、ある解剖学的構造物と他の解剖学的構造物との区別が不鮮明な画像が得られたり、解剖学的構造物の形状が不鮮明な画像が得られたりする可能性がある。
【0056】
(2)撮像タイミング
造影剤は血流に沿って上流側から下流側へ流れる。そのため、造影剤の注入が開始された時点から撮像が開始される時点までのタイミング(撮像タイミング)が早すぎたり遅すぎたりする場合は、目的とする部位に十分な量の造影剤が到達する前に撮像されたり、目的とする部位を造影剤が通過した後に撮像されたりすることになる。その結果、診断に不適切なCT値で造影されることとなり結果的に造影品質の低下につながる。
【0057】
画像品質の評価後、画像品質評価部701は、評価結果を出力することによってユーザに提示する(ステップS40)。評価結果は、例えば、画像品質評価部701からの指令に基づいて表示制御部702が表示デバイス712に評価結果を表示させることでユーザに提示される。あるいは、医用画像品質評価装置700にプリンタが接続されており、医用画像品質評価装置700が評価結果を印刷できるように構成されている場合は、プリンによって評価結果をユーザに提示することもできる。
【0058】
[F-3]画像品質評価例(冠動脈画像)
以下に、より具体的な例として、冠動脈画像の画像品質の評価について説明する。
【0059】
評価手順を説明する前に、心臓の構造および冠動脈について説明する。
図5に示すように、心臓は右心房、右心室、左心房および左心室の4つの部屋に分けられている。心房は血液を受け取り、心室は血液を送り出す役割をする。全身を回った血液は右心房に集まり、三尖弁を通って右心室に入る。右心室に入った血液は、肺動脈弁を経て肺に送られ、肺静脈から左心房に戻る。次いで、左心房から僧帽弁を経て左心室に入り、左心室から大動脈弁を経て、再び全身に送り出される。CT検査では主に、造影剤は静脈に注入される。よって、心臓の中では造影剤は、右心房→右心室→左心房→左心室の順に流れる。
【0060】
一方、冠動脈は、
図6に示すように、大動脈の根元付近より左右に分岐し心筋の表面に沿って延びる血管であり、酸素を豊富に含んだ血液を心臓に供給する。冠動脈には、左冠動脈(LCA)と右冠動脈(RCA)の2本の主要動脈があり、左冠動脈は、さらに左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)という2本に分かれている。これらの太い動脈は、木の枝のように枝分かれして段々と細い動脈となって心臓の外側を走行し、さらに細い血管となって内側に伸びていき、これにより心筋全体に血液を送る。本明細書では、左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)の各々も「冠動脈」として扱う。
【0061】
冠動脈画像の画像品質評価では、まず、画像品質評価部701は、患者の胸部を撮像した一式の画像データを読み込む(ステップS10)。読み込んだ一式の画像データから予め決められた複数の解剖学的構造物を特定し、それらのCT値を測定する(ステップS20)。本形態では、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈の4つの解剖学的構造物を特定し、それらのCT値を測定することで、冠動脈画像の画像品質を評価する。すなわち、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈が、特定解剖学的構造物として設定される。これらの特定解剖学的構造物は、いずれも評価対象の解剖学的構造物である冠動脈より先に造影剤が到達する解剖学的構造物である。本形態では、複数の解剖学的構造物の特定およびそれらのCT値の測定を、例えば
図7に示す流れで行なうことができる。
【0062】
[F-3a]冠動脈画像評価における画像の特定およびCT値の測定
まず、画像品質評価部701は、読み込んだ一式の画像データから、CT値測箇所の基準となる大動脈弁が映っている画像(以下、「大動脈弁画像」という)を特定する(ステップS210)。一式の画像データから得られる一式の画像を、その画像中に大動脈弁が映っているかどうかを判断しながら身体の上方向から1枚ずつ確認していくと、大動脈弁の断面形状が映っている画像が現れる(
図8参照)。画像内に大動脈弁が映っていると判断されたら、画像品質評価部701は、その画像データの位置情報を一時記憶する。大動脈弁は、心臓の左心室と大動脈の間にある、血液の逆流を防ぐための、通常は3枚の弁体からなる独特の形状を有する弁であるので、比較的特定しやすい。本形態では、大動脈弁の位置を、本形態においてCT値を測定する複数の解剖学的構造物である右心室、左心室、上行大動脈、および下行大動脈の位置を特定する際の基準として用いる。
【0063】
画像内の解剖学的構造物が大動脈弁であるか否かの判断は、例えば、以下の3つの条件(i)~(iii)の全てを満たす解剖学的構造物が画像内に存在する場合、その解剖学的構造物は大動脈弁であるとみなすことができる。
条件(i)CT値が350HU以上の部分で囲まれた領域である。
条件(ii)輪郭の形状が、所定の真円度以下の値の円形である。
条件(iii)輪郭内のCT値の標準偏差が所定の値以上である(大動脈弁は裂け目があるため標準偏差が大きくなる)。
【0064】
大動脈弁画像が特定されたら、画像品質評価部701は、ステップS210で特定した大動脈弁の画像の位置を基準に、上行大動脈がおよび下行大動脈の両方が映っている画像(以下、「上行/下行大動脈画像」という)を特定する(ステップS220)。
【0065】
大動脈は、大動脈弁を通って心臓から出て、まず上に向かい(上行大動脈)、弓状に曲がって背中側に回りながら脳や腕に栄養を運ぶ3本の血管が枝別れし(弓部大動脈)、下に向かう(下行大動脈)。よって、上行/下行大動脈画像は、大動脈弁が画像と弓部大動脈が映っている画像の間から見つけ出すことができる。
【0066】
限定されるものではないが、本形態では、大動脈弁から身体の上方向に30mm離れた位置の画像を、上行/下行大動脈画像として特定する。各画像データには、画像間の距離を示すスライス幅が記録されている。よって、これを参照することで、大動脈弁画像から何枚離れた画像かをカウントすることで、上行/下行大動脈画像を特定することができる。例えば、スライス幅が0.5mmの場合、上行/下行大動脈画像は、大動脈弁画像から身体の上方向に60枚離れた画像である。上行/下行大動脈画像の一例を
図9に示す。
【0067】
次に、画像品質評価部701は、上行/下行大動脈画像に映っている上行大動脈および下行大動脈のCT値を測定する(ステップS230)。CT値の測定に際しては、上行/下行大動脈画像から上行大動脈および下行大動脈の位置を特定し、特定した上行大動脈および下行大動脈のCT値をそれぞれ測定する。
図9に示すように、通常、上行大動脈/下行大動脈画像にはCT値350HU以上の円形の領域が2つ存在する。本形態では、これら2つの円形の領域のうち、身体の正面側に位置する領域を上行大動脈とみなし、身体の背面側に位置する領域を下行大動脈とみなす。また、CT値の測定では、円形の領域内のCT値のばらつきを考慮して、それぞれ上行大動脈および下行大動脈とみなした2つの円形の領域内に、それらの円形領域よりも小さい円形の範囲を設定し、その円形の範囲のそれぞれのCT値の平均値を、上行大動脈のCT値および下行大動脈のCT値とする。画像品質評価部701は、測定したCT値を記憶部715に一時的に記憶させる。
【0068】
次いで、画像品質評価部791は、ステップS210で特定した大動脈弁の画像の位置を基準に、CT値測定用の右心室および左心室の両方が映っている画像(以下、「心室画像」という)を特定する(ステップS240)。
【0069】
右心室および左心室は、大動脈弁よりも身体の下方向に、ある距離だけ離れて位置する。この距離は、被検者の身長および体重などの体格によって異なるが、通常は、約30~60mmの範囲(例えば約30mm、約40mm、約50mmまたは約60mm)である。限定されるものではないが、本形態では、大動脈弁から身体の下方向に40mm離れた位置の画像を、心室画像として特定する。心室画像も、上行/下行大動脈画像と同様、画像データに記録されているスライス幅を参照することによって特定することができる。心室画像の一例を
図10に示す。
【0070】
次に、画像品質評価部701は、心室画像に映っている右心室および左心室のCT値を測定する(ステップS250)。CT値の測定に際しては、心室画像から右心室および左心室の位置を特定し、特定した右心室および左心室のCT値をそれぞれ測定する。右心室および左心室の特定には、領域の形状およびCT値を利用することができる。本形態では、
図10に示すように、CT値が300HU以上であり、かつ、円形でない形状の領域を左心室とみなし、CT値が100HU以上であり、円形および左心室のいずれでもなく、かつ、左心室の近傍に位置する領域を、右心室とみなす。左心室の近傍であるか否かの判断基準とする左心室との距離は、予め設定することができる。CT値の測定では、それぞれ左心室および右心室であるとみなされる領域内でのCT値のばらつきを考慮し、それらの領域の中にそれらの領域よりも小さい円形の範囲を設定し、その円形の範囲内のCT値の平均値を、左心室のCT値および右心室のCT値とする。
【0071】
以上の一連の処理により、冠動脈の画像品質評価に用いる複数の特定解剖学的構造物として右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈を特定し、それらの画像のCT値が測定される。これらの特定解剖学的構造物について、上肢の静脈から注入された造影剤の流れを
図11に示す。上肢の静脈から注入された造影剤は、血液の流れと共に、右心室a1、肺、左心室a2、上行大動脈a3の順番に流れる。上行大動脈a3から先は、冠動脈A、静脈へと向かう流れと、下行大動脈a4を経て腹部の動脈へ向かう流れとに分岐する。
【0072】
図11からわかるように、冠動脈Aの画像品質評価に用いる右心室a1、左心室a2、上行大動脈a3および下行大動脈a4は、それぞれ注入された造影剤の到達時間が異なり、かつ、冠動脈Aよりも先に造影剤が到達する特定解剖学的構造物である。
【0073】
[F-3b]冠動脈画像の画像品質の評価
画像品質の評価は、造影品質評価および撮像タイミング評価に分けることができる。それぞれの評価は、測定されたCT値が予め設定された評価基準を満たしているか否かを画像品質評価部701が判断することによって行うことができる。評価基準は、画像品質評価部701に設定されていてもよい。また、設定された評価基準をユーザが任意に変更できるようにしてもよい。
【0074】
ここで、撮像タイミングと造影品質との関係を確認するために本発明者らが行なった実験について説明する。この実験では、早すぎる撮像タイミング(例1)、適切な撮像タイミング(例2)および遅すぎる撮像タイミング(例3)の3つの条件で撮像を行なった。撮像タイミング以外の、撮像条件および造影剤の注入条件は例1~例3とも同じである。
【0075】
図12に、例1~例3おける、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈のCT値の違いを示し、
図12A~12Cに、例1~例3で得られた冠動脈画像を示す。また、
図13に、例1~3と同じ注入条件および撮像条件と同じ条件でシミュレーションした右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈の時間濃度曲線(TDC)の一例を示す。
【0076】
例1は、撮像タイミングが早すぎ、造影剤が冠動脈に到達して十分行き渡る前の状態である。このため、
図12Aに示すように、全体的にCT値が低く、冠動脈末端は造影剤が到達していないため特にCT値が低い。
【0077】
例2は、撮像タイミングが適切であり、冠動脈の起始部から末端まで造影剤が十分に行き渡った状態である。このため、
図12Bに示すように、冠動脈は起始部から末端までCT値に大きな変化はなく、かつ、適切な範囲に収まっている。
【0078】
例3は、撮像タイミングが遅すぎて、造影剤が冠動脈に十分に行き渡った後に毛細血管から抜け出してしまった後の状態である。このため、
図12Cに示すように、全体的にCT値が低く、上流である起始部付近は特にCT値が低い。
【0079】
以上の結果を踏まえた造影品質評価および撮像タイミング評価における評価基準の一例を説明する。
【0080】
[F-3b(1)]造影品質評価
【0081】
冠動脈画像における造影品質の判断に用いる条件の一例として、以下の2つの条件:
(条件C1)上行大動脈のCT値が400HU以上であること、および
(条件C2)左心室、上行大動脈、下行大動脈の各CT値が240HU~700HUの範囲内であること、
を挙げることができる。そして、画像品質評価部701は、左心室、上行大動脈、下行大動脈のCT値がこれら条件C1、C2の両方を満たしていれば、冠動脈画像は適切な造影品質であるとの評価基準により、冠動脈画像の造影品質を評価する。
【0082】
この評価基準によれば、前述の例1~例3は、
例1:条件C1を満たさないが、条件C2を満たす
例2:条件C1、C2の両方を満たす
例3:条件C1、C2のどちらも満たさない
となり、例2が適切な造影品質であると評価される。また、例1および例2は同じ評価結果となるが、例1および例3で得られる冠動脈画像は
図12Aおよび
図12Cを比較すればわかるように、起始部から末端までのCT値の傾向が異なっており、その違いが何によって生じるかまでは評価されない。
【0083】
そこで有効なのが、次に述べる撮像タイミング評価である。
【0084】
[F-3b(2)]冠動脈画像における撮像タイミング評価
図13のグラフを参照すると、矢印で示した、上行大動脈のCT値がピークになるタイミング(注入開始から20秒後)で撮像するのが冠動脈画像を撮像するのに適したタイミングである。このタイミングでは、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈のCT値は以下の関係にある。
(i)左心室、上行大動脈、および下行大動脈のCT値がほぼ同じである。
(ii)右心室は、左心室、上行大動脈および下行大動脈に比べてCT値が低い。
【0085】
そこで、撮像タイミングが適切である場合、右心室、左心室、上行大動脈および下行大動脈のCT値が上記の大小関係にあるという考えに基づき、冠動脈画像における撮像タイミングの評価基準を、例えば次のように定めることができる:
(条件T1)左心室または下行大動脈のCT値が、上行大動脈のCT値を基準とした所定の範囲内の値であること、および
(条件T2)右心室のCT値が、上行大動脈のCT値を基準とした所定の値未満であること、
の両方を満たしている場合は、撮像タイミングは適切であると評価し、それ以外の場合は、撮像タイミングは不適切であると評価する。
【0086】
実際の評価に際しては、条件T1の「所定の範囲」および条件T2の「所定の値」はそれぞれ臨床例等に基づいて具体的な数値が与えられる。具体的な条件の一例としては、
(条件Tr1)左心室または下行大動脈のCT値が上行大動脈のCT値の±15%以内であること、および、
(条件Tr2)右心室のCT値が上行大動脈のCT値の50%未満であること、
を挙げることができる。そして、画像品質評価部701は、左心室、上行大動脈、下行大動脈のCT値がこれら条件Tr1、Tr2の両方を満たしていれば、冠動脈画像は適切なタイミングで撮像されているとの評価基準により、冠動脈画像の撮像タイミングを評価する。
【0087】
この評価基準によれば、前述の例1~例3は、
例1:条件Tr1を満たすが、条件T2を満たさない
例2:条件Tr1、T2の両方を満たす
例3:条件Tr1を満たさないが、条件Tr2を満たす
となり、例2が適切なタイミングで撮像された冠動脈画像であると評価される。
【0088】
上記の条件Tr1、Tr2は、基準とする上行大動脈のCT値に対する割合で定めた条件であるが、例えば、
条件tv1:左心室または下行大動脈のCT値が上行大動脈CT値の±50HU以内であること、および
条件tv2:右心室のCT値が「上行大動脈のCT値-150HU」未満であること、
のように、CT値の絶対値で条件を定めてもよい。
【0089】
[F-3c]画像評価結果のユーザへの提示
画像品質評価部701により得られた評価結果はユーザに提示することができる。評価結果のユーザへの提示は、装置制御部705が評価結果を表示デバイス712に表示させる処理を実行することによって行なうことができる。表示デバイス712へは、評価結果の他に、
図12に示したような、各特定解剖学的構造物のCT値を表すグラフおよび撮像された冠動脈画像などのいずれか1以上を表示させてもよい。また、医用画像品質評価装置700がプリンタを有する場合は、表示デバイス711の他に、プリンタへも評価結果を出力してもよい。
【0090】
ユーザは、提示された評価結果が、適切な画像品質を有するという評価である場合は、その画像を含む一式の画像データを患者の診断に利用することができる。一方、提示された評価結果が、不適切な画像品質を有するという評価である場合は、同じ失敗を繰り返さないようにするために、薬液注入装置100による造影剤注入条件および/または撮像装置300による撮像条件を変更するなどすることによって、次回以降の対策を講じることができる。以下に、評価結果の活用例について、薬液注入装置100と撮像装置300とに分けて説明する。
【0091】
[F-3c(1)]評価結果に応じた造影剤注入条件変更例
評価結果に応じた造影剤注入条件変更の具体例を以下に列挙する。
(1a)造影品質評価にてCT値が低いことにより評価基準を満たさなかった場合
より高いCT値が得られるように、
-造影剤注入量を増やす
-造影剤注入速度を上げる
-ヨード濃度がより高い造影剤に変更する
-等速注入の場合、注入速度が経時的に変化する速度可変注入に変更する
以上の1以上を実施する。
(1b)造影品質評価にてCT値が高いことにより評価基準を満たさなかった場合
より低いCT値が得られるように、
-造影剤注入量を減らす
-造影剤注入速度を下げる
-ヨード濃度がより低い造影剤に変更する
以上の1以上を実施する。
【0092】
[F-3c(2)]評価結果に応じた撮像条件変更例
評価結果に応じた撮像条件変更の具体例を以下に列挙する。
(2a)造影品質評価でCT値が低いことにより評価基準を満たさなかった場合
-より高いCT値が得られるように、管電圧を下げる
(2b)造影品質評価でCT値が高いことにより評価基準を満たさなかった場合
-より低いCT値が得られるように、管電圧を上げる
(2c)撮影タイミング評価で、撮影タイミングが早いと評価された場合
-手動で撮影タイミングを決定している場合は遅めに撮像を開始する。大動脈のCT値が閾値に達したら自動的に撮像を開始するプレップ機能を使っている場合は、閾値を上げる、または閾値到達後撮像開始までの時間を長くする
(2d)撮影タイミング評価で、撮影タイミングが遅いと評価された場合
-手動で撮影タイミングを決定している場合は早めに撮像を開始する。プレップ機能を使っている場合は、閾値を下げる、または閾値到達後撮像開始までの時間を短くする
【0093】
[F-4]画像品質評価例(肝臓画像)
肝臓画像は、肝腫瘍のCT検査および肝臓手術前の血管位置確認のためなどに用いられる。肝臓画像を撮像する際の、上肢の静脈から注入された造影剤の流れを
図14に示す。なお、
図14では、
図11と共通の流れは省略し、下行大動脈から先の流れを示す。
図14に示すように、上肢の静脈から注入され、血液の流れに伴って下行大動脈に達した造影剤は、腹部大動脈へ流れ、腹部大動脈から分岐した複数の動脈を介して、肝臓、腸管および胃などの各種臓器に流入し、静脈を介して各種臓器から流出する。特に肝臓については、造影剤の流入ルートとして、肝動脈からの流入ルートおよび門脈からの流入ルートがある。そして、肝臓に流入した造影剤は、肝静脈から流出する。
【0094】
[F-4a]肝腫瘍のCT検査
図15に、肝臓画像において、撮像条件によって各種腫瘍がどのように撮像されるかを模式的に示す。また、
図16に、シミュレーションによって得られた、肝臓のCT検査における腹部大動脈、多血性細胞癌、門脈、肝実質および肝静脈のTDCの一例を示す。
【0095】
CT検査には、造影剤を使用するCT検査の他に、造影剤を使用しない単純CT検査もある。しかし、肝腫瘍のCT検査では、単純CT検査を行っても、得られたCT画像からは肝細胞癌などの悪性腫瘍と血管腫などの良性腫瘍とを区別することは難しい。一方、造影剤を使用するCT検査では、造影剤を注入してから撮像を開始するまでのタイミング(時相)によって肝腫瘍のCT値が変化し、しかも腫瘍の種類によって変化の大きさおよび変化パターンが異なる。その理由は、通常、肝組織は、動脈血と門脈血の両方から栄養を受け取るが、悪性腫瘍は血液が豊富に流れている動脈血のみから栄養を受け取るため造影剤がすぐに流入し、かつ、すぐに流出する一方、良性腫瘍は腫瘍内での血流速度が極めて遅く、流入した造影剤はなかなか流出しないためである。なお、腫瘍は、
図14に示した造影剤の流れの中では肝実質である肝臓の中に存在する。
【0096】
そこで、肝臓のCT検査においては、造影剤の注入後、異なる複数の時相でCT検査を行い、血流状態の変化を見ることで腫瘍の種類を判断することができる。肝臓のCT検査の時相としては、注入した造影剤が主に動脈に分布する動脈相、門脈に分布する門脈相、静脈に分布する静脈相、およびその後の組織内に均一に分布する平衡相に分けられる。動脈相はさらに、CT値がピークに達する前の早期動脈相と、ピークに達した後の後期動脈相とに分けられる。よって、肝腫瘍のCT検査においては、複数の相で撮像したそれぞれの画像について品質の評価を行なうことが重要である。以下に、各層の画像の品質評価の一例について説明する。なお、以下の説明で述べる各処理は、画像品質評価部701において行われる処理である。
【0097】
[F-4a(1)]動脈相
前述したように、動脈相は、早期動脈相と後期動脈相とに分けられるが、早期動脈相は十分な造影剤が肝腫瘍に到達していない時相であるので、腹部大動脈のCT値がピークを過ぎ、悪性腫瘍のCT値が最も高くなる後期動脈相で撮像する。
【0098】
後期動脈相での肝臓画像の品質評価では、まず、肝臓を含む一式の画像データを読み込み、読み込んだ一式の画像データの中から、腹部大動脈、門脈および肝実質が映っている画像、およびその画像における腹部大動脈、門脈および肝実質を特定する。すなわち、腹部大動脈、門脈および肝実質が特定解剖学的構造物として設定される。腹部大動脈、門脈および肝実質は、冠動脈画像の評価での画像特定手順の場合と同様、適宜の画像認識技術を用いて、領域のサイズ、CT値、および互いの位置関係などに基づいて予め定められた判断基準によって特定することができる。腹部大動脈、門脈および肝実質を特定した画像の一例を
図17Aに示す。
【0099】
腹部大動脈、門脈および肝実質を特定したら、それらのCT値を測定する。ここでのCT値の測定に対する考え方も、冠動脈の画像品質評価における考え方と同様である。CT値を測定したら、予め定められた評価基準に従って画像品質を評価し、評価結果を出力する。
図16に示したように、後期動脈相では、腹部大動脈のCT値はピークを越え、減少過程にあり、門脈のCT値は急上昇過程にあり、かつ、肝実質のCT値はピーク前である。このことから、後期動脈相における評価基準は、例えば、次のように定めることができる:
(条件La1)腹部大動脈のCT値が400HU未満であること、
(条件La2)門脈のCT値が、100HUより大きく、かつ、170HU未満であること、および
(条件La3)肝実質のCT値は100HU未満であること、
のすべてを満たしていれば、後期動脈相の画像として適切であると評価する。ユーザは、適切であると評価された画像を含む一式の画像データを肝腫瘍の診断に利用することができる。後期動脈相の評価結果の一例として、3つの条件のすべてを満たす場合の例を
図17Bに示す。
【0100】
[F-4a(2)]門脈相
門脈相での肝臓画像の品質評価では、特定解剖学的構造物が、評価対象である肝臓とは異なる解剖学的構造物である腹部大動脈および門脈である点、および評価基準を除いて後期動脈相での評価手順と同じである。腹部大動脈および門脈を特定した画像の一例を
図18Aに示す。
【0101】
門脈相では、門脈のCT値がほぼピークに達しており、かつ、腹部大動脈と門脈のCT値がほぼ等しい。このことから、門脈相における評価基準は、例えば、次のように定めることができる:
(条件Lp1)門脈のCT値が150HUより大きいこと、および
(条件Lp2)腹部大動脈のCT値が、門脈のCT値の±50HUの範囲内であること、
の両方を満たしていれば、門脈相の画像として適切であると評価する。ユーザは、適切であると評価された画像を含む一式の画像データを肝腫瘍の診断に利用することができる。門脈相の評価結果の一例として、2つの条件のすべてを満たす場合の例を
図18Bに示す。
【0102】
[F-4a(3)]静脈相
静脈相は、次に述べる肝臓手術前の血管位置確認の際に主に用いられる。静脈相での肝臓画像の品質評価では、特定解剖学的構造物が評価対象である肝臓とは異なる解剖学的構造物である腹部大動脈および肝静脈である点、および評価基準を除いて後期動脈相での評価手順と同じである。腹部大動脈および肝静脈を特定した画像の一例を
図19Aに示す。
【0103】
静脈相では、肝静脈のCT値がピークに近く、かつ、腹部大動脈のCT値が十分に低下している。このことから、肝静脈相における評価基準は、例えば、次のように定めることができる:
(条件Lv1)肝静脈のCT値が150HUより大きいこと、および
(条件Lv2)腹部大動脈のCT値が200HU未満であること、
の両方を満たしていれば、肝静脈相の画像として適切であると評価する。肝静脈相の評価結果の一例として、2つの条件のすべてを満たす場合の例を
図19Bに示す。
【0104】
[F-4a(4)]平衡相
平衡相での肝臓画像の品質評価では、特定解剖学的構造物は後期動脈相と同じであるが評価基準が後期動脈相と異なる、その他は後期動脈相での評価手順と同じである。平衡相での画僧品質評価において、腹部大動脈、門脈および肝実質を特定した画像の一例を
図20Aに示す。
【0105】
平衡相では、腹部大動脈、門脈および肝実質のCT値が十分に低下しており、かつ、互いに近い値になっている。このことから、平衡相における評価基準は、例えば、次のように定めることができる:
(条件Le1)腹部大動脈、門脈および肝実質のCT値がいずれも200HU以下であること、および
(条件Le2)腹部大動脈のCT値<門脈のCT値<腹部大動脈のCT値+50HUの関係であること、
(条件Le3)腹部大動脈のCT値-100HU<肝実質のCT値<腹部大動脈のCT値の関係にあること、
のすべてを満たしていれば、平衡相の画像として適切であると評価する。ユーザは、適切であると評価された画像を含む一式の画像データを肝腫瘍の診断に利用することができる。平衡相の評価結果の一例として、3つの条件のすべてを満たす場合の例を
図20Bに示す。
【0106】
[F-4b]肝臓手術前の血管位置確認
肝臓手術前の血管位置確認を行なう場合、その準備段階として、各血管の3D画像、例えば、肝静脈の3D画像と門脈の3D画像とを合成した3D画像が作成される。医師は手術前に、この合成された3D画像を見て、複雑に走行する肝臓の血管の位置関係を把握し、血管と病変との位置関係を考慮して、切除する血管と残す血管を決める。手術前の血管位置確認は、切除する血管の誤認を防止し、正確な血管位置把握により手術時間を短縮し、患者の負担を減らすために重要である。
【0107】
合成前の各血管の3D画像は、前述した動脈相、門脈相および静脈相のうち、病変(主要)と関連する1つまたは複数の時相で撮像された画像をもとに作成される。したがって、血管の位置関係が正確に表された3D画像を得るためには、もととなる画像が、必要な時相の画像として適切であることが重要である。そこで、前述した各時相での画像品質評価は、肝臓手術前の血管位置確認のための3D画像の作成にも利用することができる。
【0108】
[G]他の解剖学的構造物の評価
以上、冠動脈画像および肝臓画像の品質評価について説明したが、評価対象の解剖学的構造物はこれらに限定されない。例えば、頭蓋内の脳血管画像や下肢画像など他の解剖学的構造物の画像においても同様の手法で画像品質を評価することが可能である。
【0109】
頭蓋内の脳血管は、首の部分で総頚動脈から分岐する内頚動脈、およびそこから分岐した大脳動脈を含む。さらに、大脳動脈は、中大脳動脈および前大脳動脈を含む。頭蓋内の脳血管画像の品質評価では、例えば、下行大動脈および総頸動脈を特定解剖学的構造物として用い、これらのCT値の大小関係から、総頸動脈の下流側の頭蓋内脳血管の造影状態を推定し、画像品質評価を行なうことができる。下行大動脈および総頸動脈は、評価対象である脳血管より先に造影剤が到達する位置にあり、かつ、脳血管とは別の解剖学的構造物である。下行大動脈および総頸動脈は被検者の体軸方向に走行する血管であるため、体軸方向から見た画像では断面が判別し易い円形状で現れるため、CT値の測定は比較的容易である。
【0110】
また、下肢画像の品質評価では、胸部から大腿部の画像と腹部から大腿部の画像に分けることができる。胸部から大腿部の画像では、例えば、下行大動脈、腹部大動脈の分岐前の部分、および大腿大動脈を特定解剖学的構造物として用い、これらのCT値の高さや大小関係から画像品質を評価することができる。下行大動脈、腹部大動脈の分岐前の部分、および大腿大動脈は、評価対象である胸部から大腿部に含まれる解剖学的構造物である。腹部から大腿部の画像では、例えば、腹部大動脈の分岐前の部分および大腿動脈を特定解剖学的構造物として用い、両者のCT値が十分に高いかどうかによって画像品質を評価することができる。腹部大動脈の分岐前の部分および大腿動脈は、評価対象である腹部から大腿部に含まれる解剖学的構造物である。
【符号の説明】
【0111】
100 薬液注入装置
300 撮像装置
350 ネットワーク
360 HIS
370 RIS
380 PACS
700 医用画像品質評価装置
701 画像品質評価部
702 表示制御部
705 装置制御部
710 制御ユニット
711 表示デバイス
712 入力デバイス
715 記憶部
720 インターフェース