IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特開2024-133068リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質
<>
  • 特開-リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質 図1
  • 特開-リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質 図2
  • 特開-リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質 図3
  • 特開-リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質 図4
  • 特開-リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133068
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用のその場重合されたポリマー電解質
(51)【国際特許分類】
   C08F 218/00 20060101AFI20240920BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240920BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240920BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 4/04 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 31/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F218/00
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0565
H01M10/058
H01B1/06 A
C08F4/04
C08F2/44 B
C08L31/00
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024097781
(22)【出願日】2024-06-18
(62)【分割の表示】P 2021572001の分割
【原出願日】2019-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】スー,シャシャ
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,ジンファ
(72)【発明者】
【氏名】フェン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ホンピン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,フイチャオ
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ツィーシン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジュン
(57)【要約】
【課題】
例えば、リチウム金属電池用のセルロースセパレータを用いるその場重合されたポリマー電解質に関する。
【解決手段】
その場(in situ)重合されたポリマー電解質を形成することができる、ポリマー電解質前駆体組成物を調製するためのモノマーであって、前記組成物は、A1)第一のモノマー、及びA2)第二のモノマーを含むか、本質的にからなるか、又はからなる、モノマーの提供である。ポリマー電解質前駆体原料組成物、ポリマー電解質を形成することができるポリマー電解質前駆体組成物、ポリマー電解質及び電気化学的装置もまた提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その場(in situ)重合されたポリマー電解質を形成することができる、ポリマー電解質前駆体組成物を調製するためのモノマーであって、前記ポリマー電解質前駆体組成物は、以下の:
A1)第一のモノマーであって、不飽和炭酸エステルモノマー:及び
A2)第二のモノマーであって、以下の式(II):
【化1】

(式中、Rはメチル、-CHOH、エチル、又は-CHCHOHを表し、
a、b、cは各々独立して0、1、2、又は3であり、a+b+cは2又は3以上である)
で表されるモノマー;
を含むか、又はからなる、モノマー。
【請求項2】
第一のモノマーは、以下の式(I):
【化2】

(式中、Rは、H、F、メチル又はエチルを表す)
で表されるモノマーである、請求項1に記載のモノマー。
【請求項3】
第一のモノマーは、炭酸ビニレンである、請求項1に記載のモノマー。
【請求項4】
第二のモノマーは、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートである、請求項1に記載のモノマー。
【請求項5】
第一のモノマーと第二のモノマーの質量比は、20:0.5~20:10である、請求項1~3のいずれか一項に記載のモノマー。
【請求項6】
第一のモノマーと第二のモノマーの質量比は、20:2~20:5である、請求項1~3のいずれか一項に記載のモノマー。
【請求項7】
第一のモノマーと第二のモノマーの質量比は、20:3~20:5である、請求項1~3のいずれか一項に記載のモノマー。
【請求項8】
その場重合されたポリマー電解質を形成することができる、ポリマー電解質前駆体組成物を調製するためのポリマー電解質前駆体原料組成物であって、以下の:
A)請求項1~7のいずれか一項に記載のモノマー;及び、
B)前記モノマーの熱重合反応のためのフリーラジカル開始剤;
を含むか、又はからなる、ポリマー電解質前駆体原料組成物。
【請求項9】
その場重合されたポリマー電解質を形成することができるポリマー電解質前駆体組成物であって、以下の:
A)請求項1~7のいずれか一項に記載のモノマー;
B)前記モノマーの熱重合反応のためのフリーラジカル開始剤;
C)リチウム塩;及び、
D)場合によっては、有機溶媒であって、前記有機溶媒は、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、0%~70質量%である;
を含むか、又はからなる、ポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項10】
前記有機溶媒は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネートである、請求項9に記載のポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項11】
前記有機溶媒は、10%~60質量%である、請求項9に記載のポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項12】
前記有機溶媒は、20%~50質量%である、請求項9に記載のポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項13】
リチウム塩はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである、請求項9に記載のポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項14】
前記モノマーの量は、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、5~80質量%である、請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項15】
前記モノマーの量は、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、25~75質量%である、請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項16】
ポリマー電解質をその場(in situ)で調製する方法であって、以下の:
1)請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物を、電極アセンブリを備えた電池ケースに注入した後、密封する工程;及び、
2)前記ポリマー電解質前駆体組成物を、加熱により、その場重合する工程;
を含む、方法。
【請求項17】
請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物によって形成されるか、又は請求項16の方法に従って調製される、ポリマー電解質。
【請求項18】
フリーラジカル開始剤を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載のモノマーの反応生成物であるポリマーを含む、充電式電池用のポリマー電解質。
【請求項19】
充電式電池用のポリマー電解質であって、以下の:
(i)フリーラジカル開始剤を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載のモノマーの反応生成物であるポリマー、及び、
(ii)0.44mS/cm以下のイオン伝導率を達成するのに有効な量のイオン性塩を含む有機溶媒、
を含む、ポリマー電解質。
【請求項20】
アノード、カソード、前記アノードと前記カソードとを分離する微孔性セパレータ、及び、ゲルである請求項17~19のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含む、充電式電池。
【請求項21】
請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物により、その場で調製されたポリマー電解質を含む、リチウムイオン電池。
【請求項22】
請求項17~19のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含む、電気化学的装置。
【請求項23】
電極アセンブリを備える、装着された電池ケース、及び
請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物を含む装置であって、
前記ポリマー電解質前駆体組成物は前記電池ケースに挿入され、密封されている、
装置。
【請求項24】
ポリマー電解質を形成することができるポリマー電解質前駆体組成物であって、以下の:
A)ビニレンカーボネート及びトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートからなるモノマー;
B)前記ビニレンカーボネート及び前記トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートの全質量に基づいて、0.1~3質量%のフリーラジカル開始剤;
C)リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;及び、
D)エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート;
を含むか、又はからなり、
ここで、前記ビニレンカーボネート及び前記トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートの量は、前記ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、25~75質量%であり、前記ビニレンカーボネートと前記トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートの質量比は、20:2~20:5である、
ポリマー電解質前駆体組成物。
【請求項25】
請求項1~7のいずれか一項に記載のモノマー、又は請求項8に記載のポリマー電解質前駆体原料組成物、又は請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー電解質前駆体組成物の、その場重合されたポリマー電解質又は電気化学的装置の調製における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、リチウム金属電池用のセルロースセパレータを用いるその場重合されたポリマー電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)は、携帯電子装置、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、及びエネルギー貯蔵システムに広く用いられている。しかしながら、様々なエネルギー蓄積装置及びシステムの開発及び要望に伴い、高エネルギー密度蓄積システムが早急に必要とされている。リチウム金属系蓄電池(LMBs)は、理論的に最も高い比容量(3860mAh g-1)と最も低い酸化還元電位(標準水素電極に対して-3.04V)を付与することができるため、理想的なアノード候補である。残念ながら、リチウムめっき/ストライピングプロセス中のリチウム樹枝状結晶及び苔状金属堆積物の形成及び成長が制御されず、潜在的な安全性の問題、電解質の連続的分解、固体電解質界面の連続的破壊/再構成、及びクーロン効率(CE)が低くなるといった可能性がある。液体電解質をポリマー電解質又は固体ポリマー電解質で置換することにより、リチウム樹枝状結晶の成長を効果的に抑制し、火災、爆発、及び電解質漏洩等の安全性の問題を解決することができる。しかしながら、固体ポリマー電解質は、室温でのイオン伝導性が低く、界面抵抗が高く、実用化に必要な要件を満たすことが困難である。
【0003】
液体電解質と固体電解質の長所を兼ね備えたポリマー電解質は,イオン伝導性が理想的であり,室温での電気化学的性能に優れ,かつ液漏れがないことが示されてきた。さらに重要なことに、最近の研究では、ポリマー電解質は、機械的強度が良好な剛性骨格を用いて、Li樹枝状結晶の成長を抑制することができることが示されている。
【0004】
しかしながら、ポリマー電解質の従来の調製プロセスは、高価かつ複雑に、大量の溶媒を消費するため、ポリマー電解質の開発に対する深刻な障害となっている。その場重合は、溶媒がいらないホットプレス法であり、ポリマー電解質LMBs用の簡易かつ強力な技術であり、溶媒の消費と面倒な調製プロセスを回避する。
【0005】
その場ポリマー電解質は、有機溶媒、リチウム塩、重合可能なモノマー及び熱開始剤からなる前駆体溶液から熱的に調製される。モノマーが異なると、電解質系に対する効果が異なる。炭酸ビニレン(VC)は、固体電解質界面(SEI)の主成分として機械的性質に優れ、電気化学的安定性ウインドウが広く、及び電極との界面適合性に優れるポリ(ビニレンカーボネート)(PVCA)に重合することができる。さらに、架橋剤は、低含有量でのモノマー重合を促進することができる。VCと架橋剤の組合せにより優れたポリマー骨格を形成した。さらに、ミクロン孔を多数備え、機械的強度及び弾性が良好であるセルロース膜は、その場重合における応用範囲が広範であろう。セルロース膜が薄いほど、電池性能が良好になるため、適当なリチウムイオン透過抵抗が得られる。
【0006】
非特許文献1は、ポリ(ビニレンカーボネート)(PVCA)系の固体ポリマー電解質までの電気化学的安定性ウインドウは、Li/Li+に対して4.5Vであり、LiCoO/Li蓄電池に対してイオン伝導率が、50℃で9.82×10-5Scm-1であったことを解明した。LiCoO/Li蓄電池は、電流密度0.1Cで約97mAh g-1の可逆容量しか供給しなかったが、これはPVCA-SPEのイオン伝導率が低く、25℃での分極が大きいためであった。
【0007】
さらに、非特許文献2は、LiFe0.2Mn0.8PO/グラファイトリチウムイオン電池に対して1.0℃で1000サイクル後に供給された容量保持(88.7%)を、イオン伝導率が5.59×10-4S cm-1かつ電気化学的安定性ウインドウが4.8V対Li/Liである、簡易なその場重合法を介してPVCA系ポリマー電解質を開発した。ここでは、黒鉛をアノードとして用いた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Chai et al.Advance Science,Vol.4(2016),pp.1600377
【非特許文献2】J.Chai et al.ACS Apply Material Interfaces,Vol.9(2017),pp17897-17905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、その場重合による新規なポリマー電解質を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、異なるモノマー、例えば不飽和炭酸エステルモノマー及びトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートが、リチウム金属をアノードとして用いる場合、市販の液体電解質と比較してサイクル性能及び電気化学的安定性ウインドウ等の優れた性能を示す、ポリマー電解質用の優れたポリマー骨格を形成し得ることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1により、VC及びトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(ETPTA)が完全に反応したことを証明する赤外線試験結果を示すグラフである。
図2】実施例2(図2(a))及び比較例1(図2(b))で各々調製した電解質でサイクルした後のリチウム箔の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す写真である。
図3】実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1で調製した電解質のサイクル性能を0.5Cの速度で示したグラフである。
図4】実施例1、実施例2、実施例3、及び比較例1で調製したポリマー電解質の電気化学的安定性ウインドウ試験結果を示すグラフである。
図5】実施例1(25%)、実施例2(50%)及び実施例3(75%)で調製したポリマーのイオン伝導率を示すグラフである。図5(b)及び図5(c)は、図5(a)の左下隅の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、その場(in situ)重合されたポリマー電解質を形成することができる、ポリマー電解質前駆体組成物を調製するためのモノマー(すなわち、モノマー組成物又はモノマーの組成物)を提供するが、前記組成物は、以下の:
A1)第一のモノマーであって、不飽和炭酸エステルモノマー、好ましくは以下の式(I):
【0013】
【化1】

(式中、Rは、H、F、メチル又はエチルを表す)
で表されるモノマー、より好ましくは、炭酸ビニレン(VC);及び、
A2)第二のモノマーであって、以下の式(II):
【0014】
【化2】

(式中、Rはメチル、-CHOH、エチル、又は-CHCHOHを表し、
a、b、cは各々独立して0、1、2、又は3であり、a+b+c≧2、好ましくはa+b+c≧3である)
で表されるモノマー、好ましくはトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(ETPTA);
を含むか、本質的にからなるか、又はからなる。
【0015】
当該モノマーを用いて、ポリマー電解質前駆体組成物を調製することができ、それを用いて、その場重合されたポリマー電解質を形成することができる。
いくつかの例では、第一のモノマーと第二のモノマーの質量比は、20:0.5~20:10、例えば20:2~20:5、最も好ましくは20:3~20:5である、
【0016】
本発明は、さらに、その場重合されたポリマー電解質を形成することができる、ポリマー電解質前駆体組成物を製造するための、ポリマー電解質前駆体原料組成物であって、以下の:
A)本発明のモノマー;及び、
B)前記モノマーの熱重合反応のためのフリーラジカル開始剤;
を含むか、本質的にからなるか、又はからなる、ポリマー電解質前駆体原料組成物を提供する。
【0017】
本発明は、さらに、その場重合されたポリマー電解質を形成することができるポリマー電解質前駆体組成物であって、以下の:
A)本発明のモノマー;
B)前記モノマーの熱重合反応のためのフリーラジカル開始剤;
C)リチウム塩、好ましくはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;及び、
D)場合によっては、有機溶媒であって、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、0%~70質量%、好ましくは10%~60質量%の、より好ましくは20%~50質量%の、好ましくはエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート;
を含むか、本質的にからなるか、又はからなる、ポリマー電解質前駆体組成物を提供する。
好ましくは、当該モノマーの量は、5~80質量%、例えば、10~80質量%、20~80質量%である。より好ましくは、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて25~75質量%である。好ましくは、第一のモノマーと第二のモノマーの質量比は、20:0.5~20:10、最も好ましくは20:3~20:5である。
好ましくは、ポリマー電解質前駆体組成物は有機溶媒を含む。
【0018】
本発明のその場重合されたポリマー電解質を形成することができるポリマー電解質前駆体組成物を調製する方法は、慣用された方法であってよく、例えば、ポリマー電解質前駆体組成物の成分を混合する工程を含む方法である。
【0019】
本発明は、さらに、ポリマー電解質をその場(in situ)で調製する方法であって、以下の:
1)本発明のポリマー電解質前駆体組成物を、電池ケースに注入した後、密封する工程;及び、
2)前記ポリマー電解質前駆体組成物を、加熱により、その場重合する工程;
を含む、方法を提供する。
【0020】
一例では、第一のモノマーと第二のモノマーの反応は、以下:
【0021】
【化3】

のように概略的に示すことができる。
【0022】
本発明はさらに、ポリマー電解質、特にゲルポリマー電解質を提供し、ここで、前記ポリマー電解質は、本発明の第一のモノマー及び第二のモノマー、特に本発明のモノマーを含む、ポリマー電解質前駆体組成物(の重合)によって形成される。
【0023】
本発明は、さらに、フリーラジカル開始剤を備える、本発明のモノマーの反応生成物であるポリマーを含む、充電式電池用のポリマー電解質を提供する。
【0024】
本発明は、さらに、充電式電池用のポリマー電解質であって、以下の:
(i)フリーラジカル開始剤を備える、本発明のモノマーの反応生成物であるポリマー、及び、
(ii)約0.44mS/cm以下のイオン伝導率を達成するのに有効な量のイオン性塩を含む有機溶媒、
を含む、ポリマー電解質を提供する。
いくつかの例では、イオン性塩はリチウム塩である。
いくつかの例では、モノマーの量は、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、20~80質量%であり、好ましくは、25~75質量%である。
【0025】
ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、リチウム塩の量が約25質量%であって、第一のモノマー及び第二のモノマーの量が約75質量%を超える場合、組成物によって形成されるポリマー電解質は、完全固体状態であるが、第一のモノマー及び第二のモノマーの量が約25質量%未満である場合、モノマーの重合は、不完全であり、ゲル状態を良好に形成できない。したがって、好ましくは、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、リチウム塩の量が約25質量%であって、第一のモノマー及び第二のモノマーの量は、ポリマー電解質組成物又はポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、75質量%以下かつ25質量%以上である。
【0026】
本発明はさらに、本発明によるポリマー電解質前駆体組成物によってその場で調製されたポリマー電解質を提供する。ポリマー電解質は、当技術分野における従来の方法に従って調製することができる。
本発明はさらに、アノード、カソード、前記アノードと前記カソードとを分離する微孔性セパレータ、及び、ゲルである本発明のポリマー電解質を含む、充電式電池を提供する。
本発明は、さらに、本発明によるポリマー電解質前駆体組成物により、その場で調製されたポリマー電解質を含む、リチウムイオン電池を提供する。
本発明は、さらに、本発明によるポリマー電解質を含む電気化学的装置を提供する。
いくつかの例では、電気化学的装置は、二次電池である。
【0027】
本発明は、さらに、以下の:
電極アセンブリを備える、装着された電池ケースを作製する工程;
本発明のポリマー電解質前駆体組成物を前記電池ケースに挿入した後、密封する工程;及び、
前記ポリマー電解質前駆体組成物を重合する工程;
により、製造される装置を提供する。
重合は、加熱によって行うことができる。
【0028】
本発明のポリマー電解質は、ゲル状態(すなわち、ゲルポリマー電解質)であっても、固体状態(すなわち、固体ポリマー電解質)であってもよく、好ましくは、ポリマー電解質はゲル状態である。本発明のポリマー電解質前駆体組成物の場合、ポリマー電解質のゲル又は固体状態は、ポリマー電解質前駆体組成物中の有機溶媒の量によって調整されることができる。例えば、実施例1~3に示すように、ポリマー電解質前駆体組成物が有機溶媒を含まない場合、得られたポリマー電解質は固体であり、ポリマー電解質前駆体組成物が、例えば、10%~70質量%の有機溶媒を含む場合、得られたポリマー電解質はゲル状である。
本発明の電解質を用いることができるリチウムイオン電池の型に特別な制限はない。特に、リチウムイオン電池はLMBである。
【0029】
本発明は、さらに、本発明のモノマー、又は本発明のポリマー電解質前駆体原料組成物、又は本発明のポリマー電解質前駆体組成物の、その場重合されたポリマー電解質又は電気化学的装置の調製における使用を提供する。
【0030】
当業者は、本発明のポリマー電解質を用いて、リチウムイオン電池用の適当なセパレータを決定することができる。例えば、セパレータは、表面改質又は未改質であってよく、厚さが30μm未満、20μm未満であってよく、多孔度は、70%を超えるか、さらに80%を超えてよく、材料は、例えば、セルロース又はポリテトラフルオロエチレンであってよい。
【0031】
第一のモノマー
いくつかの例では、炭酸エステルモノマーは、好ましくは、化学式:C、及びCASログイン番号が872-36-6であるビニレンカーボネートである。
【0032】
第二のモノマー
第二のモノマーは、好ましくはトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(ETPTA)か、又はトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート等のETPTAと分子構造が類似する他のモノマーである。
トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(ETPTA)は平均Mnが約428であり、CASログイン番号がN28961-43-5である。
【0033】
フリーラジカル開始剤
モノマーの重合反応のフリーラジカル開始剤は、モノマーの熱重合反応用であり、当技術分野で通常用いられるものであってよい。
フリーラジカル開始剤又は重合開始剤の例としては、2,2-アゾビス(2-シアノブタン)、2,2-アゾビス(メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスジメチル-バレロニトリル(AMVN)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ジラウリル、過酸化ジ-tert-ブチル、過酸化クミル、過酸化水素等のペルオキシ化合物、及びヒドロペルオキシドがあげられる。好ましくは、AIBN、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V65)、ジ-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)-ペルオキシジカーボネート(DBC)等を用いることができる。
好ましくは、フリーラジカル開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソヘプタンニトリル(ABVN)、過酸化ベンゾイル(BPO)、ラウロイルペルオキシド(LPO)等から選択することができる。より好ましくは、フリーラジカル開始剤は、アゾビスイソブチロニトリルである。
フリーラジカル開始剤の量は従来から用いられているものを用いてよい。好ましくは、フリーラジカル開始剤の量は、モノマーの全質量に基づいて、0.1~3質量%、より好ましくは約0.5質量%である。
【0034】
重合開始剤は、40~80℃の一定温度で分解してラジカルを形成し、フリーラジカル重合を介してモノマーと反応してゲルポリマー電解質を形成することができる。一般に、フリーラジカル重合は、高反応性又は活性部位がある一過性分子の形成を含む開始、活性鎖末端へのモノマーの付加による鎖の末端での活性部位の再形成を含む伝搬、活性部位の他の分子への移動を含む鎖移動、及び活性鎖中心の破壊を含む終結からなる順次の反応によって行われる。
【0035】
リチウム塩
リチウム塩は、非水性電解質に溶解してリチウムイオンを解離させる物質である。
リチウム塩は、当該技術分野で通常用いられるものであってよく、非限定的な例としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムジフルオロオキサレート(LiODFB)、LiAsF、LiClO、LiN(CFSO、LiBF4、LiSbF、及びLiCl、LiBr、LiI、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAlCl、CHSOLi、(CFSOLi)NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム及びイミドから選択される少なくとも1つであり得る。リチウム塩は、好ましくは、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。これらの材料は、単独で、又はそれらのいかなる組み合わせで用いることができる。
リチウム塩の量も、慣用的に用いられている量であってよく、例えば、5~40質量%である。最も好ましくは、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、約25質量%である。
【0036】
有機溶媒
有機溶媒は、当該技術分野において慣用的に用いられているものを用いてよい。例えば、有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、メチルプロピオン酸及びエチルプロピオン酸塩であってもよい。これらの材料は、単独で、又はそれらのいかなる組み合わせで用いることができる。
いくつかの例では、有機溶媒は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、トリエチレングリコールジメチルエーテル等から選択される。いくつかの例では、有機溶媒は好ましくは、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC、EC/DMC=50/50(v/v))である。
【0037】
有機溶媒の量は慣用的に用いられている量であってよい。例えば、有機溶媒の量は、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、0%~70質量%、例えば、0%~65質量%であり得る。0~60質量%、0~55質量%、5~70質量%、5~65質量%、5~60質量%、5~55質量%、好ましくは、10%~70質量%、10~65質量%、10~60質量%、10~55質量%、より好ましくは、20%~50質量%であってよい。
さらに、充放電特性及び難燃性を改善するために、例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム、ヘキサリントリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン色素、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウム等を電解質に添加することができる。必要に応じて、電解質は、四塩化炭素及び三フッ化エチレン等のハロゲン含有溶媒をさらに含んで、難燃性を付与することができる。
【0038】
電気化学的装置は、電気化学反応を受けるあらゆる種類の装置を包含する。電気化学的装置の例としては、あらゆる種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、コンデンサなど、好ましくは二次電池があげられる。
一般に、二次電池は、カソードとアノードで構成される電極アセンブリに電解質を含めることによって製造される。電極アセンブリは、セパレータを介して互いに対向している。
【0039】
カソードは、例えば、カソード活物質、導電性物質、及びバインダの混合物をカソード集電体に適用した後、乾燥及び圧縮することにより、製造される。必要であれば、上記混合物に充填剤をさらに加えてもよい。
カソード電流コレクタは、一般に、厚さが3~500μmになるように製造される。製造された電池に、化学的変化がおこらず、かつ、導電率が高ければ、カソード集電体の材料には特に制限はない。カソード集電体の材料の例としては、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、及び炭素、ニッケル、チタン又は銀で表面処理されたアルミニウム又はステンレス鋼があげられる。電流コレクタは、カソード活性材料への接着性を高めるように、表面に微細な凹凸を付与するように製造されてよい。さらに、電流コレクタは、フィルム、シート、フォイル、ネット、多孔質構造、発泡体及び不織布を含む様々な形態をとることができる。
【0040】
本発明で用いることができるカソード活性材料の例としては、以下の:コバルト酸化リチウム(LiCoO)及びニッケル酸化リチウム(LiNiO2)等の層状化合物、又は1つ以上の遷移金属で置換された化合物;リチウムマンガン酸化物、例えば式Li1+×Mn2-x(0≦x≦0.33)、LiMnO、LiMn及びLiMnOの化合物;リチウム銅酸化物(LiCuO);バナジウム酸化物、例えばLiV、V及びCu;式LiNi1-x(M=Co、Mn、Al、Cu、Mg、B又はGa、及び0.01≦x≦0.3)のニッケル酸化リチウム;リチウムマンガン複合酸化物、式LiMn2-x(M=Co、Ni、Fe、Cr、Zn又はTa、及び0.01≦x≦0.1)又はLiの一部がアルカリ土類金属イオンで置換された式LiMnMO(M=Fe、Co、Ni)のリチウムマンガン複合酸化物、LiMn、ジスルフィド化合物、Fe(MoO、LiFe等があげられるが、これらに限定されない。
【0041】
導電性材料は、通常、カソード活性材料を含む混合物の全質量に基づいて、1~50質量%の量で添加される。製造された電池に、化学的変化がおこらず、かつ、導電率が高ければ、導電性材料に特に制限はない。導電性材料の例としては、天然又は人工グラファイト等のグラファイト;カーボンブラック;アセチレンブラック;ケツェンブラック;チャンネルブラック;ファーネスブラック;ランプブラック及びサーマルブラック等のカーボンブラック;導電性繊維;炭素繊維及び金属繊維等の金属粉末;フッ化炭素粉末;アルミニウム粉末及びニッケル粉末等の導電性ウィスカー;酸化亜鉛及びチタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;及びポリフェニレン誘導体を含む導電性材料があげられる。
【0042】
バインダは、活性材料と導電性材料との間の結合、及び電流コレクタとの結合を補助する構成要素である。バインダは、通常、カソード活性材料を含む混合物の全質量に基づいて、1~50質量%の量で添加される。結合剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フルオロゴム、及び様々な共重合体があげられる。
【0043】
充填剤は、カソード膨張を抑制するために用いられる成分を場合によっては用いてよい。製造された電池に、化学的変化がおこらず、かつ、導電率が高ければ、充填剤に特に制限はない。充填剤の例としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のオレフィンポリマー、ならびにガラス繊維及び炭素繊維等の繊維状材料が用いられてよい。アノードは、アノード電流コレクタにアノード活性材料を塗布し、その後乾燥することによって製造される。必要に応じて、上記の他の構成要素をさらに含むことができる。
【0044】
アノード電流コレクタは、一般に、厚さが3~500μmになるように製造される。製造された電池に、化学的変化がおこらず、かつ、導電率が高ければ、アノード電流コレクタの材料には特に制限はない。アノード集電体の材料の例としては、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、銅又は炭素、ニッケル、チタン又は銀で処理された表面を有するステンレス鋼、及びアルミニウム-カドミウム合金があげられる。カソード電流コレクタと同様に、アノード活性材料への接着強度を高めるために、アノード電流コレクタを処理して、その表面に微細な凹凸を形成することもできる。さらに、アノード電流コレクタは、フィルム、シート、フォイル、ネット、多孔質構造、フォーム及び不織布を含む様々な形態で用いることができる。
【0045】
本発明において利用可能なアノード活性材料の例としては、非黒鉛化炭素及び黒鉛系の炭素等の炭素;LiFe(0≦x≦1)、LiWO(0≦x≦1)及びSnMe1-xMe’(Me:Mn、Fe、Pb又はGe;Me’:Al、B、P、Si、元素周期表のI族、II族及びIII族元素、又はハロゲン;0≦x≦1;1≦y≦3;及び1≦z≦8)等の金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;シリコン系合金;スズ系合金;SnO、SnO、PbO、Pb、Pb、Sb、Sb、GeO、GeO、Bi、Bi、及びBi等の金属酸化物;及びLi-Co-Ni系材料があげられる。
【0046】
本発明による二次電池は、例えば、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池等があげられる。二次電池は、様々な形態で製造することができる。例えば、電極アセンブリは、ゼリーロール構造、スタック構造、スタック/折りたたみ構造等として構成することができる。電池は、電極アセンブリが円筒形缶、角柱形缶、又は金属層と樹脂層とを含む積層シートの電池ケース内に取り付けられる構成をとることができる。電池の当該構成は、当技術分野において周知である。
【0047】
ある例では、本発明は、ポリマー電解質を形成することができるポリマー電解質前駆体組成物であって、以下の:
A)ビニレンカーボネート及びトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートからなるモノマー;
B)前記ビニレンカーボネート及び前記トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートの全質量に基づいて、0.1~3質量%のフリーラジカル開始剤;
C)リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;及び、
D)エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート;
を含むか、本質的にからなるか、又はからなり、
ここで、前記ビニレンカーボネート及び前記トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートの量は、前記ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて、25~75質量%であり、前記ビニレンカーボネートと前記トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートの質量比は、約20:2~20:5である、
ポリマー電解質前駆体組成物を提供する。
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの量は、好ましくは、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量に基づいて約25質量%である。エチレンカーボネート/ジメチルカーボネートの量は、好ましくは、ポリマー電解質前駆体組成物の全質量を基準にして0%~50質量%である。
【0048】
従って、本発明は、本発明のポリマー電解質前駆体組成物のその場重合された新規なポリマー電解質を提供する。ポリマー電解質は、その場で調製することができ、電解質の厚さは、便利に制御することができる。さらに、モノマー、例えば、第一のモノマーと第二のモノマーの組み合わせは、優れたポリマー骨格を形成し、市販の液体電解質と比較して、サイクル性能に優れ、かつ及び電気化学的安定性ウインドウがより高い。さらに、ポリマー電解質は非可燃性であり、従来の液体電解質より安全であることが示される。また、リチウム金属をアノードとして用いると、図2に示すような電解質の優れた機械的性質により、リチウム樹枝状結晶の生成が抑制され、また、従来のようにリチウム金属電池の溶媒を大量に消費することがないため、LMBで用いるのに特に適する。従来のPEO系ポリマー電解質と比較して、本発明のポリマー電解質はイオン伝導性に優れ、電気化学的ウインドウがより広く、かつ、サイクル性能がより良好である。
本発明の他の利点は、明細書の記載から当業者には明らかであろう。
本発明の内容及び効果を詳細に説明するために、以下、実施例及び比較例、並びに関連する図面を組み合わせて、本発明をさらに説明する。
【0049】
リチウム金属電池の準備
リチウム金属電池は以下:
工程a)電解質前駆体組成物溶液の調製;及び、
工程b)リチウム金属電池の組み立て及び加熱によるその場重合;
の方法で調製した。
工程a)及びb)を、アルゴンガス(HO、O≦0.5ppm)を充填したグローブボックス中で実施した。
【実施例0050】
1)前駆体電解質液の調製:
トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート0.098g(ETPTA、平均Mn~428)、ビニレンカーボネート0.652g(VC)、EC/DMC1.5g(EC/DMC=50/50(v/v))、LiTFSI0.75g及びAIBN3.75mgを混合し、25℃で0.5時間撹拌し、前駆体電解質液を得た。
【0051】
2)セルのアセンブリと加熱によるその場重合:
LiFePO(LFP)カソードを以下のように調製した。質量比80:10:10のLFP、アセチレンブラック、及びポリ(ビニリデンジフルオリド)を混合して粘性スラリーを形成した。次に、平坦な炭素被覆アルミニウム箔を、ドクターブレード法により粘性スラリーで被覆した。粘性スラリーで被覆した炭素被覆アルミニウム箔を、空気循環オーブン中で70℃で1時間乾燥し、さらに100℃で高真空下で12時間乾燥し、LiFePOカソードを得た。活性物質(LiFePO)の質量負荷は5.3~6.2mg cm-2であった。前駆体電解質液を、カソードとアノード(Li箔)を分離するセルロースセパレータを備えた2032リチウム電池に注入し、次いでセルを60℃で8時間、次いで80℃で4時間加熱した。
加熱プロセス後、アノードとカソードの間の流動性液相のないゲル状態のポリマー電解質を得ることができた。ポリマー電解質のゲル状態は、2032電池が分解されたときに確認できた。
さらに、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を行って、ゲルポリマー電解質の化学構造を解析した。図1から分かるように、重合後、3166cm-1における吸収ピークは消失し、これはC=C二重結合のC-C単結合への化学構造変化に十分帰結された。
【実施例0052】
1)前駆体電解質液の調製:
トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(ETPTA、平均Mn~428)0.1956g、ビニレンカーボネート(VC)1.3043g、EC/DMC 0.75g、LiTFSI 0.75g、AIBN 7.5mgを混合し、25℃で0.5時間撹拌した。
2)実施例1と同様の方法で、セルのアセンブリ及び加熱によるその場重合を行った。
加熱プロセス後、アノードとカソードの間の流動性液相のないゲル状態のポリマー電解質を得ることができた。ポリマー電解質のゲル状態は、2032電池が分解されたときに確認できた。
【実施例0053】
1)前駆体電解質液の調製:
トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(ETPTA、平均Mn~428)0.2935g、ビニレンカーボネート(VC)1.9565g、LiTFSI 0.75g及びAIBN 11.25mgを混合し、25℃で0.5時間撹拌した。
2) 実施例1と同様の方法で、セルのアセンブリ及び加熱によるその場重合を行った。
加熱後、固体状態のポリマー電解質が得られた。ポリマー電解質の固体状態は、2032電池の分解で確認できた。
【0054】
〔比較例1〕
セルのアセンブリ:
EC/DMC(v/v 1/1)中の市販の液体電解質1M LiPFを、カソードとアノードが実施例1と同じであるカソードとアノードを分離するポリプロピレン(PP)セパレータを有する2032リチウム電池に注入した。
【0055】
性能試験
1.電解液のサイクル性能
LiFePOをカソードとして、Li金属をアノードとして、ランド電池試験システム(武漢金王電子有限公司、中国)の室温で電池のサイクル性能を評価した。カットオフ電圧は、充電(Li抽出)では4.2V対Li/Li+、放電(Li挿入)では2.4V対Li/Li+であった。すべての関連するセルは、サイクルの前に、弱電流により活性化される。電気化学的測定値全体のCレートは、1C=160mA g-1に基づいて定義した。試験結果を図3に示すが、図3では固体点が放電容量、中空点がクーロン効率を表している。
【0056】
図3では、全てのセルを0.5℃で評価した。電池の放電容量は、比較例1では100回サイクル後に急速に減少し、容量保持率は77.9%であったが、比較例1の電解質のクーロン効率は99%未満であり、100回サイクルした後には96.5%にまで減少した。実施例1、実施例2及び実施例3のポリマー電解質によるサイクル性能は、放電容量が比較例1のように減少しないことは明白であり、明らかにサイクル性能に優れ、実施例1、実施例2及び実施例3の容量保持率は、各々93.97、98.7%及び97.3%であり、表1に示すように>99%のクーロン効率であった。これは、本発明の実施例1、実施例2及び実施例3で調製したポリマー電解質がサイクル性能に対して有意に優れた効果を有することを意味する。しかし、実施例3で調製した全ての固体ポリマー電解質を有する電池は、イオン伝導率が低いために、放電容量は極めて低かった。
【0057】
【表1】
【0058】
2.電気化学的安定性ウインドウ
本発明のポリマー電解質及び比較例1の液体電解質の電気化学的安定性を、各セルの開回路電圧から5V対5Vの電圧までの10mV S-1の走査速度でSS(ステンレス鋼)/ゲル-ポリマー電解質(GPE)/Liコイン電池を用いて実施した直線掃引ボルタンメトリー(LSV)によって評価した。CHI760e電気化学ワークステーション(上海Chenhua Instruments Co.,Ltd.,China)の室温でのLi/Li試験で得られた結果を図4に示す。
【0059】
図4は、ポリマー電解質と液体電解質の電気化学的安定性ウインドウを示す。比較例1の液体電解質は、約4.6Vの電気化学的安定性ウインドウを示した。明らかに、ポリマー電解質の電気化学的安定性ウインドウは液体電解質の電気化学的安定性ウインドウよりも高かった。本発明に係る実施例1、実施例2及び実施例3のポリマー電解質の電気化学的安定性ウインドウは、約5Vと極めて安定であり、これにより、より良好な電気化学的性能が付与されうる。この約5Vの極めて安定な電気化学的安定性ウインドウは、極めて重要であり、これにより、電池が、新規は高ニッケル含有カソードを用いることができる。
【0060】
3.イオン伝導率
交流(AC)インピーダンス分光を、CHI760e電気化学ワークステーションで測定した。ゲル-ポリマー電解質の電子伝導率を、印加電圧5 mVのSS/GPE/SSセルによって測定し、その結果を図5に示し、実施例のイオン伝導率を図5に基づいて計算し、以下の表2に要約した。
【0061】
【表2】

室温でのイオン伝導率が1.95×10-5S/cmであるポリ(ビニレンカーボネート)(PVCA)が開示され、PVCAポリマー電解質(PVCA)を表す、非特許文献1に開示されているPVCAポリマー電解質と比較して、本発明の固体ポリマー電解質のイオン伝導率(実施例3の4.5×10-5S/cm)の方がより高いことが明らかになった。また、イオン伝導率は、イオン伝導率が約2.1×10-6S/cmという極めて低い従来のPEO系ポリマー電解質よりもはるかに高い(K.Wen et al.J.Mater.Chem.A,Vol.6(2018),pp11631-11663)。さらに、実施例1及び実施例2におけるゲルポリマー電解質のイオン伝導率は、従来技術のPVCA系のゲルポリマー電解質と同等であった。(非特許文献2)。
【0062】
4.リチウム樹枝状結晶形成阻害
200回サイクル後、Li|GPE|実施例2のその場重合されたゲルポリマー電解質を用いたLiFePOセルをアルゴングローブボックス中で分解し、次いでサイクルしたLi箔をジメトキシエタン(DME)に約2時間浸漬してLiTFSIを除去した。比較のために、市販の電解質中で40回繰り返したLi箔(比較例1)を上記と同じ方法で処理した。次に、調製したLi箔試料をSEM(Nova Nano SEM 230,FEI Company,U.S.A.)によって観察した。
【0063】
図2(a)に示すように、ゲルポリマー電解質中でサイクルしたLi箔は、サイクル中に均一なリチウム沈着を示す粒子サイズが10~15μmである密な敷石構造を示し、リチウム樹枝状結晶は検出されなかった。市販の液体電解質中でわずか40回循環させた後、図2(b)に示すように明らかにLi樹枝状結晶が観察され、図2(b)の右上隅の小さな画像に示すように、緩いリチウム沈着が観察された。Li樹枝状結晶及び粉末化Liは、いずれも電池に有害である。結果は、ゲルポリマー電解質がLi樹枝状結晶の形成を効果的に阻害でき、リチウム箔の粉砕を抑制できることを示した。
従って、ポリマー電解質を用いると、電解質の優れた機械的性質のために、リチウム金属アノードを有するLIBにおいてリチウム樹枝状結晶の形成を抑制することができる。
【0064】
本明細書中で使用される用語「含む」等は、特に明記しない限り、「少なくとも含む」を意味するオープンな用語である。
本明細書に記載されている全ての参考文献、試験、基準、文書、出版物等は、参照により本明細書に援用される。数値の限界又は範囲が記載されている場合、終点を含む。また、数値の限界又は範囲内のすべての値及びサブレンジは、明示的に書き出された場合と同様、具体的に含まれる。
上記の説明は、当業者が本発明を製造及び使用できるように提示されるもので、特定の用途及びその要件の文脈において提供される。好ましい実施形態に対する様々な改変は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される包括的原理は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、他の実施形態及び用途に適用され得る。従って、本発明は、図示された実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示された原理及び特徴に合致する最も広い範囲が与えられるべきである。この点に関し、本発明内の特定の実施形態は、本発明のすべての利点を示すものではなく、広義には考察されない。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】