(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013308
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】加工面性状予測装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20240125BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240125BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B23Q17/09 F
G01H17/00 Z
G05B19/18 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115296
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優大
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隼樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄二
【テーマコード(参考)】
2G064
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB24
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC43
2G064DD02
3C029DD14
3C269AB05
3C269BB11
3C269CC02
3C269MN24
3C269MN36
(57)【要約】
【課題】振動によって被加工物の表面に生じるうねりの形状を把握する。
【解決手段】加工面性状予測装置は、回転工具の加工中の振動を測定する第1振動センサから、測定結果を示す第1振動データを取得する第1データ取得部と、取得された第1振動データから加工面を形成するための切れ刃通過周期ごとに抽出して得られるデータを利用して、振動によって被加工物の表面に生じるうねり形状を推定し、推定されたうねり形状に関する情報を出力するうねり形状予測部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工面性状予測装置であって、
回転工具の加工中の振動を測定する第1振動センサから、測定結果を示す第1振動データを取得する第1データ取得部と、
取得された前記第1振動データから加工面を形成するための切れ刃通過周期ごとに抽出して得られるデータを利用して、前記振動によって被加工物の表面に生じるうねり形状を推定し、推定された前記うねり形状に関する情報を出力するうねり形状予測部と、
を備える、
加工面性状予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加工面性状予測装置であって、
前記第1振動データを対象として周波数解析を行うことにより前記振動の振動周波数を推定する振動周波数推定部と、
前記振動周波数を利用してうねり間隔を推定するうねり間隔推定部と、
をさらに備え、
前記うねり形状予測部において前記うねり形状として推定された第1うねり間隔と、前記うねり間隔推定部において推定された第2うねり間隔と、の差異の大きさが予め設定された閾値以下である場合に、前記振動周波数が、前記うねり形状の原因となった周波数であると判定し、推定された前記うねり形状に関する情報および前記振動周波数を出力する、
加工面性状予測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の加工面性状予測装置であって、
前記被加工物の振動を測定する第2振動センサから、測定結果を示す第2振動データを取得する第2データ取得部と、
前記第1振動データと、取得された前記第2振動データと、から、前記回転工具と前記被加工物との相対振動データを算出する相対振動データ算出部と、
をさらに備え、
前記うねり形状予測部は、算出された前記相対振動データを利用して前記うねり形状を推定し、推定された前記うねり形状に関する情報を出力する、
加工面性状予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工面性状予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械における機械加工において、被加工物の加工面品位を推定するために、加工中の工具や被加工物の振動を把握することが好ましい。 特許文献1に記載の加工状態監視方法では、加工中の振動や音を測定し、かかるデータを対象としてフーリエ解析を行うことによりびびり周波数を特定するとともに、びびり振動の発生を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の加工状態監視方法では、びびり振動の発生によって加工面に生じるうねりの形状を把握することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、加工面性状予測装置が提供される。この加工面性状予測装置は、回転工具の加工中の振動を測定する第1振動センサから、測定結果を示す第1振動データを取得する第1データ取得部と、取得された前記第1振動データから加工面を形成するための切れ刃通過周期ごとに抽出して得られるデータを利用して、前記振動によって被加工物の表面に生じるうねり形状を推定し、推定された前記うねり形状に関する情報を出力するうねり形状予測部と、を備える。
この形態の加工面性状予測装置によれば、第1振動センサから取得した回転工具の加工中の振動を示す第1振動データを利用して、振動によって被加工物の表面に生じるうねり形状を推定して出力するので、加工面に生じるうねり形状を把握できる。加えて、うねり形状の推定に複雑な処理を必要としないため、うねり形状を推定する処理の処理速度の低下を抑制できる。
(2)上記形態の加工面性状予測装置において、前記第1振動データを対象として周波数解析を行うことにより前記振動の振動周波数を推定する振動周波数推定部と、前記振動周波数を利用してうねり間隔を推定するうねり間隔推定部と、をさらに備え、前記うねり形状予測部において推定されたうねり間隔である第1うねり間隔と、前記うねり間隔推定部において推定されたうねり間隔である第2うねり間隔と、の差異の大きさが予め設定された閾値以下である場合に、前記振動周波数が、前記うねり形状の原因となった周波数であると判定し、推定された前記うねり形状に関する情報および振動周波数を出力してもよい。
この形態の加工面性状予測装置によれば、うねり形状予測部において推定された第1うねり間隔と、うねり間隔推定部において推定された第2うねり間隔との差異の大きさについて判定するので、推定されたうねり形状の信頼性の低下を抑制できる。
(3)上記形態の加工面性状予測装置において、前記被加工物の振動を測定する第2振動センサから、測定結果を示す第2振動データを取得する第2データ取得部と、前記第1振動データと、取得された前記第2振動データと、から、前記回転工具と前記被加工物との相対振動データを算出する相対振動データ算出部と、をさらに備え前記うねり形状予測部は、算出された前記相対振動データを利用して前記うねり形状を推定し、推定された前記うねり形状に関する情報を出力してもよい。
この形態の加工面性状予測装置によれば、第1振動センサから取得した第1振動データと、第2振動センサから取得した被加工物の振動を示す第2振動データとを利用して相対振動データを算出し、かかる相対振動データを利用してうねり形状を予測するので、うねり形状の予測精度の低下をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の加工面性状予測装置を備える工作機械の概略構成を示す説明図である。
【
図2】第1実施形態の加工面性状予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態の加工面性状予測処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】第1うねり間隔推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】第1うねり間隔推定処理のステップS31において抽出されたデータの一例を示す説明図である。
【
図6】第2うねり間隔推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態の加工面性状予測装置を備える工作機械の概略構成を示す説明図である。
【
図8】第2実施形態の加工面性状予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図9】第2実施形態の加工面性状予測処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A-1.装置構成:
図1は、第1実施形態の加工面性状予測装置70を備える工作機械100の概略構成を示す説明図である。工作機械100は、ベッド10と、工作物テーブル20と、工作物主軸ハウジング30と、コラム40と、工具主軸ハウジング50と、回転工具Tと、第1振動センサ60と、加工面性状予測装置70とを備える。本実施形態では、工作機械100は、横型マシニングセンタとして構成されている。なお、工作機械100は、横型マシニングセンタに限定されず、立型マシニングセンタ、研削盤、フライス盤等でもよい。
【0009】
図1には、互いに直交する3つの座標軸であるX,Y,Z軸を表す矢印が示されている。以下の説明において、X軸に平行である方向を「X方向」、Y軸に平行である方向を「Y方向」、Z軸に平行である方向を「Z方向」と表記する。X、Y、Z軸を表す矢印が指し示す方向は、
図1以降の各図においても同様である。
【0010】
ベッド10は、床面に固定されている。ベッド10は、ベッド10の上面に、X方向に沿って延びる一対のX軸ガイドレール11と、Z方向に沿って延びる一対のZ軸ガイドレール12とを備える。一対のZ軸ガイドレール12は、互いにX方向に所定の距離だけ離れて平行に配置されている。
【0011】
工作物テーブル20は、移動テーブル21と回転テーブル22からなる。移動テーブル21は、X軸ガイドレール11を介してベッド10に設置され、図示しないリニアモータやボールネジ機構により、X軸ガイドレール11に沿ってX方向に移動可能に構成されている。また、回転テーブル22は、移動テーブル21と一体的に移動するとともに、移動テーブル21に対して回転可能に保持されている。
【0012】
工作物主軸ハウジング30は、回転テーブル22に設置され、移動テーブル21および回転テーブル22の動作に応じて一体的に移動可能に構成されている。工作物主軸ハウジング30は、工作物主軸装置31の少なくとも一部を収容している。工作物主軸装置31は、工作物主軸ハウジング30に対して回転可能に保持されている。工作物主軸装置31は、工作物Wを着脱可能に保持し、工作物Wと一体的に回転する。なお、工作物Wは、本開示における「被加工物」に相当する。
【0013】
コラム40は、Z軸ガイドレール12を介してベッド10に設置され、図示しないリニアモータやボールネジ機構により、Z軸ガイドレール12に沿ってZ方向に移動可能に構成されている。コラム40は、Y方向に沿って延びる一対のY軸ガイドレール41を備える。一対のY軸ガイドレール41は、互いにX方向に所定の距離だけ離れて平行に配置されている。
【0014】
工具主軸ハウジング50は、Y軸ガイドレール41を介してコラム40に設置され、図示しないリニアモータやボールネジ機構により、Y軸ガイドレール41に沿ってY方向に移動可能に構成されている。
【0015】
工具主軸ハウジング50は、工具主軸装置51の少なくとも一部を収容している。工具主軸装置51は、工具主軸ハウジング50に対して回転可能に保持されている。工具主軸装置51は、回転工具Tを着脱可能に保持する。
【0016】
回転工具Tは、例えば、フライスカッタ、エンドミル、ドリル等である。回転工具Tは、工具主軸装置51に取り付けられ、工具主軸装置51と一体的に回転する。回転工具Tは、回転しながら工作物Wと接触することにより、工作物Wを加工する。このように加工時に回転工具Tのうち工作物Wと接触する部分を、以下の説明において「加工点」と呼ぶ。なお、「加工点」は、面積を有する微小な面と捉えることもできる。
【0017】
第1振動センサ60は、工具主軸ハウジング50の外面に設置されている。なお、第1振動センサ60の設置位置は、加工点からの距離がより近い箇所であることが好ましい。本実施形態の第1振動センサ60は加速度センサとして構成され、工具主軸ハウジング50の振動によって生じる、工具送り方向に対して垂直方向の加速度を予め設定されたサンプリング周期ごとに測定する。第1振動センサ60は、かかる加速度の時間変化を示す測定結果(以下の説明において、「第1振動データ」とも呼ぶ)を加工面性状予測装置70へ送信する。第1振動センサ60による第1振動データの取得および送信は、第1振動センサ60の電源が入っている間、継続して行われる。なお、第1振動センサ60は加速度センサに限定されず、速度センサまたは変位センサでもよい。
【0018】
図2は、第1実施形態の加工面性状予測装置70の概略構成を示すブロック図である。加工面性状予測装置70は、第1振動センサ60から取得した第1振動データを利用して、加工終了後の工作物Wの表面(以下、「加工面」とも呼ぶ)に生じるうねり形状を予測し、外部機器へ出力する。加工面性状予測装置70は、CPU710と、メモリ720と、通信部730とを備えるコンピュータとして構成されている。本実施形態では、メモリ720は、第1振動センサ60から送信された第1振動データを保持する。
【0019】
CPU710は、第1データ取得部711と、単位変換部712と、うねり形状予測部713と、振動周波数推定部714と、うねり間隔推定部715と、うねり間隔判定部716とを備える。本実施形態では、第1データ取得部711と、単位変換部712と、うねり形状予測部713と、振動周波数推定部714と、うねり間隔推定部715と、うねり間隔判定部716とは、CPU710がプログラムを実行することによって実現される機能部である。各機能部における処理については、後述する加工面性状予測処理において説明する。
【0020】
A-2.加工面性状予測処理:
図3は、第1実施形態の加工面性状予測処理の手順を示すフローチャートである。加工面性状予測装置70は、加工面性状予測処理を実行することにより、加工面に形成されるうねり形状を推定し、推定したうねり形状を外部機器へ出力する。本実施形態では、加工面性状予測処理は、工作機械100による加工終了後に自動的に実行されるように、予めプログラムに組み込まれている。
【0021】
ステップS10において、第1データ取得部711は、メモリ720に保持されていた第1振動データを読み出す。
【0022】
ステップS20において、単位変換部712は、読み出された第1振動データの単位を「加速度」から「変位」に変換する。本実施形態では、単位変換部712は、第1振動データを時間について2階積分することにより、第1振動データの単位を変位に変換する。なお、第1振動センサ60が変位センサとして構成されている場合には、単位が変位である第1振動データが得られるので、本ステップの処理は省略可能である。
【0023】
加工面性状予測装置70は、第1うねり間隔推定処理(ステップS30)と第2うねり間隔推定処理(ステップS40)とを並列して実行する。なお、加工面性状予測装置70は、ステップS30とステップS40とを順番に実行してもよい。
【0024】
図4は、第1うねり間隔推定処理の手順を示すフローチャートである。ステップS31において、うねり形状予測部713は、単位変換されたデータから加工面を形成するための切れ刃通過周期ごとにデータを抽出する。このようにデータを抽出することにより、加工面のうち、Z方向に平行な直線上に、切れ刃が接触した際の加工面に対して垂直方向の位置を示すデータを抽出することができる。
【0025】
ステップS32において、うねり形状予測部713は、抽出されたデータを利用して、うねり形状を推定する。本実施形態では、うねり形状予測部713はうねり形状として、うねり振幅Aと、うねり開始位置Psと、うねり間隔とを推定する。うねり振幅Aは、工作物Wの加工面に対して垂直方向のうねりの振幅を意味する。うねり開始位置Psは、工作物WのZ方向において、測定開始位置を基準とした、うねりの形成が開始された位置を意味する。うねり間隔は、周期的に形成されるうねりの1周期分の長さを意味する。
【0026】
図5は、ステップS31において抽出されたデータの一例を示す説明図である。本実施形態におけるうねり形状の推定方法について、
図5を参照しながら説明する。
図5において、横軸は測定開始位置を基準とする距離を示し、縦軸はうねり高さを示している。なお、測定開始位置を基準とする距離は、測定開始からの経過時間と、予め設定された回転工具Tの送り速度とを利用して求められる。
【0027】
うねり形状予測部713は、うねり形状予測部713は、抽出されたデータにおいて、うねり高さが最大である最大点Hmaxと、うねり高さが最小である最小点Hminとのそれぞれの点におけるうねり高さの差分を取ることにより、うねり振幅Aを算出する。また、うねり形状予測部713は、うねり高さが予め設定された閾値Th以上に最初に至った位置をうねり開始位置Psとして取得する。また、10周期分のうねりの長さdを測定し、長さdを周期の数10で除す、言い換えれば、10周期分のうねりのうねり間隔の平均値を取ることにより、うねり間隔を算出する。かかるうねり間隔を、以下の説明において「第1うねり間隔」と呼ぶ。うねり形状を推定した後、うねり形状予測部713は、第1うねり間隔推定処理を終了する。なお、うねり振幅Aが予め設定された閾値未満である場合、工作物Wの加工面にうねりは生じていないとして、うねり間隔およびうねり開始位置Psは取得せず、うねり形状予測部713は、第1うねり間隔推定処理を終了する。
【0028】
図6は、第1実施形態の第2うねり間隔推定処理の手順を示すフローチャートである。ステップS41において、振動周波数推定部714は、単位変換部712において単位変換されたデータを対象としてフーリエ解析を行い、振動周波数を推定する。より具体的には、振動周波数推定部714は、単位変換されたデータをフーリエ変換して得られるピーク周波数であって、工作物Wの加工面を形成するための切れ刃通過周波数の整数倍と一致しないピーク周波数のうちのピーク高さが最も大きいピーク周波数を、振動周波数であると推定する。なお、本ステップにおけるフーリエ解析は、本開示における「周波数解析」に相当する。
【0029】
ステップS42において、うねり間隔推定部715は、振動周波数を利用してうねり間隔を推定する。まず、うねり間隔推定部715は、振動周波数を、加工面を形成するための切れ刃通過周波数で除した余りからうねり周波数を算出する。具体的には、前記余りが加工面を形成するための切れ刃通過周波数の1/2の周波数より小さい場合は、前記余りをうねり周波数とし、前記余りが前記1/2周波数より大きい場合は、前記1/2周波数を対象軸として低周波数側に折り返した値をうねり周波数とする。そして、うねり間隔推定部715は、回転工具Tに対する工作物Wの1秒間当たりのZ方向の移動量に、かかるうねり周波数を除することにより、うねり間隔を算出する。本ステップの終了後、うねり間隔推定部715は、第2うねり間隔推定処理を終了する。なお、本処理において推定されるうねり間隔を、以下の説明において「第2うねり間隔」と呼ぶ。
【0030】
ステップS30とステップS40との終了後、
図3のステップS50において、うねり間隔判定部716は、第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさが予め設定された閾値以下であるか否かを判定する。第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさが閾値以下であると判定された場合(ステップS50:Yes)、振動周波数推定部714において推定された振動周波数が、うねり形状の原因となった振動の周波数であると判定できる。かかる場合には、うねり間隔判定部716は、うねり形状予測部713において推定されたうねり形状と、うねり間隔推定部715において推定された振動周波数とを、通信部730を介して外部機器へ出力する(ステップS60)。なお、本実施形態では、「うねり形状の出力」は、うねり形状予測部713において推定されたうねり間隔と、うねり振幅Aと、うねり開始位置Psとを含む情報の出力を意味する。本ステップの終了後、加工面性状予測装置70は、加工面性状予測処理を終了する。
【0031】
他方、第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさが閾値より大きいと判定された場合(ステップS50:No)、振動周波数推定部714において推定された振動周波数の振動とは異なる振動が生じている可能性が高いといえる。かかる場合には、うねり間隔推定部715により推定されたうねり形状とは異なるうねり形状が生じている可能性が高いといえるため、うねり間隔判定部716は、上述のうねり形状および振動周波数に加えて推定精度情報を、通信部730を介して外部機器へ出力する。「推定精度情報」は、うねり形状の精度が低いことを示す情報を意味する。本ステップの終了後、加工面性状予測装置70は、加工面性状予測処理を終了する。
【0032】
本実施形態では、加工面性状予測処理の終了後、工作機械100は、出力されたうねり形状および振動周波数を受信して、例えば、加工状態の異常検知や回転工具Tの振動を抑制可能な加工条件の設定を行う。
【0033】
以上説明した第1実施形態の加工面性状予測装置70によれば、第1振動センサ60から取得した回転工具Tの加工中の振動を示す第1振動データを利用して、振動によって工作物Wの表面に生じるうねり形状を推定して出力するので、加工面に生じるうねり形状を把握できる。加えて、うねり形状の推定に複雑な処理を必要としないため、うねり形状を推定する処理の処理速度の低下を抑制できる。
【0034】
また、加工面性状予測装置70は、うねり形状予測部713において推定された第1うねり間隔と、うねり間隔推定部715において推定された第2うねり間隔との差異の大きさについて判定するため、推定されたうねり形状の信頼性の低下を抑制できる。
【0035】
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態の加工面性状予測装置170を備える工作機械200の概略構成を示す説明図である。
図8は、第2実施形態の加工面性状予測装置170の概略構成を示すブロック図である。
図7および
図8に示すように、第2実施形態の加工面性状予測装置170は、第1振動センサ60に加えて第2振動センサ160からデータを取得する点と、第2データ取得部717および相対振動データ算出部718を備える点とにおいて、第1実施形態の加工面性状予測装置70と異なる。第2実施形態の加工面性状予測装置170の装置構成は、第1実施形態の加工面性状予測装置70と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0036】
図7に示すように、工作機械200は、
図1に示す工作機械100の構成に加えて第2振動センサ160を備える。第2振動センサ160は、工作物主軸ハウジング30の外面に設置されている。なお、第2振動センサ160の設置位置は、加工点からの距離がより近い箇所であることが好ましい。本実施形態の第2振動センサ160は加速度センサとして構成され、工作物主軸ハウジング30の振動によって生じる工具送り方向に対して垂直方向の加速度を予め設定されたサンプリング周期ごとに測定する。第2振動センサ160は、かかる加速度の時間変化を示す測定結果(以下の説明において、「第2振動データ」とも呼ぶ)を加工面性状予測装置170へ送信する。第2振動センサ160による第2振動データの取得および送信は、第2振動センサ160の電源が入っている間、継続して行われる。なお、第2振動センサ160は加速度センサに限定されず、速度センサまたは変位センサでもよい。
【0037】
図8に示す第2データ取得部717および相対振動データ算出部718は、CPU710がプログラムを実行することによって実現される機能部である。第2データ取得部717および相対振動データ算出部718における処理については、後述する加工面性状予測処理において説明する。
【0038】
図9は、第2実施形態の加工面性状予測処理の手順を示すフローチャートである。
図9に示すように、第2実施形態の加工面性状予測装置170は、加工面性状予測処理において、
図3のステップS10およびステップS20に代えて、ステップS12と、ステップS14と、ステップS22とを実行する点において、第1実施形態の加工面性状予測装置70と異なっている。加工面性状予測処理におけるその他の手順は、第1実施形態の加工面性状予測処理と同じであるので、同一の手順には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0039】
ステップS12において、第1データ取得部711はメモリ720に保持していた第1振動データを読み出し、第2データ取得部717はメモリ720に保持していた第2振動データを読み出す。
【0040】
ステップS14において、相対振動データ算出部718は、読み出された第1振動データと第2振動データとから、相対振動データを算出する。相対振動データは、回転工具Tと工作物Wとの相対振動を示すデータを意味する。相対振動データ算出部718は、第1振動データと第2振動データとの差分を取ることにより相対振動データを算出する。
【0041】
ステップS22において、単位変換部712は、算出された相対振動データの単位を「加速度」から「変位」に変換する。本実施形態では、第1実施形態と同様に、単位変換部712は、相対振動データを時間について2階積分することにより、相対振動データの単位を変位に変換する。
【0042】
以上説明した第2実施形態の加工面性状予測装置170によれば、第1振動センサ60から取得した第1振動データと、第2振動センサ160から取得した第2振動データとを利用して相対振動データを算出し、かかる相対振動データを利用してうねり形状を予測するので、うねり形状の予測精度の低下をより抑制できる。
【0043】
C.他の実施形態:
(C1)上記実施形態において、加工面性状予測装置70は、第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさが予め設定された閾値以下であるか否かを判定し、第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさが閾値より大きい場合には、うねり形状およびうねり周波数に加えて推定精度情報を出力するが、本開示はこれに限定されない。加工面性状予測装置70は、第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさに関わらず、うねり形状および振動周波数を出力してもよい。かかる形態においても、上記実施形態と同様の効果を奏する。加えて、第1うねり間隔と第2うねり間隔との差異の大きさについての判定を行わないので、うねり形状を推定する処理の処理速度の低下をより抑制できる。
【0044】
(C2)上記実施形態において、加工面性状予測装置70は、工作機械100による加工終了後に加工面性状予測処理を実行するが、本開示はこれに限定されない。例えば、加工面性状予測装置70は、予め設定された時間分のデータを取得するたびに加工面性状予測処理を実行するようにプログラムに組み込まれていてもよい。
【0045】
(C3)上記実施形態において、加工面性状予測処理において、うねり間隔判定部716は、うねり間隔推定部715により推定されたうねり形状をそのまま出力するが、本開示はこれに限定されない。うねり間隔判定部716は、例えば、うねり振幅Aについて、予め実験等により特定した、加工点を基準とする振動測定点の振動伝達特性を考慮した係数を掛けることにより、加工点におけるうねり振幅Aの推定値を算出し、かかる推定値を出力してもよい。かかる形態によれば、うねり形状の測定精度の低下をより抑制できる。
【0046】
(C4)上記実施形態において、第1振動データは工具送り方向に対して垂直方向の振動データとしたが、本開示はこれに限定されない。例えば、第1振動センサ60によって、工具送り方向の振動変位も同時に取得し、第1うねり間隔推定処理において、測定開始位置からの距離に工具送り方向の振動変位を付与し、うねり形状を出力してもよい。かかる形態によれば、うねり形状の予測精度の低下をより抑制できる。
【0047】
(C5)上記実施形態において、うねり形状予測部713は、うねり形状として、うねり間隔と、うねり振幅Aと、うねり開始位置Psを算出し、出力するが、本開示はこれに限定されない。例えば、うねり振幅Aが予め設定された閾値を超えるか否かで、正常、異常、うねりの有無等を判断し、言語情報として出力してもよい。このような言語情報および上述したうねり形状は、本開示における「うねり形状に関する情報」に相当する。かかる形態によれば、作業者がより容易に加工面の良し悪しを判断することができる。
【0048】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10…ベッド、11…X軸ガイドレール、12…Z軸ガイドレール、20…工作物テーブル、21…移動テーブル、22…回転テーブル、30…工作物主軸ハウジング、31…工作物主軸装置、40…コラム、41…Y軸ガイドレール、50…工具主軸ハウジング、51…工具主軸装置、60…第1振動センサ、70、170…加工面性状予測装置、100、200…工作機械、160…第2振動センサ、710…CPU、711…第1データ取得部、712…単位変換部、713…うねり形状予測部、714…振動周波数推定部、715…うねり間隔推定部、716…うねり間隔判定部、717…第2データ取得部、718…相対振動データ算出部、720…メモリ、730…通信部、A…うねり振幅、Hmax…最大点、Hmin…最小点、Ps…うねり開始位置、T…回転工具、W…工作物