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特開2024-133092セルロースナノファイバー組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133092
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/215 20060101AFI20240920BHJP
   C08G 18/12 20060101ALI20240920BHJP
   C08G 18/30 20060101ALI20240920BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20240920BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08J3/215
C08G18/12
C08G18/30 020
C08G18/32 003
C08J3/22 CEP
C08J3/215 CEP
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109493
(22)【出願日】2024-07-08
(62)【分割の表示】P 2020142539の分割
【原出願日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2019153796
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】中坪 朋文
(72)【発明者】
【氏名】栗本 和輝
(72)【発明者】
【氏名】久保 純一
(57)【要約】
【課題】水分量を大幅に減少させた乾燥状態でセルロースナノファイバーを保管でき、なおかつ保管後に樹脂やゴムへ添加する際に、容易に再分散させることができ、さらに、分散後又は添加した後に、不要となる成分を除去しやすく、利用しやすい組成物を得る。
【解決手段】ジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物と水を含有するセルロースナノファイバー組成物を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均繊維径が3nm以上20nm以下である再生セルロースナノファイバーを含有する再生セルロースナノファイバー水懸濁液に、分散剤としてジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物を添加した後に、水分の一部を蒸発させて再生セルロースナノファイバー組成物とし、
前記再生セルロースナノファイバーは、再分散体としたときに元のセルロースナノファイバーの水懸濁液と比較した粘度復元率が50%以上となる、再生セルロースナノファイバー組成物の製造方法。
【請求項2】
前記再生セルロースナノファイバーが、ザンテート化セルロースナノファイバーを再生処理しザンテート置換度を0.001未満としたものである、請求項1に記載の再生セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
ジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物と、水と、数平均繊維径が3nm以上20nm以下である再生セルロースナノファイバーとを含有する再生セルロースナノファイバー組成物であって、再分散体としたときに元のセルロースナノファイバーの水懸濁液と比較した粘度復元率が50%以上となる再生セルロースナノファイバー組成物を、溶融した樹脂または混練したゴムと混合して、再生セルロースナノファイバーを含有した樹脂またはゴムの成型体を製造する方法。
【請求項4】
請求項に記載の方法で製造された樹脂またはゴムの成型体を加熱して前記ジオール化合物の一部又は全部を除去する、樹脂またはゴムの成型体を製造する方法。
【請求項5】
ジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物と、水と、数平均繊維径が3nm以上20nm以下である再生セルロースナノファイバーとを含有する再生セルロースナノファイバー組成物であって、再分散体としたときに元のセルロースナノファイバーの水懸濁液と比較した粘度復元率が50%以上となる再生セルロースナノファイバー組成物をポリオールに混合し、前記ポリオール中に再生セルロースナノファイバーを分散させた後に、前記再生セルロースナノファイバー組成物が含有する前記ジオール化合物を含む前記ポリオールと、ポリイソシアネートと、を反応させてポリウレタンを生成する、再生セルロースナノファイバー含有ポリウレタンの製造方法。
【請求項6】
ポリオールと過剰のポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得て、
前記ウレタンプレポリマーと、
ジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物と、水と、数平均繊維径が3nm以上20nm以下である再生セルロースナノファイバーとを含有する再生セルロースナノファイバー組成物であって、再分散体としたときに元のセルロースナノファイバーの水懸濁液と比較した粘度復元率が50%以上となる再生セルロースナノファイバー組成物
を混合して、
前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と前記再生セルロースナノファイバー組成物が含有する前記ジオール化合物とを反応させて、前記ウレタンプレポリマーを鎖伸長させたポリウレタンを生成する、再生セルロースナノファイバー含有ポリウレタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロースナノファイバーの再分散が容易な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来のセルロース材料を構成する繊維を繊維径1μm未満程度にまで細分化されたナノセルロースと呼ばれる新たな材料が注目されている。このうち主として繊維径3~100nm程度の材料は、比表面積が大きく、樹脂やゴム等の補強用繊維として優れた性質を持つ。このような微細な繊維状のナノセルロースをセルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略記する)と呼ぶ。このCNFを製造するには、パルプなどのセルロース材料を液中で細かく解繊するが、セルロース材料自体をそのまま解繊しようとしても強固な材料であるため、解繊には大きなエネルギーが必要である。そこで、セルロース材料を化学変性して解繊しやすくする技術が提案されている。このようなセルロースを化学変性後解繊して得られた微細繊維も、さらにそれをセルロースに再生させたものも、まとめてCNFと呼ぶ。
【0003】
通常、CNFは、水懸濁液の状態で水中に分散して製造されている。このような状態で出荷すると、分散媒である水の容積及び質量の方がCNFそれ自体よりも遙かに大きく、輸送の際の負荷が高すぎる。また、保管の際にもスペースを必要とする。さらに、水懸濁液のままでは、疎水性の樹脂と組み合わせて利用することが困難である。このため、できるだけ水を少なくした組成物とするのが望ましい。
【0004】
だが、この水懸濁液を一旦乾燥させて固形状態となるまで水分量を減少すると、CNFの個々の繊維同士が強固に凝集してしまい、乾燥後に水を加えても容易に元の分散状態に戻せないという問題がある。
【0005】
これに対して、特許文献1では、特許文献2に記載の手順に従って製造したミクロフィブリル化セルロースの水分散液に、セルロース中でのセルロース繊維間の水素結合を実質的に妨げる添加剤として、シュクロースのような炭水化物を始めとする様々なポリヒドロキシ化合物を添加することで、乾燥後に水に再分散させやすくする技術が検討されている。
【0006】
特許文献3には、乾燥後、再分散しやすい乾燥体を得る方法として、CNFの水分散液に再分散剤としてヒドロキシ酸、ヒドロキシ酸塩、グリセリンまたはグリセリン誘導体を添加して乾燥体を得る方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、ゴム組成物へCNFの分散性を保ったまま添加するため、CNFの水分散液に水溶性高分子を添加して乾燥させ固形物を得る製造方法が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、ポリウレタン樹脂組成物を製造するにあたり、ポリオール中でセルロースを微細化したポリオール組成物とポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59-189141号公報
【特許文献2】米国特許第4374702号公報
【特許文献3】特許6276740号公報
【特許文献4】再表2017/061605公報
【特許文献5】特開2013-194162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1にはミクロフィブリル化セルロースの大きさが特に記載されておらず、特許文献1の第2頁左下欄に、製造手順として特許文献2を参照する旨が記載されている。特許文献2によると、第2カラム55行目から、Orifice3はセルローススラリーに十分なせん断力がかかるほど小さい必要があるが、繊維の直径よりは大きい必要があると記載されている。つまり、このOrifice3の直径は概ねミクロフィブリル化セルロースの径に近い大きさであり、特許文献2第2カラム57行目に1/64″から1/4″の直径となることが記載されている。1/64″は換算すると0.40mmである。このため、特許文献1に記載されているミクロフィブリル化セルロースはCNFに比べて直径が3桁以上異なり、その結果、保水性やスラリーの粘度などの挙動も全く異なることから、どのようなポリヒドロキシ化合物がCNFの再分散に向いているかは、当業者にとっても特許文献1から導き出すことはできない。
【0011】
また、特許文献1に記載のポリヒドロキシ化合物、特許文献3に記載の再分散剤、そして特許文献4に記載の水溶性高分子は、揮発性に乏しく、利用した後に除去することが困難で、樹脂やゴム中に残存しやすく、樹脂やゴムとの相溶性が悪くなったり、CNFの添加による補強などの効果が弱くなったり、樹脂やゴムの物性が変化したりするという問題があった。
【0012】
なお、特許文献5に記載の技術は、水ではなくポリオール中でセルロースをそのまま物理的に微細化しているためにセルロースナノファイバーとして繊維径を十分に小さくすることが困難である。また、CNFを分散させるためにポリオールを添加するのではなく、分散前後にわたって非水環境下での技術であり、本願の水懸濁液でCNFを分散させる技術とは前提となる環境が異なっている。
【0013】
そこでこの発明は、水分量を大幅に減少させた乾燥状態でCNFを保管でき、なおかつ保管後に樹脂やゴムへ添加する際に、容易に再分散させることができ、さらに、分散後又は添加した後に、不要となる成分を除去しやすく、利用しやすいCNF組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、ジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物と水とCNFとを含有するCNF組成物により、上記の課題を解決したのである。
【0015】
前記ジオール化合物は、含有する水酸基とCNFとの間で生じる親和性の強さが適していると考えられる。ジオールとは分子中に2つの水酸基を有する化合物であるが、水酸基が一つのモノオールでは、沸点が低く、揮発性が高いために、乾燥中に蒸発してしまう。また、たとえ沸点の高いモノオールを用いたとしても、これらのモノオールは水と相溶しないため、CNFの分散剤とはなり得ない。一方、グリセリンなどの3つの水酸基を有するトリオール又はそれ以上に水酸基が多くなると、分散性は確保できるものの、沸点が高すぎるため、組成物を樹脂やゴムに投入した後、除去することが難しくなる。これらに対して、ジオールは、揮発性や水との相溶性とのバランスに優れている。また、ジオール誘導体は、ジオールが有する二つの水酸基のうちの一方または両方を変性させて官能基を付与した化合物であるが、官能基によって樹脂やゴムとの相溶性を調整することができる。
【0016】
ジオール化合物であっても、分子量が大きい化合物は蒸発させて除去することが難しくなる傾向にあり、使用するジオール化合物は、CNF組成物の製造時には揮発性や水との相溶性、また樹脂やゴムに添加する場合には再分散性と添加後の除去性能とのバランスを考慮して選ばれる。
【0017】
また、特にポリウレタンを製造する際に補強材としてCNFを用いる場合には、前記ジオール化合物と水とCNFとを含むCNF組成物をそのまま使用することもでき、またCNF組成物を前記ジオール化合物で再分散させて使用することもできる。
【0018】
この発明にかかるCNF組成物としては、含水率が10質量%以下であり、前記CNFと前記ジオール化合物との質量混合比が1:2~1:10である構成が採用できる。
【0019】
具体的なCNF組成物の製造方法としては、分散したCNFを含有する水懸濁液に、ジオール、ジオール誘導体、又はその両方を添加した後に、水分を蒸発させてCNF組成物を得る手順があげられる。
【0020】
このようなCNF組成物の利用方法としては、例えばCNF組成物を樹脂やゴムと複合化して、CNFを含有した樹脂やゴムの成型体を製造することなどがあげられる。この成型体をさらに加熱して、含まれる前記ジオール化合物の一部又は全部を除去することもできる。
【0021】
また、別のCNF組成物の利用法としては、ポリオール中にCNFを分散させた後に、CNF組成物が含有する前記ジオール化合物を含むポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、ポリウレタンを生成させることで、セルロースナノファイバー含有ポリウレタンを製造することが挙げられる。ここで前記ポリオールとは、CNF組成物が含有する前記ジオール化合物のみを用いてもよいし、追加でポリオール化合物を添加してもよい。または、予め別途用意したポリオールと過剰のポリイソシアネートとを反応させたウレタンプレポリマーと、CNF組成物とを混合し、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と、前記CNF組成物が含有する前記ジオール化合物とを反応させることで、前記ウレタンプレポリマーを鎖伸長させて、CNF組成物を含有するポリウレタンを生成させても良い。こうして得られたセルロースナノファイバー含有ポリウレタンは、CNF組成物を用いないものよりも強度が向上する。
【発明の効果】
【0022】
この発明により得られるジオール化合物を含有するCNF組成物は、一旦含水率を低下させて固形状態にした後でも、水を添加することで、容易に分散した状態に戻すことができる。また、水以外のジメチルホルムアミドのような極性溶媒に分散させることも可能である。一方、このCNF組成物に水を添加することなく、溶融した樹脂や混練しているゴムマスターバッチの中に直接添加してCNFを容易に分散させることもできる。さらに、ジオール化合物は、CNF組成物を樹脂やゴムに分散した後は、加熱により蒸発させて容易に除去することが可能であり、補強効果を十分に発揮した上で、添加した後の樹脂やゴムの物性変化を抑制できる。また、ジオール化合物を除去するのではなく、CNFを分散させたままジオール化合物をポリウレタンの材料の一部として用いることで、CNF組成物に含まれるCNFをポリウレタンの強度向上材料として用いることもできる。
【0023】
さらに、CNF組成物は、水懸濁液の状態でCNFを分散させたものに比べて軽量かつ低容積となるため、CNF組成物製造後の保管及び輸送の際の負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1のCNF組成物の写真
図2】実験例2におけるひずみと応力との測定結果を示すグラフ
図3】実験例3におけるひずみと応力との測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、ジオール、ジオール誘導体、又はその両方からなるジオール化合物と水とCNFとを含むCNF組成物である。
【0026】
この発明において用いるCNFは、セルロースの分子構造に変化のないものだけでなく、セルロースの分子構造の一部を化学変性したものと、一旦化学変性したものをセルロースに再生したものであってもよく、これらを含みうる。
【0027】
化学変性したセルロースとしては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl radical)酸化したTEMPO酸化セルロース、カルボキシメチル化したカルボキシメチルセルロース、リン酸エステル化したリン酸エステル化セルロース、アルカリ処理したセルロースに二硫化炭素を加えてザンテート基(-OCSS)を導入したザンテート化セルロースなどがあげられる。パルプ等の材料からなるセルロース材料を化学変性すると、セルロース材料をそのまま解繊するよりも容易にナノファイバーの状態にしやすい。この化学変性して解繊されたCNFを「化学変性CNF」と呼ぶ。また、化学変性したセルロースのうち、リン酸エステル化セルロースとザンテート化セルロースは、再生処理してセルロースに戻すことが可能である。化学変性CNFの化学変性したセルロースの分子構造をセルロースに戻す再生処理をして得られるCNFを「再生CNF」と呼ぶ。
【0028】
この発明においては、以下の説明の中で、単純にセルロース材料を解繊したものだけでなく、上記の化学変性CNFや再生CNFを含めてCNFと呼ぶ。また、再生CNFの中には、水酸基から一旦ザンテート基などの他の官能基に変性したものの全てが元の水酸基に戻されているものだけでなく、一部が他の官能基として残っているものが含まれていてもよい。さらに、これらのCNFは、必要があれば精製処理を施して使用してもよい。
【0029】
また、このCNFは、繊維径3nm以上100nm以下の微細繊維が主成分として含まれているものが好適に用いられる。なお、ここで主成分としてとは、存在する繊維のうちの50%以上が上記の繊維径の条件に含まれることをいう。ただし、組成物の製造や利用の際に差支えない限り、前記範囲外の繊維径の微細繊維が含まれていてもよい。数平均繊維径では20nm以下であると好ましい。数平均繊維径が大きすぎると質量に対する表面積が小さくなり、前記ジオール化合物による分散がうまく働きにくくなるおそれがある。なお、CNFの数平均繊維径は3nm以上であるとよい。これより小さくても本発明は実施できるが、細かくしすぎるのは多大なエネルギーが必要である上に、作業効率の面でもあまり現実的ではなくなる。
【0030】
この発明にかかるCNF組成物中でCNFを分散させる分散剤として、ジオール化合物を用いる。なお、ジオール化合物以外の極性溶媒が含まれていても、この発明にかかるCNF組成物を得ることはできる。ただし、他の極性溶媒は乾燥中や保管中に蒸発したり、使用後に除去するためのステップが増加したり、除去できない場合があったりするため、他の極性溶媒の選択には注意が必要で、CNF組成物中の含有量は少ないほど好ましい。
【0031】
この発明にかかるCNF組成物に含まれる前記ジオール化合物とは、ジオール、ジオール誘導体、又はその両方である。ここで、ジオールとは分子中に2つの水酸基を有する化合物である。また、ジオール誘導体とは、その水酸基のうちの一方または両方を変性させて官能基を付与した化合物である。ここで変性する方法としては、例えばエーテル化やエ
ステル化反応があげられる。具体的には、ジオールのアルキルエーテルやジオールのアルキルエステルがあげられる。
【0032】
前記ジオール化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-へキシレングリコール、3-メチル-1,3-ブチレングリコールなどのジオールや、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのジオール誘導体をあげることができる。これらを1種類で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。樹脂やゴムにCNFを添加する場合、それらとの相溶性によって適切なジオール化合物が選ばれる。中でも、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、1,4-ブチレングリコール、1,6-へキシレングリコールが、乾燥時の残存率、使用後の蒸発性能、分散性の維持、および樹脂やゴムとの相溶性のバランスに優れており特に好ましい。これらの点に優れた前記ジオール化合物としては、例えば、再分散後の粘度の復元率が50%以上であり、CNFの水懸濁液に前記ジオール化合物を添加して混合した後、105℃で15時間に亘って加熱した際の前記ジオール化合物の残存率が50%以下であるものが、有用な前記ジオール化合物として利用できる。
【0033】
前記CNF組成物における、前記CNFと前記ジオール化合物との質量混合比は、1:2~1:10が好ましい。前記ジオール化合物の種類にもよるが、1:2よりも前記CNFが多すぎると、分散性を維持するための前記ジオール化合物が少ないため、CNF組成物を水またはジオール化合物中に再度分散させようとしても、うまく分散できないおそれがある。一方、1:10よりも前記ジオール化合物が多いと、分散自体は十分に可能であるが、それ以上に前記ジオール化合物の比率を増やしても再分散性の向上にはほとんど寄与することがなく、使用後に蒸発させる場合に時間のかかるおそれがある。また、水を除去しても前記ジオール化合物の質量によって前記CNF組成物の質量が大きいままになり、前記CNF組成物を用いる利点が低下してしまう。
【0034】
前記CNF組成物の含水率は、10質量%以下であると好ましく、7質量%以下であるとより好ましい。CNF組成物の保管や輸送の際に、水は質量を増加させて容積も増加させる要素であるため、できるだけ少ない方が望ましい。
【0035】
前記CNF組成物の製造手順としては、まず、CNFの水懸濁液中に、前記ジオール化合物を添加して混合する。この混合物を乾燥させて水分を蒸発させることで水分の含有量を減らし、前記CNF組成物を得る。乾燥方法としては、常温で放置しても乾燥させることはできるが、製造時間を短縮するために加熱することが望ましい。乾燥温度としては、50℃以上が好ましく、60℃以上であるとより好ましい。50℃未満では混合物から水分が蒸発する速度が遅すぎて、CNF組成物の製造に時間がかかり過ぎてしまう。一方、110℃以下が好ましく、90℃以下であるとより好ましい。110℃を超えると、前記ジオール化合物まで蒸発してしまい、CNFの再分散が困難になってしまう。前記ジオール化合物の選択にもよるが、90℃以下とすることで、前記ジオール化合物の蒸発も抑制できる。なお、CNF組成物を得るための乾燥方法には、公知の熱風乾燥、噴霧乾燥、または真空乾燥などを利用することができる。
【0036】
前記CNF組成物は、CNFを解繊させた後の水懸濁液の状態よりも含水率を大きく減少させて、保管、輸送などを行うことができる。軽量かつ低容積となるため、輸送時の負荷が軽減する。その後、前記CNF組成物は、そのまま樹脂やゴムに添加することもでき
るし、極性溶媒中にて混合してCNFを再分散し、CNFの再分散体として容易に利用できる。この再分散体はCNFが好適に分散しているので、化粧品や塗料等の増粘剤、水分保持剤、乳化安定助剤などとしても好適に用いられる。
【0037】
ここで、前記CNF組成物を混合してCNFを再分散する極性溶媒としては、水や水以外のジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが使用できる。ただし、前記ジオール化合物を重合体の材料として用いる場合には、前記ジオール化合物を含む極性溶媒を用いてもよいし、前記ジオール化合物自体を極性溶媒として用いてもよい。
【0038】
また前記CNF組成物は、熱可塑性樹脂やゴム、ポリウレタンなどへそのまま添加して用いることで、CNFによる強度向上等の効果を得ることができる。また、前記CNF組成物を構成する化合物の一部を、樹脂化合物の材料として利用して重合体を生成し、重合体にCNFを含有させることでも、CNFによる強度向上等の効果を得ることができる。
【0039】
前記CNF組成物を、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂に添加する場合、溶融した樹脂中に、前記CNF組成物を投入して混練することで、CNFが樹脂中に好適に分散した樹脂成型物を得ることができる。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどのポリオレフィンやポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートのようなポリエステル、ナイロン6やナイロン12のようなポリアミドなどがあげられる。また、加熱して溶融させた樹脂中に前記CNF組成物を添加してマスターバッチを製造した後、それを一般的な手法で成型してもよい。
【0040】
前記CNF組成物をゴムに添加して用いる場合、ゴムとしては例えば、天然ゴムや、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴムなどの一般的な合成ゴムを用いることができる。ただし、これらのゴムはジオールとの相溶性が低い傾向にあるため、前記ジオール化合物として前記ジオールより疎水性が高い前記ジオール誘導体を用いると、ゴムに対してもCNFを再分散させやすくなるので好ましい。
【0041】
前記CNF組成物が含有する前記ジオール化合物を重合体の材料として用いる場合として、例えば、ポリイソシアネートとの重付加反応でポリウレタンを生成することがあげられる。その場合は、前記CNF組成物を得た後、このCNF組成物にウレタン化反応の材料となる前記ジオール化合物やその他のポリオールを追加して、これらのポリオール中にCNFを再分散させ、ポリイソシアネートと反応させてポリウレタンを生成する。または、予め別途用意したポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させたウレタンプレポリマーと、前記CNF組成物とを混合して、前記CNF組成物が含有する前記ジオール化合物と前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基を反応させて、ウレタンプレポリマーを鎖伸長させ、CNFを再分散させたポリウレタンを生成してもよい。こうすることで、CNFが十分に分散された状態でウレタン化反応を進めやすくなるので好ましい。CNF組成物が含有する前記ジオール化合物を含むポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させてポリウレタンを生成すると、得られるポリウレタンは前記CNF組成物に分散されていたCNFを含有するポリウレタン(セルロースナノファイバー含有ポリウレタン)となり、CNF組成物を用いないポリウレタンよりも強度が向上する。ここで、ポリイソシアネートとは、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、トリレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネート等をあげることができる。これらを1種類で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0042】
また、前記CNF組成物を樹脂やゴムなどに添加して、CNFによる強度向上等の効果を十分に発現させた上で、必要に応じて前記ジオール化合物を除去することができる。添加後に高温で加熱される工程があると、その温度と時間に応じて前記ジオール化合物は蒸
発するが、樹脂やゴムの外観や物性等に影響を与えない範囲で加熱を進めて、前記ジオール化合物の含有量をより低減させることができる。例えば、105℃で15時間加熱した後に、前記CNF組成物中に残存する前記ジオール化合物の含有量(分散剤残存率)は、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、10%以下であれば最も好ましい。
【0043】
なお、ジオール化合物を加熱して蒸発除去させる際の加熱温度や時間はジオール化合物に応じて適宜調整可能である。ジオール化合物にもよるが、50℃以上であると好ましく、60℃以上であると多くのジオール化合物で好適に蒸発を進めやすくなる。一方で、高温すぎると発火のおそれがあったり、ジオール化合物を蒸発させて残すべき樹脂等の方が変性しやすくなったりしてしまう。このため、樹脂の物性変化が許容できる範囲の温度であると好ましい。樹脂にもよるが、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下であればより多くの樹脂で利用可能である。また、蒸発除去させる時間は、短時間で行おうとすると高温が必要になり、樹脂等を変性させやすくなってしまうので、1時間以上かけることが好ましく、5時間以上かけることがより好ましい。一方で、長時間加熱しすぎるのは、作業効率上も不利であり、また、やはり樹脂等を変性し易くなってしまうので、48時間以内であると好ましく、24時間以内であるとより好ましい。
【0044】
前記CNF組成物の再分散体は、元のCNFの水懸濁液と比較したときに、元の粘度に対して、50%以上にまで粘度が復元していると好ましく、80%以上にまで復元しているとより好ましく、粘度が100%復元していると最も好ましい。この復元する割合のことを粘度復元率と呼ぶ。再分散体において粘度が50%以上復元していると、CNFが凝集せずに好適に分散しているからである。
【0045】
なお、再分散体を得るための分散には、回転式ホモジナイザーやホモミキサー、ホモディスパーなどの一般的な撹拌装置を利用することができ、高圧ホモジナイザーのような高負荷の撹拌装置を使わなくても、十分に分散した状態にすることができる。
【実施例0046】
以下、この発明を具体的に実施した実施例を示す。
まず、化学変性したセルロースを解繊した化学変性CNFであるザンテート化CNFの製造手順について説明する。材料として、以下のものを用いた。
・クラフトパルプ(日本製紙(株)製:NBKP、α-セルロース含有率:90質量%、α-セルロースの平均重合度1000)以下、「NBKP」と表記する。
【0047】
<アルカリ処理>
NBKPをパルプ固形分(パルプ中の水分を除いたものをパルプ固形分とする。以下同じ。)100gとなるように秤量した。これを3Lのビーカーに入れ、8.5質量%水酸化ナトリウム水溶液2500gを加え、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心脱水機((株)コクサン製、H-110A、ろ布400メッシュ)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。このアルカリセルロースの脱水物における水酸化ナトリウム含有率は7.5質量%、パルプ固形分含有率は27.4質量%であった。
【0048】
<ザンテート化処理>
上記で作製したアルカリセルロースの脱水物をパルプ固形分100gとなるように秤量し、ナス型フラスコに入れた。このナス型フラスコ内へ二硫化炭素を35g(対パルプ固形分として35質量%)加え、室温で4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行い、ザンテート化セルロースを得た。
【0049】
<ザンテート置換度測定>
前記ザンテート化セルロースについて、平均ザンテート置換度をBredee法により測定したところ、0.312であった。なお、このザンテート置換度はセルロースのグルコース単位当たりにザンテート基が導入されている度合に対する値である。Bredee法の手順は次のように行った。100mLビーカーにザンテート化セルロースを1.5g秤量し、飽和塩化アンモニウム水溶液(5℃)を40mL添加した。ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム水溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、1.5M酢酸水溶液で中和した。指示薬には、フェノールフタレイン指示薬を用いた。中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸水溶液10mL、0.05mol/Lヨウ素水溶液10mLをホールピペットによって添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。指示薬には、1%澱粉水溶液指示薬を用いた。チオ硫酸ナトリウム水溶液の滴定量、サンプル中のセルロース含有量より次式(1)からザンテート置換度を算出した。なお、ザンテート化セルロース中のセルロース含有量は、ザンテート化セルロースに水を加えて分散させ、塩酸を添加して再生処理を行い、次に再生処理後のセルロースをろ過し、十分に洗浄後、絶乾してセルロースのみの質量を測定して求めた。
【0050】
ザンテート置換度=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))÷1000÷(サンプル中のセルロース含有量(g)/162.1)……(1)
【0051】
<解繊処理>
上記のザンテート化処理で作製したザンテート化セルロースを5L手付きビーカーにパルプ固形分100gとなるように秤量し、パルプ固形分濃度5質量%となる様に蒸留水を添加して分散させた。前記遠心脱水機を使用して遠心脱水しながら、蒸留水を添加して十分に洗浄し、不純物、アルカリ、未反応の二硫化炭素等を除去した。洗浄後のザンテート化セルロースをすべて回収し、蒸留水を添加してザンテート化セルロースに含まれるセルロース分の濃度(以下、「セルロース濃度」と表記する。)0.5質量%の水懸濁液20kgとした。この水懸濁液を、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株)製、H20型)を用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで計5回パスさせて解繊処理して、ザンテート化CNFを得た。
【0052】
<CNFの解繊の度合い>
前記ザンテート化CNFの水懸濁液(セルロース濃度0.5質量%)に蒸留水を添加してセルロース濃度を0.1質量%に希釈した。この希釈した水懸濁液を、遠心分離機(ベックマンコールター社製、Avanti J-25I)を使用して12000Gで10分間遠心分離して未解繊物を沈降させた。上清は分離して三角フラスコに移し、沈降した未解繊物に蒸留水を添加して再度遠心分離を行い、未解繊物を洗浄した。未解繊物をるつぼに移して絶乾し、未解繊物の質量を測定した。未解繊物の質量とザンテート化セルロース中のセルロース含有量より次式(2)から生成したナノファイバーの生成率を求めたところ、99.0質量%であった。
【0053】
ナノファイバーの生成率(質量%)=(ザンテート化セルロース中のセルロース含有量-未解繊物の質量)÷(ザンテート化セルロース中のセルロース含有量)×100……(2)
【0054】
<CNFの繊維径の測定>
水でセルロース濃度0.1質量%に希釈したザンテート化CNFの水懸濁液を遠沈管に入れ、前記遠心分離機を使用して12000Gで10分間遠心分離を行い、遠心上清を回収した。この遠心上清をさらに希釈後染色を施し、支持膜上で乾燥し乾燥検体とした。透
過型電子顕微鏡(TEM:日本電子(株)製、JEM-1400)を使用し、加速電圧120kVで観察を行った。観察を行った50,000倍の画像よりナノファイバー50本を選択し、繊維径を測定して平均値を求めたところ、繊維径は3.0nmから7.4nmであり、数平均繊維径は6.1nmであった。
【0055】
<再生処理及び再分散処理>
上記の手順で得られたザンテート化CNFの水懸濁液16.4kg(セルロース濃度0.5質量%)に、1M硫酸水溶液を360ml(硫酸量4.4mmol/g-セルロース含有量)添加し、アジテーターで1時間撹拌して再生処理を行った。処理終了後、1M水酸化ナトリウム水溶液にてpH7まで中和して、再生CNF水懸濁液を得た。平均ザンテート置換度を測定したところ、測定下限である0.001未満であったので、酸処理によりザンテート基がほぼ完全に脱離して水酸基に戻っていることが確認された。
【0056】
上記で得られた再生CNFの水懸濁液を、前記遠心脱水機を使用して遠心脱水しながら、蒸留水を添加して十分に洗浄した。洗浄後の再生CNFをすべて回収し、蒸留水を添加してCNF濃度1.0質量%の水懸濁液8kgとした。この水懸濁液を、前記高圧ホモジナイザーを用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで計3回パスさせて再分散処理した。処理後、再生CNFの再分散体の平均繊維径を算出したところ、繊維径は3.0nmから7.4nm、数平均繊維径は6.0nmであった。
【0057】
<CNF組成物の製造手順>
次に、CNF組成物の製造について説明する。ジオール化合物として、以下のジオール又はジオール誘導体を用いた。
・ジエチレングリコール(ジオール:ナカライテスク(株)製:ジエチレングリコール)・トリエチレングリコール(ジオール:ナカライテスク(株)製:トリエチレングリコール)
・ジプロピレングリコール(ジオール:ナカライテスク(株)製:ジプロピレングリコール)
・トリプロピレングリコール(ジオール:ナカライテスク(株)製:トリプロピレングリコール)
・1,3-ブチレングリコール(ジオール:関東化学(株)製:1,3-ブタンジオール

・1,4-ブチレングリコール(ジオール:関東化学(株)製:1,4-ブタンジオール

・1,6-へキシレングリコール(ジオール:東京化成(株)製:1,6-ヘキサンジオール)
・ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(ジオール誘導体:富士フィルム和光純薬(株)製:ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル)
・ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート(ジオール誘導体:東京化成工業(株)製:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)
・グリセリン(ジオール以外のポリオール:ナカライテスク(株)製:グリセリン)
・ジグリセロール(ジオール以外のポリオール:ナカライテスク(株)製:ジグリセロール)
【0058】
(実施例1~7)
再生CNF水懸濁液に、表1のそれぞれに示すジオール化合物を、再生CNFに対して10倍量となるように添加した。CNF濃度0.7質量%、ジオール化合物濃度7.0質量%とした混合物30gをそれぞれのジオール化合物について、熱風乾燥機を用いて60℃で、表1に示す所定の時間乾燥させてCNF組成物を得た。このうち、実施例1のCNF組成物の写真を図1に示す。
【0059】
<分散剤残存率の算出方法>
それぞれの実施例において、CNF組成物のサンプルを0.2~0.4g程度採取し、メタノール6mlを加えて回転式ホモジナイザー((株)日本精機製作所製、AM-7)を使用して8000rpmで5分間分散処理を行った。分散処理後、さらにメタノールを加えて合計25mlとし、ガスクロマトグラフ分析により、分散剤であるジオール化合物の含有量を測定した。CNF組成物の合計質量に対する分散剤の含有量から、分散剤残存率を算出した。また、CNF組成物の合計質量から分散剤とCNFの質量を減算し、残存水分量を算出して、CNF組成物の全体に対する乾燥後含水率を算出した。それらの結果を表1~表3に示す。なお、ガスクロマトグラフ分析の条件は、装置として(株)島津製作所製GC-17Aを用い、カラムはアジレント社製HP-WAX 25m(内径0.32μm)である。温度条件はインジェクションが250℃、ディテクターが250℃である。検出器はFIDを用い、カラム昇温条件はt=0(40℃)、t=0.5(40℃)、t=20.5(240℃)、t=24.5(240℃)であった。
【0060】
<粘度復元率の算出方法>
前記CNF組成物について、それぞれに、乾燥前と同量となるように水を加え、前記回転式ホモジナイザーにより8000rpm、15分間分散処理を行って、CNF濃度0.7質量%の再分散体を得た。この再分散体について東機産業(株)製E型粘度計を使用して20℃、回転速度1rpm(せん断速度=3.8s-1)で粘度測定を行い、元のCNF水懸濁液に対する粘度と比較して粘度復元率を求めた。例えば、実施例1の元のCNF水懸濁液の粘度は448mPa・sであったのに対して、再分散体の粘度は全く同じ448mPa・sであり、粘度復元率は100%と算出された。同様にして、他の実施例、参考例、比較例で得られた結果を表1~表4に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1~9の60℃で乾燥させたCNF組成物は、分散剤であるジオール化合物が80%以上残存しており、再分散体の粘度復元率はいずれも高い数値を示した。
【0063】
(参考例1~7)
実施例1~7と同様の手順で、CNF濃度0.7質量%、ジオール化合物濃度7.0質量%とした混合物を調製し、これらの混合物を105℃で15時間加熱した場合を参考例1から7とし、分散剤残存率と粘度復元率を表2に示す。参考例1は分散剤であるジオール化合物の残存率が30%程度にとどまったが、他の参考例ではジオール化合物はほぼ蒸
発した。これにより、これらの分散剤は、CNF組成物を利用した後に加熱により容易に除去できることが確認できた。
【0064】
【表2】
【0065】
(考察)
以上の結果から、50%以上の好ましい粘度復元率を示すCNF組成物は、分散剤となるジオール化合物が50質量%以上残存していることが望ましいことが確認された。分散剤が残存していないと、いずれも粘度復元率が著しく低いか、再分散が不可能となっていた。
【0066】
(比較例1,2)
分子中の水酸基数が3のグリセリン、及び水酸基数が4のジグリセロールを分散剤として用いた比較例1,2の結果を表3に示す。これらは、60℃での乾燥において分散剤残存率及び粘度復元率の点では好適な値を示したが、105℃で15時間加熱した後でも大量に分散剤が残存してしまい、分散剤の除去が困難であることが確かめられた。
【0067】
【表3】
【0068】
<ジオール添加比率の影響の検討>
(実施例8a~8d)
CNF濃度が0.7質量%であり、ジオール化合物としてのトリエチレングリコールの含有量をそれぞれ7.0質量%(実施例8a)、3.5質量%(実施例8b)、1.4質量%(実施例8c)、0.7質量%(実施例8d)とする水懸濁液30gをそれぞれ調製して粘度を測定した。次に、それぞれの水懸濁液を熱風乾燥機により60℃で、水分が10質量%以下になるまで乾燥した。乾燥後に水を加えてそれぞれ合計質量が30gとなるよう調整し、前記回転式ホモジナイザーにて8000rpmで15分間かけて混合して再分散体を得た。それぞれの再分散体の粘度を測定し、粘度復元率を算出した。その結果を表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
以上の結果から、ジオール化合物の添加量がCNFに対して2倍以上であれば、粘度復元率は50%以上の良好な結果を示すことが確認された。
【0071】
<CNF組成物の樹脂混練>
(実験例1)
再生CNFを0.5質量%、ジオール化合物としてジプロピレングリコール(DPG)を5.0質量%含む水懸濁液32gを調製した。この水懸濁液を熱風乾燥機により60℃で12時間乾燥させ、乾燥後重量1.83gのCNF組成物を得た。
【0072】
このCNF組成物1.83gと、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製ウィンテックWFX4M)15gとを、卓上型小型混練機(Xplore Instruments社製、DSM Xplore MC15M)を用いて、180℃で5分間混練して混練樹脂を得た。なお、混練前のDPG含有率は9.5質量%である。
【0073】
前記混練樹脂から一部(112.6mg)を採取し、1.5mLのトルエンに浸漬して、80℃で2時間静置し、ポリプロピレン樹脂を溶解させた。この溶液を、メタノール5mLを入れたバイアル瓶中に滴下してメタノール中にDPGを溶解させた後、さらにメタノールを加え10mLにメスアップした。次にこのメタノール溶液をガスクロマトグラフ分析に供し、溶解したDPGを定量した。なお、ガスクロマトグラフの分析条件は上記「分散剤残存率の算出方法」と同様である。その結果、混練樹脂中に含まれるDPGの含有率は1.3質量%となり、混練前の9.5質量%から十分に減少した。これにより、熱溶融した樹脂中にCNF組成物を投入した場合、CNFの分散性維持のために用いたジオール化合物が混練中に蒸発して、樹脂に残存する量はわずかとなったことが確認できた。
【0074】
<CNF組成物のゴム混練>
(実験例2)
天然ゴムラテックス((株)レヂテックス製、HA NR LATEX、固形分60質量%、アンモニア0.7質量%)を乾燥して作成したマスターバッチ300gを、50℃に加温した二本ロール(日本ロール製造(株)製、φ200mm×L500mmミキシングロール機)を使用して素練りし、次いでステアリン酸(ナカライテスク(株)製)1.5g、酸化亜鉛(ナカライテスク(株)製)18gを添加して混練して混練物を得た。次に、ジオール化合物としてのジエチレングリコールエチルエーテルアセテートと再生CNFとを混合後に乾燥させて作成したCNF組成物(CNF15.0g、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート75.0g、水分0.32g)90.32gを、上記の混練物に添加しさらに混練した。その後、硫黄(ナカライテスク(株)製)10.5g、加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーNS-G)2.1gを添加混合し、厚さ2mm以上のコンパウンドシートを作製した。
【0075】
得られたコンパウンドシートを用いて加硫判定機((株)オリンテック製、キュラストメーターV型、測定温度150℃、測定時間20分)により90%加硫時間(Tc90)を測定した。この時、Tc90は6分であった。このコンパウンドシートを金型に入れ、
測定したTc90の値に基づき150℃、6分間圧縮成形することで厚さ2mmの加硫ゴムシートが得られた。以上のように、CNF組成物をゴムに添加することでゴムシートが作製可能であることを確認した。
【0076】
得られたゴムシートから、JIS K 6251に規定するダンベル状3号形の試験片を打ち抜いた。この試験片について、引張試験機((株)島津製作所 精密万能試験機 AG-1000D)を用いて引張試験(つかみ幅:50mm、速度:500mm/分、JIS K6251準拠)を行った。また上記の手順のうち、CNF組成物の代わりに、再生CNFを含まないジエチレングリコールエチルエーテルアセテートのみを添加すること以外は同様の手順により作成したゴムシートをブランクとして用いた。
【0077】
この試験片及びブランクの引張試験の結果を図2及び表5に示す。その結果、再生CNFを添加したゴムシートはブランクと比較して、伸び(=ひずみ)30%での応力(M30%)が68.8%、伸び100%(M100%)では46.2%、伸び300%(M300%)では26.8%向上した。このことから、分散した再生CNFによりゴムシートの強度が向上することが確認された。
【0078】
【表5】
【0079】
<CNF組成物によるポリウレタン合成>
(実験例3)
ジオール化合物として1,4-ブチレングリコールを用い、再生CNFに対して10倍量となるように添加して、CNF濃度0.8質量%、ジオール濃度8.0質量%の再生CNF水懸濁液を調製した。この再生CNF水懸濁液200gを、熱風乾燥機を用いて60℃で、18時間乾燥させてCNF組成物(再生CNF:9.3質量%、1,4-ブチレングリコール:86.8質量%、含水率:4.0%)を得た。
【0080】
このCNF組成物10.8gに、ウレタン化反応の材料となるポリオールのポリテトラメチレングリコール(PTMG)89.2gを加えて、回転式ホモジナイザー(AM-7)を使用して10000rpmで10分間分散処理を行って、再生CNFポリオール分散体を得た(再生CNF:1.0質量%、1,4-ブチレングリコール:9.4質量%、PTMG:89.1質量%、含水率0.5%)。
【0081】
上記再生CNFポリオール分散体5.0gにジメチルホルムアミド(DMF)45mlを加えて、前述の回転式ホモジナイザーを使用して3000rpmで5分間分散処理を行ってDMF分散体を得た。その後、このDMF分散体を遠沈管に入れ、前記遠心分離機を使用して1100Gで10分間遠心分離を行った。遠心分離したものから上清を除去した後、沈降物にDMF50mlを添加して再度遠心分離を行った。この再度遠心分離したものから上清を除去した後に、沈降物に溶媒を添加して再度遠心分離を行う操作を、溶媒としてアセトンを用いて行い、続いて溶媒として蒸留水を用いて行って、沈降した残渣を洗浄した。この残渣を再生CNFポリオール分散体中の未分散物として、熱風乾燥機を用いて105℃で8時間乾燥させた後の重量を測定し、再生CNFポリオール分散体全体の再
生CNFの量に対する未分散物の比率を算出した。その結果は11%であり、再生CNFポリオール分散体中で再生CNFの89%は均一に分散した状態であることを確認した。
【0082】
上記再生CNFポリオール分散体96.3gに、PTMGと1,4-ブチレングリコールの質量比が9対1となるように1,4-ブチレングリコール0.5gを添加し、スリーワンモーターを使用して80℃で30分撹拌した。この混合物に、ジフェニルメタンジイソシアネートを57.2g加えて5分撹拌した後、予熱処理を行ったステンレスバットに移し、熱風乾燥機を用いて110℃で24時間反応させて、再生CNFを分散した合成ポリウレタン136gを得た。
【0083】
得られた合成ポリウレタンを、テスター産業(株)製:卓上型テストプレス機SA-302を使用して220℃で10分間溶融後、7MPaの圧力を加えて5分間熱プレスすることにより厚さ300μmのフィルム状に加工した。このフィルムから、JIS K 7311に規定するダンベル状8号形に打ち抜いた試験片について、測定長さ25mm、引張速度100mm/分という条件で引張試験を行った。一方、ブランクとした再生CNF非添加のフィルムは、再生CNF水分散液を使用しない以外、PTMGと1,4-ブチレングリコールの量は同一にして合成したポリウレタンから作成した。
【0084】
この試験片及びブランクの引張試験の結果を図3及び表6に示す。再生CNFを添加したポリウレタンはブランクと比較して、伸び(ひずみ)100%での応力(M100%)が9.7%向上した。また、伸び(ひずみ)200%での応力(M200%)は9.8%向上した。このことから、分散した再生CNFにより合成ポリウレタンの強度が向上することが確認された。
【0085】
【表6】
図1
図2
図3