(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133100
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】光学ポリマー材料、光学フィルム、および表示装置
(51)【国際特許分類】
C08F 222/40 20060101AFI20240920BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F222/40
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109848
(22)【出願日】2024-07-08
(62)【分割の表示】P 2019237326の分割
【原出願日】2019-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019016965
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591061046
【氏名又は名称】小池 康博
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 康博
(72)【発明者】
【氏名】小林 優真
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紘平
(57)【要約】
【課題】簡易な組成であり、所望の特性を得るための設計が容易な低複屈折の光学ポリマー材料、光学フィルムおよびその製造方法、ならびにこれらを用いた表示装置を提供すること。
【解決手段】光学ポリマー材料は、スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含み、光弾性係数が、前記スチレン誘導体の組成比の増加に従って所定値まで低下し、前記スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると前記所定値よりも上昇する非線形な特性を有し、前記スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第1絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第2絶対値以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含み、
光弾性係数が、前記スチレン誘導体の組成比の増加に従って第1値まで低下し、前記スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると前記第1値よりも上昇する非線形な特性を有し、
前記スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第1絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第2絶対値以下であることを特徴とする光学ポリマー材料。
【請求項2】
前記第1絶対値が50×10-12Pa-1であり、前記第2絶対値が20×10-3であることを特徴とする請求項1に記載の光学ポリマー材料。
【請求項3】
固有複屈折の温度係数の絶対値が2×10-5℃-1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ポリマー材料。
【請求項4】
前記スチレン誘導体はスチレンであり、前記マレイミド誘導体はエチルマレイミドであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項5】
前記スチレン誘導体の組成比の前記範囲は、質量比の場合31%を含む範囲であり、モル比の場合35%を含む範囲であることを特徴とする請求項4に記載の光学ポリマー材料。
【請求項6】
スチレン誘導体のモノマーと、マレイミド誘導体のモノマーと、前記スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとは機械的強度に関する物性値が異なる改質有機化合物のモノマーとからなる重合体を含み、
前記スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとの関係において、光弾性係数が、前記スチレン誘導体の組成比の増加に従って第2値まで低下し、前記スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると前記第2値よりも上昇する非線形な特性を有し、
前記スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第3絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第4絶対値以下であることを特徴とする光学ポリマー材料。
【請求項7】
固有複屈折と光弾性係数とで規定される二次元複屈折マップにおいて、
前記スチレン誘導体の組成比とマレイミド誘導体の組成比とにより定まる第1光弾性係数と第1固有複屈折とで示される座標点と、前記改質有機化合物の第2光弾性係数と第2固有複屈折とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するように、前記スチレン誘導体の組成比と前記マレイミド誘導体の組成比とが設定され、前記第2光弾性係数と前記第2固有複屈折とで前記第1光弾性係数と前記第1固有複屈折とを相殺するように、前記改質有機化合物の組成比が設定されたことを特徴とする請求項6に記載の光学ポリマー材料。
【請求項8】
前記第3絶対値が50×10-12Pa-1であり、前記第4絶対値が20×10-3であることを特徴とする請求項7に記載の光学ポリマー材料。
【請求項9】
ガラス転移温度が、アクリル樹脂より高く前記改質有機化合物が含まれていない場合よりも低い、又は前記改質有機化合物が含まれていない場合よりも高いことを特徴とする請求項7または8に記載の光学ポリマー材料。
【請求項10】
前記スチレン誘導体はスチレンであり、前記マレイミド誘導体はエチルマレイミド又はシクロヘキシルマレイミドであり、前記改質有機化合物はメタクリル酸誘導体又はt-ブチルマレイミドであることを特徴とする請求項6~9のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項11】
前記スチレン誘導体の組成比の前記範囲は、質量比の場合6%、17%、23%又は25%を含む範囲であり、モル比の場合7%、18.8%、27.3%又は29%を含む範囲であることを特徴とする請求項10に記載の光学ポリマー材料。
【請求項12】
前記スチレン誘導体よりも前記マレイミド誘導体を多く含むことを特徴とする請求項1~11のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項13】
前記マレイミド誘導体のホモポリマーを含むことを特徴とする請求項1~12のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料を含むことを特徴とする光学フィルム。
【請求項15】
請求項14に記載の光学フィルムを備えることを特徴とする表示装置。
【請求項16】
スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含む光学ポリマー材料を形成する工程
を含み、
スチレン誘導体を所定の組成比の範囲内とし、
前記組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第1絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第2絶対値以下である光学ポリマー材料を形成する
ことを特徴とする光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項17】
マレイミド誘導体となる材料を、スチレン誘導体となる材料よりも多く配合して前記交互共重合体を形成することを特徴とする請求項16に記載の光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項18】
前記第1値が50×10-12Pa-1であり、前記第2値が20×10-3であることを特徴とする請求項16または17に記載の光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項19】
スチレン誘導体のモノマーと、マレイミド誘導体のモノマーと、前記スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとは機械的強度に関する物性値が異なる改質有機化合物のモノマーとからなる重合体を含む光学ポリマー材料を形成する工程
を含み、
スチレン誘導体を所定の組成比の範囲内とし、
前記組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第3絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第4絶対値以下である光学ポリマー材料を形成する
ことを特徴とする光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項20】
マレイミド誘導体となる材料を、スチレン誘導体となる材料よりも多く配合して前記共重合体を形成することを特徴とする請求項19に記載の光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項21】
前記第3絶対値が50×10-12Pa-1であり、前記第4絶対値が20×10-3であることを特徴とする請求項19または20に記載の光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項22】
固有複屈折と光弾性係数とで規定される二次元複屈折マップにおいて、
前記スチレン誘導体の組成比とマレイミド誘導体の組成比とにより定まる第1光弾性係数と第1固有複屈折とで示される座標点と、前記改質有機化合物の第2光弾性係数と第2固有複屈折とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するように、前記スチレン誘導体の組成比と前記マレイミド誘導体の組成比とを設定し、
前記第1光弾性係数と前記第1固有複屈折とを相殺するように、前記改質有機化合物の組成比を設定する
ことを特徴とする請求項18~21のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料の製造方法。
【請求項23】
請求項16~22のいずれか一つに記載の製造方法によって製造された光学ポリマー材料を薄く成形して光学フィルムを作製することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ポリマー材料、光学フィルム、表示装置、光学ポリマー材料の製造方法および光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)や有機発光ダイオード(OLED)表示装置に代表される表示装置は、様々な機器の表示装置として利用されている。例えば、これらの表示装置は、コンピュータの表示装置やテレビ受像器、自動車、飛行機、船舶等に搭載される計器盤やナビゲーション機器、スマートフォンなどの携帯情報端末機器、または広告や案内表示に用いられるデジタルサイネージ(電子看板)に利用されている。
【0003】
これらの表示装置には数種類の光学ポリマーフィルムが使用されており、優れた画質の実現に貢献している。それらのうち、たとえば偏光板保護フィルムは、複屈折を非常に小さく抑えることが望まれている。また、ピックアップレンズ用途やLCDのバックライト用途のポリマーにおいても、低複屈折性が求められている。複屈折を小さく抑えるためには、固有複屈折および光弾性複屈折が小さいことが好ましい。また、広範囲の環境温度下での使用を考慮すると、固有複屈折の温度依存性が低いことが好ましい(たとえば非特許文献1)。このような低温度依存性かつ低複屈折の光学ポリマー材料を実現するためには、従来は4元系や5元系の光学ポリマー材料が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. D. Shikanai, A. Tagaya and Y. Koike, Appl. Phys. Lett., 108 pp.131902(2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、5元系の光学ポリマー材料は、組成が複雑であり、所望の特性を得るための設計が煩雑であるため、実用上課題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な組成であり、所望の特性を得るための設計が容易な低複屈折の光学ポリマー材料、光学フィルムおよびその製造方法、ならびにこれらを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光学ポリマー材料は、スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含み、光弾性係数が、前記スチレン誘導体の組成比の増加に従って第1値まで低下し、前記スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると前記第1値よりも上昇する非線形な特性を有し、前記スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第1絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第2絶対値以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る光学ポリマー材料は、スチレン誘導体のモノマーと、マレイミド誘導体のモノマーと、前記スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとは機械的強度に関する物性値が異なる改質有機化合物のモノマーとからなる重合体を含み、前記スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとの関係において、光弾性係数が、前記スチレン誘導体の組成比の増加に従って第2値まで低下し、前記スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると前記第2値よりも上昇する非線形な特性を有し、前記スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第3絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第4絶対値以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る光学フィルムは、前記光学ポリマー材料を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る表示装置は、前記光学フィルムを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光学ポリマー材料の製造方法は、スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含む光学ポリマー材料を形成する工程を含み、スチレン誘導体を所定の組成比の範囲内とし、前記組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第1絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第2絶対値以下である光学ポリマー材料を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光学ポリマー材料の製造方法は、スチレン誘導体のモノマーと、マレイミド誘導体のモノマーと、前記スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとは機械的強度に関する物性値が異なる改質有機化合物のモノマーとからなる重合体を含む光学ポリマー材料を形成する工程を含み、スチレン誘導体を所定の組成比の範囲内とし、前記組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第3絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第4絶対値以下である光学ポリマー材料を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光学フィルムの製造方法は、前記製造方法によって製造された光学ポリマー材料を薄く成形して光学フィルムを作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2元系または3元系程度という簡易な組成かつ設計容易性を有し、かつきわめて好ましい低複屈折特性を有する光学ポリマー材料、および光学フィルムを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光学ポリマー材料からなる光学フィルムを用いた液晶表示装置の主要部の模式的な分解斜視図である。
【
図2】
図2は、P(St/EMI)を含む光学ポリマーフィルムにおけるスチレンの質量比に対する固有複屈折を示すグラフである。
【
図3】
図3は、P(St/EMI)を含む光学ポリマーにおけるスチレンの質量比に対する光弾性係数を示すグラフである。
【
図4】
図4は、P(St/EMI)を含む光学ポリマーフィルムにおけるスチレンの質量比に対する固有複屈折の温度係数を示すグラフである。
【
図5】
図5は、配合したモノマー中のモノマーM
1の比に対する交互重合体中のモノマーM
1の比を示すグラフである。
【
図6】
図6は、重合率に対するモノマーM
1のモル比を示すグラフである。
【
図7】
図7は、転化率を80%とした場合の組成分布を示すヒストグラムである。
【
図8】
図8は、マレイミド誘導体が異なる光学ポリマー材料におけるスチレンの質量比に対する光弾性係数を示すグラフである。
【
図9】
図9は、P(St/MMA)を含む光学ポリマーフィルムにおけるスチレンの質量比に対する固有複屈折を示すグラフである。
【
図10】
図10は、P(St/MMA)を含む光学ポリマーにおけるスチレンの質量比に対する光弾性係数を示すグラフである。
【
図11】
図11は、P(St/EMI/MMA)の二次元複屈折マップを示すグラフである。
【
図12】
図12は、P(St/CHMI/MMA)の二次元複屈折マップを示すグラフである。
【
図13】
図13は、P(St/EMI/TCEMA)の二次元複屈折マップを示すグラフである。
【
図14】
図14は、P(St/EMI/tBuMI)の二次元複屈折マップを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0017】
本発明の実施形態に係る光学ポリマー材料は、たとえば液晶表示装置における光学フィルムの材料として使用される。
図1は、実施形態に係る光学ポリマー材料からなる光学フィルムを用いた液晶表示装置の主要部の模式的な分解斜視図である。液晶表示装置10は、バックライト1と、偏光板2と、位相差フィルム3と、透明電極付きガラス基板4と、液晶層5と、透明電極付きガラス基板6と、RGBカラーフィルタ7と、位相差フィルム8と、偏光板9と、が、この順番で積層した公知の構成を有している。
【0018】
この液晶表示装置10において、実施形態に係る光学ポリマー材料からなる光学フィルムは、位相差フィルム3、8や、偏光板2、9の両面に貼付される保護フィルムとして好適に使用できる。
【0019】
本発明の実施形態に係る光学ポリマー材料は、スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含むものである。本発明者らの鋭意検討によれば、スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体を含む光学ポリマー材料は、これに含まれるスチレン誘導体の組成比に応じて複屈折特性が非線形に変化する。このような複屈折特性の非線形な変化は、光弾性係数が、スチレン誘導体の組成比の増加に従って或る所定値まで低下し、その後スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると所定値よりも上昇する非線形な特性である。
【0020】
そこで、本発明者らは、この非線形性を利用して、2元系という簡易な組成かつ設計容易性を有しながら、きわめて好ましい低複屈折特性を有する光学ポリマー材料を見出した。具体的には、本発明者らは、スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が比較的小さい第1値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が比較的小さい第2値以下である特性を達成できることを見出した。
【0021】
液晶表示装置などの表示装置や光学機器に使用されている光学フィルムには、一般的に使用中に応力が掛かるため光弾性複屈折(応力複屈折とも呼ばれる)が発生する。光弾性複屈折は、光弾性係数および応力に比例するため、光弾性係数が小さければ光弾性複屈折も小さくなる。したがって、光弾性係数および固有複屈折の絶対値が小さければ、きわめて好ましい低複屈折特性を実現できる。なお、光弾性係数および固有複屈折は、物質に固有の量である。
【0022】
光弾性係数の絶対値の上限である第1絶対値は、たとえば50×10-12Pa-1であれば、十分に小さいが、好ましくは10×10-12Pa-1であり、さらに好ましくは2×10-12Pa-1である。また、固有複屈折の絶対値の上限である第2絶対値は、たとえば20×10-3であれば、十分に小さいが、好ましくは5×10-3であり、さらに好ましくは1×10-3である。
【0023】
また、固有複屈折の温度係数の絶対値が2×10-5℃-1以下、より好ましくは1×10-5℃-1以下であれば、複屈折の温度依存性が小さいので、広範囲の環境温度下で好適な複屈折特性を維持できる。
【0024】
なお、ランダム重合体を含む光学ポリマー材料では、一般的に固有複屈折、光弾性係数、固有複屈折の温度係数は、モノマーの組成比に対して線形に変化するが、本発明の実施形態に係る光学ポリマー材料では、スチレン誘導体の組成比に応じて複屈折特性が非線形に変化するので、好適な複屈折特性を、2元系という簡易な組成かつ設計容易に実現できると考えられる。
【0025】
さらには、本発明者らは、本発明の実施形態に係る光学ポリマー材料は、既存の低複屈折の光学ポリマー材料よりも可撓性や耐熱性にきわめて優れていることも見出した。
【0026】
ここで、マレイミドは、マレイン酸がイミド化した5員環を基本構造として、窒素原子に結合した水素原子が様々な置換基に置換されることで、様々なマレイミド誘導体を構成する。また、スチレンは、ベンゼンの水素原子の一つがビニル基に置換した構造を基本構造として、水素原子が様々な置換基に置換されることで、様々なスチレン誘導体を構成する。
【0027】
N-エチルマレイミドの構造式を下記に示す。N-エチルマレイミドの分子量は125.13である。
【化1】
【0028】
また、スチレンの構造式を下記に示す。スチレンの分子量は104.15である。
【化2】
【0029】
さらに、N-エチルマレイミドとスチレンとからなる交互共重合体の構造式の一例を下記に示す。
【化3】
【0030】
なお、マレイミド誘導体は、例えば下記の一般式で表される。
【化4】
(Rは,水素,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,tert-ブチル基,1-メチルプロピル基,2-メチルプロピル基,ペンチル基,シクロペンチル基,1,1-ジメチルプロピル基,1,2-ジメチルプロピル基,2,2-ジメチルプロピル基,1-エチルプロピル基,2-エチルプロピル基,1-メチルブチル基,2-メチルブチル基,3-メチルブチル基,ヘキシル基,シクロヘキシル基,1-メチルペンチル基,2-メチルペンチル基,3-メチルペンチル基,4-メチルペンチル基,1-エチルブチル基,2-エチルブチル基,1,1-ジメチルブチル基,1,2-ジメチルブチル基,1,3-ジメチルブチル基,2,2-ジメチルブチル基,2,3-ジメチルブチル基,1,1,2-トリメチルプロピル基,1,2,2-トリメチルプロピル基,1-メチル-1-エチルプロピル基,1-エチル-2-メチルプロピル基,1,1-ジエチルエチル基,2-エチルヘキシル基,ドデシル基,ラウリル基,ヒドロキシメチル基,2-ヒドロキシエチル基,クロロメチル基,ジクロロメチル基,トリクロロメチル基,フルオロメチル基,ジフルオロメチル基,トリフルオロメチル基,クロロフルオロメチル基,ジクロロフルオロメチル基,ブロモメチル基,ヨードメチル基,1-クロロエチル基,2-クロロエチル基,2,2,2-トリクロロエチル基,1,1,2,2,2-ペンタクロロエチル基,1-フルオロエチル基,2-フルオロエチル基,2,2,2-トリフルオロメチル基,1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル基,2-ブロモエチル基,2,2,2-トリブロモエチル基などから選ばれる。X
1,X
2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素,フッ素,塩素,臭素,ヨウ素,ヒドロキシ基,メチル基などから選ばれる。ただし、R,X
1,X
2は、これらに限定されるものではない。例えば、Rはフェニル基やベンジル基でもよい。)
【0031】
また、スチレン誘導体は、例えば下記の一般式で表される。
【化5】
(X
1~X
3は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素,フッ素,塩素,臭素,ヨウ素,ヒドロキシ基,メチル基などから選ばれる。Y
1~Y
5は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素,フッ素,塩素,臭素,ヨウ素,ヒドロキシ基,メチル基,ヒドロキシメチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,tert-ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基などから選ばれる。ただし、X
1~X
3,Y
1~Y
5は、これらに限定されるものではない。)
【0032】
これらの一般式に示されるマレイミド誘導体およびスチレン誘導体は、本発明の実施形態に係る光学ポリマー材料において最終的にポリマーを形成しているモノマー単位で見たときのモノマーに対応する構造である。
【0033】
なお、マレイミド誘導体とスチレン誘導体との重合反応では、モノマー反応性比r1、r2がきわめて小さく、交互共重合体が形成されやすいという特性がある。
【0034】
以下、スチレン誘導体のモノマーとマレイミド誘導体のモノマーとからなる交互共重合体をSt/XMI系ポリマー、またはP(St/XMI)と記載する場合がある。XMIは、たとえばマレイミド誘導体がN-エチルマレイミドの場合はEMIと記載する。N-メチルマレイミドの場合はMeMIと記載する。N-シクロヘキシルマレイミドの場合はCHMIとする。N-tert-ブチルマレイミドの場合はtBuMIとする。また、以下では、Stは、特に言及しない場合は化学式C6H5CH=CH2で表されるスチレンである。
【0035】
(サンプルの作製)
本発明の実施形態に係る光学ポリマー材料の特性を確認するためにサンプルを作製した。なお、スチレン誘導体とマレイミド誘導体とからなる交互共重合体を合成する方法としては、例えばマレイミド誘導体となる材料と、スチレン誘導体となる材料とを交互共重合し、その後側鎖を反応させることによってマレイミド誘導体とスチレン誘導体とからなる交互共重合体を合成する方法もある。マレイミド誘導体となる材料とは、交互共重合体に組み込まれた後に、側鎖反応などによってモノマー単位で見てマレイミド誘導体とできる材料である。同様に、スチレン誘導体となる材料とは、交互共重合体に組み込まれた後に、側鎖反応などによってモノマー単位で見てスチレン誘導体とできる材料である。マレイミド誘導体となる材料としては、例えば無水マレイン酸誘導体またはマレイン酸誘導体がある。また、このように合成された交互共重合体に任意の側鎖を反応させて所望の構造を持つポリマーを作製してもよい。
【0036】
ここでは、XMIとStを用いて交互共重合体を作製した。まず、東京化成工業社製のSt、EMI、MeMI、tBuMI、CHMIを試薬として準備した。Stは減圧蒸留を行い精製した。また、和光純薬工業社製のメタノール、塩化メチレンを溶媒として準備した。
そして、以下の工程によって重合を行った。
1.試験管にXMI(EMI、MeMI、tBuMIまたはCHMI)およびStのモノマー、重合開始剤、連鎖移動剤を投入し、配合した。なお、XMIとStとの配合比については様々な値となるようにした。たとえば、投入するモノマーを100%XMIとしたり、100%Stとしたりした。
2.試験管を密封後、十分に振ることで内容物を混合し、超音波脱気・分散を行った。
3.試験管を70℃の湯浴に24時間静置し、重合を行った。
【0037】
以上の工程によって作製された光学ポリマー材料の円柱状のバルクの両端を切除して得たバルクに対して、さらに以下の工程によって精製を行った。
1.バルクを1cm角程度に破砕して塩化メチレンに投入し、均一なポリマー溶液を作製した。
2.ポリマー溶液をメタノールに滴下し、ポリマーを析出させた。
3.濾紙で濾過を行い、濾紙上に残ったポリマーを回収し、デシケータ内で2~3時間程度減圧乾燥させた、その後さらに105℃の減圧乾燥機で24時間以上減圧乾燥させた。
【0038】
以上の工程によって得られた精製されたポリマーのガラス転移温度を島津製作所社製示差走査熱量計、DSC-60(DSC)を用いて測定した。
【0039】
さらに、精製ポリマーを以下のような工程によって薄く成形し、フィルム化した。
1.精製ポリマー1~2gに塩化メチレン8~20gを加え、均一なポリマー溶液を作製した。
2.ドラフト内でアプリケータを用いてポリマー溶液を剥離PETフィルム上に展開した。
3.展開したポリマー溶液を蓋で覆い、緩やかに溶媒を蒸発させた。
4.剥離PETフィルム上に形成されたポリマーフィルムを剥がし、減圧乾燥機で24時間以上減圧乾燥させた。ガラス転移温度が125℃以下のポリマーフィルムについては90℃で減圧乾燥を行い、それ以外のポリマーフィルムについては105℃で減圧乾燥を行った。
【0040】
作製したポリマーフィルムの光弾性係数をユニオプト社製の自動複屈折制御装置ABR-EXを用いて測定した。なお、光弾性係数の測定については、以下のように行った。まず、フィルムの測定部分を幅4~5mm、厚みを35~55μm程度としたサンプルフィルムに、0~2Nの応力を約0.1N間隔で印加してリタデーションの測定を行った。そして、0.3~2N程度の範囲における、リタデーションと、測定部分の幅とから光弾性係数を算出した。したがって、光弾性係数を測定する際の印加応力は最大2N程度である。
【0041】
つづいて、作製したポリマーフィルムを、井元製作所製フィルム二軸延伸装置であるIMC-C513を用いて一軸熱延伸した。その後,24時間以上静置して内部応力を緩和させ、Varian社製のフーリエ変換赤外分光光度計、Varian 7000eを用いた赤外域の吸光度から、赤外二色法を用いてこの延伸フィルムの配向度を評価した。また、ユニオプト社製の自動複屈折制御装置ABR-10Aを用いて、延伸フィルムのリタデーションを測定した。そして、リタデーションと配向度とフィルムの厚みから固有複屈折を算出した。また、一部のポリマーフィルムについては屈折率を測定し、共重合組成比を推定した。
【0042】
フィルムの厚みをd、リタデーションをRe、配向複屈折をΔnor、固有複屈折をΔn0、配向度をfとすると、以下の関係が成り立つ。
Re=Δnor・d=Δn0・f・d
したがって、リタデーションと配向度とフィルムの厚みから固有複屈折を算出できる。
【0043】
測定結果の例を表1に示す。測定結果から算出された固有複屈折は、各組成ポリマーの固有複屈折を各組成ポリマーの重量分率で重み付した、ポリマー全体の平均として計算されたものと定義できる。
【表1】
【0044】
(複屈折特性)
以上のように作製した光学ポリマーフィルムの複屈折特性について説明する。まず、EMIのモノマーをStのモノマーよりも多く配合することによって作製したP(St/EMI)を含む光学ポリマーフィルムの複屈折特性について説明する。
図2は、25℃での光学ポリマーフィルムにおけるスチレンの質量比に対する固有複屈折を示すグラフである。縦軸は固有複屈折Δn
0である。横軸は光学ポリマーフィルムにおけるStの組成比を質量比として百分率(wt.%)で示したものである。なお、Stは、光学ポリマーフィルム中にて、交互共重合体またはホモポリマーの状態にて存在すると考えられる。質量比とは、光学ポリマーフィルムの質量に対する、交互共重合体を構成するStおよびホモポリマーを構成するStの総和の質量の比を意味する。すなわち、質量比が0%のデータ点は、Stを用いずにEMIのみを用いて作製した光学ポリマーフィルムのデータである。また、質量比が100%のデータ点は、XMIを用いずにStのみを用いて作製した光学ポリマーフィルムのデータである。なお、Stの質量比は、質量比に対して屈折率が線形に変化すると仮定して、波長594nmにおいて測定した屈折率から算出したものである。
図2に示すように、固有屈折率はStの質量比に対して線形に変化することが確認された。
【0045】
図3は、光学ポリマーにおけるスチレンの質量比に対する光弾性係数を示すグラフである。横軸は光学ポリマーフィルムにおけるStの組成比を質量比として百分率(wt.%)で示したものである。縦軸は光弾性係数Cである。なお、Stの質量比は、質量比に対して屈折率が線形に変化すると仮定して、波長594nmにおいて測定した屈折率から算出したものである。
【0046】
図3に示すように、光弾性係数は、Stの質量比に対する変化が線形から大きく外れていることが確認された。具体的には、Stの質量比の増加に従って-2×10
-12Pa
-1までは低下し、組成比がさらに増加すると上昇し、-2×10
-12Pa
-1よりも上昇する非線形な形状、すなわち下に凸またはV字状に変化することが確認された。なお、
図3において確認された値である-2×10
-12Pa
-1がV字状の最小値と完全に一致するとは限らない。
【0047】
図4は、光学ポリマーフィルムにおけるスチレンの質量比に対する固有複屈折の温度係数を示すグラフである。横軸は光学ポリマーフィルムにおけるStの組成比を質量比として百分率(wt.%)で示したものである。縦軸は固有複屈折の温度係数(dΔn
0/dT)である。なお、Stの質量比は、質量比に対して屈折率が線形に変化すると仮定して、波長594nmにおいて測定した屈折率から算出したものである。
【0048】
図4に示すように、固有複屈折の温度係数は、Stの質量比に対する変化が線形から大きく外れていることが確認された。具体的には、上に凸または逆V字状に変化することが確認された。さらには、温度係数は質量比が0%から100%にわたって1.2×10
-5℃
-1以下であり、2×10
-5℃
-1以下を満たすきわめて小さい値であることが確認された。なお、
図3と同様に、確認された値である1.2×10
-5℃
-1がV字状の最大値と完全に一致するとは限らないが、2×10
-5℃
-1より大幅に小さい値であることは確実である。
【0049】
作製した光学ポリマー材料および光学フィルムの特性の一例を表2に示す。Tgはガラス転移温度である。St(wt.%)およびEMI(wt.%)は配合時すなわち仕込み時(in feed)の質量比である。表2に示すように、Stが23.3wt.%、EMIが76.7wt.%において、193.9℃というきわめて高いガラス転移温度が得られ、耐熱性がきわめて高いことが確認された。また、固有複屈折Δn0は25℃にて0.07×10-3であり、温度係数dΔn0/dTは0.72×10-5℃-1であり、光弾性係数Cは0.91×10-12Pa-1であり、いずれもゼロに近いきわめて低い値となり、良好な低複屈折特性が確認された。
【0050】
【0051】
つづいて、表2のサンプルについて、プロトン核磁気共鳴(
1H-NMR)よって組成比(In copolymer)を測定した。
図2に示す結果から計算された、Δn
0がゼロとなる組成比(calculated asΔn
0=0)、および仕込み組成比((in feed))とともに表3に示す。表3に示すように、P(St/EMI=31/69(wt.%))において良好な低複屈折特性を実現できることが確認された。なお、このような光学ポリマー材料および光学フィルムは仕込み組成についてStが23.3wt.%、EMIが76.7wt.%において実現されることも確認された。また、P(St/EMI=31/69(wt.%))はモル比で表すとP(St/EMI=35/65(mol%))である。また、計算された組成比と実際の組成比の差は1%以内であった。これより,P(St/EMI)を含むポリマー系(P(St/EMI)系)では、固有複屈折と組成比との間には極めて高い線形性が成り立つことが示唆された。なお、複屈折の低減に最適な組成は、各モノマーの構造によって異なる。例えば、本発明者らは、計算によって、P(St/CHMI)系においては、(St/CHMI=16/84(wt.%))付近の組成にて特に複屈折が小さくなると予測した。すなわち、(St/CHMI=16/84(wt.%))を含む所定範囲において、光弾性係数の絶対値が50×10
-12Pa
-1以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が20×10
-3以下であるという好適な特性が実現されると予測される。
【0052】
【0053】
(Mayo-Lewis式に基づく共重合組成解析)
つづいて、P(St/EMI)系について、Mayo-Lewis式に基づき共重合組成を解析した(たとえば、I. Skeist, J. Am. Chem. Soc., 68, p. 1781 (1946)、M. Fineman, S. D. Ross, J. Polym. Sci., 5, 2, p. 259-265 (1949)、R. Kitamura, kobunshi, 14, 160, p. 564-573(1965)、などを参照)。
【0054】
モノマーM1、モノマーM2がそれぞれSt、EMIの場合、モノマー反応性比r1、r2は、0.05、0.01である。また、モノマーM1、モノマーM2がそれぞれSt、CHMIの場合、モノマー反応性比r1、r2は、0.13、0.0053ときわめて小さい(たとえば、H. Aida, I. Takase, M. Kobayashi,福井大学工学部研究報告, 31, 1, p.43-50 (1985)、T. Oishi, M. Fujimoto, and Y. Haruta, Kobunshi Ronbunshu, 48(3), p. 123-128 (1991)、などを参照)。そこで、モノマーM1とモノマーM2をそれぞれSt、EMIとして、共重合組成を解析した。
【0055】
【0056】
図5は、配合したモノマー中のM
1(St)の比に対する重合体中のM
1の比を示すグラフである。横軸においてたとえば0は配合したモノマーがすべてM
2(EMI)であり、1は配合したモノマーがすべてM
1であることを示す。また、縦軸は、横軸の比の場合に瞬時に生成する重合体におけるM
1の比を示す。
【0057】
図5に示すように、M
1の比が0からわずかに大きくなるだけで重合体におけるM
1の比は急激に0.5に達する。そして、M
1の比が1にかなり近づくまで0.5が維持される。これは、M
1とM
2との交互共重合体がきわめて生成されやすいことを示している。なお、このような傾向は、r
1、r
2を0.01~0.1程度の範囲で変化させた場合でも大きくは変化しないことが確認された。
【0058】
図6は、M
1、M
2がそれぞれSt、EMIの場合における、重合率に対するM
1のモル比を示すグラフである。重合率は、ポリマー材料を作製するために配合した全モノマーのうち重合体となったものの割合である。
【0059】
図6において、Monomer compositionとは、M
1のモノマーのモル比であり、重合率Pが0%のときは23%程度であるが、重合率Pが約50%のときに0%となる。これはM1のモノマーが全て重合体となったことを意味する。また、Instantaneous copolymer compositionとは、その重合率Pにおいて瞬時に生成する重合体のモル比であり、重合率Pが0%のときでも50%である。これは重合開始の初期から交互共重合体が生成することを意味する。また、重合率Pが50%近辺で急激に0%に低下する。これは交互共重合体を生成するためのM
1のモノマーが0%になるためである。また、Accumulated copolymer compositionとは、M
1を含む重合体の累積値である。重合率Pが0%から50%近辺までは交互共重合体が生成するため約50%であるが、50%以上ではM
2のホモポリマーの生成が進むため、相対的にM
1を含む重合体(ほぼ交互共重合体)の相対的な割合は減少する。なお、
図6は計算値であるため、重合率Pは100%まで示されてあるが、実際には重合反応が進むにつれてポリマー中でモノマーが移動しにくくなるので、ある程度の重合率に達すると重合反応は低下する。また、このような傾向は、r
1、r
2を0.01~0.1程度の範囲で変化させた場合でも大きくは変化しないことが確認された。
【0060】
ここで、作製した光学ポリマー材料および光学フィルムにおいてP(St/EMI=35/65(mol%))であることから、ポリマーへの転化率は80%程度であることが示唆される。
【0061】
図7は、転化率を80%とした場合の組成分布を示すヒストリグラムである。
図7は以下のことを示す。すなわち、交互共重合性の非常に高い、M
1(St)が40~50%含まれるポリマーが全体のおよそ55%、M
1が5%以下含まれる、ほぼM
2(EMI)のホモポリマーであるポリマーが全体の約35%、残りの約10%がその中間の組成のポリマーである。このうち、M
1が40~50%含まれるポリマーは、r
1、r
2<<1であることから、M
1とM
2との交互共重合体、すなわちP(St-alt-EMI)であることが示唆される。
【0062】
(各種P(St/XMI)の光弾性係数)
つぎに、マレイミド誘導体が異なるP(St/XMI)の光弾性係数の測定結果について説明する。
図8は、XMIがEMI、CHMI、MeMI、tBuMIの場合のP(St/XMI)の光弾性係数を示すグラフである。なお、いずれの場合も、なお、Stの質量比は、質量比に対して屈折率が線形に変化すると仮定して、波長594nmにおいて測定した屈折率から算出したものである。いずれの場合も、光弾性係数が、Stの質量比の増加に従って低下し、Stの質量比がさらに増加すると上昇する非線形な特性を有することが確認された。このような非線形性の原因は必ずしも明らかではないが、マレイミド誘導体の骨格とSt誘導体のベンゼン環との相互作用であると予想される。
【0063】
(P(St/EMI)とPEMIとのブレンドポリマーのヘイズ値)
つぎに、P(St/EMI=30/70(wt.%))とEMIのホモポリマー(PEMI)とを同じ質量だけ混合し、塩化メチレンに溶解させ、上述した方法と同様にして剥離PETフィルム上に展開し、フィルム化したブレンドポリマーを作製した。そして、このブレンドポリマーのガラス転移温度とヘイズ値を測定した。その結果、ブレンドポリマーでありながらヘイズ値は1.26%であり、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のヘイズ値である1.25%と同等の値であった。
【0064】
また、ブレンドポリマーのガラス転移温度は220℃であった。これは、P(St/EMI=30/70(wt.%))のガラス転移温度である185℃とPEMIのガラス転移温度である257℃との平均値である221℃と同等の値であった。また、ブレンドポリマーのガラス転移の吸熱ピークは一つであった。このことはブレンドポリマーの相溶性が高いことを示唆している。また、ヘイズ値の低さも相溶性の高さを示唆している。
【0065】
一方、P(St/EMI)系ポリマーを作製する際に、Stの仕込み量が多いと白濁する場合があることが確認された。このことから、ヘイズ値を低くするには、光学ポリマー材料の製造の際に、マレイミド誘導体のモノマー(またはマレイミド誘導体となる材料)をスチレン誘導体のモノマー(またはスチレン誘導体となる材料)よりも多く配合することが好ましい。あるいは、ポリマーブレンド法を用いて作製してもよい。
【0066】
(他の実施形態)
本発明者らは、上記実施形態に係る光学ポリマー材料を改質するために、スチレン誘導体とマレイミド誘導体とに加えて、改質有機化合物として、メタクリル酸誘導体のモノマーを重合体の構成材料に含めることを検討した。スチレン誘導体およびマレイミド誘導体は、例えば光弾性係数が正であるが、メタクリル酸誘導体は、スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとは機械的強度に関する物性値、例えばガラス転移温度が異なり、かつ例えば光弾性係数が負値である。
【0067】
その結果、本発明者らは、スチレン誘導体のモノマーと、マレイミド誘導体のモノマーと、メタクリル酸誘導体のモノマーとからなる重合体を含み、光弾性係数が、スチレン誘導体のモノマー及び前記マレイミド誘導体のモノマーとの関係において、スチレン誘導体の組成比の増加に従って第2値まで低下し、スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると第2値よりも上昇する非線形な特性を有し、スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第3絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第4絶対値以下である光学ポリマー材料を見出した。第3絶対値は例えば50×10-12Pa-1であり、第4絶対値は例えば20×10-3である。さらに、本発明者らは、この光学ポリマー材料において、光弾性係数と固有複屈折とで規定される二次元複屈折マップにおいて、スチレン誘導体の組成比とマレイミド誘導体の組成比とにより定まる第1光弾性係数と第1固有複屈折とで示される座標点と、メタクリル酸誘導体の第2光弾性係数と第2固有複屈折とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するように、スチレン誘導体の組成比とマレイミド誘導体の組成比とを設定し、第1光弾性係数と第1固有複屈折とを相殺するように、メタクリル酸誘導体の組成比を設定することで、3元系という簡易な組成かつ設計容易性を有し、かつきわめて好ましい低複屈折特性かつ機械的強度に関して改質された特性を有する光学ポリマー材料を実現できることに想到した。
【0068】
さらに、本発明者らは、スチレン誘導体のモノマーと、マレイミド誘導体のモノマーと、メタクリル酸誘導体のモノマーとからなる重合体を含む光学ポリマー材料において、光弾性係数と固有複屈折とで規定される二次元複屈折マップにおいて、スチレン誘導体、マレイミド誘導体、メタクリル酸誘導体のうちいずれか2つの組成比により定まる第1光弾性係数と第1固有複屈折とで示される座標点と、スチレン誘導体、マレイミド誘導体、メタクリル酸誘導体のうち他の1つの第2光弾性係数と第2固有複屈折とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するように、いずれか2つの組成比を設定し、第1光弾性係数と第1固有複屈折とを相殺するように、他の1つの組成比を設定することで、3元系という簡易な組成かつ設計容易性を有し、かつきわめて好ましい低複屈折特性かつ機械的強度に関して改質された特性を有する光学ポリマー材料を実現できることに想到した。
【0069】
上記検討にあたって、本発明者らは、まず、事前検討として、Stと、メタクリル酸誘導体とを用いて共重合体を作製した。メタクリル酸誘導体としてMMA(methyl methacrylate)を用いた。まず、和光純薬工業社製のMMAを試薬として準備した。MMAは減圧蒸留を行い精製した。また、和光純薬工業社製のメタノール、塩化メチレンを溶媒として準備した。
【0070】
そして、上述した交互共重合体の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって重合を行った。この工程によって作製された光学ポリマー材料の円柱状のバルクの両端を切除して得たバルクに対して、さらに上述した交互共重合体の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって精製を行った。
【0071】
以上の工程によって得られた精製されたポリマーのガラス転移温度をDSC-60(DSC)を用いて測定した。
【0072】
さらに、精製ポリマーを上述した交互共重合体の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって薄く成形し、フィルム化した。
【0073】
作製したポリマーフィルムの光弾性係数をABR-EXを用いて測定した。
【0074】
つづいて、作製したポリマーフィルムを、井元製作所製フィルム二軸延伸装置であるIMC-11A9を用いて一軸熱延伸した。その後,24時間以上静置して内部応力を緩和させ、Varian 7000eを用いた赤外域の吸光度から、赤外二色法を用いてこの延伸フィルムの配向度を評価した。また、ABR-10Aを用いて、延伸フィルムのリタデーションを測定した。そして、リタデーションと配向度とフィルムの厚みから固有複屈折を算出した。また、一部のポリマーフィルムについては屈折率を測定し、共重合組成比を推定した。
【0075】
図9は、25℃での、P(St/MMA)を含む光学ポリマーフィルムにおけるスチレンの質量比に対する固有複屈折を示すグラフである。縦軸は固有複屈折Δn
0である。横軸は光学ポリマーフィルムにおけるStの組成比を質量比として百分率(wt.%)で示したものである。なお、Stの質量比は、質量比に対して屈折率が線形に変化すると仮定して、波長594nmにおいて測定した屈折率から算出したものである。
図9に示すように、固有屈折率はStの質量比に対して線形に変化することが確認された。
【0076】
図10は、P(St/MMA)を含む光学ポリマーにおけるスチレンの質量比に対する光弾性係数を示すグラフである。横軸は光学ポリマーフィルムにおけるStの組成比を質量比として百分率(wt.%)で示したものである。縦軸は光弾性係数Cである。なお、Stの質量比は、質量比に対して屈折率が線形に変化すると仮定して、波長594nmにおいて測定した屈折率から算出したものである。
【0077】
図10に示すように、光弾性係数は、Stの質量比に対する変化が線形から大きく外れ、下に凸に変化することが確認された。また、Stの質量比が0%の場合、すなわちMMAが100%である光学ポリマーの光弾性係数が負値であることも確認された。
【0078】
以上のP(St/MMA)、およびP(St/EMI)の結果を用いて、P(St/EMI/MMA)を含む3元系の光学ポリマーの二次元複屈折マップを作成した。二次元複屈折マップは、固有複屈折と光弾性係数とで規定される二次元座標軸において、St、EMI、MMAのそれぞれのホモポリマーの固有複屈折および光弾性係数の座標点のうち、いずれか2点を線で結んで得られるマップである。
【0079】
図11は、P(St/EMI/MMA)の二次元複屈折マップを示すグラフである。なお、未測定の部分は破線で示している。上述したように、Stを含む2元系の光学ポリマーにおいては、組成比に対する光弾性係数の変化は非線形なので、線分も非線形な形状をしている。なお、例えばPStはStのホモポリマーの特性を表す点であることを示す。PEMI、PMMAについても同様である。
【0080】
この二次元複屈折マップを利用して、たとえば以下の例のようにして、固有複屈折と光弾性係数とが小さい組成比の光学ポリマーを設計できる。すなわち、まず、Stの組成比とEMIの組成比とにより定まる光弾性係数と固有複屈折(第1光弾性係数と第1固有複屈折)とで示される座標点と、MMAの光弾性係数と固有複屈折(第2光弾性係数と第2固有複屈折)とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するように、P(St/EMMI)の組成比とが設定する。つづいて、第2光弾性係数と第2固有複屈折とで第1光弾性係数と第1固有複屈折とを相殺するように、メタクリル酸誘導体の組成比を設定する。
【0081】
ここで、第1光弾性係数と第1固有複屈折とで示される座標点と、第2光弾性係数と第2固有複屈折とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するとは、3点が一直線に列ぶ場合を含むが、必ずしも一直線に列ばなくてもよく、たとえば2つの座標点を結ぶ直線が原点の近傍を通る場合も含む。また、第2光弾性係数と第2固有複屈折とで第1光弾性係数と第1固有複屈折とを相殺するとは、第2光弾性係数と第1光弾性係数との加算値が零となり、かつ第2固有複屈折と第1光弾性係数との加算値が零となるような、完全に相殺する場合も含むが、少なくともいずれか一方の加算値が零に近い値となるような、完全に相殺しない場合も含まれる。これにより、光弾性係数の絶対値が50×10-12Pa-1以下であり、固有複屈折の絶対値が20×10-3以下である光学ポリマー材料を実現できる。
【0082】
(3元系光学ポリマーの作製)
図11のP(St/EMI/MMA)の二次元複屈折マップを利用して、表5に示すモノマー量、組成比を設定し、3元系光学ポリマーフィルムを作製した。
【表5】
【0083】
具体的には、表5に示すモノマーを準備し、上述した交互共重合体の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって重合を行った。この工程によって作製された光学ポリマー材料の円柱状のバルクの両端を切除して得たバルクに対して、さらに上述した交互共重合体の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって精製を行った。たとえば減圧乾燥機での減圧乾燥は90℃にて24時間行った。
【0084】
以上の工程によって得られた精製されたポリマーのガラス転移温度をDSC-60(DSC)を用いて測定した。
【0085】
さらに、精製ポリマーを上述した交互共重合体の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって薄く成形し、フィルム化した。
【0086】
作製したポリマーフィルムの光弾性係数をABR-EXを用いて測定した。
【0087】
つづいて、作製したポリマーフィルムを、井元製作所製フィルム二軸延伸装置であるIMC-11A9を用いて一軸熱延伸した。その後,24時間以上静置して内部応力を緩和させ、Varian 7000eを用いた赤外域の吸光度から、赤外二色法を用いてこの延伸フィルムの配向度を評価した。また、ABR-10Aを用いて、延伸フィルムのリタデーションを測定した。そして、リタデーションと配向度とフィルムの厚みから固有複屈折を算出した。また、一部のポリマーフィルムについては屈折率を測定し、共重合組成比を推定した。
【0088】
作製した光学ポリマー材料および光学フィルムの特性の一例を表6に示す。St(wt.%)、EMI(wt.%)、MMA(wt.%)は仕込み時の質量比である。表6に示すように、Stが17wt.%、EMIが63wt.%、MMAが20wt.%において、156℃という高いガラス転移温度が得られ、耐熱性が高いことが確認された。なお、この光学ポリマー材料および光学フィルムは、そのガラス転移温度が、表2に示すMMAが含まれていない二元系の場合の193.9℃よりも低温になるように改質されている。156℃という温度は、アクリル樹脂のガラス転移温度よりも高く、かつポリカーボネイトのガラス転移温度である150℃と同等である。したがって、この光学ポリマー材料および光学フィルムは耐熱性が高く射出成型がし易いということができる。また、固有複屈折Δn0は25℃にて0.10×10-3であり、温度係数dΔn0/dTは1.21×10-5℃-1であり、光弾性係数Cは-0.24×10-12Pa-1であり、いずれもゼロに近いきわめて低い値となり、良好な低複屈折特性が確認された。
【0089】
【0090】
さらに、3元系光学ポリマーとして、マレイミド誘導体としてN-シクロヘキシルマレイミド(N-cyclohexylmaleimide:CHMI)を用いたP(St/CHMI/MMA)の二次元複屈折マップを作成した。
【0091】
図12は、P(St/CHMI/MMA)の二次元複屈折マップを示すグラフである。なお、未測定の部分は破線で示している。
図11と同様に、Stを含む2元系の光学ポリマーにおいては、組成比に対する光弾性係数の変化は非線形なので、線分も非線形な形状をしている。
【0092】
この二次元複屈折マップを利用して、たとえば以下の例のようにして、固有複屈折と光弾性係数とが小さい組成比の光学ポリマーを設計できる。すなわち、まず、Stの組成比とCHMIの組成比とにより定まる光弾性係数と固有複屈折(第1光弾性係数と第1固有複屈折)とで示される座標点と、MMAの光弾性係数と固有複屈折(第2光弾性係数と第2固有複屈折)とで示される座標点とが、原点を挟んで位置するように、P(St/CHMI)の組成比とが設定する。つづいて、第2光弾性係数と第2固有複屈折とで第1光弾性係数と第1固有複屈折とを相殺するように、メタクリル酸誘導体の組成比を設定する。これにより、光弾性係数の絶対値が50×10-12Pa-1以下であり、固有複屈折の絶対値が20×10-3以下である光学ポリマー材料を実現できる。
【0093】
図12のP(St/CHMI/MMA)の二次元複屈折マップを利用して、表7に示すモノマー量、組成比を設定し、3元系光学ポリマーフィルムを作製した。
【表7】
【0094】
具体的には、表7に示すモノマーを準備し、上述したP(St/EMI/MMA)の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって重合を行った。この工程によって作製された光学ポリマー材料の円柱状のバルクの両端を切除して得たバルクに対して、さらに上述したP(St/EMI/MMA)の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって精製を行った。
【0095】
以上の工程によって得られた精製されたポリマーのガラス転移温度をDSC-60(DSC)を用いて測定した。
【0096】
さらに、精製ポリマーを上述したP(St/EMI/MMA)の場合と同様だが条件を適宜最適化した工程によって薄く成形し、フィルム化した。
【0097】
作製したポリマーフィルムの光弾性係数をABR-EXを用いて測定した。
【0098】
つづいて、作製したポリマーフィルムを、IMC-11A9を用いて一軸熱延伸した。その後,24時間以上静置して内部応力を緩和させ、Varian 7000eを用いた赤外域の吸光度から、赤外二色法を用いてこの延伸フィルムの配向度を評価した。また、ABR-10Aを用いて、延伸フィルムのリタデーションを測定した。そして、リタデーションと配向度とフィルムの厚みから固有複屈折を算出した。また、一部のポリマーフィルムについては屈折率を測定し、共重合組成比を推定した。
【0099】
作製した光学ポリマー材料および光学フィルムの特性の一例を表8に示す。St(wt.%)、CHMI(wt.%)、MMA(wt.%)は仕込み時の質量比である。表8に示すように、Stが6wt.%、CHMIが40wt.%、MMAが54wt.%において、161℃という高いガラス転移温度が得られ、耐熱性が高く射出成型がし易いことが確認された。また、固有複屈折Δn0は25℃にて-5.23×10-3であり、光弾性係数Cは-0.12×10-12Pa-1であり、いずれもゼロに近いきわめて低い値となり、良好な低複屈折特性が確認された。
【0100】
【0101】
さらに、3元系光学ポリマーとして、改質有機化合物としてメタクリル酸誘導体であるTCEMA(2,2,2-trichloroethyl methacrylate)を用いたP(St/EMI/TCEMA)の二次元複屈折マップを作成した。
【0102】
図13は、P(St/EMI/TCEMA)の二次元複屈折マップを示すグラフである。なお、未測定の部分は破線で示している。この二次元複屈折マップを利用して、光弾性係数の絶対値が50×10
-12Pa
-1以下であり、固有複屈折の絶対値が20×10
-3以下である光学ポリマー材料を実現できる。
【0103】
図13のP(St/EMI/TCEMA)の二次元複屈折マップを利用して、表9に示すモノマー量、組成比を設定し、3元系光学ポリマーフィルムを作製した。
【表9】
【0104】
作製した光学ポリマー材料および光学フィルムの特性の一例を表10に示す。St(wt.%)、EMI(wt.%)、TCEMA(wt.%)は仕込み時の質量比である。表10に示すように、Stが23wt.%、EMIが69wt.%、TCEMAが8wt.%において、188℃という高いガラス転移温度が得られ、耐熱性が高いことが確認された。また、固有複屈折Δn0は25℃にて-0.65×10-3であり、光弾性係数Cは0.08×10-12Pa-1であり、いずれもゼロに近いきわめて低い値となり、良好な低複屈折特性が確認された。
【0105】
【0106】
さらに、3元系光学ポリマーとして、改質有機化合物としてマレイミド誘導体であるtBuMIを用いたP(St/EMI/tBuMI)の二次元複屈折マップを作成した。
【0107】
図14は、P(St/EMI/tBuMI)の二次元複屈折マップを示すグラフである。なお、未測定の部分は破線で示している。tBuMIは光弾性係数が正であるが、この二次元複屈折マップを利用して、光弾性係数の絶対値が50×10
-12Pa
-1以下であり、固有複屈折の絶対値が20×10
-3以下である光学ポリマー材料を実現できる。
【0108】
図14のP(St/EMI/tBuMI)の二次元複屈折マップを利用して、表11に示すモノマー量、組成比を設定し、3元系光学ポリマーフィルムを作製した。
【表11】
【0109】
作製した光学ポリマー材料および光学フィルムの特性の一例を表12に示す。St(wt.%)、EMI(wt.%)、tBuMI(wt.%)は仕込み時の質量比である。表12に示すように、Stが25.0wt.%、EMIが62.5wt.%、tBuMIが12.5wt.%において、197℃という、P(St/EMI)よりも高いガラス転移温度が得られ、耐熱性が高いことが確認された。また、固有複屈折Δn0は25℃にて3.68×10-3であり、光弾性係数Cは0.27×10-12Pa-1であり、いずれもゼロに近いきわめて低い値となり、良好な低複屈折特性が確認された。
【0110】
【0111】
P(St/EMI/tBuMI)の例が示すように、改質有機化合物はメタクリル酸誘導体に限られず、その光弾性係数の符号が正負のいずれでもよい。また、改質有機化合物において、スチレン誘導体のモノマー及びマレイミド誘導体のモノマーとは異なる物性値としてはガラス転移温度に限られず、他の機械的強度に関する物性値でもよい。これにより機械的強度に関する物性値がより好ましい光学ポリマー材料が得られる。また、改質有機化合物は、2種以上の異なるモノマーを含んでいてもよい。
【0112】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0113】
10 液晶表示装置
1 バックライト
2、9 偏光板
3、8 位相差フィルム
4、6 透明電極付きガラス基板
5 液晶層
7 RGBカラーフィルタ
【手続補正書】
【提出日】2024-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン誘導体のモノマーとエチルマレイミド又はシクロヘキシルマレイミドのモノマーとからなる交互共重合体を含み、
光弾性係数が、前記スチレン誘導体の組成比の増加に従って第1値まで低下し、前記スチレン誘導体の組成比がさらに増加すると前記第1値よりも上昇する非線形な特性を有し、
前記スチレン誘導体が所定の組成比の範囲内であり、該組成比の範囲内において光弾性係数の絶対値が第1絶対値以下であり、かつ固有複屈折の絶対値が第2絶対値以下であることを特徴とする光学ポリマー材料。
【請求項2】
前記第1絶対値が10×10-12Pa-1であり、前記第2絶対値が20×10-3であることを特徴とする請求項1に記載の光学ポリマー材料。
【請求項3】
前記第1絶対値が5×10
-12
Pa
-1
であることを特徴とする請求項2に記載の光学ポリマー材料。
【請求項4】
前記第1絶対値が2×10
-12
Pa
-1
であることを特徴とする請求項3に記載の光学ポリマー材料。
【請求項5】
固有複屈折の温度係数の絶対値が2×10-5℃-1以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項6】
前記スチレン誘導体はスチレンであり、前記マレイミド誘導体はエチルマレイミドであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項7】
前記スチレン誘導体の組成比の前記範囲は、質量比の場合31%を含む範囲であり、モル比の場合35%を含む範囲であることを特徴とする請求項6に記載の光学ポリマー材料。
【請求項8】
前記スチレン誘導体よりも前記マレイミド誘導体を多く含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一つに記載の光学ポリマー材料を含むことを特徴とする光学フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の光学フィルムを備えることを特徴とする表示装置。