(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133145
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/11 20210101AFI20240920BHJP
H01S 5/18 20210101ALI20240920BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01S5/11
H01S5/18
H01S5/343 610
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110817
(22)【出願日】2024-07-10
(62)【分割の表示】P 2023072364の分割
【原出願日】2018-09-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代 レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/フォトニック結晶 レーザーの短パルス化・短波長化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】田中 良典
(72)【発明者】
【氏名】デ ゾイサ メーナカ
(72)【発明者】
【氏名】石崎 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(57)【要約】
【課題】フォトニック結晶層を伝搬する光波に対する結合係数が大きく、低閾値電流密度で発振動作が可能な、フォトニック結晶を備えた面発光レーザ素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
III族窒化物半導体からなる面発光レーザ素子であって、第1導電型の第1のクラッド層と、第1のクラッド層上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層と、当該フォトニック結晶層上に形成されて当該空孔を閉塞する第1の埋込層と、を有する第1導電型の第1のガイド層と、第1の埋込層上に結晶成長された第2埋込層と、第2の埋込層上に形成された活性層と、活性層上に形成された第2のガイド層と、第2のガイド層上に形成された第1導電型と反対導電型の第2導電型の第2のクラッド層と、を有し、第1の埋込層の表面は、当該空孔に対応した表面位置に配されたピットを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた六方晶系の半導体構造層とを備え、前記半導体構造層の上面側もしくは下面側から出光する面発光レーザ素子であって、
前記半導体構造層は、
第1導電型の第1のクラッド層と、
層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された複数の空孔を有するフォトニック結晶層、前記フォトニック結晶層より下側に位置し前記フォトニック結晶層と接するベース層、及び前記フォトニック結晶層より上側に位置し前記空孔の開口部を閉塞する第1の埋込層からなり、かつ前記第1のクラッド層上に形成された前記第1導電型の第1のガイド層と、
前記第1のガイド層上に形成された第2の埋込層と、
前記第2の埋込層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2のガイド層と、
前記第2のガイド層上に形成された第2導電型の第2のクラッド層と、を備えており、
前記ベース層、前記フォトニック結晶層及び前記第1の埋込層は、同じ元素によって構成されており、
前記第1の埋込層と前記第2の埋込層の合計層厚が100nm以下であり、
前記第2の埋込層の含有酸素濃度は、前記フォトニック結晶層の含有酸素濃度に比べて小さい、面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子及び面発光レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶を用いた面発光レーザの開発が進められており、例えば、特許文献1には、融着貼り付けを行なわずに製造することを目的とした半導体レーザ素子について開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、フォトニック結晶の微細構造をGaN系半導体に作製する製造法が開示されている。非特許文献1には、減圧成長により横方向成長の速度を高め、フォトニック結晶を作製することが開示されている。
【0004】
また、非特許文献2には、フォトニック結晶レーザの面内回折効果と閾値利得差について開示され、非特許文献3は、正方格子フォトニック結晶レーザの三次元結合波モデルについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5082447号公報
【特許文献2】特許第4818464号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Miyake et al. : Jpn. J. Appl. Phys.Vol.38(1999) pp.L1000-L1002
【非特許文献2】田中他、2016年秋季応用物理学会予稿集15p-B4-20
【非特許文献3】Y. Lian et al.:Phys. Rev.B Vol.84(2011)195119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトニック結晶を備えた面発光レーザにおいて、低閾値電流密度で発振動作させるためには共振器損失を低減する必要がある。フォトニック結晶面発光レーザにおいて共振器損失を低減するためには、フォトニック結晶層に平行な方向に伝搬する光波の結合係数((1次元結合係数:κ3)を大きくすることが有効である。
【0008】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、フォトニック結晶層を伝搬する光波に対する結合係数が大きく、低閾値電流密度で発振動作が可能な、フォトニック結晶を備えた面発光レーザ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1実施態様による面発光レーザ素子は、III族窒化物半導体からなる面発光レーザ素子であって、
第1導電型の第1のクラッド層と、
第1のクラッド層上に形成され、層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層と、当該フォトニック結晶層上に形成されて当該空孔を閉塞する第1の埋込層と、を有する第1導電型の第1のガイド層と、
第1の埋込層上に結晶成長された第2埋込層と、
第2の埋込層上に形成された活性層と、
活性層上に形成された第2のガイド層と、
第2のガイド層上に形成された第1導電型と反対導電型の第2導電型の第2のクラッド
層と、を有し、
第1の埋込層の表面は、当該空孔に対応した表面位置に配されたピットを備えている。
【0010】
本発明の他の1実施態様による面発光レーザ素子を製造する製造方法は、
(a)基板上に第1導電型の第1のクラッド層を成長する工程と、
(b)第1のクラッド層上に第1導電型の第1のガイド層を成長する工程と、
(c)第1のガイド層に、エッチングにより第1のガイド層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された穴部を形成する工程と、
(d)窒素源を含むガスを供給して、マストランスポートにより、当該穴部の開口部を塞ぐ第1の埋込層を形成する工程と、
(e)第1の埋込層の形成後、III族原料を供給し、第1の埋込層を埋め込んで平坦化する第2の埋込層を形成する工程と、を有し、
上記(d)工程において、第1の埋込層の表面は、当該空孔に由来するピットを有している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態のフォトニック結晶層を備えた面発光レーザ素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1のフォトニック結晶層及びフォトニック結晶層中に配列された空孔(キャビティ)を模式的に示す拡大断面図である。
【
図3】空孔CHの形成工程を模式的に示す断面図である。
【
図4A】空孔CHの形成後の工程におけるガイド層基板の表面のSEM像を示す図である。
【
図4B】空孔CHの形成後の工程におけるガイド層基板の断面のSEM像を示す図である。
【
図5A】n-ガイド層14の空孔CHが埋め込まれた部分の断面SEM像を示す図である。
【
図6A】第1の埋込層14Aの表面モフォロジを示すAFM像である。
【
図6B】
図6AのA-A線に沿った断面の表面粗さを示すグラフである。
【
図6C】
図6AのB-B線に沿った断面の表面粗さを示すグラフである。
【
図7A】n-ガイド層14の空孔14Cが埋め込まれた部分の断面SEM像を示す図である。
【
図8A】第2の埋込層21の表面モフォロジを示すAFM像である。
【
図8B】
図8AのA-A線に沿った断面の表面粗さを示すグラフである。
【
図9】結合波方程式により光結合係数κ
3を算出するために用いたGaN系フォトニック結晶面発光レーザ素子の断面構造を示す図である。
【
図10A】埋込層14Dの層厚DP(活性層15及びフォトニック結晶層14P間の距離)に対する結合係数κ
3の変化を示すグラフである。
【
図10B】埋込層14Dの層厚DPに対する閾値利得の変化を示すグラフである。
【
図11】本実施例の比較例である、空孔の埋込方法を示す模式図である。
【
図12】本実施例の半導体構造層11のSIMS分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[フォトニック結晶面発光レーザの閾値利得]
一般的に、フォトニック結晶面発光レーザ(以下、単にフォトニック結晶レーザともいう。)において、共振器内部の回折格子の回折効率は結合係数κで表され、結合係数κが大きいほど閾値利得は小さくなる。
【0013】
フォトニック結晶面発光レーザにおいて、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波は、光波の進行方向に対して±180°方向だけでなく、±90°方向にも回折される。したがって、±180°方向に伝搬する光波の光結合係数κ3(1次元結合係数)に加え、±90°に伝搬する光波の光結合係数κ2D(2次元結合係数)が存在する。
【0014】
すなわち、フォトニック結晶を有する面発光レーザでは、面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成する。ここで、フォトニック結晶によって回折されない光の成分が面内方向に漏れると共振器損失が増大し、閾値利得の増大につながる。したがって、この共振器損失を抑制することができれば、閾値利得を低減することができ、低閾値電流密度で発振動作させることができる。
【0015】
フォトニック結晶面発光レーザにおいて共振器損失を低減し、低閾値電流密度で発振動作させるために、フォトニック結晶層面内を伝搬する光波の結合係数(κ
3)を大きくすることが有効である。
[フォトニック結晶面発光レーザの構造の一例]
図1は、フォトニック結晶層を備えた面発光レーザ素子(以下、単にフォトニック結晶レーザともいう。)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、半導体構造層11が基板12上に形成されている。より詳細には、基板12上に、n-クラッド層13、第1の埋込層14Aを含むn-ガイド層14、第2の埋込層21、活性層15、ガイド層16、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17、p-クラッド層18がこの順で順次形成されている。すなわち、半導体構造層11は半導体層13、14、15、16、17、18から構成されている。また、n-ガイド層14は、フォトニック結晶層14Pを含んでいる。また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。例えば、GaN系半導体からなる。
【0016】
また、基板12上(裏面)にはn電極19Aが形成され、p-クラッド層18上(上面)にはp電極19Bが形成されている。例えば、p電極19Bは、フォトニック結晶領域を囲む円環状等適宜な形状で形成することができる。
【0017】
この場合、面発光レーザ素子10からの光は、活性層15に垂直な方向に半導体構造層11の上面(すなわち、p-クラッド層18の表面)から外部に取り出される。
【0018】
なお、面発光レーザ素子10からの光は、半導体構造層11の下面側から外部に取り出される構造とすることもでき、その場合において、例えば、n電極19Aを円環状に形成し、p電極19Bをn電極19Aの中心に対向する位置に設けることができる。
【0019】
図2は、
図1のフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(キャビティ)14Cを模式的に示す拡大断面図である。空孔14Cは、結晶成長面(半導体積層面)、すなわちn-ガイド層14に平行な面(図中、A-A断面)において、例えば正方格子状に周期PCを有して、それぞれ正方格子点位置に2次元配列されてn-ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。なお、空孔14Cの配列は正方格子状に限らず、三角格子状、六角格子状等の周期的な2次元配列であればよい。
【0020】
n-ガイド層14は、2次元配列された空孔14Cの上面上の半導体層(すなわち、空孔14Cの上面をその底面とする半導体層)であって、フォトニック結晶層(PCL)14Pを埋め込む第1の埋込層14Aと、フォトニック結晶層(PCL)14Pと、フォトニック結晶層(PCL)14Pよりも基板側の結晶層であるベース層14Bとから構成されている。また、第1の埋込層14A上には第2の埋込層21が形成されている。
[フォトニック結晶面発光レーザの共振効果]
フォトニック結晶部を備えた面発光レーザ(以下、単にフォトニック結晶面発光レーザという場合がある。)において共振効果を得るためには、フォトニック結晶部での回折効果が高いことが望まれる。
【0021】
すなわち、フォトニック結晶面発光レーザにおいて回折効果を高めるためには、
(1)発振波長をλ、フォトニック結晶部の実効的な屈折率をneffとしたとき、フォトニック結晶部における2次元的な屈折率周期Pが、正方格子2次元フォトニック結晶の場合はP=mλ/neff(mは自然数)を、三角格子2次元フォトニック結晶の場合はP=mλ×2/(31/2×neff)(mは自然数)を満たす、
(2)フォトニック結晶部における母材に対する異屈折率領域の占める割合(FF:フィリングファクタ)が十分に大きい、
(3)フォトニック結晶面発光レーザにおける光強度分布のうち、フォトニック結晶部に分布する光強度の割合(ΓPC:閉じ込め係数)が十分に大きい、ことが望まれる。
【0022】
上記(1)を満たすためには、フォトニック結晶レーザの発振波長に合わせてフォトニック結晶の格子定数(周期PC)を適切に設定する必要がある。ここで、屈折率周期P=周期PCであるため、上記(1)を満たすPに基づいてPCを設定することができる。例えば、窒化ガリウム系の材料を用いて波長405nmで発振する場合においては、neffが2.5程度であるため、正方格子2次元フォトニック結晶を用いる場合、格子定数を163nm程度とするとよい。
【0023】
尚、正方格子2次元フォトニック結晶では光波の回折される方向と格子の配列方向が等しいが、三角格子2次元フォトニック結晶では光波は格子の配列方向から30°傾いた方向に回折される。これにより、上記(1)において、三角格子2次元フォトニック結晶が満たすPには、2/31/2を乗じている。
【実施例0024】
[クラッド層及びガイド層の成長]
半導体構造層11の作製工程について以下に詳細に説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用い、常圧(大気圧)成長により成長基板12上に半導体構造層11を成長した。
【0025】
半導体構造層11の成長用基板として、a軸に沿ってc軸が0.4°傾いた、成長面が+c面のn型GaN基板12を用いた。c軸の傾き(オフ角)はGaN系半導体でエピタキシャル成長可能な範囲で適宜変更してもよい。基板12上に、n-クラッド層13としてAl(アルミニウム)組成が4%のn型AlGaN(層厚:2μm)を成長した。III
族のMO(有機金属)材料としてトリメチルガリウム(TMG)及びトリメチルアルミニウム(TMA)を用い、V族材料としてアンモニア(NH3)を用いた。また、ドーピング材料としてシラン(SiH4)を供給した。室温でのキャリア密度は、およそ2×1018cm-3であった。
【0026】
続いて、TMG及びNH
3を供給し、n-ガイド層14としてn型GaN(層厚:300nm)を成長した。また、シラン(SiH
4)を成長と同時に供給しドーピングを行った。キャリア密度は、およそ2×10
18cm
-3であった。
[ガイド層への空孔形成]
n-ガイド層14を成長後の基板、すなわちn-ガイド層14付きの基板(以下、ガイド層基板ともいう。)をMOVPE装置から取り出し、n-ガイド層14に微細な空孔(ホール)を形成した。
図3及び
図4A、
図4Bを参照して、空孔の形成について以下に詳細に説明する。なお、
図3は当該空孔CHの形成工程を模式的に示す断面図である。また、
図4A、
図4Bは、それぞれ空孔CHの形成後の工程におけるガイド層基板の表面及び断面の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の像を示している。なお、
図4Bは、
図4Aの表面SEM像中に示した破線(白色)に沿った断面SEM像が示されている。
【0027】
基板12上にn-クラッド層13及びn-ガイド層14を成長したガイド層基板の洗浄を行い清浄表面を得た(
図3、(i))。その後、プラズマCVDによってシリコン窒化膜(SiNx)SNを成膜(膜厚110nm)した(
図3、(ii))。
【0028】
次に、SiNx膜SN上に電子線(EB:Electron Beam)描画用レジストRZをスピンコートで300nm程度の厚さで塗布し、電子線描画装置に入れてガイド層基板の表面上において2次元周期構造を有するパターンを形成した(
図3、(iii))。より具体的には、直径が100nm の円形状のドットを周期PC=163nmで正方格子状にレジストRZの面内で2次元配列したパターニングを行った。
【0029】
パターニングしたレジストRZを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSiNx膜SNを選択的にドライエッチングした(
図3、(iv))。これにより、面内周期PCで正方格子状に2次元配列された円柱状の貫通孔がSiNx膜SNに形成された。
【0030】
続いて、レジストRZを除去し、パターニングしたSiNx膜SNをハードマスクとしてn-ガイド層14(GaN)の表面から内部に至る空孔CHを形成した。より具体的には、ICP-RIE装置において塩素系ガスを用いてドライエッチングすることにより、n-ガイド層14に2次元配列された空孔CHを形成した(
図3、(v))。
【0031】
このときのn-ガイド層14に形成された空孔CHの表面SEM像及び断面SEM像をそれぞれ
図4A及び
図4Bに示す。表面SEM像に示すように、正方格子状(すなわち、正方格子点)に2次元的に、空孔間の間隔(周期)PCが163nmで配列された複数の空孔CHが形成された。また、
図4Bの断面SEM像に示すように、n-ガイド層14に形成された空孔CHの深さは約150nm、空孔CHの直径は約100nmであった。すなわち、空孔CHは上面で開口する穴(ホール)であり、略円柱形状を有していた。
[第1の埋込層]
n-ガイド層14に2次元的な周期性を持つ空孔CHを形成したガイド層基板のSiNx膜SNをフッ酸(HF)を用いて除去し(
図3、(vi))、洗浄を行って清浄表面を得、再度MOVPE装置内に導入した。
【0032】
MOVPE装置内において、III族原料を供給すること無く、窒素源としてNH3を供給しながら昇温し、ガイド層基板を1150℃まで加熱し、昇温後1分(1min)間のアニーリングを行うことで、マストランスポートによって空孔CHを閉塞し、第1の埋込層14Aを形成した。なお、雰囲気ガスとして窒素(N2)を供給した。
【0033】
n-ガイド層14の空孔CHが埋め込まれた部分の断面SEM像を
図5Aに、その模式的な断面図を
図5Bに示す。
図5A、
図5Bに示すように、内側面が{10-11}ファセット(所定の面方位のファセット)からなり、幅(WC)が70nm、深さ(HC)が118nmの六角柱構造の空孔(キャビティ)14Cが形成された。より詳細には、空孔14Cの活性層15側の面(上面)には(000-1)面が、空孔14Cの側面には{10-10}面が現れ、基板12側の底部は{1-102}ファセットが現れた。
【0034】
このとき、n-ガイド層14の上部には、空孔14Cの上面がなす平面からn-ガイド層14の表面に至る第1の埋込層14Aが形成された。第1の埋込層14Aの層厚(D1)は26nmであった。
【0035】
図6Aは、第1の埋込層14Aの表面モフォロジを示す原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)の像であり、
図6Bは、
図6AのA-A線に沿った断面の表面粗さを示すグラフであり、
図6Cは、
図6AのB-B線に沿った断面の表面粗さを示すグラフである。第1の埋込層14Aの表面はGaN(0001)面から構成され、周期PC(=163nm)と同程度の幅でバンチングしたステップ・テラス構造となっていることが確認された。
【0036】
また、
図6Aに示すように、第1の埋込層14Aの表面には、空孔14Cに対応した表面位置に、空孔14Cの周期で正方格子状にピットPTが現れていることが確認された。つまり、空孔14Cに対して結晶方位[0001]上にピットPTが現れており、本実施形態では、第1の埋込層14Aを上面視した場合に、ピットPTは、空孔14Cに重なる位置に現れていることが確認された。すなわち、第1の埋込層14Aの表面には空孔14Cに由来した又は起因したピットPTが現れている。なお、結晶のオフ角が大きい場合には、第1の埋込層14Aを上面視した場合に、ピットPTは、空孔14C上に重ならない場合もあり得るが、空孔14Cに対して結晶方位[0001]上に現れる。
【0037】
なお、第1の埋込層14Aの形成においては、第1の埋込層14Aの表面にピットPTが2次元配列した規則的な配列状態を呈している必要は無い。第1の埋込層14Aの表面にピットPTが残存している表面状態であるように、マストランスポートによって第1の埋込層14Aが形成されていればよい。
【0038】
また、第1の埋込層14Aは、GaNに限らない。第1の埋込層14Aとして、他の結晶、例えば3元結晶、4元結晶のGaN系半導体結晶層を形成してもよく、n-クラッド層13より屈折率が高いことが好ましい。例えば、n-クラッド層13よりAl組成の低いAlGaN、InGaNなどを用いることができる。
[第2の埋込層]
第1の埋込層14Aの形成後、温度を1150℃に保ったまま、III族材料ガス(TMG)及びV族材料ガス(NH3)を供給することで第2の埋込層21を形成した。なお、本実施例においては、同時に水素(H2)を供給した。
【0039】
このときのn-ガイド層14の空孔14Cが埋め込まれた部分の断面SEM像を
図7Aに、その模式的な断面図を
図7Bに示す。
【0040】
空孔14Cの形状を変化させることなく第2の埋込層21を形成できた。この場合の第1の埋込層14Aの厚さ(D1=26nm)と第2の埋込層21の厚さ(D2=34nm)の合計は60nmであった。
【0041】
図8A、
図8Bは、それぞれ第2の埋込層21の表面モフォロジを示すAFM像、
図8AのA-A線に沿った断面の表面粗さを示すグラフである。
【0042】
図8Bに示すように、第2の埋込層21の表面はステップ高さがGaNの1バイレイヤーの高さのステップ・テラス構造になっており、原子的に平坦なGaNの(0001)表面が得られたことが確認された。
【0043】
上記したように、第1の埋込層14Aの形成においては、第1の埋込層14Aの表面にピットPTが現れている表面状態であるように、マストランスポートによる埋め込みが終了し、第1の埋込層14Aが形成されている。なお、第1の埋込層14Aの表面に、少なくとも部分的にピットPTが規則的に配列され残存している状態であるように、第1の埋込層14Aが形成されていることが好ましい。
【0044】
これは、第1の埋込層14Aの形成時において、マストランスポートの際にGaおよび/またはGaNからなるマイグレーション原子および/または分子でピットPTが完全に埋設され、他の部分と同等な表面状態になると、マイグレーション原子および/または分子が第1の埋め込み層14Aに残存する欠陥や転移のある部分に凝集して、ヒロック(凸部)を形成し、第2の埋込層21の平坦化を阻害するからである。
【0045】
また、ピットPTが第2の埋込層21の成長(再成長)の際の起点となって、あるいは必ずしも規則的ではなくともピットPTが残存している表面状態であれば、第2の埋込層21の均一化、平坦化が実現されるからである。
【0046】
なお、ピットPTを埋め込んで平坦化するために、第2の埋込層21の層厚は第1の埋込層14Aの層厚よりも大であることが好ましい。
【0047】
なお、第2の埋込層21としてGaNを成長する場合を例に説明したが、第2の埋込層21の結晶組成は第1の埋込層14Aと異なっていてもよい。第2の埋込層21として、他の結晶、例えば3元結晶、4元結晶のGaN系半導体結晶層を形成してもよい。例えば、第2の埋込層21としてInGaN層などInを組成に含む結晶層を用いることができる。また、第2の埋込層21として第1の埋込層よりも発光波長に対する屈折率が高い結晶層を形成することによってGaN結晶層の場合よりも結合係数κ3を大きくすることができる。
また、第2の埋込層21を形成する温度は、構成材料がGaNの場合は750℃乃至1150℃、InGaNの場合は750℃乃至900℃の範囲内であることが好ましい。
[活性層、p側半導体層の成長]
続いて活性層15として、多重井戸(MQW)層を成長した。MQWのバリア層及び井戸層はそれぞれGaN及びInGaNであった。バリア層の成長は、基板を800℃まで降温後、III族原子の供給源としてトリエチルガリウム(TEG)を、窒素源としてNH3を供給して行った。また、井戸層の成長はバリア層と同じ温度で、III族原子の供給源としてTEG及びトリメチルインジウム(TMI)を、窒素源としてNH3を供給して行った。なお、本実施例における活性層15からのPL(Photoluminescence)発光の中心波長は410nmであった。
【0048】
活性層15の成長後、基板を800℃に保ち、p側ガイド層16を100nmの層厚で成長した。p側ガイド層16は、TEG及びNH3を供給し、ドーパントをドープしないアンドープのGaN(u-GaN)として成長した。
【0049】
p側ガイド層16の成長後、基板温度を1050℃まで速度で昇温し、電子障壁層(EBL)17、p-クラッド層18を成長した。EBL17の成長はIII族原子源としてTMG及びTMAを供給し、窒素源としてNH3を供給して行った。また、p-クラッド層18はIII族原子源としてTMG及びTMAを供給し、窒素源としてNH3を供給して行った。EBL17及びp-クラッド層18のそれぞれの層のAl濃度は18%、6%、層厚は17nm、600nmであった。また、EBL17及びp-クラッド層18の成長時において、それぞれドーパントとしてCp2Mg(Bis-cyclopentadienyl magnesium)をIII族原子源ガス及び窒素源と同時に供給した。大気中で700℃、5min間のアクチベーションをしたときの、p-クラッド層(p-AlGaNクラッド層)18のキャリア密度は4×1017cm-3であった。
[結合係数κ3]
上記したように、フォトニック結晶面発光レーザにおいて共振器損失を低減し、低閾値電流密度で発振動作させるために、フォトニック結晶層14P面内を伝搬する光波の結合係数κ3を大きくすることが有効である。
【0050】
この点を検討するため、
図9に示す構造のGaN系フォトニック結晶面発光レーザ素子について、結合波方程式を解くことで光結合係数κ
3を算出した。
【0051】
なお、
図9に示す、光結合係数κ
3の算出に用いたフォトニック結晶面発光レーザは、n-クラッド層13(n-Al
0.04Ga
0.96N:層厚2,000nm)、n-ガイド層14(n-GaN:層厚120nm)、フォトニック結晶層14P(n-GaN:層厚120nm)、埋込層14D(n-GaN:層厚DP=0~120nm)、活性層15(量子井戸層(u-In
0.08Ga
0.92N)が2層のMQW)、p側ガイド層16(u-GaN:層厚120nm)、EBL17(p-Al
0.18Ga
0.82N:層厚17nm)、p-クラッド層18(p-Al
0.06Ga
0..94N:層厚600nm)がこの順で積層された構造を有している。
【0052】
図10A及び
図10Bは、埋込層14Dの層厚DP、すなわち活性層15及びフォトニック結晶層14P間の距離に対する、それぞれ結合係数κ
3及び閾値利得の変化を示している。なお、フィリングファクタ(FF)が6%の場合を示している。
【0053】
図10A及び
図10Bに示すように、結合係数κ
3を大きくし、低閾値電流密度で発振動作させるためには、第1の埋込層14A及び第2の埋込層21の合計層厚(又は活性層15及びフォトニック結晶層14P間の距離)DPは100nm以下であることが好ましいことが分かる。また、当該合計層厚は20nm~100nmの範囲内であることが好ましい。
【0054】
上記したように、本実施例においては、n-ガイド層14に2次元的な周期性を持つ空孔CHを形成したガイド層基板に、
(i) 窒素源を含むガスを供給しながらアニーリングすることで、マストランスポートにより空孔の開口部を塞ぎ第1の埋込層を形成し、
(ii) III族原料及び窒素源を含むガスを供給して第1の埋込層を形成している。
【0055】
マストランスポートが発生する温度まで昇温すると空孔形状は最も表面エネルギーが小さくなるように変化する。すなわち、例えばc面GaNの空孔の側面は、ダングリングボンド密度が小さい{10-10}面へと変形する。また、アニーリングにより空孔は閉塞され、表面が(0001)面より構成される第1の埋込層が形成される。このとき、第1の埋込層の表面は空孔の周期間隔と同じ幅でバンチングしたステップ・テラス構造となる。アニーリング温度はマストランスポートが発生する温度であるため、空孔CHを閉塞する際のアニーリング温度は、n-ガイド層をGaNで構成した場合、1000℃ないし1200℃の範囲内であることが好ましい。
【0056】
また、第1の埋込層は、空孔を形成するn-ガイド層と同じ元素によって構成される。
【0057】
第2の埋込層は、III族原料を供給し、新たに層を成長する。したがって、第1の埋込層のように空孔を形成するn-ガイド層と同じ元素で構成されている必要はない。ただし、光閉じ込めの観点からも、第1の埋込層と同程度またはそれ以上の屈折率を有する材料で構成されていることが好ましい。
【0058】
第2の埋込層により、第1の埋込層のバンチングしていた表面構造が回復し、ステップ高さが1バイレイヤーのステップ・テラス構造の表面が得られる。したがって、第2の埋込層の表面は原子的に平坦な(0001)面となる。
【0059】
上記方法により、GaN系フォトニック結晶面発光レーザにおいて、フォトニック結晶層と活性層との距離を100nm以下とすることができる。すなわち、GaN系材料フォトニック結晶面発光レーザにおいて、光結合係数κ
3を大きくすることができ、低閾値電流密度で発振動作させることのできるフォトニック結晶面発光レーザを実現することができる。
[比較例の空孔埋込方法及び構造]
図11は、上記実施例の比較例である、空孔の埋込方法を示す模式図である。n-ガイド層14に2次元的な周期性を持つ空孔CHを形成したガイド層基板のSiNx膜SNをフッ酸(HF)を用いて除去し、洗浄を行って清浄表面を得、再度MOVPE装置内に導入した点は上記実施例と同様である(
図11(a))。
【0060】
この比較例においては、MOVPE装置内において、ガイド層基板を1050℃に加熱し、III族材料ガス(TMG)及びV族材料ガス(NH
3)を供給することで、基板表面に{10-11}ファセットを有する凹部を形成するように結晶成長を行って、空孔CHの開口部を閉塞した(
図11(b))。
【0061】
このとき、埋め込まれた空孔CHの上面である(000-1)面とn-ガイド層14の最表面の(0001)面との距離E1はおよそ140nmであった(
図11(b))。
【0062】
空孔CHが{10-11}ファセットで閉塞された後、III族材料ガスの供給を停止し、V族材料ガス(NH3)を供給しながら100℃/minの昇温速度で1150℃まで昇温し、温度を1分保持した。これにより、n-ガイド層14の表面に形成されていた{10-11}ファセットは消失し、表面は平坦な(0001)面となった。すなわち、マストランスポートによって表面が平坦化された。
【0063】
このとき、埋め込まれて形成された空孔(キャビティ)14Cの活性層15側の面(上面、(000-1)面)と、n-ガイド層14の表面(すなわち、(0001)面)との間の距離E2はおよそ105nmであった。
【0064】
すなわち、この比較例の空孔埋込方法によれば、{10-11}ファセットが優先的に成長して空孔を閉塞し、その後アニーリングにより表面に(0001)面を形成している。この製造方法では、フォトニック結晶層14Pから活性層15の間の距離を100nm程度までしか薄くすることができない。すなわち、この方法ではGaN系フォトニック結晶面発光レーザにおいて光結合係数κ3を大きくすることができず、低閾値電流密度で発振動作させることが困難である。
[結晶性:SIMS分析]
エッチングによりn-ガイド層14に空孔CHを形成する際には、酸素の取り込みが生じるため、第1の埋込層にも非意図的に酸素が取り込まれる。
【0065】
上記の実施例においては、III族材料ガス(TMG)及びV族材料ガス(NH3)と水素(H2)とを供給して第2の埋込層21を形成するため、第2の埋込層21に非意図的に取り込まれる酸素は激減する。例えば、第2の埋込層21に取り込まれる酸素は5×1016cm-3以下となる。
【0066】
上記したように形成した本実施例の半導体構造層11のSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析の結果を
図12に示す。
図12には、p-クラッド層18の一部からn-クラッド層13の一部までの分析結果を示している。酸素(O)の濃度プロファイルに示されるように、第1の埋込層14Aには、空孔CHを形成するためのエッチングの際に混入する酸素が3×10
18m
-3存在しているのに対し、第2の埋込層21中の酸素濃度は2×10
16cm
-3以下(検出下限以下)となっていることが確認された。
【0067】
このように、第2の埋込層21においては、高濃度の酸素ドーピングによる結晶中のIII族原子空孔の発生が抑制され、良好な結晶性の膜が得られることが確認された。従って、第2の埋込層21上に成長される結晶層も良好な結晶性を有する。
【0068】
なお、上記実施例における種々の数値等は例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更することができる。
【0069】
また、上記実施例においては、半導体構造層11が電子障壁層17を有する場合を例に説明したが、電子障壁層17は設けられていなくともよい。あるいは、半導体構造層11は、コンタクト層、電流拡散層その他の半導体層を含んでいてもよい。
【0070】
また、本明細書においては、第1導電型の半導体(n型半導体)、活性層及び第2導電型の半導体(第1導電型とは反対導電型であるp型半導体)をこの順に成長する場合を例に説明したが、第1導電型がp型であり、第2導電型がn型であってもよい。
【0071】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、フォトニック結晶層に平行な方向に伝搬する光波の結合係数κ3を大きくすることができ、共振器損失を低減し、低閾値電流密度で発振動作することが可能な面発光レーザ及びその製造方法を提供することができる。