(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133166
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用活物質、リチウム二次電池用電極、リチウム二次電池、及び電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20240920BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01M4/485
C01G33/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110935
(22)【出願日】2024-07-10
(62)【分割の表示】P 2021041570の分割
【原出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 頼司
(72)【発明者】
【氏名】植田 格弥
(72)【発明者】
【氏名】高見 則雄
(57)【要約】
【課題】 優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる活物質を提供すること。
【解決手段】 1つの実施形態によると、活物質が提供される。活物質は、Nb
2TiO
7相と、Nb
10Ti
2O
29相、Nb
14TiO
37相及びNb
24TiO
64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む。この活物質はカリウム及びリンを含み、活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にある。レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下である。活物質は、下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす。
0<I
B/I
A≦0.25 (1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む活物質であって、
カリウム及びリンを含み、
前記活物質に占める、前記カリウム及び前記リンの合計濃度が0.010質量%以上5.00質量%以下の範囲内にあり、
レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下であり、
平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にあり、
下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす、リチウム二次電池用活物質。
0<IB/IA≦0.25 (1)
前記式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、前記Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、前記回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、前記Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
【請求項2】
前記活物質中の前記カリウム濃度CKと、前記活物質中の前記リン濃度CPとの比(CK/CP)は、2.0~50.0の範囲内にある請求項1に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項3】
前記活物質に占める、前記カリウム及び前記リンの合計濃度が0.050質量%以上2.50質量%以下の範囲内にある請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項4】
前記平均結晶子径は90nm以上である請求項1~3の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項5】
BET比表面積は0.5m2/g以上5m2/g以下である請求項1~4の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項6】
前記粒度分布チャートにおいて、D10は0.4μm以上である請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項7】
前記粒度分布チャートにおいて、D90は9.0μm以下である請求項1~6の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項8】
前記ピーク強度比IB/IAは、0.005以上0.20以下の範囲内にある請求項1~7の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質を含むリチウム二次電池用電極。
【請求項10】
前記電極は、前記リチウム二次電池用活物質を含む活物質含有層を含む請求項9に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項11】
正極と、
負極と、
電解質とを具備するリチウム二次電池であって、
前記負極は、請求項9又は10に記載のリチウム二次電池用電極であるリチウム二次電池。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウム二次電池を具備する電池パック。
【請求項13】
通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む請求項12に記載の電池パック。
【請求項14】
複数の前記リチウム二次電池を具備し、前記リチウム二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項12又は13に記載の電池パック。
【請求項15】
請求項12~14の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項16】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む請求項15に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明実施形態は、活物質、電極、二次電池、電池パック、及び車両に関する。
【0002】
近年、高エネルギー密度電池として、リチウムイオン二次電池のような非水電解質二次電池などの二次電池の研究開発が盛んに進められている。非水電解質二次電池などの二次電池は、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の車両用、携帯電話基地局の無停電電源用などの電源として期待されている。そのため、二次電池は、高エネルギー密度に加えて、急速充放電性能、長期信頼性のような他の性能にも優れていることも要求されている。例えば、急速充放電が可能な二次電池は、充電時間が大幅に短縮されるだけでなく、ハイブリッド電気自動車等の車両の動力性能の向上や動力の回生エネルギーの効率的な回収も可能である。
【0003】
急速充放電を可能にするためには、電子及びリチウムイオンが正極と負極との間を速やかに移動できることが必要である。しかしながら、カーボン系負極を用いた電池は、急速充放電を繰り返すと、電極上に金属リチウムのデンドライト析出が生じ、内部短絡による発熱や発火の虞があった。
【0004】
そこで、炭素質物の代わりに金属複合酸化物を負極に用いた電池が開発された。中でも、チタン酸化物を負極に用いた電池は、安定的な急速充放電が可能であり、カーボン系負極を用いた場合に比べて寿命も長いという特性を有する。
【0005】
しかしながら、チタン酸化物は炭素質物に比べて金属リチウムに対する電位が高い、すなわち貴である。その上、チタン酸化物は、重量あたりの容量が低い。このため、チタン酸化物を負極に用いた電池は、エネルギー密度が低いという問題がある。
【0006】
例えば、チタン酸化物の電極電位は、金属リチウム基準で約1.5V(vs.Li/Li+)であり、カーボン系負極の電位に比べて高い(貴である)。チタン酸化物の電位は、リチウムを電気化学的に挿入脱離する際のTi3+とTi4+の間での酸化還元反応に起因するものであるため、電気化学的に制約されている。また、1.5V(vs.Li/Li+)程度の高い電極電位においてリチウムイオンの急速充放電が安定的に行えるという事実もある。従って、エネルギー密度を向上させるために電極電位を低下させることは従来困難であった。
【0007】
一方、単位重量あたりの容量については、二酸化チタン(アナターゼ構造)の理論容量は165mAh/g程度であり、Li4Ti5O12のようなスピネル型リチウムチタン複合酸化物の理論容量も180mAh/g程度である。一方、一般的な黒鉛系電極材料の理論容量は385mAh/g以上である。このように、チタン酸化物の容量密度はカーボン系負極のものと比較して著しく低い。これは、チタン酸化物の結晶構造中に、リチウムを吸蔵するサイトが少ないことや、構造中でリチウムが安定化し易いため、実質的な容量が低下することによるものである。
【0008】
以上に鑑みて、Ti及びNbを含む新たな電極材料が検討されている。このようなニオブチタン複合酸化物材料は、高い充放電容量を有すると期待されている。特に、TiNb2O7で表される複合酸化物は380mAh/gを超える高い理論容量を有する。それ故、ニオブチタン複合酸化物は、Li4Ti5O12に代わる高容量材料として期待されているが、高い結晶性を維持したまま、微粉末及び粗粒の双方を有意に低減するのは困難であった。そのため、入出力特性及びサイクル寿命特性において課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M.Gasperin, Journal of Solid State Chemistry 53, pp144-147 (1984)
【非特許文献2】中井泉ら編:「粉末X線回折の実際」、初版、朝倉書店、2002年2月10日、p.97-115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる活物質、この活物質を含む電極、この電極を具備する二次電池、この二次電池を具備する電池パック、及び、この電池パックが搭載されている車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1実施形態によると、リチウム二次電池用活物質が提供される。この活物質は、Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む。この活物質はカリウム及びリンを含み、活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にある。レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下である。活物質は、下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす。
【0013】
0<IB/IA≦0.25 (1)
式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
【0014】
第2実施形態によると、第1実施形態に係るリチウム二次電池用活物質を含むリチウム二次電池用電極が提供される。
【0015】
第3実施形態によると、正極と負極と電解質とを具備するリチウム二次電池が提供される。負極は、第2実施形態に係るリチウム二次電池用電極である。
【0016】
第4実施形態によると、第3実施形態に係るリチウム二次電池を具備する電池パックが提供される。
【0017】
第5実施形態によると、第4実施形態に係る電池パックが搭載されている車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ニオブチタン複合酸化物Nb
2TiO
7の結晶構造を示す模式図。
【
図2】
図1の結晶構造を他の方向から観察した場合を示す模式図。
【
図3】透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)観察における測定対象の粒子を概略的に示す平面図。
【
図4】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
【
図5】
図4に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
【
図6】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
【
図7】
図6に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
【
図8】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
【
図9】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
【
図10】
図9に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
【
図11】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図。
【
図12】実施形態に係る車両の他の例を概略的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0020】
従来、不可避的な不純物が混入した原料を焼成してニオブチタン複合酸化物を作製する場合、不純物の影響で融点が低下するため、粗粒が生成し易い傾向がある。粗粒とは、一次粒子径が大きく成長した粒子である。粗粒は充放電中に割れやすいため、粗粒を含む活物質においては活物質粒子間の電子導電パスが形成されにくくなり、結果としてレート特性低下及びサイクル寿命特性低下を招く可能性がある。融点の低下によって成長した粗粒の結晶性は高いため、モース硬度も高い。それ故、例えば体積エネルギー密度を高めるべく、生成した粗粒を含む粉末を粉砕すると、結晶性が低下するだけでなく、多くの微粉が発生する。発生した微粉の比表面積は大きいため、充放電の際に電解質との副反応を生じてサイクル寿命特性を低下させる一因となる。
【0021】
一方、生成した粗粒を粉砕し易くするために、例えば、通常よりも低い温度での焼成を実施すると、粒子の結晶性が低下し、且つ、未反応又は反応不足の粒子が増大するため、やはりレート特性等の低下を生じる。即ち、単に焼成温度を低くしたり、焼成後の粉末を粉砕したりするのみでは、高い結晶性を有しており且つ望ましい粒度分布を有するニオブチタン複合酸化物粉末を得るのは困難であった。
【0022】
(第1実施形態)
第1実施形態によると、活物質が提供される。この活物質は、Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む。この活物質はカリウム及びリンを含み、活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にある。レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下である。活物質は、下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす。
【0023】
0<IB/IA≦0.25 (1)
式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
【0024】
第1実施形態に係る活物質が優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる理由を説明する。
まず、Nb2TiO7相について説明する。
【0025】
実施形態に係る活物質が含む主相は、Nb2TiO7を代表組成として示されるニオブチタン複合酸化物相である。ニオブチタン複合酸化物の組成はこれに限定されないが、空間群C2/mの対称性を持ち、非特許文献1(Journal of Solid State Chemistry 53, pp144-147 (1984))に記載の原子座標を有する結晶構造を有することが好ましい。
【0026】
ニオブチタン複合酸化物は、主に単斜晶型の結晶構造を示す。その例として、単斜晶型Nb
2TiO
7の結晶構造の模式図を
図1及び
図2に示す。
【0027】
図1に示すように、単斜晶型Nb
2TiO
7の結晶構造は、金属イオン101と酸化物イオン102が骨格構造部分103を構成している。金属イオン101の位置には、NbイオンとTiイオンとがNb:Ti=2:1の比でランダムに配置されている。この骨格構造部分103が三次元的に交互に配置されることで、骨格構造部分103同士の間に空隙部分104が存在する。この空隙部分104がリチウムイオンのホストとなる。リチウムイオンは、この結晶構造中に0モルから最大で5.0モルまで挿入され得る。従って、リチウムイオンが0~5.0モル挿入された場合の組成は、Li
xNb
2TiO
7(0≦x≦5)と表すことができる。
【0028】
図1において、領域105及び領域106は、[100]方向と[010]方向に2次元的なチャネルを有する部分である。それぞれ
図2に示すように、単斜晶型Nb
2TiO
7の結晶構造には、[001]方向に空隙部分107が存在する。この空隙部分107は、リチウムイオンの導電に有利なトンネル構造を有しており、領域105と領域106とを繋ぐ[001]方向の導電経路となる。この導電経路が存在することによって、リチウムイオンは領域105と領域106を行き来することが可能となる。また、ニオブチタン複合酸化物は、1.5V(対Li/Li
+)程度のリチウム吸蔵電位を有する。それ故、ニオブチタン複合酸化物を活物質として含む電極は、安定した繰り返し急速充放電が可能な電池を実現できる。
【0029】
更に、上記の結晶構造は、リチウムイオンが空隙部分104に挿入されたとき、骨格を構成する金属イオン101が3価に還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。ニオブチタン複合酸化物においては、Tiイオンが4価から3価へ還元されるだけでなく、Nbイオンが5価から3価へと還元される。このため、活物質重量あたりの還元価数が大きい。それ故、多くのリチウムイオンが挿入されても結晶の電気的中性を保つことが可能である。このため、4価カチオンだけを含む酸化チタンのような化合物に比べて、エネルギー密度が高い。また、Nb2TiO7相は、後述するNb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相と比較して重量エネルギー密度に優れている。これは、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相が含む1モル当たりのNb原子の数が多い、つまり1モル当たりの重量が大きいためである。
【0030】
次に、Nb
10Ti
2O
29相、Nb
14TiO
37相及びNb
24TiO
64相について説明する。
基本的な骨格構造は
図1及び
図2に示した、単斜晶型Nb
2TiO
7の結晶構造と類似構造である。リチウムイオンが空隙部分104に挿入されたとき、骨格を構成する金属イオン101が3価に還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。Nb
10Ti
2O
29相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LixNb
10Ti
2O
29(0≦x≦22)と表すことができる。Nb
14TiO
37相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LixNb
14TiO
37(0≦x≦29)と表すことができる。Nb
24TiO
64相にリチウムイオンが挿入された場合の組成は、LixNb
24TiO
64(0≦x≦49)と表すことができる。
【0031】
ニオブを多く含むNb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相においては、Nb2TiO7相と比較して、Nbイオンが5価から3価へと還元される量が多くなる。このため、活物質1モルあたりの還元価数が大きい。それ故、多くのリチウムイオンが挿入されても結晶の電気的中性を保つことが可能である。従って、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相は、Nb2TiO7相に比べてリチウムイオンが過剰に挿入された場合にも結晶構造を安定的に保つことができる。これにより、Nbリッチ相はリチウムイオンが過剰に挿入されても、活物質粒子が安定的に充放電することができる。即ち、Nbリッチ相は過充電耐性に優れる。なお、本明細書におけるNbリッチ相とは、Nb/Ti比が2よりも大きいニオブチタン複合酸化物相を意味している。実施形態に係る活物質は、Nb2TiO7相と、Nbリッチ相とを含むニオブチタン複合酸化物でありうる。
【0032】
一方、Nbリッチ相の活物質重量あたりの還元価数は、Nb2TiO7相と比較して小さい。つまり、Nbリッチ相は、1モルあたりの重量が大きいため、重量エネルギー密度はNb2TiO7相に劣る。
【0033】
活物質が、Nb2TiO7相だけでなく、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相を含んでいると、二次電池が過充電状態になった場合に、Nbリッチ相の電位が優先的に下がる。それ故、充電時には、一定の充電電圧を確保しながらも正極の電位上昇を抑制することができる。結果として、実施形態に係る活物質は、正極における酸化ガスの発生及び正極の劣化を抑制することができるため、サイクル寿命特性に優れる。
【0034】
更に、Nbリッチ相は、充放電時に脱挿入されるLiによって生じる結晶格子歪を緩和することができる。これは、酸化物イオンと骨格を構成するNbイオンとの結合が強くなるためである。それ故、Li充放電時の結晶格子の変形を抑制することができるため、サイクル寿命特性に優れる。
【0035】
上述の利点を得るためには、活物質は所定量のNbリッチ相を含むことが有効である。なお、所定量とは、後述するピーク強度比(IB/IA)に関する式1を満たす量である。しかしながら、Nbリッチ相が含まれる活物質では、前述のように酸化物イオンと骨格を構成するNbイオンとの結合が強くなるため、硬度の高い粒子が多数生成する。これにより、活物質中には大きな粒子径を有する粒子が多く、D90が大きいため、高い入出力特性が得られにくくなるという課題がある。また、硬い粒子を粉砕してD90を小さくすると結晶性が低下し、サイクル寿命特性が低下する。従って、Nbリッチ相が含まれる活物質において、高い入出力特性とサイクル寿命を両立することは困難であった。
【0036】
実施形態に係る活物質は、カリウム元素(K)及びリン元素(P)を含む。カリウム及びリンの少なくとも一方は、活物質粒子の粒子界面に存在することが好ましい。カリウム及びリンは、いずれも、例えば酸化物として存在する。カリウムの一部及びリンの一部は、結晶相内に取り込まれていてもよい。カリウムは活物質の融点を下げる効果があり、比較的に低い焼成温度において高い結晶性を得ることができる。一方、リンは活物質粒子表面の少なくとも一部に存在することによって粒子成長を抑制し、活物質粒子同士がネッキングして粗大化することを防ぐ効果がある。活物質中にカリウム及びリンの双方が共存することにより、Nbリッチ相が含まれる活物質においても、D90を小さく且つD10を大きくすることができると共に高い結晶性が得られ、結果として高い入出力特性とサイクル寿命を両立することができる。
【0037】
活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度は、0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。当該濃度が0.01質量%未満である場合、上記効果が得られない。当該濃度が5.00質量%を超えると、Liが挿入されるべきサイトをカリウムが占有するため電池容量が低下するか、又は、リンを含む酸化物が粒子界面において抵抗成分となり入出力特性が低下する。活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度は、好ましくは0.020質量%以上4.00質量%以下の範囲内にあり、より好ましくは0.050質量%以上2.50質量%以下の範囲内にある。活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度は、0.200質量%超5.00質量%以下の範囲内にあってもよい。
【0038】
活物質が含むカリウムの濃度(以下、「CK」とも呼ぶ)は、例えば、0.005質量%~5.00質量%の範囲内にあり、好ましくは0.01質量%~0.2質量%の範囲内にある。カリウム濃度CKが過度に高いと、Liが挿入されるべきサイトをカリウムが占有するため電池容量が低下する可能性がある。或いは、カリウムのフラックス効果による粒子の異常成長によってLiの挿入脱離がスムーズに行われなくなり、入出力特性が低下する可能性がある。
【0039】
活物質が含むリンの濃度(以下、「CP」とも呼ぶ)は、例えば、0.001質量%~1.00質量%の範囲内にあり、好ましくは0.005質量%~0.05質量%の範囲内にある。リン濃度CPが過度に高いと、リンを含む酸化物が粒子界面において抵抗成分となり入出力特性が低下する可能性がある。
【0040】
活物質中のカリウム濃度CKと、活物質中のリン濃度CPとの比(CK/CP)は、例えば1.0~50.0の範囲内にあり、好ましくは2.0~20.0の範囲内にある。比(CK/CP)は2.0~50.0の範囲内にあってもよく、5.0~40.0の範囲内にあってもよい。実施形態に係る活物質において、リン濃度と比較してカリウム濃度の方が高いことが好ましい。なぜなら、リンは粒子表面に残留する傾向が強く、粒子のネッキングや異常成長を抑制する機能を有するが、カリウム濃度に比べてリン濃度が高いと、十分な結晶成長が促されず、活物質表面に残留するリンによってLiイオンの動きを妨げてしまうためである。そのため、例えば入出力特性の低下等を招く。
【0041】
実施形態に係る活物質に対するレーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、体積頻度10%(D10)は0.3μm以上である。D10の値が高いことは微粉末が少ないことを意味する。D10が0.3μm以上である場合、活物質に含まれる微粉が少ないため、電解質との副反応を低減することができる。その結果、優れたレート特性及びサイクル寿命特性を示す二次電池を実現できる。D10は、好ましくは0.4μm~1.5μmの範囲内にあり、より好ましくは0.5μm~1.0μmの範囲内にある。D10が1.5μmより大きいと急速充放電性能が低くなる傾向がある。
【0042】
また、粒度分布チャートにおいて、体積頻度90%(D90)は10μm以下である。D90の値が低いことは粗大粒子が少ないことを意味する。D90が10μm以下である場合、活物質に含まれる粗大粒子が少ないため、充放電に伴う粗大粒子の割れが生じ難い。粗大粒子が割れないことにより、良好な電子導電パスを維持し易く、また、比表面積の増大に起因した副反応も低減することができる。このため、優れたレート特性及びサイクル寿命特性を達成できる。D90は、一例によれば、5.0μm以上である。D90は、好ましくは6.0μm~9.0μmの範囲内にある。
【0043】
従来、D90を10μm以下とするためには、焼成温度を低くするか、又は、焼成後の粉末を強粉砕に供する必要があった。そのため、高い結晶性を維持したまま、D90を小さくすると共にD10を大きくすることは困難であった。しかしながら、実施形態に係る活物質は、カリウム及びリンを所定の濃度で含んでいるため、活物質合成時のアニール段階において結晶性を高めつつ粒子同士のネッキングを抑制することができる。これにより、アニール時の粒成長が抑制されて粗粒の数が低減するのみならず、アニール後の粉砕がマイルドな条件であっても粒子が崩れやすくなる。そのため、活物質の結晶性を低下させること無しに粗粒を解砕してD90を低下させることができる。更に、マイルドな条件での粉砕では微粉の発生も抑制できる。即ち、D10を高めることができる。これによって、活物質粒子の硬度が高いNbリッチ相が共存していても、強い粉砕をせずに好ましい粒度分布を得ることができる。
【0044】
活物質の平均結晶子径は、例えば80nm~150nmの範囲内にあり、好ましくは90nm~150nmの範囲内にあり、より好ましくは95nm~120nmの範囲内にある。平均結晶子径が80nm以上であることは、結晶構造が強固に形成されていることを意味する。このような結晶構造は、急速充放電を繰り返したとしても劣化しにくいため、二次電池の寿命性能向上に寄与する。平均結晶子径が150nmより大きいと、Liイオンの拡散距離が長くなるため、急速充放電におけるLiイオンの移動性が低下する可能性がある。
【0045】
また、実施形態に係る活物質は、下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす。 0<IB/IA≦0.25 (1)
式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、上記回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。広角X線回折法の実施方法は後述する。
【0046】
ピーク強度IAは、Nb2TiO7相に帰属されるピーク強度(ピーク高さ)である。このピークとは、2θが26.0±0.1°の範囲内で最大のピーク強度を有するピークである。ピーク強度IAが大きいことは、活物質に占めるNb2TiO7相の重量が大きいことを意味する。
【0047】
ピーク強度IBは、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相に帰属されるピーク強度(ピーク高さ)である。このピークとは、2θが24.9±0.2°の範囲内で最大のピーク強度を有するピークである。ピーク強度IBが大きいことは、活物質に占めるNbリッチ相の重量が大きいことを意味する。
【0048】
上述したように、活物質がNbリッチ相を含むことにより過充電耐性が向上して、二次電池の寿命特性が向上する。しかしながら、Nbリッチ相を際限なく増やした場合に、増やした分だけ過充電耐性が向上するわけではない。また、ピーク強度比IB/IAが過度に大きいと、活物質が重くなるため重量エネルギー密度が低下するばかりか、Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相との充放電時の体積膨張率の違いから電極が歪んだり、活物質粒子が割れたりする原因となるため好ましくない。それ故、ピーク強度比(IB/IA)は0.25以下である。
【0049】
ピーク強度比IB/IAは、0より大きければよいが、ピーク強度比IB/IAが過度に小さいと、Nbリッチ相の重量が不足して、過充電耐性及びサイクル寿命が低くなる傾向にある。
【0050】
ピーク強度比IB/IAは0.005以上0.20以下であることが好ましく、0.01以上0.15以下であることがより好ましく、0.05以上0.1以下であることが更に好ましい。
【0051】
実施形態に係る活物質は、Si、Fe、Ta、Na、Y、Al及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を更に含んでいてもよい。活物質が含む添加元素の量は、活物質中のNb元素に対して0.5atm%以下であることが好ましい。活物質がFe、Ta、Y、Al及びSnからなる群より選択される少なくとも1つを含む場合、活物質の電子導電性を高めることができる。活物質がSi及びNaからなる群より選択される少なくとも1つを含む場合、重量が大きいNbリッチ相による容量低下を軽減することができる。
【0052】
上記添加元素は、Nb2TiO7相が含んでいてもよく、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相が含んでいてもよい。或いは、Nb2TiO7相及びNbリッチ相の双方が添加元素を含んでいてもよい。ただし、いずれの場合であっても添加元素の含有量は、活物質中のNb元素に対して0.5atm%以下であることが好ましい。
【0053】
活物質粒子の結晶構造は、例えば、粉末X線回折測定及び透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)観察などにより観察することができる。これらの測定方法の詳細は後述する。
【0054】
次に、実施形態に係る活物質についての形態及び比表面積について説明する。
【0055】
<形態>
実施形態に係る活物質(ニオブチタン複合酸化物)の形態は、特に限定されない。活物質は、例えば、Nb2TiO7相、Nbリッチ相、カリウム及びリンを含む一次粒子の形態でありうる。或いは、活物質は、Nb2TiO7相単相からなる一次粒子と、Nbリッチ相単相からなる一次粒子とが混合された複数の粒子であって、これら粒子内の少なくとも一部にカリウム及びリンが含まれた複数の粒子であってもよい。前述の各一次粒子は、凝集して二次粒子の形態を成していてもよい。ニオブチタン複合酸化物の粒子は、一次粒子と、二次粒子との混合物でもよい。
【0056】
ニオブチタン複合酸化物の粒子は、表面に炭素含有層を有していてもよい。炭素含有層は、一次粒子の表面に付着していてもよいし、二次粒子の表面に付着していてもよい。或いは、ニオブチタン複合酸化物の粒子は、表面に炭素含有層が付着した一次粒子が凝集してなる二次粒子を含んでいてもよい。このような二次粒子は、一次粒子間に炭素が存在しているため、優れた導電性を示すことができる。このような二次粒子を含む態様は、活物質含有層がより低い抵抗を示すことができるので、好ましい。
【0057】
<比表面積>
実施形態に係る活物質の比表面積は特に制限されないが、0.5m2/g以上5m2/g以下であることが好ましい。比表面積が0.5m2/g以上であれば、電解質との接触面積を確保することができ、良好な放電レート特性が得られやすく、また充電時間を短縮できる。一方、比表面積が5m2/g以下であれば、電解質との反応性が高くなり過ぎず、寿命特性を向上させることができる。また、後述する電極の製造に用いる、活物質を含むスラリーの塗工性を良好なものにすることができる。
【0058】
ここで、比表面積の測定は、粉体粒子表面に吸着占有面積が既知である分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法を用いる。最も良く利用されるのが不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法であり、単分子層吸着理論であるLangmuir理論を多分子層吸着に拡張した、比表面積の計算方法として最も有名な理論である。これにより求められた比表面積のことをBET(Brunauer, Emmett, Teller)比表面積と称する。
【0059】
<活物質の製造方法>
実施形態に係る活物質は、例えば、以下に説明する合成方法により製造することができる。
【0060】
まず、出発原料を混合する。ニオブ及びチタンを含む出発原料として、Nb及びTiを含む酸化物又は塩を準備する。例えば、出発原料としてNb2O5粒子及びTiO2粒子を使用することができる。これらの出発原料を、目的とするNbリッチ相の組成に応じて、チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)が2.0以上4.0以下の範囲となるように混合する。なお、本願明細書において、「MNb」はニオブチタン複合酸化物が含むニオブ原子の物質量(モル数)を示し、「MTi」はニオブチタン複合酸化物が含むチタン原子の物質量(モル数)を示す。本願明細書においては、「チタンに対するニオブのモル比(MNb/MTi)」を「Nb/Ti比」と記載することがある。
【0061】
原料の混合後に、得られた混合物を粉砕し、できるだけ均一な混合物を得る。次いで、得られた混合物を仮焼成(第1の焼成)に供する。仮焼成は500~900℃の温度範囲で2回以上に分けて合計10~40時間に亘り行う。これにより、均一性の高い前駆体粒子を得ることができる。
【0062】
次に、得られた前駆体粒子を本焼成(第2の焼成)に供する。本焼成は、800℃~1000℃以下の温度で、1時間~10時間に亘り行う。この時点では、所望となる粒度分布が得られることを優先して焼成時間を決めてよい。本焼成により得られる粒子の結晶性は低い状態でよい。このように、仮焼成から本焼成を通じて、比較的に低温且つ複数回に亘る焼成を実施することで、粗大粒子及び微粒子の発生を抑えることができる。
【0063】
次に、カリウム及びリンを含む酸化物又は塩を準備する。先に得られた本焼成後の粒子に対して、カリウム及びリンの含有量として0.010質量%以上5.00質量%以下の範囲内となるように添加して湿式混合を行う。このとき、カリウム及びリンを含む供給源を、水などの溶媒に可溶な原料を用いて湿式混合すると、焼成した粒子表面に均一に分布することができるため好ましい。
【0064】
次に、湿式混合によって得られた焼成粒子と、カリウム及びリンとの混合物をアニール処理に供する。アニール処理は800℃~900℃の温度で、1時間~10時間に亘り行うことが好ましい。カリウム及びリンのフラックス効果により粒成長を抑制しつつ結晶性を高めることができる。かくして得られた粉末を極力強いシェアをかけずに、できるだけ短時間に亘るマイルド粉砕に供する。この粉砕には、例えば、ローラーコンパクタ、ビーズミル装置及びボールミル装置などを使うことができる。これにより、本焼成で得られた粒度分布を大きく変化させることなく、結晶性を高めることができる。
【0065】
また、上記アニール後の粉砕条件を変化させることにより、得られる活物質のD10、D50及びD90を制御することができる。例えば、粉砕時間を長くすることによりD10、D50及びD90を小さくすることができる傾向にある。また、例えば、粉砕メディアとして、より小さな直径を有するものを使用することにより、D10、D50及びD90を小さくすることができる傾向にある。或いは、粉末を遠心分離に供することで、D10の小さな粒子を捕集したり、D90の大きな粒子を捕集したりすることができる。例えば、捕集した粒子を別途合成した活物質と混合することで、D10、D50及びD90を制御することができる。
【0066】
上述のように、Nb2TiO7相と、Nbリッチ相とを有するニオブチタン複合酸化物を製造する際に、所望とする粒度分布となるよう本焼成した粒子に、カリウム及びリンを添加してアニール処理をした後、マイルド粉砕を行うことで、高い結晶性を有し且つ微粉末の割合が小さい活物質粉末を得ることができる。これにより、Li充放電時の結晶格子の変形を抑制してサイクル寿命特性を高めながらも、優れた入出力特性を示す活物質を得ることができる。
【0067】
なお、上記方法により合成されたニオブチタン複合酸化物は、電池を組み立てた後に充電することによってリチウムイオンが挿入されてもよい。或いは、出発原料として、炭酸リチウムのようなリチウムを含む化合物を用いることにより、リチウムを含む複合酸化物として合成されてもよい。
【0068】
<活物質の粉末X線回折測定及びピーク強度比IB/IAの算出>
活物質の粉末X線回折測定は、例えば次のように行うことができる。
まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、ひび割れ、空隙等が生じないように、過不足ない量の試料を充填するように注意する。次いで、外部から別のガラス板を押し付けて、ホルダー部分に充填された試料の表面を平らにする。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。
【0069】
次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu-Kα線を用いて回折パターン(XRDパターン;X‐Ray Diffraction pattern)を取得する。
【0070】
なお、試料の粒子形状により粒子の配向が大きくなる場合がある。試料の配向性が高い場合は、試料の充填の仕方によってピークの位置がずれたり、強度比が変化したりする可能性がある。このように配向性が著しく高い試料は、ガラスキャピラリを用いて測定する。具体的には、試料をキャピラリに挿入し、このキャピラリを回転式試料台に載置して測定する。このような測定方法により、配向性を緩和することができる。ガラスキャピラリとしては、直径1mm~6mmφのリンデマンガラス製キャピラリを用いることが好ましい。
【0071】
電極に含まれる活物質について粉末X線回折測定を行う場合は、例えば以下のように行うことができる。
まず、活物質の結晶状態を把握するために、活物質からリチウムイオンが完全に離脱した状態にする。例えば、活物質が負極において用いられている場合、電池を完全に放電状態にする。例えば、電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧又は電池電圧が1.0Vに到達するまで放電させることを複数回繰り返し、放電時の電流値が定格容量の1/100以下となるようにすることで、電池を放電状態にすることができる。放電状態でも残留したリチウムイオンが存在することもある。
【0072】
次に、アルゴンを充填したグローブボックス中で電池を分解し、電極を取り出して、適切な溶媒で洗浄する。適切な溶媒としては、例えばエチルメチルカーボネートを用いることができる。電極の洗浄が不十分であると、電極中に残留したリチウムイオンの影響で、炭酸リチウムやフッ化リチウムなどの不純物相が混入することがある。その場合は測定雰囲気を不活性ガス中で行える気密容器を用いるとよい。洗浄した電極を、粉末X線回折装置のホルダーの面積と同程度の面積となるように切断して測定試料とする。この試料を直接ガラスホルダーに貼り付けて測定を行う。
【0073】
このとき、集電体である金属箔、導電剤及びバインダなどに由来するピークを、XRDを用いてあらかじめ測定して把握しておく。もちろん、これらを事前に把握できているのであれば、この操作は省略することができる。集電体のピークと活物質のピークとが重なる場合、集電体から活物質含有層を剥離して測定することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。活物質含有層を物理的に剥離しても良いが、溶媒中で超音波をかけると剥離しやすい。集電体から活物質含有層を剥離するのに超音波処理を行った場合、溶媒を揮発させることで、電極体粉末(活物質、導電剤、バインダーを含む)を回収することができる。回収した電極体粉末を、例えばリンデマンガラス製キャピラリ等に充填して測定することで、活物質の粉末X線回折測定を行うことができる。なお、超音波処理を行って回収した電極体粉末は、粉末X線回折測定以外の各種分析に供することもできる。
【0074】
粉末X線回折測定の装置としては、例えばRigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:
X線源:Cuターゲット
出力:45kV 200mA
ソーラスリット:入射及び受光共に5°
ステップ幅(2θ):0.02deg
スキャン速度:20deg/分
半導体検出器:D/teX Ultra 250
測定範囲:5°≦2θ≦90°
試料板ホルダー:平板ガラス試料板ホルダー(厚さ0.5mm)。
【0075】
その他の装置を使用する場合は、上記と同等の測定結果が得られるように、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行い、ピーク強度及びピークトップ位置が上記装置と一致する条件に調整して測定を行う。
【0076】
得られる回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°の範囲内で最大のピーク強度を有するNb2TiO7相に帰属されるピークのピーク強度IAを決定する。また、当該回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°の範囲内で最大のピーク強度を有する、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相に帰属されるピークのピーク強度IBを決定する。そして、ピーク強度比IB/IAを算出する。
【0077】
<結晶子径の確認>
粉末X線回折により取得するXRD回折パターンは、リートベルト解析に適用できるものでなければならない。リートベルト用データを収集するには、ステップ幅が回折ピークの最小半値幅の1/3~1/5となるようにし、最強度反射のピーク位置における強度が5000~10000カウントとなるように、適宜、測定時間及び/又はX線強度を調整する。
【0078】
得られたXRDパターンを、リートベルト法によって解析する。リートベルト法では、あらかじめ推定した結晶構造モデルから回折パターンを計算する。この計算値と実測値とを全てフィッティングすることにより、結晶構造に関するパラメータ(格子定数、原子座標、占有率等)を精密に分析することができる。これにより、合成した酸化物の結晶構造の特徴を調べることができる。また、構成元素の各サイト中の占有率を調べることが可能である。
【0079】
リートベルト解析における観測強度と計算強度の一致の程度を見積もるための尺度としてフィッティングパラメータSを用いる。このSが1.8より小さくなるように解析を行う必要がある。また、各サイトの占有率を決定する際には、標準偏差σjを考慮に入れなければならない。ここで定義するフィッティングパラメータS及び標準偏差σjについては、非特許文献2(97頁~115頁)に記載の数式で推定するものとする。この方法で、実施形態の空間群C2/mの対称性を持つ単斜晶型ニオブチタン複合酸化物について、結晶構造中の2aまたは4iの各金属カチオン占有サイトにおいて、各カチオンが均等に占有している場合を仮定してフィッティングした場合と、各カチオンが偏在していると仮定して元素ごとに個別の占有率を設定してフィッティングした場合を試す。この結果、フィッティングパラメータSの収束値が小さい方、即ち、よりフィッティングが優れている方が実際の占有状態に近いと判断することができる。これにより、各カチオンがランダム配列しているか否かを判断することができる。
【0080】
結晶子径(結晶子サイズ)を求めるために、最も回折強度の強い回折線を選定する。例えば、ニオブチタン複合酸化物としてのLixTi1-yM1yNb2-zM2zO7+δで表される化合物では(110)面のピークを測定する。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V、Ta、Bi、K、Ca、B、Co、Fe、Mn、Ni、Si、P及びMoからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。得られたピークの半値幅から、結晶子サイズを算出することができる。ここでは、下記式2に示すシェラーの式から結晶子サイズを算出する。
【0081】
【0082】
ここで、K=0.9、λ=0.15406nm、βe:回折ピークの半値幅、βo:半値幅の補正値(0.07°)である。
【0083】
<高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法>
高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plazma)発光分光分析法により、活物質中のカリウム及びリンの濃度を分析可能である。
【0084】
活物質粉末の一部を、適切な溶媒中に入れて超音波を照射する。例えば、ガラスビーカー中に入れたエチルメチルカーボネートに電極体を入れ、超音波洗浄機中で振動させることで、集電体から、活物質含有層を剥離することができる。次に、減圧乾燥により、剥離した活物質含有層を乾燥させる。得られた活物質含有層を乳鉢などで粉砕することで、活物質、導電剤及びバインダなどを含む粉末となる。この粉末を酸で溶解することで、活物質を含む液体サンプルを作成できる。このとき、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素などを使用できる。この液体サンプルをICP発光分光分析に供することで、活物質に含まれるカリウム及びリンの濃度をそれぞれ分析することができる。
【0085】
<活物質のTEM観察>
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)観察によると、各結晶相の分布を確認することができる。また、添加元素であるカリウム及びリンが粒子界面に存在しているか否かを確認することができる。必要に応じて、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy dispersive X-ray spectroscopy)を併せて実施してもよい。
【0086】
透過型電子顕微鏡観察にあたっては、対象とする試料粉体を樹脂などに埋め込み、機械研磨及びイオンミリングなどで検体内部を削り出すことが望ましい。また、対象とする試料が電極体でも同様の処理を行うことができる。例えば、電極体のまま樹脂に埋め込み、所望の箇所を観察することもできるし、電極体から集電体(金属箔)を剥離し、導電材及びバインダが混在した電極粉末として観察することもできる。このようにすることで、2つの結晶相が一次粒子内でどのように分布しているかを知ることができる上、粒子内の組成の傾斜を知ることができる。
【0087】
図3を参照しながら具体例を以下に説明する。
図3は測定対象の粒子を概略的に示す平面図である。まず、測定対象とする粒子の重心点を粒子の中心とみなす。次に、粒子の中心と粒子表面の任意の点とを結んだ直線上で等間隔に5点の測定点を設定する。それぞれの測定点に直交する領域の3点における粒子部の多波干渉像を調べ、電子線回折パターンの観測をする。この観測によりその測定点に含まれる結晶構造を知ることができる。例えば、電子線回折パターンをあらかじめシミュレーションすることで、Nb
2TiO
7相と、Nb
10Ti
2O
29相、Nb
14TiO
37相及びNb
24TiO
64相、並びに、それ以外の相とを容易に判別することができる。
【0088】
<レーザー回折散乱法による活物質粒子の粒度分布測定>
前述の粉末X線回折測定の項で説明した電極体粉末を焼成し、導電剤及びバインダを焼失させる。残った活物質粒子をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒に分散させて、超音波処理を施して、粒度分布測定用サンプルとしての分散溶液を得る。この分散溶液について、レーザー回折式分布測定装置を用いて構成粒子の粒度分布測定を実施する。測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製 マイクロトラックMT3100IIを使用することができる。
【0089】
上記分散溶媒を得る際の超音波処理は、レーザー回折式分布測定装置に付随する試料供給システムにより実施する。超音波処理は、例えば、40Wの出力で300秒に亘って実施する。
【0090】
第1実施形態によると、活物質が提供される。この活物質は、Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む。この活物質はカリウム及びリンを含み、活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にある。レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下である。活物質は、下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす。
【0091】
0<IB/IA≦0.25 (1)
式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
【0092】
実施形態に係る活物質は、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる。
【0093】
(第2実施形態)
第2実施形態によると、電極が提供される。
【0094】
第2実施形態に係る電極は、第1実施形態に係る活物質を含む。実施形態に係る電極は、負極であってもよく、正極であってもよい。実施形態に係る電極は、例えば電池用電極、二次電池用電極又はリチウム二次電池用電極である。電極は、第1実施形態に係る活物質を、負極材料として含む負極であり得る。
【0095】
第2実施形態に係る電極は、集電体と活物質含有層とを含むことができる。活物質含有層は、集電体の片面又は両面に形成され得る。活物質含有層は、活物質と、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
【0096】
活物質含有層は、第1実施形態に係る活物質を単独で含んでもよく、第1実施形態に係る活物質を2種以上含んでもよい。さらに、第1実施形態に係る活物質を1種又は2種以上と、更に1種又は2種以上の他の活物質とを混合した混合物を含んでもよい。
【0097】
他の活物質の例には、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi3O7、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi5O12、0≦x≦3)、二酸化チタン(TiO2)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物及び直方晶型(orthorhombic)チタン含有複合酸化物が挙げられる。他の活物質の例には、第1実施形態に係る活物質とは異なるニオブチタン複合酸化物が更に含まれる。ニオブチタン複合酸化物は、単斜晶型の結晶構造を有し得る。
【0098】
直方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM(I)2-bTi6-cM(II)dO14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M(I)は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つである。M(II)はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、-0.5≦σ≦0.5である。直方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti6O14(0≦a≦6)が挙げられる。
【0099】
上記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の例として、LixTi1-yM1yNb2-zM2zO7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LixNb2TiO7(0≦x≦5)が挙げられる。
【0100】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の他の例として、Ti1-yM3y+zNb2-zO7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦y<1、0≦z≦2、-0.3≦δ≦0.3である。
【0101】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
【0102】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0103】
活物質含有層中の活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、電極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、電極を二次電池の負極として用いる場合は、活物質、導電剤及び結着剤を、それぞれ、68質量%以上96質量%以下、2質量%以上30質量%以下及び2質量%以上30質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ30質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0104】
集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位において電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、活物質が負極材料として用いられる場合は、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0105】
また、集電体は、その表面に活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、集電タブとして働くことができる。
【0106】
電極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、実施形態に係る活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、電極を作製する。
【0107】
或いは、電極は、次の方法により作製してもよい。まず、活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、電極を得ることができる。
【0108】
第2実施形態に係る電極は、第1実施形態に係る活物質を含んでいる。それ故、この電極は、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる。
【0109】
(第3実施形態)
第3実施形態によると、負極と、正極と、電解質とを含む二次電池が提供される。この二次電池は、負極として、第2実施形態に係る電極を含む。つまり、第3実施形態に係る二次電池は、第1実施形態に係る活物質を含む電極を、負極として含む。
【0110】
実施形態に係る二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。負極、正極及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
【0111】
二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
【0112】
更に、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0113】
二次電池は、例えばリチウムイオン二次電池であり得る。また、二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池であり得る。
【0114】
以下、負極、正極、電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
【0115】
(1)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極集電体及び負極活物質含有層は、それぞれ、第2実施形態に係る電極が含むことのできる集電体及び活物質含有層であり得る。負極活物質含有層は、第1実施形態に係る活物質を負極活物質として含む。
【0116】
負極の詳細のうち、第2実施形態について説明した詳細と重複する部分は、省略する。
【0117】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)、即ち電極密度は、1.8g/cm3以上3.5g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.5g/cm3以上2.9g/cm3以下であることがより好ましい。
【0118】
負極は、例えば、第2実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
【0119】
(2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0120】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0121】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y<1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV2O5)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnzO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0122】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnzO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0123】
電池の電解質として常温溶融塩を用いる場合、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、又はこれらの混合物を含む正極活物質を用いることが好ましい。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、サイクル寿命を向上させることができる。常温溶融塩の詳細については、後述する。
【0124】
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒子径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒子径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0125】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0126】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0127】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0128】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0129】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0130】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0131】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0132】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0133】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0134】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0135】
正極は、例えば、正極活物質を用いて、第2実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
【0136】
(3)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であることが好ましい。
【0137】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0138】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0139】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
【0140】
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0141】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0142】
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
【0143】
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
【0144】
電解質は、水を含んだ水系電解質であってもよい。
【0145】
水系電解質は、水系溶媒と電解質塩とを含む。水系電解質は、例えば、液状である。液状水系電解質は、溶質としての電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水系溶媒は、例えば、水を50体積%以上含む溶媒である。水系溶媒は、純水であってもよい。
【0146】
水系電解質は、水系電解液と高分子材料とを複合化したゲル状の水系電解質であってもよい。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。
【0147】
水系電解質は、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましい。さらに好ましい形態は、溶質となる塩1molに対する水系溶媒量が3.5mol以上である。
【0148】
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析;Gas Chromatography - Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量の算出は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0149】
水系電解質は、例えば電解質塩を1-12mol/Lの濃度で水系溶媒に溶解することにより調製される。
【0150】
水系電解質の電気分解を抑制するために、LiOH又はLi2SO4などを添加し、pHを調整することができる。pHは、3-13であることが好ましく、4-12であることがより好ましい。
【0151】
(4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0152】
セパレータとして、固体電解質粒子を含む固体電解質層を使用することもできる。固体電解質層は、1種類の固体電解質粒子を含んでいても良く、複数種類の固体電解質粒子を含んでいてもよい。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む固体電解質複合膜であってもよい。固体電解質複合膜は、例えば、固体電解質粒子を、高分子材料を用いて膜状に成形したものである。固体電解質層は、可塑剤及び電解質塩からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいても良い。固体電解質層が電解質塩を含んでいると、例えば、固体電解質層のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
【0153】
高分子材料の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系を含む。
【0154】
固体電解質としては、無機固体電解質を用いることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。酸化物系固体電解質としては、NASICON型構造を有し、一般式LiM2(PO4)3で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMは、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の元素であることが好ましい。元素Mは、Ge、Zr及びTiの何れか1つの元素と、Alとを含むことがより好ましい。
【0155】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、LATP(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3)、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3を挙げることができる。上記式におけるxは、0<x≦5の範囲内にあり、0.1≦x≦0.5の範囲内にあることが好ましい。固体電解質としては、LATPを用いることが好ましい。LATPは、耐水性に優れ、二次電池内で加水分解を生じにくい。
【0156】
また、酸化物系固体電解質としては、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.3N0.46)、又はガーネット型構造のLLZ(Li7La3Zr2O12)を用いてもよい。
【0157】
(5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0158】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0159】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0160】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0161】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0162】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0163】
(6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0164】
(7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上5V以下の電位範囲(vs.Li/Li+)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0165】
次に、第3実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0166】
図4は、第3実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。
図5は、
図4に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0167】
図4及び
図5に示す二次電池100は、
図4及び
図5に示す袋状外装部材2と、
図4に示す電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0168】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0169】
図4に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、
図5に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0170】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、
図5に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0171】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
【0172】
図4に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0173】
第3実施形態に係る二次電池は、
図4及び
図5に示す構成の二次電池に限らず、例えば
図6及び
図7に示す構成の電池であってもよい。
【0174】
図6は、第3実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。
図7は、
図6に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0175】
図6及び
図7に示す二次電池100は、
図6及び
図7に示す電極群1と、
図6に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
【0176】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0177】
電極群1は、
図7に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0178】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0179】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。
図7に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0180】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0181】
第3実施形態に係る二次電池は、第1実施形態に係る活物質を負極活物質として含んでいる。そのため、この二次電池は、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0182】
(第4実施形態)
第4実施形態によると、組電池が提供される。第4実施形態に係る組電池は、第3実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0183】
第4実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0184】
次に、第4実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0185】
図8は、第4実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。
図8に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第3実施形態に係る二次電池である。
【0186】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、
図8の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0187】
5つの単電池100a-100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a-100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0188】
第4実施形態に係る組電池は、第3実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0189】
(第5実施形態)
第5実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第4実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第4実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第3実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0190】
第5実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0191】
また、第5実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0192】
次に、第5実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0193】
図9は、第5実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。
図10は、
図9に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0194】
図9及び
図10に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0195】
図9に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0196】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0197】
複数の単電池100の少なくとも1つは、第3実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、
図10に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0198】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0199】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0200】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0201】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0202】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0203】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0204】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0205】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0206】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0207】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0208】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0209】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0210】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
【0211】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0212】
第5実施形態に係る電池パックは、第3実施形態に係る二次電池又は第4実施形態に係る組電池を備えている。従って、この電池パックは、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる。
【0213】
(第6実施形態)
第6実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第5実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0214】
第6実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含んでいてもよい。
【0215】
第6実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0216】
車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0217】
車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0218】
次に、第6実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0219】
図11は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0220】
図11に示す車両400は、車両本体40と、実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。
図11に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0221】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0222】
図11では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0223】
次に、
図12を参照しながら、第6実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0224】
図12は、第6実施形態に係る車両における電気系統に関する制御システムの一例を概略的に示した図である。
図12に示す車両400は、電気自動車である。
【0225】
図12に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位の制御装置である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
【0226】
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、
図12に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
【0227】
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
【0228】
電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a-300cは、前述の電池パック300と同様の電池パックであり、組電池200a-200cは、前述の組電池200と同様の組電池である。組電池200a-200cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
【0229】
組電池200a-200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第2実施形態に係る二次電池である。組電池200a-200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
【0230】
電池管理装置411は、組電池監視装置301a-301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a-200cに含まれる単電池100のそれぞれについて電圧及び温度などに関する情報を収集する。これにより、電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を収集する。
【0231】
電池管理装置411と組電池監視装置301a-301cとは、通信バス412を介して接続されている。通信バス412では、1組の通信線が複数のノード(電池管理装置411と1つ以上の組電池監視装置301a-301cと)で共有されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0232】
組電池監視装置301a-301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a-200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0233】
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との間の電気的な接続の有無を切り替える電磁接触器(例えば
図12に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a-200cへの充電が行われるときにオンになるプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、組電池200a-200cからの出力が負荷へ供給されるときにオンになるメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチ及びメインスイッチのそれぞれは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフに切り替わるリレー回路(図示せず)を備えている。スイッチ装置415等の電磁接触器は、電池管理装置411又は車両400全体の動作を制御する車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。
【0234】
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411又は車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、制御される。インバータ44が制御されることにより、インバータ44からの出力電圧が調整される。
【0235】
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。駆動モータ45の回転によって発生する駆動力は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0236】
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構(リジェネレータ)を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。変換された直流電流は、車両用電源41に入力される。
【0237】
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子417に接続されている。接続ラインL1には、負極端子414と負極入力端子417との間に電池管理装置411内の電流検出部(電流検出回路)416が設けられている。
【0238】
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子418に接続されている。接続ラインL2には、正極端子413と正極入力端子418との間にスイッチ装置415が設けられている。
【0239】
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0240】
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置411を含む他の管理装置及び制御装置とともに車両用電源41、スイッチ装置415、及びインバータ44等を協調制御する。車両ECU42等の協調制御によって、車両用電源41からの電力の出力及び車両用電源41の充電等が制御され、車両400全体の管理が行われる。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
【0241】
第6実施形態に係る車両は、第5実施形態に係る電池パックを搭載している。それ故、本実施形態によれば、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる電池パックを搭載した車両を提供することができる。
【0242】
[実施例]
以下、実施例に基づいて上記実施形態をさらに詳細に説明する。
【0243】
<合成方法>
(実施例1)
以下に説明する固相合成法により活物質を合成した。
まず、主相としてNb2TiO7、共存相としてNb10Ti2O29が得られるように、Nb/Ti比が2.2となるよう、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1.1:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合した。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で10時間に亘り加熱したのち、粉砕混合を行い再び800℃の温度で10時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行い、前駆体粒子を得た。次に、得られた前駆体粒子を1000℃で5時間に亘り本焼成(第2の焼成)した。本焼成後に得られた粒子の粒度分布を調べたところ、D10が0.3μm以上、D90が10μm以下であった。
【0244】
次いで、最終的に得られる活物質粒子におけるカリウム(K)及びリン(P)の濃度が、それぞれ0.01質量%及び0.001質量%となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びリン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)を、本焼成後の粒子に添加した。K源及びP源が添加された本焼成後の粒子を、純水を用いた湿式混合に供して湿式混合物を得た。その後、湿式混合物をアニール処理に供して結晶性を高めた。アニール処理は900℃で3時間に亘り行った。このようにして得られた粉末を、直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、500rpm、10分の条件で粉砕を行い、実施例1に係る活物質粉末を得た。
【0245】
(実施例2~10)
本焼成後の粒子に対して、下記表1に示すカリウム濃度及びリン濃度を有する活物質が得られるように、K源及びP源の添加量を変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で実施例2~10に係る活物質粉末を得た。
【0246】
(実施例11)
アニール処理を800℃で1時間に亘り行ったことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0247】
(実施例12)
アニール処理を800℃で3時間に亘り行ったことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0248】
(実施例13)
アニール処理を900℃で5時間に亘り行ったことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0249】
(実施例14)
アニール処理を900℃で10時間に亘り行ったことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0250】
(実施例15)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が2.02となるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1.01:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0251】
(実施例16)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が2.1となるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1.05:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0252】
(実施例17)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が3.0となるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1.5:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0253】
(実施例18)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が3.5となるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1.75:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0254】
(実施例19)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が4.0となるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を2:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0255】
(実施例20)
実施例14に係る方法でアニール処理後の粉末を得た後、メノウ製ボールミルによる粉砕を行うこと無しに、篩を用いて10μm以上の粗粒を取り除いた。こうして、比表面積を低減させた活物質粉末を得た。
【0256】
(実施例21)
実施例11に係る方法でアニール処理後の粉末を得た後、この粉末を、直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、600rpm、30分の条件での粉砕に供した。その後、遠心分離により0.3μm以下の微粒子を取り除いた。こうして、比表面積を高めた活物質粒子を得た。
【0257】
(実施例22)
実施例11に係る方法でアニール処理後の粉末を得た後、この粉末を、直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、800rpm、40分の条件での粉砕に供した。その後、遠心分離により0.3μm以下の微粒子を取り除いた。こうして、比表面積を高めた活物質粒子を得た。
【0258】
(実施例23)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、乾式ボールミルによる混合の代わりに、メノウ乳鉢を用いた混合を行ったことを除いて、実施例17と同様の方法で活物質粉末を得た。ボールミルのような強いシェアが掛かる乾式混合の代わりに、メノウ乳鉢によるマイルドな混合を行うことで、局所的にニオブリッチな固相反応が進行するため、共存相としてNb14TiO37が生成する。
【0259】
(実施例24)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、乾式ボールミルによる混合の代わりに、メノウ乳鉢を用いた混合を行ったことを除いて、実施例19と同様の方法で活物質粉末を得た。ボールミルのような強いシェアが掛かる乾式混合の代わりに、メノウ乳鉢によるマイルドな混合を行うことで、局所的にニオブリッチな固相反応が進行するため、共存相としてNb24TiO64が生成する。
【0260】
(比較例1)
最終的に得られる活物質粒子におけるカリウム(K)濃度が0.07質量%となるように、炭酸カリウム(K2CO3)のみを本焼成後の粒子に添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0261】
(比較例2)
最終的に得られる活物質粒子におけるリン(P)濃度が0.009質量%となるように、リン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)のみを本焼成後の粒子に添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0262】
(比較例3)
最終的に得られる活物質粒子におけるカリウム(K)及びリン(P)の濃度が、それぞれ5.0質量%及び2.0質量%となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びリン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)を本焼成後の粒子に添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0263】
(比較例4)
K源及びP源をいずれも添加せずに純水を用いた湿式混合を行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0264】
(比較例5)
K源及びP源を添加する代わりに、最終的に得られる活物質粒子におけるナトリウム(Na)及び鉄(Fe)の濃度が、いずれも0.05質量%となるように、炭酸ナトリウム(Na2CO3)及び塩化鉄(FeCl2)を本焼成後の粒子に添加したことを除いて、実施例1と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0265】
(比較例6)
実施例14に係る方法でアニール処理後に得られた粉末を、比較例6に係る活物質粉末とした。即ち、比較例6では、アニール処理後に粉砕処理を行わなかった。
【0266】
(比較例7)
実施例4に係る方法でアニール処理後の粉末を得た後、直径3mmの粉砕メディアを使用する乾式ビーズミル装置を用いて、パス数3回の条件で粉砕を行って活物質粉末を得た。
【0267】
(比較例8)
Nb2TiO7相のみが得られるように、Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が2.00となるよう、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1:1のモル比で混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0268】
(比較例9)
下記の操作を行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で比較例9に係る活物質粉末を作製した。
【0269】
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb2TiO7相のみが得られるように、Nb/Ti比が2.00となるよう、Nb2O5粒子及びTiO2粒子のモル比を1:1とした。また、K源及びP源を添加する際に、最終的に得られる活物質粒子におけるカリウム(K)及びリン(P)の濃度が、それぞれ5.0質量%及び2.0質量%となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びリン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)を本焼成後の粒子に添加した。
【0270】
(比較例10)
Nb源及びTi源の原料混合の際に、Nb/Ti比が4.5となるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を2.25:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合したことを除いて、実施例4と同様の方法で活物質粉末を得た。
【0271】
(比較例11)
まず、主相としてNb2TiO7、共存相としてNb10Ti2O29が得られるように、Nb/Ti比が2.2となるよう、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1.1:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合した。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で10時間に亘り加熱したのち、粉砕混合を行い再び800℃の温度で10時間に亘り仮焼成(第1の焼成)を行い、前駆体粒子を得た。
【0272】
次に、最終的に得られる活物質粒子におけるカリウム(K)及びリン(P)の濃度が、それぞれ0.07質量%及び0.009質量%となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びリン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)を、前駆体粒子に添加した。K源及びP源が添加された前駆体粒子を、純水を用いた湿式混合に供して湿式混合物を得た。
【0273】
次いで、得られた湿式混合物を、1150℃の温度で3時間に亘り本焼成(第2の焼成)に供した。このようにして得られた粉末を、直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、500rpm、30分の条件で粉砕を行い、比較例11に係る活物質粉末を得た。
【0274】
(比較例12)
まず、主相としてのNb2TiO7相が得られるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子を1:1のモル比で、乾式ボールミルを用いて混合した。得られた粉末をアルミナ坩堝に入れ、800℃の温度で12時間に亘り仮焼成を行った。仮焼成後に得られた粉末を白金坩堝に入れて1200℃の温度で、5時間に亘り本焼成した。この粉末をメノウ乳鉢で粉砕した後、25μmのメッシュで篩分けを行ってNb2TiO7粒子を得た。
【0275】
次に、副相としてのNb10Ti2O29相が得られるように、Nb2O5粒子及びTiO2粒子のモル比を2.5:1としたことを除いて、上記主相の作製時と同様に仮焼成、本焼成及び篩分けを行ってNb10Ti2O29粒子を得た。得られたNb10Ti2O29粒子の含有量が0.5質量%となるように、先に作製したNb2TiO7粒子と混合して、混合物を得た。
【0276】
得られた混合物に対して、最終的に得られる活物質粒子におけるカリウム(K)及びリン(P)の濃度が、それぞれ0.01質量%及び0.001質量%となるように、炭酸カリウム(K2CO3)及びリン酸二アンモニウム((NH4)2HPO4)を添加した。K源及びP源が添加された混合物を、純水を用いた湿式混合に供して湿式混合物を得た。その後、湿式混合物を900℃で3時間に亘るアニール処理に供した。
【0277】
このようにして得られた粉末を、直径10mmの粉砕メディアを使用するメノウ製ボールミルを用いて、500rpm、10分の条件で粉砕を行い、比較例12に係る活物質粉末を得た。
【0278】
<電気化学測定>
各例にて得られた活物質を使用して、以下の手順で電気化学測定用セルを作製した。
【0279】
各例で得られた活物質粉末100質量%、導電剤としてアセチレンブラック10質量%、及び、カーボンナノファイバー5質量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)10質量%をN-メチルピロリドン(NMP)に加えて混合してスラリーを得た。このスラリーを厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の片面に塗布し、乾燥後プレスすることにより電極密度2.4g/cm3の電極を作製した。
【0280】
一方、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:2で混ぜた混合溶媒に、LiPF6支持塩を1mol/Lの濃度で溶解させることにより電解液を調製した。
【0281】
得られた電極を作用極とし、対極及び参照極をLi金属とし、電解液を用いた三電極式ビーカーセルを作製して、後述の通り電気化学特性を評価した。
【0282】
本実施例において、この測定用の三電極式ビーカーセルでは、リチウム金属を対極としているため、実施例および比較例の電極電位は対極に比して貴となるため正極として作動する。このため、実施例および比較例の電極を負極として用いたときの充放電の定義は反対になる。ここで、混乱を避けるため、本実施例では、電極にリチウムイオンが挿入される方向を充電、脱離する方向を放電という呼称で統一する。なお、本実施形態の活物質は、公知の正極材料と組み合わせることで負極として作動する。
【0283】
作製した電気化学測定用セルを、金属リチウム電極基準で1.0V~3.0Vの電位範囲で充放電させた。充放電電流値を0.2C(時間放電率)とし、室温にて0.2C放電容量の確認を行った。0.2C放電容量の値は、エネルギー密度の指標となる。また、急速放電特性を調べるため、0.2C放電容量確認後に再び充電電流値を0.2Cとして充電し、室温にて5Cの急速放電容量の確認を行った。そして、5C放電容量を0.2C放電容量で除すことにより、放電容量比(5C/0.2C)を求めた。放電容量比(5C/0.2C)は、急速充放電特性を評価する指標となる。
【0284】
次に、実施例に係る活物質(負極材料)が安定的に充放電可能であることを確認するため、実施例及び比較例のセルに、金属リチウム電極基準で1.0V~3.0Vの電位範囲で0.2C充放電を繰り返す寿命試験を45℃環境下で行った。初回充放電を終えた段階で、セルの1kHzにおける交流インピーダンス値を測定した。その後、100サイクル繰り返し充放電を行い(充電及び放電で1サイクルとする)、100サイクル後の放電容量維持率及び抵抗上昇率を調べた。100サイクル後の放電容量維持率を確認するため、再び0.2C(時間放電率)で充放電を行い、100サイクル後の放電容量を初回放電容量で除して100を掛けることにより、初回放電容量を100%とした場合のサイクル容量維持率(%)を算出した。また、同様に100サイクル後に1kHzにおける交流インピーダンス値を測定し、初回充放電後の交流インピーダンス値で除して抵抗上昇率(倍)を算出した。100サイクル後の放電容量維持率及び抵抗上昇率は、サイクル寿命特性を評価する指標となる。
【0285】
<各種評価>
各例にて得られた活物質粉末に対して、第1実施形態において説明した方法に従って粉末X線回折、リートベルト解析、ICP発光分光分析、TEM観察、BET法による比表面積測定及びレーザー回折散乱法を実施した。
【0286】
以上の結果を下記表1~4にまとめる。なお、比較例5の行においては、「K/濃度」の列にカリウム濃度を記載する代わりにナトリウム濃度を記載している。また、「P/濃度」の列にリン濃度を記載する代わりに鉄濃度を記載している。
【0287】
【0288】
【0289】
【0290】
【0291】
実施例1~24に示しているように、実施形態に係る活物質を含む二次電池は、入出力特性及びサイクル寿命特性に優れるのみならず、電池容量の点でも優れていた。例えば実施例4~7に示しているように、カリウム濃度CK及びリン濃度CPの比(CK/CP)が2.0~50.0の範囲内にある場合、結晶成長の効果と粒成長抑制の効果がバランスよく得られ、電極内の電気化学反応がスムーズに行われる作用により電池特性が優れていた。D10が0.4μm以上であり且つD90が9.0μm以下である実施例12及び13は、レート特性及びサイクル寿命特性がバランス良く優れていた。
【0292】
比較例4のように、カリウム及びリンの添加を省略すると、融点降下が発現しないためアニール処理を行っても反応性が低い。それ故、未反応の不純物相を含むと共に結晶子サイズの小さい活物質粒子が得られた。比較例5のように、所定量のナトリウム及び鉄を含む場合、融点降下が生じるため実施例と同等の粒子物性を発現したが、ナトリウム及び鉄による電池特性悪化の影響が大きかった。
【0293】
比較例6では、粒子の解砕が不足してD90が過度に大きかったため、電子導電パスが十分に形成されないことを含め、電池特性が劣っていた。他方、比較例7では活物質粉末を過剰に粉砕したため、結晶性が低下したうえに比表面積が大きくなり、サイクル寿命特性が大きく劣っていた。
【0294】
比較例8に示すように、Nbリッチ相が含まれていない場合、充放電における結晶格子の安定性が低下するため電池特性が劣っていた。一方、Nbリッチ相が多いと、比較例10に示すように、酸化物イオンと骨格を構成するNbイオンとの結合が強くなる効果が過剰に働くため、リチウムイオンの動きを妨げることから電池特性が劣っていた。
【0295】
比較例11のように、所定濃度のカリウム及びリンを含む混合物を高温で長時間に亘り焼成することで、結晶成長は進むが、同時に粒成長も進む。それ故、粉砕が困難な粗大粒子が生成する。こうした粗大粒子を含む粉末をボールミルで粉砕すると、粗大粒子が破砕された際に発生する微粉末の量が増える。そのため、D10が0.18μmという小さい値となり、粗粒が多く残ることからD90も10μm以上となる。従って、レート特性及びサイクル寿命特性は低下し、サイクル後の抵抗上昇が大きい。粗粒及び微粉が多いことから、電極内での反応が不均一であるため、レート特性が低下する。更に、格子体積の変化により粗粒が崩れるため、電極内の電子導電ネットワークが破壊される。また、微粒子の存在により電解液との副反応も増大するため、抵抗上昇が大きい。
【0296】
比較例12では、主相としてのNb2TiO7相生成時においても、副相としてのNb10Ti2O29相生成時においても、高温で連続して焼成が行われるため、K源及びP源の添加前において既に硬度の高いニオブチタン複合酸化物粒子が生成している。そのため、主相及び副相を混合し、更に所定濃度でカリウム及びリンを添加した上で加熱処理を行うと、ボールミルでも粉砕が困難な高強度の粒子が生成する。従って、レート特性が著しく低く、充放電サイクル中に高強度粒子が徐々に割れるため、抵抗上昇及び容量低下が生じる。
【0297】
以上説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、活物質が提供される。この活物質は、Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む。この活物質はカリウム及びリンを含み、活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にある。レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下である。活物質は、下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす。
【0298】
0<IB/IA≦0.25 (1)
式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
【0299】
この活物質は、優れた入出力特性及びサイクル寿命特性を示すことができる二次電池を実現することができる。
【0300】
本発明のいくつか実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む活物質であって、カリウム及びリンを含み、
前記活物質に占める、前記カリウム及び前記リンの合計濃度が0.010質量%以上5.00質量%以下の範囲内にあり、
レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下であり、
平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にあり、
下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす活物質。
0<IB/IA≦0.25 (1)
前記式(1)中、IAは、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、前記Nb2TiO7相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、IBは、前記回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、前記Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
[2] 前記活物質中の前記カリウム濃度CKと、前記活物質中の前記リン濃度CPとの比(CK/CP)は、2.0~50.0の範囲内にある[1]に記載の活物質。
[3] 前記活物質に占める、前記カリウム及び前記リンの合計濃度が0.050質量%以上2.50質量%以下の範囲内にある[1]又は[2]に記載の活物質。
[4] 前記平均結晶子径は90nm以上である[1]~[3]の何れか1項に記載の活物質。
[5] BET比表面積は0.5m2/g以上5m2/g以下である[1]~[4]の何れか1項に記載の活物質。
[6] 前記粒度分布チャートにおいて、D10は0.4μm以上である[1]~[5]の何れか1項に記載の活物質。
[7] 前記粒度分布チャートにおいて、D90は9.0μm以下である[1]~[6]の何れか1項に記載の活物質。
[8] 前記ピーク強度比IB/IAは、0.005以上0.20以下の範囲内にある[1]~[7]の何れか1項に記載の活物質。
[9] [1]~[8]の何れか1項に記載の活物質を含む電極。
[10] 前記電極は、前記活物質を含む活物質含有層を含む[9]に記載の電極。 [11] 正極と、
負極と、
電解質とを具備する二次電池であって、
前記負極は、[9]又は[10]に記載の電極である二次電池。
[12] [11]に記載の二次電池を具備する電池パック。
[13] 通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む[12]に記載の電池パック。
[14] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[12]又は[13]に記載の電池パック。 [15] [12]~[14]の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
[16] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む[15]に記載の車両。
【符号の説明】
【0301】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極活物質含有層、3c…負極集電体の部分、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、21…バスバー、22…正極側リード、23…負極側リード、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、41…車両用電源、42…電気制御装置、43…外部端子、44…インバータ、45…駆動モータ、100…二次電池、101…金属イオン、102…酸化物イオン、103…骨格構造部分、104…空隙部分、105、106…領域、200…組電池、200a…組電池、200b…組電池、200c…組電池、300…電池パック、300a…電池パック、300b…電池パック、300c…電池パック、301a…組電池監視装置、301b…組電池監視装置、301c…組電池監視装置、341…正極側コネクタ、342…負極側コネクタ、343…サーミスタ、344…保護回路、345…配線、346…配線、347…通電用の外部端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両、411…電池管理装置、412…通信バス、413…正極端子、414…負極端子、415…スイッチ装置、L1…接続ライン、L2…接続ライン、W…駆動輪。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む活物質であって、
カリウム及びリンを含み、
前記活物質に占める、前記カリウム及び前記リンの合計濃度が0.010質量%以上5.00質量%以下の範囲内にあり、
レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下であり、
平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にあり、
前記リンの濃度と比較して前記カリウムの濃度が高い、リチウム二次電池用活物質。
【請求項2】
前記活物質中の前記カリウム濃度CKと、前記活物質中の前記リン濃度CPとの比(CK/CP)は、2.0~50.0の範囲内にある請求項1に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項3】
前記活物質に占める、前記カリウム及び前記リンの合計濃度が0.050質量%以上2.50質量%以下の範囲内にある請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項4】
前記平均結晶子径は90nm以上である請求項1~3の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項5】
BET比表面積は0.5m2/g以上5m2/g以下である請求項1~4の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項6】
前記粒度分布チャートにおいて、D10は0.4μm以上である請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項7】
前記粒度分布チャートにおいて、D90は9.0μm以下である請求項1~6の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項8】
下記式(1)で表されるピーク強度比を満たす、請求項1~7の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
0<I
B
/I
A
≦0.25 (1)
前記式(1)中、I
A
は、CuKα線をX線源とする広角X線回折法による回折ピークにおいて、2θが26.0±0.1°に現れ、前記Nb
2
TiO
7
相に帰属される最大ピークのピーク強度であり、I
B
は、前記回折ピークにおいて、2θが24.9±0.2°に現れ、前記Nbリッチ相に帰属される最大ピークのピーク強度である。
【請求項9】
前記ピーク強度比IB/IAは、0.005以上0.20以下の範囲内にある請求項8に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項10】
前記カリウム及び前記リンのうちの少なくとも一方は、前記活物質の粒子界面に存在する、請求項1~9の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項11】
前記Nb
2
TiO
7
相からなる一次粒子と、前記Nbリッチ相からなる一次粒子との混合物を含む、請求項1~10の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質。
【請求項12】
請求項1~11の何れか1項に記載のリチウム二次電池用活物質を含むリチウム二次電池用電極。
【請求項13】
前記電極は、前記リチウム二次電池用活物質を含む活物質含有層を含む請求項12に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項14】
正極と、
負極と、
電解質とを具備するリチウム二次電池であって、
前記負極は、請求項12又は13に記載のリチウム二次電池用電極であるリチウム二次電池。
【請求項15】
請求項14に記載のリチウム二次電池を具備する電池パック。
【請求項16】
通電用の外部端子と、
保護回路とを更に含む請求項15に記載の電池パック。
【請求項17】
複数の前記リチウム二次電池を具備し、前記リチウム二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項15又は16に記載の電池パック。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
第1実施形態によると、リチウム二次電池用活物質が提供される。この活物質は、Nb2TiO7相と、Nb10Ti2O29相、Nb14TiO37相及びNb24TiO64相からなる群より選択される少なくとも1つのNbリッチ相とを含む。この活物質はカリウム及びリンを含み、活物質に占める、カリウム及びリンの合計濃度が0.01質量%以上5.00質量%以下の範囲内にある。平均結晶子径は80nm~150nmの範囲内にある。レーザー回折散乱法によって得られる粒度分布チャートにおいて、D10は0.3μm以上であり、D90は10μm以下である。活物質は、リンの濃度と比較してカリウムの濃度が高い。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】