(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133239
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】細胞培養の適応的継代のためのシステム、方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240920BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024112486
(22)【出願日】2024-07-12
(62)【分割の表示】P 2021576177の分割
【原出願日】2019-12-18
(31)【優先権主張番号】PCT/CA2019/050859
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(71)【出願人】
【識別番号】518393115
【氏名又は名称】ステムセル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナザレス、エマヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ジャーヴィス、エリック
(72)【発明者】
【氏名】オキーン、マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ソジョンキー、ティア
(72)【発明者】
【氏名】ロマニシュ、マーク
(57)【要約】
【課題】細胞の培養物の適応継代のための装置、システム及び方法、並びに細胞コロニーを解離させるための装置及び方法を提供する。
【解決手段】細胞の培養物の適応継代のための装置、システム及び方法、並びに細胞コロニーを解離させるための装置及び方法が記載される。システムは、撮像モジュール、ピペットモジュール、取扱モジュール、及び/又はステージモジュールを含み得る。モジュールの協働動作は、所望により自動化された方法で、2つ以上の時点で取り込まれた1又は複数の画像から計算された細胞の培養物の1又は複数の特性に基づいて、少なくとも1つのプロセッサによって行われる。培養細胞の適応継代のための第1の装置は、撮像モジュール及び少なくとも1つのプロセッサを含み、その装置は、システムに含まれ得るか、又は方法で使用され得る。細胞コロニーを解離させるための第2の装置もまた、システムに含まれ得るか、又は方法に使用され得、解離力を細胞の培養物に伝達するために衝撃ブラケットと衝突可能な衝撃バンパを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の1又は複数の培養物を適応的に継代するための装置であって、前記装置が、
第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の前記1又は複数の培養物の1又は複数の画像を取り込むための撮像モジュールと、
前記撮像モジュールに通信可能に結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記プロセッサが、
前記撮像モジュールから、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の前記1又は複数の培養物の前記1又は複数の画像を受信し、
前記撮像モジュールから受信した前記1又は複数の画像に基づいて、細胞の前記1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算し、
細胞の前記1又は複数の培養物の前記計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを出力し、前記適応継代プロトコルが、後続の継代において予定時間通りに前記1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の前記1又は複数の培養物の各々について分割比及び/又は継代時間を提供する
ように構成される、プロセッサと
を備える、装置。
【請求項2】
前記1又は複数の特性が、対照培養物又は標準の対応する1又は複数の特性と比較される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記1又は複数の特性が、
a)細胞の前記培養物のコンフルエンスの指標、
b)細胞の前記培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
c)細胞の前記培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
d)細胞の前記培養物のコロニーサイズ分布の指標、
e)a)、b)、c)、又はd)の前記第1の時点から前記1又は複数の後続の時点への変化の指標、又は
f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標
を含む、請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記閾値レベルが、
i.a)の場合、細胞又はコロニーのコンフルエンスに関して約30~90%、
ii.b)の場合、対照培養物の約-30%と+30%との間、
iii.c)の場合、維持プロトコルでは対照培養物の約0~30%、若しくは分化プロトコルでは対照培養物の約50%~100%、又は
iv.d)の場合、対照培養物又はそのサブフラクションの平均コロニーサイズ分布からの差異が約15%以内
である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
細胞の前記1又は複数の培養物に関して計算された前記1又は複数の特性が、前記第1の時点又は前記1又は複数の後続の時点で、第1の細胞培養物と第2の細胞培養物との間で異なり、前記1又は複数の特性が、前記後続の継代中においてより高い一貫性を有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記撮像モジュールが、培養皿のウエル、前記ウエル内の細胞のコロニー、又は前記ウエル内の単一の細胞を解像できるカメラを含む、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記閾値レベルが、学習された閾値レベル又はユーザが入力した閾値レベルである、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記閾値レベルが、機械学習された閾値レベルである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記適応継代プロトコルがGUI上に出力される、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記適応継代プロトコルがモバイルアプリケーション上に出力される、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
細胞の1又は複数の培養物の適応継代のためのシステムであって、前記システムは、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の装置を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサがまた、
1又は複数のピペットの端部と嵌合可能なピペットチップを介して細胞培養容器から流体を引き出すための前記1又は複数のピペットを有するピペットモジュール、
前記ピペットモジュールから離間された液体ディスペンサモジュールであって、前記液体ディスペンサモジュールが複数の溶液リザーバと流体連通している、液体ディスペンサモジュール、及び
前記自動システム内で前記細胞培養容器若しくはその蓋又は娘細胞培養容器若しくはその蓋を把持及び輸送するための一対の対向可能なアームを有する取扱モジュール
のうちの1又は複数と通信可能に結合している、
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記装置と、前記ピペットモジュール、前記液体ディスペンサモジュール及び前記取扱モジュールのうちの1又は複数との動作を調和させる、
システム。
【請求項12】
前記細胞培養容器を支持するためのステージモジュールをさらに備える、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ステージモジュールが、第1の軸若しくは第2の軸、又はその両方に沿って第1の平面内で移動可能である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記ステージモジュール又はそのサブコンポーネントが、第3の軸に沿った自身の端部を中心に旋回する、請求項12又は請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記1又は複数のピペットがキャリッジに取り付けられている、請求項11から請求項14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記液体ディスペンサモジュールが複数の導管を含み、各導管が前記複数の溶液リザーバのうちのそれぞれ別々の1つと流体連通している、請求項11から請求項15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記液体ディスペンサモジュールが、第1の溶液のリザーバと流体連通する第1の導管と、第2の溶液のリザーバと流体連通する第2の導管とを含み、前記第1の溶液と前記第2の溶液とが娘細胞培養容器に同時に分注される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
各導管が再利用可能及び/又は交換可能である、請求項16又は請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
少なくとも前記撮像モジュール、ピペットモジュール、液体ディスペンサモジュール、ステージモジュール、及び取扱モジュールを収容するためのエンクロージャをさらに備える、請求項11から請求項18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記エンクロージャが無菌である、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記複数の溶液リザーバのうちの1又は複数を保管するための冷蔵モジュール、及び水リザーバ(water reservoir)をさらに備え、前記複数の溶液リザーバ、前記冷蔵モジュール及び前記廃棄物リザーバは、前記エンクロージャの外部にある、請求項19又は請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記廃棄物リザーバは、前記エンクロージャ内の廃棄物トラフと流体連通している、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記廃棄物トラフが疎水性コーティングでコーティングされている、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
1又は複数のセンサをさらに備え、前記1又は複数のセンサは、
a)前記撮像モジュール上、前記ステージモジュール上、又は前記複数の溶液リザーバ内の積載物の質量を検出及び報告し、
b)前記積載物の前記質量が予想と異なる場合にアラートをトリガする
ように構成される、請求項21から請求項23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記細胞培養容器をインキュベータモジュールから前記取扱モジュールの近くに輸送するための、前記エンクロージャと前記インキュベータモジュールを接続する、閉じたコンベヤモジュールをさらに備える、請求項18から請求項24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記インキュベータモジュールが、細胞の前記培養物のための許容環境条件を維持する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記システムが自動化されている、請求項1から請求項26のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項28】
細胞の1又は複数の培養物を適応的に継代するための方法であって、前記方法が、
撮像モジュールによって、第1の時点及び1又は複数の後続の時点で細胞の前記1又は複数の培養物の1又は複数の画像を取り込むことと、
少なくとも1つのプロセッサによって、前記1又は複数の画像に基づいて、細胞の前記1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算することと、
細胞の前記1又は複数の培養物の前記計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを出力することであって、前記適応継代プロトコルが、後続の継代において予定時間通りに前記1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の前記1又は複数の培養物の各々について分割比及び/又は継代時間を提供する、出力することと
を含む、方法。
【請求項29】
前記1又は複数の特性が、対照培養物又は標準の対応する1又は複数の特性と比較される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記1又は複数の特性が、
a)細胞の前記培養物のコンフルエンスの指標、
b)細胞の前記培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
c)細胞の前記培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
d)細胞の前記培養物のコロニーサイズ分布の指標、
e)a)、b)、c)、又はd)の前記第1の時点から前記1又は複数の後続の時点への変化の指標、又は
f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標
を含む、請求項28又は請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記閾値レベルが、
i.a)の場合、細胞又はコロニーのコンフルエンスに関して約30~90%、
ii.b)の場合、対照培養物の約-30%と+30%との間、
iii.c)の場合、維持プロトコルでは対照培養物の約0~30%、若しくは分化プロトコルでは対照培養物の約50%~100%、又は
iv.d)の場合、対照培養物又はそのサブフラクションの平均コロニーサイズ分布からの差異が約15%以内
である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の時点又は前記1又は複数の後続の時点において、細胞の前記培養物に関して計算された前記1又は複数の特性と、第2の細胞培養容器内の細胞の第2の培養物に関して計算された前記1又は複数の特性と、が異なり、前記1又は複数の特性が、後続の継代中においてより高い一貫性を有する、請求項28から請求項31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
細胞の前記培養物から細胞の懸濁液を得ることと、娘細胞培養容器に細胞の前記懸濁液の一部又は全部を播種することとをさらに含む、請求項28から請求項32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記娘細胞培養容器に播種する前に、細胞の前記懸濁液を第1のピペットチップに通して、細胞の前記培養物を単一細胞懸濁液又は前記第1のピペットチップの口径を超えない平均直径を有する複数のクランプに解離させる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
細胞の前記懸濁液を得ることは、前記細胞培養容器から細胞培養培地を吸引することと、前記細胞培養容器内の細胞の前記培養物を剥離溶液と接触させることとを含む、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記剥離溶液が分画溶液であり、前記分画溶液が、前記細胞培養容器の壁から分化細胞の第1の集団又は未分化細胞の第2の集団のいずれかを選択的に剥離する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
細胞の前記懸濁液を播種する前に、第1の溶液と第2の溶液とを前記娘細胞培養容器に同時に分注することをさらに含む、請求項33から請求項36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記第1の溶液が前記細胞培養培地であり、前記第2の溶液が可溶化細胞外マトリックスである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
細胞の前記培養物が多能性幹細胞である、請求項28から請求項38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記多能性幹細胞がクランプとして継代される、請求項39又は請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記方法が、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の装置又は請求項11から請求項27のいずれか一項に記載のシステムを用いて実行される、請求項28から請求項41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第62/686,962号明細書に対する権利を主張する、2019年6月19日に出願されたPCT出願、PCT/CA2019/050859の一部継続出願であり、両出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる
【0002】
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる2019年6月19日に出願されたPCT出願、PCT/CA2019/050859に対する優先権を主張する。
【0003】
本開示は、細胞の培養、特に細胞培養の継代に関する。
【背景技術】
【0004】
とりわけ、細胞の培養物の維持は、培地の頻繁な交換、細胞密度の監視、維持又は拡大などの下流の用途を目的とした継代又は継代培養、及び下流の用途のための培養細胞の回収を含み得る。
【0005】
研究者又は技術者の側であろうとチームのメンバー間であろうと、細胞培養慣行の不一致は、限定されるものではないが、生存率、成長速度、表現型、代謝などの最適ではない細胞特性につながることがある。そのような最適ではない細胞特性は、細胞が下流の用途で使用される場合、生物学的複製物間の高い変動として現れ得る。
【0006】
実験室での細胞の培養物の規模が必ずしも大きくない場合、培養細胞の下流の用途もまた特定の細胞培養慣行を指示することがある。例えば、培養細胞を臨床用途で使用する場合、培養との人間の接触を最小限に抑える一定レベルの規制順守が必要になることがある。あるいは、規制又はガイドラインは、空間と時間の両方で細胞培養の一貫した培養/継代培養を要求することがある。実際、下流の用途で使用されるときに細胞の一貫性を改善するように細胞の培養物の継代を最適化することは、潜在的に他の利点も提供しながら、前述の懸念のいくつかに対処することができる。
【0007】
幹細胞を含むがこれに限定されない、対処されないままである細胞の培養へのアプローチの一態様は、ある継代から別の継代への客観的に一貫した培養/継代培養に関する。細胞の培養/継代培養の異なる又は関連する課題は、細胞培養容器の異なるウエル又は異なる細胞培養容器のいずれかにおける細胞の異なる成長ダイナミクスから生じることがある。これら及びその他の課題は、一次細胞や幹細胞などの敏感な細胞タイプを培養するときに悪化する。感受性幹細胞の具体例には、間葉系幹細胞(MSC)、上皮幹細胞又は上皮幹前駆細胞、神経幹細胞又は神経幹前駆細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)などがある。ESC及びiPSCは、他の多能性細胞タイプの中でも、広く多能性幹細胞(PSC)と呼ばれることがある。
【0008】
PSCは、密に付着したコロニー又は数十、数百又は数千の細胞の凝集体として成長する傾向がある。特定の主観的に目に見える、形態学的又は表現型の手がかりに基づいて、研究者又は技術者は、PSC培養の細胞を典型的に継代培養するであろう。実際、マウスPSCは、単一のPSCに完全に解離した後、又はクランプとしてその後の培養で新しいコロニーを形成することにほとんど又はまったく影響を与えずに継代培養され得る。対照的に、ヒトPSCは、例えば核型の不安定性のために単一のPSCに完全に解離した場合、その後の培養ではパフォーマンスが低下する傾向がある。むしろ、ヒトPSCは、継代培養の前に少数(約5個以上)のPSCのクランプに解離すると、パフォーマンスが向上する傾向がある。
【0009】
継代時などの培養条件が細胞の培養物の特性に影響を及ぼし、したがって下流の用途でのそれらの機能に影響を与えることはよく知られている。前述のことは、下流の用途での結果の再現性に自信を持つために、一貫した細胞培養の実施の重要性を強調している。したがって、研究者や技術者にとって最も都合の良い時点ではなく、適時に細胞の培養物を客観的な基準に基づいて、一貫して継代することが重要である。そのいくつかは前述に記載されているが、PSCなどの幹細胞を含むがこれらに限定されない細胞の培養/継代培養の複雑さを考慮して、後の継代で子孫の客観的に一貫した培養を得る目的で、細胞を適応的に培養及び継代することができる装置、システム及び方法が必要である。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、細胞の1又は複数の培養物を適応的に継代するための装置、システム及び方法を記載している。具体的な実施形態において、細胞の1又は複数の培養物は、多能性幹細胞であってもよく、所望によりヒト多能性幹細胞であり得る。より具体的な実施形態において、ヒト多能性幹細胞などの細胞の培養物は、細胞の付着培養物として培養され得る。本開示はまた、多能性幹細胞などの細胞の培養物を継代又は拡大させるためのシステム及び方法を記載する。いくつかの実施形態では、システム及び方法は自動化されている。
【0011】
1つの広い態様において、細胞の1又は複数の培養物を適応的に継代するための装置であって、装置が、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を取り込むための撮像モジュールと、
撮像モジュールに通信可能に結合された少なくとも1つのプロセッサであって、プロセッサが、
撮像モジュールから、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を受信し、
撮像モジュールから受信した1又は複数の画像に基づいて、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算し、
細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを出力し、適応継代プロトコルが、後続の継代において予定時間通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供するように構成される、プロセッサと、を備える、装置が本明細書に記載されている。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間である。
【0012】
一実施形態では、撮像モジュールは、培養皿のウエル、ウエル内の細胞のコロニー、又はウエル内の単一の細胞を解像することができるカメラを含む。
【0013】
一実施形態では、1又は複数の特性は、対照培養物又は標準の対応する1又は複数の特性と比較される。
【0014】
一実施形態では、1又は複数の特性は、(a)細胞の培養物のコンフルエンスの指標、
(b)細胞の培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
(c)細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
(d)細胞の培養物のコロニーサイズ分布の指標、
(e)a)、b)、c)、又はd)の第1の時点から1又は複数の後続の時点への変化の指標、又は
(f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標を含む。
【0015】
一実施形態では、閾値レベルは、上記(a)の場合、細胞又はコロニーのコンフルエンスに関して約30~90%、上記(b)の場合、対照培養物の約-30%と+30%との間、上記(c)の場合、維持プロトコルでは対照培養物の約0~30%、若しくは分化プロトコルでは対照培養物の約50%~100%、又は上記(d)の場合、対照培養物又はそのサブフラクションの平均コロニーサイズ分布からの差異が約15%以内である。
【0016】
一実施形態では、細胞の1又は複数の培養物に関して計算された1又は複数の特性が、第1の時点又は1又は複数の後続の時点で、第1の細胞培養物と第2の細胞培養物との間で異なり、1又は複数の特性が、後続の継代中においてより高い一貫性を有する。
【0017】
一実施形態では、閾値レベルは、学習された閾値レベル又はユーザが入力した閾値レベルである。一実施形態では、閾値レベルは、機械学習された閾値レベルである。
【0018】
一実施形態では、適応継代プロトコルはGUI上に出力される。一実施形態では、GUIは、撮像モジュールに取り付けられるか、又は撮像モジュールから遠隔にある。一実施形態では、適応継代プロトコルはモバイルアプリケーション上に出力される。
【0019】
別の広い態様では、細胞の1又は複数の培養物の適応継代のためのシステムが本明細書に記載され、システムは、上記のような装置を備えており、少なくとも1つのプロセッサがまた、
1又は複数のピペットの端部と嵌合可能なピペットチップを介して細胞培養容器から流体を引き出すための1又は複数のピペットを有するピペットモジュール、
ピペットモジュールから離間された液体ディスペンサモジュールであって、液体ディスペンサモジュールが複数の溶液リザーバと流体連通している、液体ディスペンサモジュール、及び
自動システム内で細胞培養容器若しくはその蓋又は娘細胞培養容器若しくはその蓋を把持及び輸送するための一対の対向可能なアームを有する取扱モジュール
のうちの1又は複数と通信可能に結合している、
少なくとも1つのプロセッサが、装置と、ピペットモジュール、液体ディスペンサモジュール及び取扱モジュールのうちの1又は複数との動作を調和させるシステムである。一実施形態では、システムは自動化されている。
【0020】
一実施形態では、システムは、細胞培養容器を支持するためのステージモジュールを更に備えてもよい。一実施形態では、ステージモジュールは、第1の軸若しくは第2の軸、又はその両方に沿って第1の平面内で移動可能である。一実施形態では、ステージモジュール又はそのサブコンポーネントは、第3の軸に沿った自身の端部を中心に旋回する。
【0021】
一実施形態では、1又は複数のピペットがキャリッジに取り付けられている。
【0022】
一実施形態では、液体ディスペンサモジュールが複数の導管を含み、各導管が複数の溶液リザーバのうちのそれぞれ別々の1つと流体連通している。一実施形態では、液体ディスペンサモジュールが、第1の溶液のリザーバと流体連通する第1の導管と、第2の溶液のリザーバと流体連通する第2の導管とを含み、第1の溶液と第2の溶液とが娘細胞培養容器に同時に分注される。一実施形態では、各導管が再利用可能又は交換可能である。
【0023】
一実施形態では、システムは、少なくとも撮像モジュール、ピペットモジュール、液体ディスペンサモジュール、ステージモジュール、及び取扱モジュールを収容するためのエンクロージャを更に備えてもよい。一実施形態では、エンクロージャは無菌である。
【0024】
一実施形態では、システムは、複数の溶液リザーバのうちの1又は複数を保管するための冷蔵モジュール、及び水リザーバ(water reservoir)をさらに備えてもよく、複数の溶液リザーバ、冷蔵モジュール及び廃棄物リザーバは、エンクロージャの外部にある。
【0025】
一実施形態では、廃棄物リザーバは、エンクロージャ内の廃棄物トラフと流体連通している。一実施形態では、廃棄物トラフが疎水性コーティングでコーティングされている。
【0026】
一実施形態では、システムは1又は複数のセンサを更に備えてもよく、1又は複数のセンサは、撮像モジュール上、ステージモジュール上、又は複数の溶液リザーバ内の積載物の質量を検出及び報告し、積載物の質量が予想と異なる場合にアラートをトリガする、ように構成される。
【0027】
一実施形態では、システムは、細胞培養容器をインキュベータモジュールから取扱モジュールの近くに輸送するための、エンクロージャとインキュベータモジュールを接続する、閉じたコンベヤモジュールをさらに備えてもよい。一実施形態では、インキュベータモジュールは、細胞の培養物のための許容環境条件を維持する。
【0028】
別の広い態様では、細胞の1又は複数の培養物を適応的に継代するための方法が本明細書に記載され、方法は、撮像モジュールによって、第1の時点及び1又は複数の後続の時点で細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を取り込むことと、少なくとも1つのプロセッサによって、1又は複数の画像に基づいて、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算することと、細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを出力することであって、適応継代プロトコルが、後続の継代において予定時間通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供する、出力することと、を含む。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間である。
【0029】
一実施形態では、方法は、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の装置又は請求項12から請求項27のいずれか一項に記載のシステムを用いて実行される。
【0030】
一実施形態では、方法は、少なくとも1つのプロセッサによって、第1の時点及び場合により1又は複数の後続の時点での、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を受信することを更に含んでいてもよい。
【0031】
一実施形態では、1又は複数の特性は、対照培養物又は標準の対応する1又は複数の特性と比較される。
【0032】
一実施形態では、1又は複数の特性は、
(a)細胞の培養物のコンフルエンスの指標、
(b)細胞の培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
(c)細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
(d)細胞の培養物のコロニーサイズ分布の指標、
(e)a)、b)、c)、又はd)の第1の時点から1又は複数の後続の時点への変化の指標、又は
(f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標と、を含む。
【0033】
一実施形態では、閾値レベルは、上記(a)の場合、細胞又はコロニーのコンフルエンスに関して約30~90%、上記(b)の場合、対照培養物の約-30%と+30%との間、上記(c)の場合、維持プロトコルでは対照培養物の約0~30%、若しくは分化プロトコルでは対照培養物の約50%~100%、又は上記(d)の場合、対照培養物又はそのサブフラクションの平均コロニーサイズ分布からの差異が約15%以内である。
【0034】
一実施形態では、第1の時点又は1又は複数の後続の時点において、細胞の1又は複数の培養物に関して計算された1又は複数の特性は、細胞の第1の培養物と細胞の第2の培養物との間で異なり、1又は複数の特性が、後続の継代中においてより高い一貫性を有する。
【0035】
一実施形態では、方法は、細胞の培養物から細胞の懸濁液を得ることと、娘細胞培養容器に細胞の懸濁液の一部又は全部を播種することとをさらに含んでいてもよい。一実施形態では、娘細胞培養容器に播種する前に、細胞の懸濁液を第1のピペットチップに通して、細胞の培養物を単一細胞懸濁液又は第1のピペットチップの口径を超えない平均直径を有する複数のクランプに解離させる。
【0036】
一実施形態では、細胞の懸濁液を得ることは、細胞培養容器から細胞培養培地を吸引することと、細胞培養容器内の細胞の培養物を剥離溶液と接触させることとを含む。一実施形態では、剥離溶液が分画溶液であり、分画溶液が、細胞培養容器の壁から分化細胞の第1の集団又は未分化細胞の第2の集団のいずれかを選択的に剥離する。
【0037】
一実施形態では、方法は、細胞の懸濁液を播種する前に、第1の溶液と第2の溶液とを娘細胞培養容器に同時に分注することをさらに含んでいてもよい。一実施形態では、第1の溶液が細胞培養培地であり、第2の溶液が可溶化細胞外マトリックスである。
【0038】
一実施形態では、細胞の1又は複数の培養物は、多能性幹細胞である。一実施形態では、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。一実施形態では、多能性幹細胞はクランプとして継代される。
【0039】
本開示の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本開示の精神及び範囲内の様々な変更及び修正が、詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明及び特定の例は、本開示の好ましい実施形態を示しながら、例示としてのみ与えられることを理解されたい。
【0040】
本明細書に記載の様々な実施形態をよりよく理解し、これらの様々な実施形態をどのように実施できるかをより明確に示すために、例として、少なくとも1つの例示的な実施形態を示し、ここで説明する添付の図面を参照する。図面は、本明細書に記載の教示の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、少なくとも1つのプロセッサに通信可能に接続された撮像モジュールの一実施形態のボックスチャートを示す。
【0042】
【
図2】
図2は、本明細書に記載の装置(及びシステム実施形態)で使用される撮像モジュールの一実施形態の側面図を示す。
【0043】
【
図3A】
図3Aは、細胞の生きた培養物の、様々な時点で撮像モジュールを使用して取り込まれた代表的な画像を示す。
【
図3B】
図3Bは、
図3Aに示されている生細胞画像の対応する変換された表現の、様々な時点で撮像モジュールを使用して取り込まれた代表的な画像を示す。2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目の画像を注釈付きで示す。
【0044】
【
図4A】
図4Aから
図4Cは、細胞の培養物のコンフルエンス(confluency)が、撮像モジュールによって取り込まれた1又は複数の画像に基づいて判定され得ることを示す。
図4Aは、オンボード撮像モジュールを使用して撮像された細胞の培養物の生細胞のコンフルエンス及び対応する変換表現と、Hoechstを使用して染色され、蛍光顕微鏡(Hoechst 33258、352 nm励起、461 nm放射)を使用して撮像された細胞の培養物のコンフルエンスの視覚的比較である。
【
図4B】
図4Bは、撮像モジュールを使用した194個の細胞の培養物の生細胞画像、又は同じ194個の培養物のHoechst染色のいずれかによって判定されたコンフルエンス%の回帰分析。各ドットは1つの細胞培養容器(つまり、6ウエルプレートの1つのウエル)を表す。
【
図4C】
図4Cは、連続継代にわたって様々な示された条件下で培養された様々な示された細胞型の1つのウエルのコンフルエンス%の判定を要約するチャート。示されている様々な条件には、Gentle Cell Dissociation Reagent(GCDR(商標))(STEMCELL Technologies)又はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)ベースのクランプ生成、TeSR-E8(商標)(STEMCELL TechnologieSs)又はmTeSR1(商標)(STEMCELL Technologies)維持培地、iPS又はES細胞株、及び様々な細胞株が含まれる。
【0045】
【
図5A】
図5Aから
図5Dは、複数の時点でのコンフルエンス%の判定を活用し得る様々な方法を示す。
図5Aは、細胞の6つの培養物(すなわち、6ウエルプレートの各ウエル)のコンフルエンス%が指数関数的成長モデルに適合しているグラフを示す。
【
図5B】
図5Bは、コンフルエンス%及び指数関数あてはめを使用してF016細胞の162個の培養の倍加時間を計算し得るヒストグラムを示す(平均=33.1時間、標準偏差±7.2時間)。
【
図5C】
図5Cは、コンフルエンス%及び指数関数あてはめを使用してH9細胞の186個の培養の倍加時間を計算し得るヒストグラムを示す(平均=37.9時間、標準偏差±14.9時間)。
【
図5D】
図5Dは、予測された7日目のコンフルエンスと実際の7日間のコンフルエンスの回帰分析を示す(R
2=0.95)。予測された7日目のコンフルエンスは、
図5Aのように、2日目~6日目のコンフルエンス%データを指数関数的成長モデルに適合させることによって判定された。
【0046】
【
図6A】
図6Aから
図6Fは、スプレー継代細胞及び単一細胞継代細胞の1又は複数の画像からコンフルエンス%を計算し得ることを示す。
図6Aは、スプレー継代したH9細胞の6ウエル培養プレートの各ウエルの代表的な画像を示す。
【
図6D】
図6Dは、単一細胞継代M001細胞の6ウエル培養プレートの各ウエルの代表的な画像を示す。
【0047】
【
図7】
図7は、撮像モジュールによって取り込まれた1又は複数の画像に基づいて計算された、24ウエル(つまり、4つの6ウエルプレートの各ウエル)の細胞の培養物の平均コロニー面積と、Hoechst染色プロトコルによって同じ細胞の培養物について判定された平均コロニー面積の回帰分析を示す(R
2=0.86、p=0.94)。
【0048】
【
図8】
図8は、撮像モジュールによって取り込まれた1又は複数の画像と、同じ細胞の培養物内の実際の細胞数に基づいて計算された、24個の細胞の培養物内の総強度(任意の単位)の回帰分析を示す(R
2=0.94、p<0.0001)。総強度は、画像のマスク領域内の各ピクセルの強度の合計として定義される。実際の細胞数を生成するために、すべての細胞を培養容器から回収し、単一細胞懸濁液を生成するために使用し、次にそれはサンプル抽出されカウントされた。
【0049】
【
図9A】
図9Aから
図9Cは、撮像モジュールによって取り込まれた一連の画像に対して適用された機械学習アルゴリズムの結果を示している。
図9Aは、トリミング後に撮像モジュールによって取り込まれた細胞の培養物の代表的な画像を示す。
【
図9B】
図9Bは、
図9Aに示す代表的な画像の背景(最も暗い)、分化(最も明るい)、及び未分化(中間)の領域の自動的に分類された領域の重ね合わせたものを示す。
【
図9C】
図9Cは、3つの異なる分類モデルの結果を示す。モデル1は、すべてのピクセルを最も一般的なクラス、つまり未分化として分類し、調整として含まれている。
【0050】
【
図10】
図10は、ReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)を使用した継代プロトコル後、3つの異なる細胞株の培養物に残っている分化面積の割合を示す。各細胞株について、神経様コロニー、線維芽細胞様コロニー、完全に分化したコロニー(全体)、及び複雑な分化したコロニーについて、6つの異なるウエルを評価した。
【0051】
【
図11】
図11は、複数のより早い時点での細胞の培養物のコンフルエンス%の計算を使用して、高い時間的解像度で細胞の培養物が所望のコンフルエンス%に達する時間を予測し得るグラフを示す。各ラインは、異なる細胞培養容器(つまり、6ウエルプレートのウエル)に対応する。
【0052】
【
図12】
図12は、H7細胞株の培養物のコンフルエンスのグラフを示す。コンフルエンスを2回の継代にわたって5つの6ウエルプレートにおいて追跡した。第1の継代(PO)では、細胞をプレート内に同等に播種したが、異なるプレートに様々な密度で播種した。第2の継代(P1)において、P0の各ウエル内の細胞を以下のように様々な分割比を使用して継代し、P0からのウエル1を1:25で播種し、ウエル2を1:50で播種し、ウエル3を1:75で播種し、ウエル4を1:100で播種し、ウエル5を1:150で播種し、ウエル6を1:200で播種した。P1プレートは、7日目に様々なコンフルエンスを有していた。得られたデータセットは、様々な親コンフルエンス(P0終わりで20%~80%)、様々な分割比、次いで得られた娘ウエルのコンフルエンスを有するプレートを含む。
【0053】
【
図13】
図13は、R038細胞株の培養物のコンフルエンスのグラフを示す。コンフルエンスを2回の継代にわたって5つの6ウエルプレートにおいて追跡した。第1の継代(PO)では、細胞をプレート内に同等に播種したが、異なるプレートに様々な密度で播種した。第2の継代(P1)において、P0の各ウエル内の細胞を以下のように様々な分割比を使用して継代し、P0からのウエル1を1:25で播種し、ウエル2を1:50で播種し、ウエル3を1:75で播種し、ウエル4を1:100で播種し、ウエル5を1:150で播種し、ウエル6を1:200で播種した。P1プレートは、7日目に様々なコンフルエンスを有していた。得られたデータセットは、様々な親コンフルエンス(P0終わりで20%~80%)、様々な分割比、次いで得られた娘ウエルのコンフルエンスを有するプレートを含む。
【0054】
【
図14A】
図14A及び
図14Bは、希釈度、親コンフルエンス、及び娘コンフルエンスに関する2度多項式モデルの表面を示す。
図12及び
図13のデータを使用して、7日目の親コンフルエンス(P0)、使用した希釈度(1/分割比)、及び得られた7日目の娘コンフルエンス(P1)の2度多項式フィットを行った。
図14Aは、表面及び実際のデータ点を示す。
【0055】
【
図15】
図15は、
図14で生成されたモデルによる実際の希釈度対予測希釈度をプロットしたグラフを示す。希釈度は、
図12及び
図13に示すデータから得られる。7日目の親コンフルエンス(P0)及び結果として生じる7日目の娘コンフルエンス(P1)を与えられた希釈度を予測するモデルが本文及び
図14に記載されている。グラフは、実際の希釈度と予測希釈度との間の良好な一致を示す(R
2調整=0.85、二乗平均平方根誤差=0.00469)。
【0056】
【
図16】
図16は、第1の継代(P0)後、コンフルエンスの範囲を得るために様々な分割比で継代した後(P1-ストレス)、及び7日目に全てのウエルにおいて約50%のコンフルエンスを得るための適応継代アルゴリズム後(P2-救済)の、1C細胞についての7日目のコンフルエンスのグラフを示す。4つの6ウエルプレートに1C細胞株を播種し、プレート中の全てのウエルを同等の密度で播種し、異なるプレートを様々な密度(P0)で播種した。各プレート内でより可変的なコンフルエンスを得るためのストレス試験として、P0終わりにおいて、プレートを、以下のように各ウエルにおいて様々な分割比で継代し、P0からのウエル1を1:25で播種し、ウエル2を1:50で播種し、ウエル3を1:75で播種し、ウエル4を1:100で播種し、ウエル5を1:150で播種し、ウエル6を1:200で播種した。7日目に、P1プレートは、22%から47%まで変化する平均コンフルエンスを示す。(i)
図14及び
図15に記載のモデル、(ii)親コンフルエンス値(すなわち、P1終わり)、及び(iii)目標コンフルエンス(50%)を使用して、各ウエルの適切な分割比を、その後の継代において予定通りに目標コンフルエンスに達するように出力した。P2終わりまでに、コンフルエンスは予測通り、約50%(平均プレートコンフルエンス51%~60%)であった。
【0057】
【
図17】
図17は、
図16に説明したように、第1の継代(P0)後、様々な分割比で継代した後(P1-ストレス)、及び7日目に全てのウエルにおいて約50%のコンフルエンスを得るための適応継代アルゴリズム後(P2-救済)の、3回の連続継代にわたる1C細胞の7日目のコンフルエンスの変動係数のドットプロットを示す。ペアサンプルのウィルコクソン符号順位検定に基づくと、P1とP2とは対照的に、P0とP2の間の変動係数(「COV」)に有意な差は観察されなかった。P0で、所与のプレートの全てのウエルに同じ量を播種した。P1で、1:25~1:200の範囲の希釈度を用いてウエルを継代し、COVを増加させた。P2では、適応継代の回帰モデルを使用して、各ウエルの分割比を出力し、ウエルが同様のコンフルエンス及びより低いCOVに戻るようにした。計算されたコンフルエンス%に基づく適応継代は、後続の時点で予定時間通りに、細胞の培養物における、より高い一貫したコンフルエンス%をもたらすことができる。
【0058】
【
図18】
図18は、第1の継代(P0)後、様々な分割比(P1)での継代後、及び分割比を調整した複数回の適応継代(P2~P5)後の7日目のコンフルエンスのグラフを示す。示されている全てのコンフルエンス値は培養7日目である。7つの6ウエルプレートに、示されるように1C細胞株、H9細胞株又はH7細胞株を播種し、その全てのプレート及びウエルを同等の密度(P0、「標準」)で播種した。各プレート内でより可変的なコンフルエンスを得るためのストレス試験として、「P0終わり」において、各細胞株の2つのプレートを、以下のように各ウエルにおいて様々な分割比で継代し、P0からのウエル1を1:25で播種し、ウエル2を1:50で播種し、ウエル3を1:75で播種し、ウエル4を1:100で播種し、ウエル5を1:150で播種し、ウエル6を1:200で播種した。非ストレス対照として、1C及びH9細胞を、ストレス1:25~1:200の分割比の代わりにP0終わりで適応的に継代した。(i)
図14及び
図15に記載のモデル、(ii)親コンフルエンス値(すなわち、P1終わり)、及び(iii)目標コンフルエンス(50%)を使用して、各ウエルの適切な分割比を、その後の継代において予定通りに目標コンフルエンスに達するように出力した。前述のプロセスを、図示のように後続の継代(「適応」)の各々にわたって繰り返した。モデルがより高い分割比を使用することを示唆した場合、1:200の最大分割比が使用されたことに留意されたい。水平の実線は、所与の継代期間(標準、ストレス、又は適応)にわたる平均コンフルエンスを示す。破線は、適応継代のための目標コンフルエンスである50%コンフルエンスを示す。斜線領域は標準偏差を示す。
【0059】
【
図19】
図19は、
図18に記載の適応継代からのP4終わり、7日目培養物(「適応」)の顕微鏡写真を、非適応継代制御(「手動」)と共に示す。H7、H9、及び1Cの手動及び適応継代培養は、視覚的に評価された細胞品質に関して同等であった(コロニー形状、多層化、ゆるめかさ密度、分化)。スケールバーは、10倍画像については200μmであり、2倍画像については1000μmである。
【0060】
【
図20】
図20は、細胞の培養物を継代するためのシステムの一実施形態の上面図を示す。この実施形態の所望により存在する要素は、破線で囲まれている。
【0061】
【
図21A】
図21Aは、本明細書に記載のシステムで使用される廃棄物トラフの一実施形態の斜視図を示す。
【
図21B】
図21Bは、本明細書に記載のシステムで使用される廃棄物トラフの一実施形態の断面斜視図を示す。
【0062】
【
図22A】
図22Aは、本明細書に記載のシステムで使用される廃棄物トラフの一実施形態の斜視図を示す。
【
図22B】
図22Bは、本明細書に記載のシステムで使用される廃棄物トラフの一実施形態の断面斜視図を示す。
【0063】
【
図23】
図23は、細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための方法の一実施形態のフローチャートを示し、この方法は、自動化システムなどの本明細書に開示されるシステムを使用して実施され得る。破線の枠で囲まれた領域は、適応継代方法の異なる実施形態を示し、この方法は、本明細書に開示された装置を使用して実行されてもよく、又は本明細書に開示されたシステムに組み込まれてもよい。
【0064】
【
図24】
図24は、細胞の培養物中に存在する1又は複数のコロニーを解離するための装置の斜視図を示す。
【0065】
【
図25A】
図25Aは、細胞の培養物中に存在する1又は複数のコロニーを解離するための装置の正面図を示す。
【
図25B】
図25Bは、細胞の培養物中に存在する1又は複数のコロニーを解離するための装置の側面図を示す。
【
図25C】
図25Cは、細胞の培養物中に存在する1又は複数のコロニーを解離するための装置の上面図を示す。説明のために、プラットフォームは示されていないが、一般的にそれに接続されている衝撃ブラケットが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0066】
請求された主題の少なくとも1つの実施形態の例を提供するために、様々な装置、システム、装置、及び方法が以下に説明される。以下に記載される実施形態は、請求される主題を制限するものではなく、また特許請求される主題は、以下に記載されるものとは異なる装置、システム、装置、及び方法をカバーし得る。特許請求される主題は、以下に記載される任意の1つのシステム、装置若しくは方法のすべての特徴を有するシステム、装置及び方法、又は以下に記載される複数又はすべてのシステム、装置及び方法に共通の特徴に限定されない。特許請求され得る主題は、その特許請求の範囲及び図を含む、本書の任意の部分に開示されている要素又は工程の任意の組み合わせ又は副組み合わせに存在することがある。したがって、当業者は、本明細書の教示に従って開示されるシステム、装置、又は方法が、本明細書に含まれる特徴のいずれか1又は複数を具体化することがあり、特徴は、意図された目的のために物理的に実行可能であり実現可能である、任意の特定の組み合わせ又は副組み合わせで使用され得ることを理解されよう。
【0067】
さらに、以下に記載されるシステム、装置又は方法は、特許請求された主題の実施形態ではない可能性がある。本書で特許請求されていない、本明細書に記載のシステム、装置又は方法に開示されている主題は、別の保護手段、例えば、継続特許出願の主題であることがあり、出願人、発明者及び/又は所有者は、本書での開示により、そのような発明を放棄、否認、又は公に捧げることを意図していない。
【0068】
例示を単純化及び明確にするために、適切であると考えられる場合、参照番号を図間で繰り返して、対応する又は類似の要素を示すことができることも理解されよう。さらに、本明細書に記載の例示的な実施形態の完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細が示されている。しかしながら、本明細書に記載の例示的な実施形態は、これらの特定の詳細なしで実施され得ることを当業者は理解されよう。他の例において、本明細書に記載の例示的な実施形態を不明瞭にしないように、周知の方法、手順、及び構成要素は詳細に説明されていない。また、説明は、本明細書に記載の例示的な実施形態の範囲を限定すると見なされるべきではない。
【0069】
本明細書で使用される「実質的に」、「約」及び「ほぼ」などの程度の用語は、結果が大幅に変更されないように、修正された用語の妥当な量の偏差を意味することに留意されたい。これらの程度の用語は、例えば、この偏差が、修正する用語の意味を否定しない場合、1%、2%、5%、又は10%などの修正された用語の偏差を含むと解釈されるべきである。
【0070】
さらに、ここでのエンドポイントによる数値範囲の列挙には、その範囲内に含まれるすべての数値及び分数が含まれる(例えば、1から5には、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、及び5が含まれる)。また、そのすべての数値及び分数は、例えば、最終結果が大幅に変更されない場合は、1%、2%、5%又は10%などの、参照されている数の特定の量までの変動を意味する用語「約」によって修正されると推定されることも理解されたい。
【0071】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という表現は、包括的又は、を表すことを意図していることにも留意されたい。つまり、「X及び/又はY」は、例えばX若しくはY、又はその両方を意味することを意図している。さらなる例として、「X、Y、及び/又はZ」は、X若しくはY若しくはZ又はそれらの任意の組み合わせを意味することを意図している。
【0072】
本開示は、細胞の1又は複数の培養物の適応継代のためのシステム、装置及び方法を記載する。本開示はまた、装置及び/又は方法を、細胞の培養物を継代又は増殖させるためのシステム及び方法に統合することを記載している。具体的な実施形態では、システム及び方法は自動化されている。
【0073】
本明細書で使用される場合、「細胞の培養物」又は「細胞」は、エキソビボ又はインビトロにかかわらず、種にかかわらず、培養、継代、増殖又は分化することができる任意の種類の細胞を指す。一実施形態では、細胞は、起源が哺乳動物であり、より具体的には、細胞は、起源がヒト又はマウスである。一実施形態では、細胞は、造血幹細胞又はその前駆細胞などの足場非依存性細胞である。一実施形態では、細胞は、単層で培養されるか、又は細胞の接着培養物として培養されるものなどの足場依存性細胞である。一実施形態では、細胞は、正常状態の組織に由来し得る。一実施形態では、細胞は、疾患組織又は1若しくは複数の遺伝子変異を有する組織に由来し得る。1つの具体的な実施形態では、細胞は腫瘍細胞である。一実施形態では、足場依存性細胞は間葉系幹細胞である。一実施形態では、足場依存性細胞は、多能性幹細胞(「PSC」)であり、より具体的には細胞はヒトPSC(「hPSC」)であり得る。いくつかの実施形態では、PSCは、単層又は懸濁液中で培養されることがあり、分裂すると、それぞれコロニー又は凝集体を形成する。いくつかの実施形態では、PSCは未分化であり、自己再生が可能であるか、又は任意の系統に分化することができる。PSCは、胚性幹細胞、ナイーブ型幹細胞、拡張多能性幹細胞、又は人工多能性幹細胞であり得る。多くのPSC株が公知であり、及び/又は市販されているが、新しい株を作成することは日常的である。特に、ヒトPSCコロニーは、好ましくはクランプ又はクラスタに解離され得る。
【0074】
本明細書で使用される場合、「継代」は、細胞の培養物が継代又は継代培養され得る時点までの細胞培養活動と、細胞の培養物の継代又は継代培養に関連する活動とを指し、新鮮な培地を用いて細胞の培養物の一部又は全部を、1又は複数の娘細胞培養容器へ播種することを含む。したがって、継代という用語は、細胞の培養物の継代培養などの細胞の日常の培養に関連する活動と、細胞の培養物の拡大、回収(凍結保存用など)、若しくは分化、又は新しく派生された細胞株のオンボードを目的としたワークフローも指す。一実施形態では、第1の細胞培養容器からの細胞の懸濁液の量は、1つの娘細胞培養容器のみに播種され得る(すなわち、1:1継代)。一実施形態では、第1の細胞培養容器からの細胞の懸濁液の量は、複数の娘細胞培養容器に播種され得る(すなわち、拡大の一形態と見なされ得る1:n+1継代)。一実施形態では、継代は、本明細書に記載の装置、システム及び/又は方法を使用して実行され、この装置、システム及び/又は方法は、自動化され得る又は自動化によって実行され得る。
【0075】
本明細書で使用される場合、「細胞培養容器」又は「娘細胞培養容器」は、細胞の培養物を支持するために使用され得る容器を指す。細胞培養容器は、単一のフラスコ又は円形皿などの皿であり得るか、又はマルチウエル培養プレートであり得る。細胞培養容器がマルチウエル培養プレートに対応する場合各ウエル、いくつかのウエル、又はそのすべてのウエルは、細胞培養容器と見なされ得る。具体的には、継代方法を実施した後、新しい細胞培養容器に細胞の培養物を播種する際、そのような新しい細胞培養容器は、本明細書では娘細胞培養容器と呼ばれる。
【0076】
本明細書で使用される場合、「適応継代」又は「適応的継代」は、柔軟であり、第1の時点及び場合によっては1又は複数の後続の時点で取り込まれた1又は複数の画像に基づいて、客観的に計算された1又は複数の特性に従って出力される継代プロトコルを指す。さらに、そのような継代プロトコルは、必ずしも有意な操作者の入力又は介入に依存せず、むしろ、出力適応継代プロトコルは、その後の進行中の細胞の培養物の1若しくは複数の画像及び/又はその細胞の培養物若しくは同様の細胞の培養物の以前の継代中に取得された1若しくは複数の画像から決定された客観的基準に基づく。一実施形態では、その後の進行中の細胞の培養物の継代中に計算された1又は複数の特性を、以前の継代中の細胞の同じ又は同様の培養物の1又は複数の計算された特性と比較することができる。一実施形態では、細胞の進行中の培養物の継代中に計算された1又は複数の特性は、標準又は対照培養物の対応する特性と比較され得る。1又は複数の画像(1又は複数の時点で取り込まれた)を取得し、処理し、(少なくとも1つのプロセッサ150を介して)1又は複数の特性を計算すると、装置1aは、継代プロトコル(増殖プロトコル又は分化プロトコルの一部であり得る)が実行されるべきとき及び/又はそのパラメータを出力し、その適応継代プロトコルは、システム1を使用して又は手動で実行され得る。例えば、適応継代プロトコルは、後続の継代において予定通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するように、播種すべき細胞の量を指定することができる。又は、細胞の培養物内の分化のレベルを考慮して、適応継代プロトコルは、(本明細書でより詳細に説明するように)適切な剥離溶液の適切な体積及び/又はインキュベーション時間を指定することができ、その出力は、娘細胞培養容器に播種される細胞の量と組み合わせて提供され得る。一実施形態では、適応継代プロトコルは、進行中の継代及び/又は以前の継代の間に計算された特性に基づいて、各後続の継代の間に一貫した細胞の培養物を得るか又は維持することを目的として出力される。このようにして、複数回の継代にわたる細胞の培養物のドリフト(例えば、細胞の培養物の増殖速度の経時変化、細胞の培養物の形態、接着特性、又は分化の傾向など)を評価する(又は説明する、又は修正する)ことが可能であり得る。適応継代プロトコルが使用され得る場合の例としては、細胞の培養物の日常的な維持培養中、分化プロトコル中、新しい維持培地又は分化培地を試験する場合、新たに派生された又は得られた細胞株のオンボーディング操作中などが含まれる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「対照培養物」という語句は、状況において正しく適切に培養された細胞を指し、その特性(例えば、形態、マーカ発現、増殖速度、コロニーサイズ分布、分化状態など)は、進行中の細胞の1又は複数の培養物などの比較目的のためのベースラインとして使用され得る。対照培養物は、比較を行うために細胞の1又は複数の培養物と同時に培養されてもよく、又は対照培養物の特性が以前に得られていてもよい。細胞の1又は複数の培養物が維持プロトコル(すなわち、細胞を現状に維持する)にある実施形態では、対照培養物は、適切に維持されている又は維持されていた細胞の同時期又は過去の同様の培養物であり得る。細胞の1又は複数の培養物が分化プロトコルにある実施形態では、対照培養物は、効果的に分化されている又は分化されていた細胞の同時期又は過去の培養物であり得る。細胞の1又は複数の培養物が分化プロトコルにある実施形態では、対照培養物は、適切に維持されている又は維持されていた細胞の同時期又は過去の培養物であり得る。新しい維持プロトコル又は分化プロトコルを試験することが望ましいいくつかの実施形態では、そのような新しいプロトコルを、以前に効率的であることが示された維持プロトコル又は分化プロトコルと比較されてもよい。いくつかの態様では、対照培養物のための以前に知られた維持プロトコル又は分化プロトコルは、科学刊行物、又は細胞のベンダー若しくは細胞の培養に使用される培地によって供給され得る製品情報シートなどの文献に公開又は記載されている場合がある。いくつかの実施形態では、維持プロトコルは、新たに派生された細胞株などについて決定されなければならず、その場合、当業者は、以前に公開又は記載された適切な対照培養物を容易に決定することができよう。
【0078】
適応継代のための装置
本開示の一態様では、細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための装置が記載されている。一実施形態では、細胞はPSCであり、更により具体的には、細胞はヒトPSCであり得る。一実施形態では、ヒト又は他のPSCは、細胞の接着培養物として培養又は継代される。
【0079】
一実施形態では、細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための装置1aは、撮像モジュール100及び少なくとも1つのプロセッサ150(
図1)を含み得る。
【0080】
撮像モジュール100は、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を取り込むためのカメラ105を含む。カメラ105は、培養皿のウエル、ウエル内の細胞のコロニー、又はウエル内の単一の細胞を解像することができ得る。一実施形態では、カメラ105は、2倍、5倍、10倍以上の倍率、又はそのような倍率の範囲を有することができる。同じ又は異なる実施形態では、カメラ105は固定焦点カメラであってもよい。一実施形態では、カメラ105は、位相コントラスト又は蛍光イメージング能力を有していない。
【0081】
カメラ105は、数十の時点にわたって数千個の培養容器について取り込まれ得る1又は複数の画像を記憶するのに十分なコンピュータ可読メモリに関連付けられている。コンピュータ可読メモリは、カメラ105に配置されることがあり、及び/又はコンピュータ可読メモリは、パーソナルコンピュータデバイス内又はクラウド上(すなわち、遠隔サーバ上)などの遠隔に記憶され得る。
【0082】
一実施形態では、カメラ105は、動画又は静止画像を取り込む。一実施形態では、カメラ105は、白黒(又はグレースケール)又はカラーの静止画像を取り込む。一実施形態では、1又は複数の画像は暗視野技術を使用して取り込まれ、細胞の培養物は光源によって下から照明され、細胞の培養物の周りの視野は一般に暗く、細胞の培養物はサンプルのコントラストを提供する。一実施形態では、細胞培養容器のウエルに対応する切り欠きを有する金属プレートが、内部反射を最小限に抑えるためのマスクとして使用される。
【0083】
一実施形態では、カメラ105は、細胞を培養するために使用される細胞培養容器のエリアを撮像することができる。そのような実施形態では、細胞培養容器は、35mmディッシュ又は100mmディッシュであり得る。また、そのような実施形態では、細胞培養容器は6ウエルプレートであることがあり、カメラ105は、その6ウエルのそれぞれの細胞培養エリアを含む単一の画像を取り込み得る。そのような画像は、そのまま保管され得るか、又は、例えば、その各ウエルのトリミングされた画像に対応するサブセットとして、6つの関連ファイルと共に記憶され得る。一実施形態では、6ウエルプレートなどの細胞培養容器の各ウエルに対応して複数の別個の画像を取り込んでもよく、そのような複数の画像を互いにつなぎ合わせて各ウエルの合成画像を作成してもよい。当業者は、細胞培養容器が、12、24、96、又は384ウエルプレートなどであり得るがこれらに限定されない任意の形式であることがあり、いずれの場合でも、カメラ105は、その各ウエル(又は所望のサブセット)を含む1又は複数の画像、あるいはその各ウエル(又は所望のサブセット)の個々の画像を取り込み得ることを理解されよう。
【0084】
具体的な実施形態では、カメラ105は、細胞培養容器又はそのウエル内の単一の細胞を解像できることがある。そのような実施形態又は異なる実施形態では、カメラ105はまた、細胞培養容器又はそのウエル内の細胞の培養物の単一のコロニーを解像できることがある。カメラ105は、細胞培養容器全体(又はそのウエル)の画像を取り込むことができることがあるため、カメラ105はまた、細胞培養容器内の細胞の培養物の単一の細胞又はコロニーのそれぞれを解像できることがある。
【0085】
いくつかの実施形態では、撮像モジュール100は、細胞培養容器内のPSCなどの細胞の培養物の1又は複数の特性を照会するための画像プロセッサを含む。1又は複数の特性を照会することにより、培地交換プロトコル、継代プロトコル、増殖プロトコル、分化プロトコル、又は培養終了プロトコルなどの適切な動作が実行され得る。他の実施形態では、1又は複数の特性を照会するためのプロセッサは、撮像モジュール100内に含まれず、コンピュータデバイス内に含まれ得る中央プロセッサモジュール内など、むしろ別個に含まれ得る。
【0086】
一実施形態ではステージ110(
図2)の上に配置され得るカメラ105を含む。一実施形態では、カメラ105は、ステージ110の上に固定され得るか又は移動可能のいずれかであり得る。一実施形態では、カメラ105は、ステージ110の下に固定され得るか又は移動可能のいずれかであり得る。細胞培養容器がステージ110に配置されると、カメラ105は、第1の時点及び1又は複数の後続の時点で、細胞培養容器内の細胞の培養物の適切なスケール及び解像度で1又は複数の画像を取り込み得る。
【0087】
一実施形態では、カメラ105(図示せず)のレンズは、ステージ110の平面に対して実質的に水平方向に向けられ、細胞の培養物の1又は複数の画像は、反射表面120、例えばミラー、に依存して取り込まれる(
図2参照)。反射表面120は、カメラ105のレンズから適切な距離に配置され、また、対象面(すなわち、細胞培養容器内の細胞の培養物)をカメラ105の焦点面に反射するために十分な角度が付けられている。一実施形態では、反射表面120の角度125は約45°である。
【0088】
装置1aはまた、撮像モジュール100に通信可能に結合された少なくとも1つのプロセッサ150を備える。少なくとも1つのプロセッサ150は、装置1aがデータを処理するための様々な機能を実行するために、1又は複数の非一時的コンピュータ可読媒体又はプロセッサ可読媒体に記憶された様々なソフトウェアプログラム及び/又は命令セットを実行する。
【0089】
少なくとも1つのプロセッサ150は、(a)撮像モジュールから、第1の時点及び場合により1又は複数の後続の時点での、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を受信し、(b)撮像モジュールから受信した1又は複数の画像に基づいて、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算し、(c)細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを出力するように構成され得る。一実施形態では、1又は複数の画像は、撮像モジュールから受信されない。例えば、1又は複数の画像は、ユーザによってアップロードされてもよい。
【0090】
一実施形態では、適応継代プロトコルは、後続の継代において予定時間通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供(すなわち、出力)する。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間を含み得る。一実施形態では、適応継代プロトコル(例えば、そのパラメータ)は、細胞の培養物の計算された1又は複数の特性と、細胞の培養物の1又は複数の特性について学習又は入力された閾値レベルとの比較に基づいてもよい。
【0091】
一実施形態では、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞の培養物のコンフルエンス(confluence)の指標に対応する。細胞の培養物のコンフルエンスは、1又は複数の画像を分析して、細胞の培養物によって覆われる細胞培養容器の表面積、又は判定を行うために使用される表面積の他の部分を判定することと、この値を、細胞培養容器の総表面積、又は判定を行うために使用される表面積の他の部分によって分割することとによって、計算し得る。一実施形態では、ソフトウェアスクリプトを実行して、1又は複数の画像のそれぞれを表現に変換することがあり、灰色又はグレースケールのピクシレーションが細胞の培養に割り当てられて、白い背景から細胞の培養物を対比する。一実施形態では、細胞は、黒い背景に対して白色、灰色、又はグレースケールのピクシレーションを割り当てられ得る。いずれにしろ、変換された表現は、装置1aに関連付けられた少なくとも1つのプロセッサ150によって容易に分析されて、細胞培養容器内の細胞の培養物のコンフルエンスの指標を判定し得る。
【0092】
したがって、細胞の培養物のコンフルエンスの変化を経時的に評価することが可能であり得る。
図3Aは、細胞培養容器のウエル内の細胞の培養物を毎日撮影した画像を示している。画像の目視検査により、細胞の培養物のコンフルエンスが後続の1又は複数の時点と比較して第1の(早い)時点から増加することが確認されるが、コンフルエンスとその変化を効率的、客観的かつ確実に定量化することは困難である。
図3Bは、
図3Aに示されている各画像の変換された表現を示している。変換された表現に基づいて、装置1aに関連付けられた少なくとも1つのプロセッサ150は、単一の時点又は複数の時点にわたるかどうかにかかわらず(例えば、同じ継代内であるか、又は異なる継代にわたるかどうかにかかわらず)、細胞培養容器内又は細胞培養容器間の細胞の培養物のコンフルエンスを客観的かつ容易に計算し得る。
【0093】
変換された表現に基づくコンフルエンスの判定は、Hoechst染色などのDNA結合染料を用いた古典的なアプローチを使用したコンフルエンスの判定と一致している(
図4A及び
図4B)。
図4Aは、Hoechstで染色されていない、又は染色された同じ細胞培養容器の実際の画像と変換された表現を比較している。
図4Bは、2つの方法(R
2=0.9、標準誤差=0.04、p=0.95)を使用して、細胞の培養物の計算されたコンフルエンスの一致を回帰分析によって検証する。
図4Cは、一連の時点での細胞の培養物のコンフルエンスが、様々な条件下で培養された様々な細胞株の1又は複数の画像に基づいて計算できることを示している。
【0094】
さらに、変換された表現に基づく異なる時点でのコンフルエンスの判定は、細胞の培養物のコンフルエンスの増加が、培養中の細胞の予想される成長速度と一致して、ほぼ指数関数的成長モデル(
図5A)に適合することを確認する。コンフルエンスの変化の判定はまた、細胞の培養物の成長速度(すなわち倍加時間)を計算するために使用され得る。
図5B及び
図5Cは、細胞の2つの異なる培養物(すなわち細胞株)について、計算された倍加時間が期待値と一致していることを示している。細胞の培養物のコンフルエンスの経時変化から判定された指数関数的成長モデルに基づいて、後続の時点での細胞の培養物のコンフルエンスを予測することが可能であった(
図5D)。
図5Dは、後続の時点で予測されたコンフルエンスが、同じ後続の時点での同じ細胞の培養物の実際のコンフルエンスと一致することを確認している。
【0095】
前述のことは、クランプ継代された細胞の培養物の1又は複数の画像に基づいてコンフルエンス(及びその経時変化)を客観的に計算し得ることを示しているが、スプレー継代又は単一細胞として継代された細胞の培養物のコンフルエンスを客観的に計算することも可能である(機械的掻き取りなしの、細胞の培養物上の培地の繰り返し洗浄によって剥離された細胞)(
図6A~
図6F)。したがって、本明細書に開示される適応継代装置、システム及び方法は、特定のPSC株、間葉系幹細胞、上皮幹細胞、神経幹細胞、癌細胞、癌細胞株などを含むがこれらに限定されない一般的な哺乳動物細胞など、クランプとして必ずしも継代/培養されない細胞に適用可能であり得る。PSCが単一細胞として継代される実施形態において、培養培地中に、CloneR(商標)(STEMCELL Technologies)又は開示及び/又は市販され得る他のものなどの個々のPSCの生存を促進するサプリメントを含める必要があることがある。
【0096】
一実施形態では、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞数の指標に対応する。コロニーに組織化されたものなど、細胞の培養物内の細胞の数は、少なくとも個々の細胞の面積、個々の細胞が含まれるコロニーの面積、及び/又はコロニー内の細胞スタッキングの程度の関数であり得る。個々の細胞及び細胞のコロニーの面積、並びに細胞スタッキングの程度はそれぞれ、撮像モジュール100を使用して取り込まれた1又は複数の画像から計算され得る。確かに、より大きなコロニー面積及び細胞コロニーにおける高度の細胞スタッキングは、そのコロニー内の細胞数の増加、したがって細胞の培養物中の細胞数の増加に対応するはずである。
【0097】
コロニー面積は、生の画像あるいは1又は複数の画像の変換された表現に基づいて計算され得るが、細胞スタッキングの程度を定量化することは、より大きな課題となる。細胞スタッキングの程度は、個々のコロニーの明るさに基づいて判定することがあり、これは、細胞の層が増えると、通過できる光が少なくなり、コロニーが比較的明るくなるためである。一実施形態では、変換された表現は、細胞スタッキングの程度を判定し得るヒートマップとして提示し得る。一実施形態では、1又は複数の画像の生画像は、コロニーの見た目の明るさに関して十分なデータを提供し得る。いずれにせよ、必要な値が得られたら、細胞培養容器内(又はその中の各コロニー内)の細胞数を計算し得る。細胞の特定の培養物が細胞スタッキングを起こしにくい実施形態では、細胞数は、細胞の培養物の個々のコロニーの明るさの判定に依存することなく計算され得る。
【0098】
図7では、1又は複数の画像に基づいて計算された平均コロニーサイズ(つまり面積)が、Hoechst染色アプローチ(R
2=0.86、p=0.94)を使用して判定された平均コロニーサイズ(つまり面積)に対応することが示されている。したがって、細胞の培養物内(又は細胞の複数の培養物の間)のコロニーサイズ分布の指標は、1又は複数の画像から客観的に判定されることがあり、そのような1又は複数の特性は、出力適応継代プロトコルにおいて、単独で、又は他の1又は複数の特性と組み合わせて使用され得る。
【0099】
図8では、細胞培養容器内の総細胞数は、撮像モジュール100を使用して取り込まれた1又は複数の画像に基づいて計算されることがあり、そのような計算は、手動アプローチを使用して得られた総細胞数のカウントとの良好な相関を示すことが示される(R
2=0.94、p<0.0001)。1又は複数の画像に基づく総細胞数の判定は、生の強度密度の観点で表され、生の強度密度値は、生の細胞の培養物の1又は複数の画像(つまり、生の画像)と組み合わせて、細胞のコンフルエンスの変換された表現から生成される。一実施形態では、細胞数を取得することは、1又は複数の画像を較正し、出力適応継代プロトコルの信頼性を向上させるのに役立ち得る。一実施形態では、細胞の培養物の細胞数の取得は、手動で行われてもよく、又は本明細書に記載の撮像アルゴリズムを使用して取得されてもよい。
【0100】
一実施形態では、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞の培養物の形態の指標に対応し得る。細胞の培養物の許容できる若しくは許容できない形態、又はそのサブセットは、1又は複数の画像に基づいて、細胞の培養物のデジタルプロファイルを標準(例えば、対照培養物の特性)と比較することによって判定し得る。例えば、PSCコロニーは通常、滑らかな端部でドーム型になっており、細胞が密に詰まっており、核対細胞質比が高い。対照的に、低品質若しくは分化したPSCコロニー又は分化を受けているそれらのPSCコロニーは、前述の特性から逸脱している。したがって、細胞の培養物中のPSCコロニーのデジタルプロファイルは、1又は複数の画像に基づいて生成することができる。デジタルプロファイルを標準又は対照培養物と比較すると、装置1aは適切な適応継代プロトコルを出力し得る。
【0101】
上記の段落に関連する実施形態では、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞の培養物の分化の程度の指標に対応し得る。1又は複数の画像に基づいて、標準又は対照培養物と比較した細胞の培養物の形態の一致又は不一致(コロニー毎又は平均ベースなど)は、細胞の培養物の分化状態を予測し得る。例えば、分化プロトコルが進行中であり、計算された1又は複数の特性が特定の時点で予想される細胞形態を確認する場合、その時点で進行中のプロトコルからの逸脱は必要ないことがある。ただし、計算された1又は複数の特性に基づいて、予想よりも少ないか、分化が判定されない場合、プロトコルは、更に1又は複数の撮像時点まで続行する必要があり得るか、培地変更を実行して細胞の培養物に新しい分化培地を導入する必要があり得る。別の例では、その後PSCの培養物の増殖プロトコル又は維持プロトコルが進行中である場合、かなりの程度の分化が、予想よりも早く継代プロトコル又は終了プロトコルをトリガし得る。
【0102】
一実施形態では、細胞の培養物の分化状態(又は形態の変化)は、1又は複数の画像、及び機械学習分類器(すなわち、訓練された機械学習分類器)を使用して得られたデータから導出された方程式又はモデルに依存して判定され得る。
図9A及び9Bは、それぞれ、撮像モジュール100によって取り込まれた代表的な画像と、9Aの画像の未分化、分化(より明るい)及び背景(最も暗い)領域が重ね合わされた代表的な画像を示す。
図9Cは、3つの異なる分類モデルを使用した分類器の結果を示している。未分化コロニーの分類のみに依存し、予測子を無視する第1の分類モデルを使用すると、53.83%±0.00%の分類精度を達成できる。相関が最も高いクラス(つまり、未分化、分化、及び背景)に特徴を割り当てる第2の分類モデルを使用すると、94.93%±0.08%の分類精度を達成できる。規則の決定ツリーに基づいてクラス(つまり、未分化、分化、及び背景)に特徴を割り当てる第3の分類モデルを使用すると、99.90%±0.02%の分類精度を達成できる。前述のデータを生成するために使用される分類器は、背景、未分化PSC、及び分化PSCの領域が1又は複数の画像のサブセットにおいて手動で選択された画像のセットを使用して訓練された。この訓練セットには、
図9のテスト画像は含まれていない。分類器の訓練と実験は、WEKA Workbenchを使用して実行された。例えば、Ian H.Witten及びEibe Frank(2005)「Data Mining:Practical machine Learning tools and techniques」、第2版、Morgan Kaufmann、サンフランシスコ、2005を参照されたい。
【0103】
外胚葉、内胚葉、中胚葉の系統細胞はそれぞれ固有の形態を示すため、訓練された機械学習分類器が1又は複数の画像に基づいてそのような区別を行うことも可能である。
【0104】
実際、細胞の培養物の分化の程度は、1又は複数の画像に基づいて評価され得る。さらに、そのような分化は、以下に記載されるような選択的細胞剥離溶液の使用に基づいて、細胞の培養物から低減又は除去され得る。
図10では、適切に維持されなかった及び/又は分化しなかったPSCの18個(3つの細胞タイプのそれぞれ6つの複製)の培養物を本明細書に記載のように画像化し、異なるタイプの分化について評価した。分化の程度及びタイプは、この場合にはReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)であった専用の剥離溶液を使用して剥離されなかったコロニーのタイプに基づいて評価することができた。したがって、本明細書中に開示される装置、システム、及び方法は、どのようなものであれ、関心対象の細胞タイプについて優先的に選択するために使用され得る。
【0105】
一実施形態では、1又は複数の特性は、1又は複数の後続の時点と比較した、第1の時点からの計算された1又は複数の特性の変化の指標に対応し得る。一実施形態では、1又は複数の特性は、1又は複数の以前の時点と比較した、第1の時点での計算された1又は複数の特性の変化の指標に対応し得る。例えば、1又は複数の特性は、第2の時点での細胞の培養物のコンフルエンスの指標と比較した、第1の時点での細胞の培養物のコンフルエンスの指標であり得る。一実施形態では、第1の時点及び第2の時点(例えば、後続の時点又は以前の時点)は、細胞の培養物の同じ継代中又は細胞の培養物の異なる継代中であり得る。
【0106】
図11は、継代プロトコルが実行される時点が、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の培養物のコンフルエンスを計算することに基づいて判定され得ることを示している。したがって、前述のデータのプロットを、細胞の培養物の最大又は所望の継代前コンフルエンスまで外挿することは、特に任意の1時点で最大数百枚のプレートが培養されている場合に、適応継代プロトコル(及びそのパラメータ)のスケジューリングに役立つことがある。
【0107】
一実施形態では、1又は複数の特性は、1又は複数の特性のうちの異なる特性の関数として、1又は複数の特性のうちの1つの指標に対応し得る。例えば、1又は複数の特性は、細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の程度の関数として、細胞の培養物のコンフルエンスの指標であり得るか、又はその逆も成り立つ。そのような1又は複数の特性はまた、第1の時点及び1又は複数の後続の時点で評価され得る。そのような実施形態では、剥離溶液の種類、体積、又はインキュベーション時間は、出力適応継代プロトコルのパラメータに含まれ得る。
【0108】
1又は複数の特性の計算に関連する全てのデータポイントの取得及び分析に基づいて、装置1aは自己学習(つまり自己訓練)が可能であってもよく、継代プロトコルをいつ実行すべきかに関する命令をオペレータが提供する必要はない。したがって、本明細書に開示される主題は、細胞の培養物の適応継代のためのシステム及び方法に関連し得る。いくつかの実施形態では、システム及び/又は方法は自動化されてもよく、いくつかの実施形態では、手動で実行されてもよい。
【0109】
一実施形態では、細胞の1又は複数の培養物に関して計算された1又は複数の特性は、第1の時点又は1又は複数の後続の時点で、細胞の第1の培養物と細胞の第2の培養物との間で異なり、装置1aの出力に基づいて、1又は複数の特性が、後続の継代中において、より高い一貫性を有する。例えば、第1の細胞培養容器又はその第1のウエルにおける細胞の第1の培養物のコンフルエンスは、第1の時点(例えば、継代0の6日後)で45%であり、第1の細胞培養容器の第2のウエルなどの第2の細胞培養容器内の細胞の第2の培養物のコンフルエンスは、第1の時点で30%であり、主観的(例えば、予め決定された)スケジュールで細胞の第1及び第2の細胞培養物を継代すると、非同期継代プロトコルが実行されることになる。非同期継代プロトコルを実行することは、効率の問題にとって望ましくないことがあるが、例えば細胞の第1の培養物と細胞の第2の培養物が同じ細胞培養容器の異なるウエルにある場合、他の細胞の培養物が継代されているため、細胞の一方の培養物を不必要なリスクにさらすこともある。したがって、装置1aは、細胞の1又は複数の培養物のそれぞれについての分割比及び/又は継代時間に対する調整が行われ得る適応継代プロトコルを出力することがあり、それにより、それらは、その後の継代において予定通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達することがある。例えば、細胞の第1及び第2の培養物のコンフルエンスがそれぞれ45%及び30%であり、その後の継代において7日目までに約70~80%のコンフルエンスを達成することが望ましい場合、装置1aは、とりわけ、細胞の第1及び第2の培養物のそれぞれについての適切な分割比を示す適応継代プロトコルを出力することがある。
【0110】
細胞の培養物を継代する場合、適切な播種希釈度(すなわち、分割比)が典型的には主観的に(例えば発見的に)選択される。考慮すべきことには、親プレートのコンフルエンスの推定、後続の継代における所望の時点での目標コンフルエンスを得ること、不正確な手段を用いて細胞の懸濁液中の細胞又はクランプの数を計数することによって、等が含まれ得る。そのような不正確な手段は、操作者のばらつきをもたらす可能性があるため問題があり、大規模な継代の場合、そのようなアプローチは律速であり得る。細胞の培養物の客観的基準に基づいて分割比の選択を適応的に調整するために、継代の近くでの親コンフルエンス、分割比、及び次の継代日における所望の娘コンフルエンスを定量的に連結するモデルを開発した。言い換えれば、モデルは、細胞の親培養物のコンフルエンス及び細胞の娘培養物の所望のコンフルエンスを考慮して適切な希釈度を出力する。そのようなモデルは、例えば、線形、二次、又は高次回帰モデルであり得る。
【0111】
継代時近くの親コンフルエンス、分割比、及び結果として生じる娘コンフルエンスを関連付ける回帰モデルは、様々な密度の親プレートを様々な分割比で分割し、結果として生じる娘コンフルエンスを7日目に測定する実験で取得し得る(例えば、
図12及び
図13のように)。
図12では、H7 hPSC細胞株の5つの6ウエルプレートを、最初に様々なコンフルエンスで作製した。様々な親コンフルエンスを有するこれらのプレートのそれぞれにおいて、ウエルを様々な希釈度(1:25、1:50、1:75,1:100、1:150、1:200)で継代した。親プレート及び娘プレートのコンフルエンスを経時的に評価し、7日目の娘プレートのコンフルエンスを決定した。
図13では、同様の実験を、R038細胞株を用いて実施し、ここでも様々な親コンフルエンスを有する5つの6ウエルプレートから開始し、様々な希釈度(1:25、1:50、1:75,1:100、1:150、1:200)で各プレートを継代し、親プレート及び娘プレートのコンフルエンスを評価した。このようにして取得されたデータセットからのデータを使用して、具体的には、a)継代時付近の親コンフルエンス(この場合、7日目のコンフルエンス)、b)使用された分割比、及びc)7日目の結果として得られた娘コンフルエンス、希釈度、親コンフルエンス、及び7日目の娘コンフルエンスに関する2度多項式モデルを生成してもよく、このモデルを適応継代プロトコルの出力に使用してもよい。
【0112】
なお、取得したデータセットを用いて、他の日(例えば、異なる周波数で)における適応継代のモデルを生成してもよい。例えば、特定の親コンフルエンスが与えられると、3日目又は4日目の継代のために、3日目又は4日目に所与のコンフルエンスに達するためにどのような分割比が必要とされるかを予測するために、3日目又は4日目の娘コンフルエンスが使用される。さらに、そのようなモデルは、2つの細胞株からのデータを組み合わせてモデルを生成してもよく、あるいは、個々の細胞株からのデータを使用して、別個の細胞株特異的モデルを生成してもよい。
【0113】
図14Aは、示された回帰モデルを作成するために使用されるデータ点を示し、
図14Bは、異なる角度で見た同じ表面である。データ点がモデルに近接していることは、良好な適合を示す。したがって、そのようなモデルは、他の2つの変数が与えられた場合に、3つの変数のうちの1つを予測するために適応継代に使用され得る(例えば、親コンフルエンス及び7日目の所望の娘コンフルエンスを考慮して、必要な希釈度を予測する)。
図15は、(R
2調整=0.85、二乗平均平方根誤差=0.00469)良好なモデルフィットを示す、前述のモデルに基づく実際の(データからの)希釈度対予測希釈のプロットを示す。
【0114】
コンフルエンスの高いウエル間変動及び高いウエル間変動係数(「COV」)を有するプレートのセットを調製することによって上記のようなモデルを試験し、モデルを適用して50%+/-10%の平均プレートコンフルエンスを達成し、ウエルーウエルCOVを改善した。
【0115】
図16では、4つの6ウエルプレートに細胞の培養物を播種し、プレートの各ウエルを同じ密度で播種し、各プレートを様々な密度(P0終わりで13%~26%の7日目コンフルエンス)で播種した。その後の継代において、ストレス条件を適用し、各プレート内のウエル間変動を増加させた(すなわち、P0からのウエル1を1:25でP1-ストレスのウエル1に播種し、P0からのウエル2を1:50でP1のウエル2に播種し、P0のウエル3を1:75でP1のウエル3に播種し、P0のウエル4を1:100でP1のウエル4に播種し、P0のウエル5を1:150でP1のウエル5に播種し、P0のウエル6を1:200でP1のウエル6に播種した)。予想通り、P1プレートは、同じプレート内のウエル間で非常に変動するコンフルエンスを有していた。さらに、P1プレートは、7日目に22%から47%まで変動する平均コンフルエンスを有していた。適応継代のパラメータを出力するために上記のようなモデルを使用して、次の継代の終わりに50%のコンフルエンスを達成するために必要な希釈度(したがって、分割比)を計算した。前述のモデル、親コンフルエンス及び7日目の目標娘コンフルエンスに依存する出力分割比は、約50%の平均コンフルエンス及びウエル間の低下したCOVを有する娘プレート(P2)をもたらすと予想され得る。モデル予測と一致して、
図16は、プレートがP2の7日目に約50%の平均プレートコンフルエンス(平均プレートコンフルエンス51%~60%)を示すことを示す。
【0116】
また予想と一致して、適応継代は、COVの改善によって示されるように、より一貫したコンフルエンスをもたらした。
図17は、中の細胞のそれぞれの培養物のコンフルエンスの比較的広い変動を有するいくつかの細胞培養容器にわたって、適応継代プロトコルに従って、コンフルエンスの変動がより一貫し得るようになることを示す。モデルを取得し、親細胞培養容器のコンフルエンスと娘細胞培養容器のコンフルエンスとの間の関係を判定すると、娘又は孫娘細胞培養容器への細胞懸濁液の適切な希釈度(すなわち、播種密度)を計算することが可能であり得る。
【0117】
次に、本発明者らは、長期培養にわたって一貫したコンフルエンスで複数の細胞株を維持する適応継代の能力を試験した(適応継代アルゴリズムを使用して最大4継代)。この試験では、上記及び
図12~
図15で概説したのと同様の方法で線形回帰モデル(1C細胞株について)を生成したことに留意されたい。
【0118】
図18では、7つの6ウエルプレートに1C細胞株、H9細胞株又はH7細胞株(「標準」)を播種し、各プレート及びその各ウエルを同等の密度で播種した。その後の継代において、ストレス条件を適用し、各プレート内のウエル間変動を増加させた(すなわち、P0からのウエル1を1:25でP1-ストレスのウエル1に播種し、P0からのウエル2を1:50でP1のウエル2に播種し、P0のウエル3を1:75でP1のウエル3に播種し、P0のウエル4を1:100でP1のウエル4に播種し、P0のウエル5を1:150でP1のウエル5に播種し、P0のウエル6を1:200でP1のウエル6に播種した)。上記のように、これにより、7日目にP1(「ストレス」)プレートが非常に変動するコンフルエンスを有することになる。非ストレス対照として、1C及びH9プレート3は、前述のストレス(すなわち、1:25~1:200の分割比)の代わりに、P0終わりで適応継代に供した。この線形モデル、親コンフルエンス値(例えば、P1終わり)及び目標コンフルエンス(例えば50%)を使用して、次の継代の間に予定通りに目標コンフルエンスに達するために、各ウエルの適切な希釈度を出力することができる。前述のプロセスを、図示のように後続の継代(「適応」)の各々にわたって繰り返した。
【0119】
適応継代は、多継代にわたって概して安定な平均コンフルエンスを維持することができ、培養条件が高すぎる又は低すぎるコンフルエンスから崩壊することはない。さらに、そのような適応継代の間、クランプを計数するため、細胞を計数するため、又は細胞の培養物又は(細胞の1又は複数の培養物の)1又は複数の画像を手動で(すなわち主観的に)検査して眼によるコンフルエンスを推定するために、ユーザの介入は必要とされないことがある。1Cモデルでは、適応継代の結果、平均コンフルエンスは目標の10%以内であった(平均プレートコンフルエンス43%~48%)。1C生成モデルに基づくH9の適応継代について、平均コンフルエンスは安定していたが、目標を下回っていた。安定性は、細胞株特異的補正係数定数を使用して、任意の他の細胞株の適応継代のための1C生成モデルを調整することができることを示す。また、安定性は、細胞株特異的補正係数定数を使用して、1C細胞のドリフトに対して、又はそうでなければ複数回の継代にわたる特性に対して1C生成モデルを調整することができることを示す。P4終わりでコロニー形態を評価する場合、細胞の質(形態によって評価した場合)は、手動で継代した(非適応)対照と同等であった(
図19)。
【0120】
1又は複数の画像を取り込むとき、装置1aは、1又は複数の画像に基づいて、細胞の培養物の1又は複数の特性を(撮像モジュールに通信可能に結合された少なくとも1つのプロセッサ150によって)計算する。一実施形態では、1又は複数の特性の計算は、上記で提供された説明に従って達成し得る。特に、1又は複数の特性は、
a)細胞の培養物のコンフルエンスの指標、
b)細胞の培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
c)細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
d)細胞の培養物のコロニーサイズ分布の指標と、
e)a)、b)、c)、又はd)の第1の時点から1又は複数の後続の時点への変化の指標、
f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標、又は
g)細胞の培養物の継代にわたるa)、b)、c)若しくはd)の変化の指標
を含み得る。
【0121】
1又は複数の特性を計算すると、装置1aは、細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを(少なくとも1つのプロセッサ150などによって)出力する。一実施形態では、適応継代プロトコルは、後続の継代において予定時間通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供する。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間を含み得る。一実施形態では、適応継代プロトコル(例えば、そのパラメータ)は、細胞の培養物の計算された1又は複数の特性と、細胞の培養物の1又は複数の特性について学習又は入力された閾値レベルとの比較に基づいてもよい。
【0122】
一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、約30~90%、又はより具体的には約40~80%の範囲、又は更により具体的には約50~70%の範囲にある。したがって、細胞の培養が約30~90%のコンフルエンスを達成した場合、装置1aは、適応継代プロトコルが実施されるべきとき及び/又はそのようなプロトコルのパラメータを出力してもよい。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標は、約40~80%の範囲にある。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標は、約50~70%の範囲にある。
【0123】
一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、対照細胞培養物の約-30%と+30%との間である。例えば、細胞の培養物の形態が学習又は入力された閾値レベルを超えて逸脱した場合、これは、細胞の培養物がもはや適切に維持されておらず、細胞の質が低下しており、及び/又は細胞の培養物が分化を受けていることを示し得る。細胞の培養物が、その形態に関して、対照細胞培養物の約-30%と+30%との間で逸脱している場合、装置1aは、適応継代プロトコルが実施されるべきとき及び/又はそのようなプロトコルのパラメータを出力し得る。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標は、対照細胞培養物の約-20%と+20%との間である。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標は、対照細胞培養物の約-10%と+10%との間である。
【0124】
一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の分化レベルの指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、維持プロトコルにおいて対照培養物の約0~30%、又は分化プロトコルにおいて対照培養物の約50%~100%である。一方、細胞の培養物が維持プロトコルの対照培養物に対して約0~30%、又は約10~20%、又は約15%の分化レベルを有する場合、装置1aは、継代プロトコルを開始すべきであると出力し、細胞の培養物中に残っている目的の細胞(例えば、維持されているか、又は分化していない)の数を考慮して適応継代プロトコルを提供し得る。対照的に、細胞の培養物が、分化プロトコルにおいて対照培養物に対して、約0~30%、又は約10~20%、又は約15%の分化レベルを有する場合、装置1aは何の措置も取るべきでないことを出力し得る。又は、そのようなシナリオでは、使用済みの分化培地を新鮮な分化培地で置き換えることが出力され得る。一方、細胞の培養物が、分化プロトコルにおける対照培養物に対して約50~100%、又は約60~90%、又は約70~80%、又は約75%の分化レベルを有する場合、装置1aは、適応継代プロトコルのタイミング及び/又はパラメータで出力し得る。対照的に、細胞の培養物が、維持プロトコルにおいて対照培養物に対して、約50~100%、又は約60~90%、又は約70~80%、又は約75%の分化レベルを達成した場合、装置1aは、細胞の培養物をトライ及び救済するための適応継代プロトコル又は終了プロトコルのタイミング及び/又はパラメータで出力し得る。
【0125】
出力適応継代プロトコルは、目的の細胞を選択的に剥離するための特殊な細胞剥離溶液と併せて実行され得る。一実施形態では、形態が逸脱した程度(又は、分化度)に応じて、細胞剥離溶液への曝露時間を調整してもよい。例えば、高い逸脱の場合、より短いインキュベーション時間は、剥離する逸脱したコロニーの割合を減らすことがある。したがって、細胞の剥離したコロニーのみから生成されたある量の細胞の懸濁液を播種すると、娘細胞培養容器内の非逸脱細胞について濃縮されることがある。同様に、分化プロトコルを実行する際に、このように剥離された細胞のコロニーは廃棄されることがあり、残りの分化したコロニーは解離され、次いで継代され得る。一実施形態では、細胞は未分化PSCであり、剥離溶液はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は分化したPSCであり、剥離溶液はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は神経前駆細胞であり、剥離溶液はSTEMdiff(商標)神経ロゼット選択試薬(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は神経前駆細胞以外であり、剥離溶液はSTEMdiff(商標)神経ロゼット選択試薬(STEMCELL Technologies)である。他の剥離溶液は当技術分野で公知であり得る。
【0126】
一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコロニーサイズ分布の指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、対照培養物の平均コロニーサイズ分布又はそのサブフラクションの約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内である。したがって、細胞の培養物が、対照培養物の平均コロニーサイズ分布又はそのサブフラクションの約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内の平均コロニーサイズ分布を達成した場合、装置1aは、適応継代プロトコルのタイミング及び/又はパラメータを出力し得る。一実施形態では、対照培養物の平均コロニーサイズ分布の約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内の閾値レベルは、コロニーサイズ分布のサブフラクション、例えば、上位10%、又は上位20%、又は上位30%、又は上位40%、又は下位10%、又は下位20%、又は下位30%、又は下位40%に関係する。
【0127】
したがって、装置1aは、客観的基準に基づく細胞の1又は複数の培養物の適応継代を提供し、客観的基準は、細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性から導出される。上記のように、場合によっては、計算された1又は複数の特性を標準又は対照培養物と比較してもよい。これは、細胞の培養物の継代を現在行っている人が採用する主観的基準(例えば、「目視検査」、又は労働時間アプローチの時点)に対する著しい改善である。
【0128】
適応継代プロトコルは、プロトコル及び/又はプロトコルのパラメータをいつ実行するかを報告することができる任意の方法で、ユーザなどに出力してもよい。一実施形態では、適応継代プロトコルは、グラフィカルユーザインタフェース(すなわち、「GUI」)上でユーザに出力される。一実施形態では、GUIは、撮像モジュールに関連付けられた画面上などで、撮像モジュールに取り付け得る。一実施形態では、GUIは、撮像モジュールから離れているが、無線ネットワークなどのネットワークを介して撮像モジュールと通信可能であってもよい。一実施形態では、適応継代プロトコルは、モバイルアプリケーション上でユーザに提供されてもよい。
【0129】
しかしながら、適応継代プロトコルが出力されると、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像の全てが記憶され得、細胞の適切に追跡された培養物に追跡可能であり得、ユーザによって容易にアクセス可能であり得る。さらに、全ての計算された1又は複数の特性は、グラフィック形式であるか、及び/又は表などの要約形式であるかにかかわらず、ユーザによって容易にアクセス可能であり得る。
【0130】
動作中、ユーザは、細胞の培養物を撮像モジュール100及びカメラ105の近くに配置し、第1の時点で細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像の取得をトリガし得る。ユーザは、1又は複数の後続の時点で上記のステップを再実行し得る。特定のユーザは、各時点にわたる細胞の培養の進行を追跡することを好むことがあるので、少なくとも1つのプロセッサ150は、撮像モジュール100から受信した最初の1又は複数の画像に基づいて、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算し始めてもよい。より多くの画像が取得されると、新しい計算又は再計算を行ってもよい。あるいは、計算は、1又は複数の画像の全てが全ての時点にわたって取得された後に実行されてもよい。
【0131】
装置1aは、独立型ユニットであってもよく、又はシステムに組み込まれてもよく、及び/又は後述するような方法で使用されてもよい。
【0132】
システム
本開示の一態様では、細胞の培養物の適応継代のためのシステムが記載されている。一実施形態では、細胞はPSCであり、更により具体的には、細胞はヒトPSCであり得る。一実施形態では、ヒト又は他のPSCは、細胞の接着培養物として培養又は継代される。ヒトPSCなどの細胞をクランプ又はクラスタとして継代することが多くの用途において望ましいため、そのような細胞の適応継代のためのシステム及び方法は、そのクランプ継代に適していることがある。
【0133】
細胞の1又は複数の培養物の適応継代のためのシステム1は、上述のように、装置1aの実施形態を含み得る。システム1はまた、ピペットモジュール200、液体ディスペンサモジュール300、複数の溶液リザーバ350(例えば、350a、350b、350cなど)、取扱モジュール400、所望によりステージモジュール500、のうちの1又は複数を含む様々なモジュールを備えてもよい(
図20参照)。
【0134】
一実施形態では、システム1は、上述のように、装置1aの実施形態を備え、少なくとも1つのプロセッサ150はまた、(a)1又は複数のピペットの端部と嵌合可能なピペットチップを介して細胞培養容器から流体を引き出すための1又は複数のピペットを有するピペットモジュール200、(b)ピペットモジュール200から離間された液体ディスペンサモジュールであって、液体ディスペンサモジュールが複数の溶液リザーバと流体連通している、液体ディスペンサモジュール300、及び(c)システム内で細胞培養容器若しくはその蓋又は娘細胞培養容器若しくはその蓋を把持及び輸送するための一対の対向可能なアームを有する取扱モジュール400と通信可能に結合しており、少なくとも1つのプロセッサ150はまた、ピペットモジュール、液体ディスペンサモジュール及び取扱モジュールの動作を調和させることによって適応継代プロトコルを実行するように構成される。
【0135】
実際、装置1aは、上述のような撮像モジュール100と、上述のような少なくとも1つのプロセッサ150とを含み、装置1aの動作に基づいて、システム1は、培地交換プロトコル、継代プロトコル、増殖プロトコル、分化プロトコル、又は培養終了プロトコルなどの適切な動作を実行するために出力又は使用され得る。システム1の一実施形態では、1又は複数の特性を照会するためのプロセッサは、撮像モジュール100内に含まれず、コンピュータデバイス内に含まれ得る中央プロセッサモジュール内など、むしろ別個に含まれ得る。したがって、システム1は、撮像モジュール100又は装置1a内に含まれても含まれなくてもよい少なくとも1つのプロセッサ(以下により詳細に説明する)を含む。
【0136】
一実施形態では、システム1は、撮像モジュール100に関連するが、撮像モジュール100に近接する1又は複数の他のモジュールにも関連するステージ110を含む。ステージ110(又は以下に更に説明するステージモジュール500)は、その上の細胞培養容器の存在及び重量を検出し報告するための1又は複数のロードセルをさらに含み得る。したがって、1又は複数のロードセルは、動作を開始するかどうかについてシステム1にフィードバックを提供し得る。例えば、ステージ110からの細胞培養容器の欠如は、撮像動作が実行されるべきではないことを合図し得る。一実施形態では、1又は複数のロードセルは、適切な量の溶液が細胞培養容器に添加されたか、又は細胞培養容器から除去されたかどうかを検証する。一実施形態では、1又は複数のロードセルは、蓋が細胞培養容器から取り外されているかどうかを検証するのに十分な感度がある。
【0137】
一実施形態では、ステージ110は、ステージモジュール500から分離されている。一実施形態では、ステージ110は、ステージモジュール500のサブコンポーネントである。一実施形態では、ステージ110及びステージモジュール500は同一である。
【0138】
システム1はまた、ピペットモジュール200を備えていてもよい。ピペットモジュール200は、細胞培養培地などの流体を、1又は複数のピペットの端部と嵌合可能なピペットチップを通して細胞培養容器から引き出すための1又は複数のピペットを含んでいてもよい。ピペットモジュール200はまた、1又は複数のピペットのそれぞれとの流体連通において、細胞培養容器から流体を引き出すために必要な吸引を生成する手段を含んでいてもよい。
【0139】
一実施形態では、ピペットモジュール200の1又は複数のピペットを下降又は上昇させて、それに取り付けられたピペットチップを細胞培養容器内の流体に接触させるか、又は接触させないようにし得る。一実施形態では、細胞培養容器を上昇又は下降させて、1又は複数のピペットのピペットチップを中の流体に接触させるか、又は接触させないようにし得る。
【0140】
1又は複数のピペットが垂直面で上昇又は下降できるかどうかにかかわらず、ピペットモジュール200及びその1又は複数のピペットが、システム1内で、ステージ110の水平面に対してx軸又はy軸のいずれか又は両方に沿って移動可能であることも望ましいことがある。そのような実施形態では、ピペットモジュール200は、例えば、ピペットモジュール200を取り付けることによって、可動ユニット220(又はキャリッジ)に含まれ得る(
図21)。一実施形態では、キャリッジ220は、システム1内のトラッキングに沿って移動することがあり、トラッキングは、システム1のデッキ227の上に吊り下げられるか、又は定着させることができる。一実施形態では、キャリッジ220は、デッキの片側又は両側の長さに沿って、又は実質的に長さに沿って延びていることがある。このようなキャリッジは当技術分野で知られており、例示的なキャリッジには、Nimbus(商標)(Hamilton Company)システムが含まれる。
【0141】
一実施形態では、ピペットチップは使い捨てであり、したがって、1又は複数のピペットはまた、ピペット排出機構を含み得る。ピペット排出機構の一例は、1又は複数のピペットの管状本体上をスライドし、カラーの端がピペットチップに接触したときにピペットチップを管状本体から外すカラーを含む。
【0142】
ピペットモジュール200の例示的な使用例には、細胞の懸濁液を粉砕すること、廃棄物のために細胞培養容器から液体を吸引すること、又は、適応継代プロトコル中に娘細胞培養容器に細胞を播種する場合など、細胞培養容器の液体の一部又は全部を娘細胞培養容器に移すことが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0143】
システム1はまた、ピペットチップの複数のラック用のステージングエリアを含み得る。システム1は、複数の使用中のチップラックに対応することがあり、複数のバックアップチップラックに対応することがある。一実施形態では、ピペットチップラック225は、使用中のピペットチップラックに対応することがあり、一方、ピペットチップラック230a、230b、230c、及び230dは、バックアップチップラックに対応することがある。ピペットチップラック225内のピペットチップを使い果たすと、消費されたチップラックは、バックアップチップラック(230a、230b、230c、又は230d)と置き換え得る。システム1内のすべてのピペットチップが消費されると、システム1のユーザは、ステージングエリアに新しいピペットチップラックを再び設け得る。ステージングエリア(ピペットチップラック225と直列のボックス)はまた、アクセス可能であるべきであるが、現在、ステージ110、ステージモジュール500のいずれにも近接して配置されていない細胞培養容器又はその蓋を保管するために使用され得る。
【0144】
システム1又はそのコンポーネントを不必要に汚染する可能性を最小限に抑えるために、ピペットチップが1又は複数のピペットの端部から外れるシステム1の領域は、重要な考慮事項である。具体的には、そのような領域は、細胞培養容器、ピペットチップラックステージングエリア、及び使用中のピペットチップラックと接触するシステム1のコンポーネントから離れている必要がある。一実施形態では、ピペットチップは、1又は複数のピペットから廃棄物容器250に外される。一実施形態では、廃棄物容器250は、システム1からのその内容物の除去を容易にすると同時に、撮像モジュール100、ピペットモジュール200、ピペットチップラック225及び230、並びに以下で説明する他のモジュールなどのシステム1のコンポーネントとのユーザ接触を最小限にするために、スライド可能な引き出し内に含まれ得る。一実施形態では、センサは、例えば、キャリッジ220の動きを妨げないように、廃棄物容器250の位置を検出して報告する。
【0145】
システム1は、液体ディスペンサモジュール300をさらに備えていてもよい。液体ディスペンサモジュール300は、ピペットモジュール200から離間され得る。明確にするために、離間することは、これらがシステム1の別個の要素であり、場合によってはシステム1の異なる場所にあることを意味する。液体ディスペンサモジュール300は、溶液を細胞培養容器に大量に分注するために使用されるが、ピペットモジュール200は、細胞培養容器から流体の一部又は全部を引き出すために使用される。液体ディスペンサモジュール300の例示的な使用例は、細胞の懸濁液を播種する前又は後のいずれかで、細胞培養容器又は娘細胞培養容器に細胞の培養物又は分化培地を分注すること、細胞培養容器内の細胞の培養物の適応継代プロトコル中の細胞培養容器への洗浄バッファ又は細胞剥離溶液を分注すること、又は細胞培養マトリックス溶液(例えば可溶化細胞外マトリックス)を分注することを含み得る。
【0146】
液体ディスペンサモジュール300は、複数の溶液リザーバ350と流体連通する複数の導管325を含む(例えば、
図20を参照)。溶液リザーバ350は、多能性幹細胞などの細胞の培養又は細胞の適応継代を実行するための様々な溶液を含む。溶液リザーバ350に含まれ得る溶液の例には、細胞培養培地、細胞分化培地、細胞培養マトリックス溶液(例えば、可溶化細胞外マトリックス)、細胞洗浄バッファ、及び細胞剥離溶液又は細胞解離溶液が含まれるが、これらに限定されない。
【0147】
溶液リザーバ350の内容物は、システム1のユーザによって採用されたワークフローに依存することがあり、ユーザの必要に応じて交換し得る。ワークフローの非限定的な例には、細胞の供給、細胞の継代、細胞の拡大、細胞のオンボード、細胞のクローン集団の派生、又は細胞の分化が含まれ得る。このようなワークフローは、多能性幹細胞培養の側面を自動化することに関心のあるユーザの間で特に一般的である。
【0148】
溶液リザーバ350は、システム1のユーザによって採用されたワークフローで使用される任意の合理的な量の溶液を保持し得る。例えば、溶液リザーバ350は、細胞培養溶液を収容するために一般的に使用される500mLのボトルに対応し得る。あるいは、溶液リザーバ350は、1ガロン又は10Lのカーボイなどのより大きなボトル又は袋に対応し得る。いくつかの実施形態では、溶液リザーバ350は、様々な量の溶液を保持し得る。例えば、より大きな量で使用される溶液は、比較的大きなリザーバで提供され得るが、より小さな量で使用される溶液は、比較的小さなリザーバで提供され得る。
【0149】
前述のように、溶液リザーバ350は、液体ディスペンサモジュール300の複数の導管325と流体連通している。複数の導管は、それを介して溶液を送達し得るという条件で、任意の形態をとることができる。一実施形態では、複数の導管のそれぞれは、可撓性チューブに対応する。複数の導管のそれぞれを通して溶液を送達するために、溶液リザーバ350及び複数の導管はポンプに関連付けられ得る。一実施形態では、ポンプは蠕動ポンプである。一実施形態では、ポンプは、溶液リザーバから導管を通して溶液を引く排水ポンプと同様に動作し得る。
【0150】
液体ディスペンサモジュール300は、複数の導管を含むことがあり、各導管は、複数の溶液リザーバ350のうちの個別の1つ、例えば、第1のリザーバ350aと流体連通している第1の導管325aなどと流体連通していることがある(図示せず)。液体ディスペンサモジュール300が複数の導管を含み、各導管が複数の溶液リザーバ350のうちの個別の1つと流体連通している実施形態では、各導管は再利用可能及び/又は交換可能であり得る。
【0151】
一実施形態では、液体ディスペンサモジュール300は、第1の溶液のリザーバと流体連通する第1の導管と、第2の溶液のリザーバと流体連通する第2の導管とを含むことがあり、第1の溶液と第2の溶液は異なる時間に分注される。例えば、第1の溶液は洗浄バッファであることがあり、第2の溶液は細胞剥離溶液又は細胞解離溶液であることがある。したがって、適切な量の第1の溶液は細胞培養容器(細胞の培養物を含むことも含まないこともある)に分注されることがあり、ピペットモジュール200を使用するなどによって第1の溶液を除去した後、適切な量の第2の溶液は、細胞培養容器に分注され得る。あるいは、第1の溶液は、細胞剥離溶液又は細胞解離溶液に対応することがあり、第2の溶液は、細胞培養培地に対応することがある。あるいは、第1の溶液は細胞培養マトリックスに対応することがあり、第2の溶液は細胞培養培地に対応することがある。
【0152】
一実施形態では、液体ディスペンサモジュール300は、第1の溶液のリザーバと流体連通する第1の導管と、第2の溶液のリザーバと流体連通する第2の導管とを含むことがあり、第1の溶液と第2の溶液は同時に分注される。例えば、第1の溶液は細胞培養マトリックス溶液であることがあり、第2の溶液は細胞培養培地であることがある。したがって、適切な量の第1の溶液は細胞培養容器(細胞の培養物を含むことも含まないこともある)に分注されることがあり、第1の溶液を除去することなく、適切な量の第2の溶液はまた、細胞培養容器に分注され得る。
【0153】
システム1は、細胞培養容器取扱モジュール400をさらに含んでいてもよい。取扱モジュール400は、システム1内で、細胞培養容器若しくはその蓋、又は娘細胞培養容器若しくはその蓋を把持及び輸送するための一対の対向可能なアームを含み得る。細胞培養容器又はその蓋を把持した取扱モジュール400は、容器又は蓋をシステム1の異なるステーション(すなわち、モジュール)に輸送し得る。
【0154】
取扱モジュール400はまた、システム1内でピペットチップラックを往復し得る。一実施形態では、取扱モジュール400は、ピペットチップが消費されたピペットチップラックを、使用場所から廃棄物容器250、又は消費されたピペットチップラックのステージングエリアのいずれかに輸送し得る。次に、取扱モジュール400は、ピペットチップ230のバックアップラックを使用場所に輸送し得る。代替の実施形態では、ユーザは、システム1内でピペットチップラックを往復し得る。
【0155】
取扱モジュール400はまた、ピペットモジュール200(
図21)と共にキャリッジ220に含まれ得る。一実施形態では、取扱モジュール400は、キャリッジ220のピペットモジュール200とは異なる要素である。一実施形態では、ピペットモジュール200は、取扱モジュール400の機能も実行し得る。例えば、一対のパドルを(ピペットチップの代わりに)2つのピペットの端部に嵌合させることがあり、一対のパドルを使用して、システム1内の細胞培養容器又はその蓋を把持及び輸送することがある。一実施形態では、取扱モジュール400及びピペットモジュール200は両方ともキャリッジ220の別個の要素として含まれることがあり、ピペットモジュール200はまた、その2つのピペットの端部を一対のパドルと嵌合することによって把持機能を提供し得る。
【0156】
システム1は、その上に配置された1又は複数の細胞培養容器を支持するためのステージモジュール500をさらに含み得る。ステージモジュール500は、少なくとも部分的に液体ディスペンサモジュール300の下にあることがあり、また、少なくとも部分的に撮像モジュール100の下にあることがある(
図20)。
【0157】
ステージモジュール500は、プラットフォーム510を含むことがあり、ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントは移動可能である。ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントは、第1の水平面内で移動可能であり得る。ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントが第1の水平面で移動可能である実施形態では、それは、第1の軸に沿った経路(すなわち、x軸)若しくは第2の軸に沿った経路(すなわち、y軸)、又はその両方で移動可能であり得る。
【0158】
ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントの水平面移動は、細胞の懸濁液の量を中に播種するときなど、細胞培養容器又はその1又は複数のウエルに含まれる細胞を分配するのに役立ち得る。水平面移動はまた、細胞培養容器内、あるいはその1又は複数のウエル内に、細胞培養培地、洗浄バッファ、剥離若しくは解離溶液、又は細胞培養マトリックス溶液(例えば、可溶化細胞外マトリックス)などの、中に分注された溶液を分配するのに役立ち得る。
【0159】
一実施形態では、ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントもまた、第3の軸に沿った経路で移動し得る。例えば、ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントは、ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントの端部を中心にして垂直に傾斜又は旋回し得る。具体的な実施形態では、傾斜は、プラットフォーム510などのステージモジュール500のサブコンポーネントの端部を中心にして起こる。
【0160】
ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントの傾斜移動は、細胞培養容器に含まれ得る任意の溶液を、その1又は複数のウエルの各隅を含む細胞培養容器の隅に収集するのに役立ち得る。細胞培養容器内の溶液のそのような収集は、娘細胞培養容器に播種するために細胞培養容器から細胞の懸濁液の量を引き出すことを含む、ピペットモジュール200の粉砕又は吸引動作を容易にし得る。したがって、ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントは、特に細胞培養容器がその上に配置され得る場合、ピペットモジュール200の複数のピペットによってアクセス可能であるべきである。
【0161】
取扱モジュール400の特定の機能は、システム1が1又は複数の画像を取り込むなどのその様々な機能を実行する前に、及び細胞の1又は複数の培養物の開示した適応継代方法の様々な工程を実行する前に、細胞培養容器をステージモジュール500(又はステージ110)に配置することであり得る。
【0162】
一実施形態では、ステージモジュール500、又はステージ110は、その上の細胞培養容器の存在及び重量を検出及び報告するための1又は複数のロードセルと関連している。したがって、1又は複数のロードセルは、動作を開始するかどうかについてシステム1にフィードバックを提供し得る。例えば、ステージモジュール500、又はステージ110からの細胞培養容器の欠如は、液体分注動作が実行されるべきではないことを合図することがあり、それにより、不必要な流出を防ぐことがあり、システム1形態をオフラインにする必要を防ぐことがある。一実施形態では、1又は複数のロードセルは、蓋が細胞培養容器から取り外されているかどうかを検証するのに十分な感度がある。一実施形態では、1又は複数のロードセルは、わずか約100μLの液体移動が起こったことを検証するのに十分な感度がある。
【0163】
一実施形態では、ステージ110は、ステージモジュール500に含まれる。一実施形態では、ステージ110は、ステージモジュール500とは別個である。
【0164】
システム1は、少なくとも撮像モジュール100、及びこれに含まれ得る他のモジュールであって、例えばピペットモジュール200、液体ディスペンサモジュール300、並びに取扱モジュール400のうちの1つ又は複数、に通信可能に結合された少なくとも1つのプロセッサ150をさらに備える。一実施形態では、少なくとも1つのプロセッサ150は、少なくとも撮像モジュール100、ピペットモジュール200、液体ディスペンサモジュール300、取扱モジュール400、及び任意にステージモジュール500に通信可能に結合されている。
【0165】
撮像モジュール100に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、細胞培養容器をステージ110(又はステージ500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネント)に配置するか、又は細胞培養容器をステージ110(又はステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネント)から除去するか、1又は複数の画像を取り込むか、及び/又は、1又は複数の画像に基づいて1又は複数の特性を計算するかどうか、出力し得る。
【0166】
ピペットモジュール200に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、システム1の第1の位置からシステム1の第2の位置に移動するか、細胞の懸濁液の量など、細胞培養容器からある量を吸引するか、細胞培養容器内の量を粉砕(すなわち、ピペットで上下)するか、娘細胞培養容器にある量の細胞の懸濁液を播種するか、1又は複数のピペットの端部からピペットチップを外すか、又は、吸引した量を廃棄物トラフに排出するかどうか(以下を参照)を、出力し得る。
【0167】
液体ディスペンサモジュール300に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、ある量の液体を細胞培養容器に分注するか、又は、どの溶液を分注するか、及びそのような溶液の量を指定するかどうかを、出力し得る。
【0168】
取扱モジュール400に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、システム1内の第1の位置からシステム1内の第2の位置に移動するか、細胞培養容器又はその蓋をシステム1内の第1の位置からシステム1内の第2の位置に移動させるか、細胞培養容器の蓋を外すか、又はピペットチップラックを移動するかどうかのコマンドを与え得る。少なくとも1つのプロセッサ150はまた、取扱モジュール400の一対の対向可能なアームに優先して一対のパドルを係合するかどうかのコマンドを与え得る。
【0169】
ステージモジュール500に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、ステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントを、X軸若しくはY軸、又はその両方に沿った経路で移動させるか、あるいはステージモジュール500若しくはプラットフォーム510、又はそのサブコンポーネントをその端部に沿って傾斜させるかどうか、コマンドを与え得る。
【0170】
一実施形態では、システム1は、システム1の様々なモジュールの動作を調整して、継代、培養、拡大、又は分化プロトコル(このプロトコルは自動化されていてもよい)を実行するための1つの中央プロセッサ150を備える。「継代」という用語が本明細書の以下又はどこかで使用される場合、培養、拡大、又は分化、又はそれらの変形の用語が等しく適用され得ることが意図されていることに留意されたい。そのような実施形態では、プロセッサ150は、システム1に通信可能に結合されたコンピュータデバイスに含まれ得る。
【0171】
一実施形態では、システム1は、システム1の様々なモジュールの動作を調整して、継代、培養、拡大、又は分化プロトコル(このプロトコルは自動化されていてもよい)を実行するための複数のプロセッサ150を備える。そのような実施形態では、第1のプロセッサは、システム1に通信可能に結合された第1のコンピュータデバイスに含まれることがあり、第2のプロセッサは、システム1のモジュール(撮像モジュール100の画像プロセッサなど)に統合されることがあり、第1のプロセッサ及びシステム1に通信可能に結合され得る第2のコンピュータデバイスに含まれ得る。
【0172】
それにもかかわらず、少なくとも1つのプロセッサ150は、撮像モジュール100などから1又は複数の画像を受信及び/又は処理し、撮像モジュール100から受信した1又は複数の画像に基づいて、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算する(上記のように、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性の計算を除いて、適応継代プロトコルの出力はシステム1とインタフェースする)ように構成され得る。一実施形態では、少なくとも1つのプロセッサはまた、細胞の1又は複数の培養物の適応継代を実行するために、システム1の様々なモジュールの動作を調整し得る。
【0173】
一実施形態では(及び上記のように)、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞の培養物のコンフルエンスの指標に対応する。細胞の培養物のコンフルエンスは、1又は複数の画像を分析して、細胞の培養物によって覆われる細胞培養容器の表面積、又は判定を行うために使用される表面積の他の部分を判定することと、この値を、細胞培養容器の総表面積、又は判定を行うために使用される表面積の他の部分によって分割することとによって、計算し得る。一実施形態では、ソフトウェアスクリプトを実行して、1又は複数の画像のそれぞれを表現に変換することがあり、灰色又はグレースケールのピクシレーションが細胞の培養に割り当てられて、白い背景から細胞の培養物を対比する。一実施形態では、細胞は、黒い背景に対して白色、灰色、又はグレースケールのピクシレーションを割り当てられ得る。いずれにしろ、変換された表現は、システム1に関連付けられた少なくとも1つのプロセッサ150によって容易に分析されて、細胞培養容器内の細胞の培養物のコンフルエンスの指標を判定し得る。
【0174】
したがって、細胞の培養物のコンフルエンスの変化を経時的に評価することが可能であり得る。
図3Aは、細胞培養容器のウエル内の細胞の培養物を毎日撮影した画像を示している。画像の目視検査により、細胞の培養物のコンフルエンスが後続の1又は複数の時点と比較して第1の(早い)時点から増加することが確認されるが、コンフルエンスとその変化を効率的、客観的かつ確実に定量化することは困難である。
図3Bは、
図3Aに示されている各画像の変換された表現を示している。変換された表現に基づいて、システム1に関連付けられた少なくとも1つのプロセッサ150は、単一の時点又は複数の時点にわたるかどうかにかかわらず(例えば、同じ継代内であるか、又は異なる継代にわたるかどうかにかかわらず)、細胞培養容器内又は細胞培養容器間の細胞の培養物のコンフルエンスを客観的かつ容易に計算し得る。
【0175】
変換された表現に基づくコンフルエンスの判定は、Hoechst染色などのDNA結合染料を用いた古典的なアプローチを使用したコンフルエンスの判定と一致している(
図4A及び
図4B)。
図4Aは、Hoechstで染色されていない、又は染色された同じ細胞培養容器の実際の画像と変換された表現を比較している。
図4Bは、2つの方法(R
2=0.9、標準誤差=0.04、p=0.95)を使用して、細胞の培養物の計算されたコンフルエンスの一致を回帰分析によって検証する。
図4Cは、一連の時点での細胞の培養物のコンフルエンスが、様々な条件下で培養された様々な細胞株の1又は複数の画像に基づいて計算できることを示している。
【0176】
さらに、変換された表現に基づく異なる時点でのコンフルエンスの判定は、細胞の培養物のコンフルエンスの増加が、培養中の細胞の予想される成長速度と一致して、ほぼ指数関数的成長モデル(
図5A)に適合することを確認する。コンフルエンスの変化の判定はまた、細胞の培養物の成長速度(すなわち倍加時間)を計算するために使用され得る。
図5B及び
図5Cは、細胞の2つの異なる培養物(すなわち細胞株)について、計算された倍加時間が期待値と一致していることを示している。細胞の培養物のコンフルエンスの経時変化から判定された指数関数的成長モデルに基づいて、後続の時点での細胞の培養物のコンフルエンスを予測することが可能であった(
図5D)。
図5Dは、後続の時点で予測されたコンフルエンスが、同じ後続の時点での同じ細胞の培養物の実際のコンフルエンスと一致することを確認している。
【0177】
前述のことは、クランプ継代された細胞の培養物の1又は複数の画像に基づいてコンフルエンス(及びその経時変化)を客観的に計算し得ることを示しているが、スプレー継代又は単一細胞として継代された細胞の培養物のコンフルエンスを客観的に計算することも可能である(機械的掻き取りなしの、細胞の培養物上の培地の繰り返し洗浄によって剥離された細胞)(
図6A~
図6F)。したがって、本明細書に開示される適応継代システム及び方法は、特定のPSC株、間葉系幹細胞、上皮幹細胞、神経幹細胞、癌細胞、癌細胞株などを含むがこれらに限定されない一般的な哺乳動物細胞など、クランプとして必ずしも継代/培養されない細胞に適用可能であり得る。PSCが単一細胞として継代される実施形態において、培養培地中に、CloneR(商標)(STEMCELL Technologies)又は開示及び/又は市販され得る他のものなどの個々のPSCの生存を促進するサプリメントを含める必要があることがある。さらに、システム1を使用して、細胞のクローン集団を派生させることが可能であり得る。
【0178】
一実施形態では(及び上記のように)、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞数の指標に対応する。コロニーに組織化されたものなど、細胞の培養物内の細胞の数は、少なくとも個々の細胞の面積、個々の細胞が含まれるコロニーの面積、及び/又はコロニー内の細胞スタッキングの程度の関数であり得る。個々の細胞及び細胞のコロニーの面積、並びに細胞スタッキングの程度はそれぞれ、撮像モジュール100を使用して取り込まれた1又は複数の画像から計算され得る。確かに、より大きなコロニー面積及び細胞コロニーにおける高度の細胞スタッキングは、そのコロニー内の細胞数の増加、したがって細胞の培養物中の細胞数の増加に対応するはずである。
【0179】
コロニー面積は、生の画像あるいは1又は複数の画像の変換された表現に基づいて計算され得るが、細胞スタッキングの程度を定量化することは、より大きな課題となる。細胞スタッキングの程度は、個々のコロニーの明るさに基づいて判定することがあり、これは、細胞の層が増えると、通過できる光が少なくなり、コロニーが比較的明るくなるためである。一実施形態では、変換された表現は、細胞スタッキングの程度を判定し得るヒートマップとして提示し得る。一実施形態では、1又は複数の画像の生画像は、コロニーの見た目の明るさに関して十分なデータを提供し得る。いずれにせよ、必要な値が得られたら、細胞培養容器内(又はその中の各コロニー内)の細胞数を計算し得る。細胞の特定の培養物が細胞スタッキングを起こしにくい実施形態では、細胞数は、細胞の培養物の個々のコロニーの明るさの判定に依存することなく計算され得る。
【0180】
図7では、1又は複数の画像に基づいて計算された平均コロニーサイズ(つまり面積)が、Hoechst染色アプローチ(R
2=0.86、p=0.94)を使用して判定された平均コロニーサイズ(つまり面積)に対応することが示されている。したがって、細胞の培養物内(又は細胞の複数の培養物の間)のコロニーサイズ分布の指標は、1又は複数の画像から客観的に判定されることがあり、そのような1又は複数の特性は、適応継代のためのシステム1を出力又は使用するために、単独で、又は他の1又は複数の特性と組み合わせて使用され得る。
【0181】
図8では、細胞培養容器内の総細胞数は、撮像モジュール100を使用して取り込まれた1又は複数の画像に基づいて計算されることがあり、そのような計算は、手動アプローチを使用して得られた総細胞数のカウントとの良好な相関を示すことが示される(R
2=0.94、p<0.0001)。1又は複数の画像に基づく総細胞数の判定は、生の強度密度の観点で表され、生の強度密度値は、生の細胞の培養物の1又は複数の画像(つまり、生の画像)と組み合わせて、細胞のコンフルエンスの変換された表現から生成される。一実施形態では、細胞数を取得することは、1又は複数の画像を較正し、出力適応継代プロトコルの信頼性を向上させるのに役立ち得る。一実施形態では、細胞の培養物の細胞数の取得は、手動で行われてもよく、又は本明細書に記載の撮像アルゴリズムを使用して取得されてもよい。
【0182】
一実施形態では(及び上記のように)、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞の培養物の形態の指標に対応し得る。細胞の培養物の許容できる若しくは許容できない形態、又はそのサブセットは、1又は複数の画像に基づいて、細胞の培養物のデジタルプロファイルを標準(例えば、対照培養物の対応する特性(1又は複数))と比較することによって判定し得る。例えば、PSCコロニーは通常、滑らかな端部でドーム型になっており、細胞が密に詰まっており、核対細胞質比が高い。対照的に、低品質若しくは分化したPSCコロニー又は分化を受けているそれらのPSCコロニーは、前述の特性から逸脱している。したがって、細胞の培養物中のPSCコロニーのデジタルプロファイルは、1又は複数の画像に基づいて生成することができる。デジタルプロファイルを標準と比較すると、システム1は、適応継代プロトコルなどの適切な一連の動作を少なくとも1つのプロセッサを介して出力又は実行するために使用され得る。
【0183】
上記の段落に関連する実施形態では、1又は複数の特性は、細胞培養容器内の細胞の培養物の分化の程度の指標に対応し得る。1又は複数の画像に基づいて、標準又は対照培養物と比較した細胞の培養物の形態の一致又は不一致(コロニー毎又は平均ベースなど)は、細胞の培養物の分化状態を予測し得る。例えば、システム1を使用して分化プロトコルが進行中であり、計算された1又は複数の特性が特定の時点で予想される細胞形態を確認する場合、その時点で進行中のプロトコルからの逸脱は必要ないことがある。ただし、計算された1又は複数の特性に基づいて、予想よりも少ないか、分化が判定されない場合、システム1は、プロトコルを更に1又は複数の撮像時点まで続行することを出力し得るか、システム1は培地変更を出力(及び/又は実行)して新しい分化培地を導入することがある。別の例では、システム1がPSCの培養物の増殖プロトコル又は維持プロトコルを実行するために使用されている場合、かなりの程度の分化が、予想よりも早く継代プロトコル又は終了プロトコルをトリガし得る。
【0184】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物の分化状態(又は形態の変化)は、1又は複数の画像、及び機械学習分類器(すなわち、訓練された機械学習分類器)を使用して得られたデータから導出された方程式又はモデルに依存して判定され得る。
図9A及び9Bは、それぞれ、撮像モジュール100によって取り込まれた代表的な画像と、9Aの画像の未分化、分化(より明るい)及び背景(最も暗い)領域が重ね合わされた代表的な画像を示す。
図9Cは、3つの異なる分類モデルを使用した分類器の結果を示している。未分化コロニーの分類のみに依存し、予測子を無視する第1の分類モデルを使用すると、53.83%±0.00%の分類精度を達成できる。相関が最も高いクラス(つまり、未分化、分化、及び背景)に特徴を割り当てる第2の分類モデルを使用すると、94.93%±0.08%の分類精度を達成できる。規則の決定木に基づいてクラス(つまり、未分化、分化、及び背景)に特徴を割り当てる第3の分類モデルを使用すると、99.90%±0.02%の分類精度を達成できる。前述のデータを生成するために使用される分類器は、背景、未分化PSC、及び分化PSCの領域が1又は複数の画像のサブセットにおいて手動で選択された画像のセットを使用して訓練された。この訓練セットには、
図9のテスト画像は含まれていない。分類器の訓練と実験は、WEKA Workbenchを使用して実行された。例えば、Ian H.Witten及びEibe Frank(2005)「Data Mining:Practical machine Learning tools and techniques」、第2版、Morgan Kaufmann、サンフランシスコ、2005を参照されたい。
【0185】
外胚葉、内胚葉、中胚葉の系統細胞はそれぞれ固有の形態を示すため、訓練された機械学習分類器が1又は複数の画像に基づいてそのような区別を行うことも可能である。
【0186】
本明細書に開示されるシステム又は方法がPSC維持プロトコルを実行するために使用される実施形態において、未分化PSCを選択的に継代することも可能であることがあり、したがって、比較的高度の分化を示す細胞培養容器コロニーを残す(
図10)。例えば、システム1が少なくとも1つのプロセッサ150によって開始されたコマンドに応答して適応継代プロトコルを開始するような時点で、ピペットモジュール200は、(ステージモジュール500の傾斜機能の依存の有無にかかわらず)細胞培養容器から細胞培養培地を吸引することがあり、液体ディスペンサモジュール300は、ある量の洗浄バッファを細胞培養容器に分注し得る(この洗浄バッファは、その後、ピペットモジュール200を使用して吸引される)。ReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)などの特殊な細胞剥離溶液を細胞培養容器に分注して、未分化PSCのコロニーを細胞培養容器から選択的に剥離し得る。細胞の培養物の分化の指標に応じて、細胞剥離溶液への曝露時間を調整し得る。例えば、高推定分化の場合、より短いインキュベーション時間は、剥離する分化したコロニーの割合を減らすことがある。したがって、未分化PSCの剥離したコロニーのみから生成されたある量の細胞の懸濁液を播種すると、娘細胞培養容器内の未分化PSCが濃縮されることがある。同様に、分化プロトコルを実行する際に、このように剥離された未分化PSCのコロニーは廃棄されることがあり、残りの分化したコロニーは解離され、次いで継代され得る。
【0187】
一実施形態では、1又は複数の特性は、1又は複数の後続の時点と比較した、第1の時点からの計算された1又は複数の特性の変化の指標に対応し得る。一実施形態では、1又は複数の特性は、1又は複数の以前の時点と比較した、第1の時点での計算された1又は複数の特性の変化の指標に対応し得る。例えば、1又は複数の特性は、第2の時点での細胞の培養物のコンフルエンスの指標と比較した、第1の時点での細胞の培養物のコンフルエンスの指標であり得る。一実施形態では、第1の時点及び第2の時点(例えば、後続の時点又は以前の時点)は、細胞の培養物の同じ継代中又は細胞の培養物の異なる継代中であり得る。
【0188】
図11は、システム1の使用などによって適応継代プロトコルが実施されるべき時点が、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の培養物のコンフルエンスを計算することに基づいて判定され得ることを示している。したがって、前述のデータのプロットを、細胞の培養物の最大又は所望の継代前コンフルエンスまで外挿することは、特にシステム1が任意の1時点で最大数百枚のプレートを管理している場合に、継代プロトコル(及びそのパラメータ)のスケジューリングに役立つことがある。
【0189】
一実施形態では(及び上記のように)、1又は複数の特性は、1又は複数の特性のうちの異なる特性の関数として、1又は複数の特性のうちの1つの指標に対応し得る。例えば、1又は複数の特性は、細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の程度の関数として、細胞の培養物のコンフルエンスの指標であり得るか、又はその逆も成り立つ。そのような1又は複数の特性はまた、第1の時点及び1又は複数の後続の時点で評価され得る。そのような実施形態では、剥離溶液の種類、体積、又はインキュベーション時間は、出力適応継代プロトコルのパラメータに含まれ得る。
【0190】
1又は複数の特性の計算に関連する全てのデータポイントの取得及び分析に基づいて、システム1は自己学習(つまり自己訓練)が可能であり、適応継代又はその他のプロトコルをいつ実行するべきかに関する命令をオペレータが提供する必要はない。したがって、本明細書に開示される主題は、細胞の培養物の適応継代のためのシステム及び方法に関連し得る。いくつかの実施形態では、システム及び/又は方法は自動化されていてもよい。
【0191】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の1又は複数の培養物に関して計算された1又は複数の特性は、第1の時点又は1又は複数の後続の時点で、細胞の第1の培養物と細胞の第2の培養物との間で異なり、システム1の出力又は使用に基づいて、1又は複数の特性が、後続の継代中において、より高い一貫性を有する。例えば、第1の細胞培養容器又はその第1のウエルにおける細胞の第1の培養物のコンフルエンスは、第1の時点(例えば、継代0の6日後)で45%であり、第1の細胞培養容器の第2のウエルなどの第2の細胞培養容器内の細胞の第2の培養物のコンフルエンスは、第1の時点で30%であり、主観的(例えば、予め決定された)スケジュールで細胞の第1及び第2の細胞培養物を継代すると、非同期継代プロトコルが実行されることになる。非同期継代プロトコルを実行することは、効率の問題にとって望ましくないことがあるが、例えば細胞の第1の培養物と細胞の第2の培養物が同じ細胞培養容器の異なるウエルにある場合、他の細胞の培養物が継代されているため、細胞の一方の培養物を不必要なリスクにさらすこともある。したがって、システム1は、分割比又は継代時間などの細胞の第1及び第2の培養物の両方の後続の継代の1又は複数のパラメータを適応的に調整することができ、その結果、それらは後続の継代において予定通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達し得る。例えば、細胞の第1及び第2の培養物のコンフルエンスがそれぞれ45%及び30%であり、その後の継代において7日目までに約70~80%のコンフルエンスを達成することが望ましい場合、システム1は、とりわけ、細胞の第1及び第2の培養物のそれぞれについての適切な分割比を示す適応継代プロトコルを出力し得る及び/又は実行するために使用されることがある。
【0192】
細胞の培養物を継代する場合、適切な播種希釈度(すなわち、分割比)が典型的には主観的に(例えば発見的に)選択される。考慮すべきことには、親プレートのコンフルエンスの推定、後続の継代における所望の時点での目標コンフルエンスを得ること、不正確な手段を用いて細胞の懸濁液中の細胞又はクランプの数を計数することによって、等が含まれ得る。そのような不正確な手段は、操作者のばらつきをもたらす可能性があるため問題があり、大規模な継代の場合、そのようなアプローチは律速であり得る。細胞の培養物の客観的基準に基づいて分割比の選択を適応的に調整するために、継代の近くでの親コンフルエンス、分割比、及び次の継代日における所望の娘コンフルエンスを定量的に連結するモデルを開発した。言い換えれば、モデルは、細胞の親培養物のコンフルエンス及び細胞の娘培養物の所望のコンフルエンスを考慮して適切な希釈度を出力する。そのようなモデルは、例えば、線形、二次、又は高次回帰モデルであり得る。
【0193】
継代時近くの親コンフルエンス、分割比、及び結果として生じる娘コンフルエンスを関連付ける回帰モデルは、様々な密度の親プレートを様々な分割比で分割し、結果として生じる娘コンフルエンスを7日目に測定する実験で取得し得る(例えば、
図12及び
図13のように)。
図12では、H7 hPSC細胞株の5つの6ウエルプレートを、最初に様々なコンフルエンスで作製した。様々な親コンフルエンスを有するこれらのプレートのそれぞれにおいて、ウエルを様々な希釈度(1:25、1:50、1:75,1:100、1:150、1:200)で継代した。親プレート及び娘プレートのコンフルエンスを経時的に評価し、7日目の娘プレートのコンフルエンスを決定した。
図13では、同様の実験を、R038細胞株を用いて実施し、ここでも様々な親コンフルエンスを有する5つの6ウエルプレートから開始し、様々な希釈度(1:25、1:50、1:75,1:100、1:150、1:200)で各プレートを継代し、親プレート及び娘プレートのコンフルエンスを評価した。このようにして取得されたデータセットからのデータを使用して、具体的には、a)継代時付近の親コンフルエンス(この場合、7日目のコンフルエンス)、b)使用された分割比、及びc)7日目の結果として得られた娘コンフルエンス、希釈度、親コンフルエンス、及び7日目の娘コンフルエンスに関する2度多項式モデルを生成してもよく、このモデルを適応継代プロトコルの出力に使用してもよい。
【0194】
なお、取得したデータセットを用いて、他の日(例えば、異なる周波数で)における適応継代のモデルを生成してもよい。例えば、特定の親コンフルエンスが与えられると、3日目又は4日目の継代のために、3日目又は4日目に所与のコンフルエンスに達するためにどのような分割比が必要とされるかを予測するために、3日目又は4日目の娘コンフルエンスが使用される。さらに、そのようなモデルは、2つの細胞株からのデータを組み合わせてモデルを生成してもよく、あるいは、個々の細胞株からのデータを使用して、別個の細胞株特異的モデルを生成してもよい。
【0195】
図14Aは、示された回帰モデルを作成するために使用されるデータ点を示し、
図14Bは、異なる角度で見た同じ表面である。データ点がモデルに近接していることは、良好な適合を示す。したがって、そのようなモデルは、他の2つの変数が与えられた場合に、3つの変数のうちの1つを予測するために適応継代に使用され得る(例えば、親コンフルエンス及び7日目の所望の娘コンフルエンスを考慮して、必要な希釈度を予測する)。
図15は、(R
2調整=0.85、二乗平均平方根誤差=0.00469)良好なモデルフィットを示す、前述のモデルに基づく実際の(データからの)希釈度対予測希釈のプロットを示す。
【0196】
コンフルエンスの高いウエル間変動及び高いウエル間変動係数(「COV」)を有するプレートのセットを調製することによって上記のようなモデルを試験し、モデルを適用して50%+/-10%の平均プレートコンフルエンスを達成し、ウエルーウエルCOVを改善した。
【0197】
図16では、4つの6ウエルプレートに細胞の培養物を播種し、プレートの各ウエルを同じ密度で播種し、各プレートを様々な密度(P0終わりで13%~26%の7日目コンフルエンス)で播種した。その後の継代において、ストレス条件を適用し、各プレート内のウエル間変動を増加させた(すなわち、P0からのウエル1を1:25でP1-ストレスのウエル1に播種し、P0からのウエル2を1:50でP1のウエル2に播種し、P0のウエル3を1:75でP1のウエル3に播種し、P0のウエル4を1:100でP1のウエル4に播種し、P0のウエル5を1:150でP1のウエル5に播種し、P0のウエル6を1:200でP1のウエル6に播種した)。予想通り、P1プレートは、同じプレート内のウエル間で非常に変動するコンフルエンスを有していた。さらに、P1プレートは、7日目に22%から47%まで変動する平均コンフルエンスを有していた。適応継代のパラメータを出力するために上記のようなモデルを使用して、次の継代の終わりに50%のコンフルエンスを達成するために必要な希釈度(したがって、分割比)を計算した。前述のモデル、親コンフルエンス及び7日目の目標娘コンフルエンスに依存する出力分割比は、約50%の平均コンフルエンス及びウエル間の低下したCOVを有する娘プレート(P2)をもたらすと予想され得る。モデル予測と一致して、
図16は、プレートがP2の7日目に約50%の平均プレートコンフルエンス(平均プレートコンフルエンス51%~60%)を示すことを示す。
【0198】
また予想と一致して、適応継代は、COVの改善によって示されるように、より一貫したコンフルエンスをもたらした。
図17は、中の細胞のそれぞれの培養物のコンフルエンスの比較的広い変動を有するいくつかの細胞培養容器にわたって、システム1を使用する適応継代プロトコルに従って、コンフルエンスの変動がより一貫し得るようになることを示す。親細胞培養容器のコンフルエンスと娘細胞培養容器のコンフルエンスとの間の関係を判定すると、娘又は孫娘細胞培養容器への細胞懸濁液の適切な希釈度(すなわち、播種密度)を計算することが可能である。
【0199】
次に、本発明者らは、長期培養にわたって一貫したコンフルエンスで複数の細胞株を維持する適応継代の能力を試験した(適応継代アルゴリズムを使用して最大4継代)。この試験では、上記及び
図12~
図15で概説したのと同様の方法で線形回帰モデル(1C細胞株について)を生成したことに留意されたい。
【0200】
図18では、7つの6ウエルプレートに1C細胞株、H9細胞株又はH7細胞株(「標準」)を播種し、各プレート及びその各ウエルを同等の密度で播種した。その後の継代において、ストレス条件を適用し、各プレート内のウエル間変動を増加させた(すなわち、P0からのウエル1を1:25でP1-ストレスのウエル1に播種し、P0からのウエル2を1:50でP1のウエル2に播種し、P0のウエル3を1:75でP1のウエル3に播種し、P0のウエル4を1:100でP1のウエル4に播種し、P0のウエル5を1:150でP1のウエル5に播種し、P0のウエル6を1:200でP1のウエル6に播種した)。上記のように、これにより、7日目にP1(「ストレス」)プレートが非常に変動するコンフルエンスを有することになる。非ストレス対照として、1C及びH9プレート3は、前述のストレス(すなわち、1:25~1:200の分割比)の代わりに、P0終わりで適応継代に供した。この線形モデル、親コンフルエンス値(例えば、P1終わり)及び目標コンフルエンス(例えば50%)を使用して、次の継代の間に予定通りに目標コンフルエンスに達するために、各ウエルの適切な希釈度を出力することができる。前述のプロセスを、図示のように後続の継代(「適応」)の各々にわたって繰り返した。
【0201】
適応継代は、多継代にわたって概して安定な平均コンフルエンスを維持することができ、培養条件が高すぎる又は低すぎるコンフルエンスから崩壊することはない。さらに、そのような適応継代の間、クランプを計数するため、細胞を計数するため、又は細胞の培養物又は(細胞の1又は複数の培養物の)1又は複数の画像を手動で(すなわち主観的に)検査して眼によるコンフルエンスを推定するために、ユーザの介入は必要とされないことがある。1Cモデルでは、適応継代の結果、平均コンフルエンスは目標の10%以内であった(平均プレートコンフルエンス43%~48%)。1C生成モデルに基づくH9の適応継代について、平均コンフルエンスは安定していたが、目標を下回っていた。安定性は、細胞株特異的補正係数定数を使用して、任意の他の細胞株の適応継代のための1C生成モデルを調整することができることを示す。また、安定性は、細胞株特異的補正係数定数を使用して、1C細胞のドリフトに対して、又はそうでなければ複数回の継代にわたる特性に対して1C生成モデルを調整することができることを示す。P4終わりでコロニー形態を評価する場合、細胞の質(形態によって評価した場合)は、手動で継代した(非適応)対照と同等であった(
図19)。
【0202】
1又は複数の画像を取り込むとき、システム1は、1又は複数の画像に基づいて、細胞の培養物の1又は複数の特性を(撮像モジュールに通信可能に結合され得る少なくとも1つのプロセッサ150によって)計算する。一実施形態では、1又は複数の特性の計算は、上記で提供された説明に従って達成し得る。特に、1又は複数の特性は、
a)細胞の培養物のコンフルエンスの指標、
b)細胞の培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
c)細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
d)細胞の培養物のコロニーサイズ分布の指標と、
e)a)、b)、c)、又はd)の第1の時点から1又は複数の後続の時点への変化の指標、
f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標、又は
g)細胞の培養物の継代にわたるa)、b)、c)若しくはd)の変化の指標
を含み得る。
【0203】
1又は複数の特性を計算すると、システム1は、細胞の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを(少なくとも1つのプロセッサ150などによって)出力する及び/又は適応継代プロトコルにおいて使用され得る。一実施形態では、適応継代プロトコルは、後続の継代において予定通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供する。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間を含み得る。一実施形態では、適応継代プロトコル(例えば、そのパラメータ)は、細胞の培養物の計算された1又は複数の特性と、細胞の培養物の1又は複数の特性について学習又は入力された閾値レベルとの比較に基づいてもよい。
【0204】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、約30~90%、又はより具体的には約40~80%の範囲、又は更により具体的には約50~70%の範囲にある。したがって、細胞の培養物が約30~90%のコンフルエンスを達成した場合、システム1は適応継代プロトコルで出力又は使用され得る。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標は、約40~80%の範囲にある。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標は、約50~70%の範囲にある。
【0205】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、対照細胞培養物の約-30%と+30%との間である。例えば、細胞の培養物の形態が学習又は入力された閾値レベルを超えて逸脱した場合、これは、細胞の培養物がもはや適切に維持されておらず、細胞の質が低下しており、及び/又は細胞の培養物が分化を受けていることを示し得る。細胞の培養物が、その形態に関して、対照細胞培養物の約-30%と+30%との間で逸脱している場合、システム1は、適応継代プロトコルで出力又は使用され得る。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標は、対照細胞培養物の約-20%と+20%との間である。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標は、対照細胞培養物の約-10%と+10%との間である。
【0206】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の分化レベルの指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、維持プロトコルにおいて対照培養物の約0~30%、又は分化プロトコルにおいて対照培養物の約50%~100%である。一方、細胞の培養物が維持プロトコルの対照培養物に対して約0~30%、又は約10~20%、又は約15%の分化レベルが達成された場合、システム1は、細胞の培養物中に残っている目的の細胞(例えば、維持されているか、又は分化していない)の数を考慮して適応継代プロトコルを出力し得る。対照的に、細胞の培養物が、分化プロトコルにおいて対照培養物に対して、約0~30%、又は約10~20%、又は約15%の分化レベルを有する場合、システム1は何の措置も取らないことを出力し得る。又は、そのようなシナリオでは、使用済みの分化培地を新鮮な分化培地で置き換えることが出力され得る。一方、細胞の培養物が、分化プロトコルにおける対照培養物に対して約50~100%、又は約60~90%、又は約70~80%、又は約75%の分化レベルを有する場合、システム1は、適応継代プロトコルのタイミング及び/又はパラメータで出力し得る。対照的に、細胞の培養物が、維持プロトコルにおいて対照培養物に対して、約50~100%、又は約60~90%、又は約70~80%、又は約75%の分化レベルを有する場合、システム1は、細胞の培養物をトライ及び救済するための適応継代プロトコル又は終了プロトコルのタイミング及び/又はパラメータで出力し得る。
【0207】
出力適応継代プロトコルは、目的の細胞を選択的に剥離するための特殊な細胞剥離溶液と併せて実行され得る。一実施形態では、形態が逸脱した程度(又は、分化度)に応じて、細胞剥離溶液への曝露時間を調整してもよい。例えば、高い逸脱の場合、より短いインキュベーション時間は、剥離する逸脱したコロニーの割合を減らすことがある。したがって、細胞の剥離したコロニーのみから生成されたある量の細胞の懸濁液を播種すると、娘細胞培養容器内の非逸脱細胞について濃縮されることがある。同様に、分化プロトコルを実行する際に、このように剥離された細胞のコロニーは廃棄されることがあり、残りの分化したコロニーは解離され、次いで継代され得る。一実施形態では、細胞は未分化PSCであり、剥離溶液はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は分化したPSCであり、剥離溶液はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は神経前駆細胞であり、剥離溶液はSTEMdiff(商標)神経ロゼット選択試薬(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は神経前駆細胞以外であり、剥離溶液はSTEMdiff(商標)神経ロゼット選択試薬(STEMCELL Technologies)である。他の剥離溶液は当技術分野で公知であり得る。
【0208】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコロニーサイズ分布の指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、対照培養物の平均コロニーサイズ分布又はそのサブフラクションの約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内である。したがって、細胞の培養物が、対照培養物の平均コロニーサイズ分布又はそのサブフラクションの約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内の平均コロニーサイズ分布を達成した場合、システム1は、出力パラメータに従って適応継代プロトコルを出力し得る又は実行するために使用され得る。一実施形態では、対照培養物の平均コロニーサイズ分布の約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内の閾値レベルは、コロニーサイズ分布のサブフラクション、例えば、上位10%、又は上位20%、又は上位30%、又は上位40%、又は下位10%、又は下位20%、又は下位30%、又は下位40%に関係する。
【0209】
関連付けられた少なくとも1つのプロセッサは、出力適応継代プロトコルを実行するなど、システム1のモジュールの動作を調整するように更に構成され得る。そのようなプロトコルは、細胞の培養物の計算された1又は複数の特性と、細胞の培養物の1又は複数の特性について学習又は入力された閾値レベルとの比較に基づいて、1又は複数の撮像モジュール100、ピペットモジュール200、液体ディスペンサモジュール300、及び取扱モジュール400の動作を調整することを含み得る。一実施形態では、少なくとも1つのプロセッサは、自動化された方法でシステム1のモジュールの動作を調和し得る。
【0210】
システム1は、少なくともピペットモジュール200、液体ディスペンサモジュール300、取扱モジュール400、及びステージモジュール500、またピペットチップラック225及び230、並びにキャリッジ220が含まれる実施形態ではこれら、を収容するためのエンクロージャ700をさらに備え得る。撮像モジュール100及びカメラ105はまた、エンクロージャ700(
図20)に収容され得るが、インキュベータモジュール(以下に説明される)などの他の場所に含まれ得る。
【0211】
一実施形態では、エンクロージャ700は、無菌の内部環境を維持する。一実施形態では、エンクロージャ700は、無菌室に対応し得る。そのような実施形態では、本明細書に開示されるシステム1のすべてのモジュールは、無菌室に含まれ得る。一実施形態では、エンクロージャ700は、生物学的安全性キャビネットに対応し得る。そのような実施形態では、スペースの制約のために、内部に配置されたモジュールは、適応継代(又は他の)プロトコルに必要なモジュールに限定されるべきである。
【0212】
一実施形態では、複数の溶液リザーバ350、冷蔵モジュール800、及び廃棄物リザーバ900は、エンクロージャ700の外部にある。
【0213】
システム1は、1又は複数の溶液リザーバ350のうちの1又は複数を保管するための冷蔵モジュール800をさらに備え得る。冷蔵モジュール800は、所望の温度で1又は複数の溶液リザーバ350のうちの1又は複数を保管することを意図する。例えば、細胞培養培地は、その内容物の分解を制限するために、約4℃で保管され得る。同様に、細胞剥離溶液、洗浄バッファ、及び特定の細胞培養マトリックス溶液は、望ましくは約4℃で保管し得る。
【0214】
冷蔵モジュール800は、1又は複数のセンサを含み得る。一実施形態では、第1のセンサは、複数の溶液リザーバ350のそれぞれの質量を検出し、(少なくとも1つのプロセッサ150に)報告する。したがって、第1のセンサは、適切な量の溶液が第1のリザーバから排出されたことをシステム1にリアルタイムでフィードバックする。これに失敗すると、システム1は、第1のリザーバから分注される溶液の修正量を決定することがある。同じ又は異なる実施形態では、第2のセンサが、冷蔵モジュール800内の温度を検出し、(少なくとも1つのプロセッサ150に)報告する。したがって、第2のセンサは、冷蔵モジュール800が適切な温度に維持されているというリアルタイムのフィードバックをシステム1に提供する。
【0215】
システム1はまた、廃棄物リザーバ900を含み得る(
図20を参照のこと)。廃棄物リザーバ900は、エンクロージャ700内に配置された廃棄物トラフ925と流体連通していることがある。システム1内の細胞の培養物又は他の構成要素を汚染する可能性を最小限に抑えるには、望ましくない溶液又は微生物であるかどうかにかかわらず、廃棄物トラフの設計及び位置が重要な考慮事項である。
図22A及び
図22Bは、廃棄物トラフ925の一実施形態を示している。
【0216】
一実施形態では、廃棄物トラフ925は、撮像モジュール100、液体ディスペンサモジュール300、及びステージモジュール500から離れていることがある。一実施形態では、廃棄物トラフ925を液体ディスペンサモジュール300の下に配置して、液体呼び動作中(すなわち、導管から古い又は室温の溶液を取り除く)の液体ディスペンサモジュール300の1又は複数の導管からの細胞培養溶液の廃棄を単純化し得る。一実施形態では、廃棄物トラフはステージモジュール500の下に配置し得、より具体的にはステージ510又はその付属部品の下に配置し得る。
【0217】
廃棄物トラフ925は、溶液を廃棄物リザーバ900に運ぶためのチャネル930を備える。一実施形態では、廃棄物トラフは、第1のシンク935及び第2のシンク937を含み、第1及び第2のシンクの両方が、チャネル930と流体連通している。第1のシンク935は、ピペットモジュール200から排出物を受け取ることがあり、第2のシンクは、液体ディスペンサモジュール300から、より具体的には、それに関連付けられた複数の導管から排出物を受け取ることがある。
【0218】
一実施形態では、第1のシンク935は、滅菌溶液などの溶液を提供するためのフラッシュ入口938をさらに含む。当業者は、細胞培養プロセスに有用な適切な滅菌溶液を知っているであろう。例えば、滅菌溶液は、希釈された漂白剤であり得る。あるいは、滅菌溶液は、イソプロピルアルコールなどのアルコールであり得る。
【0219】
一実施形態では、廃棄物トラフ925は、そこに排出される溶液の貯留を最小限に抑える形状を組み込み得る。一実施形態では、廃棄物トラフ925の受容面940は、チャネル930に向かって下向きに傾斜し、排出された溶液を促すことがある。一実施形態では、受容面940は、受容面940内に形成された点、又は実質的に点に集まる一対の傾斜壁をさらに含み得る。そのような実施形態では、壁の収束対は、下向きの傾斜と協働して、排出された溶液をチャネル930に向かって、チャネル930を通して促す。
【0220】
一実施形態では、廃棄物トラフ925は、廃棄物リザーバ900の詰まり又はチャネル930の閉塞を検出して(少なくとも1つのプロセッサ150に)報告するための液面センサ945をさらに備える。
【0221】
一実施形態では、廃棄物トラフ925は、疎水性コーティング又は超疎水性コーティングでコーティングし得る。一実施形態では、コーティングは、シリカナノ粒子ベースであり得る。当業者は、シロキサン又はパーフルオロカーボンベースのコーティングなどの他の適切な疎水性又は超疎水性コーティングに気付くであろう。
【0222】
一実施形態では、廃棄物トラフ925は、細胞培養培地などの残留溶液が集まり、潜在的な汚染問題を引き起こす可能性がある大きな開放エリアを最小化するために、比較的小さな設置面積を占めることがある。一実施形態では、廃棄物トラフ925は、その容量を減少させずに、開放エリアをさらに減少させるためのカバー950をさらに備える。
【0223】
システム1は、インキュベータモジュール1000をさらに含むことがあり、インキュベータモジュールは、多能性幹細胞などの細胞の培養物のための許容環境条件を維持する。インキュベータモジュールは当技術分野で知られており、例えば、Liconicから購入し得る。一実施形態では、インキュベータモジュール1000は、複数の細胞培養容器用のラックを含み得る。一実施形態では、インキュベータモジュール1000は、細胞培養容器をラックから選択的に引っ張るための取扱手段をさらに含み、そのような取扱手段は、細胞培養容器に関連付けられた固有の識別子(すなわち、バーコード及びバーコードリーダ)に基づいて細胞培養容器を選択的に引っ張る。
【0224】
一実施形態では、インキュベータモジュール1000は、その中の温度、又は湿度及びCO2%のような他の大気条件などの他の条件を検出して(少なくとも1つのプロセッサ150に)報告するための1又は複数のセンサを含む。
【0225】
システム1がインキュベータモジュール1000を含む場合、エンクロージャ700とインキュベータモジュール1000を接続し、細胞培養容器をインキュベータモジュール1000から取扱モジュール400の近くに輸送するためのコンベヤモジュール1150を含むことが望ましいことがある(
図20)。一実施形態では、コンベヤモジュール1150は、細胞培養容器が非滅菌環境にさらされるのを防ぐために閉鎖され得る。
【0226】
システム1の一実施形態はインキュベータモジュール1000及びコンベヤモジュール1150を含み、インキュベータモジュール1000及びコンベヤ1150の両方は、少なくとも1つのプロセッサ150に通信可能に結合されていてもよい。インキュベータモジュール1000に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、取扱手段を作動させて、その中のラックから細胞培養容器を選択的に引っ張るか、若しくは細胞培養容器を交換するか、又はその中の大気条件を調整するかどうかのコマンドを開始し得る。コンベヤモジュール1150に関して、少なくとも1つのプロセッサ150は、インキュベータモジュール1000から細胞培養容器を輸送するか、又は、細胞容器を、例えば、エンクロージャ700からインキュベータモジュールに輸送するかどうかのコマンドを開始し得る。
【0227】
システム1は、所望により、システムの各モジュールの動作を調整するためのコントローラ700をさらに備えることがある。コントローラ700は、パーソナルコンピュータに含まれ得るソフトウェアを含む。コントローラ700内のソフトウェアは、システムの各モジュールの動作を調整するために必要なコマンドを実行することができる。
【0228】
システム1は、少なくとも1つのプロセッサに通信可能に結合されたグラフィカルユーザインタフェース1200をさらに含み得る。グラフィカルユーザインタフェース1200は、好ましくは、エンクロージャ700の外部に配置される。一実施形態では、グラフィカルユーザインタフェース1200は、システム1と統合されたパーソナルコンピュータのディスプレイである。一実施形態では、グラフィカルユーザインタフェース1200は、システム1に無線で接続されたパーソナルコンピュータのディスプレイである。一実施形態では、グラフィカルユーザインタフェース1200は、モバイルアプリケーションと連動するモバイル・コンピューター装置であり得る。グラフィカルユーザインタフェース1200は、システム1のユーザに、細胞培養プロセス(例えば、適応継代、採取、増殖など)をスケジュールし、システム1を用いて実行される細胞培養プロセスを評価し、カメラ105によって取り込まれた1又は複数の画像を評価し、システム1に統合された各センサからの通知又はその状態を受信し、複数の溶液リザーバ350のそれぞれの液面レポートを観察するなど、システム1の動作を指示するために必要な制御を提供し得る。
【0229】
システム1は、本明細書で以下に記載されるように、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーを解離するための装置に従って、解離モジュール1300をさらに含み得る。細胞培養容器は、取扱モジュール300を使用して解離モジュール1300に輸送され得る。
【0230】
一実施形態では、システム1は自動化されていてもよい。すなわち、システム1は、継代、適応継代、分化、採取、増殖、終了、オンボーディングなどにかかわらず、自動化された方法で様々な機能又はプロトコル/方法を実行し得る。
【0231】
適応継代のための方法
本開示の別の態様では、装置1aを使用した細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための方法が記載され、この方法は、システム1を使用して又は手動で実行され得る。方法の特定の実施形態を
図23に示す。一実施形態では、装置1aは、本明細書に開示されたシステムに組み込まれてもよく、又は本明細書に開示されたシステムで実行される方法で使用されてもよい。一実施形態では、装置1aは、本明細書に開示された自動化システムに組み込まれてもよく、又は本明細書に開示されたシステムで実行される自動化方法で使用されてもよい。具体的な実施形態では、細胞は多能性幹細胞であることがあり、更により具体的には、細胞はヒト多能性幹細胞であり得る。多くの用途において、ヒト多能性幹細胞をクランプ又はクラスタとして継代することが望ましいため、ヒト多能性幹細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための方法は、そのクランプ継代に適していることがある。
【0232】
本開示の別の態様では、システム1を使用した細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための方法が記載され、この方法は、装置1aを使用して実行され得る。一実施形態では、システム1は自動化されていてもよい。具体的な実施形態では、細胞は多能性幹細胞であることがあり、更により具体的には、細胞はヒト多能性幹細胞であり得る。多くの用途において、ヒト多能性幹細胞をクランプ又はクラスタとして継代することが望ましいため、ヒト多能性幹細胞の1又は複数の培養物の適応継代のための方法は、そのクランプ継代に適していることがある。
【0233】
本明細書に開示される方法は、システム1を使用して実施され得るように、細胞の1又は複数の培養物の適応継代に使用され得るが、このように限定されない。このような方法のバリエーションを使用して、日常の維持方式の一部として培地交換を実行し得る。あるいは、この方法を使用して、細胞増殖方式を実施することがあり、細胞の培養物を、より大きな培養容器又はより多くのウエルに連続的に培養し得る。あるいは、この方法を使用して、新たに派生された、又は得られたPSC細胞株などの新しい細胞株のオンボード方式を実行することがあり、以前の継代でのデータ(つまり、1又は複数の特性)の取得及び分析は後続の継代(例えば、適応継代)を実行するための最適な条件について通知することがある。あるいは、方法を使用して、細胞の開始集団を分化培地などの分化条件にさらして、細胞の開始集団を細胞の派生系統に変換する、細胞分化方式を実施し得る。多能性幹細胞に特有の例には、適切な培養培地への曝露によるそのような細胞の外胚葉様又は外胚葉細胞、内胚葉様又は内胚葉細胞、又は中胚葉様又は中胚葉細胞への分化が含まれる。
【0234】
一実施形態では、方法は、細胞培養容器内の細胞培養培地において細胞の培養物を提供することを含み得る。一実施形態では、装置1aのユーザは、撮像モジュール100内に細胞培養容器を手動で配置する。一実施形態では、細胞の培養物を提供することは、インキュベータから細胞の培養物を運ぶことを含む。細胞培養容器の運搬は、上記のコンベヤモジュールなどのコンベヤ手段を使用して達成し得る。一実施形態では、細胞培養容器(及びその中の細胞の培養物)を提供することは、上記の取扱モジュールなどの細胞培養容器ハンドラを使用して達成し得る。一実施形態では、細胞の1又は複数の培養物を提供するために、コンベヤ手段(例えば、インキュベータを空間ハウジング撮像モジュールに接続してもよい)及び細胞培養容器ハンドラ(例えば、コンベヤ手段から撮像モジュールの近くに細胞培養容器を輸送してもよい)の両方を使用し得る。
【0235】
本明細書に開示された方法の一実施形態では、細胞培養容器(及びその中の細胞の培養物)を提供することは、培養容器を上記のステージモジュールなどのステージ上に配置することを更に含み得る。一実施形態では、細胞培養容器の位置決めは、細胞培養容器ハンドラ(例えば、取扱モジュール)を使用して達成し得る、又は手動で行われ得る。
【0236】
方法は、第1の時点及び場合により1又は複数の後続の時点での、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を撮像モジュールによって取り込むことを含む。一実施形態では、撮像モジュールは、本質的に上記のとおりである。
【0237】
1又は複数の画像を取り込むとき、方法はまた、(1又は複数の画像に基づいて)細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の特性を、少なくとも1つのプロセッサによって計算することを含む。一実施形態では、少なくとも1つのプロセッサは、撮像モジュールに通信可能に結合されている。一実施形態では、1又は複数の画像は、撮像モジュールから手動で出力され、少なくとも1つのプロセッサに入力されてもよい。したがって、一実施形態では、方法は又、少なくとも1つのプロセッサによって、第1の時点及び/又は1又は複数の後続の時点での、細胞の1又は複数の培養物の1又は複数の画像を受信することを含み得る。
【0238】
一実施形態では、1又は複数の特性の計算は、上記で提供された説明に従って達成し得る。特に、1又は複数の特性は、
a)細胞の培養物のコンフルエンスの指標、
b)細胞の培養物の細胞又はコロニーの形態の指標、
c)細胞の培養物の細胞又はコロニーの分化の指標、
d)細胞の培養物のコロニーサイズ分布の指標と、
e)a)、b)、c)、又はd)の第1の時点から1又は複数の後続の時点への変化の指標、
f)b)、c)、若しくはd)に対するa)の指標、a)、c)、若しくはd)に対するb)の指標、a)、b)、若しくはd)に対するc)の指標、又はa)、b)、若しくはc)に対するd)の指標、又は
g)細胞の培養物の継代にわたるa)、b)、c)若しくはd)の変化の指標
を含み得る。
【0239】
1又は複数の特性を計算した後、方法はまた、細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを(少なくとも1つのプロセッサ150などによって)出力することを含む。一実施形態では、適応継代プロトコルは、後続の継代において予定通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供する。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間を含み得る。一実施形態では、適応継代プロトコル(例えば、そのパラメータ)は、1又は複数の特性と、細胞の培養物の1又は複数の特性について学習又は入力された閾値レベルとの比較に基づく。
【0240】
本明細書に開示されるシステムに特に関連する一実施形態では、方法(装置1a及び/又はシステム1を使用して実行される)はまた、少なくとも1つのプロセッサによって、細胞の1又は複数の培養物の計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを実行することを含み得る。一実施形態では、適応継代プロトコルは、後続の継代において予定通りに1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の1又は複数の培養物の各々について継代パラメータを提供する。一実施形態では、継代パラメータは分割比及び/又は継代時間を含み得る。一実施形態では、適応継代プロトコル(例えば、そのパラメータ)は、1又は複数の特性と、細胞の培養物の1又は複数の特性について学習又は入力された閾値レベルとの比較に基づく。
【0241】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、約30~90%、又はより具体的には約40~80%の範囲、又は更により具体的には約50~70%の範囲にある。したがって、細胞の培養物が約30~90%のコンフルエンスを達成した場合、システム1を使用して実施することができる適応継代方法を出力してもよい。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標は、約40~80%の範囲にある。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコンフルエンスの指標は、約50~70%の範囲にある。
【0242】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、対照細胞培養物の約-30%と+30%との間である。例えば、細胞の培養物の形態が学習又は入力された閾値レベルを超えて逸脱した場合、これは、細胞の培養物がもはや適切に維持されておらず、細胞の質が低下しており、及び/又は細胞の培養物が分化を受けていることを示し得る。細胞の培養物が、その形態に関して、対照細胞培養物の約-30%と+30%との間で逸脱している場合、適応継代方法が出力され得、この方法は、システム1を使用して又は手動で行われ得る。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標は、対照細胞培養物の約-20%と+20%との間である。一実施形態では、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の形態の指標は、対照細胞培養物の約-10%と+10%との間である。
【0243】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)の分化レベルの指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、維持プロトコルにおいて対照培養物の約0~30%、又は分化プロトコルにおいて対照培養物の約50%~100%である。一方、細胞の培養物が維持プロトコルの対照培養物に対して約0~30%、又は約10~20%、又は約15%の分化レベルが達成された場合、細胞の培養物中に残っている目的の細胞(例えば、維持されているか、又は分化していない)の数を考慮して、適応的継代方法が出力され得る(この方法は、システム1を使用して又は手動で行われ得る)。対照的に、細胞の培養物が、分化プロトコルにおいて対照培養物に対して、約0~30%、又は約10~20%、又は約15%の分化レベルを有する場合、積極的な処置を取らないことが適切であり得る。又は、そのようなシナリオでは、使用済みの分化培地を新鮮な分化培地で置き換えるべきであると出力され得る。一方、細胞の培養物が、分化プロトコルにおける対照培養物に対して約50~100%、又は約60~90%、又は約70~80%、又は約75%の分化レベルを有する場合、適応継代方法のタイミング及び/又はパラメータが出力され得る(この方法は、システム1を使用して又は手動で行われ得る)。対照的に、細胞の培養物が、維持プロトコルにおいて対照培養物に対して、約50~100%、又は約60~90%、又は約70~80%、又は約75%の分化レベルを有する場合、適応継代方法のタイミング及び/又はパラメータは、細胞の培養物又は終了プロトコルをトライして救済するために出力され得る。
【0244】
出力適応継代方法は、目的の細胞を選択的に剥離するための特殊な細胞剥離溶液と併せて実行され得る。一実施形態では、形態が逸脱した程度(又は、分化度)に応じて、細胞剥離溶液への曝露時間を調整してもよい。例えば、高い逸脱の場合、より短いインキュベーション時間は、剥離する逸脱したコロニーの割合を減らすことがある。したがって、細胞の剥離したコロニーのみから生成されたある量の細胞の懸濁液を播種すると、娘細胞培養容器内の非逸脱細胞について濃縮されることがある。同様に、分化プロトコルを実行する際に、このように剥離された細胞のコロニーは廃棄されることがあり、残りの分化したコロニーは解離され、次いで継代され得る。一実施形態では、細胞は未分化PSCであり、剥離溶液はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は分化したPSCであり、剥離溶液はReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は神経前駆細胞であり、剥離溶液はSTEMdiff(商標)神経ロゼット選択試薬(STEMCELL Technologies)である。一実施形態では、細胞は神経前駆細胞以外であり、剥離溶液はSTEMdiff(商標)神経ロゼット選択試薬(STEMCELL Technologies)である。他の剥離溶液は当技術分野で公知であり得る。
【0245】
一実施形態では(及び上記のように)、細胞の培養物(すなわち、細胞又はコロニー)のコロニーサイズ分布の指標に関して学習又は入力された閾値レベルは、対照培養物の平均コロニーサイズ分布又はそのサブフラクションの約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内である。したがって、細胞の培養物が、対照培養物の平均コロニーサイズ分布又はそのサブフラクションの約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内の平均コロニーサイズ分布を達成した場合、適応継代方法を出力することができる(この方法は、システム1を使用して、又は出力パラメータに従って手動で実行され得る)。一実施形態では、対照培養物の平均コロニーサイズ分布の約20%、又は約15%、又は約10%、又は約5%以内の閾値レベルは、コロニーサイズ分布のサブフラクション、例えば、上位10%、又は上位20%、又は上位30%、又は上位40%、又は下位10%、又は下位20%、又は下位30%、又は下位40%に関係する。
【0246】
一実施形態では、適応継代方法は、細胞の培養物から細胞の懸濁液を取得し、娘細胞培養容器に細胞の懸濁液の一部又は全部を播種することを更に含み得る。
【0247】
一実施形態では、細胞の懸濁液を得ることは、細胞の懸濁液を第1のピペットチップに通して、細胞の培養物を単一細胞懸濁液又は第1のピペットチップの口径を超えない平均直径を有する複数のクランプに解離させることをさらに含む。一実施形態では、細胞の懸濁液を第1の先端に通すことは、上記のようにピペットモジュールを使用して実施し得る。
【0248】
細胞懸濁液を得る前に、第1の細胞培養容器内の培養培地は、細胞培養容器又はそのウエルから培養培地を吸引することによって除去され得る。上記のように、一実施形態では、細胞培養培地の吸引は、上記のピペットモジュールを使用して達成し得る。一実施形態では、細胞培養培地を除去する(すなわち、吸引する)ことは、第1の細胞培養容器を傾け、続いてピペットモジュールのピペットに嵌合したピペットチップを細胞培養容器又はそのウエルの下部隅に向けることを含み得る。
【0249】
培養培地を吸引した後、洗浄バッファを細胞培養容器又はそのウエルに分注することによって洗浄工程を実行することが望ましいことがある。一実施形態では、洗浄バッファは、上記の液体ディスペンサモジュールを使用して分注し得る。その後、洗浄バッファは、ピペットモジュールを介するなど、上記のように吸引(すなわち、除去)され得る。
【0250】
供給方式が実施されている場合、細胞培養容器を上記のインキュベータモジュールなどのインキュベータに戻す前に、新鮮な培養培地を(使用済み培地を吸引及び/又は洗浄した後)細胞培養容器又はそのすべての適切なウエルに加え得る。
【0251】
細胞の継代又は拡大に関連する方法では、細胞培養培地が除去された(また所望により洗浄工程を経た)細胞培養容器内の細胞の培養物を、剥離/解離溶液と接触させ得る。任意の適切な剥離又は解離溶液を使用して、細胞培養容器又はそのウエル内の細胞の培養物に接触させ得る。一実施形態では、剥離溶液は、ReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)又はSTEMdiff(商標)Neural Rosette Selection Reagent(STEMCELL Technologies)であり得る。一実施形態では、解離溶液は、GCDR(STEMCELL Technologies)又は他のいくつかのトリプシンベースの溶液であり得る。細胞培養容器内の細胞の培養物を剥離又は解離溶液と接触させることは、上記のように液体ディスペンサモジュールを使用して実施し得る。使用する溶液のタイプに応じて、細胞の培養物は、剥離又は解離溶液の存在下で、約37℃又は室温で十分な時間インキュベートし得る。また、使用する溶液のタイプによっては、細胞の培養物をインキュベートする前に溶液を吸引することが望ましいことがある。さらに、使用される溶液のタイプ及び細胞タイプに応じて、細胞培養容器をインキュベータモジュールに運ぶことが望ましいことがある。
【0252】
一実施形態では、剥離溶液は分画溶液であり、分画溶液は、細胞培養容器の壁から分化細胞の第1の集団又は未分化細胞の第2の集団のいずれかを選択的に剥離する。そのような実施形態では、用途に応じて、本明細書に記載したようにReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies)又はSTEMdiff(商標)Neural Rosette Selection Reagent(STEMCELL Technologies)のいずれかを使用し得る。
【0253】
第1の細胞培養容器のインキュベーションに続いて、方法の次の工程は、取扱モジュールを使用して第1の細胞培養容器を解離モジュール(以下に記載される)に輸送し、解離モジュール(例えば、装置2)を使用して第1の細胞培養容器のウエルの底部から、限定されるものではないが多能性幹細胞コロニーなどの細胞コロニーを剥離することを含み得る。
【0254】
上記のように、1又は複数の細胞コロニーの一部又は全部が剥離/解離溶液により剥離することがあり、又は解離モジュールを使用して1又は複数の細胞コロニーの一部又は全部を剥離するように促す必要があることがある。いずれにせよ、解離モジュールを活性化することはまた、剥離した細胞コロニーを細胞の懸濁液に、そして一実施形態では多能性幹細胞のクランプの懸濁液に解離するのを助け得る。
【0255】
いくつかの実施形態において、解離モジュールを活性化する前又は後にピペットモジュールを使用して細胞の懸濁液を粉砕することは、多能性幹細胞のクランプの懸濁液などの細胞の懸濁液への1又は複数のコロニーの解離を容易にし得る。
【0256】
1又は複数の細胞コロニーが細胞の懸濁液に解離した後、ある量の細胞の懸濁液(単一細胞懸濁液又は複数のクランプの懸濁液にかかわらず)を、ピペットモジュールを使用するなどして、娘細胞培養容器又はそのウエルに播種し得る。
【0257】
一実施形態では、細胞の懸濁液の量を娘細胞培養容器に播種する前又は後に、方法は、第1の溶液及び/又は第2の溶液を、娘細胞培養容器に分注することをさらに含み得る。一実施形態では、第1及び第2の溶液は、同時に又は順番に娘細胞培養容器に分注される。一実施形態では、第1の溶液は細胞培養培地であり、第2の溶液は可溶化細胞外マトリックスであり、或いは逆であってもよい。
【0258】
拡大実験のために、細胞の懸濁液の一部又は全部を、第1の細胞培養容器よりも大きい第2の培養容器、又は第2の培養容器の複数のウエルに播種し得る。
【0259】
細胞を解離させるための装置
本開示の一態様では、細胞の培養物中に存在する1又は複数のコロニーを剥離又は解離するための装置が提供される(
図24及び
図25を参照)。装置は、独立型ユニットであってもよく、又は本明細書に開示されたシステムに組み込まれてもよく、又は本明細書に開示された方法で使用されてもよい。システムに組み込まれる場合、解離モジュールの動作は、少なくとも1つのプロセッサの制御下にあり得る。本開示を通して、装置2はまた、解離モジュールと呼ばれ得る。
【0260】
細胞培養物中の1又は複数のコロニーを解離するための装置2の一実施形態では、装置は、取り付け面10に接続された回転可能なドライブ5を備える(
図24及び
図25を参照)。回転可能なドライブ5は、電気エネルギーを回転運動に変換する任意の既知の機構を含み得る。一実施形態では、回転可能なドライブ5は、回転可能なシャフト20に接続されたモータ15を備える(
図25を参照)。ドライブ5は、取り付け面10の上面に接続することができ、モータ15及び回転可能なシャフト20は、取り付け面10の水平面から上方に突出し得る。したがって、回転可能なドライブ5、又はその回転可能なシャフト20は、取り付け面10に垂直又は実質的に垂直である第1の軸を中心に回転可能である。
【0261】
装置2は、細胞培養容器を支持するためのプラットフォーム25をさらに備える。プラットフォーム25は、ドライブ5に接続され、より具体的には、回転可能なドライブ5の端部22に接続され、さらにより具体的には、回転可能なシャフト20の端部22に接続される(
図25を参照)。
【0262】
プラットフォーム25は、細胞培養容器の底面を支持するために実質的に平面であり得る(図示せず)。プラットフォーム25は、その上面で少なくとも1つの細胞培養容器を支持できるという条件で、任意の寸法であり得る。多くのタイプの細胞培養容器が当技術分野で知られており、すべてが本開示において企図されている。一般に、細胞培養容器は、その培養のために細胞を受容できる任意の容器であり得る。非限定的な例として、細胞培養容器は、例えば、6ウエルプレート、12ウエルプレート、24ウエルプレート、又は96ウエルプレートなどであるがこれらに限定されないマイクロプレートであり得る。あるいは、細胞培養容器は、Tフラスコなどであるがこれに限定されない細胞培養フラスコであり得る。細胞培養容器がTフラスコであるいくつかの実施形態では、プラットフォームは、例えば、T25フラスコ、T75フラスコ、T150フラスコ、175フラスコ、又はT225フラスコを支持するように適切な寸法にされ得る。あるいは、細胞培養容器は、ペトリ皿、35mm皿、10mm皿、又はそれ以上などであるがこれらに限定されない細胞培養皿であり得る。
【0263】
一実施形態では、プラットフォーム25は、ドライブ5又はその端部22にオフセットされて接続されている。例えば、前述のように、ドライブ5又はその端部22は、第1の回転軸を規定することがあり、プラットフォーム25は、プラットフォーム25の回転中心を通過する第2の回転軸を中心に回転し得る。いくつかの実施形態では、ドライブ5又は端部22は、プラットフォーム25の回転の中心からオフセットされた位置でプラットフォーム25に結合され得る。プラットフォーム25がドライブ5にオフセットされて接続されている場合、プラットフォーム25は、ドライブ5又はその端部22がプラットフォーム25の回転の中心に結合されている場合と比較して、第1の軸(すなわち、ドライブ5又はその端部22の回転軸)の周りにより広い軌道を有する。
【0264】
同じ又は異なる実施形態では、プラットフォーム25はまた、ドライブ5に間接的に接続され得る。そのような実施形態では、装置2は、プラットフォーム25のドライブ5への取り付けを仲介するスペーサ27をさらに含み得る。スペーサ27は、プラットフォーム25のドライブ5への取り付けを仲介する任意の構成要素であり得るが、プラットフォーム25が回転可能なドライブ5に依存して又は独立して回転することを依然として許容している。好ましい実施形態では、スペーサ27はベアリングである。
【0265】
プラットフォーム25がドライブ5に間接的かつオフセットされて接続されている実施形態では、スペーサ27は、代替的に、本明細書では偏心スペーサと呼ばれ得る。
図25Bに見られるように、スペーサ27は、その第1の位置28でドライブ5に接続されることがあり、その第2の位置29でプラットフォーム25に接続され得る。スペーサ27がベアリングである具体的な実施形態では、ドライブ5は、その第1のレース(すなわち、内レース)に接続されることがあり、プラットフォーム25は、その第2のレース(すなわち、外レース)に接続され得る。したがって、第1の位置28は内レースに対応し、第2の位置29は第2のレースに対応する。
【0266】
スペーサ27がベアリングであり、プラットフォーム25がその外レースに接続されている実施形態では、プラットフォーム25は、第1の軸からオフセットされた第2の軸を中心に回転可能である。いくつかの実施形態では、第2の軸は、プラットフォーム25の回転中心を通過し得る。他の実施形態では、第2の軸は、プラットフォーム25の回転中心以外の点を通過し得る。第1の軸及び第2の軸は、形状が装置2の動作及びその要素、すなわち1又は複数の衝撃ブラケット及び1又は複数の衝撃バンパ、の介在を可能にするという条件で、任意の距離だけオフセットされることがあり、以下で詳細に説明する。具体的な実施形態では、第1の軸(すなわち、第1の位置)及び第2の軸(すなわち、第2の位置)は、約4mm、約4.5mm、約5mm、約5.5mm、約6mm、約6.5mm、約7mm、約7.5mm、約8mm、約8.5mm、約9mm、約9.5mm、又は約10mmだけオフセットされている。
【0267】
いくつかの実施形態では、プラットフォーム25は、その上に細胞培養容器を配置するのを助けるガイド要素30をさらに含み得る。ガイド要素30は、プラットフォーム25の上面から上方に上昇する、ピン又はリッジなどであるがこれらに限定されない突起に対応し得る。プラットフォーム25上に細胞培養容器を配置するのを助けることに加えて、ガイド要素30はまた、装置2の動作中にプラットフォーム25上に細胞培養容器を固定するのを助けることがある。
【0268】
プラットフォーム25が四辺形である実施形態では、ガイド要素30は、プラットフォーム25の1又は複数の隅に配置され得る。具体的な実施形態では、ガイド要素30は、プラットフォーム25の少なくとも2つの角に配置され得る。より好ましい実施形態では、ガイド要素30は、プラットフォーム25の4つの角すべてに配置され得る。
【0269】
プラットフォーム25が四辺形ではない実施形態では、細胞培養容器をプラットフォーム25に配置し、所望により固定するのに役立つ構成でガイド要素30を適切に配置することは簡単である。
【0270】
装置2は、プラットフォーム25に接続された1又は複数の衝撃ブラケット35をさらに備え得る。衝撃ブラケット35は、その1又は複数の縁部又はその下側などであるがこれらに限定されない、プラットフォーム25の任意の部分に接続し得る。細胞培養容器がプラットフォーム25の表面積よりも大きい専有面積を有する場合、衝撃ブラケット35の上面がプラットフォーム25の上面から突出しないことを確実にすることが重要である可能性がある。
【0271】
衝撃ブラケット35は任意の材料で作ることができるが、過度の摩耗及び騒音を最小限に抑えるか又はそれらに抵抗するために、衝撃ブラケット35をゴム又はゴム様物質、好ましくは比較的密度の高いゴム又はゴム様物質から製造することが望ましいことがある。あるいは、衝撃ブラケット35は、金属又はメタロイドなどであるがこれらに限定されない、より強くより耐久性のある材料で作製されることがあり、所望により衝撃部位でゴム又はゴム様物質で覆われ得る。
【0272】
具体的な実施形態では、装置2は、2つの衝撃ブラケット35a及び35bを備える。衝撃ブラケット35a及び35bは、プラットフォーム25の下側又は対向する縁部に接続し得る。衝撃ブラケット35a及び35bを含む衝撃ブラケット35がプラットフォーム25に接続されている場所に関係なく、それらが取り付け面10に接続された1又は複数の衝撃バンパ40と接触させられ得ることのみが重要である。
【0273】
衝撃バンパ40は、一般に、取り付け面10の上面に結合され、取り付け面10からプラットフォーム25の下側に向かって軸方向に延びる。いくつかの実施形態では、特に衝撃ブラケット35がプラットフォーム25の下側に結合されている場合、衝撃バンパ40は、一般に、取り付け面10とプラットフォーム25との間の間隔よりも短い距離だけ、プラットフォーム25の下側に向かって延びる。
【0274】
衝撃バンパ40は任意の材料で作ることができるが、過度の摩耗及び騒音を最小限に抑えるか又はそれらに抵抗するために、衝撃バンパ40をゴム又はゴム様物質、好ましくは比較的密度の高いゴム又はゴム様物質から製造することが望ましいことがある。あるいは、衝撃バンパ40は、金属又はメタロイドなどであるがこれらに限定されない、より強くより耐久性のある材料で作製されることがあり、所望により衝撃部位でゴム又はゴム様物質で覆われ得る。
【0275】
具体的な実施形態では、装置2は、四辺形を画定するために取り付け面10上に配置された4つの衝撃バンパ40a、40b、40c、及び40dを備える。衝撃バンパ40a、40b、40c、及び40dの配置は、35a又は35bなどの任意の1つの衝撃ブラケットの移動が、それぞれ40c及び40d又は40a及び40bなどの2つの衝撃バンパによって制限されることを確実にし得る。いずれか1つの衝撃ブラケットの移動が2つの衝撃バンパによって制限されている場合、衝撃ブラケット(したがってプラットフォーム)の移動は、2つの衝撃バンパ間で制限される。
【0276】
図25Cを参照して、衝撃ブラケット35a及び35b、並びに衝撃バンパ40a、40b、40c、及び40dの例示的な配置が示されている。例示のみを目的として、プラットフォーム25(
図25Cには示されていない)がドライブ5の直接の影響下で所与の方向に回転するとき、衝撃ブラケット35aは衝撃バンパ40cと衝突する。スペーサ27のおかげで、ブラケット35aは、ドライブ5の回転とは無関係に、衝撃バンパ40dに向かって跳ね返り、潜在的に接触することがある。衝撃ブラケット35b及び衝撃バンパ40a及び40bに関しても同じ動力学が発生する。
【0277】
したがって、1又は複数の衝撃バンパ40は、取り付け面10に接続され、プラットフォーム25がドライブ5の影響下で回転するときに、1又は複数の衝撃ブラケット35によって接触可能である。1又は複数の衝撃ブラケット35と1又は複数の衝撃バンパ40との繰り返しの衝突は、プラットフォーム25に力を伝達し、そこに含まれる内容物を含むその上の任意の細胞培養容器に力を伝達する。そのような攪拌力又は衝撃力は、細胞培養容器に含まれる培養細胞の1又は複数のコロニーを、細胞のクランプ又はクラスタなどであるがこれらに限定されない、より小さな単位に解離させる可能性がある。
【0278】
装置2は、ドライブ5の出力を調整するコントローラをさらに備え得る。コントローラを操作することにより、ドライブ5の回転方向、ドライブ5の回転速度、及びドライブ5の回転加速度は調整可能である。具体的な実施形態では、ドライブ5の回転方向は時計回りであり得る。他の実施形態では、ドライブ5の回転方向は反時計回りであり得る。より具体的な実施形態では、ドライブ5の回転方向は、時計回り又は反時計回りであり得る。さらにより具体的な実施形態では、ドライブ5の回転方向は、時計回りと反時計回りの間で振動し得る。
【0279】
装置2は、装置の動作に関するフィードバックを受信するための加速度計又は光学フラグセンサなどのセンサをさらに含み得る。
【0280】
装置2は、プラットフォームの向きを提供するためのホームセンサをさらに含み得る。
【0281】
解離装置の使用方法
本開示の別の態様では、装置2は、細胞の1又は複数の培養物の適応継代の方法において、又は、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーを解離する方法において使用し得る。非限定的な実施形態では、細胞の培養物は、1又は複数のコロニーに含まれる多能性幹細胞の培養物であり得る。より具体的な非限定的な実施形態では、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーは、多能性幹細胞の培養物中の1又は複数の未分化コロニーであることがあり、所望により多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。
【0282】
本開示の他の態様において、装置2は、細胞培養容器のウエル内の培養培地に播種された細胞を分配する方法、又は細胞培養容器のウエルを細胞外マトリックスなどのコーティング材料でコーティングする方法において使用され得る。
【0283】
以下の方法は、本開示に従って装置を提供し、装置上の細胞の培養物中に1又は複数のコロニーを含む細胞培養容器を配置することに依存している。具体的な実施形態では、細胞培養容器をステージに固定することが望ましいことがある。例えば、細胞培養容器は、細胞培養容器とガイド要素との協働によってステージに固定され得る。
【0284】
いくつかの実施形態において、細胞の培養物は、剥離溶液の存在下でインキュベートされ得るが、これは、その後、除去、不活性化、又は中和され得ることもされないこともある。培養細胞の1又は複数のコロニーが細胞培養容器のウエル底部に直接又は間接的に付着している場合、剥離溶液を使用することが望ましいことがある。剥離溶液の一般的な例には、ReLeSR(商標)(STEMCELL Technologies社)又はSTEMdiff(商標)Neural Rosette Selection Reagent(STEMCELL Technologies社)が含まれる。一般的な剥離溶液、特にReLeSR(商標)及びSTEMdiff(商標)Neural Rosette Selection Reagentを参照すると、このような剥離溶液は、細胞の適切な培養物に短時間(例えば、1~15分、その後、さらに一定期間細胞の培養物をインキュベートする前に除去される)添加され得る。このようなインキュベーションに続いて、最小限の力に応答して、コロニーの一部又は全部がウエル底部から剥離したか、ウエルの底部から剥離する傾向があったことがあり得る。
【0285】
一実施形態において、細胞の培養物は、解離溶液の存在下でインキュベートされ得るが、これは、その後、除去、不活性化、又は中和され得ることもされないこともある。単層として成長する細胞を扱う場合は、解離溶液を使用することが望ましいことがある。解離溶液の一般的な例はトリプシンである。当業者は、特定の細胞株又は細胞タイプについて、解離溶液への過度の曝露が、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーを完全に解離し、及び/又は細胞の培養物を損傷することがあることに気付くであろう。
【0286】
さらに他の実施形態では、細胞の培養物は、剥離又は解離溶液の存在下で細胞の培養物をインキュベートしながら、装置上に配置し得る。そのような実施形態において、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーは、本開示の装置を使用して同時に解離され得るか、又は十分なインキュベーション期間後に本開示の装置を使用して直ちに解離され得る。いくつかの実施形態では、特定の剥離又は解離溶液は、所与の温度(すなわち、37℃以上)で最適に機能し得る。いくつかの実施形態では、プラットフォーム及び/又は装置若しくはプラットフォームを取り囲むエンクロージャを加熱するために、本明細書に記載の装置に加熱要素を提供することが望ましいことがある。
【0287】
前述の剥離又は解離の実施に関係なく、細胞の培養物が十分な時間インキュベートされた後、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーは、本開示に記載される装置を使用してより小さな単位に解離される準備ができていることがある。上記のように、ドライブの影響下でプラットフォームを回転させると、1又は複数の衝撃ブラケットが1又は複数の衝撃バンパと接触し、それによって細胞の培養物中の1又は複数のコロニーに解離力が伝達される。
【0288】
いくつかの実施形態では、ドライブの回転速度、したがってプラットフォームの回転速度を調整することが、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーを最適に解離させるために望ましいことがある。ドライブの回転速度を上方に調整することにより、衝撃頻度が増加する。同様に、ドライブの回転速度を下方に調整することにより、衝撃頻度が低下する。当業者は、適切な衝撃頻度が、培養される特定の細胞株又は細胞タイプに依存し得ることに気付くであろう。
【0289】
いくつかの実施形態では、ドライブの回転方向を調整することが、細胞の培養物中の1又は複数のコロニーを最適に解離させるために望ましいことがある。一実施形態では、ステージの回転は時計回りの方向である。別の実施形態では、ステージの回転は反時計回りの方向である。さらに別の実施形態では、ステージの回転は時計回り又は反時計回りの方向である。
【0290】
さらに別の実施形態では、ステージを回転させることは、時計回り方向と反時計回り方向との間で往復することを含み得る。ステージの回転方向を時計回りと反時計回りの方向に往復させることを含む実施形態では、往復は、時計回り及び反時計回りの方向に回転する間の5秒未満の遅延を含み得る。ステージの回転方向を時計回りと反時計回りの方向に往復させることを含むさらに具体的な実施形態では、往復は、時計回り及び反時計回りの方向に回転する間の1秒未満の遅延を含み得る。ステージの回転方向を時計回りと反時計回りの方向に往復させることを含むさらに具体的な実施形態では、往復は、時計回り及び反時計回りの方向に回転する間の0.5ミリ秒以下の遅延を含み得る。
【0291】
ドライブの回転の速度、方向、又は加速度を調整することを含む実施形態では、そのような操作は、上記のように、コントローラによって実行され得る。したがって、本明細書に開示される方法の具体的な実施形態は、コントローラを使用してドライブの回転の速度、方向、又は加速度を制御することをさらに含み得る。
【0292】
本明細書に開示される方法のいくつかの実施形態は、ヒト多能性幹細胞などであるがこれに限定されない、多能性幹細胞の1又は複数の未分化コロニーを解離することを特に対象としている。このような方法では、多能性幹細胞の未分化コロニーを選択的に剥離するために、ReLeSR(商標)などの特定の剥離溶液の優先度を利用することが望ましいことがある。したがって、ReLeSR(商標)などであるがこれに限定されない選択的剥離溶液を本開示の装置と共に使用する方法は、細胞の培養物中に存在する所望の1又は複数のコロニーをより小さな単位に解離すると同時に、所望の細胞タイプを有利に選択し得る。
【0293】
細胞の培養物中のヒト多能性幹細胞の1又は複数の未分化コロニーを解離する一実施形態では、ReLeSR(商標)などであるがこれに限定されない剥離溶液は、ヒト多能性幹細胞の未分化コロニーの細胞培養容器のウエルのウエル底部への付着を弱めることがある。細胞培養培地などであるがこれに限定されないある量の溶液をウエルに加えると、ヒト多能性幹細胞の1又は複数のコロニーの一部又は全部がウエル底部から剥離し、溶液中に懸濁することがある。ドライブの影響下でプラットフォームを回転させ、1又は複数の衝撃ブラケットを1又は複数の衝撃バンパと繰り返し衝突させると、ウエル底部に付着したヒト多能性幹細胞の残りの未分化コロニーがウエル底から剥離することがある。ヒト多能性幹細胞の1又は複数の未分化コロニーの選択と同時に、そのようなコロニーは、互いにかつ細胞培養容器のウエル壁に対して衝突するときに、より小さな単位(すなわち、クランプ)に分解される。
【0294】
分化実験中などであるがこれに限定されない代替の実施形態では、多能性幹細胞の1又は複数の分化したコロニーを選択することが望ましいことがある。上記と同じプロセスに従って、剥離及び解離した多能性幹細胞を吸引し、細胞培養容器のウエルから廃棄して、さらなる培養又は処理のためにウエル底部に付着した目的の(分化した)コロニーを生成し得る。
【0295】
本明細書に記載の出願人の教示は、例示の目的で様々な実施形態に関連しているが、本明細書に記載の実施形態が例であることを意図しているため、出願人の教示がそのような実施形態に限定されることを意図しない。むしろ、本明細書に記載及び図示された出願人の教示は、本明細書に記載の実施形態から逸脱することなく、様々な代替、修正、及び同等物を包含し、その一般的な範囲は、添付の特許請求の範囲に定義される。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の1又は複数の培養物を適応的に継代するための装置であって、前記装置が、
第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の前記1又は複数の培養物の1又は複数の画像を取り込むための撮像モジュールと、
前記撮像モジュールに通信可能に結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記プロセッサが、
前記撮像モジュールから、第1の時点及び1又は複数の後続の時点での細胞の前記1又は複数の培養物の前記1又は複数の画像を受信し、
前記撮像モジュールから受信した前記1又は複数の画像に基づいて、細胞の前記1又は複数の培養物の1又は複数の特性を計算し、
細胞の前記1又は複数の培養物の前記計算された1又は複数の特性に基づいて適応継代プロトコルを出力し、前記適応継代プロトコルが、後続の継代において予定時間通りに前記1又は複数の特性の閾値レベルに達するために、細胞の前記1又は複数の培養物の各々について分割比及び/又は継代時間を提供する
ように構成される、プロセッサと
を備える、装置。
【外国語明細書】